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ま え が き
「労働協約」とは、賃金、労働時間などの労働条件や、団体交渉、組合活動などの労使関係のルールについて、労働組合と使用者が書面でとりかわした約束事です。
労働協約が締結されると、その有効期間中は一定の労働条件が保障されるので、労働者は安心して働くことができます。一方、使用者の側にとっても、労使関係の安定を維持することができます。
社会や経済情勢の急速な変化の中、労使関係の安定、健全化が一層強く望まれており、労働協約の締結は、労使双方に利益をもたらすものと言えるでしょう。
そこで、この労働協約について、労働基準法や労働組合法などの労働関係法規に詳しい弁護士の山内一浩先生に、わかりやすく解説していただきました。
平成 30 年 6 月の「働き方改革関連法」の成立に伴う規定例などが新たに盛り込まれ、社会・経済情勢の変化に対応した内容となっています。
この小冊子が、労使の方々が労働協約の意義を理解される一助となり、さらに、労働協約の締結及び改定の際の参考としていただければ幸いです。
平成 31年3月
東京都労働相談情報センター
目 次
第 1 部 基本編
◆労働協約とは◆
1 労働協約とは 1
(1)労働協約は労働組合活動の結晶 1
(2)労働協約は労使双方に有意義なもの 1
2 労働協約を結ぶときの留意点 2
(1)合意に達したものから一つずつ締結を図る 2
(2)段階的に内容を向上させていく 2
(3)組合員の最も関心の深い事項から規定化する 3
(4)労働協約はあくまで相互協定、互譲の精神を忘れないように 3
(5)実効性のある労働協約締結に努め、規定は明確にする 3
(6)労働協約の内容をよく組合員に知らせる 3
◆労働協約の締結から終了まで◆
1 労働協約の締結形式 4
(1)名 称 4
(2)体 裁 4
(3)形 式 4
(4)期 間 4
2 労働協約の締結当事者 5
(1)労働者側は労働組合とその連合団体 5
(2)使用者側はその使用者とその団体 5
3 労働協約の内容 6
4 労働協約締結の効果 9
(1)規範的効力と債務的効力 9
(2)労働協約の拡張適用 10
5 労働協約の有効期間 11
(1)自動延長 11
(2)自動更新 12
6 労働協約の承継・存続 13
(1)合併と労働協約 13
(2)会社分割と労働協約 13
(3)事③譲渡と労働協約 14
(4)会社買収と労働協約 14
(5)倒産法制と労働協約 15
7 労働協約の終了 16
(1)有効期間の満了 16
(2)解 約 16
(3)当事者の変更・消滅 16
(4)労働協約失効後の効力 17
第 2 部 個別編
◆労働協約主要条項についての説明及び規定例◆
1 前文 18
2 総則的部分 18
(1)団体交渉の主体 19
(2)労働協約の適用範囲 19
(3)組合員の範囲 20
(4)ショップ制 21
3 組合活動に関する条項 24
(1)就③時間中の組合活動 24
(2)チェックオフ 27
(3)会社施設の利用 28
(4)在籍専従制 30
(5)文書の配布など 32
(6)政治活動 32
4 人事に関する条項 32
(1)採 用 33
(2)試用期間 33
(3)人事異動 34
(4)表 彰 35
(5)懲 戒(制 裁) 35
(6)休職・復職 36
(7)解 雇 39
(8)有期契約労働者の雇止め 40
(9)無期契約労働者の雇止め 40
(10)一時帰休 40
(11)定年後再雇用又は勤務継続 41
5 労働条件に関する条項 41
(1)賃金条項 41
(2)労働時間・休日・休暇条項 42
6 苦情処理に関する条項 42
7 労使協議制に関する条項 45
8 団体交渉に関する条項 48
(1)交渉委員 48
(2)交渉事項 49
(3)交渉手続及び方式 50
9 平和義務と平和条項(争議調整条項) 52
(1)平和義務 52
(2)平和条項(争議調整条項) 52
10 争議に関する条項 54
(1)争議行為の予告 54
(2)争議不参加 55
(3)代替要員雇入禁止条項(スキャップ禁止条項) 56
(4)争議中の団体交渉 57
(5)争議中の施設の利用 58
11 その他の条項 58
(1)福利厚生条項 58
(2)安全衛生条項 59
(3)新型インフルエンザ等感染症罹患による休③ 60
(4)職場におけるメンタルヘルス対策とストレスチェック 62
(5)セクシュアルハラスメントの防止 63
(6)パワーハラスメントの防止 65
(7)ライフ・ワーク・バランス・過労死防止対策の推進 66
(8)受動喫煙防止対策 67
12 非正規労働者の待遇の改善等 68
(1)現行法でのパートタイム労働者の均衡待遇 69
(2)現行法での有期雇用労働者についての不合理な労働条件の禁止… 70
(3)パートタイム・有期雇用労働者における均衡待遇・均等待遇 … 71
(4)パートタイム・有期雇用労働者の通常の労働者への転換 72
(5)有期労働契約の無期労働契約への転換 73
(6)有期労働契約の締結、更新及び雇止め 75
(7)派遣労働者との均等待遇・均衡待遇 77
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
1 過半数労働組合が締結当事者とされている労使協定等 78
(1)過半数労働組合が締結権限を有する労使協定等 78
(2)過半数労働組合が意見聴取の対象とされている等の事項 79
2 労働時間に関する労使協定等 80
(1)時間外・休日労働協定(36 協定) 80
(2)時間単位の有給休暇 83
(3)みなし労働時間制に関する労使協定等 83
(4)フレックスタイム制(労働基準法第 32 条の 3) 89
(5)高度プロフェッショナル制度(労働時間規制の適用除外) 91
3 育児・介護休業等に関する労使協定等 93
(1)より良い育児・介護休③等の制度を作るための労働協約 93
(2)対象除外に関する労使協定 97
4 高年齢者の定年引上げ、継続雇用制度の導入に関する労使協定 99
(1)雇用確保措置と継続雇用制度の改正、経過措置 99
(2)継続雇用制度の対象者を雇用する企③の範囲の拡大 101
(3)義務違反企③の企③名の公表等 101
行政機関案内 102
第 1 部 基本編 −労働協約とは−
1 労働協約とは
(1)労働協約は労働組合活動の結晶
労働者が会社に就職するとき、希望どおりの労働条件で採用されることは少なく、多くの場合、使用者によってあらかじめ決められた労働条件、つまりこういう労働条件ならば雇いましょう、ということで採用されるのが普通です。労働者と使用者との1 対1 の関係で取り決める労働契約では、どうしても使用者の力が強いため、労働者が「今までよりも高いレベルの生活がしたい」「職場環境のよい安心して働くことのできる職場で働きたい」と望んでも、そのとおり希望がかなえられることはなかなか困難です。また、 ようやく合意に達しても口頭の約束では後でその履行をめぐってトラブルが生じることもあります。
そこで労働者は、自らの希望する労働条件を得、それを維持向上させるために団結して労働組合という組織をつくり、その集団の力を背景に使用者と団体交渉をすることになります。そうすることによって初めて使用者と対等の立場に立つことができ、労働条件を改善していくことができるのです。
こうして労働組合が結成されますと、その活動を通して労使間で合意に達した事項を書面で取りかわすようになります。そして、労使双方が約束したある一定期間、たとえば 1 年間とか 2 年間はお互いに合意したことを遵守することになります。
これが労働協約といわれるもので、それは労働組合活動の中から必然的に生まれたものであり、労働協約の歴史はそのまま労働組合活動の歴史といっても過言ではありません。
(2)労働協約は労使双方に有意義なもの
労働組合と使用者の間で組合員の賃金、労働時間、休日、休暇等の労働条件や団体交渉のルール、組合活動等の事項について交渉を行い、その結果を書面に作成し、両当事者が署名又は記名押印したものを労働協約といいます(労働組合法第 14 条)。
この労働協約は、労働者と使用者が合意して個々に結ぶ労働契約や、最終的に使用者が決めることができる就業規則とは区別され、これらに優先して、労働者及び労働組合と使用者の関係を規律する効力が与えられています。したがって、労働契約や就業規則は労働協約に反することはできません(労働組合法第 16 条、労働基準法第 92 条、労働契約法第 13 条)。
労働協約が締結されますと、当事者である労働者や労働組合、使用者を拘束することになりますから、労働協約の締結によって労働条件や労使関係、ある
第 1 部 基本編 −労働協約とは− 1
いは企業経営にどのような影響が生じるのかということを労使双方があらかじめ知っておかなければなりません。
労働組合の目的は、端的にいいますと労働協約の締結にあるといえます。いったん労働協約が締結されますと、労働者にはその有効期間中は一定の労働条件が維持確保されますので、その間は安心して働くことができます。また使用者にとっても、その有効期間中は企業の平和が維持され労使関係が安定することになりますから、労働協約は労使双方にとって有意義なものといえます。
2 労働協約を結ぶときの留意点
(1)合意に達したものから一つずつ締結を図る
労働協約は、 組合員の労働条件やその他についての労使の自主的な合意ですから、 何をどのように約束するかは当事者の自由です。したがって、 特に難しく考える必要はなく、 労使が当面必要と思われる事項を順次締結していけばよいわけです。
労働協約のない状態から、一気にすべての事項を網羅した包括労働協約を締結するのは大変なことです。もちろん、組合員の労働条件や組合と使用者との約束すべてが含まれた労働協約を結ぶのは理想ですが、それに至るには長い時間と交渉の積み重ねを必要とするでしょう。
労使の間で合意に達した部分があっても、他の問題が合意に達しないため、労働協約の締結が延び延びになっている例もみられます。そのようなことがないように、合意に達した部分を個別的に締結し、順次積み重ねていく方法がよいでしょう。
また、なかには団体交渉それ自体円滑に開かれないといったところもあるようです。そのようなところでは、少なくとも団体交渉のルールだけでも初めに決めておくようにしましょう。
(2)段階的に内容を向上させていく
労働協約の内容を質的に高めていくことは、労働組合にとって大切なことですが、理想的な労働条件や人事条項等は組合結成後すぐに得られるというものではないでしょう。それらは、日ごろから熱心な活動を続け、組合活動の活発化を通して労使関係の近代化を図りつつ達成していくものです。
したがって、初めはあまり背伸びせず、組合や使用者の置かれた状況をよく考え、現時点で可能なものから協約化し、その上に立って順次内容を改善し、
2 第 1 部 基本編 −労働協約とは−
充実させていくのがよいでしょう。
(3)組合員の最も関心の深い事項から規定化する
組合員が日常職場で関心を寄せるものとしては、賃金、賞与、退職金、労働時間、休日、休暇等があげられます。これら組合員の労働条件に関することのほか、組合活動、団体交渉、組合事務所の貸与といった労使間のルールを明らかにしておくことから始めます。
(4)労働協約はあくまで相互協定、互譲の精神を忘れないように
労働協約は、労働条件を中心とする労使交渉の結果締結されるものですから、譲歩できる範囲で双方の妥協がなければなりません。
一方的な主張を無理に通すことなく、相手の立場を十分尊重して、譲るべきときは譲るようにして信頼関係を築きます。
(5)実効性のある労働協約締結に努め、規定は明確にする
労働協約締結の交渉にあたっては、実務的に個々の具体的条項について権利、義務を明らかにしていきます。
条項の規定は明確な用語により表現することを心がけ、後日解釈をめぐってトラブルのないようにします。
また補足する必要がある場合は、その都度「了解事項」を入れるか、別に「覚書」「付属書」などを作ることもよいでしょう。
(6)労働協約の内容をよく組合員に知らせる
労働協約は、組合員個人の労働契約の内容になるものですから、労働協約の内容がどのようなものか、組合員一人ひとりによく知ってもらうことが大切です。
そうしますと、組合員からそれについて様々な意見が出てきますし、そのことがさらに労働協約改訂へのエネルギーにもなってくるでしょう。
第 1 部 基本編 −労働協約とは− 3
第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
1 労働協約の締結形式
(1)名 称
労働協約はどのような名称を使用してもよく、一般に「労働協約書」「労使協定」 「合意書」 「覚書」 「確認書」 などとすることが多いようですが、タイトルがなくても、労使間の合意により結ばれたものであれば労働協約となります。
(2)体 裁
労働協約は必ずしも包括労働協約として一本にする必要はなく、特別の事情のないかぎり、その都度できるところから個別労働協約として結んでおいてかまいません。もとより個別労働協約といいましても、包括労働協約との間に効力の違いがあるわけではありません。
なお、内容は一般組合員にもわかりやすくする必要があります。
(3)形 式
労働組合法上、労働協約が有効に成立するためには、団体交渉で合意に達した事項を書面に作成し、両当事者が署名又は記名押印しなければなりません
(労働組合法第14 条)。この場合、署名又は記名押印する者は、その労働協約を締結する権限を有する者でなければならず、労働組合側は執行委員長、使用者側は事業主あるいは代表権を持つ取締役が署名又は記名押印するのが通常です。
書面にしなかったものや署名又は記名押印がないものも直ちに効力がないとは言えませんが、後でトラブルが生じないようにするためにも、必ず 1 つの書面にして署名又は記名押印をしておくことをお勧めします(都南自動車教習所事件・最三小判平 13.3.13)。
なお、交渉で合意が成立したにもかかわらず、理由なく、書面にすることや署名又は記名押印を拒むといったことは、不当労働行為になる可能性があります(アジア金属工業事件・大阪地労委昭 61.9.12 命令)。合理的な理由がないにもかかわらずそのようなことをしますとトラブルが生じますし、組合の団結権を侵害することにもなりかねません。
(4)期 間
労働協約に有効期間を定めるかどうかは自由ですが、期間を定める場合、労働組合法では 3 年を超える有効期間を定めることはできません。3 年を超える
4 第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
有効期間を定めた労働協約は、3 年の有効期間を定めたものとみなされます(労働組合法第 15 条第 1 項、 第 2 項)。
有効期間を定めなかったときは、期間の定めのない労働協約となります。期間の定めのない労働協約は、当事者の一方が、解約しようとする日の少なくとも 90 日前に署名又は記名押印した文書で相手方に予告すれば、解約することができます(労働組合法第 15 条第 3 項、 第 4 項)。
一定の期間を定めたもので、その期間経過後、期限を定めず効力を存続させる旨の定めをしたものについては、期間経過後は期間の定めのない労働協約と同様に取扱われます。
なお、厚生労働省の労働協約等実態調査(平成 23 年)によりますと、包括労働協約の有効期間を 1 年以下とするものが 41.9%、1 年をこえ 3 年未満とするものが 17.9%、3 年とするものが 4.5%、期間の定めがないとするものが 35.7%となっています。
2 労働協約の締結当事者
労働協約の締結当事者となるためには、労働協約の締結能力を持っていなければなりません。
(1)労働者側は労働組合とその連合団体
労働組合法第 2 条本文は、労働組合を「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」としています。したがって、労働者側の当事者となる労働組合は、使用者から独立した自主的な組合であることが必要です。
ただし、この「自主性」はかなり緩やかに解釈されていますので、使用者などの主導で組織され完全に独立性・自主性を失っているいわゆる御用組合でない限り、ほとんどの労働組合に労働協約の締結能力が認められるでしょう。
また、個々の労働組合(単組)はもちろんのこと、個々の労働組合を直接構成員としている連合団体にも労働協約の締結能力があります。中小企業に多く見られる個人加盟のいわゆる「合同労組」あるいは「ユニオン」などにも労働協約締結能力があるということになります。
(2)使用者側はその使用者とその団体
使用者が労働協約の締結当事者となることは当然のことですが、使用者団体
第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで− 5
も当事者となることができます(労働組合法第 14 条)。しかし、親睦を主な目的とした使用者団体は、当事者となり得ません。ここでいう当事者となり得る使用者団体とは、労働組合と団体交渉を行い、労働協約を締結することを主な目的(定款・約款・規約に明記)として組織されている団体です。
一般的にこれらの使用者団体は、その都度各使用者から委任を受け、交渉を始める前に使用者を代表していることを労働組合に伝え、当事者及び相手方双方が確認した後、交渉に入ります。
なお、中小企業等協同組合法及び中小企業団体の組織に関する法律に基づいて設立された事業協同組合、協同組合連合会、商工組合等については、これらの団体加盟組合員の従業員で結成されている労働組合とその労働条件について団体交渉を行い、又は労働協約を締結することが認められています(昭和
36.12.1 労発第 192 号)。
3 労働協約の内容
労働協約に定めるものは、主として労働条件その他労使関係全般に関する事項で、法令や公序良俗に反しないかぎリ、その内容をどのように決めるかは当事者の自由です。
労働協約の内容を大きく分類しますと、賃金、労働時間、休日、休暇などの労働条件その他の労働者の待遇に関する基準を定めたいわゆる「規範的部分」と、組合活動に関すること、団体交渉に関すること、争議に関することなどもっぱら労働組合と使用者の関係を定めたいわゆる「債務的部分」に分けられます。
労働協約で取り決められる事項を例示すると、おおむね次のようになります。
1 前文又は序文
2 総則に関する条項
(1) 労働協約の目的
(2) 労働協約の適用範囲
(3) 組合員の範囲
(4) ショップ制
(5) 経営権と労働権に関すること
3 組合活動に関する条項
(1) 就業時間中の組合活動(賃金の取扱いなど)
(2) 会社施設の利用(組合事務所、備品、掲示板など)
6 第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
(3) 組合専従者
(4) チェックオフ(組合費天引き)
4 人事に関する条項
(1) 人事原則
(2) 採用
(3) 人事異動(転勤、出向)
(4) 解雇・雇止め
(5) 賞罰・懲戒
(6) 退職(定年制、継続雇用制度)
(7) 休職・復職
(8) 教育又は研修
5 労働条件に関する条項
(1) 総則
(2) 賃金(賃金、退職金、賞与(一時金)、昇給の基準など)
(3) 労働時間(所定労働時間、休憩時間、交替制、フレックスタイム制、変形労働時間制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働時間制、時間外及び休日労働など)
(4) 休日(休日の振替、代休、公民権行使)
(5) 休暇(年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休業、特別休暇、育児時間、欠勤など)
(6) 育児休業・介護休業
(7) 宿日直
(8) 出張
(9) 配置転換、出向
6 災害補償に関する条項
(1) 療養補償
(2) 休業補償
(3) 傷病補償
(4) 障害補償
(5) 遺族補償
(6) 葬祭料
7 安全衛生に関する条項
(1) 安全衛生の措置
(2) 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、作業主任者、産業医、
第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで− 7
安全衛生推進者等
(3)災害予防
(4)安全施設
(5)安全衛生教育
(6)安全委員会、衛生委員会
(7)健康診断
(8)病弱者の就業禁止等
8 福利厚生に関する条項
(1)福利厚生施設
(2)施設の利用
(3)生活及び住宅融資
(4)慶弔見舞金
9 苦情処理に関する条項
(1)苦情処理手続き
(2)苦情の範囲
(3)苦情処理委員会(仲裁及び団体交渉との関連)
10 労使協議制に関する条項
(1)労使協議会(経営協議会又は労働協議会)
(2)設置の趣旨
(3)構成及び運営
(4)付議事項
(5)専門委員会
11 団体交渉に関する条項
(1)団体交渉の原則及び交渉義務(唯一交渉団体)
(2)交渉事項
(3)交渉機関
(4)交渉担当者
(5)交渉手続きとその方式
(6)交渉時間
(7)傍聴者及び公開・非公開
12 平和条項
(1)平和義務
(2)争議調整条項
(3)労働委員会等第三者あっせん・調停・仲裁
8 第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
13 争議行為に関する条項
(1)争議行為の予告
(2)争議行為不参加者(休暇、欠勤の取扱い)
(3)代替要員雇入れ禁止
(4)争議中の団体交渉
(5)争議中の賃金不払い
(6)保安要員
(7)争議中の会社施設の利用
(8)その他争議行為に関する事項
14 効力
(1)疑義の取扱い
(2)協議中の適用
(3)有効期間(改廃手続)
(4)自動更新・自動延長
(5)労働協約の終了
15 附則
(1)労働協約締結日及び締結者
(2)了解事項
4 労働協約締結の効果
労働協約は、前にも説明しましたが、組合員の労働条件その他労使関係に関して労使で合意に達した事項を書面にしたものです。ここでは、労働協約を締結した場合、どのような効果が生じるのかを考えてみます。
(1)規範的効力と債務的効力
一般に、賃金や労働時間などの「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」を定めた部分を労働協約の「規範的部分」といい、労働組合法上特別の効力が与えられています。すなわち、労働協約に定められた基準が就業規則や労働契約などで決められた基準よりも優先し、使用者は労働協約で決められた基準を遵守しなければならないというものです。このような効力を、一般に労働協約の規範的効力といいます(労働組合法第 16 条)。
具体的には賃金、退職金、労働時間、休日、休暇、安全衛生、災害補償、人事異動、昇進、賞罰、福利厚生などを定めた部分が規範的部分に当たります。
第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで− 9
これに対して、労働組合と使用者の関係を定めた部分を労働協約の「債務的部分」といい、労使協議制、団体交渉のルール、平和条項、争議行為等、組合活動や団体交渉などに関する労使間の約束ごとを定めた部分がこれに当たります。債務的部分については、労使双方ともこれを誠実に遵守しなければなりません。
(2)労働協約の拡張適用
ア 事業場単位の一般的拘束力
労働協約は、原則としてそれを締結した労働組合の組合員にのみ適用されます。しかし、労働者が全て組合員であるとは限りません。何らかの事情で労働組合に加入していない場合もあります。それらの労働者の存在によって、労働組合の団結が侵されることを防止するため、一の工場事業場において、同種の多数労働者の組織する労働組合の締結した労働協約に基づき、労働条件の統一を図り、その結果として、労使間の紛争の防止及び少数労働者の労働条件の保護をも期待できると考えられます。
そのようなことから労働組合法第 17 条は、一定の要件を満たした多数労働者の組織する労働組合が締結した労働協約は、その組合の組合員以外の労働者にも自動的に拡張適用されるとしています。この効力を、労働協約の一般的拘束力といいます。
一定の要件とは、「一工場もしくは事業場に常時使用される同種の労働者の 4 分の 3 以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったとき」をいいます。一般的に企業内組合でしたら、工場もしくは事業場ごとに一般の労働者のなかで組合員が 4 分の 3 以上いるかどうか計算することになります。拡張適用は、継続的に使用され、作業の態様等から実態的に常時使用される同種の労働者と同じと認められる契約社員などの非正規社員にも及びます。
なお、拡張適用されるのは、労働協約の「規範的部分」と呼ばれる労働条件その他の労働者の待遇に関する基準の部分だけで、組合と使用者の関係を定めた「債務的部分」については効力が及びません。
イ 地域的な一般的拘束力
労働組合法第 18 条は、「一の地域において従事する同種の労働者の大部分が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該労働協約の当事者の双方又は一方の申立てに基づき、労働委員会の決議により、厚生労働大臣又は
10 第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
都道府県知事は、当該地域において従事する他の同種の労働者及びその使用者も当該労働協約の適用を受けるべきことの決定をすることができる」としています。
つまり、ある一定地域の大多数の労働者が同じ労働条件で雇用されるに 至ったときは、その労働条件が一つの工場事業場を超えて、その地域全体の労働者にも拡張適用されるというものです。
5 労働協約の有効期間
労働協約に有効期間を定めるかどうか、また、定めるとしたらそれをどのくらいの期間にするかは、当事者の自由です。
一般的に労使関係は、労働協約の有効期間が長ければ長いほど、長期にわたり安定しますが、その反面、あまり長すぎますと、経済情勢や企業経営の変化に対応できなくなることがあります。
労働組合法では、3 年を超える有効期間を定めることはできないとしています。また、3 年を超える有効期間の定めをした労働協約は、3 年の有効期間の定めをしたとみなされます(労働組合法第 15 条第 1 項、 第 2 項)。
規定例
(有効期間)
○ この協約の有効期間は、平成○○年○○月○○日から平成○○年
○○月○○日までとする。ただし有効期間中であっても、双方合意の上で改訂することができる。
(改廃の手続)
○ この協約の期間満了に際して、会社又は組合いずれか一方がこの協約を改廃しようとするときは、期間満了日の 1 ヶ月前までに文書を添えて申し入れることとする。
(1)自動延長
労働協約は、有効期間の定めをした場合、有効期間の満了により失効しますが、新しい労働協約が結ばれるまでの間、無協約の状態にならないよう有効期間を延長して効力を存続させようというのが、自動延長条項です。
労働協約の自動延長には、期間の定めがあるものとないものとがあります。
第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
11
ア 期間の定めがある自動延長
労働協約の有効期間満了後も一定の期間を限ってその効力を延長する旨の定めをしたときは、延長後の労働協約は期間の定めのある労働協約となります。この場合、元の有効期間と合わせて 3 年を超えることができません。
延長された労働協約は、延長期間が満了すれば当然に失効します。
規定例
○ この協約の期間満了に際して、会社又は組合いずれか一方がこの協約の改定をしようとする場合に、労使協議会または団体交渉において協議もしくは交渉しても、協定が成立しないときは、○ヶ月に限ってこの協約が引き続き効力を有するものとする。
イ 期間の定めがない自動延長
労働協約の期間満了後、期限を定めないでその効力を延長するというのが、期間の定めのない自動延長条項です。
この協定によって延長された労働協約は、延長期間に入った後は期間の定めがない労働協約と同様の取扱いを受けますので、当事者のいずれか一方は、署名又は記名押印した文書で解約しようとする日の少なくとも 90 日前に予 告することで解約できることになります(労働組合法第15 条第3 項、第4 項)。
(2)自動更新
労働協約の内容について労使ともに改廃を希望しない場合、有効期間が満了した労働協約と同じものを、再度新たな労働協約として発足させようというのが自動更新協定です。
自動更新においては、労働協約の内容は以前と少しも変わりませんが、形式上は別の労働協約が新たに締結されたものとみなされます。この点が自動延長と異なります。
なお、更新後の労働協約について、有効期間を定めるものと定めないものがあります。
規定例(1)
○ この協約の期間満了日の○ヶ月前までに、会社、組合とも改廃の申入れをせず期間が満了したときは、この協約はさらに 1 か年間の
12 第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
期間を限って更新されたものとみなし、2 年目以後はこれを繰り返す。
ただしこの場合、会社、組合双方が更新期日を記入し、記名押印するものとする。
規定例(2)
○ 本労働協約は、有効期間満了日の○ヶ月前までに一方の当事者から更新をしない旨の文書による通告がない場合には、さらに同一の期間更新するものとする。
6 労働協約の承継・存続
(1)合併と労働協約
合併とは、2 つ以上の会社が契約により 1 つの会社になることです。合併には、すべての会社が解散し同時に新たな会社を設立する新設合併と、1 つの会社が存続して他の解散する会社を吸収する吸収合併があります。
合併では、新設合併であれ吸収合併であれ、合併前のすべての会社の権利義務がそのまま包括的に合併後の会社(吸収合併存続会社ないし新設合併設立会社)に承継されますので(会社法第 750 条第 1 項、 第 754 条第 1 項)、合併前の会社と労働組合の間で締結されていた労働協約も合併後の会社に承継されます。
ただし、その結果、合併後の会社の中で複数の異なる労働条件が併存する可能性が出てきますので、その場合は併存状態を解消するために一定の時間をかけて労働条件の調整が行われるのが通常です。
(2)会社分割と労働協約
会社分割とは、1 つの会社を 2 つ以上の会社に分けることを言います。
会社分割には、分割する会社(分割会社)がその営業の全部又は一部を、分割 により新たに設立した会社(新設分割設立会社)に承継させる新設分割と、すでに存在する他の会社(吸収分割承継会社)に承継させる吸収分割があります。会社分割では、新設分割計画ないし吸収分割契約に定めた権利義務が、分割 後の会社(新設分割設立会社ないし吸収分割承継会社)にそのまま承継されま
す。
第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
13
会社分割に伴う労働協約の承継などについては、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第 6 条が定めています。組合員が 1 人でも分割後の会社に承継される場合は、その組合員が属する労働組合と分割会社との間で締結されている労働協約と同一内容の労働協約が、分割後の会社との間で締結されたものとみなされますので(第 3 項)、その結果従来の労働協約がすべてそのまま維持されることになります。そうでない場合も、分割会社が従来の労働協約のうち承継させる部分を分割契約などに記載して承継させることができますし
(第 1 項)、労働組合との合意によって組合事務所貸与などの債務的部分を承継させることもできます(第 2 項)。その結果、分割後の会社の中で複数の異なる労働条件が併存する可能性があることは、合併と同じです。
なお、賃金の一部控除に関する労使協定(労働基準法第 24 条)や時間外・休日労働に関する労使協定(同法第 36 条)などについては、会社分割の前後で事業場の同一性が認められる場合に、引き続き有効となります(分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針 平成 18 年厚生労働省告示第 343 号)。
(3)事業譲渡と労働協約
会社の事業の全部又は一部の譲渡(会社法第 467 条)の場合に、譲渡元会社と労働組合との間で締結されていた労働協約が譲渡先会社に承継されるかについては、特約(特別の合意)がない限り承継を否定する見解もありますが、労働組合としては、譲渡の前後で事業の実質的な同一性が認められる限り、譲渡先会社に労働協約も承継されると主張していくべきでしょう。
(4)会社買収と労働協約
最近では、投資ファンドや競合会社が、ある会社の株式を取得し、その会社を買収して経営権を握る事例が頻繁に見られるようになりました。
法的に見ると、株式取得による会社買収がなされても、株主の交代があるだけであり、買収された会社は法人として従来どおりそのまま存続しており、使用者としては変更がありません。したがって、株式取得による会社買収があっても、それまでの労働者と会社との労働契約だけでなく、労働組合と会社との間で締結されている労働協約も、適正な手続により変更しない限りは、その効力は変わらないことになります。
ただし、株式を大量に取得されるような会社は業績が悪化していることが多
14 第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
く、そのような会社を買収しようというのですから、買収する側は、買収後それまであった労働協約などを無視、または軽視して、利潤を上げるための大幅なコスト削減、労働条件の切下げやリストラを行ってくることもあります。そこで、労働協約については、90 日前の予告で短期間に解約されないよう有効期間を定め、自動更新条項(前記 5 の(2 )も入れておくとか、暫定効力条項(後記 7 の(4 )を入れておくなどの対応が必要になります。
(5)倒産法制と労働協約ア 民事再生
民事再生手続後も会社は存続していますので、民事再生手続に入ったからといって労働協約が失効するわけではありません。また、労働協約は契約解除権の対象から除外されていますので(民事再生法第 49 条第 3 項)、民事再生手続に入ったからという理由で労働協約が解約されることはありません。
ただし、有効期間の定めのない労働協約については、90 日前の予告で解約されることはあります(労働組合法第 15 条第 3 項、第 4 項)。したがって、有効期間を定め、自動更新条項も入れておくなどの対処が必要です。
イ 会社更生
会社更生手続後も会社は存続しており、労働協約は管財人の契約解除権の対象から除外されていますので(会社更生法第 61 条第 3 項)、管財人が会社更生手続に入ったからという理由で労働協約を解約することはできません。
ただし、有効期間の定めのない労働協約については、90 日前の予告で解約されることがあること(労働組合法第 15 条第 3 項、 第 4 項)は、民事再生と同じです。
ウ 破産
破産手続開始決定後も、手続が終了するまで会社は存続しますので、破 産したからといって当然に労働協約が失効するわけではありませんが、破 産の場合は民事再生のような契約解除権からの除外の条文がないため、破産管財人は労働協約を解約できるとされています(破産法第 53 条)。
第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
15
7 労働協約の終了
労働協約は、次の場合にその効力が失われます。
(1)有効期間の満了
労働協約に有効期間を定める場合は、3 年を超えることができません。労働協約に有効期間を定めた場合、その有効期間の満了によって効力が失われます。ただし、前に述べました自動延長や自動更新を定める場合は別です。
(2)解 約
労働協約の解約とは、当事者の一方的意思表示によって、労働協約の効力を将来に向かって消滅させることをいいます。
ア 有効期間の定めのない労働協約の解約
有効期間を定めていない労働協約や、期間の定めがない自動延長中の労働協約については、労働協約を締結した者(当事者)の一方が、代表者の署名又は記名押印のある文書によって、少なくとも 90 日前に相手方に予告することにより、その効力を将来に向かって消滅させる(解約)ことができます
(労働組合法第 15 条第 3 項、 第 4 項)。
イ 労働協約違反を理由とする解約
労働協約を存続させることが期待できないほど重大な義務違反が一方の当事者にあり、労働協約の存続が無意味になったような場合には、他方の当事者は解約することが可能です。
ウ 事情変更による解約
労働協約締結時に予測することができないほど事情が変わった場合、労働協約を遵守することが不公平かつ不適当になる場合があります。客観的にそのようなことが認められるとき、事情変更の原則により労働協約を解約することが可能とされています。
(3)当事者の変更・消滅
当事者の変更・消滅は、一般に既存の労働協約の存続に影響を与えます。 労働協約締結当事者のどちらか一方の変更・消滅により、労働協約が効力を
16 第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
失うこともあります。
労働組合については、連合体から単組へなどの組織変更の場合は、旧組織と新組織の間に同一性が認められる限り、労働協約は維持されます。組織合同の場合も基本的に労働協約は承継されると考えるべきでしょう。また、労働組合の解散の場合は、清算手続終了によって労働協約も消滅します。
使用者については、「6 労働協約の承継・存続」で述べた場合のほか、合同会社を株式会社にするなどの組織変更の場合は、実質的な同一性は失われていませんので労働協約は存続しますが、会社解散の場合は、清算手続が終了すれば労働協約も消滅することになります。
(4)労働協約失効後の効力
労働協約が有効期間満了によって終了した場合、その労働協約は失効します。そこで、次のような暫定効力条項を協約に入れておくことが望まれます。
規定例
(暫定的効力)
○ 本労働協約が期間満了により失効した場合、新たな労働協約が締結されるまでの間は、本労働協約に定める事項については、本協約の基準による。
このような暫定効力条項がない場合、労働協約が有効期間の満了やその他の 理由で終了した後の労働関係がどうなるかについては、難しい問題があります。労働協約が失効した場合でも、それまで労働協約によって規律されていた 個々の労働契約の内容は存続するとの余後効という考え方もありますが、労働組合法では余後効について何も定めていません。学説、判例ではいろいろと解釈されていますが、一時的に無協約の状態になったからといって、それまでの労働条件がまったく空白になってしまうとの考え方は少数であり、多くは当事者の合理的意思解釈や就業規則などによってその空白を補充するべく解釈し、
妥当な解決を図ろうとしています。
余後効の対象、または対象となるのは、労働者の待遇に関する基準を定めた規範的部分だけで、労働組合と使用者の関係を定めた債務的部分には及びません。
第 1 部 基本編 −労働協約の締結から終了まで−
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第2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
1 前文
労働協約には、通常前文が置かれます。前文は、単に締結当事者の名称を書くだけのものから、労働協約を締結した理由、経過、目的や趣旨を載せるものまでいろいろあります。最近では、当事者の名称を書くだけで済ませる簡単な労働協約が多いようです。
なお、労働組合が上部団体に加入している場合は、その上部団体の名称も載せておくのが一般的です。
規定例(1)
○ △△会社と○○労働組合は、次のとおり労働協約を締結しこれを履行する。
規定例(2)
○ △△会社と○○労働組合○○支部○○分会は、相協力して企業の発展と労働条件の維持改善を図るため、次の労働協約を締結する。
2 総則的部分
一般に、労働協約の構成としては、前文の次に労働協約全体に関するものとして「総則」が置かれます。総則の中で何を定めるかは自由ですが、比較的多い内容としては、労働協約の適用範囲、ショップ制、組合員の範囲、唯一交渉団体条項に関する事項などがあげられます。
規定例
○ この協約は、就業規則その他会社と従業員間におけるすべての協定又は契約に優先する。
○ △△会社は、○○組合員であること、あるいは組合活動を行ったことを理由に、○○組合員に対し不利益な取扱いをしない。
○ △△会社は、○○組合員の労働条件につき、国籍、信条、性別、学歴等により差別的取扱いをしない。
○ △△会社は、○○組合員の雇用の維持に努力する。
18 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
○ △△会社は、○○組合員の生活の安定を促進するよう努力するとともに、労働条件の維持改善を図るものとする。
(1)団体交渉の主体
労働組合には固有の団体交渉権がありますから、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒めば不当労働行為になります(労働組合法第 7 条第 2 号)。
いわゆる唯一交渉団体条項として「△△会社は○○労働組合を唯一の交渉団体として認める」といった規定の仕方をとっている例がみられますが、実際にはこの条項を結んでいても、当該労働組合が加入している上部団体や他の労働組合から団体交渉を申し込まれた場合、使用者はこれを拒むことはできません。このような条項は、法律上特別な意味をもつものではありませんから、それは単に唯一の労働組合として尊重してもらうという取り決めを結んだ程度のものと見た方が妥当でしょう。
また、第三者に交渉を委任しない旨の条項を定めていても、労働組合が上部団体等の役員等に交渉を委任して行う場合(委任した者の交渉権を明らかにする必要があります)には、やはり使用者はこれを拒むことはできません。
規定例(1)
○ △△会社は、組合が従業員を代表する唯一の労働組合であることを認め、交渉は組合並びに組合の委任した者とのみ行う。
規定例(2)
○ △△会社は、組合が会社における従業員の利益を代表する唯一の交渉団体であることを確認する。
ただし、会社と組合は、必要に応じて相手方の加盟する団体と交渉することができる。
(2)労働協約の適用範囲
労働協約は、組合員のために結ぶのですから、当該組合員のみに適用され、非組合員には原則として適用されません。
したがって、労働協約で適用範囲を定める必要はないように思えますが、 ショップ制をとっている場合には組合員でない者(組合に加入できない者)の取扱いが問題となるため、あらかじめ組合員の範囲と関連して労働協約の適用
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
19
範囲を定めるものが多いようです。
なお、労働協約は非組合員には適用されませんが、例外として労働組合法第 17 条は、「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の 4 分の 3 以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、 当該労働協約が適用される」 としています。
名称は契約社員、パートでも、継続的に使用され、作業の態様等から実態的に正社員と同じと認められる者は、「常時使用される同一労働の労働者」とみなされ、これらの労働者にも労働協約は適用されます。
規定例(1)
○ この協約は、△△会社の従業員である組合員に適用する。
規定例(2)
○ この協約は、次の各号の一に定める者を除き、△△会社の全従業員に適用する。
1 非常勤嘱託
2 日日雇い入れられる者
3 2 ヶ月以内の期間を定めて使用されるもの
4 季節的業務に 4 ヶ月以内の期間を定めて使用される者
5 試用期間中の者
(3)組合員の範囲
組合員の範囲は、労働組合が自主的に組合規約の中で決めることができますから、そのことを使用者と話し合う必要はありません。
概して、警備員、パンチャー、コールセンター社員などを労働協約の中で非組合員と扱っている例がみられます。確かに、これら労働者は争議のとき保安要員などとして争議に参加しないことがあるでしょう。しかし、そのことのみを理由に初めから組合員にしないというのではなく、労働協約の特例とするか、又は争議不参加条項として別に協定しておく方が適当でしょう。
ところで、組合員の範囲について使用者から「組合員は会社の従業員でなければならない」という内容の提案が反対に出されることがあります。いわゆる「逆しめつけ」と呼ばれるものです。しかし、組合員は労働者であればよく、会社の従業員でなくてもかまいません。そのような提案がなされた場合には十
20 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
分検討する必要があります。そもそも、組合員の範囲は労働組合が自主的に決定できることであり、それに使用者が干渉すること自体、労働組合の自主的運営に対する支配介入(労働組合法第 7 条第 3 号)になりえます。
なお、労働組合法第 2 条但書第 1 号では、組合員になれない者を次のように定めています。
(1)会社役員
(2)雇入、解雇、昇進又は異動に関して直接の権限をもつ監督的地位にある労働者
(3)使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接に抵触する監督的地位にある労働者
(4)その他使用者の利益を代表する者
したがって、これらの者の参加を許す労働組合は、労働組合法上の労働組合ということはできませんので、同法が創設した法的保護を享受し得ないということになります。
規定例
○ ○○労働組合の組合員は、次の者を除く会社の従業員とする。
1 ○○以上の職にある者
2 人事並びに労働条件の決定に関して直接の権限をもつ者
3 その他組合と会社が協議し、決定した者
(4)ショップ制(「Shop =職場・仕事場」に働く者を組合員に限定するかどうかの定め)
ショップ制には、オープン・ショップ制、ユニオン・ショップ制、クローズド・ショップ制などがあります。これらのショップ制については以下で説明しますが、アメリカでは非組合員にも組合費相当分を会費として労働組合に納入させるというエージェンシー・ショップ制というものもあります。
ア オープン・ショップ制
労働組合への加入、脱退が自由なショップ制を、オープン・ショップ制といいます。オープン・ショップ制については労働協約の中で積極的に定めている例もみられますが、ショップ制について何も定めていないところは、オープン・ショップ制を採用しているということになります。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
21
労働組合を脱退したり除名された場合でも、そのことを理由に解雇されることがない点を、他のショップ制と対比してこう呼んでいます。
規定例
(オープン・ショップ制)
○ 会社の従業員は、組合に加入し、もしくは加入しない自由をもつ。
イ ユニオン・ショップ制
ユニオン・ショップ制とは、労働組合法第 2 条但書第 1 号に該当する労働者を除き、必ず労働組合の組合員でなければならないとするものです。 労働組合に加入しなかった場合、あるいは労働組合を脱退したり除名された場合、使用者がその労働者を解雇する旨を約束した労使協定を、ユニオン・ショップ協定といいます。
ユニオン・ショップ制は、労働組合の団結を強化するための手段として認められているものですが、ユニオン・ショップ制だけで労働組合の団結が強化されるものではありません。労働組合本来の活動を通してこそ、労働組合の維持強化が図れるのです。
ユニオン・ショップ協定を結ぶことができる労働組合は、その工場事業場の労働者の過半数で組織されている組合であることが必要です(労働組合法第 7 条第 1 号但書参照)。そして、その労働組合が労働組合法第 2 条、第 5条に規定するような自主的・民主的な組合であれば、労働者個人が持つ「団結に加わらない自由」と衝突するとしても、高次の団結権を擁護する必要からユニオン・ショップ協定の効果として、使用者がその労働組合からの脱退者・除名者を解雇することは一般に有効とされています。
わが国では、ユニオン・ショップ協定を結んでいるところが多くみられますが、その定め方は様々です。労働組合を脱退または除名された場合、原則として使用者はその者を解雇しますが、解雇を不適当と認めた場合、あるいは会社業務に重大な支障があるという場合は労働組合と協議する、といったいわゆる「尻抜けユニオン」と呼ばれるものも多く見られます。もっとも、
「協議する」としても、使用者は組合員の除名の方法その他労働組合の内部運営についてまで立ち入ることができないので、結局その労働者を解雇することによって受ける不利益がどれほどかが労使の間で検討されることになります。
また、ユニオン・ショップ協定を結んだ労働組合の組合員が一つの工場も
22 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
しくは事業場における労働者の過半数を割った場合は、一般にその効力が失われるとされます。また、二つの組合が併存する場合、締結したユニオン・ショップ協定の効力は他の組合には及びません。
規定例
(ユニオン・ショップ制)
○ △△会社の社員は、すべて組合員でなければならない。
△△会社は、組合より除名された者、組合に加入しない者、組合を脱退した者を○ヶ月以内に解雇する。
○ △△会社の社員は組合員でなければならない。
○ 組合から除名された者は、△△会社がこれを解雇する。
○ △△会社は、組合を除名された社員及び組合に加入しない社員を直ちに解雇する。ただし、△△会社が業務上支障があると認めた場合には、会社は組合と協議してこれを決定する。
○ 組合から除名された社員の処置については、組合と協議して△△会社がこれを決定する。
○ 組合が除名した者の解雇については、△△会社はその者の雇用継続の適否を検討の上これを決定する。
ウ クローズド・ショップ制
使用者は、労働組合に加入している労働者しか採用せず、組合員資格を失った者を解雇するというショップ制を、クローズド・ショップ制といいます。クローズド・ショップ制は、従業員を当該組合員の中から採用しなければ ならないという点で、ユニオン・ショップ制よりも使用者にとって一層条件
の厳しいものといえます。
クローズド・ショップ制は、労働組合が労働力の供給を独占する形でその維持強化を図ろうとする趣旨のものですが、わが国のように多くの労働組合が企業別に組織されているところでは、締結の例がきわめて少ないのが現状です。
規定例
(クローズド・ショップ制)
○ △△会社は○○組合の組合員でなければ採用せず、組合員の資格を失った者は解雇する。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
23
3 組合活動に関する条項
組合活動に関する条項としては、就業時間中の組合活動、会社施設の利用、組合専従者の取扱いなどがあります。
(1)就業時間中の組合活動
わが国の労働組合は、主として企業ごとに組織されているため、日常の組合活動は通常職場内で行われることになります。
労働組合が就業時間中に職場内で組合活動を行う場合は、原則として使用者の許可、同意を得なければなりませんが、その都度協議していたのでは労使ともに不便ですので、慣行として認められている事項については、組合活動条項として労働協約の中でその範囲を明らかにし、臨時的、不確定なものについては、その都度協議していくようにするとよいでしょう。
就業時間中の組合活動の規定の仕方としては、個々に了解を得なくてはならないとするものから、届出だけで足りるとするものまでいろいろ考えられます。実際の規定例では、「組合活動は原則として就業時間外に行う。ただし、次の 場合はこの限りでない」として、就業時間内に行えるものを事項別に定めるものが多いようです。就業時間中の組合活動は、程度の差こそあれ多くの労使の間で認められているのが現状です。
なお、就業時間中の組合活動については、原則として使用者は賃金を支払うことができませんが、労働組合法第 7 条第 3 号但書では、例外として、労使間の交渉協議のために行う就業時間中の組合活動に対しては、賃金を支払っても経費援助にはならないとしています。
もっとも、就業時間中の組合活動については、賃金が支払われたからといって労働組合の自主性が直ちに失われるわけではありませんから、労働組合の自主性を失わない範囲で、ケースバイケースで個々の組合活動についてその取扱いを労使の間で協議決定することになります。
24 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
規定例(1)
(組合活動の自由)
○ △△会社は、組合員の組合活動の自由を認め、組合員が組合活動を行ったことを理由に何ら不利益な取扱いをしない。
(就業時間中の組合活動)
○ ○○組合員の組合活動は、原則として就業時間中は行わない。ただし、次の各号の一に該当する場合はこの限りではない。
1 団体交渉および労使協議会その他会社と組合で行うすべての会議に構成員が出席するとき
2 苦情処理に必要な調査その他の活動を行うとき
3 ○○組合規約による正規の機関の会議に出席するとき
4 ○○組合の加盟団体に組合員を派遣し、またはその諸会議に構成員が出席するとき
5 その他、組合活動のために組合が必要と認め事前に会社へ届け出たとき
(離席のための届出)
○ ○○組合員が前条の組合活動のため職務を離れるとき、組合は事前に会社へ届け出ることとする。
(組合活動中の賃金)
○ 第○条に基づいて組合活動を行うときは、次の通りとする。第○項及び第○項については、その時間の賃金を支払う。
第○項より第○項については、特に協議決定したときを除き無給とするが出勤扱いとする。
規定例(2)
(就業時間中の有給の組合活動)
○ 組合活動は、原則として就業時間外に行う。ただし、次の各号に該当する場合は、就業時間内に行うことができる。
1 協約上で定められた各種委員会、各種専門協議会への出席並びにその業務
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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2 苦情解決のための世話役活動
3 行政官庁の主催する行事に出席するとき
4 営業開始前の時間に行う組合報告
5 従業員の労働教育
[了解事項]
1 本条第 4 号の組合報告が全員になされる場合には、事前に会社と協議するに相当な時間的余裕を持たせ、所定の文書をもって会社へ届け出る。
なお、職場ごとの組合報告については、所属長と協議のうえ行う。
この場合の協議を要する場合とは、業務に重大な支障のあるときとする。
2 次の組合活動に出席する者については、あらかじめ所定の文書をもって会社へ届け出る。
(1)団体交渉、委員会の傍聴
(2)行政官庁の主催する行事
(3)従業員の労働教育
(4)会社、組合で認めた場合
(就業時間中の無給の組合活動)
○ 就業時間中、次のことを行う場合は無給とする。ただし、その他の場合には給料は支給しないが、勤務したものとみなす。
1 組合の必要により行う会議及び業務
2 外部他団体との連絡及び会合
3 組合業務のために行う外出、遅刻、早退
(組合用務による出張)
○ ○○組合の必要により出張する場合は、無給休暇とする。
(就業時間中の組合活動手続)
○ 第○条及び第○条の場合、組合は会社に所属、氏名、日時を届け出る。
26 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
規定例(3)
○ 組合活動は、原則として就業時間外に行うものとする。ただし、次の各号の一に該当するときはこの限りではない。
1 団体交渉及び労使協議会
2 苦情の調査及び処理
3 △△会社と○○組合との協議により設置する委員会
4 全国大会、支部大会
5 中央執行委員会、中央委員会、支部執行委員会、支部委員会、ただし、全国大会、支部大会、中央委員会、中央執行委員会の場合は、組合は事前に会社に通知することを要し、支部委員会、支部執行委員会の場合は事前に会社の承認を得るものとする。
○ △△会社は、組合員の組合活動の自由と権利を認める。
[了解事項] 本条にいう組合活動とは、労働法令及び本協約に基づく全ての行為をいう。
(2)チェックオフ
チェックオフとは、使用者が組合費を組合員の賃金から天引きし、一括して当該労働組合に渡す制度をいいます。
使用者は、原則として賃金を全額、直接労働者に支払わなければなりませんが(労働基準法第 24 条第 1 項)、例外としてその事業場の労働者の過半数代表者(過半数労働組合又は過半数代表者個人)と書面による協定を結べば、賃金を一部控除して支払うことが可能です(同項但書)。組合費の天引きも、この協定によって行われるとする見解が有力です(済生会中央病院事件・最二小判平 1.12.11)。
チェックオフは、労働組合にとって徴収の手間がかからず便利な面もありますが、反面、組合員と接する機会が薄れるなど問題点も少なからずあるようです。労働組合が使用者とチェックオフについて交渉する場合、チェックオフについては、あらかじめ労働組合内部で十分検討しておく必要があります。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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規定例(1)
○ △△会社は、組合員の賃金から次の金額を控除する。ただし、第 1 項の控除金は記録とともに賃金支払日に組合に引き渡す。
1 組合費、臨時組合費
2 その他会社、組合双方が協議決定したもの。
規定例(2)
○ △△会社は、組合員の毎月の賃金から組合費を控除し、当月末日までに組合に渡す。
2 ○○組合は、組合費を徴収すべき組合員に変更があったときは、毎月○日までに会社へ通知する。
(3)会社施設の利用
労使関係においては、相互の自主的な運営を尊重し、お互いに介入しない、労働組合は使用者の援助なしに自力で運営していく、ということが原則です。しかし、我が国の労働組合の多くは企業ごとに組織され、その活動は各職場 を中心として行われています。また財政基盤が盤石でない労働組合も見られま
す。そのため、会社施設の利用による組合活動は必要不可避な現状にあります。一般に多くの労働組合では、組合事務所や掲示板を会社から借りたり、会社 内の集会所を利用して組合大会、執行委員会などの会議を開くなどしています。最小限の広さの組合事務所の供与については、労働組合法(第 2 条第 2 号但
書、第 7 条第 3 号但書)でも認められています。組合事務所については貸与 契約(有償なら賃貸借、無償なら使用貸借とされるのが一般です)により、掲示板については労働組合の費用で設置しその設置場所を使用者と協議して決める、というのもよいでしょう。
また、郵便物の受取り、電話の取次ぎ、社内 LAN の利用なども定めておいた方がよいでしょう。
その他の施設、例えば休憩室や食堂、寮、その他の福利厚生施設を利用する場合の手続き、取扱いを労働協約の中で定めておくことが望ましいでしょう。できれば使用者の許可制ではなく、労働組合の届出制とすべきでしょう。
なお、掲示板の掲示内容については労働組合が自由に決めることができますので、使用者はそれに干渉することはできません。
28 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
規定例(1)
○ 会社は、組合に対し次の便宜を与える。
1 組合事務所並びにそれに付属する施設の賃貸借契約による貸与
2 事前に協定した価格による消耗品その他物品の譲渡
3 組合の会合又は行事のための会場、その他の施設利用
4 組合活動に必要な掲示板の設置
規定例(2)
○ △△会社は、○○組合に対し次の便宜を与える。
1 組合事務所は、○○組合の申出により双方協議の上適当な場所を貸与する。
2 ○○組合の使用する消耗品、備品は実費で譲渡する。
3 ○○組合専用のための掲示板を、出退勤通路、社員食堂及び各休憩所前に設置することを認める。
4 ○○組合宛の郵便物については、組合の指定する場所に取り次ぐ。
5 ○○組合宛の電話については、業務に支障のない範囲で取り次ぎを行う。
6 社内LAN の利用については、業務に支障のない範囲で認める。
7 選挙及び官公署のポスターは、前号の掲示板以外の事務所通路及び各休憩所に掲示することを認める。
8 組合活動のための営業時間外の社内拡声機の使用を認める。
規定例(3)
○ 会社は、組合が会社施設内に組合事務所を設けること、もしくは組合活動を行うために必要な土地、建物、付器備品、掲示板、その他の会社施設を利用することを認める。
ただし、組合事務所及びその敷地の使用については、組合と会社で協議する。
2 前項の規定により、組合が会社施設の利用について届け出たときは、会社は正当な理由なくしてこれを拒むことはできない。
規定例(4)
○ △△会社は、届出により組合の集会、選挙、組合活動に必要な場所その他の諸設備の使用を認める。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
29
(4)在籍専従制
会社の従業員でありながら、一定期間あるいは一定時間、組合事務に専ら従事する者を、一般に「組合専従者」と呼んでいます。
組合員の人数が少なく組合費の総額がわずかなところでは、労働組合自身が書記を採用することは非常に困難です。また、労働組合の役員は会社の業務も併せもっているため、多忙なときには労働組合の業務を円滑に処理することが困難な場合もあります。このような事情から、労働組合がある程度の規模になると組合専従者が必要となってきます。
組合専従者を置く場合は、専従者の人数、専従期間中及び専従期間終了後の取扱などを決めておきます。
なお、組合専従者を誰にするかは労働組合の自由ですが、使用者が「業務に重大な支障がある」という場合には、話合いで解決するよう努めるべきです。組合専従者に関する取扱は、次のようになっているケースが多いようです。
ア 身 分……専従期間中は休職とする例が多い。
イ 賃 金……賃金は支払われないが、退職金は専従期間を通算して支払う例が多い。
ウ 昇 給……専従期間中の昇給は、昇給した賃金の支払いが伴わないかぎり問題はない。
エ 専従期間終了後の取扱い……原則として原職に復帰させることとするのが多く、復帰後の賃金は同等者との調整を図る例が多い。
オ その他……福利厚生施設の利用については、一般組合員と同様に扱う場合が多く、社会保険は事業主負担分を労働組合が負担するが、事務手続きは会社が代行している例が多い。
規定例(1)
○ ○○組合は専従者を置くことができる。ただし、この場合はその氏名を会社に通知する。
○ 専従者の取扱いは次のとおりとする。
1 専従者は、専従期間中休職とするが、専従を解かれたときは原則として標準者と同等の待遇で復帰する。
2 専従期間中は無給とするが、勤続年数には通算する。
3 △△会社は、専従者であったことを理由としていかなる不利益な取扱いもしない。
30 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
4 福利厚生施設の利用及びその制度の適用は、一般従業員と同様に扱う。
5 専従期間終了後の年次有給休暇の算定は、専従期間中欠勤しなかったものとして取扱う。専従者に就任する前の勤務により発生した年次有給休暇は、復帰後に請求することができる。
規定例(2)
○ △△会社は、組合が組合員より○名当り 1 名の割合で組合専従者を置くことを認める。
2 専従期間は原則として 1 ヵ年以内とする。ただし、やむを得ない事情により更新することがある。
○ 組合専従者に対する会社の取扱いは次のとおりとし、会社は専従者であったことを理由として不利益な取扱はしない。
1 専従期間は休職扱いとするが、勤続年数には通算する。
2 専従期間中、賃金その他の給与は支払わない。ただし、退職金、慶弔見舞金については一般組合員と同様とする。
3 専従期間中昇給及び昇格は行わない。ただし、専従期間中に一般組合員に昇給が行われたときは、復帰後組合員の平均額を基準として、臨時に昇給を行う。
4 福利厚生施設の利用については、一般組合員と同様とする。
5 社会保険の事業主負担分については、△△会社は負担しない。ただし、事務手続は申出があれば会社がこれを代行する。
6 就業規則その他会社諸規程の適用については、専従者であることにより適用できない部分を除き一般組合員と同様とする。
7 専従をやめたときは原職に復帰させる。ただし、業務の運営上やむを得ない場合は、会社が組合と協議のうえ原職と同等の職に就かせる。
8 専従者の年次有給休暇は、専従期間中は組合に請求するものとする。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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(5)文書の配布など
文書、パンフレットなどについても、労働組合活動の範囲内のものならば自由に会社施設内で配布できるよう決めておくべきです。また、組合旗の掲揚などについても同様です。
規定例
○ ○○組合は、会社構内及び施設内において、組合活動に必要なパンフレット、新聞、情報誌等を配布することができる。
(6)政治活動
労働組合は、組合員の労働条件の維持改善のために必要であれば政治活動を行うことができますが、会社内で行う場合、時と場所によってはそのことにより会社業務を阻害することも考えられます。
したがって、それ相当の合理的理由が使用者にあれば、一定の制限、禁止を受けることになります。
4 人事に関する条項
組合員の採用から解雇、退職に至るまでの身分や地位の変動、処遇を規定したものを、人事条項といいます。人事条項としては、人事原則、採用、人事異動(配転、出向)、賞罰(懲戒)、休職(復帰)、解雇、退職(定年)などに関するものがあり、一般にその基準や手続き、実施方法などを定めます。
組合員の採用から解雇、退職に至る人事は最も重要な労働条件の一つです。人事に関する事項については労働協約の中で細部にわたって規定するわけにはいきませんが、主なものは規定し、運用を民主的に行うよう労働組合の立場からチェックしていくことが大切です。
なお、人事条項の解釈をめぐってトラブルが生じることがありますので、言葉の一つにしても定義と解釈を労使間で明らかにしておくことが必要です。了解事項、覚書、確認書等によるのも一つの方法です。
特に、人事条項の「協議する」「人事に関することについて当該労働者の同意を必要とする」などのいわゆる「協議約款」や「同意約款」ですが、これこれのことについて「会社は組合と協議する」という表現を使いますと、協議が整わなかった場合、使用者は労働組合の同意を得なくても人事を最終的に行うことができるということになります。これに対して「、組合の同意を必要とする」
32 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
と規定しますと、労働組合の同意が得られない限り、使用者は人事を実際に行うことができなくなります。このように規定の仕方によってその取扱が大きく異なりますので、規定を定めるときには十分留意してください。
なお、実際の規定例では、「協議する」程度で終わるものが多く、労働組合による人事に対する関与の度合いは必ずしも強いものとなっていないのが現状です。
規定例
(人事原則)
○ △△会社は、○○組合員の人事を行うにあたり、これを公正に実施し、組合員の雇用の安定と人材の活用を図ることとする。
(1)採 用
新たに採用された労働者は労働組合に加入する資格があるわけですから、労働組合としても会社が労働者を採用することに無関心ではいられません。
ただし我が国では、労働者の採用そのものに労働組合が直接関与していくことはなかなか困難でしょうから、少なくとも労働者を採用する前に協議するよう話し合っておくことが大切です。
規定例(1)
○ △△会社は、従業員を採用するときは、事前に採用人員、職種、時期、理由などについて組合と協議する。
規定例(2)
○ 会社は、従業員の採用に際してあらかじめその方針及び基準(職種、時期、人員)について組合の了解を得ることとする。
(2)試用期間
新たに採用した労働者に試用期間を置くかどうか、また置くとした場合どのくらいの期間が適当かは、法律上特別の定めはありません。
試用期間を置くとしたら、その期間は長期にわたらないようにする必要があります。試用期間中といえども理由なく労働条件などについて一般の組合員と差別して取扱わないようにすべきです。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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規定例
○ △△会社が従業員を採用した場合、○ヶ月の試用期間を置く。ただし、試用期間は勤続年数に通算する。
(3)人事異動
個々の会社によって異なりますが、労働者が増加したり生産活動が活発にな るにしたがって、各職場間の人事交流(配転・出向・転籍)も増加していきます。人事異動で仕事の内容や勤務場所が変わるということは、当該労働者本人に とっては労働条件の重大な変更になりますし(労働契約法第 14 条は、当該出向の命令が権利濫用となる場合は無効とすると定めています)、労働組合の役
員でしたら、組合運営上重大な支障をきたすことにもなりかねません。
そのようなことから、会社が人事異動を行う場合には、原則として労働者本人や労働組合の同意のもとに実施することが望ましいといえます。そこで、人事異動については、協議ないし同意事項として労働組合が関与できる範囲をあらかじめ労働協約の中で定めておきます。
規定例
○ △△会社が組合員を転勤、配置転換、または出向させようとするときは、事前にその条件について組合と協議する。
なお、出向については別に定める協定による。
○ 会社は、組合役員の異動については組合の同意を得た後に行う。なお、代議員及び各部部員の場合は、その異動人数及び異動先を事前に○○組合に通知し、○○組合側に異議のある場合は、会社、組合双方の協議の上で行う。
○ △△会社が従業員に対して随時行う配転・出向・転籍については、会社は次の各号に十分留意し、配慮をもって取扱うものとする。
1 原則として本人に 1 週間前に通知する。
2 住宅の移動を伴う転勤については、住宅を援助、確保する。
3 配転については、賃金並びに労働条件の低下をきたさないようにする。
4 本人の意向、健康状態並びに家庭の事情など十分勘案し、無理を生ずることのないよう配置する。
34 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
(4)表 彰
表彰制度を設ける場合には、労使で委員会を設けその運営にあたるのが望ましいといえます。
規定例
○ 組合員が次の各号の一に該当するときは、会社はこれを表彰する。
1 業務上について有益な発明考案をした者
2 災害を未然に防止し、または非常の際特に功労のあった者
3 永年誠実に勤務した者
4 他人を危険より救助した者
5 公のための功績があった者
6 その他表彰の必要があると認められた者
(5)懲 戒(制 裁)
使用者が従業員を懲戒(制裁)するには、労働協約や就業規則などで懲戒理由とそれに対する懲戒の種類と程度をあらかじめ明らかにしておかなければなりません。
懲戒の種類は、法律や公序良俗に反してはなりませんし、その程度は違反の度合いに相当したものでなければなりません。懲戒は、使用者が勝手気ままに行ってよいという性質のものではないからです。労働契約法第 15 条が、「懲戒が権利濫用となる場合は無効とする」と定めているのもそのためです。
懲戒制度のあるところでは、「これこれの行為はこのような罰に該当する」というように、具体的に定めておきます。
一般的に懲戒の種類としては、訓告(戒告)、けん責、減給、出勤停止、休職、降格(降職)、諭旨解雇、懲戒解雇などさまざまです。
なお、その適用にあたっては、委員会を設け労使の代表により慎重に審議する必要があります。委員会の運営にあたっては、証拠を提出することはもちろんですが、本人に弁明の機会を与えることが不可欠です。
規定例
○ 懲戒は、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇とし、次の各号によって行う。
1 け ん 責 始末書をとり、将来を戒める。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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2 減 給 平均賃金の 1 日分の半額を給料中より減じ、将来を戒める。
3 出勤停止 ○日間の出勤を停止し、将来を戒める。なお、この間の給料は支給しない。
4 降 格 異動のうえ職位を下げ、将来を戒める。
5 諭旨解雇 将来を戒め退職願を受理して退職させる。ただし、通告を受けた日を含め○日以内に退職願を提出しないときは、懲戒解雇に準じて取扱う。
6 懲戒解雇 労働基準監督署長の認定を受けて予告手当を支払わず即時解雇するか、労働基準監督署長の認定を受けずに予告手当を支払い即時解雇する。
(けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇に処する場合)
○ 組合員が次の各号の一に該当するときは、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇に処する。
ただし、情状により懲戒を免じ訓戒にとどめることがある。各号省略
(懲戒解雇に処する場合)
○ 組合員が次の各号の一に該当するときは懲戒解雇する。
ただし、情状により出勤停止、諭旨解雇にとどめることがある。各号省略
(懲罰委員会)
○ 会社が組合員の懲戒を行う場合は、懲罰委員会の議を経なければならない。
懲罰委員会は、会社、組合同数の委員をもって構成する。 懲罰委員会の運営については、労使協議会の議を経て定める。
(6)休職・復職
休職とは、労働者に就労させることが適切でない場合に、労働契約自体は存続させながら、労働者の就労を免除または禁止することをいいます。その例として、傷病休職、事故欠勤休職、起訴休職、出向休職、自己都合休職、組合専
36 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
従休職などがあります。
労働協約では、休職期間の長さや休職期間中の賃金の支払の有無、休職期間の勤続年数への通算の有無のほか、トラブルとなりやすい点として、傷病休職の場合の休職期間満了時における休職事由消滅(傷病が治癒したなど)の判断、復職の要件(原職に戻らなければならないかそれ以外の職務でもよいかなど)、いまだ休職事由が消滅していないと判断された場合の措置(解雇、自然退職扱いなど)などについて定めておく必要があります。
また、最近増加している心の問題(メンタルヘルス不調)により休業した労働者については、厚生労働省が「心の健康問題により休業した労働者の職場 復帰支援の手引き ~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」を発行し、これにおいて休業開始から職場復帰後のフォローアップまで 5 つのステップ を定めていますので、これに即した条項を労働協約に定めることが望まれます。
規定例
(休職事由)
組合員が次の各号の一に該当するときは、休職とする。各号に該当するかどうかの会社の判断につき組合員に異議があるときは、当該組合員の申出により会社と組合が協議する。
1 私傷病による欠勤が引き続き 60 日を超えたとき。
2 事故欠勤が引き続き、会社が認めた場合のほかは 30 日を超えたとき。
3 業務上の傷病が 2 年以上に及んでなお出勤できないとき。
4 国会議員、地方議会議員等有給の公務員に就任したとき。
5 業務の都合により出向を命ぜられたとき。
6 刑事事件に関し起訴され、勤務に支障があると認められたとき。
7 会社の承認を得て組合専従者になったとき。
8 本人の都合により相当期間にわたり就業ができない場合であって、会社が特に休職とすることを認めたとき。
(休職期間)
休職期間は、次のとおりとする。
1 前条第 1 号によるとき
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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勤続 1 年未満のもの 1 か月(ただし、試用期間中のものは除く。)
〃 1 年以上のもの 5 か月
〃 3 年以上のもの 6 か月
〃 5 年以上のもの 8 か月
〃 7 年以上のもの 10 か月
〃 10 年以上のもの 1 か年
2 前条第 2 号によるとき 1 か月
3 前条第 3 号によるとき 6 か月
4 前条第 4 号によるとき 就任期間中
5 前条第 5 号によるとき その期間
6 前条第 6 号によるとき 判決確定までの期間 ただし、懲戒解雇に該当する違法な事実が明らかになったときは懲戒解雇を行うことがある。
7 前条第 7 号によるとき その期間
8 前条第 8 号によるとき 会社が認める期間
(勤続年数の通算、休職期間中の賃金)
休職期間は勤続年数に通算しない。また休職期間中は賃金を支給しない。
(休職事由の消滅と復職)
休職事由が消滅したときは、会社は当該組合員を原則として休職前の原職に復職させる。復職は、所定の手続きにより会社の承認を得なければならない。
傷病休職における休職事由の消滅は、原則として従前の職務を支障なく行うことができる状態に回復したことを必要とし、休職前の原職への復職とする。ただし、職種や職務内容が限定されていない組合員の場合は、休職前の職務について労務提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、配置や異動の実情、難易などを考慮して、配置転換などにより現実に配置可能な業務の有無を検討し、そのような職務がある場合には、当該組合員にその職務への従事を指示する。これについて当該組合員から異議があるときは、その申出により会社と組合が協議する。
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(退職)
休職期間が満了した時点で休職事由が消滅していないときは、自己都合退職とする。
(7)解 雇
労働者にとって解雇されるということは、当面の生活基盤を失うことのほか、将来の労働生活にも大きな影響を及ぼします。
東京都労働相談情報センターでは、解雇などの労働問題に関して、相談に応じています。自主的な問題解決が困難な場合には、労使の要請を受けて、円滑な解決が図られるよう支援を行っています。
ところで、使用者が従業員を解雇するには、労働基準法第 20 条で定めている手続(少なくとも 30 日前の予告か 30 日分以上の平均賃金の支払い)のほか、解雇を正当化する客観的で合理的な理由と社会的相当性がなければなりません
(労働契約法第 16 条)。もちろん組合活動などを理由として解雇することができないことは、言うまでもありません(労働組合法第 7 条第 1 号)。
規定例(解雇)
○ △△会社は、組合員を解雇する場合、その理由を明確にして事前に組合と協議する。
1 △△会社は、解雇基準について組合と協議決定する。
2 △△会社は、解雇基準の適用について事前に組合に通知する。
3 △△会社は、組合が解雇基準の適用について不当な解釈または誤った事実の認定に基づくと認めたときは、組合と協議する。
○ △△会社は、組合員の解雇については組合と協議決定した基準によりこれを行う。
○ 組合員が、次の各号の一に該当するときは解雇とする。
1 ユニオン・ショップ協定に定める組合員が組合から除名されたとき。
2 精神または身体の障害により業務に耐えないとき。
3 休職期間が過ぎて本人に復帰の意思がないとき。
4 休職期間が過ぎてその理由が消滅しないとき。
ただし、2 号から 4 号までは組合の同意を必要とする。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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規定例(人員整理)
(希望退職者の募集)
○ 会社は、やむを得ない事業経営上の都合により、事業の縮小又は閉鎖等のため人員を整理する必要がある時は、整理解雇を行う前に希望退職者を募集するものとする。募集条件などは、事前に組合と協議するものとする。
(整理解雇)
○ 希望退職者が募集人員に満たない場合は、整理解雇を行うものとする。整理解雇の人数・解雇条件、被解雇者の選定基準について、事前に組合と協議するものとする。
(職場転換)
○ △△会社は、事業の縮小又は閉鎖等のため職場転換を必要とするときは、その基準につき事前に組合と協議するものとする。
(8)有期契約労働者の雇止め
期間の定めのある有期労働契約を締結した労働者(有期契約労働者)の雇止め(契約更新拒絶)については、労働契約法の改正により新たに条文が定められました(同法第 19 条、平成 24 年 8 月 10 日施行)。詳しくは第 2 部の 12「非正規労働者の待遇の改善等」を参照して下さい。
(9)無期契約労働者の雇止め
無期転換ルールを避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではありません。また、使用者が有期労働契約の更新を拒否した場合(雇止めをした場合)、労働契約法第 19 条に定める雇止め法理により、一定の場合には当該雇止めが 無効となる場合があります。
(10)一時帰休
会社の事業活動の一部を縮小したり、仕事量が減少したために、雇用調整の一環として労働者を一時休職させるいわゆる「一時帰休」制度を採用する企業がありますが、その取扱についてもあらかじめ協約化しておくほうがよいで
40 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
しょう。
規定例
○ △△会社は、天災事変又は会社の都合により必要である場合は、組合 員を一時帰休させることがある。この場合、予め組合に連絡しその意見を聴く。
○ △△会社は、やむを得ない事業の都合により事業場を閉鎖し又は休業しようとする場合においては、予め組合と協議する。
○ △△会社が経営上やむを得ない事情により組合員を休業させるときは、事前にその必要性、基準、職場、員数、及び条件について組合と協議決定する。
(11)定年後再雇用又は勤務継続
定年引上げや継続雇用制度については、第 3 部の 4 を参照してください。
5 労働条件に関する条項
労働条件に関する条項は、労働協約の基本的部分を占めるもので、賃金、退職金、労働時間、休日、休暇などに関するものがこれに該当します。
労働条件に関する条項は、いわゆる「規範的効力」を持ち(労働組合法第 16 条)、非組合員にも拡張適用されることがあります(労働組合法第 17 条)。
なお、労働条件に関する条項のうち、特に賃金、退職金に関する定めは別協定や付属規程にしているところが多くみられます。
(1)賃金条項
労働協約の中で最も重要な条項の一つに、賃金に関する条項があります。 一般に、賃金は他の労働協約の部分と別に規定されることが多いようですが、
賃金は組合員にとって一番関心の深い事項ですから、可能なかぎり本文の中で規定しておく方がよいでしょう。
賃金条項として明らかにしておく必要のあるものは、賃金の種類、締切日及び支払日、支払方法、賃金を控除する場合はそれらに関する事項、退職及び解雇のときの支払、非常時払、昇給、休業中の昇給の取扱いに関する事項、諸手当の支払基準・支払額、平均賃金の計算方法、割増賃金、休日勤務・深夜勤務
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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手当の計算方法、休業手当、一時金の支払基準などです。
これらを具体的に定め、その決定基準を労働時間や休日、休暇など他の労働条件との関連で誰にでも分かるようにしておきます。
(2)労働時間・休日・休暇条項
労働時間、休日、休暇について規定する場合、それぞれの項目に分けて具体的に明らかにしておきます。
この内容としては、始業及び終業時間、休憩時間、週の所定労働時間、年間の所定労働時間、宿日直勤務、欠勤、慶弔休暇、フレックスタイム、交替制勤務、時間外労働、休日労働、休日の振替・代休、年次有給休暇、生理休暇、出産休暇、育児・介護休業などがあります。
なお、平成 30 年 6 月の働き方改革関連法の成立に伴い労働基準法が改正され、年次有給休暇の取得促進のため、使用者に年 5 日、時季を指定して年次有給休暇を付与することが義務づけられました(労働基準法第 39 条第 7 項。平成 31 年 4 月 1 日施行)。
また、同時に、労働時間等設定改善法の改正により、勤務間インターバル制度(終業から始業までの間に一定時間以上の休息時間を確保する制度)の導入が使用者の努力義務として課されました。いずれも労働者の生活時間や休息・睡眠時間の確保のために重要な制度であり、労働組合として協約化に積極的に取り組むべきでしょう。
36 協定、みなし労働時間制、フレックスタイム制については、第 3 部の 2を参照してください。
6 苦情処理に関する条項
日常の業務などから生ずる組合員の苦情や不平不満を、すべて団体交渉により処理することは困難で、適切でもありません。これを解決するために設けられる機関が苦情処理機関で、これを協約化したものが苦情処理条項です。 苦情処理機関(苦情処理委員会)は、苦情を処理することによって労働条件を改善し、あわせて労使の平和的関係を築いていこうとするもので、これらの制度は近代的、民主的な労使関係を形成するうえで、重要な役割を果たすものといえるでしょう。
苦情処理を行う場合、苦情処理の目的と苦情の範囲を明らかにしておきます。苦情については、大きくは日常の業務から生ずる職制などに対する苦情と、労
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働協約、就業規則その他の規定の運用に関する苦情に分けられます。普通、苦情処理機関では日常の業務から生じる苦情を中心に処理していくことになります。苦情処理機関で解決できない場合は、労使協議機関又は団体交渉の場で解決を図るとよいでしょう。
苦情処理機関の運営にあたっては、苦情を申し立てたことを理由として申立人に不利益な取扱いをしないこと、秘密を守ること、迅速かつ公正に処理することが重要です。
ところで、苦情処理に関しては、「苦情が出てこない」「苦情はあるだろうが出してくれない」という意見が多く聞かれます。様々な理由があると思われますが、苦情処理機関を設けるのでしたら、誰もが活用でき、職場に馴染みやすい苦情処理制度にすることが重要です。労働組合としては、それを十分活用していきたいものです。
一般的に、苦情処理は次のような形式で行われています。
1 職場委員に苦情の申立があると、職場委員が実情を調査し、当該管理職と協議するか、職場苦情処理委員会で審議するなどして問題の解決を図ります。
2 職場で問題が解決しないときは、苦情処理委員会(これは企業規模、組合組織によって事業所苦情処理委員会と中央苦情処理委員会の 2 段階をとる事例が多い)で審議する場合と、組合側苦情処理委員会と会社側職制が協議して問題の解決を図る場合があります。
3 以上のような手続を経てなお解決しないときの処理として、次のようなものがあります。
ア 仲裁型 第三者の仲裁によって解決を図る。
イ 協議型 まず労使協議会で協議し、解決しない場合は団体交渉に移行する方法と、ただちに団体交渉に移行する方法があります。
規定例
(苦情処理の目的)
○ 苦情処理は、組合員が職場内での話し合いにおいて解決できなかった苦情について、迅速かつ公平に処理し、良好な職場環境を維持することを目的とする。
(苦情の定義)
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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○ 苦情とは、この協約及び会社内に効力を有する諸規定の解釈適用に関する事項、その他日々の業務に付帯して起こる不平不満をいう。
(苦情処理の機関)
○ 苦情処理のために次の苦情処理機関を設ける。
1 職場苦情処理委員会
2 中央苦情処理委員会
(職場苦情処理委員会)
職場苦情処理委員会は各職場ごとに設置し、会社(職場の責任的地位にある者)及び組合(職場で選出された委員)双方各○名の委員をもって構成し、各職場所属の組合員の苦情を受理し、受理の日より○日以内に解決を図らなければならない。
ただし、やむを得ない事由があるときは申立人に了解を得てその期間を延長できる。
この委員会で処理出来なかった場合は、○日以内に苦情処理書を添付し中央苦情処理委員会に提出しなければならない。
(中央苦情処理委員会)
○ 中央苦情処理委員会は、会社及び組合双方各○名の委員をもって構成し、前条並びに第○条の規定に従い、受理の翌日より○日以内に解決を図らなければならない。ただし、事情により期間を延長することができる。
(苦情の申立)
○ ○○組合員は、苦情があるときは委員を通じて職場苦情処理委員会に申し出るものとする。
(苦情申立の期間)
○ 苦情申立の期間は、事由発生の日から○か月を超えないことを原則とする。ただし、特別の事由があるときはこの限りでない。
44 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
(異議の申立)
○ 職場苦情処理委員会の裁定に異議のある場合、申立人は原則として○週間以内に中央苦情処理委員会に異議を申し立てることができる。
(裁定の効力)
○ 職場苦情処理委員会の裁定に異議のない場合及び中央苦情処理委員会で裁定がなされた場合、裁定の日から効力を発し、会社と申立人双方を拘束する。
7 労使協議制に関する条項
労使の間で相互理解を深め、互いに協力が得られるようにするには、日常的に企業の経営方針、生産計画、経営組織など経営上の諸問題について話合いの場を設けておくことが大切です。
労使協議制とは、経営上の計画や決定・実施に労働組合の意見、希望を反映させる制度をいい、そのための機関を一般に「労使協議会」と呼んでいます。労働組合が何らかの形で企業の経営に関与するため、労使協議機関の設置に ついて規定する条項です。この労使協議機関への付議事項としては、経営上の計画や決定・実施に関する事項のほか、労働条件に関する事項、苦情処理に関
する事項、生産に関する事項、労使のあらゆる事項とするものなどもあります。労使協議機関の性格にもよりますが、労働条件に関する事項は団体交渉で、 苦情処理は苦情処理機関で、生産計画や新機械の導入などについては労使協議
会で取扱うという方法をとっている例もあるようです。
労使協議に関する条項で具体的に規定される事項には、労使協議機関の名称、設置目的、構成、議事手続、付議事項、決定事項の効力等があります。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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規定例
(労使協議会の目的)
○ △△会社と○○組合は、経営の民主化及び企業の発展と組合員の労働条件の推持改善を図るために、労使協議会(以下単に「労協」という)を設置する。
(構成)
○ 労協は会社、組合双方同数の委員をもって構成し、会議は双方それぞれ過半数の委員の出席で成立する。
会社側委員は会社役員及び非組合員中より会社が選出し、組合側委員は組合機関で選出する。
(運営)
○ 議長は△△会社、○○組合相互に当たる。
△△会社、○○組合各○名の書記を任命し議事録を作成する。
(付議事項)
○ ◆◆労協に付議する事項は次の通りとする。
1 協議決定事項
(1)労働協約及び諸規定の改廃並びに適用に関する事項
(2)労働条件に関する事項
(3)生産性向上に関する重要事項
(4)労協の専門委員会より審議要請のあった事項
(5)業務年次計画に関する重要事項
(6)この協約において会社と組合が協議決定すると規定した事項
(7)その他会社、組合双方が協議決定することを必要と認めた事項
2 協議事項
(1)長期の生産計画に関する事項
(2)雇入れ、登用罷免に関する事項
(3)職制機構の改廃に関する事項
(4)安全衛生に関する事項
46 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
(5)福利厚生に関する事項
(6)組合員に関係のある社規社則その他諸規定の改廃に関する事項
(7)この協約において会社と組合が協議すると規定した事項
(8)その他会社、組合双方が協議することを必要と認めた事項
3 説明報告事項
(1)経営方針及び経理内容に関する事項
(2)その他会社、組合双方が報告する必要を認めた事項
(開催義務)
○ 会社及び組合は、相手方より労協開催の申入れを受けた場合は、
○日以内にこれに応じなければならない。
(議案の提出)
○ 労協の議案は、開催○日前にそれぞれ相手方に提出しなければならない。
ただし、緊急やむを得ないときはこの限りではない。
(関係者の出席)
○ 労協が必要と認めたときは、委員以外の関係者の出席を求め意見を聞くことができる。
(専門委員会)
○ ◆◆労協は、必要に応じ専門委員会を設け特定の事項について調査研究及び立案をさせることができる。専門委員会の構成および権限についてはその都度定める。
(議事録の保管)
○ ◆◆労協の議事録は 2 通作成し、会社及び組合の代表者が記名押印又は署名のうえ、それぞれ 1 通を保管する。
(決定事項)
○ ◆◆労協で決定した事項は労働協約と同一の効力を有する。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
47
8 団体交渉に関する条項
労働組合の目的は、組合員の労働条件の維持改善を図ることですから、そのためには使用者と交渉していかなければなりません。
労働組合法は、労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者が、使用者又はその団体と団体交渉をする権限を有すること、及び使用者がその雇用する労働者の代表者と団体交渉することを正当な理由なく拒むことが出来ないことを定めています(労働組合法第 6 条、第 7 条第 2 号)。しかし、団体交渉についての具体的な交渉手続は、すべて労使の自主的な決定に委ねられています。そこで、当事者が秩序ある団体交渉を行うためには、労働協約にこのような団体交渉に関する事項を設けることが望ましいでしょう。
具体的には、団体交渉開始手続に関するもの、交渉日時・場所に関するもの、交渉委員に関するもの、会議の開催運営に関するもの、組合員の労働条件等の交渉対象事項に関するものがあります。
(1)交渉委員
団体交渉は一定のルールに従い、誠実に行う必要があります。そのためには、一定の交渉委員を選んでその委員を通して交渉し、双方の合意が成り立つようお互いに努力していきます。傍聴者についても定めておいた方がよいでしょう。交渉委員は当事者が自主的に選びますが、人数は会社の規模等を勘案して定めてください。
団体交渉にあたっては、交渉を第三者に委任したり、上部団体の役員に出席してもらうことも可能です。使用者も交渉を他に委任することができますが、決定権限のない者をいつも交渉に出席させ形ばかりの交渉を続けることは許されません(不誠実団交)。
当事者間で、ある特定の労働組合を、従業員を代表する唯一の交渉相手として認め、他の団体を交渉相手としない旨を合意した協約条項を、唯一交渉団体条項といいます。
ある企業に事実上労働組合が 1 つしか存在しない場合は、唯一交渉団体条項はその現状を確認する意味を有するといえますが、労働組合が 2 つ以上あるような場合には、それぞれの労働組合が団体交渉権限を有するため、使用者は唯一団体交渉条項を理由に他の労働組合との団体交渉を拒否することは認められません。
また、 「組合員以外の者に交渉権限を委任しない」「団体交渉は労働組合の
48 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
代表者が行い第三者への交渉委任は行わない」という交渉権限委任禁止条項は、当該労働組合が自由意思で締結している限り、 この条項に反する団体交渉の申入れについては使用者に団体交渉拒否の正当な理由があると解されています。しかし、当該労働組合が加入している上部の労働組合は、固有の団体交渉権 を保有していることから、その上部の労働組合が固有の団体交渉権に基づいて
団体交渉を申し出た場合には、使用者はこれを拒否することはできません。
規定例(1)
○ 団体交渉の交渉委員は、会社及び組合が任意に選出して事前にそれぞれ相手方に通知する。
交渉の途中において変更するときも同様とする。
規定例(2)
○ 団体交渉の委員は、 会社、 組合各々○名以内とし、別に 2 名以内の書記を置く。
1 会社の交渉委員は、代表取締役を含む会社役員及び係長相当以上、また事業所の交渉委員は、事業所長及び係長相当以上の役職とする。
2 組合の交渉委員は、中央執行委員長又は中央副執行委員長を含む組合役員とし、また支部の交渉委員は、前記役員又は支部長あるいは副支部長を含む組合役員とする。
(2)交渉事項
団体交渉の対象となる事項は、労働組合法では特に定められていませんが、組合員の労働条件の維持改善に必要な限り、すべての事項に及びます。
一般的には賃金、労働時間、休日、休暇等組合員の労働条件に関する事項や、ショップ制、団体交渉手続など労使関係に関する事項が団体交渉の対象となります。また、使用者の経営方針や役員の人事といった事項は、原則として使用者が団体交渉応諾義務を負う交渉事項にはなりませんが、組合員の労働条件に影響を及ぼす場合には交渉事項となり得ます。団体交渉事項の内容について具体的に条項化することによって、団体交渉事項が明確になりますが、団体交渉事項として列挙されなかった事項についても、苦情処理手続を利用するとか、特定の事項については事前に労使協議手続を経ることとするというように、その解決手続を条項上明確にしておくことが望ましいでしょう。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
49
規定例(1)
○ 団体交渉の対象となる事項は、組合員の労働条件及びこれに関する一切の事項とする。
規定例(2)
○ 団体交渉において取扱う事項は、次のとおりとする。
1 労働協約の制定改廃に関する事項
2 労働協約の疑義解釈に関する事項
3 労働協約に定めのない労働条件の基準
4 会社、組合間の諸関係に関する事項
(3)交渉手続及び方式
団体交渉の開催にあたっては、あらかじめ開催を通知し、交渉事項、日時、場所等を可能な限り書面で申し入れるようにします。実態調査からみますと、ほとんどのところで何らかの取決めをしており、そのうち半数以上があらかじめ開催を通知して交渉を行っています。
規定例(1)
○ △△会社及び○○組合は、そのいずれか一方から団体交渉の申入れを受けたときは、これに応じなければならない。団体交渉の申入れにあたっては、その交渉事項を書面に記載し代表者が記名押印のうえ相手方に提出しなければならない。
規定例(2)
○ 団体交渉の手続は次の各号による。
1 団体交渉の申入れは、その都度文書をもって、○日前に議題、日時、場所を相手方に通告して行う。ただし、緊急の場合はこの限りでない。
2 団体交渉の運営及び手続については、双方協議してその都度決定する。
3 △△会社・○○組合は、各々書記を置き、議事録を作成し、双方の代表委員が押印して、各 1 通保管する。
50 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
4 団体交渉での合意事項は、書面 2 通を作成し、双方の代表委員が押印の上、△△会社・○○組合各 1 通保管する。
5 団体交渉は、原則として社内公開で行い、傍聴を認める。ただし、傍聴者の人数についてはその都度会社・組合で協議する。
規定例(3)
○ △△会社及び○○組合は、当事者のいずれか一方により団体交渉開催の申入れがあった場合は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。交渉に際しては、双方誠意と秩序をもって解決にあたるよう努力する。
○ 交渉委員は、会社及び組合とも原則として各○名以内とする。
2 交渉委員は、原則として会社側は役員、組合側は執行委員とする。
○ 団体交渉には原則として傍聴者の出席を認め、その内容を組合員に公表するものとする。
2 傍聴者は会社および組合とも各○名以内とする。ただし、関係各部の事務担当及び交渉委員を除く執行委員は傍聴者の数に含む。
3 △△会社・○○組合双方が特に必要と認めた場合は、非公開とすることがある。
(協定書及び議事録の作成)
○ 団体交渉において、交渉事項について合意をみたときは、協定書及び議事録を作成して、双方の代表者が記名押印しなければならない。
協定書及び議事録は、2 通作成して会社及び組合がそれぞれ各 1通保管する。
(事前協議の基本事項)
○ 会社は、合併、会社分割、事業の譲渡、解散、事業場の縮小及び長期休業、操業短縮、機構改革など組合員の労働条件に影響を及ぼす事項については、組合と事前に協議する。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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9 平和義務と平和条項(争議調整条項)
(1)平和義務
労働協約の使命は、労働条件の維持改善とともに、労使間の安定を図ることにあります。労働協約を締結すると、労使双方は労働協約の内容についてみだりに争うことはできません。これを平和義務といいます。この平和義務は、いわば労働協約そのものに内在する本質的な効力として認められています。
平和義務には、相対的平和義務と絶対的平和義務があります。相対的平和義務とは、労働協約の有効期間中は、その労働協約に規定する事項の変更又は廃止を目的とする争議行為は行わないという義務のことをいいます。これは、労働協約に規定されていない事項に関する争議行為までも禁止するということではありません。
これに対して、労働協約の有効期間中は、会社、組合双方とも、労働協約に定められた事項に限らず一切の争議行為を行わないとの平和義務のことを、絶対的平和義務といいます。このような協約は、協約化されていない事項についてまで組合の争議権を縛ることになりますので、組合としては特別の事情のない限り、締結するかどうかについては慎重に検討すべきです。
(2)平和条項(争議調整条項)
平和条項(争議調整条項)とは、労使間で紛争が生じた場合もいきなり争議行為に訴えるのではなく、あらかじめ一定の手続を尽くすことを定めた条項のことをいいます。
言い換えれば、団体交渉により解決がつかなかった問題について、争議行為に訴える前に第三者機関の調整手続などによって平和的な解決(調整)を図り、その努力が重ねられている間は争議行為を行わないという趣旨のもので、争議行為開始のための手続要件を定めたものとも言えます。したがって、平和義務が労働協約の有効期間中の争議行為そのものを禁止するのに対して、平和条項は争議行為そのものを禁止するものではありません。
平和条項には、1 調整期間中だけ争議行為を行わないというもの、2 争議を行うにはあらかじめ調整を申請し、それが不調に終わった場合でなければならないとするもの、3 争議を行うには調整を申請し、それが不調に終わった場合でも再交渉を今一度行った後でなければ入ることができないとするものなどがありますが、 労働組合としては、 調整にかけている間は別として、誠意を尽くしても交渉がまとまらないときは争議行為に入れるよう定めておく方がよい
52 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
でしょう。
規定例(1)
○ △△会社及び○○組合は、この協約に定める労使協議会、団体交渉において解決されなかった場合のほかは、争議行為を行わない。
規定例(2)
○ 争議行為を行うときは、あらかじめ団体交渉を経ていなければならない。
第三者機関による争議調整としては、一般的には労働委員会によるあっせん、調停及び仲裁があります。
① あっせん
あっせんは、あっせん員が当事者である労使双方の主張をとりなし、あるいはあっせん案を示すなどして、争議が解決するよう努力する方法です。
規定例
○ △△会社と○○組合の間に、団体交渉又は労使協議がまとまらず紛争を生じた場合は、双方誠意をもってさらに交渉を尽くすとともに、労働委員会のあっせんに付して、平和的手段を尽くして解決に努めるものとする。
○ △△会社及び○○組合は、双方の合意又は一方の申請により、労働委員会のあっせんに付すことができる。
○ △△会社及び○○組合は、労働委員会のあっせん又は調停が終了しないうちに争議行為を行ってはならない。
② 調停
調停は、調停委員会が当事者である労使双方の意見を聞き取った上で調停案を作成し、双方に受諾を勧めることによって、争議が解決するよう努力する方法です。
規定例
○ △△会社及び○○組合は、双方もしくは一方の申請により労働委
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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員会の調停に付すことができる。
○ 会社と組合の双方の合意により調停に付す場合は、会社と組合は調停期間中は争議行為を行わない。
③ 仲裁
仲裁は、当事者双方が争議の解決を仲裁委員会にゆだね、その判断(仲裁裁定)に従って争議を解決する方法です。
規定例
○ △△会社及び○○組合は、あっせん又は調停が成立しなかった場合、相手方の同意を得て労働委員会の仲裁に付すことができる。仲裁裁定は△△会社及び○○組合を拘束する。
10 争議に関する条項
争議条項とは、争議行為の開始及び争議行為の開始後の当事者のとるべき行動やあり方について、一定のルールを定める条項です。
労働争議に関する条項の内容としては、争議調整条項(9 の(2)参照)のほか、争議行為の開始手続、争議行為の予告、保安要員、争議行為不参加者、スキャップ禁止、争議中の企業施設の保全および利用等があります。
(1)争議行為の予告
争議行為の開始にあたって、相手方に対してあらかじめ争議行為の開始日時や争議行為の態様について予告することを、争議予告といいます。
一般の会社の労働組合には、相手方に対する争議の予告義務はありませんから、団体交渉が行き詰まった場合直ちに争議行為を行うことができます。ただ、争議といってもそれは問題解決への一手段であって、争議行為の正当性をめぐる紛争(例えば違法ストを理由とする解雇)など余分なトラブルが生じないよう、予告して行うのが無難でしょう。
予告期間は一概には言えませんが、1 日ないし 2 日前に予告することが考えられます。争議予告は「○月○日以降、問題が解決するまでの間各種の争議を行う」旨を明らかにすればよいわけです。
なお、労働関係調整法(以下「労調法」という)上の公益事業(労調法第 8
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条)については、10 日前までに労働委員会及び厚生労働大臣又は都道府県知事に対し、争議予告をしなければなりませんから留意してください(労調法第 37 条)。
規定例
○ ○○組合または△△会社が争議行為を行う場合は、事前に文書をもって相手方に通知しなければならない。
1 争議通知は、次の事項を記載した書面をもって行うものとする。
(1) 争議行為の開始日時及び場所
(2) 争議行為の種類及び参加人員
(3) 争議行為中の代表者氏名及び所在地
(4) 争議行為中の交渉方法
(5) その他必要事項
(2)争議不参加
労働争議中でも、工場事業場における安全保持施設の正常な維持又は運行が労調法 36 条により求められています。
それらの施設を維持するには労働力が必要ですから、これを拒んだ場合使用者は代替要員を採用するかもしれません。また、争議は一時的なものですから、争議解決と同時に直ちに事業活動が再開されるようにしなければなりません。それらの理由から、争議中といえども施設の保全あるいは安全保持等のための必要人員を争議不参加者として定めておくことが望ましいのです。
その場合、争議に参加しない者の範囲は必要最小限とし、どの職場で、どの職務に従事するかをそれぞれ労働協約の中で明らかにしておきます。
規定例(1)
○ 争議中であっても、次の各号の一に該当する作業に従事する組合員は、協定勤務者として正常通り作業に従事する。
ただし、この数は必要最小限度とし、その数及び勤務についての細部の取決めは会社と組合が協定する。
1 保全及び保全の業務に従事する者
2 庶務係、経理係、電気係、動力係、消防団員の各一部
3 警備員、コールセンター社員
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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4 その他双方が必要と認めた者
規定例(2)
○ ○○組合は、△△会社より申入れがあったときは、次の各号の 一に該当する組合員が争議行為中においても業務に就くことを認める。具体的な人員についてはその都度協定する。
1 △△会社の建物及び施設の安全保持および警備の任にあたる者
2 ××健康保険組合及び医療担当者
3 寮の管理人、乗用自動車運転士、コールセンター社員
4 その他組合が認めたもの
(3)代替要員雇入禁止条項(スキャップ禁止条項)
争議行為中に会社外からの労働者の雇い入れを禁止すること、争議行為中に事業場内において組合員の業務を会社外の業者に請け負わせることを禁止すること、争議行為中に非組合員である従業員に組合員の業務を行わせることを禁止することなどについて規定したものが、代替要員雇入禁止(スキャップ禁止)条項です。
使用者は、争議中といえども事業を営むことができますが、そのために他から労働者を雇い入れることを認めた場合、労働組合の正当な争議行為はまったく無意味なものになってしまう恐れがあります。
争議行為中は、一時的に労使間の安定が損なわれているときですから、問題となっている事項と直接関係のない代替要員雇入等をめぐって新たな紛争を生じさせないためにも、代替要員雇入禁止条項を定めておくことは意義のあることと思われます。
なお、公共職業安定所は労働争議に対して中立の立場をとるため、争議(ストライキやロックアウト)が行われている事業所に求職者を紹介することができません(職業安定法第 20 条)。また、ストライキやロックアウトに至らない争議でも、労働委員会などから連絡があれば紹介業務を停止することにもなります。
規定例(1)
○ △△会社は、争議中いかなる者とも新たに雇用契約を締結する
56 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
ことはない。
規定例(2)
○ △△会社は、○○組合の正当な争議行為を妨げる目的をもって、組合員以外のいかなる名目の労働者も雇い入れない。
規定例(3)
○ △△会社は、○○組合が争議行為を行っているときは、組合員の職場代置のため、次の者を除き外部から新たな労働力の雇入れを行わない。
1 争議行為開始前に△△会社が組合に説明した採用計画に基づいて採用する者
2 退職者の補充として採用する者
3 業務上の緊急やむを得ない必要に基づき、組合の同意を得て採用する者
(4)争議中の団体交渉
争議に関しては、平和裏に問題の解決が図れるよう、争議中にあっても団体交渉を開催することができる仕組みにしておくことが重要です。
規定例(1)
○ 争議行為中であっても、△△会社、○○組合いずれか一方から申出があるときは、相手方は○時間内に団体交渉に応じなければならない。
規定例(2)
○ 労働委員会のあっせん、調停又は仲裁に付している期間、争議行為の予告期間中及び争議行為開始から解決に至るまでの期間といえども、当事者の一方から団体交渉開催の申入れがあった場合は、相手方は正当な理由がない限りこれを拒否してはならない。
2 前項の場合、団体交渉の規定を適用する。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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(5)争議中の施設の利用
争議中であっても従業員としての身分が失われるわけではありませんから、食堂や休憩室等の福利厚生施設の利用については支障がないかぎり認められるべきものです。
労働協約の中では、争議中でも利用できる施設の範囲を明らかにしておきます。
規定例(1)
○ △△会社は、○○組合が争議中であっても、組合及び組合員に対しこの協約の第○条に定める会社施設の利用を認める。
△△会社は、争議中であっても、組合員の正常な日常生活を保持するため、厚生施設の利用を制限し、もしくは阻害する行為を行わない。
規定例(2)
○ △△会社は、争議中であっても○○組合が平常な組合活動の状態における会社施設の利用又は使用を妨げない。ただし、組合は、その範囲を超えて会社の許可なしで施設の立入り並びに車両、機器、資材、備品等の使用または移動を行ってはならない。
11 その他の条項
組合員の待遇に関する基準として、福利厚生や安全衛生等についても協約化しておきます。
(1)福利厚生条項
福利厚生に関する条項については、労働条件に関する条項の中で取り決める場合も多いようです。
具体的には、社宅や寮に関すること、休憩室や更衣室に関すること、文化・体育施設に関すること、物資の購入配給に関すること、医療施設に関すること等、組合員の福利厚生の充実を図ることを目的として協約化されています。
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規定例
○ △△会社は、 ○○組合員の福利厚生を図るため、 組合と協議の上、社宅、 寄宿舎(寝具等を含む)、 休憩所、 娯楽室、 更衣室、 浴場、調理場、 食堂、 水道施設、 便所等の施設を完備する。
2 前項の運営並びに管理については、会社と組合が協議の上行い、その一部を組合に委任することができる。
(福利厚生規定)
○ ○○組合員及びその家族の福利厚生は、△△会社と○○組合の協議によって別に定める規定により行う。
(2)安全衛生条項
労働安全衛生に関する条項としては、労働安全衛生法により事業者に義務づけられている事項、例えば、安全委員会、衛生委員会、安全衛生委員会等の管理運営に関する事項、労働者の危険又は健康障害を防止するための措置、安全衛生教育等、組合員の安全衛生についての条項があります。労働契約法第 5 条が定める使用者の労働者に対する安全配慮義務は、これらの条項の基盤となるものです。
この分野については労働安全衛生法や労働安全衛生規則が詳細に定めていますので、それらを参照してください。
規定例
(安全衛生に関する労働条件の決定)
○ 安全衛生に関する労働条件の変更などについては、 会社と組合で協議決定する。
(安全衛生施設とその運営)
○ △△会社は、安全衛生のために必要な施設を完備し、従業員の生命身体等の安全の確保、健康増進及び危険災害の防止に努める。
2 安全衛生に関する運営を民主的に行うため、会社・組合同数の
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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委員によって構成する安全衛生委員会を設け、その決定を迅速確実に実施する。
安全衛生委員会の規則は別に定める。
(危険有害作業の就労拒否)
○ 組合及び組合員は、危険有害作業について就労を拒否することができる。
(安全衛生の点検)
○ 安全衛生の点検は、作業時間内において行う。
(3)新型インフルエンザ等感染症罹患による休業
平成 21 年、新型インフルエンザ(A/H1N1)が広く流行し、少なからぬ労働者が感染して社会問題となりました。その際、感染拡大防止の観点から、感染した労働者のみならず同じ職場で働いていた労働者や同居する家族が感染した労働者(濃厚接触者)は休業させるべきか、また休業させた場合に賃金を支払う必要があるのかなどが問題となりました。
こうした問題については、法律上明確な基準がないため、対応の仕方も会社により様々ですが、今後も同様のインフルエンザの流行と労働者の休業が生じることが十分予想されますので、労働協約で取扱いを規定しておくことが望まれます。
労働者を休業させた場合の賃金を支払う必要性の有無については、その休業が使用者の「責に帰すべき事由」(帰責事由。労働基準法第 26 条、民法第 536条第 2 項)によるものかどうかにより、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案して決めるべきことですが、一般的には、以下のように考えられます(厚生労働省「新型インフルエンザ(A/H1N1)に関する事業者・職場の Q & A」)。
① 労働者が新型インフルエンザに感染し、医師等の指導により休業する場合は、一般的には使用者の「責に帰すべき事由」による休業ではないと考えられ、賃金を支払う必要はないと考えられる。
しかし、医師による指導等の範囲を超えて(外出自粛期間経過後など)、使用者の判断により休業させる場合は、一般的に使用者の「責に帰すべき事由」による休業に当たると考えられるので、賃金を支払う必要がある。
60 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
また、感染したかどうかはっきりしない時点でも、使用者が、例えば「熱が 37 度以上あること」など、一定の症状があることをもって一律に労働者を 休業させる措置を取る場合も、使用者の判断により休業させる場合であるので、同様に賃金を支払う必要がある。
② 濃厚接触者でも、インフルエンザ様の症状がない場合は就労の継続が可能と考えられるので、職務の継続が可能である労働者を使用者の判断により休業させる場合は、一般的に使用者の「責に帰すべき事由」による休業に当たるので、賃金を支払う必要がある。
しかし、大規模な集団感染が疑われるケースなどで保健所等の指導により休業させる場合は、一般的には使用者の「責に帰すべき事由」による休業には当たらないと考えられるので、賃金を支払う必要はない。
③ 新型インフルエンザに感染している疑いのある労働者を、一律に年次有給休暇を取得したとして休業させることについては、年次有給休暇は原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものであるので、使用者が一方的に取得させることはできない。
④ 会社に病気休暇などの制度がある場合は、その規定に照らし適切に対応する必要がある。
ただ、従業員に感染が確認され自宅待機とする場合は、「賃金を通常どおり支払う(欠勤しても控除がない)」が 33%、また、同居家族に感染が確認された場合に原則として自宅待機とする企業のうち「賃金を通常どおり支払う」が 51%という民間の調査結果もあります。労働協約で取扱を定めるときは、こうした実情も踏まえて行ってください。
規定例
○ 従業員が、いわゆる新型インフルエンザに感染した場合、または感染が疑われると会社が判断して休業させる場合は、病気欠勤として取り扱うが、賃金は控除しない。また、人事面での不利益を生じさせない。
○ いわゆる新型インフルエンザに感染し休業した従業員と同じ職場で働いていた従業員や、同居する家族が感染した従業員(「濃厚接触者」という)については、会社は濃厚接触者の症状等を勘案し、必要と判断したときは休業を命じることがある。
この場合、会社が休業を命じた日の賃金は控除しない。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
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但し、大規模な集団感染が疑われるなどにより保健所等の指導により休業させる場合は、この限りでない。
(4)職場におけるメンタルヘルス対策とストレスチェック
労働者にとって心身の健康が大切なことはいうまでもありませんが、最近の雇用情勢や職場環境の変化などにより、仕事や職業生活に関する強い不安、ストレスを感じ、「心の不調」=メンタルヘルスの不調を訴える労働者が増えています。
厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成 18.3.31 公示 3 号)は、1「心の健康づくり計画」の策定、2「4 つのメンタルヘルスケア」(労働者自身によるセルフケア、職場の管理職によるラインケア(相談対応、情報提供、受診促進など)、事業場内の産業保健スタッフや産業医などによるケア
(労働者からの相談対応、情報提供など)、精神科クリニック等の事業場外資源によるケア)の継続的かつ計画的な推進、3 衛生委員会における調査審議などにより、職場における労働者の心の健康の保持増進のための措置(メンタルヘルスケア)が適切かつ有効に実施されるよう定めています。
労働協約においても、職場における労働者のメンタルヘルス対策を具体化することが求められていますが、まずは総論的な条項を設けておくことがメンタルヘルス対策の推進にとって有益です。
規定例
○ △△会社及び組合は、○○組合員の職場における心の健康の保持増進を図るため、職場におけるメンタルヘルス対策の立案及び推進に、共同して取り組む。
また、平成 27 年 12 月から、労働者が 50 人以上いる事業所では、毎年1回、
「ストレスチェック」を全ての労働者(但し、契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者を除く)に対して実施することが、事業者に義務付けられました(労働安全衛生法第 66 条の 10、同規則第 52 条の9~ 21)。
ストレスチェック(心理的な負担の程度を把握するための検査)は、ストレスに関する質問票に労働者が記入し、それを集計・分析することで、個々の労働者のストレスがどのような状態にあるのかを調べるものです。労働者が自分
62 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
のストレスの状態を知ることでストレスをため過ぎないように対処したり、ストレスが高い状態の場合は医師の面接指導を受けたり、会社側に労働時間の短縮等の就業上の措置を実施させたり、努力義務ではあるが集団ごとの集計・分析によって職場環境の改善につなげたりすることで、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組です。
ストレスチェックの実施方法や実施者、記録の作成、ストレスチェック結果の労働者への通知、医師の面接指導の対象となる労働者の要件、医師による面接指導の実施方法・確認事項・記録の作成保存、面接指導の結果についての医師からの意見聴取、労働者への就業上の措置、集団ごとの集計・分析、検査及び面接指導結果の労働基準監督署長への報告、労働者の不利益取扱いの禁止などについては、労働安全衛生法や同規則に詳細に定められています。また、ストレスチェック制度に関する事項については衛生委員会等で調査審議を行い、事業者は、その結論を踏まえてストレスチェック制度の実施に関する社内規程を定め、労働者に周知すべきとされています(厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」平成 27 年4月 15 日公示第1号)。
労働協約においては、総論的な条項を設けておくとともに、ストレスチェック及び医師による面接指導を促進するため、それらを受けるのに要した時間についても賃金が支払われるようにしておくことが望まれます。
規定例
○ △△会社及び○○組合は、○○組合員の職場における心の健康の保持増進を図るため、ストレスチェックに関する制度の立案及び実施に、共同して取り組む。
○ 会社は、組合員がストレスチェック及び医師による面接指導を受けるのに要した時間について、賃金を支払う。
(5)セクシュアルハラスメントの防止
事業主には、職場におけるセクシュアルハラスメントの発生を未然に防止するため、雇用管理上必要な措置を講じる義務(措置義務)が課せられています
(男女雇用機会均等法第 11 条)。また、未然防止だけでなく、セクシュアルハラスメントが発生した事後の迅速かつ適切な対応も求められています。特に平成 19 年 4 月からは「労働者からの相談に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備」が求められています。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
63
また厚生労働省の指針(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針 平成 18.10.11 厚生労働省告示第 615 号)は、事業主が雇用管理上講ずべき事項として、①事業主の方針の明確化とその周知・啓発(社内報やパンフの配布、就業規則での規定、研修等)、
②相談・苦情への対応(窓口の明確化、体制の整備等)、③セクシュアルハラスメントが生じた場合の事後の迅速かつ適切な対応(事実関係の迅速、正確な確認、処分、配転等の適正な対処等)、④①から③までの措置と併せて講ずべき措置(相談者・行為者のプライバシー保護とその周知や相談したこと等を理由とする不利益取扱をしない旨の周知)を求めています。
セクシュアルハラスメントの防止や事後の対処について、労使で協約化しておくことが望ましいでしょう。
規定例
○ 会社の基本姿勢
△△会社は、職場におけるセクシュアルハラスメントが、労働者の尊厳を不当に傷つけ、能力の有効な発揮を妨げるとともに、職場のモラルを低下させ、業務の円滑な遂行を妨げる問題であることを認識し、セクシュアルハラスメントがない快適な職場づくりを目指し、あらゆる雇用管理上の措置を講ずる。
○ セクシュアルハラスメント対策委員会の設置
《目的》 委員会は、セクシュアルハラスメントに対する防止対策及び苦情処理機関としての役割を持つ。
《構成》 委員会は会社代表と労働組合代表各○名~○名の委員により構成する。
なお、労使双方の委員には、男女とも入れるものとする。
《第三者機関》委員会は、必要に応じて公的機関や弁護士などの第三者機関に意見を聞くことが出来る。
《運営》 委員会は、委員のいずれかが苦情の申立てを受け、その内容が委員会での検討を要すると判断した場合には開催を要求できる。
議事の内容について、プライバシー保護が必要と判断される場合は非公開とする。
委員会の判断について当事者が納得をしない場合は、当事
64 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
者自身が行政機関や弁護士その他の機関に苦情の処理を依頼することを妨げない。
《守秘義務等》委員は、当事者のプライバシー保持に努める。退任後も秘密の保持を厳守する。
委員及び委員会は、苦情の申立者がその申立てをしたことにより不利益を被らないよう留意しなければならない。
(6)パワーハラスメントの防止
暴言・暴力や人間関係からの切り離し(無視、仲間外しなど)、業務上の過大・過小な要求といった職場のパワーハラスメントについては、近年東京都労働相談情報センターや都道府県労働局への相談が増加するなど、社会問題として顕在化してきています。職場のパワーハラスメントは、労働者のメンタルヘルスを悪化させ、職場全体の士気や生産性を低下させると指摘されています。
こうしたことを踏まえ、厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」は、平成 24 年 3 月「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」を取りまとめました。
パワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」です。提言は、職場のパワーハラスメントの概念や行為類型を踏まえ、先進的取組み例を参考に、会社や労働組合がパワーハラスメントをなくすよう取り組むことを求めていました。
しかし、提言後も職場におけるパワーハラスメントが改善される兆しがないため、現在政府・国会において、セクシュアルハラスメントと同様事業主にパワーハラスメント防止措置を講ずる措置義務を課す方向で法整備が進められています。こうした法整備の動向を踏まえて、パワーハラスメントの防止や事後の対処についても、労働協約に定めることが求められます。
規定例
セクシュアルハラスメントの防止についての規定例を参考にして下さい。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
65
(7)ライフ・ワーク・バランス・過労死等防止対策の推進
昨今、ライフ・ワーク・バランス(生活と仕事の調和)が国民的課題として推進されています。平成 19 年 12 月制定の労働契約法も、労働契約の一般原則として「労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」(第 3 条第 3 項)と定めています。
ライフ・ワーク・バランスは、個人にとっては、ライフステージに応じて、仕事の進め方・働き方を見直し、自分だけではなく他人の時間・生活をも尊重する生き方です。企業にとっても、働きがいのある職場をつくり、優秀な人材の確保、社員のモチベーションの向上、業務効率の改善を進めていくのに役立ちます。
ライフ・ワーク・バランス実現の具体的方策は、労働分野に限ってみても、単に長時間労働の抑制だけにとどまらず、生活重視の柔軟な働き方の選択の実現や非正規労働者の待遇の改善、育児・介護のための時間的保障など多方面にわたり、労働協約においてもそれぞれの分野で具体化することが必要ですが、総論的な条項を設けておくことも、今後のライフ・ワーク・バランス推進にとって意味があります。
規定例
(ライフ・ワーク・バランス)
○ △△会社及び○○組合は、○○組合員が充実した生活とやりがいのある仕事との両立が図れるよう、休暇・休業制度、働く時間や場所の見直し、働くスタイルの選択、自己啓発や子育てに対する経済的支援などに共同して取り組む。
また、平成 26 年 11 月 1 日、過労死等防止対策推進法が施行されました。同法は、近年過労死等が多発し大きな社会問題となっていること、過労死な
どが本人、その遺族、家族、社会にとって大きな損失であることに鑑み、過労死などに関する調査研究などを行い、過労死等の防止対策を推進し、もって過労死などがなく、生活と仕事を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的とするものです(同法第 1 条)。同法第
4 条第3項は、事業主は、国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策に協力するよう努めると定めています。
また、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(平成 27 年 7 月 24 日閣議決定)では、事業主は、労働者を雇用する者として責任をもって過労死等
66 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
の防止のための対策に取り組むよう努めるとし、特に経営幹部等の取組として
「最高責任者・経営幹部が事業主として過労死等は発生させないという決意を持って関与し、先頭に立って、働き方改革、年次有給休暇の取得促進、メンタルヘルス対策、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組等を推進するよう努める」「過労死等が発生した場合には、原因の究明、再発防止対策の徹底に努める」とされ、労働組合についても「労使が協力した取組を行うよう努めるほか、組合員に対する周知・啓発や良好な職場の雰囲気作り等に取り組むよう努める」「労働組合及び過半数代表者は、この大綱の趣旨を踏まえた協定又は決議を行うよう努める」としています。
過労死等防止の具体的対策も、長時間労働の抑制のみならず、職場におけるメンタルヘルス対策の推進、パワーハラスメントの防止、生活重視の柔軟な働き方の実現、相談体制の整備等多方面にわたり、労働協約においてもそれぞれの分野で具体化することが必要ですが、総論的な条項を設けておくことも、今後の過労死等防止対策の推進にとって意味があります。
規定例
(過労死等防止対策の推進)
○ △△会社及び○○組合は、組合員の過労死等を防止するため、長時間労働の抑制、メンタルヘルス対策(ストレスチェック制度を含む)の推進、パワーハラスメントの防止、生活重視の柔軟な働き方の実現、社内相談体制の整備、年次有給休暇取得率の改善その他の具体的対策の立案・実施に共同して取り組む。
(8)受動喫煙防止対策
平成 27 年6月1日から、労働者の健康の保持増進のため、受動喫煙防止のための「事業者および事業場の実情に応じた適切な措置」を講ずることが事業者の努力義務となりました(労働安全衛生法第 68 条の 2)。受動喫煙とは、室内と室内に準ずる環境において他人のたばこの煙を吸わされることです。資本金額や常時雇用する労働者の数にかかわらず、すべての事業者が対象です。国は、受動喫煙の防止のための設備の設置の促進その他の必要な援助に努めるものとされています(同法第 71 条第 1 項)。
事業者は、職場における受動喫煙の現状把握と分析を行い、衛生委員会等で具体的な対策を決めて実施します。また、対策の実施後は効果を確認し、必要に応じて対策の見直しを行います。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
67
規定例
○(受動喫煙防止の基本姿勢)
△△会社は、労働者の健康の保持増進のため、事業者・事業場の実情を把握・分析した結果等を踏まえ、安全衛生委員会での検討を経て、受動喫煙防止のための適切な措置を講ずるとともに、必要に応じて措置の見直しを行う。
○(把握・分析すべき情報)
事業者および事業場の実情として把握・分析すべき情報には、以下の情報が含まれるものとする。
・特に配慮すべき労働者の有無(妊娠している者、呼吸器・循環器に疾患をもつ者、未成年者)
・職場の空気環境の測定結果
・事業場の施設の状況(消防法等他法令による施設上の制約等)
・労働者及び顧客の受動喫煙防止対策の必要性に対する理解度
・労働者及び顧客の受動喫煙防止対策に関する意見・要望
・労働者及び顧客の喫煙状況
○(講ずるべき措置)
会社・事業場の実情を把握・分析した結果等を踏まえ会社が講ずるべき措置には、以下の事項が含まれるものとする。
・敷地内全面禁煙、屋内全面禁煙(屋外喫煙所)、空間分煙(喫煙室)
・受動喫煙防止対策の担当部署の指定
・受動喫煙防止対策の推進計画の策定
・受動喫煙防止に関する教育、指導の実施等
・受動喫煙防止対策に関する周知、掲示等
12 非正規労働者の待遇の改善等
パート労働者や有期契約労働者など非正規労働者の急増に伴い、職場のなかでの非正規労働者の役割の重要性も増しています。こうした中、平成 20 年 4月には改正パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)が施行されました。また平成 24 年 8 月には、有期労働契約(期間の定めのある労働契約)についての労働契約法の一部を改正する法律が公布されまし
68 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
た。パートタイム労働法はさらに改正され、平成 27 年4月1日から施行されています。
そして、平成 30 年 6 月には、同一企業内における正規・非正規の間の不合理な待遇差を解消し、雇用形態に関わらない公正な待遇を確保するため、働き方改革関連法が成立しました。これにより、労働契約法第20 条は削除され、パートタイム労働法は有期契約労働者も対象に含めて「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(」略称パートタイム・有期雇用労働法)に改正されました(2020 年 4 月 1 日施行、但し中小企業については 2021 年 4月 1 日から適用。それまでは現行のパートタイム労働法、労働契約法等が適用となります)。
このように、雇用が不安定で労働条件も正規労働者に劣後しがちな非正規労働者の待遇改善のための様々な取組みが行われています。
労使においても、こうした取組みを強める必要があります。労働組合にとっても、そうした非正規労働者の待遇を改善し、わが国の労働者全体の底上げを図ることは重要な課題であり、そのために非正規労働者の組織化(組合員化)に取り組む必要があります。
こうした法改正を踏まえ、以下では、非正規労働者の組織化を行った場合に締結すべき労働協約のいくつかの事項について簡潔に解説します。
(1)現行法でのパートタイム労働者の均衡待遇
労働契約法第 3 条第 2 項は、「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実 態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更しなければならない」として、
「均衡考慮」の努力義務を定めています。
平成 27 年 4 月施行の現行パートタイム労働法(パートタイム・有期雇用労働法が施行、適用されるまでは、この法律が適用されます)は、正社員との差別的取り扱いが禁止されるパートタイム労働者の対象範囲を拡大し、職務の内容や人材活用の仕組みが正社員と同じ場合には、有期労働契約のパートタイム労働者も含めて、賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用をはじめ、すべての 待遇について正社員との差別的取扱いをすることを禁止しています(同法第 9条)。また、「短時間労働者の待遇の原則」として、事業主が雇用するパートタイム労働者の待遇と正社員の待遇を相違させる場合には、その待遇の相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないとする、すべてのパートタイム労働者を対象とした規定が定められています(同法第 8 条)。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
69
しかし、現行法が定める内容だけでは必ずしも十分ではありません。そこで労働組合は、パートタイム労働者の待遇等をさらに改善していくため、2020年 4 月 1 日施行(中小企業への適用は 2021 年 4 月 1 日)のパートタイム・有期雇用労働法及びそれに伴い策定された「同一労働同一賃金ガイドライン」(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)等を参考に、同法施行前においても、現行のパートタイム労働法上努力義務や配慮義務とされている事項(第 10 条、第 11 条第 2 項、第 12 条)について実施義務に引き上げるとか、同法では努力義務ともされていない事項について努力義務ないし実施義務に引き上げることなどについて使用者と交渉し、法律を上回る内容の労働協約を締結していくことが求められます。
■パートタイム労働者の待遇(現行パートタイム労働法)
【パートタイム労働者の態様】 (通常の労働者と比較して) | 賃金 | 教育訓練 | 福利厚生 | ||||
職務の内容 (業務の内容及び責任) | 人材活用の仕組みや運用等 (人事異動の有無及び 範 囲) | 職務関連賃金 ・基本給 ・賞与 ・役付手当等 | 左以外の賃金 ・退職手当 ・家族手当 ・通勤手当(※) 等 | 職務遂行に必要な能力を付与するもの | 左以外のもの (キャリアアップのための訓練等) | ・給食施設 ・休憩室 ・更衣室 | 左以外のもの (慶弔休暇、社宅等の貸与等) |
①通常の労働者と同視すべき短時間労働者 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | |
同じ | 同じ | ||||||
②通常の労働者と職務の内容が同じ短時間労働者 | △ | − | ○ | △ | ○ | − | |
同じ | 異なる | ||||||
③通常の労働者と職務の内容も異なる短時間労働者 | △ | − | △ | △ | ○ | − | |
異なる | − |
<講じる措置>
◎…パートタイム労働者であることによる差別的取扱いの禁止
○…実施義務、配慮義務
△…職務の内容・成果、意欲、能力、経験等を勘案する努力義務
−…パートタイム労働指針に基づき、就業の実態、通常の労働者との均衡等を配慮するように努めるもの
(※)ただし、現実に通勤に要する交通費等の費用の有無や金額如何にかかわらず、一律の金額が支払われている場合など、名称は通勤手当であっても、実態としては、基本給などの職務関連賃金の一部として支払われている場合などは、「職務関連賃金」に当たります。
(2)現行法での有期雇用労働者についての不合理な労働条件の禁止
現行労働契約法第 20 条は、有期雇用労働者(期間の定めのある有期労働契約を締結した労働者)の労働条件が、期間の定めがあることにより無期雇用労
70 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容や責任の程度、配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないと定めています(平成 25 年 4 月 1 日施行)。
対象となる「労働条件」は、賃金や労働時間などの狭い意味での労働条件だけでなく、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、福利厚生など、労働者に対する一切の待遇が含まれます。
また、労働条件の相違が「不合理」と認められるかどうかは、①職務の内容
(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情、を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されますが、特に通勤手当や食堂の利用、安全管理などについて有期雇用労働者と無期雇用労働者との間で労働条件を相違させることは、特別の理由がない限り、合理的とは認められないと考えられます。
労働組合としては、パートタイム・有期雇用労働法及びそれに伴い策定された「同一労働同一賃金ガイドライン」の施行(2020 年 4 月 1 日(中小企業への適用は 2021 年 4 月 1 日 )前の現行労働契約法の下でも、同法及び同ガイ ドライン等を参考に、有期契約を理由とした不合理な労働条件がないかどうかをチェックするとともに、不合理な労働条件が発見されたときはその是正を求めていくことが必要です。また、不合理な相違が発生しないように会社と協約を締結することも重要です。
規定例
(不合理な労働条件の待遇差の改善)
○ 会社は、パートタイム労働者などの有期雇用労働者と正社員
(無期雇用労働者)との間で、次の事項について差を設けない。
1 通勤手当、出張旅費、特殊作業手当、精皆勤手当の支給に関する事項
2 法定労働時間を超えて行った時間外労働手当の割増率、休日・深夜労働の割増率に関する事項
3 社員食堂、休憩室、更衣室の利用に関する事項
4 労働者の安全衛生管理に関する事項
(3)パートタイム・有期雇用労働法における均衡待遇・均等待遇
パートタイム・有期雇用労働法(2020 年 4 月 1 日施行(中小企業への適用 は 2021 年 4 月 1 日 )は、均衡待遇に関する規定(第 8 条、不合理な待遇の禁止)
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
71
と均等待遇に関する規定(第 9 条、差別的取扱いの禁止)を定めました。 このうち、均衡待遇に関する第 8 条は、事業主は、その雇用するパートタイ
ム労働者・有期雇用労働者の基本給・賞与その他の待遇のそれぞれについて、 当該待遇に対応する正社員(無期雇用フルタイム労働者)の待遇との間において、パートタイム労働者・有期雇用労働者と正社員の①職務の内容(業務の内容及び責任の程度)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事 情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとしています。つまり、基本給や各種手当、福利厚生等の個々の待遇ごとに、その待遇の性 質・目的をまず確定し、それに照らして上記①から③のうち適切な事情を考慮して比較し、不合理と認められる有期雇用労働者等の待遇を禁止するものです。次に、均等待遇に関する第 9 条は、正社員と①職務内容、②職務内容・配置 の変更範囲が同一である場合は、賃金その他の待遇について、パートタイム・有期雇用労働者であることを理由として、差別的取り扱いをしてはならないと
しました。
こうした法改正を踏まえ、「同一労働同一賃金ガイドライン」は、①基本給、
②賞与、③各種手当、④福利厚生・教育訓練のそれぞれについて、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理でないのか、原則となる考え方と具体例を示しており、大いに参考になります。すべてをここで紹介することはできませんが、労働組合としては、このガイドラインに沿って、パートタイム労働者・有期雇用労働者ら非正規労働者の待遇改善に向けて交渉し労使協定を締結していくことが重要です。
また、このガイドラインには退職手当や住宅手当、家族手当等の待遇については示されていませんが、これらについても不合理な待遇差の解消が求められています。労働組合としては、これらの待遇についても、労使協議を通じて待遇差の解消を図っていくことが必要です。
[ 同一労働同一賃金ガイドライン ]
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
(4)パートタイム・有期雇用労働者の通常の労働者への転換
平成 27 年 4 月改正の現行パートタイム労働法第 13 条は、パートタイム労 働者を通常の労働者へ転換することを推進するため、事業主は、①通常の労働者の募集の際は、その募集内容をすでに雇っているパートタイム労働者に周知
72 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
する、②通常の労働者のポストを社内公募する際は、パートタイム労働者に対しても応募機会を与える、③パートタイム労働者が通常の労働者へ転換するための試験制度を設ける等の転換制度を導入する、のいずれかの措置を取るよう定めています。そして、2020 年 4 月 1 日施行(中小企業への適用は 2021 年 4月 1 日)のパートタイム・有期雇用労働法においては、有期雇用労働者を新たに対象に加えて、この定めを引き継いでいます(第 13 条)。
労働協約においては、これらの措置が実効あるものとなるよう、手続も含めて具体化することが求められます。
規定例
(パートタイム・有期雇用労働者の正社員への転換)
○ 1 年以上勤務するパートタイム・有期雇用労働者のうち、次の要件を満たした者は、正社員登用試験を受けることができ、合格者は正社員に登用する。
会社と組合は、実際の運用が恣意的にならないようにすることを含め、上記登用制度の詳細について別途協定する。
1 本人が正社員への転換を希望する者
2 正社員と同じ労働時間の勤務ができる者
○ 会社は、正社員の募集の際は、その募集内容をすでに雇っているパートタイム労働者・有期雇用労働者に周知する。
(5)有期労働契約の無期労働契約への転換
労働契約法は、同一の使用者(会社)との間で、有期労働契約が通算で 5 年を超えて反復更新された場合は、労働者の申込みにより無期労働契約に転換することとしています(同法第 18 条、平成 25 年 4 月 1 日施行)。
ただし、通算契約期間のカウントは、平成 25 年 4 月 1 日以後に開始する有期労働契約が対象で、平成 25 年 3 月 31 日以前に開始した有期労働契約は、 通算契約期間に含めません。また、有期労働契約とその次の有期労働契約の間に、契約がない期間(空白期間)が 6 ヶ月以上あるときは、その空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含めません(クーリング)。クーリングされた場合、空白期間後の契約期間から、通算契約期間のカウントが再度開始されます。
第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
73
「通算契約期間」の計算について(クーリングとは)
1年 1年 1年
1年 1年 1年 1年 1年 1年
締結
更新
更新
6か月以上の空白期間
更新
更新
更新
更新
更 可込新 能 み
申
←
←
←
←
←
←
←
←
空白期間の前はカウントに含めず 5年
平成 25 年 4 月 1 日以後に開始した有期労働契約の通算契約期間が 5 年を超える場合、その契約期間の初日から末日までの間に、無期転換の申込みをすることができます。
労働者が無期転換の申込みをすると、使用者がその申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約がその時点で成立しますが、実際に無期労働契約に転換されるのは、申込みをしたときの有期労働契約が終了した日の翌日からです。
無期転換の申込みができる場合
5年
1年 1年 1年 1年 1年 1年
③無期労働契約
【契約期間が1年の場合の例】
←
←
←
←
締 更 更 更
結 新 新 新
更 ④ ① ②
通算5 年を超えて契約更新した労働者が、その契約期間中に無期転換の申込みをしなかったときは、次の更新以降でも無期転換の申込みができます
み
1年 1年
③無期労働契約
←
←
←
新 更 申 転新 込 換
【契約期間が3年の場合の例】
④ ① ②
5年
新
込み
換
3年
3年
③無期労働契約
←
←
更 申 転
←
←
←
締 ④ ① ②
結 更 申 転
新 込 換み
転換後の無期労働契約の労働条件は、別段の定めのない限り、直前の有期労働契約と同一となりますが、別段の定めをすることにより変更は可能です。「別段の定め」とは、労働協約や就業規則、個々の労働契約(労働者と使用者の個別の合意)をいいます。
なお、無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換申込権を放棄させることはできません。
74 第 2 部 個別編 −労働協約主要条項についての説明及び規定例−
今後は、第 1 に、無期転換申込権が発生する前に会社が雇止めを行うこと を防止するための対策を図るとともに、第 2 に、無期労働契約への転換後の 労働条件につき、会社と組合が協議のうえ労働協約に定めておくことが重要です。
ポイントの 1 つめは、無期転換後の職務内容が直前の有期労働契約のとき と変更がないにもかかわらず、無期転換後の労働条件を従前より低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではないとされていることです(国会答弁)。たとえば、有期労働契約のときは勤務地限定であったの に、無期転換後は勤務地限定がなくなって広域転勤ありの労働条件とするとか、無期転換後は有期労働契約のときの賃金から大幅にダウンするというのでは、せっかく法律上は無期転換申込権が創設されたのに、それを行使する労働者がいないか、きわめて少ないこととなりかねず、この条文の実効性がそがれてしまいます。そこで、この場合、労働組合としては、無期転換後において少なくともその直前の有期労働契約のときの労働条件より低下させず、さらに改善させる取組みをすることが求められます。
ポイントの 2 つめは、無期転換に伴って、直前の有期労働契約のときより労働者の職務内容や責任の範囲などが重くなる場合に備えて、それにふさわしい労働条件をあらかじめ労使の協議で定めておくことです。この場合、たとえば無期転換後の賃金、労働時間、休日・休暇などの労働条件については、無期転換した労働者と同一の職種・職務内容の無期契約労働者(正社員)と同等とするなどの条項を定めることが考えられるでしょう。
(6)有期労働契約の締結、更新及び雇止め
有期労働契約を締結している労働者の契約の締結、更新及び雇止め(更新拒絶)について、厚生労働省は、①契約更新の有無や更新基準の明示など契約締結時の明示事項等、② 3 回以上更新されている場合等一定の条件を充たす場合の雇止めの予告、③雇止めの理由の明示、④契約期間についての配慮など、事業主が講ずべき措置を定めています(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準、厚生労働省告示第 357 号(平 15.10.22)、平成 20 年 1 月 23 日厚生労働省告示第 12 号、平成 25 年 4 月 1 日改正)。
しかし、これはあくまで告示に過ぎません。そこで、労働協約においては、雇止めをめぐるトラブルの防止などのために、これらの事項について定めて明確化することが求められます。
また、労働契約法第 17 条第 2 項は、有期労働契約について使用者は、その
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
第 2 部 個別編 ー労働協約主要条項についての説明及び規定例ー
75
労働者を使用する目的に照らして必要以上に短い期間を定めることにより反復更新することのないよう配慮しなければならないと定めています。そこで労働組合としては、契約社員など有期労働契約を締結している労働者の雇用の安定を図るため、例えば職種ごとに有期契約の期間の下限を労働協約で定めるなどの努力を行うことが求められます。
そして、労働契約法の一部改正により、最高裁判所で確立した「雇止め法理」が法律に規定されました(同法第 19 条、平成 24 年 8 月 10 日施行)。すなわち、対象となる有期労働契約は、①過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約における解雇と社会通念上同視できると認められるもの、ないし②労働者において、有期労働契約の契約期間満了時に当該有期労働契約が更新されると期待することについて合理的な理由があると認められるものです。そして、このいずれかにつき、労働者から有期労働契約の更新の申込みがなされた場合、使用者側(会社)がその契約更新の申込みを拒絶すること(雇止め)が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めは認められず、使用者は従前の有期労働契約の労働条件と同一の労働条件でその申込みを承諾したものとみなす、というものです。
労働協約においては、この法律の条項を踏まえ、雇止めを行う際の事前協議を定めることなどが求められるでしょう。
規定例
(有期労働契約の締結、更新及び雇止めの手続)
○ 期間の定めのある労働契約を締結している組合員(以下、有 期契約組合員という)との契約の締結、更新及び雇止めに当たっての手続きは、次の各号の定めによる。
1 会社は、有期労働契約の締結に際しては、当該契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無を明示する。
2 1 年を超えて継続勤務している有期契約組合員の労働契約を更新する場合の契約期間は、6 ヵ月以上とする。
3 会社が雇止めをする場合の判断基準は以下のとおりとし、 会社は、その雇止めの適否につき労働契約法を踏まえて事前に組合と協議する。
① 契約満了時の業務量、予定した業務の進捗状況
76
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
第 2 部 個別編 ー労働協約主要条項についての説明及び規定例ー
② 労働者の勤務成績、勤怠状況
③ 会社の経営状況
④ 1 年を超えて継続勤務している有期契約組合員の労働契約
(あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されている場合を除く)を更新しない場合には、会社は組合の同意を得て、30 日までに予告するか、又は 30 日分の平均賃金を支給する。
この場合、会社は更新しない理由を記載した証明書を当該組合員に交付する。
(7)派遣労働者との均等待遇・均衡待遇
働き方改革関連法の成立により、派遣労働者と派遣先労働者との間にも、パートタイム労働者・有期契約労働者と正社員との関係と同様に、不合理な待遇差の禁止規定と差別的取扱い禁止の規定が設けられました ( 改正労働者派遣法第 30 条の 3、2019 年 4 月 1 日施行 )。
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
第 2 部 個別編 ー労働協約主要条項についての説明及び規定例ー 77
但し、派遣元が、派遣労働者の賃金の額を「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金額と同等以上の額にする」等の一定の要件を満たす労使協定を、派遣元の過半数労働組合又は過半数代表者との間で書面により締結し、かつ、当該協定の内容を遵守している場合には、労働者派遣法の均等 ・ 均衡待遇の規定は適用されません(改正労働者派遣法第 30 条の 4)。
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
労働協約は、組合員の労働条件や労使関係その他についての使用者と労働組合の自主的な合意ですので、法令や公序良俗に反しない限り、どのような事項、内容を盛り込むかについては特に制約はありません。
しかし、労使関係の複雑化などに伴って、労働関係法上の労使協定や法的手続への労働組合等の関与が増大してきています。過半数労働組合(当該事業場の労働者の過半数を組織する労働組合。但し、民事再生など倒産手続では企業単位での過半数)がある場合は、過半数労働組合が労使協定等の締結当事者等とされていますから、従業員全体にとっても過半数労働組合の役割がますます重要になっています。
以下では、労働基準法等で過半数労働組合が締結当事者とされている労使協定等の例を示したうえで、そのうち重要なものについて簡潔に解説します。
1 過半数労働組合が締結当事者とされている労使協定等
(1)過半数労働組合が締結権限を有する労使協定等
当該事業場の過半数労働組合には、一定の事項について労使協定を締結する権限が付与されています。主なものは以下のとおりです。
ただ、このうち特に労働時間に関する労使協定については、その協定を締結
(多くの場合は労働基準監督署長への届出も必要)することによって、使用者が、労働基準法の定める法規制(1 日 8 時間、1 週 40 時間労働等)を免れるという法律効果が発生することになります。これらの労使協定を締結するかどうかは自由ですし、締結する際には、組合員のみならず職場の従業員全体の意見をよく聞いて、労働者に不利にならないよう慎重に対応する必要があります。
① 貯蓄金の管理に関する協定(労働基準法第 18 条第 2 項)
② 賃金の一部控除に関する協定(労働基準法第 24 条第 1 項)
③ 1 か月単位の変形労働時間制に関する協定(労働基準法第 32 条の 2)
④ フレックスタイム協定(労働基準法第 32 条の 3)
⑤ 1 年単位の変形労働時間制に関する協定(労働基準法第 32 条の 4)
⑥ 1 週間単位の変形労働時間制に関する協定(労働基準法第 32 条の 5)
⑦ 休憩時間の一斉付与の例外に関する協定(労働基準法第 34 条 2 項)
⑧ 時間外・休日労働協定(労働基準法第 36 条)
⑨ 事業場外労働のみなし労働時間に関する協定(労働基準法第 38 条の 2)
⑩ 専門業務型裁量労働制のみなし労働時間に関する協定(労働基準法第 38条の 3)
78 第 3 部 労働関係法上の労使協定等
⑪ 企画業務型裁量労働制のみなし労働時間に関する労使委員会の決議(労働基準法第 38 条の 4)
⑫ 年次有給休暇の時間単位での取得に関する協定(労働基準法第 39 条第 4項)
⑬ 計画年休協定(労働基準法第 39 条第 6 項)
⑭ 有給休暇手当の支払方法(標準報酬日額による)に関する協定(労働基準法第 39 条第 7 項)
⑮ 高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付の事業主による支給 申請手続の代理に関する協定(雇用保険法施行規則第 101 条の 8、第 101条の 15、第 102 条)
⑯ 雇用調整助成金の支給に関わる協定(雇用保険法施行規則第 102 条の 3)
⑰ ユニオン・ショップ協定(労働組合法第 7 条 1 号但書参照)
⑱ 派遣労働者の待遇に関する一定の要件を満たす協定(労働者派遣法第 30条の 4)
(2)過半数労働組合が意見聴取の対象とされている等の事項
また過半数労働組合は、以下に挙げるとおり、いろいろな法律で重要な事項についての意見聴取や通知、協議の対象とされていますし、意見陳述の機会も与えられています。その意味で、過半数労働組合の役割がますます重要になって来ています。
こうした意見聴取や協議、意見陳述においては、過半数労働組合は、労働者を代表して積極的に意見を表明していくべきです。主なものは以下のとおりです(条文等省略)。
① 就業規則の作成・変更についての意見聴取
② 安全衛生改善計画の作成についての意見聴取
③ 会社分割における労働者全体の理解と協力を得る努力
④ 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律関係ア 再就職援助措置の内容に関する意見聴取
イ 再就職援助担当者の業務遂行に係る基本的事項に関する意見聴取
⑤ 労働者派遣における派遣先が同一事業所で3年を超えて派遣労働者を受け入れる場合の意見聴取(延長する事業所等と延長する期間)
⑥ その他、民事再生法、会社更生法、破産法の関係でも意見聴取や意見陳述などの対象となっています。この場合の過半数労働組合は、事業場単位ではなく企業単位になります。
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
79
2 労働時間に関する労使協定等
(1)時間外・休日労働協定(36 協定)
臨時的・一時的なやむを得ない必要がある場合には、使用者は、例外的に、労働者に法定時間(1 日 8 時間、1 週 40 時間)を超えて労働させたり(時間外労働)、法定休日に労働させる(休日労働)ことができます(労働基準法第 36 条第 1 項)。そのためには、非常時(労働基準法第 33 条)を除いて、労使協定の締結と労働基準監督署長への届出が必要になります(労働基準法第 36条第 1 項、労働基準法施行規則第 17 条)。この労使協定を、36(サブロク)協定と呼んでいます(ただし、36 協定によって直ちに労働者に残業義務が発生するわけではありません)。
しかし、これまで労働基準法には時間外労働の上限時間や上限回数を制限する規定はありませんでした。具体的な基準は、厚生労働省の告示(「労働時間の延長の限度等に関する基準」平成 10 年厚生労働省告示 154 号)で基準時間
(限度時間)(例えば一般の労働者の場合は 1 か月で 45 時間、1 年間で 360 時間)が定められているだけでした。しかも、限度時間を超えて働かせなければならない特別の事情(臨時的なものに限ります)が生じた場合に備えて特別条項を付することができ(特別条項付き 36 協定)、その場合の上限は告示には定められていませんでした。そうしたことから、長時間労働の問題はなかなか改善されませんでした。
そこで、働き過ぎを防ぐことによって労働者の健康を守り、ライフ・ワーク・バランスを実現するため、平成 30 年 6 月、「働き方改革関連法」の成立に伴い労働基準法が改正され、36 協定を締結する場合でも時間外労働時間等の上限時間や上限回数が定められ、刑罰規定が設定されました(原則として平成 31 年 4 月 1 日施行)。具体的には以下のとおりです。
ア 時間外労働の上限時間(限度時間)
原則 1 ヶ月 45 時間、1 年 360 時間(労基法第 36 条第 3 項、第 4 項)
(但し、1 年単位の変形労働時間制採用事業場で対象期間が 3 ヶ月超の場合、1 ヶ月 42 時間、1 年 320 時間)
この限度時間の原則が適用されるのは、時間外労働についてであり、休日労働を含みません。
イ 上記限度時間の例外として「事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を越えて」時間外労働や休日労働をさせる必要がある場合(労基法第 36 条第 5,第 6 項)も、
80 第 3 部 労働関係法上の労使協定等
① 1 年 720 時間以下(休日労働は含まない、時間外労働のみ)
② 複数月(2 ~ 6 ヶ月)の平均が 80 時間以下(休日労働を含む)
③ 月 100 時間未満(休日労働を含む)でなければならないとされました。
そして、④時間外労働については、原則である 1 ヶ月 45 時間を越えることができるのは年間 6 回まで(休日労働は含まない)とされました。臨時的な特別の事情がある場合についても、36 協定はこれら①~④を全て満たす必要があります。また、上記②、③の違反に対しては、6 ヶ月以下の懲役又は 30万円以下の罰金が科されることになりました(労基法第119 条、第36 条第6 項)。
但し、中小企業については 2020 年 4 月 1 日から適用となり、また自動車運転の業務、建設事業、医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造事業については施行から 5 年間適用が猶予され、新技術・新商品等の研究開発業務については適用が除外されていることに注意して下さい。
この改正に伴い、①労働時間を延長し、休日労働させることができる労働者の範囲、②対象期間(労働時間を延長し、休日労働をさせることができる期間)、
③労働時間を延長し、休日労働をさせることができる場合、④対象期間(1 年間に限る)における 1 日、1 ヶ月、1 年のそれぞれの期間について延長することができる労働時間、⑤厚生労働省令で定める事項(協定の有効期間、限度時間を超えて労働させる場合の具体的場合や健康福祉確保措置、割増賃金の率、手続など)を記載した協定届(様式第 9 号、第 9 号の 2)を、労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
過半数代表(事業場に労働者の過半数を組織する労働組合があるときはその労働組合(過半数労働組合)、過半数を組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者(過半数代表者 )は、真に労働者の意思が反映されるよう民主的な手続で選出されなければなりません。使用者が指名したり選出手続に干渉するなどして使用者の意向に基づき選出された者であってはなりません(労働基準法施行規則第 6 条の 2 の第 1 項 2 号)。
36 協定を締結するかどうかは、各事業場ごとに労使自治に基づいて決めるべきことです。長時間労働を抑制し、労働者の健康等を確保するため、特に臨時的に限度時間を超えて労働させる場合を含む 36 協定を締結する場合には、時間外労働などの上限時間(80 時間や 100 時間は、脳心臓疾患や精神疾患の労災認定における過重労働の時間的基準に相当するものです)や臨時的に限度時間を超えて労働させる場合(できるだけ具体的に定めなければならず、「業務上の都合上必要な場合」や「業務上やむを得ない場合」など恒常的な長時間
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
81
労働を招くおそれがある抽象的な定め方は認められないとされています。平成 30 年 9 月 7 日厚生労働省告示第 323 号第 5 条)、健康福祉確保措置(同告示第
8 条)などについて、慎重かつ厳格に定めることが必要です。
月 60 時間を超える時間外労働の割増賃金率は50%以上と定められていますが(労働基準法第 37 条第 1 項但書)、中小企業については適用が猶予されていました。しかし、中小企業で働く労働者の長時間労働を抑制し、健康確保等を図る観点から、この猶予措置が 2023 年 4 月 1 日から廃止され、中小企業にも適用されることになっています。なお、月 60 時間を超える時間外労働に対しては、過半数組合などとの協定により、その割増賃金を支払う代わりに有給の休暇を付与する制度(代替休暇)を設けることができます(労働基準法第 37 条第 3 項)。
規定例
(対象者及び期間)
○ 代替休暇は、賃金計算期間の初日を起算日とする 1 ヶ月において、 60 時間を超える時間外労働を行った者のうち半日以上の代替休暇を取得することが可能な者(以下「代替休暇取得可能労働者」という)に対して、当該代替休暇取得可能労働者が取得の意向を示した場合に、当該月の末日の翌日から 2 ヶ月以内に与えられる。
(付与単位)
○ 代替休暇は、半日又は 1 日単位で与えられる。この場合の半日とは、午前(8:00 ~ 12:00)又は午後(13:00 ~ 17:00)の 4 時間のことをいう。
(代替休暇の計算方法)
○ 代替休暇の時間数は、1 か月 60 時間を超える時間外労働時間数に換算率を乗じた時間数とする。この場合において、換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率 50%から代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率 30%を差し引いた 20%とする。また、会社は、労働者が代替休暇を取得した場合、取得した時間数を換算率(20%)で除した時間数については、20%の割増賃
82 第 3 部 労働関係法上の労使協定等
金の支払を要しない。
(代替休暇の意向確認)
○ 会社は、1 か月に 60 時間を超える時間外労働を行った代替休暇取得可能労働者に対して、当該月の末日の翌日から 5 日以内に代替休暇取得の意向を確認するものとする。この場合において、5 日以内に意向の有無が不明なときは、意向がなかったものとみなす。
(賃金の支払日)
○ △△会社は、前記の意向確認の結果、取得の意向があった場合には、支払うべき割増賃金額のうち代替休暇に代替される賃金額を除いた部分を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、当該月の末日の翌日から 2 か月以内に取得がなされなかった場合には、取得がなされないことが確定した月に係る割増賃金支払日に残りの 20%の割増賃金を支払うこととする。
○ △△会社は、前記の意向確認の結果、取得の意向がなかった場合には、当該月に行われた時間外労働に係る割増賃金の総額を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、当該月の末日の翌日から 2 か月以内に労働者から取得の意向が表明された場合には、会社の承認により、代替休暇を与えることができる。この場合、取得があった月に係る賃金支払日に過払分の賃金を清算するものとする。
(2)時間単位の有給休暇
事業場単位での過半数代表との労使協定の締結により、1 年に 5 日分を限度として、労使協定に定める日数分の年次有給休暇を時間単位で取得できることになりました(労働基準法第 39 条第 4 項)。
規定例
(対象者)
○ すべての労働者を対象とする。
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
83
(日数の上限)
○ 年次有給休暇を時間単位で取得することができる日数は 5 日以内とする。
(1 日分の年次有給休暇に相当する時間単位年休)
○ 年次有給休暇を時間単位で取得する場合は、1 日分の年次有給休暇に相当する時間数を 8 時間とする。
(取得単位)
○ 年次有給休暇を時間単位で取得する場合は、 1 時間単位で取得するものとする。
(3)みなし労働時間制に関する労使協定等
みなし労働時間制とは、労働時間を実時間で算定する実労働時間原則の例外として、実際働いた労働時間と関わりなく、あらかじめ労使の合意で定めた時間を働いたものとみなす制度です。労働基準法では、専門業務型裁量労働制(労働基準法第 38 条の 3)、企画業務型裁量労働制(労働基準法第 38 条の 4)、事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法第 38 条の 2)の 3 種類が定められています。
みなし労働時間制とは、労働時間を実時間で算定する実労働時間原則の例外として、実際働いた労働時間と関わりなく、あらかじめ労使の合意で定めた時間を働いたものとみなす制度です。労働基準法では、専門業務型裁量労働制(労働基準法第 38 条の 3)、企画業務型裁量労働制(労働基準法第 38 条の 4)、事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法第 38 条の 2)の 3 種類が定められています。
みなし労働時間制は、実際の労働時間よりも少なく定められる危険性も高く、その場合は実際にみなし労働時間を超えて働いても、その分の時間外の割増賃金を請求することができなくなります。使用者にとっては残業代の「節約」になりますが、労働者にとっては無限定な長時間労働を強いられることにもなり
84 第 3 部 労働関係法上の労使協定等
かねません。そこで労働基準法は、これらの制度を導入するに当たって厳格な要件を定めています。
なお、みなし労働時間制に関する規定が適用される場合でも、休憩、深夜労働、休日労働に関する規定は適用されます。
ア 専門業務型裁量労働制(労働基準法第 38 条の 3)
専門業務型の対象業務としては、新商品若しくは新技術の研究開発、情報処理システムの分析又は設計の業務など、現在 19 業務が定められています
(労働基準法施行規則第 24 条の 2 の 2、労働省告示第 7 号(平 9.2.14 )。対象業務が高度の専門性、裁量性を持つものであるかどうか、業務の遂行について労働者が自主的に決定することができるものであるかどうかなどについて、厳格にチェックすることが必要です。
またこの制度を導入するためには、①対象業務、②当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し当該業務に従事する労働者に対し具体的な指示をしないこととすること、③みなし労働時間、④健康福祉確保措置、⑤苦情処理措置、⑥有効期間などを定めた労使協定を締結することが必要です(但し労使委員会等の決議で代替も可能)。また労使協定は、協定届(様式第13 号)によって労働基準監督署長に届け出ることが求められています。
規定例
株式会社○○と○○労働組合は、 専門業務型裁量労働に関し、次のとおり協定する。
(適用対象者)
○ ◇◇研究所で研究業務に従事する者とする。但し、 裁量性のない補助的業務は除く。
(みなし労働時間)
○ 所定労働日に勤務した場合は、○時間労働したものとみなす。
(深夜労働・休日労働)
○ 業務の都合で、やむを得ず深夜又は休日に労働する場合は、原則
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
85
として事前に所属長の許可を得るものとし、その勤務時間はみなし労働には含めない。
深夜又は休日における労働については、通常の勤務者と同様賃金規定○条の割増賃金を支給する。
(健康及び福祉確保措置)
○ △△会社と○○労働組合は、労使各○名からなる労使委員会を設置し、専門職の裁量労働従事者の健康及び福祉の確保のための措置を講ずる。
(苦情処理)
○ △△会社と○○労働組合は、前条の労使委員会内に、苦情処理小委員会を設置し、専門職の裁量労働従事者からの苦情の処理のための措置を講ずる。
(記録の保存)
○ 裁量労働従事者の健康福祉確保、苦情処理に関して講じた措置の記録は、本協定の有効期間及びその期間満了後 3 年間保存する。
(協定の有効期間)
○ 平成○年○月○日から平成○年○月○日までの 1 年間とする。
イ 企画業務型裁量労働制(労働基準法第 38 条の 4)
企画業務型裁量労働制は、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務を行う労働者であって、業務の遂行手段や時間配分等を自らの裁量で決定し使用者から具体的な指示を受けない者(ホワイトカラー)を対象とするもので、労使委員会の決議・届出がされ、労働者本人の同意を得た場合には、労使委員会決議で定めた時間を労働したとみなすものです。
この場合も、対象事業場や対象業務、対象労働者の担当業務などが法の定める要件を充たすものであるかどうかについて、厳格にチェックすることが必要です。
この制度を導入するためには、①労働基準法に定める要件を充たす労使委
86 第 3 部 労働関係法上の労使協定等
員会を設置することと、②対象業務、対象労働者の範囲、みなし労働時間など 8 項目について出席委員の 5 分の 4 以上の多数による労使委員会決議をし、その決議内容を所定の様式(様式第 13 号の 2)で労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
また、実際に適用するには、対象労働者の個別同意が必要です。
規定例
株式会社○○と○○労働組合は、企画業務型裁量労働制の導入、運用に関する労使委員会の運営規定を、以下のとおり定める。
(労使委員会の設置)
○ 会社は、労働基準法第 38 条の 4 に基づき、企画業務型裁量労働制の導入、運用に関する決議及び調査、審議を行うため、対象事業場ごとに労使委員会を設置する。
(労使委員会の構成)
○ 労使委員会は、対象事業場における労使各○名の代表委員で構成する。
使用者側代表委員は会社が任命する。
労働者側代表委員は、労働組合に指名された者とする。ただし、労働組合が過半数労働組合でなくなったときは、過半数代表者を選出する。
(労使委員会の決議事項)
○ 労使委員会は、次の事項について決議を行う。
1 対象業務
2 対象従業員の範囲
3 みなし労働時間数
4 対象従業員の健康福祉確保に関する具体的措置
5 対象従業員の苦情処理に関する具体的措置
6 対象従業員の労働時間、健康福祉確保措置、苦情処理に関する措置や個別同意に関する記録を保存すること
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
87
7 対象従業員からの同意の確認とその手続、同意しなかった従業員に対する不利益取扱いの禁止
8 決議の有効期間
(有効期間)
○ この規定の有効期間は平成○年○月○日から平成○年○月○日までの 1 年間とする。
ウ 事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法第 38 条の 2)
営業マンなどの外勤業務については、事業場から離れたところで行われるため、その実労働時間を使用者が把握し算定することは物理的に困難です。そこで、このような外勤業務について「労働時間を算定し難い」場合は、①原則として所定労働時間(就業規則等で定める時間)働いたものとみなすか、
②その業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合は、その業務の遂行に「通常必要とされる時間」働いたものとみなすこととしています。これが、事業場外労働のみなし労働時間制です。②の場合は、過半数労働組合等との労使協定によって「通常必要とされる時間」を定めることができ、その労使協定は労働基準監督署長に届け出なければなりません。
従って、事業場外での労働であっても、使用者が労働時間を算定できる場合にはこの制度は適用されません。この場合は、原則に戻って実労働時間で計算して割増賃金を支払う必要があります。
適正なみなし労働時間(通常必要とされる時間)を定めるために、労働者代表は労使協定の締結に向け積極的に努力することが望まれます。
規定例
株式会社○○と○○労働組合は、事業場外労働をさせる場合に関し、次のとおり協定する。
88 第 3 部 労働関係法上の労使協定等
(適用対象者)
○ 労働時間の全部又は一部につき事業場外で業務に従事し、専ら営業業務に従事するため、労働時間を算定し難いと認められる営業部所属の従業員とする。
(みなし労働時間制)
○ 前条の営業業務遂行のため通常必要とされる労働時間は 1 日につき 9 時間とする。
(適用除外)
○ 次の各号に該当する場合は、前条の規定は適用しない。
1 会社が個別的な業務指示をしたり、 労働者が電話連絡等により業務の状況等を会社に報告することなどにより、 会社が事業場外での
労働時間を把握できる場合
2 1 日の労働時間の全部について事業場内で業務に従事した場合
3 欠勤、年次有給休暇の取得により業務に従事しなかった場合
(深夜労働・休日労働)
○ 深夜又は休日における労働については、通常の勤務者と同様、賃金規定○条の割増賃金を支給する。
(協定の有効期間)
○ 平成○年○月○日から平成○年○月○日までの 1 年間とする。
(4)フレックスタイム制(労働基準法第 32 条の 3)
フレックスタイム制は、一定期間(清算期間)の総所定労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で各日の始業及び終業の時刻の双方を自分で決定できることにして、労働者がその生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことを可能にする制度です。
この制度を導入するためには、①就業規則等で始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねる旨を規定すること、②労使協定で次の事項について締結することが必要です。
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
89
ア 対象労働者の範囲
イ 清算期間(起算日を明確にする)
ウ 清算期間における総所定労働時間(法定労働時間を超えない範囲)エ 標準となる 1 日の労働時間
オ コアタイム(必ず労働しなければならない時間帯)を定めるときは、その開始・終了時刻
カ フレキシブルタイム(選択により労働することができる時間帯)に制限を設ける場合は、その開始・終了時刻
規定例
株式会社○○と○○労働組合は、労働基準法第32 条の3 に基づき、フレックスタイム制に関し、次のとおり協定する。
(適用対象者)
○ ○○業務に従事する従業員とする。
(清算期間)
○ 毎月 1 日から末日
(清算期間における総労働時間)
○ ① | 1 か月 31 日の月 | 177 時間 |
② | 1 か月 30 日の月 | 171 時間 |
③ | 1 か月 29 日の月 | 165 時間 |
④ | 1 か月 28 日の月 | 160 時間 |
(標準となる 1 日の労働時間)
○ 1 日の標準労働時間は、8 時間とする。
(コアタイム)
○ コアタイムは、午前○時から午後○時までとする。
90 第 3 部 労働関係法上の労使協定等
(フレキシブルタイム)
○ フレキシブルタイムは、次のとおりとする。
1 始業の時間帯 午前○時から午前○時まで
2 終業の時間帯 午後○時から午後○時まで
(時間外・休日労働手当)
○ 1 清算期間内における総所定労働時間を超えて労働した場合 は、賃金規定に定めるところにより、時間外労働手当を支払う。
2 休日に労働した場合は、振替、変更等の措置をとらない限り、賃金規定に定める休日労働手当を支払い、本協定上の取扱い をしない。
(協定の有効期間)
○ 平成○年○月○日から平成○年○月○日までの 1 年間とする。
平成 30 年 6 月の労働基準法改正により、より利用しやすい制度となるよう、労働時間の清算期間の上限を従来の 1 ヶ月から 3 ヶ月に延長できるようになりました(第 32 条の 3 第 4 項)。清算期間を延長することによって、2 ヶ月、 3 ヶ月といった月をまたいだ労働時間の調整により柔軟な働き方が可能になります。この場合、就業規則等での定め及び労使協定の締結に加えて、労使協定に有効期間の定めをするとともに労使協定を労働基準監督署長への届出が必要です(第 32 条の 3 第 4 項)。詳細は、厚生労働省の「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」を参照してください。
「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf
(5)高度プロフェッショナル制度(労働時間規制の適用除外)
高度な専門的知識を持ち高い収入を得ている自律的で創造的な働き方を希望する労働者が、メリハリのある働き方をできるよう希望に応じた自由な働き方の選択肢を設けることを目的として、「働き方改革関連法」の成立に伴う労働
第 3 部 労働関係法上の労使協定等
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基準法の改正により、「高度プロフェッショナル制度」が新設されました(労働基準法第 41 条の 2。平成 31 年 4 月 1 日施行)。
事業場の労使同数の構成員からなる労使委員会において対象業務、対象労働者など 10 の項目を 5 分の 4 以上の多数で決議し、対象労働者から書面等による同意を得た場合に、対象労働者を対象業務に就かせたときは、労基法が定める労働時間規制(労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する労基法の規定)がすべて対象労働者には適用除外となるものです。
労使委員会で決議すべき事項
① 対象業務
高度の専門的知識等を必要とし、労働時間と成果との関連性が通常高くない性質の業務であって、厚労省が定めた対象業務のうち、労働者に就かせることとする業務
② 次のいずれにも該当する対象労働者ア 職務要件
書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること
イ 年収要件
労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(*)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額(= 1075 万円)以上であること
*基準年間平均給与額 厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額
③ 対象労働者の健康管理時間を把握する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
*健康管理時間 当該対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間との合計の時間
④ 年間104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること
⑤ 対象労働者に対し、次の4つの措置のうちいずれかの措置を講ずることア 一定時間以上の勤務間インターバルと深夜労働の回数制限をすることイ 健康管理時間を1ヶ月又は3ヶ月について、それぞれ厚生労働省令で
定める時間を超えないこととすること
ウ 1 年に 1 回以上継続した 2 週間の休日を与えること
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エ 週 40 時間を超える健康管理時間が月 80 時間を超えた場合等に健康診断を実施すること
⑥ 健康管理時間の状況に応じて有給休暇(年次有給休暇を除く)付与や健康診断の実施その他の厚生労働省令で定める措置を講ずること
⑦ 対象労働者の同意の撤回に関する手続き
⑧ 苦情処理措置を講じること
⑨ 同意しなかった労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと
⑩ その他厚労省が定める事項
高度プロフェッショナル制度については、働き過ぎ防止の流れに反して長時間過重労働を助長し、労働者の健康及び福祉を害するものとの懸念が指摘されています。労使委員会で導入について議論する際には、本人同意の手続きにおいて真に制度適用を望む労働者のみが対象とされているか、対象業務につき真に高度の専門的知識等を必要としその性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものであるか、労働者に労働時間の裁量権が与えられているか、健康確保措置が十分なものかなどについて慎重な検討が望まれます。また、高度プロフェッショナル制度が導入された場合には、健康管理時間の活用により適切な労働実態を把握するだけでなく、対象労働者の適切な苦情処理が講じられるようにするなど、高度プロフェッショナル制度導入による健康被害を生じさせない措置をとる必要があります。
3 育児・介護休業等に関する労使協定等
(1)より良い育児・介護休業等の制度を作るための労働協約
少子化対策の観点から、喫緊の課題となっている仕事と子育ての両立支援等を一層進めるため、男女ともに子育てなどをしながら働き続けることができる雇用環境の整備を目的とした改正育児・介護休業法が、平成 24 年 7 月 1 日から全面施行されました。改正のポイントは、①子育て中の短時間勤務制度及び所定外労働(残業)の免除の義務化、②子の看護休暇の拡充、③父親の育児休業取得促進、④介護のための短期休暇の創設、⑤勧告に従わない場合の公表制度などの法の実効性確保の制度創設、などです。
法律が定める休業等の権利は法律上保障されたものですから、たとえ就業規則の規定や労働協約がなくても、法律の定める条件を充たせば、法律が定める
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