Contract
主 文
1 原告 D の訴えのうち,被告大阪支店(xx)に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認を求める訴え及び被告大分支店において勤務すべき労働契約上の地位にあることの確認を求める訴えをいずれも却下する。
2 被告は,原告 E に対し,80万円及びこれに対する平成15年2月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告 F に対し,40万円及びこれに対する平成15年2月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告 R に対し,80万円及びこれに対する平成15年2月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
5 原告 E ,同 F 及び同 R のその余の請求,並びにその余の原告らの請求(原告 D の第1項記載の訴えに係る請求を除く。)を,いずれも棄却する。
6 訴訟費用は,次のとおりの負担とする。
(1) 原告 E に生じた費用は,その3分の1を被告の負担とし,その余を原告 E の負担とする。
(2) 原告 F に生じた費用は,その6分の1を被告の負担とし,その余を原告 F の負担とする。
(3) 原告 R に生じた費用は,その3分の1を被告の負担とし,その余を原告 R の負担とする。
(4) その余の原告らに生じた各費用は,いずれも各原告らの負担とする。 (5) 被告に生じた費用は,その30分の1を被告の負担とし,その36分の
1を原告 E の負担とし,その30分の1を原告 F の負担とし,その3
6分の1を原告 R の負担とし,その余をその余の原告らの負担とする。
7 この判決は,第2ないし第4項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
(1) 原告 D (原告4)について
ア 訴えの交換的変更前の請求の趣旨(被告は,原告 D (原告4)の訴えの変更について異議を述べているため,この部分については訴えの取下げがされていないと解する。)
原告 D (原告4)が,被告大阪支店(xx)に勤務すべき労働契約上の義務がないことを確認する。
イ 訴えの交換的変更により追加された請求の趣旨
原告 D (原告4)が,被告大分支店において勤務すべき労働契約上の地位にあることを確認する。
(2) 全ての原告ら(原告 D (原告4)を含む。)について
被告は,原告らに対し,各300万円及びこれらに対する第1事件原告ら(原告1~4)については平成14年11月29日から,第2事件原告ら(原告5~22)については平成15年2月20日から,第3事件原告
(原告23)については平成15年10月31日から各支払済みまで年5
%の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は,被告の負担とする。 (4) (2)について,仮執行宣言
2 被告
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用は,原告らの負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,被告の従業員である原告らが,違法な配転命令を受けたと主張し
て慰謝料請求をするほか,原告 D (原告4)が,その受けた配転命令の効力を争い,配転先に勤務すべき義務のないことの確認と,配転元において勤務する地位の確認を求めている事案である。
2 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。) (1) 当事者等
ア 原告らは,いずれも,昭和30年代後半から昭和40年代にかけて,日本電信電話公社(以下「旧電電公社」という。)に採用され,その従業員となった者である。
イ 旧電電公社は,昭和60年4月1日,日本電信電話株式会社等に関する法律(昭和59年法律第85号。以下「NTT法」という。)に基づき設立された日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)に一切の権利義務を引き継いで解散した。
これにより,原告らは,NTTの従業員となった。
ウ その後,NTT法の改正によりNTTがいわゆる純粋持株会社となったのに伴い,平成11年7月1日,西日本地域(静岡県,愛知県,岐阜県及び富山県以西の地域)における地域電気通信業務を目的とする株式会社として被告が,東日本地域(上記以外の地域)における地域通信業務を目的とする株式会社として東日本電信電話株式会社(以下「NTT東日本」といい,被告とNTT東日本を併せて「東西地域会社」という。)が設立され,それぞれの地域通信事業を承継した。
これにより,原告らは,被告の従業員となった。
エ 原告らは,NTTグループの労働者で組織する通信産業労働組合(以下「通信労組」という。)の組合員である。
NTTグループの従業員らで組織する労働組合には,通信労組の他に, NTT労働組合(NTTグループ内での多数派組合である。以下「NT T労組」という。)など7つの組合がある。
平成13年3月当時,被告のグループ会社内における通信労組の組合員数は約580名であり,また,被告のグループ会社内における組織率は,通信労組が約0.8%であるのに対し,NTT労組は約99%であ
った(甲F1の1・3,乙F1の1,乙D57,証人 c )。 (2) NTT東西の構造改革
ア 構造改革の実施に至るまでの経緯
(ア) NTTは,平成13年4月16日,「NTTグループ3カ年経営計画(2001~2003年度)について」と題する計画(以下「本件
3カ年計画」という。)を発表した(甲A7)。
NTTは,この中で,① 東西地域会社の本体機能を企画・戦略,設備構築・管理,サービス開発,法人営業等に特化させ,注文受付,設備保守・運営,故障修理等の業務については,地域単位(県又は複数県を束ねたブロック)の経営資源活用会社等へ業務委託することや,
② この施策の実施に併せて,従業員のライフプランの多様化等を踏まえつつ,例えば,退職・再雇用等により雇用形態の多様化・処遇の多様化等に取り組み,人的コストの低減を図ることを表明した。
(イ) 被告は,平成13年5月8日,通信労組に対し,「NTT西日本の構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直し等について」を提示した(甲 A9)。
被告は,この中で,概略,① 固定電話・専用線に関わる基本業務を,地域単位で新たに設立する子会社(以下「OS会社」という。)に業務委託(アウトソーシング)すること,② 51歳以上の従業員については,被告を退職させて,従前の賃金の20から30%下回る賃金水準で,OS会社において再雇用すること,③ 50歳以下の従業員については,OS会社に出向させることを提示した。
(ウ) NTT,NTT東日本及び被告は,平成13年10月25日,「当
面の経営課題に対するNTTの取り組み」を発表した(甲A27)。この中で,東西地域会社の従業員の概ね半数以上(6万人程度)を OS会社に移行させること,及び既存の子会社への移行分を含めれば
10万人程度をOS会社等に移行させることを予定していることを公表した。
(エ) 被告は,平成13年11月12日にNTT労組に対し,また,同月
13日に通信労組に対し,「アウトソーシング会社の労働条件等につ
いて」を示した(乙A19,甲F2の1,証人 d )。
被告は,この中で,次のとおり,3つの選択パターンを提示して,構造改革に伴う労働条件諸制度等の見直しを説明した(乙A19)。 a 「繰延型」
50歳で被告を退職し,OS会社に再雇用され60歳で退職し,その後は,現行のキャリアスタッフ制度(定年年齢以後も契約社員としての雇用の可能性を認めた制度。乙F1の2)と同様に,OS会社に再雇用され,最高65歳までの雇用を実現するという形態である。
勤務地が限定的となる一方,所定内給与が低下することから,激変緩和措置と雇用保険などの公的給付の受給との組合せにより,6
1歳以降の充実した生活設計に資する。 b 「一時金型」
雇用の形態としては,「繰延型」と同様である。
激変緩和措置として被告退職時において一時金を受給できるパターンとし,生活設計の多様化に応える。
c 「60歳満了型」
被告本体において,企画・戦略,顧客サービス管理,設備構築,法人営業等に従事する。現行の人事・給与制度の適用を受け,60
歳まで勤務する。
勤務地を問わず,成果業績に応じて高い収入を得る機会を追求する従業員に応える。
(オ) NTT,NTT東日本及び被告は,平成13年11月22日,「N TT東西の構造改革の公表について」を公表した(甲A32)。
この中で,OS会社への移行時期を平成14年5月を目途とすることを明らかにした。
(カ) 被告は,平成13年12月7日,通信労組に対し,「雇用形態・処遇体系の多様化に伴う意向確認等について」を提示した(甲A39)。被告は,この中で,雇用形態の選択等についての各従業員の意向確 認を,意向確認調書等の配布及び回収などにより行うことや,意向確認調書等を提出しない場合には,「60歳満了型」の選択があったも
のとして扱うことを示した。
イ 構造改革における雇用形態の変更(本件計画)の概要
(ア) 被告は,平成13年12月14日,人事部長名で,「雇用形態・処遇体系の多様化に伴う意向確認の実施について」と題する書面を作成し,被告の事業の一部をOS会社へ委託するとともに,被告の従業員の雇用形態を変更させることを内容とする計画(以下「本件計画」という。)を定め,この中で,各従業員に対する意向確認の内容や方法について定めた(甲A43,乙D15)。
なお,被告は,本件計画を実施するに当たって,就業規則の変更を行っていない(乙D19,乙F1の2)。
本件計画の具体的内容は,次のとおりである。 a 目的
被告の構造改革の一環として,グループ一体となりコスト競争力の強化を図り,新たなグループ運営体制の確立に向け,営業系地域
会社,設備系地域会社及び共通系地域会社(これらは,いずれもO S会社と同趣旨のものであり,以下,まとめて「OS会社」という。)を設立し,業務を委託するのに合わせ,従業員の雇用確保及びライフラインの多様化を図る観点から,選択型の雇用形態・処遇体系の多様化を実施することとし,円滑な施策実施を図るため,従業員に意向確認を行う。
b 対象者
(a)51歳以上(平成15年3月31日現在の年齢であり,この日が,本件計画による雇用形態の変更の対象者の範囲を示す年齢の基準日となる。)の従業員(原則として,出向している従業員を含む。)
(b)50歳以下の従業員であって,OS会社への退職・再雇用を希望する者
c 意向確認の内容
雇用形態の選択(後記d),「繰延型」又は「一時金型」を選択した場合の再雇用先の希望会社等(後記e)について,各従業員に対する意向確認を行う。
d 雇用形態
(a)「繰延型」
51歳以上の従業員が平成14年4月30日に被告を退職し,同年5月1日にOS会社に再雇用され,60歳定年制により60歳まで勤務した後,61歳以降は,現行のキャリアスタッフ制度と同様の枠組みで,契約社員としてOS会社に再雇用され,最長
65歳までの雇用を実現する形態である。
勤務地が府・県内に限定的となる一方で,月例給与が20から
30%低下するが,激変緩和措置として契約社員期間において給
与加算が行われ,雇用保険などの公的給付や企業年金(税制適格年金)の受給の組合せにより,61歳以降の充実した生活設計に資する。
(b)「一時金型」
雇用形態としては「繰延型」と同様であるが,月例給与が20から30%低下することに対する激変緩和措置については,平成
14年4月30日の被告退職時に一時金として支給する形態とし,生活設計の多様化に応える(なお,「繰延型」及び「一時金型」は,いずれも被告を退職してOS会社に再雇用されるというものであるから,以下,これらをまとめて「退職・再雇用」ということがある。)。
(c)「60歳満了型」
被告の本社・支店において,本社・支店の業務(企画・戦略,設備構築,サービス開発,法人営業等の業務)に従事,又はOS会社以外のグループ会社へ出向し,60歳まで勤務する形態である。
転用・配置換又は出向により,市場性の高いエリア等を中心として勤務地を問わず,成果業績に応じて高い収入を得る機会を追求する意欲を持った従業員に応える。
e 再雇用先のOS会社等
(a)「繰延型」又は「一時金型」を選択した従業員の再雇用先
外部委託される業務に従事している従業員は,原則として,その業務が移行する地域単位のOS会社を再雇用先とし,外部委託される業務以外に従事している従業員は,本人の業務経験,スキル及び希望等,並びにOS会社の人員状況等を考慮し決定する。
(b)勤務地については,原則として府・県単位の事業所とし,次の
いずれかから選択する。
① 退職時に勤務している支店等が所在する府・県
② 採用後に初期配属された組織の所在地に対応する府・県
なお,①,②以外に希望がある場合には,本人事情等を考慮し,例外的に採用後に初期配属された組織以外の採用旧支社管内の府
・県も選択できるものとする。 f 意向確認調書
具体的な意向確認に当たっては,定型の意向確認調書により被告に申し出ることとし,意向確認調書の記入に当たっては,面談等を行うこととする。
意向確認調書を提出しない従業員,及び意向確認調書を提出するが雇用形態を選択しない従業員については,「60歳満了型」の意向があるものとみなす。
g 意向確認期間
意向確認期間は,平成13年12月17日から平成14年1月3
1日までとする。
(イ) 被告は,平成14年1月4日,前記(ア)と同趣旨の社長達を発した。ウ OS会社の設立及び業務委託の実施
(ア) 被告は,次のとおり,OS会社等を設立するとともに,既存の被告のグループ会社を再編成することとし,その旨を平成14年4月3日に公表した(乙D14,乙D18)。
a 営業系及び設備系地域会社の統括会社
次の2社を統括会社とする。これらは,いずれも,被告の100%出資により,平成13年10月31日に設立された会社である。
(a)営業系統括会社
「株式会社エヌ・ティ・ティ マーケティング アクト」(以下「ア
クト社」という。)
(b)設備系統括会社
「株式会社エヌ・ティ・ティ ネオメイト」(以下「ネオメイト社」という。)
b 営業系地域会社
アクト社の100%出資により,15の営業地域に営業系地域会社各1社を設立し,それらの名称をいずれも「株式会社エヌ・ティ・ティ マーケティング アクト + 地域名」とする(以下,これらの営業系地域会社(15社)を「アクト各社」という。)。
c 設備系地域会社
ネオメイト社の100%出資により,15の営業地域に設備系地域会社各1社を設立し,それらの名称をいずれも「株式会社エヌ・ティ
・ティ ネオメイト + 地域名」とする。これらのほか,ネオメイト社とアクト社との合計100%出資により設立された株式会社エヌ・ティ・ティ・ドゥ(上記15の営業地域外である沖縄県を担当)を加えた16社を,設備系地域会社とする(以下,これらの設備系地域会社(16社)を「ネオメイト各社」という。)。
d 共通系地域会社
株式会社エヌ・ティ・ティ ビジネスアソシエ(NTTの100%出資の既存子会社)と被告との合計100%出資により,16の地 域に共通系地域会社各1社を設立し,それらの名称をいずれも「株 式会社エヌ・ティ・ティ ビジネスアソシエ + 地域名」とする(以 下,これらの共通系地域会社(16社)を「アソシエ各社」という。)。 (イ) 被告は,平成14年5月1日から,次のとおり,被告で行っている料金請求,商品販売,故障修理,設備オペレーション,総務,経理等
の業務を,OS会社に業務委託した(乙A29,乙D14)。
a 営業系地域会社
被告は,各種注文受付(116番業務),料金請求業務,公衆電話事業及び電報事業の運営などのサービス系業務の実施や,ネットワーク商品等の販売に関わるユーザー対応,販売活動等の実施を,アクト各社に委託した。
b 設備系地域会社
被告は,電気通信設備の監視・制御に関するオペレーション業務及び保全管理業務や,故障受付業務(113番業務)を,ネオメイト各社に委託した。
c 共通系地域会社
被告は,① 総務,厚生,ビル・土地管理等業務の実施,② 人事・給与,人材育成業務の実施,③ 経理,契約業務の実施を,アソシエ各社に委託した。
エ 本件計画の実施
(ア) NTT労組は,本件計画を了承したが,通信労組は,本件計画を了承しなかった。
(イ) 被告は,従業員に対し,平成13年12月19日から,意向確認手続についての説明を開始し,同月25日から,意向確認調書を配布し,個別面談を開始し,その上で,平成14年1月4日から同月3
1日までの間に意向確認調書等を提出するように求めた。
「繰延型」又は「一時金型」を選択した従業員に対しては,被告は,平成14年2月から,xx,辞職承認通知書を交付し,同年4月30日をもって退職することを承認する旨と,退職日の翌日をもってOS会社に雇用される旨とを通知した。
他方,「60歳満了型」を選択した従業員や,意向確認調書等を提出しないために「60歳満了型」の意向があるものとみなされた従
業員(前記ア(カ),イ(ア)f参照)に対しては,ソリューション営業(企業等から出される業務上の要求や企業等に存する問題点等を 分析し,より効率的かつ円滑な業務運営を図ることができるような システムを企画・構築し,それを保守・運用するというサービスの 総称)に従事させることとし,平成14年4月ころから,大阪支店 での兼務発令をした上で,大阪支店で研修を実施する計画を示した。 (ウ) 本件計画の実施により,OS会社に移管される業務に従事していた被告従業員のうち51歳以上の希望者は,被告を退職し,OS会社 が再雇用した。また,被告は,OS会社に移管される業務に従事し ていた被告従業員のうち50歳以下の者については,その大半をO
S会社に出向させた。
「60歳満了型」を選択した従業員(そのようにみなされた者も含む。)は,平成14年5月1日当時,463名(雇用形態を選択すべき従業員のうちの約1.7%に当たる。)であった。
これにより,被告の従業員数は,平成14年3月には約5万04
50人(出向者を除く。)であったが,平成14年5月1日には約1万5600人(出向者を除く。)となった(乙D1)。
(エ) 被告は,ソリューション営業に従事させることとなった60歳満了型の従業員のために,営業スキルを与えるための研修を行った(以下,この研修を「本件スキル転換研修」という。)。
本件スキル転換研修は,NTT西日本研修センター(大阪市内)における集合研修(2週間の座学),及び大阪支店での業務研修(2週間の実践)により構成され,平成14年4月,5月,6月,10月,
11月及び12月の計6回,各月50名程度ずつで実施した。オ 原告らに対する本件配転命令
(ア) 意向確認
原告らは,いずれも,意向確認調書等(前記エ(イ)参照)を提出しなかった(甲E17の2,24)。
そのため,被告は,原告らを「60歳満了型」の従業員として扱うこととした。
(イ) 第1事件原告ら(原告1~4)に対する配転命令(本件配転命令1)被告は,平成14年5月ないし6月,第1事件原告ら(原告1~4) に対して,別紙配置転換目録記載1ないし4のとおり配転する旨の命令を発した(以下,これらの配転命令をまとめて「本件配転命令1」
という。)。
(ウ) 第2及び第3事件原告ら(原告5~23)に対する第1次配転命令
(本件配転命令2)
被告は,平成14年4月23日,第2事件及び第3事件原告ら(原告5~23)に対して,別紙配置転換目録記載5ないし23の各「(1)第1次配転」のとおり配転する旨の命令を発した(以下,これらの配転命令をまとめて「本件配転命令2」という。)。
(エ) 第2及び第3事件原告ら(原告5~23)に対する第2次配転命令
(本件配転命令3)
その後,被告は,平成14年11月ないし12月,第2事件及び第
3事件原告ら(原告5~23)に対して,別紙配置転換目録記載5ないし23の各「(2)第2次配転」のとおり配転する旨の命令を発した
(以下,これらの配転命令をまとめて「本件配転命令3」といい,本件配転命令1ないし3をまとめて「本件配転命令」という。)。
(オ) 原告らは,いずれも,本件配転命令について同意したことがない。 (カ) 原告らは,本件配転命令により,各配転先において,次のような業
務に従事することとなった。 a 本件配転命令1及び2
原告らは,本件配転命令1及び2により,各配転先において,ソリューション営業を担当することとなった。
原告らは,このソリューション営業として,具体的には,1,
2回線事業者(電話回線を1又は2回線利用している事業者を意味する。)等の小口のユーザーに対するインターネット接続に関連する商品の営業を担当していた。
b 本件配転命令3
(a)名古屋MI担当
本件配転命令3により名古屋支店第1ソリューション営業部ソリューションSE担当(SEとは,システムエンジニアの略で,情報通信システムの設計・施工管理などの業務を意味する。)に配属された原告ら9名(原告5~12,23)は,その配転先において,MI業務(メインテナンス・インテグレーションの略で,ユーザー設備の運用・保守を集中して行う業務を意味する。)を担当することとなった(以下「名古屋MI担当」という。)。
これらの原告らは,このMI業務として,平成14年11月ないし12月ころには,保守手引書と呼ばれる文書の修正等の作業に着手した。
(b)名古屋支店営業企画部Bフレッツ販売推進PT担当(以下「名古屋BフレッツPT担当」という。)について
本件配転命令3により名古屋BフレッツPT担当となった原告ら(原告13~22)は,20戸未満のマンションに対する Bフレッツ(被告が提供している光ファイバーによる定額制のインターネット接続サービスである(乙D28の1・2)。後記 (5)イ参照)の販売を担当することとなった。
(3) 原告らの略歴(退職,再配転命令等)
ア 原告 A (原告1),原告 B (原告2),原告 I (原告9)及び原告 M (原告13)は,いずれも,平成18年3月31日に,被告を定年退職した(甲D124,甲E2の1,甲E9,甲E13の1)。
また,原告 U (原告21)は,平成17年5月に,被告を退職した。
イ 原告 D (原告4)及び前記ア記載の退職済みの原告5名(原告1,
2,9,13,21)を除く,その余の原告らは,いずれも,平成18年7月1日付けで再配転されるなどした結果,既に本件配転命令の際の配転元の近辺で勤務している。
ウ 原告らの,その他の略歴は,別紙経歴表に記載のとおりである(甲E
2の1,甲E4の1,甲E5の1,甲E6の1,甲E7の1,甲E8の
1,甲E10の1,甲E11の1,甲E12の1,甲E13の1,甲E
14の1,甲E15の1,甲E16の1,甲E17の1,甲E19の1,甲E20の1,甲E23の1,甲E24)。
(4) 被告等における就業規則の内容
ア 旧電電公社及び被告における各就業規則においては,配転について次のような規定が置かれている。
(ア) 旧電電公社の就業規則(昭和31年12月20日制定。乙D23)職員は,業務上必要があるときは,勤務局所又は担当する職務を変
更されることがある(51条)。
(イ) 被告の就業規則(平成11年7月1日制定。乙D19)
a 社員(2条:被告に常時勤務する者であって,期間を定めて雇用される者以外の者)は,業務上必要があるときは,勤務事業所又は担当する職務を変更されることがある(60条)。
b 社員は,業務上の都合により,別に定めるところにより,出向さ
せられることがある(61条)。
イ 被告における就業規則においては,社員の定年年齢は満60歳とされ,定年退職日は定年年齢に達した日以後の最初の3月31日とされている(73条1項。乙D19)。
(5) 被告におけるインターネット接続商品等
ア インターネット接続方法として,一般に,通信速度が速いブロードバンドと,通信速度が遅いナローバンドに区分されており,その概要は次のとおりである(乙D28の1・2,乙D29の2)。
(ア) ブロードバンドに当たると言われるものとしては,例えば,次のような接続方法がある。
a 光ファイバー接続
利用者宅まで光ファイバーを敷設し,インターネットに接続するサービスであり,通信速度が非常に速く,次世代のインターネット接続と言われているものである。
b ADSL接続
従来の電話回線を利用したインターネット接続方法で,加入電話と共用する方法と,共用しない方法とがある。
(イ) ナローバンドに当たると言われているものとしては,次のような接続方法がある。
a ISDN接続
従来の電話回線を利用したインターネット接続方法であり,デジタル信号をやりとりする方法である。
b アナログモデム接続
従来の電話回線を利用したインターネット接続方法であり,アナログモデムでコンピューターからのデジタル信号をアナログ信号に変換し,アナログ信号をやりとりする方法である。
イ 本件配転命令が行われた当時,被告は,被告の用意した通信網を利用して定額でインターネットを利用できるようにするための商品(「フレッツ」と呼ばれている。)を提供していたが,その商品の種類としては,次のようなものがあった(乙D28の1・2)。
(ア) 「Bフレッツ」
光ファイバーによる定額制のインターネット接続サービスである。そのサービスの種類としては,次のようなものがある。
a ビジネスタイプ
企業などのビジネスユーザーを対象としたもので,接続可能端末台数は50台である。
b ベーシックタイプ
ビジネスユーザー向けのものであり,接続可能端末台数は10台である。
c ファミリータイプ
パーソナルユーザー向けのものである。 d マンションタイプ
マンションなどの集合住宅内で共用するために,低価格で利用可能なものである。
(イ) 「フレッツADSL」
ADSLを利用した定額制のインターネット接続サービスである。 (ウ) 「フレッツISDN」
被告のISDNサービスである「INSネット」の回線を利用した,定額制のインターネット接続サービスである。
3 原告らの請求の内容
(1) 原告 D (原告4)について
原告 D (原告4)に対する本件配転命令1(別紙配置転換目録記載4
の配転命令)が無効であることを理由として,① 同配転命令による配転
先(被告大阪支店(茨木) において勤務すべき義務がないことの確認請
求(第1の1(1)ア),及び,② 同配転命令の際の配転元(被告大分支店)において勤務すべき地位にあることの確認請求(第1の1(1)イ)
(2) 全ての原告ら(原告 D (原告4)を含む。)について
原告らに対する本件配転命令(別紙配置転換目録記載の各配転命令)により受けた精神的苦痛に対する慰謝料請求として各300万円,及びこれらに対する原告らの各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の1の(2))
4 争点
本件訴訟における争点は,次のとおりである。
(1) 原告らの労働契約における勤務地又は職種の限定の有無(争点1) (2) 本件計画の必要性の有無(争点2)
(3) 本件計画が脱法的なものであったか否か(争点3) (4) 本件計画が年齢による差別に当たるか否か(争点4) (5) 本件配転命令における業務上の必要性の有無(争点5)
(6) 本件配転命令が不当な動機・目的に基づくものであるか否か(争点6) (7) 本件配転命令が不当労働行為に該当するか否か(争点7)
(8) 本件配転命令において適正な手続が執られていたか否か(争点8) (9) 各原告らが本件配転命令によって受けた不利益の程度等(原告らが,本
件配転命令により,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を受けたか否か等)(争点9)
(10) 各原告らの損害額(争点10)第3 争点に関する当事者の主張
1 原告らの主張
本件配転命令は,次のとおり,違法なものである。
(1) 争点1(原告らの労働契約における勤務地又は職種の限定の有無)について
ア 勤務地の限定について
原告らは,いずれも,各地域の電気通信局において別個に行われる採用試験にそれぞれ合格して旧電電公社に採用され,本件配転命令まで,別紙経歴表に記載のとおり,採用された電気通信局単位の各地域内(管内)で勤務してきたのであり,他の管内に配転されることはなかった。旧電電公社がNTTとなった以降も,特に電気通信局単位の各地域外への配転(「管外配転」と呼ばれていた。)は,本人の希望のある場合等にのみ行われてきた。
このように,原告らの勤務地は労働契約において限定されていたのであり,本件配転命令のように,同意なく地域外へ配転することは労働契約に違反する。
なお,具体的な旧電電公社における職員の任命等は,次のとおり行われていたのであり,これによって生じた労働契約上の地位が,被告に承継されたものである。
(ア) 職員の採用
旧電電公社においては,各地の電信電話業務を執行するため,東京,関東,信越,東海,北陸,近畿,中国,四国,九州,東北及び北海道に各電気通信局が置かれていた。そして,各電気通信局長は,管轄する機関の課長以上の者などを除く職員を任命する権限を委任されていた。
原告らは,次のとおり,各電気通信局長によって旧電電公社の職員に任命された。
a 原告 A (原告1),原告 B (原告2) 四国電気通信局長 b 原告 C (原告3) 中国電気通信局長
c 原告 D (原告4) 九州電気通信局長 d その他の原告ら(原告5~23) 近畿電気通信局長
原告らが採用時に交付された書面には,採用局所として,「管内の通勤可能な局所」に仮配置され,後日改めて「管内の通勤可能な局所」へ配置されることが,明示されていた。
(イ) 職員の募集方法
旧電電公社では,本社業務に従事する職員と,各電気通信局等の管轄する施設で業務に従事する職員とを分けて採用することとし,本社業務に従事する職員については大学卒業以上の者を,各電気通信局等の管轄する施設で業務に従事する職員については高校卒業の者を,それぞれ対象として募集してきた。
そして,旧電電公社は,各電気通信局等の管轄する施設で業務に従事する職員については,職員募集に際して,勤務地域を限定し,かつ,勤務場所に通勤可能な地域内に住居を確保することなどを募集の要件としていた。
イ 職種の限定について
旧電電公社においては,職員の募集に際して職種を限定して募集しており,原告らは職種ごとに採用された。原告らが採用時に交付された書面には,採用された職種が限定して表示されている。
また,原告らは,本件配転命令まで,意思に反して職種の異なる業務に就くことを命じられたことはない。
このように,原告らと被告との間の労働契約においては,職種が限定されていたのであり,本件配転命令のように,同意なく他の職種へ配転することは労働契約に違反する。
ウ 旧電電公社や被告の就業規則(前提事実(4)ア)との関係
旧電電公社や被告の就業規則は,同一管内において勤務事務所(勤務
局所)を変更されることがあることを確認したものにすぎないし,職種を限定されて募集,採用された原告らについて言えば,その職種の範囲内で職務変更されることがあることを確認したものにすぎない。
エ 本件配転命令の効力
以上のとおり,本件配転命令は,被告と原告らとの間の労働契約における勤務地及び職種の限定に反するものであり,違法である。
また,仮に労働契約上勤務地及び職種の限定がされていなかったとしても,原告らの勤務地及び担当職種は長らく安定していたにもかかわらず,本件配転命令は,安定的な職業生活及び家庭生活を急激かつ根本的に破壊するものであった。このことは,本件配転命令が権利濫用に当たることを基礎づけるものである。
(2) 争点2(本件計画の必要性の有無)について
本件配転命令は本件計画の一環として行われたものであるから,本件計画自体の違法性は本件配転命令の違法性を裏付けるものである。
ア 被告ないしはNTTグループの経営状況
(ア) NTTグループは,グループ全体で,平成13年3月期においては
8983億円,平成14年3月期においては9473億円という巨大な営業利益をあげている。平成14年3月期には,純利益の段階では赤字が計上されたが,これは,NTTドコモやNTTコミュニケーションズの海外投資の失敗(特別損失約1兆4000億円)による一時的なものである。NTTグループの内部留保は,全体で8兆8000億円と言われており,従業員の労働条件を切り下げる必要性は全くない。
被告のみについて見ても,平成14年3月期には2兆4067億円もの売上高を計上しており,業績の悪化が言われているものの,その実際は,接続料の値下げによるグループ内の利益調整などによる見せ
かけの業績数値をもとにしたものにすぎないのであり,被告において大規模な雇用形態の見直しを図る必要性はない。
また,本件計画の方針が最初に発表された平成13年4月当時,被告が見込んでいた赤字額は840億円であり,物的コストの削減等により十分改善できる程度のものであった。
このように,本件計画は,攻撃的リストラ(過大な目的,又は目的と手段及び結果との不均衡という比例原則違反のリストラ)であり,必要性がなかったものである。
(イ) なお,① 本件計画の策定当時に黒字であったNTT東日本も含めて,本件計画が実施されたこと,② NTTの東西地域会社への分割計画の段階から,被告の赤字をNTT東日本が填補することが予定されていたこと,③ NTTグループ各社がその収支において緊密な関係に立っていることからすると,本件計画の必要性の有無の判断においては,被告のみの経営状況のみならず,NTTグループ全体の経営状況を見て,必要性を検討すべきである。
イ 被告が考慮していないコスト削減の事由
被告は,本件計画の策定に当たって,次のようなコスト削減の事由を考慮していなかった。
(ア) 追加希望退職募集
被告が平成14年1月に実施した追加希望退職募集により,250億円ないし300億円のコスト削減が図られた。
(イ) NTT東日本からの交付金
NTTの東西地域会社への分割計画の段階から,被告の赤字をNT T東日本が填補することが予定されており,NTT法により,実際に,平成12年度にNTT東日本から被告に対して約724億円が支払われるなどされており,この制度の利用が考えられる。
(ウ) 接続料のユニバーサル・サービス基金
接続料による赤字を補填する法的な制度として,接続料のユニバーサル・サービス基金の制度(電気通信事業法によるもの)があるが,被告はこれを受領しようとしていない。
(エ) NTTに対するコンサルティング料
被告がNTTに対して支払うコンサルティング料(業界内では上納金と呼ばれている。)を,廃止又は削減すべきである。
(オ) 大量退職による人件費の自然減
いわゆる団塊の世代の大量退職により,本件計画によらなくても,年平均約3440人の自然退職者が生じることが見込まれ,年平均約
344億円,10年間で総額約3500億円の人件費削減効果が見込まれた。
(3) 争点3(本件計画が脱法的なものであったか否か)について
本件計画によりOS会社に転籍させられた従業員は,賃金の切下げを受けている。
本来,賃金の切下げは,就業規則の改訂により行われる場合でも,特別に高度の必要性が存在する例外的な場合を除いては,一方的に行うことは許されない。また,本件計画は,実質的には会社の新設分割であり,会社分割に当たっては,分割のみを理由とする労働条件の一方的な不利益変更は禁じられている(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)。
本件計画では,業務委託や,繰延型又は一時金型の選択による退職・再雇用という手法を用いることによって,これらの規制をかいくぐろうとしている。
(4) 争点4(本件計画が年齢による差別に当たるか否か)について
ア 本件計画は,50歳以下の従業員についてはOS会社への在籍出向を認めながら,51歳以上の従業員は退職・再雇用させて賃金を切り下げ
るというものである。50歳という年齢でこのような区別をする合理性はない。
イ 本件計画は,51歳以上の従業員全員に退職・再雇用を迫るものであり,実質的に50歳定年制を導入するものである。これは,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」という。)
4条に違反するものである。
(5) 争点5(本件配転命令における業務上の必要性の有無)についてア 本件配転命令全般について
次の各点からすると,本件配転命令は,いずれも必要性がなかった。 (ア) 本件計画により被告で行っていた業務の一部がOS会社に委託されたが(前提事実(2)ウ(イ)),原告らが担当していた業務がOS会社 に委託されたとしても,それらの原告らをOS会社に在籍出向させ, 従来と同様の仕事を行わせるべきであった。また,被告は,委託し た業務をOS会社から引き取って,原告らをこれに従事させること
もできた。
(イ) 異職種への配転を行うに当たっては,適応能力の高い若年労働者を配転させるのが合理的である。51歳以上の従業員については,業務の能率の観点からは,その知識,経験,能力を活用するために,従来同様の勤務地及び職種に就かせることが,常識に適う。
(ウ) ① 本件配転命令1及び2により原告らに与えられた業務は,収益の期待できない業務であるし,② 本件配転命令3に関しても,片道
2時間以内の者については新幹線通勤が認められており,これによる被告の費用負担は過大である。
このように,本件配転命令により収益を見込むことは困難であり,本件配転命令においては経済的合理性が図られていない。
イ 本件配転命令1について(原告1~4)
原告1ないし4を,元の職場である中国,四国,九州各地の支店でのソリューション営業の部門に配置することが合理的であるにもかかわらず,被告はそのような検討をしていない。
ウ 本件配転命令2について(原告5~23)
次の各点からすると,本件配転命令2を行う必要性はなかった。 (ア) 本件配転命令2により,原告らは,1,2回線事業者を対象とする
アウトバウンド営業(積極的に売込みをかける営業形態を意味する。)に従事することとなったが,被告は,本件計画の中で,このような営業を被告の業務として位置づけていなかった。
(イ) 原告らに交付されていたユーザー(1,2回線事業者)のリストには,零細な事業者が記載されているのみであり,そのようなリストを利用して成果があがるはずがなかった。
(ウ) 取扱商品の違いや,営業方法の違いを考えると,小口のユーザーについての営業を続けたからといって,大口のソリューション営業を担当できるようになるとは考えられない。
(エ) 被告は,原告らのような60歳満了型の従業員がソリューション営業を担当することができるようにスキルアップさせようという意思がなかった。被告において実施された本件スキル転換研修は形ばかりのものであり,日々の指導も全くなかった。
エ 本件配転命令3について(原告5~23) (ア) 名古屋支店全般について(原告5~23)
a 原告5ないし23が名古屋支店で担当した,Bフレッツのマンションタイプの営業及びMI業務は,いずれも,もともとはOS会社に委託される予定であった業務である。
b 被告は,名古屋支店への配転による費用対効果や配転以外の方法による名古屋支店への人員補充について検討していないなど,名
古屋支店における人員配置の必要性を真摯に検討したとは言えず,そもそも名古屋支店への配転の必要性が存在したとは考えられない。
c 原告ら(原告5~23)は,本件配転命令2の後,半年も経ずして,本件配転命令3を受けた。また,これらの原告らの一部は,前提事実(3)イのとおり,本件訴訟係属中である平成18年7月
1日に,京阪神の勤務先に再配転された。これらは,名古屋支店への配転の必要性が初めからなかったことを示すものである。
(イ) 名古屋MI担当について(原告5~12,23)
a 原告ら(原告5~12,23)が名古屋MI担当として行っていた業務は,保守手引書の修正及び作成や,データベース(「たもつくん」と称されるもの)への入力といった単純な作業であり,京阪神の各支店から従業員を配転させる必要性はなかった。
なお,保守手引書は,ネオメイト各社が自らの業務実施のために使用するネオメイト各社の内部文書であり,その修正及び作成は,本来,ネオメイト各社において行われるべきものである(前記(ア)a参照)。
b 被告がMI業務を強化する方策を検討し始めたのは平成15年
4月以降のことであり,本件配転命令3とMI業務強化とは関連しない。また,むしろ,名古屋支店よりも大阪支店の方がMI業務が低調であったのであり,大阪支店から名古屋支店へ配置転換させる必要性はなかった。
(ウ) 名古屋BフレッツPT担当について(原告13~22)
a 原告ら(原告13~22)が名古屋BフレッツPT担当として行っていた業務は,20戸未満の集合住宅に対するBフレッツ・マンションタイプのチラシ広告をポスティングするなどの,成果
が上がるはずもない単純作業であり,大阪支店から従業員を配転させる必要性はなかった。
b 光ファイバーに関しては,平成14年5月当時の愛知県内においては,被告が独占状態にあり,その2年後の時点においても,中部電力等のシェアは5%未満でしかない。
c 原告ら(原告13~22)のほとんどが,長年技術職に従事してきた者たちであり,即戦力となる者ではなかった。また,この業務は,大口ソリューション営業へのスキルアップとなるものではなかった。
(6) 争点6(本件配転命令が不当な動機・目的に基づくものであるか否か)について
被告は,退職・再雇用が選択され易いように,60歳満了型を選択した場合には遠距離の異職種配転というデメリットがあることを示すため,退職・再雇用を選択しなかった従業員に対する報復,あるいは,今後も毎年繰り返される50歳に達した従業員に対して退職・再雇用に同意させるための見せしめ,脅しの目的で,本件配転命令を行った。
そのことは,次の点から明らかである。
ア 前記(5)(争点5)のとおり,本件配転命令には業務上の必要性がなかったのであり,本件配転命令は,60歳満了型の従業員に対して遠 距離の異職種配転を行うという結論先にありきで行われたものである。 イ 被告は,60歳満了型の従業員数が予測できない当初から,それらの従業員を配転することを方針として,大規模な本件計画を実施してお
り,前記(5)ア(ア),イのとおり,配転を回避しようとしなかった。 ウ 特に本件配転命令3を受けた原告ら(原告5~23)は,前記(5)エ
(イ)a,(ウ)aのとおり,充足感や達成感の得られない単純作業を担当させられ,徒労感,屈辱感を与えられたほか,被告は,60歳満了
型のグループと50歳未満の従業員グループとの間を衝立で仕切るなどして,退職・再雇用に応じなかったこれらの原告らが冷遇されていることを社内に見せしめた。
(7) 争点7(本件配転命令が不当労働行為に該当するか否か)について
本件配転命令は,通信労組の組合員に対する不利益取扱い(労組法7条
1号)及び支配介入(同条3号)の不当労働行為に該当するものであり,次に述べる事情からそのようにいうことができる。
ア 通信労組は,労使協調路線をとってきた全電通労組(現在のNTT労組)に批判的な労働者が同労組を脱退して,昭和56年4月に結成した労働組合である。また,通信労組は,その結成以来,旧電電公社の民営化反対闘争をはじめとして,被告に対し常に労働者の要求を対置して活動してきた歴史を有している。
このように,通信労組は,被告から見れば,労働者の要求を抑えつける上で支障となる存在であるところ,本件計画に対して,その発表の段階から一貫して,その疑問を取り上げて要求を対置してきた。
イ 次のとおり,被告は,被告における最大の労働組合であるNTT労組の執行部の協力をとりつけるとともに,他方で,通信労組を差別的に取り扱い,情報を与えず不誠実な団体交渉を行った。そして,NTT労組と合意した直後に,雇用形態の選択についての意向確認手続において,何らの意思表示をしない者を「60歳満了型」とみなすという不当な取扱いをし,また,意向確認手続について通信労組が労働組合として組織的に対応する旨要求したのに,これを無視した。被告は,NTT労組と合意した後は,退職・再雇用を選択しない者の大半を占めるのが通信労組の組合員であることを知りつつ,通信労組の組合員を意図的に配転の対象者とすることを企図したものである。
(ア) 被告は,平成13年4月16日に本件3カ年計画を発表したが,そ
の書面は,通信労組には交付されていない。通信労組は,報道発表によって初めて,本件3カ年計画を知らされたのである。他方で, NTT労組には,その2か月以上前に,その詳細が伝えられ,協議が行われていた。
その他,被告は,NTT労組における意思統一を援助したり,NT T労組との最終合意に向けた交渉を行うために,通信労組との団体交渉の開催時期を遅らせたり,NTT労組に交付した資料や情報を通信労組には明らかにしないなどの取扱いをした。
(イ) 被告は,NTT労組との間での団体交渉で合意成立が確認された平成13年11月9日の後は,意向確認調書等を提出しない場合には
60歳満了型の選択があったものとみなすことを明らかにしたり,直ちに意向確認手続を実施しようとするなど,NTT労組との間での合意事項を通信労組に対して押しつけようとする姿勢で対応した。通信労組は,平成13年12月18日の団体交渉において,意向 確認手続については個別面談には応じず,通信労組が組織として対応するという方針を伝え,団体交渉の開催を申し入れ,平成14年
1月9日にも同様の申入れをした。しかし,被告は,OS会社の社名,役員,資本金等の基本事項も労働条件の内容も明らかにしないまま,個別面談に応じるのは業務命令であると述べて,退職・再雇用の選択を強要し,通信労組による組織的対応を拒否した。
意向確認期間中(前提事実(2)イ(ア)g参照)に行われた通信労組と被告との団体交渉は,平成14年1月24日に実施された団体交渉の1度のみであり,実質的な交渉が行われないまま意向確認期間が終了した。
(ウ) 通信労組は,平成14年2月から本件配転命令までの間に,被告に対し,配転について団体交渉で扱うことを求めたが,被告はこの問
題についての団体交渉を拒否した。意向確認手続によって463名の者が60歳満了型となったが,その7割近くの300名を超える労働者が通信労組の組合員であったにもかかわらず,このような団体交渉を拒否したことは,本件配転命令が不当労働行為に該当することを示すものである。
ウ 本件配転命令により,地方都市における通信労組の地方組織(支部)では,大半の組合員が配転されたり,役員が配転されたりしたため,甚大な影響が生じた。本件配転命令は,通信労組の組合員を狙い撃ちにして行われたものである。
エ 被告は,本件配転命令2と同時期に,大阪支店内の通信労組の組合員を,大阪支店内の別のビルに相互に配転するという「玉突き配転」を行った。この配転は,通信労組の組合員らを技術職から営業職へ異職種配転するのみならず,あえて異なるビルに異動させる不自然なものであった。
このような配転が行われた目的は,近隣のビルごとに分会を結成して団結を築き上げてきた通信労組に対し,組合員の分会異動を伴う総入れ替えによって,各分会における人間関係の形成を初対面からやり直さざるを得ないという形で,通信労組の団結を弱めさせるところにあった。
(8) 争点8(本件配転命令において適正な手続が執られていたか否か)について
異職種配転及び遠隔地配転を命じる際には,使用者は,労働者に対して,配転すべき業務上の必要性及び合理性,配転先での労働条件や元職への復帰予定等について,当該労働者への十分な説明をしなければならない。
しかし,本件配転命令について,業務上の必要性や合理性,配転先での勤務内容や処遇,地元への復帰予定時期などについて説明を受けた原告は
1人もおらず,原告らが受ける不利益について,被告が具体的事情を聴取した上で配慮を示そうとしたことも一度もない。
また,通信労組は,一貫して本件計画及びそれに基づく広域配転には必要性も合理性もないと主張してきたが,被告は,これらに関する資料を示すこともなく,誠実な団体交渉を通じて本件配転命令についての理解を得ようともしなかった。
さらには,被告は,旧電電公社において行われていた,転勤等についての本人の意向確認を行う制度(転勤希望調書等の提出や,個人面談など)を行わず,本件配転命令を強行した。
(9) 争点9(各原告らが本件配転命令によって受けた不利益の程度等)について
各原告らが本件配転命令によって受けた不利益については,次のとおりである。
このうち,特に,原告 C (原告3),原告 E (原告5),原告 M
(原告13),原告 Q
(原告17),原告 R
(原告18),原告 S (原
告19),及び原告T (原告20)に対する本件配転命令は,① ILO第156号条約(家族的責任を有する男女労働者の機会及び待遇の均等に関する条約)3条(家族とともに生活し家族を介護する権利),及び,②育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
(平成13年法律第118号による改正後のもの。以下「育児介護休業法」という。)26条に,顕著に違反するものである。
ア 原告 A (原告1)について
(ア) 原告 A は,昭和39年に採用されて以来,無線技術者として業務に就くために必要な国家資格を取得し,本件配転命令1までの間,高知で4年間,高松で34年間,一貫して無線業務に従事してきた。ところが,本件配転命令1の後は,営業経験がないにもかかわら
ず,土地勘のない大阪において,訪問やダイレクトメールの発送等による営業活動を,多大なストレスの中で行ったが,成果に結びつかず,成果主義賃金制度の下で,実績を上げることができなかったために,夏季及び年末の特別手当の25パーセントを削減されるなどした。
このように,原告 A は,長年培ってきた知識や経験をないがしろにされ,精神的に多大な苦痛を与えられた。
(イ) 原告 A は,妻が右下肢に障害を有し,身体障害者手帳(2種5級)の交付を受けていること,その妻は宿直勤務を含む不規則勤務に就いていること,そのため,家事労働は原告 A と妻とが協力して行ってきたこと,自分が自宅にいないことになれば,妻の負担が過重となり耐えられなくなることなどの事情があった。
なお,原告 A は,平成14年4月17日,被告に対して,広域配転や大阪での本件スキル転換研修には応じられない旨の申入書を提出し,その中で,前記の事情を説明した。それにもかかわらず,同年4月22日に大阪で本件スキル転換研修を受講する命令の内示がされ,同年5月7日からの本件スキル転換研修の受講を命じられたが,この間,被告は,前記の事情に配慮しようとせず,また,本件スキル転換研修の必要性などを説明しなかった。また,被告は,原告 A に対する本件配転命令1に当たって,家庭の事情等を聞かれたことがなかった。
(ウ) 原告 A は,本件配転命令1により,単身寮における単身赴任を強いられることとなった。
原告 A は,平成15年12月ころから神経症状が現れ,微熱が続くようになった。
また,原告 A は,平成17年7月24日,高松の自宅にいた際,
心臓発作にみまわれ,冠れん縮性狭心症と診断され,直ちに投薬治療を受けるようになり,ニトロペン錠を携帯するよう指示された。そして,原告 A は,同年8月20日までは病気休暇(健康管理区分A),同月23日から9月22日まで4時間軽減勤務(健康管理区分B)と判定されたため,高松に戻すよう要求した。被告はこれを拒絶し,原告 A は,単身での1人住まいの生活を強いられることとなったが,平成17年10月1日に香川に再配置された。
イ 原告 B (原告2)について
(ア) 原告 B は,昭和39年に旧電電公社に採用されて以来,一貫して,徳島市において,電話交換機の保守業務に従事してきた。
ところが,本件配転命令1の後は,従来の業務とは全く関係のない営業業務に従事することとなり,成果など期待できない業務を与えられながらノルマを強制され,それを達成できないことを理由に業務成績を低くされるという嫌がらせを受けた。
(イ) 原告 B の妻は,頸肩腕障害,足腰の捻挫や坐骨神経痛を患い,家事労働も満足にできない状況であり,原告 B も家事を分担していた。
なお,原告 B は,その旨を被告に説明したが,被告は,これに対して配慮する姿勢を見せず,本件配転命令1を強行した。
(ウ) 原告 B は,本件配転命令1により,単身寮における単身赴任を強いられることとなった。
原告 B は,本件配転命令1の以前には,健康上何ら問題がなかったが,平成15年春ころから,体がだるく疲れが取れない状況が続くようになり,同年7月に「うつ」と診断された。同年9月9日から「うつ病」のために約4か月間の自宅療養を余儀なくされた。その後,原告 B は,平成16年1月19日から1日4時間の勤務限
定で職場に復帰し,同年3月から1日6時間勤務,同年6月から通常の勤務に復帰した。
また,原告 B の妻は,本件配転命令1の後,それまで分担してきた様々な負担を1人で負うこととなり,腰痛の症状が徐々に悪化して,最終的には5分と座っていられない状態となり,腰椎変形症のために平成14年11月6日から30日間の病気休暇を取得するに至った。
ウ 原告 C (原告3)について
(ア) 原告 C は,昭和41年に旧電電公社に採用されて以来,一貫して,岡山県倉敷市又は岡山市において,線路技術職に従事し,宅内工事,設計,調査,保全,委託,監督,経理,固定資産業務といった宅内業務に携わってきた。
ところが,原告 C は,本件配転命令1により,これまで全く経験のない営業業務に従事することとなり,苦労を強いられるとともに,自分のスキルを全く活かすことができず,多大な精神的苦痛を受けた。
また,原告 C が従前従事してきた業務は,平成14年5月以降も, OS会社に委託されず,被告に残されていた。
(イ) 原告 C は,妻が理学療法士として岡山県倉敷市内の病院に勤務していたことから,単身赴任するしかなかった。
原告 C の妻は,本件配転命令1の後である平成15年6月中旬ころから,右足小指付近に痛みと腫れが生じ,痛みが肩や膝に広がるようになり,同年7月22日,関節リウマチと診断された。妻は,起床,食事,着替え,排泄,入浴,就寝等の動作を独力ですることができず,日常生活に介護を必要としている。原告 C は,本件配転命令1のため,その介護を行うために,やむを得ず,同年8月1日から同年10月1日までの間,介護休職(その間は無給とされる。)
を取得した。
原告 C は,早期に岡山に戻すように被告に要求し,ようやく平成
16年1月1日付けで岡山支店に再配転となった。
この妻の発症は本件配転命令1の後に生じたものであるが,そのことから本件配転命令1の効力には影響しないと弁解することは許されない。中高年層は,いつ重病に罹患してもおかしくないのであるから,中高年夫婦に単身生活を強いることは,それ自体相当でないからである。
エ 原告 D (原告4)について
(ア) 原告 D は,昭和42年に旧電電公社に採用されて以来,一貫して,大分県において,技術職(機械職)に従事し,交換機の設計,施工,保守,監督,技術者育成,インターネット接続などに携わってきた。
ところが,本件配転命令1の後は,これまで経験のない営業業務に従事することとなり,顧客に商品を売り込むこと自体,非常にプレッシャーがかかる上に,商品知識や土地勘などもなく,ストレスがたまるとともに,自分のスキルを全く活かすことができず,多大な精神的苦痛を受けた。
(イ) 原告 D は,妻が看護師として大分県別府市内の病院に勤務していたことから,単身赴任するしかなかった。
原告 D は,平成11年,HTLV-I(成人T細胞白血病ウイルスI型)を有していることが判明した。成人T細胞白血病は,40歳代から発症率が高くなり,発症のメカニズムは解明されていないが,体力や免疫力が落ちると,それを引き金として発症すると言われている。また,発症した場合の治療法は確立しておらず,最終的な治癒が期待できるのはごく一部にとどまり,50%生存率は半年以内とも言われている。さらには,その発症率自体は低いものの,
原告 D の実兄がこの病気で死亡しているという家族歴が見られ,原告 D の発症の危険度は高いと考えられる。
したがって,その発症を予防することが重要であるが,そのためには,バランスのある食事を摂る,不摂生をしない,ストレスをためない,睡眠を十分にとる,規則正しい生活をするなどして,免疫力を高める方法しかない。しかし,本件配転命令1により,住環境,食生活,仕事面において全てが大きく変化し,その発症の不安が高まった。
なお,本件配転命令1の当時,原告 D がHTLV-Iを有していることを知らなかったと弁解することは許されない。被告は,配転に当たって従業員の健康等に配慮する義務を負うところ,本件配転命令1に当たって原告 D の健康等について全く聴取していないし,本件訴訟においてその生命の危険を訴えているにもかかわらず,現在に至るまで大分に戻そうとしないのであって,最初から原告 Dの健康問題に配慮するつもりなどなかったと見られるからである。
このほか,原告 D には,睡眠時無呼吸症候群,シックハウス症候群があり,また,腰痛が再発した。
オ 原告 E (原告5)について
(ア) 原告 E は,昭和42年に旧電電公社に採用されてから,当初の約
8年間は電報配達業務に従事したが,その所属部署が廃止されたため,職種転換の研修を受けた後,一貫して,電話交換機メンテナンス業務や保守・サービス開通業務,回線故障受付などの設備系業務に従事してきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,自己の職歴や経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 本件配転命令3の当時,原告 E の両親が要介護の状態にあり,し
かも,原告 E の妻が勤務していた上に,その実父(ひとり暮らし)の世話が必要であったこと等のために,妻を含め,他の親族による介護が不可能な状態であった。
すなわち,本件配転命令3の当時,原告 E の父(当時86歳)は,脳梗塞とパーキンソン症候群を患っており,壁伝えに歩くことができる程度であり,通院等の外出の際には車椅子が必要であり,しかも,自分自身で車椅子を動かすことができず,介添えが必要な状況であった。そのため,原告 E は,自宅に父を引き取って世話をしていた。
また,当時,原告 E の母(当時84歳)は,脳梗塞の後遺症により身体が不自由であった上,痴呆の症状が出ていたため,母の住居(大阪府忠岡町)に頻繁に出向いて介護する必要が高かった。
なお,原告 E は,平成14年10月30日,被告にこの事情を説明したが,被告は,原告 E に対して,本件配転命令3を行った。被告は,同年11月6日開催の団体交渉において,原告 E の家庭状況には配慮しないという姿勢を示した。
(ウ) 原告 E は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤することとなり,午前5時過ぎに起床して午後8時ころに帰宅する生活となり,両親の介護を行うことができなくなった。
原告 E の父は,脳梗塞の後遺症が進行し,平成15年2月26日,要介護2級と認定されたが,同年9月26日の深夜に急死した。また,母は,原告 E が本件配転命令3により母の住居に出向くことができなくなったために,精神的不安定が増し,同年8月には脳梗塞及び痴呆と診断され,同年9月には要介護2級と認定され,痴呆症状はさらに進行した。このために,原告 E は,平成16年2月末からは,介護のために母の住居に寝泊まりし,そこから名古屋に
通勤せざるを得なくなった。
また,原告 E は,このような介護の負担を被告に繰り返し報告して,大阪へ戻すように要求してきたが,被告は応じなかった。原告 E は,早朝出勤や介護のため,心身ともに疲労し,平成16年
6月にはうつ病になった。被告は,ようやく,同年6月25日,原告 E を大阪支店に復帰させることとし,その後は,原告 E の母の健康状態,精神状態は,飛躍的に好転した。
カ 原告 F (原告6)について
(ア) 原告 F は,平成13年5月に糖尿病を発症して以来,通院加療中であるとともに,食事制限をしなければならず,本件配転命令3に際して,被告にその旨を申し入れたが,被告は一顧だにしなかった。原告 F は,本件配転命令3により,長時間かつ長距離の通勤となり,どうしても生活が不規則となり,血糖値が上昇するとともに,耳鳴りが頻繁に起こるようになった。
(イ) 原告 F は,このような身体症状の悪化により,被告に繰り返し大阪へ戻すように求めてきたが,被告は,これに誠実に対応せず,平成
17年4月1日になって初めて大阪支店へ配転した。キ 原告 G (原告7)について
(ア) 原告 G は,昭和44年に旧電電公社に採用されて以来,29年間にわたり電話設備の建設及び保守業務に従事したが,平成10年3月に所属部署の廃止に伴い,営業系職種へ異動することとなり,約
10か月間に及ぶ職種転換の研修が行われた後,平成11年1月,システムエンジニア(SE)として大阪東営業支店(第二マルチメディア)に配属され,アカウントマネージャー(AM)と同行する営業活動に従事した。また,原告 G は,被告の職務上の指導と援助のもとで,6種類のSE関連資格(ベンダー資格)を取得した。
ところが,本件配転命令2及び3により,自己の職歴や取得資格を全く活かすことができなくなったのであり,この損害は重大である。
(イ) 原告 G は,以前から高尿酸血症の症状があり,通院治療を受け,食事制限の指導を受けていた。
(ウ) 原告 G は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤することとなり,規則的な摂食が困難になったとともに,スポーツによる身体運動が十分にできなくなるという,健康管理上の大きな損害を受けた。
ク 原告 H (原告8)について
(ア) 原告 H は,昭和43年に旧電電公社に採用されて以来,ほぼ一貫して機械職に従事し,電報に関する機械,社内データ端末機,ファックス,電話機等の取付けなどに携わってきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,これまで経験したことのない営業職に配転され,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 H は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤することとなった。
また,原告 H は,平成15年12月,飛蚊症と胃潰瘍が発見されたが,これは,本件配転命令3による心身の疲労が健康に悪影響を及ぼしたものである。
なお,原告 H は,平成14年10月30日に本件配転命令3の内々示があった際,町内の自治会長をしているので無理だと述べたが,全く聞き入れられなかった。
ケ 原告 I (原告9)について
(ア) 原告 I は,昭和39年に旧電電公社に採用されて以来,技術職に
従事し,電話等の故障受付,交換機の保守作業,交換機の新設,旧機の撤去作業などに携わってきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,これまで経験したことのない営業職に配転され,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 I は,以前から高血圧症であった。
なお,原告 I は,被告から家庭事情や健康状態等を聴取されていない。
(ウ) 原告 I は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤することとなり,降血圧剤を離すことができず,また,早朝に出勤するために,健康の維持増進のための毎朝の散歩が実行できなくなった。
コ 原告 J (原告10)について
(ア) 原告 J は,昭和44年に旧電電公社に採用されて以来,一貫して,テレックスの保守を中心とした機械職に従事してきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,これまで経験したことのない営業職に配転され,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 J は,本件配転命令3により,単身赴任を余儀なくされた。鹿児島県で独居生活をしている原告 J の妻の父が病気がちであ ったが,本件配転命令3のために,妻が自宅を離れることができな
くなり,看病が十分にできなくなった。
また,原告 J は,単身赴任のために,疲労を原因とする歯周病や,神経性の下痢となり,また,平成15年8月には未破裂の脳動脈瘤が見つかった。
なお,原告 J は,平成14年10月29日,これらの事情を被告に説明したが,被告は,これに対して考慮しない姿勢をあらわに
し,本件配転命令3を行った。サ 原告 K (原告11)について
(ア) 原告 K は,昭和47年に旧電電公社に採用されて以来,一貫して,大阪市内で機械の保守業務に従事してきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,これまで経験したことのない営業職に配転され,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 K は,平成3年6月から,網膜色素上皮剥離,開放隅角緑内障,視神経萎縮という眼の疾患のために,継続的に通院治療を受けていた。
また,原告 K には兵庫県西宮市内に居住する80歳を超えた両親がおり,毎週末ごとに介護のためにその住居を訪問していた。
なお,原告 K は,平成14年10月30日,これらを被告に説明したが,被告は,これらを考慮せず,本件配転命令3を行った。
(ウ) 原告 K は,本件配転命令3により,長距離通勤となり,眼の疾患のための通院が困難となった上,両親の住居を訪問することも困難となった。
また,名古屋支店で命じられた業務は,一日中パソコンの画面を見ながらの単純な字句の修正作業であり,もともと眼に疾患を抱えていた原告 K にとっては,負担の大きい業務であった。
シ 原告 L (原告12)について
(ア) 原告 L は,昭和42年に旧電電公社に採用された際は事務職に従事していたが,その2年後に希望して機械職に転換した後は,平成元年1月まで市外電話回線や専用線の装置保守業務に従事し,その後は建設業務に従事して,現場の設計,積算,監督業務に携わってきた。この間,就労場所は大阪市内であった。
ところが,本件配転命令2及び3により,これまでの知識経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 L の妻の両親は,いずれも大阪府守口市に居住し,介護の必要性があった。すなわち,義父は,糖尿病と高血圧で,片方の目が不自由であり,また,義母は,喘息の発作があり入院を余儀なくされるときがある上,痴呆も進行していた。そのため,原告 L は,本件配転命令3の前には和歌山市に居住していたが,妻が義父母の介護のために守口市まで通っていた。
なお,原告 L は,平成14年10月30日,このような事情を被告に説明したが,被告は,これを考慮せず,本件配転命令3を行った。
(ウ) 原告 L は,本件配転命令3により,単身赴任をすることとなったが,平成15年1月10日,腎臓結石のために激痛にみまわれ,5日間入院することとなったほか,その後も何度か激痛に襲われ,不安な日々を過ごしている。また,平成15年1月以後,腰痛の持病のために通院するようになり,それがヘルニアによるものと診断された。
ス 原告 M (原告13)について
(ア) 原告 M は,昭和40年に旧電電公社に採用されて以来,一貫して,大阪府下で線路職や設備系の技術職に従事し,所外・所内の電話設備の建設・保守現場で維持管理に携わってきた。原告 M が取得したその関連の資格は11種類にも及ぶ。
ところが,本件配転命令2及び3により,これまで経験したことのない営業職に配転され,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 M は,本件配転命令3までは,妻と義母(83歳)と同居し
ていたが,義母は,骨粗鬆症のために歩行がままならず,また,本件配転命令3の直前には肺ガンに罹患していることが判明した。妻が義母の介護を行っていたが,原告 M は,妻や義母と支え合いながら生活してきた。
なお,原告 M は,平成14年10月30日,このような事情を被告に説明したが,被告は,これを考慮せず,本件配転命令3を行った。
(ウ) 原告 M は,本件配転命令3により,単身寮で単身赴任を余儀なくされ,義母の介護は妻1人によることとなった。なお,新幹線通勤が平成15年10月に認められるようになったため,全面的に妻の負担となることはなくなったものの,2時間を超える通勤時間のため,妻の負担は重いままであった。
また,原告 M は,高血圧の傾向にあり,妻が食事管理をしていたため,単身寮での単身赴任や長距離通勤は,健康に悪い影響を与えた。
セ 原告 N (原告14)について
(ア) 原告 N は,昭和41年に旧電電公社に採用され,それ以来,設備管理課,業務開発センター,保全課などの設備技術部門を経て,平成11年に113センタに配属された。
ところが,本件配転命令2及び3により,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 N は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤することとなり,ライフワークとして取り組んでいた太極拳の指導を行うことができなくなった。また,本件配転命令3の後,運動ができないことなどのため,高血圧と高尿酸値の状態となり,治療を受けるようになった。
なお,原告 N に対する本件配転命令3は,約10名以上の被告の労務担当従業員が原告 N を取り囲んだ上で,担当課長が辞令を読み上げるという,不当な方法で行われた。
ソ 原告 O (原告15)について
(ア) 原告 O は,昭和43年に旧電電公社に採用され,それ以来,大阪府下において,線路技術職,機械職の技術職に従事してきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 O は,本件配転命令3の10年以上前から椎間板ヘルニアの持病があり,通院治療を受ける必要があった。
なお,原告 O は,このような事情を幾度となく被告に説明したが,被告は,これを考慮せず,本件配転命令3を行った。
(ウ) 原告 O は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤することとなり,椎間板ヘルニアが悪化したが,通勤時間の関係から従来のかかりつけの医師の治療を受けることが困難となったため,やむを得ず名古屋の整骨院に通院することとなった。また,本件配転命令3により,従来から行っていた少年野球の指導に支障が生じるようになった。
タ 原告 P (原告16)について
(ア) 原告 P は,昭和40年に旧電電公社に採用され,それ以来一貫して,大阪府下において有線通信職,線路技術職などの技術職として勤務してきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 P は,地元の大阪市西成区で多数のボランティア活動を行い,例えば,近所に住む82歳の全盲の女性の身の回りの世話などをし
ていた上,西成区視聴覚教育協議会会長などに就いていた。
なお,原告 P は,平成14年10月31日,本件配転命令3の内示を受けた際に,このような事情を被告に説明したが,被告は,これを考慮せず,本件配転命令3を行った。
(ウ) 原告 P は,妻が看護師として大阪市西成区内の医院に勤務していたことなどから,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤することとなった。このため,早朝からの出勤を強いられるようになり,身体全体の疲労感,倦怠感を生み出している。また,前記のボランティア活動などについても,本件配転命令3により,大きな支障をきたしている。
チ 原告 Q (原告17)について
(ア) 原告 Q は,昭和45年に旧電電公社に採用され,それ以来,主に市外中継交換機の保守,メンテナンスに従事し,新技術に伴う研修を受けながら,特にデジタル交換機の収容設計,ファイル更新業務に携わってきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 Q の母は,高齢であり,平成12年に心臓バイパス手術を受けた後,入退院を続けており,寝たきりで常時介護を要する状態であった。原告 Q は,母と別居していたが,その日常の介護や通院の付き添いなどを全て行い,原告 Q 以外にその介護を頼める者はいなかった。
また,原告 Q は,胆石を患っており,定期的に検査を受けなければならない状態にあった。
なお,原告 Q は,事前にこのような事情を被告に説明したが,被告は,これを考慮せず,本件配転命令3を行った。
(ウ) 原告 Q は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤することとなり,有給休暇を取って母(平成16年12月に死亡した。)の介護に当たらざるを得なくなり,また,遠距離通勤等のために慢性的に疲労が蓄積するようになった。
ツ 原告 R (原告18)について
(ア) 原告 R は,昭和40年に旧電電公社に採用され,それ以来,交換機の保守,点検の業務やサービスオーダーに付随する事務業務に従事してきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 R の妻は,平成13年5月に肺ガンが見つかり,同年7月に肺の半分を摘出する手術を受けた。幸い手術は成功し,同年8月には退院することができたが,原告 R ができる限り家事を分担して,妻の負担を軽減するように協力していた。主治医からは,5年以内に再発がなければ大丈夫である旨言われていた。
なお,原告 R は,本件配転命令3の打診を受けた平成14年1
0月末ころ,このような事情を被告に説明したが,被告は,これを考慮せず,本件配転命令3を行った。
(ウ) 原告 R は,本件配転命令3により,単身社宅で単身赴任を余儀なくされた。原告 R が自宅からの通勤を申し出たにもかかわらず,通勤所要時間が所定の2時間を超過しているという形式的な根拠のみで,この申出を認めなかった。この単身社宅は,勤務場所まで1時間15分も要するような遠方にあった。
原告 R の妻は,平成15年11月ころ,肺ガンが再発するとともに,肺以外にもガンが転移していることが判明し,急遽入院することとなった。このため,原告 R は,大阪に戻すように,被告に
強く主張した。被告は,特別に新幹線通勤を認めるが,その必要がなくなったときには単身赴任に戻ることを書面に記載するように求めたところ,これに対し,原告 R が「必要がなくなったらというのは,妻が死んだらという意味か」と大声を上げて抗議した結果,新幹線通勤が認められた。
原告 R は,平成16年4月1日付けで大阪へ再配転されたが,妻は,同年11月13日に死亡した。本件配転命令3とそれに伴う単身赴任等が妻の病気を悪化させたのではないかと,今でも痛恨の極みである。
テ 原告 S (原告19)について
(ア) 原告 S は,昭和39年に旧電電公社に採用され,それ以来,一貫して線路技術職に従事してきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 S は,妻が大阪府寝屋川市内の会計事務所にフルタイムの事務員として勤務しており,また,新幹線通勤が許可されなかったため,本件配転命令3により,単身赴任を余儀なくされた。
原告 S は,業務上の,また,単身赴任の疲労とストレスから,平成16年1月には喘息と診断された。また,平成17年1月には膀胱ガンと診断され,同年2月には手術を受けたが,同年5月に再発し,同年9月に再手術を受けた。
また,妻は,原告 S が単身赴任となったことによる不安や寂しさから,平成15年6月にはうつ病と診断され,6か月余りの治療を余儀なくされた。
ト 原告T (原告20)について
原告T は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤すること
となった。
原告T の母は,高齢であり,その身辺介護は母と同居している原告 T の兄がしているところ,原告T も母の介護について相当の責任を果たさなければならないが,本件配転命令3により,週末に母を訪ねることくらいしかできないこととなった。また,原告T は,地域山岳会の事務局長等に就いていたが,長距離通勤のために責任ある活動を行えなくなった。
ナ 原告 U (原告21)について
(ア) 原告 U は,昭和46年に旧電電公社に採用され,それ以来,一貫して,大阪府下において電話交換機の保守建設という技術系の業務に従事してきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,自己の経験を全く活かすことができなくなる損害を受けた。
(イ) 原告 U の妻には,和歌山県日高郡中津村に居住する高齢の母がおり,原告 U 及びその妻は,従前より,週に1回はその住居を訪れて介護を行っていた。また,原告 U の妻は,左腕が肩あたりまでしか上がらないことから,時々介護を必要とする状況にあった。
なお,原告 U は,本件配転命令3の打診を受けた際,このような事情を被告に説明したが,被告は,これを考慮せず,本件配転命令3を行った。
(ウ) 原告 U は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤することとなり,通勤上及び業務上のストレスは,従前から患っていた高脂血症に悪影響を及ぼすものであるし,その治療のための通院もスムーズに行えない状況に置かれた。
なお,原告 U は,平成17年5月に京都に配転されたのを機に,仕事に対する気力を失い,退職に追い込まれた。
ニ 原告 V (原告22)について
(ア) 原告 V は,平成3年に営業職に配置され,平成5年に東大阪支店営業部に配属されて以来,同支店の管轄地域で販売営業としての外販活動に従事してきており,優秀な実績を上げていた。
ところが,本件配転命令2及び3により,長年培ってきた営業基盤を奪われ,知らない土地で成果の上がらない意義の乏しい単純労働を命じられて,営業マンとしての誇りを傷つけられ,精神的苦痛を受けた。
(イ) 原告 V の妻の両親は,いずれも高齢であり,原告 V の妻のみならず,原告 V も,毎週末には身の回りの世話のために通っていた。義父は潰瘍性大腸炎を患い,義母は膠原病を患っていたほか,2,
3年前に心臓にペースメーカーを入れる手術を受けている。
なお,原告 V は,本件配転命令3の発令を受けた翌日,このような事情を被告に説明したが,被告は,これを考慮せず,本件配転命令3を再検討しようとしなかった。
(ウ) 原告 V は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤することとなり,平成16年9月ころから耳鳴りが起こるようになり,疲労とストレスを原因とする突発性難聴であると診断された。また,週末に妻の両親の居宅に通うことが困難になった。
ヌ 原告 W (原告23)について
(ア) 原告 W は,昭和43年に旧電電公社に採用され,それ以来,一貫して,兵庫県南部において交換機設備の保守業務に従事してきた。
ところが,本件配転命令2及び3により,自己の経験とは全く無関係な単純労働に従事させられ,仕事に対する誇りや意欲を奪われた。
(イ) 原告 W は,本件配転命令3により,名古屋に新幹線で通勤するこ
ととなり,疲労が蓄積し,平成16年1月には,大腸ポリープ切除の手術をするなど,健康に悪影響が生じている。
(10) 争点10(各原告らの損害額)について
原告らが違法な本件配転命令により被った精神的苦痛は甚大であり,これを慰謝するには,原告らに対して少なくとも各300万円の慰謝料の支払が必要である。
2 被告の主張
(1) 争点1(原告らの労働契約における勤務地又は職種の限定の有無)について
ア 原告らは,旧電電公社に採用された者であるが,旧電電公社は,全国各地に支店を有し,その業務内容も,事務系業務,営業・各種サービス業務,配線や保守等の現業業務など,多岐にわたっていた。したがって,旧電電公社は,正社員については,職種,職務内容,勤務地,勤務場所等の限定を付さずに採用しており,従業員の職種や勤務地を決定する権限は,人事権の一内容として,当然に旧電電公社に帰属していた。前提事実(4)ア(ア)の旧電電公社の就業規則の定めは,このことを明らかにしたものであった。
そして,組織改編などを経た後の現在の被告においても変わることはなく,被告の就業規則においても前提事実(4)ア(イ)aのとおり規定されている。
以上のことから,原告らは勤務地や職種の変更について,包括的な同意をしているものと解すべきである。
イ 原告らが本件配転命令前の勤務地及びその近辺で勤務し,一定の職種の範囲内の業務に従事していたのは,偶然,遠隔地への配転がなく,職種を変更することがなかったからにすぎず,このことによって,勤務地や職種を限定する旨の合意が生じるものではない。
実際にも,被告においては,勤務地や職種の変更が数多くあった。 また,旧電電公社の募集においては,最初の配属場所が示されてい
たにすぎない。
(2) 争点2(本件計画の必要性の有無)について
本件計画は,構造改革の中心となるものであり,また,構造改革には,次のとおり必要性があった。
ア 構造改革の必要性
(ア) 被告の設立当初の状況(中期施策の実施等)
被告は,平成11年7月に西日本地域における地域電気通信業務を目的として設立されたが,従来のNTTの収益構造ないし事業構造を承継していた。すなわち,被告は,① 収益のほとんどを固定電話収入に依存せざるを得ない収益構造,② NTT法上,収益の期待できる新たな事業領域に容易に進出することができない事業構造,③ N TT法上義務付けられているユニバーサル・サービス提供のため,電気通信設備を維持,更新していかなければならず,そのために毎年多額の投資を行わなければならないという支出構造,④ 設備の維持,保守等のための人件費が極めて多く必要であるという支出構造を有していた。
また,平成11年当時,情報通信事業においては,いわゆるIT革命と称される情報通信技術の飛躍的な進展を背景として,インターネットや移動体通信が急速に普及,拡大するとともに,情報通信の国際化が急速に進展し,グローバルで激しい競争が活発化しようとする環境にあった。
このように,被告は,設立当初から厳しい経営環境にさらされ,黒字体質への早期転換,固定電話に依拠した企業からインターネットに代表されるIP技術を活用する情報流通企業へ脱皮することが,喫緊
の課題であった。
そのため,被告は,平成11年11月に「中期経営改善施策」と称する3カ年計画(以下「本件中期施策」という。)を策定し,情報流通営業の充実を図るとともにコストを削減させるため,新規採用の凍結,グループ会社間の人員再配置等による人件費の削減,設備投資の効率化といった施策を実施した。
本件中期施策の実施中にも,当初予想し得なかった経営環境の悪化があったため,平成12年12月から平成14年4月までにわたって,希望退職者を募集し,これにより約1万2000人が退職した。
(イ) 財務状況の悪化
本件中期施策の実施にもかかわらず,① 固定電話の回線数の減少及び通話量の減少(携帯電話の飛躍的な伸び),② 接続料収入の減収(アメリカとの政府間協議の結果による),③ マイライン制度(顧客が優先的に利用する電話会社をあらかじめ登録することにより,自動的にその電話会社を利用した通話になるというシステム)の導入による被告のシェアの低下,④ インターネットアクセス市場の動向(インターネットアクセス市場において,ISDN等からブロードバンド需要への急激なシフトによりISDNの需要が激減し,ADSL市場においても「ヤフー!BB」等の新規参入業者との間の価格競争により大幅な収益拡大が見込めなかったこと),⑤ IP電話(IP技術を応用しつつ,従来のインターネット電話よりも音質が改善され,距離や時間を問わず一律に価格が安い電話サービス)の登場,⑥ ソフトバンク社の固定電話市場への参入,といった経営環境の変化が生じた。
このような急激な変化により,被告の財務内容は悪化の一途をたどり,平成13年2月発表の平成13年度(平成13年4月1日から平
成14年3月31日まで)の事業計画では,売上高2兆5540億円,経常損失約840億円と予想したが,平成13年11月の中間決算発表時には経常損失約1400億円と予想を下方修正した。結果的には,平成13年度は,売上高が約2兆1906億円,経常損失が約170
4億円,当期未処理損失が約3962億円となった。また,平成14年度以降も,約1500億円規模の大幅な赤字が継続し,自立した企業として存続し得ない厳しい事態を想定せざるを得ず,従業員の雇用確保も困難となるまでの強い危機感を持たざるを得ない状況であった。
このようなことから,被告としては,財務状況等を考慮すると,一過性の対処策のみではなく,事業構造を大きく転換させる方策をとる必要があるとの判断に至った。
イ 被告ないしはNTTグループの経営状況(原告らの主張(2)ア)について
(ア) 攻撃的リストラという主張について
仮に優良企業であっても,競争力を確保し,将来を見据えた経営戦略をとらなければ,企業の存立自体が危ぶまれる状態にまで至りうることは,昨今の企業倒産の状況から見れば明らかである。そして,その有力な予防策の1つとして,人件費の削減があることも当然のことである。
(イ) NTTグループと被告との関係
NTTグループが全体として黒字だからといって,その中の赤字企業において経営上の努力が不要となるものではない。連結決算の対象となる企業の間においても,債権債務が法的に別個のものとされるのと同様に,資産や負債が法的に別個のものであることは当然である。なお,被告の赤字をNTT東日本が填補するというのは,NTT東
日本の設立後の3年間に限定された特例にすぎず,むしろ,この3年以内に黒字構造に転換させることが,被告にとっての至上命題であったのである。
ウ 被告が考慮していないコスト削減の事由(原告らの主張(2)イ)について
追加希望退職募集(原告らの主張の(ア)参照)について考慮されていることは,前記ア(ア)のとおりであり,また,NTT東日本からの交付金(原告らの主張の(イ)参照)を受けられる時期が限られていることは,前記イ(イ)のとおりである。
また,被告はNTTに対して「グループ経営運営費」を支払っているが(原告らの主張の(エ)参照),これは経営上の指導,助言というサービスへの対価であり,金額についても,平成12年度には75億円であったが,平成15年度には55億円にまで減額されている。
さらには,いわゆる団塊の世代の大量退職による経費削減(原告らの主張の(オ)参照)についても考慮されているし,これによる経費節減だけでは被告の財務状況が改善しないことは明らかである。
(3) 争点3(本件計画が脱法的なものであったか否か)について
ア 人件費削減のためには種々の手法があるが(整理解雇,賃金等の不利益変更,配転による人員の有効利用など,),その内容とのバランスで,その法的な有効無効が決せられるところ,整理解雇は労働者にとって一方的に生活の資を奪われることであり,賃金等の不利益変更も労働者にとって最も重要な労働条件が一方的に変更されるもので労働者に対する不利益性が高いことから,企業経営上の(高度な)必要性が要件とされる。
しかし,配転については,賃金が確保されるなど,大きな不利益が存在しないことから,経営上の必要性ではなく業務上の必要性があれば足
り,その業務上の必要性も判例上緩やかに解されている。
イ なお,原告らは,何らの雇用形態も選択しなかったために60歳満了型を選択したものとみなされたが,これにより原告らの雇用契約上の地位に変更は生じておらず,何の不利益も生じていない。
ただ,被告の残る業務としては,企画・戦略業務と大口ソリューション営業しかなく,その中でも被告が特に大都市圏でのソリューション営業に注力する方針をとったことから,結果において,60歳満了型の従業員の多くが大口ソリューション営業への職種転換や,大都市圏への異動を受けたにすぎない。
(4) 争点4(本件計画が年齢による差別に当たるか否か)についてア 原告らの主張(4)アについて
そもそも,本件計画における雇用形態選択の制度は,従業員に対して,退職・再雇用とともに職場の地域限定や65歳までの雇用の確保という選択の余地を与えるものにすぎないのであり,これに応じる意向のない者は,OS会社に対して業務委託がされた後の被告において,その能力,適性に応じて従来どおりの労働条件での業務が可能なのであり,その選択権は原告らに与えられており,そもそも差別には当たらない。
また,この雇用形態の選択は,51歳に達する従業員全員に適用されるものであり,現在その年齢に達しない者であってもいずれ対象となるのであって,一定の従業員のみをねらい打ちにした一過性の施策ではなく,その意味では平等を欠くものではない。
さらには,憲法14条及び労働基準法3条は,国籍,信条,性別,社会的身分を理由とした差別を禁じているものであるが,年齢はこれに該当しない。
被告が51歳を区切りとしたのは,一般に50歳前後の年齢は,年
度末年齢50歳から企業年金の受給権が発生することからも裏付けられるように,マイホームの購入,教育費の増加,子どもの結婚等の事由から,勤務地域や一時的資金等に対する様々なニーズが生じやすい年代であることを総合的に勘案して,この年齢を基準に退職・再雇用という新たな選択の途を考えたのであり,合理的な区分というべきである。
イ 原告らの主張(4)イについて
本件配転命令を行った平成14年当時の高年齢者雇用安定法においては,60歳以上の雇用継続は,単に努力義務にすぎなかった。また,被告は,従来のキャリアスタッフ制度を廃止していない。
(5) 争点5(本件配転命令における業務上の必要性の有無)についてア 60歳満了型の従業員の人員配置についての被告の方針等 (ア) 大都市圏の大口ソリューション営業への重点的配置
被告は,前記(2)のとおり,収益の拡大を見込めないまま毎年1
500億円規模の赤字が継続することが予測される状況において,より抜本的なコスト削減を行うために,業務の大幅な委託を内容とする本件計画を実施した。その結果,被告には,経営戦略や企画に関する業務と,大口ソリューション営業の業務が残るのみとなったが,60歳満了型の従業員が従事していた業務の大半が被告からなくなったことから,60歳満了型の従業員については,被告に残ったこれらの業務へ配転することとした。
60歳満了型の従業員は,平成14年5月1日の時点で463名であったところ(前提事実(2)エ(ウ)),固定電話による音声通話の減少,マイライン導入による被告のシェアの低下,企業におけるデータ通信等のIPビジネスへの構造転換などの事業環境の変化に適応して収益拡大を図るには,大口ソリューション営業を強化する必
要があったことなどから,被告は,60歳満了型の従業員を大口ソリューション営業に重点的に配置することとした。
また,大口ソリューション営業部の中でも,特に京阪神地区及び名古屋は,需要が大きく競争環境が厳しいことから,営業重点地域として位置づけられており,また,様々な業種,規模のユーザーやシステム案件に接する機会が多く,60歳満了型の従業員の早期のスキルアップのために配置することが効果的と考えられた。そのため,被告は,60歳満了型の従業員のうち大口ソリューション営業に従事させることとした従業員を大阪,兵庫,京都,名古屋の各支店に配属させることとした。
ただし,グループ会社に出向中の従業員,法人営業等における企画戦略業務の経験により高いスキルを有する者,定年までの残年数が短い者(57歳程度以上の者)などについては,グループ会社に出向させるなどの例外的な扱いをした。
(イ) 本件スキル転換研修(前提事実(2)エ(エ))
a 大口ソリューション営業に従事させることとなった60歳満了型の従業員のほとんどは,それまで営業に携わったことがなく,営業スキルの不足が懸念されたため,被告は,本件スキル転換研修を行うこととした。
平成14年5月1日から本件スキル転換研修受講までの待機期間については,所属支店のソリューション営業部等において,パソコン等を活用した自学自習及び実業務を通じた業務研修等により本件スキル転換研修に備えさせることとした。
なお,大阪支店出身者については,それまでに市場性の高い地域で実経験を積んでいることから,業務研修の受講を免除した。
また,受講者の選定については,比較的営業に近い職種に従事
していた従業員や中小規模支店の従業員を早期に受講させることとしたほか,各支店の受講人数のバランスを考慮した。
b 被告は,本件スキル転換研修後,受講者のスキル習熟度に応じて,SA,A,B,C,Dの5段階評価を行った(以下「本件スキル判定」という。)。
(ウ) 各支店のソリューション営業部への配転
被告は,本件スキル転換研修の修了者を京阪神及び名古屋の各支店のソリューション営業部に順次配転した。
本件スキル転換研修の修了者の各支店への配置に当たっては,本件スキル判定を1つの基準として,全国的に見て被告の営業強化につながるよう,各支店のスキルバランスが偏らないように配慮した。
また,各従業員の居住地などの地理的事情,各支店の人員状況なども考慮した。
さらには,従業員の健康状態及び家庭事情,労働組合活動の状況等により,出身支店に残すなどして,従業員が著しい不利益を被らないような配慮を行った。
(エ) 転居等に伴う従業員の不利益を軽減するための措置
被告においては,転居や遠距離通勤を要する配転を行う場合には,次のような措置を行っている。
a 家族帯同の場合
世帯社宅の確保,引越費用等の支給,家族が病気等の場合の近隣病院の確認や紹介等
b 単身赴任の場合
単身赴任社宅の確保,単身赴任手当の支給,引越費用や帰省手当等の支給,本人が病気等の場合の近隣病院の確認や紹介等
c 遠距離通勤の場合
特急や新幹線利用料金の支給(ただし,片道2時間以内などの条件を充たす場合)
(オ) 大阪支店の営業体制(本件配転命令1及び2)
a 大阪支店では,本件計画の実施に伴い,管轄下のユーザーのうち,支店に残すように指示のあった売上高100億円以上の企業等の約1500社,及び大阪支店の経営戦略上独自に受け持つこととした約2300社の,合計3800社を大阪支店ソリューション営業部において受け持つこととし,それよりも下位のユーザー層を営業系地域会社である株式会社エヌ・ティ・ティ マーケティング アクト関西(以下「アクト関西社」という。)に業務委託することとした。
大阪支店ソリューション営業本部においては,約3800社の対象ユーザーを,売上等の規模によって上位層の約800社と下位層の約3000社に分けた。
このうち,上位層約800社については,業種別に3つに区分けし,第1ないし第3ソリューション営業部にそれぞれ配置した。また,下位層約3000社については,本件計画の実施前の組織を統廃合しつつ地域別に区分けを行い,大阪北ソリューション営業部,大阪中央ソリューション営業部,大阪南ソリューション営業部の3つの営業部体制とした。
b 大阪支店では,① 本件計画の実施前に大阪支店,和歌山支店,大阪府下のグループ会社又は本社事業部に所属していた従業員で
60歳満了型の者(217名),及び,② 本件計画実施後に本件スキル転換研修を受けて他府県から大阪支店に配置換えとなる6
0歳満了型の従業員(平成14年4月から6月までの間に本件スキル転換研修を修了した者で,大阪支店以外の出身者は,原告 A
(原告1),原告 C (原告3),原告 D (原告4)を含めて2
7名であった。)の配置について,検討を行った。
その結果,これらの者の大半が営業未経験者,又は大口ユーザーに対する営業経験のない者であったため,いきなり大口ユーザーを担当する第1ないし第3ソリューション営業部に配置することはせず,小規模ユーザーを対象とする営業活動を行う中でスキルを高めてもらうのが適当であると判断し,これらの者の大半を各地域のソリューション営業部の営業担当に配置することとした。そして,これらの者には,1ないし3回線ユーザー(中小企業 や商店等)に対するフレッツADSL及びBフレッツ等を中心とした通信サービスの導入を提案する業務を担当させることとした。
c 被告の今後の生き残りを図るためには,早期にブロードバンドサービスのシェアを確保し,市場における優位性を確保することが重要であったが,平成14年4月から,関西電力系事業者のケイ・オプティコムが,関西圏全域での光ファイバーサービスの提供を開始したことにより,この地域において激しい競争が繰り広げられることとなった。
このようなブロードバンド市場の状況からすれば,被告としては,京阪神地域におけるADSLサービスや光ファイバーサービスの市場シェアを少しでも多く獲得することが,被告の一時的な収益拡大の観点のみならず,今後の事業展開を考えた場合にも極めて重要であり,そのような観点から60歳満了型の従業員の担当業務は重要な意味を有するものであった。
(カ) 名古屋支店の営業体制(本件配転命令3) a 名古屋支店における人員の必要性
本件配転命令1及び2の後,名古屋支店において,被告の主力
商品である光ファイバーサービスの販売やMI業務を強化する必要が生じてきたことから,本件配転命令3を行った。
すなわち,まず,名古屋支店エリアにおいては,ADSL市場のシェアが他支店の平均よりも低かった。また,被告は,平成1
3年秋から名古屋市内の一部地域でBフレッツサービスを開始し,同地域では光ファイバーサービスの提供をほぼ独占していたが,平成14年春に,中部電力が同年11月から光ファイバーサービスを開始するとの報道発表を行ったことから,大阪支店エリアと同様に,名古屋支店エリアにおいても,光ファイバーサービスをめぐる厳しい競争が想定された。これを受けて,被告は,マンション等の集合住宅を早期に囲い込むことが重要と考え,同年9月,マンション等へのBフレッツの拡販に特化したプロジェクトチームである名古屋BフレッツPTを発足させ,そのため,名古屋BフレッツPTの要員として60歳満了型の従業員を配置させる必要があった。
また,被告の収益基盤を安定させるには,システム装置の受注のみならず,システム受注後の運用や保守管理全般(MI業務)を併せて受注することが有益な手段だったが,当時,名古屋支店では,そのための体制作りが人員不足のためにできない状況であり,MI業務の体制を強化する必要があった。
b 名古屋支店における人員配置の方針
名古屋BフレッツPT担当及び名古屋MI担当には,即戦力として活用できる人材であることが望ましかったが,そのような人材を十分に確保することができなかったため,京阪神地域の各支店(特に大阪支店)はソリューション営業の中心地であり,他社との厳しい競争の経験もあったことから,これらの各支店でソリ
ューション営業に従事していた60歳満了型の従業員を重点的に名古屋支店に異動させることを考えた。
また,ソリューション営業に従事して間もない60歳満了型の従業員であれば,名古屋支店に異動させたとしても,転出元の組織に与える業務上の支障も比較的小さく,名古屋支店においてソリューション営業を担当することにより,ソリューション営業のためのスキルアップが期待できると考えた。
京阪神地域の各支店から名古屋支店への異動者の人選については,個人的事情から異動を回避すべき者を除き,配属後の業務に順応し円滑な業務の実施を行うことができるようにという観点から,① 平成14年上半期の業績評価結果が標準以上の者,② 本件スキル転換研修の秋期における受講者については,本件スキル判定が標準(C評価)以上の者から人選し,それら従業員の経験等を勘案して,名古屋BフレッツPT担当又は名古屋MI担当に配置することとした。また,本件スキル転換研修の秋期における修了者のうち大規模支店を除く支店の出身者,及び名古屋支店出身者については,原則として名古屋BフレッツPT担当及び名古屋MI担当に配置することとした。
c 名古屋BフレッツPT担当
(a)名古屋BフレッツPTの組織体制としては,企画担当者10名程度,SE担当者が30名程度,販売担当者が40ないし6
0名程度,合計80ないし100名程度を想定していた。このうち,名古屋支店からは,企画担当10名,販売担当10名, SE担当20名程度を配置し,その余は他支店からの転入者で補う必要があった。
平成14年9月発足当初,名古屋BフレッツPTは,企画担
当者4名,SE担当者18名,販売担当者24名,合計46名であったが,その後,順次,企画担当者を3名,SE担当者1
2名,販売担当者を37名(原告らを含む。)それぞれ増員した。
(b)被告の提供するBフレッツシリーズには,ビジネスタイプ,ベーシックタイプ,ファミリータイプ,マンションタイプの4種類がある(前提事実(5)イ(ア)参照)。このうち,マンションタイプは集合住宅全体で加入することを前提としたサービスで,
1つの集合住宅で8戸以上の契約が見込める場合に提供されるものであり,また,ファミリータイプは,各戸別に契約可能なサービスであり,一戸建てやオフィス等においても利用されているものである。
そこで,名古屋支店では,概ね20戸以上の集合住宅であれば,8戸以上の契約が見込まれると考え,20戸以上の集合住宅を営業対象とする販売第1グループと,20戸未満の集合住宅を営業対象とする販売第2グループを設けた。そして,マンションタイプの販売には高度の知識とスキルを要することや,管理組合等への説明のために夜間や休日の労働を要請する場合が多くなることなどを考慮した結果,販売第1グループには,名古屋支店のソリューション営業部で従前から大口ソリューション営業に従事していた従業員8名と,九州の支店において営業系業務に従事していた従業員12名を充てることとし,販売第2グループには,比較的営業経験の少ない京阪神地域からの転入者(原告らを含む。)を充てることとした。
(c)販売第1グループ,販売第2グループともに,基本的にはBフレッツのマンションタイプを勧奨商品としていたが,その販売が困難な場合には,Bフレッツのファミリータイプ,フレッ
ツADSL,その他のNTTの商品を販売するように指示していた。
また,いずれのグループにおいても,経験豊富な従業員を講師としてオリエンテーションを実施したり,勉強会等を開催して,スキルの付与に努めていた。
d 名古屋MI担当
(a)名古屋支店においては,本件計画の実施前にMI業務に従事していた従業員の多くが退職・再雇用によりOS会社に移行したこともあり,本件計画の実施後のMI業務の担当者が,課長
1名(○○課長)の他わずか9名となり,その人員では,保守契約の見積書作成等の限られた作業を行うのが精一杯で,ユーザーへの積極的な提案等ができないだけでなく,保守手引書の不備によるトラブル対応に追われる状況であった。
そこで,MI業務を強化すべく,平成14年11月に新たに課長1名(○○課長)をMI業務の担当とし,○○課長の下に
6名の有スキル者を配置し,○○課長の下に原告らの一部を含めた20名を配置した。
○○課長のグループは,主にMIに関する提案業務と下請業者への発注業務を,○○課長のグループは,主に保守手引書作成等の業務を行うこととした。なお,平成15年4月には,○
○課長のグループを「MI企画担当」と,○○課長のグループを「MIサポート担当」と,役割を明確にした(なお,以下では,その時期にかかわらず,○○課長のグループを「MI企画担当」,○○課長のグループを「MIサポート担当」と呼ぶことがある。)。
(b)被告は,MIサポート担当の当面の業務として,保守手引書
(ユーザー・被告・下請業者間の連絡系統図,システム構成図などを記載したもので,故障発生時の緊急修理等を行う際には欠かせないものである。)の修正,整備を行わせることとした。平成15年2月ころからは,新規又は既存システムの更改に係る保守手引書の作成作業や,MI企画担当が行っている保守見積書の作成に参画させた。
また,原告らの一部には,「たもつくん」と呼ばれるデータベースの作成,管理を行わせた。この「たもつくん」は,MI業務の進捗管理や保守契約状況をデータベース管理して,AM(アカウントマネジャー)とMI担当者との間で情報を共有化するとともに,管理されたデータに応じたMI業務を行うことができるようなシステムであり,新規に保守契約をしてくれそうなユーザーを洗い出したり,保守契約の更新忘れを防止する目的で作成されたものである。
なお,MIサポート担当では,勉強会の実施や,日常業務を通じた指導等により,必要なスキルを順次習得させた。また,名古屋支店では,MI業務に関する様々な勉強会を実施していた。
イ 原告らの主張(5)ア(本件配転命令全般)について (ア) 原告らの主張(ア)について
原告らをOS会社に在籍出向させることを認めれば,同じOS会社には退職・再雇用を選択し,従来の70ないし80%相当の賃金で業務を行っている従業員がいるところ,原告らが従来と同一の賃金で同じ職場で同じ業務を行った場合,モラル面で著しい障害になることは明らかであり,そのような人員配置を認めることはできない。
(イ) 原告らの主張(イ)について
本件計画の実施の結果,被告に残った機能は,① 経営戦略や企画に関する業務と,② 大口ソリューション営業の業務であるところ,被告としては,60歳満了型の原告らに対して,この2つの業務のいずれかを担当させるほかないのであり,この2つの業務を比較したとき,原告らについては少しでも収益に直結する営業部門に配置した方が合理的であると考えられたため,本件配転命令を行ったのである。
また,50歳以下の大口ソリューション営業を担当する従業員は,既にそれぞれが地方において顧客を持っており,そのような従業員を異動させることは,顧客との関係上,デメリットが大きく,合理的な配置ではなかった。
(ウ) 原告らの主張(ウ)について
まず,① 本件配転命令1及び2により原告らに与えられた業務が収益を期待できないという点については,原告らが担当するに至ったのはBフレッツ及びフレッツADSLの販売であるが,これらの商品は今後のIP系収入拡大に向けて被告が最も重視している商品であり,これらの販売業務の必要性がないかのような主張は暴論であり,自らに課せられた業務と責任に対する認識が欠けた主張であると言わざるを得ない。
また,② 本件配転命令3により生じた新幹線通勤による被告の費用負担の点については,原告らの労働力を被告の業務において最も有効に活用するために必要な費用であり,原告らが配転先で十分にその業務を全うし,被告の営業に寄与すれば回収できたものである。むしろ,原告らを配転せず,地方支店に置いた場合,そのような収益拡大につながる可能性は低く,原告らに対する人件費が被告にと
って有用でないコストとなるおそれが高かったのである。ウ 原告らの主張(5)イ(本件配転命令1)について
被告は,最終的な目標としては,原告らには,中小規模ユーザーではなく,早期に大口ユーザーに対する営業を行ってもらうことを考えていた。そのためには,中小規模ユーザーの担当から着実に経験を積ませ,スキルアップを図りながら大口ユーザーに対する営業ができるようにするべきであり,競争が激しく,新製品の投入も早い大都市圏で研修することの効果は高い。また,原告らに対しては,いずれは大都市圏で業務をさせることを目的としていたのであり,最初から大都市圏で業務を行わせることが適当であった。
エ 原告らの主張(5)ウ(本件配転命令2)について (ア) 原告らの主張(ア)について
被告は,中小規模のユーザー向けの営業活動を基本的にアクト関西社に業務委託したが,アクト関西社では人員規模の関係からAMを配置できるのが3回線以上のユーザーであった。そこで,大阪支店では,アクト関西社に1,2回線のユーザーを任せていたのでは営業が手薄になると考えて,このようなユーザーに対しても営業活動を行うこととした。
(イ) 原告らの主張(イ)について
このような主張は,原告らの努力,工夫が不足していることを示しているにすぎず,実際に,原告らと同様に平成14年5月以降に職種が転換した者の中にも,売上げが原告らの数倍ある者がいる。そもそも,顧客リストは営業活動のきっかけにすぎないものであり,要は営業努力の問題である。
(ウ) 原告らの主張(ウ)について
小規模ユーザーに対する営業活動において用いる営業手法や商品知
識は,大口ユーザーに対する営業活動を行う上での基本であり,小規模ユーザーの対応さえできないような状態であれば,大口ユーザーの対応は不可能である。
(エ) 原告らの主張(エ)について
被告は,前記ア(イ)のとおり本件スキル転換研修を行い,その他,大阪支店や名古屋支店においても様々な研修を行った。また,被告においては,通信教育講座の費用負担をするなど,自学自習によるスキルアップの手段を取りそろえるなどしている。
オ 原告らの主張(5)エ(本件配転命令3)について (ア) 原告らの主張(ア)について
a 原告らの主張aのうち,Bフレッツのマンションタイプの営業の点について
中小規模の事業所ユーザーについては,OS会社である株式会社エヌ・ティ・ティ マーケティング アクト名古屋(以下「アクト名古屋社」という。)が受け持つことを考えていたが,事業所ユーザー以外の一般ユーザーについては,積極的な営業体制を構築しておらず,アクト名古屋社において家電量販店や116番を通じたユーザーからの注文を待って販売するという体制を考えていた。そこで,集合住宅の早期囲い込みを図るべく,積極的な営業体制を構築できないかアクト名古屋社と協議したところ,アクト名古屋社も名古屋支店エリアの全域の集合住宅を担当するだけの余裕がないという状況である一方,被告の今後の販売戦略を持つことは有意義であると考えられたことから,名古屋支店エリアを,アクト名古屋社が担当するエリアと名古屋支店が担当するエリアとに分けることとなった。また,名古屋支店の既存のソリューション営業部では集合住宅まで受け持つことは困難な状況だったために,既存の販売部隊では
なく,新たに名古屋BフレッツPTを発足させることとしたのである。
b 原告らの主張aのうち,MI業務の点について
MI業務のうち業務委託されたものは,実際の保守作業及び中小規模ユーザーに対するMI業務であり,大口ユーザーに関する業務は被告に残されていた。そして,MI業務での売上げを伸ばしていくために重要なことは,保守契約のニーズの高い大口ユーザーから新規の保守契約を取得し,契約の更新を繰り返してもらうことであり,そのためにはMI提案業務(AMのセールスのために保守見積書等を作成することなど)を強化する必要があった。
c その他,原告らの主張b及びcについては,争う。 (イ) 原告らの主張(イ)について
a 原告らの主張aについて
被告は,保守手引書の修正等だけではなく,新たな保守手引書の作成,保守見積書の作成,データベースの作成等も命じている。また,保守手引書の修正等は,必ずしも単純作業であったとは言えない。
b 原告らの主張bについて
前記ア(カ)d(a)のとおり,被告が名古屋MI担当の体制の整備を始めたのは平成14年11月ころであり,また,名古屋支店のシステム受注高に対するMI業務の受注高の割合は,他支店に比べて半分程度しかなかったのであり,MI業務を強化しなければならない必要性があった。
(ウ) 原告らの主張(ウ)について a 原告らの主張aについて
販売第2グループにおいても平成14年度当初からファミリータ
イプやフレッツADSLの売上げは着実に伸びてきていたなど,成果が上がらないような業務ではなかった。また,被告は,原告らに対し,マンションタイプの販売のみを求めていたのではなく,マンションタイプの販売が困難なときは,ファミリータイプやフレッツ ADSL等のその他の商品の販売を行うことも重要であると,繰り返し説明していた。
b その他,原告らの主張b及びcについては,争う。
(6) 争点6(本件配転命令が不当な動機・目的に基づくものであるか否か)について
本件配転命令については,前記(5)のとおり,合理的な理由があったの であり,原告ら主張のような動機・目的があったと考えるべき理由はない。なお,仮に原告ら主張のような動機・目的があったとすると,① 60 歳満了型の従業員でも配転命令を受けていない従業員は数多くいること,
② 原告ら(原告 D (原告4)を除く)を含め,一旦は配転命令を受けた者のうちの多くが,元の勤務地の近傍に再配転されていること,③ 6
0歳満了型の従業員の育成や研修に多額の費用をかけていることについて,およそ説明ができない。
(7) 争点7(本件配転命令が不当労働行為に該当するか否か)について
ア 被告は,本件計画に基づく業務上の必要性により本件配転命令を行ったのであり,人員配置の決め方についても,対象者のスキル等を基準として行ったのであって,組合潰しや組合役員の狙い撃ちといった不当な目的により行ったものではない。
NTT労組の組合員である60歳満了型の従業員は121名おり,そのうちの61名(50.4%)について,配転先が異なる都道府県となる配転を命じているのに対し,通信労組の組合員である60歳満了型の従業員は306名おり,そのうちの107名(34.9%)につい
て,同様の配転命令を行ったのであり,通信労組の組合員であることを理由に配転させた事情はない。
イ 原告らの主張(7)イについて
(ア) 本来,NTT労組との間での組合間差別や通信労組に対する団交拒否の問題と本件配転命令の問題とは別次元の問題であるし,本件配転命令に至るまでの経過においても不当労働行為は存しない。
被告と通信労組は,平成11年11月,基本的労働条件等の,本社が所掌する事項については中央交渉委員会で対応し,各県域支店等の組織の長が所掌する事項については地域交渉委員会で対応する方式(2段階交渉方式)を行うことを確認した。本件計画に関する労使間論議に当たっても,この方式で行うことが合意された。
被告は,平成13年4月27日に本件計画の概要を記載した資料を通信労組に送付し,同年5月8日にはその詳細な資料を送付した
(前提事実(2)ア(イ))。また,被告と通信労組は,同年5月11日に団体交渉を行い,その後も団体交渉を重ねた。
しかし,通信労組は,本件計画そのものに反対の姿勢を崩さず,団体交渉も入口論に終始する結果となり,各施策についての深い論議に至らなかった。
(イ) 原告らの主張(ア)について
まず,被告がNTT労組に対して本件3カ年計画を説明,協議を行ったのは,被告とNTT労組との間の経営協議会の場においてである。この経営協議会は,経営の基本施策など重要課題について会社が労働組合に説明し意見を徴する場であり,団体交渉とは異なる場である。
また,被告は,本件計画にかかる労働条件の諸問題に関しては,検討段階から通信労組に対しても逐次提案してきたところであり,
提案に当たっては,被告内に存在する全ての労働組合に対して,ほぼ同一時期に同様の項目内容を示して対応しており,NTT労組を含む他の労働組合との関係で差別的な取扱いなどない。
(ウ) 原告らの主張(イ)について
意向確認調書等を提出しない場合には60歳満了型の選択があったものとみなす扱いをすることそのものが,特段の選択を押しつけるものとまで言えず,また,被告は通信労組に対してこの扱いについて一定の説明を行っており,さらには,通信労組との間でのこの扱いについての団体交渉後に意向確認手続を行っているのであるから,被告に不誠実な点はない。
この他,被告が,個別面談を受けることは業務命令であると言明した点についても,それは被告の方針を説明したにすぎず,組合を無視する発言ではないし,被告は通信労組からの団体交渉の要求があったときには,要求の期間内に団体交渉に応じていた。また,被告は,平成13年5月8日以降,OS会社における労働条件について,通信労組に,随時,提案及び説明を行っていた。
(エ) 原告らの主張(ウ)について
組合員の個別の配属問題については,被告の経営そのものに関する事項であり,被告がこれに対する団体交渉を拒否するについては正当な理由がある。
ウ 原告らの主張(7)ウについて
被告が把握しうる限りでは,本件計画の実施直前に地方都市に在勤した60歳満了型の従業員のうちの通信労組の組合員数(86名)と NTT労組の組合員数(44名)の比較に加え,それらのうち本件スキル転換研修後の配転により地方都市から大都市圏(京阪神及び名古屋)へ異動した者の人数(通信労組の組合員は25名,NTT労組の
組合員は34名)の比較によれば,通信労組の組合員のみならず,相当数のNTT労組の組合員も配転されていることが分かる。このように,通信労組の組合員を狙い撃ちにした事実はない。なお,組合役員については,通信労組は被告に対して組合役員名簿を提出していない。また,被告は,本件配転命令に当たって,組合活動に関しても考慮 した。具体的には,従来の団体交渉において組合側から「交渉団長」又は「窓口」として指定されてきた組合員を組合活動上不可欠な者と判断し,当面は転居を伴う配転を見合わせたり,転勤先を配慮するな
どした。
エ 原告らの主張(7)エについて
被告は,そもそも,関西地区に通信労組の分会がいくつ存在していたのかや,どの区域単位ごとに分会が存在していたのかなど,通信労組の分会組織については全く関知しておらず,配転に際して通信労組の組合員の異動を伴うようにあえて人選することは不可能である。
また,大阪支店に在籍する通信労組の組合員の勤務先のビルに変更が生じたのは,本件計画の実施の結果,大阪支店の営業体制を大きく見直し,各事業所の所在するビルについても抜本的見直しを行った結果にすぎない(前記(5)ア(オ)a参照)。
(8) 争点8(本件配転命令において適正な手続が執られていたか否か)について
被告は,定期的に従業員との個別面談等を通じて本人の健康状態や家庭事情等の把握に努めており,雇用形態の選択の際にも51歳以上の退職者全員に個人面談を受けるように促したが,原告ら通信労組の組合員の大半は,組合の意向として,個人面談に応じなかった。
原告らが本件訴訟において主張している個人的事情の中には,本件配転命令前に被告に明らかにしていなかった事実が含まれる。被告は,雇用形
態を選択すべき対象者に対して,平成13年12月から,本件計画の内容,労働条件,雇用形態選択の内容等を説明しており,原告らは,60歳満了型の従業員となった場合に転居を要する配転となる可能性があることを十分に承知しており,仮にこれに応じられない事情があれば個人面談等において主張する機会があったにもかかわらず,その機会を自ら放棄したものである。被告としては,把握できなかった事実を配慮することはできないのであるから,本件配転命令前に被告が知らなかった事情を本件配転命令の違法性を決する上で考慮されるべきではない。
(9) 争点9(各原告らが本件配転命令によって受けた不利益の程度等)について
ア 原告 A (原告1)について
(ア) 原告 A は,本件計画の実施前,株式会社NTT-ME四国(以下
「NTT-ME四国」という。)香川支店において,無線設備の保全維持管理全般,現況調査業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 A が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 A を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日,被告香川支店ソリューション担当に配置するとともに,同月7日から本件スキル転換研修を受講させた。原告 A の本件スキル判定の結果はCで,帰省の際の交通事情等を考慮して大阪支店に配置することとし,本件配転命令1を行った。
原告 A は,大阪支店ソリューション営業本部大阪南ソリューション営業部において,1ないし3回線の事業所ユーザーに対するBフレッツ等を中心とした通信サービス等の導入を提案する業務に従事していた。
(イ) 被告が原告 A に面談を申し出なかったのは,通信労組から個人面談を拒否する旨の通知を受けていたからである。
被告は,平成14年4月17日及び同月22日におけるNTT-M E四国への申入れにより,原告 A の妻の障害の内容を把握していたが,原告 A が妻との共働きを続けていることからして,原告 A自らが妻の介護を行わなければならないような切迫した状況とは考えられない。
なお,被告は,本件配転命令1当時の通信労組の愛媛支店地域交渉団長及び交渉窓口の2名については,組合活動上不可欠な者と判断し,当面,大都市圏への配転を見合わせるという配慮をしている。
イ 原告 B (原告2)について
(ア) 原告 B は,本件計画の実施前,NTT-ME四国徳島支店において,パケット・フレームリレーサービスに関する交換機の保全維持,回線開通全般(現地対応業務),故障対応業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 B が従事していた業務は,全て OS会社に移管された。
被告は,原告 B を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日,被告徳島支店営業担当に配置するとともに,同月7日から本件スキル転換研修を受講させた。原告 B の本件スキル判定の結果はBで,帰省の際の交通事情等を考慮して兵庫支店に配置することとし,本件配転命令1を行った。
原告 B は,兵庫支店ソリューション営業部において,平成14年5月から同年9月までは,ITスキル習得を目指したパソコンによる自学自習等を行った。また,平成15年4月にブロードバンド PTに異動した後は,1,2回線事業所ユーザー等へのBフレッツ, ADSL等のIP系商品の訪問販売を行った。
(イ) 被告は,平成14年4月22日に,原告 B から,その妻の腰痛についての申告を受けていたが,当時,その妻は被告の徳島支店に所属していたため,その所属長に確認したところ,その妻は通常どおり勤務していたことが判明したため,特段の問題はないものと判断した。
また,原告 B の自宅から兵庫支店の勤務地までの通勤時間は約1時間40分ないし50分であり,自宅通勤を甘受できない範囲ではなく,うつ病に罹患した原因が単身赴任にあったとしても,原告 Bが単身赴任を選択したのであり,被告の責任を問うことは失当である。
ウ 原告 C (原告3)について
(ア) 原告 C は,本件計画の実施前,被告岡山支店において,オーダ処理業務(線番異動処理,設備管理業務)に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 C が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 C を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年4月1日から本件スキル転換研修を受講させた。原告 C の本件スキル判定の結果はBで,大阪支店に配置することとし,本件配転命令1を行った。
原告 C は,大阪支店ソリューション営業本部大阪南ソリューション営業部において,1ないし3回線の事業所ユーザーに対するBフレッツ等を中心とした通信サービス等の導入を提案する業務に従事していた。
(イ) 被告は,本件配転命令1の内示や発令の際を含め,原告 C が単身赴任を余儀なくされるような家庭事情の申告を受けていない。また,原告 C の妻が介護を要するに至ったのは,本件配転命令1の後に
生じた事情である。
なお,被告は,岡山支店については,通信労組から地域交渉団長や交渉窓口の担当者の氏名について通知を受けておらず,原告 Cが組合活動上不可欠な者であるとは考えていなかった。
エ 原告 D (原告4)について
(ア) 原告 D は,本件計画の実施前,被告大分支店において,現地調査を含む設備検討業務及びINS1500(被告のISDN商品の名称)に関わる事務処理等の業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 D が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 D を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年4月1日から本件スキル転換研修を受講させた後,同年5月1日に大分支店企画担当に配置した。原告 Dの本件スキル判定の結果はBで,大阪支店に配置することとし,本件配転命令1を行った。
原告 D は,大阪支店ソリューション営業本部大阪北ソリューション営業部において,1ないし3回線の事業所ユーザーに対するBフレッツ等を中心とした通信サービス等の導入を提案する業務に従事していた。
なお,原告 D は,従前から,ユーザー宅などにおいてパソコン等の設定を行うほか,営業業務を行っていた。
(イ) 被告は,本件配転命令1の内示や発令の際を含め,原告 D がHT LV-Iウイルスを保有している旨の申告を受けていない。
オ 原告 E (原告5)について
(ア) 原告 E は,本件計画の実施前,株式会社NTT-ME関西(以下
「NTT-ME関西」という。)大阪支店営業部大阪北営業部(中央
東営業)において,現地調査を含む設備検討業務及びINS150
0に関わる事務処理等の業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 E が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 E を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
10月1日から約2週間の本件スキル転換研修(そのうちの業務研修は免除された。)を受講させた。原告 E の本件スキル判定の結果はCで,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 E は,名古屋MI担当として,保守手引書の作成等を行った。
(イ) 原告 E の父は,原告 E ,その妻,長女とともに同居し,昼間は特に介護を必要としていない状況からすれば,原告 E 自らが父の介護を行わなければならないような状況とは考えられなかった。また,原告 E の母が脳梗塞痴呆と診断されたのは本件配転命令3の後であり,被告としては本件配転命令3に当たって考慮しうる事情ではなかった。
カ 原告 F (原告6)について
(ア) 原告 F は,本件計画の実施前,NTT-ME関西大阪支店サービスフロント担当において,データ通信系サービスの故障受付,サービスオーダの回線開通業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 F が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 F を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同月
7日から約4週間の本件スキル転換研修を受講させた。原告 F の平成14年上半期の業績評価結果は標準以上であり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 F は,名古屋MI担当として,保守手引書の作成等を行った。
(イ) 原告 F の血糖値の点は,本件配転命令3の際には安定していたことからすれば,本件配転命令3に当たって考慮すべき事情にはならない。
キ 原告 G (原告7)について
(ア) 原告 G は,本件計画の実施前,被告大阪支店大阪東ビジネスユーザ営業部ビジネスユーザ営業部門において,小規模ユーザーに対するアカウントマネージャー(AM)との帯同による提案活動業務(S E)に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 G が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 G を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行った。なお,原告 G が既にソリューション営業に従事していたことから,原告 G には本件スキル転換研修を行わなかった。原告 G の平成
14年上半期の業績評価結果は標準以上であり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 G は,名古屋MI担当として,保守手引書や保守見積書の作成等を行った。
(イ) 原告 G の高尿酸血症の点については,原告 G は新幹線通勤をしていたのであるから,通院は可能であったと考えられる。また,スポーツが十分にできなくなった点は,通常甘受すべき範囲内のものというべきである。
ク 原告 H (原告8)について
(ア) 原告 H は,本件計画の実施前,被告大阪支店なにわビジネスユーザ営業部ビジネスユーザ営業部門において,中規模ユーザーに対する営業活動業務(AM)に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 H が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 H を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行った。なお,原告 H が既にソリューション営業に従事していたことから,原告 H には本件スキル転換研修を行わなかった。原告 H の平成
14年上半期の業績評価結果は標準以上であり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 H は,名古屋MI担当として,保守手引書や保守見積書の作成等を行った。
(イ) 原告 H の飛蚊症と胃潰瘍の点については,本件配転命令3の当時には発覚していない事情であるし,本件配転命令3を差し控えなければならないほどの事情でもない。
ケ 原告 I (原告9)について
(ア) 原告 I は,本件計画の実施前,被告大阪支店設備部ネットワーク高度化PTにおいて,アナログ設備,中継メタリックケーブル縮退によるスリム化の総合進捗管理業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 I が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 I を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
11月5日から約2週間の本件スキル転換研修(そのうちの業務研
修は免除された。)を受講させた。原告 I の平成14年上半期の業績評価結果は標準以上で,本件スキル判定の結果はBであり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 I は,名古屋MI担当として,保守手引書の作成等を行った。
(イ) 原告 I の高血圧症の点については,本件配転命令3の当時まで何ら問題なく業務を行っていたことから,配転に当たって考慮すべき事情ではない。
コ 原告 J (原告10)について
(ア) 原告 J は,本件計画の実施前,NTT-ME関西大阪支店サービスフロント担当において,データ通信系サービスの故障受付,サービスオーダの回線開通業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 J が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 J を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
6月3日から本件スキル転換研修を受講させた。原告 J の平成1
4年上半期の業績評価結果は標準以上であり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 J は,名古屋MI担当として,保守手引書の作成等を行った。
(イ) 原告 J の妻の父(義父)の看病の点については,義父を大阪に呼んで同居するとか,家族とともに名古屋に転居して妻だけ鹿児島に帰るなど,様々な選択肢が考えられる中で,単身赴任を選択したのは原告 J 自身である。
また,歯周病,神経性の下痢,脳動脈瘤については,本件配転命
令との関連性は不明である。 サ 原告 K (原告11)について
(ア) 原告 K は,本件計画の実施前,NTT-ME関西エンジニアリングサポート担当において,故障管理,定期試験の業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 K が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 K を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
5月7日から本件スキル転換研修を受講させた。原告 K の平成1
4年上半期の業績評価結果は標準以上であり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 K は,名古屋MI担当として,保守手引書の作成等を行った。
(イ) 原告 K の眼の疾患の点については,原告 K が地元から新幹線通勤をしており,その治療には影響がないと思われる。また,両親が高齢である点については,本件配転命令3の当時,姉夫婦が同居していた点からすると,原告 K が介護する必要性はなかった。
シ 原告 L (原告12)について
(ア) 原告 L は,本件計画の実施前,NTT-ME関西の関西設備エンジニアリングセンタ第4設計担当において,伝送設備設計,物品受渡しの業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 L が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 L を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
6月3日から本件スキル転換研修を受講させた。原告 L の平成1
4年上半期の業績評価結果は標準以上であり,名古屋支店の営業強
化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 L は,名古屋MI担当として,保守手引書の作成等を行った。
(イ) 原告 L の妻の両親の介護の点については,妻の両親と同居するなどの選択肢があるのもかかわらず,別居することを選んだのは原告 L 自身である。また,原告 L の腎臓結石やヘルニア等の点については,いずれも本件配転命令の後に明らかになったものであり,本件配転命令に当たって考慮すべき事情には当たらない。
ス 原告 M (原告13)について
(ア) 原告 M は,本件計画の実施前,NTT-ME関西大阪支店所外設備管理担当において,所外設備データベース維持管理業務の一環である土地使用等に関わる維持管理業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 M が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 M を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
10月1日から約2週間の本件スキル転換研修(そのうちの業務研修は免除された。)を受講させた。原告 M の平成14年上半期の業績評価結果は標準以上で,本件スキル判定の結果はBであり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 M は,名古屋BフレッツPT担当として,その販売第2グループに所属し,マンション等集合住宅へのBフレッツ等の営業業務に従事した。
(イ) 原告 M の義母の病状の点については,その妻が在宅介護に当たっていたのであるし,義母の肺ガンは本件配転命令3の後に判明した事情である。
セ 原告 N (原告14)について
(ア) 原告 N は,本件計画の実施前,被告大阪支店パーソナルユーザ営業部カスタマサービスセンタ北部カスタマサポート部門第一フロント担当において,電話(113番)による故障受付,故障修理手配業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 N が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 N を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
10月1日から約2週間の本件スキル転換研修(そのうちの業務研修は免除された。)を受講させた。原告 N の平成14年上半期の業績評価結果は標準以上で,本件スキル判定の結果はAであり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 N は,名古屋BフレッツPT担当として,その販売第2グループに所属し,マンション等集合住宅へのBフレッツ等の営業業務に従事した。
(イ) 原告 N の高血圧等の点については,本件配転命令3の後の事情である。
ソ 原告 O (原告15)について
(ア) 原告 O は,本件計画の実施前,被告大阪支店パーソナルユーザ営業部カスタマサービスセンタ北部カスタマサポート部門第二フロント担当において,電話(113番)による故障受付,故障修理手配業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 O が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 O を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
10月1日から約2週間の本件スキル転換研修(そのうちの業務研
修は免除された。)を受講させた。原告 O の平成14年上半期の業績評価結果は標準以上で,本件スキル判定の結果はBであり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 O は,名古屋BフレッツPT担当として,その販売第2グループに所属し,マンション等集合住宅へのBフレッツ等の営業業務に従事した。
(イ) 原告 O の椎間板ヘルニア等の点については,本件配転命令3まで特段の支障なく業務を行っていたのであり,配転に当たって支障となるような事情とは言えない。
また,被告は,組合活動については,交渉団長及び交渉窓口の2名については,組合活動上不可欠な者と判断し,当面,大都市圏への配転を見合わせるという配慮をしていたが,原告 O はこれらの役職にはなかった。
タ 原告 P (原告16)について
(ア) 原告 P は,本件計画の実施前,被告大阪支店パーソナルユーザ営業部テクニカルサポート部門DB管理担当において,所外設備変更処理(サービスオーダコントロール)業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 P が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 P を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
10月1日から約2週間の本件スキル転換研修(そのうちの業務研修は免除された。)を受講させた。原告 P の平成14年上半期の業績評価結果は標準以上で,本件スキル判定の結果はCであり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 P は,名古屋BフレッツPT担当として,その販売第2グ
ループに所属し,マンション等集合住宅へのBフレッツ等の営業業務に従事した。
(イ) 原告 P のボランティア活動等の点については,長距離通勤に伴う不利益として通常甘受すべき範囲内のものと言うべきである。
チ 原告 Q (原告17)について
(ア) 原告 Q は,本件計画の実施前,NTT-ME関西の関西設備エンジニアリングセンタ第二回線担当において,ネットワークサービス工事情報,回線開通,回線廃止のデータ変更業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 Q が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 Q を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
6月3日から本件スキル転換研修を受講させた。原告 Q の平成1
4年上半期の業績評価結果は標準以上であり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 Q は,名古屋BフレッツPT担当として,その販売第2グループに所属し,マンション等集合住宅へのBフレッツ等の営業業務に従事した。
(イ) 原告 Q の母の介護の点については,その母が長兄と同居していることからすると,原告 Q 自らが母の介護を行わなければならないような状況とは考えられない。
ツ 原告 R (原告18)について
(ア) 原告 R は,本件計画の実施前,NTT-ME関西の大阪支店営業部カスタマサポート営業部において,CUSTOMオーダー受付処理業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 Rが従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 R を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
10月1日から約2週間の本件スキル転換研修(そのうちの業務研修は免除された。)を受講させた。原告 R の平成14年上半期の業績評価結果は標準以上で,本件スキル判定の結果はCであり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 R は,名古屋BフレッツPT担当として,その販売第2グループに所属し,マンション等集合住宅へのBフレッツ等の営業業務に従事した。
(イ) 原告 R の妻の病状の点については,本件配転命令3の当時には,肺ガンの摘出手術の経過は幸いに良好であったのであり,配転に当たって特段考慮すべき事情ではなかった。
テ 原告 S (原告19)について
(ア) 原告 S は,本件計画の実施前,NTT-ME関西の大阪支店設備サービス部京阪所外設備担当において,地下,地上設備の保守業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 S が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 S を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
6月3日から本件スキル転換研修を受講させた。原告 S の平成1
4年上半期の業績評価結果は標準以上であり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 S は,名古屋BフレッツPT担当として,その販売第2グループに所属し,マンション等集合住宅へのBフレッツ等の営業業務に従事した。
(イ) 原告 S の喘息等やその妻のうつ病の点については,本件配転命令
3の後の事情である。
ト 原告T (原告20)について
(ア) 原告T は,本件計画の実施前,NTT-ME関西の大阪支店カスタマサポート営業部営業サポート担当において,業者への発注管理(発注伝票の作成)業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告T が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告T を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年1
0月1日から約2週間の本件スキル転換研修(そのうちの業務研修は免除された。)を受講させた。原告T の平成14年上半期の業績評価結果は標準以上で,本件スキル判定の結果はBであり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告T は,名古屋BフレッツPT担当として,その販売第2グループに所属し,マンション等集合住宅へのBフレッツ等の営業業務に従事した。
(イ) 原告T の母の介護の点については,原告T の兄が同居してその介護を行っていることから,原告T 自身が母の介護を行わなくてはならないような状況とは考えられない。その他,原告T の地域山岳会等の活動の点は,通常甘受すべき範囲内のものというべきである。
ナ 原告 U (原告21)について
(ア) 原告 U は,本件計画の実施前,NTT-ME関西の設備エンジニアリングセンタ第二回線担当において,ネットワークサービス工事情報,回線開通,回線廃止のデータ変更業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 U が従事していた業務は,全て OS会社に移管された。
被告は,原告 U を大都市圏での大口ソリューション営業に配置
することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
6月3日から本件スキル転換研修を受講させた。原告 U の平成1
4年上半期の業績評価結果は標準以上であり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 U は,名古屋BフレッツPT担当として,その販売第2グループに所属し,マンション等集合住宅へのBフレッツ等の営業業務に従事した。
(イ) 原告 U の高脂血症の点については,月1回程度かかりつけの医院に通院することは十分可能である。
ニ 原告 V (原告22)について
(ア) 原告 V は,本件計画の実施前,被告大阪支店大阪東ビジネスユーザ営業部ビジネスユーザ営業部門において,中規模ユーザーに対する営業活動業務(AM)に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 V が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 V を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行った。なお,原告 V が既にソリューション営業に従事していたことから,原告 V には本件スキル転換研修を行わなかった。原告 V の平成
14年上半期の業績評価結果は標準以上であり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 V は,名古屋BフレッツPT担当として,その販売第2グループに所属し,マンション等集合住宅へのBフレッツ等の営業業務に従事した。
(イ) 原告 V の妻の両親の介護の点については,大阪には原告 V の妻と娘がおり,介護に当たっては代替性があると判断でき,原告 V
自らが妻の両親の介護を行わなければならないような状況とは考えられない。また,原告 V の耳鳴り等の病状については,本件配転命令との関連性が明らかでないし,本件配転命令3の後の事情である。
ヌ 原告 W (原告23)について
(ア) 原告 W は,本件計画の実施前,被告神戸支店設備部ネットワーク高度化推進グループにおいて,設備系業務に従事していた。しかし,本件計画の実施により,原告 W が従事していた業務は,全てOS会社に移管された。
被告は,原告 W を大都市圏での大口ソリューション営業に配置することとし,平成14年5月1日に本件配転命令2を行い,同年
10月1日から本件スキル転換研修(約4週間)を受講させた。原告 W の本件スキル判定の結果はCであり,名古屋支店の営業強化を図るために,本件配転命令3を行った。
原告 W は,名古屋MI担当として,保守手引書の修正,整備やデータベース(たもつくん)の構築,運用を行った。
(イ) 原告 W の組合活動の点については,被告は,交渉団長及び交渉窓口の2名については,組合活動上不可欠な者と判断し,当面,大都市圏への配転を見合わせるという配慮をしていたが,原告 W はこれらの役職にはなかった。
(10) 争点10(各原告らの損害額)について争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告らの労働契約における勤務地又は職種の限定の有無)について
(1) 原告らは,当初,旧電電公社に採用され,NTT,続いて被告へと,そ
の労働契約関係が承継された者であるが(前提事実(1)ア~ウ),旧電電公社及び被告のいずれの就業規則においても,業務上必要があるときは,勤務地又は担当する職務を変更されることがある旨が明記されていたことは,前提事実(4)アのとおりである。
また,本件全証拠を検討しても,旧電電公社において採用された際に勤務地や職種を限定する旨の合意がされていたと認めるに足りる証拠はないし,一定地域外への配転や職種の変更について同意を要する旨の慣行が形成されていたと認めるに足りる証拠もない。
そうすると,原告らの同意なく本件配転命令が行われた(前提事実(2)オ(イ)~(オ)参照)からといって,直ちにそれが違法となるものではない。
(2) この点について,原告らは,原告らの主張(1)のとおり主張するが,いずれも採用することができない。
ア 勤務地の限定(原告らの主張(1)ア)について
なるほど,原告 A (原告1),原告 Q (原告17)及び原告 V
(原告22)については,近接する府県に配転されたことがあったが,原告らは,原則として,本件配転命令までの間,当初配置された府県内において勤務してきた(前提事実(3)ウ及び別紙経歴表参照)とこ
ろである(甲D96,原告 S )。
しかし,高卒で地方採用の従業員でも,本社に配転されたり,県境
を越えて配転される例もあり(乙D36の2,乙F1の2,証人 a ),
本件全証拠を検討しても,被告において採用された地域外への配転命令が当該従業員の同意なしに行われた事例が皆無であったことを認めるに足りる証拠はない。
また,原告らは,原告らの主張(1)ア(ア)のとおり,各電気通信局長によって旧電電公社の職員に採用され,採用時に交付された書面にはその管内の局所へ配置する旨が記載されていた旨主張し,なるほど,
証拠(甲D60,甲D61,原告 S )及び弁論の全趣旨によれば,この事実が認められるところである。しかし,証拠(甲D50,乙D
24の1~20,乙D36の2,乙F1の2,証人 a )によれば,採用に関する通知書が各電気通信局長の名において作成されていたのは,旧電電公社においては総裁から各電気通信局長に対して職員の任命(採用)についての一定の委任がされていたからにすぎないこと,また,管内の局所に配置する旨の記載も最初の配置先を記載したものであることが認められ,それ以上に,勤務地を限定することを約する趣旨のものと認めるに足りる証拠はない。
さらには,原告らは,原告らの主張(1)ア(イ)のとおり,旧電電公社は,各電気通信局等の管轄する施設で業務に従事する職員については,職員募集に際して勤務地域を限定していた旨主張し,なるほど,証拠(甲D51~59,甲D96,甲D99~106,原告 S )によれば,旧電電公社においては,原告らが採用された昭和39年ないし昭和47年ころ,各電気通信局ごとに,採用時の勤務地を示して,職員の募集がされていたことが認められる。しかし,これらの募集の記載内容をもって,旧電電公社が募集に当たって採用後の勤務地域を将来にわたって限定する旨を示したと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
イ 職種の限定(原告らの主張(1)イ)について
原告らは,旧電電公社において,職種ごとに限定して採用されたのであり,本件配転命令までは意思に反して異職種の業務に就くことを命じられたことはない旨主張する。
なるほど,証拠(甲D51~59,甲D96,甲D99~106,原告 S )によれば,旧電電公社においては,昭和39年ないし昭和
47年ころ,各電気通信局ごとに,採用時の業務内容を示して,職員
の募集がされていたことや,採用時に交付された書面に職種が記載されていたことが認められる。しかし,これらの記載をもって,旧電電公社が採用後の職種を将来にわたって限定する旨を示したと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
ウ むしろ,証拠(原告 S )及び弁論の全趣旨によれば,旧電電公社, NTTないし被告の職員や従業員が,配置換えや職種変更に際し,同意書の提出を求められたことはなかったことが認められる。
また,証拠(乙F7)及び弁論の全趣旨によれば,旧電電公社の当時から本件配転命令の当時に至るまで,職員ないし従業員の配置転換についての内部規程があり(被告においては,平成11年7月1日付け人事部長作成の「社員の配置転換について」と題する書面),同規程においては,① 配置換えについて従業員の同意を要する旨の規定がないこと,② 職種変更についても,事務(営業業務を含む。),通信,機械,線路,データ,研究開発の各職掌間における配転については,従業員の同意を要しないとされ,医療や自動車運転手などの特殊な職掌間での一定範囲の配転についてのみ,従業員の同意を要するものと定められていたにすぎないことが認められる。
以上の各事実に加え,被告の就業規則の内容(前提事実(4))を総合すると,原告らについて勤務地や職種の限定があったものと認めることはできない。
(3) 以上によれば,本件配転命令が,原告らの同意なく行われたこと自体をもって,それを違法と認めることはできない。
もっとも,それが,業務上の必要性がないのに行われた場合,それが他の不当な動機ないし目的をもって行われた場合,又は原告らに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合など,特段の事情がある場合には,権利の濫用として許されないものと考えられるが
(最高裁昭和59年(オ)第1318号同61年7月14日第二小法廷判決
・裁判集民事148号281頁参照),原告らが本件配転命令に至るまでの間に就業した勤務地や担当した業務内容は,上記権利の濫用に当たるか否かの判断において考慮するのが相当であると考えられる。
2 争点2(本件計画の必要性の有無)について
(1) 前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
ア 中期経営改善施策(本件中期施策)
NTT法の改正によりNTTがいわゆる純粋持株会社となったのに伴い,被告は,平成11年7月1日,西日本地域における地域電気通信業務を目的とする株式会社として設立され,NTTの西日本における地域通信事業を承継した(前提事実(1)ウ)。
被告は,その設立当時,NTTの従来の事業の構造をそのまま受け継いだことから,その収益のほとんどを固定電話の収入に依存せざるを得ず,また,その設備の維持,保守等のために多額の人件費を必要としているという構造上の問題を抱えており,他方で,NTT法上,電話の役務のあまねく日本全国における適切,公平かつ安定的な提供の確保に寄与すべき責務を負うこととされており(NTT法3条),電話の通信設備の維持,保守を続けるべき立場にあった上,その営むことができる業務の範囲が限定されており(NTT法1条2項,2条3項ないし5項),新たな事業領域に容易に進出することができなかった。
(以上について,乙D1,乙D36の2,乙D38の1,乙F1の1)ところが,IT(情報技術)革命と呼ばれる情報通信技術の飛躍的 な進展を背景に,情報通信分野における競争は,固定電話から移動体電話(携帯電話等)へ,電話(音声通信)からデータ通信へと変化し,また,高速のインターネットアクセスサービスにおける激しい競争が
繰り広げられるにようになった。これらにより,固定電話の収入が先細りになることが見込まれることとなり,被告は,情報流通企業へと変革を図る必要があった。
そのため,被告は,平成11年11月17日,本件中期施策を公表し,これにより,平成12年度から平成14年度までの3年間(平成
12年4月1日から平成15年3月31日まで)において,インターネットに関する各種のサービスを取りそろえるほか,人員削減や設備投資の削減などを行って事業構造の転換を図った。そして,被告は,本件中期施策により,平成14年度に300億円程度の黒字をあげることを目標としていた。
(以上について,乙D3,乙D7,乙D8,乙D29の1,乙D36の2,乙F1の1)
イ 本件中期施策実施以後の経営環境
ところが,本件中期施策の実施中に,次のような経営環境の変化が生じた。
(ア) 携帯電話が飛躍的に伸び,固定電話については契約者数が減少傾向にあるとともに(平成12年には,固定電話加入者数を超えた。),その利用量が減少したため,固定電話の収入が減少してきた(乙D4,乙D12,乙D36の2,乙D40,乙F1の1)。
(イ) 被告が重要な収入源と見込んでいた接続料(通信設備を有しない事業者が通信設備を有する事業者(多くの場合,被告がこれに当たる。)からその設備を借り受けて営業を行う場合の使用料)が,平成12年
7月,日米規制緩和協議の中で,平成14年度までの3年間で22.
5%値下げされることとなった(乙D36の2,乙D38の2,乙D
41,乙F1の1)。
(ウ) 平成13年5月から,いわゆるマイライン(優先接続制度:利用者
が優先的に利用する電話会社をあらかじめ登録しておくことにより,従来必要であった識別番号をダイヤルすることなく自動的に,その電話会社を利用して通話することができる仕組み。なお,従来は,NT Tグループ各社を利用する場合には識別番号が必要なかったため,被告は有利な立場であった。)が導入されることになり,各電話会社がマイラインの登録を競い合うようになり,被告のシェアが低下するという問題が生じた。
また,接続料の値下げ(前記(イ))により,他の電話会社が,マイラインの導入に合わせて市内通話料金を値下げしたために,被告も対抗上値下げを行わざるを得なくなり,この結果,被告は,シェアの低下と料金の値下げという二重の減収要因を抱えるに至った。
(以上について,乙D36の2,乙D42の1~3,乙D43,乙D
52の5・6,乙F1の1)
(エ) 平成12年ころから,距離や時間を問わず一律に低料金で利用できるIP電話と呼ばれるサービスが登場し,固定電話の利用が減少するおそれが生じた(乙D36の2,乙F1の1)。
ウ 被告の財務状況の見通し
被告における平成12年度の中間決算が,平成12年11月に取りまとめられたところ,同年度中間期末における経常損失は約416億円にのぼり,同年度末における経常損失が900億円を超えることが
見込まれていた(甲D82,甲D83,乙D52の4,証人 a )。
また,被告は,この平成12年度の中間決算が取りまとめられた平成12年11月以降,検討を続け,平成14年度の経常損失が150
0億円規模にのぼるものと予測するに至り,前記のように平成14年度に黒字化するという本件中期施策での目標(前記ア参照)を達成することは極めて困難となった(乙D6,乙D36の2,乙F1の1,
乙F7,証人 a )。
その後,被告は,平成12年度の決算において約1058億円の経常損失を計上し,平成13年度の決算において約1705億円の経常損失を計上するに至った(乙D8,乙D11)。しかも,平成13年度の営業収益(約2兆1907億円)は,平成12年度の営業収益(約
2兆4029億円)から約2122億円も減少するに至った(乙D1
1)。
エ 構造改革(本件計画)
前記イ及びウのような経営環境を踏まえ,被告は,本件中期施策を上回る抜本的な事業構造の転換を図るために,OS会社等への業務委託や人件費の削減を盛り込んだ構造改革(本件計画)を実施することとした。
すなわち,被告は,NTT法上,電話の役務の全国における提供を確保すべく,電話の通信設備の維持,保守を続けるべき立場にあった上,営むことができる業務の範囲が限定されていたため(前記ア参照),本件計画において,コスト削減のために,NTT法の規制が及ばない子会社(OS会社)を各地域で設立し,OS会社に対して,被告が行っていた業務の大半を低コストで業務委託(アウトソーシング)するとともに,OS会社において新規の事業を展開し,グループ全体の収益拡大を図ることとした。その上で,被告本体が行う業務を,① 事業計画の策定,商品開発等の経営戦略に関わる業務と,② 設備構築に関する業務,③ 被告のブランド力を活かすことのできる大口顧客に対するソリューション営業業務(大口ソリューション営業)に特化することとした。
また,被告は,これまで依存してきた固定電話の収入の低下の実情から,多数の従業員を従来どおりの労働条件で雇用し続けることは困
難と考え,本件計画において,希望退職者を募る一方,被告の従業員の一部をOS会社に移行(51歳以上の者については,被告からの退職とOS会社への再雇用による移行であり,50歳以下の者については,在籍出向による移行である。なお,今後51歳に達する者についても同様に,このような退職・再雇用による移行が予定されている。)させることとした。そして,OS会社に対する業務委託の対価を下げるとともに,OS会社が新事業において各地域における同業他社と互角に競争することができるように,OS会社に移行させる51歳以上の従業員の賃金を地場賃金並みの水準に引き下げることとし,その地場賃金を検討した上で,従前の被告における賃金を20%から30%下回る賃金水準を設定することとした(なお,50歳以下の者については,在籍出向のため,51歳に達するまでの賃金は従前の水準が維持される。)。
被告は,OS会社へ従業員を円滑に移行させるようにするため,賃金水準が低下する反面で,OS会社においては勤務地を限定するとともに65歳まで雇用延長することとし,また,本件計画導入からの5年間に限定して,定年までの賃金水準の低下について最大で50%程度を填補する激変緩和措置を取り入れることとした。その上で,被告は,同意した従業員のみについて,被告を退職し,OS会社において再雇用するということとした。
なお,被告は,OS会社への従業員の移行について,被告との雇用関係を続けつつ在籍出向の方法を採ることも検討したが,その方法では人件費を削減することが困難であると考えた。
(以上について,乙D6,乙D13,乙D36の2,乙D45の1・
2,乙D46,乙F1の1・2,証人 a )オ 本件計画の実施以後
本件計画は,平成14年5月1日に実施された(前提事実(2)ウ(イ),オ(イ))。
被告は,その後,平成14年度には約449億円の経常利益を,平成15年度には約906億円の経常利益をあげるに至った(乙F1の
2)。
(2) 以上の事実によれば,被告が本件計画を実施した当時,被告が多額の経常損失を計上しており,その原因が,固定電話をとりまく経営環境に大規模な変化が生じている中で,被告の事業構造が,それに要する人件費の点を含め,経営環境に適合しない状況が生じていたところにあったことが認められる。
そうすると,本件計画を実施したことについての必要性はあったと言うべきである。
(3) 以上の点について,原告らは,原告らの主張(2)のとおり主張するが,いずれも採用することができない。
ア 原告らは,NTTグループ全体では巨大な利益を上げていたことなどを主張して,本件計画の必要性について,NTTグループ全体の経営状況を見て判断すべきである旨主張する(原告らの主張(2)ア(ア))。
しかし,被告が独立した法人格を有する以上,NTTグループ全体の財務状況にさえ問題がなければ被告の事業における問題点を改善する必要性がないとは言えない。しかも,原告らが主張するNTTグループの中には,NTTを1人株主とする会社のみならず,株式会社NTTドコモや株式会社NTTデータといった上場会社も含まれるところ(甲F1
の3,乙D3,乙D58,乙F1の1,証人 a ),これらの会社まで
含めたグループ全体の財務状況を見て,被告における本件計画の必要性を検討することは相当ではない。
イ また,原告らは,被告が本件計画の策定に当たって考慮しなかったコ