以上のXの請求原因に対し、Yは錯誤無効を抗弁として主張したところ、一審判決は、錯誤無効を全面的に認めXの請求を棄却した1。これに対し、控訴審判決は、信用保証2 については全部棄却したが、信用保証1については一部認容した。そこで、錯誤無効の要件事実にそって一審判決と控訴審判決の事実整理(主張整理)を対比してみていこう。
信用保証協会が締結した保証契約の主たる債務者が反社会的勢力であった場合と当該保証契約の錯誤無効の成否に関する裁判例
岡山大学大学院法務研究科教授(弁護士)
x x x x
第1審 神戸地裁姫路支部判平成24年6月29日金判1396号35頁控訴審 大阪高裁判平成25年3月22日金判1415号16頁
[事案の概要]
本件は、姫路信用金庫(原告、控訴人。以下、「X」という。)が、反社会的勢力であった主債務者(山口組系暴力団組長。以下、「A」という。)に対して2件の貸付け(貸金合計550万円)を行ったが、その貸付けにつき信用保証した兵庫県信用保証協会(被告、被控訴人。以下、「Y」という。)に対し、保証契約に基づく保証債務履行請求として、残元金および利息の合計479万 7471円及び内金477万9000円に対する弁済期(保証債務履行請求日)の翌日である平成23年8月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による支払いを求め、Yは、上記保証契約当時、Yは、主債務者が反社会的勢力でないと信じていたので、同契約は錯誤により無効であると主張して請求を棄却するように求めた事案である。
第1 はじめに
岡山大学大学院法務研究科に着任以来、民事系の演習科目として民法演習1(契約法演習)、民法演習2(金融取引法演習)などを担当している。そこで実務と理論の架橋という法科大学院の理念に合致した実務的かつ基礎理論的な内容が含まれている判例・裁判例がないか常に意識し検討していたところ本裁判例は、金融取引の最前線においても民法の意思表示の基礎的な理解と知識が重要であることを学生に認識させ、実務的にもここから何を学ぶべきかを考える力を養う教材事案となりうるものとして紹介することにした。
第2 請求と訴訟物
1 Xはどのような請求をしているのか
請求の趣旨は、「被告(Y)は、原告(X)に対し、479万7471円及び内金477万9000円に対する平成23年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え」である。
民法演習において大切なことは、学生に請求(効果)から考える癖をつけさせることである。事
案分析において、原告と被告をまず確定させる。次に、原告は、どのような請求を本件事案で行っているのかを学生に尋ねることから演習はスタートする。原告は、金を払えといっているのか、物を引き渡せといっているのか。登記を移転しろといっているのか等である。
2 訴訟物は何か
演習において、当事者及び請求について学生の回答が出たら、次は訴訟物の確定である。民法系の演習は、実際はこの訴訟物の確定が出発点である。なお、ここでいう「訴訟物」は、最も狭義の意味であって、実体法上の個別的・具体的な請求権を意味する。
本件事案の訴訟物は、保証契約に基づく保証債務履行請求権である。
この「訴訟物」のところでは、学生に対し、ⅰ)連帯の約定の位置づけ、ⅱ)主たる債務の利息や遅延損害金と保証債務の訴訟物の個数(民法447条1項)などを質問し確認することになる。訴訟物の検討の次は、主張を整理し、請求原因や抗弁等の検討に移ることになる。
第3 主張の整理
1 請求原因
請求原因事実では、特定請求原因と理由づけ請求原因の区別について確認することからはじまる。そして、理由づけ請求原因を検討することになる。
⑴ 要件事実
保証債務履行請求権の要件事実は次のようになる。
① 主債務の発生原因事実
② 保証契約を締結したこと
③ ②の保証意思が書面(または電磁的記録)によること
本件では、金銭消費貸借契約が主債務の発生原因となるので、演習ではあわせて金銭消費貸借契約の要件事実も確認することになる。特に貸借型理論の当否についての検討が必要となる。
⑵ 請求原因事実
ア 主債務の発生原因事実
本件においてXのAに対する貸付けは、2つある。ここでは要件事実の具体的事実摘示を記載しないが、演習においては、どのような事実摘示となるかを具体的に検討する。XのAに対する貸付けは、平成22年8月3日付けの400万円(以下、「貸付1」とする。)と、同年10月28日付けの150万円(以下、「貸付2」とする。)である。
イ 本件保証契約 YとXとの間の信用保証については、貸付1に対し、平成22年7月28日に、貸付2に対して
は、同年10月26日に、それぞれ書面により保証するとの合意がなされている。ここでは具体的
な事実摘示は記載しないが、演習においては、どのような事実摘示となるかを検討することになる。
なお、貸付1に対する信用保証は、AがYに対して保証を委託し、Yの審査を経た後、Yが Xに対し、融資を幹旋する「協会斡旋保証」によるものである(以下、「信用保証1」とする。)。貸付2に対する信用保証は、AがXに対して融資申込みをし、Xの審査を経た後、XがYに対 し、信用保証を依頼する「金融機関経由保証」によるものである(以下、「信用保証2」とする。)。
ウ 期限の利益の喪失と保証債務の履行請求 Aは、平成23年6月10日、本件貸付けの貸金返還等債務の弁済を怠っており、Xは、Aに対
し、本訴状の送達をもって期限の利益を喪失させるとの意思表示をしている。なお、訴状の送達日は、同年9月26日である。そして、Xは、Yに対し、平成23年8月4日到達の書面で、本件保証契約に基づき、本件貸付1について、残元金(主たる債務)349万6000円、利息1万
3840円(同年5月11日から同年8月3日までの年1.7%の割合による利息)、本件貸付2について、残元金(主たる債務)128万3000円、利息4631円(同年5月11日から同年8月3日までの年1.55%の割合による利息)の合計479万7471円の保証債務を履行するよう求めた。
エ 以上から、Xは、Yに対し、保証契約に基づき、残元金及び利息の合計479万7471円及び内金477万9000円に対する弁済期(保証債務履行請求日)の翌日である平成23年8月5日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。
2 抗弁(錯誤無効)
以上のXの請求原因に対し、Yは錯誤無効を抗弁として主張したところ、一審判決は、錯誤無効を全面的に認めXの請求を棄却した1。これに対し、控訴審判決は、信用保証2については全部棄却したが、信用保証1については一部認容した。そこで、錯誤無効の要件事実にそって一審判決と控訴審判決の事実整理(主張整理)を対比してみていこう。
⑴ 要件事実
① 意思表示の錯誤であること
② その錯誤が法律行為の要素に関するものであること
③ 動機が相手方に表示されたこと
ここでは、動機の錯誤に関し伝統的錯誤論と有力説(xx的構成)の説明を学生に求めることになる2。要件構成がどのように異なってくるのかを理解させるのがポイントとなる。また、法律行為の「要素」の意義についても確認する。
1 履行遅滞の起算日と保証債務の制限についても争われているが、本稿では取り上げない。
2 xxxx『民法の基礎1(総則)第3版』153頁乃至167頁およびxxxx『民法講義1(総則)』179頁乃至205頁参照
⑵ Yの主張事実
ア 錯誤
[高裁]
Yは、Aの表明等に基づいて、Aが反社会的勢力ではないものと信用し、これを前提として本件各信用保証に応じたものであり、本件各信用保証には錯誤があった3。
イ 要素の錯誤
[高裁]
反社会的勢力との関係遮断を強く求めている現在の社会情勢、及びYの公共的性格(下記x x)からすれば、主債務者が反社会的勢力でないことは、Yが本件各信用保証を行うにあたり、法律行為の要素となっていたものである。
記 Yの信用保証は、公的資金を利用して中小事業者の借入を支援する制度であるため、公的資
金を利用して支援するにふさわしい事業者であるか否かが極めて重要な判断要素になり、資力に問題がなければ信用保証するというものではない。
[地裁]
反社会的勢力の存在を許容せず、事業活動における反社会的勢力との関係遮断を強く求めている現在の社会情勢や被告の公的性格からすれば、保証することにより反社会的勢力の活動を資金的に支援することは到底許されることではなく、Yが、Aが反社会的勢力であることを認識していれば保証しなかったことは明らかであり、Aが反社会的勢力であったことは、要素の錯誤である。
※ここでは、保証契約における主たる債務者の属性がそもそも要素の錯誤となりうるのかという論点も学生になげかけて検討させる必要がある4。
ウ 動機の錯誤(表示)
[高裁]
仮に、主債務者が反社会的勢力ではないことは動機の問題であるという考え方をとるにしても、Yが反社会的勢力との取引に応じないことは対外的に広く表明しているところであるし、そのことはXにおいて十分認識されているのであるから、動機の表示に欠けるところはない。
[地裁]
Yが本件保証契約に際しAが反社会的勢力でないことを動機としていたことは、Yが配布しているリーフレット等によって明示されていたということができるし、X自身が反社会的勢力
3 錯誤以外に公序良俗違反を理由とする無効も認められるのではないかという点も検討課題にあがるがここではとりあげない(金融・商事判例1396号37頁参照)。
4 xxx『民法総則』300頁参照
との関係遮断の取組みを行っているところ、Xは、Yにおいても同様の取組みを行っており、反社会的勢力について保証しない方針であることを当然に認識していたのであって、少なくとも黙示に表示されていたということができる。よって、Aが反社会的勢力でないので保証するということは、意思表示の内容となっていた。
3 Xの再抗弁1(重過失)
⑴ Xの主張
[高裁]
仮に、本件各信用保証について錯誤が成立するとしても、本件各貸付はYの協会斡旋保証により始まったものであり、Yは、Aの属性について、自ら厳格に審査すべき義務があったのであるから、これを怠り、反社会的勢力ではないと軽信したYには、重過失がある。
[地裁]
本件はYがXに対してAを斡旋したという事案であり、Yは、Aの属性について自ら厳格に審査すべき義務があったにもかかわらず、これを怠り、Aが反社会的勢力ではないと軽信して保証したのであるから、重過失があった。
⑵ Xの主張に対するYの反論
[高裁]
Yは、独自に収集した情報に基づき構築したデータベースと照合する等して、Aの属性について審査をしており、その審査に欠けるところがあったものでない。このことは、XもAが反社会的勢力ではないと信じて融資したことに照らしても明らかである。
なお、YのデータベースにAの情報が登録されていなかったのは、Aの所属する暴力団の所在地が熊本市であったことによると考えられる。また、Aが申告していた経歴等には、Aが熊本市で活動していたことを窺わせる事情は存せず、Yに重過失があったものとはいえない。
[地裁]
XもAの属性について自ら適切に審査した上でAが反社会的勢力ではないと信じたことからすれば、Yが反社会的勢力ではないと信じたことは、軽信ではなく、適切な審査を行った上であるといえるのであり、重過失はなかった。
また、本件貸付け2については、YがXに対してAを斡旋したものではなく、XがYに対して保証するように依頼した事案であり、Xの主張はそもそもその前提を欠く。
※ここでは、規範的要件事実についての理解を確認する5。なお次のxxx違反でも同様である。
5 xxxx「規範的要件の要件事実」(判例タイムズ1387号24頁以下)参照のこと。
4 Xの再抗弁2(xxx違反)
⑴ Xの再抗弁
[高裁]
(ア) 仮に、本件各信用保証につき、錯誤が認められるとしても、Yは、自ら審査の上、信用保証することを約して、XにAを斡旋したものであり、Aが反社会的勢力であることを看過した自らの責任をXにのみ転嫁するのは、xxxに反する。
なお、信用保証は、中小企業者の事業活動の展開のために、反復・継続的になされることが当然に予定されているものであり、本件信用保証2は、協会斡旋保証であった本件信用保証1の延長上にあるものと評価できる。
(イ) xxx違反を認める割合
本件は、XとYが「ともに騙された」ものであり、契約締結の経緯、契約文言、当事者間のxx等の観点から、どちらが貸し倒れリスクを負担すべきかを検討すべき事案である。
本件各信用保証が協会斡旋保証であること、控訴人と被控訴人との間の基本約定書においてYが免責される場合は限定列挙されており、本件各信用保証にかかる信用保証書にも被保証者が反社会的勢力であることについては記載がないこと、Yは神戸市6から保証料を受領したままであり、本件各信用保証により利益を得ていること、Yの回収不能リスクに備えて公的資金が投入され、損失を最小限にする制度が整備されていること等を考慮すると、本件各貸付における貸し倒れリスクは、Yにおいて全額負担するのが契約xxにも適うところである。
[地裁]
Yは自らの審査が不適切であったために、Aが反社会的勢力であることを看過したのであり、一方、Xは神戸市による中小企業支援事業に協力すべく本件貸付けを行ったにすぎないのであって、保証債務を負わないとするのは、Yが自らの審査不十分を棚に上げてXにその責任を転嫁するもので契約xxに著しく反する。また、Yが神戸市より相応の保証料を受領していること、反社会的勢力であることによってYが想定外の過大なリスクを新たに負担するものではないことからすれば、保証債務を負わないとするのは、Yを過剰に保護するものでxxに反する。さらに、被斡旋者(保証委託者)が反社会的勢力であると事後的に判明したことをもってYが保証債務を負わないことになれば、Xは今後、Yからの斡旋保証事案について融資を躊躇することになるのであり、ひいては神戸市の中小企業支援事業を阻害する結果となる。
以上に照らせば、Yが錯誤無効を主張することは、xxxに反する。
6 本件各貸付は、いずれも神戸市が策定する中小企業融資制度のひとつである「小規模企業おうえん融資」によるものである。
⑵ YのXの再抗弁に対する反論
[高裁]
(ア) 錯誤無効を主張することがxxに反するものではない
主たる債務者が反社会的勢力であることが判明した場合、直ちに取引の解消を図ろうとすることは、社会的に是認されている取り組みであり、融資実行後に判明した事情に基づいて Yが錯誤無効を主張することは、何らxxに反するものではない。
(イ) 協会斡旋保証であることについて a 本件信用保証1について
Xは、本件信用保証1が協会斡旋保証であることを根拠のひとつとして、xxx違反の主張をするが、協会斡旋保証は、Xに融資を義務づけるものではなく、Xによる与信審査の要否や内容に影響を与えるものではないから、本件信用保証1が協会斡旋保証であることは、Yの錯誤無効の主張が制約される根拠となるものではない。
b 本件信用保証2について
また、本件信用保証2は、金融機関経由保証であり、協会斡旋保証によるものではなく、 Xが、本件貸付1とは別個の独自の判断に基づく本件貸付2につき、依頼を受けて信用保 証をしたものである。本件信用保証2が本件信用保証1の延長上にあると評価されるもの ではない。
(ウ) 信用保証料について Yは、信用保証料について、神戸市に返還すべきか否かについては慎重に取り扱うべきも
のと考えており、本件訴訟の結論を待たずに神戸市に返還を行うことは予定していない。しかしながら、保証料の返還については、保証料を負担した者との関係において問題とすべきであり、Xとの関係において問題とすべきものではない。現時点において保証料が返還されていないからといって、錯誤無効の主張がxxx違反であるとするのは、妥当な結論ではない。
[地裁]
Yによる斡旋はXに対して融資を義務づけるものではない上、XはAが反社会的勢力でないかなどについて独自に審査しており、斡旋に応じて融資を行うかは専らXの経営判断の問題といえるのであって、Yが錯誤無効を主張することは、本件がYからの斡旋保証事案であることにより何ら妨げられるものではない。
以上に照らせば、Yが錯誤無効を主張することは、xxxに反しない。
第4 学生の検討と裁判所の判断の比較
上記のような事実整理を行った後で、学生にどのような結論が妥当なのかを検討させ、そのための法律構成を考えさせる。その後、地裁と高裁の判断について確認し、その妥当性に関しさらに検討を加えていくことになる。地裁はYの錯誤無効の主張について重過失を否定し、xxx違反も認めなかったが、協会斡旋保証の部分についてこの結論が妥当なのかが問題となる。高裁判決は、地裁同様に重過失は認めなかったが、金融機関経由保証と協会斡旋保証の違いに着目し、協会斡旋保証の部分については、Xのxxx違反の主張を認め、双方の調査の程度(金融機関側の反社会的勢力の審査において融資先事務所訪問がなされていなかった点)を勘案して保証債務請求の二分の一についてYは履行拒絶できないとしたが、保証の経緯で区別することと、必要な調査をしたか否かをメルクマールとしたことの当否が検討課題となる。地裁と高裁の判断をみておこう。
1 地裁の判断
地裁の判断の概要は以下のとおりである。
⑴ 動機の錯誤について
「Aが反社会的勢力でないので保証するということが意思表示の内容となっていたかについて検討するに」、「反社会的勢力排除は社会全体の流れであり、その流れの中で行われていた関係遮断の取組みの一つであるYが反社会的勢力について保証しないことは、少なくともYと取引関係にある金融機関には広く表明されていたと考えられること」、「Xも反社会的勢力との関係遮断の取組みを行っていたのであり、・・・ それが社会全体の流れであったことを併せ考えると、Xが、 Yにおいては反社会的勢力との関係継続が許されるなどと考える余地はないこと」、「確かに本件保証契約にかかる信用保証書には反社会的勢力排除についての規定はないが、それは単に直接の契約当事者であるX及びYが反社会的勢力でないことが明らかであったからにすぎないと考えられ、・・・ 本件金銭消費貸借契約及び本件保証契約にかかる委託契約においては反社会的勢力排除が規定されていたことも併せ考えると、本件保証契約においてのみ保証委託者が反社会的勢力であるかどうか問題にしない前提であったとは到底考えられないことなどに照らせば、Xは、Yが反社会的勢力について保証しないことを当然認識していたといえる。」
そうすると、たとえYが本件保証契約に際しAが反社会的勢力でないので保証するという動機を明示的に表示したことがなくとも、かかる動機は、本件保証契約の当然の前提となっていた、又は、黙示に表示されていたというべきである。
よって、Aが反社会的勢力でないので保証するということは、意思表示の内容となっていたと認められる。
⑵ 要素の錯誤について
「Aが反社会的勢力であったことが要素の錯誤であるかについて検討する」、「Aが反社会的勢
力でないことは本件保証契約の当然の前提となっていたと認められることに加え、・・・ 反社会的勢力排除は社会全体の要請であり、ましてや、・・・ Yが公的性格を有している以上、Yが反社会的勢力について保証することなど到底許されることではないと認められる」、「そもそもYによる保証はその公的性格から利用できる者が制限されており、弁済能力や信用力に問題がなければ誰でもよいというわけではないことなどに照らせば、一般の取引通念に照らして、Yは、Aが反社会的勢力であることを認識していれば保証することはなかったといえる。」
よって、Aが反社会的勢力であったことは、要素の錯誤であると認められる。
⑶ 重過失について
「YにAが反社会的勢力ではないと信じたことに重過失があったかについて検討するに、Xは、本件がYによる斡旋保証事案であることを指摘するのみで、審査の懈怠を基礎づける具体的事実について何ら主張・立証しておらず、Yに重過失があったと認めるに足りる証拠はない」、「Xも Aの属性について自ら審査した上でAが反社会的勢力ではないと信じたと認められ、かえって、 X及びY双方とも適切な審査を行ったが、それでもAが反社会的勢力ではないと信じたとも考えられる。」
よって、YにAが反社会的勢力ではないと信じたことに重過失があったとは認められない。
⑷ xxx違反について7
「Yが錯誤無効を主張することがxxxに反するかについて検討するに、Xは、Yが自らの審査不十分を棚に上げ、中小企業支援事業に協力したにすぎないXにその責任を転嫁して保証債務を負わないとするのは、契約xxに著しく反すると主張する。しかしながら、・・・ そもそもYの審査が不十分であったとは認められない上、XもAの属性について自ら審査した上でAが反社会的勢力ではないと信じて本件貸付けを行ったと認められるのであり、その判断は単に中小企業支援事業に協力したというものではなく、独自の経営判断といえるのであって、Xの主張は、その前提を異にするもので採用できない」、「Xは、Yは想定外の過大なリスクを新たに負担するものではなく、保証債務を負わないとするのは、xxに反するとも主張する。しかしながら、Xが主張するところのxxとは、要するに、ともにAに騙されたにもかかわらず、Yが保証債務を負わず、Xのみが貸金等を回収できないのはxxに反するというに尽きるところ、上記のとおり、本件貸付けはXの独自の経営判断によるものであり、回収できないのはXの自己責任であるといえ
7 Xは、民法96条3項類推適用の主張もしているが、地裁は、「Xは、AがYを騙した点を捉えて、民法96条2項を類推適用して詐欺の事実を知らないXには錯誤無効を主張できないとすべき旨も主張するが(なお、Xは民法96条
3項を類推適用すべきとしているが、Xは本件保証契約の当事者であり「第三者」ではないのであって、民法96条
3項は直接には問題とならないというべきである。)、民法は、錯誤と詐欺のそれぞれについて相互に独立した制度として異なった要件をもって規律し、表意者の保護と相手方又は第三者の保護との均衡を保っているのであって、錯誤無効の主張を、第三者の詐欺による意思表示における善意の相手方保護の要件をもって妨げることは許されないというべきである」と判示して退けている。
ることに加え、本件保証契約が無効となってYから回収できなくとも、本来は、Xは本件金銭消費貸借契約について錯誤等による無効を主張してAから回収できるのであり、それが本件ではたまたまAに弁済能力がなく回収できないことから不xxなように見えるにすぎないこと、保証契約が何らかの理由により無効となることは保証委託者が反社会的勢力であると事後的に判明した場合に限られないところ、Xの主張によれば、想定外の過大なリスクを新たに負担するものではない以上、いかなる場合であっても無効を主張できないというに等しくなってしまうことなどに照らせば、xxに反するとはいえないというべきである。そして、この点は、・・・ Yが神戸市より保証料を受領していることによっても、左右されないといえる」
よって、Yが錯誤無効を主張することは、xxxに反しないと認められる。
2 高裁の判断
高裁の判断の概要は以下のとおりである。
⑴ 錯誤関係の検討
ア 錯誤無効について
(ア)反社会的勢力との関係遮断の取り組み
「現在の日本社会において、企業活動から反社会的勢力を排除しようとする要請は強く、特に、金融取引の分野では、反社会的勢力の活動への資金的支援となることを防止するためにも、反 社会的勢力との関係遮断が強く求められている。さらに、公的資金を利用して信用保証を行う Yに対しては、公的資金の適正な運用との観点からも、反社会的勢力との関係遮断が求められ ているところである。」、「XとYは、いずれも、こうした社会的要請や金融庁等による監督指 針を踏まえて、反社会的勢力との取引を未然に防止するための取り組みや、反社会的勢力との 取引であることが判明した場合には、これを拒絶する取り組みを行っているところであり、反 社会的勢力であることが判明していれば、融資や信用保証の申込みを受けたとしても、これに 応ずることがないことは明らかである。」
(イ)要素の錯誤について
「そうしてみると、Yが信用保証を行うに際し、被保証者が反社会的勢力ではないことは当然の前提となっているものというべきであり、本件各信用保証の相手方であるXにおいても、十分認識しているものである。」、「しかるに、・・・ Yは、Aが反社会的勢力であることを知らずに本件各信用保証をしたのであるから、本件各信用保証は要素の錯誤があったものと認められ、無効というべきである。」
x 重過失の有無について
「次の各事実に照らせば、Yには、Aが反社会的勢力であることが分からなかったことについて、重過失が存するものと認めることはできない。」、「(ア)Yは、本件各信用保証をするに
あたり、Yの構築したデータベースとの照合を行ったが、Aが反社会的勢力に該当するとの結果は得られなかった。(イ)Yは、本件信用保証1に先立ち、Aの事務所を訪問する等して、 Aの信用性を調査したが、Aが反社会的勢力に該当することを疑わせる事情は認められなかった。(ウ)Xが、本件貸付1をするにあたり、Xの構築したデータベースと照合した際にも、同様に、Aが反社会的勢力に該当するとの結果は得られなかった。(エ)Aに関する情報がいずれのデータベースにも登録されていなかったのは、Aの所属する暴力団が熊本市に事務所を有するものであったとの、地理的要因によるものと考えられる。また、AがXやYに申告していた経歴等において、Aが熊本市で活動をしていたことを窺わせる事情は存しなかった。」
⑵ xxx違反の検討
ア 本件信用保証1について
(ア)協会斡旋保証であること
本件信用保証1は、Aから信用保証委託の申込みを受けたYが、融資及び信用保証の適否について第1次的に審査を行った上で、信用保証に応ずることを決定し、Xに対して融資を斡旋した事案(協会斡旋保証事案)である。
(イ)保証債務の履行を全部免れることは著しくxxに反すること
協会斡旋保証の事案であるからといって、金融機関として融資に応ずる義務があるわけではなく、融資の適否については、金融機関が、自らの責任において、独自の審査を経て判断すべきものであるが、融資及び信用保証を行うことに問題がないと判断して、XにAへの融資を斡旋したYが、同じく、融資を行うことに問題がないと判断して融資を実行したXに対し、錯誤無効を主張して、その保証債務の履行を全部免れることについては、著しくxxに反すると評価せざるを得ない。
すなわち、反社会的勢力との関係遮断を求められているYが、Aが反社会的勢力であることを見抜けなかった、にもかかわらず、Aとの融資及び信用保証を行うことに問題がないと判断して、Aに対する融資案件をXに斡旋し、保証料として16万3680円を受領しておきながら、Aが反社会的勢力であることが判明するや、本件信用保証1の錯誤無効を主張して、その保証債務の履行を全面的に免れることについては、健全な社会常識を備えた通常人の良識に著しく反する。
(ウ)xxx違反を認める割合について
そして、上記(ア)(イ)の検討に加え、・・・ 当事者双方の担当者は、いずれも、Aに面談して聴取り調査をし、内部のデーターベースを利用して、Aが反社会的勢力に該当しないか調査をしているが、Y担当者は、それだけには留まらず、Aが営む建設業の事務所を直接訪問して調査を行った上、Aが反社会的勢力であることを疑わせる事情は認められないと判断したのに対し、Xは、Cの事業所を訪問した上での調査まではしていないことも考慮すれば、YがX
の履行請求の2分の1(本件貸金1の残元金と利息の合計350万9840円の2分の1に相当する 175万4920円)について、錯誤無効を主張して履行を拒絶することは、xxxないしxxの観念に照らして許されないものと認めるのが相当である。」
イ 本件信用保証2について
(ア) 金融機関経由保証であること
a 本件信用保証2は、Aから融資の申込みを受けたXが、融資の適否について第1次的に審査を行った上で、Yに対し、信用保証を依頼した事案(金融機関経由保証)である。
b この点、Xは、本件信用保証2につき、本件信用保証1の延長上にあると評価できると主張する。
しかしながら、本件貸付2は、XがAから、本件貸付1と別個の機会に、別個の動機によ る融資の申込みを受けたものであり、主債務者や利用する融資制度等が共通するにすぎない。
本件信用保証2(金融機関経由保証)については、X自身が、Aに対する融資適格性について新たに審査を行った上で、融資の可否を判断しているものであって、本件信用保証1(協会斡旋融資)と同視しうるものとは認められない。
(イ) Xの融資審査
Xは、Aから新たな融資の申込みを受けて行った本件貸付2の融資審査に際しては、本件貸付1の債権者として、Aの本件貸付1の返済状況や預金残高の状況等に関する情報を有していたものであるし、地域の金融機関であるXが、Aの事務所訪問等を行うことについて格別の支障があるとは考えにくい。
Xは、自らの判断で行った融資審査の結果、融資相当と判断し、Yに対し、Aについて、業歴は浅いが、安定した受注先を確保しており、代表者は真面目で仕事熱心である等との金融機関所見を伝えて、信用保証を依頼したものである。
(ウ)総括
以上の認定判断、殊に本件信用保証2は金融機関経由保証であり、Xは自らの判断で行った審査により融資相当と判断し、Yに信用保証を依頼したものであることに照らせば、YがXの履行請求に対して、錯誤無効を主張して履行を拒絶することが、xxxないしxxの観念に照らして許されないとの評価をすることはできない。」
3 検討
一審は、Yの錯誤無効の主張を認め、錯誤無効の主張がxxxに反するというXの主張も排斥し請求を全面的に棄却したが、控訴審は、錯誤無効の主張は認めたが、信用保証1と信用保証2を区別し、信用保証1についてはxxxないしxxの観点から一部認容し、信用保証2については全部棄却している。この当否を論じさせるが、その際、協会斡旋融資と金融機関経由保証でそれぞれに
要求される審査の程度が異なるのか。必要とされる調査を尽くしたといえるのかなどを検討することになる。
その際、一審判決によると、協会斡旋保証事案については、Yが「金融機関に対して斡旋する場合、まず、Yが、金融機関に対し、被斡旋者の氏名や生年月日等の情報を通知して、斡旋に応じるか意向を打診し、打診を受けた金融機関は、Yから提供された情報に基づいて簡易な審査を実施して、回答する。金融機関が斡旋に応じると回答した場合には、Yは、金融機関に対し、信用保証書を発行し、それとともに、金融機関における融資審査のために必要となる信用保証委託申込書、決算書及び資金使途を示す書類等の写しを交付する。金融機関は、Yから提供された上記資料や独自に入手した資料に基づいて融資を行うか審査し、被斡旋者が反社会的勢力でないかについても、独自に審査するとともに、被斡旋者に反社会的勢力に該当しないことの表明を求めている」と認定されている。控訴審判決によると、「斡旋された金融機関に斡旋に応じる義務があるか」については、「信用保証協会から融資を斡旋された金融機関は、斡旋に応じる義務を負うものではなく、金融機関として独自の審査を経て融資の可否を判断するものであるが、信用保証協会が公的保証機関として信用性が極めて高いことや、中小企業者に対する金融円滑化の観点等から、実務としては、特段の事情がない限り、融資が実行され」、「XとYとの間において、協会斡旋保証を受けていながら融資が実行されなかった事例は、平成22年度に1例存する。これは、Yが信用保証書を発行した後に、借入希望者が事業のために必要となる許認可を取り消されたことが判明したことによるものである」と認定されているが、この実態とそれぞれの実際の審査の内容に応じて考える必要がある。
第5 実務との関連
今日においては、反社会的勢力を排除や関係を遮断することが強く求められている。反社会的勢力に対する貸付がなされた場合の回収の責任をいずれが負担するのかが、本件事案の隠れた争点である。反社会的勢力からの回収をいかに行うのかが重要であるが、それは困難をともなうからだ。本事案は、反社会的勢力に対する貸付を回避するにはどうしたらよかったのか、そして融資審査はどうあるべきかを考える一つの症例として読み解く必要があるだろう。金融取引実務では反社会的勢力をいかに遮断し排除するかのxxが求められているのである。
【参考文献】
本判決の評釈として以下のものがある。
1 地裁判決に関し
xxxx「銀行法務21」No.750(2012年10月号)46頁以下xxxx「銀行法務21」No.753(2013年1月号)58頁以下xxxx「銀行法務21」No.756(2013年3月増刊号)45頁
2 高裁判決に関し
xxxx「銀行法務21」No.758(2013年5月号)1頁xxxx「銀行法務21」No.758(2013年5月号)58頁