Contract
建設工事下請契約約款の解説
社団法人 東京建設業協会
は し が き
「建設工事下請契約約款」につきましては すでに、昭和47年に、地方建設業協会としては東京建設業協会が初めて独自に制定し、xxにわたり会員をはじめ広くご利用いただいております。
約款の特色としては、それまでの元請負人と下請負人の従属的な関係を断って対等な立場から、それぞれが独立企業者としての一切の責任を負うことを明記した「請負者独立の原則」や、工事現場内におけるすべてについて元請負人に占有権があることを明記した「工事現場等の占有」などの条項が設けられていることがあげられます。
この下請契約約款をご利用いただくことにより、当事者の権利義務を明確にすることによって紛争の防止を図り、下請契約関係の明確化、合理化の推進に寄与してきたところです。
しかし同約款は、その後、一部改訂は行なっているものの、最近の建設業法の改正、住宅の品質確保の促進等に関する法律、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の制定などの新しい関係法令へ対応するために、約款の内容も大幅に改訂する必要が生じてきました。
そこで、平成12年度に「建設工事下請契約書改訂小委員会」を設置して、従来の約款の基本的なコンセプトは維持しながら、時代に即したものとするため改訂作業を行なっておりましたが、この度、改訂版をとりまとめました。
今回の改訂に当たっては、制定時における約款条項の趣旨の解釈が、時が経つにつれて不充分になることから、解説書も同時に作成しましたので、約款とあわせ充分に活用していただきたいと思います。
今後ご使用されていくなかで、お気付きの点があればご意見をお寄せいただければ幸いです。
平成13年7月31日
社団法人 東京建設業協会経 営 委 員 会
目 次
はしがき
[1]概説
1 建設工事下請契約約款改訂の経緯 1
2 建設工事下請契約約款の意義 1
(1) 請負契約の意義 1
(2) 建設工事下請契約約款の意義 2
(3) 建設工事下請契約約款の対象 3
3 建設工事下請契約約款改訂の概要 3
4 建設工事下請契約書、建設工事継続的下請基本契約書等の改訂の概要 4
[2]逐条解説
第 1 条 性質と目的 5
第 2 条 用語の定義 6
第 3 条 請負者独立の原則 8
第 4 条 指導及び是正 10
第 5 条 譲渡禁止 11
第 6 条 一括再下請又は一括委任の禁止 13
第 7 条 再下請等における契約事項等の通知 16
第 8 条 秘密保持 18
第 9 条 工事現場等の占有 19
第10条 処分搬出の禁止 21
第11条 関連工事との調整 22
第12条 現場監督員 23
第13条 現場代理人 26
第14x xの通知義務等 28
第15条 検査、立会 30
第16条 改善、代替、改造 34
第17条 工事の変更、中止 37
第18条 請負代金額の変更 40
第19条 危険負担 42
第20条 第三者の損害 45
第21条 請負代金内訳書、工程xx 49
第22条 工事材料、工事用機器 51
第23条 特許xxの使用 52
第24条 完成検査 53
第25条 引渡し 55
第26条 瑕疵の担保 57
第27条 代金支払 61
第28条 損害金等 65
第29条 立替払 67
第30条 甲の解除権 70
第31条 乙の施工中止 73
第32条 乙の解除権 75
第33条 解除後の処理 76
第34条 紛争の解決方法 78
第35条 書面に代わる情報通信技術の利用 81
第36条 補則 82
[3]参考資料
1 法 令 83
(1) 建設業法(抄) 83
(2) 建設業法施行令(抄) 90
(3) 建設業法施行規則(抄) 92
(4) 民法(抄) 105
(5) 労働基準法(抄) 106
(6) 住宅の品質確保の促進等に関する法律(抄) 107
(7) 住宅の品質確保の促進等に関する法律施行令(抄) 107
(8) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(抄) 107
2 電子商取引ガイドライン 108
[1]概説
1 建設工事下請契約約款改訂の経緯
当協会では、昭和47年10月26日に建設工事下請契約約款を制定し、その後数次にわたり部分的な改訂を行い、建設工事下請契約書、建設工事継続的下請基本契約書、注文書、注文請書とともに会員に提供し、好評を得て広く利用されてきた。しかし、その後、建設業法の改正、住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成
12年4月1日施行)、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成13年2月16日施行)の制定等により、約款の内容もそれらに応じて改訂する必要が生じてきた。
そこで、当協会は、当協会の会員会社のなかから法務部等に所属する方を中心として数名の委員からなる建設工事下請契約書改訂小委員会を設け、改訂の対象となる条項、新設する条項、表現等の改訂につき検討してきた。
なお、今回の改訂に当たっては、下請契約書、注文書・注文請書及び約款本文のほかに約款の各条項に関する解説を作成し、会員の方の便宜に供することにした。それが、本解説書であるが、従来必ずしも約款の意味内容を十分理解されずに使用されてきた会員の方もおられるかも知れないが、今後は本解説書により約款の重要性やその意義について一層理解を深められものと思われる。
また、約款において引用されている建設業法等の条文についても必要な範囲で参考資料として添付することにした。
体裁については、旧約款はB5版を横長に使用していたが、今回の改訂において A4版を縦長に使用して、使いやすいものとした。
2 建設工事下請契約約款の意義
(1) 請負契約の意義
ア 建設工事下請契約約款の意義について説明する前に、請負契約の意義について 理解しておく必要がある。請負については、民法に規定があり(民法第632条から 第642条)、当事者の一方がある仕事の完成を約束し、相手方が、その仕事を完成 した当事者に報酬を支払うことを約束することによって成立する契約とされている(有 償・双務・諾成契約)。従って、民法上、請負契約は、必ずしも契約書を作成する必 要はなく、当事者間の合意によってのみ成立することになる(これを諾成契約という)。しかし、請負契約、特に建設工事の請負契約は、その内容が複雑、多岐にわたり、口 頭による合意だけでは、その内容が不明確、不正確となり、後日の紛争の原因になり かねない。そこで、工事の内容、請負代金額、その支払方法等契約の内容となる重要 な事項については、できるだけ具体的、詳細に記載し、当事者間の権利義務関係を明 確にしておく必要がある。建設業法はこのような趣旨から、建設工事の請負契約の当 事者は、契約を締結するに際し一定の事項については書面に記載したうえ、これを相 互に交付すべきことを規定している(同法第19条)。
イ 請負契約の成立要件
上記のとおり、請負契約は、当事者間の合意のみで成立し、その内容を特に書
面化することは要求されていない。建設業法第19条は、一定の事項については書面を作成すべきことを要求しているが、これは、請負契約の内容を当事者間で明らかにするとともに、後日の紛争を防止するためであり、請負契約の成立要件ではない。しかし、建設工事の請負契約を締結する場合、契約当事者には建設業法第19条が適用されるから、請負契約を締結する場合には書面を作成することが必要となるのである。
ウ 請負人の義務
請負契約における請負人の発注者に対する義務は、定められた期日までに発注者の注文内容に従った工事を完成することである。また、請負人が仕事を完成した場合、通常は、この完成した目的物を発注者に引き渡して始めて請負契約を履行したことになるから、目的物を引き渡すことも請負人の義務となる。また、下請契約において元請負人から発注を受けた下請負人も同様の義務を負う。
なお、請負人の本来の義務は、この仕事の完成、引渡し義務であるが、請負契約においては、この仕事の完成、引渡し義務を履行することに付随して様々な義務が定められることになる。
エ 発注者の義務
発注者は請負人に対して報酬(請負代金)を支払う義務を負う。民法上は、報酬は仕事の目的物の引渡しと同時に支払うべきことを規定しているが(民法第6
33条 ただし、目的物の引渡しを要しないときは仕事が完成した後に支払うものとされている)、これは任意規定(当事者の合意により変更できる規定)であるから、通常は、前払いも含め、請負代金は数回に分けて支払われることが合意されている。この発注者の義務の内容は、元請負人が下請負人に発注する場合も同じであるが、建設業法は、下請代金の支払について元請負人に特別の義務を課すなど(建設業法第24条の3等)、下請契約においては一定の義務を元請負人に課すことにより下請負人の保護を図っている。
(2) 建設工事下請契約約款の意義
約款とは、不特定多数の利用者を画一的に処理するため、予め定型的に定められている契約条項をいう。このような約款には、保険約款、運送約款、旅行約款等種々のものがあるが、本約款もこれらの約款と同趣旨のものである。すなわち、前記のとおり請負契約は当事者間の合意のみによって成立し、書面を作成することは要件とされていないが、何らの書面も作成せずに請負契約を締結することは後日の紛争の原因となるだけではなく、建設工事の請負契約締結に際しては、建設業法により一定の事項を書面に記載すべきことが契約当事者に義務づけられているため、通常は書面を作成して請負契約を締結することになる。しかし、発注を受けた工事ごとに個別に契約内容を定めて書面を作成するのは大変な労力を要するだけではなく、建設工事においては、具体的な工事内容、請負金額、工事期間等、工事ごとに異なる個別的な事項を除けば、他の規定はほとんど変わらないはずである。そこで、予めすべての建設工事に共通な事項を契約条項として定め、これを書面にしたうえ、請負契約を締結する際は、これをそのまま契約内容として用いることが便宜である。
本約款もそのような趣旨で制定されたものであり、請負契約締結の際は、工事内容、請負代金、工事期間等、工事ごとに定められる事項は個別に定め、それ以外の事項については本約款の規定に従うことになる。
(3) 建設工事下請契約約款の対象
建設工事の請負契約に関する約款としては、民間(旧四会)連合協定の工事請負契約約款があるが、これは発注者と請負者(元請負人)間の契約内容を定めるものであるのに対して、本約款は発注者から建設工事を請け負った元請負人と下請負人間の契約内容を定めるものである。そのため、本約款は、下請契約特有の問題を処理するための規定(下請代金の支払方法、引渡しの時期等)、また、建設業法において元請負人に課せられている義務を具体的に定める規定など、民間(旧四会)連合協定の工事請負契約約款とは異なった規定が設けられている。
なお、本約款は、その制定当初においては、当協会が特定建設業者を会員とする事業者団体であることから、特定建設業者のみを対象とする内容となっていたが、今回の改訂に際しては、特定建設業者以外の建設業者も利用できる内容とした。
また、本約款は下請契約を対象とする約款ではあるが、その内容は、当協会の特定建設業者が一次下請に関する契約を締結することを前提として制定されている。そのため、二次下請、三次下請における契約にはそのまま適用するのは適当ではない。今回の改訂に当たっては、二次下請、三次下請においても利用できる内容とすべきかどうかにつき検討したが、二次下請以下の契約について適用できるような約款にするためには、技術的に難しい問題があって複雑となること、検討する時間も相当要することから、今回の改訂においては旧約款と同様、一次下請のみを対象とすることにした。本約款を利用されるに当たっては、その点をご留意いただきたい。
3 建設工事下請契約約款改訂の概要
今回の改訂に当たっては、建設業法の改正、住宅の品質確保の促進等に関する法律、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律等、法律の改正、新法の制定に伴い、改訂を必要とする条項に手を加えた。特に、瑕疵担保責任については、住宅の品質確保の促進等に関する法律により、新築住宅の建築に関する請負契約についてその瑕疵担保期間が10年とされたことにより本約款においてもそれに適合する内容に改訂し(第26条第5項)、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律により公共工事に関しては、全面的に一括下請等が禁止されたことから、その点に関して新たな規定を設けた(第6条第2項)。さらに、書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律の制定によって建設業法が改正され(平成13年4月1日施行)、建設工事請負契約の締結等に際して作成、交付しなければならい書面について、従来の書面による方法の他に、電子メール等電子的手段を用いることも認められることになったため、本約款においても、同意、通知等書面によるものとされている行為、手続について電子的手段に代替することができる旨の規定を新設した(第35条)。また、法津の改正等に基づくものではないが、新たに第7条と第23条を新設した。
その他、旧規定では、読みにくい表現、体裁となっていた条項については、項に分け、あるいは新たに項を新設するなどしたほか、漢字をひらがなにし、ひらがなを漢字にするなどの字句の訂正、句読点の加筆を行い、全体的に読みやすく、わかりやすいものとなるよう心がけた。
なお、今回の改訂に際し約款に規定すべきかどうか検討されたその他の法律として、消費者契約法(平成13年4月1日施行)があるが、同法は、事業者と消費者間の契約を対象としているものであり、本約款は元請業者と下請業者という事業者同士の契約を対象にするものであることから、消費者契約法が適用される場面が考えにくく、そのため、本約款には同法に基づく規定は設けないことにした。
また、製造物責任に関する規定を設けるかどうかも検討されたが、製造物責任法
(平成7年7月1日施行)は動産を対象にしており、これに対して建設工事の請負契約はその対象が不動産であることから、製造物責任法が建設工事においてどのような場合に適用されるかを想定するのが難しいこともあり、今回の改訂においては製造物責任に関する規定は設けなかった。今後、建設工事の請負契約においても製造物責任が問題になる場面が生じるようであれば、次回改訂の際に改めて検討することにしたい。
4 建設工事下請契約書、建設工事継続的下請基本契約書等の改訂の概要
当協会は、建設工事下請契約約款とともに建設工事下請契約書、建設工事継続的下請基本契約書、注文書・注文請書を作成して提供していたが、今回の建設工事下請契約約款の改訂に伴い、これらについても一部修正をし、体裁についても約款と同様にB5版からA4版とし、より利用しやすいものとした。
具体的には、建設工事下請契約書及び建設工事継続的下請基本契約書については、記載事項は旧契約書を踏襲しているが、元請契約の表示については、下請工事の表示と同様に各記載事項に番号を付し、契約条項についても若干の修正を加えた。特に、建設工事継続的下請基本契約書においては、保証人の欄は注文者、請負者とも記載しないことにした。継続的下請基本契約の場合、注文者と請負者間の個別の下請契約の内容を(特に請負金額)保証人が知るのでなければ、保証契約が成立しないおそれがあり、そのため、それを保証人に知らせる方法も規定する必要があるが、そうだとすると、個別の契約ごとに保証をしてもらった方が適当であり、紛争も生じないと思われたからである。
また、注文書・注文請書については、本来は注文者と請負者間で工事ごとに下請契約書を締結すべきところ、これを注文書・注文請書に代えるのであるから、それらにはできるだけ本来の契約書と同様の事項が記載されるべきであり、したがって、今回の改訂においては、注文書・注文請書にはできるだけ建設工事下請契約書と同内容の記載事項を設けることにした。
[2]逐条解説
第 1 条(性質と目的)
この約款は建設工事下請契約における注文者及び請負者が建設業法第19条の規定により、契約の締結に際して定むべき事項その他互いに遵守すべき事項を明らかにするものである。
1 概要
本条は、本約款の性質と目的を明らかにしたものであり、総則的な意味を有するものである。注文者と請負者が下請負契約を締結する際には、建設業法第19条に規定されている事項を定めるほか、下請負契約の履行、すなわち建設工事の施工及び請負代金の支払について必要な事項を取り決めなければならない。本約款はそれらの事項につき、法律に基づいて定める必要のある事項及び通常の下請負契約においては一般的に定められると思われる事項を明らかにしていることを述べたものである。
2 改訂部分
旧規定における「当事者」は「注文者および請負者」と同義であるから「当事者」を「注文者及び請負者」とし、後半の「注文者および請負者」は削除した。
なお、改訂に当たり、「請負者」という表現について、それが適切かどうか議論がなされたが(請負人あるいは下請負人などに変更するのがよいかどうか等)、下請契約書においては「注文者」、「請負者」とされていることから、本条においても
「請負者」とすることにした(ただし、建設業法においては「請負人」とされている)。
第 2 条(用語の定義)
この約款及び契約書における用語の意味は次のとおりである。なお、以下の条項においては、注文者を甲、請負者を乙と表示する。
(1) 建設工事、建設業、建設業者、下請契約、発注者、元請負人、下請負人とはいずれも建設業法第2条に示すとおりである。
(2) 元請工事とは元請負人が発注者から請け負った建設工事をいい、元請契約とは発注者と元請負人との間の元請工事の請負契約をい う。
(3) 下請工事とは元請工事のうち下請負人が元請負人から請け負った工事をいう。
(4) 保証人とは元請負人又は下請負人に下請契約に基づく債務不履行があった場合に元請負人又は下請負人が相手方に対して負担する金銭債務を連帯して保証する者をいう。
1 概要
本条は、本約款で使用される用語についてあらかじめ明らかにしたものである。
2 改訂部分
(1) 用語の定義が多岐にわたりやや読みずらいので、各号に分けて定義することにした。
(2) 「金銭債務の補償」の意味が不明確であったため明確にした。なお、保証人による保証という場合は「金銭債務を補償する」ではなく、「金銭債務を保証する」とされるので、その旨訂正した。ちなみに、「補償」というのは「損失を補償する」というように発生した損害を填補することを意味し(本約款第11条参照)、「保証」というのは、「債務を保証する」など第三者が負担している債務につき、その第三者が債務を支払わない場合に備えて、その第三者が負担する債務と同内容の債務を負担することを意味する。
また、建設業法第2条に示されている建設工事等の各語句の間に「、」を加筆した。
(3) 第4号において「保証人」は、当初「契約保証人」としていたが、同号は金銭債務の保証を規定するものであるところから、「契約保証人」としたのでは、工事の履行も保証するような印象を与えるので単に「保証人」とした。
(4) 本約款においては保証人の定義は本条でなされているが、保証人に関する規定自体は存在しないので、新たに保証人に関する条項を新設するかどうかについて検討し
たが、本条第4号自体が保証人を付した場合の規定ともいえるので、同号において「金銭債務を保証する」とあるのを「金銭債務を連帯して保証する」と訂正したうえ、新たな条項は新設しないことになった。
第 3 条(請負者独立の原則)
① 乙は甲の支配を受けない独立した建設業者として下請工事を完成するとともに、下請契約の履行に関し、事業主として労働基準法その他関係法規の定めるすべての義務を履行し、下請契約の履行に伴って発生する一切の事項につき甲又は第三者に対し、独立した事業者として責を負う。
② 甲は乙に対し、乙の契約上の義務の履行を求めるほか如何なる支配も行わない。
1 概要
本条は、本約款制定当初から特筆すべき事項として規定されていたものであり、契約は本来対等の当事者間においてxxな内容を定めるべきものであるが、従来ややもすると建設業の下請負契約においては、元請業者と下請業者間に従属的な関係が生じており、下請業者の地位が不安定な面があった。そこで、本条第1項においては、下請業者も独立した事業者として権利義務の主体となることを規定したものである。従って、xxにより、下請業者も自ら独立した事業者として、関係法規を遵守することはもとより、注文者、第三者に対して権利を行使し得るとともに義務を負うことになる。
第2項は、このような下請業者の独立性を前提として、元請業者と下請業者間に生じがちな従属的な関係を排除するため、元請業者は下請業者に対して、下請契約上の義務の履行を求める以外は何らの支配も行ってはならないことを明確にしたものである。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項の「事業主として労働基準法その他関係法規の定めるすべての義務を完全に履行し、下請契約の履行に関し発生する一切の事項につき本人として責を負う。」とあるのは、乙が負うべき義務の内容としては、やや不明確の印象を受けるので第1項のように改訂した。
(2) 旧規定第1項の「本人」という表現は、おそらく甲の「代理人」あるいは「履行補助者」ではないことを示し、甲(元請者)とは独立した契約当事者、独立した事業主という意味で使用していたと思われるが、そうだとすれば、端的に「独立した事業者」とした方がわかりやすいので、そのように改訂した。
(3) 旧規定第1項において「すべての義務を完全に履行し」とあったが、履行するということは通常完全に履行することを前提としているから、「完全に」は敢えて必要ないため「完全に」を削除した。
(4) 旧規定第2項において「乙および乙の使用人に対して」とあったのを「乙に対し」とした。「乙に対し」とすれば、乙の使用人も含むことになることと、「乙および乙
の使用人」とした場合は、乙の使用人には乙の下請負人も含むのかどうかなど、乙の使用人の範囲に疑義が生じるためである。「乙に対して」とすれば、当然、乙の使用人、乙の下請負人等、乙が独立した事業者として使用、契約している相手方に対しても支配を行わないと解することができる。
第 4 条(指導及び是正)
甲が建設業法第3条第1項第2号に定める特定建設業の許可を受けた者(以下「特定建設業者」という)である場合に限らず、甲が建設業法第24条の6第1項に定める指導を行った場合乙は速やかにこれに従い、同第2項に定める是正を求めた場合乙は速やかにこれを是正する。
1 概要
甲が建設業法第3条第1項第2号に定める特定建設業の許可を受けた者(特定建設業者)である場合、建設業法第24条の6第1項は、甲は乙に対して、同条の6第1項に定める法令に違反しないよう指導に努めるものとし、さらに、乙が同項に規定する法令に違反していると認められた場合、同条の6第2項は乙に対して違反の事実を指摘してその是正を求めるよう努めるものとしている。
本条は、この規定に基づいて設けられたものであるが、建設業法第24条の6は特定建設業者を対象としているのに対し、本条は、甲が特定建設業者でない場合にも適用されるものとした。建設業法第24条の6第1項に規定する法令(建設業法、建築基準法、労働基準法、職業安定法等のうちの一定のもの)を遵守すべきは、甲が特定建設業者であると否とを問わないからである。ただし、特定建設業者については、指導し、是正を求めることは建設業法第24条の6第1項、第2項に基づく義務として行われるが、それ以外の建設業者については、本条により権限とされる点が異なっている。
2 改訂部分
旧条項は、甲が特定建設業者であることを前提にした規定であったが、今回の改訂においては、甲が特定建設業者であると否とを問わない規定とした。
また、旧条項では「乙は自主的にこれに従い」、「乙は自主的これを是正する」とあったが、乙は甲の求めに応じて指導に従い、是正するのであるから、「自主的に」という文言は適切ではないので削除した(「自主的に」ということは、甲から求められなくてもみずから是正等するということである)。
第 5 条(譲渡禁止)
甲、乙はあらかじめ相手方の書面による同意を得ない限り、この契約に基づく地位又は権利を第三者に譲り渡し若しくは義務を継承させてはならない。
1 概要
(1) 本条は、注文者、請負者がそれぞれ有する注文者としての契約上の地位、請負者としての契約上の地位の譲渡やその相手方に対して有する権利の譲渡を禁止するとともに、その有する義務を承継させることを禁止するものである。注文者あるいは請負者としての契約上の地位とは、注文者あるいは請負者が、それぞれ下請契約に基づいて有している各種の権利義務を全体として捉えたものである。
このような契約上の地位が相手方の同意なくして譲渡された場合、相手方は不測の損害を被るおそれがあるために禁止されているのである。例えば、注文者が請負代金の支払能力のない者にその契約上の地位(注文者としての地位)を譲渡した場合や請負者が施工能力のない者にその契約上の地位(請負者としての地位)を譲渡した場合を考えてみれば明らかであると思われる。
(2) また、権利を譲渡するというのは、このような注文者、請負者といった地位から生じる個々の権利を譲渡する場合である。主要なものとしては、請負者が注文者に対する請負代金債権を譲渡するというような場合である。しかし、請負者がその債権者に対して担保等として請負代金債権を譲渡した場合は、請負者は仕事を完成しても請負代金を取得できないことになるのであるから、請負者の仕事の完成に対する意欲が減殺されるおそれがあり、それは注文者にとっては看過できないことである。そのため、注文者の同意(その存在を明確にするため書面によるものとされている)がない限り、例え自己の権利であるといえども譲渡を禁止されるのである。また、注文者が請負代金の支払義務のみを第三者に承継(引受)させた場合も、請負者にとっては、その第三者に支払能力があるかどうか不安を感じるため、やはり請負者の同意がない限り承継させることはできないのである。
2 改訂部分
(1) 旧条項においては「地位権利」とされていたが、「地位」と「権利」はそれぞれ別個に譲り渡すことが可能であるので、「地位」を譲り渡す場合、「権利」を譲り渡す場合、いずれも相手方の同意が必要なことを明確にするため「地位又は権利」とした。
(2) 旧条項においては「他人に譲り渡し義務を他人に承継させてはならない。」とされていたが、契約書上、契約当事者以外の者を指す場合は通常「第三者」と表示するので、本約款においても「他人」とあるのは「第三者」に改めた。また、「もとづく」は「基づく」に、「かぎり」は「限り」に訂正するとともに、「義務を承継させては
ならない」の前に「若しくは」を加えた。
第 6 条(一括再下請又は一括委任の禁止)
① 乙はあらかじめ発注者及び甲の書面による同意を得ない限り、下請工事の全部又は主要部分若しくは他の部分から独立して機能を発揮する工作物の工事を一括して第三者に再下請させること若しくは委任(以下「一括再下請又は一括委任」という)をすることはできない。
② 前項の規定にかかわらず、公共工事に関しては、乙は発注者又は甲の同意の有無を問わず、一括再下請又は一括委任をすることはできない。
1 概要
(1) 本条の趣旨
イ 一括下請の禁止は、建設業法第22条に規定されており、その趣旨は本条と同じであるが、本約款においても注意を喚起する意味で本条を設けたものである。なお、本条は、契約の内容となる約款の性質上、注文者(甲)と請負者(乙)との関係において乙が一括下請等をすることを禁止しているが、建設業法第22条は、その第1項において、建設業者がその請け負った工事を一括して他人に請け負わせることを禁止しているだけでなく、第2項において、建設業を営む者(建設業者に限らない)が建設業者から工事を一括して請け負うことも禁止している。
従って、建設業者は、元請負人であると下請負人であるとを問わず一括して工事を請け負わせることを禁止され、また、建設業を営む者は、第1次下請であると第2次下請であるとを問わず、工事を一括して請け負うことが禁止されている。すなわち、一括下請は元請負人、下請負人双方に禁止されているということである。
ロ 建設業の請負契約においては、仕事(工事)を完成することが目的であるから、工事さえ契約内容どおりに施工されていれば問題がないようにも思えるが、建設工事には多様かつ複雑なものがあり、どの建設業者が施工しても完成された目的物に変わりがないということは必ずしもない。そのため、発注者(施主)は施工能力があり、手抜工事を行ったりしない信頼できる業者を選択して請負契約を締結するのである。このことは、元請業者である注文者(甲)が下請業者(乙)を選択する場合も同様である。
従って、請負人が自己の請け負った建設工事を一括して他人に請け負わせる再下請は、このような注文者の信頼を裏切るだけでなく、工事施工の責任の所在が不明確となり、さらに、再下請業者は請負人により中間において利潤を搾取されるため、工事の質の低下を招き、場合によっては手抜工事も生じかねないため禁止されているのである。
ハ 建設業法第22条は、一括下請負の禁止を規定しているのであるが、同法第24条は、委託その他何らの名義をもってするを問わず、建設工事の完成を目的として締
結する契約は請負契約とみなすと規定しているので、本条においても、その趣旨を取り入れ一括委任も禁止する旨xxで定めたものである(委任と称していても、その内容は請負であることが多いと思われる。以下では一括再下請及び一括委任を「一括再下請等」という)。なお、請負契約、委任契約以外の名称を使用していたとしても、その内容が建設工事の請負を目的とする契約であれば、当然本条が適用されることになる。
(2) 一括再下請等の禁止の範囲
一括再下請等が禁止されるのは、「下請工事の全部又は主要部分」若しくは「他の部分から独立して機能を発揮する工作物の工事」である。「下請工事の全部」については範囲は明らかであるが、「下請工事の主要部分」については、工事の質や量、内容により判断されるが、内装工事などの付帯的な工事のみを自ら施工し、本体工事のすべてを下請負させる場合などが該当すると思われる。また、「他の部分から独立して機能を発揮する工作物の工事」とは、複数の建物建築工事を請け負った者がそのうちの一棟を下請負させる場合や、道路建設などにおいて受注した区間の一部を一括して下請負させるような場合などが考えられる。
(3) 一括再下請等が許される場合
「乙はあらかじめ発注者及び甲の書面による同意を得ない限り」一括再下請等ができないとされているから、乙は、発注者と甲の書面による同意をあらかじめ得た場合には一括再下請等が可能となる。
なお、本約款は甲(注文者)と乙(請負者)間の下請契約の内容となるものであるから、条文の規定の体裁としては、「乙はあらかじめ甲の書面による同意を得ない限り」とすれば良いようにも考えられる。しかし、建設業法第22条第3項は「前2項の規定は、元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には、適用しない。」と規定していることから、一次下請、二次下請を問わず、発注者の承諾を得ない限り下請負、再下請負をさせることが禁止されることになる。また、同条第2項、第3項により、建設業を営む者は発注者の承諾を得ない限り建設工事を一括して請け負うことが禁止されていることから、一括再下請等をしようとする者も発注者の承諾を得ることが必要となる。そのため、本条においても一括再下請等をするためには発注者の同意を必要とすることを規定したものである。
(4) 公共工事に関する一括再下請等の禁止
本条第2項は、今回の改訂で新設したものであり、公共工事については、発注者及び甲の同意があっても乙は一括再下請等をすることができない旨規定している。これは公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(以下「適正化法」という)の制定により、公共工事については発注者の同意を得たとしても一括下請は全面的に禁止されたため(同法第12条)、新たに第2項を新設し、その趣旨を明らかにしたものである。
2 改訂部分
(1) 条文の表題につき、委任も含めて原則禁止されることを明確にするため「一括再下請または一括委任の禁止」とした。
(2) 一括再下請の禁止の範囲を明確にするため、「若しくは他の部分から独立して機能を発揮する工作物」を加筆した。これは、通達(平成4年12月17日建設省経建発第389号)を参考にしたものである。また、請負に限らず委託または委任の場合も、禁止の範囲が同様であることを明確にするためxxにまとめた。
(3) 建設業法第22条第1項は「他人に請け負わせてはならない」と規定しているが、契約書においては通常当事者以外の者を指す場合は「第三者」とするので、本条においても「他人」とあるのは「第三者」に改めた。
(4) なお、旧規定では「甲の書面による同意を得ないかぎり」とされていたが、前記概要(3)で説明したとおり、乙が一括再下請等をするためには元請負人の甲だけではなく発注者の同意も得なければならないことから「発注者及び甲の書面による同意を得ない限り」とした。
(5) 旧規定では「委託または委任」とされていたが、「委託」も「委任」も法律上は同義なので「委託」は削除した。
(6) 第2項は、適正化法の制定により、公共工事については発注者の承諾の有無を問わず一括下請は全面的に禁止されることになったので新設したものである。
第 7 条(再下請等における契約事項等の通知)
前条第1項において発注者及び甲の書面による同意を得た場合を含め、乙が工事の全部又は一部を第三者に請け負わせ、又は委任した場合、乙は甲に対して、その契約に関し、次の各号に掲げる事項を速やかに書面を以て通知するものとする。
(1) 請負人又は受任者の氏名及び住所(法人であるときは名称及び工事を担当する営業所の所在地)
(2) 建設業の許可番号
(3) 現場代理人及びxx技術者の氏名
(4) その他法令で通知が求められている事項及び甲が必要と認めて通知を求めた事項
1 概要
本条は、今回の改訂において新設した条文である。乙が前条において発注者及び甲の同意を得た場合、又は前条に該当しない場合の再下請等をした場合において、甲が再下請の契約内容を知る必要があることを考慮し、乙が甲に対して再下請契約等の内容を通知すべきことを規定したものである。
建設業法第24条の7第1項は、特定建設業者が下請契約(その請負代金が3,0
00万円以上の場合、ただし、建築一式工事の場合は4,500万円以上の場合)を締結したときは、下請負人の名称、住所、請け負わせた建設工事の内容等を記載した施工体制台帳を作成すべきことを規定しており、さらに同条の7第2項は、この施工体制台帳の円滑な作成に資するために、その下請負人が当該特定建設業者から請け負った建設工事に関して再下請契約を締結したときは、その再下請負人の名称、住所等を当該特定建設業者に通知(再下請通知)しなければならないと規定している。
従って、乙がこの建設業法第24条の7第1項の規定に該当する下請契約を甲と締結している場合には、乙が当該工事に関して再下請契約を締結したときは、建設業法第24条の7第2項の規定に基づき、乙は甲に対して再下請通知をしなければならないことになる。そのため、甲が施工体制台帳の作成義務を負っている場合(作成特定建設業者の場合)には、乙が本条の第1号から第3号及び第4号の「法令で通知が求められている事項」について甲に通知することは建設業法第24条の7第2項の規定に基づくものであるから、その点では本条は念のために定めた規定となる。しかし、本条は、甲が作成特定建設業者に該当しない場合にも適用されること、及び第4号において「甲が必要と認めて通知を求めた事項」を加えて甲が乙に対して施工体制台帳への記載事項以外の事項の通知も求めることができることにしており、その点に本条の意義があることになる。
2 改訂部分
新設条文である。本条文が新設されたことにより、以後の条文は数字が1つ繰り下がることになる。
第 8 条(秘密保持)
甲、乙は、この契約の履行により知り得た相手方の工法及び経営に関する秘密を他に漏らさず、それぞれその従業員にも漏らさせてはならない。
1 概要
建設工事においては、注文者、請負者それぞれが工事の施工方法、施工技術等をある程度開示しなければ工事の施工が困難な場合が多く、その施工方法、施工技術のなかには、競争事業者には知られたくない秘密に属するような内容も含まれている。また、請負代金額を決めるに当たっての交渉やその支払状況等から相手方の経営状態を知り得ることがある。そのため、注文者、請負者を問わず、相手方から開示された事項、あるいは工事の施工過程、交渉過程で知り得た相手方の工法及び経営に関する事項で秘密に属するものは、これを相互に他に漏らすことを禁じたものである。また、このような秘密は現場の従業員も知ることが多いことから、甲及び乙はその従業員に対してもそのような秘密を漏らさないよう指導することを規定したものである。
なお、「秘密」とは、未だ他人に知られていない事項であり、甲あるいは乙が自ら公開している事項やすでに公知となっている事項は含まないことはいうまでもない。
2 改訂部分
乙が独立した事業者である以上、甲の秘密に限らず、甲が知り得た乙の秘密を漏らすことも禁止されるべきと思われるので、甲についても乙の秘密を漏らすことを禁止するものとした。
第 9 条(工事現場等の占有)
① 甲は元請工事の工事現場を支配、占有し、乙は甲が支配、占有する工事現場内において下請工事を完成する。
② 乙は下請工事の工事現場に搬入して甲が確認した工事用機械器 具、工事材料、支給材料及び貸与品等につき甲が占有権者であることを認める。
1 概要
(1) 第1項について
「工事現場を支配する」とは、当該工事現場に対して管理、監督権限を有するということであり、「占有」するとは、物(動産、不動産)を所持、管理している事実状態をいう。そして、物を占有することにより民法上占有権が発生し、占有権を有する者は、例えば、他人が工事現場を不法占拠して立ち退かない場合などには、その他人に工事現場からの立ち退きを請求したり、損害の賠償を請求できる権利を有することになる。
工事現場(土地)は、通常発注者の所有に属することが多いと思われるが、元請負人は発注者との間の請負契約に基づき、工事施工のためにその現場を支配、占有する権限を認められることから、本条第1項は、甲に元請工事の工事現場を支配、占有する権限があることを明らかにしたものである。
(2) 第2項について
不動産である工事現場に対する占有と同様に、動産である工事用機械器具等についても、それらを実際に所持、管理することによりそれらを占有していることになる。そして、通常は、甲が支配、占有する工事現場に搬入され、甲が確認(所在を認識)した工事用機械器具等については甲に占有があることになるので、第2項はそのことを確認したものである。従って、工事現場に搬入された工事用機械器具等を第三者が甲に無断で搬出したような場合は、甲がその第三者に対して、その返還を請求することができる。
2 改訂部分
(1) 第1項において、甲が工事現場を占有することを明確にするため、「甲は元請工事の工事現場を支配、占有し」とした。
(2) 第1項において「乙は甲が占有する」とあったのを、前段に合わせて「乙は甲が支配、占有する」とした。
(3) 旧規定第2項の占有権の目的である「工事用機械器具および工事用材料」に「支給材料」及び「貸与品」を加えて「工事用機械器具、工事用材料、支給材料及び貸与品等」とした。本項は「乙が搬入した工事用機械器具等であったとしても」甲に占有権があることを確認した規定であるから、甲が支給した材料や貸与品については原則
として甲に占有権があることになるが(乙は占有補助者ということになる)、確認の意味で加えたものである。
(4) 旧規定第2項の「甲の代理者」はその意味が必ずしも明らかでなく、契約書(約款)においては特に理由がある場合を除いて、通常は契約当事者を権利義務あるいは行為の主体とすることから、「甲の代理者」は端的に「甲」とした。
第10条(処分搬出の禁止)
乙は甲の承諾を受けた後でなければ乙が工事現場に搬入した前条第
2項の物件並びに工事の出来形部分を第三者に譲り渡し、貸与し、若しくは搬出することができない。第三者に対する債務の担保とすることも同様とする。
1 概要
甲は工事現場及びそこに搬入された工事用機械器具等の占有を有するのであるから、前条第2項の物件を甲の承諾なしに搬出することはできないのは当然のことである。
また、これらの物件を第三者に譲り渡したり、貸与することも、例えその物品が乙の所有に属するものであったとしても、その譲渡や貸与を受けた第三者がこれらを工事現場から搬出する可能性があることを考えれば、工事の施工に必要であるために搬入したものである以上、甲の承諾なしに第三者に譲り渡したり、貸与することが禁じられることになる。第三者に対する債務の担保とした場合も、乙が債務を返済しない場合は、それらを引き上げられてしまうことがある以上同様である。
さらに、工事の出来形部分については、工事現場に存在する以上は、その占有も甲にあるだけでなく、それが完成すれば甲に引き渡すべきものであるから、乙が甲に無断で処分することができないのは当然といえる。
2 改訂部分
(1) 旧規定においては「他に譲り渡し」とあったのを「第三者に譲り渡し」とし、「他の債権者に対する」を「第三者に対する」とした。
(2) 「貸与し」を加筆した。「搬出」のなかには貸与して搬出する場合も含まれるが、工事現場にある状態で貸与するという場合も考えられるので、加筆することにしたものである。
第11条(関連工事との調整)
乙は元請工事の円滑、順調な完成に協力し、甲が乙に対し、乙が請け負った下請工事と関連する他の下請工事又は元請工事との調整を求めたときはこれに応ずる。ただし、調整によって乙に著しい損失を生ずるときは、その損失の補償の方法、金額等について甲乙協議して定める。
1 概要
建設工事は、解体工事、基礎工事から始まり、躯体工事、電気工事、水道工事、内装工事その他建築物の種類によって各種多数の工事からなり、ほとんどの場合、それらの工事が単一の業者によって行われることはなく、また、同種の工事であっても複数の下請業者が分担して行う場合もある。そのため、工事の進捗状況によっては、予定の期日に工事を開始できない場合や予定より早い時期に工事を始めなければならないことも生じる。そのため、甲は、工事を円滑、順調に進めるため、下請業者に対して、工事期間の変更や工事の順序の変更等をして元請工事や他の下請工事との調整を求めざるを得ないことがある。本条は、そのような場合に、乙は甲の求めに応ずべきことを規定したものである。
しかし、乙にとっては、このような調整に応じることにより自己が請け負った工事の完了が遅れたり、予定外の支出を余儀なくされたりすることもないとはいえない。そのため、本条ただし書において、乙が調整に応じることにより著しい損失を被る場合には、甲は乙と協議してその損失の補償の方法や金額等を決めなければならないことを規定している。
2 改訂部分
(1) 旧規定における「関連工事」というだけでは意味が不明確であるため、「乙が請け負った下請工事と関連する他の下請工事又は元請工事」とした。
(2) 乙に生じたすべての損失を甲が補償するのは甲の負担が過重になりかねないので、
「著しい損失」とし、また、旧規定では乙に生じた損害は、甲が必ず補償しなければならなかったが、これも甲にとって負担が重過ぎることになる場合もあるので、損失の補償の方法、金額等について甲乙が協議して定めるものとした。
第12条(現場監督員)
① 甲は下請工事の現場に監督員をおくときはその氏名及び職名を書面を以て乙に通知する。
② 現場監督員の権限は本約款に別に定めるものの他次のとおりとする。
(1) 甲の命を受け下請工事の現場及び工事現場内所在物件の占有及び管理に関する事務を執行すること。
(2) 下請工事に関する一切の状況を監督し、検査及び施工の立ち会いをし、工事施工に関する乙からの申し出を受け、これを甲に伝達すること。
(3) 工事施工に関する甲の指示を乙に伝達すること。
(4) その他甲が付与しその旨を書面を以て乙に通知した権限。
③ 甲が特に現場監督員をおかないときは、甲が元請工事の現場においた監理技術者又は主任技術者若しくは甲が当該元請工事の工事現場の責任者と定めて表示した者を甲の現場監督員とみなす(以下において「現場監督員」という場合は「現場監督員とみなされる者」を含む)。
④ 乙は、甲の現場監督員の権限の行使が著しく不適当と認められるときは甲にその変更を求めることができる。
⑤ 前項の場合を含め甲の現場監督員の行為に対する乙の意見は甲の代表者に対し書面を以て申し出なければならない。
1 概要
(1) 本条の趣旨
建設業法第19条の2第2項は現場監督員に関して規定しているが、建設業法は必ずしも現場監督員をおくべきことを定めてはいない。そこで、本条も甲が現場監督員をおいた場合の現場監督員の権限等を定めたものである。なお、建設業法第1
9条の2第2項は、現場監督員をおいた場合は、当該監督員の権限に関する事項及び当該監督員の行為についての請負人の注文者に対する意見の申出の方法を書面により請負人に通知しなければならないと規定している。これは、現場監督員の権限の範囲が不明確であるために現場監督員の行為が原因で紛争が生じることを防止するためであり、また、現場監督員の行為について紛争が生じた場合に、その現場監督員自身を相手にしていたのでは紛争の解決が困難であるため、請負人は注文者に対して直接意見を述べることができることにしたものである。そのため、現場監督員をおいた場合の規定として本条第2項以下の規定を設けておく必要があることになる。
(2) 第1項について
第1項は、甲が下請工事の現場に現場監督員をおく場合は、乙に対して現場監督員をおいたこと及びその氏名、職名を知らせるべきことを規定したものである。現場監督員は、甲(会社の場合は代表者)に代わって下請工事の施工を監督し、乙に対して必要な指示を与えるためにおかれるものである。
(3) 第2項について
現場監督員の権限を定めたものであり、甲の権限に属するもののうち、甲が特に現場監督員に付与した権限を規定したものである。建設業法第19条の2第2項も、現場監督員をおいた場合はその権限に関する事項を書面により請負人に通知しなければならないと定めているが、現場監督員をおいたとしても、その権限が不明確である場合は、後に紛争の原因になりかねないため、これを明確にしておく必要がある。第1号から第3号は、具体的に現場監督員の権限を定めたものであるが、第4号は、これら以外にも現場監督員の権限として甲が付与したものがある場合には、書面を以て乙に通知すべきことを定めたものである。
(4) 第3項について
下請工事の現場においては、下請工事の施工に関し、それを監督するとともに、下請業者からの意見や申し入れを受ける者として甲を代表する者、あるいは現場監督員が存在することが望ましいが、甲が請け負っている工事の現場が複数あるような場合は必ずしも常に現場監督員を確保できない場合もある、そこで、そのような場合は監理技術者又は主任技術者若しくは甲が当該元請工事の工事現場の責任者と定めて表示した者を現場監督員とみなすことにしたものである。このようにして現場監督員とみなされた者は、現場監督員と同様の権限を有することになる。
(5) 第4項について
現場監督員には注文者である甲に属する権限の一部が付与されているのであるが、その行使が著しく不適当で工事の施工に支障を来すような場合は、請負者である乙 は、甲に対してその変更を求めることができることとしたものである。
(6) 第5項について
現場監督員の変更を求める場合は特にそうであるが、現場監督員の行為に対する意見を現場監督員自身に述べてもあまり意味がなく、問題が解決し難いところから、甲に対して直接申し出ることとしたものである。この場合の甲というのは、甲本人
(会社の場合は代表者)であるが、意見を申し出るに当たっては、書面の宛名が甲本人となっていればよく、書面を交付する相手方が甲本人である必要はなく、しかるべき権限のある者(工事部長等)に交付すれば良い。
2 改訂部分
(1) 「甲の代表者」、「甲の代理者」、「乙の代表者」との表現は、いずれも「甲」、
「乙」とした。「甲」、「乙」との表現でも十分意味が通じると考えられ、「甲の代表者」、「甲の代理者」とした場合、それが誰を指すのか疑義が生じる場合もあり得るからである。但し、「甲の代表者」、「甲の代理者」等の表現が特に意味を有して
いる場合は旧規定通りとする(例えば、本条第5項の「甲の代表者」)。
(2) 旧規定の第2項第1号にあった「占有管理」については、「占有」と「管理」は厳密には別個の意味を有するので「占有及び管理」として意味を明確にした。
(3) 旧規定第2項第3号に「甲の代表者または下請工事の監理技術者もしくは主任技術者の工事施工に関する指示を」とあったのを、「工事施工に関する甲の指示を」と訂正した。「甲の指示」とすれば、甲の代表者、下請工事の監理技術者等の指示も含まれることになり、甲からの指示であることを示すにはそれで足りると考えられたからである。
同様に、同号の「乙または乙の現場代理人もしくは工事担当責任者に伝達すること」との表現に関しても「乙に伝達すること」とした。
(4) 旧規定の第2項第4号にあった「授与」という表現は上から下へ授け与えるというようなニュアンスがあり、権限を与えるという場合は、通常は「付与」するという表現が使用されるので、本号においても「付与」とした。
(5) 旧規定第3項に( )内を加筆した。
(6) 旧規定第4項にある「行為についての乙の意見」は、「行為に対する乙の意見」とした。
(7) 旧規定第5項の「著しく不適当と認められるときは」というのは、何が著しく不適当なのか必ずしも明らかではないので(この表現では個人的な人格が不適当な場合も含まれるおそれがある)、第2項に現場監督員の権限が定められていることから、その権限の行使が著しく不適当な場合とした。
(8) 旧第4項は第5項とし、旧第5項は第4項としたうえ、第5項に「前項の場合を含め」を加筆した。旧第5項の変更請求についてはその性質上、当然現場監督員ではなく、甲の代表者に求めるべきことであるが、そうすると条文の体裁上は、第4項と第5項は入れ替えた方が適当と思われたからである。
第13条(現場代理人)
① 乙は下請工事の現場に専任の現場代理人をおき、その氏名及び職名を書面を以て甲に通知しなければならない。ただし、乙の代表者又はその職務代行者が下請工事の現場に常駐するときはこの限りではない。
② 乙の現場代理人は、下請契約の履行に関する一切の行為について乙を代理する。ただし、次に定める行為は除くものとする。
(1) 請負代金額の変更
(2) 工期の変更
(3) 請負代金の請求又は受領
(4) 本契約の解除及び損害賠償の請求又は受領
(5) 乙が書面を以て除外する旨を甲に通知し、甲が承認した行為
③ 現場代理人を欠く場合には乙が下請工事の現場におく主任技術者を乙の現場代理人とみなす(以下において「現場代理人」という場合は「現場代理人とみなされる者」を含む)。
④ 甲は、乙の現場代理人の行為が著しく不適当と認められるときは乙にその変更を求めることができる。
⑤ 前項の場合を含め乙の現場代理人の行為に対する甲の意見は乙の代表者に対し書面を以て申し出なければならない。
1 概要
(1) 本条の趣旨
建設業法第19条の2第1項は現場代理人に関して規定しているが、建設業法上は現場代理人を必ずしもおく必要はないことになっている。しかし、本約款においては現場代理人をおくことを前提とした。そして、建設業法第19条の2第1項は現場監督員の場合と同様に、現場代理人をおいた場合は、当該現場代理人の権限に関する事項及び当該現場代理人の行為についての注文者の請負人に対する意見の申出の方法を書面により注文者に通知しなければならないと規定しており、その趣旨は、前条の現場監督員の場合と同様である。
(2) 第1項について
請負契約においては、注文者本人あるいは請負人本人(いずれの場合も会社の場合は代表者)が直接現場において監督や指図をすることは少ないが、注文者にとっては、請負人側の権限ある者が工事現場にいないと、工事の施工に関する監督や指示を適宜、適切に行うことができない場合が生じかねない。そのため、本約款では、請負者は必ず現場代理人をおかなければならないことを定めたものである。ただし、乙の代表者あるいはその職務を代行する者(要するに、甲の指示を受けてこれを実行できる権限を有する者という意味である)が工事現場に常駐する場合は、現場代
理人は必要ないため、これをおかなくても良いとしている。
(3) 第2項について
本項は、建設業法第19条の2第1項において、請負人(乙)が注文者(甲)に通知すべきとされている「現場代理人の権限に関する事項」を定めた規定である。しかし、契約上の権利・義務に関する事項は、特に委任されない限りは直接本人(請負人)が処理した方が適切な場合が多い(現場代理人の考えが必ずしも請負人の考えと一致するとは限らない)。そのため、ただし書において、請負代金額の変更や契約の解除については、現場代理人の権限から除外したものである。
(4) 第3項について
現場代理人をおくことが必要であるとすると、乙は必ず現場代理人をおかないと契約違反になりかねないが、どうしても現場代理人を確保できない場合や、たまたま何らかの事由で現場代理人が欠けることもあることから、そのような場合は主任技術者を現場代理人とみなすことにしたものである。
(5) 第4項について
現場監督員の場合と同様に、その行為が著しく不適当である場合は、甲は乙に対してその変更を求めることができることにしたものである。
(6) 第5項について
これも現場監督員の場合と同様に、直接現場代理人に申し入れたのでは問題が解決し難いことから、直接乙の代表者(個人の場合は乙本人ということになる)に申し出ることとしたものである。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項の「ただし乙の代表者」、同第2項の「ただし乙が」とあるのは、いずれも「、」を加筆して「ただし、乙の代表者」、「ただし、乙が」とした。
(2) 旧規定第2項においても、ただし書において乙が現場代理人の行為を制限できる旨規定されてはいたが、常に書面をもって制限する事項を通知しているかどうか疑問があるので、約款において明確にしておいた方が良いと考え、新たに除外すべき行為を具体的に規定した。
(3) 旧規定第4項において「行為についての甲の意見」とあるのを、第12条第5項の場合と同様「行為に対する甲の意見」とした。
(4) 旧規定第5項において「現場代理人および主任技術者」とあったが、現場代理人を欠く場合は主任技術者が現場代理人とみなされるから「現場代理人」のみとした。また、同項において「著しく不適当と認められるとき」とあったが、旧規定第11条第5項の場合と同様、何が著しく不適当な場合か明確ではないので、「行為が著しく不適当」とした(第2項に「一切の行為」とあるから)。
(5) 第12条と同じ理由で旧規定第4項と第5項を入れ替え、第5項に「前項の場合を含め」を加筆した。
第14条(乙の通知義務等)
① 乙は、次の各号の場合には直ちに甲に書面を以て通知しなければならない。
(1) 下請工事の施工に当たり設計図、仕様書等に不備又は疑義若しくは不適当があることを発見したとき。
(2) 完成すべき工事の安全を保障しがたい事由のあることを発見したとき。
(3) 下請工事の完成に影響を及ぼすおそれのある重大な事由を知ったとき。
(4) その他下請工事又は下請契約の履行に関係のある重大な事実を知ったとき。
② 甲が前項の通知を受けた場合、必要があると認められるときは、設計図、仕様書等を訂正し、又は工事内容、工期若しくは請負代金額を変更する。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、乙が下請工事を施工するに際し、下請工事の完成に影響を及ぼす事実を発見した場合は、これを甲に通知すべきこと、その通知を受けた甲は乙と協議のうえ必要な対策をとることを定めたものである。
(2) 第1項について
本条第1項は、乙が下請工事を施工するに際し、設計図、仕様書等に不備を発見し、そのまま施工したのでは工事の目的物を完成できなかったり、完成した目的物に欠陥が生じるおそれが明らかとなった場合、あるいは設計図、仕様書等に従って施工することは危険である場合等、下請工事の完全な施工に影響を及ぼす事実を発見した場合には甲にその事実を通知すべきことを規定したものである。元請負人として発注者に対して工事完成義務を負っている甲にとっては、第1項各号に掲げる事実が発見された場合には、これを知ったうえ、その対策を立てる必要があるからである。
なお、第4号の下請工事又は下請契約の履行に関係のある重大な事実とは、契約で定められた目的物の引渡時期までには物理的に工事の完成が不可能であることが明らかとなった場合等(工事現場において遺跡が発見された場合等)を指すものと考えられる。
(3) 第2項について
第2項は、乙から第1項に該当する事実の通知を受けた甲は、設計図、仕様書等の不備等の訂正、変更をすることがあることを定めたものである。なお、甲は、不都合等に対する対策に関し、どのような対策が適当かを判断するに当たっては、実
際に施工する乙の意見を聴取し、乙と協議する必要もあると思われる。しかし、旧規定本文のように、協議に応じることを乙の義務とするまでのことはないと思われる。
2 改訂部分
(1) 旧規定本文において「甲の現場監督員もしくはこれとみなされる者に書面を以て通知し」とあったが、「甲に通知し」としておけば、現場代理人に対して通知する場合も含まれ、また現場代理人が偶々不在の場合に甲の代表者に通知することができないのも不都合であるから「甲に通知し」とした。
また、「乙は、・・・書面を以て通知し、応急対策を協議しなければらない。」についても、乙からの通知に基づいて応急対策を講ずるのは発注者に対して工事完成義務を負っている元請負人の甲であり、甲が応急対策を協議する相手方は発注者であると考えられるから、乙に対して応急対策を協議する義務を負担させることは適当ではないと思われる。したがって、乙は、設計図、仕様書等に不適当があることを発見した場合には、そのことを甲に通知すれば足りると考えられるので、単に「書面を以て通知しなければならない。」とした。
なお、第2項を新設した結果、本条は乙の通知義務のみに関する規定ではなくなったので、標題は「乙の通知義務等」とした。
(2) 旧規定第1号に「設計図仕様書」とあったが、「設計図」と「仕様書」は別の文書、図書であると思われ、また工事施工に必要な文書、図書はこれらのものには限らないと思われるので「等」を加筆し、「設計図、仕様書等」とした。
(3) 旧規定第3号において「虞」とあったのを「おそれ」とひらがなにし、「およぼす」は「及ぼす」と漢字にした。
(4) 旧規定第4号に「下請工事および下請契約の履行に関係のある重大な事実」とあったが、「下請工事に関係のある重大な事実」と「下請契約の履行に関係のある重大な事実」は別個に存在し得るから、「および」は「又は」とした。
(5) 第1項に基づき乙からの通知があった場合、甲は、不適当な部分に対する是正措置を講じ、必要な対策をとる必要が生じると思われるので、旧規定にはなかった第2項を追加してその旨を定め、旧規定は第1項とした。
第15条(検査、立会)
① 甲の現場監督員は、常時乙が工事に使用する資材、労務者、仮設材料、機械器具、作業の方法、工事の状況及び工事の出来形等を監督し、検査して、不適当と認める事項の改善若しくは代替を乙に請求することができる。
② 乙は、工事材料の調合、水中又は地中の工事その他工事完了後外部からの検査が不能若しくは著しく困難となる工事の施工には甲の現場監督員又は現場監督員から立会を指示された者を立ち会わせなければならない。
③ 甲は、設計図、仕様書等に適合しない疑いのある施工箇所について、検査のために必要があるときは、乙にその理由を通知して、乙の施工した工事の出来形部分を破壊し、又は乙に破壊させて検査することができる。
④ 前項における破壊検査の結果、施工が設計図、仕様書等に適合していない場合は、破壊検査に要した費用及びその復旧に要する費用は乙の負担とし、適合している場合、又は適合していない場合であっても、その施工が第16条第3項に該当する場合は、いずれの費用も甲の負担とする。ただし、第16条第4項に該当する場合は、甲乙協議のうえその負担割合を定める。
⑤ 第3項における破壊検査の結果、施工が設計図、仕様書等に適合していた場合、又は適合していない場合であっても、その施工が第
16条第3項に該当する場合は、乙は甲に対して、破壊検査及びその復旧工事のために要した期間の範囲内で工期の延長を求めることができる。ただし、第16条第4項に該当する場合は、甲乙協議のうえ工期の延長の可否、延長する場合の期間を定める。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、甲の現場監督員による工事の状況等の検査方法、その検査の結果に対する処置及び処置に要した費用の負担者等を定めたものである。
(2) 第1項について
元請負人(甲)は、発注者に対して工事の完成について責任を有し、契約内容に従って工事を完成する義務を負っていることから、下請負人(乙)の工事の施工状況、その他一切を監督し、検査して、不適当と認められる事項の改善や代替を下請負人に請求する必要がある。この点について規定したのが第1項である。すなわち、本項において規定している内容は必ずしも工事の施工自体に関する事項に限られていないが(例えば労務者や機械器具)、これらの事項も間接的には工事の施工に影
響を及ぼすことから(労務者の能力や使用する機械器具によっても完成した工事の品質等に影響を及ぼすことがあり得る)、甲は乙に対して改善や代替を請求できることにしたものである。元請負人が下請負人に対して行うこの請求は、元請契約において工事完成義務を負っている元請負人の義務といえるが、下請契約においては下請負人に対する権限である。
(3) 第2項について
第1項において甲の現場監督員には工事の施工状況等の検査権限が認められていることから、工事の施工状況についてはいつでも検査することができるのであるが、水中、地中の工事などは完成してしまうと外部から検査することが困難になる。そこで、本項は、このような水中、地中等の工事を施工するに際しては、乙はあらかじめ甲の現場監督員や現場監督員から立会を指示された者を立ち会わせる義務を有することを規定したものである。乙がこの義務に違反して、甲の現場監督員等の立会なしに水中あるいは地中の工事を施工してしまい、甲がその後、第3項に基づき施工終了後の出来形部分を検査するために乙にその完成した部分の破壊を求めた場合は、例えその工事の施工に不備がなかったとしても、乙は施工した工事の出来形部分の破壊、復旧を自らの費用で行う必要が生じることになろう。
(4) 第3項について
甲が何らかの理由で、乙が施工した工事について設計図、仕様書等に適合しない疑いのある部分を発見したときは、甲は発注者に対して工事完成の義務を負っている以上、不備な工事の是正をする必要がある。そこで、甲は、既に乙が施工を完了した出来形部分であっても、これを破壊し、又は乙に破壊させて検査することができることを規定したのが第3項であり、いわゆる破壊検査といわれるものである。ただし、せっかく施工を完了した工事を破壊するわけであるから、破壊検査をするためにはそれなりの理由が必要であり、甲は乙に対してその理由を通知しなければならない。
なお、甲としては相当な必要性を認めて、破壊検査を行うわけであるから乙の同意は必要ないと思われる。乙の同意がないと検査できないのでは、施工箇所に実際に設計図、仕様書等に適合していないと思われる部分があっても検査のしようがないことになり、かえって不都合が生じるからである。また、乙の同意を得ないで破壊検査をしたとしても、その施工が設計図、仕様書等に適合している場合は、破壊検査及びその復旧に要する費用は甲の負担とされ、工期の延長も可能であることから、乙には不利益も生じないものと思われる。
(5) 第4項について
本項は、破壊検査の結果生じる費用の負担について規定したものである。第3項の破壊検査の結果、施工が設計図、仕様書等に適合していなければ、それは乙の契約違反(請負契約に関する債務不履行)ということになるから、乙は契約に従った履行を改めてしなければならない。従って、乙は破壊検査に要した費用及び改めて施工するための費用も含めた復旧費用を負担しなければならないことになる。
これに対して、乙による施工が設計図、仕様書等に適合していた場合は、乙は破 壊検査に要した費用や復旧のための費用を負担する理由はないから、これらの費用 は甲が負担しなければならない。また、適合していない場合であっても、その原因 が第16条第3項に規定する甲の指図に基づく施工である場合など、適合していな い原因が甲にあるときも同様に乙はいずれの費用も負担する必要はないことになる。また、本項ただし書は、第16条第4項の規定に基づき、乙が甲の指図が適当でな いことを知りながら、これを甲に通知せずに施工した場合、その他乙に故意又は重 大な過失がある場合には、乙にも下請契約所定の設計、仕様に適合しない結果を生 じさせた責任があるから、その場合は、破壊検査に要した費用及びその復旧に要す る費用の負担割合については甲乙が協議して定めることとしたものである。
(6) 第5項について
破壊検査の結果、乙による施工が設計図、仕様書等に適合していた場合、又は適合していない場合でも、その原因が第16条第3項に規定する事項に基づく場合には、破壊検査及びその復旧のために予定外の期間を要したとしても、それは乙の責任とはいえない。しかし、破壊検査等のために予定外の期間を要したことにより、予定の工期に工事が完成しないという自体も生じうる。そこで、本項は、乙は甲に対して、破壊検査及び復旧工事のために要した期間の範囲内で工期の延長を求めることができることを規定したものである。また、本項ただし書は、前項ただし書と同様に第16条第4項に該当する場合、すなわち、乙が甲の指図が適当でないことを知りながら、これを甲に通知せずに施工した場合など、乙に故意又は重大な過失がある場合には、乙にも設計、仕様に適合しない結果を生じさせた責任があるから、工期の延長についは、その可否及び延長するとした場合の期間について甲乙が協議して定めることとしたものである
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項の資材、労務者等の語句の間及び「監督し検査して」の「監督し」と「検査して」との間に「、」を加筆した。
(2) 旧規定第2項の「その命を受けた立会人」との表現が若干あいまいであったので
「現場監督員から立会を指示された者」とした。
(3) 旧規定第3項に「解発させることができる」とあったが、この「解発」とは「請負契約において、契約に適合しない疑いのある施工箇所について、注文者側が請負者の書面による同意を得て、その部分を破壊すること」とされている。しかし、この「解発」という言葉は一般に使用されることは少なく、かなり難しい表現であるため、契約当事者が必ずしもその意味を理解しているとは言えない(事務局にその意味に関する問い合わせが時々ある)。そのため、旧規定第3項は「解発」の意味に即した内容に改めることにし、改訂後の第3項のような表現にした。
また、破壊検査を行うとなると、その結果が設計図、仕様書等に適合しているかどうかにかかわらず、新たな費用と労力を要し、乙にとっては重大な利害を生ずること
になるから、破壊検査を行うにに当たってはその旨を乙に通知するものとした。
(4) 旧規定第3項はただし書において破壊検査をした場合の費用負担を規定していたが、甲乙のいずれが費用を負担するかは、場合によって異なってくるので、新たに1項を設けて第4項とした。
(5) 破壊検査及びその復旧工事のため日数を要するときは、完成までの工期が不足する場合も生じうることから、乙は甲に対して、破壊検査及びその復旧工事のために要した期間の範囲内で工期の延長を求めることができるものとし、第5項を新設した。
(6) 旧条文(第14条)の標題は(検査、立会、解発)となっていたが、解発は破壊検査にしたので、標題からも解発は除いた。また、破壊検査も検査に含まれるので、特に標題に破壊検査と掲げることはしなかった。
第16条(改善、代替、改造)
① 乙は前条第1項の請求を受けた場合は速やかに請求に応じ、乙の責任と負担において改善又は代替をする。
② 乙は工事の出来形部分が下請契約所定の設計又は仕様に適合しない場合、甲の指図に従い、乙の責任と負担において速やかに改造する。
③ 前条第1項において不適当と認められた事項若しくは前項の設計又は仕様に適合しない施工が次の各号の一に該当するものであるときは、乙は前2項の責を負わない。
(1) 甲の指図又は承認に基づく施工であるとき。
(2) 甲の支給材料、貸与品又は指定材料による施工であるとき。
(3) 甲の指定した施工方法による施工であるとき。
(4) 甲の検査又は試験に合格した工事材料による施工であるとき。
(5) その他施工について甲に重大な過失があるとき。
④ 前項の場合であっても、乙が甲の指図等につき、その適当でないことを知りながら甲に通知せずに施工したとき、その他施工について乙に故意又は重大な過失があるときは、乙はその責を免れない。
1 概要
本条は、乙が施工した工事に不備等があった場合の処置に関して定めたものである。
(1) 第1項について
第1項は、第15条第1項に基づき甲から改善や代替を請求された場合、乙は速やかにこれに応じるべきことを規定したものである。同項の規定がなくても乙が甲の請求に応ずべきことは当然であるが、念のため規定したものである。
(2) 第2項について
第15条第1項における甲の乙に対する改善、代替の請求は、必ずしも乙による工事の施工そのものに関する事項に限られないが、本項は、工事の出来形部分に関する契約内容との不適合について、乙に改造の義務があることを明らかにしたものである。乙が施工した出来形が下請契約所定の設計又は仕様に適合しない場合は、乙の債務不履行ということになるから、乙にその改造義務を認めたものである。
(3) 第3項について
本項は、乙が施工した出来形に下請契約所定の設計又は仕様に適合しない部分があったとしても、その原因が甲にあるときは、乙は、改善、代替、改造の義務を負わないことを規定したものである。
(4) 第4項について
第3項において、乙が施工した出来形に下請契約所定の設計又は仕様に適合しな
い部分があり、その原因が甲の指図等にあったとしても、乙が、甲による指図等が不適当であることを知りながらそれを甲に通知せずに施工した場合、その他乙に故意又は重大な過失があり、その結果、設計又は仕様との不適合が生じた場合などには乙にも責任がある。本条は、そのような場合には乙に免責を認めないことにしたものである。
ただし、設計又は仕様との不適合が甲の指図に基づく施工が原因であるとともに、乙にも重大な過失がある場合は、乙の責任は免れないのであるが、その場合は甲乙いずれにも責任があることから、改善、代替、改造に要する費用についてはその責任の程度に応じて甲乙間で分担することになる。
2 改訂部分
(1) 標題について、旧規定では「改造、代替」とされていたが、改善に関しても規定されていることから、これを加えるとともに、条項に規定されている順に「改善、代替、改造」とした。
(2) 前条との関係を考慮し(旧規定第2項において「乙は前条第1項の請求を受けたときとあるため)、旧規定第2項は第1項とし、旧規定第1項は第2項とした。
(3) 旧規定第1項において「乙の責任と計算において」とあるのを「乙の責任と負担において」とした。また、「設計仕様」とあったのは、「設計」と「仕様」は別個のものと考えられるので、「設計又は仕様」とし(第3項も同様)、「甲の現場監督員の指図」は「甲の指図」とした。「甲の指図」とすれば甲の現場監督員の指図も含まれ、また甲の指図を現場監督員の指図に限定する必要はないからである(旧規定第3項第1号、第4号、第5号及び第4項についても同様の趣旨、理由から「現場監督員」は削除した)。
(4) 旧規定第2項の「すみやかに請求に応じ改善または代替をする。」は「速やかに請求に応じ、改善又は代替をする。」とした。
(5) 旧規定第3項本文に「契約に適合しない施工」とあったのは「前条第1項において不適当と認められた事項若しくは前項の設計又は仕様に適合しない施工」とした。旧規定第3項は、旧規定第1項及び第2項を受けて「乙は前2項の責を負わない」と規定されているものであるから、その点を明確にするため、「前条第1項において不適当と認められた事項」及び旧規定第1項で明示している「設計仕様」(新規定における「設計又は仕様」)を加筆したものである。なお、乙が前2項の責任を負わないといっても、改善、代替等をする必要がないということではなく、その費用を乙が負担する必要がないという意味である。そうしないと、工事が進まないか、あるいは設計又は仕様に適合しない工事を放置したまま工事を進めなければならないからである。
(6) 旧規定第3項第2号において「支給材料貸与品指定材料」とあるのは読みにくく、また、これら全部を使用した施工でなければ乙が責任を免れないような表現であるため、「支給材料、貸与品又は指定材料」として「、」及び「又は」を加筆した。
(7) 旧規定第3項第5号において「重大な責任」とあるが、「責任」では抽象的に過
ぎ、それが何を指すか必ずしも明確ではないので「重大な過失」とした。
(8) 旧規定第4項において「乙がその適当でないことを知りながら甲(または甲の現場監督員)に通知せずに施工したとき」とあったが、何が適当でないのか明らかでなく、また、その内容は、結局乙に故意又は重大な過失があるときの一場合に含まれると考えられるので、新規定第4項のように修正した。
第17条(工事の変更、中止)
① 甲は乙に対し、発注者の都合や元請工事の変更等により下請工事及びその工期の変更、着工の延期若しくは下請工事の全部又は一部の中止を請求することができる。ただし、乙が下請工事を完成したときはこの限りではない。
② 前項において工期を変更する場合、甲は乙と協議のうえ、合理的な範囲で新たな工期を定めなければならない。
③ 第1項における下請工事の変更等により請負代金額を変更する場合、変更後の額及びその算定方法は、甲乙協議のうえ、公平の理念に即してこれを定める。下請工事の変更等により乙に損害が発生する場合も同様とする。
④ 乙は甲に対し、この約款及び契約書に別段の定めのある場合の 他、正当な理由のあるときは、その理由を明らかにして、工期の延長を請求することができる。
⑤ 前項の請求があった場合、甲は、工期の延長の可否及び延長する期間につき乙と協議し、乙の請求に正当な理由があると認められる場合は、合理的な範囲で工期を延長するものとする。
1 概要
(1) 本条の趣旨
契約は当事者の合意によって成立し、一旦成立した以上、契約当事者はその内容に従って履行しなければならない。しかし、建設工事においては、完成した物品の販売とは異なり、設計図面や完成予想図をみて発注するという性格上、施工中に追加、変更が発生することは避けられない面がある。そして、いくら契約が成立しているからといっても、発注者の意図が変わってしまった場合にまで、元の契約内容のまま完成してみても意味がないことになる。そのため、請負契約成立後であっても、必要に応じて工事の追加、変更をなし得ることを認め、その場合の損害の処理などについて規定したのが本条である。
(2) 第1項について
発注者の都合で元請工事に追加、変更等が生じた場合は、下請工事もそれに応じて追加、変更等をすることになり、また、発注者が工事を中止せざるを得なくなった場合は、下請工事も中止せざるを得ないことになる。そのため、甲は乙に対し、このような発注者の都合により元請工事が変更された場合や発注者の都合ではないが、甲が元請工事の施工方法を変更した場合等には、甲は乙に対し、工事内容の変更や工期の変更、下請工事の中止等を求め得るとしたのが本項である。ただし、乙がすでに下請工事を完成している場合は、改めて変更された内容に従って工事をやり直させることは適当ではないので、工事の変更等を求めることはできないとした
ものである。
なお、工期の変更については、乙が甲から当初の定められた期日よりも早い時期の完成を求められ、乙がこれを承諾した場合は、乙は新たに定められた期日までに完成する義務を負うが、変更された工期までに完成することが不可能あるいは困難な場合は、乙は甲からの工期短縮の要求に応じなくても債務不履行になることはない。
(3) 第2項について
本条は、甲は乙に対して工期の変更を請求することができるが、変更に当たっては乙と協議をして、乙が工事を施工するうえで無理のない客観的で合理的な範囲の期間とすべきことを定めたものである。
(4) 第3項について
第1項において、下請工事の変更、中止により請負代金が減少又は増加することが生じるが、その場合甲は乙に対して一方的に減額又は増額を求めることなく(増額する場合でも、甲の提示した額が本来増額すべき額より低い場合もあり得るので、やはり乙との協議が必要となる)、乙と協議のうえ適正な額を決める必要がある。さらに、工事の中止により乙に損害が生じることもあるが、その場合も甲は乙と協議のうえ、乙に対して合理的な額の賠償をする必要がある。ただし、発注者の都合により工事が中止になったような場合には、甲にも損害が生じることになるが、甲は一方的に乙に損害を押しつけるようなことがあってはならず、その損害の負担は協議のうえ公平に分担すべきであり、発注者も含めて協議をし、公平、妥当な解決を図るよう努力すべきである。本項はこれらの点について規定したものである。
(5) 第4項について
本項は、正当な理由がある場合、乙は甲に対して工期の延長を請求することができることを規定したものである。本約款にも、乙が甲に対して工期の延長を求めることができる規定が個別に存在するが(第15条第5項等)、建設工事においては予期しない事情により工期が遅れることもあるため、本項は、個別の規定に基づかなくても、正当な理由があれば工期の延長を求めることを可能にするために設けられたものである。
(6) 第5項について
前項により、甲が乙から工期の延長を求められた場合、甲は乙と協議し、工期延長の請求に正当な理由がある場合は(客観的あるいは物理的に予定の工期までに工事を完成することが不可能な場合等)、合理的な範囲で工期の延長をすべきことを定めたものである。本改訂において新設した規定である。
2 改訂部分
(1) 第1項において「甲は」を冒頭に記載し、請求の相手方である乙を明示した。また、「工期の変更着工の延期」とあるのを「工期の変更、着工の延期」とし、「ただし乙が下請工事」とあるのを「ただし、乙が下請工事」として、いずれも「、」を加
えた。
(2) 旧規定第2項はその趣旨がわかりにくい部分があったので、2項(第2項と第3項)に分けることとし、第2項において工期の変更に関して規定し、第3項において請負代金額を変更する場合及び乙に損害が生じた場合につき、変更後の請負代金額及び乙の損害額並びにそれらの算定方法に関して規定することにした。
また、旧規定第2項の「法律の規定及び条理に従って」については、「法律の規定」とは何かが必ずしも明確でないことからこれを削除し、また「条理」という語も必ずしも明確ではないことから、「公平の理念に即して」と訂正することにした。また、
「決定する」は「定める」とした。
(3) 第4項、第5項も新設規定である。
第18条(請負代金額の変更)
① 契約期間内において、請負代金算定の基礎となった賃金、物価等に著しい変動が生じ、請負代金額が明らかに不適当と認められるに至ったときは、甲又は乙は相手方に対して請負代金額の変更を求めることができる。
② 前項における請負代金額の変更は甲乙が協議してこれを決定する。ただし、前項の理由により元請工事の代金が変更された場合には、 これを参酌して決定する。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、経済情勢に著しい変動があり、当初合意した請負代金の額が不適当であることが明らかになった場合、当事者の一方は相手方にその変更を求めることができることを規定したものである。
建設工事においては、工事内容の追加、変更が避けられない面があることから請負代金額についても工事内容の追加、変更に伴い変更されることがある。これに対して本条は、工事内容自体には追加、変更がなくても請負代金の変更を求められる場合を定めたものである。
(2) 第1項について
請負代金額についても契約で一旦定められた以上、これを一方当事者の都合で変更することはできない(ただし、相手方の同意があれば変更できる)。しかし、経済情勢に著しい変動が生じるなどして、当初の契約どおりの請負代金額を維持することは却って公平の理念に反し、不合理、不適当な場合も生じ得る。そこで、そのような場合には、契約当事者の一方が相手方に対して合理的な範囲での請負代金額の変更を求めることができるとしたのが本項である。
(3) 第2項について
前項により甲又は乙が相手方に請負代金額の変更を求めたとしても、それだけでその希望する金額に変更されるわけではなく、双方が変更の必要性やその変更すべき額等を協議して新たな請負代金額を決めなければならない。また、第1項と同様の理由により元請工事に関する請負代金額に変更があった場合には、その変更された金額を考慮しながら下請契約における変更後の請負代金額を決定するものとされている(ただし書)。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項には「物価統制令第2条に定める価格等」とあり、建設業法第19条第1項第7号にも請負代金額等の変更の原因となるものとして物価統制令第2条の価格等の変動を規定しているが、この物価統制令は終戦後の経済情勢の激変に対処し、
国民生活の安定をはかるため昭和21年に制定されたものであり、一般的になじみが薄く、このような法令を掲げる必要も必ずしもないことから新たな規定とした。
また、「請負代金」は「請負代金額」とし(第2項も同様)、「至ったときにかぎり」は「至ったときは」とした。
(2) 旧規定第2項は、第1項の請負代金額の変更は元請工事の代金の変更が前提となっているような規定となっていたが、元請工事の代金の変更がない場合でも、下請契約における請負代金の変更がないとは限らないので、そのような趣旨に訂正した。
第19条(危険負担)
① 工事の完成又は引渡しまでに、工事目的物、工事材料・建築設備の機器、支給材料又は貸与品について生じた損害その他工事の施工に関して生じた損害(この契約において別に定める損害を除く)は乙の負担とする。ただし、その損害のうち甲の責に帰すべき事由により生じたものについては、甲がこれを負担する。
② 天災その他不可抗力によって、完成又は引渡し前の下請工事並びに甲が確認した工事の出来形部分、現場の工事仮設物、現場搬入済みの工事材料又は建設機械・器具に損害を生じたときは、その取片付けに要する費用を含めて、その負担額を甲乙協議して定める。ただし、乙が善良な管理者の注意を怠ったことに基づき発生した損害は乙の負担とする。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、工事の完成又は引渡し前に、工事目的物、工事の出来形部分、工事材料等に滅失、毀損等の損害が生じた場合、その負担を甲乙いずれが負担するかを定めたものであり、いわゆる民法上の危険負担に関して定めたものである。
工事の完成前又は工事目的物の引渡し前に、工事目的物が滅失、毀損することにより、工事の完成又は工事目的物の引渡しが不可能(履行不能)になった場合は、民法においては債務者主義が適用される結果(民法第536条第1項)、請負契約において工事完成、引渡し義務を負っている請負人(債務者)は、以後の工事を施工する義務を免れはするが、請負代金の支払(反対給付)を受ける権利を失い、それまでの施工に要した費用も自ら負担しなければならないことになる(既に受け取った請負代金がある場合は発注者に返還しなければならない)。
なお、民法における危険負担の規定は、履行不能を前提として規定しているが(第
536条第1項)、実際には履行不能に至るほどの損害が発生することは少なく(崖の上の土地上に建築中の建物につき、地震により崖が崩れ落ち、建物を建築すべき土地自体が失われたような場合は履行不能となろう)、再築、補修費用の負担により目的物を完成することが可能な場合が多いと思われる。そして、再築、補修により工事の完成が可能な場合は、その再築、補修に要する費用についても、債務者主義が適用される場合は、請負人がこれを負担して工事を続行し、目的物を完成しなければならないことになる。
(2) 第1項について
第1項は、第2項に定める不可抗力による場合を除き、工事の完成又は工事目的物の引渡し前に工事目的物、工事材料・建築設備の機器等について損害が生じた場合、その損害は乙が負担することを定めたものである。そして、発生した損害が乙
の責めに帰すべき事由により生じた場合は、その損害は当然乙の負担となるから、 本項の意義は、甲乙いずれの責に帰すべき事由にも基づかないで発生した損害について、これを乙が負担するところにある(この点が本来の危険負担の問題である)。すなわち、工事完成前に乙の責に帰すべき事由に基づくことなく工事目的物が滅
失、毀損したとしても、履行不能とならない限り、乙は工事の完成義務を免れるわけではなく、乙は、滅失、毀損した部分を再築、補修するなどして工事を完成する義務を負い、履行不能となった場合は、乙は請負代金の支払いを受ける権利を失うことになる。
ただし、その滅失、毀損のうち甲の責に帰すべき事由により生じたものがある場合は、その部分についての損害は甲が負担するものとされている。したがって、その場合は、乙は甲に対し、再築、補修に要した費用につき、請負代金の増額等の方法によってその損害の負担を請求し得ることになる。また、再築、補修のために予定の期日までに工事を完成できない場合は、工期の延長を求めることもできることになる。
(2) 第2項について
第2項は、不可抗力によって発生した損害についてその負担者を定めたものである。すなわち、工事の完成又は引渡し前に天災その他不可抗力によって工事の出来形部分、工事仮設物等に損害を生じた場合、乙が善良な管理者の注意を怠ったことに基づき発生した損害を除き、その損害の負担額について甲乙が協議して定めることを規定したものである。
不可抗力により発生した損害についても、債務者主義の下では、その損害は乙が負担することになるが、債務者主義を厳格に貫くと債務者(乙)に酷なことが多くなる。そのため、請負契約においては通常、任意規定(当事者の合意で適用を排除、修正することができる規定)である民法の債務者主義に関する規定を修正し、債務者の負担を軽減する規定を設けている。本項も債務者主義を修正し、不可抗力によって生じた損害については、乙がこれを全部負担することなく、その取片付けに要する費用も含めて甲乙が協議して負担額を決めるものとしている。ただし、乙が善良な管理者の注意を怠ったことに基づいて発生した損害については、乙に損害発生の原因があることから乙の負担としたものである。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項にあった「工事目的の引き渡し前に」は「工事の完成又は引渡しまでに」とした。なお、「工事の完成」を加えたのは、請負契約においては、通常は工事を完成したうえ、その目的物を注文者に引き渡すことまでが請負人の債務となることが多いが、工事を完成することが債務の履行とされ、引き渡しを要しない場合もあるところ(民法第633条参照)、そのような場合に本条が適用されるとすれば、工事の完成前に工事目的物等に損害が生じた場合ということになるからである。
また、「支給材料」、「貸与品」を加え、「・・・別に定める損害を除く)は、
乙の負担とする」とあったのは「、」を除き、「甲の責に帰すべき理由」とあったのは、一般的に使用される「甲の責に帰すべき事由」とした。
(2) 旧規定第2項に「作業所長の確認した」とあったが、他の規定におけると同様、
「甲が確認した」としておけば、作業所長、あるいは現場監督員も含めた甲側の権限ある者が確認した意味となるから、本項においても「甲が確認した」とした。
また、「もとづく部分」については、乙が怠ったことと損害との因果関係を明確にするため「基づき発生した損害」とし(「もとづき」は「基づき」とした)、「費用と共に」とあるのを「費用を含めて」とした。
第20条(第三者の損害)
① 下請工事の施工のため第三者(他の下請工事の請負人等を含む)に与えた損害は乙が賠償するとともに、下請工事の施工につき生じた第三者との紛争は乙が処理し、解決する。ただし、第三者に生じた損害が不可抗力による場合には、甲、乙及び発注者の協議により処理し、解決する。
② 乙は労働基準法第87条第1項による甲の災害補償の責任を引き受けるものとし、甲が負担した補償がある場合はこれを直ちに甲に支払う。
③ 元請契約において、施工のため第三者に与えた損害は発注者が負担することを定めているときは、発注者が負担する限度において、乙はその損害を賠償する責を免れる。
④ 第三者に与えた損害につき甲又は発注者にも賠償責任があるときは、その損害は賠償責任を有する者による協議を以て分担する。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、下請工事の施工に際し、第三者に損害を与えた場合の損害の負担者、紛争解決の当事者等について規定したものである。
(2) 第1項について
イ 下請工事の施工に際し、第三者に損害を与えた場合には、その損害を賠償するのは原則として乙であり、第三者と紛争が生じた場合にそれを処理解決するのも原則として乙であることを規定したものである。実際に下請工事を施工しているのは乙であり、その施工により第三者に損害が発生した以上は、その損害の賠償も乙によって行われるべきだからである。民法第716条本文は「注文者は請負人がその仕事につき第三者に加えた損害を賠償する責に任ぜず」と規定してこの点を明らかにしている。ただし、設計図や仕様書の不備や欠陥により第三者に損害を与えた場合は、乙に責任がない場合もあるので、そのような場合は第4項により甲又は発注者と協議して責任の所在を明らかにすることになる。この点につき、民法第716条ただし書は「但し、注文又は指図につき注文者に過失ありたるときはこの限りにあらず」とし、注文者に過失があるときは請負人が責任を負わないことを規定している。
また、第三者との間で紛争が生じた場合についても、実際に工事を施工しているのが乙であり、その紛争の原因、第三者の主張等については乙が最も良く知る立場にあることから、第1次的に乙が紛争の処理解決に当たることとしたものである。
ロ これに対して、第三者に生じた損害が不可抗力による場合は、甲、乙及び発注者の協議により解決されることになる。ここに不可抗力による場合というのは、建築中の建物が地震により倒壊して隣家を毀損したような場合が当たると思われるが、そ
のような場合に限らず、騒音、振動、地盤沈下、地下水の枯渇等、技術的に回避できない理由による損害も含まれると思われる。このように技術的に回避不可能な損害についてまで、下請負人がこれを負担するのは、下請負人にとって過度の負担となり、結局は下請代金の増額という形で元請負人、さらに発注者へと負担が転嫁されていくことになり、したがって、このような回避不可能な損害については本来は発注者が負担するのが妥当ということになる。しかし、本約款は、元請負人と下請負人間の契約内容を定めるものであり、契約当事者ではない発注者にこのような損害を負担する義務を課す規定を設けるわけにはいかないことから、甲(元請負人)、乙(下請負人)及び発注者の協議により処理解決するとしたものである。したがって、甲としては、騒音、振動、地盤沈下、地下水の枯渇等、技術的に回避できない理由による損害が発生した場合は、これを乙のみに負担させることはできず、発注者も含めて協議する義務を負っていることになる。ただし、民間(旧四会)連合協定約款においては、発注者と元請負人間の請負契約において、このような回避不可能な損害については発注者が負担することが定められているようである。
(3) 第2項について
労働基準法第87条第1項は厚生労働省令で定める事業(建設事業 労働基準法施行規則第48条の2)が数次の請負によって行われる場合には、原則として元請負人を使用者、すなわち災害補償義務者とみなす旨規定している。建設業においては、元請工事の一部を下請負人に請け負わせることが一般的に行われているが、その場合でも、元請負人と下請負人とは請負契約を締結しているに過ぎないのであるから、下請負人が使用する労働者は下請負人との間においてのみ雇用関係があることになる。しかしながら、実質的には元請負人が工事の指揮監督を行うのが通常であるため、労働者保護の見地から、災害補償においては、補償能力が備わっていると見られる元請負人を使用者とみなして下請負人が雇用する労働者に対しても災害補償の義務を負わせることにしたものである。
ただし、元請負人が書面による契約で下請負人に補償を引き受けさせた場合には、その下請負人も使用者とされることになっている(労働基準法第87条第2項)。そこで、本項は、この規定に基づき、乙は甲の災害補償の責任を引き受けることを定めるとともに、甲が既に下請負人が使用する労働者に対して補償をしている場合は(具体的には療養費の負担、休業補償等)、その補償した金額(労働者に支払った金額)を直ちに甲に支払うことにしたものである。
(3) 第3項について
第1項の解説でも言及したように、発注者と元請負人間の請負契約において、騒音、振動、地盤沈下、地下水の枯渇等、技術的に回避不可能な理由による損害が発生した場合、そのような損害は発注者が負担することが定められていることが多い。本項は、技術的に回避不可能な理由により損害が発生した場合等を含め、元請契約において第三者に与えた損害は発注者が負担することを定めている場合には、乙は、第三者に対する損害の賠償を免れることを定めたものである。ただし、元請契約に
おいて、発注者が負担する損害の限度が定められているような場合には、乙が賠償を免れるのはその限度ということになり、限度を超えた損害については、第1項に基づき、原則として乙が負担し、又は不可抗力により生じた損害については、甲、乙及び発注者間で協議して処理解決することになる。
(4) 第4項について
本項は、工事の施工のため第三者に生じた損害の原因が甲又は発注者にもある場合は、乙のみではなく、甲又は発注者にも賠償責任があることから、これら賠償責任を有する者による協議によってその損害賠償責任を分担すべきことを規定したものである。例えば、第1項の解説において触れたように、民法第716条本文は「注文者は請負人がその仕事につき第三者に加えた損害を賠償する責に任ぜず」と規定する一方、そのただし書において「但し、注文又は指図につき注文者に過失ありたるときはこの限りにあらず」と規定しており、注文又は指図について発注者に過失があるときは、請負人は責任を負わないものとされている。したがって、下請工事においても、発注者又は元請負人(下請契約においては発注者となる)による注文又は指図について、発注者又は元請負人に過失があるときは、下請負人は責任を負わないことになる。ただし、発注者又は元請負人に注文又は指図について過失があるが、下請負人にもその注文又は指図が不適当であることを知りながら、これを通知しなかったというような事情がある場合には、下請負人にも賠償責任が生じることがあるから、本項においては、賠償責任を有する者による協議により、それぞれの責任の割合に応じて分担することを定めたものである。
なお、注文の過失とは、注文内容、注文条件に損害発生と相当因果関係のある原因が含まれていることをいい(例えば、通常では完了が困難な工期を設定して工事を急がせたりしたような場合)、指図の過失とは、請負人がその指図に従った工事を施工した場合、損害が発生することを発注者において容易に予見できたにもかかわらず、これを予見せず、あるいは予見したにもかかわらずその指図をしたような場合である。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項の「損害は乙が賠償し、下請工事の施工につき」とあるのは、やや読みにくいので「損害は乙が賠償するとともに、下請工事の施工につき」とし、第三者の範囲には当該工事の関係者も含むことを示すため( )内の記載を設けた。
また、第三者に与えた損害はすべて乙の負担とするのは乙の負担が加重となるので、ただし書を設け、不可抗力による損害については、甲、乙及び発注者の協議により処理解決するものとした。
(2) 旧規定第2項は「災害補償の責任を引き受けて履行し、甲が負担した補償を直ちに弁償する。」とされていたが、やや読みずらいので、「災害補償の責任を引き受けるものとし、甲が負担した補償がある場合はこれを直ちに甲に支払う」とした。
(3) 旧規定第3項は、元請契約において、第三者に与えた損害を発注者が負担するこ
とを定めている場合は、その限度において、その損害を甲が負担する旨規定していたが、その意味は必ずしも明確ではない。おそらく、第1項において、第三者に与えた損害を賠償する責任は原則として乙にあるが、元請契約において発注者が負担することになっている損害については、甲と乙との関係では甲が負担するとする趣旨かと思われる。そうだとすれば、甲と乙との関係を規定する本約款においては、発注者と甲との関係を規定する条項が唐突に設けられるの不自然であるから、端的に、発注者が負担することになる第三者の損害については乙は賠償責任を免れると規定した方がわかりやすいと思われるので、そのような趣旨に改訂した。
(4) 旧規定第4項において「甲または発注者にも責任があるときは」と規定されていたが、責任の内容を明確にするため「甲又は発注者にも賠償責任があるときは」とした。また、「責任者間の協議」というのはやや不明確なので「賠償責任を有する者による協議」とした。
第21条(請負代金内訳書、工程表等)
① 乙は、甲の請求があるときは、下請工事の請負代金内訳書、工程表及び作業方法明細書を提出する。
② 請負代金内訳書、工程表及び作業方法明細書には下請契約の締結にあたり甲乙間で合意された事項及び乙が甲から承認を得た事項を具体的、かつ詳細に記載しなければならない。
③ 乙は、甲の承認を受けた工程及び作業方法に従って下請工事を施工する。
1 概要
(1) 請負代金内訳書、工程表及び作業方法明細書は、それ自体請負契約の内容となるものではないが、工事の進捗状況やそれを金額的に評価するうえで、甲にとっては重要な資料となることから、本条は、乙は甲から請求があった場合はこれらを提出しなければならないこと、また、乙は甲の承認を受けた工程及び作業方法に従って下請工事を施工しなければならないことを定めたものである。
請負代金内訳書とは、請負代金の内訳を記載した書類であり、工程表とは、下請工事の施工に関し、部分工事ごとに作業量、日程等を表示したものである。また、作業方法明細書とは、各工事に関し具体的な作業の方法、段取り等を明らかにしたものである。
(2) 第1項は、甲から請負代金内訳書、工程表及び作業方法明細書の提出を請求された場合(ただし、その一部の提出を求められた場合は、求められたものだけでよい)、乙はこれに応じなければならないこと定め、第2項は、これらの書類を作成するに当たっては、下請契約の内容となっている事項あるいは乙が甲から承認を得た事項を具体的、かつ詳細に記載する必要があることを規定したものである。
下請契約の内容となっている事項や乙が甲から承認を得た事項については、乙はそれに従って工事を施工することになるのであるから、これらの書類に記載することにより改めて確認することになり、約定に従った工事の施工に資することになるため、このような規定が設けられたものである。
また、第3項は、工程及び作業方法につき、それが甲の承認したものである場合は、甲はその承認した内容に従って施工されるものと期待することになるから、当然のことを規定したものといえる。
2 改訂部分
(1) 請負人が請負代金明細書、工程表を作成することは一般的とされており、むしろ作成すべきとされているようである。そのため、本条は、請負代金内訳書、工程表及び作業方法明細書の提出に主眼がおかれており、旧第1項は、これらの書類に記載された内容のとおりに施工するという当然のことを定めているに過ぎないと考えられる
ので、項の位置を入れ替えて、旧規定第1項は第3項とし、旧規定第2項、同第3項は繰り上げて、それぞれ第1項、第2項とした。また、表題も「請負代金内訳書、工程表等」とした。
(2) 旧規定第1項(改訂後第3項)に「甲に約束し甲の承認を受けた」とあったが、甲の承認を受けることにより、甲乙間で合意が成立(約束)したことになるから端的に「甲の承認を受けた」とした。
(3) 旧規定第3項(改訂後第2項)にも「乙が甲に約束し」とあり、これについても同様であるが、同項の場合は、下請契約の内容となっていない事項で甲の承認を得た事項も含まれる場合があると考えられることから「下請契約の締結に当たり甲乙間で合意された事項及び乙が甲から承認を得た事項」とした。
また、「具体的詳細に」とあるのを「具体的、かつ詳細に」とした。
(4) 旧規定の「請負代金内訳書・工程表及び作業方法明細書」の表記については「請負代金内訳書、工程表及び作業方法明細書」とした。
第22条(工事材料、工事用機器)
① 乙は、甲の検査に合格した工事材料及び工事用機械・器具を使用して下請工事を施工する。この場合、仕様書その他に試験する旨を定めてあるときはその試験に合格したものを使用する。
② 甲が乙に工事材料を提供し、又は工事用機械・器具を貸与するときは、その内容及び方法等に関する約定を明らかにした約定書2通を作成し、甲乙が署名又は記名押印して各1通を相互に交付する。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、乙が下請工事を施工するに当たっては、甲の検査に合格した工事材料、工事用機械器具を使用すべきこと、また、これらの工事材料、工事用機械器具を甲が乙に貸与する場合は、その内容、方法等に関し約定書を作成し、相互に交付すべきことを定めたものである。
(2) 第1項について
工事材料、工事用機械器具は、乙がその裁量で選択して使用することができるが、これら工事材料、工事用機械器具は、工事の目的物の品質、性能に重大な影響を及ぼすことから、甲にとって(ひいては発注者にとって)は、その選択を慎重に行うことになる。そのため、本項は、乙が工事材料等を選択するに当たっては、予め甲の検査に合格した物を使用することを義務づけたものであり、また、仕様書その他に試験をすることが定めてある場合は、乙はこの試験に合格したものを使用しなければならない。
(3) 第2項について
第2項は、建設業法第19条第1項7の3に定めている事項を念のため規定したものである。乙としては、支給あるいは貸与される工事材料、工事用機械器具について、その性能、仕様等が明らかにされ、その引渡し時期等が予め定められていれば、工事の予定を立てるのに便宜であることから、本項においてもその旨定めたものである。
2 改訂部分
条文見出し、旧規定第1項及び第2項に「工事用資材」とあったが、第9条第2項、第19条第1項、第29条第1項等と統一した用語にするため「工事材料」とした。
第23条(特許権等の使用)
乙は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権その他日本国又は外国の法令に基づき保護される第三者の権利(以下「特許権等」という)の対象となっている工事材料・建築設備の機器、施工方法等を使用するときは、その使用に関する一切の責任を負わなければならない。ただし、甲がその工事材料・建築設備の機器、施工方法等を指定した場合において、かつ、乙がその特許権等の存在を知らなかったときは、甲は、乙がその使用に関して要した費用を負担しなければならない。
1 概要
本約款第3条は、請負者独立の原則を謳い、乙は独立した事業者として第三者に対しても責任を負う旨規定しているが、そのことは、第三者の特許権等を侵害した場合も乙が損害賠償等責任を負うことを意味する。本条はそのことを明らかにしたものであり、乙が第三者の特許権等の対象となっている工事材料・建築設備の機器、施工方法等を使用する場合、その使用に関する責任は乙が負うことになる。
ただし、甲がその工事材料・建築設備の機器、施工方法等を指定したが、それが第三者の特許権等の対象になっており、乙がそのことを知らなかった場合は、乙は甲の指定に従わざるを得ないのであるから、このような場合にまで乙の責任とすることは不合理である。したがって、このような場合は、乙が第三者に対して負担した損害賠償や特許権等の実施料は甲が負担しなければならないことになり、本条ただし書はそのことを規定したものである。
2 改訂部分
本条は今回の改訂における新設条文である。
第24条(完成検査)
① 乙は工事を完成したときは、遅滞なく甲に工事完成の確認を受けるため完成検査を請求する。工事の一部を完成したときにその完成検査を受ける約定であるときも同様とする。
② 甲は遅滞なく完成検査を行い、遅くとも請求を受けた日から20日以内に検査を終了しなければならない。
③ 前項の完成検査の結果、工事に補修、改造等を要するときは、乙は直ちにその補修、改造等を完了のうえ、甲に再検査を請求し、甲は速やかに検査を終了する。
④ 工事が完成検査に合格したときは、乙は甲にその証明書の発行を求めることができる。
1 概要
(1) 本条の趣旨
乙は下請工事を完成してこれを甲に引き渡す義務があるが、引き渡すべき工事の目的物は仕様書、設計図書等に適合したものでなければならず、これらに適合していなければ、未だ工事を完成したものとはいえず、甲はこのような工事の目的物については、その受領を拒否することができる。そのため、乙は完成した工事の目的物について甲の検査を受けなければならず、甲の検査に合格して始めて工事が完成したということができ、甲に引き渡すことができることになる。本条は、この甲による完成検査について規定したものである。
(2) 第1項について
乙は工事を完成したときは、甲に対してその検査を請求することができ、工事の一部を完成したときも、その完成検査を受けることが約定されている場合は同様である。また、工事の完成は、甲にとって重要なことであるから、乙は工事が完成した以上、それを放置せずに、遅滞なく甲に対して完成検査を求めなければならない。
(3) 第2項について
甲は、乙から完成検査を請求されたときは遅滞なく完成検査を行わなければなら ず、その完成検査も乙から請求された日から20日以内に終了しなければならない。この規定は、建設業法第24条の4が、元請負人は、下請負人から工事が完成し
た旨の通知を受けたときは、その通知を受けた日から20日以内で、かつ、できる限り短い期間内で検査を完了しなければならないとの規定に基づき定められたものである。その趣旨は、下請負人が工事を完成したにもかかわらず、元請負人がいつまでもその完成を確認するための検査を行わず、したがって、完成した工事目的物の引渡しも受けないときは、下請負人は下請代金の支払を受けることができない。また、下請負人は工事目的物の保管を継続しなければならないことから、その間に
工事目的物が滅失、毀損した場合にその責任を負担することにもなりかねず(危険負担の問題 第19条参照)、下請負人は不測の損害を被るおそれがあるため、このような下請負人の不利な立場を救済しようとすることにある。
(4) 第3項について
甲による完成検査の結果、不備が発見され、補修、改造等を要するときは、乙は直ちにその補修、改造等を行わなければならず、補修、改造等が完了した場合は改めて甲の検査を受けなければならない。また、再検査にも合格しなかった場合は、さらに補修、改造等を要し、甲の検査を受けなければならない。そして、乙はいずれの場合も、下請契約で定められた期間内に補修、改造等を終了したうえ、契約で定められた期日までに工事目的物を甲に引き渡さなければならず、引渡しが期日に遅れた場合は乙に債務不履行責任が発生する。
(5) 第4項について
甲による完成検査の結果、不備がなく検査に合格した場合は、乙は工事の完成義務についてはこれを履行したことになるから、その証拠として甲に対し、検査に合格した旨の証明書の発行を請求でき、甲はこれに応じなければならない。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項の「完成したとき」に「は」を加筆して「完成したときは」とし、
「であるときもまた同じ」は「であるときも同様とする」とした。
(2) 旧規定第3項における「補修改造」は「、」を加筆して「補修、改造」とし、これを追完する工事を完了の上」は「その補修、改造等を完了のうえ」とした。また、
「再検査を求め、甲はできるだけ早く検査を終了させる。」は「甲に再検査を請求し、甲は速やかに検査を終了する。」とした。
(3) 旧規定第4項の「証明書を求める」とは証明書の「発行」を求める趣旨であるから「発行」を加筆した。
第25条(引渡し)
① 乙は、工事が前条の完成検査に合格したときは、速やかに工事の目的物を甲に引き渡すものとし、甲は乙から工事の目的物引渡しの申し出があった場合、直ちにその引渡しを受けるものとする。
② 前項において、下請契約に定められた工事完成の日から20日以内の一定の日を引渡期日とする定めがあるときは、甲はその引渡期日に引渡しを受けることができる。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、工事の目的物が甲の完成検査に合格したときは、乙は速やかにこれを甲に引き渡すべきこと及び甲は乙から工事目的物の引渡しの申し出があった場合は、直ちにその引き渡しを受けるべきことを規定したものである。なお、本条は、工事目的物について引渡しを要する場合の規定である(請負契約においては、工事の完成が債務の履行となり、引渡しを要しない場合もある)。
(2) 第1項について
下請工事について完成検査が行われ、それに合格した以上は、乙は工事の目的物を保管する理由はなく、発注者にとっても目的物が完成した以上、早急にこれを利用することが利益となるから、検査に合格した場合、乙は速やかに工事目的物を甲に引き渡さなければならない。また、乙にとっては、通常、工事の目的物を引き渡すことにより下請代金(残金)の支払を受けることができ、危険負担も免れることになるから、甲は、乙から工事の目的物を引き渡す旨の申し出があった場合は、直ちに引き渡しを受けなければならない。建設業法第24条の4第2項本文もこの点につき規定している。
なお、下請工事の一部について、それが完成した場合は完成検査を受ける旨の約定があるときは(本約款第24条第1項後段参照)、当該一部についても本項の対象となる。
(3) 第2項について
第1項に従うと、下請工事の完成検査が終了した場合は常に甲は直ちに工事の目的物の引渡しを受けなければならないのであるが、予定の期日よりも大幅に早く工事が完了したような場合、甲にとって引渡しを受けることが不都合な場合も生じる。また、下請契約において工事目的物の引渡し期日が定められていれば、甲はその期日までは引渡しを受ける義務はないはずである(その間は引渡しを拒否しても受領遅滞の責任が生じることはない)。しかし、工事完成後引渡しまでにあまり長い期間があると、乙は工事の目的物を引渡すことができるにもかかわらず長期にわたり保管の義務を負うことになり、乙にとっては前項で説明したような不利益を受ける。そこで、その調整をはかるため、建設業法第24条の4第2項ただし書は、「下請
契約において定められた工事完成の時期から20日を経過した日(契約どおりに履行がなされた場合に完成検査を終了していなければならない日 建設業法第24条の4第1項参照)以前の一定の日に引渡しを受ける旨の特約がある場合は、その日に引渡しを受けることができる」旨を定しており、本項はこの規定を受けて定められたものである。
なお、この特約で定められた引渡し日が、契約で定められた工事完成の日から2
0日を超えているときは当該特約は無効となる。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項に「乙は、甲が工事の完成を確認した後・・・」とあったのを「乙は、工事が前条の完成検査に合格したときは」とし、「直ちにその引渡を受ける」とあったのは、「直ちにその引渡しを受けるものとする」とした。
また、「工事の目的物引渡の申し出をし」とあったが、乙が工事を完成した場合、工事の目的物を甲に引き渡すことが乙の義務であり、工事の目的物の引渡しの申し出をすることが義務となるわけではないので、「速やかに工事の目的物を甲に引き渡すものとし」としたうえ、さらに「甲は乙から工事の目的物引渡しの申し出があった場合」を加筆した。また、「引き渡し」を「引渡し」とした(以下も同様)。
(2) 旧規定第2項に「下請契約に引き渡し期日の定めがあるときは」とあったのを「前項において、下請契約に定められた工事完成の日から20日以内の一定の日を引渡期日とする定めがあるときは・・・」とした。理由は解説において述べたとおり、建設業法第24条の4第2項ただし書に従ったものである。なお、後半の「その引き渡し期日に」については「その引渡期日に」とした。
第26条(瑕疵の担保)
① 甲は乙に対し、工事の目的物の瑕疵について、相当の期間を定めて瑕疵の修補を請求し、又は修補に代え若しくは修補とともに損害の賠償を請求することができる。
② 前項において、瑕疵が重要ではなく、かつその修補に過分の費用を要するときは、甲は瑕疵の修補を請求することができない。この場合、甲は乙と協議のうえ、修補に代わる相当な賠償額を定める。
③ 瑕疵担保期間は引渡しの日から、木造の建物については1年間、石造、金属造、コンクリート造及びこれらに類する建物その他土地の工作物又は地盤の施工に基づくものについては2年間とする。ただし、甲が発注者に対してこれと異なる瑕疵担保期間を定めたときはその期間とする。
④ 前項において、乙の故意又は重大な過失によって生じた瑕疵については、担保期間をそれぞれ5年又は10年とする。ただし、甲が発注者に対してこれと異なる瑕疵担保期間を定めたときはその期間とする。
⑤ 前2項の定めにかかわらず、工事の目的物の全部又は一部が住宅の品質確保の促進等に関する法律第2条第2項に定める新築住宅である場合は、工事目的物のうち同法第87条第1項所定の住宅の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として同法施行令第6条第1項及び第2項に定めるものの瑕疵について第1項の請求をすることができる期間は、甲が発注者に対し工事の目的物を引き渡したときから10年間とする。ただし、個別契約において10年を超える期間を定めた場合はこれに従うものとし、この場合は、契約書、注文書・請書等の書面に特記するものとする。
⑥ 室内装飾家具等の瑕疵については、引渡しのときその補修又は代替の請求がなければ、乙の責任は免除される。ただし、隠れた瑕疵については乙は引渡しの日から6ヶ月間担保の責を負う。
⑦ 瑕疵が第16条第3項に基づくときは乙は担保の責を負わない。ただし、乙が瑕疵を予見しながら甲に通知しないで施工したとき、その他施工について乙に故意又は重大な過失があるときはこの限りではない。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、工事の目的物に瑕疵がある場合の請負人の責任を規定したものであり、民法上の瑕疵担保責任のほか、新たに制定された住宅の品質確保の促進等に関する
法律に基づいた規定を設けている。
(2) 第1項について
工事の目的物に瑕疵がある場合、甲は乙に対し、瑕疵の修補を請求することができるとともに(瑕疵修補請求権)、瑕疵の修補に代えて又は瑕疵の修補とともに損害賠償の請求ができる。民法第634条1項本文及び同条第2項の規定と同趣旨の規定を設けたものである。
なお、ここにいう瑕疵は、売買契約における瑕疵のように隠れたものである必要 はなく、請負人の過失によって生じたものであることも必要ではない(無過失責任)。
(3) 第2項について
民法第634条第1項ただし書は、瑕疵が重要でなく、その修補に過分の費用を要するときは、注文者(甲)は請負人(乙)に対して瑕疵の修補を請求することができないと定めているので、本項前段もそれに従ったものである。ただし、注文者は、瑕疵の修補の請求ができない場合でも、同条第2項により損害賠償の請求をすることはできる。そこで、本項後段において、その賠償すべき損害の額については甲乙が協議して定めるべきこととしたものである。
(4) 第3項について
民法の規定では、瑕疵担保責任の存続期間は、木造の工作物又は地盤については引渡しの日から5年間、石造、土造、煉瓦造、金属造の工作物(コンクリート造等も含まれる。また、工作物には建物も含まれる)については10年間とされているが、この期間は、当事者の合意により短縮できることから、本項においては木造の建物については1年間、石造等の建物その他土地の工作物又は地盤の施工については2年間としたものである。ただし、甲が発注者との間でこの期間とは異なる期間を定めている場合は、乙の瑕疵担保責任はその期間存続することになる。これは、瑕疵担保責任を負う相手方は最終的には元請負人(甲)であるから、下請契約における瑕疵担保責任の存続期間も、発注者と元請負人間における瑕疵担保責任の存続期間と一致する必要があるからである。
(5) 第4項について
請負契約における瑕疵担保責任は本来無過失責任であるから、請負人(乙)の故意又は重大な過失に基づいて生じた瑕疵については、請負人の責任は加重されてもやむを得ず、そのため本項においては、乙に故意又は重大な過失があり、それによって生じた瑕疵については、その担保責任の存続期間をそれぞれ5年又は10年に伸張している。また、前項と同様に甲が発注者との間で定めた存続期間がこれと異なる場合はその期間による。
(6) 第5項について
平成12年4月1日より住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下「品確法」という)が施行されたことに伴い、新築住宅に関する請負人の担保責任の存続期間が、同法第87条第1項及び同項所定の住宅の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令(住宅の品質確保の促進等に関する法律施行令第6
条)の定めるものの瑕疵については10年と定められた。そのため、これに応じて下請人の元請人に対する担保責任についても同法に即した期間としておく必要があるので本項を新設したものである。すなわち、新築住宅の建設に関する請負契約においては、当該住宅のうち、政令で定められた構造耐力上主要な部分としての住宅の基礎、基礎ぐい、壁、柱等で当該住宅の自重若しくは積載荷重等又は地震その他の振動若しくは衝撃を支えるもの(同施行令第1項)、又は雨水の浸入を防止する部分としての住宅の屋根若しくは外壁等の瑕疵については、その担保責任の存続期間が10年と定められ、この担保責任の存続期間は、民法における担保責任と異なり、短縮しても無効とされている(品確法第87条第2項)。ただし、最長20年までは伸長することができることとされているので(同法第90条)、10年を超えて存続期間を定めることは可能であるが、その場合は契約書等に特記して請負人の注意を促すことにしたものである。
なお、新築住宅とは、新たに建築された住宅で、まだ人の居住の用に供されたことがなく、かつ工事完了の日から1年を経過していないものである(品確法第2条第2項)。
(7) 第6項について
室内装飾家具等については、引渡しの際に確認することにより瑕疵を発見し得ることから、引渡しの際に補修、代替の請求が可能であり、したがって、引渡しの際にそのような請求がなければ乙の責任は免除されることを規定したものである。ただし、引渡しの際の確認では容易に発見できない隠れた瑕疵についてまで、乙の責任を免除するのは妥当でないので、隠れた瑕疵については6ケ月間担保責任を負うことにしたものである。
なお、民法上は、土地の工作物又は地盤以外の瑕疵に関する担保責任の存続期間は1年間とされている(民法第637条第1項)。
(8) 第7項について
本文は、工事の目的物に瑕疵があったとしても、その瑕疵の原因が甲の指図に基づく施工による場合や、甲の支給材料に原因がある場合には乙は責任を負わないことを定めたものである。しかし、そのような場合であっても、乙が支給材料に瑕疵があることを認識しながらこれを甲に通知しないで施工したような場合、その他施工について乙に故意又は重大な過失がある場合には、乙が瑕疵担保責任を免れることは適当ではない。ただし書はその点を規定したものである。
2 改訂部分
(1) 本条の旧規定はやや読みにくい部分があったので、項を整序し、ただし書を加えるなどして整理した。具体的には、「旧第3項、第4項」の内容は、「第1項、第2項」に規定し、「旧第1項」は「第3項」としたうえ、2項に分割し、第4項を新設し、さらに第4項にただし書を設けた。また、平成12年4月1日より住宅の品質確保の促進等に関する法律が施行されたことに基づき第5項を新設した。その結果、旧
第2項は第6項とし、旧第5項は第7項とした。
(2) 新規定第1項は、民法第634条第1項、第2項と同様の体裁とし、同条第1項の規定に従い「相当の期間を定めて」を加筆した。
また、旧規定第3項他に「瑕疵の補修」とあったのは「瑕疵の修補」として民法の条文に合わせ、旧規定第3項において「補修を求めることができる」とされていたのを「修補を請求し」とした。
(3) 旧規定第3項では「乙は適当な賠償を以て補修に代えることができる。」とされていたが、新規定第2項では「甲は乙と協議のうえ、修補に代わる相当な賠償額を定める。」とし、旧規定第3項では「重大な瑕疵でなく」とされていたが、新規定第2項では「瑕疵が重要ではなく、」とした。なお、「且つ」は「かつ」とした。
(4) 新規定第4項は、旧規定第1項のただし書以降を新たな項としたことから、「前項において」、「担保期間」それぞれを加筆した。また、「5年および10年」を「5年又は10年」とし、「・・・その期間による。」とあったのを、新規定第3項と同様に「・・・その期間とする。」とした。
(5) 新規定第5項は、平成12年4月1日より住宅の品質確保の促進等に関する法律が施行されたこと基づく新設規定である。
(6) 旧規定第5項に「・・・に因るときは」とあったのを、新規定第7項では「・・・に基づくときは」とした。また、旧規定第5項ただし書については「乙が瑕疵を予見しながら甲に通知しないで施工した場合」は、「乙に故意又は重大な過失があるとき」の一場合と考えられるので、新規定第7項のように修正した。
(7) 新規定における第3項他の各「ただし」の次に「、」を加筆した。
第27条(代金支払)
① 甲は乙に対し、契約書の定めに従い下請代金を支払う。
② 甲は、発注者から請負代金の支払を受けたときは、契約条項の定めにかかわらず、建設業法第24条の3の規定に従って乙に下請代金の支払いをする。ただし、契約書の定めが同条の3の規定よりも乙にとって有利な場合は、契約書の定めによる。
③ 甲が特定建設業者である場合で、乙が特定建設業者ではなく、かつ資本金が4,000万円以上の法人でないときは、契約書の定めにかかわらず建設業法第24条の5第1項から第3項の規定に従って下請代金を支払うものとし、その支払いを遅滞したときは同条第
4項により未払金額に対し年14.6%の割合による遅延利息を支 払う(1年を365日として計算する)。ただし、契約書の定めが 同各項の規定よりも乙にとって有利な場合は、契約書の定めによる。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、下請代金の支払方法等を定めたものである。
(2) 第1項について
請負契約における報酬(請負代金)は、民法上は、仕事を完了した後、又は仕事の目的物の引渡しと同時に支払うこととされているが(民法第633条)、実際の請負契約においては何回かに分けて支払うことが定められるのが通常である。本項は、甲はこのような契約の定めに従って下請代金を乙に支払うべきことを定めたものであり、当然のことを注意的に定めたものである。
(3) 第2項について
イ 本項は、下請契約の定めにかかわらず、甲が発注者から請負代金の支払を受けた場合、建設業法第24条の3の規定に従って乙に下請代金の支払をしなければならないことを定めたものである。下請代金の支払については、本来、元請負人と下請負人間の合意により下請契約において任意に定められるべきものであるが、元請負人がその優越的な地位を利用し、あるいは元請負人の経済的な事情から、下請負人に不利な支払条件が定められたり、当初の合意に従った支払がなされないことがある。そこで、建設業法第24条の3は、元請負人が発注者から請負代金の支払を受けた場合について、このような不公正な取引を排除して下請負人を保護するため、元請人は下請人に対して、一定の条件により下請代金を支払うべきことを規定している。したがって、本項のような規定がなかったとしても、甲は当然に建設業法第24条の3の規定に従って下請代金の支払をしなければならず、本項は注意的に定められたものである。ただし、下請契約における定めが同条の3の規定よりも有利な条件となっている場合は、法律の規定によって不利な条件に変更すべき理由はないから、その定めに従うこ
とになる。本項ただし書はその旨を規定したものである。
ロ そこで、以下にこの建設業法第24条の3の規定を簡単に説明しておくことにする。
建設業法第24条の3は、元請負人が発注者から請負代金の支払を受けた場合における下請負人に対する下請代金の支払について規定したものである。まず、同条の3第1項は、元請負人が発注者から請負代金の出来形部分に対する支払を受けたとき又は工事完成後における支払を受けたときは、その支払の対象となった工事を施工した下請負人に対して、元請負人が発注者から出来形に対して支払いを受けた割合と同じ割合の下請代金を支払うべきこと及び当該下請負人が施工した出来形部分の割合(複数の下請負人によって施工された工事における当該下請負人が施工した工事の割合)に応じて支払うべきことを定めたものである。また、この元請負人による支払は、元請負人が発注者から支払を受けた日から1ケ月以内で、かつできるだけ短い期間内に支払わなければならないものとされている。
ハ 同条の3第2項は、元請負人が、前払金の支払を受けたときは、下請負人に対しても、建設工事の着手に必要な資材の購入費用等を前払金として支払うよう配慮すべきことを規定したものであり、努力規定とされているが、元請負人は同項の趣旨に従って下請負人に対しても前払金を支払うことが望まれている。
(3) 第3項について
イ 本項は、甲が建設業法第3条第1項第2号に定める特定建設業の許可を受けた者である場合は、下請代金の支払につき、同法第24条の5第1項から第3項の規定に従って支払うべきことを規定したものである。建設業法第3条は、建設業を営もうとする者は、建設業法施行令第1条の2に定める軽微な建設工事のみを請け負うことを業とする者を除き、建設業の許可を受ける義務があること及びその許可の内容について定めたものであり、同条第1項は、建設業の許可につき、一般建設業の許可(同項第1号)又は特定建設業の許可(同第2号)に区分して行われることを規定している。そして、特定建設業の許可を受けなければならない建設業者は、発注者から直接請け負った1件の建設工事に関し、下請代金の額が3,000万円以上(建築工事の場合は4,500万円以上)の下請契約を締結して施工しようとする者とされ、このような特定建設業の許可については、下請負人の保護、大規模工事の安全かつ適正な施工を確保するため、許可要件を一般建設業の許可の要件よりも加重するとともに(建設業法第15条)、下請負人保護等のために特別の重い義務を課している。本項が規定する建設業法第24条の5第1項から第3項も、このような下請負人保護の見地から、下請代金の支払について、特定建設業の許可を受けた建設業者に対しては、一般建設業の許可を受けた建設業者に対するよりも特に重い義務を課したものである。
すなわち、前項において説明したとおり、元請負人は、発注者から請負代金の支払を受けた場合にのみ、一定の条件に基づき、一定の期間内に下請代金を支払うことを義務づけられているが(建設業法第24条の3)、発注者からの支払がない場合の下請代金の支払方法については、以前は特に法律に規定されていなかった。そのため、
元請負人と下請負人間で明確な支払条件や支払期日が定められていなかったり、定められていたとしても、元請負人がそれに従わなかったりすることがあり、下請負人が不利益を被ることが多かった。建設業法第24条の5は、このような下請負人の不利益を排除して下請負人を保護するため、特定建設業の許可制度とともに、特定建設業者については、発注者からの代金の支払の有無にかかわらず、また、契約書の定めにかかわらず、一定の場合には必ず下請代金を支払うべきことを定めたものである。ただし、前項と同様、下請契約における定めが同条の5の規定よりも有利な条件となっている場合はその定めに従うことになるので、ただし書においてその旨規定している。ロ そこで、以下に建設業法第24条の5に関して説明する。まず、同条第1項は、 特定建設業者が注文者となった下請契約における下請代金の支払期日は、工事目的物の引渡しの申出の日から50日以内のできるだけ短い期間内に定められなければならないものとしている。ただし、同条は経済的弱者である下請負人の保護を目的として設けられたものであるから、その下請負人が特定建設業者と同等以上の経済力を有する場合にまでこれを保護する必要はなく、したがって下請負人が特定建設業者である場合又は資本金が4,000万円以上(建設業法施行令第7条の2)の法人である場
合は同条の適用が除外されている。本項もこの規定に従っている。
ハ 建設業法第24条の5第2項は、下請代金の支払期日が定められなかった場合は建設業法第24条の4第2項における工事目的物の引渡しの申出の日(建設業法第
24条の4第2項ただし書に該当する場合は、特約による一定の引渡し日)が支払期日とみなされ、また、建設業法第24条の5第1項に違反して、引渡しの申出の日又は特約による引渡し日から起算して50日を超える日を支払期日と定めた場合には、引渡しの申出の日から起算して50日を経過した日が下請代金の支払期日と定められたものとみなす旨規定されている。
ニ 建設業法第24条の5第3項は、特定建設業者は、一般の金融機関において割引を受けることが困難と認められる手形により下請代金の支払を行ってはならないことを規定したものである。手形の交付は現金による支払とは異なるが、交付を受けた手形が割引を受けられるものであれば、現金で支払いを受けたと同等の効果が得られるので(ただし割引料は要する)、手形の交付による支払も許されるが、それが割引を受けられないようなものであれば、支払がなされたとはいえないので、割引を受けることが困難な手形の交付は禁止されているのである。
ホ 建設業法第24条の5第4項は、特定建設業者が同条第1項又は第2項における支払期日までに下請代金を支払わなかった場合は、下請代金の支払をする日までの期間、未払の下請代金について14.6パーセントの遅延利息(建設業法施行規則第
14条)を付すべきことを規定している。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項には「契約書に示すとおり」とあったが、約款の表現としてはこなれた表現ではないので「契約書の定めに従い」とし、「下請負代金」とあるのを「下
請代金」とした。また、「甲は契約書の・・・」とあったのを、「甲は乙に対し、契約書の・・・」として「乙に対し、」を加筆した。
(2) 旧規定第2項の「第24条の3の規程による支払いをする」は「第24条の3の規定に従って乙に下請代金の支払いをする。」とした。
(3) 旧規定第3項における「資本金3,000万円」とあるのは、建設業法施行令第
7条の2が改正され、資本金の額は4,000万円以上とされたので、同項においても「資本金4,000万円」とした。また、「特定建設業者ではなく且つ」は「特定建設業者ではなく、かつ」とし、また、「同条第4項により年14.6%の遅延利息」とあったのを「同条第4項により、未払金額に対し年14.6%の割合による遅延利息」とした。年14.6%とは何に対する割合かを明確にするためである。また、旧規定では、1年を365日として計算することは、ただし書に規定されていたが、これを( )内に記載することにした。
第28条(損害金等)
① 乙は、工事の完成又は引渡しを遅滞した場合、甲が発注者及び下請工事の関連工事業者に対して乙の遅滞のために支払った損害金と同額の損害賠償義務を負う。
② 乙は前項のほか、乙の債務不履行によって甲が被った損害を賠償しなければならない。
③ 甲が下請代金の支払いを遅滞したときは、前条第3項の場合を除き、未払代金に対し年12%の割合による遅延利息を支払う(1年を365日として計算する)。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、乙が下請工事の完成を遅滞するなど、下請契約について債務不履行があった場合の損害賠償義務及び甲が特定建設業者でない場合に下請代金の支払を遅滞した場合の遅延利息について規定したものである。
(2) 第1項について
乙が、下請契約において定められた期日までに工事を完成しなかったり、工事の目的物を引き渡さなかった場合は、乙の甲に対する債務不履行となるだけでなく、甲の発注者に対する債務不履行となるから、甲は発注者に対して損害賠償義務を負うことになる。さらに、甲が発注者から請負代金の支払を受けられないことになった場合、乙以外の下請負人に対する下請代金の支払が遅滞し、遅延利息を付する必要が生じることもあり得る。その結果、甲が発注者や乙以外の下請負人に損害金を支払った場合は、乙は甲に対し、それと同額の損害賠償義務を負うことを定めたものである。なお、甲が発注者等に損害金を支払った場合、乙はこれを甲に賠償するまでの間遅延利息が発生する。
(3) 第2項について
本項は、前項による損害のほか、乙は、その債務不履行により甲が被った損害を賠償しなければならないことを定めたものである。
(4) 第3項について
甲は注文者として下請負人である乙に対し、下請負代金を支払わなければならないが(前条第1項)、その支払を遅滞した場合、甲が特定建設業者である場合の遅延利息については前条第3項に規定されているので、本項はそれ以外の一般建設業者につき、年12パーセントの遅延利息を支払うべきことを規定したものである。この年12パーセントという利率は、特に確たる根拠があるわけではないが、特定建設業者と同率とするのはやや重いと思われるので、商事法定利率年6パーセントの2倍と定めたものである。この規定は任意規定であるから、甲乙は、別に特約を設けることにより、この利率を変更することが可能である。
2 改訂部分
(1) 旧規定の条文見出しは「遅延損害金」となっていたが、本条は遅延損害金のみに関する規定ではないと思われるので「損害金等」と改めた。
(2) 旧規定第1項における「乙は下請工事の完成引き渡しを遅滞したとき」を「乙は、工事の完成又は引渡しを遅滞した場合」とした。請負工事においては、引渡しを要しない工事については工事の完了が債務の履行であり、引渡しを要する工事については工事の目的物の引渡しまでが債務の履行となるからである。また、「関連業者に対し乙の遅滞」とあるのは「関連業者に対して乙の遅滞」と「て」を加筆した。さらに、「支払わなければならない損害金と同額の遅延損害金を支払う」については、表現がこなれないので「支払った損害金と同額の損害賠償義務を負う」とした。
(3) 旧規定第2項において「契約不履行による甲の損害」とあったのは、一般的な表現である「債務不履行によって甲が被った損害」とした。
(4) 旧規定第3項の遅延利息の割合については、旧規定では定められていなかったが、特約で定められることも少ないと思われたので、今回の改訂では、具体的な割合を定めることとし、商事法廷利率年6パーセントの2倍の年12パーセントとした。
また、旧規定においては「甲が下請代金の支払いを遅滞したときに支払うべき遅延利息は前条第3項の場合を除き年 とする。ただし、いずれの場合でも1年を36
5日として計算する。」とされていたが、新規定第3項のように修正した。
第29条(立替払)
① 甲は、乙が労務者に対する賃金、工事材料の供給者に対する代金又は再下請者に対する請負代金等の支払いを遅滞し、これがため工事完成に支障を及ぼすおそれがあると認めるときは、乙に代わってこれらの賃金等の立替払をすることができる。再下請負者の債務の立替払についても同様とする。
② 前項において甲が立替払をしたときは、乙は甲に対し、甲が支払った立替金につき、立替払の日から支払完了まで年 %の遅延利息を付して甲に支払うものとする。
③ 前項において、乙が甲に対して下請代金債権を有しているとき は、甲は、この下請代金債権と乙に対する立替金債権とを対当額で相殺することができる。
④ 第1項において甲が立替払をした場合、甲が、立替払をした者の権利を代位することにつき乙の承認を求めたときは、乙はこれに応じるものとする。
⑤ 前3項の規定は、甲が特定建設業者として建設業法第41条第2項の勧告に基づき立替払をした場合にも適用する。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、下請負人乙が、その雇用する従業員に対する賃金、あるいは再下請負者に対する下請代金の支払を遅滞した場合又は購入した工事材料の代金を支払わないために工事材料が納入されない等の場合には、甲が乙に代わって、これら支払が遅滞している賃金等の立替払をすることができること及び立替払をした後の立替金の回収方法について規定したものである。
(2) 第1項について
乙がその使用する従業員に対する賃金の支払を遅滞するなどし、そのため工事完成に支障が生じるおそれがあると認められる場合は、甲は乙が支払を遅滞している賃金等を乙に代わって従業員等に支払うことができることを定めたものである。また、乙が再下請をしている場合に、再下請負人が、同様に従業員等に対する賃金等の支払を遅滞している場合にも同じ問題が生じるので、甲は再下請負人の債務を立替払できることを認めたものである。
乙が従業員や再下請負人に対して賃金等の支払を遅滞することにより、従業員や再下請負人が工事の施工を中止したり、遅らせたりした場合、元請工事の完成が遅延することがある。しかし、そのような事態が発生すると、発注者に対する甲の債務の履行に支障が生じることから、これを避けるため、甲としては、乙の従業員等に対して賃金等を立替払し、工事の遅滞を防止する必要がある。そのため、本項は、
甲に乙の従業員等に対する賃金等の立替払いを認めたものである。したがって、立替払をすることは甲の義務ではなく、権利ということになる。
(3) 第2項について
甲が乙の従業員に対する賃金等の立替払をした場合、その立替金は本来乙が支払うべきものであるから、甲は乙に対し、立替金請求権(債権)を取得し、乙はこれを甲に支払わなければならない(返還しなければならない)。本項はこの点を明らかにするとともに、乙が甲に立替金を支払うに当たっては、甲が従業員等に立替金を支払った日から支払を完了するまで遅延利息を付すべきことを定めたものである。
なお、本項では遅延利息の割合が具体的に記載されていないが、これは甲乙間で下請契約を締結する際に協議して決めてもらうことにしたものである。
(4) 第3項について
甲が乙の従業員等に対して賃金等を立替払いしたときは、甲は乙に対して立替金債権を取得するのであるが、乙も甲の下請負人として下請代金債権を有していることがある。そのような場合は、甲乙がそれぞれ相手方に現実に各債権を支払うよりは、対当額(同額)で相殺した方が便宜であるので、今回の改訂において新たに本項を新設したものである。
(5) 第4項について
甲が乙の従業員等に対する賃金等の立替払をした場合、乙に対して立替金債権を取得し、乙にその支払を求めることができるのであるが、甲が立替払をしたことにより、乙の承諾を得たうえ、これら立替払をした者に代位することも可能である。そこで、本項は、甲が立替払をした者の権利を代位することを希望し、乙にその承認を求めた場合、乙はこれに応じるべきことを定めたものである。
なお、代位するというのは、甲が従業員等の権利を代わって行使するということであり、例えば、乙が再下請負人に対する下請代金の支払を遅滞し、甲がその立替払をして代位した場合、甲は当該下請負人の地位に立ってその権利を行使するということである。このような代位に意味があるのは、代位される者(乙の従業員、再下請負人、工事材料の供給者等)が有する権利を行使した方が直接乙に対する立替金債権を行使するよりも有利な場合であると考えられる(遅延利息の割合が高い場合、担保が設定されている場合等)。
(6) 第5項について
建設業法第41条第2項は、特定建設業者が発注者から直接請け負った建設工事に関する下請負人(一次下請に限らない)が、当該建設工事のために使用している労働者に対する賃金の支払を遅滞した場合、当該特定建設業者の許可をした国土交通大臣又は都道府県知事は、当該特定建設業者に対して、賃金を立替払することを勧告することができる旨定めており、甲がこの勧告に従って立替払をした場合も、本条第1項により立替払をした場合と同様に、乙に対してその立替金の支払を請求する必要があることから、本条第2項から第4項の規定は、その場合にも適用されることを規定したものである。旧規定第1項後段に同趣旨の規定があったが、おか
れた位置が適当ではなかったので新たに第5項としたものである(建設業法第41条第2項の勧告に基づき立替払をした場合も、本条第1項に基づき立替払をした場合と同様に乙に立替金の請求ができることを規定することに意味がある)。
なお、本条第1項による立替払は甲の権利といえるが、建設業法第41条第2項の勧告に基づく立替払は義務といえよう(勧告に従わない場合は、指示を受け、営業停止処分を受けることもある。建設業法第28条第1項本文、第3項)。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項において「甲は乙が労務者に対する」とあるのを「甲は、乙が労務者に対する」とし、「を遅滞しこれがため工事完成」とあるのは「を遅滞し、これがために工事完成」として、いずれも「、」を加筆した。「工場用資材」とあるのは「工事材料」とした。また、「虞ありと」は「おそれがあると」と漢字をひらがなにしたうえ、読みやすくするため表現を変え、さらに、甲が何を立替払するのか明確にするため「これらの賃金等の」を加筆した。また、旧規定第2項後段におかれていた「再下請負者の債務の立替払いについてもまた同じ。」は、第1項が基本規定であるから、第1項後段に移動し、旧規定第1項後段の「甲が特定建設業者として立替払いをする必要のあるときもまた同じ。」は、表現を変えて第5項として新設した。
(2) 旧規定第2項は、甲が立替払をした場合、立替払をした者の権利を代位することができる旨規定していたが、代位する場合と直接乙に対して立替金を請求する場合とが混同されているきらいがあったので、両者を分け、第2項は、甲が直接乙に対して立替金債権を取得することを明らかにする規定として新設し、代位する場合については第4項として規定し、表現も変えることにした。また、旧規定第2項において「利息」とあったのは損害金の意味である「遅延利息」に改めた。なお、遅延利息の割合は旧規定と同様、甲乙間の協議で決めてもらうこととし空欄とした。
(3) 甲が乙に対して支払うべき下請代金が存在する場合は、簡易な決済方法として、あるいは担保的機能を営ませるため、甲の下請代金債務と乙の立替金債務とを相殺することが便宜なので、その旨を第3項として新設した。
(4) 新規定第5項は、旧規定第1項後段にあったものを、その存在意義と趣旨を明らかにするため、一部表現を変えて新たな項としたものである。
第30条(甲の解除権)
① 甲は、次の各場合には催告をしないで直ちに下請契約を解除することができる。
(1) 乙が正当な理由がなく着工期日を過ぎても工事に着手しないとき。
(2) 乙の責に帰すべき事由により工程表より著しく工事が遅れ、完成期日又はその後の許容可能の期間内に工事が完成する見込みがないと認められるとき。
(3) 乙が第5条又は第6条に違反したとき。
(4) 乙が建設業の許可を取り消されたとき又はその許可が効力を失ったとき。
(5) 乙が強制執行若しくは保全処分の申立をされた場合、手形又は小切手の不渡処分により銀行取引停止処分を受けた場合、破産、会社更生、会社整理、特別清算又は民事再生手続の申立をした場合若しくは申立をされた場合、その他乙が工事を続行できないとき又は続行できないおそれがあるとき。
(6) 前各号のほか乙の工事完成が不能であること又は乙に契約履行の意思がないことが明白となったとき。
② 乙が下請契約又はこの約款に定める義務の履行を遅滞し、甲が相当の期間を定めて履行を催告しても乙が履行しない場合は、甲は下請契約を解除することができる。
③ 前2項により下請契約が解除された場合、甲は乙に対し、甲が被った損害の賠償を請求することができる。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、乙に債務不履行がある場合又は建設業の許可を取り消されるなどして下請契約の履行が期待できない場合等に甲が下請契約を解除できる旨定めたものである。
(2) 第1項について
乙に重大な契約違反がる場合、あるいは建設業の許可を取り消され、又は破産の申立をして工事の続行が不可能になった場合などには、甲は催告をしないで直ちに下請契約を解除することができることを規定したものである。債務不履行があった場合は、通常催告(履行の請求)をしたうえ解除するのであるが、乙が本約款の第
5条(譲渡禁止)、第6条(一括再下請又は一括委任の禁止)に違反したような場
合は、背信性が著しく、信頼の回復が困難と認められるから催告をせずに解除することを認めたものであり、また、建設業の許可を取り消されたような場合も、以後適正な工事の施工は期待できず、催告をする意味もないことから、催告を要せずに解除できるとしたものである。その他、第1項は催告することが意味を有しないか、あるいは催告をしなくても不当でないと認められる場合に関する規定である。
(3) 第2項について
前項が催告を要しないで解除し得る場合を規定しているのに対し、第2項は、乙に債務不履行があるが、催告をすることによってその是正が図られると期待できる場合にはまず催告をすべき旨を規定したものである。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項本文に「次の場合」とあるが、次の場合が複数あるので「次の各場合」とした。
(2) 同第2号に関し、工事が著しく遅れる原因が、甲あるいは発注者にある場合もあるので、同項の冒頭に「乙の責に帰すべき事由により」を加筆した。
(3) 同第3号に「第5条第6条」とあるのは、第5条又は第6条のいずれかに違反した場合とする趣旨であろうから、「第5条又は第6条」とした。
(4) 同第4号(改定後の第6号)に「乙の工事完成が不能であることおよび乙に契約履行の意思がないことが明白となったとき」とあるが、「乙の工事完成が不能であることが明白になったとき」と「乙に履行の意思がないことが明白になったとき」は択一的な事由であるから「および」を「又は」とした。
(5) 第4号、第5号のような場合も甲に解除の必要性が生ずると思われるので新設し、旧規定第4号は第6号とした。
(6) 旧規定第2項において「下請契約書」とあるが、契約を指すときは通常「書」は入れないので「下請契約」とした。また、旧規定第2項においては「下請契約書およびこの約款に定める義務」とされていたが、「下請契約書に定める義務」に違反する場合と「この約款に定める義務」に違反する場合とは択一的なもの(いずれかに違反すれば催告のうえ解除が可能となるということ)であるから、「下請契約又はこの約款に定める義務」とした。なお、旧規定第2項においては、甲が下請契約を解除し得るためには、乙が催告に応じないことのほかに「ために甲の元請工事の完成が不能となりもしくは著しく遅延すると認められるとき」との要件が必要とされていたが、催告のうえ解除する場合は、通常相手方が催告に応じないという事実(催告期間の経過)が発生すれば解除権の行使は可能とされており、旧規定のような要件をさらに設けることは甲にとって負担となり(甲は上記要件を充たしていることを証明しなければ解除できないことになる)、乙を必要以上に保護する結果になりかねないので、上記要件は削除することにした。また「尚」も削除した。
(7) 第3項は新設規定であるが、相手方の債務不履行により契約が解除され、損害が発生した場合は、その賠償請求が可能であることを明らかにするための規定を設けて
おいた方がよいと考えられたので新設したものである(ただし、この規定がなくても、民法の規定に従って損害賠償の請求をすることは可能である)。
第31条(乙の施工中止)
① 乙は、次の各場合には工事の施工を中止することができる。
(1) 甲が前払金又は部分払金の支払いを遅滞し、乙が相当の期間を定めて催告してもなお支払いをしないとき。
(2) 前号のほか、甲が正当な理由がなく下請契約又はこの約款に定める義務を履行せず、乙が相当の期間を定めて催告してもなお履行しないとき。
② 前項の場合において、乙が工事の続行に備え工事現場を維持し、又は作業員、建設機械器具等を保持するための費用その他工事の施工の一時中止に伴って増加費用を支出し、若しくは乙に損害を及ぼしたときは、甲はその増加費用を負担し、又はその損害を賠償す る。この場合における負担額又は賠償額は甲乙協議して定める。
③ 第1項による中止期間は所定の工事期間から除外する。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、甲が下請契約又は本約款に定める義務を履行しない場合に、乙は工事の施工を一時中止することができること及びその中止によって生じた費用や損害について甲が負担又は賠償すべきことを規定したものである。
(2) 第1項について
甲が下請契約や本約款に定める債務を履行しない場合は、乙は下請契約を解除することもできるが、解除した場合その及ぼす影響は少なくないことが多い。そこで、乙は、まず甲に対して債務の履行を促すために、一時的に工事の施工を中止することができることを定めたものである。なお、中止した場合も解除ほどではないが、不要な支出、損害が生じ得ることから、乙は工事の施工を中止するに当たっても、相当の期間を定めて催告をするものとし、それでもなお甲が債務を履行しない場合に乙は工事の施工を中止できる。
(3) 第2項について
本項は、工事の施工を中止することにより、乙が本来は不要な支出を余儀なくされ、又は損害を被った場合には、甲は乙が支出した費用を負担し又は乙が被った損害を賠償すべきことを規定したものであり、新設規定である。乙による工事施工の中止は甲の債務不履行が原因となったものであるから、その損害等は甲が負担すべきことになるのである。ただし、どの範囲が工事の施工の中止による増加費用あるいは損害かは必ずしも明確でない場合もあるので、甲の負担額又は賠償額は甲乙が協議して決めるものとしたのである。
(4) 第3項について
工事施工の中止は、甲の債務不履行が原因で生じたものであるから、その中止期
間を工事期間に含めるのは妥当ではなく、そのため工事期間から除外するとしたものである。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項第1号における「前払金部分払金」は「前払金又は部分払金」として、前払金、部分払金のいずれの支払の遅滞があった場合でも施工の中止ができることを明確にした。また、第1項本文に「次の各号の一にあたるときは乙は」とあったのを「乙は、次の各場合には」として第30条第1項本文と同じ体裁にした。
(2) 同第2号に「履行の誠意が認められないとき」とあるが、「誠意が認められない」という表現は抽象的で、権利義務を定める契約書における用語としては必ずしも適当ではないので、端的に「履行しないとき」とした。
(3) 本条における乙の工事施工の中止は甲の責に帰すべき事由に基づくものであるから、中止により乙が支出した費用や乙が被った損害を甲が負担すべきものとする規定を設ける必要があると思われるので第2項を新設し、旧規定第2項は第3項とした。
(4) 旧規定第2項に「前項による中止期間は所定の工期間から除外する。」とあったのを、「第1項における中止期間は所定の工事期間から除外する。」とし、「前項による」を「第1項における」とし、「工期間」を「工事期間」とした。
第32条(乙の解除権)
① 乙は、次の各場合には催告をしないで直ちに下請契約を解除することができる。
(1) 甲の責に帰すべき事由による工事の遅延又は中止期間が工期の
3分の1以上又は2月以上となったとき。
(2) 甲が工事を著しく減少したため請負代金が3分の2以上減少したとき。
(3) 甲がこの契約に違反しその違反によって契約の履行が不能となったとき。
(4) 甲が請負代金の支払能力を欠くことが明らかになったとき。
(5) 甲が建設業の許可を取り消されたとき又はその許可が効力を失ったとき。
② 前項により下請契約が解除された場合、乙は甲に対し、乙が被った損害の賠償を請求することができる。
1 概要
甲に債務不履行がある場合は、乙は下請契約を解除することができるのであるが、本条は、甲による債務不履行の程度が著しい場合、あるいは履行することが不能(下請代金の支払をすることができなくなった場合等)となったような場合には、乙は催告をしないで直ちに下請契約を解除することができることを定めたものである。
2 改訂部分
(1) 旧規定本文に「乙は次の場合催告を」とあったのを、「乙は、次の各場合には催告を」として、第30条第1項本文、第31条第1項本文と同じ体裁にした。
(2) 旧規定第1号に「甲の責に帰する理由」とあるのを一般的に使用されている用語である「甲の責に帰すべき事由」とした。なお、「または」は「又は」とした。
(3) 旧規定第2号に「履行ができなくなったとき」とあるのを、「できなくなった」ことを示す法律用語を用いて「不能となったとき」とした。
(3) 第5号として第30条第1項第4号と同様の規定を設けた。甲が建設業の許可を取り消されたとしても、直ちに下請契約が無効となるとは限らないので、乙に解除の余地を認めたものである。
(4) 第2項は新設規定であるが、相手方の債務不履行により契約が解除され、損害が発生した場合は、その賠償請求が可能であることを明らかにする規定を設けておいた方がよいと考えられたので新設したものである(第30条第3項と同趣旨である)。
第33条(解除後の処理)
① 下請契約が解除されたときは、乙は工事の出来形部分と検査済の工事材料を甲に引き渡すものとし、甲乙協議のうえ請負代金等を清算する。
② 前項において、清算の結果甲の過払いがあるときは、乙は過払い額についてその支払いを受けた日から法定利息を付して甲に返還する。
③ 下請契約が解除されたときは、甲乙が協議してそれぞれの所有に属する物件について、期間を定めてその引き取り若しくは後片付けなどの処置を行う。
④ 前項の処置が遅れているとき、催告しても正当な理由がなくなお 実行されないときは、甲乙はそれぞれ相手方に代わってこれを行い、相手方に対してその費用を請求することができる。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、甲又は乙が下請契約を解除した後の処理について定めたものである。契約が解除された場合は、契約の効力は失われ、当事者はそれぞれ相手方に対して原状回復義務を負うことになるが(民法第545条第1項)、請負契約が解除された場合にもこの原則に従うと、乙は甲から受領済みの下請代金を返還し、施工した工事の出来形部分はこれを撤去したうえ工事用地を甲に返還しなければなないことになる。しかし、甲の債務不履行により乙が解除した場合は、甲は乙に対して損害賠償義務を負うことから、これら撤去費用も甲が負担することになるであろうが、撤去による社会経済的損失は大きなものとなる。
そこで、このような不経済な事態を避けるため、本条は、解除一般の原状回復義務を修正し、合理的に清算すべきことを定めたものである。
(1) 第1項について
下請契約が解除された場合、乙は既に施工した出来形部分及び検査済の工事材料は、これを甲に引き渡し、請負代金を清算すべきことを定めたものである。
(2) 第2項について
清算の結果、甲が乙に対して、乙が施工した出来形部分に対する額以上の代金を支払っていた場合は、乙はこれを甲に返還しなければならない。また、施工された出来形に修補、改造を要する部分がある場合は、それに要する費用を査定して清算し、過払いとなる場合には、それを甲に返還しなければならない。したがって、乙が施工した工事が仕様書等に適合しない部分があったとしても、乙はそのまま甲に返還すれば良いことになる。なお、過払い額の返還に当たっては、法定利息(民法所定の利率による場合は年5パーセント、商事法定利率による場合は年6パーセン
ト)を付す必要がある。
(3) 第3項について
契約解除後は、甲乙はそれぞれ自己の所有に属する機械、材料等の物件を引き取り、また不要な物は処分し、工事現場を片づけるなどの処置を行わなければならないことを定めたものである。
(4) 第4項について
当事者の一方が行うべき前項の引き取り、後片づけが行われない場合には、相手方は催告してその実行を求めることができるが、それでもなお正当な理由なく実行されない場合には、相手方は自らこれを行ったうえ、その費用を相手方に請求できることを定めたものである。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項に「契約を解除したときは乙は工事の・・・」とあったのを、「下請契約が解除されたときは、乙は工事の・・・」とし、「乙は工事の出来形部分と検査済の工事材料を甲に引き渡すものとして甲乙が協議して清算する」とあるのは、条文としてやや明確さを欠くので、「乙は工事の出来形部分と検査済の工事材料を甲に引き渡すものとし、甲乙協議のうえ請負代金等を清算する」とした。
(2) 旧規定第2項に「利子をつけて」とあったのは、「利息を付して」とした。
(3) 旧規定第3項の「契約を解除したときは甲乙が協議」とあるのを「契約を解除したときは、甲乙が協議」と「、」を加筆し、「夫々」は「それぞれ」とひらがなにし、
「引き取りあとかたづけ」については、「引き取り」と「あとかたづけ」はそれぞれ別個の行為なので「引き取り若しくは後片づけ」とした(「もしくは」は「若しくは」とし、「あとかたづけ」は「後片付け」とした)。また、「契約を解除したときは、」とあるのも第1項と同様に「下請契約が解除されたときは、」とした。
(4) 旧規定第4項の「前項の処置が遅れているとき催告しても」とあるのを「前項の処置が遅れているとき、催告しても」と「、」を加筆し、「各々」は「それぞれ」とひらがなに改め、「これを行いその費用を請求」は「これを行い、相手方に対してその費用を請求」としてわかりやすくした。
第34条(紛争の解決方法)
① この約款の各条項において甲乙協議して定めるものにつき、協議がととのわない場合、その他この契約に関して甲乙間に紛争を生じた場合には、甲又は乙は、双方の合意により選定した第三者又は建設業法による建設工事紛争審査会(以下「審査会」という。)のあっせん又は調停により解決を図る。
② 前項のあっせん又は調停により紛争を解決することができない場合、甲乙は、仲裁の合意に基づき、双方又は一方の申請により審査会の仲裁に付することができる。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、甲乙間の紛争は、第三者又は建設工事紛争審査会のあっせん又は調停によって解決すべきこと、あっせん又は調停により解決できない場合は、同審査会の仲裁に付して解決を図ることができることを規定したものである。紛争の解決方法としては、裁判所における調停(民事調停)、民事訴訟が存在するが、本条はこのような訴訟手続に訴える前に、できるだけ当事者間の話し合いによる解決を図るために設けられたものである。
(2) 第1項について
イ 第1項は、甲乙間において協議すべき事項について協議が成立せず、あるいは下請契約に関して紛争が生じた場合は、まず、甲乙の合意に基づき選任した第三者又は建設業法に基づき設置された建設工事紛争審査会(以下「審査会」という)のあっせん又は調停により解決を図るべきことを規定したものである。
ロ あっせん又は調停は、当事者以外の第三者によって行われるものであり、裁判所における調停、審査会におけるあっせん又は調停も本来は第三者によって行われるものといえる。そのため、本項に規定する第三者とは、このような公的機関以外の私人としての第三者を意味することになる。ただし、現実には、法律や建築技術に精通し、公正な立場であっせん又は調停を行ってくれる私人を探すことは通常困難であり、本項によるあっせん又は調停により解決を図ろうとする場合は、審査会を利用することが多くなると思われる。
ハ 審査会とは、建設業法第25条第1項に基づき設置された機関であり、建設工事請負契約に関する紛争の解決を図ることを目的としている。審査会が扱う紛争は、建設工事の請負契約に関するものに限定されるとともに、「発注者と請負者」、「請負者と下請負者」など直接請負契約を締結した当事者間における紛争に限られている。ニ 審査会は、「あっせん」、「調停」又は「仲裁」の各手続を行うものとされて いるが、あっせん(建設業法第25条の12)とは、紛争の当事者に解決のための話し合いの機会を与える制度であり、原則として1人のあっせん委員が両当事者の主張
内容を確認し、当事者間の誤解を解くなどして事件の解決を図ろうとするものである。その結果、両当事者間に合意が成立すれば、新たに契約を締結することになるが(和解契約)、この合意に基づく契約は、裁判上の和解等とは異なり、その契約に基づき強制的に合意内容を実現(強制執行)することはできない。また、当事者はあっせん委員が解決案を提案したとしてもそれに応じる義務はない。
ホ 調停(建設業法第25条の13)もあっせんとほぼ同様な方式であるが、調停の場合は、委員は3人とされ、調停委員の側で調停案を作成して、両当事者にその受諾を勧告できるほか、調停委員に当事者に対する出頭命令権限が与えられている(同条第3項)点が異なる。しかし、調停案の受諾の勧告があっても、当事者には受諾する義務はない。また、当事者間で合意が成立した場合は、あっせんの場合と同様に合意に基づき契約を締結するが、その効果はあっせんの場合と同様である。
(3) 第2項について
本項は、紛争があっせん又は調停によっても解決できない場合は、仲裁の合意に基づき、甲乙双方又は甲乙いずれかの申請により審査会の仲裁に付することができることを定めたものである。
仲裁(建設業法第25条の16)は、あっせんや調停と異なり、仲裁の結果について当事者が納得することは不要であり、仲裁判断には確定判決と同一の効力があるので(強制執行もできるということ)、仲裁判断の内容に不服があっても異議の申立をしたり(仲裁制度は一審制である)、改めて訴訟手続で争うことはできないことになる。そのため、仲裁手続は、事前に当事者間における仲裁の合意、すなわち、仲裁により紛争を解決するという合意が必要であり、この合意がないと仲裁を行うことはできない。そして、仲裁の合意がある場合には、一方当事者が訴えを提起したとしも、他方当事者が仲裁の合意があることを理由に訴えの提起に応じなければ、訴えは却下されることになる(仲裁契約の抗弁という)。したがって、仲裁手続で紛争を解決するということは重大なことであるから、事前に仲裁の合意をするに際しては慎重な検討を要することになる。そのため、下請契約を締結することにより当然に仲裁の合意も成立してしまうことは適当ではないので、本項においては「仲裁の合意に基づき」との条件を付し、下請契約の締結とは別に甲乙間において仲裁の合意がなされた場合に仲裁に付することができるとの内容にしたものである。
2 改訂部分
(1) 旧規定第1項、第2項の「斡旋」は、建設業法においてはひらがなで記載されていることから「あっせん」とひらがなにした(建設業法第25条第2項他)。
(2) 旧規定第2項に「申請による「審査会」の仲裁判断に服する」とあったが、標準的な約款において、仲裁の合意まで成立させることが良いかどうかやや疑問があることと、当事者が実際に仲裁に服することを合意している場合は、別に仲裁合意書を締結することも可能であることから「仲裁に付することができる」とした。したがって、
仲裁に付すためには仲裁の合意が成立している必要があるので、第2項に「仲裁の合意に基づき」と加筆することにした。
第35条(書面に代わる情報通信技術の利用)
この約款において書面によるものとされている同意、通知、申し出等は、電子情報処理組織を利用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法を用いて行うことができる。ただし、その方法は、建設業法、建設業法施行令、建設業法施行規則その他の法令の定めに従うものでなければならない。
1 概要
(1) 本条の趣旨
本条は、本約款において、書面によって行うべきものとされている同意(第6条)、通知(第14条第1項等)、申し出(第12条第5項等)その他について、情報通 信の技術(電子メール、CD-ROM等)による代替措置を認めたものである。
最近の社会、経済のIT化に伴い、従来の書面の交付、書面による手続は迅速性に欠け、保管にも不便なことから、一定の要件の下にこれまで書面で行うべきこととされていた行為について、これを電子メール等で行うことを認めたものである。
本条は、新設規定であるが、今回本条を新設することにしたのは、書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律により建設業法も改正され(平成13年4月1日施行)、建設工事請負契約の締結等に際して作成、交付しなければなない書面について、従来の書面による方法の他に、電子メール等電子的手段を用いることも認められることになったからである。
建設業法の改正により、書面に代えてこのような電子メール等の方法によることが認められたのは、同法第19条(建設工事の請負契約の内容)、第19条の2(現場代理人の選任等に関する通知)、第22条(一括下請負の禁止)、第23条(下請負人の変更請求)であるが、これらの規定に基づいて電子的手段を用いるためには予め相手方の承諾を得るなど、一定の要件、基準に従うべきこととされており、それらの要件、基準は建設業法施行令(第5条の5他)及び建設業法施行規則(建設業法施行規則第13条の2第2項他)に詳細に規定されている。
ただし、このような要件、基準は抽象的であるため、それだけではどのような具体的措置を講ずればよいのか明確ではなく、紛争も生じかねないことから、書面に代えて電子メール等を利用する者の参考とするため建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する技術的基準に関するガイドライン(電子商取引ガイドライン)が定められている(参考資料参照)。
2 改訂部分
今回の改訂における新設条文である。
第36条(補則)
この約款に定めていない事項については法律の規定に従い、法律に規定のない事項については甲乙が条理及び慣行に従い協議を以て処理する。
[3]参考資料
1 法 令
(1) 建設業法
第二条(定義)
この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表の上欄に掲げるものをいう。
2 この法律において「建設業」とは、元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう。
3 この法律において「建設業者」とは、第三条第一項の許可を受けて建設業を営む者をいう。
4 この法律において「下請契約」とは、建設工事を他の者から請け負つた建設業を営む者と他の建設業を営む者との間で当該建設工事の全部又は一部について締結される請負契約をいう。
5 この法律において「発注者」とは、建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者をいい、「元請負人」とは、下請契約における注文者で建設業者であるものをいい、「下請負人」とは、下請契約における請負人をいう。
第三条(建設業の許可)
建設業を営もうとする者は、次に掲げる区分により、この章で定めるところにより、二以上の都道府県の区域内に営業所( 本店又は支店若しくは政令で定めるこれに準ずるものをいう。以下同じ。)を設けて営業しようとする場合にあつては国土交通大臣の、一の都道府県の区域内にのみ営業所を設けて営業しようとする場合にあつては当該営業所の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は、この限りでない。
一 建設業を営もうとする者であつて、次号に掲げる者以外のもの
二 建設業を営もうとする者であつて、その営業にあたつて、その者が発注者から直接請け負う一件の建設工事につき、その工事の全部又は一部を、下請代金の額(その工事に係る下請契約が二以上あるときは、下請代金の額の総額) が政令で定める金額以上となる下請契約を締結して施工しようとするもの
2 前項の許可は、別表の上欄に掲げる建設工事の種類ごとに、それぞれ同表の下欄に掲げる建設業に分けて与えるものとする。
3 第一項の許可は、五年ごとその更新を受けなければ、その期間の経過によつて、その効力を失う。
4 前項の更新の申請があつた場合において、同項の期間(以下「許可の有効期間」という。)の満了の日までにその申請に対する処分がされないときは、従前の許可は、許可の有効期間の満了後もその処分がされるまでの間は、なおその効力を有する。
5 前項の場合において、許可の更新がされたときは、その許可の有効期間は、従前の許可の有効期間の満了の日の翌日から起算するものとする。
6 第一項第一号に掲げる者に係る同項の許可( 第三項の許可の更新を含む。以下「一
般建設業の許可」という。)を受けた者が、当該許可に係る建設業について、第一項第二号に掲げる者に係る同項の許可(第三項の許可の更新を含む。以下「特定建設業の許可」という。)を受けたときは、その者に対する当該建設業に係る一般建設業の許可は、その効力を失う。
第四条(附帯工事)
建設業者は、許可を受けた建設業に係る建設工事を請け負う場合においては、当該建設工事に附帯する他の建設業に係る建設工事を請け負うことができる。
第十五条(許可の基準)
国土交通大臣又は都道府県知事は、特定建設業の許可を受けようとする者が次に掲げる基準に適合していると認めるときでなければ、許可をしてはならない。
一 第七条第一号及び第三号に該当する者であること。
二 その営業所ごとに次のいずれかに該当する者で専任のものを置く者であること。ただし、施工技術( 設計図書に従つて建設工事を適正に実施するために必要な専門の知識及びその応用能力をいう。以下同じ。)の総合性、施工技術の普及状況その他の事情を考慮して政令で定める建設業( 以下「指定建設業」という。)の許可を受けようとする者にあつては、その営業所ごとに置くべき専任の者は、イに該当する者又はハの規定により国土交通大臣がイに掲げる者と同等以上の能力を有するものと認定した者でなければならない。
イ 第二十七条第一項の規定による技術検定その他の法令の規定による試験で許可を受けようとする建設業の種類に応じ国土交通大臣が定めるものに合格した者又は他の法令の規定による免許で許可を受けようとする建設業の種類に応じ国土交通大臣が定めるものを受けた者
ロ 第七条第二号イ、ロ又はハに該当する者のうち、許可を受けようとする建設業に係る建設工事で、発注者から直接請け負い、その請負代金の額が政令で定める金額以上であるものに関し二年以上指導監督的な実務の経験を有する者
ハ 国土交通大臣がイ又はロに掲げる者と同等以上の能力を有するものと認定した者
三 発注者との間の請負契約で、その請負代金の額が政令で定める金額以上であるものを履行するに足りる財産的基礎を有すること。
第十六条(下請契約の締結の制限)
特定建設業の許可を受けた者でなければ、その者が発注者から直接請け負つた建設工事を施工するための次の各号の一に該当する下請契約を締結してはならない。
一 その下請契約に係る下請代金の額が、一件で、第三条第一項第二号の政令で定める金額以上である下請契約
二 その下請契約を締結することにより、その下請契約及びすでに締結された当該建設工事を施工するための他のすべての下請契約に係る下請代金の額の総額が、第三条第一項第二号の政令で定める金額以上となる下請契約
第十九条(建設工事の請負契約の内容)
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
一 工事内容
二 請負代金の額
三 工事着手の時期及び工事完成の時期
四 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
五 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
六 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
七 価格等( 物価統制令( 昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
七の二 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
七の三 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
八 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
九 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
十 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
十一 契約に関する紛争の解決方法
2 請負契約の当事者は、請負契約の内容で前項に掲げる事項に該当するものを変更するときは、その変更の内容を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
3 建設工事の請負契約の当事者は、前二項の規定による措置に代えて、政令で定めるところにより、当該契約の相手方の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて、当該各項の規定による措置に準ずるものとして国土交通省令で定めるものを講ずることができる。この場合において、当該国土交通省令で定める措置を講じた者は、当該各項の規定による措置を講じたものとみなす。
第十九条の二(現場代理人の選任等に関する通知)
請負人は、請負契約の履行に関し工事現場に現場代理人を置く場合においては、当該現場代理人の権限に関する事項及び当該現場代理人の行為についての注文者の請負人に対する意見の申出の方法(第三項において「現場代理人に関する事項」という。)を、書面により注文者に通知しななければならない。
2 注文者は、請負契約の履行に関し工事現場に監督員を置く場合においては、当該監
督員の権限に関する事項及び当該監督員の行為についての請負人の注文者に対する意見の申出の方法(第四項において「監督員に関する事項」という。)を、書面により請負人に通知しなければならない。
3 請負人は、第一項の規定による書面による通知に代えて、政令で定めるところにより、同項の注文者の承諾を得て、現場代理人に関する事項を、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより通知することができる。この場合において、当該請負人は、当該書面による通知をしたものとみなす。
4 注文者は、第二項の規定による書面による通知に代えて、政令で定めるところにより、同項の請負人の承諾を得て、監督員に関する事項を、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより通知することができる。この場合において、当該注文者は、当該書面による通知をしたものとみなす。
第二十二条(一括下請負の禁止)
建設業者は、その請け負つた建設工事を、如何なる方法をもつてするを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。
2 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負つた建設工事を一括して請け負つてはならない。
3 前二項の規定は、元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には、適用しない。
4 発注者は、前項の規定による書面による承諾に代えて、政令で定めるところにより、同項の元請負人の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより、同項の承諾をする旨の通知をすることができる。この場合において、当該発注者は、当該書面による承諾をしたものとみなす。
第二十三条(下請負人の変更請求)
注文者は、請負人に対して、建設工事の施工につき著しく不適当と認められる下請負人があるときは、その変更を請求することができる。ただし、あらかじめ注文者の書面による承諾を得て選定した下請負人については、この限りでない。
2 注文者は、前項ただし書の規定による書面による承諾に代えて、政令で定めるところにより、同項ただし書の規定により下請負人を選定する者の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより、同項ただし書の承諾をする旨の通知をすることができる。この場合において、当該注文者は、当該書面による承諾をしたものとみなす。
第二十四条(請負契約とみなす場合)
委託その他何らの名義をもつてするを問わず、報酬を得て建設工事の完成を目的として締結する契約は、建設工事の請負契約とみなして、この法律の規定を適用する。
第二十四条の三(下請代金の支払)
元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となつた建設工事を施工した下請負人に対して、当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。
2 元請負人は、前払金の支払を受けたときは、下請負人に対して、資材の購入、労働者の募集その他建設工事の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。
第二十四条の四(検査及び引渡し)
元請負人は、下請負人からその請け負つた建設工事が完成した旨の通知を受けたときは、当該通知を受けた日から二十日以内で、かつ、できる限り短い期間内に、その完成を確認するための検査を完了しなければならない。
2 元請負人は、前項の検査によつて建設工事の完成を確認した後、下請負人が申し出たときは、直ちに、当該建設工事の目的物の引渡しを受けなければならない。ただし、下請契約において定められた工事完成の時期から二十日を経過した日以前の一定の日に引渡しを受ける旨の特約がされている場合には、この限りでない。
第二十四条の五(特定建設業者の下請代金の支払期日等)
特定建設業者が注文者となつた下請契約(下請契約における請負人が特定建設業者又は資本金額が政令で定める金額以上の法人であるものを除く。以下この条において同じ。)における下請代金の支払期日は、前条第二項の申出の日(同項ただし書の場合にあつては、その一定の日。以下この条において同じ。)から起算して五十日を経過する日以前において、かつ、できる限り短い期間内において定められなければならない。
2 特定建設業者が注文者となつた下請契約において、下請代金の支払期日が定められなかつたときは前条第二項の申出の日が、前項の規定に違反して下請代金の支払期日が定められたときは同条第二項の申出の日から起算して五十日を経過する日が下請代金の支払期日と定められたものとみなす。
3 特定建設業者は、当該特定建設業者が注文者となつた下請契約に係る下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付してはならない。
4 特定建設業者は、当該特定建設業者が注文者となつた下請契約に係る下請代金を第一項の規定により定められた支払期日又は第二項の支払期日までに支払わなければならない。当該特定建設業者がその支払をしなかつたときは、当該特定建設業者は、下請負人に対して、前条第二項の申出の日から起算して五十日を経過した日から当該下請代金の支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該未払金額に国土交通省令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
第二十四条の六(下請負人に対する特定建設業者の指導等)
発注者から直接建設工事を請け負つた特定建設業者は、当該建設工事の下請負人が、その下請負に係る建設工事の施工に関し、この法律の規定又は建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労働者の使用に関する法令の規定で政令で定めるものに違反しないよう、当該下請負人の指導に努めるものとする。
2 前項の特定建設業者は、その請け負つた建設工事の下請負人である建設業を営む者が同項に規定する規定に違反していると認めたときは、当該建設業を営む者に対し、当該違反している事実を指摘して、その是正を求めるように努めるものとする。
3 第一項の特定建設業者が前項の規定により是正を求めた場合において、当該建設業を営む者が当該違反している事実を是正しないときは、同項の特定建設業者は、当該建設業を営む者が建設業者であるときはその許可をした国土交通大臣若しくは都道府県知事又は営業としてその建設工事の行われる区域を管轄する都道府県知事に、その他の建設業を営む者であるときはその建設工事の現場を管轄する都道府県知事に、速やかに、その旨を通報しなければならない。
第二十四条の七(施工体制台帳及び施工体系図の作成等)
特定建設業者は、発注者から直接建設工事を請け負つた場合において、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が二以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金額以上になるときは、建設工事の適正な施工を確保するため、国土交通省令で定めるところにより、当該建設工事について、下請負人の商号又は名称、当該下請負人に係る建設工事の内容及び工期その他の国土交通省令で定める事項を記載した施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え置かなければならない。
2 前項の建設工事の下請負人は、その請け負つた建設工事を他の建設業を営む者に請け負わせたときは、国土交通省令で定めるところにより、同項の特定建設業者に対して、当該他の建設業を営む者の商号又は名称、当該者の請け負つた建設工事の内容及び工期その他の国土交通省令で定める事項を通知しなければならない。
3 第一項の特定建設業者は、同項の発注者から請求があつたときは、同項の規定により備え置かれた施工体制台帳を、その発注者の閲覧に供しなければならない。
4 第一項の特定建設業者は、国土交通省令で定めるところにより、当該建設工事における各下請負人の施工の分担関係を表示した施工体系図を作成し、これを当該工事現場の見やすい場所に掲げなければならない。
第二十五条(建設工事紛争審査会の設置)
建設工事の請負契約に関する紛争の解決を図るため、建設工事紛争審査会を設置する。
2 建設工事紛争審査会(以下「審査会」という。)は、この法律の規定により、建設工事の請負契約に関する紛争(以下「紛争」という。)につきあつせん、調停及び仲裁
(以下「紛争処理」という。)を行う権限を有する。
3 審査会は、中央建設工事紛争審査会(以下「中央審査会」という。) 及び都道府県建設工事紛争審査会(以下「都道府県審査会」という。)とし、中央審査会は、国土交
通省に、都道府県審査会は、都道府県に置く。第二十五条の十二(あつせん)
審査会によるあつせんは、あつせん委員がこれを行う。
2 あつせん委員は、委員又は特別委員のうちから、事件ごとに、審査会の会長が指名する。
3 あつせん委員は、当事者間をあつせんし、双方の主張の要点を確かめ、事件が解決されるように努めなければならない。
第二十五条の十三(調停)
審査会による調停は、三人の調停委員がこれを行う。
2 調停委員は、委員又は特別委員のうちから、事件ごとに、審査会の会長が指名する。
3 審査会は、調停のため必要があると認めるときは、当事者の出頭を求め、その意見をきくことができる。
4 審査会は、調停案を作成し、当事者に対しその受諾を勧告することができる。
5 前項の調停案は、調停委員の過半数の意見で作成しなければならない。
第二十五条の十五(仲裁の開始)
審査会は、紛争が生じた場合において、次の各号の一に該当するときは、仲裁を行う。一 当事者の双方から、審査会に対し仲裁の申請がなされたとき。
二 この法律による仲裁に付する旨の合意に基き、当事者の一方から、審査会に対し仲裁の申請がなされたとき。
第二十五条の十六(仲裁)
審査会による仲裁は、三人の仲裁委員がこれを行う。
2 仲裁委員は、委員又は特別委員のうちから当事者が合意によつて選定した者につき、審査会の会長が指名する。ただし、当事者の合意による選定がなされなかつたときは、委員又は特別委員のうちから審査会の会長が指名する。
3 仲裁委員のうち少くとも一人は、弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第二章の規定により、弁護士となる資格を有する者でなければならない。
4 審査会の行う仲裁については、この法律の別段の定めがある場合を除いて、仲裁委員を仲裁人とみなして、公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律(明治二十三年法律第二十九号)第八編(仲裁手続)の規定を適用する。
第二十八条(指示及び営業の停止)
国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が次の各号のいずれかに該当する場合又はこの法律の規定( 第十九条の三、第十九条の四及び第二十四条の三から第二十四条の五までを除き、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律
(平成十二年法律第百二十七号。以下「入札契約適正化法」という。)第十三条第三項の規定により読み替えて適用される第二十四条の七第四項を含む。第四項において同じ。)若しくは入札契約適正化法第十三条第一項若しくは第二項の規定に違反した場合
においては、当該建設業者に対して、必要な指示をすることができる。特定建設業者が第四十一条第二項又は第三項の規定による勧告に従わない場合において必要があると認めるときも、同様とする。
2 (略)
3 国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が第一項各号の一に該当するとき若しくは同項若しくは次項の規定による指示に従わないとき又は建設業を営む者が前項各号の一に該当するとき若しくは同項の規定による指示に従わないときは、その者に対し、一年以内の期間を定めて、その営業の全部又は一部の停止を命ずることができる。
4 ~7 (略)
第四十一条(建設業を営む者及び建設業者団体に対する指導、助言及び勧告)
国土交通大臣又は都道府県知事は、建設業を営む者又は第二十七条の三十三の届出のあつた建設業者団体に対して、建設工事の適正な施工を確保し、又は建設業の健全な発達を図るために必要な指導、助言及び勧告を行うことができる。
2 特定建設業者が発注者から直接請け負つた建設工事の全部又は一部を施工している他の建設業を営む者が、当該建設工事の施工のために使用している労働者に対する賃金の支払を遅滞した場合において、必要があると認めるときは、当該特定建設業者の許可をした国土交通大臣又は都道府県知事は、当該特定建設業者に対して、支払を遅滞した賃金のうち当該建設工事における労働の対価として適正と認められる賃金相当額を立替払することその他の適切な措置を講ずることを勧告することができる。
3 特定建設業者が発注者から直接請け負つた建設工事の全部又は一部を施工している他の建設業を営む者が、当該建設工事の施工に関し他人に損害を加えた場合において、必要があると認めるときは、当該特定建設業者の許可をした国土交通大臣又は都道府県知事は、当該特定建設業者に対して、当該他人が受けた損害につき、適正と認められる金額を立替払することその他の適切な措置を講ずることを勧告することができる。
(2) 建設業法施行令
第一条の二(法第三条第一項ただし書の軽微な建設工事)
法第三条第一項ただし書の政令で定める軽微な建設工事は、工事一件の請負代金の額が建築一式工事にあつては千五百万円に満たない工事又は延べ面積が百五十平方メートルに満たない木造住宅工事、建築一式工事以外の建設工事にあつては五百万円に満たない工事とする。
2 前項の請負代金の額は、同一の建設業を営む者が工事の完成を二以上の契約に分割して請け負うときは、各契約の請負代金の額の合計額とする。ただし、正当な理由に基いて契約を分割したときは、この限りでない。
3 注文者が材料を提供する場合においては、その市場価格又は市場価格及び運送賃を当該請負契約の請負代金の額に加えたものを第一項の請負代金の額とする。
第二条(法第三条第一項第二号の金額)
法第三条第一項第二号の政令で定める金額は、三千万円とする。ただし、同項の許可を受けようとする建設業が建築工事業である場合においては、四千五百万円とする。
第五条の五(建設工事の請負契約に係る情報通信の技術を利用する方法)
建設工事の請負契約の当事者は、法第十九条第三項の規定により同項に規定する国土交通省令で定める措置( 以下この条において「電磁的措置」という。)を講じようとするときは、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、当該契約の相手方に対し、その講じる電磁的措置の種類及び内容を示し、書面又は電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるもの(次項において「電磁的方法」という。)による承諾を得なければならない。
2 前項の規定による承諾を得た建設工事の請負契約の当事者は、当該契約の相手方から書面又は電磁的方法により当該承諾を撤回する旨の申出があつたときは、法第十九条第一項又は第二項の規定による措置に代えて電磁的措置を講じてはならない。ただし、当該契約の相手方が再び同項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。
第五条の六(現場代理人の選任等に関する通知に係る情報通信の技術を利用する方法)請負人は、法第十九条の二第三項の規定により同項に規定する現場代理人に関する事
項を通知しようとするときは、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、当該注文者に対し、その用いる同項前段に規定する方法(以下この条において「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
2 前項の規定による承諾を得た請負人は、当該注文者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による通知を受けない旨の申出があつたときは、当該注文者に対し、現場代理人に関する事項の通知を電磁的方法によつてしてはならない。ただし、当該注文者が再び同項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。
第五条の七
注文者は、法第十九条の二第四項の規定により同項に規定する監督員に関する事項を通知しようとするときは、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、当該請負人に対し、その用いる同項前段に規定する方法( 以下この条において「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
2 前項の規定による承諾を得た注文者は、当該請負人から書面又は電磁的方法により電磁的方法による通知を受けない旨の申出があつたときは、当該請負人に対し、監督員に関する事項の通知を電磁的方法によつてしてはならない。ただし、当該請負人が再び同項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。
第六条の二(保証人を必要としない軽微な工事)
法第二十一条第一項ただし書の政令で定める軽微な工事は、工事一件の請負代金の額が五百万円に満たない工事とする。
第六条の三(一括下請負の承諾に係る情報通信の技術を利用する方法)
発注者は、法第二十二条第四項の規定により同条第三項の承諾をする旨の通知(次項において「承諾通知」という。)をしようとするときは、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、当該元請負人に対し、その用いる同条第四項前段に規定する方法
(以下この条において「電磁的方法」という。) の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
2 前項の規定による承諾を得た発注者は、当該元請負人から書面又は電磁的方法により電磁的方法による通知を受けない旨の申出があつたときは、当該請負人に対し、承諾通知を電磁的方法によつてしてはならない。ただし、当該元請負人が再び同項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。
第七条(下請負人の選定の承諾に係る情報通信の技術を利用する方法)
注文者は、法第二十三条第二項の規定により同条第一項ただし書の承諾をする旨の通知(次項において「承諾通知」という。)をしようとするときは、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、同項ただし書の規定により下請負人を選定する者(次項において「下請負人選定者」という。)に対し、その用いる同条第二項前段に規定する方法(以下この条において「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
2 前項の規定による承諾を得た注文者は、下請負人選定者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による通知を受けない旨の申出があつたときは、下請負人選定者に対し、承諾通知を電磁的方法によつてしてはならない。ただし、下請負人選定者が再び同項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。
第七条の二(法第二十四条の五第一項の金額)
法第二十四条の五第一項の政令で定める金額は、四千万円とする。
第七条の四(法第二十四条の七第一項の金額)
法第二十四条の七第一項の政令で定める金額は、三千万円とする。ただし、特定建設業者が発注者から直接請け負つた建設工事が建築一式工事である場合においては、四千五百万円とする。
(3) 建設業法施行規則
第十三条の二(建設工事の請負契約に係る情報通信の技術を利用する方法) 法第十九条第三項の国土交通省令で定める措置は、次に掲げる措置とする。一 電子情報処理組織を使用する措置のうちイ又はロに掲げるもの
イ 建設工事の請負契約の当事者の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。) と当該契約の相手方の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する措置
ロ 建設工事の請負契約の当事者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された同条第一項に掲げる事項又は請負契約の内容で同項に掲げる事項に該当するものの変更の内容(以下「契約事項等」という。)を電気通信回線を通じて当該契約の相手方の閲覧に供し、当該契約の相手方の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該契約事項等を記録する措置
二 磁気ディスク、シー・ディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物( 以下「磁気ディスク等」という。) をもつて調製するファイルに契約事項等を記録したものを交付する措置
2 前項に掲げる措置は、次に掲げる技術的基準に適合するものでなければならない。一 当該契約の相手方がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものであること。
二 ファイルに記録された契約事項等について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置を講じていること。
3 第一項第一号の「電子情報処理組織」とは、建設工事の請負契約の当事者の使用に係る電子計算機と、当該契約の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。
第十三条の三
令第五条の五第一項の規定により示すべき措置の種類及び内容は、次に掲げる事項とする。
一 前条第一項に規定する措置のうち建設工事の請負契約の当事者が講じるもの二 ファイルへの記録の方式
第十三条の四
令第五条の五第一項の国土交通省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。一 電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの
イ 建設工事の請負契約の当事者の使用に係る電子計算機と当該契約の相手方の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法
ロ 建設工事の請負契約の当事者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された法第十九条第三項の承諾に関する事項を電気通信回線を通じて当該契約の相手方の閲覧に供し、当該建設工事の請負契約の当事者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該承諾に関する事項を記録する方法
二 磁気ディスク等をもつて調製するファイルに当該承諾に関する事項をを記録したものを交付する方法
2 前項第一号の「電子情報処理組織」とは、建設工事の請負契約の当事者の使用に係る電子計算機と、当該契約の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。
第十三条の五(現場代理人の選任等に関する通知に係る情報通信の技術を利用する方法)法第十九条の二第三項の国土交通省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの
イ 請負人の使用に係る電子計算機と注文者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法
ロ 請負人の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された同条第一項に規定する現場代理人に関する事項を電気通信回線を通じて注文者の閲覧に供し、当該注文者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該現場代理人に関する事項を記録する方法(同条第三項前段に規定する方法による通知を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあつては、請負人の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)
二 磁気ディスク等をもつて調製するファイルに現場代理人に関する事項を記録したものを交付する方法
2 前項に掲げる方法は、注文者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。
3 第一項第一号の「電子情報処理組織」とは、請負人の使用に係る電子計算機と、注文者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。
第十三条の六
令第五条の六第一項の規定により示すべき方法の種類及び内容は、次に掲げる事項とする。
一 前条第一項に規定する方法のうち請負人が使用するもの二 ファイルへの記録の方式
第十三条の七
法第十九条の二第四項の国土交通省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。一 電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの
イ 注文者の使用に係る電子計算機と請負人の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法
ロ 注文者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された同条第二項に規定する監督員に関する事項を電気通信回線を通じて請負人の閲覧に供し、当該請負人の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該監督員に関する事項を記録する方法(同条第四項前段に規定する方法による通知を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあつては、注文者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)
二 磁気ディスク等をもつて調製するファイルに監督員に関する事項を記録したものを交付する方法
2 前項に掲げる方法は、請負人がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。
3 第一項第一号の「電子情報処理組織」とは、注文者の使用に係る電子計算機と、請負人の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。
第十三条の八
令第五条の七第一項の規定により示すべき方法の種類及び内容は、次に掲げる事項とする。
一 前条第一項に規定する方法のうち注文者が使用するもの二 ファイルへの記録の方式
第十三条の九(一括下請負の承諾に係る情報通信の技術を利用する方法)
法第二十二条第四項の国土交通省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。一 電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの
イ 発注者の使用に係る電子計算機と元請負人の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法
ロ 発注者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された同条第三項の承諾をする旨を電気通信回線を通じて元請負人の閲覧に供し、当該元請負人の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該承諾をする旨を記録する方法(同条第四項前段に規定する方法による通知を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあつては、発注者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)
二 磁気ディスク等をもつて調製するファイルに同条第三項の承諾をする旨を記録したものを交付する方法
2 前項に掲げる方法は、元請負人がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。
3 第一項第一号の「電子情報処理組織」とは、発注者の使用に係る電子計算機と、元請負人の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。
第十三条の十
令第六条の三第一項の規定により示すべき方法の種類及び内容は、次に掲げる事項とする。
一 前条第一項に規定する方法のうち発注者が使用するもの二 ファイルへの記録の方式
第十三条の十一(下請負人の選定の承諾に係る情報通信の技術を利用する方法)法第二十三条第二項の国土交通省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。