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中国民法典の制定について(4・完)
前JICA長期派遣専門家 弁護士 x x x x
[目 次] 第1 はじめに
第2 中国民法典の全条文について第一編 総則
第二編 物権 ~以上までICDNEWS第85号第三編 契約
第十九章 運送契約 ~以上までICDNEWS第86号第二十章 技術契約
第四編 人格権
第五編 婚姻家庭 ~以上までICDNEWS第87号第六編 相続 ~以下本号
第七編 権利侵害責任附則
第3 中国民法典に関連する法整備支援
1 プロジェクト成果発表ウェビナー報告
2 中国民法典編纂に関わる法整備支援の実施状況
3 結語に代えて
[本 文]
第2 中国民法典の全条文について第六編 相続1
第xx 一般規定
第1119条【本編の調整範囲】2
本編は相続により発生した民事関係を調整する。
第1120条【相続権の保護】
国家は,自然人の相続権を保護する。
1 相続制度は,自然人の死亡後の財産承継に関する基本的制度である。相続法[继承法](1985年成立,全37条)の施行以降,人民大衆の生活水準の継続的向上に伴い,個人及び家族の財産が増加しており,相続に起因する紛争も増加して状況も複雑化している。中国の社会・家族構成,相続についての考え方等の発展・変化に基づき,中国民法典「第六編 相続」(1119条以下)では,相続法を基礎として,人民大衆の遺産処理に関する現実のニーズを満たすために相続制度に対する改善が行われており,第六編は計4章,45条からなる。
2 本文中の条文見出しは,全国人大法工委民法xxx・xx主編『中華人民共和国民法典継承編・解読』(中国法制出版社・2020年7月),同室・xxx編『民法典新旧逐条対比』(中国検察出版社・2020年6月)を主に参照したものである。
第1121条【相続の開始と死亡時間の推定】
相続は,被相続人が死亡した時から開始する。
2 相互に相続関係を有するxxが同一事象において死亡し,死亡時間を確定することが困難である場合,その他相続人のない者が先に死亡したものと推定する。いずれもその他相続人があり,親等が異なる場合,尊属が先に死亡したものと推定する。親等が同じである場合,同時に死亡したものと推定し,相互に相続は発生しない。
第1122条【遺産の定義】
遺産とは,自然人が死亡した時に遺留された個人の合法な財産をいう。
2 法律の規定又はその性質により相続できない遺産は,相続することができない。
第1123条【相続の方式,処理】
相続が開始した後は,法定相続に従って処理する。遺言がある場合,遺言相続又は遺贈に従って処理する。遺贈扶養協議がある場合,協議に従って処理する。
第1124条【相続,遺贈の放棄】
相続が開始した後に,相続人が相続を放棄する場合,遺産を処理する前に,書面形式により相続放棄の意思表示を行わなければならない。意思表示がない場合,相続を受けたものとみなす。
2 受遺者は,遺贈を受けることを知ってから60日以内に,遺贈を受け又は放棄する旨の意思表示を行わなければならない。期限までに意思表示を行わない場合,遺贈を放棄したものとみなす。
第1125条【相続権の喪失】
相続人は,次に掲げるいずれかの行為があった場合,相続権を喪失する。
(一)被相続人を故意に殺害したとき
(二)遺産を奪い取るためにその他の相続人を殺害したとき
(三)被相続人を遺棄し,又は被相続人を虐待し,情状が重大であるとき
(四)遺言を偽造,改ざん,隠匿又は廃棄し,情状が重大であるとき
(五)詐欺,強迫手段により被相続人による遺言の作成,変更若しくは撤回を強制又は妨害し,情状が重大であるとき
2 相続人に前項第3号乃至第5号の行為があり,改悛の態度が確かに認められ,被相続人が宥恕の意思を表示し,又は事後に遺言でその者を相続人とする旨を明確にした場合,当該相続人は相続権を喪失しない。
3 受遺者に本条第1項の規定する行為があった場合,受遺権を喪失する。
第二章 法定相続
第1126条【相続権の男女平等】
相続権は男女平等とする。
第1127条【法定相続人の範囲,相続順位】
遺産は,次の順位に従って相続する。
(一)第一順位:配偶者,子,父母
(二)第二順位:兄弟姉妹,父方の祖父母,母方の祖父母
2 相続が開始した後は,第一順位の相続人が相続し,第二順位の相続人は相続しない。第一順位の相続人が相続しない場合,第二順位の相続人が相続する。
3 本編における子には,嫡出子,非嫡出子,養子及び扶養関係のあるxxを含む。
4 本編における父母には,実父母,養父母及び扶養関係のある継父母を含む。
5 本編における兄弟姉妹には,同じ父母の兄弟姉妹,父親が同じで母親が異なる又は母親が同じで父親が異なる兄弟姉妹,養子の兄弟姉妹,扶養関係のあるxxの兄弟姉妹を含む。
第1128条【代襲相続】
被相続人の子が被相続人より先に死亡した場合,被相続人の子の直系卑属の血族が代襲相続する。
2 被相続人の兄弟姉妹が被相続人より先に死亡した場合,被相続人の兄弟姉妹の子が代襲相続する。
3 代襲相続人は,一般に被代襲者が相続権を有する遺産相続分のみを相続することができる。
第1129条【配偶者を喪失した者の相続権】
配偶者を喪失した妻が義父母に対して,配偶者を喪失した夫が岳父母に対して,主な扶養[赡养]義務を果たした場合,第一順位の相続人とする。
第1130条【法定相続人の相続分】
同一順位の相続人が相続する遺産相続分は,一般に均等でなければならない。
2 生活が特別に困難であり労働能力も有しない相続人に対して,遺産を分配する時に配慮しなければならない。
3 被相続人に対して主な扶養義務を果たし又は被相続人と共同で生活する相続人に対して,遺産を分配する時に多く分配することができる。
4 扶養能力及び扶養条件を有するが,扶養義務を果たさない相続人に対して,遺産を分配する時に分配せず又は少なく分配しなければならない。
5 相続人が協議を経て同意した場合,均等にしなくてもよい。
第1131条【相続人以外の者に対する遺産分配】
相続人以外で被相続人の扶養に依存する者,又は相続人以外で被相続人に対する扶養が比較的多い者に対して,適当な遺産を分配することができる。
第1132条【相続問題の処理】
相続人は,互いに思いやり,譲り合い,睦まじく団結する精神に基づいて,協議を経て相続問題を処理しなければならない。遺産分割の時期,方法及び持分は,相続人が協議を経て確定する。協議が調わない場合,人民調解委員会が調解を行い,又は人民法院に訴訟を提起することができる。
第三章 遺言相続及び遺贈
第1133条【遺言による財産処分】
自然人は,本法の規定に従って遺言をなし,個人財産を処分することができ,遺言執行者を指定することもできる。
2 自然人は,遺言をなし,法定相続人の一名又はxxを指定して個人財産を相続させることができる。
3 自然人は,遺言をなし,国家,集団又は法定相続人以外の組織,個人に個人財産を贈与できる。
4 自然人は,法に基づき遺言信託を設定することができる。
第1134条【自筆遺言】
自筆遺言は,遺言者が自ら書き,署名し,年,月,日を明記する。
第1135条【代筆遺言】
代筆遺言は,二名以上の証人がその場に立ち会わなければならず,そのうちの一人が代筆し,遺言者,代筆者及びその他証人が署名し,年,月,日を明記する。
第1136条【印刷による遺言】
印刷による遺言は,二名以上の証人がその場に立ち会わなければならない。遺言者及び証人は,遺言書の各頁に署名し,年,月,日を明記しなければならない。
第1137条【録音・録画形式による遺言】
録音・録画形式により遺言をなす場合,二名以上の証人がその場に立ち会わなければならない。遺言者及び証人は,録音・録画の中にその氏名又は肖像,及び年,月,日を記録しなければならない。
第1138条【危急状況下における口頭遺言】
遺言者は,危急の状況下において,口頭遺言をすることができる。口頭遺言は,二名以上の証人がその場に立ち会わなければならない。危急の状況が解消された後に,遺言者が書面又は録音・録画形式により遺言を残すことができる場合,残された口頭による遺言は無効とする。
第1139条【公証遺言】
公証遺言は,遺言者が公証機関で手続を行わなければならない。
第1140条【遺言の証人資格】
次に掲げる者は,遺言の証人となることができない。
(一)民事行為無能力者,制限民事行為能力者及びその他証人となる能力を有しない者
(二)相続人,受遺者
(三)相続人,受遺者との間に利害関係が存在する者
第1141条【特留分】
遺言は,労働能力だけでなく生活のための収入源も有しない相続人のために必要な遺産相続分を留保しなければならない。
第1142条【遺言の撤回,変更】
遺言者は,自己がなした遺言を撤回,変更することができる。
2 遺言をなした後に,遺言者が遺言の内容に相反する民事法律行為を行った場合,遺言の関連内容を撤回したものとみなす。
3 複数の遺言がなされ,その内容が相互に抵触する場合には,最後の遺言を基準とする。
第1143条【遺言の無効】
民事行為無能力者又は制限民事行為能力者がなした遺言は無効とする。
2 遺言は,遺言者のxxの意思を示すものでなければならず,詐欺,強迫を受けてなされた遺言は無効とする。
3 偽造された遺言は無効とする。
4 遺言が改ざんされた場合,改ざんされた内容は無効とする。
第1144条【負担付き遺言・遺贈】
遺言相続又は遺贈に義務が付されている場合,相続人又は受遺者は,義務を履行しなければならない。正当な理由なく義務を履行しない場合には,利害関係人又は関係組織の請求により,人民法院はその義務が附された部分の遺産を受け取る権利を取り消すことができる。
第四章 遺産の処理
第1145条【遺産管理人の選任】
相続が開始した後,遺言執行者を遺産管理人とする。遺言執行者がない場合,相続人は速やかに遺産管理人を選任しなければならない。相続人が遺産管理人を選任しない場合は,相続人が共同で遺産管理人となる。相続人がない又は相続人がいずれも相続を放棄した場合には,被相続人の生前住所地の民政部門又は村民委員会が遺産管理人を担当する。
第1146条【遺産管理人の指定】
遺産管理人の確定について争いがある場合,利害関係人は遺産管理人の指定を人民法院に申請することができる。
第1147条【遺産管理人の職責】
遺産管理人は,次に掲げる職責を履行しなければならない。
(一)遺産の整理及び遺産目録の作成
(二)相続人に対する遺産状況の報告
(三)遺産の毀損防止のために必要な措置を講じる
(四)被相続人の債権債務を処理
(五)遺言又は法律規定に基づく遺産の分割
(六)遺産管理に関するその他の必要な行為を実施すること
第1148条【遺産管理人の責任】
遺産管理人は,法に基づき職責を果たさなければならず,故意又は重過失により相続人,受遺者,債権者に損害を与えた場合,民事責任を負わなければならない。
第1149条【遺産管理人の報酬】
遺産管理人は,法律の規定又は約定に従って報酬を得ることができる。
第1150条【相続開始の通知】
相続が開始した後,被相続人の死亡を知った相続人は,速やかにその他の相続人及び遺言執行者に通知しなければならない。相続人中の誰も被相続人の死亡を知らず,又は被相続人の死亡を知ったが通知できない場合,被相続人の生前の在籍組織又は居住地の居民委員会,村民委員会が通知の責めを負う。
第1151条【遺産の保管】
遺産を保管する者は,遺産を適切に保管しなければならず,いかなる組織又は個人も横領又は争奪してはならない。
第1152条【相続開始後,遺産分割前に相続人が死亡した場合】
相続が開始した後,遺産が分割される前に相続人が死亡し,かつ相続を放棄していない場合,当該相続人が相続すべき遺産はその相続人に移転する。但し,遺言に別段の手配がある場合を除く。
第1153条【遺産の確定】
夫婦が共同所有する財産について,約定がある場合を除き,遺産を分割するときに,先に共同所有財産の半分を配偶者の所有とし,その残りを被相続人の遺産としなければならない。
2 遺産が家庭の共有財産中にある場合,遺産を分割するときに,先に他人の財産を除外しなければならない。
第1154条【遺言相続に対して法定相続による処理が及ぶ場合】
次のいずれかに該当する場合,遺産の関係部分は法定相続に従って処理する。
(一)遺言相続人が相続を放棄し又は受遺者が受遺を放棄したとき
(二)遺言相続人が相続権を喪失し又は受遺者が受遺権を喪失したとき
(x)遺言相続人,受遺者が遺言者より先に死亡し又は終了したとき
(四)遺言の無効部分に係る遺産
(五)遺言により処分されていない遺産
第1155条【胎児相続分の留保】
遺産を分割するときは,胎児の相続分を留保しなければならない。胎児が娩出時に死体である場合,留保された相続分は法定相続に従って処理する。
第1156条【遺産分割において堅持すべき法定原則・分割方法】
遺産の分割は,生産及び生活の必要に有益でなければならず,遺産の効用を損ねてはならない。
2 分割に適さない遺産は,価額換算,適切な補償又は共有等の方法により処理すること
ができる。
第1157条【再婚者の相続財産処分権】
夫婦の一方が死亡した後に他方が再婚した場合,相続した財産を処分する権利を有し,いかなる組織又は個人も干渉してはならない。
第1158条【遺贈扶養協議】
自然人は,相続人以外の組織又は個人と遺贈扶養協議を締結することができる。協議に従って,当該組織又は個人は,当該自然人の生前の扶養及び死後の葬儀と埋葬の義務を負い,遺贈を受ける権利を有する。
第1159条【遺産分割時の義務】
遺産を分割するには,被相続人が法に基づき納付すべき税金及び債務を弁済しなければならない。但し,労働能力だけでなく生活のための収入源も有しない相続人のために必要な遺産を留保しなければならない。
第1160条【相続人・受遺者がない遺産の帰属】
相続人がなく受遺者もない遺産は,国家所有に帰属し,公益事業に用いる。死者が生前に集団所有制組織の構成員である場合,在籍する集団所有制組織の所有とする。
第1161条【遺産債務の弁済規則】
相続人は,得た遺産の実際の価値を限度として被相続人が法に基づき納付すべき税金及び債務を弁済する。遺産の実際の価値を超えた部分について,相続人が自由意思により償還する場合は,この限りでない。
2 相続人は,相続を放棄した場合,被相続人が法に基づき納付すべき税金及び債務に対して弁済責任を負わなくてもよい。
第1162条【遺贈と遺産債務の弁済】
遺贈の執行は,遺贈者が法に基づき納付すべき税金及び債務の弁済を妨げてはならない。
第1163条【法定相続,遺言相続,遺贈がある場合の債務弁済】
法定相続だけでなく遺言相続,遺贈もある場合,法定相続人が法に基づき納付すべき税金及び債務を弁済する。法定相続遺産の実際の価値を超える部分は,遺言相続人及び受遺者が得た遺産から比率に従って弁済する。
第七編 権利侵害責任[侵权责任]3第xx 一般規定
第1164条【本編の調整範囲】4
本編は民事上の権益侵害により発生した民事関係を調整する。
3 権利侵害責任は民事主体が他人の権益を侵害した場合に負うべき法律効果である。権利侵害責任法(2009年成立,全92条)は,その施行以来,民事主体の合法的権益保護,権利侵害責任の明確化,権利侵害行為の予防・制裁において重要な作用を営んでいる。中国民法典「第七編 権利侵害責任」(1164条以下)では,実務経験の総括内容に基づき,権利侵害分野において出現した新たな状況に対して,司法解釈の関連規定を参考とし,権利侵害責任制度について必要な補充及び整備が行われており,第七編は計10章,95条からなる。
4 本文中の条文見出しは,主に全国人大法工委民法xxx・xx主編『中華人民共和国民法典侵権責任編・解読』(中
第1165条【過失責任原則と過失推定】
行為者が過失により他人の民事上の権益を侵害し,損害を与えた場合,権利侵害責任を負わなければならない。
2 法律の規定に従って行為者に過失があるものと推定し,その行為者が自己に過失がないことを証明できない場合,権利侵害責任を負わなければならない。
第1166条【無過失責任原則】
行為者が他人の民事上の権益を侵害して損害を与え,行為者に過失があるか否かに関わりなく法律の規定により権利侵害責任を負わなければならない場合,その規定に従う。
第1167条【侵害停止,妨害排除,危険除去の請求権】
権利侵害行為の危害が他人の人身,財産の安全を脅かした場合,被権利侵害者は,侵害停止,妨害排除,危険除去等の権利侵害責任の負担を権利侵害者に請求する権利を有する。
第1168条【共同権利侵害行為】
二名以上の者が共同で権利侵害行為を実施し,他人に損害を与えた場合,連帯責任を負わなければならない。
第1169条【権利侵害行為の教唆,幇助】
他人による権利侵害行為の実施を教唆,幇助した場合,行為者と連帯責任を負わなければならない。
2 民事行為無能力者,制限民事行為能力者による権利侵害行為の実施を教唆,幇助した場合,権利侵害責任を負わなければならない。当該民事行為無能力者,制限民事行為能力者の後見人が後見職責を果たさない場合,相応する責任を負わなければならない。
第1170条【共同危険行為】
二人以上の者が他人の人身,財産の安全を脅かす行為を実施し,そのうちの一人又はxxの行為が他人に損害を与え,具体的な権利侵害者を確定することができる場合,権利侵害者が責任を負う。具体的な権利侵害者を確定することができない場合,行為者が連帯責任を負う。
第1171条【意思連絡はないが連帯責任を負うべき各別の権利侵害行為】
二人以上の者が個別に権利侵害行為を実施し,同一の損害を与え,各人の権利侵害行為がいずれも全部の損害を生じさせるに足りる場合,行為者が連帯責任を負う。
第1172条【意思連絡のない各別の権利侵害行為】
二人以上の者が個別に権利侵害行為を実施し,同一の損害を与え,責任の大小を確定することができる場合,各自が相応する責任を負う。責任の大小を確定することができない場合,均等に賠償責任を負う。
国法制出版社・2020年7月),同室・xxx編『民法典新旧逐条対比』(中国検察出版社・2020年6月)を参照したものである。
第1173条【過失相殺】
被権利侵害者が同一の損害の発生又は拡大に対して過失がある場合,権利侵害者の責任を軽減することができる。
第1174条【被害者に故意ある場合の責任免除】
損害が被害者の故意によるものである場合,行為者は責任を負わない。
第1175条【第三者による損害】
損害が第三者によるものである場合,第三者が権利侵害責任を負わなければならない。
第1176条【リスク活動に自ら望んで参加した場合】
一定のリスクのある文化娯楽・スポーツ活動に自ら望んで参加し,その他の参加者の行為により損害を受けた場合,被害者はその他の参加者に権利侵害責任の負担を請求してはならない。但し,その他の参加者に損害発生について故意又は重大な過失がある場合を除く。
2 活動を組織した者の責任には,本法第1198条から第1201条の規定を適用する。
第1177条【自助行為】
合法的権益が侵害され,緊迫した状況にあり,かつ速やかに国家機関による保護を得ることができず,直ちに措置を講じないとその合法的権益が回復困難な損害を受ける場合,被害者は自己の合法的権益を保護するため必要な範囲内で権利侵害者の財物を取り押さえる等の合理的措置を講じることができる。但し,直ちに関係する国家機関に処理を請求しなければならない。
2 被害者の講じた不適当な措置により他人に損害を与えた場合,権利侵害責任を負わなければならない。
第1178条【責任の免除・軽減に関する特別規定の優先】
本法及びその他の法律に責任の免除又は軽減の事由に関する別段の規定がある場合,その規定に従う。
第二章 損害賠償
第1179条【人身損害賠償の範囲】
他人を侵害して人身損害を与えた場合,医療費,介護費,交通費,栄養費,入院食事補助費等の治療及び健康回復のために支出した合理的費用,並びに休業により減少した收入を賠償しなければならない。障害が残った場合,さらに障害者補助用具費及び障害賠償金を賠償しなければならない。死亡した場合,さらに葬儀埋葬費及び死亡賠償金を賠償しなければならない。
第1180条【同一❹額による死亡賠償❹の確定】
同一の権利侵害行為により多数の者が死亡した場合,同一金額により死亡賠償金を確定することができる。
第1181条【被権利侵害者の死亡,合併・分割の場合の請求権者の確定】
被権利侵害者が死亡した場合,その近親族が権利侵害責任の負担を権利侵害者に請求する権利を有する。被権利侵害者が組織であり,当該組織が分割,合併した場合,権利を承継した組織が権利侵害責任の負担を権利侵害者に請求する権利を有する。
2 被権利侵害者が死亡した場合,医療費,葬儀埋葬費等の合理的費用を権利侵害者に支払った者が賠償費用を権利侵害者に請求する権利を有する。但し,権利侵害者が当該費用を既に支払った場合を除く。
第1182条【人身権益侵害による財産的損害の賠償】
他人の人身上の権益を侵害して財産損害を与えた場合,被権利侵害者がこれにより受けた損害又は権利侵害者がこれにより得た利益に従って賠償する。被権利侵害者がこれにより受けた損害及び権利侵害者がこれにより得た利益の確定が困難であり,被権利侵害者及び権利侵害者による賠償金額に関する協議が調わず,人民法院に訴訟を提起した場合,人民法院が実際の状況に基づいて賠償金額を確定する。
第1183条【精神損害の賠償】
自然人の人身上の権益を侵害し,重大な精神的損害を与えた場合,被権利侵害者は精神的損害賠償を請求する権利を有する。
2 故意又は重大な過失により自然人にとって人身に係る意義を有する特定の物品を侵害し,重大な精神的損害を与えた場合,被権利侵害者は精神的損害賠償を請求する権利を有する。
第1184条【財産的損害の計算】
他人の財産を侵害した場合,財産上の損害は,損害が発生した時の市場価格又はその他の合理的方式に従って計算する。
第1185条【知的財産権侵害による懲罰的賠償】
他人の知的財産権が故意に侵害され,情状が重大である場合,被権利侵害者は相応する懲罰的賠償を請求する権利を有する。
第1186条【損害のxx分担】
被害者及び行為者のいずれにも損害発生に対して過失がない場合,法律の規定に従って双方が損害を分担する。
第1187条【賠償費用の支払方式】
損害が発生した後に,当事者は,賠償費用の支払方式について協議することができる。協議が調わない場合,賠償費用は一括払いとしなければならない。一括払いが確かに困難である場合,分割払いとすることができる。但し,被権利侵害者は,相応する担保提供を請求する権利を有する。
第三章 責任主体に関する特別規定
第1188条【民事行為無能力者等の権利侵害と後見人】
民事行為無能力者,制限民事行為能力者が他人に損害を与えた場合,後見人が権利侵
害責任を負う。後見人が後見職責を果たした場合には,その権利侵害責任を軽減することができる。
2 財産を有する民事行為無能力者,制限民事行為能力者が他人に損害を与えた場合,本人の財産から賠償費用を支払う。不足する部分は,後見人が賠償する。
第1189条【民事行為無能力者等の権利侵害と後見人2】
民事行為無能力者,制限民事行為能力者が他人に損害を与えた場合において,後見人が後見職責の一部又は全部を他人に委任しているときは,後見人が権利侵害責任を負わなければならない。受任者に過失がある場合,相応する責任を負う。
第1190条【完全民事行為能力者が一時的に意識喪失した場合】
完全民事行為能力者は,自己の行為に対して一時的に意識を喪失し,又は制御能力を喪失して他人に損害を与えた場合において,過失があるときは,権利侵害責任を負わなければならない。過失がない場合には,行為者の経済状況に基づいて被害者に適切な補償を与える。
2 完全民事行為能力者は,酩酊,麻酔薬又は向精神薬の濫用により自己の行為について一時的に意識を喪失し,又は制御能力を喪失して他人に損害を与えた場合,権利侵害責任を負わなければならない。
第1191条【雇用組織,労務派遣組織の使用者責任】
雇用組織の職員が業務上の任務の執行により他人に損害を与えた場合,雇用組織が権利侵害責任を負う。雇用組織が権利侵害責任を負った後,故意又は重過失ある職員に対して求償することができる。
2 人材派遣期間において,派遣された職員が業務上の任務の執行により他人に損害を与えた場合,人材派遣を受け入れた雇用組織が権利侵害責任を負う。人材派遣組織に過失がある場合,相応する責任を負う。
第1192条【個人労務関係における責任】
個人間に形成された労務関係において,労務を提供する一方が労務により他人に損害を与えた場合,労務を受けた一方が権利侵害責任を負う。労務を受けた一方が権利侵害責任を負った後,故意又は重過失ある労務を提供する一方に対して求償することができる。労務を提供する一方が労務により損害を受けた場合,双方各自の過失に基づいて相応する責任を負う。
2 労務提供期間において第三者の行為が労務を提供する一方に損害を与えた場合,労務を提供する一方は,権利侵害責任の負担を第三者に請求する権利を有し,権利侵害責任の負担を労務を受ける一方にも補償を請求する権利を有する。労務を受ける一方は,補償した後に,第三者に求償することができる。
第1193条【請負関係における責任】
請負人が仕事の完成過程において第三者に損害を与え,又は自ら損害を受けた場合,注文者は,権利侵害責任を負わない。但し,注文者の注文,指示又は選任に過失がある場合,相応する責任を負わなければならない。
第1194条【ネットワークにおける権利侵害】
ネットワーク利用者,ネットワークサービスプロバイダは,ネットワークを利用して他人の民事上の権益を侵害した場合,権利侵害責任を負わなければならない。法律に別段の規定がある場合,その規定に従う。
第1195条【ネットワーク利用者,ネットワークサービスプロバイダに対する救済措置】
ネットワーク利用者がネットワークサービスを利用して権利侵害行為を実施した場合,権利者は,ネットワークサービスプロバイダに対し,削除,遮断,リンクの切断等の必要な措置を講じるよう通知する権利を有する。通知には,権利侵害を構成することに関する初歩的証拠及び権利者のxxの身分識別情報を含めなければならない。
2 ネットワークサービスプロバイダは,通知を受け取った後,速やかに当該通知を関連するネットワーク利用者に転送し,かつ権利侵害を構成することの初歩的証拠及びサービス類型に基づいて必要な措置を講じなければならない。速やかに必要な措置を講じなかった場合,損害の拡大部分に対して,当該ネットワーク利用者と連帯責任を負う。
3 権利者が誤った通知によりネットワーク利用者又はネットワークサービスプロバイダに損害を与えた場合,権利侵害責任を負わなければならない。法律に別段の規定がある場合,その規定に従う。
第1196条【権利侵害行為不存在の声明】
ネットワーク利用者は,転送された通知を受け取った後に,権利侵害行為が存在しない旨の声明をネットワークサービスプロバイダに提出することができる。声明には権利侵害行為が存在しないことに関する初歩的証拠及びネットワーク利用者のxxの身分識別情報を含めなければならない。
2 ネットワークサービスプロバイダは,声明を受け取った後に,通知を発出した権利者に当該声明を転送し,かつ関係部門に苦情を提出し又は人民法院に訴訟を提起することができる旨を告知しなければならない。ネットワークサービスプロバイダは,転送した声明が権利者に到達してから合理的期限内に,権利者が既に苦情を提出し又は訴訟を提起した旨の通知を受け取っていない場合,講じた措置を速やかに終了しなければならない。
第1197条【ネットワークサービスプロバイダの責任】
ネットワークサービスプロバイダは,ネットワーク利用者がそのネットワークサービスを利用して他人の民事上の権益を侵害したことを知り又は知ることができたにもかかわらず,必要な措置を講じない場合,当該ネットワーク利用者と連帯責任を負う。
第1198条【公共施設管理者等の安全保障義務違反】
ホテル,ショッピングセンター,銀行,駅,飛行場,体育館,娯楽施設等の事業施設,公共施設の事業者,管理者又は大衆イベントの主催者は,安全保障義務を果たさず,他人に損害を与えた場合,権利侵害責任を負わなければならない。
2 第三者の行為が他人に損害を与えた場合,第三者が権利侵害責任を負う。事業者,管理者又は主催者は,安全保障義務を果たさない場合,相応する補充的責任を負う。事業
者,管理者又は主催者は,補充的責任を負った後に,第三者に求償することができる。
第1199条【民事行為無能力者が学習・生活期間に損害を受けた場合】
民事行為無能力者が幼稚園,学校又はその他教育機関の学習,生活期間において人身損害を受けた場合,幼稚園,学校又はその他教育機関が権利侵害責任を負わなければならない。但し,教育,管理の職責を尽くしたことを証明することができる場合,権利侵害責任を負わない。
第1200条【制限民事行為無能力者が学習・生活期間に損害を受けた場合】
制限民事行為能力者が学校又はその他教育機関の学習,生活期間において人身損害を受けた場合において,学校又はその他教育機関は,教育,管理の職責を尽くしていないとき,権利侵害責任を負わなければならない。
第1201条【民事行為無能力者・制限民事行為能力者が学習・生活期間に第三者から損
害を受けた場合】
民事行為無能力者又は制限民事行為能力者が幼稚園,学校又はその他教育機関の学習,生活期間において,幼稚園,学校又はその他教育機関以外の第三者から人身損害を受けた場合,第三者が権利侵害責任を負う。幼稚園,学校又はその他教育機関は,管理の職責を尽くしていない場合,相応する補充的責任を負う。幼稚園,学校又はその他教育機関は,補充的責任を負った後に,第三者に求償することができる。
第四章 製造物責任
第1202条【製品生産者の権利侵害責任】
製品に欠陥が存在し,他人に損害を与えた場合,生産者が権利侵害責任を負わなければならない。
第1203条【被権利侵害者による生産者・販売者に対する選択請求】
製品に欠陥が存在し,他人に損害を与えた場合,被権利侵害者は,製品の生産者に賠償を請求することができ,製品の販売者に賠償を請求することもできる。
2 製品の欠陥が生産者によるものである場合,販売者は,賠償した後に,生産者に対して求償権を有する。販売者の過失により製品に欠陥が存在する場合,生産者は,賠償した後に,販売者に対して求償権を有する。
第1204条【生産者・販売者の第三者に対する求償権】
運送者,倉庫保管者等の第三者の過失により製品に欠陥が存在し,他人に損害を与えた場合,製品の生産者,販売者は,賠償した後に,第三者に対して求償権を有する。
第1205条【生産者・販売者の侵害停止,妨害排除,危険除去等の責任】
製品の欠陥により他人の人身,財産の安全を脅かした場合,被権利侵害者は,侵害停止,妨害排除,危険除去等の権利侵害責任の負担を生産者,販売者に請求する権利を有する。
第1206条【欠陥製品に関する救済措置】
製品の投入流通が開始した後に欠陥が存在することを発見した場合,生産者,販売者
は,速やかに販売停止,警告,回収等の救済措置を講じなければならない。速やかに救済措置を講じず又は救済措置が不十分で損害が拡大した場合,拡大した損害に対しても権利侵害責任を負わなければならない。
2 前項の規定により回収措置を講じた場合,生産者,販売者は被権利侵害者がこれにより支出した必要費用を負担しなければならない。
第1207条【製造物責任中の懲罰的賠償】
製品に欠陥が存在することを明らかに知っているにもかかわらずなお生産,販売し,又は前条の規定に従って救済措置を講じず,他人に死亡又は健康に重大な損害を与えた場合,被権利侵害者は,相応する懲罰的賠償を請求する権利を有する。
第五章 自動車[机动车]交通事故責任
第1208条【自動車交通事故の帰責原則】
自動車が交通事故を発生させ,損害を与えた場合,道路交通安全法及び本法の関係規定に従って賠償責任を負う。
第1209条【賃貸借・借用等による自動車交通事故】
賃貸借,借用等の事由により自動車の所有者,管理者と使用者が同一人でない場合に,交通事故を発生して損害を与え,当該自動車側の責任に属するときは,自動車の使用者が賠償責任を負う。自動車の所有者,管理者が損害発生に対して過失がある場合,相応する賠償責任を負う。
第1210条【譲渡引渡し後,未登録自動車の交通事故】
当事者間で既に売買その他の方式で自動車を譲渡し引渡しを完了したが登録を行っていない場合に,交通事故を発生して損害を与え,当該自動車側の責任に属するときは,譲受人が賠償責任を負う。
第1211条【名義借り形式による道路運送事業活動を行う自動車の交通事故】
名義借り形式により道路運送事業活動を行う自動車が交通事故を発生して損害を与えた場合に,当該自動車側の責任に属するときは,名義を借りた者及び名義を貸した者が連帯責任を負う。
第1212条【無許可で他人の自動車を使用した交通事故の責任】
許可を得ずに他人の自動車を運転して交通事故を発生し損害を与えた場合に,当該自動車側の責任に属するときは,自動車の使用者が賠償責任を負わなければならない。自動車の所有者,管理者に過失がある場合,相応する賠償責任を負う。但し,本章に別段の規定がある場合を除く。
第1213条【自動車強制保険及び商業保険に同時加入している場合】
自動車が交通事故を発生し損害を与えた場合に,当該自動車側一方の責任に属するとき,先に自動車強制保険を引き受けた保険者が強制保険の責任限度額の範囲内で賠償する。不足する部分は,自動車商業保険を引き受けた保険者が保険契約の約定に従って賠償し,なお不足する場合,権利侵害者が賠償する。
第1214条【改造車・廃棄基準の自動車による交通事故】
売買又はその他の方式により,違法に組み立てた,又は既に廃棄基準に達した自動車を譲渡し,交通事故を発生し損害を与えた場合,譲渡人及び譲受人が連帯責任を負う。
第1215条【窃盗車両等による交通事故責任】
窃取,強取又は奪取された自動車が交通事故を発生し損害を与えた場合,窃取,強取又は奪取した者が賠償責任を負う。窃取,強取又は奪取した者と自動車の使用者が同一人でなく,交通事故を発生し損害を与え,当該自動車側一方の責任に属する場合,窃取,強取又は奪取した者及び自動車の使用者が連帯責任を負う。
2 保険者は,自動車強制保険の責任限度額の範囲内で応急処置費用を立て替えた場合,交通事故の責任者に対して求償権を有する。
第1216条【交通事故運転者が逃走した場合の被害者救済】
自動車の運転者が交通事故の発生後に逃亡した場合において,当該自動車が強制保険に加入しているときは,保険者が自動車強制保険の責任限度額の範囲内で賠償する。自動車が不明であり,当該自動車が強制保険に加入しておらず,又は応急処置費用が自動車交通事故責任強制保険の責任限度額を超え,被権利侵害者の死傷による応急処置,葬儀埋葬等の費用を支払う必要があるときは,道路交通事故社会救助基金が立替えを行う。道路交通事故社会救助基金が立替えを行った後に,その管理機構は,交通事故の責任者に対して求償権を有する。
第1217条【好意同乗時の交通事故】
非営業運行の自動車が交通事故を発生し無償搭乗者に損害を与えた場合に,当該自動車側一方の責任に属するときは,その賠償責任を軽減しなければならない。但し,自動車の使用者に故意又は重過失がある場合を除く。
第六章 医療損害責任
第1218条【医療損害責任の帰責原則】
患者が診療活動において損害を受け,医療機関又はその医療従事者に過失がある場合,医療機関が賠償責任を負う。
第1219条【医療従事者の説明義務】
医療従事者は,診療活動において,患者に対して病状及び医療措置について説明しなければならない。手術,特殊検査,特殊治療を行う必要がある場合,医療従事者は速やかに医療リスク,代替医療計画等の状況について患者に具体的に説明し,かつその明確な同意を取得しなければならない。患者に説明できない又は説明することが不適当な場合,患者の近親族に説明し,かつその明確な同意を取得しなければならない。
2 医療従事者が前項の義務を尽くさず,患者に損害を与えた場合,医療機関が賠償責任を負わなければならない。
第1220条【緊急状況下の医療措置】
危篤患者の応急処置等の緊急状況により,患者又はその近親族の意見を取得できない
場合,医療機関の責任者又は授権を受けた責任者の承認を得て,相応する医療措置を直ちに行うことができる。
第1221条【医療従事者の診療義務違反】
医療従事者が診療活動において当時の医療水準に相応する診療義務を尽くさず,患者に損害を与えた場合,医療機関が賠償責任を負わなければならない。
第1222条【医療機関の過失推定】
患者が診療活動において損害を受け,次のいずれかの状況がある場合,医療機関に過失があるものと推定する。
(一)法律,行政法規,xx及び診療規範に関するその他の規定に違反したとき
(二)紛争と関係がある診療記録を隠匿し又は提供を拒絶したとき
(三)診療記録を遺失,偽造,改ざん又は違法に廃棄したとき
第1223条【薬品欠陥・不合格血液の輸血等による損害賠償等】
薬品,消毒製品,医療機器の欠陥,又は不合格の血液の輸血により患者に損害を与えた場合,患者は,薬品上市許可保有者,生産者又は血液提供組織に賠償を請求することができ,医療機関に賠償を請求することもできる。患者が医療機関に賠償を請求した場合,医療機関は,賠償した後に,責任を負う薬品上市許可保有者,生産者又は血液提供組織に対して求償権を有する。
第1224条【医療機関が責任を負わない場合】
患者が診療活動において損害を受け,次のいずれかの状況がある場合,医療機関は,賠償責任を負わない。
(一)患者又はその近親族が医療機関による診療規範に適合する診療に協力しないとき
(二)医療従事者が危篤患者の応急処置等の緊急状況下で適正な診療の義務を既に尽くしたとき
(三)当時の医療水準に限りがあり診療が困難であるとき
2 前項第1号の事由において,医療機関又はその医療従事者に過失がある場合,相応する賠償責任を負わなければならない。
第1225条【診療記録に関する義務】
医療機関及びその医療従事者は,規定に従って入院記録,医師指示書,検査報告,手術及び麻酔記録,病理資料,看護記録,医療費用等の診療記録を記入し,適切に保管しなければならない。
2 患者が前項の規定する診療記録の閲覧,複製を請求した場合,医療機関は速やかに提供しなければならない。
第1226条【患者のプライバシー,個人情報の保護】
医療機関及びその医療従事者は,患者のプライバシー及び個人情報の秘密を保護しなければならない。患者のプライバシー及び個人情報を漏えいし又は患者の同意を得ずにその診療記録を公開した場合,権利侵害責任を負わなければならない。
第1227条【不要な検査の禁止】
医療機関及びその医療従事者は,診療規範に違反して不要な検査を行ってはならない。
第1228条【医療機関・医療従事者の合法的権益保護】
医療機関及びその医療従事者の合法的権益は,法律の保護を受ける。
2 医療の秩序を乱し,医療従事者の業務,生活を妨害し,医療従事者の合法的権益を侵害した場合,法に基づき法律責任を負わなければならない。
第七章 環境汚染及び生態環境破壊責任
第1229条【環境汚染,生態環境破壊による権利侵害責任の一般規定】
環境汚染,生態環境破壊により他人に損害を与えた場合,権利侵害者は権利侵害責任を負わなければならない。
第1230条【環境汚染・生態環境破壊の挙証責任】
環境汚染,生態環境破壊により紛争が発生した場合,行為者は法律の規定する責任の免除又は軽減の事由及びその行為と損害との因果関係不存在について挙証責任を負わなければならない。
第1231条【複数による環境汚染・生態環境破壊の責任確定】
二名以上の権利侵害者が環境汚染,生態環境破壊した場合,負担する責任の大小は,汚染物質の種類,濃度,排出量,生態破壊の方式,範囲,程度,及び行為が損害結果に及ぼした作用等の要素に基づいて確定する。
第1232条【環境汚染,生態環境破壊の懲罰的賠償】
権利侵害者が法律の規定に故意に違反し,環境汚染,生態環境を破壊して重大な結果を生じた場合,被権利侵害者は相応する懲罰的賠償を請求する権利を有する。
第1233条【第三者の過失による環境汚染,生態環境破壊の責任】
第三者の過失により環境汚染,生態環境を破壊した場合,被権利侵害者は,権利侵害者に賠償を請求することができ,第三者に対して賠償を請求することもできる。権利侵害者は,賠償した後,第三者に対して求償権を有する。
第1234条【生態環境の修復責任】
国家の規定に違反して生態環境に損害を与え,生態環境の修復が可能な場合,国家が規定する機関又は法律が規定する組織は,権利侵害者に対して合理的期限内での修復責任の負担を請求する権利を有する。権利侵害者が期限内に修復しない場合は,国家が規定する機関又は法律が規定する組織は,自ら又は他人に委託して修復することができ,その必要費用は権利侵害者が負担する。
第1235条【生態環境損害を生じた場合の賠償範囲】
国家の規定に違反して生態環境に損害を与えた場合,国家が規定する機関又は法律が規定する組織は,権利侵害者に対して,次に掲げる損害及び費用の賠償を請求する権利を有する。
(一)生態環境が受けた損害の修復が完成する期間のサービス機能喪失により生じた損害
(二)生態環境機能の永久的侵害により生じた損害
(三)生態環境損害の調査,鑑定評価等の費用
(四)汚染を除去し,生態環境を修復するための費用
(五)損害の発生及び拡大を防止するために支出した合理的費用
第八章 高度危険責任
第1236条【高度危険責任の一般規定】
高度危険作業に従事し,他人に損害を与えた場合は,権利侵害責任を負わなければならない。
第1237条【民間核施設運営組織の損害責任】
民間核施設,又は核施設に搬入搬出する核材料が原子力事故を発生し,他人に損害を与えた場合,民間核施設の運営組織が権利侵害責任を負わなければならない。但し,損害が戦争,武力衝突,暴動等の事由又は被害者の故意によるものであることを証明できる場合,責任を負わない。
第1238条【民間航空機事業者の損害責任】
民間航空機が他人に損害を与えた場合,民間航空機の事業者が権利侵害責任を負わなければならない。但し,損害が被害者の故意によるものであることを証明できる場合,責任を負わない。
第1239条【高度危険物占有者の損害責任】
引火性,爆発性,有毒性,高濃度放射性,強度腐食性,高度病原性等の高度危険物を占有又は使用し,他人に損害を与えた場合,占有者又は使用者が権利侵害責任を負わなければならない。但し,損害が被害者の故意又は不可抗力によるものであることを証明できる場合,責任を負わない。被権利侵害者が損害発生に対して重過失がある場合,占有者又は使用者の責任を軽減することができる。
第1240条【高度危険活動による損害責任】
高所,高圧,地下掘削活動に従事し又は高速軌道輸送機関を使用し,他人に損害を与えた場合,事業者が権利侵害責任を負わなければならない。但し,損害が被害者の故意又は不可抗力によるものであることを証明できる場合,責任を負わない。被権利侵害者が損害発生に対して重過失がある場合,事業者の責任を軽減することができる。
第1241条【高度危険物の遺失,投棄の損害責任】
高度危険物を遺失,投棄し,他人に損害を与えた場合,所有者が権利侵害責任を負う。所有者が高度危険物を他人に引き渡して管理させる場合,管理者が権利侵害責任を負う。所有者に過失がある場合,管理者と連帯責任を負う。
第1242条【高度危険物の不法占有者の損害責任】
高度危険物を不法に占有し,他人に損害を与えた場合は,不法占有者が権利侵害責任
を負う。所有者,管理者は,他人の不法占有を防止するために高度注意義務を果たしたことを証明できない場合,不法占有者と連帯責任を負う。
第1243条【高度危険活動区域・高度危険物保管区域の損害責任】
許可を得ずに高度危険活動区域又は高度危険物保管区域に進入して損害を受けた場合において,管理者が既に十分な安全措置を講じ,十分な警告表示義務を果たしたことを証明できるときは,責任を軽減又は免除することができる。
第1244条【高度危険責任の賠償限度額】
高度危険責任の負担について,法律が賠償限度額を規定する場合,その規定に従う。但し,行為者に故意又は重過失がある場合を除く。
第九章 飼育動物損害責任
第1245条【飼育動物による損害責任の一般規定】
飼育動物が他人に損害を与えた場合,動物の飼育者又は管理者が権利侵害責任を負わなければならない。但し,損害が被権利侵害者の故意又は重過失によるものであることを証明できる場合,責任を免除又は軽減することができる。
第1246条【動物飼育者・管理者が安全措置を講じない場合】
管理規定に違反して,動物に対して安全措置を講じないことにより他人に損害を与えた場合,動物の飼育者又は管理者が権利侵害責任を負わなければならない。但し,損害が被権利侵害者の故意によるものであることを証明できる場合,責任を軽減することができる。
第1247条【飼育禁止の危険動物飼育者・管理者の責任】
飼育が禁止されている猛犬等の危険動物が他人に損害を与えた場合,動物の飼育者又は管理者が権利侵害責任を負わなければならない。
第1248条【動物園の動物による損害責任】
動物園の動物が他人に損害を与えた場合,動物園が権利侵害責任を負わなければならない。但し,管理の職責を果たしたことを証明できる場合,権利侵害責任を負わない。
第1249条【遺棄・逃走動物による損害責任】
遺棄,逃走した動物が遺棄,逃走期間に他人に損害を与えた場合,動物の元の飼育者又は管理者が権利侵害責任を負う。
第1250条【第三者の過失による動物損害の責任負担】
第三者の過失により動物が他人に損害を与えた場合,被権利侵害者は,動物の飼育者又は管理者に賠償を請求することができ,第三者に賠償を請求することもできる。動物の飼育者又は管理者は,賠償した後に,第三者に対して求償権を有する。
第1251条【動物飼育における法令遵守等】
動物を飼育する場合,法律,法規を遵守し,社会道徳を尊重しなければならず,他人の生活を妨害してはならない。
第十章 建物及び物件損害責任
第1252条【建物等の所有者,管理者,使用者の損害責任】
建物,構築物又はその他施設が倒壊,陥没して他人に損害を与えた場合,建設業者と施工業者が連帯責任を負う。但し,建設業者と施工業者が品質上の欠陥が存在しないことを証明できる場合を除く。建設業者,施工業者は,賠償した後に,その他の責任者がある場合,その他の責任者に対して求償権を有する。
2 所有者,管理者,使用者又は第三者の原因により,建物,構築物又はその他の施設が倒壊,陥没して他人に損害を与えた場合,所有者,管理者,使用者又は第三者が権利侵害責任を負う。
第1253条【建物倒壊等による損害責任】
建物,構築物又はその他施設及びその設置物,掲げられた物が脱落,墜落して他人に損害を与えた場合,所有者,管理者又は使用者は,自己に過失がないこと証明できない場合,権利侵害責任を負わなければならない。所有者,管理者又は使用者が,賠償した後に,その他の責任者がある場合,その他の責任者に対して求償権を有する。
第1254条【高所から放擲・墜落物による損害責任】
建物の中から物品を放擲することを禁止する。建物の中から放擲された物品又は建物上から墜落した物が他人に損害を与えた場合,権利侵害者が法に基づき権利侵害責任を負わなければならない。調査を経て,具体的な権利侵害者の確定が困難であるときは,自己が権利侵害者ではないことを証明することができる場合を除き,加害の可能性がある建物の使用者が補償する。加害の可能性がある建物の使用者が補償した後,権利侵害者に対して求償権を有する。
2 不動産管理サービス企業等の建物管理者は,必要な安全保障措置を講じて,前項の規定する状況が発生することを防止しなければならない。必要な安全保障措置を講じない場合,法に基づき安全保障義務不履行の権利侵害責任を負わなければならない。
3 本条第1項の規定する状況が発生した場合,公安等の機関は法に基づき速やかに調査をし,責任者を明らかにしなければならない。
第1255条【堆積物倒壊等による損害責任】
堆積物が倒壊,転落又は滑落して他人に損害を与えた場合に,自己に過失がないことを証明できないときは,堆積者は権利侵害責任を負わなければならない。
第1256条【公共道路上の妨害物による損害責任】
公共道路上に通行を妨害する物品を堆積し,ぶちまけ,散乱させて他人に損害を与えた場合,行為者が権利侵害責任を負う。公共道路の管理者は,整理,防護,警告表示等の義務を既に尽くしたことを証明できない場合,相応する責任を負わなければならない。
第1257条【林木切断等による損害責任】
xxが折れ,倒壊し又は果実が落下する等により他人に損害を与えた場合,xxの所有者又は管理者が自己に過失がないことを証明できないときは,権利侵害責任を負わな
ければならない。
第1258条【公共の場所・道路・地下施設等の工事による損害責任】
公共の場所又は道路上での穴掘り,地下施設の修繕・設置等により他人に損害を与えた場合,施工者が既に明確な標識を設置し,安全措置を講じたことを証明できないときは,権利侵害責任を負わなければならない。
2 マンホール等の地下施設が他人に損害を与えた場合,管理の職責を果たしたことを証明することができないときは,管理者は,権利侵害責任を負わなければならない。
附 則
第1259条【期間計算の関連用語】
民法においていわゆる以上,以下,以内,満期には,当該数を含む。未満,超過,以外には当該数を含まない。
第1260条【施行日と法律廃止】
本法は2021年1月1日から施行する。中華人民共和国婚姻法,中華人民共和国相続法,中華人民共和国民法通則,中華人民共和国養子縁組法,中華人民共和国担保法,中華人民共和国契約法,中華人民共和国物権法,中華人民共和国権利侵害責任法,中華人民共和国民法総則は同時に廃止する。
第3 中国民法典に関する法整備支援
1 プロジェクト成果発表ウェビナーの実施
2021年1月27日午前(民法典関連)及び午後(専利法関連),JICA中国事務所と全国人大会議センター及び日本国内の関係機関・関係者を結んで,当プロジェクトの成果発表ウェビナーを実施した。法工委民法室による民法典の要点に関する報告資料の内容は,以下のとおりである。
『民法典の主要な制度と刷新』
2020年5月28日,第13期全国人民代表大会第3回会議において「中華人民共和国民法典」が賛成多数にて可決された。民法典は全7編1,260か条あり,各編は順に,総則,物権,契約,人格権,婚姻家庭,相続,権利侵害責任及び附則からなり,合計字数は10万6,600字余りに達する。
民法典の規定の主な内容として,民事活動において必ず遵守すべき基本原則,民事主体制度,後見人制度,民事権利制度,民事法律行為と代理制度,民事責任制度,訴訟時効制度,物権制度,契約制度,担保制度,人格権保護制度,婚姻・家族制度,養子縁組制度,相続制度,権利侵害責任制度が含まれる。これらはすべて民商事法における基礎的規範であり,各種民事関係を調整し,民事紛争を解決し,社会矛盾を解消し,社会の調和と経済社会の発展を促進するために堅実な法治の基盤が打ち立てられている。これとともに,民法典は現行の民法通則,物権法,契約法,担保法,婚姻法,養子縁組法,相続法,権利侵
害責任法に基づいて,実務経験をとりまとめ,問題解決重視を堅持し,時代の特徴を体現し,多くの制度の刷新が行われている。以下,主要な点について紹介する。
1)後見人制度を完備
総則の章に,民法総則第34条に基づき規定が追加された。すなわち,突発性事件等の緊急事態の発生に起因して,後見人が一時的に後見義務を履行できなくなり,被後見人の生活の面倒をみる者がいないという状態にある場合,被後見人の住所地の居民委員会,村民委員会又は民政部門は,被後見人に必要な臨時の生活支援措置を講じなければならない(第34条4項)。
2)所有者の建築物区分所有権制度を完備
民法典の編纂過程で提出された意見によると,現在,住宅地区の管理には,区分所有者総会,区分所有者委員会の設立等が困難,区分所有者の決議議決が困難,共有部分維持・管理資金の使用が困難,及び住宅地区内の違法行為の管理が困難である等の問題があった。この「四難」問題に対して,民法典は積極的に対応し,政府の関係部門,居民委員会に対し,区分所有者総会の設立,区分所有者委員会の選挙に対する指導と協力の職責を明確にし(第277条2項),所有権者が決定する共同事項の議決比率要件を低減し(第278条),緊急の場合に共有部分の維持・管理資金を使用する特別手続を規定し(第281条2項),関連部門が住宅地区内で発生した個人の無断の増建築等の違法行為に対し,法に基づき取り締まること等を明確にしている(第286条3項)。実施においては,住宅地区の管理は所有権者の共同管理と政府による管理を結合する理念を反映しなければならない。住宅地区内のことは,住民が法に基づき共同で所有権者の権益にかかわる事項を決定する以外に,関係部門と居民委員会も法に基づき積極的に住宅地区の管理に介入し,多くの所有権者が安心して生活を営むことのできる良好な環境を維持しなければならない。
3)用益物権制度を完備し,居住権の規定を追加
この点,物権法では,建設用地使用権,土地請負経営権,宅地使用権,地役権の4つの用益物権が規定されていたところ,民法典ではこれらを基礎として,さらに居住権という新たな用益物権が追加された。居住権とは,居住権者が契約の約定又は遺言に従って,他人の住宅を占有,使用する権利を有し,生活居住の需要を満たすものである(第
366条以下)。居住権という新しい用益物権を規定することは,民事主体の住宅保障に対する柔軟な措置を認可し保護することに有利に作用し,また特定層の居住ニーズを満たし,高齢者の老後の居住に法的根拠を提供するものである。
4)担保物権制度を完備し,ビジネス環境を最適化するための法治保障を提供
企業融資の利便化を図り,ビジネス環境を最適化するために,民法典は担保物権制度
の面で制度を刷新しており,担保契約の範囲を拡大し,所有権留保,ファイナンスリース,ファクタリング等の非典型担保契約の担保機能が明確にされている(第388条1項)。動産抵当と権利質に関する具体的な登記機関の規定内容を削除し,統一的な動産抵当及び権利質の登記制度を構築するための制度上の空白が残されている。担保物権に関する統一的な弁済ルール等が明確にされている(第414条)。
5)インターネット経済発展に適応し,電子契約の締結履行規則を完備
インターネット経済の急速な発展に伴い,ネットショッピングはすでに多くの消費者が好む購買方式となっている。そこで民法典は電子契約の締結・履行の規則を定めて,当事者の一方が情報ネットワークを通じて発した商品・サービス情報が申込条件に適合し,他方当事者が当該商品・サービスを選択し,かつ発注が成功したときに契約が成立することを明確にする(第491条2項)。宅配物流方式で引き渡される場合には,荷受人が受取り署名の時間を引渡し時間とする。電子契約の目的がサービス提供である場合には,生成された電子証明書又は実物証明書に記載された時間を引渡しの時間とする
(第512条)。
6)格式条款契約を規範化し,弱者側への保護を強化
日常生活の中で人々は頻繁に格式条款契約に遭遇する。かかる契約では,格式条款を提供する側は,通常,商品・サービスの提供者であり,強者に属する。逆に他方当事者は,一般に消費者であり,弱者に属する。消費者等の弱者の権利を保護して,格式条款契約における「落とし穴」によって弱者の権益が侵害されることのないよう,民法典では,格式条款を用いた契約を締結する場合に,格式条款を提供する側はxx原則を遵守して当事者間の権利・義務を確定し,かつ相手方に対して,その責任の免除又は軽減等相手方に重大な利害関係がある条項について,合理的な方式で相手方に注意喚起し,相手方の要求に従って当該格式条項について説明しなければならない旨を規定している
(第496条2項前段)。格式条款を提供する側が上記義務を履行しなかったことにより,相手方が自身と重大な利害関係のある条項について注意せず,又は理解できなかった場合には,相手方は当該条項が契約内容を構成しないことを主張することができる
(同項後段)。
7)四種類の典型契約の規定を追加し,典型契約制度を改善
典型契約は,市場経済活動と大衆の社会生活においてよく見られる各種契約である。契約法で規定されていた売買契約,リース契約,金銭消費貸借契約,運送契約等の15種類の典型契約を基礎として,実生活の需要に適応するために,民法典は保証契約(第
681条以下),ファクタリング契約(第761条以下),不動産管理サービス契約(第
937条以下),組合(パートナーシップ)契約(第967条以下)等の4種の新たな典型契約を追加し,典型契約の数を19種類に増やしている。
8)婚姻家庭と相続に関する制度を完備し,婚姻家庭の調和と安定を維持
家庭は社会の細胞であり,また社会の安定・調和の重要な基礎である。民法典は,現行の婚姻法,養子縁組法,相続法を基礎として,人民大衆の婚姻・家庭の権利と財産相続の権利を保障し,婚姻・家庭の調和と安定を維持することを目標として,婚姻・家庭と相続に関する制度の拡充と整備を行った。
第1に,結婚禁止の条件を修正。現行婚姻法によると医学的に結婚すべきでないと認識される疾病を持つ者の結婚を禁止するという規定が削除され(第1051条参照),一方が重大な疾病に罹っている場合,婚姻登記前に事実通りに相手方に告知しなければならず,事実通りに告知しなかった場合には,相手方は当該婚姻の取消しを請求することで,当事者の婚姻自主権を尊重することができる(第1053条)。
第2に,離婚冷静期に関する規定の追加。30日間の離婚冷静期を定めて,この期間に,いずれか一方の当事者は登記機関へ離婚申請の撤回を申請できる旨が規定された
(第1077条)。
第3に,司法解釈の関連規定を汲み取り,夫婦共同債務の認定に関する規則が追加された(第1064条)。
第4に,養子縁組制度を改善し,養子になる者が14歳以下という制限を撤廃し(第
1093条参照),養子になる者の利益を最大化する原則を定めて,養子縁組評価制度について規定し(第1105条5項),養親になる者に養子となる者の健康な成長に不利となる違法犯罪記録がないという条件に関する規定が追加された(第1098条第4号)。
第5に,遺産管理人制度を追加し(第1145~1149条),さらに遺言効力に関する規則を修正し(第1133条以下),公証遺言の効力の優先規定を削除することにより(第1142条参照),被相続人のxxの意思が尊重されている。
9)権利侵害責任制度を完備し,民事主体に対する権利救済を強化
権利侵害責任は,民事主体が他人の権益を侵害した場合に負うべき法律効果である。権利侵害責任法を基礎として,民法典では権利侵害責任の帰責原則の更なる改善が図られている。
第1に,[自甘风险]原則,すなわち「危険の引受け」ルールを確立し,一定のリスクがある文化娯楽・スポーツ活動には自由意思により参加し,その他の参加者の行為により損害を受けた場合は,被害者は故意・重過失がないその他の参加者に対して権利侵害責任の負担を請求してはならない旨が明確にされた(第1176条1項)。
第2に,「自助行為」制度が規定された。合法的権益が侵害を受け,緊迫した状況下にあり,かつ速やかに国家機関の保護を得ることができず,直ちに措置を講じなければその合法的権益が回復困難な損害を受ける場合,被害者は自己の合法的権益の保護に必要な範囲内で権利侵害者の財物を取り押さえる等の合理的措置を講じることができるが,直ちに関係する国の機関による処理を請求しなければならない旨が明確にされてい
る(第1177条)。
第3に,高所からの物品の投下・落下に関する規則を整備し,人民大衆の「頭上の安全」を保護する。まず建物から物品を投下することが明確に禁止された(第1254条
1項1文)。建物から放擲された物品又は建物上から墜落した者が他人に損害を与えた場合には,権利侵害者は法に基づいて権利侵害の責任を負う(同項2文)。かかる事件が発生した場合,公安等の機関は法律に基づいて速やかに調査し,責任者を明確にしなければならない。調査を経ても具体的な権利侵害者を特定することが困難な場合,自らが侵害者でないことを証明できる場合を除いて,加害の可能性がある建物使用者が補償する(同項3文)。加害の可能性がある建物使用者が補償した後,権利侵害者に対して求償する権利を有する(同項4文)。不動産管理サービス企業等の建築物管理者は,必要な安全措置を講じてかかる事態の発生を防止しなければならず,それに違反した場合は,法に基づき安全保障義務の不履行による権利侵害責任を負わなければならない(第
1254条2項)。
10)ウェビナー当日,法工委民法室・xxxxからは,上記報告資料に基づく説明のほかに,「第四編・人格権」に関する補足説明があった。
人格権は,民事主体がその特定の人格に対して有する権利であり,すべての人の人格尊厳に関係し,すべての人の人間らしい生活,仕事,学習と社会参加に関係する。中国の憲法で尊重され,保護される公民の人身の自由と人格の尊厳の要求を実行に移すため,民法典では人格権制度について規定する編を単独で設け,人格権の保護を強化している。これは制度の刷新であり,民法典の大きな注目点である。考慮した点は,国民の満足感,幸福感,安心感を高めることへの着目であり,民法の角度から民事主体の人格権の種類,内容,境界と保護の方法を規定し,生命権,身体権,健康権,氏名権と名称権,肖像権,名誉権,栄誉権,及びプライバシー権と個人情報保護等,具体的な人格権益の保護を全面的に規定している。
主要な点は以下のとおり。
Ⅰ 一般規定について:第四編第xx以下では,人格権の一般的規則について規定している。
① 人格権の定義が明確にされている(990条)。
② 民事主体の人格権は法律の保護を受け(991条),人格権は放棄,譲渡又は相続することはできない旨規定している(992条)。
③ 死者の人格的利益に対する保護について規定する(994条)。
④ 人格権が侵害された後の救済方式について明確に規定する(995条~
1000条)。
Ⅱ 生命権,身体権及び健康権について:第四編第二章以下では,生命権,身体権及
び健康権の具体的な内容について規定し,実務において社会の注目度が比較的高い関連問題について的を絞った規定が定められている。
① 医療衛生事業の発展を促進し,献体というxx・義挙を奨励するために,新法では行政法規の関連規定が取り入れられ,臓器提供に関する基本規則が確立されている(1006条)。
② ヒト遺伝子,ヒト胚等に関する医学及び科学研究活動を規律するために,このような活動に従事する場合に遵守すべき規則を明確にしている(1009条)。
③ 数年来,セクハラ問題が社会から比較的大きな注目を集めており,新法では既存の立法及び司法実務経験の総括内容に基づき,セクハラの認定基準,及び機関,企業,学校等の組織のセクハラ防止及び制止義務について規定する(1010条)。
Ⅲ プライバシー権及び個人情報の保護について:第四編第六章以下では,現行の関連法規定を基礎として,プライバシー権及び個人情報の保護がさらに強化され,今後,個人情報保護法を制定するための空白が確保されている。
① プライバシーの定義が規定され(1032条),他人のプライバシー権の侵害を禁止する具体的な行為が明確に列挙されている(1033条)。
② 個人情報の定義の境界が定められ,個人情報を処理する場合に準拠すべき原則及び条件が明確にされている(1034条,1035条)。
③ 自然人と情報処理者の間の基本的な権利・義務の枠組みが構築され,個人情報を処理する場合に責任を負わない特定の事由が明確にされ,個人情報の保護と公共利益の保護の間の関係の合理的均衡が図られている(1036条~1038条)。
④ 国家機関及びその職員は自然人のプライバシー及び個人情報を保護する義務を負う旨が規定されている(1039条)。
2 中国民法典編纂に関わる法整備支援の実施状況
中国民法典の編纂作業に関連して「市場経済の健全な発展とxxの保障のための法制度整備プロジェクト」(2014年6月~2021年3月)において実施したプログラムの主な内容は以下のとおりである(また前フェーズの国別研修「民事訴訟法及び民事関連法」では相続法[继承法]改正に関する現地セミナー(雲南省昆明,北京)を実施している)。
2016年
9月19日~30日“民法典编纂(民法総則)”訪日研修
・公益法人協会にてxxxx理事長『日本の非営利法人と公益法人』
・大阪弁護士会にて同会高齢者障害者支援センター運営委員会『実務における後見人制度
の運用状況』の後,大阪弁護士会役員室表敬訪問
・大阪弁護士会にて同会民法改正問題特別委員会『日本の民法改正について』
・京都大学にてxxxx教授,xxxx教授ほか『中国民法総則草案への助言,法律行為論,後見,法人制度及び日本の債権法改正について』
・日弁連にてxxxx弁護士『日本の債権法改正(総則以外の論点)について』
・東京家庭裁判所にて『家裁における後見制度の運用状況について』
・xxxx弁護士『未xx後見について』
・明治大学にて新美育文教授『日本の法人制度について』
・国民生活センターにてxxxx理事長『独立行政法人としての国民生活センターの業務内容,総括質疑』
12月21,22日 全国人大機関楼にて“民法総則中日研討会”現地セミナー5
1)民法の基本原則の法源性
2)慣習・法理の法源性
3)法人の所在地
4)寄付法人(財団法人)と公益目的
5)ネット上の仮想財産の権利性
6)消滅時効期間に関する日本の改正動向等
7)中国民法総則草案に関する意見交換
2018年
4月9日~20日“民法典分則編纂”訪日研修
・法務省にて法務省事務次官表敬訪問及び法務省民事局「債権法改正について①②」
・交通事故紛争処理センターにて新美育文教授ほか「不法行為法(交通事故等)①」
・国民生活センターにてxxxx理事長「債権法改正について③(債権者代位権・債権譲渡等)」
・京都大学にてxxxx教授,xxxx教授,xxxx教授,xxxx准教授「債権法改正について④(研究者の視点から)」
・大阪弁護士会にて民法改正特別委員会「債権法改正について⑤(実務家の視点から)」
・xxxx教授,xxxx弁護士「親族法①(婚姻家庭分野),親族法②(相続財産管理人等)」
・家庭問題情報センター(FPIC)「親族法③(婚姻家庭紛争の実務)」
・東京家庭裁判所にて「親族法④(婚姻家庭紛争の実務)」
・日弁連・xxxx弁護士「不法行為法(交通事故等)②」
5 日本側講師:新美育文教授,xxxx理事長,xxxx弁護士
2019年
1月10,11日“中日民法分則編纂研討会”現地セミナー6
1)債権の多重譲渡
2)契約の解除
3)貸金契約と利率
4)親子関係の確認・否認の手続
5)養子縁組の評価制度
6)死亡賠償金の帰属
7)中国民法典各分編(第1次草案)に関する意見交換
5月13日~24日,法工委民法xxと“民法典分則編纂”訪日研修
・個人情報保護委員会にて『個人情報保護法の概要について』
・総務省にて『個人情報保護について』
・xxxx教授『日本の個人情報保護とプライバシー権の保障』
・xxxx教授,xxxx弁護士『同居義務,離婚財産分与,人格権侵害・セクハラ』
・xxxx理事長『電子契約と民法,日本民法の最新動向等』
・東京労働局『セクシャルハラスメント予防対策について』
・大阪弁護士会にて同会民法改正特別委員会『連帯債権・債務,第三者弁済等』
・立命館大学にてxxxx教授『連帯債権・債務,第三者弁済等』
・京都弁護士会にてxxxx弁護士,xxxx弁護士『セクシャルハラスメント』
・東京家庭裁判所にて『同居義務・離婚における財産分与』
・東洋大学にてxxxx教授『環境汚染と不法行為責任』
・法務省民事局にて『日本民法の最新動向(債権法改正,相続法改正等)』
9月9,10日,全国人大常機関楼にて“中日民法分則編纂研討会”現地セミナー7
1)債権者代位権の効果
2)債権譲渡禁止特約
3)環境権利侵害(不法行為)における証明
4)自動車交通事故における帰責原則
5)分譲住宅の前売りと登記
6)加工,付合,混合
7)中国民法典各分編(第2次草案)に関する意見交換
6 日本側講師:xxxx理事長,xxxx教授,xxxx弁護士,xxxx弁護士
7 日本側講師:新美育文教授,xxxx理事長,xxxx弁護士,xxxx教授
3 結語に代えて
以上のようにプロジェクトでは,法務省,最高裁判所,日本弁護士連合会,及び国内の研究機関,先生方の多大なるご協力とご尽力により,中国民法典の編纂に関連して,日本法の関連する知見をタイムリーかつ多角的に提供することが可能となり,法理論面だけでなく司法実務にも裏打ちされた,充実した意見交換と相互学習,相互理解が実現できたものである。本紙面をお借りして,法務省法務総合研究所国際協力部をはじめとする,ご協力をいただいた全ての関係者に対し,改めて厚く御礼を申し上げて,本稿の結びといたします。