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公契約条例制定に関するQ&A
2011.11.29 作成
2012.1.17 改訂
日本労働組合総連合会
1.「公契約」とは何か?
① 国又は地方自治体等が一方当事者となる売買、賃貸借契約、請負、委託等の契約が、xxの「公契約」である(会計法第 29 条、地方自治法第 234 条 1項)。売買契約や賃貸借契約については、国又は地方自治体等が売主・賃貸人となる場合だけでなく買主・賃借人になる場合もあり、会計法等では、このいずれの場合にも適用される共通の制度として入札制度等を規定している。
なお、xxの「公契約」のうち、国や地方自治体等が予算を支出して物やサービス等を取得することを「調達」と呼ぶことがある。
② ILO条約の定義する「公契約」は、狭義の「公契約」であり、xxの「公契約」のうち、契約の他方当事者が労働者を使用する契約に限定している。I LO条約の定義する狭義の「公契約」は、労働者を使用する製造、請負、委託等の契約に限定され、労働者を使用しない売買や賃貸借等の契約を含まない。
③ 公契約に関する既存の条例には、大別して二種類のものがある。xxの「公契約」全般についての基本ルールを定めた上で、これに加えて、狭義の「公契約」に関するルールも定めるタイプ(例 xx市契約条例)と、狭義の「公契約」に関するルールのみを定めるタイプ(例 xx市、多摩市、相模原市等の公契約条例)がある。
2.「公契約」の基本的特徴は何か?
① 「公契約」を支配する原理は、民法を基礎とする契約法理である。
② 労働基準法・最低賃金法・労働安全衛生法等の法令は、国や地方自治体が統治権の主体として振る舞い、適用対象者の同意や了解を得ることなしに、適用対象者の意思に反してでも、適用対象者に強制的に義務を課し、営業の自由に制限を加える(公権力的規制)。
これに対し、公契約の場合には、国や地方自治体が統治権の主体として振る舞うのではなく、国や地方自治体が財産権の主体として、契約の相手方で
ある私人と対等の立場で契約を締結し、当事者は合意に基づく契約上の義務を負う(合意を媒介にした民事的規整)。この点について、財務省の行政解釈、及び、学説上の異論はない。
3.「公契約」を締結した企業が義務を負う根拠は何か?
① 公契約について、民事法の基本原理である「契約自由の原則」が妥当し、契約当事者となろうとする者は、いつ、誰と、いかなる内容の契約を、いかなる形式で締結するかを選択する自由を有する。
② したがって、公契約の一方当事者である国や地方自治体等は、その掲げる政策や理念を実現させるために、誰といかなる内容の契約を締結するかを選択する自由を有する。
③ 公契約の他方当事者である民間企業等は、国や地方自治体等が掲げる政策 や理念の実現に協力するために契約を締結するか否かを選択する自由を有し、この選択に基づき合意した契約内容については、これを遵守する契約上のx xを負う。
このため、一旦、民間企業等が公契約の締結に合意した場合には、契約内容に拘束され、契約上の義務を負う。民間企業等がこの拘束や義務から解放されるのは、契約締結の際に脅迫・強制・錯誤等によって意思表示が効力を有しない場合や、契約内容に公序良俗違反や強行法規違反があって契約が無効となる等の特殊な場合だけである。
4.「公契約」に関して価格以外の政策的要素を斟酌できるか?
① かつて、旧大蔵省は、「公契約」の締結相手の選定及び契約内容に関して、価格以外の政策的要素を斟酌すべきでないという考え方をとっていた。
② しかし、現在の財務省は、そのような考え方をとっていない。
その一例として、グリーン購入法(平成 12 年法律第 100 号)がある。この 法律では、環境に配慮した「エコ調達」を推進するため、価格以外の環境政 策的要素を考慮して調達を行うように国や独立行政法人等に義務付けている。また、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(平成 12
年法理第 127 号」は、公共工事の適正な施工の確保等を考慮して公契約を締結すべきことを義務づけている。
5.「公契約」で斟酌できる政策的要素としては何があるか?
① 連合は、労働分野での政策実現のために、公契約の活用を求めている。具体的には、ワーキング・プアの解消、熟練労働者の賃金下落に歯止めを掛けること、労働時間短縮、団結権の尊重、安全衛生確保、男女雇用機会均等、障害者雇用の促進、社会保険・労働保険の手続等々の様々な課題がある。
② 労働分野以外にも、地域経済の活性化、中小企業の保護・育成、環境への配慮、災害対策等の様々な政策の実現のために、「公契約」を活用できる。
6.「公契約条例」の基本的手法はどのようなものか?
① 公契約条例は、契約法理の基礎にある「契約自由の原則」に即して、公契約を規律する。その主要な二つの柱は、a 政策実現のために、誰と契約するかを選択するルールを明確化すること、b 政策実現のために、受注者の契約上の義務として契約に定める条項を明確化することである。但し、前者のaについては地方自治体の首長が制定する規則等に委ね、後者のbについてのみ条例で定めるという選択もあり得る。
② 公契約条例において、公契約の契約締結当事者以外の第三者(例えば、受注者の下請業者)に対して、報告義務を課したり、地方自治体の立入調査権限や是正命令を発する権限を付与する条項を設けることは、当該第三者に対する公権力的な規制であり、当該第三者への営業の自由を制限するものであるから、かかる公権力的規制を行い営業の自由を制限することを正当化できるだけの合理的理由と根拠が十二分に備わっているか否か、また、このような公権力的規制が必要か否かについての極めて慎重な検討が必要である。
③ 公契約条例において、罰則を設けるべきではない。罰則は、統治権の行使に伴う公法上の義務に関して、これに違反した者を処罰すると威圧することによって、義務履行を間接的強制するものである。これに対して、公契約の場合、契約当事者は、自ら合意した契約上の債務を履行する義務を負うのであり、この義務の不履行があった場合には、契約解除や契約で定める違約金の支払および受注資格の喪失等により対処する。
7.「公契約条例」は労働者のための条例か?
① 公契約を規律する条例や法律の重要な役割の一つは、公契約に従事する労働者の労働条件に『底』を設けて、この『底』を下回る労働を禁止することによって、事業者のダンピング受注を防ぎ、事業者相互間でのxx競争を実現させることにある。したがって、労働者とその使用者たる事業者はxxx・xxxの関係にある。
② 公契約の歴史をみても、例えば、1890 年代、フランス・パリの水道業者が低賃金労働を背景にしたダンピング受注で苦しんでいる状況を解決するために、受注者に相場労賃の支払を義務付け、ダンピング受注をしようとする業者を排除し、使用者相互のxx競争を実現させた。また、1930 年代のアメリカ合衆国でも、南部の建設業者が低労賃の労働者を使用してダンピング受注しようとするのを防ぎ、北部の建設業者を守ることをも目的の一つとして、公契約規整の法律が作られた。
③ さらに、アメリカ合衆国では、公民xxの制定後に発せられた大統領令により、人種差別禁止・性差別禁止のアクション・プログラムを実行している企業でなければ一定額以上の連邦政府発注の公契約を受注できないようにした。これは、差別に起因して低賃金状態におかれている有色人種・女性の労働者を雇用してダンピング受注しようとする企業を公契約の締結相手から排除し、公契約を受注する企業の労働コストを揃えて企業相互間のxx競争を実現するためである。
8.総合評価方式を採用しているので条例は必要ないのではないか?
① 通常一般的に、総合評価方式では、総点数の半分が価格に基づく点数、総点数の残り半分が、環境、労働条件、男女共同参画、地域貢献、防災等の各政策事項に対応する点数に割り当てられる。このため、総合評価方式は、入札価格が近接している受注希望者が複数いる場合には、政策項目についての点数の高い受注希望者が優先される役割を果たす。しかし、受注希望者は、政策事項の点数が低くても、ダンピングを行って受注価格を引き下げれば、総合点が上昇して受注が可能である。
したがって、ダンピング受注がなされる場合には、総合評価方式は、政策実現の機能を十分には果たすことができない。政策実現のためには、政策目標に即した受注者選定の方法を採用し、かつ、政策目標実現のために必要な事項を契約条項として義務化することの方が、総合評価方式よりも、有効である。
② その上で、公契約条例の中に、補充的に、総合評価方式に関する定めをおき、補充的に、政策誘導するのが適切である。
9.受注者選定と契約条項の規定は、条例によらなく、規則や指針でも可能ではないか?
① 確かに、現行法上、受注者選定と契約条項の内容は、地方自治体の首長の裁量事項であり、条例を設けなくても、首長の定める規則や指針で対応することは、技術的には可能である。
しかしながら、以下の理由により、規則や指針ではなく、条例で定める必要がある。
② 地方自治体の首長が公契約について定める規則や指針は、地方自治体の組織内における内部的な規範であるにすぎない。公契約を通じて政策目的の実現を図ることは、組織内の内部的な規範にによって行うよりも、政策目的の実現の必要性に関する議会での検討を経て条例により規律することの方が適している。
③ 首長や担当職員が交替する都度大幅な制度変更がなされるのを防ぎ、制度の安定性を担保するには、首長に制定権のある規則や指針ではなく、議会が制定する条例にする必要がある。
④ 価格以外の要素を受注者決定に反映させることには、腐敗や汚職の危険、あるいは裁量権濫用の危険がつきまとう。これらの危険を防止するためにも、受注資格要件や手続きについて客観性と透明性を確保する必要がある。
10.憲法 27 条第 2 項に「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」とされ、最低賃金法により地域別に最低賃金が定められている。よって、条例でこれを上回る賃金の支払い義務を負わせることはできないのではないか?
① 憲法 27 条第 2 項は、賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関して、国 に対して、法律を制定することによって、公権力的規制として勤労条件遵守を 使用者に義務づける権限を付与するものである。労働基準法及び最低賃金法は、この憲法の規定に基づき、公権力的な規制を行う法律の一つであり、使用者の 同意の有無とは無関係に、使用者の営業の自由に制限を加えるものである。こ のように使用者の同意なしに、その意思に反してでも強制的に、使用者の営業 の自由を制限することは、憲法上に根拠があり、公共の福祉を実現する上で必 要な範囲内で可能である。
② これに対し、公契約上で受注者に一定額の賃金支払の義務を課す場合、この義務は、公権力的な規制に基づく義務ではなく、当事者間の合意によって生
じる契約上の義務である。
したがって、この契約に基づく最低賃金支払義務は、憲法や最低賃金法による公権力的な強制的な最低賃金支払義務とはxx的にその性質が異なるのであり、憲法や最低賃金法とは全く関係がない。
③ 公契約により、受注者に最低賃金法を上回る賃金支払義務を課すことは、契約締結の際に受注者が脅迫・錯誤・詐欺等により正常な判断ができない場合、あるいは、契約内容が公序良俗違反であることや強行法規違反等の特殊な事情がある場合には、効力を生じない。しかし、このような特殊な事情がない限り、公契約規整により、受注者に最低賃金法を上回る賃金支払義務を課すことは有効である。
公共サービス基本法(2009.5.20)
第 11 条(公共サービスの実施に従事する者の労働環境の整備)
国及び地方公共団体は、安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
11.公契約条例によって保護される労働者が、住民ではない場合、地方自治法にいう地方自治体の事務とはいえず、違法ではないか?
① 公契約条例で賃金の規律を行う目的は、低賃金の労働者を利用したダンピ ング受注を排除することによって、地方自治体発注の工事や業務に従事する労 働者の労働条件が劣悪化するのを防ぎ、受注希望者相互間のxx競争を実現し、工事や業務の質の確保を図ることである。したがって、賃金を受け取る労働者 が当該自治体の住民であるか否かは、制度目的と直接の関連性がない。
② 地方自治体が、地域における賃金相場の引き下げや破壊の役割を担うことは、住民の福祉向上という地方自治体の本来の役割から逸脱し、地方自治の精神に反するものである。公契約条例の制定は、地方自治体がこのような役割を担わず、住民生活の貧困化と地域経済の疲弊を防ぎ、かつ、公共サービスや公共施設等の良好な質を確保するという点において、当該地方自治体の住民全体にとって意味をもつ。
12.「予算を調製し、および執行すること」は首長の担任事務とされていることから(地方自治法第 149 条第 2 号)、契約条件の決定は地方自治体の長の専権事項であり、条例で制限することはできないのではないか?
① 議会の定める条例と首長の定める規則等との関係について、かつての旧自治省等の解釈では、概ね、議会の議決事項は地方自治法 96 条に列挙されている事項に限定されるという解釈がとられ、首長等の執行機関の行う予算の執行に関して議会が条例を制定することに疑問が呈されたこともある。しかし、今日では、総務省においても、首長などの執行機関の専属的権限に属することが法律で明示されている事項以外の事項については、条例でも規則でも制定し得るという考え方が有力である。
② 地方自治法 149 条 2 号は、予算の執行について、議会や委員会が自ら予算を執行することはできず、首長が行うことを定めるものである。(但し、首長が議会事務局や委員会事務局等に執行権限を委任することは可能である。)したがって、議会や委員会が自ら予算執行を行うことを定める条例を制定することはできないが、予算執行の権限が首長にあることを前提にして、政策目的の実現等に関して必要な事項を条例で定めることは可能である。
13.地方自治法において「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の向上に努めるとともに、最尐の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」(地方自治法第 2 条第 14 項)とされていることから、最も低価格のものを落札者としないことは、この条項に違反するのではないか?
① 第二次大戦後、一般競争入札に関して、多くの地方自治体は、工事や業務の質を確保しかつ地域経済の疲弊を防止する観点から、落札の上限価格と下限価格を設定し、上限価格を上回る入札を失格とするだけでなく、下限価格以下の入札についても失格扱いしてきた。
これに対し、国(旧大蔵省)は、下限価格の設定を否定する考え方をとり続けてきた。この国の考え方は、この当時の世界各国の国家予算制度と比較しても特異なものであった。しかるに、1958 年にxx御所建設工事を大手建設業者が1万円で落札して大混乱が生じ、最終的に落札者に入札を取下げさせる事件が生じた。この事件を契機として、国は会計法改正を行い、低価格でありさえすれば落札できるというシステムに変更を加えた。ではあっても、その後も長らく、国は、低価格でありさえすれば落札できるという運用を事実上続けていた。このため、「最低価格のものを落札者とすべき」という誤解が世間一般に温存された。
しかし、尐なくとも平成になって以降、国(財務省)も、価格以外の諸要素を判断して受注者を決定することを否定する態度をとっておらず、このような考え方は、行政実務と学説においては、完全に過去のものとなっている。
② 短期的な視点で、「無駄の削減」や「コスト削減」により住民の賃金水準・生活水準の引き下げを図ることは、社会的なコストの増大をもたらす。例えば、大阪市交通局の駅清掃業務の民間委託に関してダンピング受注が横行し、これに従事する民間労働者の賃金が生活保護水準以下となり、差額を大阪市が生活保護費として支給したことが新聞報道されたことがある。さらに、公契約に関して低賃金労働を背景にしたダンピング受注の横行を許すことは、長期的には、地域経済を疲弊させ、地方自治体の財政基盤の悪化を招く。したがって、短期的な視点で「無駄の削減」や「コスト削減」を行うことは、
「最小の経費で最大の効果を挙げる」ことにならない。
③ 「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(2005.3.31)では、経済性に配慮しつつも価格以外の多様な要素をも考慮して、価格および品質が総合的に優れた内容の契約をすべきとしている。
14.作業報酬の下限額を義務づけることは、独占禁止法第 2 条第 9 項に定める
「不xxな取引方法」、とりわけ同項第 5 号の「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用」(「優越的地位の濫用」)することにあたり、違法ではないか?
① 独占禁止法が定める「不xxな取引方法」のいずれの類型にも当てはまらず、かつ、「優越的地位の濫用」にも該当しない。すなわち、「優越的地位の濫用」とは、その地位を利用して取引の相手方に対して、「不当」に「商品又は役務を購入させること」、「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」、「取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせるなど」を指すが、いずれにも該当しない。
② すでに各自治体において総合評価方式が採られ、価格以外の要素も契約の相手方の決定基準とされているが独禁法上の問題指摘はなく、ことさらに作業報酬下限額のみが独占禁止法上問題となるものではない。
15.指名競争入札に比べて一般競争入札は 1.5 倍、総合評価落札方式は一般競
争入札に比べて1.4 倍の事務コストがかかる(高知市公共調達基本条例(仮称)案の概要について)とされているように、コストアップにつながるのではないか?
① 費用が増加することが即問題となるものではなく、そのことによってどの
ような効果をもたらすかが重要である。xxで透明性の高い運用を行い、政策目的を達成するために必要であるならば、合理的かつ必要最小限の範囲でのコストアップは容認されるべきである。 例示されている指名競争入札と一般競争入札の事務コストの差は、手続のxxさと透明性を確保するための費用であり、総合評価方式と一般競争入札のコストの差は、政策目的実現のために生じる費用である。
② 既に公契約規整の条例を制定しているxx市や多摩市等では、受注者が作成して市に提出する労働者毎の労働時間や支払われるべき賃金額等を記載した台帳に関して、表計算ソフトを無料で配布し、受注者の事務量や作成コストを軽減させることとしている。
また、これらの市では、賃金支払が確実になされているか否かのチェックに関して、紛争発生前の監視や監督は必要最小限にとどめ、労働者に制度の周知を行い、労働者から賃金未払いの訴えがあった段階で事後的に調査を行うこととすることにより、公契約を担当する市職員の負担を軽減し、行政コストの低下を図っている。
16.公契約条例で賃金の最低額または標準額を定めることにより、予算を増額しなければならなくなるのではないか?
① 公共工事の費用のうち労賃の部分は、国土交通省と農林水産省が共同で調査し定める公共工事設計労務単価(47都道府県別、51職種別)によって積算し、さらに、これ以外の資材費、機械等の費用、管理費等を合算して、工事の予定価格を定めている。公契約条例ではこの労賃部分がピンハネされることなく就労者に渡ることを目的とするものであることから、落札率が上昇することはあっても予定価格を上回ることはない。
② 公共サービスの委託(業務委託、指定管理者)に関しては、建築保全業務単価、設計業務委託等技術者単価、または、委託時に業務に従事していた職員の賃金を基準とする限り、こうした事態は起こらない。
なお、条例制定以前から業務委託されていたものについては、条例制定により予算を増額しなければならないことがあり得る。(野田市では条例制定前より 490 万円増額、条例制定後の入札では 700 万円増加=野田市総予算の 0.2%)
17.国や都道府県の動向を見て考えたい?
① 国家が統治権を発動し公権力的規制を行う法律(例:労働基準法、最低賃
金法、労働安全衛生法等)の場合には、国が法律を作ることにより、全国の労働者の労働条件等を直接規律することができる。
これに対して、公契約規整は、公権力的規制ではなく、契約当事者間の合 意を基礎として民事的な規律を行う制度である。このため、国が公契約規整に 関する法律を作成しても、この法律が適用される範囲は、国や独立行政法人・特殊法人等が契約当事者となる公契約に限定される。もしも仮に、この法律を 地方自治体が契約当事者となる公契約に適用することとした場合には、契約締 結当事者である地方自治体の意思と無関係に、国が国家権力を行使して契約を 成立させたり、契約内容を規律することになり、民事法上の基本原理である「契 約自由の原則」に背く結果になる。このため、国が作った公契約規整に関する 法律を地方自治体の締結する公契約に締結することは、原理的に不可能である。
② 国の法律に関しては、既に、民主党内では 2009 年に参議院議員を中心に参議院法制局の協力を受けて「公共工事報酬確保法案」が作られ、当時の民主党のネクストキャビネットの承認も得た。この法案では、適用対象を国や特殊法人等の締結する公共工事に関する公契約に限定しているが、その主要な理由は上記①記載のとおりである。
③ 地方自治体が契約当事者となる公契約について公契約規整を行うためには、当該地方自治体が自らこれを行うことを条例又は規則によって定める以外に 方法はない。地方自治体が「国や都道府県に対して公契約規整の法制化を求め る」という方針をとることは、国や都道府県又はこれら関与する特殊法人等が 契約当事者となる公契約についての規整を求めるという意味しかもたない。
各地方自治体は、自ら地方自治の精神を発揮して、各地方自治体が契約当事者となる公契約に関して、規律を行うのか否かをそれぞれが主体的に判断すべきなのであり、「国や都道府県の動向を見て考える」ことは地方自治の精神から相当にかけ離れた「上を見て決める」ものと言わざるを得ない。
以上
問合せ先)連合・中小労働対策局
TEL 03-5295-0514