・課題:(1)紛争が生じた場合、まずは両当事者間で協議を行う必要があるが、十分に協議を行う体制が整っていない例があると指摘されている。契約ガイドライン上、関係 者協議会は「疑義に関する協議」を行う機関として位置づけられている。しかし、関係者協議会の構成は通常中立的第三者は入らず、一方では両当事者以外の利害関係人を広く 含むことがあるなど、関係者協議会の機能はむしろ関係者の情報共有に重きのあるものであり、関係者協議会における協議は紛争解決のための仕組みとして十分ではないことが 多い。...
資料 5-1
平成 20 年 3 月 25 日
「中立的な第三者による紛争解決」に関する標準契約書モデル及びその解説 (案)
1、 問題状況
・背景:契約の締結までに、発注者と民間事業者とで全てを決定するのは不可能である。またPFIは長期契約であることから、事業期間中には様々の問題が生じるのは当然である。したがって、円滑かつ迅速に紛争が解決されるための仕組みが必要である。
・現在の契約条項:両当事者間の協議、関係者協議会の規定及び裁判管轄の規定のみとしている場合が多い。
・課題:(1)紛争が生じた場合、まずは両当事者間で協議を行う必要があるが、十分に協議を行う体制が整っていない例があると指摘されている。契約ガイドライン上、関係者協議会は「疑義に関する協議」を行う機関として位置づけられている。しかし、関係者協議会の構成は通常中立的第三者は入らず、一方では両当事者以外の利害関係人を広く含むことがあるなど、関係者協議会の機能はむしろ関係者の情報共有に重きのあるものであり、関係者協議会における協議は紛争解決のための仕組みとして十分ではないことが多い。 (2)協議によって解決しなかった場合でも、良好な関係を継続したまま、迅速に解決することが必要である。さらに PFI をめぐる紛争は高度な専門知識を要求されることが多いと予想される。したがって、裁判よりも迅速かつ専門的事項に十分対応できる紛 争解決の枠組みが求められる。
※ 「関係者協議会」 契約ガイドラインにおいては以下のように規定している。契約ガイドラインでは、第三者を加えた手続についての記述も含まれているが、現実にはほとんど利用されていないのが実情のようである。
契約ガイドライン6-7 疑義に関する協議
3.関係者協議会の設置
・協議を行うための機関として、当事者その他関係者で構成する関係者協議会を設置することがあり、その構成員、開催手続き等についてPFI事業契約においてあらかじめ定める場合がある。さらに、当事者のリスク分担に及ぼす影響度など重要度に応じて協議事項を分類し、重要事項に関する協議を目的とした協議会と日常的な業務の実施に関する詳細協議を目的とした協議会とを併設させることをあらかじめ規定することもあり得る。
・また、PFI事業契約に関する紛争の処理方法として、専門家等の第三者を加えて意見を求めるといった手続きを規定することも考えられる。
2、 対処に関わる基本的な考え方
(1) PFI の基本理念は官民のパートナーシップであり、相互の信頼が大切であるから、ま ずは両当事者間の協議によって解決できることが望ましい。そこで、関係者協議会の紛争予防、解決のための機能の強化することが考えられる。特に複雑なプロジェクトでは、情報共有を主たる目的とする関係者協議会とは別に紛争予防、解決にふさわしい構成員で「紛争調整会議」を設置し、定期的にフェイストゥフェイスの会議を開催して紛争の予防、信頼関係の構築に当たるとともに、紛争が生じた際には迅速に対応できる体制を整えておく。
(2)官民が対等の立場というPFIの基本原理からすれば、協議が整わない場合に一方が他方に結論を押しつけることは厳に慎まなければならない。そこで中立的な専門家が関 与して、紛争を迅速に解決する仕組みが必要である。xx性を維持するためには、中立的な専門家は共同で選任することが必要である。
3、 具体的な規定の内容
・ 紛争調整会議:紛争予防、解決のための機関として紛争調整会議(仮称)を設ける。両当事者間の良好なコミュニケーションを図るため、定期的に会議を開催するほか、紛争予防、解決という観点から必要がある場合には随時会議を開催する。メンバーについても紛争予防、解決という観点から選定する。なお、比較的小規模な案件では、情報共有のための関係者協議会と兼ねることが考えられるが、この場合は、構成員の決定の際に紛争に関する協議の機関として適切であるかを考慮すべきである。紛争調整会議、関係者協議会については、契約書に規定があるにもかかわらず設置がなされないままになってしまうことがないよう、契約書締結後何日以内に設置すべきかを明記する。
※ 英国でも両当事者の継続的コミュニケーションの重要性が強調されているところである。
・ 裁定人による裁定手続創設:紛争調整会議(関係者協議会が紛争調整機能を有する場合は関係者協議会)と、裁判による解決の中間に、中立的専門家(裁定人)による紛争解決手続を規定する。
・ 裁定手続の対象:裁定手続きになじまない紛争も考えられるため、あらかじめ裁定手続きの対象となる事項(又は対象とならない事項)を契約書で特定しておくことも考えられる([例については要検討])
・ 裁定人選定方法:裁定人の選定方法については、裁定人(又は裁定人を選任するためのパネル)は、①内容に応じて、事業契約締結後に予め両当事者で合意しておき、欠員が出た場合には、速やかに共同で選任する方法、②紛争が生じた際に両当事者間の合意により裁定人を選定する方法がある。①の場合は、複数の分野の専門家について
合意しておき、紛争の内容に応じて適切な専門家を選任できるようにすることが望ましい。
・ 裁定手続の内容:両当事者の意見及び証拠の提出期限、裁定人の判断の期限等の手続を定める。
・ 裁定人の判断の拘束力:以下の案がありえる。
①完全に両当事者を拘束する。
②裁判所が覆さない限り両当事者を拘束する(SoPC4 はこの立場に近い)
③判断がなされた後、不服のある当事者が一定期間内に裁判を提起しなかった場合、両当事者を拘束(裁判が提起された場合は両当事者を拘束しない)。
④参考意見として取り扱う(調停)。
⮚ 調停:紛争解決にあたる第三者の判断に拘束力がある場合は仲裁、拘束力がない場合は調停になる(但し、拘束力があっても仲裁と呼ばれず、別の名称が用いられることもある)。調停には、簡易裁判所等で行なわれる法定の調停と、民間機関によって行なわれる調停がある。
⮚ ADR 法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律):法務省による調停(民間機関によるもの)の認証制度。弁護士以外の調停人の活用、時効の中断等でメリットがある。仲裁には適用されない。PFI事業契約に中立的な専門家による判断を盛り込む場合も、弁護士法との関係で問題が生じないようにするため、認証された調停機関・手続を利用することも考えられる。
4、 留意点
(1) 中立的第三者の候補者としてどのような人が考えられるのかが最大の課題である。具体的には、紛争の分野に応じて必要な専門的知識を有していること、両当事者が納得できるだけの中立性を有していること、その専門家にとって過大な負担とならないことなどが必要になる。
(2) 予め裁定人を決定しておく方法と、紛争が生じた際に裁定人を決定する方法のメリット、デメリットを整理すると以下のようになる。
(ア) 紛争が生じた際に裁定人を選定する方法の場合、人選について合意できないリスクが高まる(実際に紛争が生じている場合両当事者がより慎重になる)。人選について合意できない場合、迅速な解決は期待できない。しかし、紛争となっている分野にあわせて専門家を選ぶことができるというメリットがある。
(イ) 裁定人をあらかじめ決める方法の場合は、事業契約締結後の手続負担は重い。しかし、実際に裁定人による紛争解決が必要になった場合は、迅速な解決が期待できるというメリットがある。なお、この方法でも複数の分野の専門家を選
任することは可能であるが、当初段階での両当事者の手続的な負担がさらに重くなる。
英国では、契約締結後に両当事者があらかじめ紛争が生じた場合に備えて中立的な専門家のリストについて合意し(建設パネルと運営パネルからなり、それぞれたとえば 3 名の専門家から構成される)、紛争が生じた場合に当該リストから機械的に裁定人を指名し、当該裁定人に判断してもらうという仕組みが採用されている。
(3) 選任について意見が一致しない場合の手続の規定が必要である。例えば英国では両者が合意しない場合には、「公認仲裁人協会長」(the President for the time being of the Chartered Institute of Arbitrators)への選任の依頼が挙げられている。今後PFIの専門家を選任できる体制が整うことが前提であるが、例えば、日本商事仲裁協会、国際商工会議所などに選任を依頼することが考えられる。
(4) 我が国のPFIでは中立的第三者に関与させて紛争を解決するという慣行は存在していないため選任が困難になる可能性があり、その結果中立的第三者を関与させる手続きが実務から敬遠されてしまう可能性があることから、以下の条文例は「調停」(調停人の判断に拘束力を持たせない)としている。今後、第三者を用いる手法に対する信頼の向上、中立的な第三者機関の設立(または既存の機関の活用)、紛争解決のための基準の明確化などによって、徐々に拘束力を持たせる方法が採用されるようになることが期待される。
(5) 裁定人の報酬水準についても予め合意しておくことが必要である。現実的には、契約締結前に両当事者が共同で裁定人を探し、三者間で報酬水準について合意しておくことが考えられるが、あまりに低い報酬水準の場合、裁定人の交代の際に困難が生じる可能性があることに留意する必要がある。
(6) 議会対策、予算との関係などについても配慮が必要である。また、和解、調停、仲裁などについては、地方自治法第 96 条第1項第 12 号に定める地方公共団体の議会の議決事項に含まれている点その他地方自治法等との関係について整理する必要がある。
(7) 紛争解決の手続の期間中、建設やサービスの提供が中断されることのないよう、建設及びサービスの提供を中断してはならない旨を規定することが考えられる。英国の SoPC4 では、受注者は紛争が生じたことのみを理由として「仕事を中断する」ことは認められず、紛争解決期間中、受注者は発注者の希望に従ってサービスを遂行する義務を負うが、紛争が受注者に有利に決着した場合、適切な補償が支払われるべきとされている。
(8) 調停人や弁護士への報酬などについて必要な予算を確保できるようにすることも重要である。
(9) 当事者の協議の段階で、事情を既に知っている契約締結の際と同じ弁護士、あるいは少なくともPFIに知見を有する弁護士が当事者のアドバイザーとして関与した方が望ましいとの考え方もある。
<参考>英国のPFI標準契約、FIDIC 建設請負約款に示されている紛争解決方法
イギリス(SoPC 4)及び FIDIC 建設請負約款(国際融資機関版)では、①まず当事者間で解決を試みる、②合意できない場合には中立的な第三者(専門家)による迅速な判断を求める、③第三者による判断に対して合意できない場合については、より時間をかけて判断するのが仲裁を実施する、という流れの紛争処理規定が採用されている。具体的には以下のようになっている。
① 当事者間での解決
SoPC4 では、当事者による協議条項が入っているのみであるが、FIDIC では「エンジニアによる決定」の手続が入っている。xxxxxは公共によって選任され、欠員時も公共により補充されるが、xxxxxは「xx」に判断することが期待されている。また、エンジニアは決定に先立ち両当事者による合意で解決できるように努めるものとされており、一種の調停人のような役割も期待されている。
② 中立的な第三者(専門家)による判断
あらかじめ紛争がおこった場合に備えて中立的な専門家を指定しておき(あるいは中立的な専門家の指定方法を決定しておき)、紛争が生じた場合に、当該専門家に迅速に判断しておく仕組み。専門家の判断に拘束力がある場合(いわば仲裁型)と、拘束力がない場合(いわば調停型)の双方がある。
イギリスの SoPC4 では、判断までの期間は 28 日と短く、不服申立てが可能だが(仲裁に移行)、仲裁などで否定されるまでは拘束力があるとすることで業務の中断を防いでいる。
一方、FIDIC の建設請負約款では、紛争委員会による解決が規定されている。委員は 1 人又は 3 人で、建設及び契約書等の解釈について専門的経験を有する者から予め共同で選任される。最終的に合意できない場合には、別途合意した選任機関が選任される。 84 日以内に判断を出す。SoPC4同様、不服申立てが可能で(仲裁に移行)、仲裁などで否定されるまでは拘束力がある。
③ 仲裁
仲裁は、当事者の合意(仲裁合意)に基づいて、仲裁人で構成される仲裁xが事案の内容を調べた上で判断(仲裁判断)を示す手続である。仲裁判断が両当事者を拘束する点で調停とは異なる(通常、裁判所への不服申立てもできない)。非公開というメリットに加え、一審制であるので時間、費用を節約できるが、中立性、専門性の高い仲裁人を選任することが重要となる。
イギリスの SoPC4 では、両当事者が共同で弁護士又は仲裁人協会認定の仲裁人の中から仲裁人を選任する(合意できない場合は弁護士会会長が選任)。選任後 3 ヶ月以内に仲裁判断がなされる。
一方、FIDIC 建設請負約款では、仲裁については UNCITRAL 又は当事者の合意したル
ール(国内案件の場合はその国の仲裁のルール)に従ってなされると規定されるにとどまる。
当事者間での協議
エンジニア
による判断
紛争調整会議
における協議
裁定人選任請求
紛争委員会への通知
(委員は予め同意)
調停申立て
予め同意した名簿の
順番に従って裁定人を選任
○○日以内
調停人の意見
28 日以内
84 日以内
○○日以内
裁定人による判断
紛争委員会の判断
合意 or 不合意
当事者間協議(56 日)
28 日以内
仲裁開始請求
仲 裁
(UNCITRAL 等による)
裁判
仲裁人の選任
3 ヶ月以内仲裁判断
条文例
FIDIC
SoPC 4
当事者間での解決
中立的第三者の判断
仲
裁
紛争解決手続の概要
5、 条文例(調停とする場合)
甲=発注者、乙=SPC、民事調停法など法定の調停ではなく、任意の調停を想定第○条 紛争調整会議
1. 甲及び乙は、良好なコミュニケーションを図ることにより、本事業を円滑に遂行し、本
事業に関する甲と乙との間の紛争を予防し、解決することを目的として、本契約締結後
○○日以内に紛争調整会議を設置する。
2. 紛争調整会議については、本事業に関する疑義及び意義の解決、本契約の解釈並びに本契約に定めのない事項の決定その他本事業に関する必要な一切の協議を行う。
3. 紛争調整会議は、[構成員を記載]により構成される。紛争調整会議は、必要に応じ、構成員以外の者に対して出席及び意見を求めることができる。
4. 紛争調整会議は、[少なくとも 3 ヶ月に1回]開催することにより、紛争の予防に努めなければならない。その他必要に応じて開催することができる。
5. 紛争調整会議の構成、議事進行方法、議事録の作成等に関する事項は、第1回目の紛争調整会議までに甲と乙との協議により別途定める。
第○条 中立的第三者による調停
1. 第○条に基づく紛争調整会議による協議を一方の当事者が他方の当事者に申し入れてから○○日以内に解決できない紛争については、いずれの当事者も中立的な調停人による調停を申し入れることができる。
2. 調停人は、[本契約締結後○○日以内に/調停の申し入れがなされてから○○日以内に]、両当事者の合意により選定する。調停人が欠けた場合には、調停人が欠けた日から○○日以内に両当事者の合意により新たな調停人を選任するものとする。[調停人は、建設、運営及び財務に関する専門家がそれぞれ1名ずつ選任され、紛争の内容に応じて単数又は複数の調停人がその任に当たるものとする]。
3. 両当事者が選任について合意できなかった場合には、[中立的な第三者機関]に選任を依頼するものとする。 (→留意点(3))
3. 調停の申し立てがなされてから[ ]日以内に、両当事者は調停人に対してそれぞれの主張を書面にて提出するものとする。
4. 調停人は、両当事者が合意に達した場合を除き、両当事者から書面を受け取ってから
[ ]日以内に調停案を示すものとする。調停案は両当事者を拘束しない。
5. 調停案が示された後[ ]日以内に合意ができなかった場合には、訴訟により解決するものとする。
6. 乙が金銭的賠償により回復することができない重大な損害を被る場合を除き、調停及び訴訟の期間中、乙は甲の指示に従って業務を履行しなければならない。ただし、本項は乙の甲に対する損害賠償を妨げない。 (→留意点(7))
7. 調停人は、調停案の提示前に最低2回以上、調停案提示後○○日以内に最低2回以上調停期日を開催し、両当事者の合意による解決を促すものとする。調停期日には、乙から業務の委託を受けている者その他の利害関係人も出席できるものとする。
8. 調停に要する費用は各自が負担する。