Contract
裁判例に学ぶ
定期借家契約のポイント
平成28年7月
定期借家推進協議会
はじめに
ご案内のとおり、平成12年3月に創設された定期借家制度は、更新せず期間の満了により確定的に賃貸借契約が終了する画期的なものでしたが、普通借家契約とは異なる法律上の要件等があることから、施行当初、現場では、その運用等にはより慎重さを持って対応せざるを得なかったのも事実です。
一方、法施行後15年が経過しており、裁判例も徐々に蓄積されつつあることから、このたび本協議会では、定期借家制度の活用の参考となるよう、主要な裁判例を抽出し、ポイントをわかりやすく整理した解説冊子を作成いたしました。
円滑・適正な定期借家契約実務にお役立ていただければ幸いでございます。
なお、本解説冊子のとりまとめに、ご尽力いただきましたxxxx法律事務所の諸氏にはこの場をお借りして感謝申し上げます。
平成28年7月定期借家推進協議会会長 x x x
裁判例に学ぶ定期借家契約のポイント
CONTENTS
事例1 事前説明文書の形式 P3
事例2 事前説明の相手方 P4
事例3 事前説明の実施方法と内容 P5事例4 事前説明文書を作成交付して説明したことの証拠 P6事例5 契約書の記載文言の注意事項 P7
事例6 賃料不改定特約と、これに矛盾する特約 P8
事例7 賃料不改定条項と協議条項 P9
事例8 通知期間経過後の終了通知の効力 P10
コラム⑴ 普通借家契約と定期借家契約の違い P11
コラム⑵ 定期借家契約への「切替え」 P11事例9 終了通知を適切に行わなかった場合の法律関係 P12事例10 賃借人からの中途解約を禁止する特約の効力 P13事例11 借地借家法上無効な特約を推し進めた仲介業者の責任 P14事例12 定期借家契約と再契約条項 P15
凡例
【ポイント】……裁判例の内容をxxで要約したものです。
【判決年月日】…裁判所・判決年月日です。出展は省略します。
【事案の概要】…具体的な事実関係を示してイメージしやすくします。
【判決要旨】……判決の内容を引用し,要旨を示します。
【コメント】……判決から参考にすべきポイントです。
事例1
事前説明文書の形式
【ポイント】
事前説明文書は、賃貸借契約書とは別の独立した書面として作成し、賃借人に交付したうえで、契約締結前に説明を実施する必要があります。
【判決年月日】
最高裁平成 24 年9月 13 日判決
【事案の概要】
不動産賃貸等を業とする賃貸人と、貸室の経営等を業とする会社であり、本件建物において外国人向けの短期滞在型宿泊施設を営んでいる賃借人との間で「定期建物賃貸借契約書」と題する書面が取り交わされ、賃貸借契約が締結された。当該書面には、本件賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了する旨の条項があった。
賃借人は、事前説明がされていないことから本件賃貸借契約は普通借家契約であると主張したが、賃貸人は、本件賃貸借の締結に先立って賃借人に本件契約書の原案を送付し、賃借人はその原案を検討していたのだから、事前説明は適切に実施されていると主張した。
【判決要旨】
「法 38 条1項の規定に加えて同条2項の規定が置かれた趣旨は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃借人になろうとする者に対し、定期建物賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ、当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず、説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される。」
「以上のような法 38 条の規定の構造及び趣旨に照らすと、同条2項は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃貸人において、契約書とは別個に、定期建物賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上、その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。」
「そして、紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付を要するか否かについては、当該契約の締結に至る経緯、当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である。」
「したがって、法 38 条2項所定の書面は、賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。」
「これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件契約書の原案が本件契約書とは別個独立の書面であるということはできず、他に被上告人が上告人に書面を交付して説明したことはうかがわれない。なお、上告人による本件定期借家条項の無効の主張がxxxに反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。そうすると、本件定期借家条項は無効というべきである。」
【コメント】
事前説明文書の作成、交付、説明義務について最高裁が明確に判断を示した重要な判決です。定期借家制度を定める借地借家法の趣旨に従い、事前説明の運用は形式的、画一的に行うべきであるとされています。つまり、賃借人が定期借家契約について十分に理解している可能性があったとしても、事前説明文書を作成し、交付し、説明するという一連の手続きを取らなければ、定期借家契約としては認められないということになりますので、注意が必要です。
③
事例2
事前説明の相手方
【ポイント】
事前説明の相手方は、基本的には賃借人本人か正当な代理権を有する者に行わなければならないが、例外的にこれに準じた立場の者に対する事前説明でも許容される場合があります。
【判決年月日】
東京地裁平成 26 年 10 月8日判決
【事案の概要】
定期借家契約の締結にあたり、賃借人は建物における営業承認に係る所定書類の作成提出に関する業務を司法書士に委任していた。しかし、賃貸借契約締結に関する代理権を、当該司法書士は有していなかった。
賃貸人は、定期借家契約締結に向けて賃借人との間で交渉し、その内容について説明していたが、事前説明文書は賃借人に直接交付せず、上記司法書士に交付しており、当該司法書士から賃借人に交付された。
賃貸人が司法書士に対して行った事前説明と、事前説明文書の交付が、定期借家契約の要件を満たすか否か、争いとなった。
【判決要旨】
「借地借家法 38 条2項は、定期建物賃貸借契約の要件として、『書面を交付して説明する』ことを定めている。ここにいう説明とは、口頭でも書面でも良いが、当該賃借人を基準として、十分理解させる程度のものであることが必要というべきである。そして、賃借人が建物賃貸借契約の締結に当たって代理人を依頼している場合には、その代理人を基準に上記説明の有無を判断することになる。」
賃貸人「としては、それまで平成 17 年5月 30 日の説明会や」賃借人「との交渉を通じて定期建物賃貸借契約について説明してきている上、本件説明書を…司法書士に交付して書面による説明したのであり、その内容について説明義務を負う法律専門家である司法書士を通じてこれを交付しているのであるから書面による説明としてはそれで十分であったというべきである。」
【コメント】
代理人ではない司法書士に対して行われた事前説明と事前説明文書の交付が、借地借家法の要件を満たすとされた珍しい事例です。
賃貸人にとっては救済された事例ということができますが、本件のような場合、別の判断(事前説明が不十分であり、定期借家契約とは認められないという判断)がなされる可能性もあります。
代理権を確実に有していることが明確ではない場合には、必ず賃借人本人に対して事前説明を行い、事前説明文書を交付するほうが良いでしょう。
➃
事例3
事前説明の実施方法と内容
【ポイント】
定期借家契約を適法に締結するための事前説明では、条項をただ読み上げるだけではなく、定期借家契約の制度の概要を賃借人が正しく理解することができる程度の説明をする必要があります。
【判決年月日】
東京地裁平成 24 年3月 23 日判決
【事案の概要】
賃貸人と賃借人との間で、定期借家契約が締結され、これに先だって事前説明文書が作成、交付された。しかし、賃貸人が賃借人に対して行った事前説明は、説明書の条項の読み上げにとどまり、条項の中身を説明するものではなく、仮に条項内の条文の内容を尋ねられたとしても、「六法全書を読んで下さい。」といった対応をする程度のものであった。賃借人は、適切な事前説明がなされていないとして、普通借家契約が成立し、契約が法定更新されていると主張した。
【判決要旨】
「定期建物賃貸借契約の更新がないこととする定めが有効であるためには、賃貸人において、賃借人に対し、賃貸借契約締結前に、締結される建物賃貸借契約が、同法 38 条1項の規定による定期建物賃貸借契約であること、当該建物賃貸借契約は契約の更新がなく、期間の満了により契約が終了することを記載した書面を契約書とは別に交付するとともに、これを口頭で説明することを要すると解される(同条3項参照)。」
「説明書面を交付して行うべき説明は、締結される建物賃貸借契約が、一般的な建物賃貸借契約とは異なる類型の定期建物賃貸借契約であること、その特殊性は、同法 26 条所定の法定更新の制度及び同法 28 条所定の更新拒絶に正当事由を求める制度が排除されることにあるといった定期建物賃貸借契約という制度の少なくとも概要の説明と、その結果、当該賃貸借契約所定の契約期間の満了によって確定的に同契約が終了することについて、相手方たる賃借人が理解してしかるべき程度の説明を行うことを要すると解される。」
賃貸人が行った「説明は、一般的な賃借人において、定期建物賃貸借契約と言う制度の概要を理解できるものとはいえず」「これが理解できたと考えられる特段の事情も認められない。」
したがって、「本件賃貸借契約について、法 38 条2項所定の説明をしたと認めることはできず、原告と被告らの間の各本件賃貸借契約に係る契約の更新がないこととする旨の定めは、いずれも有効とは認められない」。
【コメント】
法が事前説明文書の作成や交付、説明を求めている趣旨は、法律の知識の乏しい賃借人が、定期借家契約のリスク、つまり確定的に契約が更新されないことについて十分理解しないまま契約を締結してしまうことを防止するためです。
定期借家契約の制度ができるまで、我が国の建物賃貸借契約において賃借人は強い保護を受けていました。定期借家契約は、契約当事者の意思を尊重し、その強い保護を一定程度緩めたものともいえるのですが、事前説明の制度は、これまでとは異なる制度を開始するにあたり、契約当事者が、契約の内容をきちんと理解したうえで契約ができるようにしたものです。
事前説明の内容は、決して複雑困難なものではありません。定期借家契約の内容を理解していれば説明は簡単ですが、手間だからといってこれを端折ってしまうと、結果的にその効力が認められないこともあるので注意が必要です。特に、高齢者や外国人に対しては十分な説明を行い、間違いなく「説明を受け、内容を理解しました。」という旨の署名捺印をもらっておくようにするべきです。
⑤
事例4
事前説明文書を作成交付して説明したことの証拠
【ポイント】
事前説明文書を作成交付して説明したことがあるかどうかが争いになった場合、賃貸借契約書の記載のみからこの事実を立証することは困難です。
【判決年月日】
最高裁平成 22 年7月 16 日判決
【事案の概要】
当事者間で「定期建物賃貸借契約xx証書」が作成された。当該xx証書には、賃貸人が、賃借人に対し、当該賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了することについて、あらかじめ、その旨記載した書面を交付して説明したことを相互に確認する旨の条項があり、その末尾には、公証人役場において本件xx証書を作成し、各自これを承認した旨の記載があった。
しかし、事前説明文書自体は証拠提出されていなかったため、xx証書の記載のみから、事前説明がなされ、文書が交付されたという認定ができるか否か、争いとなった。
【判決要旨】
「記録によれば、現実に説明書面の交付があったことをうかがわせる証拠は、本件xx証書以外、何ら提出されていない」。また、賃貸人は、「本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことについて、具体的な主張をせず、単に、」賃借人「において、本件賃貸借の締結時に、本件賃貸借が定期建物賃貸借であり、契約の更新がなく、期間の満了により終了することにつき説明を受け、また、本件xx証書作成時にも、公証人から本件xx証書を読み聞かされ、本件xx証書を閲覧することによって、上記と同様の説明を受けているから、法 38 条2項所定の説明義務は履行されたといえる旨の主張をするにとどまる。」
これらの事情に照らすと、賃貸人は、「本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しく、それにもかかわらず、単に、本件xx証書に上記条項があり、」賃借人「において本件xx証書の内容を承認していることのみから、法 38 条2項において賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に交付するものとされている説明書面の交付があったとした原審の認定は、経験則又は採証法則に反するものといわざるを得ない。」
【コメント】
事前説明文書は、確実に作成し、交付したうえで、事前説明を実施しなければなりません。さらに、この事実の有無が将来において争いになった場合には確実に立証できるように、証拠を残しておくことが必要です。
賃借人に交付する事前説明文書のコピーをとり、原本は賃借人に交付し、コピーに「この事前説明文書を受け取り、説明を受けました。」という趣旨の記載を入れた書面に賃借人の署名捺印をもらい、その原本を保管しておく必要があります。
事前説明文書を単に交付しただけでは、交付したことの証拠が残りませんので、注意が必要です。
⑥
事例5
契約書の記載文言の注意事項
【ポイント】
定期借家契約を締結する際には、必ず契約書を作成しなければなりませんが、その契約書に記載する文言は趣旨が明確でなければならず、特に「契約の更新がないこと」について、他の文言との矛盾があってはいけないので、契約書に、契約更新に関する条項が含まれていてはいけません。
【判決年月日】
東京地裁平成 20 年6月 20 日判決
【事案の概要】
賃貸人と賃借人は、建物賃貸借契約を締結した。当該建物賃貸借契約の契約書には、①契約更新に関する条項、および②「本契約は平成 12 年3月1日制定の定期借家制度に基づくものとする。」との条項の両方が定められていたため、当該建物賃貸借契約が定期借家契約と認められるか否かについて、争いとなった。
【判決要旨】
「借地借家法 38 条1項は、書面によって契約するときに限り、契約の更新がないこととする旨を定めることができることを規定し、同条2項は、かかる賃貸借をしようとするときは、賃貸人は、賃借人に対し、あらかじめ、当該賃貸借は契約の更新がない旨を書面により説明しなければならないことを規定するところ、その趣旨は、同条所定の定期建物賃貸借が建物賃借人の権利を大きく制約するものであることに鑑み、事前にその旨を明示すべきことにあり、したがって、契約書面上、契約の更新がない旨がxx的に明示されていることを要すると解すべきである。」「しかるに、本件賃貸借契約の契約書には、22 条3項に『本契約は平成 12 年3月1日制定の定期借家制度に基づくものとする。』との条項(本件特約)が存在する一方、同時に、
17 条に契約更新に関する条項が存在し、契約書面上、契約の更新がない旨がxx的に明示されているとはいえないから、本件賃貸借契約について、借地借家法38条1項は適用されないというべきである。」
【コメント】
定期借家契約を締結する際の契約書には、各種ひな形が用いられることが多いと思われます。適切なひな形をそのまま用いれば、契約書中で契約更新に関する矛盾した条項が含まれてしまう可能性は極めて低いです。
しかし、個別の賃貸借契約において、特約として条項を追加する場合には注意が必要です。たとえば、
「賃貸人が事前に通知しない場合には、契約は自動的に更新される。」というような特約を追加してしまった場合には、全体として定期借家契約と認められない可能性があるので、注意が必要です。
⑦
事例6
賃料不改定特約と、これに矛盾する特約
【ポイント】
定期借家契約において、賃料を改定しない旨の特約(賃料不改定特約)と、これに矛盾する内容の特約の両方を付してしまった場合、賃料不改定特約の効力が失われ、借地借家法に基づく賃料増減額請求が認められることになる場合があります。
【判決年月日】
東京地裁平成 21 年6月1日中間判決
【事案の概要】
賃貸人と賃借人との間で定期借家契約が締結されたが、その契約書には、賃料増減額請求について「甲(賃貸人)および乙(賃借人)は、賃料の改定は行わないこととし、借地借家法第 32 条の適用はないものとする。」
(特約A)と定められており、他方で、特約A「の定めにかかわらず、甲(賃貸人)および乙(賃借人)は協議のうえ、平成○○年○月○日に賃料を改定することができる。」(特約B)と定められていた。
賃貸人が賃借人に対し、賃料増額請求権を行使したが、賃借人は、上記の特約Aに基づいて賃料の増額請求権は排除されていると主張した。
【判決要旨】
「定期建物賃貸借は、平成 11 年の借地借家法改正において、建物賃貸借における私的自治ないし契約自由の原則尊重という基本的立場から、一定の要件の下に期間の満了により終了する(契約の更新のない)類型の建物賃貸借として導入された制度である。そして、法 38 条7項は、上記の基本的立場に立脚して導入された定期建物賃貸借における家賃の改定に関しても、当事者の合意を優先させることにより家賃の改定をめぐる紛争ないしこれに伴う訴訟を回避することを可能とする趣旨で設けられたものであるところ、その趣旨にかんがみれば、借賃改定特約は、家賃額を客観的かつxx的に決定する合意であって、経済事情の変動等に即応した家賃改定の実現を目的とした借賃増減額請求権の排除を是認し得るだけの明確さを備えたものでなければならないと解するのが相当である。」「したがって、『賃貸借期間中家賃の改定を行わない』旨の不改定特約、『一定の期間経過ごとに一定の割合で家賃を増額あるいは減額する』旨ないし『一定の期間経過ごとに特定の指標(例えば、消費者物価指数)の変動率に従って家賃を改定する』旨の自動改定特約は、借賃改定特約に該当するものということができるけれども、協議改定条項は、家賃額の決定に関する外形的方法を定めるにすぎず、改定後の家賃額を客観的かつxx的に決定するものとはいえないから、上記のような法 38 条
7項の趣旨に照らし、借賃改定特約には該当しないものといわなければならないし、家賃額の定めとともにされた単なる『法 32 条の適用はない』ないし『法 32 条の適用を排除する』旨の合意のみでは借賃改定特約に該当するものでない」。
特約Bは、「平成○○年○月○日以降の本件賃料につき本件約定の適用を排除する趣旨のものと解するのが相当である。」
【コメント】
定期借家契約の特長のひとつに、賃料増減額請求権を排除できるというものがあります。しかし、その旨を定める特約を適切に設定しなければ、増減額請求が認められてしまう場合があるので注意が必要です。単に「法 32 条の適用を排除する」というだけでは足りず、明確に「賃料増減額請求権を排除する」旨を定めなければなりません。
特に、賃料改定条項を入れてしまうと、賃料増減額請求権を排除していない、と解されてしまうので、注意が必要です。
⑧
事例7
賃料不改定条項と協議条項
【ポイント】
定期借家契約に賃料を改定しない旨の条項を入れたうえ、「当事者間で賃料を改定する合意ができた場合には賃料改定することができる」旨の条項を入れても、後者の条項は当たり前のことを定めたにすぎませんので、賃料不改定特約は有効です。
【判決年月日】
東京地裁平成 23 年3月 29 日判決
【事案の概要】
当該賃貸借契約においては、賃料の改定について契約書5条に規定があり、同条1項は、「前条に定める月額固定賃料および年額歩合賃料の歩率は、本契約期間中、増減しないものとする。ただし、次項に定める賃料改定協議が成立した場合には、借地借家法 32 条の適用を受けずに、賃料改定できるものとする。」と規定し、同条2項は、「月額固定賃料および年額歩合賃料の歩率については、本契約開始の日を起算日として満3年経過毎に、次条の共益費の増減、公租公課の増減、土地価格の変動、近傍隣地の建物賃料の変動等を考慮し、賃貸人・賃借人誠意をもって改定を協議するものとする。」と規定していた。かかる約定を前提として、賃料増額請求権の排除の効果が認められるかどうかが争いとなった。
【判決要旨】
「まず、本件賃貸借契約5条が法 38 条7項の規定する『借賃の改定に係る特約』に当たるかどうかについて検討すると、本件賃貸借契約5条1項本文は、『…月額固定賃料…は、本契約期間中、増減しないものとする。』と規定しているから、この条項が『借賃の改定に係る特約』に当たることは明らかである。そして、本件賃貸借契約5条1項ただし書及び2項は、原被告間に賃料改定協議が成立した場合に賃料改定をすることができる旨を規定しているのであるが、これは、契約の当事者双方が合意により契約内容を変更することができるとの極めて当然の事柄を定めたものにすぎず、この条項により、一方当事者の請求による賃料の増減について定めた法 32 条の適用の有無が左右されるものではないことも明らかである。」
【コメント】
民法の大原則である「私的自治の原則」は、賃貸借契約においても基本的に妥当します(ただし、合意があっても無効とされる「強行規定」には注意が必要です。)。
定期借家契約において、賃料増減額請求権を排除する特約は有効ですが、この特約があったとしても、賃料の増減について当事者間で合意ができれば、賃料の変更は当然に可能です。
当たり前のことを定めた条項があるだけで、賃料増減額請求権を排除する特約は無効とはならないということを示した裁判例です。
もっとも、当たり前のことを定めた条項は、あってもなくても同じということもできますし、条項の文言によっては思わぬ結果を招く場合もありますので、特約を設ける場合には、本当に必要かどうか、その文言が適切かどうかについては、慎重な検討をしたほうが良いでしょう。
⑨
事例8
通知期間経過後の終了通知の効力
【ポイント】
本来の通知期間中に終了通知を行わなかった場合でも、期間経過後に終了通知を行えば、終了通知をしてから6か月間が経過すれば、定期借家契約の終了を賃借人に主張することができるようになるのが原則です。
【判決年月日】
東京地裁平成 21 年3月 19 日判決
【事案の概要】
定期借家契約の期間満了の1年前から6か月前までの間に終了通知を行わず、通知期間経過後にこれを行った場合に、当該定期借家契約は存続するのか終了するのか、終了するとすればいつ終了するのか、という点が争われた。
【判決要旨】
「借地借家法 38 条所定の定期建物賃貸借契約においては、契約の更新がないことを有効に定めることが可
能であるから、契約は期間満了によって終了する。すなわち、賃貸人が借地借家法 26 条1項所定の更新しない旨の通知をしなくても、同項に基づいて従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされることはない。また、期間満了後に賃借人が建物の使用を継続し、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったとしても、同条2項に基づいて従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされることはないし、更新しない旨の明示かつ有効な合意が存在することから、民法 619 条1項に基づいて従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定(法律上の事実推定)されることもない(あるいは当然に推定が覆される)ものと解される。」
「他方、期間の満了によって直ちに賃借人が建物を明け渡さなければならないとすると、賃借人が期間を失念していたような場合には、代替する借家を見つけていないこともあり得るので、賃借人にとって酷な事態になりかねない。そこで、借地借家法 38 条4項は、契約期間が1年以上である場合には、期間満了の1年前から6か月前までの間に、契約が終了する旨の通知を賃貸人に義務づけ、賃借人に契約終了に関する注意を喚起し、代替物件を探すためなどに必要な期間を確保することとした。そして、通知期間内に通知を怠った場合には、これにより賃借人が不測の損害を被ることにもなりかねないので、賃借人を保護する観点から、賃貸人が通知期間後の通知をしてから6か月間賃貸借の終了を対抗することができないものとした。ただし、これは一種の制裁として賃借人による建物の占有が適法化されるものであるから、賃借人の側から契約終了を認めて契約関係から離脱することは自由にできるものと解される。」
「借地借家法 38 条所定の定期建物賃貸借契約のうち契約期間が1年以上のものについて、賃貸人が期間満了に至るまで同条4項所定の終了通知を行わなかった場合、賃借人がいかなる法的立場に置かれるかについては争いがあるところ、上記…で述べた定期建物賃貸借契約や終了通知の法的性格ないし法的位置づけ等に照らすと、定期建物賃貸借契約は期間満了によって確定的に終了し、賃借人は本来の占有権原を失うのであり、このことは、契約終了通知が義務づけられていない契約期間1年未満のものと、これが義務づけられた契約期間1年以上のものとで異なるものではないし、後者について終了通知がされたか否かによって異なるものでもない、ただし、契約期間1年以上のものについては、賃借人に終了通知がされてから6か月後までは、賃貸人は賃借人に対して定期建物賃貸借契約の終了を対抗することができないため、賃借人は明渡しを猶予されるのであり、このことは、契約終了通知が期間満了前にされた場合と期間満了後にされた場合とで異なるものではない、以上のように解するのが相当である。」
⑩
【コメント】
万が一終了通知期間内に終了通知を行わなかったとしても、これを行ってから6か月後には、定期借家契約の終了を賃借人に対して主張できるようになります。
もっとも、終了通知を行わないまま、あまりに長期間に亘って賃借人に建物を使用させ続けているような場合には、黙示の賃貸借契約の成立が認定される可能性もないとはいえないので、注意が必要です。
コラム⑴ 普通借家契約と定期借家契約の違い
普通借家契約と定期借家契約の主な違いは、次のとおりです。
メリットとデメリットを十分に理解し、賃貸人、賃借人双方に正確かつ適切に説明できるようにしておくことが必要です。
① 賃貸期間を明確に決める必要がある
普通借家契約では、契約終了期限を定めないことも可能です(期間の定めのない契約)。しかし、定期借家契約の場合には、「○○年○○月○○日」または「契約締結日から○年間」といったかたちで、明確に特定する必要があります。これをしないと、普通借家契約となってしまうので注意が必要です。
② 契約の更新がない
定期借家契約の最大の特徴です。これに矛盾する特約を設定してしまうと、定期借家契約とは認められません。
③ 立退料が要らない
立退料は、普通借家契約の法定更新等により立退く義務を負わない賃借人に、立退いてもらうために支払う金銭です。定期借家契約であれば、期間が満了すれば立退く義務が当然に発生しますので、立退料は必要ありません。
④ 賃料増減額請求権を排除できる
これにより、賃貸人は賃料が減額されてしまうリスクを考慮する必要がなく、明確な事業計画が立てられます。
⑤ 1年未満の契約が可能
契約期間の最短限度がありません。したがって、1日限りの定期借家契約も可能です。ただし、事前説明その他の要件は満たしている必要があります。
⑥ 特約がなくても賃借人からの中途解約が可能な場合がある
一定の居住用建物(借地借家法 38 条5項所定の建物)については、賃借人からの中途解約が可能です。これに反する特約は、無効です。
⑦ 契約書の作成、事前説明等の要件がある
普通借家契約は口頭の合意でも成立しますが、定期借家契約を締結するためには書面、つまり契約書の作成が必要です。ただし必ずしもxx証書による必要はありません。
事前説明文書を作成し、交付したうえで説明することも要件とされており、これらを適切に履践しないと普通借家契約となってしまいますので、十分な注意が必要です。
コラム⑵ 定期借家契約への「切替え」
現在普通借家契約が締結されている建物について、賃貸人の立場からすれば、定期借家契約に変更したいという希望をもつことが考えられます。賃借人がこれに応じてくれれば、現行の普通借家契約を終了させて、あらたに定期借家契約を締結すること、すなわち切替えができるのでしょうか。
結論としては、平成 12 年2月末日までに居住用の建物について締結された普通借家契約を、定期借家契約に切替えることできない、ということになっています(良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法附則第3条)。
借地借家法改正に伴う経過措置において、定期借家契約の意味や法的効果を十分に理解しないまま切替えに応じてしまった賃借人が不利益を受ける危険を避けるという趣旨で、「当分の間」は切替えが禁止されています。
「当分の間」がいつまでなのかということについては、残念ながら明確な基準は示されておりませんが、少なくとも現時点においては、禁止されています。
他方、事業用の建物(店舗等)については、切替えが認められています。
⑪
事例9
終了通知を適切に行わなかった場合の法律関係
【ポイント】
借地借家法上、終了通知を適切に行わなかった場合、賃貸人は賃借人に対し、賃貸借契約の終了を「対抗できない」と定められていますが、その具体的な意味は、賃貸借契約が存続しているということではなく、契約終了に関わる具体的な効果(明渡請求、遅延損害金請求等)を賃借人に主張することができないということにとどまります。
【判決年月日】
東京地裁平成 25 年1月 22 日判決
【事案の概要】
本件賃貸借契約は、平成 22 年1月 31 日に期間満了日を迎えたが、賃貸人と賃借人の双方とも再契約を結ぶことを想定しており、このため、賃貸人は賃借人に対し事前終了通知をしなかった。しかし、再契約の締結のための交渉が膠着し、結局、再契約の話は宙に浮いたまま、上記期間満了後も賃借人が事実上本件貸室の使用収益を継続するという状態が続くこととなった。
その後、賃貸人が賃借人に対し、1週間以内に未払賃料等を支払わないときは本件賃貸借契約を解除する旨の本件解除の意思表示をしたが、そもそも上記期間満了後の賃貸借契約の存否が争いとなった。
【判決要旨】
定期借家契約の期間満了に際して適切に終了通知を行わなかった場合「賃貸人…は、本件賃貸借契約の期間満了による終了を『建物の賃借人に対抗できない』」。
「定期建物賃貸借が、その期間満了後において、賃貸人と賃借人の合意に基づく再契約が成立する場合は別 として、およそ契約の更新を予定するものでないことは、定期建物賃貸借という制度の存在理由自体から明らかであり、その趣旨は、借地借家法 38 条4項本文の適用により、賃貸借の終了を賃借人に対抗することができない場合にも及ぼされるべきである。したがって、同項所定の事前終了通知が履践されていない場合であっても、賃借借契約自体は期間満了により確定的に終了し、ただ契約終了に係る具体的な効果(明渡請求、明渡遅滞に係る約定損害金請求等)を賃借人に主張することができないにとどまると解するのが相当である。」賃貸人「は、従前の賃貸借契約があたかも継続していると考えるべきであると主張するが、それでは契約 の自動更新を認めたに等しく、更新を認めない定期建物賃貸借制度の根幹に反するといわなければならない。また、賃借人は建物を権原なく占有する者として賃料相当額の不当利得返還義務を免れないのであって、こ
のような法律関係を全体としてみた場合に、賃貸人に特に酷であるともいえない。」
【コメント】
終了通知を適切に行わなかったとしても、定期借家契約が自動的に更新されるとか、期間が延長されるということは、基本的にはありません。終了通知を行ってから6か月後には、賃借人に対して契約の終了を主張することができるようになります。
もっとも、終了通知を行わないまま、あまりに長期間に亘って賃借人に建物を使用させ続けているような場合には、黙示の賃貸借契約の成立が認定される可能性もあるので、注意が必要です。
⑫
事例10
賃借人からの中途解約を禁止する特約の効力
【ポイント】
借地借家法 38 条5項が定める、居住用建物に関する中途解約特約は強行規定であり、これに反するような特約を定めても賃借人に不利なものは無効となります。
【判決年月日】
東京地裁平成 20 年9月 25 日判決
【事案の概要】
賃貸人と賃借人は、定期建物賃貸借契約を締結した。本件賃貸借契約には、「中途解約の場合、契約期間の残金を支払った場合に限り、解約できる。契約期間残金を支払わない場合の中途解約は事由の如何を問わず一切主張できない。」との特約が付されていた。なお、賃貸人は、賃借人に対し、本件賃貸借契約の内容を十分に説明して契約書控えも交付していた。賃借人は、本件賃貸借契約の契約期間中に荷物を搬出して貸室から退去したが、残存期間の賃料等について支払わなかった。そこで、賃貸人は、契約期間満了までの賃料等残金相当額の支払を求めて提訴した。
【判決要旨】
「本件賃貸借契約は『期間の定めがある建物の賃貸借』であり、『契約の更新がないことを定め』たものであること(借地借家法 38 条1項)、また、200 平方メートル未満の居住用建物の賃貸借であること(同条5項)がいずれも明らかであるところ、かかる契約については、借地借家法において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができ、この場合、建物の賃貸借は解約の申入れの日から1か月を経過することによって終了するものと定められており(同法 38 条5項)、これに反する特約で建物の賃借人に不利なものは無効となる(同条6項)。」
「これを本件賃貸借契約についてみると、賃借人である被告において中途解約ができない旨の規定(中略)や契約期間の残金を支払った場合に限り中途解約ができ、契約期間残金を支払わない場合の中途解約は事由の如何を問わず一切主張できない旨の規定(中略)が置かれているところ、これらは、いずれも上記借地借家法 38 条5項の規定に反する建物の賃借人に不利なものであるから、無効といわなければならない。」
なお、原告は、これらの規定を無効とすることは契約自由の原則等に反する旨を主張するが、借地借家法 38 条6項によれば同条5項はいわゆる片面的強行規定であると解され、原告の主張は理由がない。
【コメント】
200 平方メートル未満の居住用建物の定期建物賃貸借契約について、借地借家法は、「転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき」には、賃借人は解約の申入れをすることができるとしています。
この定めに反する特約(本件の場合のほか、たとえば1か月前告知を3か月前告知に延長するようなものが考えられます。)は、賃貸人・賃借人の双方が十分に了解していたとしても無効となってしまいます。特に、そのような特約が有効であるかのような説明をしてしまった場合、賃貸人との関係で、仲介業者が責任を問われる場合もありますので、注意が必要です。
⑬
事例11
借地借家法上無効な特約を推し進めた仲介業者の責任
【ポイント】
定期借家契約において、賃貸人からの中途解約権を認める特約は無効と考えられますが、仲介業者がその特約を含む契約書を作成し、無効であることを賃借人に説明せずに賃貸人の意向に従って中途解約を申し入れるなどした場合には、仲介業者には専門家としての責任が発生することがあります。
【判決年月日】
東京地裁平成 25 年8月 20 日判決
【事案の概要】
大手不動産仲介業者を介して定期借家契約を締結した賃貸人が、当該契約中の中途解約条項に基づいて、賃借人に中途解約を申し入れた。賃貸人からの中途解約条項は借地借家法に抵触し無効であるから、賃借人は中途解約に応じる必要はなかったが、仲介業者はこのことを賃借人に伝えなかった。
賃借人から、仲介業者が無効な中途解約条項を含む契約書を作成した責任、中途解約条項が無効であることを賃借人に説明しなかった責任などが問われた事案である。
【判決要旨】
「定期建物賃貸借契約である本件契約において、賃貸人に中途解約権の留保を認める旨の特約を付しても、その特約は無効と解される。」
仲介業者の担当者は、本件特約が無効になり得るものであると認識していた旨述べるが、本件契約当時、賃借人及び賃貸人に対してその旨を正確に理解できるように説明を尽くしたということはできない。また、仲介業者は、賃借人に対し、賃貸人から本件契約の解約申入れがあったことを無条件に伝達し、その後も本件特約の意味及び効力について具体的に説明したとの事実も認められない。このような仲介業者「の対応は、無効な本件特約に基づいて」賃借人「に履行を求めるものであって、専門の仲介業者として慎重さを欠いたといわざるを得ず、違法性を否定できない。」
【コメント】
賃借人の請求金額に対しては少額の判決が下されましたが、仲介業者の責任を認定した珍しい事案です。
仲介業者としては、仮に賃貸人や賃借人から依頼されたとしても、無効であることが明白な特約を設けることは避けなければなりません。その際、当該特約がなぜ無効となるのかについて、きちんと説明をすることができるだけの知識を持っておくことが重要です。
ただし、賃貸人からの中途解約条項が借地借家法に抵触して無効となるかどうかについては、これを有効と考える説もあります。
⑭
事例12
定期借家契約と再契約条項
【ポイント】
定期借家契約を締結する際、自動更新条項等、定期借家契約の性質と矛盾する特約を設けてはなりませんが、単に「再契約することができる。」旨を規定する条項を規定しただけであれば、定期借家契約として認められます。
【判決年月日】
東京地裁平成 21 年7月 28 日
【事案の概要】
賃貸人と賃借人との間で建物賃貸借契約が締結された。当該契約書には、「平成 16 年 12 月 12 日から平成
19 年 12 月 11 日までの3年間。本契約は、上記期間の満了により終了し、更新がないが再契約可。再契約に合意する毎に、契約を7回する事が出来ること」との記載があった。また、「甲と乙は、本物件について借地借家法第 38 条、に定める契約の更新のない定期建物賃貸借契約を締結するものとする。」、「期間の満了をもって本契約は終了し、更新がない。但し、甲及び乙は、協議の上、本契約の期間の満了の日の翌日を始期とする新たな賃貸借契約(以下「再契約」という。)を締結することができる。本契約が終了するまでに甲乙間に再契約が成立しない場合に於いては、本契約は終了し、本契約終了日までに乙は本物件を甲に明け渡さなければならない。」との規定があった。
当該賃貸借契約が定期借家契約と認められるか否かが争いとなった(ただし、賃借人側の主張としては事前説明が適切になされていないというものだった。)。
【判決要旨】
「法 38 条2項が設けられた趣旨は、賃貸人に同条項の義務を履行させることにより、賃借人に意思決定のための十分な情報を提供し、賃借人が契約の更新がないことを十分に理解しないまま定期借家契約を締結することのないようにすることにあると解せられるところ、本件再契約の記載は、被告に7回もの再契約の期待を抱かせるものであって、このような記載がある以上、被告に更新がないことを十分に理解させてことにはならず、原告が法 38 条2項の義務を履行したとは認められないと解する余地もないではない。」しかし、賃貸人は、賃借人からの「再三にわたる普通の賃貸借契約書による契約の締結の要望に対し、これを拒否する対応を取ったというのであるから、更新しないとの合意がなければ」賃貸人には「本件賃貸借契約を締結する意思がないことは明確に示されていたものである。そして、再契約の回数についての交渉が、この明確に示された意思を踏まえて行われたものであることは…明らかであるから、上記交渉過程において、再契約の合意が成立しない限り契約は終了するとの」賃貸人「の意思は、明確に示されていたというべきであって」、賃借人が、「本件再契約の記載により、再契約の期待を抱いたとしても、契約の更新がないことの合意についての説明が不十分であったとは認め難い。したがって、本件再契約の記載は、本件説明書面の交付、説明により、法 38 条2項に定める義務の履行があったとの上記認定を左右するものではない。」
【コメント】
普通借家契約と比較して賃借人に不利と考えられている定期借家契約の締結にあたっては、事前説明によって、賃借人に十分な情報を与えることが必要とされています。
本件は事前説明が十分であったとの認定をされていますが、そもそもトラブルを未然に防止するためには、賃借人の誤解を招くような説明や契約の記載は避けるべきでしょう。
⑮
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