Contract
文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた
― ー
教材テキスト
オーケストラ、バレエ団、劇団の活動の豊かな発展のために
公益社団法人日本芸能実演家団体協議会[芸団協]令和4年度 文化庁委託事業「芸術家等実務研修会」
文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた 教材テキスト
―オーケストラ、バレエ団、劇団の活動の豊かな発展のためにー
目次
Ⅰ. 研修教材の目的… 3
Ⅱ. 研修教材の対象とねらい… 3
Ⅲ . 取り決めておくべき項目… 5
(1)所属実演家との間で取り決めておくべき項目… 5
●どのような方法で取り決めるか… 5
●取り決めておくべき項目の内容… 7
1. 団の活動目的… 7
2. 入団、退団、活動休止等に関する取り決め… 7
3. 団に所属する上で実演家が負う義務… 7
4. 業務内容… 7
5. 報酬(出演料/ リハーサル料など) 8
6. 著作隣接権・肖像権の取扱い 9
7. キャンセル料の取扱い 9
8. 安全衛生等… 10
9. 団以外の芸術活動への参加(外部出演等) 11
10. 所属期間等… 11
11. 契約内容の変更… 12
12. その他… 12
(2)所属外実演家との間で取り決めておくべき項目… 13
●どのような方法で取り決めるか… 13
●取り決めておくべき項目の内容… 14
1. 業務内容… 14
2. 報酬(出演料/ リハーサル料など) 14
3. 著作隣接権・肖像権の取扱い 15
4. キャンセル料の取扱い… 16
5. 安全衛生等… 16
6. その他… 17
Ⅳ. 項目一覧 18
(1)所属実演家との間で取り決めておくべき項目… 18
(2)所属外実演家との間で取り決めておくべき項目… 21
CONTENTS
Ⅰ
研修教材の目的
この研修教材は、文化庁が令和4(2022)年7月に取りまとめた「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン(検討のまとめ)」(以下「ガイドライン」とします)をもとに、オーケストラ、バレエ、演劇の実務担当者からヒアリングした契約実態も踏まえて、実務上の参考となるよう取り決めておくべき主な項目を整理したものです。オーケストラ、バレエ、演劇の各ジャンルによっては実態に即していない項目もあるため、ジャンルや組織規模などに応じて、ご活用ください。
また、この研修教材を、より一層理解するために、「契約の基本」や「実演家の権利」に関する映像教材を芸団協ウェブサイトで公開していますので、併せてご活用ください。
Ⅱ
3
xxxxx://xxxxxxxxx.xx.xx/xxxxxxxx/xxxxxxxx.xxxx
研修教材の対象とねらい
この研修教材は、オーケストラ、バレエ、演劇のジャンルにおいて、舞台公演の創造・制作、国民への提供と人材の育成に大きな役割を担うオーケストラ、バレエ団、劇団
(以下、特に断りのないかぎり、まとめて「団」と表記します)における契約関係を念頭に置いて、①団に所属する実演家(以下「所属実演家」とします)との間で取り決めておくべき項目、および②団が主催、企画する舞台公演等への出演にあたり、団に所属しない実演家(以下「所属外実演家」とします)との間で取り決めておくべき項目とに分けて整理しています。
団は組織であり、組織が成立するには構成員の共通目的、貢献意欲、コミュニケー
ションが必須と言われます。そのため、団には組織の定款や規約、内部規程といった組織目的や運営規則などを定めた何らかの文書のほか、舞台公演に出演する場合のルールなどを文書化したもの、または口頭で確認された出演ルールなどが存在しています。
これらの定款や規約、内部規程、出演ルールなどは、実演家が団に所属するときに合意した基本的な契約とも言えるものであり、団の公演に所属外実演家が出演する際にも、基本的な取り決めとなり得るものです。
契約は、法律によって求められる場合を除き、口頭でも成立することになっていますが、万が一の場合、具体的な契約内容がわからないと、補償を求めることが困難になるなど事後的に問題が生じることがあります。
4
コロナ禍において、多くの実演家は仕事と収入を失いました。政府もこの事態に対応するため個人を対象とした給付金や補助金の制度を設けましたが、書面などで記録が残されていないために、専門実演家として活動し、収入を得ていたと証明できず、それらの支援を受けられない状況が発生しました。
このようなことを避けるためにも、団と実演家との間で取り決める内容を事前に確認し、文書化しておくことは、万が一の場合、相互に身を守る手段ともなります。
この研修教材を参考に、団と実演家とが取り決めの存在を相互に確認しつつ、見直していくこと、また、文書が存在しない場合は書面化していく契機になることを期待しています。
こうした取組が団活動の豊かな発展の基盤となり、実演家の専門家としての活躍を守り、育て、団の共通目的達成のために貢献意欲を高め、コミュニケーションを活性化することにつながるとともに、団の存在意義が再確認され、文化芸術の振興に果たす団の役割を社会に示して、理解を深化させるものと確信しています。
Ⅲ
取り決めておくべき項目
(1)所属実演家との間で取り決めておくべき項目
実演家が団に所属するにあたり、実演家と団との間の権利・義務を明確にするために、取り決めておくべき主な項目について見ていきます。
実演家が団に所属する時には、団と実演家との間の権利・義務関係、つまり所属実演家として、どのようなことをしなければならないのか、してはならないのか、団として、所属実演家に対して、どのようなことをしなければならないのか、してはならないのかを可能な限り明確にし、入団前に実演家に対して明示されなければなりません。あらかじめ明確にすることが難しい事項については、具体的な内容が取り決められる方法を提示する方法も考えられます。
5
団の活動目的や入団、退団、活動休止等に関する取り決め、団に所属する上で実演家が負う義務、安全衛生等、団以外の芸術活動への参加(外部出演等)、所属期間等および契約内容の変更といった項目は、実演家が、団に所属するにあたり、所属契約によって取り決めておくべき項目と考えられます。また、著作隣接権・肖像権の取扱いやキャンセル料の取扱いなど出演業務に関する条件も所属期間中の舞台公演について共通して定めておくことができるため、所属契約に含めることも考えられます。さらに、報酬についても規約や内部規程によってランクなどが定められており、あらかじめ出演料を決定できるような場合には、所属契約に含めることも考えられます。
●どのような方法で取り決めるか
団と所属実演家との間で、所属契約書を個別に締結する方法だけでなく、団の規約や内部規程で定める方法も考えられます。規約等で定める場合には、入団手続きの際に、団から所属実演家にその内容を説明し、理解を得た上で、所属実演家から、規約等の内容について書面での確認を得る方法も考えられます。
団が主催、企画する舞台公演について、所属実演家への出演依頼は、個別連絡や配役表の掲示などにより行われていることが多いため、出演業務に共通する条件等を所属契約書等に盛り込むことによって、個別の出演依頼では業務内容(公演日時、会場、配役など)のみを通知する方法も考えられます。その際、通知(申込)に対する相手側の承諾がなければ契約は成立しないので、所属契約書等において、業務内容は団から通知され、所属実演家の承諾をもって決定されることを盛り込む必要があります。この
方法によれば、通知は、書面の交付をはじめ、メールやSNS(LINEやFacebookのメッセージ、Twitter やインスタグラムのDM機能等)など簡易な方法も考えられます。
規約・内部規程や所属契約書 によって、主な項目をあらかじめ取り決めておく。
所属実演家
規約、内部規程など
確認書面または
所属契約書
団
あらかじめ取り決めた項目を個別公演に適用
所属実演家
通知など
団
個別公演の業務内容
(日時、会場、配役など)
図1:どのような方法で取り決めるか
6
舞
台
公
演
が
決
定
出
演
し
ま
す
どのような項目を、団と所属実演家との間の所属契約書等によって定めるかは、それぞれのジャンルや団の事情によって異なるものと考えられます。巻末には、この研修教材で取り上げた項目の一覧表を掲載していますので、団と所属実演家との間の所属契約書で取り決めるか、規約や内部規程などで取り決めるか、または通知とするかを検討するにあたって、ご活用ください。
●取り決めておくべき項目の内容
団と所属実演家との間で、取り決めておくべき主な項目の内容について見ていきます。
1. 団の活動目的
団の活動目的は、団と所属実演家とが共に活動していく上で非常に重要なものです。団と所属することになる実演家との間で、明確にする必要があります。
2. 入団、退団、活動休止等に関する取り決め
7
実演家が入団し、退団し、または団に所属しつつ活動は休止(休団)等する場合には、その条件や手続きなどが明示される必要があります。なお、入団や退団、休xxにあたっては、合理的に必要な範囲を超えた義務を課し、正常な商習慣に照らして所属実演家に不当な不利益を与えることや、所属実演家の言動や私生活を過度に制限することとならないようにする必要があります(ガイドライン9頁)。
3. 団に所属する上で実演家が負う義務
実演家が、団に所属するにあたり、団に対して負うべき義務を明確にしておく必要があります。この際にも、合理的に必要な範囲を超えた義務を課し、正常な商習慣に照らして所属実演家に不当な不利益を与えることや、所属実演家の言動や私生活を過度に制限することとならないようにする必要があります(ガイドライン9頁)。
対応方法
次のような事項について明確にする必要があります。
■団が主催、企画する公演に出演し、必要なリハーサル、稽古・レッスンなどへの参加
■団費やチケットノルマなど、所属実演家に経済的な負担が生じる義務の有無
■団の活動に支障をきたさないよう健康、体調管理を行うこと
■舞台公演への出演および稽古・リハーサルへの参加以外の振付、演出、指導その他業務の有無
■SNS利用にあたっての条件(著作権などの権利を侵害しない、秘密情報・個人情報を漏洩しないなど)
4. 業務内容
業務内容は、発注者が何を依頼し、受注者が具体的に何をするか規定するものです(ガイドライン5頁)。例えば、舞台公演やリハーサル・稽古のスケジュールや会場、演奏する曲目や舞踊する演目、上演する作品、役などが、舞台公演ごとに具体的に示される必要
があります。
また、所属実演家が、舞台公演への出演および稽古、リハーサルの参加以外に、振付、演出、指導などの業務を担当する場合には、その旨が明示される必要があります。
対応方法
次のような事項について明確にする必要があります。
■出演、リハーサル・稽古などに係る期間や日時、会場
■演奏する曲目、上演する作品・演目
■ポジションや役
■衣裳の要否
■振付、演出、指導など出演以外の業務の有無
5. 報酬(出演料/ リハーサル料など)
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報酬の決定に当たっては、業務内容や専門性、著作隣接xxの権利の利用許諾・譲渡・二次利用の有無、経費負担等に応じた適正な金額となるよう、十分に協議した上で決定すべきであり、不当に低い対価での取引をしないようにする必要があります(ガイドライン5頁)。適正な金額であるかどうかは、単に金額の多寡のみで判断するのではなく、業務内容(拘束期間の長さを含む)や、公演等で得られる収入、公演等に対する当該実演家の寄与度などを総合的に勘案して判断される必要があります。また、出演料やリハーサル料の額、諸経費の取扱いなどについてあらかじめ明確にし、報酬の支払期日や支払い方法についても、所属実演家に不当な不利益を与えることがないよう明示される必要があります(ガイドライン5頁)。
なお、具体的な金額を定められない正当な理由がある場合には、その理由や報酬が決定する予定期日を明確にし、確定次第速やかに書面やメール等で通知するなどの対応が必要です(ガイドライン5頁)。
また、報酬額の決定基準となるランクなどが存在する場合には明示し、これを団と所属実演家とがあらかじめ共有することによって、報酬額の透明性を高める方法も考えられます。
対応方法
6. 著作隣接権・肖像権の取扱い
舞台上での演奏や演技、舞踊などの実演によって生じる著作隣接権は、その実演を行った実演家に自動的に帰属します。このため、団は、その実演を録音・録画したり、放送したり、インターネット配信したりする場合には、当該実演家と協議の上、その利用について許諾を受けたり、権利の譲渡を受けたりする必要があります(ガイドライン7頁)。
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例えば、団が主催、企画する舞台公演を、記録用または広報用に録音・録画する場合には、あらかじめ実演家の許諾を得る必要があります。また、舞台公演をDVD・ブルーレイなどパッケージ化し、放送し、または配信する場合には、著作xxに定められた実演家の権利がかかわるため、その取扱いがあらかじめ明確にされる必要があります。実演に係る権利の取扱いについては、利用方法や条件を定めて、利用許諾とするか、権利譲渡とするかが明確にされるとともに、対価の決定に当たっては、それらを十分に考慮することにより、実演家の利益を不当に害さないことが求められています(ガイドライン7頁)。
対応方法
次のような事項について明確にする必要があります。
■舞台公演を記録用または広報用への記録(録音・録画、写真撮影)
■舞台公演における実演に係る権利の取扱い( 利用許諾か、権利譲渡か)、利用方法や目的、期間、条件など
■パンフレットやチラシ、ウェブサイトでの写真や経歴などの掲載
7.キャンセル料の取扱い
キャンセル料の取扱いは(、ア)配役や楽曲、演目の変更など団の事情により所属実演家が出演できなくなった場合(、イ)所属実演家の事情により出演できなくなった場合、また
(ウ)感染症や地震、台風などの不可抗力によって舞台公演が中止・延期された場合など、
それぞれの事情に応じてあらかじめ明確にしておくことが、トラブル予防の観点から必要です。
なお、委託公演など公演等の実施に関する予算が一定程度確保されているような場合には、積極的な配慮が求められています(ガイドライン6頁)。
対応方法
次のような取り決め方法が考えられます。
■団の事情により、リハーサル開始●カ月前に舞台公演が中止となった場合には、出演料の●%が支払われ、●日前に公演が中止となった場合には、出演料の●%が支払われる
■所属実演家の事情により出演できない場合には、出演料は支払われないなど
■感染症や地震、台風などの不可抗力によって、舞台公演が中止になった場合には、出演料は支払われないとしたり、別途協議としたり、または既に出演業務を行った割合に応じて出演料が支払われる
■リハーサルや稽古が実施された後に舞台公演が中止となった場合には、リハーサル料のみが支払われる
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8. 安全衛生等
ガイドラインでは、文化芸術の公演等においては、演出上、高所や暗所での作業や身体接触を伴う演技等危険を伴うことがあることから、事故防止など安全管理の徹底が求められ、現場の安全衛生に関する責任体制の確立のため、安全衛生管理を行う者を置くことが望ましいとされています(ガイドライン6頁)。また、制作管理者は、安全衛生等について責任を負うため、安全衛生に関する責任体制の確立、安全衛生教育の実施、作業環境やトラブル・ハラスメント相談体制の整備等の取組が求められています(ガイドライン7頁)。
さらに、出演者の事故の発生等に備え、団が民間の保険に加入するほか、実演家が労災保険に特別加入したり、民間の保険等に加入したりすることについて、費用負担も含め保険に関する取扱いについて協議しておくことが望ましいとされています(ガイドライン7頁)。
対応方法
次のような事項について明確にする必要があります。
■公演や稽古等の団の活動に関して、団が保険に加入しているか否か
■団が保険に加入している場合、安全衛生にかかわる事故が生じた際に、どのような補償を受けることができるか
団が安全衛生やハラスメントに関する管理責任者や相談窓口を設置している場合には、連絡先などを周知徹底する必要があります。
9. 団以外の芸術活動への参加(外部出演等)
団に所属している期間中、団が主催、企画する舞台公演以外の舞台公演やテレビ、映画、CM などへの出演(以下「外部出演等」といいます)について、その可否や外部出演等を希望する際の手続きなどについて、あらかじめ明確にする必要があります。
対応方法
次のような事項について明確にする必要があります。
■団以外の芸術活動への参加の可否
■参加する場合に、団の了解や手続き、団への報告が必要か否か
10. 所属期間等
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団に所属する期間や更新方法・条件などについて定める場合があります。所属契約等に所属期間が定められた場合には、所属期間中、団または所属実演家から、どのような場合に所属関係を解消することができるのか明確にする必要があります。また、所属期間を定めていない場合であっても、どのような場合に所属関係を解消することができるのか明確にする必要があります。これらの場合、双方に対等に定めるのがxxであり、所属関係を解消する妨げとなるような過大な損害賠償額を設定しないよう留意する必要があります(ガイドライン9頁)。
また、所属期間満了後に、団および所属していた実演家が負う義務などを定めておくことも考えられます。ただし、正当な理由なく、一方的に過度の義務を負わせることは避ける必要があります( ガイドライン9頁)。
対応方法
次のような事項について、あらかじめ明確にする必要があります。
■所属期間を入団から●年など一定期間を定めるとともに自動更新とするか否か、さらに契約更新に当たり、どのような手続きをとるのかなど
■団と所属実演家との所属関係を終了させることができる具体的な事由
所属期間中に撮影し、録音録画された写真、録音物・録画物の所属期間終了後の取扱いについて明確にされることが望ましいです。
11. 契約内容の変更
文化芸術に関する業務は、創造的な業務も多く、舞台のリハーサルや稽古、舞台公演の過程においても業務内容等を変更する必要が生じることが考えられます。さらに、所属期間中にも、入団、退団、活動休止等に関する取り決めや団に所属する上で実演家が負う義務、団以外の芸術活動への参加(外部出演等)、所属期間などに関するルールについても変更が生じることが考えられます。そこで、団と所属実演家との間で、円滑に協議に移れるよう、あらかじめ契約内容の変更に関する取扱いについて記載しておく必要があります(ガイドライン7頁)。
対応方法
次のような事項について明確にする必要があります。
■契約内容の変更については、団と所属実演家とが協議し、合意の上で変更できること
■どのような手続きによって規約や内部規程の内容が変更されるのか
規約や内部規程、契約内容が変更された場合には、変更後の内容について書面等で通知される必要があります。
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12. その他
〔クレジットに関する項目〕
実演家は、実演家人格権として氏名表示権を有しており、その表記方法は出演者の名誉声望等にかかわる場合もあり、実演家の意向を可能な限り尊重する必要があります
(ガイドライン8頁)。もっとも、実演家の実演家人格権に基づく氏名表示権は、「氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利」であり(著作xx90条の2第1項)、クレジット表記も様々な方法があることから、団と実演家との間で十分に協議をした上で、クレジット表記の方法が決定されるよう留意する必要があります。
(2)所属外実演家との間で取り決めておくべき項目
団が所属外実演家に出演を依頼する際、また実演家が所属している団以外の団や組織からの出演依頼を受ける際に、それぞれの権利・義務を明確にするために、団と所属外実演家との間で、取り決めておくべき主な項目について見ていきます。
●どのような方法で取り決めるか
出演依頼にあたっては、事前のスケジュール確認はもちろんのこと、「出演依頼書」のような書面をはじめ、メールやSNS(LINE やFacebookのメッセージ、Twitter やインスタグラムのDM機能等)などを通じて、出演依頼が、記録として残されることが重要です。また、特に初めて出演依頼する相手の場合には、出演業務に関する条件などが、丁寧に説明される必要があります。
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団と所属外実演家との間で合意した項目について、個別の出演依頼ごとに契約書を締結する方法も考えられますが、繰り返し出演依頼を受ける所属外実演家と団との間では、より簡便な方法として、基本契約書を締結する方法も考えられます。基本契約書では、報酬(出演料/ リハーサル料など)、著作隣接権・肖像権の取扱い、キャンセル料の取扱い、安全衛生等の条件などを取り決めた上で、舞台公演ごとに定まる演目や曲目、役、公演やリハーサルなどの日時・期間など業務内容のみを個別の出演依頼にあたり書面で通知する方法も考えられます。この場合、通知(申込)に対する相手側の承諾がなければ契約は成立しないので、基本契約書において、業務内容は、団から通知し、
基本契約書によって、主な項目をあらかじめ取り決めておく。
所属外実演家
基本契約書
団
あらかじめ取り決めた項目を個別公演に適用
所属外実演家
出演依頼書・通知書など
団
個別公演の業務内容
(日時、会場、配役など)
舞
台
公
演
が
決
定
出
演
し
ま
す
図2:どのような方法で取り決めるか
所属外実演家の承諾をもって決定されることを盛り込む必要があります。
また、団と所属外実演家との間の基本契約書の締結に代えて、団が所属外実演家に関する内部規程を定めて出演依頼時に所属外実演家の了解を得る方法も考えられます。どのような項目を、団と所属外実演家との基本契約書で定めるかは、それぞれの ジャンルや団の事情によって異なるものと考えられます。巻末には、この研修教材で取り上げた項目の一覧表を掲載しています。基本契約書で取り決めるか、個別の出演
依頼ごとに通知するかを検討するにあたって、ご活用ください。
●取り決めておくべき項目の内容
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団と所属外実演家との間で、取り決めておくべき主な項目の内容について見ていきます。なお、団と所属実演家との間で取り決めておくべき項目として示した、③(団に所属する上で)実演家が負う義務や、⑪契約内容の変更などの項目も、必要に応じて、団と所属外実演家との間で取り決めておくことも考えられます。
1. 業務内容
業務内容は、発注者が何を依頼し、受注者が具体的に何をするか規定するものであり、特に重要な項目です(ガイドライン5頁)。例えば、舞台公演やリハーサル・稽古のスケジュールや会場、演奏する曲目や舞踊する演目、上演する舞台、役などが舞台公演ごとに具体的に示される必要があります。
また、所属外実演家に、舞台公演への出演および稽古、リハーサルの参加以外の振付、演出、指導などの業務を依頼する場合には、その旨が明示される必要があります。
対応方法
次のような事項について明確にする必要があります。
■出演、リハーサル・稽古などに係る期間や日時、会場
■演奏する曲目、上演する作品・演目
■ポジションや役
■衣裳の要否
■振付、演出、指導など出演以外の業務の有無
2. 報酬(出演料/ リハーサル料など)
報酬の決定に当たっては、業務内容や専門性、著作隣接xxの権利の利用許諾・譲渡・二次利用の有無、経費負担等に応じた適正な金額となるよう、十分に協議した上で決定すべきであり、不当に低い対価での取引をしないようにする必要があります(ガイドラ
イン5頁)。適正な金額であるかどうかは、単に金額の多寡のみで判断するのではなく、業務内容(拘束期間の長さを含む)や、公演等で得られる収入、公演等に対する当該実演家の寄与度などを総合的に勘案して判断される必要があります。また、出演料やリハーサル料の額、諸経費の取扱いなどについてあらかじめ明確にし、報酬の支払期日や支払い方法についても、所属外実演家に不当な不利益を与えることがないよう、明示される必要があります(ガイドライン5頁)。
なお、具体的な金額を定められない正当な理由がある場合には、その理由や報酬が決定する予定期日を明確にし、確定次第速やかに書面やメール等で通知するなどの対応が必要です(ガイドライン5頁)。
また、報酬額の決定基準となるランクなどが存在する場合には明示し、これを団と所属外実演家とがあらかじめ共有することによって、報酬額の透明性を高める方法も考えられます。
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対応方法
次のような事項について明確にする必要があります。
■出演料、リハーサル・稽古に係る報酬、支払期日や支払い方法
■消費税(インボイス発行事業者か否か)や源泉徴収の取り扱い
■宿泊費や交通費等、諸経費の負担
■衣裳や楽譜などの取り扱い(費用負担を含む)
3. 著作隣接権・肖像権の取扱い
舞台上での演奏や演技、舞踊などの実演によって生じる著作隣接権は、その実演を行った実演家に自動的に帰属します。このため、団は、その実演を録音・録画したり、放送したり、インターネット配信したりする場合には、当該実演家と協議の上、明確にその利用について許諾を受けたり、権利の譲渡を受けたりする必要があります(ガイドライン7頁)。
例えば、団が主催、企画する舞台公演を、記録用または広報用に録音・録画する場合には、あらかじめ実演家の許諾を得る必要があります。また、舞台公演をDVD・ブルーレイなどパッケージ化し、放送し、または配信する場合には、著作xxに定められた実演家の権利がかかわるため、その取扱いがあらかじめ明確にされる必要があります。実演に係る権利の取扱いについては、利用方法や条件を定めて、利用許諾とするか、権利譲渡とするかが明確にされるとともに、対価の決定に当たっては、それらを十分に考慮することにより、実演家の利益を不当に害さないことが求められています(ガイドライン7頁)。
対応方法
次のような事項について明確にする必要があります。
■舞台公演を記録用または広報用の記録(録音・録画、写真撮影)
■舞台公演における実演に係る権利の取扱い(利用許諾か、xxxxx)、利用方法や目的、期間、条件など
■パンフレットやチラシ、ウェブサイトでの写真や経歴などの掲載
4. キャンセル料の取扱い
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キャンセル料の取扱いは、(ア)配役や楽曲、演目の変更など団の事情により所属外実演家が出演できなくなった場合、(イ)所属外実演家の事情により出演できなくなった場合、また(ウ)感染症や地震、台風などの不可抗力によって舞台公演が中止・延期された場合など、それぞれの事情に応じてあらかじめ明確にしておくことが、トラブル予防の観点から必要です。
なお、委託公演など公演等の実施に関する予算が一定程度確保されているような場合には、積極的な配慮が求められています(ガイドライン6頁)。
対応方法
次のような取り決め方法が考えられます。
■団の事情により、リハーサル開始●カ月前に舞台公演が中止となった場合には、出演料の●%が支払われ、●日前に公演が中止となった場合には、出演料の●%が支払われる
■所属外実演家の事情により出演できない場合には、出演料は支払われないなど
■感染症や地震、台風などの不可抗力によって、舞台公演が中止になった場合には、出演料は支払われないとしたり、別途協議としたり、または既に出演業務を行った割合に応じて出演料が支払われる
■リハーサルや稽古が実施された後に舞台公演が中止となった場合には、リハーサル料のみが支払われる
5. 安全衛生等
ガイドラインでは、文化芸術の公演等においては、演出上、高所や暗所での作業や身体接触を伴う演技等危険を伴うことがあることから、事故防止など安全管理の徹底が求められ、現場の安全衛生に関する責任体制の確立のため、安全衛生管理を行う者を置くことが望ましいとされています(ガイドライン6頁)。また、制作管理者は、安全衛生等について責任を負うため、安全衛生に関する責任体制の確立、安全衛生教育の実施、作業環境やトラブル・ハラスメント相談体制の整備等の取組が求められています(ガイドライン7頁)。
さらに、出演者の事故の発生等に備え、団が民間の保険に加入するほか、実演家が労災
保険に特別加入したり、民間の保険等に加入したりすることについて、費用負担も含め保険に関する取扱いについて協議しておくことが望ましいとされています(ガイドライン7頁)。
対応方法
次のような事項について明確にする必要があります。
■公演や稽古等の活動に関して、団が保険に加入しているか否か
■団が保険に加入している場合、安全衛生にかかわる事故が生じた際に、具体的にどのような補償を受けることができるか
団が安全衛生やハラスメントに関する管理責任者や相談窓口を設置している場合には、連絡先などを周知徹底する必要があります。
6. その他
〔クレジットに関する項目〕
実演家は、実演家人格権として氏名表示権を有しており、その表記方法は出演者の名
17 誉声望等にもかかわる場合もあり、実演家の意向を可能な限り尊重する必要があります
(ガイドライン8 頁)。もっとも、実演家の実演家人格権に基づく氏名表示権は、「氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利」であり(著作権法90 条の2 第1 項)、クレジット表記も様々な方法があることから、団と実演家との間で十分に協議をした上で、クレジット表記の方法を決定するよう留意する必要があります。
Ⅳ
項目一覧
この研修教材で取り上げた項目及びその内容を、参考までに一覧としてまとめました。所属契約書、基本契約書、規約・内部規程、通知等いずれの様式に定めるかを検討するにあたって、ご活用ください。また、オーケストラ、バレエ、演劇の各ジャンルによっては実態に即していない項目や事項もあるため、ジャンルや組織規模などに応じて採否をご検討ください。
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(1)所属実演家との間で取り決めておくべき項目
取り決めておくべき項目 | 取り決める方法 | |||
所属契約書 | 規約・内部規程 | 通知 | ||
1. 団の活動目的 | ||||
団の活動目的 | ||||
2. 入団、退団、活動休止等に関する取り決め | ||||
入団にあたっての条件、手続き | ||||
退団にあたっての条件、手続き | ||||
活動休止(休団)にあたっての条件、手続き | ||||
3. 団に所属する上で実演家が負う義務 | ||||
舞台公演への出演、必要なリハーサル、稽古・レッスンへの参加義務 | ||||
団費やチケットノルマの義務の有無 | ||||
団の活動に支障をきたさないよう健康、体調管理 | ||||
舞台出演、必要なリハーサル、稽古・レッスンへの参加義務以外の振付、演出、指導その他業務の有無 | ||||
SNS を利用するにあたっての条件 | ||||
(ある場合には)著作権などの権利を侵害しないこと | ||||
(ある場合には)公演情報などの機密情報や出演者の個人情報を漏洩しないこと | ||||
19
取り決めておくべき項目 | 取り決める方法 | |||
所属契約書 | 規約・内部規程 | 通知 | ||
4. 業務内容 | ||||
演奏する曲目、上演する作品・演目 | ||||
具体的な公演日時・期間・場所 | ||||
(記載できない場合)公演日等が決定する期日・期限 | ||||
稽古・リハーサルの期日・期間 | ||||
(記載できない場合)稽古等が決定する期日・期限 | ||||
ポジションや役 | ||||
衣裳の要否 | ||||
振付、演出、指導などの業務の有無 | ||||
5. 報酬 ( 出演料 / リハーサル料など ) | ||||
具体的な報酬額 | ||||
(記載できない場合)具体的な報酬額が決定する期日・期限 | ||||
消費税・源泉徴収の取扱い | ||||
団または実演家が負担する経費 | ||||
6. 著作隣接権・肖像権の取扱い | ||||
記録用または広報用の記録 | ||||
実演に係る著作隣接権の取扱い | ||||
(記載している場合)利用許諾か、権利譲渡か | ||||
(記載している場合)利用方法、期間、条件など | ||||
7. キャンセル料の取扱い | ||||
団の事情によって公演が延期・中止になった / 所属実演家が出演できなくなった場合の取り決め | ||||
所属実演家の事情によって公演に出演できなくなった場合の取り決め | ||||
感染症や地震、台風などの不可抗力によって公演が延期・中止になった場合の取り決め | ||||
取り決めておくべき項目 | 取り決める方法 | |||
所属契約書 | 規約・内部規程 | 通知 | ||
8. 安全衛生等 | ||||
団が保険に加入しているか否か | ||||
(保険に加入している場合)どのような補償が受けられるか | ||||
(現場の安全衛生やハラスメントに関する管理者や相談窓口が設置されている場合)その連絡先など | ||||
9. 団以外の芸術活動への参加(外部出演等) | ||||
団以外の芸術活動への参加の可否 | ||||
(団以外の芸術活動への参加を認めている場合)その条件や手続き | ||||
10. 所属期間等 | ||||
(所属期間が記載されている場合)所属期間を延長する / しない場合の事由 | ||||
所属期間中に所属関係を解消する場合の事由 | ||||
所属期間終了後の所属期間中に生じた実演に係る権利の取扱い | ||||
11. 契約内容の変更 | ||||
協議し、合意の上による契約内容の変更 | ||||
規約・内部規程の変更手続き | ||||
12. その他 | ||||
クレジットの方法 | ||||
20
(2)所属外実演家との間で取り決めておくべき項目
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取り決めておくべき項目 | 取り決める方法 | ||
基本契約書 | 通知 | ||
1. 業務内容《特に重要!!》 | |||
演奏する曲目、上演する作品・演目 | |||
具体的な公演日時・期間・場所 | |||
(記載できない場合)公演日等が決定する期日・期限 | |||
稽古・リハーサルの期日・期間 | |||
(記載できない場合)稽古等が決定する期日・期限 | |||
ポジションや役 | |||
衣裳の要否 | |||
振付、演出、指導などの業務の有無 | |||
2. 報酬(出演料/ リハーサル料など《特に重要!!》 | |||
具体的な報酬額 | |||
(記載できない場合)具体的な報酬額が決定する期日・期限 | |||
消費税・源泉徴収の取扱い | |||
団または実演家が負担する経費 | |||
3. 著作隣接権・肖像権の取扱い | |||
記録用または広報用の記録 | |||
実演に係る著作隣接権の取扱い | |||
(記載している場合)利用許諾か、権利譲渡か | |||
(記載している場合)利用方法、期間、条件など | |||
取り決めておくべき項目 | 取り決める方法 | ||
基本契約書 | 通知 | ||
4. キャンセル料の取扱い | |||
団の事情によって公演が延期・中止になった/所属外実演家が出演できなくなった場合の取り決め | |||
所属外実演家の事情によって公演に出演できなくなった場合の取り決め | |||
感染症や地震、台風などの不可抗力によって公演が延期・中止になった場合の取り決め | |||
5. 安全衛生等 | |||
団が保険に加入しているか否か | |||
(保 | 険に加入している場合)どのような補償が受けられるか | ||
(現場の安全衛生やハラスメントに関する管理者や相談窓口が設置されている場合)その連絡先など | |||
6. その他 | |||
クレジットの方法 | |||
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令和4 年度 文化庁委託事業「芸術家等実務研修会」
文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた
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教材テキスト
オーケストラ、バレエ団、劇団の活動の豊かな発展のために
2023 年 3 月 31 日 発行
編集 公益社団法人日本芸能実演家団体協議会 [ 芸団協 ]発行 公益社団法人日本芸能実演家団体協議会 [ 芸団協 ]
〒 163-1466
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公益社団法人日本芸能実演家団体協議会[芸団協]令和4年度 文化庁委託事業「芸術家等実務研修会」