しかし通常は、元請・下請間は発注書や請書という形態が慣行であり、全ての事項を網羅的に毎回 A4用紙2枚、3枚にわたるような大部な約款付きの発注書や請書は煩雑に なるので、あらかじめ基本契約で定められるものは基本契約で定め、個別の事情は発注書や請書に委ねるといった運用方法が合理的であると考えることができます。
名匠家協力業者統一約款 逐条解説
はじめに・協力業者基本契約の意義
建設業法では工務店と協力工事業者(元請・下請)間であったとしても、請負契約の当事者は建設業法で定められた事項について契約書を交わすことを建設業法 19 条で求めています。この建設業法の要請に基づいて書面として作成されたのが、本契約書及び約款です。
しかし通常は、元請・下請間は発注書や請書という形態が慣行であり、全ての事項を網羅的に毎回 A4用紙2枚、3枚にわたるようなxxな約款付きの発注書や請書は煩雑になるので、あらかじめ基本契約で定められるものは基本契約で定め、個別の事情は発注書や請書に委ねるといった運用方法が合理的であると考えることができます。
ここにこの基本契約書の存在意義があります。
また、建設業法では契約を締結することを求めていますから、工務店と協力工事業者双方が記名捺印することが大切です。
基本契約書の「作業員名簿を添付のこと」の重要性
「作業員名簿」は必ず添付していただくことが大切です。反社会的勢力や現場で労災事故が起きた場合、法律問題に発展するようなケースもありえます。現実にどういう職人さんたちが入るのかという情報は、いざ事故などが起きた時に「あの人は誰なんでしょうか」では労働安全衛生法等違反を問われるケースもありますから、名簿の事前提出を求めておくことは双方にとって大切なことなのです。
逐条解説と条項に関連する事例等考察
●第1条 総則
「本約款は、現場施工時における安全管理、品質管理(顧客対応、近隣対応等については別途「現場マナーマニュアル」参照)を定めたものであり、協力業者は、発注者から工事の発注を受けた場合、本「名匠家 協力業者統一約款」(以下「約款」という)を前提に発注業務を履行するものとする。
本約款を発注者、協力業者双方が取り交わしていない場合は、工事を発注することを発注者は行わない。また本約款は協力業者の工事参入資格を規定したものであり、本約款の取り交わしによって、発注者は協力業者に対して継続的な購買および工事発注を保証するものではない。
協力業者は、本約款を遵守するとともに、工事毎の発注書(工事仕様書、設計図書、施工指示書、見積書等が添付された書類、その内容を変更した場合を含む)による請負業務を履行する。」
<解説>
請負契約と売買契約
この統一約款は請負契約と売買契約の2つの側面が入っていると解釈できます。一般的な下請基本契約約款では完全に請負契約のみとなっています。
しかし、住宅業界の元請関係・協力業者関係間の契約において、明確にそれを分けることは難しく、請負契約なのか売買契約なのかはっきりしない場合が多々あります。
例えば建材の売買契約と言われるものの中に「材工取引き」があり、例えば断熱材の吹付け工事を材工で行う建材業者(売主)の方が「断熱材を売っているんだ」ということで売買契約で処理しようとしても、実際は材料販売の売買契約と吹付け工事をするという工事請負契約がミックスになっている契約もあります。
置き床工事などもそれに該当します。建材業者は床材の売買契約をしているつもりでも、施工しているわけです。キッチンも現場に搬入するだけではなくて、吊り棚を吊っていけよということを依頼するのであれば、ビスで揉むということは工事になります。
このようなかたちで実は工事も行われています。
工事もやっている業者であるにも関わらず、建設業の許可を持っていない、という論点が出てきてしまう話になります。
何故家電量販店はxxxパネルだけを売るのか
例えば建材商社などは材工の「工」の部分は実は「工」ではない。プラモデルを組み立てているように組み立てをしているだけ、設置をしているだけ、モノを置いているだけだというかたちで「工」ではないというロジックを展開します。
なぜなら、建設業法というのは人員配置業。必ず経営管理責任者がいて、技術の管理技術士がいてというかたちで人を配置していかなければいけないので、全国ネットの商社ではとても人の配置はできないですから建設業の許可は取りません。
ちなみに人の配置ができない代表例が家電量販店です。家電量販店はどうして建設業許可を取らないのかというと、あれだけの店舗に一斉に許可を取って人を配置するだけの人員を確保することができないから、500 万円未満のxxxとかの仕事をやって建設業の許可を取らなくてもいいようにしている。ここのところが家電量販店の業界的なウィークポイントとしてあります。
確認事項
個々の契約を下請関連業者とするにあたっては、売買として処理をするのか、請負として処理をするのか。このところはしっかりと確認を行うことが大切です。
さらに、建材業者(ユニットバスを運んでいる人など)が配送途中にけがをするというケースがあります。保険はおそらくないので、現場で事故が発生した場合には現場元請の負担というものが出てくる可能性もあるので、流通業者との場合は個別に上記のようなことを確認しておく必要があります。
●第2条 契約期間
「本約款の有効期間は、本約款への押印日(名匠家合同安全大会を基準日とする)より1年間とし、発注者、協力業者いずれかが解除を申し出た場合は書面にて約款への約定解除書を提出し、これを解除することができる。」
<解説>
工事業者の解除とは
この条項は、協力業者との取引きをするにあたっての基本約款という位置づけです。工務店は「以後はお付き合いをやめることができますよ」という解除の条項です。
では、個々の現場で進行中に「もう止めて」というのはどういうかたちで成立するのでしょうか。請負契約である場合、元請業者(工務店)は「注文者」の立場になり、下請業者(協力工事業者)が「請負人」の立場ということになります。
SAREXの請負契約約款の「解除の規定」を思い出して下さい。「注文者は、請負人に解除によって発生した損害を賠償した上で解除することができる」(民法 641 条 自由解除権)となっています。
これと同様に請負者である協力業者は発注者としての解除権を持ちません。
請負契約は仕事の目的物を完成することに対して代金を支払うことを約束する契約ですから、元請け工務店(発注者)による不払い等の債務不履行があった場合にしか解除することができないのです。
これの意味するところは、請負契約xx請は下請に対して「金なんか払ってやるから、態度悪いからこの現場から出てくれ」ということを理屈上は言える立場にあります。
しかし、下請が元請に対して「頭きた、もうおまえのところの現場なんか二度と入ってやるもんか。工事途中のものも止めてやる」という権利は、理屈上はない、ということになってしまいます。
「優越的地位の濫用」
しかし、これでは圧倒的に元請有利になります。このため下請を保護するために建設業法、独占禁止法、下請法、消費税増税にあたっては消費税の転嫁対策特別措置法というような下請を保護するようなかたちの法律で、下請業者を守っています。
ここで一番ポピュラーなのが独占禁止法という法律で、「優越的地位の濫用」という言葉があります。
元請が「この下請と取引きしたくない」と思ったので、民法 641 条に基づいて「いつでも注文者の立場にあるんだから契約を解除することができるんだ」と言って、切ることは民法上は権利としてできるかもしれませんが、それは独占禁止法上の優越的地位の濫用行為にあたるのでやってはダメだと。下請をおびやかすような行為に繋がってくるからやってはダメだと。
このようなかたちで、別の法律上の規制を受けるかたちになってきます。
約款の「解除」条項に関しては、「いずれかが解除を申し出た段階で約款約定解除書を提出し、これを解除することができる」となっていて、解除の意味合いとしてはこの2パターンがありますが、濫用的に使うことは独占禁止法上できないことを知っておいて下さい。
●第3条 名匠家年会費と各社個別協力会費
「発注者は、「名匠家」としてあらかじめ定める年会費を徴収するものとする。なお、こ
の年会費は主に合同安全大会費用に充当するものとする。
2.取引発注者との「協力会会費」は発注者および請負者の何れにもその責に帰すことができない瑕疵担保責任を共済的に負担するために徴収するものとする。」
<解説>
個別工務店の協力会会費について
理屈上、取り引きするにあたって元請が下請から一定のパーセンテージのお金を強制徴収するといった形になってきますと、独占禁止法に触れるのではないか、という議論が出てきます。
基本的には、下請が払うお金が元請の所得になるような形にしないようにすることです。あくまでも協力会費は協力会費として別会計にする。
例えば、請求額の 0.5%や1%が元請の雑所得のようなかたちで入ってくる、または値引き手段として使われる形と評価されるものであると、強制徴収的な意味を持ちます。
つまり元請としての優越的地位を濫用しているように見られてしまう可能性があるのです。
従って、あくまでも共済的なお金であるという形を主張していくためには、このお金は一緒にしない。必ず別会計で管理をするのがxxと言えます。
OB施主感謝祭が独禁法違反に
例えば家電量販店が新規開店にあたって下請業者に陳列の手伝いをさせる、タダ働きを強制的にさせているような行為を「優越的地位の濫用行為」と言いますが、工務店レベルでもそういう案件が出てきます。
家電量販店(元請)が納品業者に陳列をさせるということ、タダ働きをさせるということは、家電量販店はここで販売して利益を出しますので、自分の利益のために人をタダ働きさせている、と分かりやすい独禁法違反の例です。
ところが元請工務店がOBのお客様をもてなすお祭りをやることは、即住宅の契約、リフォームの契約が取れるわけではないので、利益と直結はしていません。このことをもう少し延長していくと、例えば下請業者たちと地域の清掃をしよう、貢献しましょうと発案されたとします。地域の清掃は利益に直結するような行動ではありません。
しかし、実際OB感謝祭に関して、感謝祭で下請業者に協力要請をほぼ義務的にやることは独禁法違反であるという堅い見解をxx取引委員会は持っています。
では地域の清掃や公益的な活動を下請業者とやったとします。朝早く起きて協力業者ともども掃除をした、ということは優越的地位の濫用に当たるのでしょうか?
「元請事業者の利益のために行動しているわけではない」と言っても、公取委の人は「それだって下請を半ば強制的に使うということになれば独禁法違反の疑いがある」と。
「陳列を強制的に付き合わせてやる方が悪質なのか、感謝祭の方が悪質なのか」と聞いたところ、「感謝祭の方が悪質だ」っという見解でした。
なぜでしょうか。
前者は「陳列をせっせと手伝わされている下請業者のものも、自社品が売れるから、お手伝いしがいがあって、多少の利益が出るという側面もあるじゃないか」。それに対して、
「感謝祭は下請業者の利益に直結しない、目に見えないところで強制させられているというところでよっぽど悪質だ」ということを指摘された案件もあります。
言い訳できない事案
要点は、元請のイベントに下請に対して協力を要請するFAXを送ったり、イベント会場における役割分担表みたいなものを作っている、ということが優越的地位の濫用と見られる場合がある、ということです。
従って、業務の発注行為としてやる分には問題はありません。つまり、いわゆる業務報酬という形でイベントをやるにあたっての業務委託ができていればクリアできると言えます。
工務店にとっては奇妙な話に聞こえるでしょうが、独禁法の考え方では、例えば各メーカーの担当者に協力させるとするならば、メーカーのブースを設けてやったりすると、公取委の見解はこのブースに人を立たせて、自分のところのためにやっていると評価できるものについては優越的地位の濫用ではないという見解になっています。
但し、全てのOB感謝祭の事案で独禁法違反とされているわけではありません。
また、公取委は通常、工務店の地位坂イベントに対して摘発するということは殆どありません。余程悪質、という告発でもない限り。ですが、私のところには公取対応の法律相談も寄せられていますので少し頭に入れておいて下さい。
協力者の利益を明快にしておく
「お祭りやるから景品をよこせ」というケースもあります。もし景品を提供してもらう時には必ずその会社の名前の入ったもの。つまり、イベント参加会社自身の利益のためにそこに参加するのは問題はないわけです。
例えば「お祭りに設備メーカーのブースを設けていいよ」、「自社のロゴ入りジャンパーを着てもいい」というかたちでやると、自分のところの営業のためにやっているという評価になりえます。
●第4条 契約更新
「本約款の定める期間は1年間であることから、1年毎に発注者と協力業者の話し合いにより、発注者もしくは協力業者からの約款への約定解除の申し出がない場合、毎年安全大会時に更新する。なお、協力業者が本約款の約定を解除した場合、解除の後も協力業者は第10条による瑕疵担保の責務を負う。」
<解説>
長期優良リフォーム推進に伴うトラブルへの危惧
例えば国交省が今年から「長期優良住宅化リフォーム推進事業」というのをやります。今年は補助金事業でやって、来年からリフォームの長期優良住宅版をやることを目的として、いよいよリフォーム時代到来かと言われています。しかし、少し引いて見ると「長期優良住宅化リフォーム時代」が到来すると、新たなトラブルも増加すると予想しています。
なぜならば、長期優良住宅化リフォームは性能向上で耐震と省エネ改修ですから、壁を開けて耐震金物を設置したり、断熱気密工事をやったり、そういうことをやっていきましょうということなので、今までリフォームと言えばキッチンリフォームぐらいであまり家の中を様々(壁とか)こじ開けなかったのを、既存の壁を剥がす。築年数の浅い建物で大々的なリフォームなんていうのはそんなにないでしょうから、剥がす対象の壁というのはきっと築年数の経過した建物になってくるでしょう。
例えば、築 18 年の建物を長期優良住宅化リフォームということで耐震改修することになりました。お客さんにも「補助金もらえるからよくないですか」ということで提案していきました。外壁を開けたら耐力壁のところの釘がめり込んでいました。よくよく見てみたら、建築基準法上はN50 釘を使わなくてはいけないところを、現場を施工した大工は梱包用の細い釘を使って釘打ちしていたようです。また釘のピッチもランダムでした。
こうした施工が発見される可能性が、今までと比べると一気に高まると見ることができます。かつN50 釘問題というのは、裁判の世界の中では粗探しで多く衝かれるポイントで、トラブルの増加が心配されます。
20 年間の不法行為責任
例えば大型リフォーム物件を手掛け、実際に壁を剥がしてみたところ釘がめり込んでいました。「あ、嫌なもの見ちゃった」とそのまま閉じたら、当該リフォーム業者にてこの瑕疵担保責任を引き受けたと同然になります。専門家責任が法的には付くことになります。
そうなると他社施工物件の客から依頼を受けて、リフォーム契約を交わし、工事にとりかかった場合、その最中に過去物件の瑕疵を見つけたならば、それを客に告知せざるを得ません。
「実は釘がめり込んでしまっています。このままほっておくわけにいかないので、当社で増し打ちしましょうか。そうするとプラスいくらの費用が掛かります」といった話をすることになるわけです。
この瑕疵の告知を受けると、住まい手は新築時の工務店に対して、20 年間の期間内であれば不法行為責任が問うことになるでしょう。
判例の今の流れから見ますと、建物の基本構造部分に関して建築基準法令に違反する施工がなされた場合には、不法行為責任を負うということになります。
本契約約款は 10 年の瑕疵担保(品確法及び瑕疵担保履行法)期間で終わってますが、住まい手は、不法行為に該当する瑕疵については、20 年間の責任追求が可能です。
不法行為の事故は損害及び加害者を知ってから3年、または不法行為時から 20 年のいずれか早く到来した時が時効ですけれども、釘がめり込んでいる問題などは住まい手は普通では気が付かないので、もし、他の工務店にリフォームを依頼し発見された瑕疵の場合、時効は 20 年となるケースが多いでしょう。
施主がその気になると、新築を手掛けた工務店は築 18 年でも損害賠償請求を受けるターゲットになります。
逆に言えば、工務店も協力業者も、施工物件がどんなリフォーム業者や工務店に開けられるか分からない。どの立場にもなり得るという関係性にあります。
訴えられるリスク
まずは訴えられるリスクがある方(もともとの新築をした工務店)の立場になってみます。いざそのクレーム(例えば釘がめり込んでいる、ピッチが空きすぎている)が降ってきたならば、これは上記時効期間内であればお手上げです。損害賠償をし、その上で「その費用でリフォームされている工務店さんでお直し下さい」ということになりますよ。争いだせば別ですけれども、実際、開けて見られて、そういう状況であるということであれば、法律論としては補修費用の賠償ということになってきます。
では、このような事実を突きつけられた時に工務店はどうするのか。「あの大工だ」と。
「釘を自分で買って釘打ちしてとは言ったけれども梱包用の釘を使えだなんて指示した覚えはない。安全性に劣る施工をしたこの大工にお金を負担してもらおう」という求償の話となると益々トラブルの輪が大きくなります。
ドミノ倒し的クレーム対応
そうしたリスクは、リフォームと共に発覚する確率が高くなるでしょう。築年数が古い方が圧倒的に外壁などを開けられてしまうリスクは高く、他方でそういう案件が生じた場合、工務店が下請業者に求償をするということになると、例えば下請が大工だとした場合、大工はいつ求償を受けてもおかしくない不安定な状況に置かれてしまいます。
例えば、80 歳の大工さんが「後継者もいないし、引退しようかな」と考えた。この大工さんには奥さんと子どもがいる。大工を辞めました。その後亡くなりました。家もあったので相続しました。この問題が出ました。妻と子どもはお父さんが釘がめり込んだ工事をしているなんて知らない。いざこの問題が勃発して工務店から求償だと、損害賠償請求が来てしまった時に、個人事業主である大工さんの責任は相続しますので、全く予期せぬ損害賠償を負担しなければいけなくなってしまう可能性もあるのです。
●第5条 一括請負・一括委任の禁止
「協力業者は、あらかじめ書面による発注者の承諾を得なければ、工事の全部もしくはその主たる部分または、その他の部分から独立して機能を発揮する工作物の工事を一括して、第三者に請け負わせる事もしくは委任する事はできない。」
<解説>
一括とは何か
一括の定義とは、例えば左官工事を頼んだら職人(孫請)に一括下請した。これは第 5
条で禁止されていますが、実際のところこういうことは通常的に行われています。
「一括下請」の「一括」と言えないようなかたちで処理をするためには、当該工事について下請業者が孫請業者に対して実質的な関与がある場合には、元請の目から見て一括下請には該当しないという評価をすることになります。
例えば、現場がどのようなかたちで納まったか、最終的にしっかり確認に行って検査をしてOKを出す。また工程管理などは下請がやって、あくまでも孫請の職人は作業ベースのみであるということであれば、これは実質的関与がなされており、本条で言うところの
「一括下請」の「一括」には該当しないと判断をすることは可能です。
現場監督の存在
同様に、工務店も客との間の請負契約において一括下請は禁止条項がある。ところが小規模なリフォーム工事などになると「じゃあ大工さん、ちょっと行ってきて」といったかたちで実際上一括下請けになってしまうわけです。
こうした場合、どうやって一括下請にあたらないと評価するかというと、実質的関与を元請としてしっかりする、ということです。ポイントとしては元請が工程管理と最後のチェック(確認作業)をしっかりやることで、作業は全部下請がやっているが、それは一括下請にあたらないわけです。現場監督の存在意義はここにもあります。
●第6条 工事の立会い・工事記録の整備・完了検査
「協力業者は、工事着工に際し発注者の立会いのうえ施工することを定めた工事を施工するとき、または、施工中立ち合いが必要であると思われるときは、事前に発注者に通知する。
2.協力業者は、発注者の指示があったときは、工事写真などの記録を提出することで発注者の立会いに代えることができる。
3.協力業者は、発注者の指示があったときは、工事期間中工程毎に資材、施工品質の検査を行い工事発注書の求める施工品質に適合しているものであることを確認する為に、工事毎に定められた施工進捗報告を行い、施工完了後「施工完了報告書」を提出する。この報告書がない場合、請求を認めない場合がある。」
<解説>
工事写真の重要性
まず、第6条2項の「工事写真」。SAREXの「品質チェックシート」のような形で、きちんと施工箇所を記録しておくことが大切です。また、施主に対して「施工状況報告書」として提出することで、品質管理上の満足度を高めることにもなります。
しかし、それ以上に何らかのxxxxによって、もし裁判になると確認申請が通っている物件であっても、検査済証が通っている物件であっても、性能評価が取られている物件であっても瑕疵の裁判は起きます。保険法人の検査を受けている案件であったとしてもトラブルは起きます。
そういう状況の中で、どこが問題になるのでしょうか。釘のピッチや金物の取付ミスなど、隅々に至るまで指摘を受けるケースが多いのです。
一カ所でもそうした瑕疵が見つかると、全てがそうではないか、という疑いをもたれてしまいます。
そういう時に役立つのが工事写真で、理屈上、現場に入ってくれる全部の協力業者さん がそれぞれ自分の施工箇所を撮影し、それを工務店がデータ蓄積しておくことは大切です。トラブルや紛争など、何かしらで確認が必要になった時に写真で確認ができれば、破壊
検査も不要になり、紛争時には品質管理の証明になります。
施工完了報告書と請求書
第6条3項の最後のところの「施工完了報告書の提出」の位置づけについて。下請工事を出すにあたって、水道屋には水道工事を、電気屋には電気工事を頼みます。
この施工完了報告書の提出がない場合、請求を認めない場合があるということを法律的にきちんと成立させるためには、工事だけではなくて「工事+報告書の作成」が請負契約の内容だという形に、発注書の内訳に工事+報告書作成をもって「請求書とする」と付記しておくことが必要です。
それによって、発注した仕事が、最終の工程を終了した段階で請負代金請求をすることができますよ、ということが有効になります。
ちなみに、報告書作成業務が発注書に書かれておらず、工事の完了をもって完成というかたちの発注書になっていると、報告書を出すことはこの協力工事約款上で求められていますが、お金の支払いはあくまでも完成段階で出るので、報告書の提出がないからお金を払えないというのは、払うべきものを払わないということになってしまう可能性が出てしまいます。ですから、発注書の中に支払い条件としで加えておく必要があります。
●第7条 損害の防止
「協力業者は、協力業者の工事終了まで、工事の目的物、工事材料または、近接する工作物もしくは、第三者に対する損害防止のため、関係法令に基づき工事と環境に相応した必要な処置をする。
2.約款の目的物に近接する工作物の保護またはこれに関連する処置で、発注者、協力業者が協議して第1項の処置の範囲をこえ、材料もしくは工事代金額に含むことが適当でないと合意した費用は発注者の負担とする。
3.協力業者は、災害防止などのために特に必要と認めたときは、あらかじめ発注者の意見を求めて臨機の処置をとる。また、緊急を要する場合は、協力業者の判断で行い発注者にその旨を書面にて報告する。
4.発注者が必要と認めて臨機の処置を求めたときは、協力業者は直ちにこれに応じる。
5.第3項または、第4項の処置に要した費用の負担については、発注者、協力業者が協議して材料もしくは工事代金額に含むことが適当でないと合意した費用は、発注者の負担とする。」
<解説>
関係法令順守の徹底を
この条項は基本的には近隣に対して損害を発生させないために必要な措置をしてください。そしてあらかじめ相当な範囲ということで、見積りに含まれていそうな対処については別途の費用というものは出ないけれども、そうでないものは別途費用として認めましょうという条項です。
近隣対応でクレームが出てくる可能性が高いのは解体工事です。解体工事の最中に音がうるさいとか、埃がひどいとかいうクレームが入ってくるケースもあります。またアスベストを含有している屋根材を解体する時、本当は形状を残したまま廃棄しなくてはなりませんが、袋詰めをしやすいよう破砕して袋に入れてしまった。すると近隣から「アスベストが飛散して健康被害が生じるかもしれない、どうしてくれるのか」といったようなクレ
ームが入ってくるようなこともあり得ます。
こうしたそもそも論で関係法令等をきちんと遵守して下さい、という指摘も現場監督は行うべきです。協力業者に対して「約束事を守っています」といった書面を出してもらうか、日頃の業務内容をチェックし、マニュアルに沿った現場施工がなされているかの有無の徹底確認がなされることが大切です。
●第8条 第三者賠償
「施工に際し第三者に損害を及ぼしたときは、発注者がその損害を賠償する。ただし、その損害のうち協力業者の責に帰すべき事由により生じたものについては、協力業者の負担とする。
2.第1項の規定にかかわらず、施工について協力業者が善良な管理者としての注意を払っても避けることができない事由により第三者に与えた損害については、協力業者は免責される。
3.第1項または、第2項、その他の工事に際し第三者との間に紛争が生じたときは、協力業者がその処理解決にあたる。ただし、協力業者だけで解決が難しい時は、発注者は、協力業者に協力しすみやかな解決を図る。」
<解説>
損害発生と賠償
この条項も7条同様に近隣が関係してくる話です。
民法 716 条という条文があります。例えば下請業者の乗ったトラックが近隣の塀にぶつかって壊してしまった。この塀の補修に関して、下請の入っている保険会社から保険金が出ました。ところが近隣はこの塀を補修するにあたっては 800 万円の費用がかかると言っ
てきました。これに対し保険会社は「出ても 100 万円ですよ」と言ってきました。
この場合、話がまとまらず示談ができないからといって、近隣は「もとはと言えば元請が悪いのではないか」といった近隣から元請に対する損害賠償請求は原則できません。
仕事に関連させて現場作業を指示し、その現場作業の過程の中で、指示している範囲の中で近隣に迷惑をかけたとすれば、元請の指示に関連した事項に対する損害で、元請も損害賠償義務を負います。
しかし、そことは全く関係のない交通事故や塀に車をぶつけたとか、そうした問題に関しては、工務店(注文者)は協力業者(請負人)の不法行為に関して原則責任を負わないという条文がありますので、賠償請求を受けるものではないという原則論は知っておく必要があります。
●第9条 損害保険
「協力業者は、契約の目的物、工事材料、建築設備の機器などに、発注者の付している火災保険等以外の保険を付した時は、すみやかにその旨を発注者に通知する。」
<解説>
協力業者の保険加入を前提として
発注者(元請)は現場に総合補償保険を掛けるという中で、下請もそれぞれPL保険なりに加入していることを前提として、そのことの加入内容の提出を求めている条文です。
●第10条 瑕疵の担保
「協力業者は、協力業者の行う工事において、基本構造部分及び雨水の浸入を防止する部分についての性能基準に違反する現象(以下「瑕疵」という)が生じた場合は、発注者の請負工事完了日(引渡の日)から10年間の瑕疵担保の責任を負う(リフォーム工事の場合は5年間)。発注者は、この期間においてその瑕疵の補修およびその損害の賠償を求めることができる。ただし、瑕疵担保保証保険対象の場合は、その修補全負担金額から保険会社支払い分を差し引いた部分での賠償を発注者は求める。
2.建物の引渡の日から瑕疵保証期間(別表)内に、協力業者が行った工事においてそれぞれの品質性能基準に違反する瑕疵が生じた場合には、協力業者の負担において修補(引渡時の設計、仕様、材質等に従って原状に回復するための補修、取替等の工事をいう)もしくは損害の賠償を行う。」
<解説>
瑕疵告知は書面でがルール
本条項がこの約款の中で法律的には重要だと思います。
瑕疵のクレームはまず客から工務店に入ります。「この時点が 10 年以内であったら瑕疵担保責任の対象ですか」という点に関しては、第3項を見てみましょう。
「3.発注者は、第1項及び第2項の瑕疵があることを知ったときは、遅滞なく書面をもってその旨を協力業者に通知しなければ、第1項及び第2項にかかわらず当該瑕疵の補修または、損害の賠償を求めることができない。ただし、協力業者がその瑕疵を知っていたときはこの限りではない」とあります。
第1項が長期保証、第2項が短期保証です。施主からクレームがあって瑕疵の存在を知っただけで工務店から下請協力工事業者に対して瑕疵担保責任を追及したことにはならないので、工務店が協力業者に対して瑕疵担保責任の追及をするためには、その旨の書面による通知を求めているのが、第3項ということになります。
第1項、第2項の瑕疵があることを知った時は遅滞なく書面で通知してやりましょうということを定めています。
想定しにくい事例
「4.第1項の瑕疵による請負工事物件の滅失または毀損については、発注者は、第1項及び第2項に定める期間内で、かつ、その滅失または毀損の日から6ヶ月以内でなければ、第1項及び第2項に定める権利を行使することができない。」
「滅失・毀損」については事例を想定がしづらい話ですが、これは民法に「滅失・毀損」についての条文があります。
ただ一般的には長期は 10 年、短期は本約款の巻末に記載されているような保証事故というかたちで処理することが多いわけです。
責任不明の場合に対処する各社協力会会費
「5.発注者、協力業者双方協議の上定めた施工内容に違反する現象が生じ、かつその責が不明確な場合は、発注者、協力業者が協議しその責を明確にする。ただし、その協議においても帰すべき責の所在が不明の場合は、発注者の判断において各社協力会費でこれを充当することができる。」
このことは前記で論じていますが、責任不明確の場合には、協力会費で処理をするというかたちの規定で、協力会会費名義を「瑕疵担保金」という名前にしている工務店があります。
瑕疵か免責か
6項は免責事項が並んでいます。
「6.事故が次の事由によって生じた場合には、協力業者は、修補の責任を負わない。
(1) 地震、噴火、洪水、津波、台風等の自然災害で想定以上の状況による事由。」
これは、5項と6項をどう使い分けるか、が論点になります。
例えば、引渡し後1年程度の物件で、(1)の地震によって地盤の弱いところに建っていた建物のクロスがビリビリ破れた。それに対して施主に「補償期間内にxxxが破れたんだから責任を負ってくれ」と言われた場合。
工務店としては「これは免責事項としての地震です」と言いたい。しかし、不可抗力としての条項「地震、噴火、洪水、津波、台風等の自然災害」の次にある、「想定以上の状況による事由」とあります。例えば埼玉県では震度5強の揺れだった。震度5強でクロスがビリビリになってしまうような状況というのは「想定以上の状況」と呼べるのだろうか。実際に震度6以上の地震が頻発している中で、震度5で不可抗力と呼べるのか、ということです。
さらに、台風で横殴りの雨となり水切りの下端から水が入り込んで、中から雨漏り被害のように出てきた。これはどう考えても台風による雨水の浸入であって施工不良ではない。しかし、施主は「雨漏りだ」と苦情を言ってくる。とても補修費がもらえるような状況ではない。
このような場合には、例えば6項(1)にあたるとすれば協力業者は免責となります。つまり、6項だけならこれは工務店(元請業者)負担でサービスで補修をやるという形になってしまうでしょう。
しかし、5項の「協議においても帰すべき責の所在が不明の場合は、発注者の判断において協力会費でこれを充当することができる」とあります。
不可抗力というのは誰も悪くないけれども損害が発生した。誰かがお金を出して直さなくてはいけないことを意味するので、不可抗力の定義は以外と難しいものがあります。
以下は殆ど想定しにくい事象を免責事項としています。
「(2) 地盤の変動、土砂崩れ等の地盤の組織、地質または地形に起因する事由」は、表層崩壊と呼ばれるような土砂崩れ等になりますがレアケースと言えます。
「(3) 火災、爆発、暴動等偶然かつ外来の事由」も火災があれば火災保険、工務店や協力業者が補償するケースは出てこないと考えられます。
「(4) 住宅の使用者の著しく不適切な維持管理または通常予測される使用状態と著しく異なる使用による事由」はあり得ます。カビなどの発生被害が出た時に、住まい方が悪くてカビが生えたのか、それとも元々の建物の問題でカビが生えたのか、といったところで論点になる可能性はあり得ます。
「 (5) 工事当初実用化されていた技術では、予測することが不可能な現象またはこれが原因で生じた事由。」は、なかなか事例的な想定が難しいと思われます。
「(6) 協力業者が不適切事項を書面により指摘したにもかかわらず、発注者が採用させた設計、施工方法、資材等に瑕疵の要因があった場合、協力業者以外の者の施工に瑕疵があった場合など協力業者以外の者の責に帰すべき事由。」
これも想定がしにくいと思います。
「(7) 前各号による場合のほか別表に掲げた免責事項に該当する事由」
瑕疵担保期間は本当に 10 年か
例えば9年 11 ヵ月目に雨漏りのクレームが寄せられた。次にこの請求っていつまでできるかと言うと、施主が書面又は口頭にて箇所を特定してクレームを言うことによって「権利保全」と言いますが、瑕疵担保請求権の権利が保全されます。
本当はxx的な問題だということを気が付いているけれども、「家中の壁を剥がして全面的にやり替えさせていただきます」というわけにはとてもいかないので、雨が漏ったところだけちょこっとコーキングするなりして、その場対応をしていたとします。その場対応していたらやはりいつまでも雨漏りが続き、ずっと苦情が施主から出されていた場合を想定してみます。この場合の瑕疵担保責任はいつ切れるのか。完全に無罪放免になるのはxxxというと権利保全されてから 10 年です。
したがって、不法行為の時効が 20 年というところで長いというイメージを持つわけです
が、瑕疵担保も権利保全さえされてしまえば、そこから債権の時効の 10 年間は消えることがありません。ここは以外と落とし穴です。
短期保証も長期に変化することも
瑕疵担保の短期保証部分の期間、1年、2年の期間で切っているわけですけれども、こちらも同様です。2年間の瑕疵担保の期間が切れる直前にクレームが入りますと、このクレームはいつになったら完全に権利としてなくなってくれるのかというと、このクレームを受けてから債権の時効期間である 10 年間裁判が起こされずに時効が完成というかたちになって初めてリスクゼロになります。
このリスクは、元請・下請間も全く同じです。下請業者による補修の未完は、長期間のリスクを抱えることになることを確認しておきたいところです。
短期瑕疵保証表を参照して見ると、土工事、コンクリート工事。例えば外溝の土間にひびが割れるというクレームが1年6ヵ月くらいの段階で入りました。ひび割れの補修ということでモルタルなどでひび割れ部分を詰める工事をしたのですが、再度同じ場所が割れ
た。原因は乾燥収縮のヘアークラックなどではなくて、土間なりポーチなりの下の土が締め固められておらず、それが落ちてしまいひび割れていたという原因が分かりました。
しかし、「家中のポーチ部分を全部剥がさせていただきます」というわけにはいかないので、ひび割れのクレームを受けては、だましだまし補修をやっていた。こういう形だと 10 年の期間が過ぎるまではやっはり保証期間切れという話にはなりません。
本約款の特長と留意点
本約款では、長期リスクをあまり協力業者に転嫁してない部分もありますが、一般的な下請の約款の書式上、故意や重大な過失が下請業者に認められる場合には瑕疵担保の期間を倍にするというようなかたちの規定を設けているものもあります。
●第11条 紛争の解決
「発注者、協力業者間に紛争が生じたときは、当事者の双方または一方から相手方の承認する第三者を選んでその解決を依頼する。」
<解説>
委任契約が必要
いわゆるxx中立な第三者が関与し、紛争解決するという形が一番望ましい紛争解決の姿です。
現実的にやろうと思ったら委任契約になります。紛争解決にあたっての斡旋をする人との間の委任契約というかたちになってきます。2013 年、国交書のホームページにも「xx中立な第三者を選任して、いざトラブルが起きた時だけではなく、発注段階から調整というかたちで入ってもらうような仕組みを整えたらどうだろうか」という記載があります。
●第12条 契約内容の変更
「本約款と異なる内容の合意をする場合には、発注者、協力業者が署名した合意文書によるものとする。なお、変更が生じた場合においても、発注者、協力業者協議の上、合意文書を作成する。」
<解説>
約款の1年更新のメリット
書面主義を取っている約款ということです。さらにこの基本契約は1年更新ベースで作られておりますので、この更新時期に契約内容の追加変更を行って、よりよい形に更新していくことができます。
●第13条 個人情報保護
「協力業者は、発注者が依頼した工事および積算等に関する設計図書、住所、氏名、電話番号等の施主の個人情報(以下、施主情報と呼ぶ)が記載された書面・電子記録をその工事の遂行のみに利用することとし、その他の目的のために利用してはならない。」
<解説>
こちらが個人情報保護法で定めている利用目的の特定の規定です。
「2.協力業者は、施主情報が記載された書面・電子記録について管理責任者を定め、善良なる管理者の注意を持って管理するものとする。」
<解説>
防止措置
これが安全管理措置といい、漏えいをしないような防止措置を講じる規定になっています。
「3.協力業者は、施主情報が記載された書面・電子記録が紛失・漏洩した場合には、直ちに発注者にその事実を告知するものとする。この場合の対応策について、協力業者は、発注者の指示に従うこととする。」
<解説>
確認事項
現実に個人情報クレームで多いのは社員が顧客情報が入ったUSBを紛失してしまったり、アフターサービスで巡回中、車のボンネットにアフターの顧客リストを置きっぱなしにして、それが風に乗って紛失してしまった、といった元請ベースのクレームが多い。
もし漏えい等が起きた場合には、まずは元請にしっかりと確認を取ってくれというかたちの確認事項として必要になってくる、といえます。
「4.協力業者は、事前に発注者の承諾を得ることなく、協力業者の下請け業者等の再委託先に対して施主情報が記載された書面・電子記録を開示・提供・利用させてはならない。また、協力業者は、再委託に際し承諾を得たうえで再委託先にその施主情報を開示する場合は、協力業者の責務において再委託先に施主情報保護を遵守・履行させるよう管理し発注者に対する機密保持義務の履行について再委託先と連携して責任を負うものとする」
<解説>
守秘義務
これは実務上の処理で言うと客情報を下請、孫請ないしは関連業者に提供するような場合には機密保持契約をやっていきましょう、ということを意味する規定です。
「5.協力業者は、発注者より施主情報が記載された書面・電子記録の返還・廃棄請求があった場合には、発注者の指示に従い、施主情報が記載された書面・電子記録全てをすみやかに発注者に返還または、破棄するものとし、その後一切の情報を保持しないものとする。」
<解説>
設計図書等保存義務
気を付けていただきたいのは、建設業法上はいわゆる設計図書、施主との打ち合わせ記録などは 10 年間の保管義務があるということです。
また建築士事務所登録をしている建築士兼工務店の会社は建築士法上の図面の保管期間は 15 年なので、そこは気を付けましょう。
●第14条 施主からの直接工事受注の禁止
「発注者が請負契約し施工した物件に於いて、引渡し後、施主から直接工事の依頼を受け、または、施主に対して直接的営業行為を行ってはならない。施主からの依頼であっても、施工請負契約者たる発注者以外の協力業者が直接工事を受注することは、住宅瑕疵担保履行法、個人情報保護法等の見地から、瑕疵担保履行法の適用除外となるなど、施主に対して不利益を及ぼすことが生じる可能性がある。そのため、発注者の施工物件に於いては、必ず発注者にその旨の連絡を行い、発注者を通じ施工すること。なお、軽微な工事で瑕疵担保履行上支障がないと思われる場合に於いても、発注者の「管理工務店」としての役割を著しく欠く行為となるため、発注者の責任者に確認を得、協力業者の見積提出後、施工すること。」
<解説>
違反建築が発生する可能性も
もちろん建築現場において、大工等が工事を直接請け負うといったことを防ぐ意味合いです。さらに今後、業界が縮小していくと、プレカット工場たちが自分が手掛けたプレカット現場に一斉にリフォームの提案等をし始める事態も起こらないとは限りません。そのケースでは 13 条の1項で「工事の遂行以外に使わないでね」という、その遵守や直接的営業行為を行ってはならないという条項で確認していただく、ということが大切です。
直接工事受注で気を付ける点は、違反建築で「工務店としては違反建築に手は染められない。あとで天井板を剥がして小屋裏を居室にするのは大工を紹介するから、その大工と直接やってくれ」と言うようなことが逆にないように気をつけて下さい。
ちなみに客に対して工務店が違反建築をやれば、それは瑕疵というかたちで責任追及を受けることになります。工務店は適法な工事はしていないと「あくまでも大工とお客が違反建築契約をしてやったものであって、当社は知らない」とすると、適法な建物に違法を加えた大工が瑕疵担保責任、不法行為責任というものを負う対象になってしまいます。
自分で違反建築を頼みながら責任追及なんてあり得るのかというと、これは裁判事例上あり得、施主が小屋裏に上がるはしごを階段に、という案件で、施主が自分で頼んでおきながら工務店を訴えて瑕疵担保責任が認められているケースもあります。
この項は「業者さんの方で直接受注はダメだよ」というところと同時に、工務店においても違反建築の工事を住まい手と大工の直接契約にするようにあっせんすることのないよう、気をつけていただきたいと思います。
●第15条 補 足
「本約款に定めのない事項については、必要に応じて発注者、協力業者が協議して定める。
2.発注者が開催する品質を向上させるための勉強会・講習会等に出席をすることを義務化し、協力業者は相当の理由がない限り必ず出席することとする。
3.協力業者は発注者が別途定めた「現場マナーマニュアル」を遵守し、施主の顧客満足度を高めることはもちろんのこと、近隣等において、施工期間中は迷惑を与えていることを自覚し、不快感を与えない施工現場環境づくりを心がけること。この「現場マナーマニュアル」に反した行為を行う協力業者は、以後契約の更新を行わない場合がある。
4.資材搬入等に伴うこすれ・傷等の発生の責を特定の業者に帰すことができない場合は、協力会費よりこれを補てんする。」
<解説>
約款のアップデートを
補足事項でしたり、別紙補足でしたり、約款そのものを充実させ、改編をしていって、漏れのない約款を目指し、協力業者との契約というものをアップデートすることも考慮しておく必要もあります。