Contract
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事業委託
(1)事業委託とは
「事業委託」は、行政が担当すべき分野の事業を行政にはない優れた特性を持つ第三者に契約をもって委ねる協働の形態です。
行政が業務を委託する相手方として、NPOは「非営利性」や「公共性」とともに「専門性」や「先駆性」などの優れた特性を有していると言えます。
契約を結ぶことでNPOは契約書や仕様書に定められた内容を信義に従い誠実に履行する義務が発生します。また「委託」という形態を採用した場合の主体はあくまでも行政であり、事業についての最終的な責任と成果も委託者である行政に帰属することをNPO側も理解しておく必要があります。
(2)メリット
これまで行政が自ら行ってきた事業に「専門性」や「先駆性」などNPOの特性や能力を取り入れることで、より住民ニーズに合った公共サービスを提供できるようになります。また、新たな課題に対しても柔軟で創造的な取組みができます。
(3)現状と課題
○ 行政の事業は、そもそも住民の厳粛な信託により実施しているものであり、かつ税金で賄われているため「公正性」、「経済性」、「確実性」といった要件が強く求められます。
こうした要件を担保する仕組みとして、地方自治法は「競争入札」を行政が行う発注方式の原則に位置付けています。このことは発注の相手方がNPOである場合も何ら変わりはありませんが、NPOの専門性や先駆性などの特性や能力を事業に生かしていくことを考えた場合、競争入札のような価格のみによる競争は必ずしも適当とは言えない場合も多くあります。
NPOの特性や能力を生かせる発注方式としては「企画提案方式」が効果的ですが、今度はこの方式を採用した場合の「公正性」、「経済性」、「確実性」の確保ということが大きな課題となります。
○ 「補助」と「委託」の違いや、「委託」の実施主体はあくまでも行政であり、事業についての最終的な責任と成果は委託者である行政に帰属することなど、「委託」について、行政側の説明不足やNPO側に十分理解されていなかったため、事業実施の過程でトラブルが発生し事業の継続に支障が起きたり、事業終了後、双方に不信感が残ることもあります。
○ NPO側から、行政の積算に委託事業の対価が十分確保されていないため、活動の継続に支障が生じるケースがあるとの意見があります。
このことは、行政側にNPOに対する理解不足や、事業を行うには企業に発注する場合と同様の経費の積算が必要なことなどの認識が不足していることがあるとともに、NPO側にも活動目的の達成を優先し、採算を度外視して受託してしまう傾向があることが、主な要因と考えられます。
(4)留意点
ア 基本的事項
○ 行政とNPOの双方の長所が活かされるように、双方は、事前及び実施過程において、十分な協議と調整を行うよう努める必要があります。
○ 委託は最終的な事業の責任や成果の帰属は委託者である行政側にある一方、受託者にも成果品に対する一定の責任があることを、行政側がNPO側にあらかじめ説明しておくとともに、NPO側も十分理解しておく必要があります。
○ 行政の事業は単年度事業がほとんどですが、NPOに委託する場合は、その年の成果だけではなく、長い目で見た地域社会への影響を評価する必要があります。
共通事項
行政が留意する事項
○ 委託する業務の内容は、NPOの「専門性」や「先駆性」などの特性や能力が発揮できるようなものであることが大切です。NPOに対する委託を安価な下請けととらえてはいけません。
○ それと同時に、業務の実施に当たっては、行政的手法をおしつけることは控え、受託側の特性が発揮できるよう、手法や方策の自由を最大限認めることが望ましいでしょう。
イ 委託業務の内容・発注方式関係
行政が留意する事項
○ 発注の原則は「競争入札」ですが、NPOの「専門性」や「先駆性」などの特性を生かす発注方式として「企画提案型」の発注方式も効果的です。
○ 「企画提案型」の発注において、「審査委員会」等を設置して受託者を選ぶ場合は、選定の「公平性」や「透明性」が担保される基準や手続きが必要です。
○ 委託する業務の内容によっては企業の活動分野と競合することがあります。従って、この競争の「公平性」や「透明性」を確保することも重要です。
○ 特定のNPOと随意契約を行う場合は法令上の根拠を明確にすることが必要です。
○ たとえ随意契約が認められる場合でも、安易に委託相手を決めるのではなく、事前の協議を通して、提案能力や業務遂行能力を見極め、行政が直接行うよりも効果が上がることを予測できなければなりません。
ウ 契約・支払い関係
行政が留意する事項
○ 委託ということに慣れていないNPOも多いので、委託事業の性格や義務、役割分担などについて十分説明することが求められます。また、補助と委託の相違などについても理解してもらうことが重要です。
○ 行政は、契約書が双方の合意内容を文書化したものであることを再認識し、行政においてひな形とされる契約書案を一方的に押し付けることのないようにしなければなりません。
○ 契約に当たっては、一括して委託業務を他の者に請け負わせてはならないこと(「再委託の禁止」)や、個人情報の保護などの観点から受託者に一定の「守秘義務」が発生する場合もあるので、そうしたことを事前によく説明するとともに、契約書にもその旨を明記する必要があります。
○ 第三者への損害などトラブルが発生した場合の対処についても、契約書上明確にしておくことが重要です。
○ 仕様書は委託する事業の内容を具体的に記載した文書であり、契約の一部をなすものです。従って、この仕様書どおりに事業が実施されない場合は契約違反になることをよく説明する必要があります。
○ 委託事業の実施に関し、意見が食い違った場合、十分な調整を行うべきですが、最終的な責任は行政にあるので行政側の最終判断に従ってもらうことを事前に確認しておく必要があります。
○ 行政は、適切な人件費単価による積算や間接費の設定など事業実施に必要な対価を適正に積算する必要があります。
○ 委託料の支払いについては委託事業の円滑な執行を確保するため、「前金払」等の支払方法を検討することが必要になる場合があります。
○ NPOは、公の資金を使うことに伴う責任を自覚し、事業実施に当たっては、透明
性、効率性、有効性の向上に努める必要があります。
ポイント
○「補助」と「委託」はどう違う?
「補助」とは、本来民間が実施している事業について、一定の公共性が認められる場合に申請に基づき行政がその経費の一部を負担するものです。あくまで補助金の交付を受けた側が実施主体であり、責任も成果も補助金を受けた側に帰属します。
これに対し、「委託」とは、本来行政が行うべき事業について行政が自ら実施するよりも他の主体(企業やNPOなど)が実施した方がより大きな効果が得られると思われる場合に、契約により他の主体に実施させることです。この場合、受託者は業務の履行責任を負いますが、あくまでも実施主体は行政であり、事業についての最終的な責任と成果は委託者である
行政に帰属します。
NPOが留意する事項
意見交換等
応 募
公 表
契約締結
調整等
評 価
協働提案意見交換等
事業の実施
契約の締結
選考結果の公表
選 考
企画提案書等の提出
公 募
募集要項等の作成
選考委員会の設置
応募資格の決定
フィードバック
・事業の完了後に相互評価を行い、次の事業展開に生かす。
事業の完了・評価
評価・改善
( )
・課題が発生した場合は、相互に話し合い、調整する。
・選定された契約の候補者と十分な調整を行う。
・選考結果は全ての応募者に通知する。
・選考結果をホームページで公開する。
・書面審査やプレゼンテーションなどの方法で行う。
・ホームページや広報誌、新聞広報等など様々な方法で発信する。
・周知のための期間も考慮して募集期間を設定する。
・応募者の理解を促進するため説明を開催する。
・説明会で出された質問や回答はホームページ等で公開する。
・事業内容の決定
・協働形態→「委託」の選択
・事業目的、効果の検討
・意見交換等を通じた情報収集、課題・ニーズ把握
協働相手の確定
実 施( )
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(5)事業実施フロー(企画提案方式の場合の例)
企画・立案( ) | 課題・認識の共有化 | |
協働事業の検討 | ||
協働形態の選択 | ||
予算の積算、事業計画の作成 |
・事業の内容等に応じ応募資格を決定
・設置に際し、公平性、透明性の確保に配慮
公 募
・応募する側に分かりやすい内容で作成すること
住 民 ・ N P O 等
(6)事業実施 ア 発注の原則
行政の事業は住民の厳粛な信託により実施しているものであり、かつ税金で賄われている
ことから
①一部の者に不当に利益が偏らないという「公正性」
②最小のコストで最大の効果を上げるという「経済性」
③途中で投げ出されてしまうことがないという「確実性」
が求められ、こうした要件を担保する仕組みとして、地方自治法は「入札参加資格審査」の 制度を設けるとともに、「競争入札注1」を行政が行う発注方式の原則に位置付けています。なお「競争入札」によらない発注方式を「随意契約注 2」といいますが、この方式は地方自
治法施行令で規定する特定の要件に該当する場合にのみ行うことができ、この後に解説する
「企画提案方式」も、法的には随意契約の一つの形態です。
ただし、NPOの「専門性」や「先駆性」などの特性を生かすことを考えた場合、価格だけの競争による「競争入札」は必ずしも効果的な発注方式とは言えません。
イ NPOの特性や能力を生かした発注方式(「企画提案方式」の場合)
ここでは、NPOの特性や能力をパートナーシップに生かしていく発注方式として「企画提案方式」を取り上げます。
「企画提案方式」とは、事業を複数のNPOが実施できると思われる場合や、NPOや民間企業で実施できると思われる場合に、その発想、能力、計画等を企画提案書として提出してもらい、その中から最も優れた企画提案を行った者と契約を結ぶ方式です。
この「企画提案方式」は法的には随意契約の一形態であり、その根拠規定は地方自治法施行令第167条の2第1項第2号注 3「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当します。
もっとも、NPOへの発注はすべて「企画提案方式」にすべきということではなく、特殊な技能や知識を必要とする事業を発注しようとする場合において、これを実施できるNPOが1団体に限られることが明らかな場合は、その理由を明示してそのNPOと随意契約することができます。
注1 競争入札とは?
「競争入札」とは、価格競争により、行政にとって最も有利な金額で入札を行った相手方と契約を結ぶ方式で、
「一般競争入札」と「指名競争入札」とがある。
・一般競争入札:入札参加資格や入札の場所、日時等を公告することで不特定多数の者の参加を募り、予定価格の制限の範囲内で最低(又は最高)の価格で申込みを行った者と契約を結ぶ方式
・指名競争入札:あらかじめ入札参加を希望する者について資金力や技術力等に関する審査を行い、契約の種類や金額に応じた格付を行った名簿を作成し、これに掲載された者のうちから一定の基準に基づき入札に参加できる者を指名し、予定価格の制限の範囲内で最低(又は最高)の価格で申込みを行った者と契約を結ぶ方式
注2 随意契約とは?
「随意契約」とは、緊急の必要により競争入札に付することができない場合や契約の性質又は目的から競争入札を行うことが不適当である場合など、法令上一定の要件に合致する場合に競争入札によらずに特定の相手方と契約を結ぶ方式で、地方自治法施行令第 167 条の 2 及び各普通地方公共団体の規則(新潟県の場合、新潟県財務規則第
72 条)に定めがある。
注3 地方自治法施行令第 167 条の 2 第 1 項第 2 号…P81 第4章 参考資料 2関係法令等参照
ウ 「企画提案方式」による委託の進め方
ここでは、「企画提案方式」でNPOを対象に協働事業を実施しようとする場合の標準的な手順と留意点を示します。
事業の内容によっては、この手順どおりとはならず、あるいは募集の対象に企業を加えた方が良い場合等もありますので柔軟に対応することが必要です。
① 予算の積算、事業計画の作成
○ 予算の積算に当たっては適切な単価による積算や間接費の設定など事業実施に必要な予算を適正に積算する必要があります。
○ 事業内容については、NPOがその特性や能力を十分に生かした企画提案を行えるよう、
委託する事業の内容を考える必要があります。
ポイント
【NPOの事務局の人件費をゼロにしていませんか?】
○ 行政の事業別の予算では、職員の人件費は職員給与費や福利厚生費として、事業とは別に積算されています。行政が直営事業を委託事業に切り替える場合に、事業費に職員人件費等がないため、予算に積算しないと委託事業の適正な実施が困難になるおそれがあります。
○ 例えば、講座の実施委託をする場合、直営であれば、事業費は講師謝金、旅費、会場借上料などの経費のみで、企画、募集、準備、講座運営は行政職員が行うことになり、事業費には積算されていません。
これを単純に委託事業にして、事業費だけで予算を積算すると、職員が担当していた業務に相当する受託者のNPOの事務局人件費がゼロということになり、事業に必要な対価が予算に積算されていないことになります。
○ 「NPOの事業は、みんなボランティア」と考える人はいないと思いますが、事業に必要な経費はすべて積算する必要があります。また、積算の方法も企業に委託する場合と変わりなく適正に積算する必要があります。
※ 委託料積算例…P83 第4章 参考資料 3委託料積算例 参照
② 応募資格の決定
○ 委託する事業の目的や内容に応じ応募資格の要件を定めます。
【参考:NPOのみを対象とした応募資格の例】
・市民が主体となって、継続的、自発的に不特定多数の者の利益の増進に寄与する社会貢献活動を行う営利を目的としない民間団体(法人格の有無は問わない)であること。
・宗教活動や政治活動を目的とした(主たる目的とした)団体ではないこと。
・特定の公職者(候補者を含む)又は政党を推薦、支持、反対することを主たる目的とした団体ではないこと。
・暴力団でないこと、若しくは暴力団、暴力団員の統制下にある団体でないこと。
・県内に事務所を有し、かつ県内を中心に活動していること。
・組織の運営に関する規則(会則等)があること。
・NPO法人にあっては、特定非営利活動促進法第 29 条による事業報告書等の提出がなされていること。
・地方自治法施行令第 167 条の 4(注 1)に該当しないこと。
・新潟県の県税の納税義務を有する者にあっては、当該県税の未納がない者
※ここにあげた応募資格の例は、この資格を全て満たしていなければならないということはないので、募集する事業の目的や内容を考慮して要件を定めてください。
注1 地方自治法施行令第 167 条の 4…P81 第4章 参考資料 2関係法令等参照
③ 審査委員会の設置
○ 企画提案を審査する審査委員会の設置に当たっては、公正性や透明性の確保に配慮することが特に重要です。
○ 審査委員の構成は行政内部の職員に加え、学識経験者や民間の経営感覚や非営利組織の特性に通じた外部審査員を交えて構成することに努めます。
○ 個々の審査委員には、本人が役員に就任しているNPOは当該事業に応募できないことをあらかじめ了解してもらうとともに、審査委員会設置要領等にその旨明記しておいた方が良いでしょう。
○ 審査委員会を設置した場合、審査委員の職や氏名を積極的に公開するよう努めるものとし、人選の理由について尋ねられた場合は明確に答えられるようにしておくことが大切です。
④ 募集要項等の作成
【参考:「募集要項」に記載する事項の例】
4 参加資格、参加方法 (参加できる者として、地方自治法施行令第 167 条の 4 に該当しないこと、
参加できる団体の範囲(特定非営利活動法人であること、県内に事務所を置いている者であることなど)、県税の未納がないこと などを記載。)
5 企画提案書記載要領
6 質問事項について (→質問の仕方、回答方法等)
7 企画提案書の提出等 (提出期限、提出場所、提出部数、提出方法等を記載。)
8 委託先の選定方法等 (審査方法、プレゼンテーションの方法、結果の通知について記載。)
9 その他 (参加費用の負担、その他留意事項を記載。)
(ここに記載したのは一例です。ホームページで他県の要項等が公開されているので、参考にできます。)
○ ・提案の具体的な手続や、提案で県行政が求めているものについて、応募する側に分かりやすく説明した「募集要項」及び「企画提案仕様書」を作成します。
1 | 目 | 的 | (→この事業を実施する目的及び要項の目的等を記載。) |
2 | 仕 | 様 | (→「企画提案仕様書のとおり」などとする。) |
3 | 条 | 件 | (委託期間、委託費(上限額等を記載。)、その他の留意事項を記載。) |
【参考:「企画提案仕様書」に記載する事項の例】
1 委託事業の目的
2 委託業務の概要 (1)委託期間
(2)委託費 (上限額等を記載)
(3)委託事業の概要 (委託事業の内容を記載。) (4)備品使用、人員配置等の条件を記載。
(5)その他の条件 (事業実施場所、協働に関する条件等を記載。)
3 委託事業から発生する収入の取り扱い などを記載。
(ここに記載したのは一例です。ホームページで他県の要項等が公開されているので、参考にできます。)
⑤ 公 募
○ ホームページの掲載や広報紙、新聞広報の利用など様々な方法により、多くのNPOが応募できるよう情報の発信に努めます。
○ なお、募集期間についてはNPOが企画提案を行うに十分な期間を設定することが大切ですが、この期間は企画提案の検討や書類作成に十分な期間というだけでなく、周知に必
要な期間も併せて考慮する必要があります。
○ 提案者の便宜を考え、「募集要項」や「企画提案仕様書」の配布は、ホームページ上か
らダウンロードできるような方法も検討します。
ポイント
【入札や企画提案募集の情報はどこから入手できる?】
○ 新潟県の入札や企画提案の募集は、新潟県ホームページの入札・発注・売却のページに掲載されています。 URL http://www.pref.niigata.lg.jp/order.html
また、事業を所管している各部局・課、地域機関のホームページにも掲載されています。
⑤-1 説明会の開催
○ 委託する事業について応募者の理解を促進するため、必要に応じ、説明会を開催します。
○ 説明会の開催についてもホームページや広報紙への掲載など、様々な方法により、なるべく多くのNPOが参加できるよう情報の発信に努めます。
○ 説明会に参加したNPOの担当者からは名刺を貰うなど、事後の連絡に備えておくようにしましょう。
⑤-2 Q&Aの公表
○ 電話で照会のあった事項や説明会において出された質問等について、応募者全員に関係してくるものについては、それに対する回答も含めホームページ等で公開し、募集期間中は応募者の誰もが知り得る状態にしておきます。
⑥ 企画提案書等の提出
○ 企画提案書のほか、応募資格や事業遂行能力などの確認のため組織体制や実績が分かる資料も提出してもらいます。
○ 提出書類の種類と部数、提出期限、提出方法については、あらかじめ募集要項に明記しておく必要があります。
⑦ 選 考
○ 審査により、契約の相手方の候補者を選びます(相手方の決定ではありません)。
○ 審査の方法には企画提案書等の書面のみを見て審査する方法と、書面審査に加え応募者の説明(プレゼンテーション)を求めてその結果も踏まえて審査する方法とがあります。
また、審査は公開で行う場合もあれば非公開で行う場合もあります。
○ 委託する事業の性質に応じ、審査方法や公開・非公開の別を組み合わせて実施することになります注 1。
注1 審査を非公開で行う場合の例
①提案に「企業秘密」に属するようなノウハウが含まれる場合、②提案に個人のプライバシーに関することが含まれる場合、③審査すべき件数が多く、公開で行うには余りにも事務負担が大きくなる場合、③選考委員の忌憚のない発言を保障する必要があると認められる場合など
⑧ 選考結果の公表
○ 選考結果は応募した全員に通知するとともに、ホームページにも掲載するなど透明性の確保に努めます。
○ また、内部的には個々の提案に対する各審査委員の採点を整理した「審査結果一覧表」を作成するとともに、選から漏れた者からその理由の説明を求められた場合は、一覧表のうち審査委員の氏名や他の応募者の名称以外の内容については説明できるレベルでの透明性を確保することとします。
⑨ 契約の締結
○ 選定された契約の相手方の候補者と十分な調整を行い、契約書に添付する仕様書を作成します。
○ 仕様書について合意した後は、事業の実施に支障がでないよう、できるだけ速やかに契約を締結します。
エ 契約手続
(ア)「契約の名義人」について
契約の名義人は法人の場合は当該法人名義に、法人格のない任意団体注 1 の場合はその代表者たる個人の名義となります。なお、その場合、契約当事者欄の記載は「○○○○代表(○○○協会長) 氏名」とします。
(イ)「契約保証金」について
地方自治法上注 2、契約の履行を担保するための制度として契約保証金の制度があります。契約保証金は、契約に当たって受託者から納付してもらい、もし受託者が契約上の義務
を履行しないときは委託者である県が没収し、誠実に履行したときは返還されるものです。県の財務規則第 41 条注3 第 1 項第 2 号では原則として受託者は契約に当たって契約額
の10分の1以上の契約保証金を納付しなければなりませんが、44 条第1項注4 の要件のいずれかに合致する場合は免除することができます。
(ウ)委託料の支払い
委託料の支払の時期及び方法については契約書に明記しなければなりません。
支払方法の原則は委託事業の履行確認後の支払ですが、NPOの資金的な側面に配慮して、事業の円滑な執行を確保する必要がある場合は、前金払を行うことも検討してください。
【前金払とは?】
支払期限の前に全部又は一部を支払うことです。地方自治法施行令注5 では、委託費は前金払ができる経費とされています。
注1 「任意団体」について
法人格がない場合でも「団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の選考方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定している」という要件を備えていれば、任意団体といえども「人格のない社団」として、その法律上の取扱いはできる限り社団法人に準ずべきものと解されています。
注2 地方自治法第 234 条の 2 第 2 項…P81 第4章 参考資料 2関係法令等 参照注3 新潟県財務規則第 41 条…P81 第4章 参考資料 2関係法令等 参照
注4 新潟県財務規則第 44 条…P82 第4章 参考資料 2関係法令等 参照
注5 地方自治法施行令第 163 条第 1 項第 2 号…P82 第4章 参考資料 2関係法令等 参照
(エ)見積書について
随意契約により発注しようとするときは、県の財務規則上注 1、原則として2人以上の者から見積書を提出してもらう必要があります。(ただし、「企画提案方式」による場合は、特命随意契約の一種と見なされるので見積書は1つだけです。)
この場合、多くのNPOは見積書を作成した経験が少ないので、見積書と事業内容との整合性を十分に確認するとともに、一度提出した見積書は書換えや撤回ができないことなども説明しておく必要があります。そして見積書の記載金額が予定価格の範囲内である場合に、初めて契約を結ぶことができます。
(オ)契約書・仕様書について
契約書には契約の目的、契約金額、履行期限及び契約保証金に関する事項のほか、契約履行の場所、契約代金の支払又は受領の時期及び方法、瑕疵担保責任注 2、再委託の禁止、紛争の解決方法、契約の解除権などの事項について具体的に記載します。また、仕様書は委託事業の内容を具体的に記載した書類であり、契約内容の一部をなすものです。契約書や仕様書の内容については、後々のトラブルの発生を防ぐために、双方で十分に協議し確認を行うことが重要です注 3。
(業務委託契約書例…P90 第4章 参考資料 4参考様式集(2)業務委託契約書の例 参照)
注1 新潟県財務規則第 73 条…P82 第4章 参考資料 2関係法令等 参照注2 瑕疵(かし)担保責任
契約を履行するに当たって、受託者は委託契約どおりの内容を実施する義務がありますが、もしその成果品に物理的欠陥や権利関係の問題が付随していた場合、受託者は責任を負うことになり、これを「担保責任」と言います。そして、外見上すぐには発見できないような欠陥を「瑕疵(かし)」と呼び、これについての責任を「瑕疵担保責任」と言います。責任の負い方としては契約解除、損害賠償又は修補があり、ケースによって方法が変わってきますが、この権利を行使できる期間は民法上「瑕疵を知った時から1年」ということになっています。
注3 契約に当たり注意すべきポイント
①仕様書の内容を勝手に変更して実施することはできないことをNPO側に十分に説明してください。
仕様書は契約内容の一部であり、これに反する場合は契約違反となって損害賠償請求の原因となります。
②委託事業を実施するに当たり、個人のプライバシーの保護や守秘義務が必要となる場合は、その旨を明記することが必要です。
③委託事業を実施するに当たり、著作権、意匠権などの権利が新たに発生する場合は、その帰属を契約書上明記することが必要です(委託事業の場合、これらの権利は委託の成果の一部をなすもので、委託者=県に帰属させるのが原則です。
(カ)事業の実施・契約の履行の確保
地方自治法上、契約の適正な履行を確保するため行政は必要な監督又は検査をしなければならないとされています。そこで事業を円滑に進めるためには随時、事業の実施に伴い発生する課題などについて双方で話し合うとともに継続性や安定性、公平性等が求められる事業の委託については、事業の停滞などによるサービスの低下や不均一がないよう十分
に調整することが大切です。
ポイント
【現場で課題を見つける】
○ 委託事業だからといって、事業を受託した NPO に任せきりでは協働と言えません。
委託者である行政の担当者も時には現場に出て事業の実施状況や課題などを受託者であるN
POと共有することが大切です。行政の担当職員も現場での意見・課題を吸収し、次年度以降の事業展開に結びつけることができます。
ポイント
【中間の振り返りをする】
○ 事業期間が長い場合は、定期的な情報交換や中間時の振り返り会議などで、事業の進捗状況の検証や情報共有をしておくことが大切です。
(キ)事業の完了の確認
委託事業が完了したら、受託者に委託事業の報告書の提出を求め、事業完了の検査を行います。なお、事業完了後の手続きについては受託者にあらかじめ具体的に説明しておいた方がいいでしょう。
オ 契約違反・第三者に対する損害の発生等
(ア)契約違反
受託者は契約書や仕様書に定められた内容を信義に従い誠実に履行する義務を負いますが、これに違反する事態が生じた場合は、契約は委託者によって一方的に解除され、受託者は損害賠償の責任を負うことになります。
例えば、受託者の責めに帰すべき理由により、契約で定めた期間内に業務を完了できないことが明らかになった場合、正当な理由がないのに業務に着手しない場合、実際の業務が仕様書の内容と異なる場合などがこれに当たります。
(イ)第三者に対する損害の発生
委託事業の実施に当たり受託者が第三者に損害を与えた場合の賠償責任の所在は、委託契約の内容、賠償すべき損害の態様などにより個々具体的に判断されます。
一般的には、受託者の故意・過失その他の責めに帰すべき理由で第三者に損害を与えた場合は、受託者が民法の不法行為責任を負い、契約上もその旨規定する場合が多いようです。
事 例
<専門性を活かし、委託事業から自主事業へと転換した事例>
【「能めぐり手帖」の作成(NPO法人佐渡文化財研究所)】
佐渡能の鑑賞や体験誘客を促進するため、地元のNPO(NPO法人佐渡文化財研究所)が制作した「能めぐり手帖」が好評を博しています。この冊子は一年間に島内で行われる薪能、奉納能のスケジュールが、マップや写真と共に色鮮やかに紹介されており、佐渡能のファンには必携の一冊となっています。
この冊子は、当初、県から地元のNPOが委託(佐渡「能」観賞・体験誘客促進事業(佐渡地域振興局))を受け制作したものですが、県が委託費として支出した経費は、制作にかかる印刷費などの実費程度で、このNPOがもつ細やかな情報網と知識がなければ実現不可能な事業でした。
当初の2年間は県の委託事業として無償配布しましたが、3年目からはNPOの自主事業に切り替え、有償で配布しています。
<NPOの提案から行政の縦割りを越え、相乗効果を生んだ事例>
【NPO支援業務及び地域づくり活動支援業務委託(新潟県)】
県の地域づくり支援施策とNPO支援施策は、前者が地域政策課、後者が県民生活課と担当部局・課が分かれているものの、その対象や効果には大きく重なるものがありました。
この二つの事業が、行政の縦割りのまま別々に行われていることに疑問を感じた2つのN PO(まちづくりの支援を行うNPOとNPOの支援を行うNPO)が共同で提言書を県に提出し、これを受けて県が部局横断的に2つの施策を包括的に遂行できる事業者を募る形での企画提案方式の委託が実現しました。
現在、その事業は企画コンペティションを経て、提言書を書いた2つのNPOの連合体が設置する「新潟県NPO・地域づくり支援センター※」によって担われており、関連する自主事業も行われ、幅広いネットワークの構築と個々の事業の相乗効果が確認されています。
※新潟県NPO・地域づくり支援センター
住民主体の地域づくり活動や市民活動を一体的に支援することを目的に、まちづくりの支援を行うNPO=NPO法人まちづくり学校と、NPOの支援を行うNPO=NPO法人新潟NPO協会が連合体をつくり設置した支援センター。
以上の例のように、協働を行う上で委託という形を取る際は、単に受託者(NPO)が発注者(行政)の要求に応えるだけではなく、自分たちの本来の活動における当該事業の位置づけや、そうした戦略に基づいた独自の提案をもっていることが大切です。