されていたため、対象者は、駐在終了後直ち積立基金を引き出すことができませんでした。加えて、EPS ついては、10年以上の加入期間がなければ、年金の支払はないとされていたため、駐在期間が10年満たない場合は、保険料の掛け捨てが生じていました
海外法務・ニューズレター(インド) Vol.22 | |
2017年3月 |
2016年10月1日から、社会保障 関する日本国とインド共和国との間の協定(以下「協定」といいます。)が発効いたしました。
協定の発効より、インド駐在員を派遣している日系企業とって負担となっていた日本・インド両国への社会保障制度への加入義務が緩和され、インドの社会保険係る保険料の掛け捨ての問題が解消されること なりました。
本稿では、インドの社会保障制度と協定発効前の問題点 ついてご説明すると共 、協定の下での日本・インドの法令の適用関係や、協定発効 よる変更点 ついて解説いたします。
日印社会保障協定の発効 ついて
されていたため、対象者は、駐在終了後直ち積立基金を引き出すことができませんでした。加えて、EPS ついては、10年以上の加入期間がなければ、年金の支払はないとされていたため、駐在期間が10年満たない場合は、保険料の掛け捨てが生じていました
(保険料掛け捨ての問題)。
そこで、上記の各問題を解消し、両国の企業の負担を軽減することより、両国間の人的・経済的交流を一層促進することを目的として、2012年11月1
6日協定が締結され、今般、発効至りました。
1 インドの社会保障制度と協定発効前の問題点
インドの社会保障制度としては、主「1952年被雇用者積立基金雑則法」(Employees’ Provident Funds and Miscellaneous Provisions Act, 1952)が定める、積立基金制度(Employees’ Provident Funds Scheme)(以下「EPF」といいます。)と年金制度
(Employees’ Pension Scheme)(以下「EPS」といいます。)が挙げられます。
協定発効前は、社会保障制度への強制加入を定める 日本・インド両国のそれぞれの法令の適用関係を調整 するルールがなかったため、インドの日本人駐在員は、日本の厚生年金保険加入するのみならず、インドの 社会保障制度への加入が義務付けられていました(二 重加入の問題)。
また、EPF ついては、積立基金を引き出すための要件として、対象者が55歳達していることが要求
2 協定発効よる変更点
(1)二重加入の問題ついて
協定では、一方の締約国の領域内おいて被用者として就労する者ついては、その被用者としての就労 関し、原則として、当該一方の締約国の法令のみが適用されると定められていますi。そのため、インドの日本人駐在員は、インドの法令のみが適用されるのが原則です。
ただし、協定は例外が定められており、一方の締 約国の法令基づく制度加入し、かつ、当該一方の 締約国の領域内事業所を有する雇用者当該領域内 おいて雇用されている者が、当該雇用者より当該 一方の締約国の領域から他方の締約国の領域内おい て当該雇用者のため就労するよう派遣される場合は、その派遣の期間が5年を超えるものと見込まれないこ とを条件として、その被用者が当該一方の締約国お いて就労しているものとみなして当該一方の締約国の 法令のみが適用されますii。すなわち、日本の厚生年 金保険加入し、かつ日本事業所を有する企業雇 用されている従業員が、インド派遣される場合は、 派遣期間が5年を超えないと見込まれる場合はインド の社会保険は加入する必要がないとされています。
【執筆者】パートナー 弁護士 xx xx xxxx://xxx.xxxxxxxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxx.xxx?xxxxxxxx_xxxXXX000000000 00000033 弁護士 xx xxx xxxx://xxx.xxxxxxxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxx.xxx?xxxxxxxx_xxxXXX000000000 00000098 | 〘大 阪〙xx法律事務所・外国法共同事業 x000-0000 xxxxxxxx 0-0-00 xxxxxxxxx TEL 00-0000-0000(代)/FAX 00-0000-0000・9550 〘東 京〙弁護士法人xx法律事務所東京事務所 x000-0000 xxxxxxxxxx 0-0-00 サピアタワー14F TEL 00-0000-0000(代)/FAX 00-0000-0000 〘福 岡〙弁護士法人xx法律事務所福岡事務所 x000-0000 xxxxxxxx 0-0-00 xxxxxxx・xxxxxxxxxx4F TEL 000-000-0000/FAX 000-000-0000 |
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また、もう一つの例外として、派遣期間が5年を超える場合であっても、日本・インド双方の権限のある当局又は実施機関が、当該派遣係る被用者対して一方の締約国の法令のみを引き続き適用することついて合意した場合は当該締約国の法令のみが適用されることとなりましたiii。そのため、今後日系企業からインドへ派遣される駐在員ついては、派遣期間が5年を超える場合であっても、日本・インドの当局又は実施機関がその被用者ついて日本の厚生年金保険法のみを適用することを合意した場合は、インドの社会保険への加入は不要となります。
以上の内容を整理すると、下表のとおりとなります。
協定発効前 | 協定発効後 |
【インドへの派遣期間が | |
5年を超えるものと見込 | |
まれない場合】 | |
日本の厚生年金保険加 | |
入していればインドの社 | |
会保障制度への加入義務 | |
(インドへの派遣期間が5年以下か否かを問わず)日本の厚生年金保険のみならず、インドの社会保障制度への加入が必要 | はなし。 |
【インドへの派遣期間が 5年を超えて継続される場合】 日本及びインドの権限のある当局又は実施機関 が、当該派遣係る被用 | |
者対して、日本の法令 | |
のみを引き続き適用する | |
ことついて合意した場 | |
合は、インドの社会保障 | |
制度への加入義務はな | |
し。 |
なお、2016年10月1日以前、既インドへ派遣されている日本人駐在員ついては、経過措置として、5年の派遣期間の起算点を一律で2016年1
0月1日からとする旨の規定が設けられているため、
2016年10月1日から5年間は、EPF や EPS への加入義務が免除されることなりますiv。
(2)保険料掛け捨ての問題ついて
協定発効前は、インドの日本人駐在員は、所属する企業の規模や駐在期間関わらず、着任した日から EPF 及び EPS への加入が義務付けられていました。そのため、日本人駐在員及び当該駐在員を雇用する日系企業は、それぞれ法律で定められた積立料率従って、保険料を支払わざるを得ませんでした。
それ も関わらず、協定発効前は、EPF ついては、当該駐在員の年齢が55歳達しなければ引き出しが できないとされており、EPS ついては、➀10年以
上の加入期間があること、かつ、➁当該駐在員の年齢が58歳達していること、という要件が満たされていなければ年金の支払いを受けることができなかったため、保険料が掛け捨てとなるケースが生じていました。
そこで、協定では、この問題を解消するため、EPF ついては、日本人駐在員がインドの現地会社の被用 者でなくなったときv (協定発効前既駐在を終 えている駐在員ついては、協定発効日からvi)積立 金の引き出しができる旨が定められ、また、EPS つ いては、➀の加入期間の算定あたって日本での社会 保険への加入期間も通算されることなりvii、仮日 本での加入期間を通算しても10年満たない場合は、インドの現地会社を退職したとき、年金代わって 脱退給付金を受けられる旨が定められましたviii。
以上の内容を整理すると、下表のとおりとなります。
◆EPF の引き出し
協定発効前 | 協定発効後 |
年齢が55歳達した | 【協定発効後も引き続き |
とき、引出しが可能 | インド駐在する駐在 |
なる。 | 員】 |
ただし、当該駐在員が | インドの現地会社の被用 |
55歳以降も引き続き | 者でなくなったとき、 |
現地会社で勤務する場 | 引出しが可能なる。 |
合は、その会社を引退 | 【協定発効前既駐在 |
したとき、引き出し | を終えている駐在員】 |
が可能なる。 | 協定発効日である201 |
6年10月1日から引き | |
出しが可能なる。 |
◆EPS の受給権取得
協定発効前 | 協定発効後 |
➀10年以上の加入期間があること ➁当該駐在員の年齢が 58歳達していること (上記➀➁のいずれも必要) | ➀の加入期間の算定あたっては、日本での社会保険への加入期間も通算する。 また、日本での加入期間を通算しても、10年満たない場合は、インドの現地会社の被用者でなくなったとき、脱退給付金を受け取ることがで きる。 |
この制度改正より、保険料は掛け捨てならず、
EPF ついては、駐在期間終了時(又は2016年1
0月1日) 引き出すことができるようなりました。また、EPS ついては、インドでの加入期間が10年
満たない場合であっても、日本で厚生年金保険 加入していた時期を通算して10年以上 なれば、年金
の支給が受けられることなりました。もっとも、 EPS ついては、協定発効後も、当該駐在員が58歳 ならなければ支給を受けられないこと留意が必要です。
3 まとめ
以上のとおり、協定は、日本人駐在員のインドの社会保障制度への加入義務を緩和し、さら、これまで 支払った保険料の掛け捨ての問題を解消するものであり、日系企業及び日本人駐在員の経済的な負担を軽減し、インド進出・インドでのビジネス展開をより行いやすくするものといえます。
i 協定第 6 条
ii 協定第 7 条 1 項
iii 協定第 7 条 2 項
iv 協定第 27 条 4 項
v 協定第 18 条 2 項(a)
vi 協定第 18 条 2 項
vii 協定第 13 条 2 項
viii 協定第 18 条 2 項(b)