ただ、消費者契約法第4条第3項の現在の列挙事由で足りないかは、立法事実にも関わる問題となり得る。例えばJKビジネス等は、退去妨害等は認定できないものの、もっと もらしい言葉等で追い込んでさせる契約として、若年層を中心に深刻な被害が増加する可能性が今後もあると思う。深刻な被害が生じる場合に、消費者契約法が機動的に発動で きることをコンセプトとして目指せないか。
第7回 消費者契約法改正に向けた専門技術的側面の研究会議事要旨
1.日 時:令和元年7月23日(火)13:00~15:00
2.場 所:中央合同庁舎第4号館共用第3特別会議室
3.議題
1)いわゆる「つけ込み型」勧誘について
2)契約条項の事前開示及び情報提供の考慮要素について
3)意見交換
4.出席者
(委員)
xx委員(座長)、xx委員(座長代理)、xx委員、xx委員、xx委員、髙橋委員、xx委員、xx委員、xx委員、xx委員
(事務局)
xxxxx、xx消費者制度課長
(オブザーバー)
国民生活センター、法務省、最高裁判所
5.議事概要
前回に引き続き、いわゆる「つけ込み型」勧誘について委員間での意見交換を実施した後、契約条項の事前開示及び情報提供の考慮要素について事務局から資料の説明を行い、委員間での意見交換を実施した。概要は以下のとおり。
【意見交換】
第6回資料2.第2 について
○ 第6回研究会資料2の9頁以下の「『浅慮』という心理状態に着目した規定」は、クーリング・オフなどを参考に取消権の拡張を図る可能性を提示していると理解している。しかし、専らインターネット販売をする事業者や、会員制等の顧客情報が分かる形で売買を行う事業者のように、自主的にキャ
ンセルを受け付けている事業者は対処できる一方、そうでない事業者はかなりのインパクトを受けるはずで、競争上の不利益を受ける可能性があり、配慮が必要と考えられる。
また、事務局案はイギリスのクーリング・オフ類似の規定も参考にしたものと理解しているが、当該規定は主に返品に係るコストが僅少なデジタルコンテンツを想定しているはずであり、事業者と消費者の間の取引一般と対比することが適切かどうかは慎重な検討が必要である。
○ 浅慮という心理状態への着目から議論が出発し、第4回事務局案は浅慮を作出する行為を要件とする取消権を設けるという提案になった。その中でも、今回の提案は検討時間を不当に制限する場合に着目しているが、時間的制限でなくとも浅慮を作出する行為はあると思われ、検討時間の制限を例として挙げるのは良いが、それだけでは狭過ぎるのではないか。浅慮を作出した場合一般に取消権を認めるほうが、もともと議論していた心理状態に着目して取消権を認めるという趣旨には合うと思う。
○ 確かに上記の指摘は重要ではあるが、他方で、事務局案は、浅慮という心理状態が様々考えられる中で、判断するために十分な時間が与えられないために浅慮が作出されるという点に着目して提案されたものであろう。判断力が環境等によって一時的に低下してしまうような状態になることがあり得るところであり、そのような状態になったとしても一定の時間を置けば合理的な判断ができる場合があることに着目して新たな規定を設けるのであれば、クーリング・オフとのバランスを考えるのはあり得る考え方ではないか。
○ 誤認は詐欺の拡張、困惑は強迫の拡張として議論してきたが、浅慮という概念自体が今までは意思表示の瑕疵として考慮していないものであるため、定義や意思表示の瑕疵規定の中での位置付けを詰める必要がある。
クーリング・オフ類似の制度の導入についても、クーリング・オフ制度自体が必ずしも意思表示の瑕疵の観点から制度化しなければならないものではないため、消費者契約法の中での位置付けを検討する必要があると思う。
○ 浅慮については慎重に考える必要がある。なぜなら、幻惑・混乱の場合はそうした状態を作出する者がいる一方、浅慮は消費者自身がよく考えておらず、事業者側に責任がない場合もあり得るからである。浅慮により生じうる消費者の不利益については何らかの手当が必要な場合もあるが、浅慮と取消権と結びつけることには極めて慎重な検討を要する。
○ 事例3や、ホテルの予約画面等で残数が減っていく表示をするなど、事業者が一定の作為をして、消費者が十分な判断なしに契約に追い込まれる類型は不当であり、取消しの対象にすべきであるが、これだけが浅慮であるかのような規定は狭すぎるのではないか。事例3を救済するのであれば、しかるべき類型として定めた上で、それ以外の浅慮の状態に追い込む行為を一般化して条文化できるのであればその方が良い。
消費者は、事業者の働きかけがなくても浅慮の状態になり得ることを踏まえると、浅慮に陥れるところを重視すべきである。あるいは、消費者が浅慮の状態にあることをあらかじめ認識した上で、それを不当に利用するなど、事業者の悪質性が分かるような要件をつけないと難しいと思う。
○ 上記の指摘は重要である。時間の制限という括り方は、クーリング・オフの効果に着目して導き出されたようにも思える。例えば、特典を強調しつつ時間を制限する場合等もあるため、時間の制限のみに着目することには問題意識を持っている。
また、時間があれば契約しなかったというのは後付けの議論のようにも思われ、それのみに立脚した立論は少々危険だと感じる。
○ 事例3は浅慮といえば浅慮だが、困惑類型など他の類型にも当てはまる可能性があり、必ずしも浅慮という類型のみに着目する必要はないと思う。
○ 事務局案では事業者の一定の行為を要件にしているが、事業者が一定の行為を行わない場合でも、消費者の注意が削がれたり、思考の範囲が狭まっている状態にあることを知りながら、それを利用して契約を締結する類型も併せて挙げたらどうか。利用するという要件を書き込むかは検討を要する。
○ 浅慮の原因が本人の勘違いであれば誤認、不安をあおっていることであれば困惑になると思うので、規定案が新しい類型を取り込む趣旨であれば、既存の類型に該当するものを除いてもなお残るものについて、より厳密に検討する必要があると思う。
その上で浅慮として何が残るかというと、一時的に判断が阻害されており、ある程度時間を置いて考えさせることで治癒する性質の精神状態ではないかと考えたが、検討していただきたい。
○ クーリング・オフとの組合せは、特商法の通信販売の場合の規律と関連し
て出されていると思うが、特商法の規律は広告で明確に書いておけば除外できるという規定ではなかったか。任意のクーリング・オフ等との組合せが、任意のクーリング・オフによって基本的に保護されるのであれば取消権を制限するという形で任意のクーリング・オフと取消権の調整を図る趣旨か、任意に取消権や熟慮機会を制限する規定を設けていればそちらが優先されるという趣旨かでは、大分方向性が異なると思う。通信販売の規定は後者であるが、これは、通信販売の場合は実物を見ることができないために購入対象の把握が不十分な点を捉えているので、必ずしも浅慮概念と合うわけではないと思う。
また、それぞれ思い描く浅慮概念が大分違う印象があるため整理する必要がある。例えば、オンライン約款の例も意思決定自体には一定の熟慮があると見ていると思う。浅慮概念の整理の関係で、クーリング・オフとの組合せの問題も考えておく必要があるのではないか。
○ 資料の10頁下部で特商法の通信販売の例を挙げているが、あくまでも類似の制度としての紹介であり、これをなぞらえる趣旨ではない。通信販売の規定は、解除権という形で消費者保護を原則とした上で、特約を設けた場合には事業者有利の扱いをすることでバランスをとっているが、事務局案は、任意のクーリング・オフを設けた上で取消権と調整をするものであり、両者は異なるものと考えている。
○ この規定は判断を急がせる類型を念頭に置いており、判断を急がせることが浅慮を作出する行為であると捉えている印象を受ける。そのように限定しているならば一定の類型化が可能になると思うが、浅慮という言葉は使わないほうが混乱しないのではないか。例えば、契約を不当に急がせる、又は、決断を不当に急がせる行為とすべきであり、事業者の行為に着目して取消しを認めないと機能しないと思う。
そして、クーリング・オフは一定の外形的な取引類型に合わせて一律で与えられるものであるから、契約を急がせるという定型化されていない行為類型はクーリング・オフには馴染まない気がする。
〇 事務局案は、事業者の勧誘行為に着目をして浅慮を推定する建前にし、クーリング・オフが付与されている場合に逆には熟慮したことになるという構想かと思う。
ただ、浅慮の定義や着目すべき事業者の勧誘行為はそもそもの問題として詰める必要があるだろう。
○ 幻惑について、被勧誘者の関心や高揚感をあおって契約させる類型が取り上げられているが、後々の検討で誤認等に置きかえる提案されている。ただ、一定の事実関係等についての誤認が要件になると、高揚感や幻惑とは状態が異なり、適用範囲が狭くなってしまうのではないか。
およそあらゆる商品を買うときには何らかの高揚感を伴うため線引きが難しいとは思うが、高揚感を利用して販売する行為に取消権を置くことには意味があるため、適用範囲が狭くなり過ぎないようにしたい。
そして、婚活サイトの事例は本当に規定案のような条文で取り消せるのか。少なくとも誤認が必要だとすると、難しいと感じた。
○ xxの検討会を踏まえると、困惑や誤認の手法と併せて相手方が十分に思考できない状態を作出する、あるいはその状態を知りながらつけ込んで契約させる場合が幻惑の典型例である。そのような状況を取り込む場合には、浅慮の定義の議論と併せて、困惑、誤認として捉えられるものを拡張する方向性もあり得ると思われる。
また、悪徳商法では誤認と困惑を併せて用いるタイプも良くある。この点、現在の消費者契約法は誤認類型と困惑類型が分けられていることから、両方の手法が用いられている場合は、一般条項の公序良俗等を使わざるを得ない状況があるため、これに対処できる規定を置くことが望ましいのではないか。
○ 上記の指摘はいずれも重要である。まず、全く同じ商品でも利益を強調することも不利益を強調することもできるので、不利益を告げる困惑と利益を告げる幻惑はコインの表裏の関係である。そうすると、そもそも幻惑と困惑の区別が消費者保護にとってどの程度の意義があるのか不明瞭に感じる。
その点、不利益のみについて規定している現在の困惑類型を、利益についても対象に含むように拡張する。また、浅慮についても、浅慮一般ではなく
「時間を区切って消費者を意図的に焦らせている場合」に限定して言えば、時間を不当に区切ることにより「消費者を困らせて惑わせている」との解釈のもと困惑類型に組み入れることも可能ではないか。検討の価値はあると思う。
○ 事例4について、投資用マンションを事例として出すと、価値が高くなる場合文句は言わないがそうでないから文句を言うのだという疑いを持ってしまうため、事例の作り方を工夫すべきである。事業者がプラスのことを言って商売することは普通のことに思われ、幻惑類型を特に取り上げるより解釈
の中に含めるほうが、収まりが良いと思う。
○ 事例4は、消費者契約法第4条第3項第3号イの「結婚…その他の社会生活上の重要な事項」に当てはまるのではないかと思われるため、困惑の解釈によって対応する形が可能なのか。
○ 事例4は、現行法で捉えることが難しい類型と考えている。結婚という契約に関係ない期待をあおっているため、消費者契約法第4条第3項第3号柱書の「不安をあおる」では読みづらいように思われる。
○ 事例4は、困惑か浅慮か幻惑かというよりは、むしろ現行法の困惑規定が
「不安をあおる行為」のみに絞っていることが問題となるのではないか。
○ 現行法で捉えることが難しいのはそのとおりだろう。14頁にある「対象となる事業者の行為」の規定案はこれを捉えようとしたものであり、事例4では結婚等が願望になるということだろう。
○ 事例4は、願望が実現する旨を告げる行為は必ずしも行われていないように思われ、14頁の規定案で事例4を救えるかは疑問がある。
第6回資料2.第3 について
○ 事務局案の「当該消費者が当該消費者契約を締結しないことを著しく困難にする行為」は広い概念に思われるが、困惑という心理状態が要件となるため無限定に広がるわけではない。また、締結しないことが困難という文言は、全ての困惑類型に共通するコンセプトを上手く表しているのではないか。
他方で、業法とのリンクはアイデアとしては魅力的だが、困惑と親和的とされる具体的な関連法制を見たときに、それほど広がらないのではないかと思ったため、前者の方向で模索できないか。
ただ、消費者契約法第4条第3項の現在の列挙事由で足りないかは、立法事実にも関わる問題となり得る。例えばJKビジネス等は、退去妨害等は認定できないものの、もっともらしい言葉等で追い込んでさせる契約として、若年層を中心に深刻な被害が増加する可能性が今後もあると思う。深刻な被害が生じる場合に、消費者契約法が機動的に発動できることをコンセプトとして目指せないか。
さらに、事務局案では概念として広過ぎるという批判が出る場合は、対象を生命・身体・重要な財産の得喪という重要性の高い契約類型に絞り、違法性が高い、被害が深刻な事件に汎用性が高い類型を追加する方策も考えられるのではないか。
最後に、消費者問題を解決する基盤法の整備という観点からは、悪質な事件に対応できるよう、行政的規制や刑事的規制も含め、消費者取引一般で円滑に行政や刑事が動けるシステムの整備を将来的な課題として検討する必要があると思う。
○ 消費者契約法第4条第3項が行為を要件としているため、包括規定の案も行為の形式になっているのだと思うが、事業者側の作出行為がなくても消費者の一定の心理状態を知りながら契約を締結する場合も対象にできる包括規定のほうが良いのではないか。
○ 事例6と7について、7は困惑類型の拡張版として比較的収まりが良いが、
6はどこに着目するかで整理が変わるのではないか。
具体的には、「今日の15時までに」の部分は、検討時間の制限と同じ類型と思われる一方、末期がんの患者で藁にもすがる思いであると知りながらつけ込む場合、単なる時間制限とは異なる類型と思われ、着目点を良く考える必要がある。
〇 事例6は不安をあおっているかどうか不正確に思われる。例えば、「この手術を受けないと治らない」と医者が言えば、「不安をあおる」に当たると思うが、「免疫療法で治る可能性がある」と言うだけでは「不安をあおる」とは必ずしも言えない。「これをやれば治る」と「これをやらないと治らない」では、不安か願望かの違い及び論理的な言明の違いはあれど、消費者の感覚からすれば類似の内容を言われていることになるのではないか。事例6の救済としては、消費者契約法第4条第3項第3号をより包括的にする方法もあると思う。
○ 事例6は、占いサイトで非常に高額のお金を払わされるような消費生活相談で多い類型に似ており、金額で不当性の線を引けないとしても、行為に着目して救済ができるかという問題である。
○ 占いサイトの例は、一部は詐欺等でも取り上げられるかもしれないが、現状の民法等の建付の限界を示していると見ることもできる。つまり徳島の検
討会で整理したように意思表示の瑕疵は誤認類型か困惑類型か、あるいは浅 慮になろうが、埋没費用に関してもったいないと思う人間の心理を悪質商法に利用している場合には、意思表示の瑕疵やクーリング・オフのような特別法も該当しづらく、公序良俗の一判断要素にするぐらいしかないと思われる。ただ、この部分の立法化は一般条項以外では難しいと思われ、民法上取り
上げるのが難しい類型の全てについて、消費者契約法で考えていくべきなのかも検討する必要がある。
○ 事務局案は、当該消費者が消費者契約を締結しないことを著しく困難にする行為を包括的規定として加えて、業法とリンクをさせてある程度特定するものだが、この方向性自体が難しいということか。
○ 包括規定を設けるべきとの意見が従来からあり、深刻な事案に対応できる汎用的な規定が一番良いとは思うのだが、事務局案は困惑類型が増えたことを踏まえこれを包括する形でのつけ込み型取消権として考えたもの。
意思表示の瑕疵の観点からは、本来的には困惑があるから取消しができるという整理も方向性としてはあり得ると考えている。
ただ、現在の消費者契約法では不退去や監禁等の一定の場合に限定して困惑としているため、いきなり限定なく困惑したら取消しという規定にすると、規範として機能するかという問題がある。そこで、困惑該当性の判断の取っ掛かりとして行政規制を参酌する枠組みができれば、行為態様の予測可能性も出るため規範として機能すると考えた。
他方で、こういう形で困惑類型を拡張することが本当に良いかは別途議論があり得る。現行の困惑類型を統一的に捉えることが難しくなってきており、困惑類型の包括的規定という方向性自体に無理があるのであれば、方針を見直さざるを得ないと考えている。
○ 困惑類型の出発点は強迫の拡張で、強迫の場合は恐れるという心理状態であれば第三者が行っても取り消せることとしているのに対して、消費者契約法では強迫における畏怖より心理状態が軽くても救済するということで相手方が行った場合に取消しを限定しており、相手方の行為に着目した面はあると思う。したがって、何らかの形で相手方の行為を捉えないと、従来の民法の考え方とのバランスの観点からは広がりの影響が大きいと感じた。
○ もう一つ事例6の類例として、包茎手術に関わる苦情も大変多い。手術台の上に横たわった段階で、これだけ払えば痛くない施術になると告げて高い
値段に切り替えさせるタイプであり、判断するゆとりを与えないで契約をさせる点で共通している。そこで、十分な判断をする機会を与えないという形で類型化すれば、かなりの部分がカバーできるのではないか。
○ 浅慮概念に関連して、判断力の低下にも様々なレベルがあると思われる。特に高齢者等は段階的に能力が失われていく中で、ある程度時間を置けば本人でも気づける、又は、人に相談をするチャンスがあれば考え直せるレベルの判断力の低下の段階もある。
その意味で、判断力の低下についての規定も、浅慮や困惑の一般類型化の話と連続的な問題があると思うため、消費者のいかなる心理状態に着目して保護を与えるかについて議論を整理する中で、高齢者の心理状態についても整理ができれば良いと思う。
○ 上記の指摘の中で、判断力の低下、浅慮・幻惑、困惑の3項目が全体として1つのテーマであることが改めて明らかになったと思う。少なくともある程度後追いではない形で対応できる包括的規律を設けるという観点から、最後は現実的なところに絞り込む必要があるのではないか。浅慮や幻惑のより中核だけを捉えて包括的な規定を置くのか、あるいは統合する形で置くのかという選択肢が示されたと思うが、事務局案の業法とリンクさせることで限定をかけるというアイデアは、他の規定ぶりが現実的に上手くいかない場合の選択肢として残していただければと思う。
困惑類型は、当初の規定だと強迫の拡張型であり、畏怖には至らないものの迷惑しているという意味で形態としても強迫類型に近かったと思う。それが拡張された結果、デート商法など、あるいは本当に今はやりたいと思っているが意思表示に瑕疵が生じているという強迫とは違う類型が入っており、概念が非常に曖昧である。
とはいえ、マイナスとプラスは表裏一体である等の議論は現行法の消費者契約法でも、誤認類型などで出てきていると思われる。そこで、類型を完全には切り分けることができないとなると、困惑概念も広げつつ、併せてある程度汎用的なものを設けることが考えられないか。
他方、困惑の概念を困りや戸惑いに関係ない、更には戸惑いも、将来出てくる戸惑いでも良いと広げることは解釈としてはあり得るかもしれないが、それでは意思表示の瑕疵としてどうなのかという問題もある。全てに対応することはできないけれども、1歩でも2歩でも進めるところを残せないか。
○ 問題状況が整理されたが、それを踏まえてどう進むかはなお大きな課題と
して残っており、事務局としては宿題にして次回考えていただきたい。
○ 浅慮に関する事例3は消費者を意図的に困惑させているように読める。困惑の定義次第だが、社会通念上使われている「困惑」という言葉の定義に、事例3は当てはまり得るのではないか。
○ もともとは浅慮と困惑は重なり合う概念だと思う。xxの検討会のポンチ絵も浅慮・誤認・困惑の3つが重なっている図になっており、30年改正で入ったデート商法の条文も、恋愛関係を誤信させながら最後に困惑させる形で、誤認と困惑を混ぜているような部分もなくはない。このような現行法やxx検討会の浅慮・誤認・困惑の関係の整理も含めて、改めて良く検討したい。
【事務局からの説明】
〇 事務局から、資料について説明を行った。
【意見交換】 第1 について
○ 情報提供については、問題として出されている定期購入の件は定型約款全 体について内容を表示されても問題は解決されず、むしろ全体に紛れては困 るという問題状況である。すなわち、定期購入のほか、無料から有料への変 更や抱き合わせ的な契約条件等で不意打ち性が高い種類の契約条項には、特 に注目されたり強調するような表示や説明が求められるということかと思う。
消費者契約の場合は、恐らく事業者間取引よりは不意打ち性の度合いが高まること、裁判で無効を争うのはハードルが高いことがあるため、そこに手当てをしなければいけないか等の問題かと思った。
開示請求権については、情報提供がされることは望ましいと思う。ただ、情報提供があっても消費者は現実に開示請求しないのではないかという指摘はされ得る。すなわち、開示請求できるようにするという目的は重要だが、それを前提に、事業者が約款を整備して、内容も精査する機会となるという行為規範の側面も持たせることも考えたほうが良いのではないか。
○ 上記の指摘はそのとおりだと思うが、最初の指摘の定期購入に関して、情報提供をどう充実させていくかというときには、実質開示をどうするかという問題がある。契約内容をただ全部出すのではなく、特に注意すべき点が分
かる形で示すことが、形式開示に対しての実質開示と言われると思うが、特に消費者契約である場合、定期購入の例の場合のように、契約条件の情報提供について消費者の念頭に置かれるようにする条項が、提携約款に限らず出てくるのではないか。
平均的損害の議論でも事前の情報開示の重要性が言われていたが、一回きりだと思ったら定期購入だった場合や、途中から有料に切りかわる場合では、例えば何段階かに場合分けした説明や高齢者対応損害保険の実務に示されているような特に不利益な条項について丁寧な説明ができれば定期購入の問題に対応することになるのではないか。ただ、「不利益な条項」とするだけでは何が不利益なのか、全体で見たら利益ではないか等の議論があるため、「不利益」という定式だけで維持できるかという問題は別途ある。
それに対して、今回の検討事項は定型約款等の規律と連動した形での開示請求の実質化である。定型約款の規律を支えているのは、見たければ見られることだが、見るためには開示請求をしなければならないため、開示請求ができる環境整備、あるいはその実質化を図ることは重要だと思う。
努力義務については、開示請求をする方法は当然示してしかるべきであり、且つ、示すことに困難があるとも思われないため、効果の問題はxxxxx重要性からすると本来は義務化すべきではないか。
もう一つの検討事項は、以前に消費者委員会で出されたもののはっきりしないということで立法化に至らなかった考え方だが、今回の調査で個別法ではこの程度で既に動いているということがはっきりした。このもとで具体的にどうするかは、事業者団体と消費者側の団体の意見も聞きつつこれらの個別法の規定のような形で示していけば良いのではないか。消費者被害の予防のためにも、情報提供を促す仕組みは非常に重要だと思うため、提言の形で進めていただきたい。
○ これまでの指摘は全て非常に重要であり賛成する。
資料の2の定型約款の開示請求権に関する情報提供の努力義務の注の記載について、まず、携帯電話契約における自動延長の通知は契約の更新や契約条件の変更に関する事前のリマインダー通知であり、定型約款かどうかは関係ない。
情報の経済学及び行動経済学に基づく「契約締結後の情報提供の努力義務」における議論について解説する。まず、事業者がキャンセル料を消費者に一切通知せず勝手に上げた場合、事前に予期されていない価格の上昇として取消しの対象となる。他方で、キャンセル料について契約時に約款等で詳しく説明している場合は、契約時にキャンセル料の上昇時期などを全て伝え合意
を取っているため、再度リマインドしなくても良いというロジックがある。しかし、情報の経済学及び行動経済学の両方の観点からは、例えば半年前に合意を取っていたとしても、実際に半年後にキャンセル料が何月何日から何%に上がるかまで正確に覚えている消費者はほぼ皆無であり、またキャン
セル料の細かい規定について再度調べることについても努力コストがかかる。したがって、たとえ最初に合意をしたものであっても、実際に価格が上が
る際にプッシュ型通知などでリマインドすることは、消費者の保護に寄与し得ると考える。
各事業者は契約を結ぶ際に電話番号又はEメール等を取得しているはずであり、時限Eメールシステム等をセットして定型文を送信するだけで済むため、事業者側のコストは相対的に少ないはずである。契約の自動更新やキャンセル料の上昇をはじめとする契約における大きな不利益変更は、たとえ事前に合意を取っていた場合でもリマインドすることを、定型約款とは切り離して検討いただきたい。
○ 消費者契約法のひとつの特徴として、未だルールが作られていないテストケースがその解釈をめぐって争われ、それを契機に社会的な問題として認知されていくような場合もあるように思う。いち早く上がってきた情報や、そういった問題に関するグッドプラクティスなどがあれば、逐条解説などで紹介する仕組みなども検討してはどうか。
○ 約款の事前開示との整理は民法との整合性では正しいが、約款に常にアクセスできる状態に置いておくことが一番目指されるべきであろう。参考資料で、特に運送業は約款を掲示する法律が沢山書かれているが、恐らく掲示していても契約前に見る人は余りいないと思う。他方、トラブルが起きたときに容易に確認できることは消費者の利益にもつながるはず。
契約内容を事前に正確に理解して契約をすることは、第2の情報提供の話として整理した上で、第1の約款の話は、むしろ約款に常時アクセスできる状態を作る事業者の努力を目指すべきではないか。
〇 イの定型約款を容易に確認できる状態に置く努力義務が重要であるという指摘と理解した。
○ 今の指摘は非常に重要だと思う。少なくともインターネット取引においては、定型約款をインターネット上で確認させていると思うが、現時点での規制は努力義務も含めて一切ないのか。
○ 資料の6頁、通信販売の広告等には、定期購入契約であることや、金額等を表示することが義務化されている。
○ 通信販売の場合だけでなく、インターネットを通じた販売一般において、約款はインターネット上で見て確認することになる。さらに、これに一旦同意すると通常ブラウザで前のページに戻れず、約款に再度アクセスすることが極めて難しい状況になるため、この努力義務はむしろ当たり前の話ではないか。
少なくともインターネット上の契約では、既にインターネット上で公開しているものを提供するだけであり、努力義務等を強く押し進めるべきではないか。
○ 個別の業法で義務づけられているものもあるかとは思うが、インターネット上の取引も含め、法律上の要求を超えた事業者の自主的な活動は色々あると思う。大抵は契約画面上で約款を見ることができ、同意のチェックも行っている。加えて、同意後も約款を確認できるような自主的な活動もしばしばあると思う。
他方、開示を義務とすると、サーバーがたまたま落ちていた等の場合に義務を尽くしていないことになるのかなどの問題もあって、効果との関係次第だが、個別に義務づけまではされていないという事情もあるとは思う。
本当は努力義務どころか、義務でも十分な場合は多くあり、そこが後退して良いということでは決してなく、ご指摘のとおり、ベストプラクティスというよりノーマルプラクティスではないかと思われることもより積極的に促進していくような規律や工夫が望ましいと思う。
○ 第1で提案されている努力義務等は、この方向性で良いと感じる。
ただ、不意打ち条項をめぐる消費者被害が問題意識の背景の一つとして挙げられているが、重要な事項について消費者の注意を引くことができるような形での表示がされることのほうが、問題の解決という観点からは重要な意味を持つと思われる。とはいえ、努力義務等は意味がないわけではないと考える。
第2 について
○ このテーマは、もともとの附帯決議自体が事前の意思決定のための情報提
供、あるいは自らの契約の内容をより詳細に理解するための情報提供と、狭義の適合性原則がドッキングされ、しかも表題が情報提供という形でくくられているため、問題がわかりにくくなっていると思う。また、後者の狭義の適合性原則は情報提供の話ではないと思う。そして、生活状況や資産状況は、業法でも一部入っているものがあるが、基本的に金融商品が商品として相手に販売するにふさわしいかや、あるいは、商品のリスクを説明するレベルの話であり、一般的に消費者契約について妥当するかはレベルにもよるが疑問に思う。また、調査義務まであるとすると義務として過大であり、せいぜい
「知っているときは」ではないかと思われるし、逆に調査義務を課すとそれを理由に家族構成、生活状況や資産等の情報を入手する形での消費者被害が出ることが懸念される。
一方で、本来の情報提供については、例えば年齢から社会的未経験や認知症等の段階を推測して、相手に合う説明をすることになるため、具体的な実施を考えると、年齢は知識・経験・判断力として出てくるものではないか。もっとも、年齢は画一的・わかりやすさという面で機能するとは思う。
○ ワーキンググループの報告書の前半部分は、説明義務に対応するような情報提供の話が書かれていて、後半部分は狭義の適合性原則の話が書かれていると思う。附帯決議の求める範囲が不明確だが、今回は狭義の適合性原則の話ではないと理解した。
例えば財産の状況は、金融商品に限った話ではないと思うが、狭義の適合性原則の話だと思う。
勧誘に当たって提供すべき情報の対象について、商品やサービスの内容のみか、自分の需要に適した商品であることを判断するための情報提供まで含むかで話が違ってくると思う。
前者であれば、誰に勧誘する場合でも説明事項は同じはずだが、説明の仕方が、相手の判断力や知識によって変わるということだと思う。他方、後者であれば、相手の年齢や購入目的、その当時の需要とか生活の状況も場合によっては聞き出し、それに応じた説明をする必要が出てくるのではないか。個人的には、消費者契約においても消費者が自らの需要に適した商品であるかを情報提供されるべきだと考える。
○ 事務局の提案は、問題が混在しているというのはそのとおりだと思う。
また、附帯決議にとらわれなければ、情報提供のタイミングや態様に着目して実効的な情報提供を行う方が、将来的な消費者契約法の整備に重要な視点かと思うため、情報提供の問題に位置付けて議論を深めてはいかがか。
○ 上記の指摘に関して、例えば資料で上がっていた定期購入契約では、支払い総額などの契約条件について他の事業者の商品との比較可能性が欠けている点などが中心的な問題なのだろう。
この点、例えば購入から1年後、2年後の支払金額の概算を出させれば、比較可能性が向上し消費者被害は少なくなると考えられる。
ただ、約款や契約条項は必ずしも支払総額に関するものだけではなく、契約上重要な消費者保護条項や任意規定で認められている権利が一部削られていることによって安くなっているタイプもあり得る。このタイプの情報は、支払い総額という形で示せないものの重要なものであろうから、わかりやすく伝えることは必要になると思われる。
さらに、認知能力や社会経験等によって条項自体は理解できるものの、その適用により通常自分に生じる結果が判然としない場合があり得る。年齢などと絡めつつ、そこに配慮した情報提供を考えることはあり得ると感じた。
○ 情報提供の中身として、契約条件絡みの問題が議論されており、他方、当該商品が消費者に及ぼす効能効果等の周辺の事柄も別途問題になる。
前者は誰に対しても説明事項は基本的に共通で伝え方の問題のため、法律上何らかの手当ができるかもしれない。他方、後者は、本当か分からない特定の体験談の都合の良い情報のみを一方的に伝えて契約させる類の事例が非常に多い。この場合、不当な事項を説明してはならないといった消極的な定め方を超えて、積極的に説明事項を規定することは難しいから、むしろ従来の誤認等で規律するしかないのではないか。
○ 上記指摘のとおり2段階で考えるべきであり、少なくとも契約内容のわかりやすい情報提供は目指さなければならないと思う。具体的には、契約類型等に配慮しながら、個別に考えざるを得ない部分もあると思う。
他方で、契約上権利があるかのように書かれているものの、実際に行使するための情報が非常に不十分な場合があるのではないか。これは契約内容の権利を行使するための情報として契約内容とは若干違うものの、消費者にとって必要な情報である。
○ 同感である。契約条項に書いてあったからといって、現実にキャンセルが行えるかどうかは別問題であるため、まずは平均的な消費者が容易に理解できるように説明することが重要である。その上で、不注意な消費者であってもなるべく対処できるようリマインダー等の努力義務等を課し、かつ消費者
が簡便にキャンセル等の権利を行使できるように整備するところまでの一連が、消費者保護としての適切なセットではないか。
○ つけ込み型の規律との関係等について資料には指摘があるが、取消xxの対象となる事態をなるべく防ぐ観点と、それを超えて消費者の判断の質をより良いものにする観点があり、目標によって考えるべき情報の内容等も変わると思う。
情報提供の努力義務が担うべき役割について整理をすると、よりわかりやすい資料になると感じた。
最後に事務局から次回の研究会について、8月26日(月)14時から報告書作成に向けた議論を予定している旨説明がなされた。