⽮内 ⼀正 TBSテレビ ビジネス法務部/TBSホールディングス ビジネス戦略部
誰でもできる著作権契約マニュアル
著作権課
この冊⼦は、令和4年度⽂化庁委託事業「「誰でもできる著作権契約マニュアル」の改訂に関する調査研究」において作成されたものです。検討委員会の委員は以下の⽅々です。
座 ⻑
xx xx 明治⼤学情報コミュニケーション学部教授
委 員
xx x⼈
⼀般社団法⼈クリエイターエコノミー協会事務局⻑/ note株式会社法務コンプライアンス室⻑/弁護⼠
xx x xx法律事務所パートナー/弁護⼠xxxxx ⿓村法律事務所パートナー/弁護⼠
xx xx 関⻄学院⼤学法学部准教授
⽮内 ⼀正 TBSテレビ ビジネス法務部/TBSホールディングス ビジネス戦略部
事務局
株式会社シィー・ディー・アイ(⽦⽥xx、xxxx、xxx(弁護⼠))
はじめに
インターネットに代表される情報技術の進展等によって、著作物の創作⼜は利⽤を本来の職業としていない⼀般の⽅々が、著作物の提供者あるいは著作物の利⽤者となる機会が増えてきました。著作物を提供したり利⽤したりする際には、当事者どうしで著作物の利⽤条件やその範囲、著作権の帰属を明確にするために、書⾯により契約書を取り交わすことが望まれますが、著作権に関する法律知識や契約実務の知識等があまりない⼀般の⽅々にとっては、個⼈の⼒だけで契約書を作成するのは簡単ではないというのが実情です。
そこで、このマニュアルは、著作権の分野に必ずしも精通しているわけではない⼀般の⽅々が、著作権に関する契約書を作成するために必要な知識をできるだけ簡単に習得できるよう、作成したものです。
このマニュアルは、すべての利⽤場⾯に共通して必要となる知識を総論としてまとめ(第
1章)<p.1参照>、また、具体的な利⽤場⾯に応じた契約書例(契約書のひな形)を紹介した上で、その契約書例に即した解説を各論(第2章 著作権契約書の作り⽅<p.15参照>/第3章募集要項の作り⽅<p.95参照>)としてまとめています。
各論の個々の利⽤場⾯については、⽂化庁のウェブサイトで提供している「著作権契約書作成⽀援システム」<xxxxx://xx.xxxxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxxxxx/x-xxxxxxxx/>に収められている契約書のひな形のパターンと⼀致するよう⼯夫していますので、両者を併せてご利⽤いただくとより効率的に契約書を作成できます。
このマニュアルが、著作権に関する契約を結ぶことのハードルを低くするなど、著作権に関する契約書を作成しようとする⼀般の⽅々の⼀助となれば幸いです。
このマニュアルについて
昨今のデジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、著作物の利⽤形態も多様化しています。従来はある⽬的のために制作物が制作された場合、それ以外の利⽤⽅法を想定する必要はそれほどありませんでしたが、現在はウェブサイトでの提供や電⼦媒体での配布のように⼆xx⽤される場⾯が増えてきています。
著作物の多様な利⽤⽅法が想定される現在、著作物を提供・利⽤する際には、トラブルを回避するためにも、当事者間で契約内容を明らかにしておくことが重要です。
このような観点から、このマニュアルは、「契約」に慣れていない⼀般の⼈どうしの契約を想定して作成しています。以下に、①かつて制作されたものを利⽤、② 新たに制作を依頼、③ 講演依頼、④実演依頼、⑤ 作品募集に分けてあなたの⽴場、対象となっているものごとや場⾯別にガイダンスを⽰しましたので、作成したい契約書のひな形に最も近いものを選び、参考にしてください。実際に契約書として利⽤する場合は、内容をよく理解した上で、個々の利⽤状況に応じて⽂⾔を追加修正して作成ください。
▶ かつて制作されたものを利⽤
ウェブ記事、
論⽂、⼩説、脚本、詩歌、俳句、
かつておこなった講演、 ウェブサイトのデザイン、
印刷物のデザイン、本の装丁、イラスト、グラフィック、
絵画、版画、書、漫画、
彫刻、
舞台美術、舞台⾐装、美術⼯芸品、
写真、グラビア、
⾃作の楽曲(楽曲を伴う歌詞)、劇場⽤映画、テレビドラマ、
ネット配信動画(UGCサイトやSNS)、
ビデオソフト、ゲームソフト、コマーシャルフィルム、
演劇、
舞踊、ダンス、バレエ、振付、オペラ
など
第9節 既存の原稿(エッセイ、詩、⼩説など)やイラスト、写真、⾃作の楽曲・映画、舞踊
をご覧ください。
クリエイター(権利者)
かつてあなたが制作したものを
利⽤させてほしいという申し出
を受けた
したい⼈(利⽤者)
クリエイターと契約
制作したクリエイターに
その制作物を
利⽤させてほしいと依頼する
▶ 新たに制作を依頼
ウェブ記事 など | ||
論⽂、⼩説、脚本 | など | |
詩歌、俳句 など | ||
クリエイター(権利者)
制作 を依頼された
写真、グラビア など
クリエイターと契約したい⼈(利⽤者)
制作 を依頼する
ウェブサイトのデザイン など | |
印刷物のデザイン、本の装丁 などイラスト、グラフィック など 絵画、版画、書 など漫画 など 彫刻 など 舞台美術、舞台⾐装 など | |
美術⼯芸品 など | |
楽曲や楽曲を伴う歌詞 など
劇場⽤映画、テレビドラマ など | |
ネット配信動画(UGCサイトやSNS) ビデオソフト、ゲームソフト など | |
コマーシャルフィルム など | |
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
をご覧ください。
演劇 など | ||
舞踊、ダンス、バレエ、振付 | など | |
オペラ など | ||
▶ 講演依頼
クリエイター(権利者)
講演や セミナー を依頼された
クリエイターと契約したい⼈(利⽤者)
講演 や セミナー を依頼する
▶ 実演依頼
クリエイター(権利者)
演奏会での実演 や 演劇の上演 を依頼された
クリエイターと契約したい⼈(利⽤者)
演奏会での実演 や 演劇の上演 を依頼する
▶ 作品募集
募集要領を作りたい主催者
作品を募集 する
主催者が利⽤することを前提として公募するもの
(作品のジャンルは問わない)
第3章
第1節 主催者が利⽤するイラストなどの公募(p.97)
をご覧ください。
展覧会、発表会、コンクール、コンテスト など
(作品のジャンルは問わない)
第3章
第2節 展⽰会、発表会、コンクールなどの作品募集
(p.104)
をご覧ください。
「著作権契約書作成⽀援システム」では、画⾯の案内にしたがって項⽬を⼊⼒・選択することで、著作xxに関する契約書のひな形を作成することができます。併せてご覧ください。
▶ 著作権契約書作成⽀援システム <xxxxx://xx.xxxxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxxxxx/x-xxxxxxxx/>
⽬ 次
第1章 総論 1
1.契約、契約書について
2.契約書に定められる条項の⼀例
3.著作権の基礎知識
4.著作権契約について
第2章 著作権契約書の作り⽅ 15
第1節 講演・パネルディスカッション・座談会 17
1.対象
2.契約書例
3.契約書作成の留意点
第2節 演奏会・上演会などにおける実演 25
1.対象
2.契約書例
3.契約書作成の留意点
第3節 原稿の執筆 32
1.対象
2.契約書例
3.契約書作成の留意点
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成) 41
1.対象
2.契約書例
3.契約書作成の留意点
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成 50
1.対象
2.契約書例
3.契約書作成の留意点
第6節 写真の撮影 59
1.対象
2.契約書例
3.契約書作成の留意点
第7節 ⾳楽の作成 68
1.対象
2.契約書例
3.契約書作成の留意点
第8節 舞踊、無⾔劇の作成 78
1.対象
2.契約書例
3.契約書作成の留意点
第9節 既存の原稿(xxxx、詩、⼩説など)やイラスト、写真、
⾃作の楽曲・映画、舞踊(ダンス)・無⾔劇などの利⽤許諾 87
1.対象
2.契約書例
3.契約書作成の留意点
第3章 募集要項の作り⽅ 95
第1節 主催者が利⽤するイラストなどの公募 97
1.対象
2.募集要項例
3.募集要項作成の留意点
第2節 展⽰会、発表会、コンクールなどの作品募集 104
1.対象
2.募集要項例
3.募集要項作成の留意点
第 1 章 総 論
1 契約、契約書について
著作権に関する契約を解説する前に、契約とはどういうもので、何のために必要なのかを知っておきましょう。
契約とは、法的な拘束⼒をもった合意のことです。当事者どうしの意思が合致すれば成⽴するため、
⼝頭でも成⽴します。契約が成⽴した場合、お互いに合意した内容を守る義務が発⽣します。
⼝頭でのやり取りだけでは、後から「⾔った⾔わない」のトラブルとなる可能性があります。このことから、⼝頭でのやり取りだけではなく、合意の内容を⽂書に書き留め、合意のエビデンスとして残しておく⽅が後々のトラブルを防ぐことにもなります。
「契約」に関する重要なポイントは、次のとおりです。
(1)「契約」の意味
契約とは、法的な拘束⼒をもった合意のことです。
契約が成⽴した場合、お互いに合意した内容を守る義務が発⽣します。
(2)「契約」が成⽴するためには
契約は、当事者の意思の合致で成⽴するため、原則として、⼝頭での約束や、メールのやり取りで約束した場合でも成⽴します。なお、連帯保証契約など、書⾯によるものであることが契約成⽴の要件となっているものもあります。
(3)「契約」の内容
契約の内容は、原則として当事者間で⾃由に定めることができます。もっとも、公序良俗(⺠法第 90条)に反するなど、法律上、強⾏法規として定められた規定に反する合意内容は無効となる場合があります(以下の「●コラム● 関連する法令について」をご参照ください。)。
(4)「契約書」を作成する意味、⽬的
契約は⼝頭でも成⽴しますが、⼝頭での約束は、のちに「⾔った⾔わない」のトラブルになる可能性があります。
契約書にお互いが合意した内容を明記しておくことで、合意した内容について「⾔った⾔わない」のトラブルになることを防ぐことができます。また、この書⾯は、仮にあとでトラブルとなった際にも、合意の成⽴やその内容についての客観的な証拠となります。
法律上、契約書に当事者の署名⼜は押印があれば、原則として、契約書が「真正に成⽴したものと推定する」(⺠事訴訟法第228条第4項)こととなっています。したがって、契約書への署名押印は、内容をしっかり確認した上で、慎重に⾏いましょう。
なお、契約書の表題は、「確認書」でも、「合意書」でも、「契約書」でも問題ありません。表題を何にするかよりも、お互いの合意した内容がきちんと明記されていることが⼤切です。
●コラム● 電⼦契約について
電⼦契約とは、明確な法的定義があるわけではなく、広く、紙(書⾯)ではなく、電磁的な記録(データ)によって締結される契約を含む概念です。メール上のやりとりで合意が成⽴する場合や、ネットオークションなどで物品を購⼊する場合も電⼦契約といえます。電⼦契約であっても、当事者どうしの意思が合致していると評価される限り、有効な契約となります。
上記のとおり、書⾯の契約書に署名⼜は押印をすれば、契約書が真正に成⽴したものと推定されます(⺠事訴訟法第228条第4項)。この点で、従前は、電磁的記録による署名等が書⾯による署名と同様の効果を持つといえるのかが問題でしたが、平成13年4⽉に施⾏された電⼦署名法により、電磁的記録(電⼦⽂書等)による署名(電⼦署名)が、書⾯による署名と同様の法的効果を持つための条件が定められました。それにより、同法に定める要件を充たす電⼦署名がなされた電磁的記録(電⼦⽂書)は、署名がなされた書⾯の契約書同様、「真正に成⽴したものと推定」されることとなりました。
●コラム● 関連する法令について
契約を締結するときには、契約に関する基本法である⺠法以外にも、関連する法令の規定を踏まえる必要があります。以下、⼀般的な契約書を作成する場⾯で関連することの多い法令を紹介します。
① 下請法(下請代⾦⽀払遅延等防⽌法)
親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫⽤と評価されるような各種⾏為を取り締まる法律です。例えば、下請事業者に責任がないにもかかわらず、親事業者が⼀⽅的に下請価格を下げることが禁⽌されたり、物品等を受領した⽇(役務提供委託の場合は役務が提供された⽇)から60⽇以内の定められた
⽀払期⽇までに下請代⾦を⽀払わなければならないといったことが定められています。
下請法は強⾏法規とされており、下請法に違反するような条項は、たとえ当事者間の契約で合意されていても、無効となることがあります。
下請法に関しては、中⼩企業庁サイト「下請代⾦⽀払遅延等防⽌法」ページでわかりやすく解説されていますのでご参照ください。<xxxxx://xxx.xxxxxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/xxxxxxxx/xxxxxx.xxx>
② 独占禁⽌法
⾃由経済社会において競争が正しく⾏われるために、事業者によるxxかつ⾃由な競争が阻害されるような⾏為等を禁⽌する法律です。例えば、いわゆるカルテルや談合等不当に取引を制限する⾏為や、市場において有⼒な地位にある事業者がその優越的地位を利⽤して取引の相⼿⽅に⼀⽅的に不当な不利益を与える⾏為等が規制されています。
③ 労働法関連
労働者の権利を保護するため、労働基準法や労働契約法等が定められており、労働条件や労働契約に関して最低限かつ基本的なルールが法定されています。労働基準法は強⾏法規とされており、当事者間で労働基準法の基準を下回る合意をしても無効となります。
特定の仕事を依頼する場合、通常は雇⽤関係とはなりませんが、当事者間に使⽤従属関係等があれば、契約書上「業務委託契約」等の表記になっていても、実質的に雇⽤契約であると判断され、労働基準法等が適⽤される場合があります。
第2章<p.15参照> 以下で具体的な契約書のモデルを記載していますが、その他、契約書に定められる条項の⼀例をご紹介します。
(1)費⽤に関する条項
契約で定められた義務(業務)を遂⾏するために要する費⽤をどちらが負担するかに関する条項です。⺠法上、義務を履⾏するために必要な費⽤は原則として業務を受託した側の負担となります。仕事の完成を⽬的とする請負契約の場合も、原則として請け負った側の負担となります。もっとも、準委任契約の場合には、逆に、業務を依頼した側の負担となります。このように業務を遂⾏するための費⽤の負担者は、法律上、契約類型によって異なる規定となっており、必ずしも契約当事者間で共通認識となっているわけではないと思われますので、事後的なトラブル防⽌のために、事前に契約書で定めておくことが有益です。下記のような条項に加え、さらに細かく、精算⽅法(費⽤発⽣の都度、精算するのか、いったん⽴て替えたうえで業務終了後に精算するのか等)を定めておく場合もあります。
規定例
第○条(費⽤負担)
本件業務の遂⾏に要する交通費、宿泊費その他諸経費等の実費は、○が負担するものとする。当該実費の精算⽅法については、xと⼄が別途協議して決定する。
(2)契約期間に関する条項
契約期間を定めておくことで、いつまでこの契約に拘束されるかが明確になります。以下の例⽂における「ただし書」のように定めた場合は、書⾯で申し出がなければ、同⼀条件で契約がさらに1年間継続し、それ以降も同様に継続することになります。
規定例
第○条(契約期間)
本契約の有効期間は、本契約締結⽇から起算して1年間とする。ただし、期間満了の1か⽉前までに、甲⼜は
⼄から書⾯による申し出がない場合、本契約は同⼀条件でさらに1年間延⻑されるものとし、以後も同様とする。
(3)中途解約に関する条項、不可抗⼒条項
契約は、いったん成⽴した場合、契約違反等がない限り、原則として⼀⽅的に終了させることはできませんので、注意が必要です。
しかし、契約途中でも契約を終了することができる条項を設けることはありえます。なお、同趣旨から、不可抗⼒の事態が⽣じた場合に契約を終了させることができる条項を設けることもあります。
規定例
第○条(中途解約)
甲及び⼄は、相⼿⽅に対し30⽇前までに書⾯により通知することによって、いつでも本契約を解約することができる。
規定例
第○条(不可抗⼒)
甲及び⼄は、地震、台⾵、津波、暴⾵⾬、洪⽔その他の天変地異、戦争、暴動、内乱、テロ、悪疫流⾏、争議
⾏為、法令の制定・改廃、その他不可抗⼒によって本契約の全部⼜は⼀部の履⾏が不能となった場合には、甲
⼄協議の上で、本契約を解約することができる。
(4)契約変更に関する条項
いったん成⽴した契約内容を⼀⽅的に変更することはできません。契約内容を変更する場合には、当事者間の合意が必要になります。変更の合意をする場合も⼝頭で成⽴しますが、「⾔った⾔わない」の⽔掛け論になる可能性がありますので、トラブルを防⽌するために、変更合意をする場合には、書
⾯で⾏わなければならない旨を定めることがあります。
規定例
第○条(契約変更)
本契約の修正・変更は、甲⼄間の書⾯による合意がない限り、その効⼒を⽣じない。
(5)契約解除に関する条項
法律上、相⼿⽅が、契約で定められた期限までに義務を果たさない場合に、相当の期間を定めて義務を果たすように求め、その期間内に義務が果たされない場合には、契約を解除することができます
(⺠法第541条以下)。その他、以下の例⽂のように、解除することができる事由を契約書で定めることもできます。なお、契約が「解除」された場合、初めから契約がなかったものとみなされ、当事者双⽅において、受領物や⾦銭の返還などの義務(原状回復義務)が発⽣します。
規定例
第○条(契約解除)
甲及び⼄は、相⼿⽅に次の各号のいずれか⼀つに該当する事由が⽣じたときは、相⼿⽅に事前に催告することなく本契約を直ちに解除することができる。
① 財産状態が悪化し、⼜は悪化するおそれがあると認められる相当の事由が⽣じたとき
② 本契約に定める条項につき重⼤な違反があったとき
③ その他本契約を継続し難い重⼤な事由が⽣じたとき
※ その他、「破産申⽴てをされた⼜は破産申⽴てをした場合」等を解除事由とすることもあります。
(6)秘密保持に関する条項
契約内容を第三者に開⽰されたくないような場合、双⽅に秘密保持義務を課す条項を設けることがあります。
規定例
第○条(秘密保持)
甲及び⼄は、本契約の内容及び本契約の履⾏に関連して知り得た相⼿⽅の秘密情報について、本契約の有効期間中はもとより本契約の終了後も、相⼿⽅の事前の書⾯による承諾がない限り、本契約の履⾏以外の⽬的に使
⽤せず、かつ、これを第三者に開⽰・漏えいしてはならない。
(7)契約上の地位や権利義務の移転・譲渡を禁⽌する条項
契約上の地位や権利義務は、原則として⾃由に移転・譲渡することができますが、著作権契約の場合、著作権者から了解を得て著作物を利⽤する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、第三者に譲渡することができないとされています(著作xx第63条第3項)。もっとも、「著作物を利⽤する権利」以外も含め契約上の権利⼀切の譲渡を禁⽌すると定めることも可能です。
規定例
第○条(権利義務の移転・譲渡の禁⽌)
甲及び⼄は、本契約上の地位並びに本契約から⽣じる権利及び義務を、相⼿⽅の書⾯による承諾がない限り、第三者に移転し、もしくは譲渡してはならず、⼜は担保の⽤に供してはならない。
(8)合意管轄に関する条項
契約に関して裁判になった際にどこの裁判所で審理をするかという点についての決まりを「管轄」といいます。法律上、事件の種類等に応じて管轄に関する規定が設けられていますが、下記のように、当事者間の合意により、契約に関する裁判を指定された裁判所でのみ審理することとする旨を定めることも可能です。合意管轄に関する条項には、法律で定められた管轄裁判所に加えて指定した裁判所での審理も可能とする条項(付加的合意管轄)や、指定された裁判所でのみ審理が可能となり、それ以外の裁判所での審理を認めない条項(専属的合意管轄)があり、下記条項は、専属的合意管轄に関する条項です。
規定例
第○条(専属的合意管轄)
本契約に関して甲⼄間に⽣じた⼀切の紛争については、○○地⽅裁判所を第⼀審の専属的合意管轄裁判所とする。
その他、損害が発⽣した場合の損害賠償額をあらかじめ定める条項や、国際的な契約の場合にどの国の法律を適⽤するか(準拠法)に関する条項等を設けることもあります。
あなたはいま著作権契約をしようとしているわけですが、そもそも著作権とはどういう権利で、どういう考え⽅に基づくものか、基本的なことがらをまず知っておきましょう。
(1)以下で述べる著作権の対象となるものを、「著作物」といいます。「著作物」とは、⼈間の考えや気持ちを創作的に表現したものをいうとされています。抽象的なアイデアは含まれず、⼩説、絵画、⾳楽、イラスト等具体的に表現されたものである必要があります。
(2)著作物を創作した⼈を「著作者」といいます。原則として、著作者が著作権を有しています。
創作者以外に著作権が認められる場合として、「法⼈著作・職務著作」や「映画製作者」があります。
「法⼈著作・職務著作」とは、著作物を職務として創作した場合に、その著作物の著作権が、創作者ではなく創作者の雇⽤主等に帰属する場合です(著作xx第15条)。
「映画製作者」とは、映画の著作物の製作に「発意と責任」を有する者をいいます(著作xx第2条第1項第10号)。著作権法上、映画の著作者は「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当して映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」であると定められていますが(著作xx第16条)、当該著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、映画の著作権は、当該映画製作者に帰属することになります(著作xx第29条第1項)。
(3)「著作権」には、⼤きく分けて、「財産権としての著作権」と、「著作者⼈格権」という2つの権利内容があります。
① 財産権としての著作権
他⼈に無断で著作物を利⽤されない権利を中⼼とし、主に次表の各権利を内容とするものです。これらの財産権としての著作権は他⼈に譲渡することができます。したがって、例えば、「著作者」が財産権としての著作権を他⼈に譲渡した場合、「著作者」であっても著作権を有せず、「著作者」ではなくても著作権を有することがありえます。
著作物を次のように利⽤する場合、原則として、著作権を有する者(著作権者)の許諾が必要となります。なお、例外的に許諾が不要な場合が法定されていますので、この点についての詳細は⽂化庁のサイトをご参照ください。
※ 著作権制度の概要「著作物が⾃由に使える場合」
<xxxxx://xxx.xxxxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxxx/xxxxx/xxxxxxxxxxxx_xxxx.xxxx>
著作者の権利(財産権としての著作権の主な内容)
複製権 | 著作物をコピー(複製)すること |
上演権・演奏権 | 著作物を公に上演⼜は演奏すること |
上映権 | 著作物を公に上映すること |
公衆送信xx | 著作物を放送や有線放送、インターネット配信等、公衆に送信すること |
⼝述権 | ⾔語で表現された著作物を公に朗読(⼝述等)すること |
展⽰権 | 美術や写真の著作物を公に展⽰すること |
譲渡権、貸与権、頒布権 | 著作物を譲渡・貸与により公に提供すること |
翻訳権・翻案xx(⼆次的著作物の創作権) | 著作物を翻訳、編曲、変形、脚⾊、映画化などによって「⼆次的著作物」を創作することに関する権利です。「⼆次的著作物」とは、既存の著作物に対して新たな創作を加えて制作された著作物をいいます。例えば、 ⼆次元のアニメキャラクターを⽴体化してフィギュア⼈形をつくるこ |
「⼆次的著作物」を第三者が利⽤する場合に関する権利です。例えば、 ⼩説を映画化した映画(⼆次的著作物)をDVDで販売する場合、映画の著作物(⼆次的著作物)の著作権者のほか、⼩説(原著作物)の著作権者にも了解を得る必要があります。 |
② 著作者⼈格権
著作者⼈格権とは、著作者のみが持っている、著作者の精神的利益を守る権利です。財産権としての著作権とは異なり、譲渡や相続の対象となりません。著作権が移転しても著作者⼈格権は移転しません。
例えば、著作者は、たとえ著作権を譲渡(移転)した場合であっても著作者⼈格権の内容の⼀つである「著作物を無断で改変されない権利」(同⼀性保持権)を持っています。財産権としての著作権を譲渡された者であっても、著作者の了解なくその著作物を修正したり、他の者に修正を依頼することはできません。
なお、利⽤者に⾃由に使わせる必要がある場合などは、著作者⼈格権を⾏使しない旨を規定する例も⾒受けられます。この場合、著作者としては、依頼者が著作物を改変、修正した場合や著作者の⽒名を表⽰しなかった場合でも異議を述べることができないといった不利益が⽣じるため注意が必要です。
著作者の権利(著作者⼈格権の主な内容)
公表権 | 著作物を公表するかしないか、公表する場合いつ公表するか等について 決める権利 |
⽒名表⽰権 | 著作物を公表するときに、著作物に⾃分の⽒名やペンネーム等を表⽰するかしないか決める権利 |
同⼀性保持権 | 著作物を勝⼿に改変されない権利 |
(4)著作物を他⼈に伝達するうえにおいて重要な役割を果たしている⼈は、著作者ではありませんが、著作者と類似の権利が認められています。
例えば、映画における俳優、ダンスにおける舞踊家、⾳楽における歌⼿、楽器演奏者、指揮者など
「実演家」と呼ばれる⼈や、レコード製作者や放送事業者がこれにあたります。このような⼈たちに認められる権利を「著作隣接権」といいます。
以下では、「実演家」に認められる権利を紹介します。著作物について、「実演家」がいる場合で、以下の著作隣接権の内容で利⽤する場合には、「実演家」の許諾を得る必要があります。「実演家」には、「著作者⼈格権」と類似の「実演家⼈格権」という権利も認められています。ただし、著作権法上、実演家の許諾を得て映画の著作物(劇場上映⽤以外の映像作品も含みます)に録⾳・録画された場合、その後の利⽤に関する実演家の権利は、原則として制限されます。したがって、最初に録⾳・録画するときの契約内容が重要です。これを、最初の1回の契約でその後の利⽤までを念頭においた契約条件を決めておく必要があるという意味で「ワンチャンス主義」と⾔うことがあります。
実演家の権利
著作隣接権 | 録⾳権・録画権 | 実演を録⾳・録画すること |
放送権・有線放送権 | 実演を放送・有線放送すること | |
送信可能化権 | 実演をインターネットなどで⾃動的に公衆に送信できる状態 にすること | |
譲渡権 | 実演の録⾳物⼜は録画物を公衆に譲渡すること (いったん譲渡された実演の録⾳物⼜は録画物のその後の譲 渡には権利が及びません) | |
貸与権 | 商業⽤レコードを貸与すること(最初に販売された⽇から1年に限ります) | |
放送の⼆次使⽤料を受ける権利 | 商業⽤レコードが放送や有線放送で使⽤された場合の使⽤料 を受けること | |
貸レコードについて報酬 を受ける権利 | 1年を経過した商業⽤レコードが貸与された場合に、貸レコ ード事業者から報酬を受けること | |
実演家⼈格権 | ⽒名表⽰権 | 実演に名前を付すかどうかを決める権利 |
同⼀性保持権 | 実演を名誉・声望を害する形で改変されない権利 |
(5)保護期間
著作物は、原則として著作者の⽣前及び著作者が死亡してから70年間(団体の場合、公表後70年間)保護されます。
※ 1967年以前に亡くなった⽅の著作権の存続期間は2017年に消滅しています(当時は50年間でした)が、1968年以降に亡くなった⽅の著作権の存続期間は2037年までありますから、権利を相続している遺族の⽅⼜は譲受
⼈の許諾が必要となります。
4 著作権契約について
著作権に関する契約をする際の留意点は次のとおりです。
(1)著作権に関する契約の類型
著作権に関係する契約類型としては、次のような類型が想定されます。
① 著作物の制作依頼を内容とする契約 ──請負契約
著作物の制作という「仕事の完成」を⽬的とする契約であり、仕事を請け負った側は、依頼を受けた著作物を完成させる義務を負い、依頼した側が、その対価として報酬を⽀払う義務を負います。
② 既に存在する著作物の著作権を譲渡する契約 ──著作権譲渡契約既存の著作物の著作権を譲渡する契約です。
③ 既に存在する著作物の利⽤許諾を内容とする契約 ──利⽤許諾契約
既に存在する著作物について、著作権を譲渡するのではなく、利⽤⽅法を定めて、その利⽤⽅法に限定して利⽤を認める契約です。
(2)著作権を取得する場合には個別の合意が必要です。
著作物、例えば絵画を購⼊した場合、絵画の「所有権」を取得しますが、それで絵画に対する「著作権」を取得することにはなりません。著作権と所有権は異なる権利ですから、著作権を取得したい場合には、所有権の取得とは別に、著作権譲渡について合意をする必要があります。
(3)著作権を譲渡する契約を締結する場合(著作権譲渡契約)は、譲渡する対象を明確にしましょう。著作物の制作を依頼した場合であっても、完成した著作物に関する著作権を取得したわけではあり ませんので、制作を依頼した側が著作権を取得するためには、契約において、「完成した著作物の著作
権は制作を依頼した側に帰属する」というように合意しておく必要があります。
著作権は、全部、⼜は⼀部分だけでも譲渡することができます。⼆次的著作物に関する権利を含め著作権の全部を譲渡する場合には、以下の規定例のように「著作xx第27条及び第28条に規定する権利を含む」とその旨を明記する必要があります。著作xx第27条に規定する権利とは、⼆次的著作物を創作する権利であり、第28条に規定する権利とは⼆次的著作物を利⽤する権利です。明記しない場合、⼆次的著作物に関する権利は譲渡の対象ではないと推定されます(著作xx第61条第2項)。
規定例
第○条(著作権譲渡)
xx⼄に対し、本契約の締結⽇をもって、本著作物に関するすべての著作権(著作xx第27条及び第28条に規定する権利を含む)を譲渡する。
(4)著作権を譲渡するのではなく、著作物の利⽤を許諾する契約を締結する場合には(著作権利⽤許諾契約)、認める利⽤⽅法を明確にしましょう。
例えば、⾃動公衆送信(インターネット配信)のみを認める場合には、その旨を明記するなど、事後的なトラブルを防⽌するために、どのような利⽤⽅法を認めるかを明確にしましょう。また、特定の契約相⼿にのみ独占的に利⽤を認める場合には、「相⼿に対して独占的な利⽤を認める」旨を明記しましょう。その際、利⽤を認める期間や地域を定めることも重要です。
●コラム● インターネットと著作権について
インターネットの発達により、⼀般の⼈々が簡単に情報を取得、発信することができるようになりました。しかし、うっかりすると第三者の著作権を侵害する場合があります。
例えば、ウェブサイトが⽂章、写真、イラストなどの著作物で構成されている場合があります。そのため、
ウェブサイト上の⽂章や写真等を利⽤するときは、それぞれの著作物の著作者の許諾が必要となり、無断で利
⽤すると、第三者の著作権や著作者⼈格権を侵害する結果となる可能性があります。
また、SNSの利⽤が広がっている現在、SNSの投稿に際して、意図せず、第三者の著作物を無断で公開するなどして第三者の著作権や著作者⼈格権を侵害する結果となる可能性もあります。
インターネットで公開されているものの利⽤やSNSでの投稿は、著作権とは関係がないと思ってしまうかもしれませんが、そうではなく、場合によっては第三者の著作権を侵害する可能性がありますので、⼗分な注意が必要です。
●コラム● 近時のテクノロジーの発展と著作権 〜デジタルコンテンツとNFTについて
デジタルコンテンツも取引の対象となりますが、デジタルコンテンツはコピーが容易であること等から、取引対象としての唯⼀性の担保に難しさがありました。
この点、デジタルコンテンツがNFT(Non-Fungible Token)に紐づけられることによって、デジタルコンテンツの来歴が証明されると、そのデジタルコンテンツに唯⼀性、希少性が⽣まれ、デジタルコンテンツに付加価値が付与されます。このような特徴があるため、デジタルコンテンツと紐づけられたNFTが取引の対象となり、デジタルコンテンツのNFT市場が⽣まれています。テクノロジーの発達は、新たな市場を構築していますが、著作権の取引に関して以下のような留意点があります。
もともとデジタルコンテンツは、著作物性が認められる限り、そのコンテンツの創作者に著作権が発⽣します。他⽅で、NFTとは、特定のデジタルコンテンツを紐付けてコード化されたデータ(メタデータファイル)であり、デジタルコンテンツそのものではありません。そのため、取引対象であるNFTを市場で購⼊することが、ただちにデジタルコンテンツに対する著作権の譲渡や利⽤の許諾を受けたことを意味するわけではありません。しかし、その点に関する当事者間の共通認識がないと、デジタルコンテンツに紐づけられたNFTの購⼊者が、そのデジタルコンテンツの著作権も譲渡された、⼜は利⽤できる権利を得たと考え、そのデジタルコンテンツの創作者の著作権を侵害してしまうことになります。
NFTの取引にどのような法的な意味合いが付与されるのかは通常の契約同様、当事者間の合意内容によることになりますが、NFTがプラットフォームを介して取引される結果、当事者間での明確な合意がないまま、取引が⾏われていることがあります。その結果、そのデジタルコンテンツに対する著作権の帰属に関して、取引当事者間で共通認識が形成されず、そのデジタルコンテンツの利⽤に絡むトラブル事例が⽣じています。
NFT取引に関しては、取引プラットフォームの規約を確認し、NFTの購⼊にどのような意味が含まれ、そのデジタルコンテンツをどのような⽅法で利⽤できるのかを確認するなど、デジタルコンテンツの創作者との間で事後的なトラブルとならないよう留意することが必要です。
●お役⽴ちサイト●
著作物の創作を⾏うクリエイターや実演家とその利⽤者(契約に慣れていない⼀般の⼈どうし)が契約を⾏う上で参考になるサイトを、本⽂に記載したものを含め、以下にまとめましたのでご参照ください。
〈著作権関連〉
・⽂化庁 著作権契約書作成⽀援システム
<xxxxx://xx.xxxxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxxxxx/x-xxxxxxxx/>
画⾯の案内にしたがって項⽬を⼊⼒・選択することで、誰でも簡単に著作xxに関する契約書の案(ひな形)を作成することができます。
・⽂化庁「著作権テキスト」(令和4年度版)
<https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/93736501_01.pdf>
⽬次 <https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/93726501.html>
著作権法の解説書です。⼊⾨書として読みやすいものとなっています。
・⽂化庁 著作権Q&A ─教えてぶんちゃん─
<http://saiteiseido.bunka.go.jp/chosakuken_qa/>
著作権に関する様々な疑問について、著作権制度における基本的な考え⽅をQ&A形式で掲載しています。
・⽂化庁 著作権全般
<https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/>
著作権に関するトップページです。お知らせと施策・事業⼀覧等を掲載しています。
〈創作活動関連〉
・⽂化庁(⽂化芸術活動の基盤強化)「芸術家等の基礎知識」
<https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/kibankyoka/kisochishiki/index.html>
⽂化芸術分野で活動される⽅々が「個⼈で活動する」ために必要な知識についてまとめられています。個⼈
を守るために活⽤できるさまざまな法律の説明や、社会保障制度、相談窓⼝等が掲載されています。
・「⽂化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」(令和4年7⽉)
<https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/bunka_geijyutu_bunya/pdf/93742601_01.pdf>
⽂化芸術分野の契約のひな形やその解説などが掲載されています。
・⽂化庁委託事業「フリーランスアーティスト・スタッフのための契約ガイドブック」(令和5年2⽉)
<https://precog-jp.net/wp-content/uploads/2023/02/contractguidebook_precog.pdf>
さまざまな芸術分野で、フリーランスのアーティストやスタッフとして活動する⽅々が、安全に、安⼼して仕事をするために、契約を「学び」「理解し」「締結する」ことができるようにサポートするためのガイドブックです。
〈契約関連〉
・中⼩企業庁 下請代⾦⽀払遅延等防⽌法
<https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/daikin.htm>
企業から発注をうけてコンテンツを創作する場合など、下請事業を⾏う場合に適⽤される「下請代⾦⽀払遅延等防⽌法(下請法)」においては、書⾯の交付義務、⽀払期⽇を60⽇以内とする義務、買いたたきを禁⽌するなどが定められています。その概略が⼀⽬でわかるようにまとめられています。
・公正取引委員会 各種パンフレット
<https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.html - cmsshitauke>下請法に関するさまざまなテキストが掲載されています。
・公正取引委員会 インボイス制度関連コーナー
<https://www.jftc.go.jp/invoice/index.html>
2023年10⽉から始まるインボイス制度について、Q&Aやインボイス制度後の免税事業者との取引にかかる下請法等の考え⽅、相談窓⼝、説明動画などが掲載されています。
(2023年3⽉末現在/変更している場合もあります)
著作権に関する契約書は、対象となる著作物等の種類やその利⽤⽅法などによって記載する内容が異なってきます。そのため、著作権に関する契約書を作成する際の留意点や条項例について、事例に則して説明します。取り上げる事例は、
4.イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)<p.41参照>
5.ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成 <p.50参照>
9.既存の原稿(エッセイ、詩、⼩説など)やイラスト、写真、⾃作の楽曲・映画、舞踊(ダンス)・無⾔劇などの利⽤許諾 <p.87参照>
です。いずれも、著作物の創作や実演を⾏っている者とその利⽤者の契約(契約に慣れていない
⼀般の⼈どうしの契約)を想定しています。
ここで説明しているのは、あくまで⼀つの例でしかありません。実際の契約においては、当事者間で様々な条件が付されると思われますが、当事者間でよく話し合い、内容を⼗分に理解した上で契約書を作成し、締結するようにしてください。
第1節 講演・パネルディスカッション・座談会
1 対象
この節では、講演、パネルディスカッション、座談会(以下「講演等」という。)に関して、主催者と講演等を⾏う者が交わす著作権に関する契約書について説明します。
また、講演等の実施だけでなく、講演等の別会場への同時中継や、講演等の終了後、講演録等を冊⼦やウェブサイトへ掲載したり、講演等の録⾳・録画物を作成し利⽤したりするなど、講演等を様々な形で利⽤(⼆次利⽤)することについても説明します。
2 契約書例
収⼊印紙の貼付が必要な場合にはこの場所に貼付してください。
契 約 書
(以下「甲」という。)と (以下「⼄」という。)とは、「 」に関し、以下のとおり契約を締結する。
第1条 (参加依頼)
⼄は、甲に対し、⼄が主催する以下の「 」において講演することを依頼し、甲はこれを承諾した。
(1)⽇時︓ 年 ⽉ ⽇ 時 分 〜 時 分
(2)場所︓〔 〕
(3)講演会等の名称︓〔 〕
(4)テーマ︓〔 〕
第2条 (利⽤の許諾)
1 甲は、⼄⼜は⼄が指定する者が次に掲げる⽅法で前条の講演(以下単に「講演」という。)を利⽤することを許諾する。
(1)講演中の甲の写真撮影
(2)講演の録⾳
(3)講演の録画
2 甲は、⼄⼜は⼄が指定する者がリアルタイムで次に掲げる⽅法で講演を利⽤することを許諾する。
(1)講演をインターネット( )により無料で配信すること
3 甲は⼄⼜は⼄の指定した者が次に掲げる⽅法で講演を利⽤することを許諾する。
●前⽂
(「甲」は講演等を⾏う者、「⼄」は主催者です)
●参加依頼
→ p.19
●利⽤の許諾
講演の依頼時にその利⽤についても了解を得る
→ p.19
リアルタイムでの利⽤
→ p.19
終了後の利⽤
→ p.20
第 1 節 講演・パネルディスカッション・座談会
(1)講演を⽂章化すること
(2)講演を⽂章化したもの及び甲が使⽤した資料、甲を撮影した写真を に掲載し、複製、譲渡⼜は貸与すること
(3)講演の要旨を作成すること
4 甲が講演で使⽤した資料のみを利⽤する場合(⽂章化したもの、録⾳物⼜は録画物とあわせて利⽤しない場合)は、別途甲の許諾を得るものとする。
第3条 (著作者⼈格権)
1 前条の利⽤を⾏う場合には、⼄⼜は⼄が指定した者は、合理的と認められる⽅法により甲の⽒名を表⽰しなければならない。
2 ⼄⼜は⼄の指定した者が、講演の⽂章化、講演の要旨の作成等を⾏うときには、あらかじめ甲に対して内容確認の機会を与えなければならない。
第4条 (対価)
⼄は、甲に対し、「 」への参加及び第2条に掲げる著作物の利⽤等の対価として、 円(消費税込み)を、 年 ⽉ ⽇までに⽀払う。
報酬・対価に係る消費税や所得税(源泉徴収)については、⽀払いの相⼿⽅や報酬・対価の額などによって取り扱いが異なりますので、必要に応じ税の専⾨家に相談してください。
第5条 (保証)
1 甲は、講演の内容が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害するものでないことを保証する。
2 甲が第三者が著作権等を有する著作物等を講演において使⽤しようとする場合は、事前に⼄に対してその内容を明らかにして、その使⽤が第三者の著作権を侵害するものでないことについて⼄の確認を得なければならない。
第6条 (その他)
本契約に定めのない利⽤態様については、甲⼄別途協議の上、利⽤の可否、対価等につき決するものとする。
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲⼄記名捺印の上、各⾃1通を保持する。
●著作者⼈格権
→ p.22
●対価
→ p.23
●保証
→ p.23
●その他
→ p.24
●後⽂
年 ⽉ ⽇
甲 住所
⽒名 印
⼄ 住所
⽒名 印
第 1 節 講演・パネルディスカッション・座談会
3 契約書作成の留意点
第1条(参加依頼)
講演等の依頼を⾏う場合は、⼆次利⽤の有無にかかわらず、合意内容を明確にしておくため、講演等の種別(講演/パネルディスカッション/座談会)、主催者名、講演等を⾏う者の⽒名、講演等の⽇時、場所、講演等の名称、テーマ、講演等を⾏う者の役割(司会、パネリスト等)等について取り決めておく必要があります。
第2条(利⽤の許諾)
① 講演の依頼時に、その利⽤についても了解を得るようにしましょう。
紙に書かれたものだけが著作物となるのではなく、講演等のように⼝頭で話すものも著作物となります <p.7参照>。会場で話してもらうだけでなく、講演等(講演者等の著作物)を録⾳・録画等の⽅法で利⽤することが予定されている場合には、講演等の依頼の際に、その利⽤について説明し、了解を得ることが必要です。
主催者が講演等を録⾳・録画することがよくありますが、たとえ主催者が記録のために録⾳・録画するものであっても、講演者等の著作物を複製することになりますから <p.8参照>、講演者等の了解が必要になります。
このような講演等の録⾳・録画のほかに、別会場等への同時中継など講演等と同時の利⽤と、講演録等の印刷などの講演等の終了後の利⽤があります。終了後の利⽤については、利⽤する段階で別途契約することもできますが、了解が得られず利⽤できなくなることもありうるため、講演等の依頼時に契約することが望ましいと考えられます。
パネルディスカッションや座談会のように複数の⼈が参加しているものを利⽤する場合は、参加者全員の了解が必要となります。そのため、契約書に記載する利⽤⽅法は、統⼀しておく必要があります。
▶ 注意点
講演などの様⼦を写真撮影することがあります。講演者等を写真に撮ることは講演等の著作物を利⽤しているものではありません(ただし、資料を投影している場合、その複製に当たる場合があります)が、肖像権等の問題が⽣じることがありますから、講演者等の了解を得るようにしてください。
(なお、会場全体を写真撮影する場合は、会場参加者の肖像権等の問題も⽣じる場合がありますから、注意が必要です。)
② リアルタイムでの利⽤の場合
講演等と同時の利⽤(リアルタイムでの利⽤)としては、講演等の録⾳・録画のほか、例えば次のような利⽤が考えられます。どのような利⽤を⾏うかよく検討した上で了解を得ることが必要です。
第 1 節 講演・パネルディスカッション・座談会
・別会場への同時中継
・インターネットによりリアルタイムで配信
・リアルタイムで放送⼜は有線放送
規定例(リアルタイムでの利⽤)
第○条(利⽤の許諾)
1 甲は、⼄(⼜は⼄が指定する者)が次に掲げる⽅法で前条の講演(以下単に「講演」という。)を利⽤することを許諾する。
(1)講演中の甲の写真撮影
(2)講演の録⾳及び録画
2 甲は、⼄(⼜は⼄が指定する者)がリアルタイムで次に掲げる⽅法で講演を利⽤することを許諾する。
(1)講演を[副会場名]に中継すること
(2)講演をウェブサイト(http://www・・・)により無料で配信すること
(3)講演を[放送局名及び番組名]で放送すること
▶ 注意点
主催者(上記規定例の場合は「⼄」)が他の者に講演等を利⽤させる場合(例えば主催者が別の事業者に録⾳・録画させたり、放送事業者が放送したりする場合)は、契約書にその旨明記しておくことが必要です。
同時中継の副会場が多数ある場合は、副会場名を「別添の○○か所」とすることも考えられます。
③ 終了後の利⽤(講演の⽂章化、録⾳・録画物)
講演等の終了後の利⽤としては、講演等の内容を⽂章化(講演録、講演要旨、これらの翻訳物の作成)したり、講演等の録⾳物・録画物を編集・加⼯するなど、次のように利⽤することが考えられます。どのような利⽤を⾏うかよく検討した上で了解を得ることが必要です。
〈講演録等の作成・利⽤〉
・印刷物に掲載し、配布する
・ウェブサイトに掲載し、配信する
〈講演等の録⾳・録画物の利⽤(編集・加⼯を含む)〉
・コピー(複製)して配布する
・ウェブサイトに掲載し、配信する
・放送⼜は有線放送する
・上映する
第 1 節 講演・パネルディスカッション・座談会
規定例(終了後の利⽤)
第○条(利⽤の許諾)
3 甲は、⼄(⼜は⼄が指定する者)が次に掲げる⽅法で講演を利⽤することを許諾する。
(1)講演録を作成すること
(2)講演録及び甲が使⽤した資料、[これらを英訳したもの、]甲を撮影した写真(以下「講演録等」という。)を「『○○○』○○年○⽉号」に掲載し、複製、譲渡⼜は貸与すること
(3)講演録等を○○年○⽉○⽇までの間ウェブサイト(http://www・・・)に掲載し、無料で配信すること
(4)講演要旨を作成すること
(5)講演要旨、[講演要旨を英訳したもの]、甲を撮影した写真(以下「講演要旨等」という。)を
「『○○○』○○年○⽉号」に掲載し、複製、譲渡⼜は貸与すること
(6)講演要旨録等を○○年○⽉○⽇までの間ウェブサイト(http://www・・・)に掲載し、無料で配信すること
(7)講演の録⾳物を編集・加⼯すること
(8)講演の録⾳物を編集・加⼯したもの、甲が使⽤した資料及び甲を撮影した写真(以下「録⾳物等」という。)を複製し、譲渡⼜は貸与すること
(9)録⾳物等を○○年○⽉○⽇までの間ウェブサイト(http://www ・・・)に掲載し、無料で配信すること
(10)講演の録画物を編集・加⼯すること
(11)講演の録画物を編集・加⼯したもの、甲が使⽤した資料及び甲を撮影した写真(以下「録画物等」という。)を複製し、譲渡⼜は貸与すること
(12)録画物等を○○年○⽉○⽇までの間ウェブサイト(http://www・・・)に掲載し、無料で配信すること
(13)録画物等を○○○○で放送すること
(14)録画物を上映するとともに、甲が使⽤した資料を複製し、視聴者に配布すること
4 甲が講演で使⽤した資料のみを利⽤する場合(講演録⼜は講演の録⾳物・録画物を編集・加⼯したものとあわせて利⽤しない場合)は、前項の規定にかかわらず、別途甲の許諾を得るものとする。
上記規定例における(1)〜(3)は講演録を作成し利⽤する場合、(4)〜(6)は講演要旨を作成し利⽤する場合、(7)〜(9)は講演の録⾳物を作成し利⽤する場合、(10)〜(14)は講演の録画物を作成し利⽤する場合の例です。
許諾内容の記載⽅法は特に定まったものがあるわけではなく、当事者間で合意していればどのように記載してもかまいません。部数、有償・無償の別などが未定の場合は掲載する冊⼦名のみ記載することもありますし、発⾏や放送の時期や利⽤期間などを記載することもあります。利⽤期間については、個々の利⽤⽅法ごとには明記せずに、契約期間として別の条項を設けることもあります。ただし、なるべく具体的にわかりやすく記載した⽅が望ましいことはいうまでもありません。
第 1 節 講演・パネルディスカッション・座談会
著作権法では、著作物を複製する権利(複製権)とは別に、複製物を譲渡によって公衆に提供する権利(譲渡権)や複製物を貸与によって公衆に提供する権利(貸与権)が定められています。そのため、主催者が印刷物への掲載や録⾳・録画物の配布等を⾏う場合には、「複製し、譲渡⼜は貸与する」というように記載した⽅が正確といえます。
このため、講演録や講演の録⾳・録画物の利⽤にあたって、講演者等が会場で配付した資料やスクリーン等に表⽰した資料など講演等の際に使⽤した資料や、講演等の様⼦を撮影した写真を併せて使⽤する場合(例えば、印刷物やウェブサイトに資料や写真も併せて掲載したり、録⾳・録画物のパッケージ等に写真を使⽤したりする場合、資料をインターネット上でダウンロードできるようにする場合など)は、契約書にその旨明記し、それについての許諾を得る必要があると考えられます。
講演等で使⽤した資料は、講演等を⾏う者が講演内容等の理解を増すために⽤意したものであり、資料のみを単独で利⽤することは想定されていないこともあります。規定例では、講演録等や講演の録⾳・録画物と⼀緒に利⽤せずに、資料のみを単独で利⽤する場合は、講演等との契約とは別に、講演者等の許諾を得ることを想定しています。
▶ 注意点
主催者(上記規定例の場合は「⼄」)が別の者に講演等を利⽤させる場合(例えば放送事業者が放送する場合)は、契約書にその旨明記しておくことが必要です。
また、講演録等を他の⾔語(例えば英語)に翻訳して利⽤する場合は、その旨明記することが必要です。講演録・講演等の要旨や、これらの翻訳物について、掲載する印刷物やウェブサイトが異なる場合は、そ
れぞれ何(どこ)に掲載するかを明らかにすることが必要です。
講演録等への著作者名の表⽰や、著作者による内容の確認についても記載するようにしましょう。著作者は、著作者⼈格権として、著作物を公表する場合、著作者名の表⽰をどのようにするか決めることのできる権利(⽒名表⽰権)や意に反して改変されない権利(同⼀性保持権)を持っていますので、著作者名の表⽰や講演録等の作成の際に著作者(講演等を⾏った者)から同意を得る必要があります。したがって、これらのことに関し、著作者に確認の機会を与えることを明記しておくことが望ましいと考えられます。
規定例(内容確認の機会について記載する場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 第○条の利⽤を⾏う場合には、⼄(⼜は⼄が指定する者)は、合理的と認められる⽅法により甲の
⽒名を表⽰しなければならない。
2 ⼄(⼜は⼄が指定する者)が、講演録及び講演要旨の作成、これらの翻訳並びに講演の録⾳物・録画物の編集・加⼯を⾏うときには、あらかじめ甲に対して内容確認の機会を与えなければならな
い。
第 1 節 講演・パネルディスカッション・座談会
▶ 注意点
講演等の利⽤にあたっては、原則として著作者名を表⽰するとともに、講演等の⽂章化、要旨の作成、それらの翻訳、録⾳・録画物の編集・加⼯を⾏う際には、著作者の意に反した改変が⾏われていないか確認してもらう機会を確保することが必要となります。この規定は、このことを両者が確認しておくために設けるものです。
第4条(対価)
講演等の終了後の利⽤などに関する追加報酬の有無も明らかにしておきましょう。講演等にあたっては、報酬が⽀払われる場合が多いと思われますが、その報酬が会場で話してもらうことのみの対価なのか、講演等の利⽤も含めた対価なのかが不明確であれば、トラブルの原因になります。そのため、報酬は何に対する対価なのか明らかにするとともに、報酬とは別に追加報酬が⽀払われる場合は、何に対する対価としてどのように⽀払われるか、契約書に明記しておくことが必要です。
規定例(追加報酬がない場合)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、講演及び第○条に掲げる講演の利⽤の対価として、○○円(消費税込み)を○○年○⽉
○⽇までに⽀払う。
規定例(追加報酬がある場合)
第○条(対価)
1 ⼄は、甲に対し、講演及び第○条に掲げる講演の利⽤(△△を除く)の対価として、○○円(消費税込み)を○○年○⽉○⽇までに⽀払う。
2 ⼄は、甲に対し、△△の対価として、○○円(消費税込み)を、△△を⾏った⽇から○○⽇以内に⽀払う。
上記規定例は、複数の利⽤について追加報酬がある場合、追加報酬のある利⽤ごとに規定することを想定しています。
▶ 注意点
報酬の⽀払いについては、消費税を含む⾦額かどうか、また所得税は源泉徴収して⽀払うのかどうかを明らかにしておきましょう。
振込の場合は、振込⼿数料を誰が負担するかについても明記するようにしましょう。
第5条(保証)
講演等において、第三者の著作権などの権利が侵害された場合、講演等を⾏った者だけでなく、主催者側も責任を問われることが考えられます。そのため、講演等を⾏う者に対し、講演等において、第三者の権利を侵害してはならないことや、第三者が著作権を有している著作物を使⽤す
第 1 節 講演・パネルディスカッション・座談会
る場合は、その使⽤が第三者の著作権等を侵害するものでないことを事前に主催者に説明して主催者の了解を得るべきであることを定めておくことがあります。保証の対象となる権利を具体的に列挙したり、トラブルへの対処について規定したりする場合もあります。
もっとも、このような条項を設けた場合、講演等を⾏う者に対して契約違反の責任をとってもらうことができるようになるだけで、著作権やプライバシー権侵害の被害者に対する責任がなくなるわけではないので、注意が必要です。
規定例(基本)
第○条(保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
規定例(トラブルへの対処について規定する場合)
第○条(保証)
1 甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
2 万⼀、本著作物に関して、第三者から権利の主張、異議、苦情、対価の請求、損害賠償の請求等がなされた場合、甲は⾃らの責任と費⽤負担においてこれを処理解決するものとし、⼄に⼀切の迷惑損害を及ぼさないものとする。
▶ 注意点
講演等で第三者が著作権等を有する著作物等が使われる場合は、講演等の利⽤にあたり、原則として、第三者の了解が必要になります。そのため、第三者が著作権等を有する著作物等を使⽤する場合は、事前に主催者とその扱いについて協議しておくことが考えられます。さらに進んで、使⽤する著作物の利⽤について第三者から利⽤の了解を得る責任を負うのは誰か(講演等を⾏う者か、主催者か)を予め定めておくことも考えられます。
上記規定例では講演等の著作物についてのみ記載していますが、講演等で使⽤する資料を含めて記載することもあります。
第6条(その他)
契約書に記載されていない利⽤を⾏う場合は、あらためて講演等を⾏った者の了解を得る必要があります。このことを確認するため、このような場合は別途協議する旨の条項を設けることがあります。
その他、契約書には、契約期間に関する条項、中途解約に関する条項、契約変更に関する条項、契約解除に関する条項、秘密保持に関する条項、権利義務の譲渡等禁⽌条項、合意管轄に関する条項等を置くことがあります。これらの条項例は、第1章の「2 契約書に定められる条項の⼀例」<p.4参照>をご参照ください。
第2節 演奏会・上演会などにおける実演
1 対象
この節では、演奏会やコンサート、上演会などの催し物(以下「イベント」という)の主催者が、出演者に対して、⾳楽の演奏や演劇、舞踊、オペラ、バレエの上演等(以下「実演」という)を依頼する場合に、主催者と出演者の間で結ぶ契約書について説明します。
ここで対象となる演奏会・上演会等は、原則として営利を⽬的としないものです。商業ベースのもの、エージェントが仲介するもの、⼤規模・継続的なイベント等には馴染みません。
実際には、主に⾮営利の団体が、フリーランスの演奏家、劇団等に⾳楽や演劇の演奏、上演を依頼するケースが対象になると思われます。⾮営利の団体であっても、コンサートや演劇の上演を⾏うことを主な⽬的とした団体が⾏うコンサート等は対象としていません。また、演奏や上演を⾏う⼈・団体がプロの場合も対象としていません。これらの場合は、報酬や利⽤の条件等についてより細かい規定が必要となる場合が多いと思われますので、実際の契約にあたっては当事者間で⼗分な協議をした⽅がよいでしょう。
また、出演者がその場で「⽣」で演奏や上演を⾏う場合を対象としており、映画の上映や、過去の演奏・上演の様⼦を収録した映像を上映する場合は対象外です。
2 契約書例
収⼊印紙の貼付が必要な場合にはこの場所に貼付してください。
契 約 書
(以下「甲」という。)と (以下「⼄」という。)とは への甲の出演とその実演の利⽤に関し、以下のとおり契約を締結する。
第1条 (出演の依頼)
⼄は、甲に対し、⼄が主催する以下のイベントに出演することを依頼し、甲はこれを承諾した。
(1)⽇時︓ 年 ⽉ ⽇ 時 分 〜 時 分
(2)場所︓
(3)イベントの名称︓
(4)出演の内容︓
●前⽂
(「甲」は出演者、「⼄」は主催者です。)
●出演の依頼
→ p.27
第2節 演奏会・上演会などにおける実演
第2条 (実演の利⽤許諾)
甲は、⼄が、甲の実演の様⼦を写真に撮影することを許諾する。
第3条 (報酬の⽀払い)
⼄は、甲に対し、第1条に定める出演の報酬及び第2条に定める実演の利⽤許諾の対価として⾦ 円(消費税込み)を 年 ⽉ ⽇までに⽀払う。
報酬・対価に係る消費税や所得税(源泉徴収)については、⽀払いの相⼿⽅や報酬・対価の額などによって取り扱いが異なりますので、必要に応じ税の専⾨家に相談してください。
第4条 (実演する著作物の著作権処理)
甲の実演において第三者が著作権を有する著作物等を利⽤する場合は、⼄が⼄の責任でその利⽤許諾を得て使⽤料を⽀払う等の必要な権利処理を⾏う。
そのために、甲は、実演するすべての作品について正確な作品名、作家等著作権者の名称、その他必要な情報を事前に⼄に提供しなければならない。
第5条
甲は、⼄が、イベントで実演する甲を撮影した写真を、次のように利⽤するか、または第三者に利⽤させることを許諾します。
(1)印刷物への掲載(報酬は第3 条の報酬に含む。)
第6条 (⽒名表⽰)
⼄は、甲の実演の利⽤に際し、公正な慣⾏に従って甲の⽒名を表⽰しなければならない。
第7条 (その他)
本契約に定めのない事態が⽣じた場合は、甲と⼄とで誠意をもって協議の上、解決にあたる。
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲⼄記名捺印の上、各⾃1通を保持する。
●実演の利⽤許諾
→ p.28
●報酬の⽀払い
→ p.29
●実演する著作物の著作権処理
→ p.29
●実演の利⽤許諾(2)
→ p.28
●実演家⼈格権
→ p.31
●その他
→ p.31
●後⽂
年 ⽉ ⽇
甲 住所
⽒名 印
⼄ 住所
⽒名 印
第2節 演奏会・上演会などにおける実演
3 契約書作成の留意点
第1条(出演の依頼)
出演者が⾏う演奏や上演(実演)について、その内容を特定し、出演者と確認します。
具体的には、公演の⽇時、場所、イベントの名称、出演の内容です。このほか、演奏・上演する演⽬等、既に特定されており、当事者で確認しておいた⽅がよいと思われる事項があれば、契約書に書いておいた⽅がよいでしょう。
① 実演の依頼時に、実演の利⽤についても了解を得るようにしましょう。
実演の様⼦を、会場以外でリアルタイム利⽤することや後⽇利⽤することが予定されている場合は、実演等の依頼の際にその利⽤について説明し、出演者の了解を得ることが必要です。
主催者が実演等を録⾳・録画することがよくありますが、たとえ主催者が記録のために録⾳・録画するものであっても、実演の様⼦を複製することになりますから、出演者等の了解が必要になります。
このような実演等の録⾳・録画のほかに、別会場等への同時中継などリアルタイムでの利⽤と、終了後の利⽤があります。
このような利⽤に対して、実演に対する報酬とは別に追加報酬が⽀払われる場合は、何に対する対価としてどのように⽀払われるか、契約書に明記しておくことが必要です。
② リアルタイムでの利⽤の場合
実演を、会場以外で「リアルタイム」(⽣中継)で利⽤することが予定されている場合、その内容を特定し、出演者の了解を得ます。
例えば、
・他会場へ送信して上映する(会場名)
・インターネットで配信する(ウェブサイト名称)
・放送・有線放送を⾏う(放送局名)が考えられます。
③ 写真の撮影・利⽤
実演の様⼦を写真撮影して後⽇利⽤することが予定されている場合、その内容を特定して了解を得ます。また、それぞれについて追加報酬の有無を取り決めます。例えば、次のような事例が想定されます。なお、この条項は著作権の問題というよりは、肖像権に関する取り決めです。
・印刷物等に掲載する(印刷等の名称)
・インターネットで公開する(ウェブサイトの名称)
第2節 演奏会・上演会などにおける実演
契約書に写真の利⽤⽅法を明記しなかった場合、その写真において出演者がどのくらい⼤きく写っているかにもよりますが、利⽤に際してはあらためて出演者の了解を得る必要があることが多いです。
④ 録⾳・録画とその利⽤
実演を録⾳・録画して後⽇利⽤することが予定されている場合、その内容を特定して、了解を
得ます。また、それぞれの利⽤について追加報酬の有無を取り決めます。例えば、次のような利
⽤が考えられます。
・インターネットで公開する(ウェブサイトの名称、公開期間)
・複製物(CD、DVD等)を配付する(配付先は関係者か⼀般か、有償か無償か、配付部数等)
・放送・有線放送を⾏う(放送局名、放送⽇)
以下の規定例では、「⼀般への配布・販売」については追加報酬を⽀払う例、「インターネット公開」と「放送」については追加報酬を⽀払わない例(実演の報酬に含まれる例)としています。ここに掲げた例以外の利⽤が予定されている場合は、それもなるべく具体的に契約書に書いて おくべきです。また、利⽤にあたっての留意点も双⽅で確認して契約書に書いておくと、より明
確になります。
規定例(リアルタイムでの利⽤と録⾳・録画物の利⽤をまとめて規定する場合)
第○条(実演の利⽤許諾)
1 甲は、⼄⼜は⼄が指定する者が甲の実演に関して次に掲げることを⾏うことを許諾する。
(1)甲の実演を録⾳及び録画すること
(2)甲の実演の様⼦を写真に撮影すること
2 甲は、⼄⼜は⼄が指定する者が甲の実演をリアルタイムで(実演と同時に)次に掲げる⽅法により利⽤することを許諾する。
(1)市役所正⾯ホールで上映等すること
(2)インターネット(○○市ウェブサイト)を通じて配信すること
(3)△△ケーブルテレビジョンを通じて放送・有線放送すること
3 甲は、⼄⼜は⼄が指定する者が第1項に基づき録⾳及び録画したもの(以下「録⾳・録画物」という)を次に掲げる⽅法により利⽤することを許諾する。
(1)インターネット上のウェブサイトへアップロードすること(報酬は第○条の報酬に含む。)サイト名︓○○市ウェブサイト
掲載期間︓○○年○⽉○⽇ から ○○年○⽉○⽇まで
(2)甲及び⼄の関係者へ有償⼜は無償で配布すること
(3)⼀般へ配布・販売すること(報酬は別途⽀払う。)
(4)放送・有線放送すること(報酬は第○条の報酬に含む。)放送・有線放送局名︓△△ケーブルテレビジョン
第2節 演奏会・上演会などにおける実演
4 甲は、⼄⼜は⼄が指定する者が第1 項に基づき撮影した写真を次に掲げる⽅法により利⽤することを許諾する。
(1)印刷物へ掲載すること
(2)インターネット上のウェブサイトへ掲載することウェブサイト名︓○○市ウェブサイト
掲載期間︓○○年○⽉○⽇ から ○○年○⽉○⽇まで
5 ⼄は、前項の利⽤にあたっては必要な範囲で編集して利⽤することができる。ただし編集にあたっては、甲の名誉・声望を傷つけないように配慮する。また、⼄は、甲の実演の利⽤に際し、公正な慣⾏にしたがって甲の⽒名を表⽰する。
6 甲⼜は⼄がこれら以外の利⽤をしようとする場合は、甲と⼄とで協議して、利⽤の可否、態様、報酬の額等を決めるものとする。
▶ 注意点
録⾳・録画物の利⽤については、ウェブサイトでの公開や放送など主催者以外が⾏う場合もあるため、主催者が利⽤の了解を得る際には、どこのウェブサイトで公開するのか、どこの放送局で放送するのかを明記して了解を得る必要があります。
また、ここに記載した以外の利⽤で主催者以外の⼈が利⽤する場合は、出演者に説明をし、契約書に利⽤主体を書き加えておくことが望ましいでしょう。
「実演家」には実演家⼈格権があります。⽒名表⽰ができない、あるいは利⽤にあたって編集・改変・削除等が予想される場合、あらかじめそのことの了解を得ておくとトラブル防⽌に役⽴ちます。ただし、いくら編集や改変の了解を事前に得たからといって、出演者の名誉・声望を傷つけるような利⽤はできません。
第3条(報酬の⽀払い)
出演者が⾏う演奏や上演(実演)についての報酬を取り決めます。
▶ 注意点
報酬の⽀払いについては、消費税を含む⾦額かどうか、また所得税は源泉徴収して⽀払うのかどうかを明らかにしておきましょう。
振込の場合は、振込⼿数料を誰が負担するかについても明記するようにしましょう。
第4条(実演する著作物の著作権処理)
他⼈の作った著作物(⾳楽、戯曲等)の演奏や上演を⾏う場合には、原則として、その著作物の著作者(著作権者)の了解が必要となります。そのため、実演する著作物について、主催者と出演者のどちらが、著作権者の了解を得るか、あるいは使⽤料を⽀払うかを取り決めます。
ともすれば忘れがちですが、⼤変重要な規定です。
第2節 演奏会・上演会などにおける実演
▶ 注意点
主催者が著作権者から了解を得ることとした場合、出演者から、演⽬の中で利⽤されたものの著作権者について正確に把握する必要があります。事前に、必ず出演者から上演⼜は演奏の内容を聞いて、どこに連絡をして了解を得ればよいか、使⽤料はいくらになるか等を確認しなければなりません。
脚本等でオリジナル著作物を上演する場合でも、その中に⾳楽、⼩説や詩の⼀説、写真など他⼈の著作物が使われていると、その著作物の利⽤の了解を得る必要のある場合がありますので、⼗分注意しなければなりません。
「アンコール」など、プログラムに記載されない演奏についても同様に著作権者の了解が必要です。
会場での演奏・上演のほか、リアルタイムでの利⽤が予定されている場合や録⾳・録画して後⽇利⽤することを予定している場合は、そのそれぞれの利⽤についても著作権者の了解が必要です。なお、主催者以外が録⾳・録画物を利⽤する場合(ウェブ公開や放送は主催者以外が⾏うことも多い)、実際に誰が了解を得て使⽤料を⽀払うのか、主催者は実際に利⽤する⼈ときちんと取り決める必要があります。もし著作者の了解を得られなかった場合、通常は主催者が責任を負うことになります。
契約書例では主催者が了解を得る場合の例を挙げましたが、出演者が⾏う場合の規定例は次のとおりです。ただし、出演者が了解を得るとした場合でも、万⼀でも著作者の了解を得られなかったときには、著作権者との関係では主催者が責任を負う場合がありますので、⼗分注意してください。
規定例(出演者が著作権者の許諾を得る場合)
第○条(実演する著作物の著作権処理)
第○条の実演を⾏うにあたって、実演する著作物⼜は著作物に含まれる著作物等について著作権者等の許諾が必要な場合には、著作権者等の許諾を得ること、及び対価を⽀払うこと等、必要な契約はすべて甲の責任で⾏う。
⼀⽅、主催者以外の⼈が利⽤する場合の規定例は次のとおりです。
規定例(主催者以外の⼈が利⽤する場合)
第○条(実演する著作物の著作権処理)
第○条の実演を⾏うにあたって、実演する著作物⼜は著作物に含まれる著作物等について著作権者等の許諾が必要な場合は、⼄が⼄の責任で権利処理を⾏うものとする。ただし、⼄が第三者に当該利⽤をさせる場合、⼄は⼄の責任で当該第三者に著作権者等の了解を得させることができる。
第2節 演奏会・上演会などにおける実演
●コラム● 営利を⽬的としない上演等
公表された著作物は、「営利を⽬的とせず、かつ、聴衆⼜は観衆から料⾦を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、⼜は⼝述することができる」と定められています(著作権法第38条第1項)。ただし、当該上演、演奏、上映⼜は⼝述について実演家⼜は⼝述を⾏う者に対して報酬が⽀払われる場合は、この限りでありません。つまり、公演が営利を⽬的としない場合、次の条件をすべて満たしていれば、著作権者の了解は不要となります。
・営利を⽬的としない
・聴衆、観衆から料⾦を受けない
・上演、演奏等について実演家に報酬を⽀払わない
したがって、たとえ⼊場料無料のイベントでも、企業の宣伝⽬的のイベントや出演者に報酬が⽀払われるイベントは、著作権者の了解が必要となります。
また、演奏等をリアルタイムでインターネット配信や放送を⾏う場合も、著作権法第 38 条第1 項には
該当しませんので、著作権者の了解が必要です。
第6条(実演家⼈格権)
演奏・上演する実演家には、「実演家⼈格権」があります。このため、公演それ⾃体における実演に際して、あるいは実演を収録したものの利⽤に際しては、実演家の⽒名を表⽰しなければなりません(⽒名表⽰権)。また、実演家の名誉⼜は声望を害する形での実演の変更、切除等の改変・編集はできません(同⼀性保持権)。したがって、実演を収録したものの利⽤の際には、実演家に確認の機会を与えることを明記しておくことが望ましいと考えられます。もし、利⽤にあたって
⽒名を表⽰できなかったり、実演につき何らかの編集をしたりすることが予想される場合は、あらかじめそのことについての了解を得ておく等の⽅法を考える必要があります。<p.9参照>
第7条(その他)
特に、契約書に記載されていない利⽤を⾏う場合などは、あらためて実演等を⾏った者の了解を得る必要があり、このことを確認するため、このような場合は別途協議する旨の条項を設けることがあります。
その他、契約書には、契約期間に関する条項、中途解約に関する条項、契約変更に関する条項、契約解除に関する条項、秘密保持に関する条項、権利義務の譲渡等禁⽌条項、合意管轄に関する条項等を置くことがあります。これらの条項例は、第1章の「2 契約書に定められる条項の⼀例」<p.4参照> をご参照ください。
第3節 原稿の執筆
1 対象
この節では、以下に⽰すように、原稿の執筆を依頼する/される場合の著作権に関する契約書について説明します。例えば、広報誌に載せる⽂章やウェブ記事の執筆をフリーライターに依頼するような場合を想定しています。
2 契約書例
収⼊印紙の貼付が必要な場合にはこの場所に貼付してください。
契 約 書
(以下「甲」という。)と (以下「⼄」という。)とは、原稿執筆業務の委託に関し、以下のとおり契約を締結する。
第1条 (委託)
⼄は、甲に対し、以下の原稿(以下「本著作物」という。)の執筆を委託し、甲はこれを
受託した。
(1)原稿テーマ︓
(2)原稿分量︓
第2条 (納⼊)
1 甲は⼄に対し、本著作物を以下の形式により、 年 ⽉ ⽇までに、⼄に対して納⼊する。
・
2 ⼄は、前項の納⼊を受けた後速やかに納⼊物を検査し、納⼊物に契約不適合がある場合や、⼄の企画意図に合致しない場合は、その旨甲に通知し、当該通知を受けた甲は、速やかに⼄の指⽰に従った対応をする。
3 ⼄は、納⼊物を、利⽤が終わり次第速やかに甲に返却する。
第3条 (権利の帰属)
本著作物の著作権は甲に帰属する。
第4条 (利⽤許諾)
甲は⼄に対し、本著作物を、下記形態で利⽤することを許諾する。
(1)印刷物への利⽤
●前⽂
(「甲」は執筆者、「⼄」は依頼者です。)
●委託
→ p.34
●納⼊
→ p.34
検査条項
納⼊物の所有権遵守事項
●権利の帰属
→ p.35
●利⽤許諾
→ p.36
第3節 原稿の執筆
名称︓広報○○○○、部数︓ 部名称︓ 、部数︓ 部名称︓ 、部数︓ 部
(2)ウェブサイトにおける掲載
サイト名︓○○社公式サイト
掲載期間︓ 年 ⽉ ⽇から 年 ⽉ ⽇まで
(3)利⽤にあたっての翻訳の可否︓否
(4)その他
その他︓
第5条 (著作者⼈格権)
1 ⼄が本著作物の内容・表現⼜はその題号に変更を加える場合には、あらかじめ甲の承諾を必要とする。前条において翻訳を可とした場合も同様とする。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、以下のとおり著作者名の表⽰をしなければならない。
・
第6条 (保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害しないものであることを保証する。
第7条 (対価)
⼄は、甲に対し、原稿執筆業務及び本著作物の利⽤許諾の対価、その他本契約に基づく
⼀切の対価として、⾦ 円(消費税込み)を、 年 ⽉ ⽇までに
⽀払う。
報酬・対価に係る消費税や所得税(源泉徴収)については、⽀払いの相⼿⽅や報酬・対価の額などによって取り扱いが異なりますので、必要に応じ税の専⾨家に相談してください。
第8条 (その他)
本契約に定めのない利⽤態様については、甲⼄別途協議の上、利⽤の可否、対価等につき決するものとする。
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲⼄記名捺印の上、各⾃1通を保持する。
●著作者⼈格権
→ p.37
同⼀性保持権
⽒名表⽰権
公表権
●保証
→ p.38
●対価
→ p.39
●その他
→ p.40
●後⽂
年 ⽉ ⽇
甲 住所
⽒名 印
⼄ 住所
⽒名 印
第3節 原稿の執筆
3 契約書作成の留意点
第1条(委託)
著作物の創作を依頼するなど他⼈に⼀定の仕事を依頼する契約では、依頼する仕事の内容(原稿のテーマ、原稿の分量等)を特定することが重要です。
第2条(納⼊)
この契約は、依頼を受けた者は依頼者に対して仕事を完成(著作物の創作)することを約束し、依頼者は成果物(著作物)を完成させたことに対して報酬を⽀払うことを約束する契約です。したがって、成果物をいつまでに完成し、完成した成果物をどのような⽅法で依頼者に納⼊するかについて定めておくことが必要です。
納期は年⽉⽇で明⽰する⽅法や、⼀定の期間を定めて⽰す⽅法(例えば、「契約締結後3か⽉以内」と規定する場合)が考えられます。
成果物の納⼊⽅法も具体的に定めておいた⽅がよいでしょう。例えば、電⼦メールでのデータ
送信・ファイル転送、データCD等の持参・郵送、原稿⽤紙の持参・郵送等です。
① 検査条項
「著作物の創作」のように、ある仕事を完成させることを契約の⽬的とする契約においては、納⼊された成果物によって「仕事の完成」があったと評価してよいかどうかについて依頼者側が検査する必要があります(例えば、広報誌に載せる原稿の執筆を依頼した契約で、広報にそぐわない原稿を書いても、仕事を完成したことにはなりません。)。そこで、この納品検査の⽅法等について契約で定めておくことが必要です。
② 納⼊物の所有権
原稿執筆を依頼する契約において、電⼦データ形式で納⼊する場合は、成果物の所有権が問題になることはありません。
ただし、成果物の記録媒体(例えば⼿書き原稿等)によっては、オリジナルの原稿⾃体(⾃筆)が財産的な価値を持つことがあるため注意が必要です。所有権は、そのまま⾃然に依頼者に移転する、ということにはならないため、契約で決めておかないと、後⽇、成果物の所有権を巡って争いが⽣じる危険があります。依頼者において成果物の所有権を取得したい場合や、著作者において成果物の所有権を保有しておく必要がある場合は、特に成果物の所有権の帰属を契約書に明確に定めておく必要があるでしょう。
③ 遵守事項
成果物の完成までに⻑期間を要するような場合には、仕事の進捗状況を管理するための条項や、
第3節 原稿の執筆
依頼者の指⽰に関する条項を設けることがあります。
規定例
第○条(遵守事項)
1 甲は、⼄の企画意図を理解、尊重し、適宜⼄の指⽰に従うものとし、⼄は、甲に対し、適宜企画意図に合致させるために本著作物の修正を求めることができる。ただし、甲の本契約に基づく業務を不当に遅延させてはならない。
2 甲は、⼄から要求があったときは、⼄に対し、適宜、本著作物に関する業務の進捗状況その他制作に関する事項を報告しなければならない。
著作権法では、現実に著作物を創作した⼈(執筆者)が著作者となり、その著作者が著作権を持つものと定められています。依頼者が報酬を⽀払ったからといって、それだけで著作権を取得することにはなりません。
依頼者が著作物を利⽤するためには、著作権者からその利⽤について了解を得るか、⼜はその利⽤に関する著作権を譲り受ける必要があり、これらについて契約書で定めることが必要です。著作権を誰が持つかを巡って後に争いが⽣じないよう、契約書で著作権の所在を確認しておくことが重要です。
● 依頼者に著作権を譲渡する場合
著作権は、⾃由に譲渡することができるため、契約で、依頼者がその著作物の著作権を著作者より譲り受けることもできます。著作権の譲渡を受けると、依頼者としては、その著作物を⾃由に利⽤できるだけでなく、その著作物を他⼈が利⽤することも制限できるようになるというメリットがあります。
しかし、逆に著作者にとっては、著作権を譲渡してしまうと、その後は、譲渡先の許諾を得ない限り、著作者⾃⾝が様々な活動をする際に必要となっても(例えば、その著作物をインターネットで公開したり、⾃⾝で改稿して使ったりするような場合でも)、その著作物を利⽤することができなくなりますし、類似の著作物を作ることが制約されてしまう(依頼者に譲渡した著作権を侵害する可能性がある)というデメリットも⽣じます。著作権を譲渡する契約を結ぶ場合には、このような著作者のデメリットに配慮して、これを調整する規定(例えば、著作者⾃⾝の利⽤を認める規定や、著作者が類似の著作物を創作することを認める規定等)を置くことも⼀つの⽅法として考えられます。
その他、著作権を譲渡するに際しては、譲渡する場合の対価の妥当性も含め、当事者間で⼗分に検討する必要があります。
(以下の規定例〔著作権の移転〕の場合は契約書例の第3条と差し替えることになり、契約書例第
4条は不要となります。)
第3節 原稿の執筆
規定例
第○条(著作権の移転)
本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
規定例(著作者による利⽤を認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を利⽤することを認める。
規定例(著作者による利⽤⽅法を指定して認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を以下の⽅法で利⽤することを認める。
① 甲が⾃⾝の制作活動を実施する際に必要となる場合
② 甲が営利を⽬的とせずに本著作物を利⽤する場合
③ その他⼄が特に認めた場合
▶ 注意点
著作権を譲渡する契約において、⼆次的著作物を創作する権利(著作権法第27条)及び⼆次的著作物を利
⽤する権利(著作権法第28条)を譲渡の対象として明記しないときは、これらの権利は譲渡の対象とはしなかったという推定を受けます。
複製権、譲渡権など個別の権利単位で著作権を譲渡することも可能です。その場合、依頼者側は、譲り受ける権利の範囲によって著作物の利⽤⽬的を達成できるかどうかを慎重に検討する必要があります。
他⽅、著作者側はこれらの権利が譲渡の対象となると、その後、類似の著作物(⼆次的著作物)が創作で
きなくなってしまうので、作品の性質に応じて、譲渡するのかどうかを慎重に検討する必要があります。
第4条(利⽤許諾)
著作権が著作者に帰属する場合、依頼者がその著作物を利⽤するためには、著作権者である著作者から、著作物の利⽤に関する了解を得なくてはなりません。利⽤する態様は、なるべく具体的にわかりやすく記載してください。契約書例では印刷物への利⽤、ウェブサイトにおける掲載を想定しています。
● 独占的利⽤許諾
依頼者がその著作物を独占的に利⽤したい場合(著作権者が依頼者以外の者に対してその著作物の利⽤を了解することを制限したいとき)は、その旨を契約で定めておく必要があります。
第3節 原稿の執筆
規定例
第○条(独占的利⽤許諾)
前条の許諾は、独占的なものとし、甲は、⼄以外の第三者に対し、(1)印刷物における複製、販売、(2)ウェブサイトにおける掲載、(3)翻訳の各形態で本著作物を利⽤することを許諾してはならない。
著作者⼈格権とは、著作者の精神的利益を守る、著作者のみが持っている権利です。財産権としての著作権とは異なり、譲渡や相続の対象となりません。
したがって、その著作物の著作権を著作者が持つ場合はもちろんのこと、依頼者に譲渡される場合でも、著作者⼈格権は著作者が有することになります。著作物の利⽤に関し、著作者⼈格権の問題が⽣じる可能性がある場合は、この点を意識した契約書を作成する必要があります。
① 同⼀性保持権
無断で著作物の内容や題号を改変すると同⼀性保持権の侵害になります。例えば、送り仮名の変更、「てにをは」等の変更、仮名遣いの変更、改⾏位置の改変であっても、同⼀性保持権の問題が⽣じる可能性があります。
そのため、改変する場合にはあらかじめ著作者の確認を必要とすることを念のために規定したり、⼀定の場合には著作者の確認なしに改変できることを規定したりすることがあります。
② ⽒名表⽰権
著作物を利⽤するときには、その著作者名を表⽰する必要がありますが、あらかじめどのような著作者名を付せばよいか(本名なのかペンネームなのか)を契約書で定めておくとよいでしょう。著作者名を付さなくてよい場合には、その旨を契約書に明⽰しておきましょう。
③ 公表権
著作権法では、著作者に「公表権」が認められています。具体的な公表の時期や⽅法については、明確にしておくことが⼤切です。どのタイミングで著作物を公表するかについては、利⽤許諾契約の場合は、契約内容のところで併せて規定することができます。
著作者が、公表時期について、特段の指定をせず、利⽤者に任せる場合は、公表については契約書に記載しないことも多いと思われますが、利⽤者に委ねることを明確にするためその旨を契約書に明記することもあります。
第3節 原稿の執筆
規定例(変更のつど承諾を要し、かつ、⽒名表⽰を要する場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 ⼄は、本著作物を改変する場合、事前に甲の承諾を得なければならない。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、次のとおり著作者名を表⽰する。
・○○○○
3 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
規定例(⼀定範囲での変更を認め、かつ、⽒名表⽰を要しない場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 甲は、⼄が本著作物を利⽤するにあたり、その利⽤態様に応じて本著作物を変更したり、⼀部を切除したりすることを予め承諾する。ただし、⼄は、これらの改変であっても本著作物の本質的部分を損なうことが明らかな改変をすることはできない。
2 ⼄は、前項以外の改変を⾏う場合は、事前に甲の承諾を得なければならない。
3 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、著作者名の表⽰をすることを要しない。
4 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
なお、納品された著作物を円滑に利⽤するため、依頼者から著作者に著作者⼈格権を⾏使しないよう求められる場合があります。
著作者としては、著作者⼈格権を⾏使しないことにしてしまうと、依頼者が著作物を改変、修正した場合や著作者の⽒名を表⽰しなかった場合でも、異議を述べることができないといった不利益が⽣じるため、注意が必要です。
第6条(保証)
納⼊された著作物が他⼈の著作権やプライバシー権等を侵害しているような場合、これを実際に利⽤する依頼者が、著作権侵害等を理由に権利者から損害賠償等の責任追及を受ける⽴場になります。このため、著作物の制作委託契約においては、著作者が著作物について他⼈の権利を侵害していないことを保証する条項を設けることがあります。トラブルへの対処について規定する場合もあります。
もっとも、このような条項を設けた場合、著作者に対して契約違反の責任をとってもらうことができるようになるだけで、著作権やプライバシー権侵害の被害者に対する責任がなくなるわけではないので、注意が必要です。
規定例(基本)
第○条(保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
第3節 原稿の執筆
規定例(トラブルへの対処について規定する場合)
第○条(保証)
1 甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
2 万⼀、本著作物に関して、第三者から権利の主張、異議、苦情、対価の請求、損害賠償の請求等がなされた場合、甲は⾃らの責任と費⽤負担においてこれを処理解決するものとし、⼄に⼀切の迷惑損害を及ぼさないものとする。
第7条(対価)
著作物を創作してもらう契約における「対価」には、以下の内容が含まれています。
・創作作業への対価(作業料)
・(著作者から著作物の利⽤の了解を得る場合)著作物の利⽤許諾の対価
・(著作者から著作権の譲渡を受ける場合)著作権の譲渡の対価
対価の⽀払い⽅法には様々な⽅法がありますが、対価が著作権の譲渡に対する対価を含む場合は、創作業務に対する対価がいくらで、著作権の譲渡に対する対価がいくらかという内訳を明記した⽅が望ましいといえます。
対価が利⽤許諾に対する対価を含む場合は、創作業務に対する対価がいくらで、著作物の利⽤許諾に対する対価がいくらかという内訳を明記するのがよいでしょう。印税のように個別の結果に応じて対価を算定する⽅法もあります。
規定例(⼀括払い・利⽤許諾の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物の利⽤許諾の対価として、⾦○万円(消費税込み)を、
○○年○⽉○⽇までに⽀払う。
規定例(⼀括払い・著作権譲渡の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物に関する著作権譲渡の対価として、⾦○万円(消費税別途)を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振り込み⼿数料は
⼄の負担とする。なお、対価の内訳は、以下のとおりとする。
⾦△万円︓本著作物創作業務に対する対価
⾦□万円︓本著作物に関する著作権譲渡の対価
第3節 原稿の執筆
規定例(複合⽅式・利⽤許諾の⼀例)
第○条(対価)
1 ⼄は、甲に対し、本著作物の創作業務の対価として、⾦○万円を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
2 ⼄は、甲に対し、本著作物の利⽤許諾の対価として、以下の算式で算定される⾦額を⽀払うものとする。
本件書籍の消費税を含まない本体価格(△△円)× 発⾏部数 × □%
3 前項の対価は、毎年3 ⽉末⽇、9 ⽉末⽇を締め⽇として、締め⽇から30 ⽇以内に、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
※著作物が掲載される印刷物を「本件書籍」と定義しています。
▶ 注意点
報酬の⽀払いについては、消費税を含む⾦額かどうか、また所得税は源泉徴収して⽀払うのかどうかを明らかにしておきましょう。
振込の場合は、振込⼿数料を誰が負担するかについても明記するようにしましょう。
第8条(その他)
特に、契約書に記載されていない利⽤を⾏う場合などは、あらためて著作者の了解を得る必要があり、このことを確認するため、このような場合は別途協議する旨の条項を設けることがあります。
その他、契約書には、契約期間に関する条項、中途解約に関する条項、契約変更に関する条項、契約解除に関する条項、秘密保持に関する条項、権利義務の譲渡等禁⽌条項、合意管轄に関する条項等を置くことがあります。これらの条項例は、第1章の「2 契約書に定められる条項の⼀例」<p.4参照> をご参照ください。
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)
1 対象
この節では、以下に⽰すように、イラストの作成を依頼する/される場合の著作権に関する契約書について説明します。例えば、無料パンフレットに掲載するイラストの制作をイラストレーターに依頼するような場合を想定しています。
2 契約書例
収⼊印紙の貼付が必要な場合にはこの場所に貼付してください。
契 約 書
(以下「甲」という。)と (以下「⼄」という。)とは、イラスト作成業務の委託に関し、以下のとおり契約を締結する。
第1条 (委託)
⼄は、甲に対し、以下のイラスト(以下「本著作物」という。)の作成を委託し、甲はこれを受託した。
(1)テーマ︓
(2)サイズ︓
第2条 (納⼊)
1 甲は⼄に対し、本著作物を以下の形式により、 年 ⽉ ⽇までに、⼄に対して納⼊する。
・
2 ⼄は、前項の納⼊を受けた後速やかに納⼊物を検査し、納⼊物に契約不適合がある場合や、⼄の企画意図に合致しない場合は、その旨甲に通知し、当該通知を受けた甲は、速やかに⼄の指⽰に従った対応をする。
3 ⼄は、納⼊物を、利⽤が終わり次第速やかに甲に返却する。
第3条 (権利の帰属)
本著作物の著作権は甲に帰属する。
第4条 (利⽤許諾)
甲は⼄に対し、本著作物を、下記形態で利⽤することを許諾する。
(1)印刷物への利⽤
●前⽂
(「甲」は制作者、「⼄」は依頼者です。)
●委託
→ p.43
●納⼊
→ p.43
検査条項
納⼊物の所有権遵守事項
●権利の帰属
→ p.44
●利⽤許諾
→ p.45
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)
名称︓広報○○○○、部数︓ 部名称︓ 、部数︓ 部名称︓ 、部数︓ 部
(2)ウェブサイトにおける掲載
サイト名︓○○社公式サイト
掲載期間︓ 年 ⽉ ⽇から 年 ⽉ ⽇まで
第5条 (著作者⼈格権)
1 ⼄が本著作物の内容・表現⼜はその題号に変更を加える場合(拡⼤、縮⼩、⾊調の変更等も含む。)には、あらかじめ甲の承諾を必要とする。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、以下のとおり著作者名の表⽰をしなければならない。
・
第6条 (保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害しないものであることを保証する。
第7条 (対価)
⼄は、甲に対し、イラスト作成業務及び本著作物の利⽤許諾の対価、その他本契約に基づく⼀切の対価として、⾦ 円(消費税込み)を、 年 ⽉ ⽇までに⽀払う。
報酬・対価に係る消費税や所得税(源泉徴収)については、⽀払いの相⼿⽅や報酬・対価の額などによって取り扱いが異なりますので、必要に応じ税の専⾨家に相談してください。
第8条 (その他)
本契約に定めのない利⽤態様については、甲⼄別途協議の上、利⽤の可否、対価等につき決するものとする。
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲⼄記名捺印の上、各⾃1通を保持する。
●著作者⼈格権
→ p.46
同⼀性保持権
⽒名表⽰権
公表権
●保証
→ p.47
●対価
→ p.48
●その他
→ p.49
●後⽂
年 ⽉ ⽇
甲 住所
⽒名 印
⼄ 住所
⽒名 印
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)
3 契約書作成の留意点
第1条(委託)
著作物の創作を依頼するなど他⼈に⼀定の仕事を依頼する契約では、依頼する仕事の内容(イラストのイメージ・テーマ、イラストの⼤きさ等)を特定することが重要です。
第2条(納⼊)
この契約は、依頼を受けた者は依頼者に対して仕事を完成(著作物の創作)することを約束し、依頼者は成果物(著作物)を完成させたことに対して報酬を⽀払うことを約束する契約です。したがって、成果物をいつまでに完成し、完成した成果物をどのような⽅法で依頼者に納⼊するかについて定めておくことが必要です。
納期は年⽉⽇で明⽰する⽅法や、⼀定の期間を定めて⽰す⽅法(例えば、「契約締結後3か⽉以内」と規定する場合)が考えられます。
成果物の納⼊⽅法も具体的に定めておいた⽅がよいでしょう。例えば、電⼦メールでのデータ
送信・ファイル転送、データCD等の持参・郵送、キャンバス・紙等の持参・郵送等です。
① 検査条項
「著作物の創作」のように、ある仕事を完成させることを契約の⽬的とする契約においては、納⼊された成果物によって「仕事の完成」があったと評価してよいかどうかについて依頼者側が検査する必要があります(例えば、パンフレットに掲載するイラストの作成を依頼した契約で、全く関係のない⾵景画を描いても、仕事を完成したことにはなりません。)。そこで、この納品検査の⽅法等について契約で定めておくことが必要です。
② 納⼊物の所有権
イラスト作成を依頼する契約において、電⼦データ形式で納⼊する場合は、成果物の所有権が
問題になることはありません。
ただし、成果物の記録媒体(例えば⼿描き原稿等)によっては、オリジナルのイラスト⾃体(⾃筆)が財産的な価値を持つことがあるため注意が必要です。所有権は、そのまま⾃然に依頼者に移転する、ということにはならないため、契約で決めておかないと、後⽇、成果物の所有権を巡って争いが⽣じる危険があります。依頼者において成果物の所有権を取得したい場合や、著作者において成果物の所有権を保有しておく必要がある場合は、特に成果物の所有権の帰属を契約書に明確に定めておく必要があるでしょう。
③ 遵守事項
成果物の完成までに⻑期間を要するような場合には、仕事の進捗状況を管理するための条項や、
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)
依頼者の指⽰に関する条項を設けることがあります。
規定例
第○条(遵守事項)
1 甲は、⼄の企画意図を理解、尊重し、適宜⼄の指⽰に従うものとし、⼄は、甲に対し、適宜企画意図に合致させるために本著作物の修正を求めることができる。ただし、甲の本契約に基づく業務を不当に遅延させてはならない。
2 甲は、⼄から要求があったときは、⼄に対し、適宜、本著作物に関する業務の進捗状況その他制作に関する事項を報告しなければならない。
著作権法では、現実に著作物を創作した⼈(イラストレーター)が著作者となり、その著作者が著作権を持つものと定められています。依頼者が報酬を⽀払ったからといって、それだけで著作権を取得することにはなりません。
依頼者が著作物を利⽤するためには、著作権者からその利⽤について了解を得るか、⼜はその利⽤に関する著作権を譲り受ける必要があり、これらについて契約書で定めることが必要です。著作権を誰が持つかを巡って後に争いが⽣じないよう、契約書で著作権の所在を確認しておくことが重要です。
● 依頼者に著作権を譲渡する場合
著作権は、⾃由に譲渡することができるため、契約で、依頼者がその著作物の著作権を著作者より譲り受けることもできます。著作権の譲渡を受けると、依頼者としては、その著作物を⾃由に利⽤できるだけでなく、その著作物を他⼈が利⽤することも制限できるようになるというメリットがあります。
しかし、逆に著作者にとっては、著作権を譲渡してしまうと、その後は、譲渡先の許諾を得ない限り、著作者⾃⾝が様々な活動をする際に必要となっても(例えば、その著作物をインターネットで公開したり、ポートフォリオとして紹介したりするような場合でも)、その著作物を利⽤することができなくなりますし、類似の著作物を作ることが制約されてしまう(依頼者に譲渡した著作権を侵害する可能性がある)というデメリットも⽣じます。著作権を譲渡する契約を結ぶ場合には、このような著作者のデメリットに配慮して、これを調整する規定(例えば、著作者⾃⾝の利⽤を認める規定や、著作者が類似の著作物を創作することを認める規定等)を置くことも⼀つの⽅法として考えられます。
その他、著作権の譲渡に際しては、譲渡する場合の対価の妥当性も含め、当事者間で⼗分に検討する必要があります。
(以下の規定例〔著作権の移転〕の場合は契約書例の第3条と差し替えることになり、契約書例第
4条は不要となります。)
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)
規定例
第○条(著作権の移転)
本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
規定例(著作者による利⽤を認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を利⽤することを認める。
規定例(著作者による利⽤⽅法を指定して認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を以下の⽅法で利⽤することを認める。
① 甲が⾃⾝の制作活動を実施する際に必要となる場合
② 甲が営利を⽬的とせずに本著作物を利⽤する場合
③ その他⼄が特に認めた場合
▶ 注意点
著作権を譲渡する契約において、⼆次的著作物を創作する権利(著作権法第27条)及び⼆次的著作物を利
⽤する権利(著作権法第28条)を譲渡の対象として明記しないときは、これらの権利は譲渡の対象としなか
ったという推定を受けます。
複製権、譲渡権など個別の権利単位で著作権を譲渡することも可能です。その場合、依頼者側は、譲り受ける権利の範囲によって著作物の利⽤⽬的を達成できるかどうかを慎重に検討する必要があります。
他⽅、著作者側はこれらの権利が譲渡の対象となると、その後、類似の著作物(⼆次的著作物)が創作で
きなくなってしまうので、作品の性質に応じて、譲渡するのかどうかを慎重に検討する必要があります。
第4条(利⽤許諾)
著作権が著作者に帰属する場合、依頼者が著作物を利⽤するためには、著作権者である著作者から、著作物の利⽤に関する了解を得なくてはなりません。利⽤する態様は、なるべく具体的にわかりやすく記載してください。契約書例では印刷物への利⽤、ウェブサイトにおける掲載を想定しています。
● 独占的利⽤許諾
依頼者がその著作物を独占的に利⽤したい場合(著作権者が依頼者以外の者に対してその著作物の利⽤を了解することを制限したいとき)は、その旨を契約で定めておく必要があります。
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)
規定例
第○条(独占的利⽤許諾)
前条の許諾は、独占的なものとし、甲は、⼄以外の第三者に対し、(1)印刷物における複製、販売、(2)ウェブサイトにおける掲載の各形態で本著作物を利⽤することを許諾してはならない。
著作者⼈格権とは、著作者の精神的利益を守る、著作者のみが持っている権利です。財産権としての著作権とは異なり、譲渡や相続の対象となりません。
したがって、その著作物の著作権を著作者が持つ場合はもちろんのこと、依頼者に譲渡される場合でも、著作者⼈格権は著作者が有することになります。著作物の利⽤に関し、著作者⼈格権の問題が⽣じる可能性がある場合は、この点を意識した契約書を作成する必要があります。
① 同⼀性保持権
無断で著作物の内容や題号を改変すると同⼀性保持権の侵害になります。例えば、サイズの変更、⾊調の変更、縦横⽐の変更、⼀部切除等のような改変であっても、同⼀性保持権の問題が⽣じる可能性があります。
そのため、改変する場合にはあらかじめ著作者の確認を必要とすることを念のために規定したり、⼀定の場合には著作者の確認なしに改変できることを規定したりすることがあります。
② ⽒名表⽰権
著作物を利⽤するときには、その著作者名を表⽰する必要がありますが、あらかじめどのような著作者名を付せばよいか(本名なのかペンネームなのか)を契約書で定めておくとよいでしょう。著作者名を付さなくてよい場合には、その旨を契約書に明⽰しておきましょう。
③ 公表権
著作権法では、著作者に「公表権」が認められています。具体的な公表の時期や⽅法については、明確にしておくことが⼤切です。どのタイミングで著作物を公表するかについては、利⽤許諾契約の場合は、契約内容のところで併せて規定することができます。
著作者が、公表時期について、特段の指定をせず、利⽤者に任せる場合は、公表については契約書に記載しないことも多いと思われますが、利⽤者に委ねることを明確にするためその旨を契約書に明記することもあります。
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)
規定例(変更のつど承諾を要し、かつ、⽒名表⽰を要する場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 ⼄は、本著作物を改変する場合、事前に甲の承諾を得なければならない。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、次のとおり著作者名を表⽰する。
・○○○○
3 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
規定例(⼀定範囲での変更を認め、かつ、⽒名表⽰を要しない場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 甲は、⼄が本著作物を利⽤するにあたり、その利⽤態様に応じて本著作物を変更したり、⼀部を切除したりすることを予め承諾する。ただし、⼄は、これらの改変であっても本著作物の本質的部分を損なうことが明らかな改変をすることはできない。
2 ⼄は、前項以外の改変を⾏う場合は、事前に甲の承諾を得なければならない。
3 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、著作者名の表⽰をすることを要しない。
4 甲⼄は、本著作物の公表⽇を○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
なお、納品された著作物を円滑に利⽤するため、依頼者から著作者に著作者⼈格権を⾏使しないよう求められる場合があります。
著作者としては、著作者⼈格権を⾏使しないことにしてしまうと、依頼者が著作物を改変、修正した場合や著作者の⽒名を表⽰しなかった場合でも、異議を述べることができないといった不利益が⽣じるため、注意が必要です。
第6条(保証)
納⼊された著作物が他⼈の著作権やプライバシー権等を侵害しているような場合、これを実際に利⽤する依頼者が、著作権侵害等を理由に権利者から損害賠償等の責任追及を受ける⽴場になります。このため、著作物の制作委託契約においては、著作者が著作物について他⼈の権利を侵害していないことを保証する条項を設けることがあります。トラブルへの対処について規定する場合もあります。
もっとも、このような条項を設けた場合、著作者に対して契約違反の責任をとってもらうことができるようになるだけで、著作権やプライバシー権侵害の被害者に対する責任がなくなるわけではないので、注意が必要です。
規定例(基本)
第○条(保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)
規定例(トラブルへの対処について規定する場合)
第○条(保証)
1 甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
2 万⼀、本著作物に関して、第三者から権利の主張、異議、苦情、対価の請求、損害賠償の請求等がなされた場合、甲は⾃らの責任と費⽤負担においてこれを処理解決するものとし、⼄に⼀切の迷惑損害を及ぼさないものとする。
第7条(対価)
著作物を創作してもらう契約における「対価」には、以下の内容が含まれています。
・創作作業への対価(作業料)
・(著作者から著作物の利⽤の了解を得る場合)著作物の利⽤許諾の対価
・(著作者から著作権の譲渡を受ける場合)著作権の譲渡の対価
対価の⽀払い⽅法には様々な⽅法がありますが、対価が著作権の譲渡に対する対価を含む場合は、創作業務に対する対価がいくらで、著作権の譲渡に対する対価がいくらかという内訳を明記した⽅が望ましいといえます。
対価が利⽤許諾に対する対価を含む場合は、創作業務に対する対価がいくらで、著作物の利⽤許諾に対する対価がいくらかという内訳を明記するのがよいでしょう。印税のように個別の結果に応じて対価を算定する⽅法もあります。
規定例(⼀括払い・利⽤許諾の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物の利⽤許諾の対価として、⾦○万円(消費税込み)を、
○○年○⽉○⽇までに⽀払う。
規定例(⼀括払い・著作権譲渡の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物に関する著作権譲渡の対価として、⾦○万円(消費税別途)を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振り込み⼿数料は
⼄の負担とする。なお、対価の内訳は、以下のとおりとする。
⾦△万円︓本著作物創作業務に対する対価
⾦□万円︓本著作物に関する著作権譲渡の対価
第4節 イラストの作成(ポスター・パンフレットなどの作成)
規定例(複合⽅式・利⽤許諾の⼀例)
第○条(対価)
1 ⼄は、甲に対し、本著作物の創作業務の対価として、⾦○万円を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
2 ⼄は、甲に対し、本著作物の利⽤許諾の対価として、以下の算式で算定される⾦額を⽀払うものとする。
本件書籍の消費税を含まない本体価格(△△円)× 使⽤⾴/全⾴ × 発⾏部数× □%
3 前項の対価は、毎年3 ⽉末⽇、9 ⽉末⽇を締め⽇として、締め⽇から30 ⽇以内に、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
※著作物が掲載される印刷物を「本件書籍」と定義しています。
▶ 注意点
報酬の⽀払いについては、消費税を含む⾦額かどうか、また所得税は源泉徴収して⽀払うのかどうかを明らかにしておきましょう。
振込の場合は、振込⼿数料を誰が負担するかについても明記するようにしましょう。
第8条(その他)
特に、契約書に記載されていない利⽤を⾏う場合などは、あらためて著作者の了解を得る必要があり、このことを確認するため、このような場合は別途協議する旨の条項を設けることがあります。
その他、契約書には、契約期間に関する条項、中途解約に関する条項、契約変更に関する条項、契約解除に関する条項、秘密保持に関する条項、権利義務の譲渡等禁⽌条項、合意管轄に関する条項等を置くことがあります。これらの条項例は、第1章の「2 契約書に定められる条項の⼀例」<p.4参照> をご参照ください。
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
1 対象
この節では、以下に⽰すように、映像の制作を依頼する/される場合の著作権に関する契約書について説明します。例えば、会社のイメージ映像をフリーの映像作家に依頼した場合を想定しています。なお、この契約書は、制作者である映像作家が著作権及び著作者⼈格権を有していることを前提としています。制作者のほかに、著作者と評価される⼈(監督、演出等を担当し映像著作物の全体的形成に寄与したと評価される⼈)がいる場合には適宜修正が必要となります。
2 契約書例
収⼊印紙の貼付が必要な場合にはこの場所に貼付してください。
契 約 書
(以下「甲」という。)と (以下「⼄」という。)とは、映像制作業務の委託に関し、以下のとおり契約を締結する。
第1条 (委託)
⼄は、甲に対し、以下の映像著作物(以下「本著作物」という。)の制作を委託し、甲はこれを受託した。
(1)タイトル︓
(2)テーマ︓
(3)映像種別︓
(4)収録時間︓
第2条 (納⼊)
1 甲は、⼄に対し、 年 ⽉ ⽇までに、本著作物を以下の⽅法で納⼊する。
・納⼊形式︓
・納⼊個数︓ 個
2 ⼄は、前項の納⼊を受けた後速やかに納⼊物を検査し、納⼊物に契約不適合がある場合や、⼄の企画意図に合致しない場合は、その旨甲に通知し、当該通知を受けた甲は、速やかに⼄の指⽰に従った対応をする。
3 ⼄は、納⼊物を、利⽤が終わり次第速やかに甲に返却する。
第3条 (権利の帰属)
本著作物の著作権は甲に帰属する。
●前⽂
(「甲」は制作者、「⼄」は依頼者です。)
●委託
→ p.52
●納⼊
→ p.52
検査条項
納⼊物の所有権遵守事項
●権利の帰属
→ p.53
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
第4条 (利⽤許諾)
甲は⼄に対し、本著作物を下記形態で利⽤することを許諾する。
(1)上映
上映場所︓
上映期間︓ 年 ⽉ ⽇から 年 ⽉ ⽇まで
(2)ウェブサイトにおける掲載
サイト名︓○○社公式サイト
掲載期間︓ 年 ⽉ ⽇から 年 ⽉ ⽇まで
(3)その他
その他︓
第5条 (著作者⼈格権)
1 ⼄が本著作物の内容・表現⼜はその題号に変更を加える場合(拡⼤、縮⼩、⾊調の変更等も含む。)には、あらかじめ甲の承諾を必要とする。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、以下のとおり著作者名の表⽰をしなければならない。
・
第6条 (保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害しないものであることを保証する。
第7条 (対価)
⼄は、甲に対し、映像制作業務及び本著作物の利⽤許諾の対価、その他本契約に基づく
⼀切の対価として、⾦ 円(消費税込み)を、 年 ⽉ ⽇までに
⽀払う。
報酬・対価に係る消費税や所得税(源泉徴収)については、⽀払いの相⼿⽅や報酬・対価の額などによって取り扱いが異なりますので、必要に応じ税の専⾨家に相談してください。
第8条 (その他)
本契約に定めのない利⽤態様については、甲⼄別途協議の上、利⽤の可否、対価等につき決するものとする。
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲⼄記名捺印の上、各⾃1通を保持する。
●利⽤許諾
→ p.54
●著作者⼈格権
→ p.55
同⼀性保持権
⽒名表⽰権
公表権
●保証
→ p.56
●対価
→ p.57
●その他
→ p.58
●後⽂
年 ⽉ ⽇
甲 住所
⽒名 印
⼄ 住所
⽒名 印
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
3 契約書作成の留意点
第1条(委託)
著作物の創作を依頼するなど他⼈に⼀定の仕事を依頼する契約では、依頼する仕事の内容(映像のテーマ・対象、タイトル、映像種別、収録時間等)を特定することが重要です。
第2条(納⼊)
この契約は、依頼を受けた者は依頼者に対して仕事を完成(著作物の創作)することを約束し、依頼者は成果物(著作物)を完成させたことに対して報酬を⽀払うことを約束する契約です。したがって、成果物をいつまでに完成し、完成した成果物をどのような⽅法で依頼者に納⼊するかについて定めておくことが必要です。
納期は年⽉⽇で明⽰する⽅法や、⼀定の期間を定めて⽰す⽅法(例えば、「契約締結後3か⽉以内」と規定する場合)が考えられます。
成果物の納⼊⽅法も具体的に定めておいた⽅がよいでしょう。例えば、電⼦データのファイル
転送、データDVD等の持参・郵送、あるいは映像テープ等の持参・郵送等です。
① 検査条項
「著作物の創作」のように、ある仕事を完成させることを契約の⽬的とする契約においては、納⼊された成果物によって「仕事の完成」があったと評価してよいかどうかについて依頼者側が検査する必要があります(例えば、会社のイメージ映像の制作を依頼した契約で、テーマと無関係の映像を制作しても、仕事を完成したことにはなりません。)。そこで、この納品検査の⽅法等について契約で定めておくことが必要です。
② 納⼊物の所有権
映像制作を依頼する契約において、電⼦データ形式で納⼊する場合は、成果物の所有権が問題になることはありません。
ただし、成果物の記録媒体(映像テープ等)によっては、媒体それ⾃体が財産的な価値を持つことがあるため注意が必要です。所有権は、そのまま⾃然に依頼者に移転する、ということにはならないため、契約で決めておかないと、後⽇、成果物の所有権を巡って争いが⽣じる危険があります。依頼者において成果物の所有権を取得したい場合や、著作者において成果物の所有権を保有しておく必要がある場合は、特に成果物の所有権の帰属を契約書に明確に定めておく必要があるでしょう。
③ 遵守事項
成果物の完成までに⻑期間を要するような場合には、仕事の進捗状況を管理するための条項や、
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
依頼者の指⽰に関する条項を設けることがあります。
規定例
第○条(遵守事項)
1 甲は、⼄の企画意図を理解、尊重し、適宜⼄の指⽰に従うものとし、⼄は、甲に対し、適宜企画意図に合致させるために本著作物の修正を求めることができる。ただし、甲の本契約に基づく業務を不当に遅延させてはならない。
2 甲は、⼄から要求があったときは、⼄に対し、適宜、本著作物に関する業務の進捗状況その他制作に関する事項を報告しなければならない。
著作権法では、現実に著作物を創作した⼈(制作者)が著作者となり、その著作者が著作権を持つものと定められています。依頼者が報酬を⽀払ったからといって、それだけで著作権を取得することにはなりません。
依頼者が著作物を利⽤するためには、著作権者からその利⽤について了解を得るか、⼜はその利⽤に関する著作権を譲り受ける必要があり、これらについて契約書で定めることが必要です。著作権を誰が持つかを巡って後に争いが⽣じないよう、契約書で著作権の所在を確認しておくことが重要です。
● 依頼者に著作権を譲渡する場合
著作権は、⾃由に譲渡することができるため、契約で、依頼者がその著作物の著作権を著作者より譲り受けることもできます。著作権の譲渡を受けると、依頼者としては、その著作物を⾃由に利⽤できるだけでなく、その著作物を他⼈が利⽤することも制限できるようになるというメリットがあります。
しかし、逆に著作者にとっては、著作権を譲渡してしまうと、その後は、譲渡先の許諾を得ない限り、著作者⾃⾝が様々な活動をする際に必要となっても(例えば、その著作物をインターネットで公開したり、⼀部分を上映したりするような場合でも)、その著作物を利⽤することができなくなりますし、類似の著作物を作ることが制約されてしまう(依頼者に譲渡した著作権を侵害する可能性がある)というデメリットも⽣じます。著作権を譲渡する契約を結ぶ場合には、このような著作者のデメリットに配慮して、これを調整する規定(例えば、著作者⾃⾝の利⽤を認める規定や、著作者が類似の著作物を創作することを認める規定等)を置くことも⼀つの⽅法として考えられます。
その他、著作権を譲渡するに際しては、譲渡する場合の対価の妥当性も含め、当事者間で⼗分に検討する必要があります。
(以下の規定例〔著作権の移転〕の場合は契約書例の第3条と差し替えることになり、契約書例第
4条は不要となります。)
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
規定例
第○条(著作権の移転)
本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
規定例(著作者による利⽤を認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を利⽤することを認める。
規定例(著作者による利⽤⽅法を指定して認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を以下の⽅法で利⽤することを認める。
① 甲が⾃⾝の制作活動を実施する際に必要となる場合
② 甲が営利を⽬的とせずに本著作物を利⽤する場合
③ その他⼄が特に認めた場合
▶ 注意点
著作権を譲渡する契約において、⼆次的著作物を創作する権利(著作権法第27条)及び⼆次的著作物を利
⽤する権利(著作権法第28条)を譲渡の対象として明記しないときは、これらの権利は譲渡の対象としなか
ったという推定を受けます。
複製権、譲渡権など個別の権利単位で著作権を譲渡することも可能です。その場合、依頼者側は、譲り受ける権利の範囲によって著作物の利⽤⽬的を達成できるかどうかを慎重に検討する必要があります。
他⽅、著作者側はこれらの権利が譲渡の対象となると、その後、類似の著作物(⼆次的著作物)が創作で
きなくなってしまうので、作品の性質に応じて、譲渡するのかどうかを慎重に検討する必要があります。
第4条(利⽤許諾)
著作権が著作者に帰属する場合、依頼者がその著作物を利⽤するためには、著作権者である著作者から、著作物の利⽤に関する了解を得なくてはなりません。利⽤する態様は、なるべく具体的にわかりやすく記載してください。契約書例では、上映とウェブサイトにおける掲載を想定しています。
● 独占的利⽤許諾
依頼者がその著作物を独占的に利⽤したい場合(著作権者が依頼者以外の者に対してその著作物の利⽤を了解することを制限したいとき)は、その旨を契約で定めておく必要があります。
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
規定例
第○条(独占的利⽤許諾)
前条の許諾は、独占的なものとし、甲は、⼄以外の第三者に対し、(1)上映、(2)ウェブサイトにおける掲載の各形態で本著作物を利⽤することを許諾してはならない。
著作者⼈格権とは、著作者の精神的利益を守る、著作者のみが持っている権利です。財産権としての著作権とは異なり、譲渡や相続の対象となりません。
したがって、その著作物の著作権を著作者が持つ場合はもちろんのこと、依頼者に譲渡される場合でも、著作者⼈格権は著作者が有することになります。著作物の利⽤に関し、著作者⼈格権の問題が⽣じる可能性がある場合は、この点を意識した契約書を作成する必要があります。
① 同⼀性保持権
無断で著作物の内容や題号を改変すると同⼀性保持権の侵害になります。例えば、サイズの変更、⾊調の変更、縦横⽐の変更、⼀部切除等のような改変であっても、同⼀性保持権の問題が⽣じる可能性があります。
そのため、改変する場合にはあらかじめ著作者の確認を必要とすることを念のために規定したり、⼀定の場合には著作者の確認なしに改変できることを規定したりすることがあります。
② ⽒名表⽰権
著作物を利⽤するときには、その著作者名を表⽰する必要がありますが、あらかじめどのような著作者名を付せばよいか(本名なのかペンネームなのか)を契約書で定めておくとよいでしょう。著作者名を付さなくてよい場合には、その旨を契約書に明⽰しておきましょう。
③ 公表権
著作権法では、著作者に「公表権」が認められています。具体的な公表の時期や⽅法については、明確にしておくことが⼤切です。どのタイミングで著作物を公表するかについては、利⽤許諾契約の場合は、契約内容のところで併せて規定することができます。
著作者が、公表時期について、特段の指定をせず、利⽤者に任せる場合は、公表については契約書に記載しないことも多いと思われますが、利⽤者に委ねることを明確にするためその旨を契約書に明記することもあります。
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
規定例(変更のつど承諾を要し、かつ、⽒名表⽰を要する場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 ⼄は、本著作物を改変する場合、事前に甲の承諾を得なければならない。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、次のとおり著作者名を表⽰する。
・○○○○
3 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
規定例(⼀定範囲での変更を認め、かつ、⽒名表⽰を要しない場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 甲は、⼄が本著作物を利⽤するにあたり、その利⽤態様に応じて本著作物を変更したり、⼀部を切除することを予め承諾する。ただし、⼄は、これらの改変であっても本著作物の本質的部分を損なうことが明らかな改変をすることはできない。
2 ⼄は、前項以外の改変を⾏う場合は、事前に甲の承諾を得なければならない。
3 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、著作者名の表⽰をすることを要しない。
4 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
なお、納品された著作物を円滑に利⽤するため、依頼者から著作者に著作者⼈格権を⾏使しないよう求められる場合があります。
著作者としては、著作者⼈格権を⾏使しないことにしてしまうと、依頼者が著作物を改変、修正した場合や著作者の⽒名を表⽰しなかった場合でも、異議を述べることができないといった不利益が⽣じるため、注意が必要です。
第6条(保証)
納⼊された著作物が他⼈の著作権やプライバシー権等を侵害しているような場合、これを実際に利⽤する依頼者が、著作権侵害等を理由に権利者から損害賠償等の責任追及を受ける⽴場になります。このため、著作物の制作委託契約においては、著作者が著作物について他⼈の権利を侵害していないことを保証する条項を設けることがあります。トラブルへの対処について規定する場合もあります。
もっとも、このような条項を設けた場合、著作者に対して契約違反の責任をとってもらうことができるようになるだけで、著作権やプライバシー権侵害の被害者に対する責任がなくなるわけではないので、注意が必要です。
規定例(基本)
第○条(保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
規定例(トラブルへの対処について規定する場合)
第○条(保証)
1 甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
2 万⼀、本著作物に関して、第三者から権利の主張、異議、苦情、対価の請求、損害賠償の請求等がなされた場合、甲は⾃らの責任と費⽤負担においてこれを処理解決するものとし、⼄に⼀切の迷惑損害を及ぼさないものとする。
第7条(対価)
著作物を創作してもらう契約における「対価」には、以下の内容が含まれています。
・創作作業への対価(作業料)
・(著作者から著作物の利⽤の了解を得る場合)著作物の利⽤許諾の対価
・(著作者から著作権の譲渡を受ける場合)著作権の譲渡の対価
対価の⽀払い⽅法には様々な⽅法がありますが、対価が著作権の譲渡に対する対価を含む場合、創作業務に対する対価がいくらで、著作権の譲渡に対する対価がいくらかという内訳を明記した
⽅が望ましいといえます。
対価が利⽤許諾に対する対価を含む場合は、創作業務に対する対価がいくらで、著作物の利⽤許諾に対する対価がいくらかという内訳を明記するのがよいでしょう。視聴数のように個別の結果に応じて対価を算定する⽅法もあります。
規定例(⼀括払い・利⽤許諾の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物の利⽤許諾の対価として、⾦○万円(消費税込み)を、
○○年○⽉○⽇までに⽀払う。
規定例(⼀括払い・著作権譲渡の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物に関する著作権譲渡の対価として、⾦○万円(消費税別途)を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振り込み⼿数料は
⼄の負担とする。なお、対価の内訳は、以下のとおりとする。
⾦△万円︓本著作物創作業務に対する対価
⾦□万円︓本著作物に関する著作権譲渡の対価
第5節 ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修⽤の映像等)の作成
規定例(複合⽅式・利⽤許諾・公衆送信の⼀例)
第○条(対価)
1 ⼄は、甲に対し、本著作物の創作業務の対価として、⾦○万円を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
2 ⼄は、甲に対し、本著作物の利⽤許諾の対価として、以下の算式で算定される⾦額を⽀払うものとする。
インターネットにて提供する場合の本体価格(△△円)× 視聴数× □%
3 前項の対価は、毎年3 ⽉末⽇、9 ⽉末⽇を締め⽇として、締め⽇から30 ⽇以内に、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
▶ 注意点
報酬の⽀払いについては、消費税を含む⾦額かどうか、また所得税は源泉徴収して⽀払うのかどうかを明らかにしておきましょう。
振込の場合は、振込⼿数料を誰が負担するかについても明記するようにしましょう。
第8条(その他)
特に、契約書に記載されていない利⽤を⾏う場合などは、あらためて著作者の了解を得る必要があり、このことを確認するため、このような場合は別途協議する旨の条項を設けることがあります。
その他、契約書には、契約期間に関する条項、中途解約に関する条項、契約変更に関する条項、契約解除に関する条項、秘密保持に関する条項、権利義務の譲渡等禁⽌条項、合意管轄に関する条項等を置くことがあります。これらの条項例は、第1章の「2 契約書に定められる条項の⼀例」<p.4参照> をご参照ください。
第6節 写真の撮影
1 対象
この節では、以下に⽰すように、写真の撮影を依頼する/される場合の著作権に関する契約書について説明します。例えば、パンフレットに掲載する写真の撮影をフリーカメラマンに依頼する場合を想定します。
2 契約書例
収⼊印紙の貼付が必要な場合にはこの場所に貼付してください。
契 約 書
(以下「甲」という。)と (以下「⼄」という。)とは、写真撮影業務の委託に関し、以下のとおり契約を締結する。
第1条 (委託)
⼄は、甲に対し、以下の写真(以下「本著作物」という。)の撮影を委託し、甲はこれを
受託した。
(1)テーマ︓
(2)形式︓
(3)枚数︓
第2条 (納⼊)
1 甲は⼄に対し、本著作物を以下の形式により、 年 ⽉ ⽇までに、⼄に対して納⼊する。
・
2 ⼄は、前項の納⼊を受けた後速やかに納⼊物を検査し、納⼊物に契約不適合がある場合や、⼄の企画意図に合致しない場合は、その旨甲に通知し、当該通知を受けた甲は、速やかに⼄の指⽰に従った対応をする。
3 ⼄は、納⼊物を、利⽤が終わり次第速やかに甲に返却する。
第3条 (権利の帰属)
本著作物の著作権は甲に帰属する。
第4条 (利⽤許諾)
甲は⼄に対し、本著作物を下記形態で利⽤することを許諾する。
●前⽂
(「甲」は撮影者、「⼄」は依頼者です。)
●委託
→ p.61
●納⼊
→ p.61
検査条項
納⼊物の所有権遵守事項
●権利の帰属
→ p.62
●利⽤許諾
→ p.63
第6節 写真の撮影
(1)印刷物への利⽤
名称︓広報○○○○、部数︓ 部名称︓ 、部数︓ 部名称︓ 、部数︓ 部
(2)ウェブサイトにおける掲載
サイト名︓○○社公式サイト
掲載期間︓ 年 ⽉ ⽇から 年 ⽉ ⽇まで
(3)その他
その他︓
第5条 (著作者⼈格権)
1 ⼄が本著作物の内容・表現⼜はその題号に変更を加える場合(拡⼤、縮⼩、⾊調の変更等も含む。)には、あらかじめ甲の承諾を必要とする。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、以下のとおり著作者名の表⽰をしなければならない。
・
第6条 (保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害しないものであることを保証する。
第7条 (対価)
⼄は、甲に対し、写真撮影業務及び本著作物の利⽤許諾の対価、その他本契約に基づく
⼀切の対価として、⾦ 円(消費税込み)を、 年 ⽉ ⽇までに
⽀払う。
報酬・対価に係る消費税や所得税(源泉徴収)については、⽀払いの相⼿⽅や報酬・対価の額などによって取り扱いが異なりますので、必要に応じ税の専⾨家に相談してください。
第8条 (その他)
本契約に定めのない利⽤態様については、甲⼄別途協議の上、利⽤の可否、対価等につき決するものとする。
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲⼄記名捺印の上、各⾃1通を保持する。
●著作者⼈格権
→ p.64
同⼀性保持権
⽒名表⽰権
公表権
●保証
→ p.65
●対価
→ p.66
●その他
→ p.67
●後⽂
年 ⽉ ⽇
甲 住所
⽒名 印
⼄ 住所
⽒名 印
第6節 写真の撮影
3 契約書作成の留意点
第1条(委託)
著作物の創作を依頼するなど他⼈に⼀定の仕事を依頼する契約では、依頼する仕事の内容(撮影する写真のテーマ・対象、納品する写真のサイズ、カラー・モノクロの別、分量等)を特定することが重要です。
第2条(納⼊)
この契約は、依頼を受けた者は依頼者に対して仕事を完成(著作物の創作)することを約束し、依頼者は成果物(著作物)を完成させたことに対して報酬を⽀払うことを約束する契約です。したがって、成果物をいつまでに完成し、完成した成果物をどのような⽅法で依頼者に納⼊するかについて定めておくことが必要です。
納期は年⽉⽇で明⽰する⽅法や、⼀定の期間を定めて⽰す⽅法(例えば、「契約締結後3か⽉以内」と規定する場合)が考えられます。
成果物の納⼊⽅法も具体的に定めておいた⽅がよいでしょう。例えば、電⼦メールでのデータ
送信・ファイル転送、データCD等の持参・郵送、あるいはフィルム等の持参・郵送等です。
① 検査条項
「著作物の創作」のように、ある仕事を完成させることを契約の⽬的とする契約においては、納⼊された成果物によって「仕事の完成」があったと評価してよいかどうかについて依頼者側が検査する必要があります(例えば、パンフレットに掲載する写真の撮影を依頼した契約で、全く関係のないシーンばかりを撮影しても、仕事を完成したことにはなりません。)。そこで、この納品検査の⽅法等について契約で定めておくことが必要です。
② 納⼊物の所有権
写真撮影を依頼する契約において、電⼦データ形式で納⼊する場合は、成果物の所有権が問題になることはありません。
ただし、成果物の記録媒体(フィルム等)によっては、媒体それ⾃体が財産的な価値を持つことがあるため注意が必要です。所有権は、そのまま⾃然に依頼者に移転する、ということにはならないため、契約で決めておかないと、後⽇、成果物の所有権を巡って争いが⽣じる危険があります。依頼者において成果物の所有権を取得したい場合や、著作者において成果物の所有権を保有しておく必要がある場合は、特に成果物の所有権の帰属を契約書に明確に定めておく必要があるでしょう。
第6節 写真の撮影
③ 遵守事項
成果物の完成までに⻑期間を要するような場合には、仕事の進捗状況を管理するための条項や、依頼者の指⽰に関する条項を設けることがあります。
規定例
第○条(遵守事項)
1 甲は、⼄の企画意図を理解、尊重し、適宜⼄の指⽰に従うものとし、⼄は、甲に対し、適宜企画意図に合致させるために本著作物の修正を求めることができる。ただし、甲の本契約に基づく業務を不当に遅延させてはならない。
2 甲は、⼄から要求があったときは、⼄に対し、適宜、本著作物に関する業務の進捗状況その他制作に関する事項を報告しなければならない。
著作権法では、現実に著作物を創作した⼈(撮影者)が著作者となり、その著作者が著作権を持つものと定められています。依頼者が報酬を⽀払ったからといって、それだけで著作権を取得することにはなりません。
依頼者が著作物を利⽤するためには、著作権者からその利⽤について了解を得るか、⼜はその利⽤に関する著作権を譲り受ける必要があり、これらについて契約書で定めることが必要です。著作権を誰が持つかを巡って後に争いが⽣じないよう、契約書で著作権の所在を確認しておくことが重要です。
● 依頼者に著作権を譲渡する場合
著作権は、⾃由に譲渡することができるため、契約で、依頼者がその著作物の著作権を著作者より譲り受けることもできます。著作権の譲渡を受けると、依頼者としては、その著作物を⾃由に利⽤できるだけでなく、その著作物を他⼈が利⽤することも制限できるようになるというメリットがあります。
しかし、逆に著作者にとっては、著作権を譲渡してしまうと、その後は、譲渡先の了解を得ない限り、著作者⾃⾝が様々な活動をする際に必要となっても(例えば、その著作物をインターネットで公開するような場合でも)その著作物を利⽤することができなくなりますし、類似の著作物を作ることが制約されてしまう(譲渡した著作権を侵害する可能性がある)というデメリットも⽣じます。著作権を譲渡する契約を結ぶ場合には、このような著作者のデメリットに配慮して、これを調整する規定(例えば、著作者⾃⾝の利⽤を認める規定や、著作者が類似の著作物を創作することを認める規定等)を置くことも⼀つの⽅法として考えられます。
その他、著作権を譲渡するに際しては、譲渡する場合の対価の妥当性も含め、当事者間で⼗分に検討する必要があります。
(以下の規定例〔著作権の移転〕の場合は契約書例の第3条と差し替えることになり、契約書例第
第6節 写真の撮影
4条は不要となります。)
規定例
第○条(著作権の移転)
本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
規定例(著作者による利⽤を認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を利⽤することを認める。
規定例(著作者による利⽤⽅法を指定して認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を以下の⽅法で利⽤することを認める。
① 甲が⾃⾝の制作活動を実施する際に必要となる場合
② 甲が営利を⽬的とせずに本著作物を利⽤する場合
③ その他⼄が特に認めた場合
▶ 注意点
著作権を譲渡する契約において、⼆次的著作物を創作する権利(著作権法第27条)及び⼆次的著作物を利
⽤する権利(著作権法第28条)を譲渡の対象として明記しないときは、これらの権利は譲渡の対象としなか
ったという推定を受けます。
複製権、譲渡権など個別の権利単位で著作権を譲渡することも可能です。その場合、依頼者側は、譲り受ける権利の範囲によって著作物の利⽤⽬的を達成できるかどうかを慎重に検討する必要があります。
他⽅、著作者側はこれらの権利が譲渡の対象となると、その後、類似の著作物(⼆次的著作物)が創作で
きなくなってしまうので、作品の性質に応じて、譲渡するのかどうかを慎重に検討する必要があります。
第4条(利⽤許諾)
著作権が著作者に帰属する場合、依頼者がその著作物を利⽤するためには、著作権者である著作者から、著作物の利⽤に関する了解を得なくてはなりません。利⽤する態様は、なるべく具体的にわかりやすく記載してください。契約書例では印刷物への利⽤、ウェブサイトにおける掲載を想定しています。
第6節 写真の撮影
● 独占的利⽤許諾
依頼者がその著作物を独占的に利⽤したい場合(著作権者が依頼者以外の者に対してその著作物の利⽤を了解することを制限したいとき)は、その旨を契約で定めておく必要があります。
規定例
第○条(独占的利⽤許諾)
前条の許諾は、独占的なものとし、甲は、⼄以外の第三者に対し、(1)印刷物における複製、販売、(2)ウェブサイトにおける掲載の各形態で本著作物を利⽤することを許諾してはならない。
著作者⼈格権とは、著作者の精神的利益を守る、著作者のみが持っている権利です。財産権としての著作権とは異なり、譲渡や相続の対象となりません。
したがって、その著作物の著作権を著作者が持つ場合はもちろんのこと、依頼者に譲渡される場合でも、著作者⼈格権は著作者が有することになります。著作物の利⽤に関し、著作者⼈格権の問題が⽣じる可能性がある場合は、この点を意識した契約書を作成する必要があります。
① 同⼀性保持権
無断で著作物の内容や題号を改変すると同⼀性保持権の侵害になります。例えば、サイズの変更、⾊調の変更、縦横⽐の変更、⼀部切除等のような改変であっても、同⼀性保持権の問題が⽣じる可能性があります。
そのため、改変する場合にはあらかじめ著作者の確認を必要とすることを念のために規定したり、⼀定の場合には著作者の確認なしに改変できることを規定したりすることがあります。
② ⽒名表⽰権
著作物を利⽤するときには、その著作者名を表⽰する必要がありますが、あらかじめどのような著作者名を付せばよいか(本名なのかペンネームなのか)を契約書で定めておくとよいでしょう。著作者名を付さなくてよい場合には、その旨を契約書に明⽰しておきましょう。
③ 公表権
著作権法では、著作者に「公表権」が認められています。具体的な公表の時期や⽅法については、明確にしておくことが⼤切です。どのタイミングで著作物を公表するかについては、利⽤許諾契約の場合は、契約内容のところで併せて規定することができます。
著作者が、公表時期について、特段の指定をせず、利⽤者に任せる場合は、公表については契約書に記載しないことも多いと思われますが、利⽤者に委ねることを明確にするためその旨を契約書に明記することもあります。
第6節 写真の撮影
規定例(変更のつど承諾を要し、かつ、⽒名表⽰を要する場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 ⼄は、本著作物を改変する場合、事前に甲の承諾を得なければならない。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、次のとおり著作者名を表⽰する。
・○○○○
3 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
規定例(⼀定範囲での変更を認め、かつ、⽒名表⽰を要しない場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 甲は、⼄が本著作物を利⽤するにあたり、その利⽤態様に応じて本著作物を変更したり、⼀部を切除したりすることを予め承諾する。ただし、⼄は、これらの改変であっても本著作物の本質的部分を損なうことが明らかな改変をすることはできない。
2 ⼄は、前項以外の改変を⾏う場合は、事前に甲の承諾を得なければならない。
3 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、著作者名の表⽰をすることを要しない。
4 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
なお、納品された著作物を円滑に利⽤するため、依頼者から著作者に著作者⼈格権を⾏使しないよう求められる場合があります。
著作者としては、著作者⼈格権を⾏使しないことにしてしまうと、依頼者が著作物を改変、修正した場合や著作者の⽒名を表⽰しなかった場合でも、異議を述べることができないといった不利益が⽣じるため、注意が必要です。
第6条(保証)
納⼊された著作物が他⼈の著作権やプライバシー権等を侵害しているような場合、これを実際に利⽤する依頼者が、著作権侵害等を理由に権利者から損害賠償等の責任追及を受ける⽴場になります。このため、著作物の制作委託契約においては、著作者が著作物について他⼈の権利を侵害していないことを保証する条項を設けることがあります。トラブルへの対処について規定する場合もあります。
もっとも、このような条項を設けた場合、著作者に対して契約違反の責任をとってもらうことができるようになるだけで、著作権やプライバシー権侵害の被害者に対する責任がなくなるわけではないので、注意が必要です。
規定例(基本)
第○条(保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
第6節 写真の撮影
規定例(トラブルへの対処について規定する場合)
第○条(保証)
1 甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
2 万⼀、本著作物に関して、第三者から権利の主張、異議、苦情、対価の請求、損害賠償の請求等がなされた場合、甲は⾃らの責任と費⽤負担においてこれを処理解決するものとし、⼄に⼀切の迷惑損害を及ぼさないものとする。
第7条(対価)
著作物を創作してもらう契約における「対価」には、以下の内容が含まれています。
・創作作業への対価(作業料)
・(著作者から著作物の利⽤の了解を得る場合)著作物の利⽤許諾の対価
・(著作者から著作権の譲渡を受ける場合)著作権の譲渡の対価
対価の⽀払い⽅法には様々な⽅法がありますが、対価が著作権の譲渡に対する対価を含む場合、創作業務に対する対価がいくらで、著作権の譲渡に対する対価がいくらかという内訳を明記した
⽅が望ましいといえます。
対価が利⽤許諾に対する対価を含む場合は、創作業務に対する対価がいくらで、著作物の利⽤許諾に対する対価がいくらかという内訳を明記するのがよいでしょう。印税のように個別の結果に応じて対価を算定する⽅法もあります。
規定例(⼀括払い・利⽤許諾の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物の利⽤許諾の対価として、⾦○万円(消費税込み)を
○○年○⽉○⽇までに⽀払う。
規定例(⼀括払い・著作権譲渡の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物に関する著作権譲渡の対価として、⾦○万円(消費税別途)を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振り込み⼿数料は⼄の負担とする。なお、対価の内訳は、以下のとおりとする。
⾦△万円︓本著作物創作業務に対する対価
⾦□万円︓本著作物に関する著作権譲渡の対価
第6節 写真の撮影
規定例(複合⽅式・利⽤許諾の⼀例)
第○条(対価)
1 ⼄は、甲に対し、本著作物の創作業務の対価として、⾦○万円を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
2 ⼄は、甲に対し、本著作物の利⽤許諾の対価として、以下の算式で算定される⾦額を⽀払うものとする。
本件書籍の消費税を含まない本体価格(△△円)× 使⽤⾴/全⾴ × 発⾏部数× □%
3 前項の対価は、毎年3 ⽉末⽇、9 ⽉末⽇を締め⽇として、締め⽇から30 ⽇以内に、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
※著作物が掲載される印刷物を「本件書籍」と定義しています。
▶ 注意点
報酬の⽀払いについては、消費税を含む⾦額かどうか、また所得税は源泉徴収して⽀払うのかどうかを明らかにしておきましょう。
振込の場合は、振込⼿数料を誰が負担するかについても明記するようにしましょう。
第8条(その他)
特に、契約書に記載されていない利⽤を⾏う場合などは、あらためて著作者の了解を得る必要があり、このことを確認するため、このような場合は別途協議する旨の条項を設けることがあります。
その他、契約書には、契約期間に関する条項、中途解約に関する条項、契約変更に関する条項、契約解除に関する条項、秘密保持に関する条項、権利義務の譲渡等禁⽌条項、合意管轄に関する条項等を置くことがあります。これらの条項例は、第1章の「2 契約書に定められる条項の⼀例」<p.4参照> をご参照ください。
第7節 ⾳楽の作成
1 対象
この節では、以下に⽰すように、⾳楽制作を依頼する/される場合の著作権に関する契約書について説明します。例えば、学校の校歌、学芸会や演奏会等の発表、イベント等に使⽤する⾳楽の制作をフリーランスの作家に依頼する場合を想定します。なお、本契約書は、制作者である作家が著作権及び著作者⼈格権を有していること、及び楽器演奏等も制作者が担っていることを前提としていますので、制作者の他に著作隣接権を有する⼈がいる場合には、適宜修正が必要となります。
また、本契約書は、主に⾮営利の団体が、営利を⽬的としない活動等のための⾳楽制作をフリーランスの作詞家・作曲家に依頼するケースを対象としています。商業ベースのもの、エージェントが仲介するもの、⼤規模・継続的なイベントのための⾳楽制作には馴染みません。これらの場合は、報酬や利⽤の条件等についてより細かい規定が必要となる場合が多いと思われますので、実際の契約にあたっては当事者間で⼗分な協議をした⽅がよいでしょう。
2 契約書例
収⼊印紙の貼付が必要な場合にはこの場所に貼付してください。
契 約 書
(以下「甲」という。)と (以下「⼄」という。)とは、⾳楽制作業務の委託に関し、以下のとおり契約を締結する。
第1条 (委託)
⼄は、甲に対し、以下の⾳楽(以下「本著作物」という。)の制作を委託し、甲はこれを
受託した。
(1)分類︓
(2)⾳楽のテーマ︓
(3)ジャンル︓
(4)分数︓
(5)曲調︓
(6)使⽤楽器︓
●前⽂
(「甲」は制作者、「⼄」は依頼者です。)
●委託
→ p.71
第7節 ⾳楽の作成
第2条 (納⼊)
1 甲は⼄に対し、本著作物を以下の形式により、 年 ⽉ ⽇までに、⼄に対して納⼊する。
・
2 ⼄は、前項の納⼊を受けた後速やかに納⼊物を検査し、納⼊物に契約不適合がある場合や、⼄の企画意図に合致しない場合は、その旨甲に通知し、当該通知を受けた甲は、速やかに⼄の指⽰に従った対応をする。
3 ⼄は、納⼊物を、利⽤が終わり次第速やかに甲に返却する。
第3条 (権利の帰属)
本著作物の著作権は甲に帰属する。
第4条 (利⽤許諾)
甲は⼄に対し、本著作物を下記形態で利⽤することを許諾する。
(1)上演
上演場所︓
上演期間︓ 年 ⽉ ⽇から 年 ⽉ ⽇まで
(2)ウェブサイトにおける掲載
サイト名︓○○社公式サイト
掲載期間︓ 年 ⽉ ⽇から 年 ⽉ ⽇まで
(3)その他
その他︓
第5条 (著作者⼈格権)
1 ⼄が本著作物の内容・表現⼜はその題号に変更を加える場合には、あらかじめ甲の承諾を必要とする。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、以下のとおり著作者名の表⽰をしなければならない。
・
第6条 (保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害しないものであることを保証する。
第7条 (対価)
⼄は、甲に対し、楽曲制作業務及び本著作物の利⽤許諾の対価、その他本契約に基づく
⼀切の対価として、⾦ 円(消費税込み)を、 年 ⽉ ⽇までに
⽀払う。
報酬・対価に係る消費税や所得税(源泉徴収)については、⽀払いの相⼿⽅や報酬・対価の額などによって取り扱いが異なりますので、必要に応じ税の専⾨家に相談してください。
●納⼊
→ p.71
検査条項
納⼊物の所有権遵守事項
●権利の帰属
→ p.72
●利⽤許諾
→ p.73
●著作者⼈格権
→ p.74
同⼀性保持権
⽒名表⽰権
公表権
●保証
→ p.75
●対価
→ p.76
第7節 ⾳楽の作成
第8条 (その他)
本契約に定めのない利⽤態様については、甲⼄別途協議の上、利⽤の可否、対価等につき決するものとする。
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲⼄記名捺印の上、各⾃1通を保持する。
●その他
→ p.77
●後⽂
年 ⽉ ⽇
甲 住所
⽒名 印
⼄ 住所
⽒名 印
第7節 ⾳楽の作成
3 契約書作成の留意点
第1条(委託)
著作物の創作を依頼するなど他⼈に⼀定の仕事を依頼する契約では、依頼する仕事の内容(⾳楽のテーマ・イメージ、ジャンル、曲調、使⽤楽器、演奏時間等)を特定することが重要です。
第2条(納⼊)
この契約は、依頼を受けた者は依頼者に対して仕事を完成(著作物の創作)することを約束し、依頼者は成果物(著作物)を完成させたことに対して報酬を⽀払うことを約束する契約です。したがって、成果物をいつまでに完成し、完成した成果物をどのような⽅法で依頼者に納⼊するかについて定めておくことが必要です。
納期は年⽉⽇で明⽰する⽅法や、⼀定の期間を定めて⽰す⽅法(例えば、「契約締結後3か⽉以内」と規定する場合)が考えられます。
成果物の納⼊⽅法も具体的に定めておいた⽅がよいでしょう。例えば、電⼦メールでのデータ
送信・ファイル転送、データCD等の持参・郵送、あるいは楽譜等です。
① 検査条項
「著作物の創作」のように、ある仕事を完成させることを契約の⽬的とする契約においては、納⼊された成果物によって「仕事の完成」があったと評価してよいかどうかについて依頼者側が検査する必要があります(例えば、学校校歌の制作を依頼した契約で、およそ校歌といえないような⾳楽を制作したとしても、仕事を完成したことにはなりません。)。そこで、この納品検査の
⽅法等について契約で定めておくことが必要です。
② 納⼊物の所有権
⾳楽制作を依頼する契約において、電⼦データ形式で納⼊する場合は、成果物の所有権が問題になることはありません。
ただし、成果物の記録媒体(⼿書きの楽譜など)によっては、媒体それ⾃体が財産的な価値を持つことがあるため注意が必要です。所有権は、そのまま⾃然に依頼者に移転する、ということにはならないため、契約で決めておかないと、後⽇、成果物の所有権を巡って争いが⽣じる危険があります。依頼者において成果物の所有権を取得したい場合や、著作者において成果物の所有権を保有しておく必要がある場合は、特に成果物の所有権の帰属を契約書に明確に定めておく必要があるでしょう。
③ 遵守事項
成果物の完成までに⻑期間を要するような場合には、仕事の進捗状況を管理するための条項や、
第7節 ⾳楽の作成
依頼者の指⽰に関する条項を設けることがあります。
規定例
第○条(遵守事項)
1 甲は、⼄の企画意図を理解、尊重し、適宜⼄の指⽰に従うものとし、⼄は、甲に対し、適宜企画意図に合致させるために本著作物の修正を求めることができる。ただし、甲の本契約に基づく業務を不当に遅延させてはならない。
2 甲は、⼄から要求があったときは、⼄に対し、適宜、本著作物に関する業務の進捗状況その他制作に関する事項を報告しなければならない。
著作権法では、現実に著作物を創作した⼈(作詞者・作曲者)が著作者となり、その著作者が著作権を持つものと定められています。依頼者が報酬を⽀払ったからといって、それだけで著作権を取得することにはなりません。
依頼者が著作物を利⽤するためには、著作権者からその利⽤について了解を得るか、⼜はその利⽤に関する著作権を譲り受ける必要があり、これらについて契約書で定めることが必要です。著作権を誰が持つかを巡って後に争いが⽣じないよう、契約書で著作権の所在を確認しておくことが重要です。
● 依頼者に著作権を譲渡する場合
著作権は、⾃由に譲渡することができるため、契約で、依頼者がその著作物の著作権を著作者より譲り受けることもできます。著作権の譲渡を受けると、依頼者としては、その著作物を⾃由に利⽤できるだけでなく、その著作物を他⼈が利⽤することも制限できるようになるというメリットがあります。
しかし、逆に著作者にとっては、著作権を譲渡してしまうと、その後は、譲渡先の許諾を得ない限り、著作者⾃⾝が様々な活動をする際に必要となっても(例えば、その著作物をインターネットで公開したり、⾃⾝で公に演奏したりするような場合でも)、その著作物を利⽤することができなくなりますし、類似の著作物を作ることが制約されてしまう(依頼者に譲渡した著作権を侵害する可能性がある)というデメリットも⽣じます。著作権を譲渡する契約を結ぶ場合には、このような著作者のデメリットに配慮して、これを調整する規定(例えば、著作者⾃⾝の利⽤を認める規定や、著作者が類似の著作物を創作することを認める規定等)を置くことも⼀つの⽅法として考えられます。
その他、著作権を譲渡するに際しては、譲渡する場合の対価の妥当性も含め、当事者間で⼗分に検討する必要があります。
(以下の規定例〔著作権の移転〕の場合は契約書例の第3条と差し替えることになり、契約書例第
4条は不要となります。)
第7節 ⾳楽の作成
規定例
第○条(著作権の移転)
本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
規定例(著作者による利⽤を認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を利⽤することを認める。
規定例(著作者による利⽤⽅法を指定して認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を以下の⽅法で利⽤することを認める。
① 甲が⾃⾝の制作活動を実施する際に必要となる場合
② 甲が営利を⽬的とせずに本著作物を利⽤する場合
③ その他⼄が特に認めた場合
▶ 注意点
著作権を譲渡する契約において、⼆次的著作物を創作する権利(著作権法第27条)及び⼆次的著作物を利
⽤する権利(著作権法第28条)を譲渡の対象として明記しないときは、これらの権利は譲渡の対象としなか
ったという推定を受けます。
複製権、譲渡権など個別の権利単位で著作権を譲渡することも可能です。その場合、依頼者側は、譲り受ける権利の範囲によって著作物の利⽤⽬的を達成できるかどうかを慎重に検討する必要があります。
他⽅、著作者側はこれらの権利が譲渡の対象となると、その後、類似の著作物(⼆次的著作物)が創作で
きなくなってしまうので、作品の性質に応じて、譲渡するのかどうかを慎重に検討する必要があります。
第4条(利⽤許諾)
著作権が著作者に帰属する場合、依頼者がその著作物を利⽤するためには、著作権者である著作者から、著作物の利⽤に関する了解を得なくてはなりません。利⽤する態様は、なるべく具体的にわかりやすく記載してください。契約書例では、上演とウェブサイトにおける掲載を想定しています。
● 独占的利⽤許諾
依頼者がその著作物を独占的に利⽤したい場合(著作権者が依頼者以外の者に対してその著作物の利⽤を了解することを制限したいとき)は、その旨を契約で定めておく必要があります。
第7節 ⾳楽の作成
規定例
第○条(独占的利⽤許諾)
前条の許諾は、独占的なものとし、甲は、⼄以外の第三者に対し、本著作物を利⽤することを許諾してはならない。
著作者⼈格権とは、著作者の精神的利益を守る、著作者のみが持っている権利です。財産権としての著作権とは異なり、譲渡や相続の対象となりません。
したがって、その著作物の著作権を著作者が持つ場合はもちろんのこと、依頼者に譲渡される場合でも、著作者⼈格権は著作者が有することになります。著作物の利⽤に関し、著作者⼈格権の問題が⽣じる可能性がある場合は、この点を意識した契約書を作成する必要があります。
① 同⼀性保持権
無断で著作物の内容や題号を改変すると同⼀性保持権の侵害になります。例えば、曲調の変更、
⼀部切除等のような改変であっても、同⼀性保持権の問題が⽣じる可能性があります。
そのため、改変する場合にはあらかじめ著作者の確認を必要とすることを念のために規定したり、⼀定の場合には著作者の確認なしに改変できることを規定したりすることがあります。
② ⽒名表⽰権
著作物を利⽤するときには、その著作者名を表⽰する必要がありますが、あらかじめどのような著作者名を付せばよいか(本名なのかペンネームなのか)を契約書で定めておくとよいでしょう。著作者名を付さなくてよい場合には、その旨を契約書に明⽰しておきましょう。
③ 公表権
著作権法では、著作者に「公表権」が認められています。具体的な公表の時期や⽅法については、明確にしておくことが⼤切です。どのタイミングで著作物を公表するかについては、利⽤許諾契約の場合は、契約内容のところで併せて規定することができます。
著作者が、公表時期について、特段の指定をせず、利⽤者に任せる場合は、公表については契約書に記載しないことも多いと思われますが、利⽤者に委ねることを明確にするためその旨を契約書に明記することもあります。
第7節 ⾳楽の作成
規定例(変更のつど承諾を要し、かつ、⽒名表⽰を要する場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 ⼄は、本著作物を改変する場合、事前に甲の承諾を得なければならない。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、次のとおり著作者名を表⽰する。
・○○○○
3 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
規定例(⼀定範囲での変更を認め、かつ、⽒名表⽰を要しない場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 甲は、⼄が本著作物を利⽤するにあたり、その利⽤態様に応じて本著作物を変更したり、⼀部を切除したりすることを予め承諾する。ただし、⼄は、これらの改変であっても本著作物の本質的部分を損なうことが明らかな改変をすることはできない。
2 ⼄は、前項以外の改変を⾏う場合は、事前に甲の承諾を得なければならない。
3 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、著作者名の表⽰をすることを要しない。
4 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
なお、納品された著作物を円滑に利⽤するため、依頼者から著作者に著作者⼈格権を⾏使しないよう求められる場合があります。
著作者としては、著作者⼈格権を⾏使しないことにしてしまうと、依頼者が著作物を改変、修正した場合や著作者の⽒名を表⽰しなかった場合でも、異議を述べることができないといった不利益が⽣じるため、注意が必要です。
第6条(保証)
納⼊された著作物が他⼈の著作権やプライバシー権等を侵害しているような場合、これを実際に利⽤する依頼者が、著作権侵害等を理由に権利者から損害賠償等の責任追及を受ける⽴場になります。このため、著作物の制作委託契約においては、著作者が著作物について他⼈の権利を侵害していないことを保証する条項を設けることがあります。トラブルへの対処について規定する場合もあります。
もっとも、このような条項を設けた場合、著作者に対して契約違反の責任をとってもらうことができるようになるだけで、著作権やプライバシー権侵害の被害者に対する責任がなくなるわけではないので、注意が必要です。
規定例(基本)
第○条(保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
第7節 ⾳楽の作成
規定例(トラブルへの対処について規定する場合)
第○条(保証)
1 甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
2 万⼀、本著作物に関して、第三者から権利の主張、異議、苦情、対価の請求、損害賠償の請求等がなされた場合、甲は⾃らの責任と費⽤負担においてこれを処理解決するものとし、⼄に⼀切の迷惑損害を及ぼさないものとする。
第7条(対価)
著作物を創作してもらう契約における「対価」には、以下の内容が含まれています。
・創作作業への対価(作業料)
・(著作者から著作物の利⽤の了解を得る場合)著作物の利⽤許諾の対価
・(著作者から著作権の譲渡を受ける場合)著作権の譲渡の対価
対価の⽀払い⽅法には様々な⽅法がありますが、対価が著作権の譲渡に対する対価を含む場合、創作業務に対する対価がいくらで、著作権の譲渡に対する対価がいくらかという内訳を明記した
⽅が望ましいといえます。
対価が利⽤許諾に対する対価を含む場合は、創作業務に対する対価がいくらで、著作物の利⽤許諾に対する対価がいくらかという内訳を明記するのがよいでしょう。視聴数のように個別の結果に応じて対価を算定する⽅法もあります。
規定例(⼀括払い・利⽤許諾の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物の利⽤許諾の対価として、⾦○万円(消費税込み)を、
○○年○⽉○⽇までに⽀払う。
規定例(⼀括払い・著作権譲渡の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物に関する著作権譲渡の対価として、⾦○万円(消費税別途)を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振り込み⼿数料は
⼄の負担とする。なお、対価の内訳は、以下のとおりとする。
⾦△万円︓本著作物創作業務に対する対価
⾦□万円︓本著作物に関する著作権譲渡の対価
第7節 ⾳楽の作成
規定例(複合⽅式・利⽤許諾・公衆送信の⼀例)
第○条(対価)
1 ⼄は、甲に対し、本著作物の創作業務の対価として、⾦○万円を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
2 ⼄は、甲に対し、本著作物の利⽤許諾の対価として、以下の算式で算定される⾦額を⽀払うものとする。
インターネットにて提供する場合の本体価格(△△円)× 視聴数 × □%
3 前項の対価は、毎年3 ⽉末⽇、9 ⽉末⽇を締め⽇として、締め⽇から30 ⽇以内に、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
▶ 注意点
報酬の⽀払いについては、消費税を含む⾦額かどうか、また所得税は源泉徴収して⽀払うのかどうかを明らかにしておきましょう。
振込の場合は、振込⼿数料を誰が負担するかについても明記するようにしましょう。
第8条(その他)
特に、契約書に記載されていない利⽤を⾏う場合などは、あらためて著作者の了解を得る必要があり、このことを確認するため、このような場合は別途協議する旨の条項を設けることがあります。
その他、契約書には、契約期間に関する条項、中途解約に関する条項、契約変更に関する条項、契約解除に関する条項、秘密保持に関する条項、権利義務の譲渡等禁⽌条項、合意管轄に関する条項等を置くことがあります。これらの条項例は、第1章の「2 契約書に定められる条項の⼀例」<p.4参照>をご参照ください。
●コラム● 著作権等管理事業者
著作物等の権利者は、著作権等管理事業法に登録された事業者に対し、権利の管理を委託することができます。委託を受けた著作権等管理事業者は、権利者に代わって、利⽤者からの申請に対し利⽤許諾を与えることができ、権利者は、著作権等管理事業者から使⽤料等の分配を受けることができます。
著作権等管理事業者としては、例えば、⾳楽分野におけるJASRAC(⼀般社団法⼈⽇本⾳楽著作権協会)等が有名です。なお、著作権等管理事業者への権利の管理委託は義務ではありません。
著作物等の利⽤者にとっては、著作権等管理事業者に問い合わせをすることで権利の管理委託をされている著作物等の利⽤許諾を得ることができ、著作物の利⽤促進が果たされ、他⽅で、権利者においても、著作権等管理事業者に煩雑な著作権等の管理を委託することによって、⾃⾝の創作活動に集中することができます。
第8節 舞踊、無⾔劇の作成
1 対象
この節では、以下に⽰すように、舞踊、無⾔劇の制作を依頼する/される場合の著作権に関する契約書について説明します。以下の契約書例では、例えば、⾃治体が広報PR映像のために、フリーランスの舞踊家にコンテンポラリーダンスの振付を依頼し、依頼された舞踊家は振付を⾏った舞踊を⾃ら収録して映像素材として納⼊する場合を想定しています。
2 契約書例
収⼊印紙の貼付が必要な場合にはこの場所に貼付してください。
契 約 書
(以下「甲」という。)と (以下「⼄」という。)とは、舞踊、無⾔劇制作業務の委託に関し、以下のとおり契約を締結する。
第1条 (委託)
⼄は、甲に対し、以下の舞踊、無⾔劇(以下「本著作物」という。)の制作を委託し、甲はこれを受託した。
(1)タイトル︓
(2)舞踊、無⾔劇のテーマ︓
(3)対象となる楽曲・⾳源︓
(4)ジャンル︓
(5)分数︓
第2条 (納⼊)
1 甲は⼄に対し、本著作物を以下の形式により、 年 ⽉ ⽇までに、⼄に対して納⼊する。
・
2 ⼄は、前項の納⼊を受けた後速やかに納⼊物を検査し、納⼊物に契約不適合がある場合や、⼄の企画意図に合致しない場合は、その旨甲に通知し、当該通知を受けた甲は、速やかに⼄の指⽰に従った対応をする。
3 ⼄は、納⼊物を、利⽤が終わり次第速やかに甲に返却する。
第3条 (権利の帰属)
本著作物の著作権は甲に帰属する。
●前⽂
(「甲」は制作者、「⼄」は依頼者です。)
●委託
→ p.80
●納⼊
→ p.80
検査条項
納⼊物の所有権遵守事項
●権利の帰属
→ p.81
第8節 舞踊、無⾔劇の作成
第4条 (利⽤許諾)
甲は⼄に対し、本著作物を下記形態で利⽤することを許諾する。
(1)上演
上演場所︓
上演期間︓ 年 ⽉ ⽇から 年 ⽉ ⽇まで
(2)ウェブサイトにおける掲載
サイト名︓○○社公式サイト
掲載期間︓ 年 ⽉ ⽇から 年 ⽉ ⽇まで
(3)その他
その他︓
第5条 (著作者⼈格権)
1 ⼄が本著作物の内容・表現⼜はその題号に変更を加える場合には、あらかじめ甲の承諾を必要とする。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、以下のとおり著作者名の表⽰をしなければならない。
・
第6条 (保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害しないものであることを保証する。
第7条 (対価)
⼄は、甲に対し、舞踊・無⾔劇制作業務及び本著作物の利⽤許諾の対価、その他本契約に基づく⼀切の対価として、⾦ 円(消費税込み)を、 年 ⽉
⽇までに⽀払う。
報酬・対価に係る消費税や所得税(源泉徴収)については、⽀払いの相⼿⽅や報酬・対価の額などによって取り扱いが異なりますので、必要に応じ税の専⾨家に相談してください。
第8条 (その他)
本契約に定めのない利⽤態様については、甲⼄別途協議の上、利⽤の可否、対価等につき決するものとする。
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲⼄記名捺印の上、各⾃1通を保持する。
●利⽤許諾
→ p.83
●著作者⼈格権
→ p.83
同⼀性保持権
⽒名表⽰権
公表権
●保証
→ p.85
●対価
→ p.85
●その他
→ p.86
●後⽂
年 ⽉ ⽇
甲 住所
⽒名 印
⼄ 住所
⽒名 印
第8節 舞踊、無⾔劇の作成
3 契約書作成の留意点
第1条(委託)
著作物の創作を依頼するなど他⼈に⼀定の仕事を依頼する契約では、依頼する仕事の内容(舞踊・無⾔劇のテーマ・イメージ、タイトル、対象となる楽曲・⾳源、ジャンル、時間等)を特定することが重要です。
第2条(納⼊)
この契約は、依頼を受けた者は依頼者に対して仕事を完成(著作物の創作)することを約束し、依頼者は成果物(著作物)を完成させたことに対して報酬を⽀払うことを約束する契約です。したがって、依頼を受けた者がいつまでに舞踊・無⾔劇・振付等を完成させて、どのような形で記録し、どのように依頼者に納⼊するのかについてはあらかじめ定めておくことが必要です。
納期は年⽉⽇で明⽰する⽅法や、⼀定の期間を定めて⽰す⽅法(例えば、「契約締結後3か⽉以内」と規定する場合)が考えられます。
どのように納⼊するかについては、舞踊・無⾔劇・振付等の制作依頼においてはさまざまな場合が考えられます。契約書例では、振付を⾏った舞踊を⾃ら映像素材として納⼊することを想定していますが、振付を他者に⾏う場合も考えられますし、⽅法はこの限りではありません。
記録のしかたも、舞譜(舞踊譜)のような形態はありますが、現在⼀般的な⽅法は、事前に依頼者と依頼を受けた者が会い、依頼者が要望を伝えてイメージを共有したり、依頼を受けた者がその場で踊ったり、デモテープ等を作成して送ったりしながら、依頼者と依頼を受けた者が意⾒交換をしつつ⼀緒に作っていくことが考えられます。完成に向けては、
・依頼を受けた者が⾃⾝で収録した振付映像を、DVDやオンラインストレージ、ファイル転送サービス等で納⼊する。
・依頼を受けた者が、実際に撮影現場やスタジオに⾏き、創作した振付等を披露し、それを撮影することをもって納⼊とする。
・依頼を受けた者が実際にスタジオに⾏き、その場で創作しながら踊り⼿の能⼒・要望に応
じて振付をアレンジしながら教え、踊り⼿が踊れるようになった時点で納⼊とする。 などが考えられます。個々の状況に応じて、納⼊⽅法を契約に付記しておくとよいでしょう。
① 検査条項
「著作物の創作」のように、ある仕事を完成させることを契約の⽬的とする契約においては、納⼊された成果物によって「仕事の完成」があったと評価してよいかどうかについて依頼者側が検査する必要があります(例えば、市の広報映像におけるコンテンポラリーダンスの制作を依頼した契約で、広報にそぐわない舞踊を制作しても、仕事を完成したことにはなりません。)。そこ
第8節 舞踊、無⾔劇の作成
で、この納品検査の⽅法等について契約で定めておくことが必要です。
② 納⼊物の所有権
舞踊・無⾔劇・振付等の制作を依頼する契約において、成果物(舞踊・無⾔劇が記録された媒体)が存在しない場合や、成果物が電⼦データの場合は、成果物の所有権が問題になることはありません。
ただし、成果物の記録媒体によっては、媒体それ⾃体が財産的な価値を持つことがあるため注意が必要です。所有権は、そのまま⾃然に依頼者に移転する、ということにはならないため、契約で決めておかないと、後⽇、成果物の所有権を巡って争いが⽣じる危険があります。依頼者において成果物の所有権を取得したい場合や、著作者において成果物の所有権を保有しておく必要がある場合は、特に成果物の所有権の帰属を契約書に明確に定めておく必要があるでしょう。
③ 遵守事項
成果物の完成までに⻑期間を要するような場合には、仕事の進捗状況を管理するための条項や、依頼者の指⽰に関する条項を設けることがあります。
規定例
第○条(遵守事項)
1 甲は、⼄の企画意図を理解、尊重し、適宜⼄の指⽰に従うものとし、⼄は、甲に対し、適宜企画意図に合致させるために本著作物の修正を求めることができる。ただし、甲の本契約に基づく業務を不当に遅延させてはならない。
2 甲は、⼄から要求があったときは、⼄に対し、適宜、本著作物に関する業務の進捗状況その他制作に関する事項を報告しなければならない。
著作権法では、現実に著作物を創作した⼈(振付家)が著作者となり、その著作者が著作権を持つものと定められています。依頼者が報酬を⽀払ったからといって、それだけで著作権を取得することにはなりません。
依頼者が著作物を利⽤するためには、著作権者からその利⽤について了解を得るか、⼜はその利⽤に関する著作権を譲り受ける必要があり、これらについて契約書で定めることが必要です。著作権を誰が持つかを巡って後に争いが⽣じないよう、契約書で著作権の所在を確認しておくことが重要です。
● 依頼者に著作権を譲渡する場合
著作権は、⾃由に譲渡することができるため、契約で、依頼者がその著作物の著作権を著作者
第8節 舞踊、無⾔劇の作成
より譲り受けることもできます。著作権の譲渡を受けると、依頼者としては、その著作物を⾃由に利⽤できるだけでなく、その著作物を他⼈が利⽤することも制限できるようになるというメリットがあります。
しかし、逆に著作者にとっては、著作権を譲渡してしまうと、その後は、譲渡先の許諾を得ない限り、著作者⾃⾝が様々な活動をする際に必要となっても(例えば、その著作物をインターネットで公開したり、⾃⾝で上演したりするような場合でも)、その著作物を利⽤することができなくなりますし、類似の著作物を作ることが制約されてしまう(依頼者に譲渡した著作権を侵害する可能性がある)というデメリットも⽣じます。著作権を譲渡する契約を結ぶ場合には、このような著作者のデメリットに配慮して、これを調整する規定(例えば、著作者⾃⾝の利⽤を認める規定や、著作者が類似の著作物を創作することを認める規定等)を置くことも⼀つの⽅法として考えられます。
その他、著作権を譲渡するに際しては、譲渡する場合の対価の妥当性も含め、当事者間で⼗分に検討する必要があります。
(以下の規定例〔著作権の移転〕の場合は契約書例の第3条と差し替えることになり、契約書例第
4条は不要となります。)
規定例(著作権の全部を譲渡する場合)
第○条(著作権の移転)
本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
規定例(著作者による利⽤を認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を利⽤することを認める。
規定例(著作者による利⽤⽅法を指定して認める場合)
第○条(著作権の移転)
1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の⽀払いにより、⼄に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、⼄は、甲に対し、甲が本著作物を以下の⽅法で利⽤することを認める。
① 甲が⾃⾝の制作活動を実施する際に必要となる場合
② 甲が営利を⽬的とせずに本著作物を利⽤する場合
③ その他⼄が特に認めた場合
第8節 舞踊、無⾔劇の作成
▶ 注意点
著作権を譲渡する契約において、⼆次的著作物を創作する権利(著作権法第27条)及び⼆次的著作物を利
⽤する権利(著作権法第28条)を譲渡の対象として明記しないときは、これらの権利は譲渡の対象としなか
ったという推定を受けます。
複製権、譲渡権など個別の権利単位で著作権を譲渡することも可能です。その場合、依頼者側は、譲り受ける権利の範囲によって著作物の利⽤⽬的を達成できるかどうかを慎重に検討する必要があります。
他⽅、著作者側はこれらの権利が譲渡の対象となると、その後、類似の著作物(⼆次的著作物)が創作で
きなくなってしまうので、作品の性質に応じて、譲渡するのかどうかを慎重に検討する必要があります。
第4条(利⽤許諾)
著作権が著作者に帰属する場合、依頼者がその著作物を利⽤するためには、著作権者である著作者から、著作物の利⽤に関する了解を得なくてはなりません。利⽤する態様は、なるべく具体的にわかりやすく記載してください。契約書例では、上演とウェブサイトにおける掲載を想定しています。
● 独占的利⽤許諾
依頼者がその著作物を独占的に利⽤したい場合(著作権者が依頼者以外の者に対してその著作物の利⽤を了解することを制限したいとき)は、その旨を契約で定めておく必要があります。
規定例
第○条(独占的利⽤許諾)
前条の許諾は、独占的なものとし、甲は、⼄以外の第三者に対し、本著作物を利⽤することを許諾してはならない。
著作者⼈格権とは、著作者の精神的利益を守る、著作者のみが持っている権利です。財産権としての著作権とは異なり、譲渡や相続の対象となりません。
したがって、その著作物の著作権を著作者が持つ場合はもちろんのこと、依頼者に譲渡される場合でも、著作者⼈格権は著作者が有することになります。著作物の利⽤に関し、著作者⼈格権の問題が⽣じる可能性がある場合は、この点を意識した契約書を作成する必要があります。
① 同⼀性保持権
無断で著作物の内容や題号を改変すると同⼀性保持権の侵害になります。例えば、⼀部切除等
改変であっても、同⼀性保持権の問題が⽣じる可能性があります。
そのため、改変する場合にはあらかじめ著作者の確認を必要とすることを念のために規定したり、⼀定の場合には著作者の確認なしに改変できることを規定したりすることがあります。
第8節 舞踊、無⾔劇の作成
② ⽒名表⽰権
著作物を利⽤するときには、その著作者名を表⽰する必要がありますが、あらかじめどのような著作者名を付せばよいか(本名なのかペンネームなのか)を契約書で定めておくとよいでしょう。著作者名を付さなくてよい場合には、その旨を契約書に明⽰しておきましょう。
③ 公表権
著作権法では、著作者に「公表権」が認められています。具体的な公表の時期や⽅法については、明確にしておくことが⼤切です。どのタイミングで著作物を公表するかについては、利⽤許諾契約の場合は、契約内容のところで併せて規定することができます。
著作者が、公表時期について、特段の指定をせず、利⽤者に任せる場合は、公表については契約書に記載しないことも多いと思われますが、利⽤者に委ねることを明確にするためその旨を契約書に明記することもあります。
規定例(変更のつど承諾を要し、かつ、⽒名表⽰を要する場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 ⼄は、本著作物を改変する場合、事前に甲の承諾を得なければならない。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、次のとおり著作者名を表⽰する。
・○○○○
3 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
規定例(⼀定範囲での変更を認め、かつ、⽒名表⽰を要しない場合)
第○条(著作者⼈格権)
1 甲は、⼄が本著作物を利⽤するにあたり、その利⽤態様に応じて本著作物を変更したり、⼀部を切除したりすることを予め承諾する。ただし、⼄は、これらの改変であっても本著作物の本質的部分を損なうことが明らかな改変をすることはできない。
2 ⼄は、前項以外の改変を⾏う場合は、事前に甲の承諾を得なければならない。
3 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、著作者名の表⽰をすることを要しない。
4 甲⼄は、本著作物の公表⽇を、○○年○⽉○⽇以降とすることを確認する。
なお、納品された著作物を円滑に利⽤するため、依頼者から著作者に著作者⼈格権を⾏使しないよう求められる場合があります。
著作者としては、著作者⼈格権を⾏使しないことにしてしまうと、依頼者が著作物を改変、修正した場合や著作者の⽒名を表⽰しなかった場合でも、異議を述べることができないといった不利益が⽣じるため、注意が必要です。
第8節 舞踊、無⾔劇の作成
第6条(保証)
納⼊された著作物が他⼈の著作権やプライバシー権等を侵害しているような場合、これを実際に利⽤する依頼者が、著作権侵害等を理由に権利者から損害賠償等の責任追及を受ける⽴場になります。このため、著作物の制作委託契約においては、著作者が著作物について他⼈の権利を侵害していないことを保証する条項を設けることがあります。トラブルへの対処について規定する場合もあります。
もっとも、このような条項を設けた場合、著作者に対して契約違反の責任をとってもらうことができるようになるだけで、著作権やプライバシー権侵害の被害者に対する責任がなくなるわけではないので、注意が必要です。
規定例(基本)
第○条(保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
規定例(トラブルへの対処について規定する場合)
第○条(保証)
1 甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないことを保証する。
2 万⼀、本著作物に関して、第三者から権利の主張、異議、苦情、対価の請求、損害賠償の請求等がなされた場合、甲は⾃らの責任と費⽤負担においてこれを処理解決するものとし、⼄に⼀切の迷惑損害を及ぼさないものとする。
第7条(対価)
著作物を創作してもらう契約における「対価」には、以下の内容が含まれています。
・創作作業への対価(作業料)
・(著作者から著作物の利⽤の了解を得る場合)著作物の利⽤許諾の対価
・(著作者から著作権の譲渡を受ける場合)著作権の譲渡の対価
対価の⽀払い⽅法には様々な⽅法がありますが、対価が著作権の譲渡に対する対価を含む場合、創作業務に対する対価がいくらで、著作権の譲渡に対する対価がいくらかという内訳を明記した
⽅が望ましいといえます。
対価が利⽤許諾に対する対価を含む場合は、創作業務に対する対価がいくらで、著作物の利⽤許諾に対する対価がいくらかという内訳を明記するのがよいでしょう。視聴数のように個別の結果に応じて対価を算定する⽅法もあります。
第8節 舞踊、無⾔劇の作成
規定例(⼀括払い・利⽤許諾の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物の利⽤許諾の対価として、⾦○万円(消費税込み)を、
○○年○⽉○⽇までに⽀払う。
規定例(⼀括払い・著作権譲渡の⼀例)
第○条(対価)
⼄は、甲に対し、本著作物創作業務及び本著作物に関する著作権譲渡の対価として、⾦○万円(消費税別途)を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振り込み⼿数料は
⼄の負担とする。なお、対価の内訳は、以下のとおりとする。
⾦△万円︓本著作物創作業務に対する対価
⾦□万円︓本著作物に関する著作権譲渡の対価
規定例(複合⽅式・利⽤許諾・公衆送信の⼀例)
第○条(対価)
1 ⼄は、甲に対し、本著作物の創作業務の対価として、⾦○万円を、○○年○⽉末⽇までに、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
2 ⼄は、甲に対し、本著作物の利⽤許諾の対価として、以下の算式で算定される⾦額を⽀払うものとする。
インターネットにて提供する場合の本体価格(△△円)× 視聴数 × □%
3 前項の対価は、毎年3 ⽉末⽇、9 ⽉末⽇を締め⽇として、締め⽇から30 ⽇以内に、別途甲が指定する銀⾏⼝座に振り込む⽅法で⽀払う。振込み⼿数料は⼄の負担とする。
▶ 注意点
報酬の⽀払いについては、消費税を含む⾦額かどうか、また所得税は源泉徴収して⽀払うのかどうかを明らかにしておきましょう。
振込の場合は、振込⼿数料を誰が負担するかについても明記するようにしましょう。
第8条(その他)
特に、契約書に記載されていない利⽤を⾏う場合などは、あらためて著作者の了解を得る必要があり、このことを確認するため、このような場合は別途協議する旨の条項を設けることがあります。
その他、契約書には、契約期間に関する条項、中途解約に関する条項、契約変更に関する条項、契約解除に関する条項、秘密保持に関する条項、権利義務の譲渡等禁⽌条項、合意管轄に関する条項等を置くことがあります。これらの条項例は、第1章の「2 契約書に定められる条項の⼀例」<p.4参照> をご参照ください。
第9節 既存の原稿(エッセイ、詩、⼩説など)やイラスト、写真、
⾃作の楽曲・映画、舞踊(ダンス)・無⾔劇などの利⽤許諾
第9節 既存の原稿(エッセイ、詩、⼩説など)やイラスト、写真、⾃作の楽曲・映画、舞踊(ダンス)・無⾔劇などの利⽤許諾
1 対象
既存の原稿(エッセイ、詩、その他⽂章等)、イラスト、写真、⾃作の楽曲・映画、舞踊(ダンス)・無⾔劇等を利⽤したい場合は、著作権者から利⽤の許諾を得る必要があります。この節では、その場合に締結する契約書式について説明します。
例えば、広報誌の表紙に既存のイラストを使⽤したり、既存の⽂章を雑誌に掲載したりする場合がこのケースに該当します。
なお、前提条件として下記を想定しています。
・対象となる著作物は、著作権者が創作したオリジナルの著作物とします。もし、著作物に第三者の権利が関係している場合、創作者の責任において関係者の了解を得るものとします。
・著作権者と著作者とが同⼀⼈物であることを前提としています。著作権者と著作者が異なる場合(著作者が著作権を第三者に譲渡した場合等)は対象としていません。
・利⽤者は、著作物をそのままの形で利⽤することを前提としています。利⽤にあたり、著作物を要約したり、⽴体化したり、動画化するなどの改変を加えることは、この契約の対象外です。
2 契約書例
以下の契約書例は、イラストを印刷物に使⽤することを許諾するケースを想定しています。
収⼊印紙の貼付が必要な場合にはこの場所に貼付してください。
契 約 書
(以下「甲」という。)と (以下「⼄」という。)とは、著作物の利⽤に関し、以下のとおり契約を締結する。
第1条 (利⽤許諾)
甲は、⼄に対し、以下のイラスト(美術の著作物)(以下「本著作物」という。)につき、以下の利⽤を許諾する。
●前⽂
(「甲」は著作者、「⼄」は利⽤者です。)
●利⽤許諾
→ p.89
第9節 既存の原稿(エッセイ、詩、⼩説など)やイラスト、写真、
⾃作の楽曲・映画、舞踊(ダンス)・無⾔劇などの利⽤許諾
1 利⽤作品名︓
2 利⽤⽅法
(1)印刷物への利⽤
名称︓広報○○○○、部数︓ 部名称︓ 、部数︓ 部名称︓ 、部数︓ 部
(2)ウェブサイトにおける掲載
サイト名︓○○社公式サイト
掲載期間︓ 年 ⽉ ⽇から 年 ⽉ ⽇まで
(3)映像作品における利⽤
作品名︓広報○○○○、複製本数︓ 本
(4)その他
その他︓
3 ⼄は、当該利⽤にあたっては、事前にその具体的な利⽤態様を甲に⽰し、甲の承諾を得るものとする。
第2条 (著作者⼈格権)
1 ⼄が本著作物の内容・表現⼜はその題号に変更を加える場合(拡⼤・縮⼩、⾊調修正等を施すことも含む。)には、あらかじめ甲の承諾を必要とする。
2 ⼄は、本著作物を利⽤するにあたって、以下のとおり著作者名の表⽰をしなければならない。
・
第3条 (保証)
甲は、⼄に対し、本著作物が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害しないものであることを保証する。
第4条 (対価)
⼄は、甲に対し、本著作物の利⽤許諾の対価、その他本契約に基づく⼀切の対価として、
⾦ 円(消費税込み)を、 年 ⽉ ⽇までに⽀払う。
報酬・対価に係る消費税や所得税(源泉徴収)については、⽀払いの相⼿⽅や報酬・対価の額などによって取り扱いが異なりますので、必要に応じ税の専⾨家に相談してください。
第5条 (その他)
本契約に定めのない利⽤態様については、甲⼄別途協議の上、利⽤の可否、対価等につき決するものとする。
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲⼄記名捺印の上、各⾃1通を保持する。
利⽤許諾の範囲の特定
→ p.89
●著作者⼈格権
→ p.91
同⼀性保持権
⽒名表⽰権
公表権
●保証
→ p.92
●対価
→ p.93
●その他
→ p.93
●後⽂
年 ⽉ ⽇
甲 住所
⽒名 印
⼄ 住所
⽒名 印
第9節 既存の原稿(エッセイ、詩、⼩説など)やイラスト、写真、
⾃作の楽曲・映画、舞踊(ダンス)・無⾔劇などの利⽤許諾
3 契約書作成の留意点
まずは、どの著作物に関して利⽤許諾の契約を締結するかをしっかり特定することが重要です。
① ⽂章の場合
それほど⻑い⽂章でない場合は、⽂章全体を記載した別紙を添付して特定することが⼀つの⽅法として考えられます。⻑⽂の場合は、タイトル等で特定することが考えられます。
規定例
第○条(利⽤許諾)
甲及び⼄は、別紙記載の⾔語の著作物(以下、「本著作物」という。)の利⽤許諾に関し、以下のとおり契約を締結する。
規定例
第○条(利⽤許諾)
甲及び⼄は、著作物タイトルを『○○○○』とする⾔語の著作物(以下、「本著作物」という。))の利⽤許諾に関し、以下のとおり契約を締結する。
② 写真、イラストの場合
縮⼩コピーを別紙で添付する等の⽅法が考えられます。このようにすると、対象とする著作物が明確になります。添付が困難な場合には、タイトル、サイズ、数量等で特定することが考えられます。
規定例
第○条(利⽤許諾)
甲及び⼄は、別紙記載の写真の著作物(以下、「本著作物」という。)の利⽤許諾に関し、以下のとおり契約を締結する。
規定例
第○条(利⽤許諾)
甲及び⼄は、著作物タイトルを『○○○○』とする写真の著作物(カラー写真1 枚。以下、「本著作物」という。))の利⽤許諾に関し、以下のとおり契約を締結する。
③ 利⽤許諾の範囲の特定
著作物を利⽤できる範囲をしっかり特定する必要があります。利⽤の許諾を求める範囲が曖昧な場合には、その範囲をめぐってトラブルになることがありますので注意が必要です。