●Yasuo Kawai
後 編 | 全2回 | ||
消費者契約法・ 特定商取引法の解説 | |||
2017年9月22日(金) |
講 演 録
川井 康雄(57期)
●Yasuo Kawai
消費者問題対策委員会 副委員長
〈略歴〉
2004年 弁護士登録
2011年 消費者問題対策委員会 委員
2014年〜 消費者問題対策委員会 副委員長
〈前号掲載〉
1 消費者契約法 1 はじめに 2 適用対象 3 取消権
4 不当契約条項の無効
5 民法でいくか、消費者契約法でいくか
2 特定商取引法
CONTENTS
2
特定商取引法
1 全体像
(1)対象となる取引類型
訪問販売、電話勧誘販売、訪問購入、通信販売、特定継続的役務提供、連鎖販売取引、
③務提供誘引販売取引の7類型があります。 これをさらに4分類すると、①不意打ち勧誘
型として、訪問販売、電話勧誘販売、訪問購入があります。②消費者・事③者隔地型は1つ
しかないのですが、通信販売がこれにあたります。隔地型特有の規制があるのですが、逆に隔地だから不意打ち性がないのも特徴です。それから、③長期高額負担を伴う役務提供型として、特定継続的役務提供、④利益収受誘引型として、連鎖販売取引と③務提供誘引販売取引があります。
平成26年までの統計によると、この7類型のうち相談件数が最も多かったのは通信販売です。これはおそらく現在においても同じで、インターネットの普及により、通信販売についての相談は今後も増えていくと思われます。
(2)特商法の適用対象(当事者)
1 購入者等
消費者契約法の適用対象は消費者と事③者でしたが、特商法は購入者・申込者等と事③者ですので、消費者以外にも適用され得ます。契約の営利性、営③性の観点から見て、これがない場合には、いわゆるBtoBの場合でも購入者等に含まれることがあります。例えば、一般的な会社がオフィスに設置する消火器を買うなどという場合に、それがその会社の営利性、営③性と全く関係ない取引であれば、特商法の適用があり得るということです。
2 事業者
事③者とは、販売③者、役務提供事③者、購入③者をいい、営利の意思があるか、取引が反復、継続しているか否かで判断されます。
(3)規制態様
特商法は基本的には③法なので、行政法的な規制がまずあり、いくつかの行為については刑事罰があり、さらに消費者救済ということで民事法たる性質も混ざっていると、そういう性質を併せもった法律になっています。
規制態様には以下のものがあります。
1 勧誘行為等の規制
①事③者の勧誘に先立つ氏名、契約目的等の明示義務
②不招請勧誘の禁止
呼ばれてもいないのに来るんじゃないということです。これは7類型のうち訪問購入にだけある規制です。
③勧誘を受ける意思の確認義務
④拒否者への勧誘禁止
⑤書面交付義務
⑥禁止行為(不実告知、威迫困惑、迷惑勧誘、適合性原則違反等)
2 広告規制
①表示事項にかかる義務
②誇大広告の禁止
③あらかじめ承諾のない電子メール広告の送信禁止
通信販売と連鎖販売取引と③務提供誘引販売取引にだけこの規定があり、オプトイン規制と言ったりもします。「オプト」というのは選択するということです。「オプトイン」というのは、取引に入るかどうかを購入者等が選択できるということです。
④ファックス広告規制
これは通信販売についてだけですが、平成 28年改正で新設されました。
(4)規制違反の効果― 行政処分、刑事罰
平成28年の改正では、主として悪質③者に対する対応として行政処分や刑事罰がかなり強化されました。
1 行政規制
行政規制に違反した③者の 必要的公表 や、消費者利益保護のための措置、例えば不実告知を行った事③者がいた場合に、不実告知をして行政処分を受けたことを既存顧客に通知しなさいと行政が指示するなどというものがあります。
業務停止命令は前々からありますが、期間が1年から2年に伸長されました。また、業務 禁止命令が新しくできました。悪質③者は新しい会社をどんどん立ち上げて同じようなことをしたりするのですが、悪質な行為をして
いた③者の役員や、実質的役員と言えるような立場の人間が、何年間か同様の事③をすることを禁止するというものです。それから報告徴収、立入調査権限も強化されています。 2 刑事罰
個別の説明は割愛しますが、例えば書面交付義務は、義務違反があれば直ちに刑事罰が科されます。そのほかに、義務違反があった場合には、まず行政処分(指示行為)があって、それに従わない場合に刑事罰が科されるという類型もあります。
(5)民事効
1 契約の解消
契約を解消するための手段がいくつか用意されていますが、一番重要と思われるのが ク ーリングオフです。取消権もあります。一部の禁止行為違反があった場合に契約の取消ができ、消費者契約法の改正と同じく、短期時効が6か月から1年に延びています。それから、過量販売解除権は、もともと訪問販売にはあったのですが、平成28年改正により電話勧誘販売にも追加されました。中途解約権は、特定継続的役務提供と連鎖販売取引の2類型にだけ認められています。
2 損害賠償等の制限
違約金規定がある場合でも、通常その時点で解除された場合に確かに生じると言える損害部分に制限されています。
3 適格消費者団体の差止請求
消費者契約法と同様、例えば不実告知などの禁止行為が不特定多数の人に現に行われていたり、あるいは行うおそれがあると認められるような場合に、適格消費者団体がその③者に対して差止請求をすることができます。 4 クーリングオフ―要件事実
クーリングオフは、7つの取引類型のうち、通信販売以外の類型全てにあります。ただし、連鎖販売の場合と③務提供誘引販売取引の場合は、事③所等によらない個人がそういった契約をさせられた場合にだけクーリングオフの適用があります。例えば連鎖販売取引を勧誘された個人が、自分でもお店を構えてマルチ商法的にやっているような場合は保護の必
要性が薄いので、クーリングオフに限らず、保護規定はほとんど適用されません。
クーリングオフの話に戻りますが、消費者契約法の取り消しと違い、書面による撤回・解除の意思表示が必要とされています。行使期間は法定書面を受け取ってから原則8日間です。大事なのは、初日参入だということです。ただし、利益収受誘引型である連鎖販売取引と③務提供誘引販売取引の場合は、8日間が20日間に伸長されています。それからもう1つ大事なのは、発信主義だということです。8日以内に届く必要はないし、事③者が受け取り拒否をしても、クーリングオフとしては問題ないとされています。これは強行法規ですので、契約等で変えることができません。なお、書面による必要があるのが原則なのですが、裁判例の中には、口頭での告知でも、告知をした事実に争いがない場合にクーリングオフを認めた例もありますので、相談に来られた時に、もうクーリングオフ期間が過ぎている場合でも、期間内に口頭でも言わなかったのかを聞いておいた方がいいでしょう。③者がそれを争わない場合にはクーリングオフが認められ得るということです。
なお、適用除外該当事由が取引類型ごとに
細かく定められていますので、個別に確認する必要があろうかと思います。
5 クーリングオフ―不備書面の例
先ほどご説明したとおり、法定書面が交付されてから一定期間内にクーリングオフしなければいけないのですが、書面の記載事項については非常に厳格に定められています。書面が交付されない場合はもちろん、交付された書面が規定どおりになっていない、必要事項が記載されていない場合には、法定期間がスタートしません。ですから、通信販売以外の取引類型の場合であって、契約書が渡されていないとか、赤字で書かれていなければいけないところが赤字で書かれていない、文字が小さすぎるなど、そういう規定に引っかかってくると、今からでもクーリングオフができる可能性があるということになります。
今言ったような規定は、特商法の条文にも
書かれていますし、施行規則にも類型ごとにかなり細かく定められています。ただ、どこまでの書面不備だとクーリングオフの法定期間がスタートしないのかという点については争いがあるようで、ごくわずかな不備でもクーリングオフができるのかというと、それは疑義があるようです。勧誘時の説明と併せて申込者がきちんとクーリングオフ等について理解しているんだったら多少の不備は問題としないとする勧誘方法考慮説、契約内容の理解に影響を及ぼすような重要事項の不備がある場合は駄目とする重要事項説、少しでも不備があれば駄目とする厳格説というのもあって、裁判例も分かれている状況です。少なくとも購入者、申込者等にとって重要な事項についての不備がある場合には不備を主張できるということは言えるのかなと思います。
それから、クーリングオフ妨害があった場
合、例えば、この契約はクーリングオフができないなどと言われ、行使期間が過ぎてしまったという場合でも、改めてクーリングオフができる旨の書面が交付されない限りは、法定期間はスタートしないということも大事です。
6 クーリングオフの効果
これは非常に購入者等に有利になっています。例えば商品を購入した場合、それを原状回復で戻すわけですが、その返送費用は事③者の負担です。使用済み商品の使用利益や、既に提供を受けてしまった役務の対価も返還は不要ですので、クーリングオフは非常に強力な手段と言えると思います。
7 法定返品権(通信販売のみ)
クーリングオフが唯一認められていない通信販売ですが、その代わり法定返品権が15条の2で定められています。ただし、これは返品についての特約を表示することで排除可能です。
では、どういう場合に特約を表示していると言えるのか、どういう表示が正しい表示の仕方としてあるべきかということについては、消費者庁のガイドラインに記載されています。ざっくり言うと、消費者、購入者等にとにか
く分かりやすいことが必要で、字が小さかったり、インターネット上だと長いことスクロールした末にようやく出てくる、どこにあるのか分からないなど、こういうものは特約を表示したとは言えない、つまり法定返品権が使えるということになります。
法定返品権が使える場合には、契約がなされた後、商品の引き渡し、もしくは特定権利の移転を受けた日から8日間を経過するまでの間に解除の意思表示をすることで、返品、解除ができます。クーリングオフと違って具体的な効果の規定がありませんので、民法の原則どおり原状回復をしなければならず、返品等に要する費用も購入者等が負担しなければいけません。
8 取消権
訪問購入と通信販売には取消権がないのですが、それ以外の類型にはあります。対象となる禁止行為は不実告知と不利益事実の不告知の2つだけです。
ただ、この不実告知と不利益事実の不告知は、消費者契約法に比べると非常に範囲が広いです。何が広いかというと重要事項です。特商法6条1項各号が不実告知の対象事項なのですが、6号は、顧客が当該売買契約または当該役務提供契約の締結を必要とする事情に関する事項で、動機が全部入りそうです。締結を必要とする事情について不実告知があれば取り消せるということです。さらに7号は、
「前各号に掲げるもののほか、当該売買契約又は当該役務提供契約に関する事項であつて、顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」と、非常に包括的な規定が置かれており、一般に判断するにおいて重要だという事項について不実告知、不利益事実の不告知があれば、その契約は取り消せるということになります。
ただ、効果としては、クーリングオフのような具体的な規定が欠けているので、クーリングオフが使える場合にはその方が有利です。クーリングオフ期間を過ぎてしまった場合に取消権の行使を考えるということになります。
ただし、追認できるときから1年、購入のときから5年で時効にかかります。
9 過量販売解除
訪問販売と電話勧誘販売にだけ適用があります。何が通常必要とされる分量を著しく超えるかという目安については、公益社団法人日本訪問販売協会が、通常過量にはならない分量の目安を公表しています。
例えば寝具。布団、掛け布団、敷布団が基本で、これに枕、シーツ、毛布などを組み合わせたものも含み、原則として1人が使用する量は1組です。これは当たり前ですかね。少し当たり前ではなさそうなものでいうと、例えば住宅リフォームは、原則、築年数10年以上の住宅1戸につき1工事だと。これは過量にあたらない方の目安なので、これを超えたらいきなり過量販売解除ができるわけではないのですが、これを著しく超えると言える場合には解除できることになります。
(6)最近の法改正の状況
平成20(2008)年の改正では、訪問販売、電話勧誘販売、通信販売の対象となる商品、役務について、もともとは指定商品、指定役務という形で指定制がとられていたのですが、これが廃止され、適用除外があるだけになりました。平成24(2012)年改正では、訪問購入が追加されました。
平成28年改正は、とにかく悪質事③者への対応が肝な改正でした。対象については、権利は指定制が残っていたのですが、これも特定権利と名前が変わり、規制対象も少し拡大しました。消費者庁のホームページに概要図が掲載されていますので参照してください。
http://www.caa.go.jp/policies/policy/ consumer_transaction/amendment/2016/ pdf/trade_index_1_170907_0001.pdf
(7)適用除外
訪問販売、電話勧誘販売、通信販売については、26条で適用除外が規定されています。それ以外は類型ごとに適用除外の条文が入っています。除外の仕方も、全面的な適用除外から、書面交付義務、クーリングオフ、損害賠償額の制限の適用除外など、規定の一部の
みの適用除外もあります。特商法施行令の方でも細かな適用除外が定められています。
2 各論
(1)訪問販売
訪問販売が特商法で最初に定められていた類型です。法律の名前も「訪問販売に関する法律」、そんな名前でした。要件は、①販売業者または役務提供事業者が、②購入者等に対 し、③営業所等以外の場所において、④商品、役務、特定権利の、⑤契約の申込みを受け、または契約を締結して行う取引です。
要件③については、訪問販売というといかにも自宅を訪問するイメージがありますが、営③所等以外の場所であれば訪問販売にあたります。例えば喫茶店に行って契約を締結しようとする場合なども訪問販売です。営③所等というのは、営③所や代理店、屋台店などです。そのほか、購入者等が、ここはこういう店舗でこういうものを売っていると分かるような場所は営③所等にあたります。訪問販売というのは不意打ち勧誘型なものですから、それ以外の場所に③者が来て、契約締結を勧誘されてしまう場合が規制されるということです。ただし、例外があり、キャッチセールス、アポイントメントセールスについては、営③所等での契約の申込み、締結であっても訪問販売に含まれます。キャッチセールスは営③所等以外の場所で、お客さんをちょっとちょっとと言って引っ張っていって営③所等に連れ込むわけです。そうすると、購入者等としてはそんなつもりはないのに連れていかれて、不意打ちの可能性があるので、訪問販売の規制が必要だということです。アポイントメントセールスには2種類あります。1つは目的を秘匿して営③所等に来させる場合です。例えばアンケートに答えてほしいのでこの日にここに来てくださいと言って、行ってみたら宝石の販売の勧誘を受けたなどといった場合です。もう1つは、著しく有利な条件を言わ
れて呼ばれる場合です。あなたが抽選に当選
しましたと、極めて安い値段で今だけあなた
だけ非常に有利な条件で契約できますよみたいな形で呼ばれた場合、これもアポイントメントセールスに含まれて訪問販売の規定が適用されます。不意打ちになるかどうかという観点から判断するということになります。
では、訪問販売にあたる場合、どのような規制があるかですが、まず行政規制としては、事③所の氏名等の明示(3条)、再勧誘の禁止等(3条の2)、書面の交付(4条、5条)、禁止行為(6条)、行政処分・罰則があります。
民事ルールとしては、まず、クーリングオフができます(9条)。過量販売解除もできます(9条の2)。さらに、不実告知、不利益事実の不告知の場合は取消し対象です(9条の3)。解除の場合、損害賠償等の額の制限があります(10条)。取引類型ごとに定め方があるのですが、要はその時点で③者に通常生じる損害にとどめるということです。商品や権利を引き渡す前に解除された場合は、契約の締結や履行に通常要する費用の額。商品を渡したあるいは役務を提供した後は、販売価格に相当する額、提供した役務の対価に相当する額。商品や権利が返還された場合は、通常の使用料の額、つまり返還するまでの使用利益だけを損害賠償額として制限しましょうということになっています。契約条項で違約金がとても高く定めてあって、これでは解除を躊躇するという場合でも、この条項があるので安心だということです。なお、6%の遅延損害金が
付きます。
(2)電話勧誘販売
①販売業者または役務提供事業者が、②電 話をかけ、または政令で定める方法で電話をかけさせることにより、③その電話で売買契約(商品・特定権利)または役務提供契約の締結について勧誘をし、④上記勧誘によって契約の申込みをし、あるいは契約を締結して行う取引をいいます。電話勧誘販売という字面からすると、事③者が電話をかけて勧誘してきそうなものですが、一定の場合には申込者等の方が電話をかけさせられた場合も電話勧誘販売にあたり得るとされています。どういう場合かといいますと、先ほどの訪問販売
の場合と非常に似ていて、やはり不意打ちにあたるかということで、1つ目は勧誘目的を秘匿されて電話をかけさせられた、例えばチラシが自宅に届いてその商品の勧誘目的が書いてなくて電話をかけさせられるような場合です。2つ目は有利条件告知による架電要請というもので、ほかの人よりも著しく有利な条件で契約できると告げて電話をかけさせるような場合です。これらは電話勧誘販売の規制対象になります。
要件④で、「上記勧誘によって契約の申込みをし」になっていますので、電話勧誘での勧誘を受けた後に、いつぐらいまでに契約をしなければいけないのかということも問題になります。例えば電話勧誘がずっと前にあって、長期間、間があいてしまうと、④の要件を満たさないとされ、物の本では1か月ぐらいであると考えられているようです。
電話勧誘販売の行政規制は、ほとんど訪問販売と一緒です。唯一違うのは、前払式電話 勧誘販売における承諾等の通知(20条)というものです。商品や役務を受け取る前に代金の全部もしくは一部が支払われた場合には、事
③者は、申込者等からの申込みに対して承諾をするかどうか、代金はいくらか、事③者の氏名、住所、電話番号などを事細かに書いた書面を渡さなければいけないという規定です。
(3)訪問購入
①購入業者が、②消費者に対し、③営業所 等以外の場所において、④売買契約の申込みを受け、または契約を締結して行う物品の購入をいいます。いわゆる押し買いと言われるもので、リサイクル③者みたいな③者が突然自宅を訪問して、何かいいものはないですかと言って貴金属などを買っていってしまい、それが不当に安かったことが後で分かっても、もうどこの③者かも分からないというケースです。それが新しく規制対象になりました。
売買契約の相手方(訪問された側)の利益を損なうおそれがないと認められるような物品、訪問購入の規制対象となると流通が著しく害されるおそれがあると認められる物品については、訪問購入の規制対象外となります。
例えば自動車、家具、書籍などは対象外になっています。
訪問購入の規制には、少し特徴的な規制がいくつかあります。まず、不招請勧誘の禁止です。特商法で不招請勧誘禁止が入っているのは訪問購入だけです。要は、飛び込みで勧誘しては駄目だと。事前に承諾があるところにだけ行くということです。それから、例えば査定をお願いしますと言われて査定に来たのに、その場で買取の勧誘までしてしまうと、呼ばれた趣旨を超えてしまうのでこれも駄目ということになっています。
それから、特徴的なのが、クーリングオフの実行性を担保するための手段がいくつか用意されているということです。訪問購入の場合、③者が来てお金を払って商品を持っていってしまいます。持っていってしまった後にクーリングオフだと言ってもその実行性が担保できないからです。まず、物品の引き渡しの拒絶ができます(58条の15)。8日間のクーリングオフ期間が経過するまでは、引き渡しの時期を過ぎていても引き渡し拒絶権があります。また、事③者は引き渡し拒絶権があるということを告知しなければいけません(58条の9)。さらに、物品の引き渡しがあった場合に、転売するなどしてその物品を第三者に引き渡した場合には、それを契約の相手方
(訪問された方)に通知しなければいけないし
(58条の11)、その第三者に対しては、将来的にクーリングオフされるかもしれないということを通知しなければいけません(58条の11の2)。
(4)通信販売
要件としては、①販売業者又は役務提供事 業者が、②郵便その他の主務省令で定める方法により、③売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは特定権利の販売又は役務の提供で、電話勧誘販売に該当しないものをいいます。電話勧誘販売も通信販売と同様に、隔地間で行われ得るわけですが、電話勧誘販売に該当するものは電話勧誘販売の方が保護が厚いので、こちらで規制され、それに該当しないものが通信販売の規制対象
となります。
ちなみに要件②の「郵便その他の方法」というのは、郵便、信書便、電話機、ファクス、その他の通信機器、電報などが入ってきますが、今では専らインターネットでしょう。
通信販売の行政規制には、まず広告規制があります。通信販売の場合、顔も見えなければ現物も見られず、広告に載っている情報が申込者から見られる情報の全てということになりますので、広告表示が非常に細かく規制されています(11条)。ただ、一定の場合には広告の表示事項を省略できる場合があり、これも非常に細かく分かれていますが、ここでは割愛します。それから誇大広告等の禁止
(12条)、未承諾者に対する電子メール広告の提供の禁止(12条の3、12条の4)もあります。オプトイン規制です。ただ、通信販売はクーリングオフ規定がないところからも分かるように、不意打ち性がまずないので、急かされたりということが普通は考えにくく、長期的に拘束されるような取引も想定されませんし、サイドビジネス的な勧誘ということにも普通はならないものですから、規制としては非常に緩やかだということを知っておいていただければと思います。
特徴的な規制でいいますと、契約解除に伴 う債務不履行の禁止(14条)というものがあります。通信販売で特約がない場合には、法定返品権の行使ができ、その場合、原状回復義務が双方に課されるわけですが、隔地間のためその原状回復を履行しないということがままあり得るものですから、別途、行政規制が課されているということです。前払式通信販売の承諾等の通知(13条)は、電話勧誘販売のところでお話ししたものと同じで、通信販売でも前払いの類型がありますので、その場合には承諾等の通知を書面で出さなければいけないということになっています。
(5)特定継続的役務提供
①国民の日常生活にかかる取引において、
②有償で、③継続的に提供される役務をもって誘引が行われ、④その役務の性質上から目的が実現するかどうかが確実でないものとし
て政令で定めるものをいい、7類型あります。具体的には、エステ、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービス、美容医療です。美容医療は、平成28年改正に伴う施行令改正で入りました。ちなみに、エステと美容医療は何が違うのかというと、対象はほとんど一緒です。歯牙を漂白するというのが美容医療には入っていてエステには入っていないのですが、それ以外は全部一緒で、あとは医師が担当するかどうかの違いです。
要件④の「目的が実現するかどうかが確実でない」というのは、例えばエステでとてもきれいになりますと言っても、きれいにならないこともあり得るわけです。それはあなたの体質の問題ですねなどと言われてしまうと、効果のほどは分からない。語学教室も一生懸命英語を勉強しても一定の成果に達しないこともあるわけですが、これも少し努力が足りませんでしたねと言われてしまうと、本当はろくでもない講師陣だったとしてもそれは分からない。効果が非常に分かりにくいものですから付け込まれやすく、しかも一定期間継続するような内容で一定以上の金額を払うものだとすると、悪質③者がはびこりやすいということで規制されています。指定期間と指定金額というものが定められており、これを超えないと特定継続的役務提供にはあたりません。指定金額には、契約金、入学金、受講料、教材費などといったものが含まれ、合計が5万円を超える場合は規制の対象になります。
規制については、書面の交付義務がまずあ
ります(42条)。概要書面と契約書面の両方を交付しないといけません。取引がややこしいものになりやすいため、概要書面で説明をされて、さらに契約書面でもきちんと説明されることが消費者保護に資するだろうということで両方必要とされています。
民事ルールとしては、中途解約権(49条)があり、これが非常に特徴的なものです。クーリングオフもあるのですが(48条)、クーリングオフは8日間以内ですし、例外規定があっ
て、使用もしくは一部の消費によって価額が著しく減少してしまうおそれがある場合にはクーリングオフはできないとなっています。中途解約権は、クーリングオフ期間の経過後、将来に向かって解除する行為をいいます。中途解約した場合の事③所の損害賠償金、違約金の上限が制限されているのが特徴的です。その制限は、役務提供開始前の中途解約なのか、役務提供開始後の中途解約なのかによって変わってきます( 図表1 )。
(6)連鎖販売取引
これは、マルチ商法を規制する趣旨でつくられた規定です。マルチ商法というとねずみ講があるのですが、ねずみ講はねずみ講で別の法律で全面禁止されています。ねずみ講とマルチ商法は何が違うのかというと、ねずみ講は商品や役務が行き来せず、お金だけが動きます。ねずみの子供をたくさん集めれば集めるほどお金がもらえるというものがねずみ講なのですけれども、マルチ商法というのはそのピラミッド型の仕組みに商品や役務提供を絡めたもので、これが連鎖販売取引として規定されており、ねずみ講と違って全面禁止ではありませんが、かなり厳しい規制になっています。
図表1 特定継続的役務提供-損害賠償の制限
要件は、①物品の販売(または役務の提供 など)の事業であって、②再販売、受託販売、もしくは販売のあっせん(または役務の提供もしくはそのあっせん)をする者を、③特定利益が得られると誘引し、④特定負担を伴う取引(取引条件の変更を含む)をするものをいいます。
③特定利益と④特定負担というのが重要な要件なのですが、③特定利益というのは、取引料、加盟料、保証金その他如何なる名義をもってするかを問わず、取引をするに際し、又は取引条件を変更するに際し提供される金品をいいます。例えば、ある商品を10人に販売したらあなたのランクがシルバーコースに上がり、次からは勧誘1人あたりいくらになりますなど、そういう利益のことです。④特定負担というのは、その商品の購入もしくはその役務の対価の支払又は取引料の提供のことで、例えば、美顔器や健康食品などを在庫としてまとめて購入させられる場合のその代金を特定負担といいます。
先ほど言ったとおり連鎖販売取引は規制がかなり厳しくなっており、ほぼ全ての規制が入っています。今まで出てきていないところでいうと、解除をされた場合の原状回復義務 の履行拒否・不当遅延の禁止などがあります。特徴的なのは、これはマルチ商法を規制するものですから、勧誘をした相手方だけでなく、そのトップにいる統括者、実質的に連鎖販売
③を掌握している者ということになりますが、その統括者に対しても規制があります。
それから、民事ルールですが、今お話しした連鎖販売取引と、これからお話しする③務提供誘引販売取引のクーリングオフの期間は、 20日間とされています。法定書面の交付がない場合は、交付されてから20日間です。この2類型については非常に取引内容が複雑であったり、あるいは熟慮期間がある程度ないと決断ができないということで、20日間に設定さ
指定役務 | 役務提供開始前 | 役務提供開始後(①と②の合算) | |
①(49条2項1号イ) | ②(49条2項1号ロ、令15条) | ||
エステティックサロン | 2万円 | 提供された特定継続的役務の対価に相当する額 | 2万円or契約残額の10%相当額のいずれか低い額 |
語学教室 | 1万5千円 | 5万円or契約残額の20%相当額のいずれか低い額 | |
家庭教師等 | 2万円 | 5万円or1月分の役務の対価相当額のいずれか低い額 | |
学習塾 | 1万1千円 | 2万円or1月分の役務の対価相当額のいずれか低い額 | |
パソコン教室 | 1万5千円 | 5万円or契約残額の20%相当額のいずれか低い額 | |
結婚相手紹介サービス | 3万円 | 2万円or契約残額の20%相当額のいずれか低い額 | |
美容医療 | 2万円 | 2万円or契約残額の10%相当額のいずれか低い額 |
れています。
また、消費者保護規定のうち、書面交付義務やクーリングオフ、中途解約、取消しは、店舗等によらない個人相手の場合に限られるという点が重要です。店舗等の設備を構えてしまっている場合は、クーリングオフはできません。保護の必要性が低いからということです。クーリングオフの効果としては、違約金、損害賠償金の請求はできず、商品引き取りに関する費用は事③者負担となります。これは前に説明した内容と同じです。
(7)業務提供誘引販売取引
これは、いわゆる内職商法、要は、この内職をすればこんなにもうかりますよと言って勧誘しておきながら、実際は全く思ったように販売ができなくて、在庫ばかりたまってマイナスがたくさん出てしまう、というようなものを規制する類型です。
要件としては、①物品の販売または役務の 提供(そのあっせんを含む)の事業であって、
②業務提供利益が得られると相手方を誘引し、
③その者と特定負担を伴う取引をすること をいいます。定義だけと見ると連鎖販売取引との違いが分かりにくいのですが、一番の違いは、得られる利益が特定利益の場合が連鎖販売、③務提供利益の場合が③務提供誘引販売取引です。人をたくさん集めた場合にもらえる利益(いわゆるリクルート報酬)が特定利益で、勧誘をしてきた相手方(事③者)の販売の目的となる商品や提供される役務を利用する③務に従事することで得られる利益が③務提供利益です。例えば、販売されるパソコンとコンピューターソフトを使用して行うホームページ作成の在宅ワークです。事③者はパソコンとコンピューターソフトを販売し、それを使用して行うホームページ作成という
③務に従事することで利益を得るということで、これが③務提供利益にあたります。それから、販売される着物を着用して展示会で接客を行う仕事です。事③者は着物を販売し、それを着用して接客をすることで報酬が得られますよと勧誘します。よくあるのは、そこで報酬が得られるから、事実上着物の代金は
相殺されますよと言われ、タダで着物が手に入るのかなと思ったら、客が全く来なくて代金だけ残ると。しかも、だいたいそれはクレジットだったりします。同じように、モニター商法というのがよくあります。販売する健康寝具を使用した感想を提供するモニター③務です。これは、健康寝具を使用して感想を書くというモニター③務の代金で販売代金がペイされますよと言って勧誘されるわけですが、実際はペイできないということが問題になります。今、②の③務提供利益の話をしてきましたが、着物や寝具の販売代金が③の特定負担にあたります。
インターネットがこれだけ普及してきているので、参考までに、ドロップシッピングの仕組みを紹介します( 図表2 )。右上がドロップシッピング勧誘③者で、左上にいる男性に対して、サイト運営③務をやりませんかと勧誘します。ホームページの作成サポート、システムを利用させるということで役務提供を持ちかけるわけです。この男性は実際それを使って、いろいろサポートを受けながらホームページを作成します。そして、そのホームページに商品を掲載して、下側に書いてある消費者から商品の申込みを受けます。その商品は卸売③者であるドロップシッピング勧誘③者から発送され、男性(サイト開設者)が収益を得られるという形になっています。
ドロップシッピング勧誘③者が男性に対し
て役務提供をすることについて委託料の支払
消費者(サイト閲覧、取引)
商品を申込み
商品を発送
ドロップシッピング勧誘業者
卸売業者、メーカー
受注、発注
=業務の遂行
収益=業務提供利益 ・商品を掲載、
委託料=特定負担 ・サイト運営業務提供をうたい勧誘
・HP作成サポート、
システムを利用させる=役務提供
ドロップシッピング
サイト
・HP作成
図表2 ドロップシッピングの仕組み
がされ、一方、この男性は、ホームページを作成して商品を売り上げることで収益が得られます。ですからこの収益が③務提供利益にあたるのではないか、したがって、③務提供誘引販売取引にあたるのではないかが問題になります。③務提供利益というのは、勧誘③者が提供する商品または役務を利用する③務に従事して得られる利益に限定されています。この図でいうと、ドロップシッピング勧誘③者が提供する③務は、ホームページの作成サポートとかシステムを利用させるというものですが、左上の男性は自らサイトを開設して商品を売っているので、③務提供事③者の商品・役務を利用する③務に従事していると言えるのかが問題となるということです。
これについては裁判例があり、ドロップシッピング一般が③務提供誘引販売取引にあたると言っているわけではないのですが、大阪地判平成23年3月23日(判タ1351号181頁)は、ドロップシッピング契約の全体図を見ると、実質的には事③者がこのネットショッピングの運営もしていると認定し、サイト開設者はその運営の一部の作③に従事しているにすぎない立場なのだということで、これは③務提供誘引販売取引にあたるという判断をしました。アフィリエイトというものもあります
消費者(サイト閲覧、取引)
商品を注文
商品を発送
バナー、リンクを見る
ネット通販業者のサイト
・HP、ブログ作成
・広告、宣伝活動
収益
オススメ
・HP、ブログ作成サポート
・広告業ノウハウ提供
アフィリエイター
委託、利用料
図表3 アフィリエイト
( 図表3 )。これはどういうものかというと、右上にネット通販③者がいて、左上のアフィリエイターに、やはりホームページやブログの作成サポート、あるいは広告③のノウハウ
を提供します。アフィリエイターはそのノウハウを聞いて、ホームページやブログを作ったり広告、宣伝活動をして、そのホームページやブログを見た消費者が、ネット通販③者から商品を購入します。アフィリエイターはサイトの閲覧によりアフィリエイト収入を得ます。あくまでもアフィリエイターは広告活動だけを担当するわけですが、結局アフィリエイターはネット通販③者の提供する広告③ノウハウを利用して収益を得ているということなので、これは得られる収益が③務提供利益にあたるだろうということで、これも③務提供誘引販売取引にあたるだろうと考えられます。
(8)その他
その他として、ネガティブオプション、いわゆる送り付け商法に関しての規定があります(59条)。いきなり商品が送られてくるという商法です。例えば、本やビデオなどがいきなり届きます。夫が注文したのかなと思って妻がそれを受け取ってしまったりするわけです。しかし、実は契約はしていません。契約がないとすると、物品の所有権はどうなるのか、その対処はどうなるのかということが問題になるわけですが、この規定により、届いてから14日が経つと返還義務が消滅するので、その本やビデオは自分のものにできます。それを待っていられないという場合は、事③者に対して引き取りを催告することもできます。催告した場合には7日間が経てば送られてきたものは自分のものにできます。
以上が特商法の概要ですが、類型ごとに独特の規制が取引の特徴に応じて定められていますので、相談を受ける際には、どんな場所で、あるいはどんな文言で勧誘されて、どんな理由で契約したのか、あるいはどんな書類をいつ受け取ったのかというようなことを聞いていくことが重要になってきます。
それでは今日の講演はこれで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。