2) 2006年4月14日にはアイフル株式会社に対し,同年10月20日には GE コンシューマー・ファイナンス株式会社に対し,違法な取立てがあったことを理由と する業務停止命令が命じられた。また,商工ローン問題や中小企業経営者の自殺が社会問題化したことを受け,同年12月13日の第165回臨時国会では,いわゆるグレーゾ ーン金利の撤廃を盛り込んだ,改正貸金業規正法が成立している。改正の概要については,金融庁ウェブページ
付従性の制限による保証人の保護
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(法学専攻 ビジネス・ロー・コース)
第1章 はじめに
第2章 保証人の人的属性による分類第1節 学 説
第2節 各学説の比較と私見第3章 裁 判 例
第1節 債務承認と消滅時効の援用権第2節 破産と消滅時効の援用権
第3節 否認権の行使と保証債務の復活
第4節 契約解除後の原状回復義務についての保証責任第4章 保証人の人的属性による保護の必要性
第5章 おわりに
第1章 は じ め に
保証人の責任の範囲をめぐっては,これまで,特に包括根保証人の責任制限を中心に論じられてきた。判例は,古くから,契約解釈,身元保証法の類推適用,保証人の特別解約権の承認,あるいは債権者の保証人に対する注意義務の肯認といった手法を用いて,包括根保証人の責任制限を試みてきた。近時では,商工ローン問題や中小企業の経営者の自殺が社会問題へと発展する中で,xxx違反を根拠として包括根保証人の責任を制限する判例が多く見られるようになっている。また,平成16年の民法改正では保証制度の見直しが行われ,保証契約の要式契約化,貸金等債務についての包括根保証契約の禁止など,一定の解決が図られた。しかし,民法は,包括根保証契約の規制の対象を「貸金等債務」に限定しており(民法465
付従性の制限による保証人の保護(xx)
条の2),「貸金等債務」以外の債務については,依然として,従来の包括根保証人の責任制限の判例法理が妥当することになる1)。また,包括根保証契約の主体については,個人保証人についてのみ禁止しており,法人が包括根保証人になることは禁止されていない(民法465条の2括弧書)。しかし,このような措置がとられてもなお,保証人に対する過剰な取立て等に関する事件は後を絶たず2),保証人問題は,早急に解決すべき課題なのである。
保証人の責任の範囲を考える際には,債権者が主債務者の資産の状況を把握していたか,債権者が主債務者の資産が危うくなる前に取引に入ったのか,あるいは資産の状況が危うくなった後かなど,様々な事情を考慮しなければならない。なぜなら,債権者がどのような意図の下に保証人を立てたのかによって,保証人の責任の範囲は異なることになるからである。ところで,民法典においては,保証の主体が誰かという点について,特 に区別して規定されていない。この点に着目し,近時では,保証人がどのような立場にある者かによって,その保護の必要性が拡大・縮小するとい
う主張がされるようになってきている。そこで本稿では,保証人の責任が,その人的属性によりどのように変化するのかという点に焦点を当て,これ まではあまり検討されてこなかった特定保証について,特に判例の蓄積の 多い分野である保証債務の付従性の問題を取り上げ,検討していきたい。
付従性という言葉は,かつては,主債務の内容が縮減した場合は保証債務 もそれに合わせて縮減するという意味で用いられてきた3)。しかし最近で は,主債務の内容が拡大した場合は保証債務の内容も拡大するという意味 でも用いられている。保証契約においては,債権の回収を図りたいという 債権者の利益と,保証債務から逃れたいという保証人の利益とが対立する。本稿の課題は,付従性によって保証人の責任の範囲が過剰に拡大すること を制限し,保証契約当事者にとって妥当な保証責任の範囲について検討す ることである。
以下,第2章において,保証人の人的属性による分類の必要性を主張す
立命館法政論集 第5号(2007年)
る代表的な学説を紹介する。続く第3章では,主債務が拡大・縮小した場合の保証債務の取扱いについて,保証人の人的属性の観点から,判例を取り上げて分説する。第4章では,第2章および第3章で検討した学説および判例を踏まえ,保証人の責任の範囲がその人的属性によってどのように変化するかについて,改めて述べる。
第2章 保証人の人的属性による分類
第1節 学 説
近時の学説には,保証人を人的属性によって分類し,その保護の必要性が異なると主張する見解が見られる。
第一に,xxx教授の見解は,以下の通りである4)。
まず,個人保証の類型として,① 伝来型(いわゆる人的保証),② 個別事情型(①③の中間にあり事情いかんで変わる),③ 職務型(役員などである間),④ 主債務型(実質は保証人の自己債務でxx托生)がある。そして,伝来型については,「片務・無償」のものであり,「保証人と債務者または保証人と債権者との間の特別の情誼関係または特別の信頼関係を基礎としている」5)という特質を有することから,その保護の必要性は高い。これに対し,伝来型に近接する場合も隔離する場合もある個別事情型は除き,職務型から主債務型になると,個人保証であるとしても,保証人保護の要請は小さくなる。主債務型の例としては,「中小企業の取引債務に対するオーナー社長の保証」がある。この場合,保証人と企業は「一心同体であり,経済的利益を追求・獲得する手段として会社は債務を負い代表者は保証責任を負担する」のであるから,保証人に対して「利他・無償・情誼・軽率ゆえの免責ないし減責を肯定するといった結論」は,とり得ない。これと比較して,オーナー社長以外の役員がその職務として保証人となる場合が想定される職務型では,「保証人保護を考えるべき程度がより強い」。このように,個人保証には,「主債務者との間でいわば経済的
付従性の制限による保証人の保護(xx)
なxx托生の関係に立つべきであり,保証責任の軽減を正面から考慮する必要が乏しい場面と,伝統的にいわれてきた気の毒で同情に値する場面という,いちじるしく異なる(反対の極に位置する)両者がある」。
第二に,xxxx教授は,情誼的保証人の保護の必要性を主張する6)。 すなわち情誼的保証人の特質として,① 保証人にとって「主債務者のた めの(債権者のためではない)『単なる慈善行為』にすぎないという偏頗 性」があること,② 情誼的保証における保証委託契約は,「『取引』とは 異質な無償契約という特殊性を有している」こと,③「債権回収不能のリ スクを第三者に無償で転嫁するもの」であること,④「両当事者の専門知 識の量が大きく隔たるということ,約款による契約ということ,リスク ヘッジの契約ということ」が挙げられ,このような特殊性を有する情誼的 保証人に高い注意義務を要求することはできない。これに対し,例えば, 実質的個人会社における経営者の保証の場合には,自己責任の原則,情報 把握の容易性,会社の経営によって利益を受けるとの事情から,保証人保 護の必要性は低い。また,銀行や信用保証協会等の有償保証人の場合には,
「保証『取引』自体により主債務者から保証料を得るものであり,有償取引……の一般原則に律することを認め」ても酷ではないことから,その保護の必要性は低い。
第三に,xxx教授は,金融機関による中小企業向け貸出に伴う保証
(以下,「中小企業貸付保証」とする。)における保証人を,① 現役経営者の個人保証,② 退任後の経営者の個人保証,③ 名目役員の個人保証,④第三者の個人保証に分類する。中小企業貸付保証においては,これらの保証人の意思は必ずしも「債務保証意思」ではないにもかかわらず,会社が経営難に陥った場合には,保証人から債権の回収を図るという手段が用いられている。しかし,中小企業貸付保証の実質面(保証意思)からみて,中小企業貸付保証に法形式上の法的効力(保証人に保証債務の履行を求めることができる効力)を,無制限に認めることはできないとする7)。
立命館法政論集 第5号(2007年)
第2節 各学説の比較と私見
xxxxは,人的属性による保証人の保証意思の差異について,具体的に次のように述べる。
まず,① 現役経営者個人保証人については,その狙いが「債務の保証」ではなく「経営者を保証人とすることによって経営に対する責任感を喚起することであり,会社と運命共同体にあることを認識させること」であること,すなわち,保証意思が債務保証意思ではなく「経営責任保証」意思であることから,保証債務の履行を求めることに「客観的にみて合理性が
ある」場合にのみ,経営者個人保証人に保証債務の履行を認めるべきであるとする8)。また,② 退任後の経営者個人保証人についても,「『経営責任保証』としての性格をもつもの」であることから,「経営者たる地位を
退いた者にまで……責任を求めるのは妥当ではな」く,経営者の退任により「当然に,かつ退任の前後を問わず『経営責任保証』は消滅する」9)。
③ 名目役員個人保証人については,会社の運営についての情報を得ることができないこと,経営に関与していない名目役員について保証責任を求
めることは中小企業貸付保証の目的が経営責任保証であるのと齟齬することから,名目役員個人保証の責任を否定する10)。さらに,④ 第三者個人保証人の場合,その保証の目的は,原則として「債務担保にあるといえ」るが,「個人の債務を担保する場合」と異なり,「経営から生ずる債務を担保する場合」には,「主債務者である中小企業の経営の破綻などから生ずる債務を負担する覚悟が一般的にあるといえないであろうし,客観的にもこのような中小企業の債務を担保させるだけの客観的合理的理由があるといえない場合が通常である。」また,金融機関としても,「有担保主義の原則から形式的に保証人を徴求しているにすぎないのが通常」である。これらのことから,第三者個人保証人に「事実的意思としては経営上の債務負
担意思があったとしても,それをもって直ちに経営上の債務全額を担保するという規範的意思があったものと解することは問題である」とする11)。
付従性の制限による保証人の保護(xx)
このように保証意思の観点から人的属性による保証人の保護の必要性を主張するxxxxの見解に,私見としても概ね共感を覚える。しかし,現役経営者個人保証人を,その保証意思が「経営責任担保意思」であること等を根拠に保護すべきとの見解には,若干の疑問がある。
前述の通り,xxxxは,経営者個人保証人12)について,実質的個人会社における経営者が保証人となる場合には,自己責任の原則等によって利益を受けるとの事情から,その保護の必要性は低いとする。xxxも同様の見解をとるが,会社の役員が職務上保証人となる場合には,保護の余地が生じるとする。
やはり,経営者保証人に対し経営責任を担保させるのであれば,経営者としては,ある程度の厳しい責任を負担する意思を有するのが通常ではないだろうか。xxxxが述べるように,会社の経営状態の悪化は自己責任
であり,また実質的に見れば,中小企業のオーナー経営者の収入は,大企 業の役員のそれと比較しても,一般的に水準は高い13)。これらのことから,経営者の中でもいわゆるオーナー経営者が保証人となる場合には,その者 に責任を負わせても,過大な不利益を生じることはないであろう。さらに,債権者が第三者責任の訴え(会社法429条1項)により経営者保証人の責 任を追及した場合と,民法上の保証人としての責任を追及した場合とで, 経営者保証人の責任の範囲の均衡を図るべきことからしても,その保護の 必要性は低いと考えられる。他方,経営者保証人の保証責任を肯定する立 場に対しては,社員(株主)としての責任が有限責任であっても,連帯保 証人となることで,結果として無限責任になってしまうという批判が考え られる。しかし,このような重い責任を経営者保証人に課すことこそが, xxxxのいう「会社と運命共同体にあることを認識させること」に他な らないだろう。これに対し,役員が職務上保証人となる場合には,xxx が述べるように,このような保証責任の制限の限界を検討する必要性は低 いと考えられる。あくまで主債務者会社の被用者であるため,上記のよう なオーナー経営者である経営者保証人の特徴とは相容れないからである。
立命館法政論集 第5号(2007年)
また,xxxxは,名目役員の保護の必要性は高いとしている。しかし,平成18年5月1日の会社法施行に伴い,取締役会を設置しない株式会社の 設立が可能となり,また既存の株式会社は,定款変更により取締役会を廃 止することが可能となった。このような取締役会設置会社でない株式会社 には,取締役の員数制限の規定は適用されない(会社法326条1項,331条
4項)。さらに,特例有限会社には,取締役会を置くことができないことから(整備法17条1項参照),上記取締役会設置会社でない株式会社と同様に,役員の員数に制限はない(整備法2条1項,会社法326条1項)。加えて,持分会社の社員の員数についても制限はなく(会社法641条4号参照),持分会社の社員は,退社の登記後約2年を経過するまでは,会社の債務を負担することとなる(会社法612条2項)。これらのことから,上記の機関構成をとる会社において,員数制限の規定がないにもかかわらず敢えて役員に就任しまたは入社し,会社の負担する債務の保証人となった者については,その保護を講じる必要はなくなったといえよう。
なお,退任後の経営者保証人について,xxxxは保護の必要性が高いとし,私見もこれについて異論はないが,当該経営者保証人が権利義務役
員である場合には,退任日後であっても,保証責任を追及する余地があると考えられる14)。
これらのことから,最も保護を厚くすべきであるのは,会社の経営者に依頼され保証契約を締結した,会社の経営とは全く利害関係のない第三者保証人であると考える。契約を締結したとはいえ,会社の経営とは何の利害関係もないにもかかわらず,巨額の債務を負担するというリスクを背負わせるのは酷であろう。
ところで,xxxxは,信用保証協会等の有償保証人の保護の要請は低いとしている。しかし,実務においては,信用保証協会が保証人となる場合,信用保証協会が代位弁済したときに発生する求償権の実効性を確保しておくために,金融機関に対し連帯保証人を立てることが要求される。また,連帯保証人と信用保証協会との間では,信用保証協会が代位弁済した
付従性の制限による保証人の保護(xx)
場合に,信用保証協会は当該連帯保証人に対し(内部的負担部分にかかわ らず)全額の求償をすることができる,との特約が交わされるのが通例で ある15)。つまり,信用保証協会は,有償保証人であるにもかかわらず,他 の連帯保証人(求償保証人)に対し,代位弁済額全額の求償請求ができる ことになる。信用保証協会が代位弁済する場合,その大多数は,会社が経 営破綻した場合であろう。そうすると,求償保証人は,会社に対して求償 できる見込みがないにもかかわらず,会社の経営から生じる巨額の債務を,信用保証協会に対して償還しなければならないのである。確かに,信用保 証協会は,その公的性格から,他の民間の保証会社と比較すれば保護の必 要性は高いと考えられる。しかし,対求償保証人との関係では,求償保証 人の保護を優先させなければならないであろう。
第3章 裁 判 例
第1節 債務承認と消滅時効の援用権
第1款 学 説
主債務の消滅時効完成前に保証人が保証債務につき債務承認行為をした場合,その後時効が完成すれば,保証人はこれを援用することができるか。この点に関する学説としては,以下のものがある。
第一に,援用肯定説がある。この見解は,保証債務の付従性から,主債務が消滅したときは保証債務も当然に消滅すると解する16)。さらに,主債務者に対して時効中断措置を講ずることは債権者に不可能なことを強いるものとはいえず,また,保証人が事実上あるいは法律上主債務者に対して
求償できないことが起こりうることを根拠として,直ちに援用権が制限されると解するのは妥当ではないとする17)。
第二に,援用否定説がある。この見解は,保証人が時効完成前に債務を承認した場合,債権者は主債務者に対して中断の手続をとらないのが通常であり,また,保証債務は承認により中断したとして保証債務の時効の援
立命館法政論集 第5号(2007年)
用を封じながら,主債務の時効の援用を許すのは,承認を時効中断事由とした目的からは不当な解釈であるとの理由から,保証人の消滅時効援用を否定する18)。
第三に,折衷説がある。この見解は,① 債務者に資力があって債権者の主債務者に対する権利が実効性を有する場合は,保証人が自己の保証債務を承認したとしても,債権者に対する債務の時効が完成すれば,保証人は時効を援用することができるが,② 主債務者に対する権利が実効性を有しない場合には,債権者の保証人の代位弁済に対する期待は法的保護に価し,また債権者に主債務者に対する実効性のない時効中断措置を要求す
ることは不合理ともいえるから,この場合にのみ保証人は時効を援用することができないとする19)。
では,主債務の消滅時効完成後保証人が保証債務につき債務承認行為をした場合,保証人は,主債務の時効を援用することができるか。学説は,次の通りである。
第一に,効果が異なる二通りの放棄があり,保証人が改めて援用することができる放棄を原則とする見解がある。この見解は,保証人が保証債務について時効の利益を放棄した場合に,① 主債務者もその前後に放棄したときは,主債務者の放棄には保証人も責任を負う趣旨が含まれているから,保証人は改めて援用することはできないが,主債務者が援用したときは,② 保証債務だけが存立することは不可能であるから,原則として,保証人は常に改めて援用することができ,③ 保証人だけがその利益を放
棄するつもりなら,それを認めても,必ずしも保証債務の付従性には反しないとする20)。
第二に,効果が異なる二通りの放棄があり,改めて保証人が援用するこ とができない放棄を原則とする見解がある。この見解は,保証人が主債務 の消滅時効を改めて援用できるかは意思解釈の問題であり,① 放棄の意 思表示が,主債務がどうなろうとも履行の責めを負うという趣旨であれば,援用することはできず,意思解釈によっても明らかでない場合には,②
付従性の制限による保証人の保護(xx)
付従性の原則を重視すれば援用を肯定,③ 放棄の意思表示の効力を重視 すれば援用を否定することになるが,疑わしいときには③を原則とする21)。
第三に,画一的に援用を否定する見解がある。この見解は,主債務者が時効の援用,放棄,承認のいずれもしない場合に保証人が放棄,承認したときは,保証債務の「放棄,承認の債務負担的側面」(保証人が放棄,承
認をしたことにより保証人が消滅時効の援用をなしえず,保証債務の存在が確定的になったこと)を重視し22),主債務者の債務承認を知っているか
否かにかかわらず,保証人がひとたび放棄,承認をすれば,その後保証人は,主債務および保証債務の時効を援用することができないとする23)。
第2款 検 討
これに対し,裁判例として次のものがある。会社の代表取締役である連帯保証人が,主債務の消滅時効完成前に,代表取締役兼連帯保証人として債権の存在を認め,当該債権の一部を支払う意思を有することを明示したという事案で,最判昭和44年3月20日24)は,保証人による主債務の消滅時効の援用を否定した(事例1)。連帯保証人が,主債務の消滅時効完成後,債権者に対し,連帯保証債務の存在自体は争わず,債務の一部免除を申し出たという事案で,大阪高決平成5年10月4日25)は,消滅時効援用を肯定した(事例2)。連帯保証人が,主債務の消滅時効完成の前後にかけて継続的に連帯保証債務を履行した事案で,最判平成7年9月8日26)は,消滅時効援用を肯定した(事例3)。さらに,連帯保証人が,主債務の消滅時効完成後,債権者との契約に基づき分割弁済を履行したという事案で,東京地判平成9年7月25日27)は,消滅時効援用を肯定した(事例
4)。
しかし,これまでに,債務承認行為を行った保証人が主債務の消滅時効を援用することができるかについて,保証人の人的属性の観点から論じたものは見当たらない。学説は,承認行為をした保証人が主債務の消滅時効を援用することができるかという形で論じている。これに対して判例は,
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保証人のした承認行為の対象が主債務か保証債務かによって,保証人の保護の要否を区別しようとする傾向にある。私見は,保証人の人的属性,債務承認行為の態様,債務承認行為を行った保証人の主観を総合的に考慮して判断すべきであると考える。学説の見解では,どのような行為によって債務承認が行われたのかは検討されておらず,他方,判例のように債務承認行為の対象を基準とすれば,その結論は保証人の主観にかかっているからである。
まず事例1では,会社の代表取締役である連帯保証人の債務承認行為は,客観的には,代表者兼連帯保証人としての承認であるから,主債務および 保証債務を承認するものであり,主観面でも同様の意図で行われたのであ る。したがって,保証人の時効援用権を認めなかったのは当然の結論であ る。事例2の連帯保証人は,会社の経営とは無関係の,会社の代表者の交 際相手である。連帯保証人が,消滅時効完成後に,約9年間連帯保証人に 対して権利行使をしていなかった債権者に対し,当該消滅時効完成の事実 を知らずに示談の申入れをした。客観的に見れば,主債務および保証債務 を承認する行為である。しかし,第三者保証人である連帯保証人に対して 連絡を怠っていたという債権者の過失により,保証人は消滅時効の完成を 認識していなかったという主観的事情があることから,保証人の時効援用 権を認めたのは妥当である。事例4では,会社の取締役である連帯保証人 は,分割弁済契約締結前から保証債務を履行しており,保証債務の一括弁 済の猶予を受けるための弁済方法の変更との意図の下に分割弁済契約をな している。したがって,裁判所の判断は妥当と考えられる。
問題は,事例3であろう。まず主観面において,会社の取締役である連帯保証人は,破産した会社に求償できないことを認識しながら,債権者に対して弁済をしている。また,客観面の債務承認行為の態様として,連帯保証人は,現金の自動引き落とし,さらには現金の直接引渡しによって,時効完成の前後にわたり債権者に対して継続して弁済している。このような行為を行った保証人について,消滅時効の援用を認めるべきではない。
付従性の制限による保証人の保護(福田)
では,なぜ裁判所は,消滅時効の援用を肯定したのか。裁判所は,本件の弁済が「取締役」名義の口座ではなく「保証人」名義の口座からの引き落としにより行われたという事情から,主債務についての承認があったとはいえないと判断したようである。代表取締役の長男であるため,借主としての支払いか,保証人個人としての支払いかが,明らかに区別できるというのである28)。しかし,この判断基準では,債権者に対する弁済を誰名義の口座から行うかによって,保証人は,将来にわたり消滅時効を援用する可能性を留保することができることになる。
このような事例の解決策として,保証人の人的属性による分類の方法を提案したい。本件の事実関係からは,連帯保証人について,代表取締役の長男でありかつ会社の取締役であること以外,会社に対してどのような関係にある者であったかは明らかではない。仮に,当該取締役が,会社の経営に関与し,または会社の経営上の情報を容易に入手し得る地位にあったとすれば,債権者に対する別段の意思表示のない限り,債権者に対する継続弁済後に消滅時効を援用するという矛盾した行為を認めてはならない。会社の財産に対する執行を免れるため,消滅時効が完成するまで保証人として継続的に弁済し,その後,主債務および保証債務から解放されるため消滅時効を援用するということも可能となってしまう。債権者としても,会社から受ける弁済と会社の取締役から受ける弁済とを区別し,後者は将来消滅時効を援用されるリスクを含む,性質の異なるものとの認識はしていないであろう。
なお,会社法施行後は,本件のような事例では,会社の機関構成によって結論を異にすることになると考えられる。当該会社が取締役会設置会社であり,当該取締役が名目役員である場合において,当該取締役が会社の情報を入手し得ない地位にあったときは,会社法施行前の事例である本件と同じく,保護の必要性は強くなる。これに対して,当該会社が取締役会設置会社でない株式会社や特例有限会社である場合には,前述の通り,員数制限がないにもかかわらず敢えて取締役に就任したのであるから,その
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ような経営者保証人の保護の余地はないであろう。
第2節 破産と消滅時効の援用権
第1款 学 説
主債務者が破産した場合,保証人は,主債務の消滅時効を援用することができるか。主債務者破産後の主債務の取扱いについての学説は,以下の通りである。
第一に,債務消滅説がある29)。この見解は,主債務者の免責または会社
の法人格の消滅により,主債務者の負担する債務自体が消滅し,破産債権者は,破産者に対して任意の弁済を求めることができず,破産者から受領した弁済は不当利得となるとする30)。この見解によると,保証人に主債務の消滅時効を援用する余地はなく,債権者は保証債務だけの時効中断に注意すればよいことになる。
第二に,通説である債務存続説(責任消滅・時効進行説,自然債務説)
がある31)。この見解は,主債務者が免責され,会社の法人格が消滅しても,主債務は存続すると解する32)。この見解によると,主債務者の破産後も, 保証人は主債務の消滅時効を援用することができる。
第三に,折衷説(責任消滅・時効不適用説)がある。この見解は,破産 手続が終結に至ったときは,責任財産が消滅したというべく,破産債権も 責任財産に対する取力を欠き,この意味で消滅時効制度によって債権者 を保護する根拠が失われるから,消滅時効制度が適用されないとする。こ れに対し,同時廃止または維持廃止の場合において,換価・清算手続が完 了していないときは,なお消滅時効が進行すると解する33)。これに加えて,債務者が破産終結に至った以上,その時点で保証債務は独立性を発揮し
(保証人は,求償できないものと覚悟して,独立の債務を負担する),いわば損害担保契約上の債務に転化すると解する見解もある34)。
付従性の制限による保証人の保護(福田)
第2款 検 討
では,主債務者が破産し,信用保証協会が代位弁済した場合に,求償保証人は,主債務者の信用保証協会に対する求償債務(以下,本款で「主債務」とする。)の消滅時効を援用して,求償保証債務を免れることができるか。
第三者が求償保証人となった事案で,最判平成11年11月9日35)は,消
滅時効の援用を否定した(事例5)。また,会社の代表取締役が求償保証人となった事案で,最判平成15年3月14日36)は,消滅時効の援用を否定した(事例6)。
これらの最高裁判決は,事例2ないし事例4の裁判例と比較して,(求 償)保証人に酷な判断であるように思える。事例5および事例6では,主 債務者は破産しており,求償保証人が信用保証協会の求償請求に応じても,事実上主債務者に対して求償することはできない。これに対し,事例2な いし事例4では,保証人が主債務者に対して求償することは可能であり, さらに,保証人が債権者に困惑を生じさせるような矛盾した行為を行った にもかかわらず,消滅時効援用権が認められているのである。事例5のよ うな第三者求償保証人に限定していえば,主債務者の破産という偶然の事 情,経営上の理由により,これほど取扱いに差異が生じることとなるのは,疑問である。しかし,求償保証人に消滅時効援用権を広く認めると,求償 保証債務からの解放を容易にし,求償保証人を保護しすぎることになる。 そこで,求償保証人の時効援用の可否を考えるに当たっては,信用保証協 会の求償権の確保の要請と,求償保証人の消滅時効援用の可能性を両立さ せる解釈が好ましい。
まず債務消滅説では,求償保証人は,求償保証債務の消滅時効を援用することはできるものの,主債務の消滅時効援用権は完全に否定される。また,この見解では,残余財産の有無によっては主債務が存続するという不安定な事態が生じることになり,時効管理をする信用保証協会にとっても不都合であるが,求償保証人にとっても不透明な解釈である。他方,債務
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存続説では,求償保証人の主債務の消滅時効援用権は広く認められるが,主債務者の破産後も主債務は存続するため,信用保証協会は,弁済を受ける可能性があるのは求償保証人からであるにもかかわらず,主債務者に対しての時効中断が可能であり,求償保証人の知らぬ間に時効中断がなされる可能性がある。
そこで,折衷説における求償保証債務に一定の独立性を観念する見解に注目したい。折衷説では,清算手続が完了していない場合,主債務は存続することになる。信用保証協会が破産財団の配当手続を経ずに求償保証人に求償してきた場合,求償保証人は,主債務の消滅時効を援用して保証債務から免れることができる。さらに,求償保証債務に一定の独立性を認めるということは,主債務の消滅後は信用保証協会・求償保証人の二当事者関係になることを意味し,求償保証人の知らぬ間に時効が中断されるという問題を回避することができる。したがって,信用保証協会は,まず破産財団から配当を受け,それでも満足を得ることができなかった額についてのみ,求償保証人に請求すべきことになる。信用保証協会は,求償保証人との間で,主債務者と連帯して信用保証協会の求償権を担保させる旨の契約を締結するのが通常であることから,破産財団から配当を受けずに求償保証人に請求することも可能であるが,これを広く肯定すれば,事実上主債務者に対する求償の余地のない求償保証人の保護に欠けるからである。主債務者破産後の主債務の性質をこのように解するとしても,信用保証 協会が,破産財団の配当手続から満足を得られなかった求償額の全額を求
償保証人に対して請求することができるかは,別問題であろう。
主債務者の破産が配当手続を経ない場合(同時廃止,異時廃止),主債務者には求償保証人の求償に応じるだけの財産がないにもかかわらず,信用保証協会は,求償保証人に代位弁済額の全額を請求できることになる。前述の通り,事例6のような経営者求償保証人が主債務者に求償することができないのは,主債務者の破産に対する自己責任であるのに対し,事例
5のような第三者求償保証人の場合は,主債務者の破産という偶然の事情
付従性の制限による保証人の保護(福田)
により引き起こされたものであるから,その保護の必要性は大きく異なる。そこで,信用保証協会対求償保証人の関係において,第三者求償保証人に ついては,一定の保護を考えるべきである。また,信用保証協会に,その 有償保証人たる性格から,このようなリスクを負担させても問題ないであ ろう。
まず,主債務者の破産前において,信用保証協会は,主債務者から求償 を受けるよう尽力しなければならない(もっとも,信用保証協会が代位弁 済するということは,主債務者は経営の危機に瀕しているということであ り,求償に応じるための財産は限られているかもしれないが)。そして, 第三者求償保証人は,信用保証協会が主債務者の破産前に適時求償したの であれば回収することができた金額については,責任を免れるべきである。法的には,信用保証協会が第三者求償保証人に対し求償額全額を請求する ことは可能であるが,債権回収の努力を怠った者にも同様の権利を認める ことは,主債務者に求償する可能性のない第三者求償保証人に過酷で不当 な結果をもたらすからである。
第3節 否認権の行使と保証債務の復活
第1款 学 説
破産者がした債務の弁済が破産管財人により否認され,その給付したものが破産財団に復帰した場合,いったん消滅した保証債務は復活するか。学説として,第一に,復活否定説がある。この見解は,① 否認権の効 果は相対的であること,② 2004年改正前の破産法79条(現169条)は,相
手方の債権は相手方からの返還または償還により復活すると規定しており,取消しと異なり,遡及するのではないこと,③ 悪意で弁済を受け,それ を否認された債権者の自業自得であること,④ 連帯債務の場合に,債務 者の弁済により負担部分に応じて債務者に償還した後の否認の結果,連帯
債務者が償還部分のほか復活した債権の全額を弁済しなければならないと すれば,過酷で不合理であることを根拠に,保証債務の復活を否定する37)。
立命館法政論集 第5号(2007年)
第二に,通説である復活肯定説がある。この見解は,否認権の効果は物権的であり,第三者にも及ぶことを根拠とし,保証債務の復活を当然に肯定する38)。
しかし,近時の学説には,保証債務の復活に一定の限界があることを認めるものがある。この見解は,負担が予定されているのは担保責任の範囲
内における復活であり,その範囲を超えて保証人に不利益を負わせることはできないとする39)。すなわち,相手方債権や保証債務の消滅を前提として新たな利害関係を有するに至った第三者については,否認の範囲から除外するとともに,保証債務の復活の範囲からも除外すべきであるとする。また,否認の訴えは,確認の訴えまたは給付の訴えであると解されるところ,その判決の効力が及ぶのは訴訟当事者である破産管財人・債権者間に限られるから,復活肯定説をとるとしても,連帯債務者や連帯保証人など
に対し,訴訟参加や訴訟告知などにより否認権の不存在を争う機会を与えなければならないという指摘がされている40)。さらに,債権者が保証債務
の履行を求める際には,弁済の否認および給付の返還などの事実を主張する必要がある41)。
第2款 検 討
判例も,保証債務の復活に肯定的である。会社の代表取締役が連帯保証人となった事案で,大阪地判昭和48年2月14日42)は,保証債務の復活を肯定した(事例7)。また,第三者が連帯保証人となった事案で,最判昭和48年11月22日43)は,保証債務の復活を肯定した(事例8)。
ところで,現行破産法176条は,否認権の行使期間を,破産手続開始の日から2年,行為のときから20年と規定している。つまり,保証人にとって想定外の長期間が経過した後に,保証債務が復活することもありうることになる。多くの学説は,主債務の弁済後に新たに利害関係を有するに至った第三者の保護を強調する傾向にあるが,利害関係人が登場する前の保証人についても,保護を図る必要があるのではないだろうか。
付従性の制限による保証人の保護(福田)
私見としては,保証人の地位と,主債務の消滅から否認訴訟提起または主債務復活までに要した期間との相関関係によって,保証人保護の必要性は変動すると考える。すなわち,経営者保証人の場合,会社の破産は自己の経営上の責任により引き起こされたのであるから,原則として,保証債務の復活を肯定するべきである。もっとも,実質的に経営上の決定権のなかった役員の場合には,主債務の消滅から一定期間の経過とともに,保証債務の復活から免れると解してよいであろう。これに対し,第三者保証人の場合,会社の破産は,前述の通り,自己とは無関係の会社の経営上の理由により生じるのであり,保証債務の復活のリスクを保証人にいつまでも負わせるわけにはいかない。いったん消滅した保証債務が,長期間経過後に破産という会社の経営上の理由から突如復活し,保証人に対する執行が可能になるという事態は,保証人にとって極めて不利益である。否認権の行使期間が経過し,あるいは否認訴訟の勝敗が確定するまで,保証人は保証債務復活の恐れに脅かされ,会社の経営状況に一喜一憂しなければならないというのでは,不当であろう。このような取扱いの差異が必要であると考えるのは,保証債務の消滅に対する期待の程度が,経営者保証人と第三者保証人とでは,大きく異なるからである。第三者保証人の場合は,主債務の消滅から短期のうちに,会社が破産,否認訴訟が提起され,主債務が復活した場合でなければ,保証債務は復活しないと解すべきである。また,債権者が保証債務の復活を望むのであれば,保証人を否認訴訟に参加させる手続を経ておくべきである。
経営者保証人のケースである事例7では,保証債務消滅から,会社の破産までの期間は約9ヶ月,保証債務復活(債権者から主債務者に対して否認の目的物が返還されたとき)までの期間は約3年7ヵ月である。主債務の消滅からかなり短期間で,会社が破産,否認訴訟が確定し,保証債務が復活している。したがって,保証債務の復活を否定する事情はない。これに対し,第三者保証人のケースである事例8では,保証債務消滅から,会社の破産までの期間は約11ヶ月,保証債務復活までの期間は約5年10ヵ月
立命館法政論集 第5号(2007年)
である。なお,保証人は否認訴訟に参加していない。事例8では,保証債務の復活までの期間は,否認訴訟の進度の関係もあってか,事例7と比較して長期間を要している。この保証債務復活までの5年10ヶ月という期間が,第三者保証人にとって長いか短いかという問題はあるにしても,この期間いかんによっては,保証債務の復活を認めることが保証人にとって極めて不利益となる場合があることを主張しておきたい。
第4節 契約解除後の原状回復義務についての保証責任
第1款 学 説
債権者・主債務者間の契約が解除された場合,保証人は,解除後の原状回復義務についても保証責任を負うか。
まず,否定説には,根拠の異なるいくつかの見解がある。
第一に,契約解釈および当事者意思を根拠とする見解は,保証人は主債 務者のなすべき給付について履行の責任を負担する意思のみを有するので あり,主債務者が有する反対債権を行使した結果,偶々負担することがあ る給付返還義務については,保証責任を負担する意思はないと解するのが,保証契約当事者の普通の意思に適合するとする44)。
第二に,解除の法的効果に根拠を求める見解は,契約解除による原状回復義務については,原債務の履行に代わる損害賠償ではなく,単に原状回
復義務の方法と解し,一般に原状回復義務が保証債務に包含されないのと同じく,解除に基づく原状回復義務も保証債務に含まれないとする45)。
次に,通説である肯定説にも,理由付けが異なるいくつかの見解がある。
第一に,当事者の意思解釈を根拠とする見解は,保証人が保証契約を結ぶ趣旨は,主債務者の債務不履行により債権者に損失を被らせないという
ものであり,保証人は主債務者の原状回復義務についても保証責任を負うとする46)。
第二に,保証債務の担保性を根拠とする見解は,契約解除後の原状回復
付従性の制限による保証人の保護(福田)
義務も損害賠償義務も,ともに結果初めから契約がなかったのと同一の
「経済的効果」を生じさせるという意味において,両者は債務不履行に対する救済手段としての同一の機能を果たしていることを根拠に,保証人は原状回復義務についても責任を負うとする47)。
第三に,契約を解除して原状回復と損害賠償を求める場合と,解除しな いで損害賠償請求した場合との,保証人の責任の均衡を根拠とする見解は,保証人に原状回復義務について責任を負わせても,「解除のなされない場 合の責任と一般的にはその重さの点で変わらない……(契約どおりに債務
が履行されたならば債権者が得るであろう財産状態を確保する範囲での保証)」とする48)。
第四に,民法447条1項を根拠とする見解は,まず,民法447条1項の趣旨は,保証人が主債務者の債務が履行されたのと同じ状態を作出する義務を有するということであるとする。そして,原状回復によって債権者の得る利益は,実質的には損害賠償と同一であり,債務が履行されたのと同じ
状態を作り出す法的手段であるから,債務不履行による原状回復義務は,民法447条1項の損害賠償義務に準じて保証債務の範囲に入るとする49)。
制限的肯定説の中にも,その制限の対象について,いくつかの異なる見解がある。
第一に,買主の保証人を除外する見解がある。事例9の最高裁判決における最高裁判所調査官解説は,当事者の意思解釈を根拠に,買主の保証人を除外する。すなわち,売主のための保証契約の趣旨は,目的物の移転が可能なように保証することが中心的であり,それが不能なときには損害賠償等の手段によって債権者(買主)に損失を被らせないようにするものであるから,保証人の責任を肯定するのが保証契約当事者の意思に合致するとする。これに対し,買主のための保証については,契約上の主債務は極めて代替性の強い金銭であり,売主としては主債務者からの履行がなくても保証人からその支払いを受けて売買契約の本来の目的を達成しうる関係にあるから,保証契約の当事者の意思は,原則として買主の代金支払義務
立命館法政論集 第5号(2007年)
だけを保証する趣旨であると解釈する余地があるとし,保証責任を否定する50)。
また,保証人保護の必要性を強調し,同様の結論をとる見解もある。この見解は,特定物売買の買主の保証人が,目的物の引渡後に売買契約が解除された場合の原状回復義務についても保証責任を負わなければならないとすると,買主が特定物の返還を遅滞すればするほど保証人の負担すべき賠償責任は無制限に増大する危険があり,また,特定物の返還に代えて填補賠償をなすことによって保証責任を免れ得ると仮定しても,その特定物
の価格が高騰している場合などにおいては,保証人は想定外の重大な責任を負わなければならない恐れがあることを根拠とする51)。
さらに,担保制度の趣旨から同様の結論を導く見解もある。この見解は,保証範囲は,当事者の具体的主観的意思の探求ではなく,「人的担保制度 からして妥当であるかという客観的立場」から決すべきとする。そして,
「客観的具体的妥当な保証責任の範囲」を確定するには,債権者のみならず保証人の利益保護も考えるべきであり,特に将来の債務について責任を認める場合には,保証人がその債務の内容,範囲について予見できるものでなければならないとする。これに対し,買主のための保証の場合には,契約上の主債務は極めて代替性の強い金銭であり,売主としては,主債務者からの履行がなくても保証人からその支払いを受けて売買契約の本来の目的を達成しうる関係にあるから,保証契約当事者の意思は,原則として
買主の売買代金支払義務だけを保証する趣旨であると解釈しうる余地があるとして,買主の保証人を除外する52)。
第二に,保証の範囲に含まれる原状回復義務を制限する見解がある。この見解は,原状回復義務一般を一律に扱うべきではなく,売買契約が解除された場合に限定しても,原状回復義務と考えられるものには,売主の代金返還義務と費用償還義務,買主の原物返還義務と収益返還義務など,様々なものがあるとする。原物返還義務は,さらに原物に代替性があるか否か,原物返還が不能か可能か,可能であればそれに代わる価格賠償義務
付従性の制限による保証人の保護(福田)
を負うのか否かなど,様々な事態が考えられる。そして,原状回復の法的性質論から,特約のないかぎり,一律に保証責任を肯定する必要がないのと同様に,原状回復が多くの場合に果たしている機能のみに着目して,
様々な事態が考えられる原状回復を一律に論ずることも妥当ではないとする53)。
第2款 検 討
学説において,かつては否定説が通説であったが,次第に,保証人は契約当事者として負担する一切の債務を保証するとの立場が有力化していった。この有力説の影響を受け,最大判昭和40年6月30日54)は,「特定物売買の売主のための保証人」という留保付ではあるが判例変更をし,保証人の責任を肯定した(事例9)。その後の裁判例として,東京高判昭和48年
3月29日55)は,同じく特定物売買が解除された場合の売主の保証人の責
任を肯定した(事例10)。さらに,京都地判昭和43年4月3日56)は,不特定物売買が解除された場合の売主の保証人の責任を(事例11),大阪地判昭和52年3月24日57)は,不特定物売買が解除された場合の買主の保証人の責任を(事例12),それぞれ肯定した。また,最判昭和47年3月23日58)は,請負契約が解除された場合の前払金返還債務についての請負人の保証人の責任を肯定した(事例13)。
ところで,事例13の最高裁判決(以下,「昭和47年判決」とする。)は,傍論で,保証人の関知しない事情により保証人に過大な責任を負担させる恐れがあるから,「請負契約が……合意解除され,その際請負人が注文主に対し既に受領した前払金を返還することを約したとしても,請負人の保証人が,当然に,右債務につきその責に任ずべきものではない」としている。つまり,最高裁は,保証人は一定の例外的な事情が存在する場合にのみ解除後の債務についても負担すると考えているようである。しかし,いずれの裁判例も,原則と例外が逆転したかのように,契約解除後の債務についての保証人の責任を肯定している。
立命館法政論集 第5号(2007年)
そこで,保証人の属性に注目して上記裁判例を見ると,事例9および事例10は第三者,事例11は同業者会社の代表者,事例12は会社の取締役,事例13は第三者および同業者会社である59)。これらの事例で,第三者保証人とされる者の中に,事例11では同業者会社の代表者,事例13では同業者会社が含まれていることに注目しなければならない。
私見としては,同じ第三者保証人として分類される者の間でも,責任の 範囲に違いが生じると考える。その一例として,上記のような同業者であ る連帯保証人は,主債務者と無関係でありかつその業界に精通していない 第三者保証人と比較して,保護の必要性は低いと考えられる。例えば,昭 和47年判決の評釈において,請負契約の解除後の処理として,出来高部分 を注文者に引き渡し,その後価格を算定し,既払前渡金からその価額を差 し引いた上で残額を請負人が注文者に返還するという処理を行っているが,
今日では,約款により同様の処理をするのが一般化しているとの指摘がされている60)。同業者が保証人となっている場合であれば,請負契約の解除
後にこのような処理が行われることは,容易に予見することができるであろう61)。これに対し,当該取引に精通していない第三者保証人に,上記建設業界の慣行の存在を予見することが可能であろうか。このことは,請負契約に限らず,専門的知識を要する他の取引についても当てはまることである。
したがって,同業者ではない第三者が保証人となっている場合には,債
権者が当該保証人に説明義務を尽くしていない限りは,当然に前払金返還債務が保証の対象になるという解決をすることはできない62)。このように結論付けても,債権者としては保証人がどのような者であるかについては調査をしておくべきであるから,債権者にとって不利益とはいえないだろう。
付従性の制限による保証人の保護(福田)
第4章 保証人の人的属性による保護の必要性
保証契約は約款により行われるのが通例化しているため,保証契約の範囲が契約上明らかでない場合が少なくない。また,債権者に極めて有利な条項が,保証契約約款に設けられることがある。しかし,そのような場合でも,当該表示行為によって相手方や社会一般が理解するであろう客観的意味を確定するための合理的意思解釈において,本稿で述べてきた保証人の人的属性の観点を取り入れ,保証人の合理的意思を推定し,保証人の救済を図るべきである。
では,保証人の人的属性によって,その保証意思および保護の必要性に,具体的にどのような差異が生じるのであろうか。
経営者保証人の責任については,経営責任を自覚させるために保証人としても厳しい責任を課すべきことや,債権者が経営者保証人に対し,民法上の保証人としての責任を追及した場合と,会社法上の第三者責任の訴え
(会社法429条1項)によって責任を追及した場合とで,その責任の範囲の均衡を図るべきことから,経営者保証人の保護の必要性は低いであろう。これに対し,経営者保証人が名目役員である場合には,会社の機関構成 によって,その保護の必要性は異なる。会社法施行前の株式会社においては,取締役の員数は3名でなければならず(旧商法255条),名目的に取締役が選任され,さらに当該取締役が会社の債務につき保証人となることがあった。この場合の名目役員である経営者保証人の保証意思は,債務を保証する意思ではなく,会社の経営が健全な経営を行うことを保証する意思
であることから,その責任を制限するべきである。また判例は,名目役員は会社に対して監視義務を負うとしているが63),このことは,名目役員の責任が,通常の役員のそれより小さいものであることを示唆している。
しかし,会社法施行に伴い,取締役会を設置しない株式会社の設立が可能となり,また既存の株式会社は,定款変更によって取締役会設置会社で
立命館法政論集 第5号(2007年)
ない株式会社となることが可能となった。取締役会設置会社でない株式会 社においては,役員の員数についての規定は置かれていない(会社法326 条1項参照)。すなわち,会社法施行に伴い,取締役会を設置しない機関 構成をとれば,名目的に役員を選任する必要はなくなったのである。取締 役の員数制限がないにもかかわらず,敢えて取締役に就任し会社の債務を 保証した者について,保証人としての責任を制限する必要はない。これに 対し,既存の株式会社が,会社法施行後に取締役会を廃止しないまま存続 している場合には,従前の通り,名目役員である経営者保証人の保護の余 地はあるだろう。さらに,特例有限会社や持分会社の場合には,会社法上,役員および社員の員数についての規定は設けられていないから(整備法17 条1項,会社法641条4号参照),名目的に役員に就任しまたは入社した者 については,上記取締役会設置会社でない株式会社の場合に準じて考える べきである。
退任後の経営者保証人については,当該経営者保証人が退任時に債権者に別段の意思表示をしない限り,退任後は保証責任を負わないと解すべきである。当該役員に,退任後も保証債務を負担する意思があるとは考えにくいからである。また,債権者としても,会社の経営者が誰であるのかは調査すべきである。株式会社においては,役員の任期は法定されており,これと異なる定めをするときは定款の定め等が必要であるため(会社法 332条1項,2項),経営者保証人の任期は容易に調査することができる。
さらに,特例有限会社の役員の任期に制限はないが(整備法18条),法律の規定や当該会社の名称から債権者はそのことを認識できるため64),役員変更の事実については定期的に確認しておくべきである。このような調査を怠った怠慢な債権者は,保護に値しないであろう。なお,権利義務役員となった経営者保証人については,退任日以後も,後任者が選任されるまでは保証責任を負うと解すべきである。権利義務役員が退任日以後は保証責任を免れるとすれば,当該退任日から後任者の就任日までの期間は,債権者は,当該経営者保証人に責任を追及することも新たに保証人を立てる
付従性の制限による保証人の保護(福田)
こともできなくなるからである。
第三者保証人の保護の必要性は,その人的属性によって,第三者保証人に分類される者の間でも異なる場合がある。主債務の契約の性質によっては,実質的に主債務を負担する者が保証人となる場合65)や,主債務者の同業者が保証人となる場合などがある。このような者も第三者保証人に分類されるが,主債務に生じる事由によって保証債務の範囲に変化が生じることを容易に予見できる立場にあるから,その保護の必要性は低くなる。これらに該当しない,主債務者との情誼的関係によって保証人となった者こそ,最も保護を厚くすべきである。このような第三者保証人が,主債務者・債権者間に発生する債務を際限なく保証する意思を有しているとはいえないからである。
なお,信用保証協会が保証人となる場合,実務においては,信用保証協 会が代位弁済したときに発生する会社に対する求償権を担保するため,必 要的に求償保証人を立てるという取扱いがされている。信用保証協会が代 位弁済するということは,会社には弁済能力がないということであるから,求償保証人が信用保証協会からの求償請求に応じた後の処理の問題として,求償保証人は会社に求償できない(会社には求償に応じる財産がない)こ とになる。ところで,信用保証協会は,対価を受けて保証人となる有償保 証人である。このような性質を有する信用保証協会について,求償保証人 に対する求償権を無制限に認めることには疑問がある。債権者である信用 保証協会は,まず会社に対して求償し,会社が破産手続を経る場合には, 破産財団の配当に加入しなければ,求償保証人に対して代位弁済額全額の 求償をすることはできないと解すべきである。
第5章 お わ り に
これまで見てきたように,過去に保証人の責任が裁判で争われた事例では,保証人の人的属性という観点からその保護の必要性について論じられ
立命館法政論集 第5号(2007年)
ることはなかった。しかし,商工ローン問題を契機として,金融機関と保 証人との情報量,知識量の格差が認識されるようになった現代においては,特定保証も含めて,保証人保護に対する認識は高まりつつある。
そこで本稿では,まず第2章で,保証人を人的属性によって分類し,その保護の必要性の程度,または保証意思の程度が異なるとする学説を紹介した上で,私見を述べた。経営者保証人については,債権者の保証人に対する責任の追及の方法として,会社法上の訴えによった場合と,民法上の保証人の責任を追及した場合との,責任追及の範囲の均衡から,その保護の必要性は低い。これに対し,第三者保証人の場合には,原則としてその保護の必要性が高くなるが,有償保証人の場合には,その性質上,保護の必要性は低下する。さらに,名目役員や退任後の役員については,保護の必要性が高いとする見解があったが,会社法の施行後の会社の機関構成によっては名目役員を保護すべきではない場合があることや,退任後の役員でも当該役員に権利義務承継が生じた場合には責任を負うべきであることについて述べた。
第3章では,主債務が拡大・縮小した場合の保証債務の取扱いが問題となった裁判例について,保証人の人的属性の観点から,その問題点を検討した。第一に,保証人が債務承認行為を行った場合に,主債務の消滅時効を援用することができるかは,保証人の地位や承認行為の態様等を総合的に考慮し,債権者の弁済に対する期待を裏切らない範囲で肯定すべきであると考える。第二に,主債務者が破産した場合の求償保証人の消滅時効援用権について,求償保証人は,信用保証協会に弁済した場合,破産した主債務者に対して求償することは事実上不可能であるから,特に第三者求償保証人については一定の保護を図るべきである。第三に,否認権の行使により主債務が復活した場合の保証債務の復活について,主債務の消滅から否認訴訟が確定し保証債務が復活するまでの期間いかんにより,第三者保証人の保護の必要性が高まる場合があると考えられる。否認権の行使期間は長期にわたるため,保証債務の消滅から時間が経過するほど,保証人の
付従性の制限による保証人の保護(福田)
保証債務の確定的消滅に対する期待を保護する必要性が生じる。第四に,契約が解除された場合の原状回復義務について保証人は責任を負うかについては,保証人が同業者である場合と,その業界とは関わりのない第三者の場合とでは,その保護の必要性は自ずと異なる。
第4章では,人的属性により保証人の責任を制限することの必要性につ いて検討した。保証契約は,約款によって行われるのが通常であり,保証 人の責任の範囲が明確でない場合が少なくない。この場合には,契約解釈 等の手段によって,保証人の責任の範囲を確定する作業が行われてきた。 しかし,これまでの判例および学説の関心事は包括根保証人の保護につい てであり,特定保証人の保護はあまり行われてこなかった。近時では,根 保証と特定保証を区別せず,保証人を人的属性によって分類し,責任の範 囲を確定すべきとの見解が見られるようになってきている。しかし,保証 人の人的属性が,具体的にどのように保証人の責任の範囲に影響を与える のかは,未だ明確ではない。そこで本稿では,合理的一般人の理解を基準 として意思解釈を行い,その一要素として,保証人の人的属性の観点から,保証人の保証意思を推定し,付従性によって保証債務が際限なく拡大する のを制限すべきであると考える。このように解することで,たとえ保証契
約約款に保証人にとって著しく不利な条項が置かれていたとしても,当該条項を変更または無効とし66),保証人の保護を図ることが可能になる。
このように,これまでの裁判例は,保証人がその人的属性により保証意思を異にするという特質について,無関心であったのである。今後は,本稿で述べてきたような保証契約の特殊性を踏まえ,活気的な裁判例が蓄積されていくことが望まれる。
1) 平野裕之『保証人保護の総合判例解説〔第2版〕』(信山社,2005年)6頁。
2) 2006年4月14日にはアイフル株式会社に対し,同年10月20日には GE コンシューマー・ファイナンス株式会社に対し,違法な取立てがあったことを理由とする業務停止命令が命じられた。また,商工ローン問題や中小企業経営者の自殺が社会問題化したことを受け,同年12月13日の第165回臨時国会では,いわゆるグレーゾーン金利の撤廃を盛り込んだ,改正貸金業規正法が成立している。改正の概要については,金融庁ウェブページ
立命館法政論集 第5号(2007年)
(〈http://http://www.fsa.go.jp/policy/kashikin/index.html〉〔visited Mar. 21. 2007〕)を参照されたい。
3) 西村信雄編『注釈民法(11)』(有斐閣,1965年)[椿寿夫執筆部分]202頁以下。
4) 椿寿夫「法人(による)保証論のための序説――個人(による)保証と対比させて」椿ほか編著『法人保証の研究』(有斐閣,2005年)10-24頁参照。
5) 於保不二雄『債権総論〔新版〕』(有斐閣,1972年)266頁。
6) 平野・前掲注(1)4-15頁参照。
7) 伊藤進「保証の法的効力について②――中小企業金融に伴う保証を中心に――」銀法 626号(2003年)18頁,「同③」銀法628号4頁,「同④」銀法631号50頁,「同⑤」銀法632号52頁,「同⑥」銀法633号(以上,2004年)72頁参照。
8) 伊藤・前掲注(7)「法的効力②」22頁。
9) 伊藤・前掲注(7)「法的効力③」34-37頁。
10) 伊藤・前掲注(7)「法的効力④」51-52頁。
11) 伊藤・前掲注(7)「法的効力⑤」54-55頁。
12) 椿教授や平野教授は,伊藤教授の分類に従えば,現役経営者個人保証人を想定し,退任後の役員や名目役員については考慮していない。
13) 独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると,中小企業経営者の社長就任の平均年齢は40歳,経営者の平均年収は1,067.4万円である(独立行政法人労働政策研究・研修機構ウェブページ〈http://www.jil.go.jp/press/990921.html〉〔visited Mar. 21. 2007〕)。
また,『中小企業白書〔2002 年版〕』(中小企業庁,〈http:// www. chusho. meti. go. jp/
pamflet/hakusyo/h14/html/14233110.html〉〔visited Mar. 21. 2007〕)によると,経営企業の破産年度の経営者年収は,平均で826万円である。
14) 権利義務役員は,任期満了または辞任後も,後任の役員が就任するまで当該役員の職務を行うことになるが(会社法346条1項),その退任日は,あくまで任期満了または辞任の日である。
15) なお,2006年4月1日より,一定の例外を除き,経営者保証人(法人の場合にあってはその代表者,個人事業主にあっては当該個人事業主)以外の第三者保証人を徴求しないという取扱いに変更されている(五十嵐久「信用保証協会における連帯保証の取扱いについて」銀法661号(2006年)52頁)。
16) 我妻栄『新訂債権総論』(岩波書店,1965年)487頁。
17) 淡路剛久ほか「保証法理の物上保証人等への適用可能性(2)」[椿久美子執筆部分]金法1264号(1990年)29頁。
18) 松久三四彦「消滅時効制度の根拠と中断の範囲(二完)」北法31 巻2号(1980 年) 830-831頁。
19) 半田吉信「判批」判時1333号(判評373号)(1990年)185頁。
20) 我妻・前掲注(16)482頁。また,時効完成の事実についての認識の有無を基準とし,主債務者が時効完成後債務を承認し,保証人もまたその保証債務を承認した場合に,① 主債務者,保証人の両者が時効完成の事実を知らなかったときは,両者とも時効を援用する権利を失わず,② 主債務者のみが時効完成の事実を知っていたときは,主債務者は時効
付従性の制限による保証人の保護(福田)
援用権を失うが,保証人は時効援用権を失わず,これに対し,③ 保証人が主債務の時効完成を知っていて,「主債務」の存在を承認した場合,および「保証債務」の存在を承認した場合には,保証人は主債務の時効を援用する権利を失うとする見解もある(西村信雄
「判批」判時41巻11号〔1969年〕146頁)。
21) 平井宜雄『債権総論〔第2版〕』(弘文堂,1994年)311頁。
22) 「保証人の承認は観念の表示であって意思表示の性質をもち,それにより債権者は安心して主債務者の放棄・承認の手続をとらないでいられることも考えられ,そうした意味での信頼」を重視することである(川井健「判批」判時115号〔判評131号〕〔1970年〕115頁)。
23) 川井・前掲注(22)116頁。
24) 判時557号237頁。
25) 高民46巻3号79頁,判タ832号215頁,金判942号9頁。
26) 金法1441号29頁。
27) 判タ969号221頁。
28) 野口恵三「判批」NBL 581号(1995年)67頁。
29) 債務消滅説に対しては,主債務のない保証債務を観念することは,付従性の原則に反しないのか,また,主債務者が法人である場合,破産手続後も法人格が存続すると解さざるを得ない場合(破産法215条1項後段に基づく追加配当がある場合や,残余財産が存続したままでの同時廃止,破産管財人が破産財団からこれを放棄した上で維持廃止となった場合等)があることに鑑みると,法人格の存否を残余財産の有無という偶然の事情によって判断することは,債権者の時効管理を困難にし,後日残余財産が発見されたときにはすでに時効期間を経過していたという事態も生じるという批判がある(片岡宏一郎「判批」判タ1016号〔2000年〕39頁)。また,主債務者の破産により物上保証人の地位が問題になる場合,被担保債権のない担保権が存在しうるのか,担保権実行時には被担保債権の明示が要求されるが,それをどう説明するのかなどの問題点を指摘する見解もある(田頭章一
「判批」法教276号〔2003年〕91頁)。
30) 伊藤眞『破産法〔第4版補訂版〕』(有斐閣,2006年)532頁。福永有利「求償債権の時効期間長期化の実務上の意義」銀法510号(1995年)24頁も同旨。
31) 債務存続説に対しては,次のような批判がある。主債務者に対する債権が時効消滅し,付従性によって保証人に対する権利も消滅する可能性があるので,債権者は,免責を受けた主債務者に対して時効中断措置をとっておかなければならないことになり(連帯保証の場合は,連帯保証人に請求すれば主債務者に対しても時効は中断する〔民法458条,434条〕ので,問題は少ない),無益なコストを生じさせることになる(山田誠一「判批」金法1716号〔2004年〕28頁)。また,主債務者が法人の場合,破産終結後の実体のない会社に法人格,権利能力を認めることは,実態を備えた設立中の会社につき権利能力が認められないことと比較して,バランスを欠き,会社法理論に混乱をきたすことになる(片岡・前掲注 29 39頁)。
32) 我妻・前掲注(16)485頁。
33) 酒井廣幸「主債務者会社の破産手続が終了した場合と物上保証人提供物件の上の根抵当
立命館法政論集 第5号(2007年)
権の消滅時効期間」金判1060号(1999年)99頁。
34) 片岡宏一郎「判批」金法1687号(2003年)5頁。さらに,主債務者が個人で破産免責を受けている場合や,主債務者が法人で破産のため解散・消滅した場合には,もはや求償されることのない主債務者の保護は考える必要はなく,法的に請求することができる主債務者が存在しなくなるから,保証人が主債務者に転化すると解する見解もある(吉岡伸一
「主債務者破産の場合における保証債務履行請求権の時効管理」銀法623号〔2003年〕15頁)。
35) 民集53巻8号1403頁,裁時1255号21頁,判時1695号66頁,判タ1017号108頁,金法1568号42頁,金判1079号10頁,金判1091号57頁。
36) 民集57巻3号286頁,裁時1336号4頁,判時1821号31頁,判タ1120号100頁,金法1680号 58頁,金判1170号20頁。
37) 岡村玄治「否認権の行使又は和解と第三者との関係」志林39巻3号(1937年)3-5頁。
38) 斉藤常三郎「判批」民商5巻3号(1937年)184頁。
39) 櫻井孝一「判批」民商72巻3号(1975年)537頁以下,上村明広「判批」『倒産判例百選』(有斐閣,1976年)95頁,高田昌弘「判批」『倒産判例百選〔第3版〕』(有斐閣,2002年)91頁。
40) 鈴木正裕「判批」判タ310号(1974年)86頁。
41) 伊藤・前掲注(30)426頁。
42) 判タ295号288頁,金法690号44頁。
43) 民集27巻10号1435頁,判時728号44頁,判タ303号142頁,金法708号33頁,金判418号19頁。
44) 鳩山秀夫「判批」法協36巻5号(1937年)122-123頁。
45) 勝本正晃『債権総論中巻之一』(巖松堂,1934年)373頁。
46) 我妻栄『債権各論上巻』(岩波書店,1954年)194頁。
47) 淡路剛久「判批」法協83巻2号(1966年)334-335頁。
48) 辻伸行「判批」『担保の判例Ⅱ』(有斐閣,1994年)204頁。
49) 石田穣「判批」『民法判例百選Ⅱ〔第2版〕』(有斐閣,1975年)67頁。
50) 栗山忍「判解」曹時17巻8号(1965年)198-200頁。
51) 西村信雄「判批」民商54巻2号(1966年)105頁。
52) 山崎賢一「判批」『民法の判例〔第3版〕』(有斐閣,1979年)130-131頁。
53) 北村実「判批」天理大学学報116号(1978年)112頁。
54) 民集19巻4号1143頁,裁時429号1頁,判時412号6頁,判タ178号216頁,金法414号8頁。
55) 金判365号15頁。
56) 判時535号75頁,判タ219号110頁。
57) 判時864号110頁,判タ362号285頁,金判538号39頁。
58) 民集26巻2号274頁,判時663号57頁,判タ276号141頁。
59) なお,保証人の属性について,事実関係からは必ずしも明らかでないものもあるが,この場合,第三者保証人としておく。
付従性の制限による保証人の保護(福田)
60) 例えば,民間(旧・四会)連合協定請負契約約款がある(中井美雄「判批」判時676号
〔判評164号〕〔1972年〕121頁)。
61) 平野・前掲注(1)213頁。
62) 平野・前掲注(1)214頁。
63) 最判昭和55年3月18日判時971号101頁。
64) 特例有限会社は,その商号中に「有限会社」という文字を用いなければならない(整備法3条1項)。
65) 本稿では扱わなかったが,学生下宿のための賃貸借において,その法定代理人が保証人となる場合等が典型例である。
66) 山本敬三『民法講義Ⅰ 総則〔第2版〕』(有斐閣,2005年)129-130頁。