Contract
特許庁委託
台湾における知的財産関連契約の留意点
2020 年 3 月
公益財団法人 日本台湾交流協会
※本報告は、台北市日本工商会/知的財産委員会/戦略G会議/コンテンツG会議の台湾における知的財産関連契約の留意点のプロジェクトチームの協力により作成された。
第二節
一、開発委託か共同開発かの選択(共同開発のリスク)
開発委託契約は、当事者の一方が他方に技術開発の依頼をするときに締結されるものであり、共同開発契約は、当事者双方が共同開発する目的のため締結されるものである。それぞれのメリット・デメリットを以下のとおり整理した:
開発委託契約 | |
メリット | デメリット |
⚫ 自社に欠ける技術の利用が可能となること。専門知識を有する人材の雇用や研究設備の投資などのコスト負担が軽減できること。 ⚫ 成果が委託者に帰属するという点において,共同開発の場合に比較して、将来の技術活用における制約が少ない こと。 | ⚫ 委託者が資金とその成果を全て負担することから、共同開発と比べて資金と成果面でのリスクの分散ができないこと。 ⚫ 自社開発の場合と比較して、受託者における開発目的の徹底や開発管理の取り扱いが難しいこと。 |
共同開発契約 | |
メリット | デメリット |
⚫ 自社に欠ける技術を補 完して、自社だけでは | ⚫ 当事者間で研究開発の 進め方などで意見の食 |
得られない研究成果を得られること。 ⚫ 研究負担の軽減やリスクの分散が可能となること。 | い違いが生じる可能性があること。 ⚫ 研究成果を共有すると約定した場合、自社の実施権に対して、他社の同意を得ないと取り扱うことができない可能性があること。 |
共同開発には、費用やリスクを低減しつつ大きな研究成果が期待できるメリットがあるので、開発委託に比べてxx良い契約のように思える。しかし、開発途中で殆どが自社からの技術の持出しになったり、予定通りの開発ができずに途中で契約終了した場合に、研究成果(知的財産権の権利)が共有になっており、その後の研究開発や事業展開に制限を受ける場合がある。従って、開発委託契約にするか共同開発契約にするかは、慎重に検討すべきである。中長期の事業展開を見据えた明確なシナリオが無けれ ば、委託者に自由度の大きい開発委託契約がよい場合もある。
二、一般条項の紹介
開発委託契約と共同開発契約は、いずれも他方に開発を委託する共通の性質があり、契約の条項において多少異なる部分があるものの、重複する部分は多い。以下、ソフトウエア開発基本契約書を開発委託契約の例として説明する。
「当事者」 | 委託者(以下「甲」という) | 受託者(以下「乙」という) |
「目的」 | 甲は、本契約の定める内容に従い、甲のコンピューター システムの開発・構築に係る業務(以下「本業務」とい |
う)を乙に委託し、乙はこれを受託する。 | |
「定義」 | 1.1「本システム」とは、本契約に基づき甲が乙に開発を委託するコンピューターシステムであって、当該システムに付随するシステム監査報告書、設計概要書、操作マニュアル等書類を総称していう。 1.2「本件ソフトウエア」とは、本契約に基づき開発されるソフトウエアであって(契約項目表に基づきバージョンアップされたソフトウエアを含む)、プログラム・コンテンツ・データベース類及びその他の付随する操作マニュアル等の書類を総称していう。 1.3「本プログラム」とは、本件ソフトウエアのうち、コンテンツ及びデータベースを含むプログラム部分 (第三者ソフトを除く)をいう。 1.4「中間成果」とは、本件ソフトウエアの開発過程で生成される全てのものをいう。 |
「甲の役割 分担」 | 本業務の遂行に当り、甲は、本契約の各条項の定めに従 い、次の各号に定める役割を分担するものとする。 |
1.1 システム仕様書作成業務において、乙から要請された 作業の実施及びシステム仕様検討会への参加。 | |
1.2 ソフトウエア作成業務における中間成果の確認並び に乙によるデータ伝送テスト、検査仕様書の作成及び本プログラム納入への協力。 | |
1.3 その他の本契約の他の条項で定める事項及び乙から 要請された作業への協力。 | |
「乙の役割分担」 | 1.1 乙は、システム提案書に基づき、本業務において開発するシステムの機能要件を分析及び定義し、作業 環境の調査及びその他の必要な調査、検討を行い、 |
システム仕様書作成業務を実施する。 1.2 乙は、前条により確定したシステム仕様書に基づき、ソフトウエアの作成業務及びソフトウエアのバージョンアップ業務(以下「ソフトウエア作成業務と併称する」)を実施する。 | |
「再委託」 | 1.1 乙は、甲の書面による事前の承認を得た場合は、本業務の一部を乙の責任において第三者に再委託することができる。 1.2 前項の場合において、乙は再受託者に乙が本契約及び個別契約により負う義務を理解並びに徹底的に実施させるものとし、且つ甲に対し、再受託者の行為に ついて全責任を負うものとする。 |
「第三者ソフトの利用」 | ソフトウエア作成業務を実施するにあたり、第三者ソフトを使用する必要がある場合、甲乙はその取扱いについて協議し、乙と当該第三者との間でライセンス契約の締 結等、必要な措置を講ずるものとする。 |
「本プログラムの検収」 | 成果物のうちの本プログラムについては、甲は、乙から納入を受けた日から○日以内(以下「検査期間」とい う)に、システム仕様書と本プログラムの整合性を確認するものとする。本プログラムがシステム仕様書に適合する場合は、甲の責任者は検査合格書に署名捺印の上これを乙に交付する。検査で不適合となった場合は、甲は直ちに乙にその旨を知らせ、補正を求めるものとする。又、甲は本プログラムの検査を第三者に委託することが できる。 |
「資料等の提 | 1.1 乙から甲に対し本業務執行に必要な資料等の提供の |
供及び返還」 | 要請があった場合、甲乙協議の上、提供する必要がある資料を甲は無償で提供する。 1.2 本業務の遂行にあたり、乙が甲の事務所等で作業を実施する必要があると甲が判断した場合、甲は無償で当該作業場所を乙に提供するものとする。但し、甲が作業場所の変更を要請した場合は、乙はこれに応ずるものとする。 1.3 本業務の遂行にあたり、甲の事務所等で乙が甲のコンピューター設備、機器、材料、事務用品(以下「貸出物品」という)が必要である場合は、甲はできる限り乙に貸出し又は供給するものとする。 1.4 甲が提供した貸出物品、資料等(次条第 1 項の複製物及び変更物を含む)が本業務遂行上必要なくなった場合は、乙は速やかにこれらを甲に返還する、又は 甲の指示に従い処置するものとする。 |
「知的財産権の取扱い」 | 1.1 本業務遂行の過程で生じた発明及びその他の知的財産権又はノウハウ等(以下併せて「発明等」という)が甲又は乙の何れか一方のみによって行われた場合、当該発明等に関する特許権及びその他の知的財産権(特許及びその他の知的財産権を受ける権利)、ノウハウ等に関する権利(以下併せて特許及びその他の知的財産権、ノウハウ等に関する権利を「特許xx」という)は、当該発明者が属する当事者に帰属する。この場合、甲又は乙は、当該発明者との間で適用すべき法令に従うものとする。つまり、台湾での発明は台湾の職務上の発明に関する規定に従い、日本での発明は日本の職務上の発明に関する規 定に従い、特許xxの継承及びその他の必要な措置 |
を講ずるものとする。 1.2 乙が以前から有していた特許権、乙に帰属する特許xxが前項により本件ソフトウエアに利用された場合は、甲は本件ソフトウエアを自己利用するため、本契約に基づき必要な範囲内で当該特許xxを実施又は利用することができる。 1.3本業務遂行の過程で生じた発明等が甲及び乙に属する者が共同で行われた場合は、当該発明等についての特許xxは甲と乙が共有する(持分均等)。この場、甲及び乙は、それぞれに属する当該発明者との間で特許xxの継承及びその他の必要な措置を講ずるものとする。 1.4甲及び乙は、前項の共同発明等に係る特許xxについて、それぞれ相手方の同意を要することなく、これらを自らで実施又は利用することができる。但 し、これを第三者に実施又は利用を許諾する場合、持分を譲渡する場合及び質権の目的とする場合は、相手方の事前の同意を要するものとする。この場 合、相手方と協議の上、実施又は利用の許諾条件、譲渡条件等を決定するものとする。 1.5前各項の定めにかかわらず、システム仕様書の「インターフェース仕様書」に基づき作成された甲の既存の作成済みプログラム(以下「甲の既存プログラムという」)の特許xxは、甲に帰属するものとす る。 | |
「成果物の所 有権」 | 乙が甲に納入する成果物の所有権は、本プログラムの検収完了時に、乙から甲へ移転する。 |
「保証及び責任の範囲」 | 1.1 成果物の甲による利用が第三者の特許権、著作権及びその他の権利を侵害したという理由で甲が第三者から請求を受けた場合、甲の成果物の利用が本契約に違反しておらず、甲が直ちに乙にその旨を通知し、紛争解決の実質的権限を乙に与えるとともに乙に必要な援助を行い、後続の処理を全面的に乙に任せた場合、乙は甲の損害賠償額又はこれに相当する合理的な費用を甲に支払う。但し、甲の責に帰する場合はこの限りでない。 1.2 本プログラムの検収後、成果物に瑕疵が発見された場合、甲及び乙はその原因について協議、調査を行うものとする。協議、調査の結果、当該瑕疵が乙の責に帰すべきものであると判断された場合、乙は無償で補修・補正を行うものとし、乙の責に帰すべきものでないと認められた場合には、甲は協議、調査に よって乙に生じた費用を乙に支払うものとする。 |
「権利義務譲渡の禁止」 | 甲及び乙は、互いに相手方の事前の書面による同意なく、本契約の地位を第三者に承継させる、又は本契約で生じる権利義務の全部若しくは一部を第三者に譲渡し若しく は引き受けさせる又は担保に供してはならない。 |
「契約解除」 | 1.1 甲又は乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、催告をせずとも直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。 (1)重大な過失又は背任行為があった場合。 (2)支払いの停止があった場合、又は仮差押、差押、競売、破産、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があった場合。 |
(3)手形交換所の取引停止処分を受けた場合。 (4)公租公課の滞納処分を受けた場合。 (5)その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合。 1.2 甲又は乙は、相当な期間を定めて催告した後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部又は一部を解除することができる。 1.3 甲又は乙は、前各項により相手方に本契約の全部又は一部を解除された場合は、相手方に対し負担する全ての金銭債務につき期限の利益を喪失し、直ちに弁済し なければならない。 | |
「契約満了又は解約、解除に際しての措置」 | 本契約が期間満了、解約又は解除の時、乙は直ちに甲に納入前の成果を提供するものとする(未完成品を含む)。この時の対価は、契約の対価を基準として甲、乙双方協議の上算定し、甲は、甲、乙双方が別途協議の上定めた方法に 基づき、乙に対価を支払うものとする。 |
企業は自らの需要に応じて上記の条項を調整することができるが、以下の事項について更に補足説明をする:
1.「定義」:開発委託には技術的事項が関与している場合が多いため、固有名詞、本提携において委託者から提供された技術、受託者による開発及び開発成果等について、解釈に争いが生じないように、契約の文頭に明確に定義しておくことが望ましい。
2.「知的財産権の取扱い」:開発の成果物としての知的財産権の取扱いの規定は、「帰属」と「利用」の両面を考慮する。頑なに自社への帰属を主張しても合意できない場合には、権利は相手方に全て帰属させ、実施や利用する権利を確保して合意する場合もあ
る。
台湾の知的財産法では契約で定めていなければ、権利の帰属は原則として下表のようになるので、法律の定めと異なる帰属状態を希望する場合は、契約で約定しておくことが重要である。
権利の帰属 | |
特許出願権及び特許権 | 他人に出資して完成させたものである場合:いずれも発明者に帰属するが、出資者は実施すること ができる。(特許法第 7 条第 3 項) |
商標権 | 出願者に帰属する。(商標法第 2 条、第 33 条) |
著作権 | 他人に出資して完成させたものである場合:被用 者に帰属する。(著作xx第 12 条) |
また、権利の帰属は甲と乙が共有する(持分均等)と規定したにもかかわらず、共有する権利の取り扱いを定めていない場合、下表のようになる。
共有権利の取り扱い | ||
出願 | 特許 | 共有者全体の合意を得て出願する。 |
商標 | 共有者全体の合意を得て出願する。 | |
著作 | 台湾の著作xxは創作保護主義を採用し ているので、出願する必要がない。 | |
取り扱い | 特許(実施) | 共有者自身での実施は、他の共有者の同 意が不要である。 |
商標(使用) | 実務上争いがある。共有者自身が保有す る商標の部分の使用は他の共有者の同意 |
を得る必要がないという見解もあるが、一方で、各共有者それぞれが保有する商標の部分について使用による収益を得ることができるという見解もあり、一つの商標で複数の商品の出所を表すため、関連消費者に混同誤認を生じさせる可能性があるため、共有者は商標の使用につい て他の共有者の同意を得るべきである。 | ||
著作(著作財産権者の行 使) | 実務上争いがある。著作権の主務官庁自体の行政解釈にも異なる見解がある。過去において、自身の利用の場合でも他の著作財産権者の同意を得なければならないと認定されていたが、近年では自身の利用の場合は他の著作財産権者の同意を得る必要はないと認められるようになっ てきている。 | |
譲渡 | 特許 | 所有部分の譲渡は他の共有者の同意が必 要である。 |
商標 | 共有者全体の同意が必要だが、相続、強制執行、裁判所の判決またはその他法律により移転する場合、この限りではな い。 | |
著作 | 所有部分の譲渡は他の共有著作財産権者 の同意が必要である。 | |
許諾 | 特許 | 共有者全体の同意が必要である。 |
商標 | 共有者全体の同意が必要だが、相続、強 |
(授權) | 制執行、裁判所の判決またはその他法律 により移転する場合、この限りではない。 | |
著作 | 著作財産権者全体の同意が必要である。 (著作財産権者から代表者を選出し、著作 財産権を行使することができる。) | |
侵害への救済 | 特許 | 法律にはxxがない。実務見解を参考にすると、各特許権者は持分に応じて損害賠償請求することができる24。しかし、財産の承継により生じた共有関係の場合、各承継人は承継した特許に対してxx(公同共 有)という共有関係であるため、損害賠償を請求するときに共有者全体の同意を得る必要がある。 |
商標 | 法律にはxxがない。実務見解を参考にすると、各商標権者は持分に応じて損害賠償請求することができる。しかし、財産の承 |
24 智慧財産法院 100 年度刑智上訴字第 84 号刑事判決:「1.……共有物返還請求の訴えは、民法第 821 条ただし書の規定により、被告から共有者全体に共有物の返還を命じる判決を求めるものであり、自身のみに返還を請求することができない。債権の請求権について、例えば共有物の権利侵害行為により滅失、毀損したことに対する損害賠償請求権は民法第 821 条規定の定めるものではない。しかし、金銭で損害を賠償の金錢しなければならない時、(民法第 196条、第 215 条を参照)その請求権は可分債権である。各共有者は自身の持分に応じて賠償請求することができる。たとえ現状回復をもって損害賠償しなければならず、その給付不可分だとしても、民法第 293 条第 1 項の規定により、各共有者は、共有者全体として共有者全体に給付するよう請求することができる。よって、債権の請求権を訴訟目的とする訴訟は、給付を可分性にかかわらず、各共有者はいずれも単独で訴訟を提起することができる(院字第 1950 号解釈)。係争特許の特許権は、……原告が係争特許の共有者である。原告が被告に損害賠償請求した 500 xxは金銭の可分債権であり、持分に応じた一部として請求することができる。原告が被告に対して、直接的または間接的に、自らまたは他人に委託して、係争特許を侵害する製品を 製造、販売の申し出、販売、使用または輸入してはならないと請求することは、民法第 821 条の規定により、それぞれの共有者が単独で提起することができる。よって、原告が本件訴訟を提起したことは、当事者の適格がないという問題はない。」
継により生じた共有関係の場合、各承継人 | ||
は承継した特許に対してxx(公同共有) | ||
という共有関係であるため、損害賠償を請 | ||
求するときに共有者全体の同意を得る必要 | ||
がある25。 | ||
著作 | 各著作権者が著作権を侵害した者に対し、 | |
救済を請求し、持分に応じた損害賠償を請 | ||
求することができる。しかし、財産の承継 | ||
により生じた共有関係の場合、各承継人は | ||
承継した特許に対してxx(公同共有)と | ||
いう共有関係であるため、損害賠償を請求 | ||
するときに共有者全体の同意を得る必要が | ||
ある。 |
権利帰属や利用に関する約定の仕方について、下記に追加で例示する。
(1)開発委託契約における権利帰属の条項例
「乙(受託者)が本開発の過程で取得した発明など、ノウハ ウ、技術情報及び商品化されたXXX用XXXであって、本開発の目的に関係するもの(以下総称して「本件成果」という)並びに本件成果である発明などに基づく特許を受ける権利などはすべて甲(委託者)に帰属する。」
「乙(受託者)は、本件成果である発明などについて、乙の従業員が発明者又は創作者である場合、当該従業員から、甲(委託者)に台湾及び各国における特許を受ける権利などを譲渡する証
25 智慧財産法院 100 年度刑智上訴字第 84 号刑事判決「継承により、……継承者は遺産の全てに対してxx(公同共有)となっており、xxしている共有物または財産権の処分と権利の行使は、xx者全体の同意を得なければならない。調べたところ、被告は係争商標の商標権者が A であることを明らかに知っていた。A が 2008 年 5 月 6 日に亡くなった後、係争商標の商標権が被告及び A のその他承継人ら4名のxxであり……。よって、被告が係争商標権を行使するには、承継人ら全体の同意を得なければならない。」
書を取得し、これを甲に交付するものとする。」
また、当該研究、技術開発委託契約が長期間に及ぶ場合や、継続的に同種の委託を行うような場合においては、当該開発の成果に関連して、受託者が将来開発しうる改良発明などについて、実施権の許諾などの取り決めを予め合意することもある。更に、受託者が改良発明を将来開発する際に、委託者に連絡し、権利の帰属と取り扱いについて協議をするという規定も見られる。
(2)共同開発契約における権利帰属の条項例
上記「知的財産権の取扱い」の 1.1 及び 1.3 に記載の条項が該当する。近年、台湾では、持分比率に合意できない場合の対処法について、当事者間の見解が異なり交渉になることが多い。
(3)共同開発契約における開発成果の利用の条項例
「本件成果の実施については、その権利の帰属に関わらず、甲が実用化された部品や産品の製造を行い、乙が部品や産品 を実装した機械の販売を行うほか、甲乙の協議により、その実施者と条件を定めるものとする。甲及び乙は、双方が合意した場合に限
り、本件成果の実施を第三者に許諾することができるものとする。」
上記は実施者を予め定める例であるが、これにとどまらず、実施期間や実施地域、実施料の有無などを具体的に規定しておいてもよい。
3.「成果物の所有権」:ソフトウエアには特許権など技術成果と著作権の両面がある。ソフトウエアは、ゼロからの開発というより一部過去の開発成果を土台に作られる。一般的に、台湾のソフ
トウエア会社は、全ての著作権を委託者に帰属するとの契約条項案には同意したがらない。すべて委託者に帰属すると、ソフトウエア会社はその後の開発に使用できなくなる。どうしても委託者が要求したい場合には、ソフトウエア会社は高額の開発費用を要求する場合もある。一方、委託者としては、将来のメンテナンスやバージョンアップの都度に受託者に依頼しないといけなくなるという懸念がある。
そこで、著作権はソフトウエア会社が保有し、委託者はxxxの使用権の許諾を受けるというバランスを取った契約が考えられる。その結果、将来のメンテナンスやバージョンアップの都度に受託者に依頼する必要もなくなる。
人事管理システムのような汎用的なものと、個社のノウハウがつぎ込まれた汎用性の低いものでも対応が異なる。
4.その他:
(1)「模倣品、競合品対策」:開発委託契約終了後に、受託者が委託者から提供された技術を用いて、自ら又は他人のために類似製品を製造することを回避するには、契約において以下のように約定することがある。26
「本契約終了後XX年間は、甲の同意なく本製品と同一ないし仕様の一部を変更した類似製品を自分又は第三者のために開発、製造、販売してはならない 。」
26 開発委託先の研究開発の自由を契約終了後も長期間にわたり制限することは、競争関係がある会社では不合理な契約は問題になる場合がある。合理的な理由があるか否かがポイントで、委託元による資金提供や開発テーマ(活用対象のアイデア)の提供も十分な合理的理由となる。製品サイクルも考慮して1-2年などは問題にならない場合が多い。
(2)「輸出関連法の遵守」:委託者に製品輸出の需要がある場合は、契約において以下のように約定することがある。
「甲は、乙が納入した成果を輸出する場合には、外国為替及び外国貿易法その他輸出関連法令を遵守し、所定の手続きを実施するものとする。なお、米国輸出関連法等外国の輸出関連法令を適用するときに所定の手続きが必要な場合も同様とする。」
(3)「会議の開催」:当事者双方が開発成果の帰属又は後続品に係る権利の帰属について争いが生じて裁判になった場合、議事録が証拠として提出されることが多く、例えば、当該発明の考案者は誰なのか、一番貢献度が高いのは誰なのか等を証明することができる。よって、企業は従業員に対して、他企業と開発会議を行うとき、必ず話し合った内容を詳細に記録するよう要請しなければならず、もし提出資料があれば、議事録の別添資料として一定期間保存しておくことが望ましい。また、契約において以下のように約定することがある。
「甲とxとは、毎月 1 回、本件開発の進捗状況について報告 し、今後の研究方法について協議するため、定例打ち合わせ会議を開催し、その議事録を作成、保管するものとする。」
三、大学等との契約条項の紹介
台湾の大学又は台湾当局によって設立された財団法人(以下、大学等という)と締結する開発委託契約又は共同開発契約(契約名称は、委託研究契約書、産学連携契約書又は研究計画契約書等になる可能性がある)は特別な点があるので、本文にて紹介す る。
大学等との連携に当局の助成が関与していることにより、科学技術基本法及び当局機関の定めた研究発展成果帰属及び運用弁法を適用しなければならず27、それによって研究成果の帰属又は利用は制限を受けることがあるが、原則として当事者双方は開発委託契約又は共同開発契約において、研究成果の帰属を自由に約定することができる。
ただし契約の主体は大学等なので、営利を目的とする企業と異なって、研究成果や発明等を産業上で自ら利用することがほとんどなく、ただ研究成果、発明等の論文発表や学会発表を行うだけであり、甚だしくは、企業との連携に学生が参加する可能性もある。よって、こういう特殊性により、企業が各大学等と開発委託契約や共同開発契約を締結する時、双方の目的又は関心事が必ずしも一致するわけではないことから、これら契約によく見られる条項は次のとおりである:
1.「コンサルティング」:大学等に通常は専門的知識を有する者が常駐しているため、大学等と開発委託契約や共同開発契約を締結するとき、企業が確実に必要な技術とノウハウを入手できるよう確保するには、以下の規定を追加する。
「乙(大学等)は甲(企業)の要請に応じて、目的物に関するコンサルティングを提供するものとする。ただし、コンサルティングの提供は XX 回までであり、総時間数は XX 時間までが上限である。コンサルティング実施場所は国内における甲又は乙の所在地又はその他甲乙が合意する場所に限る。詳細な日時と場所は甲乙協議の上、決定するものとする。」
27 第二章、第二節五、科学技術基本法をご参照ください。
2.「研究成果の発表とその制限」:前述のとおり、大学等は、研究の成果、発明等を産業上で自ら利用することがほとんどなく、研究成果、発明等の論文発表や学会発表を行うだけである。一方、企業は営利を目的としており、大学等に価値ある技術を公表されては、営業秘密として保護しようとする技術又は特許出願をしようとする技術が公開されるため新規性を喪失する等により、企業の運営に支障をきたすおそれがある。そこで、企業は契約に次のような条項を盛り込むよう要請することがある:
「乙(大学等)及び連携計画の参加者が本計画又は技術成果の論文発表や報告書公表を行う際は、30 日前までに甲(企業)に対して発表又は公表しようとする内容を通知するものとし、且つ甲の事前の書面による同意を得て始めて発表又は公表することができる。次のいずれかの事由に該当する場合は、甲は乙に対して論文内容の修正を要請することができる:(1)(当局主務官庁に提出した認証登録情報と一致させるために)情報・データ内容の正確性を確保する、 (2)当該論文に秘密情報の不当な開示がないように確保する、又は (3)甲乙双方の知的財産権の適切な保護を確保する。正当な理由なしに、xは、論文の発表を拒否してはならず、特許出願の準備期間を確保するため論文発表・報告書公表の時期を遅らせた場合でも、最大 2 ヶ月繰り下げることしかできない。甲は、乙及び連携計画の
参加者から書面による通知を受領してから 2 ヶ月以内に回答しなければならず、期間を過ぎても回答しない場合には、乙及び連携計画の参加者は論文発表や報告書公表を行うことができる。乙は、善良な管理者の注意義務をもって、連携契約の参加者に本項の規定を遵守させなければならない。」
3.「校名(校章)の使用と権利保護」:企業に、品質保証宣伝文として製品に「XX 大学/XX 財産法人との産学連携による研究成果」等
旨を表示させないように、大学等は、下記の条項を契約に盛り込むことがある。
「乙(大学等)及び関連当局機関の書面による同意を得ずに、甲
(企業)は研究開発成果を商業目的で使用するとき(商品・サービ スのマーケティング、広報 PR、広告宣伝等を含むが、これらに限ら ない。)、乙又は関連当局機関の名義、校章又はその他表徴を使用し てはならない上、いかなる方法でも、甲は、乙又は関連当局機関と 連携関係にあることを表示してはならない。甲が乙の校章を使用し ようとするとき、乙の定めた手続きに応じて申請しなければならず、その使用許諾条件は別途協議するものとする。」
4.「奨励制度」:これは通常、産学連携契約によく見られるものであり、以下のように規定することがある。
「甲(企業)に協力的であって、積極的に本計画に取り組み、すばらしい成果を挙げた大学院生が、甲の同意を得て海外で本計画の成果の論文発表を行うとき、甲は需要に応じて、審査の上、海外渡航旅費を助成することができるが、助成金の支給対象は 1 名までである。」
四、事例 128
背景
1.
被告は 1996 年に原告会社のダイヤモンド工具製造技術の研究開発を請け負っていた。なお、原告会社は対外的な産学連携活動にも携わっており、訴外人たる A 大学の教授が率いる以下の研究計画に出資して新技術の開発を委託した:①2007 年度研究計画。②2008 年度研究計画。③2009 年度研究計画(以下、併せて
「係争産学連携契約」という)。
原告会社は、被告に研究計画の連絡窓口担当者と監督担当者を担うよう委任した。然しながら、何と被告は職権を利用して、委託研究計画によって発生した発明について、自己の名を(共同)
28 智慧財産法院 106 民專上字第 9 号判決。
出願人として記載した上特許出願をして、原告会社から特許権維持費とロイヤルティーを詐取した。そこで、原告会社は被告に対して、係争特許の原告会社への移転登録を請求した。
裁判所の判断
2.
係争産学連携契約によって発生した特許権は、原告会社に帰属すべきである:
(1)2007 年度と 2009 年度の係争産学連携契約では、特許権は原告会社に帰属すると規定されている:係争産学連携契約の 2007 年度、2009 年度の業務委託契約書第 7 条に、本計画によって発生した知的財産権と特許権は原告会社に帰属するものとし、特許出願は原告会社と教授と共同主催者が共同で行わなければならない、と約定されている。よって、裁判所はこの約定に基づき、係争産学連携契約により生じる知的財産権と特許は、原告会社の所有に
帰属すると認定した。
(2)2008 年度の係争産学連携契約では、特許権は原告会社に帰属すると明記されていないが、原告会社に帰属すべきであるとの判断を下した:
意思表示の解釈に際しては、当事者の真意が探求されるべきであり、その表現の字義に拘泥してはならない、と民法第 98 条にxxの定めがある。いわゆる当事者の真意を探求するとは、xxxxの原則を踏まえた上、原因事実、経済目的、一般的・社会的・理性的・客観的な認識、経験則、並びに当事者が望む法律効果に基づいて探し求めることをいう。
証人である教授に対する 2012年8月 31 日付けインタビュー記録の記載によると、確かに 2008 年度の研究成果をもとに、2009 年度の研究計画の申請がなされたため、教授は係る特許を 1 年目の計画の延長として捉えており、2007 年度、2008 年度、2009 年度の 3 年の研究計画は継続性があると認識していることが分かる。係争産学連携計画、研究開発委託計画によって発生した特許、証人の証言等を斟酌した上、裁判所は 2008 年度の係争産学連携契約では特許権は原告会社に帰属すべきであるとの判断を下した。原告会社は係る確定判決を提示の上、特許主務官庁に特許権者の名義変更を申請することができる(専利法第 10 条参照)。
分析
3.
本件事例から分かるように、開発委託契約は数年にもわたる中長期連携計画であって、通常、複数の特許、契約、提携先が関与しているため、契約内容は如何に権利の帰属を規定するかが非常
に重要である。
たとえ契約に特許権の帰属に関するxxの定めがなくても、裁判所は当事者双方の真意について判断を下す。然しながら、ただ 1 年度の研究計画に権利の帰属についての定めがないだけでも、権利帰属の争いが生じ、権利者にとって想定外の訴訟費用が生じる可能性がある。
よって、今後訴訟にならないように、又は知的財産権の喪失にならないように、甚だしくは長期的な特許戦略に支障をきたさないように、開発委託等のような契約に関して、契約、計画が複数あった場合は、たとえ互いに継続性があったとしても、それぞれの契約、計画ごとに、権利の帰属をxxで定めておくほうがよ い。
五、事例 229
背景
1.
原告は「トイレットペーパースタンド」製品(以下、「係争製品」という。)の外観デザインを被告に提供し、アーム関節部の接続機構等の開発設計を委託した。2005年7月 25 日に原告と被告の間に共同開発契約(以下、「係争契約」という。)が締結され、「甲(即ち原告)から提供された製品の外観デザイン等の合法的な権利は、いずれも甲が所有する。」旨が明記されている。
係争契約第 3 条は、「乙(即ち被告)は甲(即ち原告)から、開発・製造の委託を受けており、営業秘密保護の考慮により、乙は、甲から提供された文書・図画・写真等全ての開発資料及び製品を秘密として保持するものとし、委託により開発された製品を
29 高等法院台中分院 97 xx易字第 2 号判決。
他人に交付せず、又は甲が定める指定用途以外の用途に使用しないことに同意する。これに違反した場合、甲が定める単価の二分の一に十万倍を乗じた金額を賠償金として甲に支払わなければならない。」と規定しているにも関わらず、被告は原告に無断で経済部智慧財産局(以下、「知的財産局」という。)に係争製品の外観デザインを意匠登録出願し、審査において登録査定され(以下、「係争意匠」という。)、更に、2006 年 3 月に、台湾金物業界の専門誌に係争製品の広告を掲載し、販売を意図する広告を公開したことから、明らかに前掲規定に違反していると原告は主張した。
裁判所の判断
2.
調べると、係争契約の目的条項では、「甲は【新製品】の研究
開発を乙に委託する。」と規定されており、また、係争契約第 4条に、「甲が【甲、乙双方が共同で開発した】新製品につき意匠登録出願するとき、乙の同意を得た後でなければならない。」と規定されている。これに鑑みると、当事者双方が係争製品について「双方が共同で開発した」と規定している以上、その真意は、係争意匠の出願権は当事者双方が共有すると規定しているはずである。係争意匠の出願権は当事者双方が共有する以上、専利法第 12 条第 1 項の規定によると、意匠の登録出願は、共同所有者全員が共同でされなければならない。被告は原告の同意を得ずに、自らで意匠の登録出願をしたのは、専利法に違反しただけでな く、係争契約第 3 条の「甲が定める指定目的以外の用途に使用してはならない」との規定にも違反したことになる。
本件被告が台湾金具業界の専門誌に掲載されたトイレットペーパーの広告図面を見ると、そのアームは原告が被告に研究開発を委託したアームと同じであるため、これも係争契約第 3 条の規定の違反に該当する。
調べると、係争契約第 3 条に定める損害賠償条項に基づき、原告は契約に違反した被告に対して、違約金の支払いを請求することができる。ただし定められた違約金の金額が高すぎた場合、裁判所は妥当な金額に減額することができると、民法第 252 条にxxの定めがある。また、違約金の金額が高すぎるか否かは、被害者が被った損害、当事者双方の社会経済的地位、加害者の経済 力、並びに一般的客観的な事実を斟酌の上決定しなければならない。裁判所は違反情状、原告が被った損害(原告は、2006 年から 2007 年までの予想損害額はニュー台湾ドル 132,800 元であると主張している。)、及び一般的客観的な事実等情状を斟酌し て、本件違約金の金額をニュー台湾ドル 20 xxに減額するのが
妥当であるとの判断を下した。
分析
3.
本件判決は、契約の性質と権利の帰属を判断するに際し、明確な規定がない場合は、裁判所は契約の内容に基づいて当事者の真意を推し量り、権利者にとって不利な証拠が採用されることも可能なので、法的リスクを念頭にして契約の内容を入念に検討しなければならないことを改めて判示している。また、本件判決によって、共同開発契約の権利帰属は「共有」と判断されうることも示唆されており、将来自らで権利を行使しようとするときの阻害になる可能性があるので、慎重に対応しなければならない。
また、補足説明であるが、本件のように、出願権を有する一人の共有者が、全体の共有者の同意を得ずに、自らで登録出願をして登録査定された場合では、他の共有者はたとえ登録出願をした者と契約を締結しておらず、契約違反を主張できなくても、専利法の規定により、特許無効審判請求をするか、民法上の不当利得又は権利侵害等に関する規定により、権利を主張することができる。
なお、本件から分かるように、裁判所が違約金の金額の酌量をする時、「現実的損害」が重要な判断基準とされているので、契約の相手方が契約に違反し、又はその他権利を侵害する事情があったことを知ったとき、自身の権益を守るには、権利者は必ずあらゆる手段で証拠を収集した上で、且つ現実的損害を算定しなければならない。
第三節
製造委託契約
一、OEM 及び ODM の違い
OEM(Original Equipment Manufacturing)は受託製造の一種である。受託者は納入先の要望に応じて、納入先商標による受託製造を行い、委託者は自らその商品を販売する。よって、注文を受けた受託者の製造した類似商品は、様々なブランドとして販売されている。通常、企業が外部企業に生産を委託するのは、生産コストの削減と一部の管理費用の削減を狙うためである。
ODM(Original Design Manufacturing)と OEM の最も大きな違いは、ODM は製品の製造のみならず、製品の設計も行っていることにある。受託者は商品をデザイン・企画する能力と技術を有する。受託者は納入先の要望に応じて、納入先商標による受託設計・製造を行い、納入先の企業はその商品を自ら販売する。
二、一般条項の紹介
OEM と ODM は、いずれも他人に製造を委託する形態であるが、ODMは受託者が設計を行う点で開発委託に類似するので前節を参照することとし、ここでは、OEM を例として説明する。
「当事者」 | 株式会社××××(以下 「甲」という) | ○○○○株式会社(以下 「乙」という) |
「基本契約と個別契約」 | 基本契約は、甲から乙への本業務の委託に関する基本的事項を定めたものであり、甲乙協議して定める個々の取 引契約(以下「個別契約」という。)に対して適用する。 | |
「個別契約の 内容」 | 1.1 個別契約には、発注年月日、取引の対象となる物品(以下「目的物」という。)の名称、業務の内容、仕様、 |
数量、納期、納入場所、検査その他の受渡条件、及び代金の額、単価、決済日、決済方法等を、また甲が原材料等を支給する場合には、その品名、数量、引渡日、引渡場所その他の引渡条件、代金の額、決済日、決済方法等を定める。 1.2 前項の規定にかかわらず、個別契約の内容の一部を甲乙協議の上、あらかじめ覚書等に定めることができ る。 | |
「個別契約の成立」 | 個別契約は、甲が書面又は電子メール等の電磁的記録の提供による注文申込みを行い、乙がそれを承諾することによって成立する。但し、甲の申込み後5営業日以内に、乙が甲に対し承諾しない旨を書面で表示しない限り、乙 は甲の申込みを承諾したものとみなす。 |
「仕様書」 | 1.1 甲は、目的物の仕様を仕様書により乙に提示することができる。 1.2 乙は、甲が提示した仕様書について疑義を生じた場合又は変更を希望する場合、速やかに申し出て協議を行うものとする。 1.3 甲は仕様書の内容に変更があった場合、速やかに乙に通知し、乙はこれに基づき遅滞なくその仕様書を修正する等必要な処置を講ずるものとする。この場合の変更通知については、前項を準用する。 1.4 乙は、甲が提示した仕様書の指示により、目的物に安全、品質等に関する問題が生じる可能性があると考える場合、その旨を甲に対し書面で通知しなければ ならない。 |
「支給材の所 | 1.1 甲は、次の各号の一に該当するときは、乙と協議の上、 |
有権」 | 乙が使用する原材料、製品、半製品(以下「支給材」という。)を乙に支給することができる:(1)個別契約の目的物の品質、性能及び規格を維持するために必要な場合、(2)乙から甲に要求がある場合、(3)その他正当な理由がある場合。 1.2 無償支給材並びにこれをもって製作した仕掛品及び完成品の所有権は、甲に帰属する。 1.3 有償支給材の所有権は、乙が当該支給材を受領した時 に、甲から乙に移転する。 |
「知的財産権の取扱い」 | 1.1 甲及び乙は、目的物又は目的物を組み込んだ製品につき、目的物に起因して第三者との間に知的財産権上の権利侵害等の紛争が生じたときは、直ちに相手方に通知するものとし、甲の責めに帰すべき事由による場合は甲が、乙の責めに帰すべき事由による場合は乙が、その費用と負担においてこの紛争の一切を処理解決する。 1.2 乙が本契約を履行するために甲が提供した文章原稿、動画、画像、設計、レイアウト等の工作物(完全な工作物または作業中の工作物を含む)を含む資料知的財産権、及びこれらに基づいて派生または改良された知的財産権は、いずれも甲に属する。但し、甲は、契約の目的の範囲内または合意した範囲内において使用することを無償で乙に許諾する。 1.3 乙は甲の指示により、甲に納品する「XXX」製品に甲の商標(「XXX」,商標番号:「XXX」)を付けるものとする。乙は、甲の商標を「XXX」製品のみに使用し、 その他の用途に使用してはならないことに同意し、 |
それを誓約する。乙は、甲の許諾を得ない限り、甲 の商標のある製品を如何なる第三者に販売してはならないことに同意し、それを誓約する。 |
以上の知的財産権に関わる各条項は参考用であり、各企業が各自の必要に応じて調整することができる。以下の項目について更に補足説明する:
1.「支給材の所有権」:生産委託により重要な製造ノウハウが受託 者に流出することが懸念される場合には、半製品にして現物で受託 者に提供する方法がある。また、無償支給材について、もしも受託 者が倒産して資産の差押えを受けた場合、無償支給していた原材料、製品、半製品などの支給材が押収されないように所有権を明確にす る必要がある。更に、金型、製造装置などの固定資産を受託者に貸 与する場合は、上記押収防止に加え、意図しないノウハウ流出防止 のためにも、委託者に所有権があることを明確にすることも重要で ある。
2.「知的財産権の取扱い」:
(1)新しい知的財産権が発生した時(派生または改良された知的財産)の取り扱い:
上記「知的財産権の取扱い」の 1.2 の規定は、受託者が委託者の提供した技術、営業秘密等を利用して新しい知的財産権(派生、改良された知的財産を含む)が生じたときの取り扱いにも関係す る。このような規定をしていなければ、訴訟となったときの紛争解決の手段が事実認定のみになってしまうからである。例えば、委託者と受託者の双方の開発により受けられる利益が開発の貢献度により認定することになる。しかし、OEM の委託者にとってみれば、受託者が委託者の手足のように労働力や物理的なサポート
をするだけで、開発に対して全く大きな貢献がないにもかかわらず、受託者が新たな知的財産権を取得することになれば、委託者が大きなリスクを負うことになりかねず、xx性が失われてしまう。したがって、xx的な解決方法としては、双方が契約締結時に知的財産権の帰属を明確に約定しておくことである。委託者の観点から、1.2 の規定のような条文で、新しい知的財産権が委託者に帰属することを約定することができる。また、新しい知的財産権が委託者に帰属することにより、受託者が引き続き契約を履行する上で委託者の許諾を再度取得する必要が出てくるため、1.2の規定では、委託者は受託者が使用することを無償で許諾すると付帯的に約定している。
これに対して、一般的な ODM の場合、受託者は開発に対して実質的な貢献があるため、新しい知的財産権を保有するために、次のような条文を約定することがある。
「乙は、甲の図面等により製作した目的物若しくはその製作方法又は甲の秘密情報を用いて得られた発明、考案、意匠の創作等に関し、知的財産権取得のための出願を行う場合は、事前にその旨を甲に申し出て書面による承諾を得なければならない。」
これは、新たな知的財産権が原則として「受託者」に帰属することを約定するものであるが、委託者は受託者が出願することについてなお同意するか否かを選択できるので、双方の権利と義務のバランスが取れた条文といえる。
ODM の特性に応じて補足説明すると、「知財の処理」に関して、受託者が技術の所有者であり、委託者が単純に設計を委託したのみで技術を提供していない場合、以下の規定がよくみられる。
「乙は、本契約により甲に交付する『XXX』製品がすべての関連法令に適合していて、如何なる第三者の知的財産権またはその他の如何なる権利を侵害していないことを誓約する。」ただし、もし委託者が同時に技術を提供した場合、受託者が委託者に上述の保証をするよう要求することがある。
(2)商標/商品包装:
上記「知的財産権の取扱い」の 1.3 の規定は、商標の使用に関するものである。商標は競争市場において商品または役務の出所を示す役割があり、権利者が長期継続使用することによって、その信用を示すとともに商品に高い付加価値を付与することから、企業の第二の生命ともいえる。受託者が自社製品に委託者の商標を表示することによって、委託者が長期経営により築いた名声を減損されないように、さらには消費者保護法に規範されている商品製造者責任30を負わされて委託者に損失が生じることのないように商標の利用について約定する。また受託者による製品の横流しを防止する効果もある。
3.その他:
(1)知財の処理-協力義務及び違反の効果:
30 消費者保護法第 7 条:「商品の設計、生産、製造に従事し、またはサービスを提供する企業経営者は、商品を提供して市場に流通させ、またはサービスを提供するとき、当該商品またはサービスが当時の科学技術もしくは専門水準で合理的に期待できる安全性を満たすことを確保しなければならない。商品またはサービスが消費者の生命、身体、健康、財産を害する可能性があるとき、目立つところに警告の表示及び危険に対する緊急処置の方法を表示しなければならない。企業経営者が前 2 項の規定に違反し、消費者または第三者に損害を与えたとき、連帯賠償責任を負わなければならない。ただし、企業経営者に過失がないことを証明することができたとき、裁判所はその賠償責任を軽減することができる。」
受託者が契約期間内に知的財産権の使用規範に関係する条文に違反したことにより委託者が損害を受けた場合、たとえ契約に関連規定がなくても、通常、委託者は民法の関連規定により損害賠償を請求することができる。しかし、委託者が第三者(消費者または他の知的財産権者)から請求された時、受託者は製品の製造者であり、且つ台湾企業の方が対処しやすい場合もあるため、受託者の協力義務を約定することが多い。以下に具体的例を挙げる。
「いかなる第三者が『XXX』製品につき、甲(委託者)に対して
(1)製品の瑕疵、(2)当該製品によって消費者、使用者に死傷または財産の損失を生じたこと、(3)他人の知的財産権を侵害した
こと(を含むがこれらに限らない)を主張したとき、前記主張の事由が乙(受託者)の設計に起因する、またはその他甲に帰責できない事由である場合、乙は、直ちに甲に協力し、すべての必要な防御策を提供する他、甲がそれにより受けた損害(裁判所が判決した賠償金額、弁護士費用、裁判所の訴訟手続きの費用及びその他いかなる直接的な損失を含むが、これらに限らない)を賠償することに同意する。」
(2)「契約終了の処理」:
完成した工作物が流出する可能性を完全に防ぐために、委託者は以下のような条項を約定することも選択できる:
「本契約が終了した場合、受託者は直ちに製造を停止し、その完成した工作物(完全な工作物または作成中の工作物を含む)は廃棄処分または削除するものとする。」
三、事例31
背景
1.
原告は「保護袋」製品につき 2010 年に意匠出願し、智慧財産局から登録査定を受けており、当該製品の意匠権者である。当該製品の量産のため、被告会社に当該製品の生産を委託したが、被告は原告の許諾を得ずに、他の工場に委託して当該意匠を侵害する製品を製造し、さらに被告会社がその侵害品を輸入して訴外人会社に供給したことは、原告の意匠権を侵害し、専利法違反を構成していると、原告は主張した。
31智慧財産法院 101 年民専訴字第 41 号判決。
裁判所の判断
2.
原告と被告の間で締結された係争購買契約第 2.24 条には「知的財産権:製品生産の必要により当社(即ち原告会社)が提供した図面、設計、型式、資料、工具、設備及びその他製品に関する文書資料及びそれにかかる所有権及び知的財産権は、全て当社
(即ち原告会社)の所有である…」とxxで定められており、当該購買関係にかかる知的財産権は全て原告またはその関係企業の所有に属すると明確に約定されているので、被告の所有または両当事者による共有ということはない。
たとえ研究開発記録及び原告スタッフともに工場で設計修正に携わっていたとの証言等を根拠として、被告が係争意匠の共有者であると主張したとしても、研究開発記録や証言は、原告と被告
の間に技術事項についての連絡があったことを証明できるだけ で、被告がかつて修正のアドバイスを提供したこと等は、係争意匠の製品が原告と被告の共有である又は共同開発したものであることを証明できない。
また、被告は係争購買契約第 2.24 条が消費者保護法第 11-1 条
及び民法第 247-1 条の規定に違反しxx性を失っているとして無効であると主張した。しかし、本件被告が自由な意思決定をもとに契約の締結がされているのかに対して、原告と契約を締結しないことにより直ちに不利益を生じることはないため、係争知的財産権の帰属の条項は、いかなるxx性を失う事情はない。
よって、被告の行為は専利法の規定に違反しているため、原告の侵害排除及び損害賠償請求の主張には理由がある。
分析
3.
一般的に、委託者に量産や特定部品の生産の必要があるときに OEM 契約が交わされる。本事例は、委託製造時の意匠や技術は委託者の所有であり、受託者は委託者からライセンスされた範囲内に限り製品を量産するケースである。製造メーカーと権利の帰属又は権利の共有等について紛争が生じることを避けるため、委託者は契約において、知的財産権の帰属を明確に規定しておくことが望ましい。また、本判決から、双方が契約締結時において、大企業の下請け企業のように、交渉力(バーゲニングパワー)が極端に弱い場合、または他方が契約を締結せざるを得ない制限を受けているなどの例外的状況を除いて、OEM 契約において知的財産権の帰属を委託者とする条項は、一般的に消費者保護法または民法に違反するxx性を失う条項ではないことが分かる。
第四節
代理店契約
及び
DISTRIBUTOR
の違い
一、AGENT
名目上はいずれも「代理店契約」であるものの、具体的内容により、Agent または Distributor に分かれる。
Agent の「代理店契約」とは、本人に代わって取り引きを行 い、売買契約が成立したら、その売買代金の何%かをコミッションとして本人から受け取るビジネスモデルのことをいう。売買の法律行為の効果は Agent には帰属しない。また、民法第 103 条により代理行為は、「代理人は代理権限の範囲内において、本人名義でなした意思表示は、直接本人に対して効力が発生する。」と定義されている。換言すると、本人がその法律効果を直接取得する制度であり、その目的は主に本人の法律上の取引活動の範囲を拡充することにある。図にすると以下のようになる:
これに対して、Distributor の「代理店契約」とは、代理店自らの判断、費用、リスクで商品の在庫を持ち、自らのリスクで自らが売買の当事者となり販売店などへ商品を再販売することをいう。この場合、販売店または消費者に対する売買の当事者になる。図にすると以下のようになる:
二、一般条項の紹介
日系企業と台湾企業では、Distributor の「代理店契約」が一般的であるため、以下は Distributor を例とした契約を紹介する。
「当事者」 | 株式会社××××(以下、 「X 社」という) | ○○○○株式会社(以下、 「代理店」という) |
「販売権」 | 1.1.X 社は、販売地域における製品の非独占的代理店として代理店を指名する。「販売地域」とは、台湾(澎湖、金門、馬祖を含む。)をいう。 1.2.代理店は当該指名を受諾し、本契約の有効期間中、製品を X 社から購入し、自己の名義と計算および費用をもって、販売地域において製品の販売を行い、市場開拓、販売促進及び据付、修理、保守サービスのために必要な人員と設備を整える。 1.3.X 社は代理店のみに対して製品を供給するわけではなく、代理店に対して如何なる権利(本商品、およびアフターサービス用部品に関連する知的財産権、または独占的販売権・代理権を含むがこれに限らな い)も許諾しない。 | |
「復代理店の | 1.1.代理店は、自己の計算及び危険負担により、販売地域 |
任命」 | 内で復代理店を任命することができる。代理店は、販売地域内で復代理店を任命する場合は事前に書面にて X 社に報告し、承認を得ることとする。いかなる復代理店契約も書面により締結し、かつ、少なくとも、本契約において代理店に課せられている義務 (特に、競業禁止)を復代理店に対しても負わせることとする。復代理店が本契約において代理店に課せられている義務に違反するときは、代理店の契約違反と見なす。 1.2.据付、修理、保守サービスの義務を復代理店に委ねる 場合は、代理店は自らの責任でバックアップし、問題を解決する義務を負うこととする。 |
「競業禁止」 | 代理店は、本契約期間中、製品のいずれかと同種の類似品又は本契約に基づく製品の販売を妨げるような他の製品について、(直接又は間接に)購入、販売、供給その他の取引をしてはならないこととする。代理店は、関係会社が競合製品の購入、販売、供給その他の取引に従事させない ものとする。 |
「販売地域外での販売禁 止」 | 代理店は、販売地域内においてのみ製品を販売するものとし、販売地域外で(直接又は間接に)製品を販売しない。代理店は、販売地域外に再販売する又はそのおそれのあ る販売地域内の第三者に製品を販売してはならない。 |
「当事者の地位」 | 本契約期間中を通じ、X 社と代理店は独立の契約者であり、いかなる意味においても相手を代表又は代理する権限を有しない。互いに、その代理人、使用人もしくは従業員は相手を代理して行動し又は何らかの義務を引き受け る権限を有しない。 |
「販売店によ る改造行為」 | 代理店は、製品に改造を施す場合は、事前に X 社の承認を受けなければならない。 |
「知的財産権の帰属」 | 1.1.代理店は、製品の製造、販売又は供給に関連して使用される特許権、意匠権、ノウハウ、著作権、商標、営業機密、その他一切の知的財産権(製造方法も含む。)(以下「知的財産権」という)が X 社の専有財産であることを確認する。 1.2.代理店は、いかなる時も、知的財産権における X 社の独占的権利、権原、権益又はそれらに象徴される営業権(のれん)を直接又は間接的に損なう行為を行わない。代理店は、X 社の知的財産権につき、いかなる形態においても異議を申し立てず、また争ってはならない。本条に規定する代理店の義務は本契約終 了後も引き続き効力を有するものとする。 |
「代理店による商標の使 用」 | 1.1. X 社は代理店に対し、本契約における販売地域内での製品の販売、販売促進及び流通に関して X 社の商標を使用する権利を許諾する。本契約により代理店に付与された X 社商標の使用権は、本契約の終了とともに終結し、何らの対価を要することなく無条件で X 社に復帰する。代理店は本契約終了後、直ちに前記商標の使用を中止する。 1.2. 代理店は、本契約期間及び本契約が終了した後、同一また類似する商品または役務において、商標権者の登録商標と同一また類似する商標、または、先願商標の『外国語の翻訳』や『意訳』した商標を出願 してはならない。 |
「第三者によ | 代理店は、X 社の知的財産権について第三者により争われ |
る権利侵害」 | 又は侵害されていることを発見した場合には、X 社に対し直ちに書面をもって通知する。代理店は、X 社の知的財産 権の防禦にあたって全面的に X 社に協力する。 |
「知的財産に関する責任の否認」 | X 社は、本契約における知的財産権の有効性についてはいかなる保証もしない。X 社は、販売地域において、第三者からの製品に関する知的財産権の実際の侵害又は主張される侵害についてのいかなる種類の請求に対して、何ら 責任を負わない。 |
「資料の返還」 | 本契約に従い代理店に使用許諾された全ての情報及び知的財産権は、本契約満了又は終了後 30 日以内に X 社に返還されなければならない。代理店は、X 社の知的財産権に包含される機密情報、ソフトウエアその他一切の資料に つきコピーを作成、保持してはならない。 |
以上の知的財産権に関する各条項は参考用であり、各企業が各自の必要に応じて調整することができる。以下に、別途、補足説明する。
1.「販売権」:交渉にあたり、独占か非独占かを考えなければならない。また、パフォーマンスが良ければ独占へ移行すると規定される契約もある。
2.「競業禁止」:上記の条項は、権利者としては代理店を本商品の 販売に専念させたいために定められた条項である。実務上、権利者 は代理店に対して競合する商品の代理をしてはならないと競業禁 止の制限をするものの、代理店は実質的な制限の回避策として、関 係企業を設立する方法で競合商品を代理することがある。このため、権利者は、競業禁止の範囲に関係企業も含めておくほうがよい。
3.「販売地域外での販売禁止」:この条項は他国への並行輸入防止
の規定方法の一つである。「間接」は許諾地域内の傘下のディーラーが許諾地域外へ再輸出することを知りながら、本商品を供給する場合などを指す。
4.「代理店による改造行為」:製品の品質、安全性、規格適合性を確保するため、改造行為の許可は慎重に判断しなければならない。また、改造により生まれる知的財産権の帰属や利用についての取決めが重要である。改良品の取り扱いに関して、契約において下記のように約定する場合がある。改良品の取り扱いをどのように規定するのかは複雑であるため、自社の立場からよく考えなければならない。
「代理店は、本商品の改良品を開発した場合、速やかに当該改良品についての情報を X 社に開示するものとする。X 社は、当該開示を受けた後 30 日以内に、別紙を改定して当該改良品を本商品の範囲に含めるか否かを決定し、その旨を代理店に通知するものとする。」
5.「代理店による商標の使用」:台湾で商標ライセンスをもって代理店に経営を委託する場合、商標法の規定によりライセンスの類型によってライセンシーの権利は異なるので、下表のとおり整理した:
商標権者は専用使用権又は通常使用権を許諾することができる | |||
商標権者/第三者による登録商標の使用を排除す る | 自分の名義で商標権侵害訴訟を提起する | 再許諾をする |
専用使用権のライセンシー | OK | 原則:OK 例外:契約の約定に従う。 | 原則:OK 例外:契約の約定に従う。 |
通常使用権のライセンシー | 契約の約定に従う。 | 契約の約定に従う。 | 原則:NO 例外:商標権者の同意を得る。 |
「代理店による商標の使用」条項は、商標権を代理店に使用許諾する範囲を明確にするための規定である。上述のように専用使用権と通常使用権では、代理店の持つ権限が大きく異なるので、明確に規定することが重要である。曖昧な規定が争いになった事例32があった。
だが、上記「代理店による商標の使用」の 1.1.の条項は、専用使 用権なのか通常使用権なのかを特に説明していないものの、実務上、専用使用権は権利者自身の使用を排除するものであるため、専用使 用権の解釈は比較的厳しく解釈される。当該条項を見ると、商標権 者、第三者の使用を特に排除していないため、通常使用権であると 解釈される。なお、商標権者自身による登録商標の使用を排除せず に、単に第三者による登録商標の使用を排除するものは、「独占的 通常使用権」と呼ぶ。これは、企業が新規市場を開拓するときによ くみられる。権利者は初期のうちはその新規市場の知識が不十分で あり代理店の協力が必要であるものの、将来市場を把握した後、新 たな販路を設置する可能性を保留するために「独占的通常使用権」を約定する。ただ、これは本質的には通常使用権であり、契約に「独 占」や「唯一」という用語を使用しているからといって、直ちに「専
32 四、事例1(智慧財産法院 104 年度民商上字第 19 号民事判決)
用使用権」と認められるわけではないので留意しておきたい。
「代理店による商標の使用」1.2.の条項は、代理店による商標出願を防止するための規定である。過去の実務において、代理店が契約期間中に、商標権者の外国語商標を「中国語訳」した商標を商標権者に無断で出願し、商標権者と関連する商品に使用した事例33があった。代理店契約解消後に争いになることが散見されるので注意が必要である。
4.「契約終了の取り扱いに関する規定」:日本では、「継続的契約の法理」という判例理論によって、代理店が一定の保護を受けられることがある。(1)販売代理店契約の解約には、1 年の予告期間を設けるか、(2)その期間に相当する損失を補償すべき義務を負うと判断した判決がある(東京地裁平成22年7月30日判 決 )。台湾では、代理店保護法がないうえ、裁判所の実務上も
「継続的契約の法理」という判例理論が確立していない。その為、以下のように約定する場合がある。
「代理店が本契約に基づき受ける利益は本商品の再販売から得られる利益のみであり、X 社から代理店に対する顧客への販売権益の補償、投下資本の補償その他の補償は一切行われないことを確認する。」
33 四、事例2(智慧財産法院 107 年度行商訴字第 78 号行政判決)
三、事例 134
背景
1.
原告であるシンガポール会社は、被告会社が生産、販売する服飾等製品への商標の使用を許諾したが、ライセンス契約において、被告会社は再許諾してはならないとxxで規定したにもかかわらず、被告会社は契約期間において、第三者へ商標使用権を再許諾し、第三者の生産販売する商品に商標を使用させたことは、被告会社によるライセンス契約違反であるとして、第三者から取得した権利金を原告会社に賠償または還元するよう求めた。これに対して被告会社は、原告会社は被告会社に専用使用権を許諾したので、ライセンス範囲内の行為であるとし、原告会社はこれ以上の権利金を被告会社から受け取ってはならないと抗弁した。つまり、双方のライセンス
34 智慧財産法院 104 年度民商上字第 19 号民事判決。
の範囲が争点となった。
裁判所の判断
2.
このライセンス範囲の争いは、実際の商標のライセンス方式と関 係がある。「専用使用権」とは、商標のライセンシーが専用使用権 の範囲内において、完全な専用権及び排他権を取得することであり、専用使用権を持つライセンシーは、ライセンス範囲内において、商 標権者および第三者が登録商標を使用することを排除することが できるため、商標権者であっても当該商標を使用することができな い。また、商標権が侵害された時、原則として専用ライセンスの範 囲内において、専用使用権を持つライセンシーは自己の名義で権利 を行使できるうえ、権利者はライセンス登記をしなければ第三者に 対抗する効力が生じない(商標法第 39 条の専用使用権の定義をx x)。「通常使用権」とは、専用使用権と比べると、ライセンシー がライセンス範囲内の使用権のみを取得するだけで、商標権者は当
該商標を継続して使用でき、さらにその他の者にライセンスすることもできる。また、「独占的通常使用権」は、商標権者による商標使用を排除しないので、「通常使用権」である。
本件の係争ライセンス契約第 5.1 条には、「ライセンサー(即ち原告会社)が、本契約の発効日以降、「契約地域」内において添付 A に記載されたライセンス商品のいかなる商標の権利をライセンシー以外の他人にライセンスしないことを保証する」と約定されている。裁判所はこれに基づき、約定において「専用」の文字がないのであれば、ライセンサー即ち原告会社自らの使用権を排除していないと認定した。たとえ、原告会社が契約地域内において、他人にライセンスしないことを保証したとしても、それはただ原告会社が台湾における「独占的通常使用権」を許諾することにより被告会社が係争商標を使用できると解釈できるだけであり、被告会社のいう
「専用使用権」ではないので、被告会社には第三者に再許諾する権利はないとして、被告会社にはライセンス範囲を超えて第三者に再許諾した事情があると認定された。
原告会社は、被告会社に対する損害賠償額の算定方法につき、第 三者から受け取った権利金を計算の基礎とすることを主張したが、原告会社が被告会社になした使用許諾が独占的通常使用権なので あれば、原告会社は第三者から権利金を受け取る可能性はないため、裁判所は原告会社の主張は根拠がないと認定した。係争ライセンス 契約第 19.3 条に原告会社の同意を得ずに再許諾する行為をxxで 禁止しているにも関わらず、被告会社がライセンスの範囲を超えて 再許諾した行為は、原告会社に一定程度の損害を生じたものと推測 されるので、裁判所は民事訴訟法第 222 条第 2 項の規定により一切 の情況を斟酌して得られた心証によりその金額を決定した。
分析
3.
専用
使用権
1.権利者の使用を排除
する 2.一人にのみ許諾する
商標ライ
センスの類型
通常
使用権
1.権利者の使用を排除
していない
2. 一人にのみ許諾した場合:独占的通常使用権
本件は、商標ライセンスの類型による権利者への影響がポイントである。以下のとおり整理した:
本件は契約において、原告会社自らによる商標権の使用をxxで排除しておらず、特定地域において被告会社のみにライセンスすることを保証しただけであるため、独占的通常使用権に該当する。ただし、本件のように、契約に「専用」または「通常」と明記していないことにより、双方当事者に争議が発生し、裁判所による契約の解釈を仰ぐよりも、契約書において直接規定しておくことが望ましい。
日系企業が台湾市場をしばらく観察してから子会社設立又は自ら経営したい場合は、通常使用権の商標ライセンスを採用することを推奨する。また、独占的通常使用権は、子会社の経営に影響する可能性があるため、慎重に検討しなければならない。このほか、不本意に専用使用権の許諾であると認定されてしまい、自ら商標を使用する権利を喪失することがないように、「専用」に類似する用語
を使用しないように注意が必要である。
235
四、事例
背景
1.
原告 A 社と B 社は家族経営の兄弟企業である。2003年1 月に、B社は➚ランス企業 C 社と交渉し、台湾地域における「BIODERMA」ブランドの販売権を取得した。
B 社はブランド名が外国語であることに鑑みて、台湾の消費者の認知度向上のため、中国語表記ブランド名「貝徳瑪」(英語の発音に基づいた当て字。係争商標)を 2004年9 月にC 社に無断で商標登録出願した。後に経営方針の調整により、B 社がマーケティングと業務開拓を担当し、原告 A 社がブランドマネジメントと商標戦略
35 智慧財産法院 107 年度行商訴字第 78 号行政判決。
を担当することになった✰で、2014年3 月にB 社が「貝徳瑪」商標を原告 A 社に譲渡し、B 社にそ✰使用を許諾した。
参加人 C 社は、2003 年から引用商標「BIODERMA」に係る商品を台湾に輸入販売し且つ雑誌で広告を出した。台湾で販売を担当する B社は係争商標「貝徳瑪」と引用商標「BIODERMA」を組み合わせたも
✰を利用し、参加人 C 社✰「BIODERMA」商標に係る商品を販売した。 そして,係争商標✰登録出願時に引用商標「BIODERMA」が既に存在 し、且つ関連消費者✰間でフランス✰ブランドとして知られており、係争商標は商標法第 30 条第 1 項第 10 号✰規定に違反し登録無効 である、と参加人 C 社は主張した(被告は、経済部智慧財産局)。
裁判所の判断
2.
裁判所は次✰とおり判断を下した。B 社✰ホームページでは、係争商標「貝徳瑪」と引用商標「BIODERMA」を組み合わせたも✰が使
用されている上、「貝徳瑪」✰前に「フランス」✰文字が付されている✰で、参加人 C 社✰「BIODERMA」商標に係る商品を表徴することから、B 社が係争商標「貝徳瑪」を引用商標「BIODERMA」✰中国語訳として使用していることが分かる。また、メディア、当局機関及びインターネット上✰情報はいずれも係争商標「貝徳瑪」を引用商標「BIODERMA」✰中国語商標又は中国語訳として✲同誤認していることが明らかであり、実際✰ところ両商標が消費者に✲同誤認を引き起こさせうることが証明されている。
更に、係争商標✰登録出願が行われる前に、参加人 C 社は 2003年から引用商標「BIODERMA」に係る商品を台湾に輸入して販売を行っている。
以上をまとめ、両商標✰✲同誤認が実際に起きたこと、両商標✰マーケティング手法とターゲット市場も重なっていること、原告による係争商標✰登録出願が善意でなされたも✰ではないこと等事情に鑑みて、係争商標が関連消費者に✲同誤認を生じさせるため、係争商標✰登録が商標法第 30 条第 1 項第 10 号規定に違反することが認められる。
分析
3.
経済✰グローバル化に伴って、外国語を用いた商標及び外国商標
✰台湾で✰登録出願がますます多くなってきており、本件紛争✰ような事件も頻繁に起きるようになった。ヨーロッパ企業と米国企業
✰場合は外国語商標を直接用いることが多いが、これらフランス語、ドイツ語等商標に対して台湾人は英語で呼称する傾向がある✰で、本件において「貝徳瑪」はフランス語として正しい呼称ではないも
✰✰、一般消費者✰「BIODERMA」に対する呼称に基づいて判断すると、原告による「貝徳瑪」✰使用は関連消費者に✲同誤認を生じさ
せるおそれがある。よって、本件において裁判所が「BIODERMA」と
「貝徳瑪」の両商標の呼称が酷似しており、実に同一商標又はシリーズ商標であると関連消費者に連想させるとの判断を下したのは妥当なものといえる。
本件のような紛争を回避するには、企業が海外市場に進出するに際し、予め商標登録をしておかなければならないほか、代理店に委託するのであれば、このような紛争を防ぐための条項を契約において規定しなければならず、例えば、代理店が許諾範囲内に限ってのみ商標を使用できるものとする上、代理店が図形を設計したり、外国語商標を中国語訳したりして使用しようとするとき、商標権者にその旨を通知して且つその承諾を得なければならないと規定するものである。
また、代理店が直接輸入をしようとして自ら企業に代理の申込みをしてきたとき、企業側がまだ市場開発の可能性を検討中であるため、商標の登録出願をとりあえず代理店が行うことを約定することもあり得るので、後になって商標権を取り戻せなくなることを回避するには、代理店の名義で登録出願がなされた商標権に係る今後の権利処理を契約において詳細に規定しなければならない。
当然ながら、上記の二つの事情は、たとえ契約において規定され ていなくても、2011 年改正商標法第 30 条第 12 号に不登録事由と して、「同一又は類似の商品又は役務について、他人が先に使用し ている商標と同一又は類似のもので、出願人が該他人との間に契約、地縁、業務上の取引又はその他の関係を有することにより、他人の 商標の存在を知っており、意図して模倣し、登録を出願した場合。但し、その同意を得て登録出願した場合は、この限りでない。」と 規定されていることから、企業はこれをもって智慧財産局に代理店 の模倣商標に対する異議申立や無効審判請求をすることもできる が、後に裁判にならないように、事前に契約において後の権利処理
を規定するのは、リスク回避の手段として考えられるものである。
第五節
技術供与契約(ライセンス契約)
一、一般条項の紹介
以下に、技術供与契約(ライセンス契約)でよく見られる契約条文を紹介する:
「当事者」 | 株式会社××××(以下、 ライセンサーという) | ○○○○株式会社(以下、 ライセンシーという) |
「定 義」 | 本契約において使用する下記の用語は、本契約に別段の規定のある場合を除き、それぞれ 下記のように定義する。 (1) 許諾する「ノウハウ」とは、「XXXX」(以下XX XX工法)に用いるライセンサーが所有する付属文書 1記載の技術およびライセンシーの「ノウハウ」が具現された付属文書2記載の製品をいう。 (2) 許諾する「特許」とは、水中アンカー工法に係り、ライセンサーが以下に記す日本国にて取得する特許並びに台湾にて出願する特許出願およびこれに係る分割出願および変更出願の一切をいう。 ・日本国 :特許第XXXX号 ・台湾:特許出願第XXXX号 (3) 「技術資料」とは、ライセンシーが「ノウハウ」を使用して「XXXX工法」にて工事を行うために必要と する付属文書3記載の資料をいう。 | |
「使用許諾」 | 1.1.ライセンサーは、ライセンシーに対し、本契約期間中、非独占的、かつ非排他的に許諾する「特許」お よび「ノウハウ」を使用し、「台湾」において「XX |
XX工法」で工事を行い、かつ、「施工地域」において「XXXX工法」で施工を行う権利を許諾する。 1.2.ライセンシーは、「台湾」域外において、許諾する「特許」および「ノウハウ」を使用して「XXXX工法」を用いての工事・施工をしてはならない。 1.3.xxxxxxは、直接に、または第三者を通じて「施工地域」以外において、「XXXX工法」を用いての工事・施工してはならない。 1.4.xxxxxxは、いかなる第三者(子会社を除く)に対して、ライセンサーの事前の書面による承諾なくして許諾する「特許」および/または「ノウハウ」 の使用を許諾(再実施許諾)してはならない。 | |
「ロイヤルティーおよび支払い」 | 1.1.xxxxxxがライセンサーに支払う特許・ノウハウ使用許諾のロイヤルティー(再実施許諾分を含む)は、以下の通りとする。ライセンシーまたはxxxxxxの子会社が第三者から請負う「請負価格」(正味価格)の5%とする。 ⑴ 上記ロイヤルティーは、年2回、毎年の1月1日~6月30日および7月1日~12月31日の期間において算定されるものとする。各期末から30日以内に、ライセンシーはライセンサーに対し支払金額および算定根拠を記載する報告書を提出しなければならない。 ⑵ ライセンサーは、異議がない場合、前項の報告書を受領してから14日以内に、xxxxxxに対し、請求書を送付するものとする。xxxxxxは、前述 の請求書を受領してから14日以内にライセンサー |
の指定する銀行口座にロイヤルティーを支払うものとする。 1.2.上記ロイヤルティーはアメリカドルで支払うものとする。為替レートは、支払日の台湾銀行の公布した台湾ドルとアメリカ合衆国ドルとの取引中間レートを適用する。送金にかかる全ての費用については、 ライセンシーが負担する。 | |
「技術資料の交付」 | 1.1.ライセンサーは、本契約の付属文書3に定めた交付内容および時期に従い、 (場所)において「技術資料」をライセンシーに交付するものとする。 1.2.xxxxxxは、ライセンサーの交付した「技術資料」を、受け取ってから14日以内に確認しなければならない。ライセンサーは、提供した「技術資料」がリストに一致しない場合は、当該「技術資料」を補足する義務を負う。 1.3.ライセンサーは、全ての「技術資料」が交付されるまでの全ての費用を負担し、ライセンシーは、全て の「技術資料」が交付された以後の費用を負担する。 |
「技術改良」 | 1.1.本契約の有効期間中、xxxxxxは、許諾する「特許」および/または「ノウハウ」に対する技術改良 (以下、改良技術という)を行った場合、14日以内に、ライセンサーに報告し、知的財産権の申請の要否を含めてその取扱いを協議するものとする。 1.2.ライセンサーが改良技術の導入を申し立てた場合、双方は別途協議し、その使用費用などについて合意した上、xxxxxxは改良技術の導入を許諾する。 1.3.改良技術の所有権は、双方が別途協議なく、原則ライ |
センサーに属する。改良技術に含まれる他の技術情 報も、双方が別途協議なく、ライセンサーに属する。 | |
「保証および権利侵害」 | 1.1. ライセンサーは、許諾する「特許」および「ノウハウ」の所有権者であること、並びにライセンシーに その使用を許諾する権利を有することを保証する。 |
1.2.xxxxxxは、第三者によるライセンサーの「特許」もしくは「ノウハウ」の侵害または侵害の可能性を発見した場合、直ちにライセンサーに通知するものとする。ライセンサーは、それに対し、防衛や解決措置を取るものとし、ライセンシーは、これに 充分に協力するものとする。 | |
1.3.ライセンシーは、ライセンサーの「特許」および/または「ノウハウ」を利用して「XXXX工法」を施工する際に、当該「特許」および/または「ノウハウ」が第三者の知的財産権を侵害するものとして訴えられた場合、ライセンシーが防衛や解決措置を取るものとし、ライセンサーは、これに充分に協力す るものとする。 | |
1.4.ライセンサーの保証は、ライセンシーに提供した「特許」および「ノウハウ」に限定される。また、xxxxxxは、「ノウハウ」に関する第三者のクレーム中で、xxxxxxが被る他の価格や費用の損失に 責任を負わないものとする。 | |
1.5.ライセンサーは、許諾する「特許」に無効事由が存しないことを保証しない。本件特許に無効事由が存し、本件特許が無効となった場合には、日本/台湾での無 効審判が確定した時点以降の特許に関る実施料支払 |
義務は発生しないものとする。 | |
「契約終了後の双方の権利義務」 | 1.1.本契約の終了後は、ライセンシー、ライセンサー双方の別途協議による合意がなされた場合を除き、ライセンシーは引き続きライセンサーの提供した「特許」 および「ノウハウ」を使用してはならない。 |
1.2.本契約の終了後であっても、xxxxxxは本契約の終了前に請負い「XXXX工法」を用いて工事・施工に着手した案件に限り、ライセンサーの提供した「特許」および「ノウハウ」を使用することができる。ただし、xxxxxxは本契約の「ロイヤルティーおよび支払い」に基づきライセンサーに対し報告書を提出し、ロイヤルティーを支払わなければ ならない。 | |
1.3.本契約の終了後、xxxxxxはライセンサーに対し、ライセンサーの提供した全ての技術資料を返却するものとし、全ての技術資料のコピーおよび電子資料を廃棄し、この旨をライセンサーに誓約しなけ ればならない。 | |
1.4.本契約の期限満了後に、xxxxxxが継続的に「特許」および/または「ノウハウ」を使用する場合に は、別途ライセンサーと協議することができる。 |
以上の条項はほんの一例にすぎず、技術供与契約(ライセンス契約)は、実務上でも争いとなることが多いため、「使用許諾」
「ロイヤルティーおよび支払い」、「技術改良」、「保証および権利侵害」の項目について更に補足説明する。なお、技術供与契約(ライセンス契約)の内容は、台湾のxx取引委員会が発布した「xx交易委員会が技術ライセンス協議の案件を取り扱う際の処理原則(詳しくは添付資料を参照)」を遵守する必要がある。
また、xx交易法(独占禁止、不当競争に関する法令)に違反しないように、以下に併せて説明する。
1.「使用許諾」:ライセンサーは技術を自由に使用できるように、非専用許諾(即ち非独占的、かつ非排他的)とすることが多い。また、xxxxxxは使用許諾の権利を第三者に移転あるいは再授権
(関連会社を例外とする規定が可能)できないように約定する契約が多く見受けられる。
授権範囲としての期間、地域などの制限は原則として「xx交易委員会が技術ライセンス協議の案件を取り扱う際の処理原則」に違反しないため、双方がよく相談して決めることができる。
また、授権範囲としての期間、地域などを制限できるほか、提供する技術内容(技術ソースコード、配布(distribution)あるいは書類)ごとに授権することができる。
2.「ロイヤルティーおよび支払い」:比較的単純な取引において、よく見受けられる対価の計算方式は以下のとおりである。(1)固定金額:技術供与を受ける者は一定期間内に一括もしくは数回に分けて(契約締結時や技術支援完成時など)固定金額を支払う。(2)技術供与を受ける者の売上高(あるいはその他推算可能な金額)の一定比率で計算する方式:金額計算のベース(技術使用に直接関連がある商品などの売上)、売上高に応じてパーセンテージを変動または固定するかどうかを明記します。(3)件数による報酬計算:当該技術を使用して製造された商品の数量に基づき、一定金額を支払うか、総数に応じて数量ごとの金額を調整する方式がある。ただ、比較的複雑な取引の場合、これらの計算方式を組み合わせることもできる。
原則として、ロイヤルティーの算定方法が次の『xx交易委員会が技術ライセンス協議の案件を取り扱う際の処理原則』に例示された規定に違反していなければ、契約自由の原則により、当事者双方は自ら協議して定めることができる:
(1)特許存続期間満了後、xxxxxxは依然としてライセンス料を支払わなければならないと定めるため不適切であると認定されたとき。
(2)ライセンサーの責に帰せざる事由によって専門技術が開示されたとき、xxxxxxは依然としてライセンスの実施料を継続して支払わなければならないと約定されとき。
(3)ライセンシーに必要としない特許又は専門技術を強制的に購入させたとき。
3.「技術改良」:技術提携を行い、技術供与を受ける者が当該技術を利用して改良あるいは改善して生まれた知的財産権(特許申請権利を含む)の帰属や授権方式および請求方法を明記する必要があると考えられます。改良技術の権利帰属は、通常当事者双方の交渉上の地位によって決められ、当事者の一方が契約交渉上の優位性を持つ場合、改良技術の所有権は当該当事者に帰属すると定められるのが普通である。
前記一般条項の紹介の「技術改良」1.3.に関連して、契約において「ライセンシーがライセンス契約の対象となっている特許等に対する改良技術や新しい応用方法を開発したとき、当該技術又は応用方法の権利はライセンサーに帰属する」と定めた場合、xx交易法に違反するか否かに関して、契約の準拠法によって結果が違うため注意しなければならない。
台湾法を契約の準拠法とした場合、現在のところ、xx交易委員会が下した処分に、「ライセンシーがライセンス契約の対象となっている特許等に対する改良技術や新しい応用方法を開発したとき、当該技術又は応用方法の権利はライセンサーに帰属する」との規定が、xx交易法第 25 条、旧法第 24 条に違反すると認定されたものはない36。よって、現在のところ、契約自由の原則に則って、ライセンス契約において上述のように定めることができ
る。
これに対して、日本の法律を契約の準拠法とした場合、ライセンサーにその権利を無償で帰属させる義務(アサインバック)を課す定めは、原則として、「不xxな取引方法」(一般指定第 12項)に該当し、独占禁止法に違反する。このような行為は、技術市場におけるライセンサーの地位を強化し、他方、ライセンシーに改良技術を利用させないことによりライセンシーの研究開発意欲を損なうものであり、通常、このような制限を課すことに合理的な理由があるとは認められないためである。
台湾法を契約の準拠法とした場合、原則として改良技術の所有権はライセンサーに帰属すると定めることができるが、ライセンサーは技術改良が行われたことに気付きにくいため、通常ライセンシーの報告義務が併せて定められる。一方、当事者双方の交渉上の地位が平等であるときは、所有権は当事者双方が共有すると定められるのが普通であるが、この場合、共有権利の行使について別段の定めをする必要があり、定めがなされなかったときは、
36 現在のところxx交易委員会が処分を下したのは、主として、ライセンサーがライセンシ ーに「製造設備リスト」や「販売報告書」の提出を求める行為、又は「むやみに警告状を発送する」行為が、取引秩序に影響を及ぼしてxxさを失すると認められる(xx交易法第 25条、旧法第 24 条)。
「第二節 開発委託契約/共同開発契約」の共有権利の取り扱いの表を参照することができる。
又、改良技術を取得した権利者が改良技術の実施を他方に許諾しなければならないことを定める条項をグラントバック条項という。改良技術の所有権がライセンシーに帰属し、且つライセンサーがライセンシーに対して「独占的グラントバック」を強要したとき、競争を制限する事情があると認定される可能性があることにご留意ください。よって、xxxxxxが自らの後続開発を行う権利を留保しながら、xx交易法にも違反しないためには、折衷的に「非独占的グラントバック」を定めることを提案する。なお、請求方法の規定は、前記一般条項の紹介の「技術改良」1.1.と同じ、xxxxxxが技術改良を行った後ライセンサーに告知せずに、自ら改良技術を特許出願したことによってライセンサーが損失を被ることを回避するための報告・通知義務を含むのが普通である。また、主にxxxxxxによって改良が行われた場 合、xxxxxxが係る技術情報を提出しないことによって、ライセンサーが特許出願を行えなくなることを回避するには、契約においてライセンシーに対して係る技術情報の交付又はその他協力義務の履行を要請する条項を併せて定めることを提案する。
4.「保証および権利侵害」:許諾権を持つこと、及び権利を守るため必要な措置を講じる(侵害者に対して権利を主張するとき、及び第三者から権利侵害で訴えられたときの対応を含む)ことを、権利者が保証する規定のことをいうが、このような規定は通常概括的な内容となっており、実際上権利者がいかに権利を守るかについて実務上争いになったことがあり、係る争いは事例 2 の説明をご参照ください。
二、事例137
背景
1.
原告(ライセンシー)は、被告(ライセンサー)の特許が経済部智慧財産局によって取り消され、特許権ははじめから存在しなかったものとみなされたため、先般双方間で締結された技術供与契約も無効となったはずであるとして、民法第 179 条不当利得の規定により、被告に対して、係争特許が取り消される前に原告が支払ったロイヤルティーの返還を求めた。これに対して、被告 は、技術供与契約に基づき原告に対してロイヤルティーの支払いを求め、原告も確かに被告の係争特許を利用したことにより利益を挙げており、後に係争特許が無効審判請求で取り消しとなった
37 智慧財産法院 99 年度民專訴字第 191 号民事判決。
が、双方間の技術供与契約の効力に影響がなく、その上、係争特許が取り消される前に原告が被告にロイヤルティーを支払った 時、被告が既に当時まだ有効である係争特許を原告に供与したことにより反対給付を履行したことから、不当利得が成立しないと主張した。
裁判所の判断
2.
ライセンサーの主な義務は、ライセンシーが許諾期間中に技術供与契約に基づき特許を実施できることを確保することであることから、許諾期間中にライセンシーが技術供与契約に基づきライセンシーが約定により特許を実施できるように確保した場合、たとえ後に特許権の取り消しが確定し、特許権がはじめから存在しなかったものとみなされ、継続して特許権を実施できなくなったとしても、契約の目的物がはじめから給付不能ではない以上、契
約は有効に成立したものであり、ライセンシーは特許を実施している間に約定によりロイヤルティーを支払うべきである。
本件では、被告は技術供与契約に基づき原告にロイヤルティーを支払うよう要請し、原告も確かに被告の供与した技術を利用して利益を挙げており、係争特許が後に取り消されたものの、双方間の技術供与契約の効力に影響がなく、その上、原告が被告にロイヤルティーを支払った時、被告も当時まだ有効だった特許技術及び特許権を原告に供与して使用させたため、反対給付は履行済みであり、よって、被告にロイヤルティーの支払いを受けた法律上の原因があり、不当利得は成立しない。
分析
3.
本件から分かるように、特許権取り消しの効力ははじめから存在しなかったものとみなされるものの、技術供与契約が締結された時、契約の対象物ははじめから給付不能なものではないため、技術供与契約は特許権の取り消しの影響を受けずに依然として有効である。ここで留意すべきなのは、本件は特許権の取り消しが確定した後、「取り消しになる前に」ライセンサーが技術供与契約に基づいて受け取ったロイヤルティーが不当利得であるか否かの争いに関わるものである。実務上は特許権の取り消しが確定した後に、xxxxxxは依然として特許実施許諾契約に基づいてロイヤルティーを支払うべきか否かの議論があって、現在のところまだ結論が出ていない。
法律上のリスクを軽減させるために、技術供与契約を作成するに際し、ライセンサーである場合は、「既払いのロイヤルティーをライセンシーに返還しない。係争特許が後に第三者に無効審判
を請求され取り消しになった、又は裁判所によって無効である か、若しくは取り消されるべきであると認定された場合も同様である。」旨の条項をxxで規定したほうがよい。
一方、上記事態を回避するには、xxxxxxは「ライセンサーの特許が第三者に無効審判を請求され取り消しになった、又は裁判所によって無効であるか、若しくは取り消されるべきであると認定された場合は、ライセンシーはライセンサーにロイヤルティーを支払わないものとする。」旨、甚だしくは「ライセンサーの特許が第三者に無効審判を請求され取り消しになった、又は裁判所によって無効であるか、若しくは取り消されるべきであると認定された場合は、ライセンシーはライセンサーにロイヤルティーを支払わないものとするほか、当該技術供与契約を終了させ、且つ既払いのロイヤルティーの返還を要請することができる。」旨をxxで規定することも検討できる。
238
三、事例
背景
1.
原告は本件のクーラー設備の特許(係争特許)のライセンサーであり、被告はライセンシーである。2010 年 3 月に原告と被告は特許許諾契約を締結し、原告が係争特許に関する技術を被告に許諾及び譲渡すると約定した。被告は特許許諾契約により製品の売上報告書及び財務諸表を定期的に提供するうえ、原告に技術譲渡費用、特許のロイヤルティーを支払わなければならないと約定した。
しかし、2012 年 5 月から被告は売上報告書の提供、ロイヤルテ
38 智慧財産法院 104 民専上字第 32 号判決。
xxの給付を拒否し始めたうえ、次の契約条項により抗弁した。特許許諾契約第 9 条の「許諾対象の制限:契約対象は前に許諾した下記の使用者及び X 社の特許番号:227495 を除き、甲(原告)は、乙(被告)に使用を許諾した後、契約外の如何なる許諾行為をしてはならない。但し、パソコン用クーラーの分野以外はこの限りではない…。」、第 13 条第 2 項の「違約事由:(二)甲は、乙
が書面で請求しても、当契約の第 9 条及び第 10 条の義務を履行しない場合、乙は関連代金の支払いを保留することができ、二回の期限を設けても甲が処理しない場合、乙は当契約を解除することができるうえ、甲に懲罰的違約金としてニュー台湾ドル 50,000,000 元…を支払うよう請求することができる…。」、及び
第 16 条の「第三者が権利侵害し、契約対象を使用した場合の処理:第三者が違法的に当契約対象を使用していることを発見し、乙の商業的な利益に影響していることにつき乙が具体的な証拠を提出した場合、甲は直ちに第三者が当契約対象を引き続き使用することを阻止する義務を負い、当該第三者に対し権利侵害行為の訴訟を提起しなければならない。甲が処理しない場合、甲が処理し終えるまで、乙が関連ロイヤルティーの支払いを中止することができ、甲が処理を終えてから、未払いのロイヤルティーを支払うことができる。乙が書面により期限を設け、催告しても、甲が処理しない場合、乙が直接に処理することができ、関連費用は甲が支払うものとする。ただし、策略上の訴訟はこの限りではな い。」。被告は、2012 年 6 月に書簡で他社が違法的に係争特許を使用していると主張したが、原告は対処してこれを排除していない。当然上記約定を履行しない違反があったので、売上報告の提供及びロイヤルティーの給付を拒否することができると抗弁し た。
この抗弁につき、原告は、被告が指摘した他社の違法的な係争
特許の使用がなかったと書面で回答したうえ、被告に具体的な事実証拠を提出するように要請した。被告が理由もなく売上報告の提出及びロイヤルティーの給付を拒否したことは確かな契約違反であると主張した。
裁判所の判断
2.
被告は 2012 年 6 月より続々と原告に書簡を送り、他社が違法的に係争特許を使用しているので、原告が係争許諾契約を違反したと主張した。しかし、原告が調査したところ、指摘された事情がないと書簡で回答したうえ、被告に具体的な事実証拠を提出するよう要請した。そのため、裁判所は、原告が係争許諾契約第 9、 13、及び第 16 条に違反していないと認定した。また原告は、契約により売上報告を提出し、ロイヤルティーを給付するように被告に催促したのに、いずれも被告に履行を拒否されたので、2013 年 10 月 29 日に書簡を送り、係争許諾契約を解除したことには理由
があり、被告に対してロイヤルティーを請求することができると認定した。
分析
3.
前記一般条項の紹介の「保証および権利侵害」1.2.の規定のように、権利者(ライセンサー)に対して一定の負担を課し、xxxxxxがロイヤルティーを支払って技術を使用する権利を取得したのに、権利者が権利を守るための措置を講じず、対価を支払わない他人に任意に技術を使用させては、ライセンシーにとって実に不xxであることを考慮すると、当事者双方の利益均衡のため、本条項が存在する場合がある。然しながら、この規定の履行に際し、第三者による侵害行為を立証するため、xxxxxxはライセンサーに対して具体的にどのような証拠を提出すべきなのか。また、第三者による侵害行為の存在を認めないとき、ライセンサーはどのような証拠を提出すべきなのか。これは即ち本件の争点である。これについて、細かく規定することによって本件のような争いの発生を回避し得るものの、どのような侵害行為が生じるか予測困難なこともあり、本件のように概括的な定めをするのは、実にやむを得ないことである。
よって、双方が確かに本条規定を履行しているか否かは、個別具体的な事案ごとに判断しなければならない。本件についていうと、裁判所は詳しく論じていないものの、本判決は、契約において既にライセンシーが具体的な証拠を提示して第三者による侵害行為を立証しなければならないと規定されている以上、被告がただ原告に対して第三者による侵害行為が存在する旨の書簡を送付しただけで、その他特許侵害鑑定報告書等を提示していないことから、原告には第三者による権利侵害を阻止する、又は第三者に
対して訴訟を提起する義務を負うと認定することができないという立場をとっている。
被告が指摘した他社の違法的な係争特許の使用が認められなかったと書面で回答したうえ、被告に具体的な事実証拠を提出するようにも要請した原告の対応は適切であった。なお、後に被告から具体的な証拠が提出されたのに、原告が頑として第三者に対する訴訟の提起を拒絶しているのであれば、保証および権利侵害に関する定めの趣旨に違反することになる。