第 17 回 IFRS 適用課題対応専門委員会
第 17 回 IFRS 適用課題対応専門委員会
資料番号 AP2
日付 2017 年 10 月 13 日
プロジェクト IFRS 適用課題対応
【審議事項】IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」
項目 不動産契約における収益認識
I. 本資料の目的
1. 本資料は、2017 年 9 月の IFRS 解釈指針委員会(以下「IFRS-IC」という。)会議において議論された、不動産契約における収益認識の方法に関する IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」(以下「IFRS 第 15 号という。)の取扱いについて、アジェンダ決定案の内容をご説明し、当委員会の対応(案)についてご意見をいただくことを目的として作成している。
II. 背景
2. IFRS-IC は、IFRS 第 15 号の適用にあたり、次の特徴を有する集合住宅(residential multi-unit complex)の 1 区画の販売契約に対する収益認識の方法についての質問を受けた。
(1) 企業と顧客は、企業が区画の建設を開始する前に当該区画の販売契約を締結する。
(2) 契約により、企業は、契約に明記されたとおりに完了した不動産ユニットを顧客に引き渡す義務を負う。契約で合意した区画を変更したり、合意した区画以外のものを引き渡したりすることは出来ない。企業は、建設が完了するまで当該不動産ユニット(及び区画に属する土地)の法的所有権を保持する。
(3) 顧客は、契約開始時における両者の合意による支払スケジュールに基づき、区画の建設中に、不動産ユニットの購入価格の約 20%から 30%の支払いを行う。残りの支払いは、建設完了後に行われる。
(4) 契約により、顧客は不動産ユニットに対する物権(in rem right:建設中の不 動産ユニットに対する権利を表すために用いられる法律用語)を得る。顧客は、 (6)に記載した状況を除き、契約を取り消したり、区画の構造設計を変更した りすることはできない。顧客は、不動産ユニットの建設中に、物権を再販売し たり、担保に供したりすることが出来る(ただし、企業が新たな買い手に対し て信用リスク調査を実施することを条件とする。)。
(5) 企業が当該契約に基づく義務に違反した場合には、顧客及び集合住宅の不動 産ユニットの他の顧客は、不動産ユニットの建設を完了させるために、共同で、企業に代わって、別の不動産開発業者を雇用する法的権利を有する。
(6) 現地の法律では、当該契約は取消不能であるが、裁判所が特定の状況において 当該契約の取消しを認めたケース(主に、顧客が経済的に契約条件を満たすこ とが出来なくなったことが証明された場合(例えば、失業したり、重病により 就労できなくなったりした場合など)がある。このような場合には、顧客は、 契約を取り消して、企業にすでに支払った額の約 80%から 90%を受領するx xを得、残りは企業が違約金として保持する。顧客が支払いを怠った場合には、企業は当該区画を競売に付すことを合意することができる。
III. 2017 年 9 月の IFRS-IC 会議における議論
IASB スタッフの分析及びアジェンダ決定案の内容
(本要望書の論点)
3. 本要望書の論点は、住宅用の不動産ユニットの販売について、収益を一定の期間にわたって認識すべきか、一時点で認識すべきかという点である。
(一定の期間にわたり充足される履行義務か否か)
4. IASB スタッフは、IFRS 第 15 号の一定の期間にわたって収益を認識するための要件を満たすか否かを分析している。なお、分析にあたっては、当該契約は契約の要件(IFRS 第 15 号第 9 項)を満たしており、また、当該契約の履行義務は1つであると仮定している1。
5. IASB スタッフは、要望書で紹介された事例について、次のとおり IFRS 第 15 号第 35 項の各要件を満たすか否かを検討し、本事例については、IFRS 第 15 号第 35 項のいずれの要件も満たさないため、一時点で充足される履行義務であると結論付 けている。
顧客が、企業の履行によって提供される便益を、企業が履行するにつれて同時に受 け取って消費するものであるか否か(IFRS 第 15 号第 35 項(a)の要件)
1 スタッフ・ペーパーの分析上は、そのように仮定されていたが、アジェンダ決定案では、
「履行義務の識別」として、「契約の中の約束の契約の中の約束の性質は、完成した不動産ユニットを顧客に引き渡すことである。不動産ユニットに付帯する土地は、IFRS 第 15 号の第 22 項から第 30 項を適用する場合に別個のものではない。したがって、委員会は、契約の中に
1 つの履行義務があると考えた。」旨が追記されている。
(1) 企業の履行は資産(部分的に建設された不動産ユニット)を創出するものであるため、IFRS 第 15 号第 35 項(a)の要件を満たしていない2。
企業の履行が、資産を創出するか又は増価させ、顧客が当該資産の創出又は増価に つれてそれを支配するか否か(IFRS 第 15 号第 35 項(b)の要件)
(2) 本要件を満たすためには、企業の履行により創出されるか増価される資産を顧客が支配していることが求められる。IFRS 第 15 号の BC129 項は、審議会が第 35 項(b)の要件を含めたのは、「企業の履行が資産を創出するか又は増価させ、顧客が当該資産をその創出又は増価につれて明確に支配する状況に対処するため」である。したがって、第 35 項(b)を適用する際に、企業が、創出又は増価されつつある資産(例えば、部分的に建設された不動産ユニット)を顧客がその創出又は増価につれて明確に支配するという証拠があるかどうかを評価する。
⮚ 顧客は建設中の不動産ユニットに対する契約上の権利を再販売又は担保差入れすることができるが、不動産ユニット自体については、法的な所有権を保有していないと売却することはできない。
⮚ 顧客は不動産ユニットの建設時に当該ユニットの建設や構造設計を指図する権利を有しておらず、部分的に完成した不動産ユニットを何か他の方法で使用することもできない。
⮚ 企業が約束した履行を行えない場合に限り顧客が(他の顧客と共同して)企業を交代させる法的権利は、防御的な性質のものであり、それ単独で支配を示すものではない。
⮚ 不動産ユニットの市場価値の変動に対する顧客のエクスポージャーは、顧客が不動産ユニットからの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力を示すものかもしれない。しかし、それは当該ユニットの建設中に当該ユニットの使用を指図する能力を顧客に与えるものではない。
(3) 以上の分析などを判断した結果、本事例については、IFRS 第 15 号第 35 項(b)の要件を満たしていないと判断する。
企業の履行が、企業が他に転用できる資産(IFRS 第 15 号第 36 項参照)を創出せず、 かつ、企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有し
2 IFRS 第 15 号第 35 項(a)の要件には、日常的又は反復的なサービス(清掃サービス)などの典型的なサービス契約であり、企業の履行にしたがって顧客が便益を受け取って同時に消費することが容易に識別できるものが対象となることが想定されている(IFRS 第 15 号 B3 項)。企業の履行を顧客が直ちに消費しない契約(仕掛品などが生じる契約)には、本要件の適用は意図されていない(IFRS 第 15 号 BC128 項)。
ているか否か(IFRS 第 15 号第 35 項(c)の要件)
(4) 要望書の事例では、企業が不動産ユニットを変更したり、代わりのものを提供したりすることはできないため、企業は契約上、区画を容易に他の用途に振り向けることができない。
(5) ただし、企業は、完了した履行に対する支払いを受ける強制可能な権利を有していない。本事例では、企業の不履行以外の理由により、裁判所が解約を認めたという先例がある。その場合に、企業は違約金部分のみを保持することが認められている3。
(基準設定アジェンダに含めるべきか)
6. IASB スタッフは、IFRS 第 15 号の公表後に入手した情報を踏まえると、建設中の不動産ユニットの販売契約は、多くの国・地域において一般的であると考えている。また、収益を一時点で認識するか、一定の期間にわたって認識するかは、企業の報告金額に重要な影響を及ぼすものであると考えている。
7. ただし、IASB スタッフは、IFRS 第 15 号の原則及び定めは、要望書に記載された
事例について収益の認識時点を判断するための十分な基礎を提供していることから、本論点を基準設定アジェンダに追加しないことを提案している。
IASB スタッフの提案によるアジェンダ決定案
8. IASB スタッフは、前述の IASB スタッフの詳細な分析を含むアジェンダ決定案を提案している(仮訳は、別紙 1 を参照)。
IV. 2017 年 9 月の IFRS-IC 会議の議論の概要
9. 2017 年 9 月の IFRS-IC 会議では、IASB スタッフの分析及び基準設定アジェンダとしないという提案が支持された。
10. ブラジルの証券取引委員会からのレターについては、追加の情報は含まれておらず、IASB スタッフの分析に影響はないとする意見が聞かれた。
11. また、スタッフの提案に対し、次の意見が聞かれた。
(1) IFRS 第 15 号第 35 項(b)の評価にあたって、顧客が資産の支配を有しているか
3 IFRS 第 15 号 B12 項では、企業が完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を評価する際に、契約条件や、契約条件を補足するか覆す可能性のある法令又は判例を考慮するとされている。
否かを評価する際に、法的所有権の移転は強力な証拠となりうるが、それのみが決定的な要素となるものではない。すべての関連する事実及び状況を考慮すべきである。
(2) 本論点は、特定の事例を扱っているものであり、契約条件や法制度、その他の事実及び状況が少し変わるだけで帰結が異なる可能性があることをアジェンダ決定において明確にすべきである。
V. 今後の予定
12. アジェンダ決定案については、2017 年 11 月 20 日までコメントを募集している。 IFRS-IC は、今後の会議において、当該アジェンダ決定案を最終化するかどうかについて再検討する予定である。
以 上
別紙 1 2017 年 9 月の IFRS-IC 会議において提案されたアジェンダ決定案
IFRS 第 15 号「顧客との契約から⽣じる収益」 ― 不動産契約における収益認識(アジェンダ・ペーパー2)
委員会は、集合住宅の⼀単位(不動産ユニット)の販売に係る契約における収益認識に関する要望を受けた。不動産開発業者(企業)と顧客は、企業が不動産ユニットを建設する前にその販売契約を締結する。具体的には、要望書は、IFRS第15号の第35項(企業が収益を⼀定期間にわたり認識する場合について定めている)の適⽤に関して質問していた。
この要望を検討するにあたり、委員会はまずIFRS第15号における要求事項を検討し、それから要望書に記載されていた事実関係への当該要求事項の適⽤について議論した。
契約の中の履⾏義務の識別
IFRS第15号の第35項を適⽤する前に、企業は、別個のものである財⼜はサービスを顧客に移転する約束のそれぞれを履⾏義務として識別する際に、第22項から第30項を適⽤する。
IFRS第15号の第35項の適⽤
IFRS第15号の第35項は、第35項の3つの要件のいずれかが満たされる場合には、企業は財⼜はサービスに対する⽀配を⼀定期間にわたり移転し、したがって、履⾏義務を充⾜し、収益を⼀定期間にわたり認識すると定めている。IFRS第15号の第32項は、企業は履⾏義務を⼀定期間にわたり充⾜するのではない場合には、履⾏義務を⼀時点で充⾜すると述べている。したがって、委員会は、契約開始時に、企業が収益を⼀定期間にわたり認識するかどうかを決定するために第35項の3つの要件のそれぞれを評価することに着⽬した。
第35項(a)を適⽤すると、顧客が、企業の履⾏によって提供される便益を企業が履⾏するにつれて同時に受け取って消費する場合には、企業は収益を⼀定期間にわたり認識する。企業が建設する不動産ユニットの販売契約では、第35項(a)は適⽤されないと委員会は考えた。企業の履⾏が、直ちに消費されない資産(すなわち、不動産ユニット)を創出するからである。
第35項(b)を適⽤すると、企業の履⾏が資産を創出するか⼜は増価させ、顧客が当該資産をその創出⼜は増価につれて⽀配する場合には、企業は収益を⼀定期間にわたり認識する。⽀配とは、当該資産の使
⽤を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能⼒を指す。
IFRS第15号のBC129項は、審議会が第35項(b)の要件を含めたのは、「企業の履⾏が資産を創出するか
⼜は増価させ、顧客が当該資産をその創出⼜は増価につれて明確に⽀配する状況に対処するため」であったと説明している。したがって、委員会は、第35項(b)を適⽤する際に、企業が、創出⼜は増価されつつある資産(例えば、部分的に建設された不動産ユニット)を顧客がその創出⼜は増価につれて明確に
⽀配するという証拠があるかどうかを評価することに着⽬した。企業は、この評価を⾏うにあたり、すべての関連性のある要因を考慮する。すなわち、どの単⼀の要因も決定的ではない。
第35項(b)を適⽤する際には、⽀配に関する要求事項を、企業の履⾏が創出するか⼜は増価させる資産に適⽤することが重要である。企業が建設する不動産ユニットの販売契約では、創出される資産は不動
産ユニット⾃体である。例えば、将来において不動産ユニットを獲得する権利ではない。この権利を売却⼜は担保差⼊れする権利は、不動産ユニット⾃体に対する⽀配の証拠ではない。
IFRS第15号のBC131項は、審議会が第35項(c)において第3の要件を開発したのは、創出⼜は増価される資産を顧客が⽀配しているのかどうかが不明確な場合があると考えたためであると説明している。
第35項(c)を適⽤すると、(a) 企業の履⾏によって創出される資産を企業が他に転⽤できず、かつ、(b)企業が現在までに完了した履⾏に対する⽀払を受ける強制可能な権利を有している場合には、企業は収益を⼀定期間にわたり認識する。
IFRS第15号の第36項は、創出される資産は、企業が当該資産の創出の間に当該資産を別の⽤途に容易に振り向けることが契約で制限されているか、⼜は完成した状態の当該資産を別の⽤途に容易に振り向けることが実質的に制限されている場合には、企業が他に転⽤できないと定めている。
IFRS第15号の第37項は、⽀払を受ける強制可能な権利を有するためには、契約の存続期間中のすべての時点において、企業が約束した履⾏を果たさなかったこと以外の理由で契約が顧客により解約される場合に、企業は、少なくとも現在までに完了した履⾏について企業に補償する⾦額に対する権利を得ていなければならない。⽀払を受ける強制可能な権利を企業が有しているかどうかを評価する際に、企業は、契約条件を、当該契約条件を補⾜するか⼜は当該契約条件に優先する可能性のある法令⼜は判例とともに考慮する。
委員会は、第35項(c)に記述された強制可能な権利の評価は、権利の存在及びその強制可能性に焦点を当てていることに着⽬した。企業が当該権利を⾏使する確率は、この評価には関連性がない。同様に、顧客が契約を解約する権利を有している場合に、顧客が契約を解約する確率は、この評価には関連性がない。
委員会は、IFRS第15号の原則及び要求事項が、不動産ユニットの販売契約について収益を⼀定期間にわたり認識すべきか⼀時点で認識すべきかを企業が決定するための適切な基礎を提供していると結論を下した。したがって、委員会はこの事項を基準設定アジェンダに追加しないことを[決定した]。
要望書の事実関係への要求事項の適⽤の例⽰
収益が⼀定期間にわたり認識されるのかどうかの評価には、企業が、契約で創出される権利及び義務を当該契約が強制される法的環境を考慮に⼊れて検討することが必要となる。したがって、委員会は、企業の評価の結果は当該契約に関連する具体的な事実及び状況に依存することに着⽬した。
要望書に記載された事実関係において、不動産ユニットに係る契約には下記の特徴がある。
a. 不動産開発業者(企業)と顧客が、集合住宅の不動産ユニットについて、企業が当該ユニットを建設する前に販売契約を締結する。
b. 契約に基づく企業の義務は、契約に定められた完成した不動産ユニットを引き渡すことであり、契約で合意されたユニットの変更や⼊替えはできない。企業は、建設が完了するまで、不動産ユニット(及びそれに付帯する⼟地)に対する法的権利を保持する。
c. 顧客が、ユニットが建設されるにつれて、不動産ユニットの購⼊価格の⼀部を⽀払、購⼊価格の残り(⼤半)を建設が完了した後に企業に⽀払う。
d. 契約で、建設中の不動産ユニットに対する権利が顧客に与えられる。顧客は、下記 b.に⽰す場合を除き、契約を解約することはできず、ユニットの構造設計を変更することもできない。顧客 は、ユニットの建設中に不動産ユニットに対する権利を再販売⼜は担保差⼊れすることができるが、企業が当該権利の新しい買⼿の信⽤リスク分析を⾏う(顧客がすでに当該ユニットの購⼊価格の全額を⽀払っている場合には、信⽤チェックは必要とされない)。
要望書は、企業及び顧客の下記の法的権利についても述べている。
a. 企業が契約上の義務に違反した場合には、顧客及び集合住宅の不動産ユニットの購⼊に同意した他の債権者は共同で、企業を解任して、集合住宅の建設を完了させるために別の不動産開発業者を雇うことを決定する権利を有する。
b. 契約は国内法に基づいて取消不能であるが、裁判所が特定の状況において契約を解約する要請を受け⼊れたことがある。主として、顧客が契約条件を履⾏する財務的な能⼒がない場合(例え ば、顧客が失業した場合や、顧客の就業能⼒に影響を与える重⼤な疾患がある場合)である。この状況では、顧客は契約を解約することができ、企業に対してすでに⾏った⽀払の⼤半(ただし全額ではない)を受け取る権利を得る。残りは企業が解約ペナルティーとして留保する。企業 は、顧客が⽀払について契約不履⾏となった場合に、当該不動産ユニットを競売にかけることにも同意する場合がある。
履⾏義務の識別
契約の中の約束の性質は、完成した不動産ユニットを顧客に引き渡すことである。不動産ユニットに付帯する⼟地は、IFRS第15号の第22項から第30項を適⽤する場合に別個のものではない。したがって、委員会は、契約の中に1つの履⾏義務があると考えた。
第35項(a)
顧客は、企業による不動産ユニットの建設によって提供される便益を、当該ユニットの建設につれて同時に受け取って消費するわけではない。これは、企業の履⾏が、直ちには消費されない資産(部分的に完成した不動産ユニット)を創出するからである。したがって、委員会は、IFRS第15号の第35項(a)の要件は満たされていないと考えた。
第35項(b)
企業の履⾏は、建設中の不動産ユニットを創出する。したがって、企業は、当該ユニットの建設時 に、顧客が部分的に完成した不動産ユニットの使⽤を指図し、当該ユニットからの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能⼒を有しているかどうかを評価する。委員会は、下記のことに着⽬した。
a. 顧客は建設中の不動産ユニットに対する契約上の権利を再販売⼜は担保差⼊れすることができるが、不動産ユニット⾃体については、法的な所有権を保有していないと売却することはできな い。
b. 顧客は不動産ユニットの建設時に当該ユニットの建設や構造設計を指図する権利を有しておらず、部分的に完成した不動産ユニットを何か他の⽅法で使⽤することもできない。
c. 企業が約束した履⾏を⾏えない場合に限り顧客が(他の顧客と共同して)企業を交代させる法的権利は、防御的な性質のものであり、⽀配を⽰すものではない。
d. 不動産ユニットの市場価値の変動に対する顧客のエクスポージャーは、顧客が不動産ユニットからの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能⼒を⽰すものかもしれない。しかし、それは当該ユニットの建設中に当該ユニットの使⽤を指図する能⼒を顧客に与えるものではない。
委員会は、要望書に記載された事実関係に基づいて、顧客は不動産ユニットの建設中にその使⽤を指図する能⼒を有しておらず、したがって、顧客は部分的に完成したユニットを⽀配していないと考え た。
第35項(c)
企業は、顧客との契約で特定された不動産の変更や⼊替えをすることはできず、したがって、顧客は企業が当該資産を他の⽤途に振り向けようとした場合には、当該ユニットに対する権利を強制することができる。したがって、委員会は、契約上の制限は実質的であり、不動産ユニットは企業が他に転⽤できないと考えた。
しかし、企業は、現在までに完了した履⾏について⽀払を受ける強制可能な権利を有していない。これは、顧客が契約を解約する法的権利を有しており、その場合には、企業は解約ペナルティーを受け取る権利しかなく、これは現在までに完了した履⾏について企業に補償するものではないからである。
要望書に記載された事実関係に基づいて、委員会は、IFRS第15号の第35項の要件はどれも満たされないと考えた。したがって、企業はIFRS第15号の第38項を適⽤して収益を⼀時点で認識することになる。
別紙 2 スタッフ・ペーパーに寄せられた意見
1. スタッフ・ペーパー公表後に、ブラジルの証券取引所のxx会計官(Office of Chief Accountant of Securities and Exchange Commission of Brazil)から、スタッフ・ペーパーに対する意見が表明されている。本レターは、取引の実態、制度の観点から、スタッフ・ペーパーでは、主に次の点について分析が適切ではないと主張している。
(1) 企業が法的所有権を保持しているのは、顧客の不履行に対する防御のためと、顧客への財務上の便宜のため(登記に係る費用を即時に発生させないため)である(したがって、法的所有権が移転していないからといって、顧客が不動産ユニットを支配していないというわけではない。)。
(2) ブラジルでは、契約締結時に所有権(ownership)の移転が生じていることを再確認している(建設中の不動産を取得するという完了した契約であり、将来不動産を取得するという先渡契約ではない。)。
(3) 要望書のケースでは、通常、企業の履行から生じる仕掛品を支配している。ブラジルでは、契約に署名した時点で想定される土地部分(ideal fraction)は即時に買手に割り当てられるため、企業は顧客の土地の上に建設を行っている。したがって、当該取引は、IFRS 第 15 号第 35 項(b)の要件を満たしている。
(4) スタッフ・ペーパーの分析では、買手が法的所有権を有していないため、不動産ユニットの建設又は構造設計を指図する能力を有していないという分析を行っている。顧客は、不動産取得時、すなわち覚書(descriptive memorandum)を了承した時点で、不動産ユニットの建設又は構造設計を指図する能力を行使している。
別紙 3 関連する基準等
(IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」)履行義務の充足
32 第22項から第30項に従って識別された履行義務のそれぞれについて、企業は、契約開始時に、企業が履行義務を一定の期間にわたり(第35項から第37項に従って)充足するのか、それとも一時点で(第38項に従って)充足するのかを決定しなければならない。企業が履行義務を一定の期間にわたり充足するものではない場合には、当該履行義務は一時点で充足される。
一定の期間にわたり充足される履行義務
35 次の要件のいずれかに該当する場合には、企業は財又はサービスに対する支配を一定の期間にわたり移転するので、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する。
(a) 顧客が、企業の履行によって提供される便益を、企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する(B3項から B4項参照)。
(b) 企業の履行が、資産(例えば、仕掛品)を創出するか又は増価させ、顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配する(B5項参照)。
(c) 企業の履行が、企業が他に転用できる資産(第36項参照)を創出せず、かつ、企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している(第 37項参照)。