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資料1
「消費者契約法に関する調査作業チーム報告書」概要
2013/07/16
消費者契約法に関する調査作業チーム
1 これまでの経緯
消費者契約法は、国民生活審議会等による審議を経て平成 12[2000]年 4 月 2 日に成立した
法律である(平成 13 年 4 月 1 日施行)。同法は、従来の、適用対象を限定した行政取締規定を包含する特別法等(特商法・割販法・金商法など)とは異なり、広く事業者・消費者間の契約に適用される民事実体ルールとして制定され、法律の構造を階層的に見た場合には、民法を基礎部分である 1 階とすると、3 階建てのうち 2 階部分に位置づけられるものである。同法は、一昨年に施行から
10 年を迎え(その間に適格消費者団体による差止請求手続きに関する規定の整備が行われた)、裁判例・相談例の集積とともに、様々な機会に、学会・弁護士会等でその見直しが議論され、蓄積された判例の整理なども多数存在する。
実体法部分の改正に向けての動きには次のようなものがある。
まず、同法の成立した平成 12 年国会での付帯決議および消費者基本計画(平成 17 年 4 月閣議決定)を踏まえ、国民生活審議会消費者政策部会(当時)に消費者契約法評価検討委員会が設置され、平成 19 年 1 月から 8 月までの 9 回にわたって開催され、その成果が「消費者契約法の
評価及び論点の検討等について」として公表されている。また、平成 19(2007)年 11 月には、独立行政法人国民生活センターから「調査研究報告 消費者相談の現場からみた消費者契約法の在り方」が公表されている。内閣府消費者委員会(第 1 次)は、平成 23(2011)年 8 月に「消費者契約法の改正に向けた提言」を発出し、民法(債権関係)改正の議論と連携しつつ、消費者庁に対して早急に消費者契約法の改正の検討作業に着手するよう求めた。次いで第 2 次内閣府消費者委員会では、消費者庁の検討作業に合わせて、委員会による本格的調査審議を行い得る体制が整うまでの間、事前の準備作業として、論点の整理や選択肢の検討等を行うための調査作業チームを運営することとし、平成 23(2011)年 11 月より、ほぼ月 1 回のペースで検討を行っているところであ
る。なお、この間、日本弁護士連合会からは、平成 24(2012)年 2 月 16 日に日弁連消費者契約法改正試案が公表され、消費者庁からは同法の運用状況を調査・分析した委託調査の報告書である「平成 23 年度消費者契約法(実体法部分)の運用状況に関する調査結果報告」が公表されている。
なお、現在、法務省における民法( 債権法部分) の改正作業が精力的に進められており、平成 25(2013)年 3 月には、「xxxx」が公表されており、消費者取引に関わる規定も審議対象となっている。それゆえ、民法改正との関係にも十分な配慮が必要である。
今回の報告は、消費者委員会の調査作業チームによる1年半にわたる検討の結果報告である。どちらかというと理論的分析が中心となっているが、これまでの検討や実態調査等の成果にも十分配慮しつつとりまとめたものであり、今後の改正に向けた本格的審議のたたき台となることを期している。もとより、万全とは言い難く、各界からの忌憚のないご意見を頂戴して、よりよい形での立法につながることを祈念している。
検討された消費者契約法改正に向けた課題は、実体法部分に限っても、多岐にわたる。
詳しくはそれぞれの項目において解説されるため、ここで詳論の限りではないが(中間段階のものとして、xx「消費者契約法の展望と課題」現代消費者法 14 号[2012 年 3 月]所収も参照)、以下では、その要点と概要を示すことにしたい。
2 前提的諸問題
(1)民法と消費者契約法の関係について
民法(債権法部分)改正との関係では、①民法における「人」と「消費者」の関係(人の分節化)をどう考えるべきか、②民法(債権法)への消費者関連規定の一般化と統合化問題にどう対応するか、③民法の改正によって消費者契約法に留保あるいは具体化すべき規定がないかの検討、④約款規制との関係、⑤民法における交渉力不均衡状態に対する配慮を定めた一般規定を導入することの要否、これに関連して⑥中小事業者保護の問題にどう対処するか(消費者契約法規定の
「滲み出し」あるいは適用範囲の拡張)などの問題がある。①②についてはxxxxから落ちているものの、なお多くの課題が継続的に審議されている。
本報告は、基本的には、民法(債権法)改正の動向いかんに関わらず、現行法を前提に消費者契約法における規律として、どのような規律が全体として望ましいかを考える形で検討している。もっとも、民法典が、事業者法的配慮の下で修正される可能性がある場合には、消費者取引において留保すべき具体的規律を検討することとした。
なお、さしあたり、民法典には、xxxx第 26-4 に示されたような、民法と消費者契約法の諸規定を連結する上での源泉となる一般規定があることが望ましいのではないかとの意見がある。
民
消費者法
法
(2)人的・物的適用範囲<第 12 章関連>
消費者契約法は、人的適用範囲を画する概念として「消費者」と「事業者」を定義する一方、物的適用範囲については、消費者・事業者間で締結される「消費者」を労働契約については適用がない(消費者契約法 48 条)が、それ以外の契約については適用するものとされている。ただし、対象とされている「行為」は、契約の締結過程を問題として消費者取消権を付与するとともに 、契約内容について消費者の利益を一方的に害する条項について契約を無効とする2類型である。繰り返しになるが、行為の客体については何ら制限が加えてられていないことから、適用範囲に関する主要な課題は、「消費者」「事業者」概念の再検討といえる。
「消費者」「事業者」概念の再検討にあたっては、いずれも「人」の固定的・絶対的な属性ではなく、取引の性質・目的との関連で現れる流動的・相対的な属性である、との今日確立した理解は維持されるべきである。しかしながら、両者の境界線をいずれに求めるかという点については、消費者契約法1条に明らかにされている「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ」た取消権の付与と不当条項規制という、消費者の要保護性と法的介入根拠を中心に構成することを基本方針とするのが正当ではないか。これに伴い、これまで前提とされてきた、消費者と事業者とは補集合の関係にあるとの理解を維持する必要性については検討の余地があるのではないか。
消費者保護関連諸法のなかでも、(1)規制対象が「事業者」となっているのに対して保護対象が
「消費者」とされているもの、(2)特定商取引法や割賦販売法など、「販売業者」と「相手方」とが対
になっている一方で、「営業のために」といった適用除外があるもの、(3)金融商品取引法、商品先物取引法などのように「金融商品取引業者等」と「顧客」というものに対して適用除外がなされているもの、(4)業法関係で問題とされている事業の貸金業者や旅行業者等の「事業者」とその相手方とされているものといった諸類型がみられる。
消費者保護関連諸法は、一般的には消費者保護法の一内実と言われているものの、もともと規制対象である主体(事業者)や行為(事業)に着目されて制定された法律(行政規制)であることから、保護対象が当該事業の反対当事者とされており、必ずしも個人に限定されていないという特徴がある。一方、消費者契約法は、消費者契約における消費者と事業者との情報・交渉力格差に着目して「消費者(個人事業者を除く個人)」を保護対象とし,規制対象となる主体は事業者一般で,行為類型も無限定としている点に特徴がある。同じく消費者保護法と位置づけられる法律においても,このようなアプローチの違いが,これまでの裁判例などにおいて,人的適用範囲の拡張や類推適用の広狭として争われてきたということができよう。
あなたは
消費者? それとも事業者?
しかし、アプローチの違いには、別の問題も含まれている。旅行契約などに顕著にあらわれている通り、サービスの利用者の契約目的が職業活動に関連しているかどうかというところで切り分ける合理性はどれほどあるのかという問題意識は諸外国においても共有されているところである。また、ドイツにおいては、消費者法が取り扱っている領域は、インターネット取引のような消費者売買からユニバーサルサービスという極めて特殊な消費者取引までと非常に広いこともあり、各々の領域で想定されている消費者像も多様で、消費者を保護するためにとられている法的措置も多様であることを踏まえ、消費者概念を分節化する必要があるのではないかという問題提起もなされている。このような議論の是非は措くとしても、消費者概念の相対化、弾力化については、一定の支持が見られる。
以上の我が国における現状と諸外国における議論動向に加え、消費者契約法は消費者保護関連諸法との関係において受皿的な機能が期待されているとの立法趣旨に鑑みれば、「消費者」概念の相対性の承認、概念の弾力化、ないし中間概念の創設も視野に入れて検討してはどうか。また、その延長線上の検討課題として、消費者契約法の適用範囲を消費者取消権と不当条項規制とを一括して考えられてきた適用範囲について、領域毎の適用範囲を考える可能性についても検討してはどうか。
「消費者」概念の再検討にあたっては、自然人に限定する点については比較法的傾向とも一致している点でもあり、現行法の方針を基本的には維持することが望ましいということはできよう。
ただし、消費者契約法の制定時の議論に目を向けると、従来からある消費者保護法規(割賦販売法、特定商取引法)は、自然人に限定していなかったこともあり、消費者法の基本文献においても自然人に限定する必然性はないのではないかという見解が示されていたなかで自然人への限定が消費者契約法制定時になされた。その際には「法の適用範囲を明確にするためには、基本的には『自然人』という最低限の規定を設け、包括的な網をかぶせるということが立法技術的に見て望ましく、そこから先の保護は別途考える」とされていたが、これが別途考えられてはこなかった点に問題があり、この際、検討する必要があるのではないか。
また、中間報告段階では、「消費目的において」という要件も提案されていたが、投資取引、不動産取引を含めるべきであり、これが重要な立法事実であるという点が考慮されて、この「消費目的
において」という要件は不要ではないか。
次に、現行法では、自然人が「事業として」または「事業のために」行為しているか否かで事業者
・消費者の切り分けがなされる。この点、「混合目的事案」の処理について、立案担当者は、「事業のために」というのは「事業の用に供するためにするもの」との理解を前提に、まずは契約目的等、それから契約締結時において客観的・外形的基準によって、それのみによることが難しい場合には、物理的、実質的基準で判断するとしているが、学説ではさまざまな見解が示されており、理解は帰一しない。ただ、比較法的には、事業者が通常行っている領域の行為なのかどうかという視点に意味を持たせる例も確認される一方、DCFR においては意味を持たない視点として処理がされているなど、この考え方がスタンダードかというと若干疑問があるとの指摘もある。また、現実の裁判実務においても、消費者契約法の解釈は硬直的で十全に機能してきたとは言い難い(東京地判平 14
・10・18LLI15730370)。 消費者概念については、事業者概念・事業概念の再検討と合わせて引 き続き検討する必要があるというべきである。
東京地判平 23・11・17 判時 2150 号 49 頁は、権利能力なき社団Xは『団体』であれば定義上はアプリオリに事業者であるはずのところ、これは権利能力なき社団ではあるけれども消費者であるということを判示している。同判決は、理由としては、X の主要な構成員が大学生であったこと、および、担当者も大学生であったことのほか、消費者契約法1条の趣旨を挙げているにとどまる。しかし、本判決は、消費者・事業者の境界線は立案担当者が考える以上に流動的なものであり、なおかつ両者は補集合の関係にあるとの前提はなかなか維持することが難しい状況になっていることを示しているといえるのではないか。
そもそも、「事業者概念」については、消費者契約法の制定以来、学説において厳しい批判にさらされてきたところである。
「『法人その他の団体』は即『事業者』」になるという、この政策判断を支えているとされてきたのが、こういう法人や団体であれば「何らかの形で取引に参入し、(事業を遂行する過程で)専門的知識、交渉力を有していると考えるのが妥当」との考え方である。しかし、立法に従事した研究者からも「例外の余地が全くないとしてよかったのかについては、立法論としては検討の必要があるであろう。ちなみに、中間報告段階では、法人その他の団体についても事業者として扱われるためには、事業性が EC 指令等と同じく要求されていたが、これがどのような経緯で今のような規定になったのかは不明である」との疑問が提起されているほか、「事業」との関連を問題とすることなく「事業者」とすることには、xx的な問題がある、「『事業』概念は、問題となる取引の特質として消費者・事業者間の構造的な情報格差・交渉力格差があらわれるという状況が認められるかどうかという評価との関連で、取引対象となる物品・役務・権利等の内容及び社会生活において物品・役務・権利等を取引しようとする際の典型的な目的ないし原因を考慮に入れながら確定していくのが適切ではないか。そのような機能的、相関的に把握される規範的概念としての事業概念が望ましいのではないか。立案担当者が考えている『事業』概念というものは、余りにも形式的かつ硬直的なものにすぎる点で無意味・無用である」と批判されてきた。
以上から、具体的な検討提案として、次の点が挙げられている。
①消費者・事業者概念は、「人」の固定的・絶対的な属性ではなく、取引の性質・目的との関連で現れる流動的・相対的な属性であるとの理解は維持されるべきである。しかし、事業者は「人」のうち消費者でないものをいうとの理解については、検討の余地があるのではないか。概念の画定・判断基準を検討するにあたっては、消費者の要保護性と法的介入の正当化根拠を中心に再構成することを検討してはどうか。
②消費者契約法は消費者保護関連諸法との関係において受皿的な機能が期待されているとの立法趣旨に鑑みれば、諸法で考慮されている要保護性とその法的介入の正当化根拠は異なっていることから、「消費者」概念の相対性の承認、概念の弾力化、ないし中間概念の創設も視野に入れて検討してはどうか。
③消費者概念については、事業者概念・事業概念の再検討と合わせて引き続き検討してはどうか。
④事業者概念については、学説における問題提起にとどまらず従来の理解を揺るがす下
級審裁判例もみられるようになっていることに加え、比較法的にも異例な立法であることも考慮に入れながら、検討するものとしてはどうか。
なお、改正法を考えるに当たっては、民法改正において、約款規制として事業者間取引を含めた不当条項規制に関する一般条項、②xxxの具体化にあたって情報・交渉力の格差を考慮すべきである、との解釈原理の導入の可否が検討されており、民法と消費者契約法との機能分担について、民法改正の動向をみきわめつつ検討する必要があり、②消費者契約法の適用範囲の拡 張に当たっては、中小零細事業者のみならず、投資家である個人なども念頭に置く必要がある。その際、消費者概念の解釈や定義を拡張するという方向で足りるのか、消費者概念や定義の操作で一定の事業者・投資家への拡張を行うことには限界もあるのではないか、についても、引き続き検討する必要がある。
(3)「約款規制」について<第 3 章関連>
約款の有する隠蔽効果がもたらす当事者意思の希薄化と合意による正当性保障の欠如に対して、何らかの手当が必要ではないかという意見は少なくない。約款問題は、消費者契約に限られない問題を含んでおり、少なくとも通則的規定は民法典に規定されるとしても、個別の補完が必要な場面では消費者契約法に規律を設けることが望ましく、その点についてさらに検討すべきではないか。
約款!
小さくて、読めないんですが
そんなこと書いてあった?
本報告では、以下のような具体的検討提案がある。
約款規制に関しては、民法改正で「約款の組入れ」の規定が設けられなかった場合、消費者契約において約款が用いられる場合につき、基本的に、用いられる約款が特定されそれを認識する機会が用意されたうえで、それを契約内容とすることに消費者が同意した場合に限り契約内容となる旨のいわゆる約款の組入れの規定の新設が考えられる。この規定を設ける場合には、消費者契約において約款が用いられる場合、約款の組入要件を充たした場合にあっても、消費者にとって約款中に含まれるものと合理的に期待することができない条項については、個別の了解がない限り、契約内容とならない、または契約条項としての効力を有しないとする「不意打ち条項」の規定の新設、および、約款の定義に該当しない場合にあっても、消費者にとってその存在を合理的に期待することができない条項については契約内容から排除され、もしくは効力を有しないとする規定の新設の検討が望ましい。また、消費者契約における約款中の条項や実質交渉を経ていない条項の解釈準則を新設し、消費者の合理的な理解に即して解釈されるべきことや、内容を確定できない場合には消費者に有利な解釈がとられるべきことを定めることが考えられる。消費者契約法3条1項を改め、消費者契約中の条項についてその内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう定めることを努力義務ではなく義務とする規定とすることの検討も必要となろう。
そこで、具体的検討課題として、
①約款が契約内容となるためのいわゆる組入れの要件および効果を定める規定を設けることを検討してはどうか。
②「不意打ち条項」については契約内容として効力を有しないとする規定を設けることを検討してはどうか。
③約款中の条項や実質交渉を経ていない条項の解釈準則について、消費者の合理的な期待や理解の扱いを定める規定を設けることを検討してはどうか。
④契約条項の定め方について、消費者契約法3条1項を改め、努力義務ではなく義務とする規定を設けることを検討してはどうか。
が提案される。
立法を考えるに当たっては、次の点に留意すべきである。
① 約款の組入れについては、約款を基軸とする限りは、消費者契約における約款に特有の問題 ではなく、むしろ民法一般に規定するのが適切である。仮に、民法に規定されなかった場合は、消費者契約法において規定を設けることが考えられる。その場合、消費者契約法において「約款」というアプローチを採用すべきかどうかが1つの問題である。
また、具体的な規律にあたっては、「約款」の定義の問題がある。約款の定式については、多数の取引での利用を想定するものであること、定型性をもった契約条項・条件であること、その総体であること、を要素として抽出することになるが、特に消費者契約においては、書面であるかどうかを問わないことや名称を問わないことを確認的に明らかにすることが有用である。また、「組入要件」については、次の点に留意する必要がある。すなわち、(ア)約款によるという点についての消費者の同 意・意思が鍵であること、(イ)「約款による意思」の前提として約款の特定や消費者の認識をどこまで確保するべきか、またそのために事業者にどのような行動が求められるかという問題として「開示」をとらえること、(ウ)消費者契約における約款の場合、約款の冊子を交付されても消費者はそれを読み、吟味して判断するのが困難である点に問題がある。したがって、「開示」があれば当然にすべて契約内容となるというものではなく、契約締結意思を左右する重要な条項については、個別の条項や内容についての明確な注意喚起や説明が必要である。
このような観点からすれば、約款一般について民法に規定が設けられた場合においても、消費者契約法に、(イ)の観点からのより詳細な規律を設けることや、(ウ)の観点からの規定を別途設けることが考えられる。
② 「不意打ち条項」は、約款の組入要件と対になって消費者の同意の範囲の外延を画する消極的要件として位置づけられる。この観点からは、当該約款の利用において想定される平均的な顧客を基準として不意打ちかどうかが判断されることになろう。消費者にとって合理的に予想できる条項の存在は約款の利用の場面に限定されるものではない。そうだとすれば、約款に限らず、不意打ち条項の排除の規定を設けることが考えられる。その場合においては、平均的な顧客の基準、あるいは取引慣行等の客観的・類型的な考慮要素のみならず、当該消費者を基準として具体的な契約プロセスにおける事業者の説明など具体的な考慮要素を勘案する必要がある。「不意打ち条項」の効果については、約款の組入要件との関係では契約内容とならないという効果が理論的ではあり、約款の組入要件と切り離しても、合意の範囲の問題とすることが理論的には精緻であるが、不意打ち条項かどうかの判断においては内容の勘案が不可避であること、個別の条項について契約内容を構成しないという構成はわかりにくい面もあることから、契約内容とならず、契約条項としての効力を否定されるという意味で「無効」とすることも考えられる。「不意打ち」性については、条項の存在を予想し得ないというもののみならず、多岐にわたって複雑な定めとなっているために理解を期待できないような場合(複雑に仕組まれた対価内容の決定方法、給付内容の決定方法など)など、透明性の観点も「不意打ち」として考慮すべきではないかという指摘や、契約条項の不当性判断において、その一考慮として、当該条項が透明性を欠くことが考慮要素となりうることを明らかに
すべきではないかという指摘がある。
③ 解釈準則について、いわゆる不明確解釈準則の導入の検討において、不明確解釈準則にどのような内容を盛り込むかについては、複数の可能性がある。端的に条項使用者の相手方や消費者に有利な解釈による、というのではなく、約款中の条項や個別に交渉されていない条項の意味に ついて疑義が存する場合においては、その意味は、その条項が事業者によって提示されたことを踏まえ、消費者の利益を顧慮して解釈するものとする旨の規定を設けることも考えられる。
このほか、個別交渉条項(個別合意)の趣旨が個別交渉を経ていない条項より優先されるべき旨の規定を設けることなども条項の解釈準則として考えられる。
約款の場合には、個別の条項に対する意思が存在しないことが少なくないため、その解釈において平均的顧客を標準とした客観的解釈も説かれる。事業者の一方的な理解が通用するわけではなく、顧客や消費者の合理的な期待がとりこまれるべきであるという限りでは適切であるが、その一方で、個別の交渉の中での事業者の言明から期待が形成された場合のその期待の取り込みがおよそ遮断されるとすれば、契約の一般法理からは例外的な扱いであろう。もっとも、その取り込みを、情報提供や錯誤などの法理によって行うのか、端的に条項の意味内容の確定とするのかという問題がある。また、約款の場合には、定型的画一的な取引条件の普遍が重要な場合もあるため
(例えば保険約款や旅客運送約款などの場合)、個別事情がどこまで考慮されうるか、されるべきかについては、その観点からの検討も必要である。
④ 透明性原則については、不意打ち条項の考慮要素となり、また、透明性を欠く場合には不明確解釈準則の対象となりうる、不当条項の判断において考慮要素となるほか、特に契約の中心的給付条項についても、透明性を欠く場合には、不当条項審査の対象となることを確認するべきことが指摘されている。これらの諸種の効果のxxに、契約条項の透明性確保についての事業者の 義務が存在すると考えられることから、少なくとも、事業者の義務を明確にしたうえで、透明性原則に立脚した規律を明らかにすることが望ましい。
その他、約款規制に関連しては、①不当条項の一般規定との関係、②契約内容についての情報提供、③契約条項についての錯誤、④事業者の行為準則、⑤団体訴訟における働き方、⑥約款や標準化された契約の適正化の取組みのための手法などについても、更に検討されるべきである。
3 契約締結過程の規律
(1)契約締結過程(広告・表示・勧誘行為など)<第 2 章関係>
a.誤認類型(+広告)
広告に誘われて・・・・
契約締結過程に関する規律のうち、現在、不実告知(法4条1項1号)、断定的判断の提供(法4条1項2号)、不利益事実の不告知(法4条2項)、そして情報提供努力義務(3条1項)として規定されている事項を中心に、現行法において合理的な理由なく置かれている制限的要件や制限的解釈を排し、また、消費者・事業者間に構造的な情報格差を前提に意思表示の瑕疵の拡張理論を具体化する形で取消規定を手当てするという本来の立法コンセプトに合致するように取消要件を再構成することが考えられる。また、情報提供義務違反について努力義務という形ではなく、法的
義務として消費者契約法に明確化し、損害賠償責任規定などを導入することが考えられる。具体的な検討提案は次の通りである。
① 誤認類型(消費者契約法〔以下、「法」という〕4条1項2項)における「勧誘」要件を削除することを検討してはどうか。「勧誘」要件については広告などを含まないという制限的な解釈が存在するものの、このような解釈に合理的な理由はなく、事業者の行為が消費者の意思形成に影響を与えたかどうかが重要だからである。
② 不実告知型(法4条1項1号)は、事業者が積極的に虚偽の情報を提供する場合であり、不実告知の対象となる重要事項を狭く限定する(法4条4項1号2号の列挙自由を厳格に解釈して限定する)必要はない。「消費者の当該契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」について、契約締結の過程において事業者が不実告知をし、消費者が事実を誤認し、この誤認に基づき契約をした場合に取消しを認めることを検討してはどうか。
③ 断定的判断の提供型(法4条1項2号)について、財産上の利得にかかわらない事項についての断定的判断の提供にも適用が可能であることを明確化することを検討してはどうか。また、断定的判断の提供類型を設定することの意義については議論があるため、不実告知型・不利益事実不告知型・断定的判断の提供型の相互の関係、および三類型を設定することの意義について詳細に検討してはどうか。
④ 不利益事実の不告知型(法4条2項)について、法4条4項1号2号の列挙事由に該当する事項の情報不提供がある場合には、事業者の故意・過失を要件に、利益告知の先行を問わずに、当該情報の提供があれば契約しなかった消費者に取消しを認めることを検討してはどうか。また、利益告知の先行と故意の事実不告知を要件とする場合には、事業者の積極的な行為があった場合に等しいので、重要事項を列挙事由のみに限定する必要はなく、重要事項を「消費者の当該契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」とすることを検討してはどうか。
⑤ 取消規定のほか情報提供義務違反に対する損害賠償責任規定を導入し、因果関係や損害額の推定規定を置くなどして、民法の損害賠償規定の具体化を図るとともに、訴訟上の情報格差を埋めるような手当てを検討してはどうか。
⑥ 法律の作り方として、まず、事業者の行為規範として不適切な情報提供や重要情報の不提供 に該当する行為類型を列挙したうえで、取消・損害賠償・差止という効果別に付加的要件も含めて規定するという編纂方式を採用する可能性を検討してはどうか。
⑦ 広告は、1)迷惑メールなど迷惑勧誘行為(招請の訪問・電話・ポスティグなども含まれる)の一つとして、禁止行為の違反などを民事効に結びつける可能性、2)消費者契約法4条の「勧誘」の解釈に広告などを含める方向での対応(①参照)、3)わかりにくい Web 広告やリンクなど約款における開示や不明瞭条項への対応、4)広告の契約内容化と事業者の債務不履行の認定問題などを明確化する必要性といった問題と結びついている。広告が消費者契約法においていかに扱われるべきかについては、関連する各論的な報告の中で検討してはどうか。
なお、立法を考える際には、 民法(民法改正)との関係を整理する必要がある。とくに、「消費者」「消費者契約」概念を踏まえ、特別法として契約締結過程に関する規律を意思表示の瑕疵の拡張理論の具体化というコンセプトで設定する意義を確認する必要がある。また、不実表示取消の一般法化などの提案が民法改正において実現する場合、消費者契約に特有の契約締結過程に関する規律をどの範囲で残すのかも問題となる。さらに、不告知型において取消要件を緩和する場合、消費者自らが収集すべき情報や消費者が当然知っているべき事項についてまで、事業者に情報提供義務を課すような結果とならないよう、要件を設定する際には留意する必要がある。また、損害賠償責任規定を導入する場合、過失相殺規定と関連して、消費者の過失をどのように扱うべきかを検討する必要がある。取消規範との評価矛盾問題などの整理も要である。
誤認類型や広告に関わる消費者契約法の規律を考えるにあたっては、個別訴訟を念頭に置い
た取消しや損害賠償請求の要件のみならず、差止めの要件や集団的消費者被害回復における違法行為の確認要件に関する議論とあわせて検討を進める必要がある。
b.困惑類型
困惑類型に関しては、消費者契約法の契約締結過程に関する規律のうち、現在、不退去および退去妨害による困惑(4条3項1号・2号)として規定されている事項を中心に、現行法の限界が明らかであり、同条に関する立法コンセプトをさらに推し進める方向で、より広い場面を対象とできるように取消しの要件の改正し、あるいは、新たな類型の追加するべく、次のような具体的な検討提案がある。
① 困惑類型として、現行の消費者契約法が規定する「不退去」「退去妨害」以外の類型を設けることを検討してはどうか。例えば、執拗な勧誘行為、契約目的を隠匿した接近行為などを検討してはどうか。
② 従来型の困惑類型と上記①の類型の両方を包含する上位概念として、「意に反する勧誘の継続」と「それによる困惑」を掲げ、その具体的な類型として、従来の不退去
・退去妨害型や執拗な勧誘行為等を例示として示すということも検討してはどうか。
③ 困惑類型の延長線上の問題として、民法の暴利行為規定とは別に、状況の濫用を理由とする取消しの規定を設けることを検討してはどうか。
④ 新たに問題となりうる多様な不当勧誘行為を適切に捕捉するために、不当勧誘行為に関する一般規定(受け皿規定)を併せ立法化することを検討してはどうか。
⑤ 困惑類型またはその延長線上に存する不当な勧誘行為について、取消しという効果だけではなく、損害賠償責任規定を導入してはどうか。その際、因果関係や損害額の推定規定を置くなどして、民法の損害賠償規定の具体化と立証責任の転換等を図ることが考えられる。
威迫・困惑・・・・
それだけで大丈夫?
困惑類型における改正法を考えるに際しても、① 民法(民法改正)との関係を整理する必要がある。現行法の公序良俗違反との関係や、現在民法に導入する論議が進められている暴利行為規定との関係で、消費者契約の特性を踏まえ、特別法として規律を設ける意義を確認する必要があり、また、② 損害賠償責任規定を導入する場合、過失相殺の規定と関連して、消費者の過失をどのように扱うべきか検討する必要がある。また、取消規範との評価矛盾が生じないかといった問題なども整理する必要がある。その他、関連して、困惑類型に関わる消費者契約法の規律を考えるにあたっても、個別訴訟を念頭に置いた取消しや損害賠償請求の要件のみならず、差止めの要件や集団的消費者被害回復における違法行為の確認要件に関する議論とあわせて検討を進める必要がある。
c.取消しの効果、法定追認など
取消の効果、取消期間、法定追認、契約締結過程における第三者の関与については、解釈上の疑義があることや現行法による解決には限界があることが、しばしば指摘されている。現行
法だけでは不合理な解決となる可能性があることから、新たな規定を設けることにより、解釈上の疑義を解消し、かつ現行法では対応に限界のある問題に対し法改正による説得的な解決を提供することが提案されている。具体的な検討提案は、次の通りである。
① 消費者契約法(以下「法」)に基づく取消の効果について、不当利得返還・原状回復規定の特別規定を設けることを検討してはどうか。
② 消費者が法に基づき契約を取り消した場合、消費者は現に利益を受ける範囲で返還する義務を負うことを原則とすることを検討してはどうか。
③ ②の場合において、商品が消費・使用され、役務が受領された場合、利益は現存しないものと推定する規定を置くことなどを検討してはどうか。
④ ②③の規定を置く場合、これらの規定は民法 708 条の規定の適用を妨げない旨を明記することを検討してはどうか。
⑤ 消費者による取消し前に、消費者が商品を受領している場合、事業者がその商品を引き取るまでの間、消費者は自己の財産と同一の注意をもってその商品を保管する規定を置くことを検討してはどうか。また、事業者が引取りについて合理的な措置をとるべき規定などを置くことを検討してはどうか。
〈取消期間〉
⑥ 法7条の取消期間の起算点について、「誤認であったことを知った時」「困惑を惹起する行為及びその影響から脱した時」など、起算点は、消費者が不当な影響を免れて自由な意思決定ができるようになった時を指すことを明確に示す規定を置くことを検討してはどうか。
⑦ 法7条の期間制限を民法よりも短期とする合理的理由はなく、少なくとも民法とあわせることを検討してはどうか。
〈法定追認〉
⑧ 法に基づいて取消しが行われる場合、法定追認(民法 125 条)の適用がないことを明記す ることを検討してはどうか。
〈契約締結過程に第三者が関与する場合〉
⑨ 法5条1項の媒介委託を受けた第三者及び代理人について、「媒介の委託」に限らず、事 業者が勧誘や契約締結の交渉に自ら関与させた者(複数段階にわたる場合にはそれらの者も含む)の行為を対象とすることを検討してはどうか。また、これらの者への直接的な責任追及は妨げられない旨を明記することを検討してはどうか。
⑩ 民法 96 条2項と同趣旨の規定を法に明文化することを検討してはどうか。
改正法を考えるに当たっては、① 不当利得返還・原状回復規定の特別規定を消費者契約法に設けるとした場合、このような改正と同時に、取消の要件が緩和され取消しできる場面も拡大されるとすれば、すべての場面にそのような特則を適用してよいか検討する必要がある。また、民法 96条を用いる場合との原状回復ルールの整合性などを検討する必要がある。また、② 取消期間を長期化し、法定追認制度を適用しないという法改正を行う際、とりわけ、このような改正と同時に、取消の要件が緩和され取消しできる場面も拡大されるとすれば、完全に履行が終わった契約を安定化させる制度的工夫も必要ではないかを検討する必要がある。さらに、③「媒介の委託」ではなく、「勧誘や契約締結過程の情報提供の委託」を受けた第三者の行為を、複数段階の委託も含め広く事業者に帰責する場合、帰責の範囲がxxxないかについて検討する必要がある。
解消後の
xxxは?
d.インターネット取引について(特に広告関連)
インターネット広告については、ターゲティング広告の発達など広告が消費者の意思形成に働きかける影響力が大きく、また,事業者からみてもその対応は個別の「勧誘」と異にする合理的な理由は見いだせない。しかし、現行法においては、インターネット広告に関する不当な表示については専ら景品表示法等に基づく行為規制が課せられているにとどまり、インターネット広告の不当な表示に起因する契約被害に対応する民事規定を欠く状況にある。そこで、
消費者契約法4条の取消の対象となる事業者の行為として,「インターネット広告」も含める方向で検討してはどうか。
との提案がある。
インターネット取引への対応は?
インターネット取引においては,非対面取引であることから,広告が消費者の意思形成に与える影響が極めて大きいといえる(商品等の内容だけでなく,事業者そのものの信用性についてもWebに掲載された内容・体裁等が指標となりうる)。事業者側からみると,インターネット広告は,事業者が様々な技術を駆使して,広告によって商品を購入してくれそうな消費者向けにターゲットを絞って広告を提供しており,事業者の行為態様としては,顧客名簿等なんらかの資料をベースに勧誘先を選定して勧誘を行うリアル取引と類似している側面があるということができる。また,消費者側からみると,特定のターゲット層に対する「広告」については,当該消費者の意思形成過程に与える影響がいわゆるマス広告に比べ大きく,「勧誘」と区別する合理的な理由がより希薄になると考えることができるものと思われる。
検索サイトにおける検索結果は,検索上位に表示されたサイトが必ずしも優れている,信頼がおけるサイトであるとは限らないにも関わらず(検索サイトの上位にサイトが表示されるように,いわゆるSEO対策がとられている場合も少なからず存在する。なお,検索サイトにおいては,不正に上位にスパムサイトが表示されないよう,様々な対策がとられている。たとえば,Googleについては以下URLを参照されたい。),PI O-NETの相談事例等をみると,検索上位にあったことで著名なサイトであると誤認したり,公式のサイトであるかのように消費者が誤信したケースがみられる。直接契約の相手方とあわずに契約がなされるインターネット取引において,検索結果が消費者にとっての相手方に対する信頼性の指標となっているともいえる現状がみられる。
インターネット取引の場合において,個人の情報処理過程のどこに問題があったのかという点を詐欺の場合における意思形成過程のどこに問題があったのかという点よりも,さらに細かい分析をしたうえで,どのような民事責任を考えたらいいかを検討すべきではないかという意見や,当該広告表示につき相手が誤認するおそれがあることは十分認識をしていながら、黙って取引をしたという不作為が、例えば説明義務違反に当たるのではないかといった意見が出された。また,国際私法との関連でいえば,「法の適用に関する通則法」第 11 条6項の「勧誘」の定義につき,個別的ではなくともある程度ターゲットを絞った広告であれば「勧誘」にあたるという考え方も示されている。
関連して、以下の点にも配慮が必要である。
(1)事業者以外の者による広告 アフィリエイトなどのように,現行消費者契約法5条の「媒介の委託を受けた第三者」には必ずしも該当しないと解釈されうる第三者による広告がなされるケースがみられる。なお,景品表示法における不当な表示の禁止(法4条)の規制対象は「自己の供給する」商品又は役務の取引に限定されるため,アフィリエイト等におけるアフィリエイター等の第三者の不当表示は対象外となっている(一方,広告主のバナー広告(アフィリエイターがアフィリエイトサイトに掲載するもの)における表示は対象となりうる。消費者庁「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の一部改定について」(平成 24 年5月9日)を参照)。
(2)第三者の「評価」が指標となることの危険性 インターネット取引においては,当該事業者の広告に加え,インターネット上における第三者の評価も意思形成に与える影響が少なからずあるところ,いわゆるステマ(ステルスマーケティング)(口コミ)の手法によって,外形的には「広告」とは認識することが困難な「広告」手法がとられるケースがみられる(消費者庁脚注 19 では,口コミサイト
(ステマ)につき,「口コミサイトに掲載される情報は、一般的には、口コミの対象となる商品・サービスを現に購入したり利用したりしている消費者や、当該商品・サービスの購入・利用を検討している消費者によって書き込まれていると考えられる。これを前提とすれば、消費者は口コミ情報の対象となる商品・サービスを自ら供給する者ではないので、消費者による口コミ情報は景品表示法で定義される「表示」には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じることはない。ただし、商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該「口コミ」情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる。」とする。)。
(2)不招請勧誘<第 4 章関連>
不招請勧誘ルールは、行政ルールの領域において、立法例の蓄積、拡充をみている。具体的には、とりわけ投機性が高い金融商品(店頭金融先物取引、店頭デリバティブ取引、商品先物取引)について金融商品取引法における禁止行為として、あるいは商品先物取引法上の不当な勧誘等の禁止として定められている。これらは、執拗な勧誘や利用者の被害の発生といった適合性原則の遵守をおよそ期待できない事態にかんがみて、そもそも顧客が要請していない限り勧誘自体を禁止すべきとする不招請勧誘規制が導入されてきたものである。さらには、平成 24 年8月の特定商取引法改正により、訪問購入に係る売買契約の締結について、勧誘を要請していないものにつきその勧誘を禁止するルールが導入されたことは注目に値する(58 条の6第1項)。ここでは、訪問購入における被害は単なる経済的損失にとどまらず、また、未然防止の必要性が極めて大きいこと、そして、在宅していることが多い高齢者、専業主婦に集中しているといった事情が考慮されている。
呼んでないのに・・・
以上のほか、不招請勧誘禁止そのものではないものの、電子メール広告について承諾をしていない者に対する送信の禁止、制限がなされているほか、訪問販売については承諾意思確認の努力義務、再勧誘の禁止、電話勧誘販売についても再勧誘の禁止といった行政ルールも置かれている。
これらの規制は顧客の保護を目的とした法規定であることから、これらの規定に違反した[勧誘・
販売]行為については民事上も違法となるといった形で、行政ルールに民事効を付与する旨の規定(行政ルールとの架橋)を導入するのが適切である。その際の理論構成としては、「適合性原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となる」とした最判平 17・7・14 のほか、「他人の保護を目的とする法律に違反した者」も違法な権利侵害をしたとして「これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めるドイツ民法 823 条2項が参考になる。
不招請勧誘に関する消費者被害の相談は多く寄せられている一方、裁判実務においては、不招請勧誘を理由とする不法行為責任を認めた裁判例も、適合性原則等と相まった形で認めているほか、問題とされている領域も一定の領域に集中しているという傾向がみられる。したがって、消費者契約一般を対象に、不招請勧誘禁止そのものについて単独での実体法規範を考えるよりは、不 当勧誘に関する一般条項(受皿規定)を置くこととしたうえで、その解釈・適用にあたっての一考慮要素とするのが、立法の早期実現という観点からは望ましいのではないか。また、不招請勧誘独自の実体法規範を定める方向についても、困惑取消類型の拡張という議論、損害賠償義務をもたらす不当勧誘行為規制といった議論も踏まえつつ、引き続き検討が必要であるように思われる。
そこで、具体的な検討課題として、次の点が挙げられる。
①とりわけ投機性が高い金融商品(店頭金融先物取引、店頭デリバティブ取引、商品先物取引)や訪問購入といった取引方法について、執拗な勧誘や利用者の被害の発生といった適合性原則の遵守をおよそ期待できない事態にかんがみて、そもそも顧客が要請していない限り勧誘自体を禁止すべきとする、不招請勧誘を禁止する行政ルールが蓄積されてきている。これらの規制は顧客の保護を目的とした法規定であることから、これらの規定に違反した[勧誘・販売]行為につき、民事上も違法となる旨の規定を導入することを検討してはどうか。
②不招請勧誘に関する消費者被害の相談が多く寄せられている一方、裁判実務上は適合性原則違反、説明義務違反とあわせて民事責任を基礎づけるとされていることにかんがみ、不招請勧誘ルールの消費者契約法への導入にあたっては、不当勧誘に関する一般条項(受皿規定)を置くこととしたうえで、その解釈・適用にあたっての一考慮要素とする方向などを検討してはどうか。また、不招請勧誘独自の実体法規範を定める方向についても、困惑取消類型の拡張という議論、損害賠償義務をもたらす不当勧誘行為規制といった議論も踏まえつつ、引き続き併せ検討してはどうか。
改正法を考えるに当たっては、
① 不招請勧誘ルールによって消費者契約トラブルの被害の「元を絶つ」意味は大きい。その法的介入根拠として、しばしば「私生活の平穏の侵害」が挙げられる。しかし、それによって生ずる損害については引き続き検討の必要がある(精神的損害以外の損害について)。
② ルールの射程として、消費者取引一般について考えてよいのか、勧誘態様も一般化可能かということも意識する必要がある。
③ 行政ルールと民事効との架橋の要件について、適合性原則の最高裁判決が、行政ルールからの「著しい」逸脱という「著しい」という要件が入っているところ、ドイツ法的に「保護法規」性を認めることができる法規の違反については「著しい」という要件を不要とすることが検討されてよいのではないか。また、再勧誘の禁止については、フランス法を参考に、これも保護法規に含めて考えることができないか検討してはどうか。
なお、不招請勧誘ルールは、広告規制のあり方のほか、困惑取消類型の拡張という議論、損害賠償をもたらす不当勧誘行為規制という議論、消費者公序規定の導入という議論とも密接にかかわるので、これらの議論状況も考慮に入れながら検討する必要がある。
(3)適合性原則<第 5 章関連>
適合性原則は、もともとは投資サービス領域における業者ルールである。それを著しく逸脱した
勧誘行為は不法行為法上の違法性を基礎づけるとする、民事効へと架橋する判例法理は確立しているものの、裁判実務においては極めて限定的にしか機能していないとされている。他方、業者ルールの領域では、適合性原則は新たな機能を獲得する等、適合性原則は強化される傾向にある。消費者法の領域においても、「消費者との取引に際して、消費者の知識、経験及び財産の状況等に配慮すること」を事業者の責務とするプログラム規定(消費者基本法5条1項3号)のほか、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、個人過剰貸付契約などの(広い意味での)「過大なリスクを伴う商品・サービス」につき適合性原則が行政ルールとして導入されている。また、適合性原則そのものではないが、判断力の低下に乗じた契約締結、過量販売を禁ずる行政ルールが導入されている。ただし、過量販売取引については解除権付与という契約解放型の救済が認められるに至っている。これらルール化の拡充の背景事情として、適合性原則に関する消費者被害の相談は多く寄せられていることのほか、高齢社会における消費者法のあり方として、適合性原則の立法化のニーズが高まっている点を指摘できる。
他方で、裁判規範としては十全な機能を果たしているとは言い難い状況、および、投資サービス分野を超えて消費者契約一般を対象とする民事ルールを定める消費者契約法への導入を検討するという2段階での展開を要することを踏まえれば、「過大なリスクを伴う商品・サービスを目的とする」消費者契約における「販売・勧誘ルールの原則規定」として消費者契約法に導入する在り方などが、考えられる。また、もっと広く適合性原則の実体法規範を定める方向についても、引き続き併せ検討される必要があるのではないか。
適合性原則に関する消費者被害の相談は多く寄せられているほか、高齢社会における消費者法のあり方として、適合性原則の立法化のニーズが高まっているということができる。過量販売、過剰与信等に関する特別規定など、適合性原則に密接に関連する法理は立法化されているところであるが、それらによる対応可能性とその限界等を見極めながら、適合性原則の立法化の必要性について、引き続き検討していくのが適切であろう。具体的な在り方については、一般的な不当勧誘行為規制や消費者公序規定の導入といった議論も踏まえつつ、引き続き検討される必要があろう。
適合性原則
そこで、本報告では、次のような検討課題が挙げられる。
①適合性原則を「過大なリスクを伴う商品・サービスを目的とする」消費者契約における
「販売・勧誘ルールの原則規定」として消費者契約法に導入するあり方などを検討してはどうか。また、もっと広く適合性原則の実体法規範を定める方向についても、引き続き併せ検討してはどうか。
②適合性原則について民事効果を伴った形での消費者契約法への導入を検討するにあたっては、消費者被害の実態、過量販売、過剰与信等に関する特別規定による対応可能性とその限界等を見極めながら、引き続き検討することとしてはどうか。また、具体的な在り方について、一般的な不当勧誘行為規制や消費者公序規定の導入といった議論も踏まえつつ、引き続き併せ検討してはどうか。
改正法を考えるに当たっては、民法改正において、公序良俗の現代化(暴利行為論)、意思能力の定義、保証人の保護のあり方等について、適合性原則の要請を一部実現するような提案がさ
れている。このような提案がなされていること自体、適合性原則の要請というものを民事ルールのなかで受けとめる必要性を反映していると言うことができる。しかし、民法改正によって適合性原則の要請が部分的に実現されたとしても、これを消費者契約法において導入する必要性はある。導入の必要性を考える際には、適合性原則の機能を考慮にいれる必要がある。すなわち、適合性原則が勧誘の適正性を確保するための管理態勢を要請しているという機能に着目すれば、消費者契約法が販売勧誘ルールの原則規定として、固有の必要性があるといえるのではないか。
なお、適合性原則は、消費者公序規定の導入の検討とも密接にかかわるため、これらの議論状況も考慮に入れながら検討する必要がある。
4 契約内容の適正化
評価余地のないブラック・リストのほか、評価余地のあるグレイ・リストの存在は、消費者相談の現場での判断の指針となるだけでなく、契約条件を策定する際の指針として、事業者にとってもメリットがあることに鑑み、リストの補完・充実が検討されるべきではないか。
EU、韓国などでのリストに比して我が国のリストがきわめて貧弱であることは否めず、グローバルスタンダードに近づけることが必要である。この点、現実の発生しているトラブルにも配慮しつつ、リストの策定が検討されるべきではないか。なお、立法事実にこだわることによる「後追い」のデメリットに鑑み、危険性の予見できる条項は積極的にリスト化することが望ましい。
(1)無効とすべき不当条項の補完
課題
①該当すれば不当条項であるとみなされる「ブラック・リスト」と、不当条項であると推定される(当事者が不当性を阻却する事由を主張立証することによって不当性が覆る)「グレイ・リスト」を設けてはどうか。また、この他に、例えば業種毎のリストなどを政令レベルで設けること等も検討してはどうか。
②不当条項リストのうち、特に裁判例で活用されており、それゆえに解釈論上・立法論上も多くの問題点が指摘されている違約金・損害賠償額の予定条項規制について、規制基準、立証責任、対象となる条項の種類などの点から、更に検討してはどうか。
③実際の事案においては、そもそも問題となっている条項がいかなる趣旨のものであるかが不明確で、具体的にどの不当条項リストに当てはまるかが問題となることがある。そこで、条項の性質決定に関する解釈準則を創設してはどうか。具体的には、不明確条項に関しては、消費者の合理的意思を重視する解釈準則を創設することを検討してはどうか。
無効となるべき条項の リスト化
留意点
①について。ブラック・リストとグレイ・リストを設けるにあたっては、以下の点に留意する必要がある。
第1に、リストの文言の抽象度について。現行消費者契約法8条、9条については、例えば消費
者契約法9条1号が「解除の場合」に限定されているなど、リストの射程が文言上制限されている点を問題点としてあげることができる。この点については、確かに前述したリストの機能を発揮するためには、具体的かつ明確な基準を設けることで誰でも簡単に問題となっている条項がリストに当てはまるか否かを判断できるようにすることがのぞましい。しかし、あまりにも細かい文言でリストを設けると現行法において問題となっているように、リストの射程を狭める危険性がある。また、リストが細かい文言で射程が狭いものとなっていると、現在は想定されていないものの将来的に生ずる新たな不当条項について妥当な解決を行うことが困難になる。
そのことから、リストの文言については、学説でも指摘されているように、グローバル・スタンダードに合わせて、民法の条文程度か、これをやや具体化した程度の抽象度をすることが考えられる。
使い勝手や、リストの効用を発揮させるには、ある程度の具体性と明確な指標を用いた基準が必要となる。客観的に、誰にでも判定が容易な基準であることが、相談現場などの対応の際にも説得力を高めよう。しかし、消費者契約法の適用領域が広いことや、判断者にとって一覧性の高いリストであることが望ましいことをあわせ考えると、あまり細かな規定も非現実的である。したがって、比較的重要な条項や問題条項について具体化し、問題発見を容易にして無効となる場合の予測可能性を高めつつ、他方で、多様な局面の可能性を視野に入れて、包括的ながら簡明な指標と評価余地のある留保を組み合わせながら規定を整備することが適切である。不当条項リストは、グローバル・スタンダードに合わせて、民法の条文程度か、これをやや具体化した程度の抽象度とすることが現実的である。
第2に、第1の点とも関連するが、リストにおける不当性の基準の定め方は慎重な検討を要する。例えば、リストに「過度に」「著しく」等といった要件を入れてしまうと、結局、不当だということを消費者が立証する必要が出てきてしまい、不当性の推定というグレイ・リストの機能を害するおそれがある。
第3に、条項との実質との関係でいかなる種類の条項をリストにおいてカバーすべきかを検討する必要がある。例えば、条項の「実質」を重視すると、対価不返還条項は消費者契約法9条1号の損害賠償額の予定条項とみることができ、また、債務免除条項も消費者契約法8条の責任制限条項とみることができる。しかし、実務上は、例えば老人ホームの入居契約のように、入居一時金を地位の対価や権利金と構成することによって規制を免れるという弊害も生じている。あらゆる条項をリスト化することは困難であるが、形式的に区別可能なものをリスト化することは必要ではないか。
②について。前述のように、審議では「平均的な損害」基準を維持することが多数の見解であったが、文言として、「平均的な損害」基準を維持するか、それ以外の「損害」概念を用いるか、諸外国にも見られるようにそもそも「損害」概念を用いないかはなお検討を要するように思われる。我が国における諸提案では、「平均的な損害」概念を維持するものを提案するものが多いものの、「当該契約につき契約締結時に両当事者が予見しまたは予見すべきであった損害が事業者に生じているときは、その損害額を定める部分については、消費者の利益を信義則に反する程度に害するものと推定されない」とする提案もみられる(民法(債権法)改正検討委員会編『詳解債権法改正の基本方針Ⅱ』(商事法務、2009 年)135 頁以下)。また、わが国の裁判例でも「実損害」に比べて当該予定賠償額が過大であるか否かが1つの判断基準とされていたことも踏まえる必要がある。さらにいえば、違約金・賠償額の予定条項の有効性を判断する上で考慮要素となる「解除の時期」や「解除の事由」と「平均的な損害」の有無とのつながりが明確でない事案もあることや、損害てん補目的よりも履行確保目的で設けられている条項の場合には、単に「平均的な損害」や「実損害」と対比するだけでは条項の合理性を判断することが困難であることもふまえると、「損害」概念は、解除の時期や事由と同じく条項の合理性を判断する上での考慮要素にとどめる可能性を模索する必要も残されているように思われる。もっとも、消費者契約法の規制基準は団体訴訟における条項不当性判断基準ともなることから、「平均的な損害」のようにある程度抽象的な基準であることにも一定の合理性があることに留意しなければならない。
また、仮に「平均的な損害」基準を維持するとしても、前述したように、「原則として『平均的な損害』には履行利益は含まれない」とする考え方を明示するにあたっては、民法の原則から言えば本来は履行利益が含まれること、そのことから、消費者契約であるとしてもどのような理論的根拠で信頼利益に限定されるということになるのかについては緻密に検討する必要がある。また、「平均的な
損害」に含まれる損害の内容として、信頼利益と履行利益の区別という観点のみから論じることに限界はないのかについても留意する必要がある。
③について。「約款規制」のところで問題となる作成者不利の原則や契約条項の明瞭化ルールとの関係を整理しつつ、不明確条項の解釈準則として内容確定ルールを設けることが必要である。
なお、学説、実務による消費者契約法改正提案の中には、過量販売に関する条項など、契約の目的物・対価そのものに関する条項をリスト化するものがある。例えば、「消費者に過量な又は不相当に長期にわたる物品又は役務を購入させる条項」をリストの候補として掲げる提案が見られる。これらの中心条項についての規制の可否については、消費者契約法 10 条の見直しにあたって再度検討する必要があるが、仮に規制するとしてこれらの条項をリスト化することの是非も問題となろう。つまり、不当条項リストに列挙するという形以外の方法、例えば、「消費者公序規定」による対応などもふまえて、検討する必要がある。
(2)不当条項に関する「一般条項」<第 7 章関連>
1.現行消費者契約法 10 条について
課題
①消費者契約法第 10 条前段要件は、「当該条項がない場合と比較して」といった文言 に修正してはどうか。
そもそもこの要件が必要なのかについても検討する必要がある。任意規定を明文の規定に限らない最高裁判決や学説のように、実質的に対象となる規定が限定されないのであれば前段要件自体には意味はなくなる。
②消費者契約法第 10 条後段要件については、「消費者の利益を一方的に害する」を維 持するが、「信義則に反して」という要件については削除を検討してはどうか。
以上の点については、「消費者の利益を一方的に害する」という要件に加えて「信義則に反して」という要件が存在することで、よほど悪質な条項以外は無効とならないような印象を与えかねないという指摘が学説でなされている。また、「信義則に反して」という文言が残っていることで、消費者契約法第 10 条と民法の信義則はそれほどかわらないのではないかという誤った見方も存在する。そのため、「消費者の利益を一方的に害する」といった文言にして、不当性判断基準をより明確かつ具体的なものとして定めることが必要であると考える。
③「消費者の利益を一方的に害する」か否かの判断要素を列挙すべきか、仮に列挙する 場合にいかなる要素を考慮すべきかについては検討する必要がある。
ア ③の点を検討する上で、条項の不当性判断にあたって個別の相手方との関係で判断するのか、当該条項の使用が予定されている多数の相手方について画一的に判断するのかが問題となる(さらにいえば、個別訴訟と団体訴訟とで不当性の基準、考慮要素をわける必要があるかも問題となる)。
イ 考慮要素については、各種提案や諸外国の立法を見ると、①契約の性質・趣旨、②契約締結時のすべての事情、③取引慣行、④他の条項、⑤契約のもとで提供されるべき履行の性質が列挙されている。学説でも、消費者契約法制定時より、消費者契約法 10 条後段要件該当性を判断する上では、「契約の対象となる物品・権利・役務の性質、当該契約の他の条項、当該契約が依存する他の契約の全条項を含む契約時点のすべての事情」が考慮されるとされている。これについては、以下の点が問題となる。
第1に、契約締結時の事情に限られるか。契約履行時や、契約締結後の事情変更を考慮することはできるのか。
第2に、契約締結過程の事情(説明の有無)のうち、裁判例で問題となっている考慮要素の中には、果たして条項の内容規制レベルで考慮に入れることが妥当といえるかどうかが問題となるものがある。
第3に、約款外の事情(取引慣行)を考慮に入れることが妥当か。これは条項の援用レベルの問
題であると捉えることはできないだろうか(最判平成 24 年3月 16 日 66 巻5号 2216 頁参照)。
条項の不当性判断にあたっては、契約の個別的プロセスにかかわる要素によって条項の不当性判断が異なってくるものはあるが、基本的には条項の客観的な内容面での要素を重視すべきではないか。具体的には、条項自体の内容が合理的なものであるか否か、その条項を設けることが不利益回避手段として合理的と言えるか否か、その条項以外に事業者の不利益回避の方法は無いか、他の代替的条項の存在などが挙げられる。
「一般条項」の設計
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400
50
2.中心条項に対する考え方課題
①「中心条項」の定義(中心条項と付随条項の区別基準)と、仮に定義化・区別をするのであれば、中心条項についての規制のあり方が問題となる。
②そもそも中心条項を定義化すること自体、慎重な検討を要するが、仮に定義化するとしても、「契約の主要な目的および対価」そのものに限定する方向で考えるべきである。
③中心条項の規制のあり方については、以下の方法がありうる。
(ア)中心条項については一切不当条項規制の対象としない。もっとも、この場合にはさらに a)中心条項は不当条項規制の対象とはしないが、別途、消費者公序規定で規制の対象とすべきである、という見解と、b)消費者契約法において中心条項への介入は一切認めないという見解に分けることができる。
(イ)中心条項については、その条項が平易かつ明瞭な言葉で表現されており、消費者がいかなる意味での対価なのかを理解できる限りにおいて、不当条項規制の対象外となる(フランス、 1993 年EC指令で採用されている規制スタイルである)。もっとも、明瞭な言葉で表現されていても、消費者公序規定による規制の対象となりうる。
(ウ)不当条項規制において、中心条項、付随条項を一切区別しない考え方については、例えば法制審部会資料 43 頁の【甲案】にあるように、民法における不当条項規制においては契約の中心部分に関する条項[対価に関する条項]は不当条項規制の対象としないが、その例外として消費者契約においては中心部分に関する条項[対価に関する条項]も不当条項規制の対象とする旨の規定を設けるといった考え方に現れているように、「消費者契約においては」中心条項も規制の対象とするという考え方がある。
以上のうち、どれが妥当であるかを考えるにあたっては、理論的側面だけではなく、a)給付・対価部分について消費者が合理的に判断できるだけの基盤が契約準備交渉・締結段階で整備されているのか、b)市場において競争メカニズムが完全に機能しているのか、c)消費者の場合、そもそも情報提供が十分であっても合理的な選択・決定はできないのではないかといった、実際上の観点も考慮する必要がある。さらには、下記の「多くの契約条項が多かれ少なかれ価格決定に反映されることは紛れもない事実であり、まして「価格・対価の決め方」、複雑に仕組まれた給付内容決定方法などのような条項は、顧客が不用意にそれを受け入れてしまうおそれが高いだけに、むしろ不当条項規制に服すると考えるべきである」といった指摘も重要である。このように考えると、中心条項と付随条項を区別することには、なお慎重な検討が必要である。