ヨーロッパ民法典草案は、信用状などを、independent personal securityとして、depe ndent personal securityたる保証と並べて規律しており、フランス民法典も、sûreté per sonnelleの一つとして、保証(cautionnement)の次に、garanties autonomesを規定している。そして、信用状、請求払無因保証の ような独立的担保の取引社会における重要性に鑑みるならば、それについて一定の規定を民法典中に置くことにも理由はある。
全体会議資料(2009.1.17)
Ⅰ 保証
(1) 総則
Ⅲ-4-1(保証の成立)
(1)本章において「保証」とは、保証人が債権者に対して、債務者の負う債務につき、その履行(損害の賠償を含む。)をする義務を負うことをいう。
(2)保証は、次に掲げる方法のいずれかによってする。 (ア)債権者と保証人との間で契約(以下、「保証契約」という。)を締結すること。 (イ)債務者と保証人との間で債権者を受益者とする契約(以下、「保証引受契約」と
いう。)を締結すること。
(3)前項(イ)による保証引受契約においては、第三者のためにする契約の規律が適用される*。
*Ⅰ-11-2(1)【Ⅰ-11-1】の約定において、受益者に債権を与えることが約されたときは、受益者は、直ちに、諾約者に対する債権を取得するものとする。
I-11-7(1) 債権取得型の第三者のためにする契約において、要約者若しくは諾約者から受益者に、撤回権や変更権を留保することなく債権の付与を通知し、または受益者が要約者若しくは諾約者に対して受益の意思があることを表示したときは、要約者および諾約者は受益者の権利を変更し、または権利
の付与を撤回することができないものとする。
* 446条(修正)
【提案要旨】
本条は、まず保証を定義し、現民法のもとで保証とされている、債権者と保証人との間の契約による「保証」のほか、債務者と保証人との間で債権者を受益者とする契約を締結するという形態も「保証」として含めることを定めるものである。
【解説】
1.保証についての立法提案を提示するにあたっては、その前に明らかにすべき前提的な総論事項がいくつか存在する。
(1)保証契約の典型契約性
保証に関しては、それをもたらす契約を典型契約の一つとして位置付けることも考えられる。実際、そのような立法例もある。これに対して、現民法では、第3節「多数当事者の債権及び債務」の第4款として、「不可分債権及び不可分債務」、「連帯債務」に続けて規定されている。
本提案では、現行法と同じく、典型契約の一つとしてではなく、債権総論のなかに保証を位置付けることを前提とするものである。
「保証」においては、一方で、契約から債務が生じ、その履行が問題になるという側面がある。しかし、他方では、連帯債務などと同じく、一つの債務の弁済について、複数の者がその義務を負い、その履行の結果として、その複数当事者間における処理(求償)が問題になるという面もある。また、連帯保証においては、連帯債務の規定が一定の修正をしながらも準用されることになる(Ⅲ-4-13)。そこで、現民法における位置づけを承継することにも十分理由があると思われるのである。
さらには、後に述べるように、本提案では、債務者と引受人との間の契約により、引受人が主債務に従属する債務を負担する場合を、現民法でいう保証契約と並べ、「保証」という枠組みで捉えている。このとき、両契約は、当事者が異なることとなり、これを同一の契約類型に位置付けるのもxxではない。そもそも、この両契約を「保証」として一つのカテゴリーに分類することが、契約から一定の債務が発生した状態に着目して規律を行おうとすることを表しており、やはり、典型契約ではなく、いわゆる債権総論中に「保証」を位置付けるべきことにつながる。
(2)独立的担保の取扱い
ヨーロッパ民法典草案は、信用状などを、independent personal securityとして、depe ndent personal securityたる保証と並べて規律しており、フランス民法典も、sûreté per sonnelleの一つとして、保証(cautionnement)の次に、garanties autonomesを規定している。そして、信用状、請求払無因保証のような独立的担保の取引社会における重要性に鑑みるならば、それについて一定の規定を民法典中に置くことにも理由はある。
しかしながら、このような独立的担保は、まさに、契約に定められたとおりの責任を引受人が負うとされるところに特徴がある。そうであるならば、これについてあえて規定を置くのではなく、契約に委ねることにすることも考えられよう。
本提案では、今後の実務の発展、さらには徐々に成立しつつある国際的なルールの発展にこの問題を委ねることとし、保証と並べてxxで規律することは行っていない。
(3)「併存的債務引受」との関係
現民法には債務引受についての条文はなく、立法論としても、債務引受はいずれにせよ三当事者の意思自治の問題に帰するのであるから、とくに明示の条文を置く必要もない、という考え方も示されている1。
たしかに、まず、債権者と引受人との間の契約による「併存的債務引受」においても、引受人の負う債務内容は契約によって定まることとなる。しかしながら、仮に、その債務内容が債務者の負う債務に従属的なときは、その効果は保証と区別することが困難であり、実際、ある契約がそのいずれであるかの認定は困難だとされてきた。しかるに、一方、債権者と保証人との間の保証契約については、現民法においても、書面の要求などの保証人保護が講じられてきた。そうすると、現民法上、「保証」と効果が同じであり、契約上も区別のつきがたい併存的債務引受についても、引受人に同様の保護が与えられるべきことになる2。
1 xxxx「契約当事者論」xxxxほか『債権法改正の課題と方向(別冊 NBLno.51)』 171 頁(1998 年)。
2 この点で、ドイツにおいて、保証の方式強制を潜脱するために併存的債務引受が発展してきたこと(xxxxx「併存的債務引受の法的位置づけに関する一側面」法学新報 110 巻
そこで、本提案では、現民法よりも「保証」の概念を拡大し、まず、債権者と保証人との間で契約によって、債務者の負う債務につき、その履行(損害の賠償を含む。)をする義務を債権者に対して負うことになる場合で、保証人の債務が債務者の負う債務に従属性を有することにつき、それが現民法においては保証契約であるとされるか、併存的債務引受契約であるとされるかにかかわらず、広く「保証」とすることにした。
次に、債務者と引受人との間の契約によって、引受人が債務者の負う債務に従属的な債務を負うときには、保証の一形態とした。後に述べるように、電子記録債権などの保証において、債務者と保証人との間の契約による保証形態を認めるべきだと思われる。そうすると、このタイプの保証と、債務者と引受人との間の契約による形態とを区別する意義は乏しいと思われるからである。
ただし、このことは、当事者の意思が、従属性を排除することが明確であるときに、あえてそれを「保証」という類型に押し込めることを意味しない。本提案では、従属性が排除されている債務引受については、「保証」に非ざる併存的債務引受として存続することとなる。このことを明らかにするために、債務引受に関する規律において、Ⅲ-7-2(2)において、「前項の規定にかかわらず、債務引受の合意によって引受人の負う債務が債務者の負う債務に従属性を有することが明示または黙示に合意されているときは、Ⅲ-4-1(2)(ア)の保証契約または(イ)の保証引受契約とみなされる。」と規定した。これは、引受人がそれ以外の形態の債務(通常の連帯債務)を負うという債務引受もありうることをも示している。もっとも、従属性を有する債務を負う債務引受については、本条によって保証契約または保証引受契約と扱われることと、同条によって、保証契約または保証引受契約とみなされることが重複になりうる。したがって、Ⅲ-7-2(2)は不要とも言えるが、当該債務引受が、直接的に、保証契約または保証引受契約であると性質決定できない場合でも、従属性を根拠にして、保証契約または保証引受契約と同様に扱うために念のため規定した。
1=2 号 115 頁以下(2003 年)参照)、さらに、併存的債務引受においても、保証についての方式規定が判例・学説によって類推されてきていること(同「担保のための併存的債務引受(担保的債務加入)契約の有効性に関する一考察(上)、(下)」法学新報 114 巻 7
号 35 頁以下、114 巻 9 号 1 頁以下(2007 年))が、示唆深い。
3くわしくは、連帯債務に即して説明するが、ここでは、現民法に関し、xxxが次のよう
に述べていることを指摘しておく。すなわち、「連帯債務者間ニ於テハ通常各債務者皆債務ノ一部ヲ負担スヘキモノナリト雖モ、保証人ハ仮令主タル債務者ト連帯スルモ負担分ヲ有スルコトナシ。故ニ連帯ノ規定ヲ本条ノ場合ニ適用スルニ方リテハ、保証人ノ負担分ハ皆無ニシテ主タル債務者ノ負担分ハ即チ債務ノ全額タルコトヲ忘却スヘカラサルコト是ナリ。但是レ必スシモ保証ニ特別ナル効果ニ非ス。連帯債務者間ニ在リテモ其一人カ債務ノ
(4)信用保険・保証保険との関係
民法の中で、信用保険契約を全面的に規律することは妥当でないことは明らかであろう。そこで、「本章の規定は、保険契約には適用しない」というxxを置くことも考えられないではない4。しかしながら、保証と保険との関係は微妙な場合もあり、「保証であっても保険に近いものについては保証の法理よりも保険の法理を適用することが考えられるし、保険であっても保証に近いものについては保険の法理よりも保証の法理を適用することが考えられる」5と指摘されている。そうであるならば、法律の条文としては、いちおう保険と保証とを独立に規定しながら、双方の規律を排斥し合うものととらえるのではなく、取引の実質と局面に応じて、適切な規定を適用することとするほかはなく、具体的な運用は判例に委ねるべきものと考えられる。
2.具体的条文に入り、第1項・第2項については、以上述べたところからその意味するところは明らかだと思われる。
第2項(ア)の「保証契約」は、債権者と保証人との間の契約で、保証人が債権者に対して、債務者の負う債務につき、その履行(損害の賠償を含む。)をする義務を負うものを一般的に含むので、債権者と保証人との間の併存的債務引受契約もこれに含まれることになる。
また、第2項(イ)にいわゆる「保証引受契約」は、債務者と引受人との間においては、引受人に債務者の債務を代わりに弁済するように依頼する委任契約ではなく、保証契約と合わせ、保証人または引受人に債権者に対する債務を負担させる契約であり、そのような内容の第三者のためにする契約であると解される。もっとも、第三者のためにする契約と見るとき、諾約者である保証人の債務不履行があるとき、要約者である債務者が保証人に対して損害賠償を請求しうるか、という問題がある。そして、これが肯定されるならば、債務者と保証人との間に、なお委任契約の存在を観念できるのではないか、という問題がある。しかし、これは、第三者のためにする契約一般の問題として議論のあるところであり、ここでは規定すべき問題ではないし、また、債務者と保証人との間の契約の趣旨によっても変わってくるといえる。
3.なお、第2項(イ)にいわゆる保証引受契約による保証の成立は、既に述べたように、現民法のもとでも併存的債務引受について認められている。しかし、それ以外にも、有価証券としての券面が存在しない社債に付される(銀行)保証や、保証人の存在が記録上公示されたかたちでの流通が予定されている電子記録債権6などでは、むしろ債務者と保証人との間で契約がなされることによって保証が成立すると考える方がxxであるとも思われ
全部ヲ負担スヘキコト亦稀ナリトセス。」(句読点を補った)というわけである(xxxx『民法要義巻之三債権編〔訂正増補〕』176~177 頁(1899 年))。
4 ヨーロッパ民法草案(人的担保)1:102(2)前段は、「本章は、保険契約には適用されない。」としている。
5 xxxx『保険法』16 頁(有斐閣、2005 年)。
6 もっとも、現行の電子記録債権法における電子記録保証(同法 31~35 条)は、債権者と保証人との間の契約を前提としていると思われる。これは、現民法における「保証」の概念からは当然の帰結である。そして、本提案は、電子記録債権について、債権者と保証人との間の「保証契約」による保証の成立を否定するものではない。ただ、保証引受契約による形態も追加的に認めるべきだという主張である。
る7。少なくとも、そのような形での保証の成立もあると考えるべきであろう。
4.なお、学説には、信用補完性、公益性等を根拠に、信用保証協会等のするいわゆる
「機関保証」につき、別個の法理を探求しようとするものもある。しかしながら、第1に、xxxxx「機関保証」の定義は不明確さを免れていないし、また、第2に、「機関保証」については、一方では、その公益性故に債務者に対する他の債権者などとの関係で優位に立つとともに、旧債振替禁止条項のように保証責任自体を制限すべきことが説かれ、他方で、有償の合理的な保証であるが故に、情義的な保証人について形成されてきた保護の法理の不適用が説かれるように、その指し示す方向性にもわかりにくいところがある。
そこで、本提案では、「機関保証」を条文上は特別視していない。しかし、特約の効力を判断するに際しては、信用保証協会等の特殊性や独自性が配慮されることになると思われる。そして、それで十分であると考えられる。
Ⅲ-4-2(保証契約・保証引受契約の締結) (1)前条第2項各号の契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。 (2)前条第2項各号の契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式
その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その契約は書面によってされたものとみなす。
(3)保証契約・保証引受契約の締結にあたっては、以下の各号に定めるところを遵守しなければならない。
(ア)契約条項は、常に明確かつ平易な言葉で表現されなければならない。 (イ)債権者又は債務者は、具体的に発生しうるリスクについて、保証人に正確な認識
を形成するに足りる情報を提供しなければならない。
* 426条2項、3項(維持。ただし、3項を付加)
【提案要旨】
本条は、保証契約及び保証引受契約の方式要件、および、締結にあたっての説明義務を規定するものである。
【解説】
1.第1項・第2項は、保証契約が書面等でなされるべきことを規定している。現民法4 46条2項・3項と同じである。
2.保証契約あるいは保証引受契約の成立にあたって、保証人に対して、十分な説明がされるべきことは当然であり、これは、軽率に保証人にならないようにするためにも重要である。しかしながら、契約締結にあたっての説明義務一般は、契約総則の規定として置かれることが検討されており、保証に限らない問題である。そこで、とくに保証に関して
7 xxxxx「金融取引にみる契約法学の再検討の必要性」xxxx=xxxx『企業金融手法の多様化と法』85 頁以下(2008 年)。
特別の規定を置く必要はないとも考えられる。
しかしながら、保証に関しては、これまでも保証については、根保証の意味の無理解、保証期間の意味についての誤解等が問題になってきており、とりわけ説明が重要となる取引類型であるから、一般規定として説明義務の規定を、保証について具体化することも考えられないではない。
本提案では、さしあたって後者の立場をとったが、本検討委員会提案全体の方針にも関わるところであるので、さらなる検討の必要性がある。
3.第3項の各号に定める義務を、保証契約・保証引受契約の特性と結びつけて説明すると、次のとおりである8。
(ア)の条項平易化・明確化義務については、それが保証契約を含む取引一般に要請される
ことは当然である。平成11年3月16日付で全国銀行協会連合会が加盟各行に指示した「消費者との契約のあり方に関する留意事項」にも次のように規定されている。
「Ⅱ 3 表現上の留意点 (1)契約書は、明確、平易で消費者が理解しやすい表現を用いて作成すべきである。
契約書においては、契約内容を的確に表現するために専門用語を使用せざるを得ない場合もあるが、一般通念に照らし、消費者がおよそ理解できないような表現を用いることがないよう注意すべきである。また、必要に応じて定義規定を設ける等により、消費者の理解を促すよう配慮すべきである。
(2)解釈に疑義を生じかねない表現は、消費者との間に無用の混乱や紛争を招きかねず、回避すべきである。」
(イ)の一般的情報提供義務については、その存在はいうまでもなかろう。なお、この義務
をさらに展開し、さらに別の観点からの付加を行い、たとえば、
「(ウ)保証契約・保証引受契約によって発生するリスクが、保証人にとって過大となるときは、以上に加えて、明確かつ詳細にどのような事態になるのかを説明し、その事態についての十分な理解を得させ、それを承知の上でなお保証をするのかを確認しなければならない。
(エ)事態が急激に好転する特段の事情がなければ保証人に損失の発生することがほぼ確実であるような場合には、債権者又は債務者は、その客観的事実を保証人に明確に認識させなければならない。
(オ) 債権者又は債務者は、保証人を威迫しまたは困惑させることによって、債権者は保証契約を締結し、あるいは、保証引受契約を締結させてはならない。
(カ) 債権者又は債務者は、保証人の切迫、無思慮・軽率、異常な精神状態、経験不足という状況を濫用して、保証契約を締結し、あるいは、保証引受契約を締結させてはならない。」
といった提案が考えられる。
しかしながら、(ア)、(イ)にしても、その違反の効果をこの箇所で規定するのは困難であり、意思表示の取消しや損害賠償等が別の規定によって認められる場合の要件解釈に置い
8 xxxxx「保証契約の成立にともなう説明義務」民事研修 523 号 3 頁以下(2000 年)参照。
て一定の意味を有することを企図して、必要最小限の規定を置くにとどめることが妥当であると思われる。
4.なお2点を補足しておく。
第1は、説明義務に関するこれまでの議論は、主に対消費者を念頭に置いたものであるところ、保証人は消費者がなるとは限らないことから、一般的な説明義務を置くのは妥当ではなく、消費者が保証人となるときに限定すべきではないか、ということである。
しかし、企業等が保証人になるときには、(ア)における「明確かつ平易な言葉」か否か等の判断が自ずから異なってくると思われる。一般的に規定しても差し支えないと思われるが、判断基準が保証人の属性に応じて変化することには注意すべきである。
第2は、保証引受契約による保証の場合、契約当事者は債務者と保証人であるところ、債務者の説明義務不履行によって債権者が不利益を被るのはおかしいのではないか、ということである。
しかし、保証引受契約による保証の場合でも、債権者が一切関与せず、ただ受益の意思表示のみをするという場合は少ないと思われる。そして、保証引受契約による場合には、所詮、第三者のためにする契約の受益者として、債権者は、保証引受契約の瑕疵について危険を負担する地位にあるのであり、それらの危険を避けたい債権者は、単に受益の意思表示をするだけではなく、三面契約の方式をとったり、保証契約の締結をしたりすることができるのであり、問題ないと思われる。
また、債務者と保証人との間での保証引受契約に基づき社債に保証が付されているような場合には、一般に保証人は金融機関等であり、第1に述べたところから、説明義務違反により保証引受契約に瑕疵が生じる場合はないといってよいであろう。
Ⅲ-4-3(保証債務の範囲)
(1)保証人は、その契約によって定められた主たる債務者の債務につき、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
(2)保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含するものと推定する。
(3)保証において、保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する。
(4)前項の規定にかかわらず、保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる。
(5)第3項の規定にかかわらず、行為能力の制限によって取り消すことができる債務を保証した者は、保証契約または保証引受契約の時においてその取消しの原因を知っていたときは、主たる債務の不履行の場合又はその債務の取消しの場合においてこれと同一の目
的を有する独立の債務を負担したものと推定する。
* 446条1項(維持)、447条~449条(維持)
【提案要旨】
本条は、保証につき、その債務の範囲を定めるものである。現民法とほぼ同様である。
【解説】
1.第1項は、現民法446条1項と基本的に異なるものではないが、「その契約によって定められた主たる債務者の債務」とした。これは、一方では、将来の債務・不特定の債務の保証を認める趣旨であるし、他方では、ある債権者に対する不特定多数の債務者の債務を保証することを認める趣旨でもある。契約によって定めればよいということである。
ただし、根保証契約については、Ⅲ-4-14以下に別個の制約がある。
2.第2項は、現民法447条1項と基本的に同じであるが、特約を許すことを明確にするため、推定規定とした。
なお、現民法447条1項については、被保証債務の範囲の解釈について、いくつかの判例があるが、これはそのまま維持することが可能である。もっとも、たとえば、特定物売買における売主の保証人が、売主の債務不履行により契約が解除されたときの原状回復義務である既払代金返還義務についても保証責任がある9といった問題は、基本的には契約の解釈問題であり、具体的事情によって結論は異なってくるため、結論を明示する規定は置かなかった。
3.第3項は現民法448条、第4項は現民法447条2項であるが、第4項は、第3項の例外として位置づけている。現民法447条2項は、保証債務という主たる債務とは別個の債務について、その債務の不履行を理由として生じる損害金等についての規定であるから、その損害金等が主たる債務につき発生する損害金等よりも大きくなったからといって、現行法4 48条に反するものではないととらえられている。しかしながら、たとえば、主たる債務の遅延損害金の率が15%であるとき、保証債務の遅延損害金につき17%が約定されており、主たる債務の弁済期から1年後に保証債務が履行されたとする。このとき、17%の遅延損害金を保証人は支払うべきことになり、これは、保証債務の履行が遅れたことによる遅延損害金ではあるが、なお15%の範囲では、主たる債務者に求償していくことができると解すべきであろう。そうすると、やはり単純に保証債務の不履行についての遅延損害金等だとは言い切れない面を有し、現民法447条2項は、同448条の例外として位置付けるのが妥当であると思われる。
4.第5項は、現民法449条と同様である。ただし、保証引受契約を付加した。
Ⅲ-4-4(義務的保証人の要件等)
(1)債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない。
(ア)行為能力者であること。 (イ)弁済をする資力を有すること。
(2)保証人が前項(イ)に掲げる要件を欠くに至ったときは、債権者は、同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。
(3)前2項の規定は、別段の定めがあるとき、又は債権者が保証人を指名した場合には、
9最大判昭和 40・6・30 民集 19 巻 4 号 1143 頁。
適用しない。
(4)債務者は、第1項各号に掲げる要件を具備する保証人を立てることができないときは、他の担保を供してこれに代えることができる。
* 450条(維持)、451条(維持)
【提案要旨】
債務者が保証人を立てる義務を負う場合の規律につき、現行法と同様の規定を置くものである。
【解説】
1.現民法450条及び451条と同じである。
もっとも、現民法は、保証として、債権者と保証人との間の契約による場合のみを想定しており、「債務者が保証人を立てる義務を負う」という表現も、実際の契約においては、債務者は契約当事者にならないことを前提としたものになっていると思われる。しかしながら、既に述べたように、本提案では、債務者と保証人との契約による場合も、保証に含めて考えている。このときは、「債務者が保証人を立てる義務を負う」とは、債務者が債権者との契約により、債権者を受益者とする保証引受契約を締結する義務を負っている場合を意味することになる。
2.なお、x条は、契約によって保証人を立てる義務を負う場合と、法律の規定によって義務が課されている場合の双方を含む。また、「保証人を立てる義務」は、債権者と保証人との間に保証契約を締結させること、又は債務者と保証人との間で保証引受契約を締結することによっても履行されうることを前提としている。
Ⅲ-4-5(検索の抗弁)
債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人が主たる債務者に弁済する資力
があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。
* 452条(削除)、453条(維持)
【提案要旨】検索の抗弁について規定するものである。
【解説】
1.本条第1項は、現民法452条および453条に対応するものである。
現民法では、催告の抗弁と検索の抗弁とが規定されているところ、この点に関し、「近世の諸立法は、保証人に検索の利益については、これをみとめるのが多いが、催告の抗弁権をみとめるものはない。」「本来、この催告は裁判外の催告をもって足りるから、催告の効力は甚だ弱い。しかしこの抗弁権が行使されれば、債権者は、主たる債務者が無資力
で、何ら催告の効果を生じないことが分っていても、先ず主たる債務者へ催告しなければならない。これは債権者へ無益の手続を強いることによって、債権者の権利の行使を遅延せしめ、債権者に不利益な結果となるから、立法論としては、検索の抗弁権のみで足りるというのがわが国の学説のほとんど共通の主張といえよう(xx1049以下、鳩山307、xx 478、xx245など)」10とされている。そこで、検索の抗弁のみとした。
2.なお、現民法では、その455条に、催告の抗弁及び検索の抗弁の効果について規定されているが、本提案では、検索の抗弁の効果としてではなく、一般に、債権者に適時執行義務等を負わせることとしており、次条において、そのことが規定されることになっている。
Ⅲ-4-6(適時執行義務)
債権者が、主たる債務者の財産について適時に執行をすることを怠ったために主たる債務者から全部の弁済を得られなかったときは、保証人は、債権者が適時に執行をすれば弁済を得ることができた限度において、その義務を免れる。主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないときも同様である。ただし、
別段の定めのあるときは、この限りでない。
* 455条(修正)
【提案要旨】
現民法455条で規定されているところを、判例法理を取り入れた上で、一般に、債権者には主たる債務者の財産に対する適時執行義務がxxx上認められることを前提とし、その不履行の効果を規定するものである。
【解説】
1.現民法455条については、判例11により、その趣旨の適用範囲が拡大されており、主たる債務の弁済期が到来したにもかかわらず、債権者が抵当権を久しく実行せず、その間に著しく抵当不動産の価格が下落したといった例でも、保証人の一部免責が認められている。そこで、本条は、前条の義務違反の効果としてではなく(そもそも、現民法452条・45 3条についても、その義務性について様々に疑義が呈されている)、「主たる債務者の財産について適時に執行をすることを怠ったために主たる債務者から全部の弁済を得られなかったとき」という一般的要件として規定したうえで、その場合に、保証人は、債権者が適時に執行をすれば弁済を得ることができた限度において、その義務を免れることを規定した。xxxの表れと理解してよい。
もっとも、「適時」を厳格に解するならば、債権者に酷にすぎる場合が出てこよう。具体的な適用にあたっては、あまり厳格に解することを避けなければならないと思われる。また、本条の効果を特約によって排除することは可能であろう。連帯保証の特約も認めら
10 xxxx執筆・xxxx編『注釈民法(11)』243 頁(有斐閣、1965 年)。
れ、かつ、Ⅲ-4-13(3)について述べるように、連帯保証においては適時執行義務を認めることができないと思われる。そうすると、連帯保証以外の保証において、本条の効果を排除する特約が認められないと解する合理性はない。
2.なお、後段には、「主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき」を付加した。この理由は、後に述べる(Ⅲ-4-11【解説】2.)。
Ⅲ-4-7(主たる債務者について生じた事由の効力) (1)保証人は、主たる債務者が債権者に対して有する抗弁をもって、債権者に対抗する
ことができる。
(2)主たる債務者が債権者に対して相殺権を有するときは、保証人は、その限度で、債権者に対する履行を拒むことができる。
(3) 主たる債務者が、債務の発生原因である契約について、取消権、解除xxを有する
ときには、保証人は、その限度で、債権者に対する履行を拒むことができる。
* 新設、457条1項(削除)、2項(修正)
【提案要旨】
主たる債務者について生じた事由の効力について規定を置くものである。
【解説】
1.現民法は、主たる債務者の有する抗弁権について直接の規定を有しないが、保証債務の附従性に基づき、保証人は主たる債務者の有する抗弁権を援用することができるとするのは一致した見解である。判例12にも、主たる債務者が同時履行の抗弁権を有するとき、保証人も引換給付の抗弁をなしうるとしたものがある。第1項は、これを明文化するものである。会社法581条1項にも同趣旨の規定がある。
2.現民法457条1項は、「主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。」と規定している。また、判例13は、保証人が独自に主たる債務の時効を援用することを認めている。しかしながら、本検討委員会の提案では、いずれの点についても、債権時効に関して詳細な定めがなされている(V-8-4 (3)、8-9(2)、8-10(2)、8-13(2)、8-14(4)、8-19(2)、8-27)。そこで、全面的にそちらに委ねることとした。
3. 現民法457条2項は、「保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に 対抗することができる。」としているが、同項については、相殺が可能である範囲内にお いて弁済を拒絶する抗弁権を保証人に与えるものにすぎないとするのが通説となっている。本条2項は、これを明確化するものである。
4.また、主たる債務者が取消権・解除権を有する場合については、現民法には規定が
12最判昭和 40・9・21 民集 19 巻 6 号 1542 頁
13 大判昭和 8・10・13 民集 12 巻 2520 頁、大判昭和 7・6・21 民集 11 巻 1186 頁。
ないところ、通説は、主たる債務が取消権・解除権の存在によって不確定である間は、保証人は保証債務の履行を拒絶できるとしている。そして、この趣旨は、会社法581条2項にxxをもって取り入れられている。本提案は、民法においても、この点を明示するものである。
ただし、本検討委員会の提案においては、一定の場合に撤回権を行使することによって契約を解消したり、無効の主張をしたり、あるいは、代金減額請求権を行使したりするという様々な救済手段が認められる場合がある。にもかかわらず、取消権と解除権とだけを挙げるのは、かえって、それ以外の権利を主たる債務者が有する場合には、保証人の履行拒絶権が認められないとの誤解を生ぜしめるおそれがある。そこで、本提案では、「取消権、解除xx」とすることにした。
Ⅲ-4-8(xxの保証人がある場合) (1)xxの保証人があるとき、各保証人は連帯して保証する。 (2)xxの保証人が、同一の債務の一部を保証する場合には、債権者は、各保証人に対
し、各保証額の限度に至るまでの保証債務の履行を請求することができる。
(3)xxの保証人の内部的な負担部分は平等であると推定する。
* 456条(改正)
【提案要旨】
xxの保証人がある場合、現民法が分割債務になることを原則としているのに対し、保証人間での連帯を原則とすることにするものである。
【解説】
この批判は妥当であると思われる。さらには、本提案では、保証引受契約による保証の成立を認めており、そうなると、債権者が関与しないままに、上記の事態が生じかねないことになる。そこで、本提案では、xxの保証人は連帯することとした。
もっとも、これに対しては、保証人の義務を現民法よりも加重するものであり、その必要性はないとの反論もあるかもしれない。しかし、上記学説の説くところはやはり合理的であり、かつ、実務的には、ほとんどが連帯保証となるので、保証人が複数の場合にも分別の利益は認められていない。したがって、実際上、保証人の負担を加重するわけではない。
14 xxx執筆・xxxx編『注釈民法(11)』260 頁(有斐閣、1965 年)。
また、もちろん、特約は許されるし、ある保証人が一部保証をすることも可能である。つねに全額の支払義務を負うわけではない。
2.第2項は、1000万円の債務につき、Cが500万円を限度で保証し、Dが700万円の限度で保証しているとき、500万円分が連帯となり、300万円分が無保証となるのではなく、全額が保証されており、200万円分について保証人が2人存在すると解されることを意味している。
3.第3項は、通常の連帯債務の場合とは異なり、内部的な負担割合が、内部の取り決めや加功・受益の度合いによって定まるわけではないことが多いことに鑑み、推定の規定を置くものである。
4.相対的効力の原則および求償関係については、連帯債務の規定が適用される。なお、現民法465条は、共同保証人に分別の利益があることを前提としており、削除すべきことになる。
Ⅲ-4-9(委託を受けた保証人の求償権)
(1) 保証人が保証引受契約を締結し、又は主たる債務者の委託を受けて保証契約を締結することによって保証した場合(以下、本条において「受託保証人」という。)において、主たる債務者に代わって一部又は全部の弁済をし、その他自己の財産をもって他人の債務を一部又は全部消滅させるべき行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、その出捐した額について求償権を有する。ただし、債務者と保証人の合意により、異なる定めをすることを妨げない。
(2)前項の規定にかかわらず、受託保証人が、主たる債務者の債務の弁済期が到来する前に第1項本文に定める弁済その他の行為をしたときは、Ⅲ-4-10(1)の規定を適用する。このとき、主たる債務者は、その債務の弁済期が到来する時期までは、償還することを要しない。
(3)第1項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び必要な費用その他の損害の賠償を包含する。
(4)本条の規定は、別個、受託保証人の債務者に対する報酬請求権を定めることを妨げない。
(5)受託保証人が、一部又は全部の弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務の一部又は全部を免れさせたことを、主たる債務者に通知することを怠ったため、主たる債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、主たる債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。
(6)前項の規定は、主たる債務者が、自己の弁済その他免責のためにした行為を受託保証人に通知する前に、受託保証人から求償を受けたときには適用しない。
(7)主たる債務者が弁済をし、その他自己の財産をもって免責を得たことを受託保証人に通知することを怠ったため、受託保証人が善意で一部又は全部の弁済をし、その他有償の行為をもって一部又は全部の免責を得たときは、受託保証人は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。
* 459条(維持)、463条(443条1項の準用は廃止、同条2項は改正)
【提案要旨】
委託を受けた保証人の求償権について規定するとともに、特約が可能であること、保証人からの弁済前の通知の制度を廃止することを提案するものである。
【解説】
1.保証人の求償権に関しては、次のように分析されている。すなわち、
「保証人は、債権者に対する関係においては、自己の債務を弁済するものであるが、主たる債務者に対する関係においては、他人の債務を弁済する実質を有するものである。ただ、その他人の債務を弁済する立場は、保証人と債務者との関係がどうであるかによって同一ではない。保証人が債務者の委託を受けて保証人となったのであれば、弁済は委任事務の処理であり、弁済のための出捐は委任事務処理の費用としてその償還を請求しうることになる(650条参照)。これに反し、債務者の委託を受けずして保証人となったのであれば、弁済は事務管理となり、弁済のための出捐は事務管理の費用としてその償還を請求しうることになる(702条参照)。保証人の求償権は、このように、他人の事務を、委託を受けて、またはこれを受けないで、処理した者の費用償還請求権に該当するものである。わが民法は、求償権について特別の規定を設けたから、委任または事務管理の右の規定は、保証には適用されない。しかし、民法の規定の内容は、大体この両制度を基礎としたものなのである。」15
このような考え方からすると、保証人にとくに特別な求償権が存在するわけではないことになる。そこで、かえって他者の債務を弁済するという局面一般についての求償権の規定を設けるべきだとも考えられる。
しかしながら、本委員会の提案においては、第三者が弁済をしたときの求償権については、かなり制限的な立場が採られており、委託を受けない第三者によって弁済がなされたときは求償権は発生しないという立場が採られている(V-1-2(3))。そこで、保証人の求償権は弁済をした第三者の求償権一般の問題には解消できないこととなり、別個の規定が必要となる。
2.まず、第1項は、現民法459条1項に対応するものであるが、「過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け」という事由を削除している。
これは、理論的には、事前求償権の一つであると解されているが、本案では、後に述べる理由で事前求償権を廃止することとしており、それに対応する削除にすぎない。
なお、保証人が、一部の弁済をすれば、その額について求償をなしうることは当然であるが、誤解を避けるためにxxで規定した。
第1項ただし書は、解釈上当然のことを念のために規定するにすぎない。
3.もっとも、ここで問題になるのが、期限前弁済である。判例は、保証人が主たる債務の支払期限が到来する前に保証債務を履行したとき、それが主たる債務の弁済として有効であることは、現民法706条から明らかであるとしながら、求償権の行使は弁済期の到来
15 xxxx『債権総論〔増補版〕』403 頁(1992 年)。
を待たねばならない、としている16。しかるに、このような場合には、そもそも上記の委任または保証引受契約の趣旨に反することも多いと思われる。とりわけ、債権者の資力が悪化しており、保証人も主たる債務者も当該債権者に対して反対債権を有しているときに、保証人が弁済期前に期限の利益を放棄して、債権者との間で相殺を行うことになると、主たる債務者に不当な損害を被らせることになる。
そこで、この場合は、委託の趣旨に反する行為であることを重視して、当該保証人の求償権を委託を受けない保証人の求償権として扱うことにするとともに、求償権の行使は弁済期の到来を待たねばならないことを明記した。これが、第2項であるが、委託を受けない保証人の求償権についての規律のうち、問題になるのは、Ⅲ-4-10(1)だけである。
4.また、第3項は、現民法459条2項と同じである。
第4項も当然の内容だが、この報酬請求権は、保証債務の履行があったときのみに発生するわけではない。いわゆる保証料であり、これは、当事者の合意に委ねられる。
5.第5項は、現民法463条に対応するものだが、現民法463条1項で準用されている現民法443条1項について、本案では、Ⅲ-3-13(1)において、その削除を提案している。第4項が、現民法443条2項に対応する規律だけを定めているのは、その削除と対応関係にある。
Ⅲ-3-14(1)における削除の理由は、その部分の解説に譲るが、問題は、主たる債務者の有する相殺の抗弁を保護する義務を保証人に負わせるか、ということに尽きる。しかるに、保証人は、弁済期が到来すれば、即時に弁済する義務を負っているのであり、他方、主たる債務者は、遅滞に陥っていることに鑑みれば、保証人に通知義務を課し、主たる債務者の相殺権を保護する必要はないように思われる。保証人に通知義務を課したければ、保証契約の締結を委任する契約または保証引受契約において、債務者と保証人との間で、そのような合意をすればよいだけである(もっとも、保証引受契約に於けるそのような合意は、保証引受契約とはいちおう別個の合意であると解される余地もある。これは、保証引受契約の構造をどのように解するかの問題であり、くわしくは解釈論に委ねられる。)。
これに対して、別個規定する連帯債務についての規律においても、事後の通知を怠ったときについては、一定の効果を定めている(その理由は、Ⅲ-3-14【解説】4および5参照)。第5項・第6項は、これに対応する定めである。もっとも、連帯債務者間における場合と異なり、受託保証人と主たる債務者とが、お互いの存在を知らない場合はありえないので、必要な修正を加えている。
また、保証人の弁済は、一部の弁済であってもよいことを明記した。
6.主たる債務者が弁済したときも、自らが委託した相手方である保証人が二重弁済をしないように通知することは、主たる債務者の義務であると考えるべきである。そこで、現民法463条2項の規律は存続することになるが、同項については、準用されている現民法4 43条のうち、実際に準用されるのは第2項のみであることに現在では異論がないので、第
2項の内容のみを定めることにした。
また、主たる債務者の弁済は、一部の弁済であってもよいことを明記した。以上が第7項である。
16 大判大正 3 年 6 月 15 日民録 20 輯 476 頁。
Ⅲ-4-10(委託を受けない保証人の求償権)
(1)主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が一部又は全部の弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務の一部又は全部を免れさせたときは、主たる債務者は、その当時利益を受けた限度において償還をしなければならない。この場合において、主たる債務者が保証人による免責行為以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
(2)主たる債務者の意思に反して保証をした者は、主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において、主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
(3)主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が、一部又は全部の弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務の一部又は全部を免れさせたことを、主たる債務者に通知することを怠ったため、主たる債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、主たる債務者は、自己の弁済その他免責のた
めにした行為を有効であったものとみなすことができる。
* 462条(維持)、463条1項(改正)
【提案要旨】
委託を受けない保証人の求償権について、現民法の趣旨を変えるものではないが、若干の整理を施すものである。
【解説】
1.委託を受けない保証人の求償権については、そもそも、それを認めるべきかが問題になる。すなわち、本委員会の提案においては、第三者による弁済の場合、「正当な利益を有する者以外のものが、債務者の意思に反して弁済をしたとき、第三者は債務者に対して求償権を取得しない。」(Ⅴ-1-2(2))としており、それとのバランスが問題になる。すなわち、その規律からすれば、委託を受けない保証人のうち、少なくとも債務者の意思に反して保証人となった者については、主たる債務者に対する求償権を取得しないとすることになるとも思われるからである。
しかしながら、保証人に関しては、その者の一存で弁済をするのではなく、保証契約の締結という債権者の積極的な行為が関与しており、Ⅴ-1-2(2)が一般的に排除しようとしたところには該当しないと解することができる。そこで、委託を受けない保証人についても求償権を認めることとしたのが本条である。
2.その具体的な内容は、現民法462条、463条1項を基本的には維持している。ただし、いくつかの修正を施している。
(1)まず、現民法462条1項と同条2項とを比較すると、第2項には、相殺の場合の処理についての規定がある。これは、主たる債務者の委託を受けてはないが、意思に反してはいない保証人については、相殺により消滅すべきであった債務の履行を請求できることを
認めないという趣旨ではない。現民法462条2項のポイントは、「求償の日以前に相殺の原因を有していたこと」の主張を認めることを明らかにする点に存するのであり(つまり、
「利益を受けた限度」を決定する基準日が第1項と異なる)、主たる債務者が債権者に対して有していた債権を代わりに行使できるようにすべきことには変わりはない。現民法では必ずしも明瞭ではないので、本提案第1項後段では、これを明記することとした。
(2)次に、本提案第2項は、現民法462条2項と同じである。
(3)Ⅴ-3-13(1)、Ⅲ-4-9(4)に即して説明したように、本提案では、連帯債務者や保証人について、弁済前に他の連帯債務者や主たる債務者に通知をすることを要求していない。しかし、そこで説明したように、通知を要求しない理由は、委託を受けない保証人には当てはまらない。そこで、現民法どおり、現民法443条1項の規律が適用されることにすべきようにも思われる。
ところが、一方、現民法443条1項にいわゆる「債権者に対抗することができる事由」とは、相殺権や同時履行の抗弁権(保証に非ざる連帯債務の場合には、一人が有する同時履行の抗弁権を、他の連帯債務者が援用できるかには問題がある。しかし、保証の場合には、主たる債務者が有する同時履行の抗弁権を、保証人が保証債務の履行を拒む事由として主張できることは明らかである。)が挙げられ、他方、現民法462条1項にいわゆる「その当時利益を受けた限度」の解釈としても、一部弁済、相殺権などが挙げられる。そうだとすると、現民法443条1項にいわゆる「債権者に対抗することができる事由」は、現民法462条 1項にいわゆる「その当時利益を受けた限度」の評価において取り込まれることになるのであり、規定が重複していることになる。
それでも、現民法は、受託保証人についても、現民法443条1項を準用するので、意味のある規定となっているが、委託を受けない保証人については、現民法462条1項の規定で十分である。
以上から、現民法443条については、同条2項に対応する規律を、本条3項として置くにとどめることとした。
Ⅲ-4-11(保証人の事前求償権)
現民法460条の規定は、削除する。
* 460条(削除)
【提案要旨】
保証人の事前求償権を廃止することを提案するものである。
【解説】
1.現民法460条は、いわゆる事前求償権の規定である。しかしながら、以下の理由から、本提案では、これを原則として廃止することとしている。
また、あわせて、現民法459条1項における「過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け」という事由を削除することは、Ⅲ-4-9【解説】2.で述べた。
2.まず、第1号(主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき)については、債権者が主たる債務者の財産に適時に執行しなかった場合と区別する理由はなく、それと同様に、Ⅲ-4-6後段に規定するほうが妥当であると思われる。
第2号(債務が弁済期にあるとき)も同様である。なお、同号ただし書は、債権者が主たる債務者に期限の利益を許与する場合をあげているが、これも、不合理な期限許与を行い、適時の執行をしなかった場合と考えることができる。
第3号(債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後十年を経過したとき)は、実は、そもそも事前求償権という制度になじまないものである。例としてあげられている無期の年金や終身定期金の場合、そもそも主債務額が定まらないのだから、求償権の行使額も定まらないことになる。認めるとすれば、むしろ担保の供与を求めるべきことになるが、無期の年金や終身定期金の場合、性質上、「債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない」ことがわかって保証しているのであるから、当然に担保の供与を求めることができるというのも妥当でないように思われる。後に述べるように、事前求償権を約定することはできるのであり、また、そのような約定がないときに、保証人が酷な状況にあると判断される場合には、特別解約権を認めることで対処すべきであろう。なお、このような特別解約権は、xxxを根拠にして認められるものであり、本提案に具体的な条文は用意していない。かねて指摘されているように、特別解約権の要件を一律に決めることは困難だからである。
3.これに対しては、保証人が主たる債務者の委託を受けて保証人になった場合については、主たる債務者と保証人との間に委任契約があると思われ、委任契約については、受任者による費用の前払請求権が認められているところ(現民649条)、それと平仄が合わないのではないか、との意見もあろう。
しかしながら、保証の大部分を占めるのは金銭債務の保証であり、それについて、事前の求償権を認めることは、委任事務そのものを委任者がすることにほかならない。この場合の前払いは、単純に委任事務にかかる「費用」とは言い切れない側面を有しているのであり、同日には論じ得ない17。保証人は、履行代行者とは異なるのである。
このように、本提案は、委託を受けた保証人であっても、現民法649条の適用による事前求償権の行使もできないことを前提としている。この点については、xxの規定が必要かどうかをさらに検討する必要がある。
もっとも、これは現民法649条が任意規定として常に適用されることを否定する趣旨にすぎず、保証契約がなされた場合には債務者と保証人との間の委託の契約において、又は保証引受契約において、事前求償権を約定することは、もとより自由である。
4.なお、以上と異なり、債務者の委託を受けた連帯保証人については、少なくとも、現民法460条1号の定める「主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき」における事前求償権の存在は、合理性があるものと考えられる。連帯保証人が存在するとき、債権者には、主たる債務者と連帯保証人のいずれに対してでも自由に請求できる権利があり、主たる債務者の財産から債権を回収すべく
17 議論の整理として、xxxx『債権総論』436 頁以下(2005 年)参照。
努力しなければならないわけではない。そうすると、Ⅲ-4-6の規定する適時執行義務は存在しないことになり、したがって、その不履行の効果も生じないこととなる。ところが、主たる債務者について破産手続が開始したとき、債権者がその後に連帯保証人に履行請求をする途を選択し、破産財団の配当に加入しない場合を考えると、連帯保証人はあらかじめ求償権が行使できなければ、求償権が無意味になってしまう可能性が高くなる。そこで、現民法460条1号に定める事前求償権が必要とされるのではないか、との疑問が生じる。
しかしながら、破産法104条3項は、この規律をより広い範囲に拡大した規定を置いており、現民法460条1号に独自の意義は存在しない。そして、現民法460条1号の規律はすでに述べたように一定の合理性を有するものではあるが、連帯債務の性質から演繹的に決定されるかといえば、そうでもなく、破産手続を含めた倒産手続における債権者間のxxの観点から決せられるべき事柄である。
そこで、本提案では、民法の条文としては、現民法460条1号も含め、事前求償権を廃止し、必要な規律は破産法を含めた倒産諸法における規律に委ねることとしたのである。
Ⅲ-4-12(連帯債務の保証人の求償権)
連帯債務者又は不可分債務者の一人のために保証をした者は、他の債務者に対し、その負担部分のみについて求償権を有する。
【提案要旨】
連帯債務・不可分債務の保証人の求償権について、現行法と同内容を規定するものである。
【解説】
省略。
(2) 連帯保証
Ⅲ-4-13(連帯保証の場合の特則)
(1)保証人は、保証契約または保証引受契約において、主たる債務者と連帯して債務を負担することができる。
(2)事業者が事業の範囲内で保証をしたときは、保証人は主たる債務者と連帯して債務
18 xxxxほか『倒産法概説』148~149 頁(2006 年)参照。
を負担する。
(3) 保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担するときは、Ⅲ-4-5および6の規定は適用しない。
(4)主たる債務者の債務につき債権時効の期間が経過したときには、Ⅲ-3-6は適用しない。
(5) Ⅲ-3-5(1)は、主たる債務者と連帯して債務を負担する保証人の債務に関してのみ、準用する。
(6) 保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担するときは、Ⅲ-3-7(1)は適用しない。主たる債務が免除されたときは保証債務を消滅させるが、保証債務の免除は主たる債務に影響を及ぼさない。
(7) 保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担するときは、Ⅲ-3-8を準用する。ただし、主たる債務の弁済期を早める合意が、保証債務の成立後になされたときも、保証債務の履行期は影響されない。
(8) 保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担するときは、Ⅲ-3-9は、主たる債務者
の債務についてのみ、準用する。
*商法511条2項(改正)、454条(維持)、459条(改正)
【提案要旨】
連帯保証人について、現民法と同内容を規定するとともに、事業者が事業の範囲内で保証をした場合について、現商法の判例法理とは異なる規律を置くものである。
【解説】
1.第1項に関連し、現民法では単純保証が原則とされているところ、現実にはほとんどが連帯保証だといわれているのだから、連帯保証を原則とすることも考えられないではない。しかしながら、連帯保証であることを保証人が明確に認識できるようにすることが、とりわけ消費者等が保証人となる場合には望ましい。そこで、現民法どおり、連帯保証を例外として位置付けることとした。
2.第2項は、現商法511条2項に関するものである。同項においては、「保証が商行為であるとき」とされており、これには、保証人にとって保証が商行為である場合だけではなく、債権者にとって商行為性を有する場合を含むというのが判例19である。しかしながら、この判例は、非商人が保証を行う場合に、明確な意識のないままに連帯保証債務を負うことになる点で妥当でなく、現在では、むしろ、保証人にとって商行為である場合に限るとするのが通説である。商行為法WG報告書9頁も同様の立場を示している。
第1項について述べた趣旨からしても、この立場が妥当であると思われ、当然に連帯保証となるのは、保証が保証人にとって「商行為」であるときに限られることにすべきである。しかしながら、本検討委員会の提案では、民法中に「商行為」・「商人」といった概念を取り入れず、「事業者」・「事業」という概念を用いる予定であり、これに従った用語法とした。
3.第3項は、まず、Ⅲ-4-5を適用しないことは、現民法454条に対応するものである。
19大判昭和 14・12・27 民集 18 巻 1681 頁。
連帯保証の規律をまとめた方が理解に資すると考え、場所を移動した。
また、Ⅲ-4-6の定める適時執行義務については、連帯保証については適用されないこととしたが、これも現民法455条に対応するものである。連帯保証においては、債権者は、主たる債務者および連帯保証人のいずれか回収しやすい方から債権を回収する利益を有すると考えられるため、適時執行義務は課されない。
4.第4項以下は、現民法458条に対応する。現民法は、「第434条から第440条までの規定」のすべてを準用するが、保証債務の従属性から、この点では、条文の文言とはかなり異なった解釈がなされている。そこで、本提案では、提案ごとに検討し、個別的な規定を置くこととした。
なお、論理的に言えば、「適用しない」という条文と「準用する」という条文とが混在することは望ましくない。「準用する」というのは本来ならば適用されないことを前提にしているので、準用されない条文について、「適用しない」と書くことは不要だからである。しかし、ここでは、理解の便宜のため、双方について明記している。
(1)第1に、現民法434条に対応するⅢ-3-5である。これは、とりわけ債権時効につい
て問題となる。
まず、主たる債務者に対する履行請求が、保証人との間でどのような効力を有するか、については、本検討委員会の提案では、債権時効に関して詳細な定めがなされている(V-8
-4(3)、8-9(2)、8-10(2)、8-13(2)、8-14(4)、8-19(2)、8-27)。そこで、全面的にそちらに委ねることとした。そこで、現民法439条に対応するⅢ-3-6は適用しない旨を第4項に定めている。
次に、連帯保証人は、債務者の関与なしにも出現しうるところ、債権者がそのような連帯保証人に対して履行請求をしたからといって、債務者が債権時効の利益を失うのは妥当でない。したがって、連帯保証人に対する履行の請求は、主たる債務者に効力を生じないと考えるべきである。そこで、Ⅲ-3-5(1)の原則を連帯保証人に対する履行請求について適用することとした。
以上を定めるのが、第5項である。
なお、請求の意義は、債権時効についてだけでなく、一般的な付遅滞にも関連する。つまり、請求による期限の到来などについて、保証人に対しても効力を生じるか、という問題である。しかし、この問題は、Ⅲ-4-3(2)で規律される事柄であり、主たる債務の請求によって保証債務自体の付遅滞が生じないとしても、主たる債務について生じた遅延損害金等は、Ⅲ-4-3(2)によって保証債務の範囲に含まれることになる。いすれにせよ、個々で規定されるべき事柄ではない。
(2)第2に、現民法437条であるが、これは、主たる債務の免除は保証債務を消滅させるが、保証債務の免除は主たる債務に影響を及ぼさないと解されている。しかるに、Ⅲ-3- 7(1)は、免除について不訴求の意思表示だと捉えることを前提とし、相対的効力しか生じないとしている。したがって、保証については、別途規定することとした。
ただし、連帯保証人の一部に対する免除の他の連帯保証人に対する効力については、Ⅲ- 3-7(1)の規律が適用される。これは、いわゆる保証連帯であり、連帯債務の規律が適用されることについてはxxの必要はない。
以上を定めるのが、第6項である。
(3)第3に、現民法435条であるが、保証債務の更改が主たる債務に影響を及ぼさないことは明らかである。また、主たる債務の更改により、主たる債務が加重されても、保証債務は影響を受けない。逆に、Ⅲ-4-3(3)によって保証人の債務は縮減することになる。
また、主たる債務の弁済期を早める合意が、保証債務の成立後になされたときも、保証債務の履行期は変化しないと考えられている。他方、主たる債務について期限が猶予されると、保証債務の期限も猶予されるというのが判例20である。もっとも、後者は、Ⅲ-4-3の適用で説明できよう。
そこで、更改については、Ⅲ-3-8(1)が適用されることを示した上で、念のため、主たる債務の弁済期が早められた場合については、別個に明記することとした。
Ⅲ-3-8(2)が定める和解についても同様に考えることができよう。以上を定めるのが、第7項である。
(4)第4に、現民法438条の定める混同の規律であり、同条は、Ⅲ-3-9は維持されている。しかるに、混同の条文を準用することについては、「連帯保証人と債権者との間に混同を生じたときは、・・・・・・連帯保証人は、求償権を取得し、それに基づいて債権者の権利を代位行使することになる。かような規定がなければ、連帯保証人は保証債務を免れ、債権者となる。それで少しもさしつかえないのではないかと考えられる。」21との批判がある。この批判はもっともであり、主たる債務が混同により消滅すれば保証債務も消滅し、保
証債務が混同により消滅しても主たる債務は影響を受けないとするのが妥当である。
そこで、主たる債務者の債務についてのみⅢ-3-9を準用することとした。第8項である。
20 大連判明治 37・12・13 民録 10 輯 1591 頁。同旨、大判明治 40・6・18 民録 13 輯 668 頁、大判大正 9・3・24 民録 26 輯 392 頁。
21 xxx『新訂債権総論』501~502 頁(1964 年)。
(3) 根保証
Ⅲ-4-14(根保証契約の保証人の責任等)
(1)一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約または保証引受契約
(保証人が法人であるものを除く。以下「根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
(2)根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。 (3)Ⅲ-4-2(1)および(2)の規定は、根保証契約における第1項に規定する極度額の定め
について準用する。
* 465条の2(改正)
【提案要旨】
根保証契約について、法人が保証人である場合を除き、極度額の定めを要求するものである。
【解説】
1.現民法465条の2第2項では、「その債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれる」根保証契約のみについて、極度額の定めを要求している。しかしながら、このような貸金等根保証契約に規律が限定された趣旨は必ずしも積極的なものではない。
理由として説かれているのは、「根保証契約のうち、その主たる債務が継続的な売買取引に係る代金債務であるものや、不動産賃貸借に係る賃借人の債務であるものなど、有しに関するものではない根保証契約」を含み、「すべての根保証契約を対象としてその契約内容の適正化を図ろうとすれば」、「保証人保護のために採るべき措置として種々のものが想定され、そのような措置を講じた場合における取引への影響及びその程度を把握することも容易でないことから」、「その検討作業に相当の時間を要することが見込まれた」が、「融資に関する根保証契約について早急に措置を講ずる必要性が指摘されていたことを踏まえ、それ以外の根保証契約については、ひとまず適用対象から除外することとされた」ということである22。そして、立法時より、「根保証に関する実務では、根保証契約における主たる債務の定め方として、基本となる取引(例えば、継続的な売買取引)のほかに、その取引に付随して生ずる一切の債務が含まれるとしていることが、少なくないと思われる」ところ、そのようなものは、「仮に貸金等債務が生じた場合にはこれも保証の対象に含まれるようにすることを意図していると見られることが多いように思われ、「改正法が適用される可能性が高い」と指摘されていた23。さらに、平成16年に貸金等根保証契約についての民法の改正が審議された際の参議院法務委員会・衆議院法務委員会は、継続的
22 xxx=xxxx『改正民法の解説[保証制度・現代語化]』22~23 頁(2005 年)。
23 xx=xx・前掲書 26~27 頁。
な商品売買に係る代金債務や不動産賃借人の債務を主たる債務とする根保証契約についても、今後、保証人保護の措置を検討することを求める旨の付帯決議がなされている。
このような経緯に照らせば、現行法の規律範囲を再検討することが必要となるが、一般的に極度額の定めを含め、根保証契約における保証人の保護は、融資契約に係る債務の保証人に限定されるべき理由はなく、一般的に拡大すべきではないか、と思われる。
2.なお、この点で、継続的供給契約に係る債務の保証の場合と、賃貸借契約から生じる債務の保証の場合とで分けることも考えられないではない。後者は、無限定に債務額が増加することが比較的考えにくいからである。しかし、そうであるならば、債権者としてもかえって極度額を定めやすいのであって、後者についてとくに極度額の定めを不要とする理由はないと思われる。
また、法人が保証人となる場合については、現民法どおり、除外している。
Ⅲ-4-15(根保証契約の元本確定期日)
(1)根保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から5年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない。
(2)根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には、その元本確定期日は、その根保証契約の締結の日から3年を経過する日とする。
(3)債権者と保証人とは、根保証契約における元本確定期日の変更をすることができる。この場合において、変更後の元本確定期日がその変更をした日から5年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前2箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から5年以内の日となるときは、この限りでない。
(4) Ⅲ-4-2(1)および(2)は、根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その根保証契約の締結の日から3年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定
期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。
* 465条の3(改正)
【提案要旨】
根保証契約の元本確定期日について、現民法と同様の規定を置くものである。
【解説】
1.現民法465条の3は、貸金等根保証契約の保証人が負うことになる責任の範囲を、時間の経過という面から画することによって、保証人の予測可能性を確保することを目的としている。このことは、貸金等根保証契約の保証人に限らず、根保証人一般の保護のために必要な規律と思われる。
2.もっとも、たとえば、賃貸借契約から生じる債務を保証する場合には、一方では、
賃貸借契約期間中は保証が存続していることが必要とされ、他方では、無限定に債務額が増加することが比較的考えにくいことから、別途の規律にすることも考えられないではない。
しかしながら、まず、上記のような性質を有する保証は、賃貸借契約から生じる債務を保証に限られるわけではなく、必要な例外を適切に規定できるかも問題である。そして、賃貸借契約から生じる債務の保証においても、なお、保証人を長期に拘束することの問題はあり、また、必要な場合には、再度、保証契約または保証引受契約を締結することも可能である(賃貸借契約において、賃借人が、保証人を立てる義務を負っているときに、その義務を履行しないときには、債務不履行となる。)。そこで、例外は置かないことにしている。
3.なお、第3項は、現民法465条の3第3項が、「貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において」とし、変更が可能なのを当然視しているが、「債権者と保証人とは、根保証契約における元本確定期日の変更をすることができる。」と書くこととした。これは、本提案における根保証契約が、保証引受契約によるものを含むことに対応している。保証引受契約は、債務者と保証人との間の契約であるが、それによって、債権者の権利が発生した以上、もはや原則としては、債権者と保証人との間の合意で、その内容を変更すべきものと思われるからである。
ただし、保証引受契約において、要約者(債務者)と諾約者(保証人)との間で、変更権を留保しており、かつ、その旨を債権者に通知していた場合は別である(Ⅰ-11-7(1)参照)。いずれにせよ、どのような要件のもとで、債務者と保証人との間の合意で変更が可能なのかは、第三者のためにする契約の一般論に委ねられることになる。
Ⅲ-4-16(根保証契約の元本の確定事由)
次に掲げる場合には、根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。 (ア)債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする
債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
(イ)主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
(ウ)主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
* 465条の4(改正)
【提案要旨】
根保証契約の元本の当然確定事由について、現民法と同様の規定を置くものである。
【解説】
1.現民法465条の4は、貸金等根保証契約について、契約締結時には予想できなかった著しい事情変更に定型的に該当すると考えられる事由について、元本が当然に確定することとし、保証人の保護をはかったものである貸金等根保証契約の保証人に限らず、根保証人一般の保護のために必要な規律と思われる。
2.なお、平成16年の民法改正の過程において、いわゆる特別解約権についてxxの規定を設けるべきか否かが問題となり、また、参議院法務委員会の附帯決議においても、「保証人の保護の在り方については、契約締結後に事情変更があった場合の負担等にも配慮し、法施行後の実施状況を勘案しつつ、引き続き検討を行うこと」とされている。
しかしながら、著しい事情変更の考慮要素を根保証契約に即して明文化することは容易でなく、一般法理に委ねるか、あるいは、根保証契約に限らない一般規定として別個検討するかした方が妥当であると思われ、本提案でも規定は置かなかった。
Ⅲ-4-17(保証人が法人である根保証契約の求償権)
保証人が法人である根保証契約において、Ⅲ-4-14(2)に規定する極度額の定めがないとき、元本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更がⅢ-4- 15(1)若しくは(3)の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人で
あるものを除く。)は、その効力を生じない。
* 465条の5(改正)
【提案要旨】
保証人が法人であるために上記の各規定が適用されない場合につき、現民法465条の5と同様の規律を置くものである。
【解説】
現民法465条の5は、保証人が法人であるために上記の各規定が適用されない場合に、その保証人である法人が主たる債務者に対して有する求償権について個人を保証人とする保証契約を締結することによって、上記の各規定による個人保証人保護の諸規定を潜脱することを防ぐものであり、根保証一般について妥当する規律である。