Contract
2017 年 11 月 30 日
補訂:2018 年 2 月 26 日
我が国の平和安全法制各法が定める各種事態及びそれらに基因してなされる
行政行為等の海上運送契約及び国際航空運送契約上の法律関係に及ぼす影響について
弁護士法人xx・xx法律事務所
弁護士 | x | x | x | 一 |
同 | x | x | x | x |
同 | x | x | x | |
同 | x | x | x | 一 |
同 | x | x | x |
本稿は、現在、我が国、米国及び韓国と北朝鮮との間に強い緊張関係が存在することに鑑み、首題の事項について論点を整理し、弊事務所の見解をとりまとめたものである。固より以下に示す見解は弊事務所限りのものであり、弊事務所が関係する会社その他の団体のそれではない。必要があればより分析の範囲を広げ又は深めることとする。
目 次
1. 事 態 対 処 法 上 の 「 x x 攻 撃 」 、 「 x x 攻 撃 事 態 」 、 「 x x 攻 撃 予 測 事 態 」 、 「 存 立 危 機 事 態 」 、 「 緊 急 対 処 事 態 」 及 び 「 x x 攻 撃 災 害 」 並 び に 重 要 影 x x 態 x x 確 保 法 上 の 「 重 要 影 x x 態 」 の 意 義 3
第 3. 第 2. の 各 種 事 態 に 基 因 し て な さ れ る 行 政 行 為 の う ち x x x 送 事 業 者 又 は 航 x x 送 事 業 者 の 事 業 に 関 係 す る も の 6
(1) 運送事業者たる指定公共機関又は指定地方公共機関に対する行政行為 6
2. 特 定 公 共 施 設 利 用 法 に 基 づ く も の 8
(2) 港 湾 施 設 又 は 飛 行 場 施 設 の 利 用 制 限 9
(3) 海 域 の 航 行 制 限 等 又 は 空 域 の 飛 行 制 限 等 10
4. 海 上 輸 送 規 制 法 に 基 づ く も の 11
5. 船 舶 検 査 活 動 法 に 基 づ く も の 12
第 4. 第 1. の x x 攻 撃 災 害 発 生 時 の 支 払 猶 予 令 ( モ ラ ト リ ア ム ) 12
第 6. 武力攻撃事態等又はそれに基因してなされる行政行為等が海上運送契約上の法律関係に及ぼ
第 7. 武力攻撃災害発生時の支払猶予令(モラトリアム)の定期傭船契約上の法律関係に及ぼす影
(1) NYPE の 本 x x 揚 条 項 (Xxxxxxxxxx Xxxxxx) 25
(2) 日本海運集会所内航定期傭船契約書の傭船料不払による契約の解除条項 26
(3) Barecon2001 の Termination Clause 26
第 8. 武力攻撃事態等又はそれに基因してなされる行政行為等が国際航空運送契約上の法律関係に
(4) オ ペ レ ー テ ィ ン グ リ ー ス 契 約 29
第1. 法令の略称
本稿においては関連法令について次の略称を用いる。
① 武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律
事態対処法
② 同法施行令
事態対処法施行令
③ 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律国民保護法
④ 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律施行令国民保護法施行令
⑤ 武力攻撃事態及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律
海上輸送規制法
⑥ 武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律特定公共施設利用法
⑦ 重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律
重要影響事態安全確保法
⑧ 重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律船舶検査活動法
第2. 各種事態等の意義等
1. 事態対処法上の「武力攻撃」、「武力攻撃事態」、「武力攻撃予測事態」、「存立危機事態」、「緊急対処事態」及び「武力攻撃災害」並びに重要影響事態安全確保法上の「重要影響事態」の意義
(1) 武力攻撃
武力攻撃とは、「我が国に対する武力攻撃」をいう(事態対処法第 2 条第 1号)。内閣法制局見解は、それは「基本的には我が国の領土、領海、領空に対する組織的計画的な武力の行使をいう」のであり「特定の事例の該当性は個別状況に応じて判断すべきものでありあらかじめ定型的類型的に答えることは困難」としている。事態対処法が定める武力攻撃の定義からは「組織的計画的」との文言が除かれている。その理由は明らかではないが、その意義は内閣法制局見解のとおり解するのが相当であろう。ここに「組織的計画的」の要件は、現場の指揮官が中央の意思決定を経ることなく独断で戦闘行為を開始した場合のような、偶発的又は突発的な事象を排除すべく設けられているものと解す
る。この定義では、「武力攻撃」なる概念が更に「武力の行使」なる概念を用いて説明されているが、後者は憲法 9 条 1 項にある概念であり、その定義については、政府答弁書では「基本的には国家の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいう」とされている。
(2) 武力攻撃事態
① 武力攻撃事態とは、「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」(事態対処法第 2 条
第 2 号)をいう。政府は武力攻撃事態の例として次のものを挙げている。
○a 航空機や船舶により地上部隊が上陸する攻撃
○b ゲリラや特殊部隊による攻撃
○c 弾道ミサイル攻撃
○d 航空機による攻撃等
② 武力攻撃事態は、実質的に停戦状態となり政府が事態につき警戒監視レベルまで落とすことができると判断したときに終結するものと解される。手続的にはこの認定は対処基本方針の廃止手続(同法第 9 条第 2 項第 1 号イ、
第 14 項)によってなされるもののようである。
③ 武力攻撃事態は(3)の武力攻撃予測事態と併せて「武力攻撃事態等」と定義されている(同法第 1 条)。
(3) 武力攻撃予測事態
武力攻撃予測事態とは、「武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」(同法第 2 条第 3 号)をいう。政府はその例として次のものを挙げている。
その時点における我が国を取り巻く国際情勢の緊張が高まっている状況下で、ある国が我が国への攻撃のため部隊の充足を高めるべく次の行為を行う場合
○a 予備役の招集
○b 軍の要員の禁足
○c 非常呼集
○d 我が国を攻撃するためとみられる軍事施設の新たな構築等
(4) 存立危機事態
存立危機事態とは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(同法第 2 条第 4 号)と定義されており、その該当性は、○a 攻撃国の意思及び能力、○b 事態の発生場所、○c事態の規模、態様及び推移、○d 日本に戦禍が及ぶ蓋然性、○e 日本国民が被ることとなる犠牲の深刻性及び重大性等により客観的に判断する。また、ここにいう「我が国と密接な関係にある他国」とは、「外部からの武力攻撃に対し共通
の危険として対処しようという共通の関心を持ち、共同して対処しようとする意思を表明する国」とされているが、実際には、米国が想定されており、米国以外もあり得るが米国以外は相当限定されるとの政府答弁がある。「我が国の存立が脅かされ」るとは、我が国の存続にとって死活的重要性を有する国とも解されているようである。○b の事態の発生場所については、仮に米国に対する武力攻撃であっても、その攻撃場所によっては当該事態に当らないこともありうる。
(5) 緊急対処事態
緊急対処事態とは、「武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する行為が発生した事態又は当該行為が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態(後日対処基本方針(同法第 9 条)において武力攻撃事態であることの認定が行われていることとなる事態を含む。)で、国家として緊急に対処することが必要なもの」とされている(同法第 22 条第 1 項)。そして、政府答弁においては、「著しい破壊力を有する爆弾の使用等の武力攻撃において通常用いられる攻撃の手段又は生物剤、化学剤の散布等の武力攻撃において通常用いられる攻撃の手段に準ずる攻撃の手段を考えている。なお、緊急対処事態の認定については、用いられた攻撃の手段の態様のみならず、被害の発生状況、国家として緊急に対処することにより国民の生命、身体及び財産を保護することの必要性等を総合的に勘案した上で判断されることとなる」とされる。
(6) 重要影響事態
重要影響事態とは、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」
(重要影響事態安全確保法第 1 条)をいう。
この事態は、もともとxxxxxxに、周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(平成 11 年 5 月 28 日法律第 60 号)が制定されたときに「周辺事態」(そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態)として定義され導入されたものであり、xx内閣における所謂平和安全法制の整備に伴う平成 27 年法律第 90 号改正による重要影響事態安全確保法により「我が国周辺の地域における」との地域的限定が削除された。
(7) 武力攻撃災害
武力攻撃災害とは、「武力攻撃により直接又は間接に生ずる人の死亡又は負傷、火事、爆発、放射性物質の放出その他の人的又は物的災害」をいう(国民保護法第 2 条第 4 項)。
2. 1.の各種事態の認定手続
政府は武力攻撃事態等又は存立危機事態に至ったときは、それらへの対処に関する基本的な方針(対処基本方針)を定める(事態対処法第 9 条第 1 項)。対処基
本方針は内閣総理大臣が案を作成し、閣議の決定を得て(同条第 6 項)、その後国
会の承認を受け(同条第 7 項)、直ちに公示される(同条第 8 項)。対処基本方針
の中でそれらの事態が認定される(同条第 2 項)。
緊急対処事態であることも緊急対処事態対処方針の中で認定される。当該方針の作成及び公示手続は対処基本方針と同様である(同法第 22 条)。
重要影響事態については、内閣総理大臣が当該事態への対応措置を実施することが必要であると認めるときは、対応措置に関する基本計画の案につき閣議の決定を求めるとされ(重要影響事態安全確保法 4 条 1 項)、更に基本計画に定められた自衛隊の部隊等が実施する対応措置について国会の承認を得ることを要するとされているので(同法 5 条)、その過程で、当該事態に該当しているとの判断が公知のものとなると解される。
第3. 第 2.の各種事態に基因してなされる行政行為のうち海上運送事業者又は航空運送事業者の事業に関係するもの
1. 国民保護法に基づくもの
(1) 運送事業者たる指定公共機関又は指定地方公共機関に対する行政行為
武力攻撃事態等においては運送事業者たる指定公共機関又は指定地方公共機関に対し②及び③の運送の「求め」又は「指示」がなされうる。
① 指定公共機関及び指定地方公共機関の意義
(イ) 指定公共機関とは、公益的事業を営む法人で政令で定められる(事態対処法第 2 条第 7 号)。事態対処法施行令は、海上又は航空運送事業者については、主として長距離の旅客輸送の需要に応ずる一般旅客定期航路事業者(同令第 3 条第 37 号ハ)、本邦航空運送事業者であってその運航する航空機の型式その他の事項からみて主として長距離の大量輸送の需要に応ずるものと認められるもの(同号ホ)及び内航海運業者であってxx運送をする事業を営む者(同号ト)のうち、内閣総理大臣が指定して公示するものとしている。外航海運事業者は上記政令では指定公共機関とはされていないが、武力攻撃事態等に至る可能性が高まったときは政令を改正して同機関に指定される可能性も残っているように思われる。
(ロ) 指定地方公共機関とは、都道府県の区域において公益的事業を営む法人等で、あらかじめ当該法人の意見を聴いて当該都道府県の知事が指定するもの(国民保護法第 2 条第 2 項)である。
② 避難住民の運送の「求め」及び「指示」
政府が武力攻撃事態等に至り「武力攻撃事態等又は存立危機事態への対
処に関する基本的な方針」(対処基本方針)(事態対処法第 9 条)を定めたときは、指定公共機関及び指定地方公共機関は、既に定めている自らの「国民の保護に関する業務計画」の定めるところにより、その業務に係る国民の保護のための措置を実施しなければならない(国民保護法第 21 条第 1
項、第 36 条第 1 項、第 2 項)。そして、都道府県知事は、避難住民を誘導するため、運送事業者である指定公共機関又は自らが指定した指定地方公共機関に対し、避難住民の運送を「求める」ことができ、当該機関は、求めがあったときは、正当な理由がない限りその求めに応じなければならず
(同法第 71 条)、それにもかかわらず当該機関による運送が行われない場合、内閣総理大臣は、所要の手続きを経て、当該機関に運送を「指示する」ことができる(同法第 73 条)。同様に、市町村長は自らの属する都道府県の知事の指定した指定地方公共機関に対し避難住民の運送を「求める」ことができ、更に、都道府県知事は、運送を「指示」することができる(同法第 71 条、第 73 条)。
これら運送の「求め」及び「指示」には、法的拘束力があり、これらを受けた指定公共機関又は指定地方公共機関にはこれに応じる義務があると解されるが、違反者に対する罰則はない。「求め」における「正当な理由」とは、求めに応ずることが極めて困難な客観的事情がある場合に限られる。資機材の故障等により当該運送を行うことができない場合又は「求め」を受けた事業者が別の都道府県知事から既に運送を求められている場合等がこれに当る。安全でない状況である場合もこれに当るが、それは諸般の事情を考慮して客観的に判断されるべきものであると解されている
(国民保護法制研究会編集「逐条国民保護法」188 頁、同研究会編集「国民保護法の解説」93 頁)。「指示」は、指定公共機関又は指定地方公共機関が「求め」に応じない場合に発出される。これもそれらの機関の義務ではあるが、強制力はなく、「求め」の場合と同様違反した者に対する罰則もない(なお、避難住民への避難「指示」(同法第 54 条)についても、罰則の定めはないものの避難住民にはこれに応じる義務があるとされている(前掲「逐条国民保護法」134 頁、「国民保護法の解説」80 頁))。因みに、災害対策基本法も指定公共機関及び指定地方公共機関に対する被災者の運送「指示」の制度(同法第 86 条の 14 第 2 項)及び災害応急対策必要物資の運送「指示」の制度(同条の 18)を有しているが、この「指示」についても、これらの機関はそれに従う義務があると解されている(防災行政研究会編集「逐条解説災害対策基本法(第 3 次改訂版)」587 頁)。
③ 緊急物資の運送の「求め」及び「指示」
武力攻撃事態等においては、都道府県知事又は市町村長は、運送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関に対し、②と同様に、緊急物資
(避難住民等の救援に必要な物資及び資材その他国民の保護のための措
置の実施に当って必要な物資及び資材)の運送を「求める」ことができ、当該機関による運送が行われない場合、内閣総理大臣又は都道府県知事は、
②と同様に、運送を「指示」することができる(同法第 79 条、第 71 条、
第 73 条)。また、緊急物資については、指定行政機関の長又は指定地方行政機関の長も、運送事業者である指定公共機関に対し、運送を「求める」ことができ、当該機関による運送が行われない場合、内閣総理大臣は、運送を「指示」することができる(同法第 79 条、第 71 条、第 73 条)。
この場合の「求め」「指示」の法的性質は②と同様である。
(2) 生活関連等施設の安全確保
(イ) (ロ)において生活関連等施設には、国際戦略港湾の外貿コンテナ岸壁及び桟橋(港湾法第 52 条第 1 項第 1 号、同法施行規則第 15 条の 3 第 1 項)又は国際戦略港湾、国際拠点港湾若しくは重要港湾の水域施設、外郭施設若しくは係留施設(同条同条同項第 2 号、同法施行規則第 15 条の 3 第 2 項)、並びにxx国際空港、東京国際空港、中部国際空港、関西国際空港、大阪国際空港その他の国際、国内航空輸送網の拠点となる 23 の空港(空港法
第 4 条第 1 項各号、同法施行令第 1 条第 2 項別表第 2)及び 54 の地方管
理空港(同法第 5 条第 1 項、同法施行令同条第 3 項別表第 3)の滑走路等及び旅客ターミナル施設並びに航空機の離着陸の安全を確保するための航空保安施設(同法第 6 条第 1 項、航空法第 2 条第 5 項)が含まれる(国
民保護法施行令第 27 条第 7 号、第 8 号)。
(ロ) 武力攻撃事態等においては都道府県知事又は指定行政機関の長若しくは指定地方行政機関の長は、武力攻撃災害の発生又はその拡大を防止するため、生活関連等施設の管理者に対しその安全の確保のため必要な措置を講ずるよう要請することができる。指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに地方公共団体のxxは、生活関連等施設のうちその管理に係るものについて警備の強化等安全の確保に関し必要な措置を講じねばならない。内閣総理大臣もこれらの施設及びその周辺の地域の安全の確保が特に必要と認めるときは、関係大臣を指揮して必要な措置を講じさせることができる。都道府県公安委員会又は海上保安部長等は、自ら立入制限区域の指定をすることができる(国家公安委員会も一定の場合は、都道府県公安委員会にこの指定について必要な指示をすることができる。)(国民保護法第 102 条)。これらの措置が講じられたときは、船舶及び船舶運航事業者による港湾の係留施設等の利用並びに航空機及び航空運送事業者の空港の利用に制約が生じることは避けられない。
2. 特定公共施設利用法に基づくもの
(1) 定 義
① 同法に定める「特定公共施設等」とは、港湾施設、飛行場施設、道路、海
域、空域及び電波をいう(同法第 2 条第 3 項)。
② 同じく「港湾施設」とは、水域施設、外郭施設、係留施設、荷さばき施設等(一定のものを除く。)をいう(同法第 2 条第 4 項、港湾法第 2 条第 5項各号)。
③ 同じく「飛行場施設」とは 1.(2)(イ)記載の空港及びそれらの空港以外の政令で定める公共の用に供する飛行場その他の空港等の施設(特定公共施設利用法第 2 条第 5 項、同法施行令第1条、空港法第 4 条第 1 項各号、第
5 条第 1 項)をいう。
(2) 港湾施設又は飛行場施設の利用制限
武力攻撃事態等においては、特定の港湾施設又は飛行場施設の利用に制限が加えられる。武力攻撃事態等において対策本部長(内閣総理大臣(内閣総理大臣に事故あるときはその予め指定する国務大臣))は、港湾施設又は飛行場施設に関し、対処措置等(特定公共施設利用法第 2 条第 2 項)の的確且つ迅速な実施を図るうえで特定の者の優先的な利用を確保することが特に必要であると認めるときは、対処基本方針(事態対処法第 9 条第 1 項)に基づく特定の地域における港湾施設又は飛行場施設の利用に関する指針に基づき、当該施設の名称、対処措置等の内容及びその期間等具体的な事項を明らかにして、港湾管理者又は飛行場施設の管理者に対し、特定の者に優先的に利用させるよう要請することができる(特定公共施設利用法第 7 条第 1 項、第 11 条)。
港湾管理者又は飛行場施設の管理者は、この要請に基づきその管理する港湾 施設又は飛行場施設を利用させる場合において、必要があると認めるときは、港湾施設又は飛行場施設の利用に係る許可その他の処分を変更し又は取消す 等することができる(同法第 8 条第 1 項、第 11 条)。更に、港湾管理者又は 飛行場施設の管理者は、当該許可その他の処分の変更又は取消し等をした場合、現に停泊中の船舶又は駐機中の航空機の移動が必要であると認めるときは、当 該船舶の船長又は航空機の機長等に対し、当該船舶又は航空機の移動を命ずる ことができる(同法第 8 条第 2 項、第 11 条)。
内閣総理大臣はこの要請に基づき所要の利用が確保されない場合、当該特定の港湾施設の港湾管理者又は飛行場施設の管理者に対し当該所用の利用を確保すべきことを指示することができる(同法第 9 条第 1 項、第 2 項、第 11 条)。内閣総理大臣はこの指示を行ってもなお所要の利用が確保されないときその他特に必要があると認める場合であって、事態に照らし緊急を要すると認めるときは、当該港湾管理者又は飛行場施設の管理者に通知した上で、国土交通大臣を指揮し、当該特定の港湾施設又は飛行場施設の利用に係る許可その他の処分又は許可その他の処分の変更若しくは取消し等を行わせることができ、その場合において、現に停泊中の船舶の移動が必要であると認めるときは、国土交通大臣を指揮し、当該船舶の船長等又は当該航空機の機長等に対し、当該船舶又は航空機の移動を命じさせることができる(同法第 9 条第 3 項、第 4 項、
第 11 条)。
(3) 海域の航行制限等又は空域の飛行制限等
武力攻撃事態等においては、対策本部長は、対処基本方針に基づき、海域の利用指針を定めることができ(特定公共施設利用法第 13 条)、海上保安庁長官は、当該利用指針に基づき、船舶の航行の安全を確保するため、告示により特定の海域に関し範囲又は期間を定めて航行しうる船舶又は時間を制限することができる。緊急の必要があり告示により定めるいとまがないときは、他の適当な方法によることができる(同法第 14 条)。
空域についても、同様に、武力攻撃事態等においては、対策本部長は、対処基本方針に基づき、空域の利用指針を定めることができ(同法第 15 条)、国土交通大臣は、空域の利用指針に基づき、航空機の航行の安全を確保するため、航空機の飛行制限等の航空法の関連規定(同法第 80 条、第 96 条、第 99 条)
による措置を適切に実施する義務を負う(特定公共施設利用法第 16 条)。
3. 自衛隊法に基づくもの
(イ) 内閣総理大臣は、武力攻撃事態又は存立危機事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる(防衛出動)(この場合においては事態対処法の定めるところにより、国会の承認を得なければならないが(事態対処法第 9 条第 4 項第 1 号)、特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合は、出動を命じた後直ちに承認を求めなければならない(同項第 1 号))。(自衛隊法第 76 条第 1
項、事態対処法第 2 条第 2 号、第 4 号)。
防衛大臣は、事態が緊迫し、防衛出動命令が発せられることが予測される場合、これに対処するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の全部又は一部に対し出動待機命令を発することができる(防衛出動待機命令)(自衛隊法第 77 条)。
(ロ) 武力攻撃事態に際し防衛出動命令が発せられた当該自衛隊の行動地域においてその任務遂行上必要と認められる場合、都道府県知事は、防衛大臣又は方面総監等(自衛隊法施行令第 127 条)の要請に基づき(緊急を要するときは防衛大臣又は方面総監等が都道府県知事に通知して直接)、港湾の係留施設及びこれに附帯する荷さばき施設、飛行場にある航空機又は航空機用機器の整備施設又は船舶若しくは航空機に給油するための施設(同法施行令第 129 条)を管理し、物資の生産等や輸送を業とする者にその取扱物資の保管を命ずることができる(自衛隊法第 103 条第 1 項、同法施行令第 129 条)。保管命令に違反
した者には罰則の定めが有る(同法第 124 条)。
(ハ) (イ)の防衛出動命令が発された場合当該自衛隊の行動地域以外の地域においても、都道府県知事は、防衛大臣又は方面総監等(自衛隊法施行令第 127 条)
の要請に基づき、任務遂行上特に必要と認めるときは、防衛大臣が告示して定めた地域において、(イ)の管理をし、保管命令を発し、また医療、土木建築工事、輸送を業とする者に対して当該地域においてこれらの者が現に従事している業務と同種の業務で防衛大臣又は方面総監等が指定したものへ従事することを命令することができる(同法第 103 条第 2 項)。輸送を業とする者には船舶運航事業者、港湾運送事業者及び本邦航空運送事業者が含まれる(同法第 103 条第 5 項、同法施行令第 130 条)。
(ニ) 防衛大臣は、武力攻撃事態に対する防衛出動命令が発せられることが予測される場合、出動を命ぜられた自衛隊の部隊を展開させることが見込まれ、且つ防備をあらかじめ強化しておく必要があると認める地域(展開予定地域)があるときは、内閣総理大臣の承認を得たうえでその範囲を定めて、自衛隊の部隊等に当該展開予定地域内において陣地その他の防御のための施設(「防御施設」)を構築する措置を命令することができる(同法第 77 条の 2、第 76 条第 1 項
第 1 号)。本命令が発せられた場合には、措置を命ぜられた自衛隊の部隊等は、港湾管理者の許可に代えて予め港湾管理者に通知するだけで、港湾区域等内水域等の占用及び水域施設、外郭施設若しくは係留施設等の建設等をすることができる(同法第 115 条の 8、港湾法第 37 条第 1 項、第 56 条第 1 項)。
(ホ) 武力攻撃事態等にあたり、自衛隊の部隊が都道府県知事等から国民保護法に基づく要請を受けて派遣される場合等(国民保護法等派遣)(自衛隊法第 77 条
の 4 第 1 項、国民保護法第 15 条第 1 項第 2 項)において、海上自衛隊の三等xx以上の自衛官は海難救助その他の援助を行う場合又は非常事変に際し必要があるときは、付近にある人及び船舶に対し協力を求めることができ、海上保安官がその場にいない場合、海上における犯罪が正に行われようとしている場合、又は天災事変、海難、工作物の損壊、危険物の爆発等危険な事態がある場合、人の生命若しくは身体に危険が及び又は財産に重大な損害が及ぶおそれがあり、かつ急を要するときは、船舶の進行の開始、停止、出発の差止め、航路の変更、指定する場所への移動、乗組員の下船の制限、禁止、積荷の荷揚制限、禁止その他の強制的措置をとることができる(自衛隊法第 92 条の 3 第 4
項、海上保安庁法第 16 条、第 18 条)。
4. 海上輸送規制法に基づくもの
防衛大臣は、武力攻撃事態又は存立危機事態において海上自衛隊に防衛出動が命ぜられた場合、我が国領海、外国領海(当該外国の同意が有る場合)又は公海において外国軍用品等の海上輸送を規制する必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、当該部隊に、実施区域を定めて、軍艦等及び軍艦等に警護されている船舶を除く船舶について停船検査及び回航命令の措置をとることを命ずることができる(海上輸送規制法第 4 条、同法第2条第 4 号、第 16 条但書)。対象は、停船検査実施区域を航行している船舶であり船籍による区別はない。
停船検査とは、外国軍用品等を輸送していることを疑うに足りる相当な理由がある船舶に対するそのことを確かめるためのもので、停船命令(同法第 17 条)並びに船上検査官による船舶書類の検査、乗組員等への質問及び積荷の検査(同法第 2 条第 7 項、第 18 条以下)からなる。
停船検査の結果により、積荷の引渡命令又は船舶の我が国の港への回航命令の措置がとられ得る。
上記において外国軍用品とは、武力攻撃を行っている外国軍隊等が所在する地域を仕向地とする特定の兵器及び軍用機器等、並びに、我が国に対する武力攻撃を行っている外国軍隊等が所在する我が国の領域若しくは我が国周辺の公海・排他的経済水域上の地域(武力攻撃事態の場合)又は存立危機に係る武力攻撃を行っている外国軍隊等が所在する外国の領域若しくは外国周辺の公海・排他的経済水域上の地域(存立危機事態の場合)を仕向地とする特定の燃料、装備品及び食糧等をいい(同法第 2 条第 2 号)、外国軍用品及び外国軍隊等の構成員を併せて外
国軍用品等という(同条第 3 号)。
5. 船舶検査活動法に基づくもの
重要影響事態においては船舶検査活動が行われる。それは国連安保理の決議に基づいて又はxxの同意を得て、軍艦等以外の船舶の積荷及び目的地を検査し確認する活動、並びに必要に応じ当該船舶の航路又は目的港若しくは目的地の変更を要請する活動(船舶検査活動法第 2 条)である。それは以下の行為から成るが、
強制ではない(同法第 5 条第 3 項、別表)。
航行状況の監視、自己の存在の顕示、船舶の名称等の照会
当該船舶の停止を求め、船長等の承諾を得て、停止した当該船舶に乗船して行う書類及び積荷を検査及び確認
規制措置の対象物品が積載されていないことが確認できない場合における当該船舶の船長等に対するその航路又は目的港若しくは目的地の変更の要請
これらに応じない船舶の船長等に対する説得
説得をするため必要な限度における、当該船舶に対する接近、追尾、伴走及び進路前方における待機
第4. 第 1.の武力攻撃災害発生時の支払猶予令(モラトリアム)
内閣は、著しく大規模な武力攻撃災害が発生し、国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、且つ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは、金銭債務の支払の延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置を講ずるため、政令を制定することができる(国民保護法第 130 条)。同
趣旨の規定が、災害対策基本法第 109 条第 1 項、第 3 項乃至第 7 項に置かれている。
金銭債務の支払の延期とは、所謂モラトリアム(支払猶予令)である。ここにいう
「金銭債務の支払」からは、賃金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払が除かれている(国民保護法第 130 条)。我が国では、大日本帝国憲法下において関東大震災及び金融恐慌発生時の
2 回、緊急勅令により債務者の住所及び営業場所並びに債務の発生日及び弁済期を指定して、それに当る債務について一定期間支払を延期したことがある(「私法上ノ金銭債務ノ支払延期及手形等ノ権利保存行為ノ期間延長ニ関スル件」等(大正 12 年 9 月 7日勅令第 404 号、429 号)及び昭和初期の金融恐慌時の「私法上ノ金銭債務ノ支払延期及手形等ノ権利保存行為ノ期間延長ニ関スル件」等(昭和 2 年 4 月 22 日勅令等第 96 号、97 号))。
支払延期の法的性質についてはこれを弁済期の強制的変更とするものと弁済期を変更しないままでの支払猶予とするものとがある。債務者が本来の弁済期を徒過しても、前説によれば履行遅滞に陥らないが、後説によれば履行遅滞に陥るものの本来の弁済期に履行しないことそれ自体については違法性を阻却されることになると思われる。
第5. 海上運送法に基づくもの
国土交通大臣は、航海が災害の救助その他公共の安全の維持のため必要であり、かつ、自発的に当該航海を行う者がない場合又は著しく不足する場合に限り、船舶運航事業者に対し航路、船舶又は輸送すべき人若しくは物を指定して航海を命ずることができる(海上運送法第 26 条第 1 項)。この命令はxx運送及びxx運送のいずれにつ
いても発令しうる。発令の要件の 1 つは「航海が災害の救助その他公共の安全のため必要であ」る場合である。これまでの政府見解は、航海命令は我が国の有事を対象としないというのであるが、xxの文理上は、我が国が武力攻撃事態等、緊急対処事態又は重要影響事態に立至り、我が国にとって必要な輸入物資の運送を我が国の船舶運航事業者に依存せざるをえなくなった場合等においては、それらが「公共の安全のため必要であ」る場合に当ると解される可能性が全くないものではないように思われる。以下航海命令に言及するときは適法にそれが発出しうると仮定して論じる。
第6. 武力攻撃事態等又はそれに基因してなされる行政行為等が海上運送契約上の法律関係に及ぼす影響
1. xx運送契約
(1) 箇品運送契約
① 武力攻撃事態等又はそれに基因してなされる行政行為に起因する運送品の滅失、損傷又は延着に対する運送人の損害賠償責任
我が国法上、運送人は運送品の取扱い上の注意を尽くしたことを証明しない限り運送品の滅失、毀損又は延着について責を負う(国際海上物品運送法第 3 条第 1 項、第 4 条第 1 項)。運送人は運送品に関する損害が「戦
争」又は「公権力による処分」により通常生ずべきものであることを証明したときは、責任を追及する者が、運送人が上記注意を尽くしていればその損害を避けたことができたにも拘わらず、これを尽くさなかったことを証明しない限り(立証責任の転換)、損害賠償の責を免れる(同条第2項柱書、第 3 号、第 5 号)。
戦争とは国際公法xxxでは武力による強制を言い、狭義では国家間のxx兵力による闘争を言う(xxxx「国際法 III (新版)」277 頁)と言われ、xxxxはこれを「国家間における強制手段で武力行使を伴うもの」と、武力行使を「一国が他国を強制する目的をもって、国家のxx兵力を使用してなすものをいう」とされる(前掲書 278 頁)。xxxx及びxxxxx両教授は戦争(act of war)を「国家またはこれに準ずる権力的な団体間における集団的、組織的武力衝突をいう。宣戦布告してから行われた国家間の集団武力衝突という国際法上の概念に拘束されることなく、一般取引上または社会通念上の観点から概念された戦争であれば十分である(Xxxxxxxx, p.221; Xxxxxxxxxx, p.355)。」と言われる(注解国際海上物品運送法(以下単に「注解」という。)95 頁)。武力攻撃事態は戦争に当るし、武力攻撃予測事態もこれに当ると解される。また、損害が戦争により通常生ずべきものとは、戦闘行為により生じるものであるもののほか、第 3.に述べた行政行為又は第 5.に述べた海上運送法第 26 条の航海命令によって生ずる損害もこれに当ると解する(注解 96 頁参照)。
公権力による処分(arrest or restraint of princes, rulers of people)は、平時におけるそれとされる(注解 99 頁)。重要影響事態における船舶検査活動法に基づく船舶検査活動による損害が戦争によるそれと言えるかは問題なしとしないが、それは公権力による処分とは言える(船舶検査活動は直接的な強制力を有するものではないが、第 4.5.に述べたそれは強制力に準じる圧力を有すると言える(注解 100 頁参照))。
もっとも、海上輸送規制法に基づく停船検査、引渡命令若しくは回航命令による損害、又は船舶検査活動による損害については、責任を追及する者が、運送人又はその使用する者が、対象貨物の船積時において、前者の規制措置の対象物品であること、又は後者の外国軍用品等であることを知っていた又は知ることができたことを証明したときは、運送人は責を負う可能性がある。何故ならば、そのようなときには、運送人は、それら損害の発生を避けるために、そもそもそれら貨物の船積を避ける等の措置をとるべきであったと解されるからである(国際海上物品運送法第4条第2項柱書のただし書参照)。
② 妨害(hindrance)の発生による運送人の運送契約の解除xx
NYK の BL 約款(2017 年改訂版)第 1 条及び第 9 条は戦争(war)、・・・当局による制限(governmental restraints on …. shipping)・・・の妨害
が生じ又はそのおそれがあるときは、運送人は運送開始前であれば運賃請求権を有したまま運送契約を解除し、運送開始後であれば荷主への引取請求権、運送品を処分する権利及び運賃請求権を失うことなく、荷主の負担でコンテナを開け、荷役を中止し、運送人が選択する場所で運送を中止し、保管することができると定める(このほかに、hindrance の有無に拘わらず政府又は保険者等の命令又は勧告等に従う自由も定めている。)。
この条項は運送人が一方的に且つ運送人に有利に作成したものであるから、それは限定的且つ合理的に解さなければならない。①に述べた公権力による処分に関しては、運送契約締結時それがなされる危険を知り又は知り得たにも拘わらず適切な措置をとらなかったときは、運送人はこの事由を援用できず、また運送人が差し迫った強制力の脅威に直面したときこれを回避するためにとった行為によって生じた運送品の損害は公権力の行使による処分から直接生じたものと同視しうるとされる(注解 100 頁)。公権力による処分が予測される場合、運送人は、合理的な回避措置を講じることを求められるのであり、少なくとも我が国が武力攻撃事態等に立至ったときは、運送開始前であれば当該条項に基づいて契約を解除することができると解することができるし、運送開始後であればそれが我が国への運送貨物の場合は合理的と考えられる場所で荷揚し保管することも許されると解する。
なお、我が国が重要影響事態や武力攻撃事態等に至った場合には、上記約款第 9 条の適用の確実性を増すため、同条により運送を中止することがあり得る旨の stamp clause を用いることも検討に値しよう。
③ 運送品の船積み不能を理由とする運送人の不積運賃の請求権
NYK の上記 BL 約款第 24 条第 4 項は、船積準備が整ったときに運送品が用意されていない場合、運送人は当該運送品を船積みせずに発航し不積運賃を請求できると定める。商法第 749 条第 2 項は不積運賃発生の要件として「荷送人が運送品の船積を怠りたるとき」と定める(下線筆者)。BL約款の当該条項は、荷送人に故意又は過失といった帰責事由がなくとも、船積準備整頓時に運送品の用意ができていないときは、運送人は船積みせずに発航し不積運賃を請求しうる趣旨と読むことができるように思われるが、商法の当該法条は荷送人について帰責事由があることを要件としているものと解される。我が国が武力攻撃事態等に立至ったときは、前述のとおり国等により陸上、海上及び航空運送並びに港湾運送事業について各種の規制を要素とする行政行為がなされ、国民はこれに従う義務を課される。これらの規制により荷送人が船積準備整頓時までに運送品を用意できないことが生じ得る。他方我が国の国民である海上運送人は、指定行政機関等が武力攻撃事態等において対処措置を実施する際は必要な協力をするよう努める義務を負う(事態対処法第 8 条)。こういった要素を較量し
たとき、運送人について船積みしないままでの発航権は認めることができるものの、不積運賃の請求権を肯定するのには些か問題があるように思われる。
(2) 定期傭船契約
① 武力攻撃等又はそれに基因してなされる行政行為に起因する運送品の滅失、損傷又は延着に対する運送人の損害賠償責任
定期傭船契約には、日本法を準拠法とするものであれ外国法を準拠法とするものであれ、国際海上物品運送法(運送契約を規律対象とする)や Hague 又は Hague-Visby Rules(BL により証明される運送契約を規律対象とする)は当然には適用されないが、傭船契約の中の Paramount 条項又は Rider 条項が Hague Rules Legislation(Hague 又は Hague-Visby Rules 自体乃至それら Rules に係る関連国内立法)を責任原則として採用しているのが通常である。従って、日本法を準拠法とするものであれば、その帰結は(1)①と同様になろう。外国法を準拠法とするものであれば Hague 又は Hague-Visby Rules によることが多いであろうが、国際海上物品運送法はそれら Rules を母法とするものであり、当然のことながらそれら Rules にも同法第 3 条第 1 項及び第 4 条第 1 項、第 2 項第 3 号及び
第 5 号に相当する第 2 条、第 3 条第 2 項及び第 4 条第 2 項(e)(g)の規定があるから、その帰結も(1)①と同様になろう。
② 傭船者の安全港担保義務違反を理由とする本船の滅失損傷等に対する損害賠償責任
後述④の戦争危険条項では、戦争危険地域に入域を拒絶する権利や入域した場合の船主の権利を詳細に規定するものの、当該地域への入域指示及びこれに従って入域したことが原因となって本船が滅失又は損傷した場合の傭船者の責任は必ずしも明記されていない。それらは、傭船契約の補償条項 Employment Clause 又はこれを寄港地指定の局面において具体化した安全港担保義務 Safety undertaking を理由とする損害賠償請求権として問擬される。安全港担保義務とは、傭船契約上、傭船者が船主に対し、寄港地指定時点において当該寄港地が「安全港」すなわち「当該船舶が、当該期間中において、『異常事態』が発生しない限り、良好な操船航海技術によっても回避できない危険にさらされることなく、到着し、利用し,出航することができる港」であることを担保する義務であるが、寄港時に戦争危険に遭遇して船舶に損害が発生した場合、当該危険が「異常事態」と言えるか(そのように言えれば当該港は安全港たるを妨げず、傭船者は責任を負わない)が問題となる。この点の判断は、結局、寄港時に現実に遭遇した船舶や港湾に対する武力行使等の戦争危険が、指定時点から発生し又は予期されていて当該港にとり異常ではない事態となっていたか、そ
れとも予期されていない事態の急変であり正に異常な事態であったかの認定に依拠することになる。
拙速な判断は避けるべきではあるが、傭船者が我が国の特定の港(当該 港への武力行使はおよそ考えられないというような極めて特殊な港であ れば格別)への航海を指示した時において、既に我が国が武力攻撃事態等 にある場合は、入港し出港するまでに当該港で現実に船舶や港湾に対する 武力行使等の戦争危険が発生したときには、それを異常な事態とは言えな いであろう。指定時点では重要影響事態又は存立危機事態であった場合も、異常な事態と言えない可能性が高いことを否定できないように思われる が、その時の情勢等に応じた細かい検討が必要である。
③ Exception 条項又は Force Majeure 条項による相互免責
多くの傭船契約書では Exception 条項が定められ、Rider で更に Force Majeure 条項が定められていることがある。それらは戦争、公敵又は公権力による処分(restraint of princes, rules and people)等(管理不能な事実の例示として他の諸事情と並べて出されている場合と限定列挙と読める場合とがある。)により契約の履行が妨げられた場合、妨げられている期間中は相互に免責され債務不履行責任を負わないとするものである。なお Cancelling Clause による傭船者の解約権は当該条項による任意解約権であり遅延が船主の義務違反を理由とするものでないから、本条項とは関わりがなく、Off Hire も Off-Hire 事由の発生を根拠とするものであって船主の義務違反を理由とするものでないからこれまた本条項とは関係ない。
(1)①で述べたとおり武力攻撃事態は戦争に当り、当該事態又はこれに基因する行政行為による履行阻害は、相互免責の要件を充足するし、重要影響事態における船舶検査活動による履行阻害も公権力による処分に当る。
④ 本船が戦争危険に晒されるおそれある場所に入域しない権利
傭船契約書が定める戦争危険条項(War Risk Clause)はその書式に細かい差異があるので、契約書毎の個別的検討が必要となるが、ここでは BIMCO が直近で推奨するCONWARTIME 2013 について検討する(なお、 CONWARTIME 2013 は NYPE2015(34 条)で採用されているが、 NYPE1946 には戦争危険条項がなく、NYPE1993(31 条(e))や Shelltime 4(35 条)の戦争条項も CONWARTIME 2013 とは異なる。Xxxxx Xxxxxxによる付加修正もしばしばある。その他、定期傭船契約中の各種の戦争危険条項の要旨及び差異については、別表1を参照されたい)。
当該条項によれば、本船は、戦争危険(実際の、差し迫った又は報告された、国家その他の何らかの人や団体による戦争、敵対行為、害意ある損壊、封鎖等々であって、船長又は船主の合理的判断により本船等に対して
危険であるか危険となるおそれがあるもの)に、それが契約締結時に存在 したか事後発生したかに関わりなく、船長又は船主の合理的判断によれば晒される可能性があるように思われる地域(「戦争危険地域」)には、入域する義務がなく、入域後そのようになった場合は退避することができる。我が国は武力攻撃事態等に至ったときは戦争危険地域に当る。我が国が
重要影響事態又は存立危機事態に至ったときも当該地域に当る可能性が高いことを否定できないように思われるが、その時の情勢等に応じた細かい検討が必要である。
⑤ 戦争危険地域に入域する場合の船主の傭船者に対する追加戦争保険料・乗組員の割増賃金等の分担請求権
同様に CONWARTIME 2013 について検討する。
上記④記載の戦争危険地域を航行する場合、船主は、傭船者に対し、合理的な一切の追加保険料及び追加保険の保険料並びに(当該地域が雇用契約上の定義でも危険な場合)雇用契約上必要となる乗組員の割増賃金等の分担を請求することができる。
論理的には、傭船契約上の戦争危険地域該当性と保険上の追加保険料等が必要となる除外水域該当性とは異なるが(後者は常に明示され折々に変化する。)、前者は後者でもあることを前提にしているように読める。
なお、旧版である CONWARTIME 2004 は、保険種別につき H&M に限らず LoE(LoH)、Detention(B&T)、PI も含むと明記したうえで、戦争危険地域に入域することによる追加分のみが傭船者負担と規定しているが、CONWARTIME 2013 はこれを前記のとおりに変更した。更に、傭船契約書によっては、H&M 保険の追加保険料のみ傭船者負担(LoE や B&T は全て船主負担)、契約締結後の追加保険料増額分のみ傭船者負担と限定するものもあるようであるので個別に確認を要する。
⑥ 本船の権限ある政府の命令等に従う権利等
同様に CONWARTIME 2013 について検討する。
CONWARTIME 2013 は、本船につき次の権利を定め、それらの権利の行使並びに④の戦争危険地域への入域拒否及び退避は傭船契約違反を構成せず、離路とは看做されない旨を定める。
(i) xx、船主の準拠法国、その他権限を有する国の政府等による出航、到着、航路、護送、寄港地、停止、仕向地、荷揚、引渡その他の事項に関する命令、指示、勧告又は助言に従うこと
(ii) 船主の保険者の保険条項に基づく要求に従うこと
(iii) 国連安保理決議、その他権限を有する超国家的組織の有効な命令及びその施行を目的とした船主の準拠法国の国内法等に従うこと
(iv) 禁制品として責任を問われかねない貨物を別の港で荷揚すること
(v) 乗組員やその他の乗船者が身柄を拘束されるだろうと信じるべき理由
がある場合にその者を交代するために代替港に寄港すること
上記 (i) に鑑みれば、第 3. 4.の海上輸送規制法に基づく停船検査及び回航命令に従うこと並びに第 3. 5.の船舶検査活動法に基づく検査、航路若しくは目的港の変更要請に応じることは離路に当らない。
そして、船主は、これらの条項に基づき当初予定された寄港地への寄港を拒否する場合には、直ちに傭船者に通知することを要するが、貨物積載中である場合には代替の安全港の指定を要求して 48 時間以内に指定がないときは、自己の選択する安全港での荷揚ができ、その費用と危険は傭船者の負担とされる。
⑦ 戦争解約条項(War Cancellation Clause)による相互解約権
傭船契約書によっては、戦争解約条項(War Cancellation Clause)が規定されているが、その書式には細かい差異があり、対象国は契約毎に個別に合意されることになっている場合も多いので、契約書毎の個別的検討が必要となるが、ここでは、BIMCO が直近で推奨する War Cancellation Clause 2004 について検討する(なお、NYPE1946 及びNYPE2015 には戦争解約条項がなく、NYPE1993(32 条)や Shelltime 4(33 条)の戦争条項も War Cancellation Clause 2004 とは異なる。Xxxxx Xxxxxx による付加修正もありうる。)。
当該条項によれば、米国、ロシア、英国、フランス、中国の何れかの間又は随時傭船契約に定められる国の間で戦争(宣戦布告の有無を問わない。)が開始されたときは、両当事者は相互に契約を解約することができる。「我が国と北朝鮮の間」が傭船契約に規定されていれば、我が国が北朝鮮との関係で武力攻撃事態に立至ったときは解約権が発生する。
⑧ 徴用条項(Requisition Clause)によるオフハイヤー又は相互解約権
傭船契約書によっては、本船がxx政府等により徴用された場合についての規定を置いている。これについても、契約書毎の個別的検討が必要となるが、ここでは BIMCO が推奨する Requisition Clause について検討する(なお、NYPE 1946 には徴用条項がない。NYPE 1993(34 条)の徴用条項は BIMCO が推奨する上記と同じであるが、NYPE 2015(36 条)、 Shelltime 4(32 条)の徴用条項は若干異なる。Xxxxx Xxxxxx による付加修正もありうる。)。
当該条項によれば、本船がxx政府により徴用された場合には、その期間中本船はオフハイヤーとなり、かわりに徴用に係る対価は船主が取得する。徴用期間は傭船期間の一部として算入される(その分傭船期間が延びることはない)が、徴用期間が合意された一定期間を超えた場合には相互に解約権が発生する。この後段部分、即ち相互解約権が発生する徴用期間が明記されていない場合には、徴用期間が相当長期に亘っても凡そ契約解除権が発生しないと考えるべきか、発生するとすればどの程度の長期であ
れば発生すると解すべきかが問題となる。契約準拠法国の契約法理に従って判断すべき問題であるが、英国法であれば、期間次第で Frustration の法理の適用により処理されるのではないかと思われる。
因みに、上記徴用条項は、所謂 Requisition for Hire と言われる形態、即ち公権力が強制的に船舶の運航乃至航海指示の権利を取得し行使する形態を前提としている。概念的には、Requisition for Title と言われる形態即ち公権力が所有権自体を取得(強制収用)する形態もあり得る。その場合は、恐らく履行不能あるいは Frustration の法理の適用により契約は終了するであろう。もっとも、第 3.で詳述した通り、現在の日本の平和安全法制では、この形態の規定は見当たらないように思われるし、第 5.の航海命令も、万一それが発令されるとしても、これには該当しない。
(3) 航海傭船契約
① 武力攻撃等又はそれに基因してなされる行政行為に起因する運送品の滅失、損傷又は遅延着に対する船主の損害賠償責任
日本法を準拠法とする航海傭船契約には国際海上物品運送法が適用される(同法第 1 条、第 2 条第 3 項)ので、(1)①と同様に解される。外国法を準拠法とするものについては(2)①と同様のことが言える。
② 本船の滅失損傷等に対する安全港担保義務違反を理由とする傭船者の損害賠償責任
(2)②と同様に解される。
③ Exception 条項又は Force Majeure 条項による相互免責
(イ) (2)③(Off-Hire に係るものを除く。)と同様に解される。
(ロ) Laytime(Demurrage 又は Despatch Money)の計算上、本条項に該当する事由で荷役が不能になった場合に不能になった時間がLaytimeに算入とされるか否かは、当該条項の解釈問題であり、xx規定があればそれによる。それがない場合は、Demurrage を損害賠償の予定
(Laytime 期間内に荷役完了させるのが傭船者の義務)と考えれば不算入と考えられよう。なお任意規定であるが商法第 741 条第 3 項(改
正法案第 748 条第 2 項)及び第 752 条第 3 項(同第 752 条第 2 項)は、Demurrage を特別報酬としたうえで不可抗力の場合の不算入を規定する。
(ハ) 本条項の定める事由により○a 傭船者が運送品の全量を船積みできなかった場合の不積運賃計算、○b 船積期間内に傭船者が運送品の全量を船積みできなかった場合の発航権及び不積運賃等の請求権については、船積を傭船者の義務と解し、不積運賃を損害賠償金、発航を運送契約の(一部)解除と考えれば、それらは否定されることになるであろう。しかし、船積は権利であり権利を行使できなかっただけと考えれば反
対の結論になる。(1)③の場合と同様、更に思考を重ねたい。なお商法第 744 条及び第 743 条第 2 項(改正法案第 751 条、第 750 条第 2項)は、船積期間経過後の船長の発航権及び運賃請求権を規定している。
④ 本船が戦争危険に晒されるおそれある場合の運送の中止又は変更xx
傭船契約書が定める戦争危険条項(War Risk Clause)はその書式により細かい差異があるので、契約書毎の個別的検討が必要となるが、ここでは BIMCO が直近で推奨する VOYWAR 2013 について検討する(なお、 GENCON 1994 や Shellvoy 6 の戦争条項はこれと異なる。Xxxxx Xxxxxxによる付加修正もしばしばある。その他、航海傭船契約中の各種の戦争危険条項の要旨及び差異については、別表2を参照されたい)。
当該条項によれば、運送契約の履行により、本船等が、戦争危険(実際 の、差し迫った又は報告された、国家その他の何らかの人や団体による戦 争、敵対行為、害意ある損壊、封鎖等々であって、船長又は船主の合理的 判断により本船等に対して危険であるか危険となるおそれがあるもの)に、それが契約締結時に存在したか事後発生したかに関わりなく、船長又は船 主の合理的判断によれば晒される可能性があるように思われる場合、船主 は、船積前であれば契約を解約し又は一部の履行を拒絶することができ
(但し、船積港又は陸揚港が一定範囲で規定されている場合であって、指定港が船長又は船主の合理的判断によれば戦争危険に晒される可能性があるように思われる地域(「戦争危険地域」)内である場合は、安全な代替港指定を求める船主の通知を傭船者が受領してから 48 時間以内に回答しなかった時に限る。)、船積後であれば戦争危険水域への入域を拒絶し、当該水域内での陸揚を拒絶したうえで安全な代替の陸揚港の指定を求める船主の通知を傭船者が受領してから 48 時間以内に回答しなかったときに
は船主は任意の安全港で陸揚し、追加陸揚費用及び運送距離が 100 海里以上増えた場合には追加運賃を請求することができる。加えて、船積港から陸揚港までの航路において戦争危険地域がある場合であって、代替航路がある場合には、船主は、後者を選択することができ、それにより運送距離が 100 海里以上増えた場合にも追加運賃を請求することができる。
我が国が武力攻撃事態等に立至ったときは我が国の港は戦争危険に晒された港に当るし、重要影響事態又は存立危機事態に至ったときも当該港に当る可能性が高いことを否定できないように思えるが、更にそのときの情勢等に応じた細かい検討が必要である。
⑤ 戦争危険地域に入域する場合の船主の傭船者に対する追加戦争保険料分担請求権
同様に VOYWAR2013 について検討する。
上記④記載の戦争危険地域を航行する場合又は当該地域で荷揚する場
合、船主は、傭船者に対し揚切後当該地域を離れるまでの期間の追加戦争保険料の分担を請求することができる。乗組員の割増賃金等については規定がない。
⑥ 本船の権限ある政府の命令等に従う権利等
VOYWAR2013 にも(2)⑥に記述した CONWARTIME と同趣旨の条項が定められている。(2)⑥に述べた意見がここでも妥当する。
⑦ 戦争解約条項(War Cancellation Clause)による相互解約権
(2)⑦と同様に考えられる。
⑧ 徴用条項(Requisition Clause)によるオフハイヤー又は相互解約権
(2)⑧と同様に考えられる。
(4) 裸傭船契約
① 本船を戦争危険に晒されるおそれある場所に入域させない権利
Barecon 2001(26 条)や Barecon 89(24 条)も、CONWARTIME 2013
と類似の条項を有し、(2)④に述べたことが概ね妥当する。
所謂オペレーティングリース契約については、特別な規定が設けられている場合はそれによるが、Barecon 2001 や Barecon 89 の上記条項を存置しているときは当該条項の定めるところによる。この点は、以下の②③④についても同様である。
② 権限ある政府の命令等に従う権利等
CONWARTIME 2013 では、これは船主の権利として規定されるのに対 し、Barecon 2001(26 条)では、これは傭船者の権利として規定されて いる。本船を占有し実際に運航するのがどちらであるかに起因した差異と いえる。前者では、船主がこれに従えば離路とはならないという効果を有 するのに対し、後者では、傭船者がこれに従った結果本船に損害が生じて も船主に損害賠償義務を負わないという効果を有すると言えそうにも思 われるが、その解釈は船主が有する①の権利と矛盾が生じる可能性があり、個別事情に応じた更なる検討が必要である。なお、Barecon 89(24 条) では、これを本船が有する権利として規定しているところ、その意味内容 は明確ではない。本船の占有関係からして、Barecon 2001 と実質的には 同趣旨と解すべきであろう。
③ 戦争解約条項(War Cancellation Clause)による相互解約権
Barecon 2001(26 条)や Barecon 89(24 条)も、類似の条項を有し、
(2)⑦と同様に考えられる。
④ 徴用(Requisition)があった場合
Barecon 2001(25 条)や Barecon 89(23 条)によれば、定期傭船契約における(2)⑧と異なり、Requisition for Hire の場合は、傭船契約はそのまま継続するが、徴用の対価が船主に支払われた場合には、契約上の
傭船料との精算する旨規定している。別言すれば、約定裸傭船料と徴用の対価とに齟齬があり後者が前者より少ない場合、その差額は傭船者の負担とされている。
また、上記各条項には、( 2 ) ⑧ で述べた Requisition for Title (Compulsory Acquisition) についてもxxがあり、その場合には契約は自動終了する旨規定している。
2. xx運送契約
(1) 箇品運送契約
① 武力攻撃等又はそれに基因してなされる行政行為に起因する運送品の滅失、損傷又は延着に対する運送人の賠償責任
運送人は運送品の受取、引渡、保管及び運送に関し注意を怠らなかったことを証明しなければ、運送品の滅失、毀損又は延着について損害賠償の責を免れることはできない(商法第 766 条、第 577 条)。KYK のxx運送約款(以下単に「xx運送約款」という。)も同様の趣旨のことを定め
(同約款第 18 条第 4 項)、内乱、テロ、暴動、ストライキその他の不可抗力によって生じた損害については賠償の責に任じないと規定する(同約款第 20 条)。武力攻撃はこの不可抗力に当るし、第 3.に述べた行政行為又は海上運送法第 26 条の航海命令によって生ずる損害もこの不可抗力に当るものとして、1.(1)①に述べたxx運送人と同様、xx運送人も責に任じないと解する。
② 正当な事由による運送人の発航の中止等
xx運送約款は、官公署の命令その他正当な事由がある場合、船便の発航を中止し、運送契約を解除し、発着日時、航路、船積港又は陸揚港の変更等をすることができ(同約款第 12 条第 6 号、第 9 号、第 3 条第 4 項第
1 号)、天災等の正当な事由がある場合は貨物を最寄港その他の港若しくは
場所に荷揚げし又は船積港に積戻すことができると定める(同約款第 13
条第 1 項)。この条項は制限的に解釈することが求められるが、武力攻撃事態等又は第 3.に述べた行政行為により予定する航路又は荷揚xxの安全又は円滑な使用が損なわれ又は損なわれることが合理的に予測される場合は、これらの条項の効力は認められるものと解する。
③ 運送品の不積を理由とする出航x
xx運送約款は、荷送人が運送人が指定する時間内に貨物を引渡さない場合、運送人は貨物を船積みすることなく運航開始予定時刻に出航させることができると定める(同約款第 3 条第 3 項)。1.(1)③に述べたのと同様に考えることができよう。
(2) 定期傭船契約
① 武力攻撃等又はそれに基因してなされる行政行為等に起因する運送品の滅失、損傷又は延着に対する運送人の損害賠償責任
運送人の債務不履行に帰責事由がなく又は違法性が阻却されることにより(1)①と同様に考えられる。
② 傭船者の安全港担保義務違反を理由とする本船の滅失損傷等に対する損
害賠償責任
日本海運集会所のxx定期傭船契約書(以下単に「定期傭船契約書」という。)は、傭船者の安全港担保義務を定める(同契約書第 4 条)。同契約の準拠法は日本法であるが、1.(2)②に述べたことが妥当する。我が国が武力攻撃事態に至った場合は、我国のすべての港が非安全港になる可能性がある。
③ 相互免責
定期傭船契約書は官憲又はこれに類する者の抑留その他の処分、内乱、テロ、暴動等その他の天災不可抗力により生じた損害については、当事者は互いにその責を負わないと規定する(同契約書第 16 条)。1.(2)③に述べたのと同様に考えられる。武力攻撃事態はその他の天災不可抗力に当るし、当該事態又はこれに基因する行政行為等による履行阻害も相互免責の要件を充足するし、重要影響事態における船舶検査活動による履行阻害も官憲の抑留に当る。
④ 本船が変乱等の状態にある港へ航行しない権利
定期傭船契約書は、傭船者は変乱の状態にある港湾又は場所に本船を航行させることができず(同契約書第 21 条第 1 項)、船体保険料の割増
を要する区域を航行させることができない(同条第 2 項)旨を定める。変乱とは、事変により世の乱れることを言い、事変とは、警察力では鎮定しえない程度の擾乱を言う(広辞苑)。我が国が武力攻撃事態にあるときは我が国の港湾すべてが変乱の状態にあるとも解される。入港しようとしている港への入港が戦争保険料の割増を要する場合には第 2 項に当る。
⑤ 日本国政府による強制使用による契約の解除
定期傭船契約書は、本船が日本国政府又はその他の権限ある機関に強制使用されたときは、船主は本契約を無償で解約することができる旨(同契約書第 19 条第 1 項)、その強制使用が本契約期間中に終了したときは、傭
船者は本契約に従い再び本船を使用することができる旨(同条第 2 項)及び随意契約による官公署の傭船については船主は傭船者の承諾がなければこれに応ずることができない旨(同条第 3 項)をそれぞれ定める。第 1
項の強制「使用」には第 3 項との対比及び第 2 項で傭船者は強制使用が本契約期間中に終了したときは再び本船を「使用」することができると定めていることから、海上運送法第 26 条に基づく航海命令及び国民保護法に基づく運送の求め又は指示に基づく運送に従事する場合も含まれると解する。
(3) 航海傭船契約
① 武力攻撃等又はそれに基因してなされる行政行為に起因する運送品の滅失、毀損又は延着に対する運送人の損害賠償責任
商法第 766 条、第 577 条はこの運送契約にも適用される。日本海運集会所のxx運送契約書(以下単に「xx運送契約書」という。)は、運送人は適当な注意をしても貨物に損害が生じたときは、賠償の責を負わない旨を定める(同契約書第 17 条第 1 項)。(2)①と同様に考えられる。
② 傭船者の安全港担保義務違反を理由とする本船の滅失、損傷等に対する損
害賠償責任
xx運送契約書も傭船者の安全港担保義務を定める(同契約書第 3 条)。
(2)②に述べたことが妥当する。
③ 相互免責
xx運送契約書にも定期傭船契約書第 16 条と同じ規定が存在する(x
x運送契約書第 16 条)。(2)③に述べたことが妥当する。
④ 変乱等の天災不可抗力事由ある場合の発航xx
xx運送契約書は、船長が変乱等の天災不可抗力のため(i)船積を終了する見込みがないと認めたときは運送人は直ちに本船を発航させることができ(同契約書第 14 条第 1 項)、(ii)船長が揚地に入港し又は荷揚げすることができないと認めたときは運送人は荷主の危険と費用とにおいて付近の安全な場所に荷揚げすることができると定める(同契約書第 15 条第
1 項)。
積地又は揚地で戦闘行為が行われ又は第 3.の行政行為により港湾施設の利用が極度に制限され又は移動を命じられたような場合は変乱等の天災不可抗力に当ると解される。
⑤ 離 路
xx運送契約書は本船は人命等の救助のため等のほか、正当な事由がある場合、本線は航路を変更することができる旨定める(同契約書第 19 条)。戦闘行為に遇うことが予想される航路からの離路並びに海上輸送規制法に基づく停船検査及び回航命令による離路は本条による正当な離路に当ると解される。
(4) 裸傭船契約
① 本船を変乱の地に使用することの禁止
日本海運集会所のxx裸傭船契約書(以下単に「裸傭船契約書」という。)は、傭船者は本船を変乱の地に使用しようとするときは予め船主の承諾を得なければならないと定める(同契約書第 5 条第 2 項)。変乱の意義については(2)④に述べた。
② 日本国政府による強制使用
裸傭船契約書は、本船が日本国政府その他権限ある機関によって強制使用されたときは、当該使用期間は当該契約期間に算入する旨定め(同契約書第 15 条第 1 項)、強制使用によって保険契約(P&I 保険を含む。)が解約され又は効力を失ったときは、その時以後に生じた本船の滅失、損傷その他の傭船者の責任は政府又は権限ある機関の補償をもって限度とすると定める(同条第 2 項)。この「強制使用」に海上運送法第 26 条に基づく航海命令及び国民保護法に基づく運送の求め又は指示に基づく運送に従事する場合も含まれると解するのは、(2)⑤と同様である。
第7. 武力攻撃災害発生時の支払猶予令(モラトリアム)の定期傭船契約上の法律関係に及ぼす影響
(1) NYPE の本船引揚条項(Xxxxxxxxxx Xxxxxx)
NYPE 1946(第 5 条)、NYPE 1993(第 11 条)、NYPE 2015(第 11 条)は、
それぞれ、傭船者が遅滞なく定期に傭船料を支払わない場合(厳密には後二者にあっては不払時に船主からの通知により付与される短期の猶予期間内もなお支払わない場合)には、船主は本船を傭船者の運航から引揚げることができる旨の所謂本船引揚条項(Withdrawal Clause)を定めている。
支払猶予令による支払の延期の法的性質には、第 4.に見たとおり弁済期の法による強制的変更とする説と、これを変更することなく単に債務者の弁済期の弁済を猶予するにすぎないとの説がある。これまでに我が国で発出された支払猶予令は、債務者の住所等並びに債務の発生日及び弁済期を指定してそれに当る債務について一定期間支払を延期したものである。本稿では同令の対象たる債務を、その発生日及び弁済期が指定された期間内にあり、債務者が我が国に住所若しくは営業場所を有するものとして考究する。
当該定期傭船契約が日本法を準拠法とするものであれば、我が国を支払場所とするものは勿論のこと、疑問が全くないではないが外国を支払場所とするものも約定の傭船料の支払日に傭船料を支払わなかったとしても(仮に債務者が弁済期に支払う意思を有していたとしても、当該債務者が預金を有する我が国内の支払銀行は預金の払戻し及び債務者の指定する銀行への送金を拒否するであろう。)、それは船主に本船を引揚げる権利を付与するものではないと解する。
しかし、外国法を準拠法とする定期傭船契約の場合は、支払猶予は同契約上の引揚条項における弁済期を変更し又は傭船者に猶予期間中の支払拒否権を付与するものではないから、問題を自ずから異にする。それでも支払場所を我が国とする傭船料債務については支払猶予令は我が国内で効力を有するから、その不払は引揚の要件を充足せず船主に引揚権は発生しないと解する(前述のとおり、我が国内の銀行は支払及び送金を拒否するであろう。)。これに対し、支払場所を外国とする傭船料債務については支払猶予令は当該外国に効力を及ぼさないから、弁済期の不払は違法であり、船主は本船を引揚げることができるということになると解される(この場合、当該不払はそれだけでは repudiation を構成しないから、傭船者は船主に対し損害賠償債務を負うものではないと解するが)。
(2) 日本海運集会所内航定期傭船契約書の傭船料不払による契約の解除条項
同定期傭船契約書は、傭船者が傭船料の支払の催告を受けたにも拘わらずこれを支払わないときは、船主は傭船を停止し又は同契約を解除することができると定める(同契約第 8 条)。同契約は日本法を準拠法とし、支払場所を我が国とするものであることを前提として、支払猶予令が発された場合の同条の解釈について述べる。支払猶予令により契約上の弁済期における傭船料の不払そのものはその限度で違法ではないのであるから、船主は催告をなすことができず、定期傭船契約の停止又は解除をすることはできないと解する。
(3) Barecon2001 の Termination Clause
Barecon2001 は、傭船者が傭船料を弁済期に支払わず、その支払が傭船者又
は銀行の過失によるものであるときは、船主が約定の期間の催告をして、本船を引揚げ且つ傭船契約を解除することができる旨定める(Barecon2011 第 28 条 (a)(i)、第 11 条)。第 11 条の規定は弁済期の傭船料の支払を condition としたものである(”time shall be of the essence”)。当該契約の準拠法が日本法であり且つ傭船料の支払場所を我が国内とするものである場合は、(1)に述べたところが妥当する。しかしそうでない場合については、解釈を留保する。第 28 条(a)(i)は催告を為すべき場合として傭船者又は銀行に過失がある場合を挙げている。支払猶予令による不払は傭船者及び銀行の過失を構成しない。同令により少なくとも傭船者又は銀行による不払そのものは違法性を有しないことになるのであるから、それは債務不履行を構成せず、船主に本船の引揚権及び契約の解除権は発生しないように思われるのではあるが。
第8. 武力攻撃事態等又はそれに基因してなされる行政行為等が国際航空運送契約上の法律関係に及ぼす影響
(1) 箇品運送契約
① 武力攻撃等又はそれに基因してなされる行政行為に起因する運送品の滅失、損傷又は延着に対する運送人の損害賠償責任
運送人は貨物の破壊、滅失又は毀損(以下「貨物の破壊等」という。)に係る損害については、損害の原因となった事故が航空運送中に生じたものであることのみを条件として責任を負うとされている一方、貨物の破壊等が戦争行為若しくは武力紛争又は貨物の輸入、輸出又は通過に関してとられた公的機関の措置から生じたのであることを証明したときは、その範囲内で責任を免れる
(モントリオール条約第 18 条第 1 項、第 2 項(c)(d)、NCA の認可国際運
送約款(以下「NCA 運送約款」という。)第 66 条第 2 項、第 3 項))。運送人は、延着から生じた損害について責任を負うが、損害を防止するために合理的に要求されるすべての措置をとったこと又はそのような措置をとることが不可能であったことを証明した場合は、責任を負わない(同条約第 19 条)。
武力攻撃は戦争行為に当る。武力攻撃又はそれに基因する行政行為による貨物の破壊等に係る損害は、戦争行為から生じた損害に当る(この損害は貨物の輸入、輸出又は通過に関してとられた公的機関の措置から生じたものに当る場合もあると考えられる。)。延着によって生じた損害については免責事由が貨物の破壊等によって生じた損害の免責事由と異なるが、我が国が武力攻撃事態に立至った場合はこの免責事由は多くの場合認められるものと考えられる。
② 管理不能な事実 any fact beyond control の発生を理由とする運送人の運送中止又は変更権
NCA 運送約款は、次の事由のため妥当と判断したときは、航空便若しくは運送の権利を取消し、打切り、迂回させ、延期させ、遅延させ又は早発させ又は貨物の全部又は一部を搭載せずに出発させることができると規定している
(第 35 条第 3 項第 1 号、第 3 号)。
(i) 会社の管理不能な事実(any fact beyond control)(戦争、敵対行為、動乱又は国際関係の不安定等)が発生し、発生のおそれがあり又は発生が報告されている場合
(ii) 官公署の規制、命令、要求又は指示がある場合
モントリオール条約は、運送人の責任を免除し又は条約が定める責任限度額より低い額を定める契約上の規定は無効とするとしている(第 26 条)。上記規定は当該条項により無効とされる性質のものではないし、NCA 運送約款は公益的見地から国土交通大臣の認可を受けた約款であるので(航空法第 106条)、その効力が否定されるとは考え難い。我が国についての武力攻撃事態等は(i)に当るであろうし、存立危機事態及び緊急対処事態もそのときの具体的な情況によってはこれに当ろう。
(2) 貸切運送契約
① 意 義
NCA の認可国際貸切運送約款(以下「NCA 貸切運送約款」という。)は、貸切(運送)契約につき、用機者と会社(NCA)との 1 以上の限定された旅程に対する乗員付きの航空機の全部又は一部の貸切に関する契約をいい、会社
(NCA)は貸切契約により荷送人と貨物の貸切運送につき契約すると規定する(第 1 条)。その性質は航海傭船契約に類似する。
② 武力攻撃等又はそれに基因してなされる行政行為に起因する運送品の滅失、損傷又は延着に対する運送人の損害賠償責任
モントリオール条約は国際貸切運送契約にも適用されるし(同条約第 1 条第
1 項)、NCA 貸切運送約款にも(1)①で挙げた NCA 運送約款第 66 条第 2 項、
第 3 項)と同じ規定が置かれている(NCA 貸切運送約款第 74 条第 2 項、第 3
項)。(1)①で述べたことが妥当する。
③ 管理不能な事実 any fact beyond control の発生を理由とする運送人の運送中止又は変更権
NCA 貸切運送約款第 9 条第 2 項はNCA 運送約款第 35 条と同趣旨を規定している(但し貨物の全部又は一部を搭載せずに出発させることができるとの規定はない。)。(1)②と同様のことが妥当する。
④ 用機者が搭載準備ができなかった場合の会社(NCA)の出発権
用機者は会社が指定する時刻までに貨物の搭載ができるようすべての手配をなすべき義務を負う。用機者がこれを守らなかった場合、会社(NCA)は貸切航空機の出発を遅延させる義務はなく、その一部を搭載せずに貸切航空機を出発させることができる(NCA 貸切運送約款第 14 条)。我が国が武力攻撃事態等に立至った場合においても、この条項は効力を有するものと解する(第 6.1.(1)③御参照)。
(3) Code Share 協 定
① 意 義
弊職らはこの協定の例として、或る協定(案)(以下単に「協定案」という。)を参照した。同契約は両当事者(運航者(Operating Party))が相互に約定の航空路に就航させて運航する航空機の機腹の一部を相手方( 参加者
(Participating Party))に提供し、相手方が集貨した貨物を約定の出発地で搭載して約定の到達地まで相手方のflight designator 及びflight number で運送することを約し、相手方(参加者)が運航者に約定の使用料を支払う旨を約した契約である。その性質は航海傭船契約に類似する。
② 戦争の場合の貨物の調整
協定案は両当事者は出発地、到達地、通過地又は以遠地で戦争等が発生した場合、それぞれの貨物を調整しなければならないと定める。この規定の効力を否定する理由はない。
③ Force Majeure 事由による免責
ここに Force Majeure 事由とは政府の干渉(interference)、指示(direction)、制限(restriction)又は戦争等、当事者の合理的な支配(beyond reasonable control)の及ばない事由をいう。協定案は両当事者は同契約上の債務不履行がForce Majeure 事由によるものであるときは、それについて責任を負わず、当該事由が止むまで当該債務を履行するに及ばない旨を定め、更に Force Majeure 事由が 30 日を超えて続いた場合、各当事者はそれについて損害賠償義務を負うことなく協定案を解除することができると定めたうえで、この解除は既に生じている債権及び債務に影響を及ぼさないとする。この協定案の条項の効力を否定する理由はない。
(4) オペレーティングリース契約
航空機のオペレーティングリース契約書(以下単に「リース契約書」という。)の中には、航空会社にオールリスク及び戦争等を填補する機体保険契約及び責任保険契約の締結を義務づけ、航空会社をしてこの保険が有効にxxされていない場合同航空機を運航することを禁じるものがあるのではないかと推測される。東京海上日動の(i)航空機保険約款及び(ii)貨物賠償責任補償特約はそれぞれ、(a)戦争による損害及び(b)核燃料物質等による損害を免責とし、それらの更なる特約により(a)の損害を填補することとしている。しかしこの更なる特約も、(i)の保険の特約にあっては核分裂又は核融合を用いた戦争兵器の爆発(敵意の有無を問わない。)によって生じた損害には及ばず、(ii)の保険の特約にあっては航空機の所有権又は用益権の徴発により当然に終了し、前述の戦争兵器の敵対行為としての爆発により戦争による損害の填補は当然に終了する。我が国において武力攻撃事態が生じるような場合は、これらの条項に基づいて航空会社に生じる不利益について手当をすることが必要である。
(5) 運航乗務員派遣契約
航空会社の中には外国の乗員派遣会社と乗員派遣契約(以下「派遣契約」という。)を締結して乗員の派遣を受けている会社があるのではないかと推測される。航空会社が派遣契約により戦争による損害を填補する損害保険のxxを義務づけられている場合、(4)に述べた事態が出現したときは派遣契約が解除されるおそれがある。
以 上
CONWARTIME2013 | CONWARTIME2004 | CONWARTIME1993 | |||
書式 | NYPE2015 | BOXTIME2004 | GENTIME/BALTIME1939 (Revised 2001) | NYPE1993 | SHELLTIME 4 (Amended 2003) |
従前の版との比較等 | ・戦争危険等の定義等の修正 全般に「かもしれない又は虞がある(may or likely to)」との表現が「かもしれない (may)」のみに統一された。両者の異同が問題となり係争となった英国判例を踏まえたものとされる。 「海賊行為」が「海賊、強盗又は強奪行為」を含む旨明記された。 契約締結後に発生した戦争危険も含む旨明記された。 船主同意があれば戦争危険等のある地域に航行可との明記が削除された。 ・戦争保険料負担につき、保険の種類等を明記せず、船主は、傭船者に対し、合理的な一切の追加保険料及び追加保険の保険料の支払を請求することができるとされ、支払期限が請求から 15 日以内に変更された。 ・代替安全港での荷揚が傭船者の費用及び危険負担である旨明記された。 ・本船が本条項に従って航行したことから生じた船荷証券等に基づく損害賠償請求につき傭船者に補償義務がある旨明記された。 | ・戦争危険の定義の修正 対象となる事象先般について、「実際の又はその脅威及び報告を含む( actual, threatened or reported)」との修飾語がかかるよう修正された。 ・戦争保険料負担及び乗組員の割増賃金等の傭船者負担につき、船主が実際に払った額への償還である旨が明記され、支払期限が次回傭船料支払期又は返船時の何れか早い方に変更された。 ・船主の自由につき、 EC 指令に従う自由の明記が削除された。 他港での荷揚や寄港につき「変針して (divert)」との文言が削除された。 | ・戦争危険の包括的定義あり 本船、積荷、乗組員等に「危険であるかもしれない、又は危険である若しくは危険になる虞がある(may be dangerous or are likely to be or to become dangerous)」事象が広く包含されている。 船主の同意につき不当に同意拒絶不可との文言なし。 ・封鎖または臨検を受け得る水域への航行拒絶権あり。 ・戦争保険料負担及び乗組員の割増賃金等の傭船者負担につき支払期限(次回傭船料支払期)が明示された。 ・xx政府や船主所属国政府の命令、指図及び勧告、国連安保理決議、EC 指令等に従う自由が明記された。 | ・ 本船が航行を拒絶できるのは、本船等が抑留や敵対行為等を受けると合理的に予想される、戦争等に巻き込まれた場所という形で規定されており、CONWARTIME と比し限定的表現である。 ・ 船主は上記の場合にも不当に同意拒絶不可とあり、何を以て不当とされるかは不透明。 ・ 国家保険を含む保険手配不可のときに入域不要と明記あり。 ・ xx政府や船主所属国政府の命令、指図及び勧告、国連安保理決議、EC 指令等に従う自由の明記なし。 | ・ 本船が航行を拒絶できるのは、戦争等により航行が危険、不可能又は禁止の場合という形で規定されており、CONWARTIME と比し限定的表現である。 ・ 海賊行為への言及なし。 ・ 戦時禁制品、乗組員等の抑留等への明示の言及なし。 ・ 国連安保理決議等に従う自由の明記なし。 |
要旨 | (a) 定義規定 (i) 船主:船舶所有者、裸傭船者、管理人、運航者及び船長等 (ii) 戦争危険:船長又は船主の合理的な判断によれば、本船、積荷、乗組員等に 「危険である又は危険になるかもしれな い (may be dangerous or may become dangerous)」政府(承認の有無を問わない)又はテロリスト等による、実際の又はその脅威及び報告を含む、戦争、戦闘、騒擾、機雷敷設、海賊、強盗又は強奪行為、テロ行為、封鎖等 (b) 戦争危険水域への航行拒絶権 本船は、船長乃至船主の合理的判断によれば、戦争危険(契約以前から存在したか否かを問わない)に曝されるかもしれない (may be exposed))ように思われる水域への航行を指示されず、入域後そうなった場合、退避の自由を有する。 (c) 禁 制品船積拒絶xx 本船は、戦時禁制品の船積、封鎖水域又は交戦勢力の臨検等を受け又はその虞がある水域への航行を要求されない。 (d) 戦 争保険関連条項 本船が戦争危険水域を航行する場合、船主は、傭船者に対し、保険者の要求する追加 保険料及び合理的な一切の追加保険の保 | (a) 定義規定 (i) 船主:船舶所有者、裸傭船者、管理人、運航者及び船長等 (ii) 戦争危険:船長又は船主の合理的な判断によれば、本船、積荷、乗組員等に 「危険であるかもしれない、又は危険である若しくは危険になる虞がある (may be dangerous or are likely to be or to become dangerous)」政府又はテロリスト等による、実際の又はその脅威及び報告を含む、戦争、戦闘、騒擾、機雷敷設、海賊行為、テロ行為、封鎖等 (b) 戦争危険水域への航行拒絶権 本船は、船主の書面同意がない限り、船長乃至船主の合理的判断によれば、戦争危険に曝されるかもしれない、又は曝される虞がある(may be, or are likely to be, exposed)) ように思われる水域への航行を指示されず、入域後そうなった場合、退避の自由を有する。 (c) 禁制品船積拒絶xx 本船は、戦時禁制品の船積、封鎖水域(その対象を問わない)又は交戦勢力の臨検等の権利に服し又はその虞がある水域への航行を要求されない。 (d) 戦争保険関連条項 (i) 船主は船体その他の利益(LoE、PI 等) | (A) 定 義規定 (i) 船主:船舶所有者、裸傭船者、管理人、運航者及び船長等 (ii) 戦争危険:船長又は船主の合理的な判断によれば、本船、積荷、乗組員等に 「危険であるかもしれない、又は危険である若しくは危険になる虞がある (may be dangerous or are likely to be or to become dangerous)」政府又はテロリスト等による、戦争(実際の又はその脅威)、戦闘、騒擾、機雷敷設(実際の又はその報告)、海賊行為、テロ行為、封鎖等 (B) 戦 争危険水域への航行拒絶権 本船は、船主の書面同意がない限り、船長乃至船主の合理的判断によれば、戦争危険に曝されるかもしれない、又は曝される虞がある(may be, or are likely to be, exposed)) ように思われる水域への航行を指示されず、入域後そうなった場合、退避の自由を有する。 (C) 禁制品船積拒絶xx 本船は、戦時禁制品の船積、封鎖水域(その対象を問わない)又は交戦勢力の臨検等の権利に服し又はその虞がある水域への航行を要求されない。 (D) 戦争保険関連条項 | (i) 禁制品船積拒絶権・戦争危険 水域への航行拒絶権 戦時禁制品は船積されない。本船は、船主の承諾なく、本船、積荷、乗組員が抑留等又は交戦勢力(軍事力を保持する事実上又は法的な政府等) の敵対行為を受けるかもしれぬと合理的に予想される、戦争、戦闘、騒擾、海賊行為等(宣戦布告の有無を問わない)に巻き込まれている場所への入域を指示されないが、当該承諾は不当に留保されてはならない。 (ii) 戦争保険関連条項 船主が当該承諾を与えた場合、傭船者は、通常の船体保険と同額(但し所定額以下) の評価額で戦争保険を付すための割増保険料、不稼働損失等の付随危険に対する戦争保険料を支払う。 それら保険が民間又は国家の保険で手配できない場合は、入域の義務はない。 | 34 条 戦争保険料・割増賃金 本船が戦争(その脅威を含む・宣戦布告の有無を問わない)状態にある区域へ就航を指示された場合、傭船者は、船主に生じた追加保険料、乗組員手当その他合理的な費用を償還する。但し、傭船者が可及的速やかに且つ事前に通知を受け、戦争保険者の求償権が放棄されることを条件とする。 当該償還は証憑書類に基づき行い割戻等は傭船者に帰属する。 35 条 (a) 船荷証券署名拒絶x xxは、封鎖、戦争、戦闘、騒擾等により本船の入域又が危険又は不可能であると、自ら又は船主が合理的な判断した場合には、船荷証券への署名を義務付けられない。 (b) 代替港での船積・荷揚x xxは、船長又は船主の合理的意見によれば、(a)記載の事由又は国際法により、契約上 |
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名称 | CONWARTIME2013 | CONWARTIME2004 | CONWARTIME1993 | ||
書式 | NYPE2015 | BOXTIME2004 | GENTIME/BALTIME1939 (Revised 2001) | NYPE1993 | SHELLTIME 4 (Amended 2003) |
険料の支払を請求することができる (e) 同 前項の支払は、船主の証憑付請求から 15 日以内又は返船時の何れか早い時に行う。 (f) 割増賃金等償還請求権 船主が、雇用条件に基づき、乗組員に危険水域への航海に関する手当又は割増賃金を支払わなければならない場合、傭船者は、船主に対し、その支払実額を次回の傭船料支払期日又は返船時の何れか早い時に償還する。 (g) 本船の自由 本船は以下の自由を有する。 (i) xx政府、船主の属する国の政府、その他の強制権限を有する政府(承認の有無を問わない)その他の団体が発する出発、到着、航路、船団航行、寄港地、停船、仕向地、荷揚、荷渡その他に関する全ての命令、指図、勧告又は指示に従うこと。 (ii) 約款に基づく船主の保険者の要求に従うこと。 (iii) 国連安保理決議、同様の権限を有する超国家機関の命令、並びにそれらを履行するための船主が属する国の国内法及びその施行を委任された者の命令及び指図に従うこと。 (iv) 本船が禁制品運送人として責任を負うかもしれない貨物を他港で荷揚げすること。 (v) 乗組員等の抑留等がされると信じる理由がある場合にこれらの者を交代させるため他港に寄港すること。 (h) 代替港指定請求権 船主は、本条項に基づき船積港又は荷揚港への航海を拒否する場合、その旨を直ちに傭船者に通知する。船主は、傭船者に代替荷揚港指定を要求してから 48 時間以内に当該指定がない場合には、自己の選択した代替安全港において荷揚することができ、その費用及び危険は傭船者負担とする。 (i) 補償義務 傭船者は、本船が本条項に従って航行したことから生じた船荷証券等に基づく損害賠償請求につき船主に補償する。 (j) みなし条項 本条項の権利の行使は、離路とならず契約 の正当な履行とみなす。 | に関し自己の保険料負担で戦争保険をxxすることができる。 (ii) 当該保険の保険者が戦争危険を理由に追加保険料を設定する水域を傭船者の指示により航行する結果、保険者が追加保険料の支払を求めた場合、傭船者は、船主に対し、その支払実額を次回の傭船料支払期日又は返船時の何れか早い時に償還する。 (e) 割増賃金等償還請求権 船主が、雇用条件に基づき、乗組員に危険水域への航海に関する手当又は割増賃金を支払わなければならない場合、傭船者は、船主に対し、その支払実額を次回の傭船料支払期日又は返船時の何れか早い時に償還する。 (f) 本船の自由 本船は以下の自由を有する。 (i) xx政府、船主の属する国の政府、その他の強制権限を有する政府その他の団体が発する出発、到着、航路、船団航行、寄港地、停船、仕向地、荷揚、荷渡その他に関する全ての命令、指図、勧告又は指示に従うこと。 (ii) 約款に基づき権限を有する戦争危険保険者の命令、指図又は勧告に従うこと。 (iii) 国連安保理決議、同様の権限を有する超国家機関の命令、並びにそれらを履行するための船主が属する国の国内法及びその施行を委任された者の命令及び指図に従うこと。 (iv) 本船が禁制品運送人として没収されるかもしれない貨物を他港で荷揚げすること。 (v) 乗組員等の抑留等がされると信じる理由がある場合にこれらの者を交代させるため他港に寄港すること。 (g) 代替港指定請求権 船主は、本条項に基づき船積港又は荷揚港への航海を拒否する場合、その旨を直ちに傭船者に通知する。船主は、傭船者に代替荷揚港指定を要求してから 48 時間以内に当該指定がない場合には、自己の選択した代替安全港において荷揚することができる。 (h) みなし条項 本条項の権利の行使は、離路とならず契約 の正当な履行とみなす。 | (i) 船主は船体その他の利益(LoE、PI 等) に関し自己の保険料負担で戦争保険をxxすることができる。 (ii) 当該保険の保険者が戦争危険を理由に追加保険料を設定する水域を傭船者の指示により航行する結果、保険者が追加保険料の支払を求めた場合、傭船者は、船主に対し、当該保険料を次回の傭船料支払期日に償還する。 (E) 割増賃金等償還請求権 船主が、雇用条件に基づき、乗組員に危険水域への航海に関する手当又は割増賃金を支払わなければならない場合、傭船者は、船主に対し、その額を次回の傭船料支払期日に償還する。 (F) 本船の自由 本船は以下の自由を有する。 (i) xx政府、船主の属する国の政府、その他の強制権限を有する政府その他の団体が発する出発、到着、航路、船団航行、寄港地、停船、仕向地、荷揚、荷渡その他に関する全ての命令、指図、勧告又は指示に従うこと。 (ii) 約款に基づき権限を有する戦争危険保険者の命令、指図又は勧告に従うこと。 (iii) 国連安保理決議、EC 指令、同様の権限を有する超国家機関の命令、並びにそれらを履行するための船主が属する国の国内法及びその施行を委任された者の命令及び指図に従うこと。 (iv) 変針して本船が禁制品運送人として没収されるかもしれない貨物を他港で荷揚げすること。 (v) 変針して乗組員等の抑留等がされると信じる理由がある場合にこれらの者を交代させるため他港に寄港すること。 (G) 代替港指定請求権 船主は、本条項に基づき船積港又は荷揚港への航海を拒否する場合、その旨を直ちに傭船者に通知する。船主は、傭船者に代替荷揚港指定を要求してから 48 時間以内に当該指定がない場合には、自己の選択した代替安全港において荷揚することができる。 (H) みなし条項 本条項の権利の行使は、離路とならず契約の正当な履行とみなす。 | (iii) 割増賃金等 上記(i)が契約締結後傭船中に存在する場合、傭船者は、乗組員等につき当該戦争等により生じた割増賃金及び保険料を支払う。 (iv) 同 本船の航行又は運送貨物に起因する乗組員の戦争手当は傭船者負担とする。 | 指図された場所が本船入港、船積、荷揚等が危険、不可能又は禁止の地(危険地)となった場合、傭船者は、直ちにその通知を受け、就航区域内の危険地でない他の場所で船積又は荷揚する権利を有する。 荷揚地が危険地となり通知から 48 時間以内に傭船者から指定がない場合、船主は自己の判断で就航区域内の危険地でない他の場所で荷揚する権利を有し、それは関係貨物に関する契約の履行とみなす。 (c) 本船の自由 本船は、xxその他の政府や地方官憲、それらの権限を行使する若しくは行使すると称する者、又は約款に基づき権限を有する戦争危険保険者の、出発、到着、航路、寄港地、停船、仕向地、水域、荷渡その他に関する指図又は勧告に従う自由を有し、それによる作為又は不作為は離路とはみなされない。 当該指図又は勧告に従う場合には、本船は船長又は船主の合理的な意見により他港に航行して荷揚することができ、それは当該貨物につき本契約上の正当な履行とみなす。 傭船者は、本契約の下で発行される船荷証券が 1952 年Chamber of Shipping War Risk Clause を含む旨保証する。 |
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VOYWAR2013 | VOYWAR2004 | VOYWAR1993 | VOYWAR1950 | ||
書式 | GENCON1994 | GENCON1976 | Shellvoy 6 (Issued 2005) | ||
従前の版との比較等 | ・戦争危険等の定義等の修正 全般に「かもしれない又は虞がある(may or likely to)」との表現が「かもしれない (may)」のみに統一された。両者の異同が問題となり係争となった英国判例を踏まえたものとされる。 「海賊行為」が「海賊、強盗又は強奪行為」を含む旨明記された。 ・戦争保険料負担につき、保険の種類等を明記せず、船主は、戦争危険につき船体及び合理的な追加保険を船主負担でxxでき、傭船者に対し、割増保険料の償還を請求することができるとされ、償還期限が 15 日以内に変更された。 ・本船が本条項に従って航行したことから生じた船荷証券等に基づく損害賠償請求につき傭船者に補償義務がある旨明記された。 | ・戦争危険の定義の修正 対象となる事象先般について、「実際の又はその脅威及び報告を含む( actual, threatened or reported)」との修飾語がかかるよう修正された。 ・戦争保険料負担につき規定が追加され、船主は、戦争危険につき船舶や LoE、PI 保険等を船主負担でxxでき、傭船者に対し、割増保険料の償還を請求することができるとされ、償還期限が 14 日以内と規定された。 ・船主の自由xxx、EC 指令に従う自由の明記が削除された。 | ・戦争危険の包括的定義あり 本船、積荷、乗組員等に「危険であるかもしれない、又は危険である若しくは危険になる虞がある(may be dangerous or likely to be or to become dangerous)」事象が広く包含されている。 船主の同意につき不当に同意拒絶不可との文言なし。 ・戦争保険料負担に関する条項なし。 ・xx政府や船主所属国政府の命令、指図及び勧告、国連安保理決議、EC 指令等に従う自由が明記された。 | ・ 戦争危険の包括定義あり 但し、戦争その他の関連事象が列挙されるに留まり、危険性については、本船、積荷、乗組員等に「危険が及ぶように思われる( it appears --- will subject --- to)」という形で表現されている。 事象の列挙範囲や危険の程度も、後の版に比べると限定的に読める文言になっている。 ・ 代替港向け航行の場合の追加運賃請求xxの規定なし。 ・ 本船が抑留される可能性ある場合の航行拒絶等につき規定なし。 ・ 戦争保険料負担につき概括的表現になっている。 ・ 国連安保理決議、EC 指令等に従う自由の明記なし。 | ・ 本船が航行を拒絶できるのは、戦争等により航行が危険又は禁止の場合という形で規定されており、VOYWAR と比し限定的表現である。 ・ 海賊行為への言及なし。 ・ 戦時禁制品、乗組員等の抑留等への明示の言及なし。 ・ 国連安保理決議等に従う自由の明記なし。 ・ 戦争保険料負担につき基本はむしろ船主負担で増加分及び超過分のみが傭船者負担となっている。 |
要旨 | (a) 定義規定 (i) 船主:船舶所有者、裸傭船者、管理人、運航者及び船長等 (ii) 戦争危険:船長又は船主の合理的な判断によれば、本船、積荷、乗組員等に 「危険である又は危険になるかもしれな い (may be dangerous or may become dangerous)」、政府(承認の有無を問わない)又はテロリスト等による、実際の又はその脅威及び報告を含む、戦争、戦闘、騒擾、機雷敷設、海賊、強盗又は強奪行為、テロ行為、封鎖等 (b) 解 約権及び履行拒絶権 船積開始前に、船長乃至船主の合理的判断によれば、運送契約の履行が本船、貨物、乗組員等を戦争危険に曝すかもしれない (may expose)ように思われる場合、船主は、契約を解約し又は危険に曝すかもしれない範囲で契約の履行を拒絶することができる。但し、船積又は荷揚港が一定範囲内と規定され傭船者指定港が上記に該当する場合には、船主は、傭船者に対し当該範囲内の安全港を指定するよう要求して48 時間内に回答がなかったときに限り契約を解約できる。 (c) 代 替港指定及び追加運賃請求権 船積開始後から荷揚完了迄に、船長乃至船主の合理的判断によれば、本船、貨物、乗組員等が戦争危険に曝されるかもしれない(may be exposed)ように思われる場合、 | (a) 定義規定 (i) 船主:船舶所有者、裸傭船者、管理人、運航者及び船長等 (ii) 戦争危険:船長又は船主の合理的な判断によれば、本船、積荷、乗組員等に 「危険であるかもしれない、又は危険である若しくは危険になる虞がある (may be dangerous or are likely to be or to become dangerous)」、政府又はテロリスト等による、実際の又はその脅威及び報告を含む、戦争、戦闘、騒擾、機雷敷設、海賊行為、テロ行為、封鎖等 (b) 解約権及び履行拒絶権 船積開始前に、船長乃至船主の合理的判断によれば、運送契約の履行が本船、貨物、乗組員等を戦争危険に曝すかもしれない、又は曝す虞がある(may expose, or is likely to expose)ように思われる場合、船主は、契約を解約し又は危険に曝すかもしれない、又は曝す虞がある範囲で契約の履行を拒絶することができる。但し、船積又は荷揚港が一定範囲内と規定され傭船者指定港が上記に該当する場合には、船主は、傭船者に対し当該範囲内の安全港を指定するよう要求して 48 時間内に回答がなかったときに限り契約を解約できる。 (c) 代 替港指定及び追加運賃請求権 船積開始後から荷揚完了迄に、船長乃至船主の合理的判断によれば、本船、貨物、乗組員等が戦争危険に曝されるかもしれな | (1) 定義規定 (i) 船主:船舶所有者、裸傭船者、管理人、運航者及び船長等 (ii) 戦争危険:船長又は船主の合理的な判断によれば、本船、積荷、乗組員等に「危険であるかもしれない、又は危険である若しくは危険になる虞がある(may be dangerous or are likely to be or to become dangerous)」政府又はテロリスト等による、戦争(実際の又はその脅威)、戦闘、騒擾、機雷敷設(実際の又はその報告)、海賊行為、テロ行為、封鎖等 (2) 解約権及び履行拒絶権 船積開始前に、船長乃至船主の合理的判断によれば、運送契約の履行が本船、貨物、乗組員等を戦争危険に曝すかもしれない、又は曝す虞がある(may expose, or is likely to expose)ように思われる場合、船主は、契約を解約し又は危険に曝すかもしれない、又は曝す虞がある範囲で契約の履行を拒絶することができる。但し、船積又は荷揚港が一定範囲内と規定され傭船者指定港が上記に該当する場合には、船主は、傭船者に対し当該範囲内の安全港を指定するよう要求して 48 時間内に回答がなかったときに限り契約を解約できる。 (3) 代替港指定及び追加運賃請求権 船積開始後から荷揚完了迄に、船長乃至船主の合理的判断によれば、本船、貨物、乗組員等が戦争危険に曝されるかもしれな い、又は曝される虞がある(may be, or are | (1) 定義規定 戦争危険:政府、交戦勢力等による封鎖、サボタージュ、海賊、実際の又はその脅威を含む、戦争、戦闘、騒擾等 (2) 解 約 権 船積開始前に、運送契約の履行により本船、乗組員、貨物等に戦争危険が及ぶ(subject to)ように思われる場合、船主は、傭船者に通知して契約を解約することができる (3) 履行拒絶x xxは、本船、貨物、乗組員に戦争危険が及ぶ(subject to)ように思われる航海又は港へ向けた、船積の継続、航海の実施、船荷証券等への署名を要求されない。 全部又は一部貨物船積後に船長がこの権利を行使した場合、船長は当該貨物を船積港で荷揚し又は当該一部貨物のみで航海を実施する権利を有し、後者の場合、本船は別貨物を船積してそれを通常の航路と異なる方向等で他港に運送する | 33 条 (7) 船荷証券署名拒絶x xxは、封鎖港又は自ら又は船主が本船の入域が危険又は不可能であると判断した港向けの船荷証券への署名を義務付けられない。 34 条 (1) 代替港での船積・荷揚権 (a) 契約又は船荷証券上の指定船積港又は荷揚港が封鎖された場合、又は (b) 戦争、戦闘、騒擾等又は国際法により、(i)当該港への入港や当該港での船積若しくは荷揚又は(ii) 当該港への航行が船長又は船主の判断により危険又は禁止されたと判断される場合、 傭船者は、契約上指定された範囲内代替港(上記に該当しないものに限る)で船積又は荷揚する権利を有する。 (2) 解約権・不積運賃請求xx 傭船者が、船主による上記代替港の指定を求める通知から48 時間以内に当該港を指定しない場合には、 (a) 対象港が唯一の又は最初の船積港かつ船積開始前であ |
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名称 | VOYWAR2013 | VOYWAR2004 | VOYWAR1993 | VOYWAR1950 | |
書式 | GENCON1994 | GENCON1976 | Shellvoy 6 (Issued 2005) | ||
船主は、船積の継続、船荷証券等への署名、航海の実施等を要求されない。 そのように思われる場合、船主は、傭船者に対し安全港たる荷揚港を指定するよう要求して 48 時間内に回答がなかったときは、自ら選択する安全港(船積港を含む) で荷揚することができる。船主は、当該荷揚のための追加費用、荷揚が船積港以外で行われたときは当初運賃全額、及び運送距離の増加が 100 海里以上あるときは同一割合の追加運送賃を請求でき、それらにつきLien を有する。 (d) 代替航路航行権 船積開始後に、船長乃至船主の合理的判断によれば、契約航海に通常利用される航路では本船、貨物、乗組員等が戦争危険に曝されるかもしれない(may be exposed)ように思われる場合であって、荷揚港へのより長い別の航路があるときは、船主は、傭船者に対し、当該航路を航行する旨通知することができ、運送距離の増加が 100 海里以上あるときは同一割合の追加運送賃を請求できる。 (e) 戦争保険関連条項 (i) 船主は、船主は船舶及び合理的に要求する追加保険に関し自己の保険料負担で戦争保険をxxすることができる。 (ii) 本船が傭船者の指示等により戦争危険に曝される区域を航行する場合、傭船者は、船主に対し、船主の保険者が要求する合理的な追加保険料を償還する。本船が追加保険料が設定された区域で荷揚するときは、傭船者は、荷揚完了から本船が当該区域を離れる迄の支払追加保険料も償還する。但し本船は可及的速やかに離れるものとする。 (iii) 本項の支払は、船主の証憑付請求から 15 日以内に行う。 (f) 本船の自由 本船は以下の自由を有する。 (i) xx政府、船主の属する国の政府、その他の強制権限を有する政府(承認の有無を問わない)その他の団体が発する出発、到着、航路、船団航行、寄港地、停船、仕向地、荷揚、荷渡その他 | い、又は曝される虞がある(may be, or are likely to be, exposed)ように思われる場合、船主は、船積の継続、船荷証券等への署名、航海の実施等を要求されない。 そのように思われる場合、船主は、傭船者に対し安全港たる荷揚港を指定するよう要求して 48 時間内に回答がなかったときは、自ら選択する安全港(船積港を含む) で荷揚することができる。船主は、当該荷揚のための追加費用、荷揚が船積港以外で行われたときは当初運賃全額、及び運送距離の増加が 100 海里以上あるときは同一割合の追加運送賃を請求でき、それらにつきLien を有する。 (d) 代 替航路航行権 船積開始後に、船長乃至船主の合理的判断によれば、契約航海に通常利用される航路では本船、貨物、乗組員等が戦争危険に曝されるかもしれない、又は曝される虞がある(may be, or are likely to be, exposed)ように思われる場合であって、荷揚港へのより長い別の航路があるときは、船主は、傭船者に対し、当該航路を航行する旨通知することができ、運送距離の増加が 100 海里以上あるときは同一割合の追加運送賃を請求できる。 (e) 戦争保険関連条項 (i) 船主は船体その他の利益(不稼働、PI 等)に関し自己の保険料負担で戦争保険をxxすることができる。 (ii) 当該保険の保険者が戦争危険を理由に追加保険料を設定する水域を傭船者の指示等により航行する結果、保険者が追加保険料の支払を求めた場合、傭船者は、船主に対し、その支払実額を船主からの請求書受領後 14 日以内に償還する。本船が当該区域で荷揚するときは、傭船者は、荷揚完了から本船が当該区域を離れる迄の支払追加保険料も償還する。但し本船は可及的速やかに離れるものとする。 (f) 本船の自由 本船は以下の自由を有する。 (i) xx政府、船主の属する国の政府、その他の政府、強制権限を有するその他の団体が発する出発、到着、航路、船団航行、寄港地、停船、仕向地、荷揚、荷渡その他に関する全ての命令、指図、勧告又は指示に従うこと。 | likely to be, exposed)ように思われる場合、船主は、船積の継続、船荷証券等への署名、航海の実施等を要求されない。 そのように思われる場合、船主は、傭船者に対し安全港たる荷揚港を指定するよう要求して 48 時間内に回答がなかったときは、自ら選択する安全港(船積港を含む) で荷揚することができる。船主は、当該荷揚のための追加費用、荷揚が船積港以外で行われたときは当初運賃全額、及び運送距離の増加が 100 海里以上あるときは同一割合の追加運送賃を請求でき、それらにつきLien を有する。 (4) 代替航路航行権 船積開始後に、船長乃至船主の合理的判断によれば、契約航海に通常利用される航路では本船、貨物、乗組員等が戦争危険に曝されるかもしれない、又は曝される虞がある(may be, or are likely to be, exposed)ように思われる場合であって、荷揚港へのより長い別の航路があるときは、船主は、傭船者に対し、当該航路を航行する旨通知することができ、運送距離の増加が 100 海里以上あるときは同一割合の追加運送賃を請求できる。 (5) 本船の自由 本船は以下の自由を有する。 (a) xx政府、船主の属する国の政府、その他の政府、強制権限を有するその他の団体が発する出発、到着、航路、船団航行、寄港地、停船、仕向地、荷揚、荷渡その他に関する全ての命令、指図、勧告又は指示に従うこと。 | こと等ができる。本条により一部貨物のみを運送した場合、運賃は引渡数量により決定する。 (4) 代替港指定請求x xxが前項により航海を実施することを選択した場合、又は本船が船積港出帆後に、運送契約の履行により本船、貨物、乗組員等を戦争危険が及ぶ(subject to)ように思われる場合、貨物は、傭船者の指定する荷揚港の近隣の安全港で荷揚されるものとする。傭船者が船主の要求から 48 時間以内に当該指定をしなかったときは、船主は、自ら決定する安全港で荷揚でき、当該荷揚により契約の履行とみなす。それらの場合、船主は、船荷証券上特定又は指定された荷揚港での荷揚の時と同額の運賃を請求することができる。 (5) 本船の自由 (a) 本船は、政府、交戦勢力、敵対行為等に従事する団体、若しくはそれらの権限に基づき行動する者、又は本船の戦争保険約款に基づき権限を有する者が発する、船積、出発、到着、航 路、寄港地、停船、仕向地、荷 | るときは、契約は即時終了する。 (b) 対象港が船積港かつ船積開始後であるときは、船舶は出港でき、傭船者は不積運賃を支払う。 (c) 対象港が荷揚港であるときは、船主は自己乃至船長が決定した代替港で荷揚でき、それは運送契約の履行とみなされる。 (3) 運賃増減請求権 前 2 項により代替港で船積又は荷揚がされた場合、予定航過と比較して下記により増減された運賃額が支払われる。 (a) 指示待ちの時間 (b) 燃料費 (c) 港 費 その点除き、代替航海を以て本契約の履行とみなす。 (4) 本船の自由 本船は、xxその他の政府や地方官憲、それらの権限を行使する若しくは行使すると称する者、又は約款に基づき権限を有する戦争危険保険者の、出発、到着、航路、寄港地、停船、仕向地、水域、荷渡その他に関する指図又は勧告に従う自由を有し、それによる作為又は不作為は離路とはみなされない。 当該指図又は勧告に従う場合には、本船は船長又は船主の合理的な意見により他港に航行して荷揚することができ、それは当該貨物につき本契約上の正当な履行とみなす。傭船者は、当該他港への航行及びそこでの荷揚に伴う追加費用を支払い、船主は当該費用につき貨物に Lien を有する。 (5) 戦争保険料・割増賃金 船主は、契約所定の船体価額による、契約日又は本船が保険対象となった日に適用される年間の及び本契約履行に係る追加戦争保険料及び合理的 |
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名称 | VOYWAR2013 | VOYWAR2004 | VOYWAR1993 | VOYWAR1950 | |
書式 | GENCON1994 | GENCON1976 | Shellvoy 6 (Issued 2005) | ||
に関する全ての命令、指図、勧告又は指示に従うこと。 (ii) 約款に基づく船主の保険者の要求に従うこと。 (iii) 国連安保理決議、同様の権限を有する超国家機関の命令、並びにそれらを履行するための船主が属する国の国内法及びその施行を委任された者の命令及び指図に従うこと。 (iv) 本船が禁制品運送人として責任を負うかもしれない貨物を他港で荷揚げすること。 (v) 乗組員等の抑留等がされると信じる理由がある場合にこれらの者を交代させるため他港に寄港すること。 (vi) 貨物が船主により船積されず又は荷揚された場合、別貨物を船積してそれを通常の航路と異なる方向等で他港に運送すること。 (g) 補償義務 傭船者は、本船が本条項に従って航行したことから生じた船荷証券等に基づく損害賠償請求につき船主に補償する。 (h) み なし条項 本条項の権利の行使は、離路とならず契約の正当な履行とみなす。 | (ii) 約款に基づき権限を有する戦争危険保険者の命令、指図又は勧告に従うこと。 (iii) 国連安保理決議、同様の権限を有する超国家機関の命令、並びにそれらを履行するための船主が属する国の国内法及びその施行を委任された者の命令及び指図に従うこと。 (iv) 本船が禁制品運送人として没収されるかもしれない貨物を他港で荷揚げすること。 (v) 乗組員等の抑留等がされると信じる理由がある場合にこれらの者を交代させるため他港に寄港すること。 (vi) 貨物が船主により船積されず又は荷揚された場合、別貨物を船積してそれを通常の航路と異なる方向等で他港に運送すること。 (g) みなし条項 本条項の権利の行使は、離路とならず契約の正当な履行とみなす。 | (b) 約款に基づき権限を有する戦争危険保険者の命令、指図又は勧告に従うこと。 (c) 国連安保理決議、EC 指令、同様の権限を有する超国家機関の命令、並びにそれらを履行するための船主が属する国の国内法及びその施行を委任された者の命令及び指図に従うこと。 (d) 本船が禁制品運送人として没収されるかもしれない貨物を他港で荷揚げすること。 (e) 乗組員等の抑留等がされると信じる理由がある場合にこれらの者を交代させるため他港に寄港すること。 (f) 貨物が船主により船積されず又は荷揚された場合、別貨物を船積してそれを通常の航路と異なる方向等で他港に運送すること。 (6) みなし条項 本条項の権利の行使は、離路とならず契約の正当な履行とみなす。 | 揚、荷渡その他(仕向港に航行しないこと、航行を遅延させること、他港に航行することを含む)に関する指図又は勧告に従うことができる。当該指示又は勧告に従ってする行為は、離路とはみなされない。 (b) 本船は、当該指示又は勧告に従った結果として船荷証券上特定又は指定された港に航行しないときは、本船は、指示若しくは勧告された港又は船主が決定する安全港に航行して荷揚することができ、当該荷揚により契約の履行とみなす。それらの場合、船主は、船荷証券上特定又は指定された荷揚港での荷揚の時と同額の運賃を請求することができる。 (6) 費用負担請求権 船積港での荷揚、又は 4 項若しくは 5 (b) 項に規定された港への航行若しくは当該港での荷揚に係る費用(保険料を含む)は、傭船者又は荷主の負担とし、船主は、本条に基づく請求権につき貨物の上にLien を有する。 | な乗組員の戦争危険手当を負担する。追加戦争保険料の適用期間は、ロンドン保険市場指定除外水域への入域から離脱までとし、本船がすでに当該水域にいる場合にはN/R 通知時点からとする。 当該追加戦争保険料の増減及び 14 日超の期間の追加保険料は傭船者負担とし、証憑と引換に支払う。割戻等は傭船者に帰属する。 不稼働保険(B&T)は船主負担とする。 |
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