Contract
コンサルタント業を営む申立人について、外国人が発注したヨットのxxを中国地方で行う事業についてのコンサルタント契約が原発事故の影響により解消されたとして、契約解消に伴う逸失利益の賠償が認められた事例(和解案提示理由書あり。掲載番号31)。
31
平成○○年(東)第○号x x x X2ほか1名
被申立人 東京電力株式会社
和解案提示理由書
第1 和解案
被申立人は、申立人有限会社Xに対し、平成23年7月1日から平成2
5年6月30日までの逸失利益及びこれに対する弁護士費用として、金3
1,147,200円を支払う。
(中略) 第2 事案の概要
本件は、申立人X2が、○○国に本拠を置く法人A(以下「A社」という。)の日本法人B(その後合弁会社株式会社Cとなっている。以下これらを通じ「B社」という。)との間で、平成20年○月○日、○○ヨットxxに関する日本国内におけるコンサルタント契約を締結し、申立人X2がその業務を遂行することにより、当該報酬を申立人X2が代表を務める申立人有限会社X(以下「X社」といい、両申立人を合わせて「申立人ら」という。)が受け取っていたところ、平成23年3月11日に本件事故が発生したことによる○○ヨットの放射能汚染を懸念した海外の造船発注者(以下「本件発注者」という。)が日本でのxxを取り止めてヨーロッパでのxxを希望したことにより日本でのxxが中止となり、それに伴ってコンサルタント契約が平成23年6月末日をもって解消されるに至ったために、本来受領できるはずであった、平成23年7月1日から(中略)○○か月間の報酬相当額○○円及びこれに対する弁護士費用の賠償を求めるものである。
第3 当パネルの判断
1 事実関係
申立人らの説明、資料及び審理の全趣旨からは、次のとおりの事実関係が認められる。
① 本件発注者は海外に住む外国人(個人)であるが、○○国に本拠を置くA社に対し、○○ヨット((中略)。以下「本件ヨット」という。)のxxを発注した。
② A社は、日本の企業との合弁事業として、受注した本件ヨットと合わせ同型のヨットを少なくとも○隻日本においてxxする○○という
事業計画を立て、そのために日本法人であるB社を設立することとした上、平成20年○月○日、設立中の同社と、(中略)申立人X2との間で同事業推進のためのコンサルタント契約を締結した。契約内容は、(中略)というものであり、契約期間は平成20年○月○日から同年○月○日までとされた(以下「本件契約」という。)。以後、本件契約は本件ヨットのxx工事の進行に合わせて1年単位で更新され
(中略)た。なお、本件契約に基づき申立人X2が受領すべき報酬は、合意の下に申立人X社が受領していた。
この間にB社がA社の代表者であるDを代表者として設立されたが、現在は休眠状態にある。
③ 平成22年○月、B社は○県○市に乾ドッグを保有する株式会社Eとの間で、○○ヨットxxの目的で、同社がB社の株式の半数を買い取る形で合弁事業契約を締結し、商号を株式会社Cとする合弁会社を発足させた。これを受けて、合弁会社により上記乾ドッグでの本件ヨットのxxが開始された。
④ 平成23年3月11日本件事故が発生したため、本件発注者は本件ヨットが放射能で汚染されることを恐れ、日本での造船を中止しヨーロッパに場所を移してxxすることを希望した。B社の代表者Dは(中略)日本でのxxを継続するよう説得に努めたが、翻意させることができず、日本でのxxを断念するのやむなきに至った。
⑤ これに伴い、平成23年6月末日をもって本件契約が解消された。
2 相当因果関係
(1)本件ヨットは本件事故発生時には既に日本においてxxに着手し完成途上にあったものであり、そのさなかに本件事故が発生したのであるから、海外に在住する外国人である本件発注者が放射能汚染を懸念して日本でのxxを中止するようA社に申し入れたのは、海外在住の外国人一般の反応として無理からぬところがあり、やむを得ない行動であったというべきである。また、受注者であるA社が発注者のこのような事情の下におけるxx中止の申し入れを受け入れて日本での造船を取り止めたのも、やむを得ないことであったというべきである。そうすると、その結果生じた損害については本件事故との間に相当因果関係があるものと認めることができる。このことは中間指針第7、5、Ⅱ)の趣旨にも合致するものである。
(2)本件契約は、本件発注者による造船注文を日本で履行するために締結されたものであって、日本での造船が取り止めになれば本件契約も必要のないものとなる関係であるといえる。このことは、本件契約上申立人 X2に求められるコンサルティング業務が専ら日本における○○ヨットのxxというプロジェクトを支障なく円滑に進めるためのxx、多方面にわたる準備、調整、折衝等の活動であったことに照らし、また、B社が、本件発注者による造船注文をA社が受けた後に初めて、専らその造
船事業を行うための日本法人として設立されたものであることや、同社が本件事故後現在に至るまで休眠状態にあることからも明らかである。このように、本件契約が本件発注者による造船注文を前提としこれに 依存しているという実態に照らせば、日本での造船中止に伴う本件契約解消によって申立人X2に生じた損害も、本件事故と相当因果関係のあ
る損害と認められるというべきである。
(3)被申立人は大要、①造船が本件事故発生地から遠く離れた○県○市で行われており本件発注者による日本での造船中止要請は合理的な行動とはいえないこと、②本件契約の主体が日本法人であるB社であって中間指針第7、5が基礎とする日本と海外との情報格差が観念できないこと、③申立人X2は本件契約の履行の一環として日本での造船に本件事故による放射能汚染の恐れがないことの情報提供をすべきであったところこれを行わなかったこと、を主張して相当因果関係を否定する。
しかしながら、
①については、一般に外国に在住する外国人に対し、日本において発生した原子力発電所の事故による放射能の影響が日本国内のどの地域に及び又は及ばないかについて正確な認識と的確な判断を要求するのは極めて困難であって、本件発注者個人についても例外ではないと考えられるから、本件発注者による造船中止要請を不合理なものということはできない。中間指針第7、5も、輸出品の製造地について日本国内の地域いかんによる限定を行っていない。
②については、日本法人であるB社と申立人X2との間に成立した本 件契約と、本件発注者による造船の注文とA社による受注によって成立 した造船契約とは、上述のように後者あっての前者という関係すなわち 後者が解消されれば前者も存続し得なくなるという関係にあり、かつ契 約当事者が異なるのであるから、被申立人主張のように本件契約の主体 如何が本件契約解消によって生じた損害と本件事故との間の相当因果関 係の有無に影響を与えるということは認める余地がないといわなければ ならない。もっとも、前者の契約当事者であるB社と後者の契約当事者 であるA社とは代表者を同じくするので、B社の代表者の地位において 情報を掌握していることをもってA社の代表者の立場に関わるものとし て事実上の影響を考慮する余地がないとはいえないとしても、上記事実 関係に明らかなように、B社の代表者Dは本件発注者に対し翻意を促し て説得の努力を尽くしたが、それにもかかわらず本件発注者は翻意しな かったのであり、このように本件発注者の強い意志により本件契約の前 提である日本における造船の事業が中止され解消したとの事実の下では、日本法人が本件契約の当事者であることの一事をもって情報格差の有無 を論ずる被申立人の上記主張は相当でないといわなければならない。
③については、申立人X2が本件契約の相手方当事者でない本件ヨットのxx契約の当事者である本件発注者に対し、本件契約上の義務とし
て被申立人主張のような情報提供義務を負うとする根拠が必ずしも明らかでない上、仮にそのような情報提供義務があったとしても、上記事実関係の下では、とりわけ直接の契約当事者であるA社の代表者でさえ説得に努めながら本件発注者の翻意を得ることができなかった事実からすると、相当因果関係の有無の判断には影響しないというべきである。 以上のとおり、相当因果関係を否定する被申立人の主張はいずれも理由
がなく、採用できない。
よって、上述の理由により本件契約の解消によって発生した損害と本件事故との間の相当因果関係を認めるべきである。
(以下、省略)
平成26年10月1日
原子力損害賠償紛争解決センター
x x 委 員 x x x x