Contract
SNS広告で知ったオーディションの合格を契機に締結したレッスン契約に係る紛争案件
報 告 書
(xxx消費者被害救済委員会)
令和3年7月
xxx生活文化局
xxxは、6つの消費者の権利のひとつとして、「消費生活において、事業者によって不当に受けた被害から、xxかつ速やかに救済される権利」をxxx消費生活条例に掲げています。
この権利の実現をめざして、xxxは、都民の消費生活に著しく影響を及ぼ し、又は及ぼすおそれのある紛争について、xxかつ速やかな解決を図るため、知事の附属機関としてxxx消費者被害救済委員会(以下「委員会」という。)を設置しています。
知事は都内の消費生活センター等の相談機関に寄せられた相談のうち、委員会による処理が必要であると判断した案件を委員会に付託します。
委員会は、付託された案件について、あっせんや調停により紛争の具体的な解決を図り、個別の消費者の被害を救済するとともに、解決に当たっての考え方や判断を示します。
この紛争を解決するに当たっての委員会の考え方や判断、処理内容等は、xxx消費生活条例に基づき、広く都民の方々や関係者にお知らせし、同種あるいは類似の紛争の解決や未然防止に御活用いただいております。
本書は、令和2年10月8日に知事が委員会へ紛争処理を付託した「SNSx xで知ったオーディションの合格を契機にレッスン契約に係る紛争」について、令和3年7月7日に委員会から、審議の経過と結果について知事へ報告された ものを、関係機関の参考に供するために発行したものです。
消費者被害の救済と被害の未然防止のために、広く御活用いただければ幸いです。
令和3年7月
xxx生活文化局
第1 紛争案件の当事者 1
第2 紛争案件の概要 1
第3 委員会による処理開始と当事者の主張 1
1 申立人甲の主張 1
2 申立人乙の主張 4
3 相手方の主張 6
4 紛争の相手方についての考え方 10
第4 委員会の処理結果 11
第5 報告に当たってのコメント
1 本契約における問題点、あっせん案の考え方 12
2 同種・類似被害の再発防止に向けて 22
■資 料
1 処理経過 28
2 xxx消費者被害救済委員会委員名簿 29
申立人(消費者)2名 甲:20 歳代男性
乙:30 歳代女性
相手方(事業者)2社 A社:株式会社ワイケー(契約相手方)
xxxxxxxxx 00 x 00 xXXXXxx0x1
xxx中央区日本橋xx町 16 番1号トーマスビル3階2 B社:株式会社KEITO(事業運営者)
xxxxxxxxxxx 00 x 00 x3
xxxxxxxxxxxx 00 x0xxxxxxx0x4
第2 紛争案件の概要
申立人(甲、乙)の主張による紛争案件の概要は、以下のとおりである。
各申立人は芸能関係に興味があり、SNSに表示されたA社のオーディション広告に応募した。後日、A社から「自己PRが良かったのでオーディションに参加してほしい。」と連絡があり、A社の事務所でオーディションを受けた。
合格を告げられたあと、担当者から初めて有料のレッスン契約が必要だと言われ、各x xxは、それぞれ約 80 万円、約 60 万円のクラスを勧められた。「今日決められない。」、
「高額なので難しい。」などと伝えたが、「モデルになりたいなら今しかない。」、「まとまった頭金を入れてくれれば、残額は月々の分割でも大丈夫。」などと説得され、契約してしまった。その時、インターネットビジネスに関する個人事業主であり、その営業のための契約であると書かれた書類を渡され、言われるままにサインした。レッスン契約の頭金の支払を求められ、それぞれ約 40 万円、10 万円を支払った。
オーディションに行っただけなのに、突然勧誘され、高額な契約をしてしまったことを後悔した各申立人は、消費生活センターに相談し、クーリング・オフを申し出た。
A社は、契約書に入学金、受講料等は返金しない旨の条項があると主張し、クーリング・オフに応じなかったため、紛争となった。
第3 委員会による処理開始と当事者の主張
本件は、令和2年 10 月8日、xxx知事からxxx消費者被害救済委員会に付託され、同日、同委員会会長より、その処理が、あっせん・調停第二部会(以下「部会」という。)に委ねられた。
事情聴取時等における当事者の主張は、以下のとおりである。
1 申立人甲の主張
(1) モデルに興味があり、オーディションを受けてみたいと思っていたところ、令和元
1 登記上の本店所在地
2 実際の活動場所
3 登記上の本店所在地
4 実際の活動場所
1
年 10 月中旬、SNSに表示された広告でA社のオーディションを知った。「モデルを募集する」、「若手の人材を発掘したい」という内容だった。興味を持ったので、エントリーフォームに個人情報を入力し、自己PR欄に「モデル業界でがんばっていきたい」などと入力して送信した。それまでモデルの経験はなく、オーディションの経験もなかった。
(2) 数日後、A社から、オーディションを随時行っているので受けてほしいとの電話があり、「自己PRをすごく評価している。応募者全員がオーディションを受けられるわけではないが、あなたが特にいいと思ったので、オーディションに参加してほしい。」と言われた。A社から示されたオーディションの日程は空いていたので「大丈夫です。」と答えた。この時、有料のレッスン契約の話は聞いていない。
(3) 令和元年 10 月下旬、A社の事務所に行くと、自分のほかにもう1人オーディショ ン参加者が来ていた。オーディションは、事務所内のレッスン室のような場所で1人 ずつ行われ、順番は自分が先だった。オーディションは撮影しているとのことだった。審査員の前でウォーキングしたのち、セリフが書いてある紙を渡され 1 分ほど演技を した。審査員から「初めてだから固いけど、まあこんなものでしょう。」などと言わ れた。初めてのオーディションで全く手ごたえはなかったが、「もし受かれば、やっ ていきたいです。」と自分の意気込みを伝えた。
オーディションの最後に、審査員から、結果は後日連絡すると言われた。
(4) オーディション終了後、帰ろうとしたところ、担当者Dに呼び止められ、事務所の奥にあるミーティング室に連れて行かれた。ミーティング室に同席者はいなかった。
(5) ミーティング室でDと二人でしばらく雑談した際、「もし、合格になれば、レッスン料がかかってくる。」と初めてお金の話が出てきた。今の職業やどれくらいの稼ぎがあるのか、クレジットカードを持っているかなどということを聞かれた。アルバイトをしていて収入が少ないこと、持っているクレジットカード2枚の使用状況を伝えた。Xは「もうちょっと待ってくれれば結果が出る。」と言い、ミーティング室を出て行った。
(6) Dが戻り、合格だと告げられた。クラス別レッスン料金表(以下「レッスン料金表」という。)を渡され、約 80 万円のクラスを勧められたが、初めて料金を知らされ、 高いと思った。他社のレッスン価格も調べてから契約するかどうかを決めたかったの で、「今日決められない。1日待ってほしい。」と言ったが、「年齢も 23 歳で若く ないから、約 80 万円のクラスでやっていかないと追いつかない。」、「モデルにな りたいなら今しかない。」などと言われ、年齢的にはそのとおりだなと思い、「は い。」と言ってしまった。
(7) 仕事について具体的にいくら稼げるという話はなかったが、Dから「うちは、中堅事務所だけれども、割と仕事が多い。」という説明があった。
(8) Dから、役務契約書、包括的エージェント契約書(以下「エージェント契約書」と いう。)、同意事項確認書(以下「確認書」という。)を渡され、読んでおくように 言われたが、内容は理解できなかった。「理解できたか。」と聞かれたので、「xx、あまり分からないです。」と伝えると、Dは簡単に説明をした。役務契約書とエー ジェント契約書にサインしたあと、確認書の記載を求められ、最後にサインした5。
5 部会が確認したところ、甲の役務契約書、エージェント契約書及び確認書にはxxxと指印がされていた。
(9) 役務契約書の第7条(入会金)のみ説明を受けたが、第5条(会費の不返還)や中途解約については説明を受けていない。
約 80 万円の契約だが、契約金額の記載はなく、レッスン料金表で説明を受けた。
(10) エージェント契約書については、第5条第2項にある報酬の分配計算は 50%ということのみ説明を受けたが、第8条の経費の負担や役務契約書とどのような関係があるのかについて説明はなかった。また、事務所所属及びマネジメント等の費用はかからないと言われた。
(11) 確認書については、何のための書面なのか説明されなかった。レッスン契約をするためには、すべての質問事項に「はい」を選択しなくてはならないのだと思い、Dの読み上げに合わせて、ひたすら「はい」に〇を付けた。
「インターネットビジネス等に関わる個人事業主です」という項目を読み上げた時に、Dから「個人的にSNSの活動も構築していってほしい。インフルエンサーになってほしい。インフルエンサーとして得た収益は、会社には入れず、自分の元に全部入る。」などと説明を受けた。自分自身は趣味でSNSを利用し映像や画像を投稿することはあったが、SNSで収入を得たことはなかった。「個人事業主」とは何か、「個人事業主」として契約するということが何を意味するのか理解できなかった。また、Xからこの点についての説明もないままサインした。
(12) 約 80 万円のレッスン契約の支払は、Dから勧められ、2枚のクレジットカードの空いている枠を全部使うという形で、頭金として、クレジット払い 23 万円6とキャッシングでの現金払い 15 万 3,000 円の合計 38 万 3,000 円を支払った。領収書は渡されなかった。足りない分の支払については、あいまいなままだった。
(13) レッスンについて、「モデルとプラス演技の部分もやっていこう。レッスンは全
48 回なので、自分が通える範囲であれば、48 回、どのペースで来てもいい。」などと言われたが、レッスン1回当たりの時間やスケジュール、講師等の具体的な説明はなかった。
(14) Dと話をしていたのは1時間半くらいだったと思う。契約をしたときは、オーディションに合格したことが嬉しくて、気持ちが高揚していた。
「今日レッスンがあるので、見学してはどうか。」と誘われ、帰る前に芝居のレッスンを見学した。モデルでも芝居の仕事が来たときに対応できるようにするための見学なのだと思った。
(15) 帰宅中、だんだん冷静な気持ちになると、高額なレッスン契約をしてしまったことを後悔した。
翌日、消費生活センターに相談し、役務契約とエージェント契約についての解約通知書を出した。契約後、レッスンの受講はしなかったが、Dから送られてきたSN S通知には、動画のURL7が添付されていた。
(16) 消費生活センターからA社に連絡してもらったところ、A社は、契約書に入学金、受講料等は返金しない旨の条項があり、今回、解約は受けるが、クーリング・オフは認めない、支払済みの頭金は返金しないと言っているとの説明を受けた。納得い
6 後日、xはクレジット会社に対して支払停止の抗弁書を提出し、チャージバックを受けている。
7 部会が甲、A社双方の提出資料により確認したところ、甲が受信したURLは、SNS等に関して他社が無料で配信している動画であった。
かない。クーリング・オフして、返金してもらいたい。
2 申立人乙の主張
(1) 小学生のころに1年くらい芸能事務所に所属していたが、それ以降、芸能活動の経 験はなかった。子育てをしている今でも芸能関係に憧れる気持ちを持ち続けていたと ころ、令和2年2月ころ、趣味で利用しているSNSに表示された広告でA社のオー ディションを知った。広告には、女の子たちがランウェイを歩く画像とともに、「年 配の人も活躍している」との記載もあった。広告を見て、一般の人が所属するような エキストラ系の会社なのかなという印象を持った。家事の空いている時間を利用して、華やかな芸能の世界でお小遣いを稼げたらいいなと思い、エントリーフォームに個人 情報を記入し、自己PR欄に「ママタレントとして活動したい」などと入力して送信 した。これまでオーディションを受けた経験はなかった。
(2) 数日後、A社の担当者Eから、オーディションの予定を組みたい、スケジュールはいつが空いているかというSNS通知が届いた。その後、Eと電話で話した際、「毎日のようにオーディションをしている。オーディションに全員呼ぶのは難しいので、可能性のある人にだけ連絡している。」などと言われた。自身がひとり親であることを伝え、「ママタレントの選択肢もあるのか。」と尋ねたところ、「需要はある。」とのことだった。オーディションか、あるいはその先でお金がかかるのかという点が気がかりだったので、自分から「お金がかかるのか。」と尋ねたら、Xは、「その人次第です。オーディションに合格してからの話になる。お会いしてから具体的な話をしましょう。」などとあいまいな答え方をした。金額の話がなかったので、お金はかからないか、かかるとしても少額なのだと思った。
Eの話を聞き、オーディションに行くことを決めた。
(3) 電話の数日後、A社の事務所に行き、オーディションを受けた。参加者は自分だけだった。事務所内の壁面が鏡張りの部屋で、審査員の指示を受けてウォーキングをしたり、セリフを読んだりした。
オーディションの後、Eから「個室でちょっとよろしいですか。」と呼び止められた。事務所内の個室に案内され、Eと二人で話した。Eから「セリフが棒読みだったが、レッスンすれば何とかなるのではないか。」と言われた。その時も金額の話はなかった。
(4) 翌日、Eから電話で合格を告げられ、「電話でなく、会って話しましょう。詳しく話します。念のため印鑑を持って来てください。」と事務所に行く約束をした。その時もお金がかかるという話はなく、印鑑も所属契約のために必要なのだと思った。
(5) 令和2年2月中旬、A社の事務所に行き、前日と同じ個室に通された。Eと一対一になり、「仕事の案件がいっぱいあって、人が足りなくて困っている。いきなりタレントの仕事をするのは難しいので、まずはSNSのインフルエンサーになれるように自分でも勉強してもらいたい。やりたいことができたら、外部からボーカルやモデルの講師を呼んでxxxxを受けられる。そこでスキルを身につければ、そういう案件が出てきたときに参加できる。」などと言われた。Xから本格的なボーカルやモデルのレッスンの話を聞き、自分の望んでいることとは異なると思った。「自分は歌手になりたいわけではないし、モデルといっても読者モデルくらいでいいです。芸能に関してはゆるく活動していきたい。」と伝えた。
すると、Eから「もう少し具体的にレッスンの内容を濃くしていきたい。」とレッ スン料金表を見せられた。約 60 万円のクラスを勧められ、え、こんなにするの、と その金額に驚き、「レッスンにそんなにお金はかけられない。高額なので難しい。」と伝えた。
Xから「知名度を上げるためにSNSのアカウントを作って自分自身で活動して ほしい。インフルエンサーになって得られた収入は全額もらえるので元が取れる。」などと勧誘を受けるうちに、だんだんママタレントとしてやっていけるような気持 ちになってしまった。
「分割で月1、2万円というのもできますか。」と聞くと、Eから「まとまった頭金を入れてくれれば、残額は月々の分割でも大丈夫。」と言われ、「今日いくら払えるのか。」と頭金の支払を求められた。その日はあまり現金を持っていなかったので、なるべく少ない額での支払にしたかったが、Eから少ない額では困るようなことを言われた。Eはだんだん早口になり、勧誘の様子も必死になっていった。
長い時間、勧誘が続いたので疲れてしまい、「子供のお迎えがあるので帰りたい。」と伝えたが、「頭金としてちょっとは入れてもらいたい。いくら払えるのか。」と帰りたくても帰れない雰囲気になった。早く切り上げたい、解放されたいという思いから、10 万円払うと言ってしまった。
(6) 勧誘の際、契約すると、徐々にエキストラのような仕事から紹介してもらえるという話があった。
(7) Eから役務契約書とエージェント契約書を渡され、「レッスン料金表にあるクラスは全部パックになっているものだ。それ以外に料金はかからない。」と言われた。二通の契約書は一体のものとして契約するという説明だった。一読しても内容はよく分からなかった。「質問はありますか。」と聞かれたが、話を聞くことに疲れて「ないです。」と言ってしまった。帰りたい一心で、二通の契約書に署名と押印をしてしまった。
(8) 役務契約書については、「在籍する費用を含めた人件費とか、事務手数料とか、撮影費とか、そういった費用を全部含めて入会金という名称になっている。レッスンで講師を呼んだりするので、料金は格安な方だ。」と言われた。また、「途中でやめてもお金は返さない。」とも言われた。
(9) エージェント契約書については、タレントとしての報酬についての配分計算についてのみ説明された。
(10) 個人的にインフルエンサーになって得た収入については、事務所に入れず、全て自分の収入にしてよいという話をされた後、自身が個人事業主である旨が書かれた書面に署名を求められた。この書面が何のためにあるのか、自分が個人事業主であるとするのはなぜなのか意味は分からなかったが署名した。その書面は渡されていない。自分自身はSNSを利用しているが、いろいろな人の投稿を見たり、お得なクーポ
ンを入手したりする程度であり、SNSで収入を得たことはない。
(11) xxxxのカリキュラムについては具体的な説明がなく、「講師次第のところもある。」と言われた。「とりあえず一通りやってみて、自分が楽しいと思ったものを中心に絞り込んでいって。最初は一回かじってみたら。」との話をされたが、期間や回数についての説明はなかった。
(12) 契約書にサインをした後、頭金の 10 万円の支払を求められた。手持ちが無かった
ので、近くのコンビニまで行ってATMで 10 万円を下ろして担当者に渡した。領収書は渡されず、不足分の支払については何も言われなかった。Eからの勧誘は、約2時間に及んだ。
(13) 帰宅後、EからSNSのメッセージが届いた。SNSのフォロワーを増やす方法 を教えると言っていたが、A社とは別の事業者の無料配信動画のURLが貼り付けら れているだけだったので不審に思った。A社を信じられないという気持ちが強くなり、 A社についてインターネットで調べたところ、よくない評判があることを知った。高 額なレッスン契約をしてしまったことを後悔し、消費生活センターに相談し、契約の
3日後に役務契約と包括的エージェント契約の解約通知書を出した。
解約通知書を出す前にレッスンの予約をしていたが、受講はしなかった。
(14) 消費生活センターとの交渉において、A社は、契約書には入学金、受講料等は返金しない旨の条項があり、クーリング・オフは認めない、今回、解約は受けるが、支払済みの頭金は返金しないと言っているとの説明を受けた。納得いかない。クーリング・オフし、既払金を返金してほしい。
3 相手方の主張
部会には、甲または乙との間の役務契約及び包括エージェント契約締結時にA社のエンターテイメント事業を統括する取締役であったC8が出席した。
(1) 当社(A社)は、もともとエンターテイメント事業、広告事業等、幅広く事業を行っていた。エンターテイメント事業とは、テレビ、雑誌、SNSでの仕事のことである。この事業のためにタレントを集める必要があり、オーディションを実施して合格した方に所属してもらっている。オーディション合格者は大抵の方が若く、スキルや能力が不足しているので、活動のために必要なスキルを身につけるためのスクール事業も行っていた。
(2) 令和2年7月、当社は、エンターテイメント事業をB社に事業譲渡した。B社は、当社からエンターテイメント事業の譲渡を受けて、同事業を行うための法人として設立したものであり、私がB社の代表取締役9である。
現在、当社は、広告事業、FXの自動売買ソフトの開発等の事業を行う法人として、存続している。
(3) 当社は、SNSや大手の検索サイトに、地域や年齢を絞ったオーディション広告を出しており、申込みフォームに個人情報や「なりたいもの」を記入してもらう方法により、オーディションに応募してもらっている。
応募データを見て、通常は担当者Fが応募者に電話をして、オーディションの日程を決めている。電話に出ない人については、SNSで連絡して、折り返し電話をもらうなどして日程を決め、オーディションに来てもらうという流れになっている。連絡時に、経験がない人については、レッスンを受けてもらう可能性があり、その場合は有料になる旨を伝えるようにしている。
Fに個別に確認はしていないが、未経験者である甲、乙に連絡した際も、レッスン
8 部会がA社の履歴事項全部証明書を確認したところ、Cは、会社設立時から令和2年8月 31 日まで、A社の取締役であった。
9 部会がB社の履歴事項全部証明書を確認したところ、令和2年7月 27 日付けで設立。代表取締役はCであ
る。
について伝えているはずである。
(4) オーディションは、事務所の中にあるスタジオで行っている10。このスタジオは、レッスンでも使用している。
オーディションでは、参加者のポテンシャルやルックス、あとは、アーティストで あれば歌、モデルであればウォーキングやポージングといった技術の部分を確認する。オーディションは撮影している。
オーディションの結果、xxxxが必要と判断した人に対しては、オーディション中か、オーディションが終わった後に、レッスンが必要であることと、xxxxは有料であることを話している。合否の選定は、D、E、ほかのスタッフなどが行っている。xxxxが必要かどうかの判断は、審査の責任者に任せている。
レッスンには「モデル」、「アーティスト」、「俳優・女優」の3種類がある。
(5) 合否の連絡は、基本的には電話で行っている。Fが伝えることもあるし、D、Eが伝えることもある。この時に、xxxxが必要な人には、レッスンが有料であることも伝えたうえで、「契約関係のものもあるので、印鑑を持ってきてください。」と事務所に来てもらうよう求めている。
(6) オーディションに合格した人は、基本的には事務所に来てもらい、役務契約及びエージェント契約を結んでいる。契約書の内容は必ず担当者が読み上げている。このほか確認書を提出してもらっている。
(7) 役務契約はレッスン契約である。役務契約書と別途渡しているレッスン料金表が対応しており、レッスン料金表のクラスごとのトータルの金額を払ってくれれば、レッスンを受けられるという認識でやっている。
役務契約書第5条(会費の不返還)については、学校が自己都合で辞めた人にお金を返さないのと同じ感覚で設けている。第7条(入会金)には、レッスン料金表のトータルの額を記入してもらっている。第7条には、契約当日に全額支払う旨の規定がある。実際は、基本的には一括で支払ってもらうという説明をするが、払えない人もいるので、その場合は担当者の裁量で、頭金をいくらにするか、分割の支払をいくらにするかということを決めている。
甲、乙の頭金がなぜこの金額になったのかは聞いていないが、本人が払える額だったということだと思う。
役務契約書(抜粋)
第5条(会費の不返還)
一旦入金した入学金、受講料、事務手数料、教材費、宣材撮影プロフィール作成費は、入会不許可の場合を除き、理由の如何を問わず返還しない。 (略)
第7条(入会金)
会員は当 STUDIO に対し、本契約締結と同時に、西暦 年 月 日にx x也11を当 STUDIOが指定する口座に振り込み支払うものとする。 注) STUDIO 代金は理由の如何を問わず返金しない。
10 部会がA社から提出を受けた資料を確認したところ、令和元年 10 月からの1年間について、少なくとも6回のオーディションが行われた旨が記載されている。
11 部会が甲及び乙の役務契約書を確認したところ、年月日、金額は空欄であり、後で書き込む形となっている。
甲、乙のいずれも、金額欄には契約額の総額が記載されている。
諸費用合計 | 48 回コース+特別講義 12 回 |
入学金 | 350,000 円 |
受講料 | 262,000 円 |
事務手数料 | 50,000 円 |
撮影費 | 50,000 円 |
合計 | 783,200 円(税抜 712,000 円) |
諸費用合計 | 48 回コース |
入学金 | 250,000 円 |
受講料 | 188,000 円 |
事務手数料 | 50,000 円 |
撮影費 | 50,000 円 |
合計 | 591,800 円(税抜 538,000 円) |
クラス別レッスン料金表(抜粋)
〇 (略)
〇マスタークラス
〇 (略)
〇エージェントクラス
決済方法
一括払い (略)
※キャンセルに関して、一度ご入金された費用に関しましては原則としてご返金出来ませんのでご了承下さい。
当社の取引は、有料のレッスン契約について事前にしっかり説明をすることが前提であり、アポイントメントセールスに当たらないと考えているため、特定商取引法第
4条、第5条で定める法定記載事項は設けていない。
(8) 包括的エージェント契約は、タレントの所属に関する契約である。エージェント契約書は、役務契約書と一緒に渡しており、大切な点は、仕事を独占してあっせんするということである。契約期間は3年で、それ以降はxx更新ということになる。
(9) 役務契約、包括的エージェント契約を締結する際、確認書により、契約者の状況について確認を行っている。
担当者が質問事項を読み上げ、契約者の状況について契約者本人に直筆で記載してもらっている。しっかりと説明し、「分からないことがあれば聞いてください。」と伝えている。証明を求めることまではしていないが、本人が記載した内容が虚偽なはずはなく、事実として判断している。
確認書の質問事項にある「インターネットビジネス等に関わる個人事業主」とは、 SNSで仕事をしている人がいるので、この点を想定して入れているものである。甲、乙の確認書を委員会の場で初めて見たが、個人事業主ですよという質問項目の「はい」に〇を書いていることから、両氏は個人事業主に当たり、消費者ではないということ になる。
同意事項確認書(抜粋)
2.私は、インターネットビジネス等に関わる個人事業主です。
( はい / いいえ )
「はい」を選択した場合、同事業を開始して 年12経過しています。
3.本契約の目的は、上記個人事業に関わる営業のためです。
( はい / いいえ )
(10) オーディションに合格した人に対して、当社のオーディションに合格したら仕事ができるとか、デビューできるというような説明は行わないよう、担当者に徹底させている。芸能事務所に所属するということは、フリーで仕事をする場合とは異なり、事務所やマネージャーが取引先に営業活動をしたり、レッスン受講によってスキル向上が期待できたりする。xxxxは、仕事を得るための可能性を上げるものなのだということを必ず説明させてもらっている。
(11) xxxxは、外部の講師に任せており、当社ではxxxxxxは作成していない。xxxxは、講師がスケジュールを設けて行っている。契約者がレッスンの設定日に 申し込めば、参加できる。担当者が連絡を受けた時は、この旨を講師に伝えているが、仮に申込みをしなくてもレッスンは受けられる。
レッスンの期間は、特に定めていない。週に1回レッスンを受けましょうという前提で 48 回受講すると、1年程度で終了することとなる。48 回が終わるまで、役務契約は継続する。
(12) 令和元年10 月下旬、当社は、オーディションを受けた甲と役務契約(約80万円)と包括的エージェント契約を締結した。同日、甲から頭金として 23 万円(カード)と 153,000 円(現金)の入金を受けている。領収書は渡していない。
契約の翌日付けで甲からクーリング・オフ通知を受けた。甲はクーリング・オフ通知において、Dから無理やり契約させられたかのように主張しているが、Dに確認したところ、そのようなことはしていないと言っている。
(13) 令和2年2月中旬、当社は、オーディションを受けた乙と役務契約(約 60 万円)と包括的エージェント契約を締結した。同日、乙から頭金として 10 万円(現金)の入金を受けている。領収書は渡していない。
契約の3日後付けで乙からクーリング・オフ通知を受けた。乙は、クーリング・オフ通知において、Eから無理やり契約させられたかのように主張しているが、Eに確認したところ、そのようなことはしていないと言っている。
(14) 当社は、xxxxが有料であることについて、事前に説明を行うよう従業員に徹底し、その上で、オーディションに合格した後には、契約についての具体的な説明をしている。かかる説明は、全てのオーディション参加者に対して同じく行っているはずであり、甲、乙に対してのみ、事前の説明を行っていなかったとは考えられない。当社の行為は、アポイントメントセールスには当たらないと考えられ、クーリン
グ・オフには応じられない。
12 部会が甲及び乙の確認書を確認したところ、年は空欄であり、後で書き込む形となっている。甲、乙のいずれも、「1」年と記載されている。
(15) また、甲、乙は、確認書を自分で記載しており、個人事業主に当たることから、消費者関係の法令の適用は受けないものと考えている。
(16) 甲、乙の主張は、当社の主張に反するものである。一方の当事者である甲、乙の主張のみが反映された解決案を受け入れることはできない。当社は契約書どおりの解決を望む13。これに対して、法令違反があるのであれば、返金に応じる。
4 紛争の相手方についての考え方
事情聴取及び意見交換の中で、A社が自社のエンターテイメント事業をB社に譲渡したと主張したことなどから、A社、B社の双方を本件紛争処理の相手方とすることとした。経緯は以下のとおりである。
令和2年
10 月8日 各申立人の契約の相手方であるA社との紛争について、付託した。
A社のウエブサイトには、「A社 エンターテイメント事業部」と表記されていた。 10 月 26 日 A社に対して、第4回部会への出席及び資料の提出を依頼した。
11 月 17 日 A社から出席及び出席者についての回答及び資料の提出を受けた。提出資料のうち、ウエブサイトの会社情報に「B社 A社エンターテイメント」との表記を確認した。
12 月3日 第4回部会に、甲または乙との間の役務契約及び包括エージェント契約締結時にA社のエンターテイメント事業を統括する取締役であったCが出席し、事情聴取を行った。
Cから、A社及びB社について以下の説明を受けた。
① A社は、令和2年7月に自社のエンターテイメント事業をB社に譲渡した。 B社の代表取締役は自分である。
② A社は、広告事業等を行う法人として、現在も存続している。
令和3年
1月4日、18 日 A社及びB社に対して、第6回部会への出席を依頼した。
1月 18 日ほか A社から、出席及び出席者についての回答及び元取締役Cを指定した委任状が提出された。B社から、出席及び出席者について回答を受けた。
3月9日 第6回部会にC(A社元取締役、B社代表取締役)が出席し、意見交換を行った。A社及びB社から、A社のエンターテイメント事業はB社に譲渡し、債権債務も移転しているため、あっせん案の提示先はB社にしてほしいとの要望を受けた。
3月 15 日ほか 事務局職員が各申立人に架電し、本件に係る事業譲渡等について、A社から何ら連絡がないことを聴き取った。
3月 30 日 第7回部会において、以下の点等を考慮し、A社及びB社を相手方としてあっせん案を提示することを決定した。
① 第4回及び第6回部会において、A社のエンターテイメント事業がB社に譲渡されたことを聴き取ったこと。
② A社に対する事情聴取(第4回部会)、A社、B社双方との意見交換(第6回部会)を行ったこと。
③ A社から各申立人に対し、事業譲渡等をした旨の連絡がないこと。
④ 債権譲渡等の法的手続が行われたか確認できないこと。
13 A社は、消費生活センターにおけるあっせん交渉において、「未払金は放棄するが、既払金は返金しない。」と主張している。
第4 委員会の処理結果
部会は、令和2年 10 月19 日から令和3年4月 22 日までの8回にわたって開催された。
(処理経過は資料1のとおり。)
令和3年4月5日、あっせん案を各申立人、A社及びB社に送付した。各申立人からは受諾する旨の回答があったが、A社及びB社からは受諾しない旨の回答があった。
このため、部会は調停案を作成し、同年4月 30 日付でA社及びB社に受諾を勧告した。調停案を示すに当たり、部会は、あっせん案と同じ内容で解決することが社会的にxxか つ妥当であると判断し、調停案はあっせん案と同様のものとなった。A社及びB社からは、受諾しない旨の回答があった。
部会は、「あっせん」、「調停」のいずれもが、A社及びB社の拒否により不調となったため、令和3年5月 25 日、当部会における解決処理の手続きを終えることとした14。
【あっせん案・調停案の内容】
申立人と相手方らの間で令和〇年〇月〇日に締結された役務契約(以下「本件契約 A」という。)及び包括的エージェント契約(以下「本件契約B」という。)について、以下のとおり合意する。
1 相手方らは、特定商取引に関する法律以下(「特定商取引法」という。)第9条第1項に基づき本件契約Aが解除(クーリング・オフ)されたことを認める。
2
3 相手方らは、民法第 651 条第1項に基づき本件契約Bが解除されたことを認める。
4
【申立人甲】
相手方らは、上記2の返還すべき金額 153,000 円を、申立人の指定する金融機関口座に令和3年5月 28 日(あっせん案)、令和3年6月 21 日(調停案)までに、全額を一括で振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は相手方らの負担とする。
【申立人乙】
相手方らは、上記2の返還すべき金額 100,000 円を、申立人の指定する金融機関口座に令和3年5月 28 日(あっせん案)、令和3年6月 21 日(調停案)までに、全額を一括で振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は相手方らの負担とする。
【申立人甲】
相手方らは、申立人に対し、連帯して、申立人がクレジット会社に対し支払停止等の申出を行ったことにより支払停止等の処理を受けた 230,000 円を除く、申立人が相手方A社に現金で支払った 153,000 円を返還する義務があることを認める。
【申立人乙】
相手方らは、申立人に対し、連帯して、申立人が相手方A社に現金で支払った 100,000 円を返還する義務があることを認める。
14 第8回部会(令和3年4月 22 日)において、「あっせん」及び「調停」のいずれもが不調となった場合は、本件は打切りとすることを決定していた。
5 相手方らは、保有する申立人に係る写真や映像、収録音源・録画データ等の個人情報(以下「申立人の個人情報」という。)を合意書締結後 10 日以内に消去する。なお、相手方らに関連する会社に申立人の個人情報を提供している場合は同様に消去させる。
6 申立人と相手方らの間には、本件契約A及び本件契約Bに関して、本あっせん条項以外に、相互に何ら債権債務のないことを確認する。
【A社が示したあっせん案及び調停案に不同意であった理由】
〇 納得出来ない所が多数ありますので争う。
〇 申立人は口頭のみで証拠がないのと部会の委員が居眠りをしている15ような朝廷
〔ママ〕には合意できない。
(A社から提出された文書のとおり記載)
【B社が示したあっせん案及び調停案に不同意であった理由】
〇 申立人の話と私達の話に食いちがいがある。
〇 申立人の話が一方的に通ってる(また、申立人の話には証拠がない)
〇 部会で居眠りしてる委員16もおり、xxxな部会で頂いたあっせん案(調停案)には受諾出きない。
(B社から提出された文書のとおり記載)
第5 報告に当たってのコメント
1 本契約における問題点、あっせん案の考え方
(1) 本件契約の内容について
本件では、A社と各申立人との間では、役務契約書とエージェント契約書の二つが取り交わされている。このうち、役務契約書については、一読しても具体的にどのような「役務」に関する契約であるか判然とせず、また、各申立人もその意味するところについて理解していなかったが、事情聴取の場において、各相手方は、
「役務」の内容が「レッスン」であると説明した。
そこで以下では、「役務契約」は、「レッスン契約」を意味することを前提として論述を進めることとする(ただし、そもそも役務契約の成立の可否及び有効性については疑義があるが、この点は(2)オ及びカで後述する。)。
(2) 役務契約について
ア クーリング・オフ
(ア) 役務契約締結の訪問販売該当性
本件では、各申立人は、いずれもSNSの広告を見て、そこからアクセスできる登録フォームに個人情報を入力している。具体的には、甲は、改めて個人
15 第 6 回部会において、代表者に「居眠りをしている」と指摘された者は、委員ではなく、事務局関係者であったが、これは代表者の一方的な主張である。
16 注釈 15 参照
情報の入力を依頼するSNSのメッセージが届き、その指示に従って必要事項を入力した数日後にA社の担当者から掛かってきた電話において、また乙は、 SNSのメッセージと担当者との電話において、それぞれオーディションへの参加を促されている。その後、各申立人はA社の事務所に赴きオーディションを受けた当日または翌日に合格を告げられるとともに、有料のレッスンが必要であると申し向けられて役務契約書に署名・押印(ただし、甲は指印)している。
もっとも、A社は、各申立人に対して、オーディションを受ける前に、その
結果次第では有料のレッスンを受けるための役務契約を締結する必要があることを説明しないまま、オーディションをするということのみを申し向けて事務所への来訪を要請している。なお、A社は、この点につき、オーディションを受ける前に説明したとするが、もしそうであるならば、各申立人は、レッスン料として支払いに必要であると決められた金額を役務契約及びエージェント契約を締結した当日にあらかじめ持参するはずであり、イ(ウ)及び2(1)ウで後述するように各申立人がその当日に、クレジットカードのキャッシングや決済、またはATMから引き出した現金で用意できた分だけを支払うという行動をとることは想定できない(この点について、相手方は、一括で支払えない場合には「担当者の裁量で、頭金をいくらにするか、分割の支払をいくらにするかということを決めている」と主張するが〔3(7)参照〕、各申立人についてそのような合意をしたということをうかがわせる証拠はないし、そもそも契約当日になって担当者の裁量でそのような合意を実際にしたというのであれば、それ自体が事前に十分な説明を行っていないことを示すものである)。また、A社のエンターテイメント事業の譲渡を受けたB社が現在行っている広告にもオーディションの結果次第ではレッスンが必要となる旨の記載がなく、さらに、資料として提出された各申立人とのSNSのメッセージにもその旨の記載はないこともふまえると、A社の主張は信用できない。
したがって、A社は、本来はレッスン契約の内容を有する役務契約の締結目的を隠匿して各申立人を勧誘していることから、A社による役務の提供は、いわゆる「アポイントメントセールス」として訪問販売に該当する(特定商取引法第2条第1項第2号・政令第1条第1号)。
(イ) 役務契約締結の業務提供誘引販売取引該当性
本件では、各申立人は「モデルになりたいなら今しかない。」、「仕事の案件がいっぱいあって、人が足りなくて困っている。」、「やりたいことができたら、外部からボーカルやモデルの講師を呼んでレッスンを受けられる。そこでスキルを身につければ、そういう案件が出てきたときに参加できる。」等と申し向けられたうえで、レッスンをすることの必要性を強調され、役務契約を締結している。また、この役務契約と同時に締結された包括的エージェント契約(詳細は(3)を参照)は、モデル・タレント活動を行った場合に対価または報酬を得られることを前提に、その管理や分配の方法が定められている( エージェント契約書第5条)。このエージェント契約書が対象とするモデル・タレント活動は、各申立人との関係では、役務契約が対象とするレッスンを前提と
するものであって、両契約は密接不可分のものであり、事実上一体のものとして締結されていると考えられる。
以上の点を考慮すれば、A社は、レッスンという有償で行う役務の提供の事 業において、そのレッスンを行いモデル・タレント活動という業務に従事する ことによって収入(利益)を収受しうることをもって、各申立人を誘引し、各 申立人とレッスン料という役務の対価(特定負担)を伴う上記の役務の提供を 行っているものといえる。それゆえ、A社が行っている事業は、業務提供誘引 販売業に該当する余地があるものと考えられる(特定商取引法第 51 条第1項)。
(ウ) クーリング・オフと法定文書の不交付
クーリング・オフは、訪問販売については特定商取引法第5条(もしくは同条が参照する第4条)に定める書面を受領した日から8日間(同法第9条第1項ただし書)、または業務提供誘引販売取引については同法第 55 条第2項に定める書面(以下、上記の訪問販売に係る書面を含め「法定書面」という。)を受領した日から 20 日間、それぞれ可能である(同法第 58 条第1項)。上述したように、本件の役務契約の締結は訪問販売または業務提供誘引販売取引に該当し、かつ、甲は契約締結の翌日、また乙は契約締結の3日後に、消費生活センターに相談のうえクーリング・オフの通知を発出していることから、クーリング・オフは成立している。
ところで、各申立人が役務契約締結時にA社から受領した役務契約書には、 クーリング・オフに関する記載やレッスンをする旨の役務の内容・対価・提供 時期に関する記載がないため特定商取引法第5条(もしくは第4条)の要件を 満たしておらず、また、クーリング・オフに関する記載やレッスンをする旨の 役務の内容・特定負担する記載がないため同法第 55 条第1項の要件を満たして いないことから、上記の法定書面は交付されているとはいえない。したがって、仮にA社から役務契約書を受領して8日または 20 日以上を経過していたとして も、法定書面を交付されていない以上、クーリング・オフ期間は開始しておら ず、それを経過しているといえないため、やはりクーリング・オフが可能とな る。
なお、A社から役務契約締結に際して交付されたレッスン料金表と題するチラシは、その関連性について記載がなくまったく別の書類の体裁を採っていることをふまえれば役務契約書と一体のものと評価することはできないし、仮に一体のものであるとしても上記の法定書面の要件を到底満たすものではない。
(エ) 適用除外の可能性
A社は、各申立人が、インターネットビジネスにかかる個人事業主である旨の確認書の同意事項に自らチェックをし、また、署名・押印(ただし、甲は指印)していることから、個人事業主に当たると主張する。これは、各申立人による役務契約の締結が特定商取引法第 26 条第1項第1号に定める「営業のためにもしくは営業として」の契約締結であり、特定商取引法に定める訪問販売の規定の適用除外事由に該当するという主張であると考えられる。
しかしながら、役務契約がA社主張の通りレッスン契約のことを指すのであ
れば、上記確認書の同意事項は、そもそも役務契約に関するものであるということはできない。
また、上記の適用除外規定は、特定商取引法が消費者保護を目的とする法律 であることを考慮し、事業者が営業活動に関連して行う取引を適用対象としな い趣旨で立法されたものである。そのため、上記の適用除外事由にいう「営業」に該当するか否かは、事業の実態の有無や当事者間の知識・情報収集力・交渉 力の格差等をふまえた当事者の属性等を考慮して総合的に判断されることにな る。
本件について見ると、各申立人には、インターネットビジネスで生計を立てている実態があるわけではなく、かつ、A社との関係では知識や情報収集力、交渉力に大きな格差があることをふまえると、同人らは消費者であると評価できる。なお、後述するように、各申立人はA社との間でタレント活動に関する包括的エージェント契約を締結しているが、実際にタレントとして活動した実績もなく、さらに、上記のように「営業」該当性は諸事情を考慮して総合的に判断されるものであることをふまえれば、同契約の締結という一事をもって
「営業」に該当すると評価することはできない。
したがって、各申立人による役務契約の締結は、特定商取引法第 26 条第1項第1号の適用除外事由には該当せず、同法の訪問販売に関する規定が適用されることになる。
(オ) クーリング・オフの効果
各申立人は、役務契約の締結の直後に、A社が「頭金」と称する金銭(甲は 38 万 3,000 円、乙は 10 万円)を支払っている。そもそも「頭金」と称する金銭がどのような性格を有するものであるのか判然としないものの(この点については、イ(ウ)で再度検討する。)、上述したようにクーリング・オフが成立している以上、いずれにせよ、各相手方は受領した上記金銭を速やかに全額返金する義務を負う(特定商取引法第9条第6項)。もちろん、各申立人はその未払債務を支払う必要もない。また、各相手方は損害賠償や違約金の支払を請求することもできない(同法第9条第3項。第 58 条第1項後段も参照。)。
また、仮に各申立人が、その締結した役務契約に基づき役務の提供を受けたとしても、各相手方は役務の対価その他の金銭の支払を請求することはできない(特定商取引法第9条第5項)。なお本件では、そもそも役務の提供が行われているわけではない。まず、甲は役務契約締結後にレッスンの見学をしているが、これは単なる見学であり、役務提供とはいえない。また、乙はレッスンの予約をしているが、これは単なる日時の予約であり、具体的な役務提供とはいえない。さらに、乙は、A社からブログのフォロワーを増やす文章の書き方や写真の加工方法を教えると申し向けられ、その連絡の中にあったURLを通じて動画を閲覧するように申し向けられている。しかしながら、部会が確認したところ、これらの動画はA社が作成したものではない。また、そもそも動画の閲覧自体は具体的な役務を提供する前に行われた役務の内容の説明の一環であり、役務提供そのものであるとはいえない。これらの点は、本件の解決には直接関係しないところではあるが、念のために付言しておきたい(なお、イ(エ)
も参照)。
イ 消費者契約法第9条第1号による無効
(ア) 役務契約の消費者契約該当性
ア(エ)で述べたように、各申立人は消費者であり、本件における役務契約は、各申立人と事業者であるA社との間で締結された消費者契約であることから、消費者契約法上の諸規定が適用されることになる。
(イ) 「会費の不返還」及び「入会金」に関する規定と消費者契約法第9条第1号の適用可能性
役務契約書には、第5条として「会費の不返還」の規定があり、「一旦入金 した入学金、受講料、事務手数料、教材費、宣材撮影プロフィール作成費は、 入会不許可の場合を除き、理由の如何を問わず返還しない。」旨の規定がある。また、第7条として「入会金」の規定があり、そこに付された注にはA社が設 置したスタジオを意味するSTUDIOの「代金は理由の如何を問わず返金し ない。」旨の規定がある。
これらは、消費者契約である役務契約が解除された場合でも代金を一切返金しない旨の不返還条項(不返還特約)であって、消費者契約の解除に伴う損害賠償額を予定し、違約金を定めた条項であるといえることから、消費者契約法第9条第1号の適用が考えられる。
(ウ) 「頭金」の性質
ところで、ア(オ)で述べたように、各申立人はA社に「頭金」として金銭を支払っている。これについて、各相手方は、意見交換の場において役務契約がレッスン契約であることを前提に、「返還しないのは学校と同じ感覚である」 と主張した。たしかに、上述したようにレッスン料金表には、4つあるすべて のクラスに「入学金」という記載がある。そのため各相手方は、いわゆる学納 金返還訴訟をめぐる最高裁判所の判決(最高裁判所平成 18 年 11 月 27 日判決・ 最高裁判所民事判例集 60 巻 9 号 3437 頁)において、大学の入学試験に合格し た者が納付する「入学金」とは、大学と合格者との間で締結された「在学契約」に基づき「学生が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性 質を有するもの」であると判示されたことを前提として、合格者が入学金の納 付によりその地位を得た以上、返金する必要はなく、そもそも消費者契約法第
9条第1号の適用はないと主張しているものと考えられる。
しかしながら、このような主張には、いくつかの疑問を呈さざるを得ない。まず、役務契約がレッスン契約を意味すること自体、役務契約書自体からは
読み取れないことから、上記の「会費」や「入会金」が何を意味するか自体が役務契約書上は判然としない。ただし、その第5条には「会費」の内容として
「入学金、受講料、事務手数料、教材費、宣材撮影プロフィール作成費」が挙げられており、これは「レッスン料金表」のうち、各申立人が受講することになっていたクラスの諸費用として掲げられている「入学金」、「受講料」、
「事務手数料」、「撮影費」という記載と概ね一致する。また、第7条の「入
会金」の規定で空欄とされていた金額欄に手書きで記載されている金額は、役務契約書とは別に交付されたレッスン料金表に記載されたレッスン料の総額
(甲については、4つあるクラスのうち上から2番目である「マスタークラス」の合計額である約 80 万円、乙については、最後の4番目である「エージェント クラス」の合計額である約 60 万円17)と一致している。また、(イ)で述べたように、第7条の注には「代金」との記載があるが、これは「入会金」を意味する ものと考えられる。そうすると、文言は異なるものの、役務契約書にいう「会 費」・「入会金」・「代金」は、同じ内容を意味するものと考えられる。
しかしながら、各申立人が支払った「頭金」は、上記とは異なる金額であって、これらとは異なる内容のものであると言わざるを得ない。
もっとも、A社の主張するように役務契約がレッスン契約を意味するとして も、これは、「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学 芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させること等を目的」と して設置された学校法人が、その「目的にかなった教育役務を提供するともに、これに必要な教育施設等を利用させる義務を負い、他方、学生が大学に対して、これらに対する対価を支払うことを中核的要素」としている「在学契約」と同 視することはできない(引用部分は、上記最高裁判決による。)。
また、上述したように役務契約書では「入会金」という記載があり、レッス ン料金表には「入学金」という記載があることから、外形的にはこの「入会金」が「入学金」としての形式を備えているように見える。しかしながら、これも 上述したように、「入会金」は、「会費」または「代金」と同様にレッスン料 の総額を意味するものであるうえ、そもそも本件における役務契約を最高裁判 決にいう「在学契約」と同視することはできないことを考慮すれば、上記の最 高裁判所の判決のいう「学生が当該大学に入学し得る地位を取得するための対 価としての性質を有するもの」である「入学金」と同視することは到底できる ものではない。
さらに、「入学金」であれば、誰が支払うかにかかわらずあらかじめ決められた一定額を支払うのが通例である。しかしながら、甲が支払った金額は契約締結当日にカードのキャッシングで調達できた上限額の現金 15 万 3,000 円と別のカードで決済できた上限額の 23 万円(この 23 万円については、後日カード会社から申立人に対してチャージバックがなされている。18)の計 38 万 3,000円であり、乙が支払った金額は同人が申し出た上限額で、コンビニエンスストアのATMにおいて自らの預金から引き出した現金 10 万円であって、それぞれ異なっている。いずれも、各申立人が当日支払える金額のみを支払わせたものにすぎない。
以上の点を考慮すれば、A社が各申立人から支払を受けた「頭金」は「入学金」の実態をもつものではなく、各相手方による「返還しないのは学校と同じ感覚である」という主張は、上記の最高裁判決を意識しながら単なる言い逃れを試みているものと評価するほかない。
17 本報告書8ページ「クラス別レッスン料金表(抜粋)」参照
18 本報告書3ページ注釈6参照
したがって、役務契約書の第5条に定める「会費の不返還」及び第7条に定める代金全額を返金しない旨の「入会金」の規定には、消費者契約法第9条第
1号が適用されることになる。
(エ) 平均的な損害を超える部分の有無
以上で検討してきたように、各申立人は、消費者契約法第9条第1号の適用 を前提に、役務契約書の第5条及び第7条の不返還条項(不返還特約)のうち、当該消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える 部分については無効であると主張することができる。
そこで問題となるのが、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」がどの程度であるか、という点である。
本件について見ると、ア(ア)で述べたように、A社は各申立人に対してオー ディションを実施しているが、これは役務の提供ではなく、契約締結の前提と して行われる審査であり、役務の提供そのものとはいえず、これに費用を要し たとしてもそもそも損害が発生しているとはいえない。また、本件では、オー ディションが実施されたのは具体的なレッスンが開始される前であり、その他、特段の費用を要することもなされていない。これらのことは、A社が実施する オーディション一般にいえることである。
したがって、そもそも具体的なレッスンが開始される前の本件のような場面では、A社に生ずべき平均的な損害は存在せず、これを超える部分、すなわち代金全額の返還を拒絶する条項自体が消費者契約法第9条第1号により無効となるといえる。それゆえ、各相手方は、各申立人から受け取った金銭の全額を返還しなければならない。
ウ 「会費の不返還」及び「入会金」に関する規定と消費者契約法第 10 条の適用可能性
イの検討を前提とすると、上記の役務契約書の第5条及び第7条の規定が消費者の利益を一方的に害するものに該当するとして、消費者契約法第 10 条を適用することも考えられる。
消費者契約法第 10 条の適用に際しては、上記の規定が「法令中の公の秩序に 関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務 を加重する消費者契約の条項」といえるか否か(第 10 条第一要件該当性)と、 それが「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に 害するもの」に当たるか否か(第 10 条第二要件該当性)を検討する必要がある。
まず、第 10 条第一要件該当性について検討することにしよう。本件における 役務契約は、A社が主張するように役務契約がレッスン契約であるとすれば、こ れは私法上の無名契約であるといえる。もっとも、契約の内容は、レッスンを提 供し、それに対して特約に基づき報酬を得るというものであるから、その実質は、有償の準委任契約(法律行為ではない事務の委託)であると考えられる。そして 役務契約書の第5条及び第7条は、イ(イ)で述べたように契約の解除があった場 合における不返還条項(不返還特約)であり、実質的には解除をすることを困難 とする性質をもつものであることから、準委任契約について民法第 656 条で準用
される第 651 条第1項の任意解除権の行使を制限するものであると考えられる。そうであるとすれば、役務契約書の第5条と第7条の規定は、民法の任意規定
(公の秩序に関しない規定)である第 651 条第1項による場合に比して、消費者である各申立人の解除権の行使を制限するものであり、第 10 条第一要件に該当すると評価できる。
次に、第 10 条第二要件該当性について検討する。具体的には、「民法第1条第2項に規定する基本原則」すなわち「xxx(xxxxの原則)」に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かを検討する必要がある。
本件の役務契約書の第5条及び第7条は、上述したように、役務の提供の有無 にかかわらず、契約を解除する場合には理由を問わずに一切の返金を認めないと いうものであり、消費者による契約解除を事実上困難にする性質のものであって、不当性がきわめて高い。
また、事業者は、「消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利x xその他の消費者契約の内容が、その解釈によって疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものとなるよう配慮する」努力義務(いわゆる「明 確平易配慮義務」)を負う(消費者契約法第3条第1項第1号)。さらに、事業 者は、「消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深め るために、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者 契約の内容についての必要な情報を提供する」努力義務(いわゆる「情報提供x x」)を負う(同項第2号)。役務契約書の第5条と第7条の規定は、いったん 入金した金銭を一切返金しない旨の消費者にとって一方的に不利益を生じる不返 還条項(不返還特約)である以上、役務契約の締結に際しては、これらの規定の 内容が十分に理解できるように書面で明確に、かつ、平易な形で記述したうえで、十分な情報提供・説明を行う必要がある。ところが、本件の役務契約書では、イ (ウ)で述べたように、そもそも役務契約の具体的な内容や「会費」・「入会 金」・「代金」の性質が契約書上は明確ではなく、その内容について十分な情報 提供・説明をしたことを裏付ける資料も確認できない。そうすると、事業者であ るA社は、消費者契約法第3条の明確平易配慮義務と情報提供義務に違反してい ると考えられる。これらの点を併せて考慮すると、上記の各規定は、xxxに反 し、消費者である各申立人の利益を一方的に害するものであると評価できる。
以上から、役務契約書の第5条と第7条の規定は、消費者契約法第 10 条に該当して無効であり、各申立人はA社に支払った金銭の全額の返還を請求することができる。
エ 消費者契約法第4条第3項第2号による取消し
乙は、A社担当者による勧誘が長時間に及んだので疲れてしまい、「子供のお迎えがあるので帰りたい。」と伝えたが、「頭金としてちょっとは入れてもらいたい。いくら払えるのか。」と勧誘が続き、帰りたくても帰れない雰囲気だったので、早く切り上げたい、解放されたいという思いから 10 万円払うと伝えたと主張している。
このようなA社担当者の行為は、消費者が、事業者が契約締結の勧誘をしてい
る場所から退去する旨の意思表示をしたにもかかわらず、退去させないものであるといえるため、事業者による退去妨害を理由とする契約取消しを認める消費者契約法第4条第3項第2号に該当するといえる。したがって、乙は、A社との間で締結した役務契約を取り消すことができる。
オ 契約の不成立
イ(ウ)で述べたように、本件では、契約書を見ただけでは「役務契約」が「レッ スン契約」であると読み取ることはできない。また、これもイ(ウ)で述べたように、そもそも「会費」・「入会金」・「代金」がどのようなものであるか、契約書を 見ただけでは判然とせず、実際に、それが具体的にどの役務に対する対価なのか も必ずしも判然としない。
そうであるとすると、提供される役務の内容や対価関係など、各申立人とA社との間で契約の重要部分についての合意があったと評価することはできず、そもそも「役務契約」と称する契約が成立したと法的に評価することはできないとも考えられる。
カ 錯誤による無効
オで述べた状況を前提とすると、契約の不成立とまで評価できない場合であっても、各申立人は、役務の内容が有償であるレッスンであるという契約締結に際して最も重要な事情を認識しないまま、すなわち、レッスン契約を締結する意思がないのにそれを意味する役務契約を締結していることから、当該役務契約は、改正前民法第 95 条に基づき、錯誤によるものであるとして無効となるといえる
(本件は、平成 29 年に改正された民法が施行された令和3年4月1日よりも前に契約が締結された事案であるため改正前民法が適用されるが、改正後の民法が適用されるとすれば、現第 95 条第1項第1号が適用され、契約の取消しをすることになる)。
キ 適合性原則違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償
本件で各申立人は、A社から示されたレッスン料金表に記載された金額の金銭を支払うために必要な十分な財産を持ち合わせていないにもかかわらず、役務契約を締結している。また、その契約を締結する際に必要な十分な知識や経験も持ち合わせていない。
この点を考慮すれば、A社が各申立人を勧誘すること自体が、「顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘」(いわゆる「適合性の原則」に反する勧誘)に当たり、適切ではないものであったといえる(特定商取引法第7条第1項第5号・省令第7条第3号)。
特定商取引法の規定は、あくまで訪問販売における禁止行為に関するものであり、それに違反したからといって直ちに民事的な効力を生ずるものではないが、 A社の具体的な勧誘状況を総合的に考慮したうえで不法行為法上も違法となるものとして、各申立人がA社に支払った金額に相当する損害賠償請求をすることが可能となると考えられる(証券取引に関するものではあるが、適合性原則違反の勧誘により明らかに過大な危険を伴う取引を行わせることが不法行為法上も違法
になるという一般論を展開したものとして、最判平成 17 年 7 月 14 日民集 59 巻 6号 1323 頁参照)。
(3) 包括的エージェント契約について
本件では、各申立人は、(2)で述べた役務契約とともに、「包括的エージェント契約」を締結している。この契約は、各申立人のモデル・タレント活動について、A社がマネジメント業務を行うという役務の提供を目的としたものであって、これも役務契約と同様に準委任契約(民法第 656 条)であると考えられる。本契約では、契約締結時に直接の対価の支払は予定されていないが、エージェント契約書第5条第2項に基づき、各申立人が契約後に得た収入からA社が分配を受けること、すなわち一種の報酬を得ることが予定されているため、有償契約と評価できる。
そうであるとすれば、(2)ウで述べたように、準委任契約である以上は任意解除権
の行使が可能となるため(民法第 656 条による民法第 651 条第1項の準用)、各申立人は、包括的エージェント契約をいつでも解除ができることになる。本件では、各申立人は、役務契約とともに包括的エージェント契約のクーリング・オフを求めているが、これは包括的エージェント契約については任意解除権の行使の意思表示をしたものと評価できる(後述するように、役務契約とは異なり包括的エージェント契約では、クーリング・オフの行使は困難であると考えられる。)。
ただし、各相手方は、この解除が相手に不利な時期に行われ、または、委任者が受任者の利益(もっぱら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任に関するものであった場合には、やむを得ない場合を除き、損害賠償を求めることができる(民法第 651 条第2項。なお、同項は平成 29 年に改正されており、かつ、本件は、平成 29 年改正民法施行前の事案であるが、改正後の同項は、改正前の同項に関する判例法理を明文化したものであり、この点に関する取扱いは改正前後で変更はないため、説明の便宜上、ここでは改正後の民法に沿って解説する。)。もっとも、包括的エージェント契約については、解除は契約締結の直後に行われたものであって特にA社の不利な時期に行われたものであるとはいえず、収入の分配すなわち報酬を得ること以外に受任者の利益となるものは想定されていない。また、それ以前に、(2)イで検討した消費者契約法第9条第1号にいう平均的損害の有無について検討した際に述べたところとも共通するが、本件では具体的なマネジメント業務が行われたり、あるいは、行われることが予定されていたりしたわけでもないことから、A社にはそもそも損害が発生していない。
したがって、各申立人は、A社に対して損害賠償をすることなく、包括的エージェント契約を解除することができると考えられる。
なお、本契約は、モデル・タレント活動という事業のマネジメントを目的とするという契約内容からすると、事業者と消費者との間で提供された消費者契約であることを前提として、消費者契約法や特定商取引法を適用することは容易ではないと考えられる。そのため、この種の契約の締結に際しては、十分な検討をしたうえで慎重に対応することが求められる。
(4) 相手方について
本件の相手方は、A社とB社の二社である。各申立人が、役務契約及び包括的
エージェント契約を締結したのは、A社である。ところが、部会がA社のウエブサイトを確認したところ、会社名の表記が「B社 A社エンターテイメント」と変更されていた。そこで、A社への事情聴取等の場において、A社の代表者(代表取締役の委任を受けた元取締役)に対してこの点を確認したところ、A社は、令和2年
7月に、B社にエンターテイメント事業を譲渡し、A社に属していた当該事業に関する債権債務も現在はB社に属している旨の回答があった。なお、A社の代表者は B社の代表取締役を務めており、上記の回答は、A社のみならずB社としてもなされたものである。
もっとも、各申立人にA社から上記事業譲渡等をした旨の通知または連絡は一切なされておらず、また、A社及びB社の代表者の回答を裏付ける資料も提出されていないことから、契約上の地位の移転(民法第 539 条の2)、債権譲渡(同第 466条以下)または債務引受(同第 470 条以下)等の法的手続を行っていないものと考えられる。そのため、上記回答の内容が法的な面においても正しいか否かを確認できないことから、A社またはB社の一方のみを相手方としてあっせん案を提示した場合には、手続上の齟齬が生じる可能性が高い。
以上の点を考慮した結果、本部会は、A社及びB社の双方を相手方として、双方
ともに各申立人に対して受領済みの金員を返還する義務を負う旨のあっせん案を提示することにした。
(5) あっせん案の考え方
(2)アで述べたように、各申立人がA社との間で締結した役務契約は、特定商取引 法第2条第1項第2号及び政令第1条第1号の訪問販売に該当するところ、A社は、同契約の締結までに同法第5条(または第4条)所定の書面(クーリング・オフに 関する事項等を含むもの。)を交付しなかった。したがって、各申立人は、同法第
9条第1項に定めるクーリング・オフをして役務契約を解除したことを理由として、既払いの金員(甲については 15 万 3,000 円、乙については 10 万円)の返還を求め ることができ、各相手方は、各申立人に対して上記金員を返還する義務を負う。
また、(3)で述べたように、各申立人は、A社との間で締結した包括的エージェント契約については、民法第 651 条第1項に基づき解除することができる。その際、各申立人は、各相手方に対して同条第2項の損害賠償をすることを要しない。
なお、各相手方は、部会における事情聴取の場において、オーディンションを実施する際には参加者の様子を撮影していると述べており、実際に各申立人もA社からオーディンションの様子を撮影すると告げられている。そこで、個人情報保護の観点から、各相手方が各申立人の写真や映像、収録音源・録画データ等の個人情報を保有している場合には、合意書締結後 10 日以内にそれらを消去するよう求めることにした。
2 同種・類似被害の再発防止に向けて
(1) 事業者に対して
本件は、オーディションに合格すれば、モデル・タレントとしてデビューできるかのような広告をA社が出して、オーディションに合格した場合には、レッスン等を有料で受講するように促し、レッスンの契約締結を要請して役務提供契約としての
レッスン契約(本件では契約書上は「役務契約書」と題されており、契約書上役務内容の特定がされていないが、勧誘の経緯及び双方当事者の認識から「レッスン契約」という。19)を締結し、同時にオーディション合格者とレッスン契約の前提となる包括的エージェント契約を締結した事案である。
応募するのは若年者が多いものと思われるが、オーディションには社会経験の乏し い若年者がモデル・タレントとなる夢を実現しようと申し込むものと思われる。そ のため、オーディション合格後のレッスン契約及び包括的エージェント契約につい て十分な契約の知識がないまま契約をしてしまうなどの問題がある。社会経験が少 なく未熟で感化されやすい若年者が、オーディション通過によって冷静な判断がで きない状況におかれて安易な期待をもってしまい、勧誘する事業者に促されるまま に役務提供契約としてのレッスン契約や包括的エージェント契約をしてしまうこと は容易に考えられる。事業者としては、そのようなオーディション合格者に対して、有償の契約の必要性や許容性について十分に検討して締結について熟考する機会、 時間を与えてから契約するなど、受講者の十分な理解と納得を得るように努める契 約締結への慎重な対応が求められる。
ア 合理的判断ができる状況・適切な情報提供がなされているのか(説明義務)
そもそもオーディションを受ける前にオーディション合格後に有償のレッスン契 約などの締結を求められるものであるのか、必要とするものであるのか、レッスン 契約等の費用が提供される役務に対して適正な対価とみられるものかの判断が可能 であるのかという諸点について、オーディション応募者に対して、適切な情報提供 がされているかが問われる。オーディションは参加者の可能性をみるだけであって、実際にモデル・タレントとして活躍するためにはそれなりの技能を身につけること は必要であるから、オーディションに合格したことを告げた後に、レッスン契約等 の有償契約を勧誘すること自体は問題とまではいえない。しかしながら、レッスン 契約をすることで、モデル・タレントとしてのどのような技能を習得するものか、 またその習得のためのカリキュラムなどは明確に示されておらず、レッスン契約の 対価性や有効性についての説明が十分になされているものとはいえないことが多い。
この点に関しては、消費者契約法第3条第1項第2号において、消費者契約を締結するにあたってその内容についての必要な情報を提供するよう努力する義務が事業者にあることに鑑みると、事業者がレッスン契約を勧誘するにあたって、モデル・タレントとして独立して収入をえられるだけの職業として確立できる可能性やレッスン契約にかかる費用を回収できるものなのかについて合理的判断ができる情報を十分に提供されているかも問われるべきものであるから、レッスン契約についてその費用や期間だけでなくその内容についても十分な説明が求められるものといえる。そして、その説明をしてはじめて役務提供契約としての内容が確定するものといえる(本件では、役務契約書に役務の内容の記載が見られない。)。事業者にとってもそのような契約内容を明確に合格者に提示してその諾否を検討させることで契約トラブルを減少させることができる。
若年者が魅力ある将来を提示されたとき、すなわちオーディションに参加する機
19 本報告書 12 ページ 第5 1 (1)参照
会の設定自体からすでに自分が特に選考を通過した上のものであることを告げられ、さらに合格の告知を受けてまもなくこれらの契約が必要だと言われれば、冷静に契 約の必要性や適正さを判断する状況にあることを期待できるものではないのが通常である。そのため、その場での契約締結を促すようなことをすれば、安易な契約締 結につながるものということができる。
本件では、合格の告知をした後に呼び出してはじめてレッスン契約とエージェント契約の内容を提示され、そこでレッスン契約の費用等を示されて勧誘され、契約書を提示されて契約の締結を求められており、署名を求められた契約書や確認書の関係についても十分な説明がなく、あるいはマネジメントを受けるためには有償のレッスン契約も同時に必要であると告げられた状況であった。そして、各申立人が締結を求められた契約内容も若年者がその場で説明なしに読解できるような明確なものとはいいがたいものであった。消費者契約法第3条第1項では、第2号で事業者に対して情報提供の努力義務を定めているほか、第1号で契約条項の明確化も努力義務として定めているところ、契約の内容自体も明確性を欠いている不適切なものといいうるものであったといわざるをえない。
クーリング・オフは、熟慮せずに不意打ち的な契約をしてしまった消費者に特別に保護を認めるものである。本件ではいずれも契約の翌日または3日後にクーリング・オフの通知が発せられている。このように短期間にクーリング・オフ通知を発せられた本件は、A社に上記のような契約についての十分な説明がなされなかったことを推認させるものといえる。
イ 目的を告げずに事業者の営業所等に呼び寄せ、契約させる場合
オーディションを受ける目的で事業者の営業所等を訪問してきた者に対して、オーディション終了後に、合格を告げてレッスン契約等を結ばせる事業者が多くみられる。
合否の基準も明確ではなく、単に合格したと告げられて高揚した若年者を呼び出してからレッスン契約の必要性と費用等を告げて契約させる行為は、合格した者がレッスン契約を目的として来訪したものとはいえないため、アポイントメントセールスに該当する可能性がきわめて高い。本件は、アポイントメントセールスに該当するものと認められ、訪問販売に該当する場合に交付されるべき法定書面の交付があったとはみられないものであるから、クーリング・オフが認められるのは当然といえる。このような契約締結過程をみれば、合格を告げられた者は契約締結の確定的意思をもって来訪したとはいえず不意打ち性があるものといえ、クーリング・オフの機会が与えられるものというべきである(特定商取引法第2条第1項第2号、政令第1条第1号)。
ウ あらかじめ「契約をすることがある」と告げられている場合
あらかじめオーディションの結果、契約をすることがあると告げられている場合であっても、合格を告げられた後に短時間で契約締結の意思を決しなければならないような状況におかれ、この契約をすれば将来が約束されるかのような過大な期待をもって契約をしてしまうことが考えられる。若年者としては高額なレッスン契約をし、それにみあった役務提供を受けられるのかの説明が十分になされているとは
いいがたいことが多く、本件もまた提供される役務やその対価性やレッスン受講に よる将来への可能性との関連性について十分な説明があったものとは認めがたいも のであった。すなわち契約をすることがあることの事前の告知を伴った呼び出しが、レッスン契約等の不意打ち性を打ち消し、各申立人が提示された契約内容を理解し て締結する意思をもってA社の事務所を訪問したものとはいいがたいものといえる。
そして、実際に各申立人が事前に有償のレッスン契約を締結する用意をしていたようには思われない。レッスン契約の代金の支払いについてもA社は、各申立人が事務所を訪問する前に具体的な費用の説明をしておらず、契約の場でクレジットカードの利用や銀行口座から現金を引き出して交付させることなどを促しており、各申立人が高額な費用が発生するレッスン契約の締結を求められることを十分に想定していなかったことは容易に推認できる。
事前に「契約することがある」と告げられたオーディション合格者が期待していたものが、モデル・タレントの活動自体に必要な包括的エージェント契約を超えて有償かつ高額のレッスン契約も含むものであったとは言い難いとも考えられ、想定していた契約との食い違いがあることからすると、この点からも不意打ち性があることは否定できずアポイントメントセールスに該当するものといいうることは肯定できる。
エ 同意事項確認書の作成
A社から確認書として、各申立人は複数の質問項目に対して回答を求められているが、その中ではまだ消費者としかいえないオーディション合格者に対して、事業者であることを宣言させるなど、若年者がその質問について法的にどのような意味を持つのかもわからないまま回答させている可能性がある。
各相手方からの事情聴取等では、十分に契約について事前にも説明しているとの主張であったが、各申立人からの事情聴取では必ずしも内容について十分な理解をしているとはうかがわれず、確認書が特定商取引法や消費者契約法の適用を免れるための証憑づくりに利用されている可能性が高い。簡単なチェック形式の確認書などは形式的なものとしてチェックや署名押印を求められることが多く、契約当事者が担当者に促されるままに同意書の記載内容の意図するところもわからずにチェック及び署名押印することがままみられるところである。同意書についても、その意味するところを事業者が十分に説明して署名者が理解していることを確認した上で取得しなければ真に同書面の記載内容について同意を得たものとはいいがたいといえる。
オ オーディションの合格基準と契約における債務内容
オーディションの内容と合格基準については、明確なものがあるとの説明はなく、また実際の各申立人から確認したオーディションの内容からして、厳密に事前に設 定した合否基準に照らして決せられているものとはいいがたいように思われる。有 償のレッスン契約の勧誘が目的のオーディションであるという場合も考えられる。
また、レッスン契約の内容についても包括的エージェント契約によって従事する可能性があるタレント等の活動に対し、負担する代金にみあったものになるのかどうかについて十分な説明があったようには解されず、契約書上も各申立人に対する
説明でも具体的な役務提供内容が特定されないものであるから、契約内容が不明確であって明確に契約当事者の意思の合致があったといえるのかに疑問が残る。
事業者としては契約締結前に、レッスンをしたからといってそれが必ず成功や仕事に直結するものとまではいえないこと(リスク説明)や、モデル・タレントとなるためのレッスン契約を締結するとすれば、それらの実務的能力の取得を目的とするものであって、それら能力獲得に必要なカリキュラム、レッスン内容であることを具体的に説明してこれらの能力獲得に必要であるとする理由を明確に示す必要がある。他方、その説明も断定的判断の提供とならないように、過度に効果を強調することはしてはならないことももちろんである。
その上で、レッスン契約によってカリキュラムや提供されるレッスン内容等の役務の内容を可能な限り明確に提示することが必要である。
カ レッスン契約の中途解約
レッスン契約は継続的役務提供契約とみることができ、また包括的エージェント契約も継続的役務提供契約とみることができ、準委任契約と評価することができる。
これら契約は準委任契約として任意解除が認められるのが原則である(民法第 651 条第1項・第 656 条)が、レッスン契約は中途解約を実質的に認めない一切返金をしないとする条項については、消費者契約法第9条に違反し平均的損害を超える損害賠償の予定とみることができるので無効とされる可能性がある。また、消費者契約法第 10 条に該当する不当条項とされる可能性もある。
継続的に役務提供を行う契約では、受講者が契約離脱を必要と認めたときに終了できるよう中途解約に関する適切な規律を設け、支払った対価の清算を合理的にすることが必要である。受講料等を一切返金しないとすることは、受講途中で、役務の内容が受講者にとってその目的に適さないなどと考えるときに、契約関係を終了させることを妨げるものであり、この点からも問題があるものといえる。
(2) 消費者に対して
ア オーディション募集の広告により、モデル・タレント・俳優などの志望者を集めて、オーディションの結果、合格などと告げて有料のレッスン契約を締結させ
る商法は、xxにみられる。将来の夢を実現する道を探すことは若年者に多くみられるが、そのような夢を抱く若年者の経験不足や知識不足に乗じて高額の契約を締結させる事業者も多数存在することには常に注意する必要があることを肝に銘じておいてもらいたい。
イ オーディション参加自体が一次的な選考を通過した者のみに与えられた機会で
あるかのように告げられ、さらにオーディションの結果、合格と告げられたり、才能が認められるなどと言われると、夢の実現に近づいたかのように思い、冷静に合理的な判断ができにくくなる傾向がある。
そのような状況の中で、熱心に契約を勧誘されるときには、特に若年者は断りにくい、断る方法が思いつかないという状況に陥り、相手のペースに引きずられるように契約締結にいたってしまうケースは多い。
高額の契約をその場で決断するように促されたりしても、即座に決断することなく、いったん契約書をもちかえって親や知人など周囲の人と相談して、契約をすべ
きかどうかを慎重に判断するようにしたい。
事業者が高額の契約を提示してクレジット利用や金融業者からの借入れや分割払いなどの提案をしてくる場合には、合格者のために契約が本当に必要と考えて顧客本位に思っているのかに疑問をもってもらいたい。
事業者からの説明についても、通り一遍の説明でわかったような気にならずに、疑問点が少しでも生じれば、納得がいくまで細かく質問をしていくことも重要である。レッスン契約は役務提供の内容が重要であり、レッスンの獲得目標やそれに必要なレッスンが誰からどのように受けられるのか、カリキュラム・レッスン内容は何かなどについて契約の内容として明確にされていなければ、受講したけれども何の技能習得にもつながらなかったということにもなりかねず、契約の内容の吟味は十分にすべきである。
署名を求められる書面や契約書の内容についても、意味がわからないままに署名
押印することなく、慎重に検討することが必要である。法的な意味をもつ書面について若年者はその意味内容を十分に熟知できるだけの知識がないことも多いため、消費生活センターや弁護士会の無料相談などを利用してその理解に努めてほしい。
(3) 行政に対して
モデル・タレント養成を標榜する事業者は多数存在するが、現状では行政が実態を十分に把握しているものとはいいがたく、違法な業務があったとしても、これを是正させることは容易ではない。
被害は若年者に集中している実態があり、xxx消費者被害救済委員会にもオーディションを契機とした有料のレッスン契約等についてのトラブルもこれまでも付託されているものであり、契約内容の適正さについても適格消費者団体による契約書の条項の差止請求訴訟が提起されている実情がある。
令和4年4月にxx年齢が引き下げられると、未xx者取消権により救済される範囲が狭まり、現在よりも被害の若年化と被害件数の増加が生じることは容易に想像できる。
救済方法については、特定商取引法への特定継続的役務提供の指定役務にモデル・タレント・俳優養成契約を加えた上、当該契約以外に事業者性を基礎づける事情がない場合に契約する事業者が顧客を事業者としてみなして特定商取引法や消費者契約法の適用を免れる方策を禁止し、債権債務の内容を適正かつ明確に記載した書面交付義務、クーリング・オフ制度、中途解約と契約金の清算に関する規定の適用を可能にする、社会生活上の経験の不足につけ込んだ契約勧誘について消費者契約法により要件を緩和した取消権を付与することも検討されることが望まれる。若年者被害の多発に備えた効果的な防止施策が必要だと考えられる。
「SNS広告で知ったオーディションの合格を契機に締結したレッスン契約に係る紛争」処理経過
日 付 | 部会開催等 | x x |
令和2年 10月8日 | 【付託】 | ・紛争の処理を知事から委員会会長に付託 ・あっせん・調停第二部会の設置 |
10月19日 | 第1回部会 | ・紛争内容の確認 |
11月9日 | 第2回部会 | ・各申立人からの事情聴取 |
11月30日 | 第3回部会 | ・相手方に対する質問事項の確認 |
12月3日 | 第4回部会 | ・相手方からの事情聴取 |
12月22日 | 第5回部会 | ・法的問題点の整理 ・あっせん案の考え方の整理 |
令和3年 3月9日 | 第6回部会 | ・各相手方にあっせん案の考え方等を示し、意見交換 |
3月30日 | 第7回部会 | ・あっせん案の確定 ・報告書の検討 |
4月5日 | (あっせん案) | ・あっせん案を紛争当事者双方に提示 (各申立人は受諾、各相手方は拒否) |
4月22日 | 第8回部会 | ・今後の対応の検討 ・報告書の検討 |
4月30日 | (調停案) | ・調停案提示 (各相手方は拒否) |
5月25日 | (通知) | ・当事者双方に処理手続きの打切りを通知 |
7月7日 | 【報告】 | ・知事への報告 |
xxx消費者被害救済委員会委員名簿 | ||||||
令和3年7月7日現在 | ||||||
氏 名 | 備 | 考 | ||||
学識経験者委員 | (16名) | |||||
x | x x | x | 東京大学社会科学研究所教授 | |||
x | x x x | 子 | 弁護士 | |||
x | x | x | 法政大学法学部教授 | |||
x | x x | 恵 | 立教大学名誉教授/弁護士 | |||
x | x x | x | 早稲田大学大学院法務研究科教授 | |||
x | x x | x | 早稲田大学大学院法務研究科教授 | 会長代理 | ||
x | x x | x | xx大学経済学部教授 | |||
x | x x | x | 弁護士 | 本件あっせん・調停部会委員 | ||
x | x x | x | 弁護士 | |||
x | x x | x | 弁護士 | |||
x | x x | x | 慶應義塾大学法科大学院教授 | |||
x | x x | x | 弁護士 | |||
x | x x | x | 中央大学大学院法務研究科教授 | 本件あっせん・調停部会長 | ||
x | x x | 子 | 東京経済大学現代法学部教授/弁護士 | 会長 | ||
x | x | x | 弁護士 | |||
x | x x x | 子 | 相模女子大学 副学長・人間社会学部教授 | |||
消費者委員 | (4名) | |||||
x | x x x | 子 | 主婦連合会 参与 | |||
x | x x | x | xxx地域消費者団体連絡会 参与 | |||
x | x x | x | xxx生活協同組合連合会 常任組織委員 | |||
x | x x | 枝 | 特定非営利活動法人xxx地域婦人団体連盟 副会長 | |||
事業者委員 | (4名) | |||||
x | x x | x | 東京商工会議所 産業政策第二部 部長 | |||
x | x | x | xxx中小企業団体中央会 常勤参事 | |||
x | x x | x | 一般社団法人東京工業団体連合会 専務理事 | |||
x | x | x | xxx商工会連合会 専務理事 |
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