独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)は、2016 年4月から産学連携知的財産アドバイザー派遣事業(本事業)を行ってきました。本事業のプロジェクト支援の過程の中で、産学連携知財アドバイザー(産学連携知財 ♙D)が得た経験と知見に基づいて、産学連携プロジェクトに参画する関係者(研究者、コーディネーター・UR♙・産学連携担当者、産学連携知財 ♙D等)が、事業化を目指す産学連携プロジェクトを円滑かつ効果的に推進するために必要と思われる事項について、2019 年 4...
産学連携知的財産アドバイザー派遣事業
産学連携プロジェクト⽀援マニュアル資料編(共同研究契約)
(2022.3)
目 次
○ はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
○ 支援マニュアル資料
共同研究契約に関する資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
〇 はじめに
独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)は、2016 年4月から産学連携知的財産アドバイザー派遣事業(本事業)を行ってきました。本事業のプロジェクト支援の過程の中で、産学連携知財アドバイザー(産学連携知財 ♙D)が得た経験と知見に基づいて、産学連携プロジェクトに参画する関係者(研究者、コーディネーター・UR♙・産学連携担当者、産学連携知財 ♙D等)が、事業化を目指す産学連携プロジェクトを円滑かつ効果的に推進するために必要と思われる事項について、2019 年 4 月に「産学連携プロジェクト支援マニュアル」として本編と資料編をまとめ、2021 年 4 月にそれぞれ改訂版をまとめて紹介してきました。
本冊子は、「産学連携プロジェクト支援マニュアル資料編」に追加する項目として、「共同研究契約に関する資料」をまとめて紹介するものです。一部、INPIT が行った「(初級)知的財産権研修」の中の「知的財産に関する契約について」の使用教材を参考にしています。
今後、INPIT におきましては、事業化を目指す産学連携プロジェクトの支援活動の過程で得られた知見等に基づき、本支援マニュアルの改善を図ってまいります。本支援マニュアルが、産学連携を推進される大学及び企業の関係者の皆様のご参考となれば幸いです。
【事業参画アドバイザー】
産学連携知的財産アドバイザー | xx | xx | (一般社団法人 | 発明推進協会) |
xx | xx | (一般社団法人 | 発明推進協会) | |
xx | xx | (一般社団法人 | 発明推進協会) | |
xx | xx | (一般社団法人 | 発明推進協会) | |
xx | xx | (一般社団法人 | 発明推進協会) | |
xx | xx | (一般社団法人 | 発明推進協会) | |
x | x | (一般社団法人 | 発明推進協会) | |
xx | xx | (一般社団法人 | 発明推進協会) | |
xx | x | (一般社団法人 | 発明推進協会) | |
xx | xx | (一般社団法人 | 発明推進協会) | |
統括産学連携知的財産アドバイザー | xx | xx | (独立行政法人 | 工業所有権情報・研修館) |
事務局 | xx | xx | (一般社団法人 | 発明推進協会) |
【資料名称】:「共同研究契約に関する資料」
【共同研究契約の趣旨】
共同研究は、複数の当事者が共同で特定の研究目的を持ち、それぞれ有する技術や専門知識を持ち寄り、一定期間、共同で(分担する場合もある。)研究業務を遂行し、ある研究成果を得ることを目的に行うものである。共同研究契約は、そこで得られた研究成果についての取扱い等についての基本的考え方を確認しておくためのものである。
【共同研究契約の条項等】
28.損害賠償
29.契約の有効期間
以下は、必要に応じて共同研究契約の検討対
象となり得るその他の条項
14.研究の完了又は中止等に伴う研究経費等の取扱い
その他の参考情報
12.研究の終了
11.研究の中止又は期間の延長
40.モデル契約書
20.実施料等
39.さくらツール
19.持ち分の譲渡等
18.第三者に対する実施の許諾
38.データの取扱い
17.独占的実施
37.安全保障貿易管理
16.外国出願等
36.生命倫理等
15.知的財産権の出願等
35.知的財産権の維持保全
34.第三者との共同研究の制限
13.実績報告書の作成
33.第三者への委託禁止
32.後文等
10.施設・設備の提供等
31.裁判管轄
9.研究経費により取得した設備等の帰属
30.協議
8.経理
7.研究経費の納付
6.研究経費の負担
27.反社会的勢力の排除
5.ノウハウの指定
26.解約
4.共同研究に従事する者
25.研究協力者の参加及び協力
3.研究期間
24.研究成果の取扱い
2.共同研究の題目等
23.秘密の保持
1.定義
22.情報交換・進行状況報告
0-2.研究項目表
21.特許料等
0-1.前文
【共同研究契約の各条項等に関するコメント】
本資料の「1)例文」は、「2)解説」の理解のために示した例文であり、ひな形を提供するものではない。大学で所有するひな形があればそれを基本としながら、解説を踏まえた対応をしていただきたい。
0-1.前文
1)例文
〇〇大学法人○○大学(以下「甲」という。)と○○株式会社(以下「乙」という。)は、以下の研究項目表に掲げる共同研究の実施に関し、次の各条のとおり共同研究契約を締結する。
2)解説
・当事者として義務を負う主体を明確にする。
・当事者の意図及び契約履行の意思を確認する。
・法人格を確認する(株式会社、有限会社、国立大学法人、独立行政法人・・・)。私立大学は法人格を有していないので、学校法人である○○学園等を当事者とするべきである。
・個人は、相続問題等の観点から当事者として不適格であり、できるだけ当事者に加えない方が良い。
・通常は、2~3 の当事者が多いと思われるが、公的資金投入の委託契約に基づく共同研究の場合、10 を超える当事者の場合もある。
0-2.研究項目表
1)例文
(研究項目表)
項 目 | x x | ||||
1.研究題目 | |||||
2.研究目的・内容 | |||||
3.研究担当者 (注1) | 区分 | 氏 名 | 所属・職名 | 研究分担 | |
甲 | |||||
乙 | |||||
備考 | (注1)甲乙の研究代表者には、氏名に※印を付すこと。 | ||||
4.研究協力者 | 区分 | 氏 名 | 所属または在籍 | 役割分担 | |
甲 | |||||
乙 | |||||
5.研究期間 | ○○年○○月○○日から●●年●●月●●日まで | ||||
6.研究実施場所 | 甲 | ||||
乙 | |||||
7.研究経費の負担 (注2) | 区 分 | 甲 | 乙 | ||
直 | 接 経 費 | 円 | |||
間 | 接 経 費 | 円 | |||
人 件 費 相 当 額 | 円 | ||||
戦略的産学連携費 | 円 | ||||
合 | 計 | 円 | |||
備 | 考 (注2)消費税額・地方消費税額を含む金額を 記入すること。 | ||||
8.研究費振込期限 | 請求書到着後30日以内 | ||||
9.施設・設備 | 区分 | 名称 | 規格 | 数量 | |
甲 | |||||
乙 | |||||
備考 | 上段は乙が使用する甲の施設・設備を、下段は甲が使用する乙 所有の施設・設備を記入すること。 |
2)解説
・共同研究の対象範囲(scope)と方法(manner)を明確にする。後に生み出される研究成果と密接に関係することから、より具体的に、研究題目(テーマ)、研究目的、研究内容、研究分担、研究期間、研究実施場所等を明記する。
・共同研究を円滑に推進すること及び後日契約についての争いになった際の対応を考慮し、次の点に留意しておきたい。
-目的には、共同で実施することの趣旨・狙いを織り込む(相互補完・補強・スピードアップ゚・・・)。
-研究内容は、できるだけ具体的に明記し、他の研究の範囲との区分を明確にする。
-研究を段階的に推進する必要がある場合は、第 1 ステップ、第 2 ステップ・・・ごとに明記する。
-研究分担は、個別の研究項目ごとに、研究業務の分担責任を明確にする。
(例)◎責任者・実施者、○実施者、△協力者
・大学と企業の共同研究の場合、基礎的研究が中心となることから、研究の大部分は大学側で実施し、企業側の研究員が協力する形が多い。
・注 1 研究代表者には※印を、学外共同研究員には◎印を付す。
・注 2 間接経費として、直接経費(直接研究に必要な経費)の 10~30%を計上する(比率は大学によって異なる。)。間接経費は、○○大学の研究環境の改善、産学官連携の機能xxxを目的に充てることとする。
1.定義
1)例文
第 1 条(定義)
本契約書において、次に掲げる用語は次の定義によるものとする。
(1)「研究成果」とは、本契約に基づき得られたもので、本共同研究の目的に関係する発明、考案、意匠、著作物(プログラム及びデータベースに係るものに限る。)、成果有体物(実験動物、試薬、材料、サンプル等、論文、講演その他の著作物等に関するものを除く)、ノウハウ等の技術的成果をいう。
(2)「知的財産権」とは、次に掲げるものをいう。
イ 特許法(昭和 34 年法律第 121 号)に規定する特許権、実用新案法(昭和 34 年法律第
123 号)に規定する実用新案権、意匠法(昭和 34 年法律第 125 号)に規定する意匠権、
商標法(昭和 34 年法律第 127 号)に規定する商標権、半導体集積回路の回路配置に関
する法律(昭和 60 年法律第 43 号)に規定する回路配置利用権、種苗法(平成 10 年法
律第 83 号)に規定する育成者権及び外国における上記各権利に相当する権利
ロ 特許法に規定する特許を受ける権利、実用新案法に規定する実用新案登録を受ける権利、意匠法に規定する意匠登録を受ける権利、商標法に規定する商標登録を受ける権利、半導体集積回路の回路配置に関する法律第 3 条第 1 項に規定する回路配置利用
権の設定の登録を受ける権利、種苗法第 3 条に規定する品種登録を受ける地位及び外国における上記各権利に相当する権利
ハ 著作xx(昭和 45 年法律第 48 号)に規定するプログラムの著作物及びデータベースの著作物(以下「プログラム等」という。)に係る著作権並びに外国における上記各権利に相当する権利
ニ 秘匿することが可能な技術情報であって、かつ、財産的価値のあるものの中から、甲乙協議の上、特に指定するもの(以下「ノウハウ」という。)
(3)「発明等」とは、特許権の対象となるものについては発明、実用新案権の対象となるものについては考案、意匠権、回路配置利用権及びプログラム等の著作物の対象となるものについては創作、商標権の対象となるものについては商標、育成者権の対象となるものについては育成並びにノウハウの対象となるものについては案出をいう。
(4)「知的財産権の実施」とは、特許法第 2 条第 3 項に定める行為、実用新案法第 2 条第 3
項に定める行為、意匠法第 2 条第 3 項に定める行為、商標法第 2 条第 3 項に定める行
為、半導体集積回路の回路配置に関する法律第 2 条第 3 項に定める行為、種苗法第 2 条
第 5 項に定める行為、著作xx第 2 条第 1 項第 15 号及び同項第 19 号に定める行為並びにノウハウの使用をいう。
(5)「研究担当者」とは、本共同研究に従事する甲又は乙に属する本契約の研究項目表に掲げる者及び第 4 条第 3 項に該当する者をいう。また、「研究協力者」とは、本契約の研
究項目表に掲げる者及び第 4 条第 3 項記載以外の者であって、第 25 条に従って本共同
研究に協力する者をいう。「研究代表者」とは、本契約の第 4 条第 2 項に基づき指名される者であって甲及び乙それぞれで行われる本共同研究を総括する者をいう。「学外共同研究員」とは、乙の研究担当者のうち本契約に基づき甲の研究実施場所において本共同研究に従事するものをいう。
2)解説
・契約書の中で度々使用される語句及び語義に幅がある語句は、あらかじめ定義しておくことで、各条項の内容を明確にできる。
・共同研究の成果に含まれる知的財産にはいろいろな種類があり、それぞれ権利保護の根拠となる法律がある。これらの関係を明確にしておく。
・研究の内容により、知的財産権の対象範囲を①発明、考案及び意匠、②プログラム著作物及びデータベース著作物、③ノウハウ、④商標、⑤半導体回路配置、⑥種苗のうち、いくつかのものに限定することもある。
・例文では、成果有体物に関し、研究者の研究の現状を考慮してバイオ研究マテリアルに限定することなく広く定義をしている。
・コンピューターにおいて処理の対象となる記号化・数字化されたデータは無体物として扱われる。このデータは、民法上、所有権や占有権の対象とはならず、所有権や占有権の概念に基づいてデータに係る権利の有無を定めることはできないことから、データの保護は原則として利害関係者間の契約において規定する必要がある(「38.データの取扱い」(34 ページ)を参照方)。なお、有体物に記録された実験データ等は有体物として取り扱われ(P.7 の研究成果の図参照)、所有権が存在し、その所有権の帰属を規定することができる。
・すべての研究成果の自社帰属を要求する企業が多いが、そのような企業に対しては、下図の様に研究成果を図式化して、xx的に帰属を決められないことを認識して貰う必要がある。
○研究成果が、特殊な金属・薬剤・動物、ラボノート等の有体物(動産)の場合は、共同研究契約は特別法(強行規定がある法律)での規制もなく、民法を含め一般法でも関連条文はないので、契約でその帰属を定めておけばよく、また定めておくべきである。研究成果が無体物の場合も、その帰属について民法上の解釈規定はない。
○発明・考案(特許法2条1項等)に該当する場合、職務発明であれば、特別法である特許法の職務発明規定がその帰属を規定し、自由発明(職務発明以外の発明)の場合は、民法・特許法にも解釈規定がないので、契約でその帰属を定める必要がある(但し、自由発明についての予約承継は無効)。
○著作物に該当する場合、職務著作であれば,特別法である著作xxの職務著作規定がその帰属を規定する。なお、職務発明であり且つ職務著作であることもあるので(例えば,ソフトウェアの成果物)、その帰属が異なると複雑な関係で生じてしまうため、契約条項が重要である。
○営業秘密(特に技術上の情報)の場合、職務発明の部分(出願しないもの)、職務著作の部分、技術的思想の創作とは評価できないようなもの(例えば,職人技のようなもの)等が複合している。営業秘密のうち、職務発明や職務著作に属する部分については特別法でその帰属を解釈することも可能であるが、それ以外の部分については、特別法もなく、一般法(民法)でも特に帰属の有無についての解釈指針を見いだすことはできないので、やはり契約条項が重要となる。
研究成果
有体物
無体物
ノウハウ(秘匿可能で財産的価値)
Ex.専門的技術・手法、情報、経験
発明・考案など(技術的思想)
成果有体物(学術的・技術的価値)
Ex.マテリアル
実験データ(有体物に記録されたもの)ラボノート
著作物(創作的表現)
Ex.プログラム、データベース論文、書籍
2.共同研究の題目等
1)例文
第 2 条(共同研究の題目等)
1 甲及び乙は、研究項目表に記載した共同研究を実施するものとする。
2 研究スケジュール(※研究の進行予定を詳細に記す必要がある場合に記載)
3 その他(※特記事項がある場合に記載)
2)解説
・共同研究に関する主な内容は研究項目表に記載する(0-2.研究項目表(4 ページ)を参照方)。
3.研究期間
1)例文
第 3 条(研究期間)
本共同研究の研究期間は研究項目表 5.に記載の通りとする。
2)解説
・例文では、研究期間と契約の有効期間を同一にしているが(第 29 条参照)、研究前の準備期間及び研究終了後の研究成果をまとめる期間等を考慮すると、契約の有効期間は、研究期間+αが望ましい(「29.契約の有効期間」(30 ページ)を参照方)。
4.共同研究に従事する者
1)例文
第 4 条(共同研究に従事する者)
1 甲及び乙は、それぞれ研究項目表に掲げる者を本共同研究の研究担当者として、研究における役割を明確にして参加させるものとする。ただし、合理的な理由がある場合には、研究担当者及び研究における役割について変更又は追加を行うことができる。
2 前項に規定する甲及び乙の研究担当者のうち、甲及び乙はそれぞれ各 1 名を研究代表者として指名する。
3 甲は、乙の研究担当者のうち甲の研究実施場所において本共同研究に従事させる者を学外共同研究員として受け入れるものとする。
4 甲及び乙は、研究担当者の変更又は追加を行う場合には、あらかじめ相手方に書面により通知するものとする。
2)解説
・例文では、研究担当者の役割の明確化に言及しているが、研究を効果的に推進し、成果に対する個人的寄与度を明確にさせる趣旨である。当事者相互から、研究の進捗状況によっては、研究者の変更を求める根拠ともなり得る。
・例文では、乙(学外機関等)から、学外共同研究員を受け入れることを想定している。受入費用については、研究項目表に「研究経費の負担」に項目を設け、乙(企業)が負担する金額を規定する。金額や徴収時期について、予め学内の共同研究規定等により定めておくと企業側も納得しやすい。金額は 1 名半年で 220,000 円程度の大学がある。
5.ノウハウの指定
1)例文
第 5 条(ノウハウの指定)
1 甲及び乙は、協議の上、研究成果のうち、ノウハウに該当するものについて、速やかに指定するものとする。
2 ノウハウの指定に当たっては、秘匿すべき期間を明示するものとする。
3 前項の秘匿すべき期間は、甲乙協議の上決定するものとし、原則として、本共同研究終了の翌日から起算して X 年間とする。ただし、指定後において必要があるときは、甲乙協議の上、秘匿すべき期間を延長し、又は短縮することができる。
2)解説
・xxxxは、一般に「特許xxの対象とならない技術情報のうち、秘匿が可能なものであって、かつ財産的価値のあるもの」(第 1 条(2)ニ参照)を指す。具体的な例で言うと、製造技術、設計図、実験データ、研究レポート等が考えられる。
・不正競争防止法に規定される営業秘密に該当する。①秘密として管理されている②有用性がある③公然と知られていないことが要件となる。
・指定に際しては、紙ファイルや電子データで特定し、秘密資料であることの目印をし、物理的に把握できる状況にしておく必要がある。
・例文の 3 項の秘匿期間は研究項目表に項目を設けて記載してもよい。
・例文では、ノウハウの財産的価値を維持する観点から、研究成果の公表(第 24 条参照)の対象から除外することとしている。
・研究開発の過程で生み出されるデータの取り扱いに関しては、「38.データの取扱い」(34 ページ)を参照方。
6.研究経費の負担
1)例文
第 6 条(研究経費の負担)
1 甲は、研究項目表区分甲に掲げる研究経費を負担するものとする。
2 乙は、研究項目表区分乙に掲げる研究経費を負担するものとする。
2)解説
・大学の場合、研究経費は、直接経費と間接経費に分けて積算される。直接経費若しくは間接経費の中に、本来であれば学内研究者(教授・准教授等)の人件費も計上されるべきであるが、慣行的に(教育と研究が本務であり、共同研究はそれに含まれないとの認識と思われる。)計上されていない。改善すべき点であろう。
・なお、「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン平成 28 年 11 月 30 日イノベーション促進産学官対話会議事務局[文部科学省高等教育局/文部科学省科学技術・学術政策局/経済産業相産業技術環境局]」において、大学と企業との「組織」対「組織」の「本格的な共同研究」に向けた産学官の挑戦の観点から、費用面の積算に当たり、大学研究者の人件費を考慮すべき要素として記述されており、例示された「名古屋大学 指定共同研究制度(概要)」の中に、「アワー・レートによる積算例」が記載されている。さらに、「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン【追補版】[令和 2 年6月30日文部科学省/経済産業省]」では、アワー・レートの算出にあたっては、人件費に加え、大学研究者の能力や期待される共同研究の成果またはこれまでの研究実績等の「研究者の価値」も考慮すべき要素として示された。これらの「戦略的産学連携経費」については、今後、各大学においても計上する方向で検討が進められることになると思われる。
・「知的財産推進計画 2019」において、次の方針が示されるようになった。「企業の事業戦略に深く関わる大型共同研究の集中的なマネジメント体制の構築(オープンイノベーション機構)、非競争領域における複数企業との共同研究等(OPER♙)の推進により、オープンイノベーションの最大化に向けた大学における体制整備等を推進する。(工程表 50 番)」上記ガイドラインの流れであろう。
・上記に関連し、文部科学省・JST 資金が、大手の大学のオープンイノベーション機構創設(12大学)と大型産学連携 PJ(19PJ)に投じられている(R1.1.31 現在)。
OPER♙: Program on Open Innovation Platform with Enterprises, Rerearch Institute and
♙cademia 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム
・間接経費については、一般の企業と同様に、大学であってもその運営に要する一般管理費が必要となり、それ以外にも付随的に費用が発生する。直接経費の 10~30%を目安としているところが多いが、30%が標準になりつつあると思われる。大学間で競争となる研究テーマの場合、ディスカウントを余儀なくされるケースもある。
・本契約書では、本契約書研究項目表の2)解説(注 2)に「間接経費として、直接経費(直接研究に必要な経費)の 10%~30%を計上する。間接経費は、○○大学の研究環境の改善、産学官連携の機能向上等を目的に充てることとする。」と記載している。
・共同研究に要する「ひと」「もの」「かね」の負担は、基本的には当事者間で対等になされるべきである。
・当事者間で、その負担に差が生じる場合は、研究成果に係る権利の持分割合に反映されるべきである。
7.研究経費の納付
1)例文
第 7 条(研究経費の納入)
1 乙は、研究項目表 7.の区分乙に掲げる研究経費を甲の発する請求書により、当該請求書の発行の日から起算して 20 日以内に納入しなければならない。
2 乙が所定の納入期限までに前項の研究経費を納入しないときは、納入期限の翌日から納入の日までの日数に応じ、その未納額に年 3%の割合で計算した延滞金を納入しなければならない。
2)解説
・「当該請求書の発行の日から起算して 20 日以内に」は「当該請求書に定める支配期限までに」として柔軟にしてもよいと思われる。
・民間同士の共同研究の場合、遅延損害金の条項を特に定めることはないと思われるが、大学の場合、資金フローを円滑に行うため(国の時代からの慣行で)設定していることが多いと考えられる。
・2020 年 4 月より、民法(債権関係)改正法により、法定利率は、5%から 3%に改定されている。
8.経理
1)例文
第 8 条(経理)
前条の研究経費の経理は甲が行うものとする。ただし、乙は本契約に関する経理書類の閲覧を甲に申し出ることができる。甲は乙からの閲覧の申し出があった場合、これに応じなければならない。
2)解説
・経理の透明度を高めるための共同研究先の帳簿閲覧権の設定であり、公平性に留意した条項である。このような条項がない場合も多いと思われる。
9.研究経費により取得した設備等の帰属
1)例文
第 9 条(研究経費により取得した設備等の帰属)
研究項目表に掲げる研究経費により取得した設備等は、甲に帰属するものとする。
2)解説
・研究経費により取得した動産・不動産の所有権が大学にあることを明確にしている。
10.施設・設備の提供等
1)例文
第 10 条(施設・設備の提供等)
1 甲及び乙は、研究項目表に掲げる施設・設備を本共同研究の用に供するものとする。
2 甲は、本共同研究の用に供するため、乙から研究項目に掲げる乙の所有に係る設備を無償で受け入れ、共同で使用するものとする。なお、甲は、乙から受け入れた設備について、その据付完了の時から返還に係る作業が開始される時まで善良なる管理者の注意義務をもってその保管にあたらなければならない。
3 前項に規定する設備の搬入及び据付けに要する経費は、乙の負担とする。
2)解説
・「善良なる管理者の注意義務(略して善管注意義務)」は民法 400 条の規定であり、「自己の財産におけるのと同一の注意」よりも注意を払って管理する必要があるということを意味する。
・施設・設備を無償で受け入れた大学の善管注意義務を明確にしており、公平性に留意した条項である。
・研究完了又は中止等に伴い、乙から提供を受けた設備の返還手続きに関しては、第 14 条 3 項に記載がある。
11.研究の中止又は期間の延長
1)例文
第 11 条(研究の中止又は期間の延長)
1 甲及び乙は、天災その他やむを得ない事由があるときは、相手方と協議した上で、本共同研究を中止し、又は当該協議により相手方との間で合意した場合には本共同研究の研究期間を延長することができる。この場合において、甲及び乙は、相手方に対し、中止または延長の責めを負わないものとする。
2 甲は、甲の本研究担当者等の退職又は他機関への異動により、本共同研究の実施の継続が困難になったと認められるときは、乙と協議した上で、本共同研究を中止することができる。この場合において、甲は、乙に対し、中止の責めを負わないものとする。
2)解説
・天災その他研究遂行上止むを得ない事由があるときは、甲乙協議の上研究の中止又は期間の延長を行なうことができる。
・大学側の研究担当者等の退職/異動により共同研究の継続が困難になったときも、企業側と協議した上で研究の中止を行うことができる。
・係る事由に基づく損害については、両当事者の免責を規定している。
・研究が途中で保留状態になった場合には、延長せずに一旦中止又は終了して、他の企業等との研究の妨げにならないように留意しておく。
12.研究の終了
1)例文
第 12 条(研究の終了)
本共同研究は、以下のいずれかの事由が生じた時点において、終了するものとする。
(1)研究項目表 5.記載の研究期間が満了した場合
(2)研究期間満了前に研究項目表 2.記載の研究目的が達成又は実現されたと甲及び乙が合意した場合
(3)第 26 条により、本契約が解除された場合
(4)甲及び乙が本共同研究の終了を合意した場合
2)解説
・本共同研究が終了する事由を列挙している。
・本共同研究の研究目的の達成又は実現が不可能又は著しく困難であることが判明し、大学と企業がその旨を合意した場合も(4)で終了することができる。
13.実績報告書の作成
1)例文
第 13 条(実績報告書の作成)
1 甲及び乙は、双方協力して、本共同研究の実施期間中に得られた研究成果について、実績報告書を本共同研究終了日の翌日から 30 日以内に取りまとめるものとする。
2 前項に基づき取りまとめられる実績報告書は 2 部作成するものとし、甲及び乙がそれぞれ保管するものとする。
2)解説
・実績報告書の様式は、当事者同士の協議で定められる例が多いと思われる。
・研究終了後一定期間内に報告する必要があることから、それまで定期的(四半期・半年単位等)に研究成果を確認するステップを踏むことが望ましい。
・技術的あるいは学術的知見の報告の視点のほか、知的財産の視点からのまとめをしておくことで、知的財産権の扱いを的確に確認できる。
・書面で確認し、文書ファイルや電子データとして保存できるようにする。
・例文では、共同研究期間終了後 30 日以内に報告書を作成することとしている。
・例文では、成果自体についての帰属についての規定はないが(知的財産権の帰属については第
15 条参照)、これをあらかじめ規定しておくこともある。その場合は、次の点に留意したい。
-研究成果に至る過程におけるお互いの貢献度が、あらかじめ五分五分であると予測できる場合は、原則共有とすることでよい。
-状況により、単独成果又は共有成果が生じ得る場合は、原則共有という規定ではなく、単独成果か共有成果かを確認する規定にする必要がある。
-単独の成果であることを主張する側は、相手方に対し書面で合理的に説明できる準備が必要である。
14.研究の完了又は中止等に伴う研究経費等の取扱い
1)例文
第 14 条(研究の完了又は中止等に伴う研究経費等の取扱い)
1 本共同研究を終了し、又は第 11 条の規定により、本共同研究を中止した場合において、第 7 条第 1 項の規定により納入された研究経費の額に不用が生じた場合は、乙は、甲に対し不用となった額の返還を請求できる。甲は乙からの返還請求があった場合、これに応じなければならない。
2 甲は、研究期間の延長により納入された研究経費に不足を生じるおそれが発生した場合には、直ちに乙に書面により通知し、甲及び乙は、不足する研究経費の負担について協議するものとする。この場合において、乙が、当該不足額の追加負担をしないときは、甲は、乙との協議の結果 を踏まえ、本共同研究を中止することができる。
3 甲は、本共同研究を終了し、又は中止したときには、第 10 条第 2 項の規定により乙から受け入れた設備を研究の終了又は中止の時点の状態で乙に返還するものとする。この場合において、撤去及び搬出に要する経費は、乙の負担とする。
2)解説
・不用となった研究費用の精算、研究経費が不足した場合の扱いについての規定である。両当事者間で、研究内容の進捗状況、研究成果等を考慮の上協議決定することになろう。
・「不用となった場合、本学が返還することができる。」と規定してあるひな形があるが、これは企業から不評を買っていた。
・乙から提供を受けた設備の返還手続きの規定もある。
15.知的財産権の出願等
1)例文
第 15 条(知的財産権の出願等)
1 甲及び乙は、本共同研究の実施に伴い発明等が生じた場合には、速やかに相手方に通知しなければならない。
2 甲及び乙は、本共同研究の実施により得られた知的財産権が、自己の研究担当者又は研究協力者に帰属する場合(その知的財産権が共有である場合も含む。)、甲及び乙それぞれの規則等によりその承継を受けるものとする。
3 甲又は乙はそれぞれ、自己に属する研究担当者又は研究協力者が、本共同研究を行う過程で、単独で発明等を行った場合は、単独で出願等の手続を行うことができるものとする。
ただし、当該発明等に係る知的財産権(著作権及びノウハウを除く。以下本条において同じ。)に関する出願等の前に、あらかじめ相手方の確認を得るものとする。この場合、出願手続き及び権利保全に要する費用は、出願等を行おうとする者が負担するものとする。
4 甲及び乙は、甲に属する研究担当者及び乙に属する研究担当者が本共同研究の結果共同して発明等を行った場合、当該発明等に係る知的財産権に関する出願等を行おうとするときは、当該知的財産権に係る甲及び乙の持分を協議して定めた上で、別途締結する共同出願等契約にしたがって共同して出願等を行うものとする。
ただし、甲又は乙が当該知的財産権を相手方から承継し、単独で所有するに至った場合は、甲又は乙は単独で出願等を行うことができるものとする。この場合、出願手続き及び権利保全に要する費用は、出願等を行おうとする者が負担するものとする。
5 著作権及びノウハウの取扱いについては、第 5 条に規定するもののほか、甲乙協議の上、別に定めることができる。
2)解説
・発明者になり得る者に関しては、発明の成立過程を着想の提供(課題の提供又は課題解決の方向付け)と着想の具体化の2段階に分け、各段階について実質上の協力者の有無を次のように判断する。提供した着想が新しい場合は、着想(提供)者は発明者である。また、新着想を具体化した者は、その具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り、共同発明者である。単なる管理者・補助者又は後援者等は共同発明者ではない。以下の者は、共同発明者ではない。
例 1)部下の研究者に対して一般的管理をした者、たとえば、具体的着想を示さず単に通常のテーマを与えた者又は発明の過程において単に一般的な助言・指導を与えた者(単なる管理者)
例 2)研究者の指示に従い、単にデータをまとめた者又は実験を行った者(単なる補助者)例 3)発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えたりすることにより、発明の完成
を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者)
・共同発明者は、共同発明者間の協議により、発明寄与度を定める。
・共同発明者は、原始的に、特許を受ける権利を取得する。各発明者は、特許を受ける権利の持分を譲渡可能である。ただし、職務発明について就業規則等により使用者(大学・企業)に特許を受ける権利を取得させることが定められている場合は、原始的に特許を受ける権利は使用者が取得する(特許法 35 条第 3 項)。
・実際の特許等の出願に際しての共同出願人の間の特許を受ける権利の持ち分に関しては、発明寄与度、権利の確保、維持、活用等の観点からの貢献度を考慮して定めることになる。
なお、医学部との共同研究において、医学部の当事者が発明に寄与しない場合でも、ニーズを提供した場合には、当事者同士の話し合いにより、特許を受ける権利を有する者から、その権利の一部を医学部の当事者の所属する大学に譲渡し、共有とする場合がある。
・共同発明者が特許を受ける権利の持分を譲渡しても発明者名誉権(発明者掲載権:パリ条約4条の3)は譲渡できないことに注意を要する。例えば、外部機関に試験を依頼した時に、試験結果に対して予定しない改善のアドバイスがあり、そのアドバイスに発明が含まれている場合、その外部機関の当事者が発明者になり得る。外部機関の当事者から特許を受ける権利の譲渡を受けたとしても、特許出願時などには、発明者として記載を要することに留意する。
・例文では、単独発明については、一方の当事者が、相手方の事前の確認の下で単独で出願することができるとしており、共同発明については、出願の段階で相互の持分を協議の上、共同出願契約を締結することとしている。
・共有発明について、甲(大学)と乙(企業)の持分比率は、原則として発明に対する真の貢献度に応じてきめるべきものである。(発明者の人数比率で決めない。)
・単独発明か共有発明に関して、次のように規定することもある。
「甲又は乙が単独でなした発明等に係る本知的財産権~甲乙それぞれの単独所有とする。」
「共有の本知的財産権は、甲乙それぞれの発明者の当該発明に対する寄与度及び甲乙双方の貢献度を踏まえて甲乙協議のうえ決定された持分において共有するものとする。」
・甲(大学)の単独発明に係る単独特許出願及び甲及び乙(企業)の共同発明に係る共同特許出願に関し、甲と乙との間で、あらかじめ、当該特許権(特許を受ける権利を含む。)に係る発明ついて、甲が乙に対し、独占的に実施することを許諾するか又は非独占的に実施することを許諾するかを定め、それにより出願費用の負担の形態を協議する例がある(独占→全額企業負担等)。
・大学の研究担当者が複数の共同研究をする場合(用途で区別している場合が多い。)、共同研究間で発明帰属が不明確になりやすいので、注意が必要である。
・契約当事者と同様、特許等の出願は法人が行う必要がある。
・特許出願手続きは、通常の場合特許事務所を介して行うので、手続き担当の当事者は、タイムリーに責任を持って連絡を取り合う必要がある。
・プログラムやデータベースが生み出されるような場合、著作権についても、その帰属を規定することもある。
・15.知的財産権の出願(第 15 条)から 21.特許料等(第 21 条)及び 24.研究成果の取扱い
(第 24 条)については、共有権利の取扱いについて 1 つのひな形にとらわれず柔軟な運用をすること、研究成果について「とりあえず共有」とする運用を回避し大学等又は民間企業の単独帰属とする選択肢を提供して研究成果の活用(事業化)に繋がる柔軟な契約交渉を行うための選択肢を提供することを目的とした「さくらツール」が文部科学省から提供されているので、 39.さくらツール(37 ページ)も参照方。
16.外国出願等
1)例文
第 16 条(外国出願等)
1 前条の規定は、外国における発明等に関する知的財産権(著作権及びノウハウを除く。)の出願、権利保全等(以下「外国出願等」という。)についても適用する。
2 甲及び乙は、外国出願を行うにあたっては、双方協議の上行うものとする。
2)解説
・外国出願についても、甲乙協議することとしている。
・大学の単独出願について、JST の外国出願支援制度により、支援決定となった案件のみ外国出願することを原則としている大学もある。そのことを踏まえて、相手方と交渉する必要がある。
17.独占的実施
1)例文
第 17 条(独占的実施)
1 甲は、本共同研究の結果生じた発明等であって第 15 条第 3 項又は同条第 4 項ただし書きの規定により甲に承継された知的財産権(著作権及びノウハウ並びに次項に規定するものを除く。以下「甲に承継された知的財産権」という。)を、次条に定める場合を除き、自己実施せず、かつ、乙又は乙の指定する者から独占的に実施したい旨の書面による申し出を受けた場合には、当該知的財産権を出願したときから 5 年間乙が独占的に実施することを許諾することとし、具体的な条件は実施契約で定める。
2 甲は、本共同研究の結果生じた発明等であって甲及び乙の共有に係る知的財産権(以下
「共有に係る知的財産権」という。)を、次条に定める場合を除き、自己実施せず、かつ、乙又は乙の指定する者から独占的に実施したい旨の書面による申し出を受けた場合には、当該知的財産権を出願したときから 5 年間乙が独占的に実施することを許諾することとし、具体的な条件は実施契約で定める。
3 甲は、乙又は乙の指定する者から前 2 項に規定する独占的に実施する期間(以下「独占的実施期間」という。)を更新したい旨の申し出があった場合には、更新する期間について、甲乙協議の上、定めるものとする。
2)解説
・例文では、企業と大学との信頼関係に裏打ちされたパートナー優先の考え方に立ち、企業が独占的実施権を希望する場合、それを認めることとしている。
・大学の単独成果に基づく単独出願、それから得られた特許権も、共同研究が契機となってなされたものであることから、相手方が自らの単独成果及び共有成果に合わせてこれを必要とする場合、大学がこれに応じるのは合理的である。
・本共同研究の対象分野を超えて幅広く適用可能な発明の場合、独占分野を相手方企業の事業分野や対象製品に限定し、その他の分野において第三者に対する実施許諾の余地を残すことも有効である。
・特許法上「専用実施権」(同法第 77 条)及び「通常実施権」(同法第 78 条・79 条)の定めがあり、また企業間のビジネスでは、「独占的通常実施権(exclusive right)」「非独占的通常実施権(non-exclusive right)」という概念で契約をすることも多い。
・これまで大学の契約書雛型では、「優先的実施」という用語が用いられることが多くあったが、この概念は、「大学が知的財産権を一定期間相手方に実施許諾し、その期間内は第三者には実施許諾しない。」という意味と解されるが、「優先」の意味があいまいであり、議論があり得る。なお、海外の契約では、「right of first refusal(最初に拒否する権利=優先交渉権)」という考え方もある。
・独占的実施期間をどのくらいの期間にするのかは、事業分野、相手方企業の事業展開の状況等を勘案する必要がある。例文では、5 年間としている。
18.第三者に対する実施の許諾
1)例文
第 18 条(第三者に対する実施の許諾)
1 甲は、乙又は乙の指定する者が、甲に承継された知的財産権を、前条第 1 項及び第 3 項に規定する独占的実施期間中その第 2 年次以降において正当な理由なく実施しないときは、乙又は乙の指定する者の意見を聴取の上、乙及び乙の指定する者以外の者(以下「第三者」という。)に対し当該知的財産権の実施を許諾することができるものとする。
2 前項の規定は、乙又は乙の指定する者が共有に係る知的財産権を前条第 2 項及び第 3 項に規定する独占的実施期間中その第 2 年次以降において正当な理由なく実施しないときについて準用する。
2)解説
・相手方に独占的実施を許諾した場合でも、大学の側から見て、第三者に知的財産権を実施許諾することを考えたい事情が発生することがある。相手方が積極的に事業活動をせず当該知的財産権を塩漬けにするような場合である。その様な場合の、本学の権利を留保しようとする規定である。
・本来、大学だけの判断でもよいとも考えられるが、諸般の事情を正確に把握する意味で、相手方の意見の聴取(同意ではない。)の手続きをとるべきこととしている。
・製薬事業のような事業においては、自ら事業を独占したい場合もあり、第三者への実施許諾を禁じる取り決めをすることもある。
・「正当な理由」と「公共の利益を著しく損なう場合」の 2 つのケースを想定しているひな形もあるが、例文では、後者の場合はまれであることから、前者のみ規定している。
・独占的実施期間に該当しない期間における、共有に係る知的財産権の第三者への非独占的実施許諾について、
「事前に相手方の合意を得るものとし、相手方は合理的な(あるいは正当な)理由がない限りこれに合意するものとする。」「合理的な(あるいは正当な)理由なしにこれを拒否する場合は、相手方による独占的実施とみなし、別に定める独占的実施料を支払うものとする」
とする場合も考えらえる。あるいは、持分相当の出願費用を分担する代わりに、
「相手方に事前に通知した上で(あるいは事前協議した上で)第三者に対し非独占的実施許諾することができる」
とすることも考えられる。
19.持ち分の譲渡等
1)例文
第 19 条(持ち分の譲渡等)
甲又は乙は、本共同研究の結果生じた発明等であって、甲若しくは乙に承継された知的財産権又は共有に係る知的財産権の自己の持分を、甲乙協議の上、指定した者に限り譲渡又は専用実施権等の設定ができるものとし、別に定める契約により、これを行うものとする。
2)解説
・共同研究の成果としての知的財産権等を活用するため、第三者にそれぞれの権利の持分の譲渡や専用実施権の設定をすることもある。持分の譲渡や専用実施権の設定は、財産の処分に類する行為であり、他方の当事者がそのライバルに譲渡や専用実施権の設定することを好まないのは当然である。このために協議条項となっている。
20.実施料等
1)例文
第 20 条(実施料等)
1 甲に承継された知的財産権を乙又は乙の指定する者が実施しようとするときは、乙は別に実施契約で定める実施料を甲に支払わなければならない。
2 甲及び乙の共有に係る知的財産権を乙又は乙の指定する者が実施しようとするときは、乙は、甲が自己実施しないこと並びに甲及び甲の研究者の発明に対する貢献に適正に報いることの重要性を認識し、別に実施契約で定める実施料を甲に支払わなければならない。
3 甲及び乙の共有に係る知的財産権を乙の指定する者又は第三者に実施させた場合の実施料は、当該知的財産権に係る甲及び乙の持分に応じて、それぞれに配分するものとする。
2)解説
・大学と企業との共同研究の場合、事業のために研究成果を実施できるのは企業であり、大学はそれができない。このために、企業が共有特許を実施する場合、大学は企業から応分の実施料を受け取る立場にある(いわゆる不実施補償料といわれるもの)。この点に関して、近年多くの大学と企業側との間で論争があり、企業側は、特許法第 73 条 2 項の原則を援用し、極力この実施料の支払いを避けようとする動きとなっている(特に、大手の電機会社、自動車会社等)。大学としては、特許法第 73 条 2 項でも「契約で別段の定をした場合」には自由実施を認めていないことに鑑み、「研究成果に基づく利益の合理的な配分」という考え方に立ち、応分の実施料の受け取りを遠慮する必要はない。
・例文では、企業サイドの実施料の支払い義務に加え、契約当事者のいずれかが、共有の知的財産権を第三者へ実施許諾し、ロイヤリティを得た場合、当事者間で持ち分に応じて分配するように規定している。
・国立研究開発法人産業技術総合研究所は、平成 26 年 11 月から、共有知財について、共有者が非独占的に実施する場合に共有者に求めていた補償を廃止し(いわゆる不実施補償の廃止)、同時に各々の共有者が互いに単独で第三者企業と実施許諾契約を締結できること(第三者への実施許諾の申出への同意、単独契約、実施料分配なし)とした。
・①大学持分の企業への有償譲渡 ②企業の独占的実施権 ③企業の非独占的実施権④企業の独占的実施権の優先的交渉権 ⑤その他に区分して実施料を設定する例もある。(③と⑤は実施料なしで他の条件)
・文部科学省は、平成 29 年 3 月に「さくらツール」(11 類型のモデルとモデルの選択に当たっ
ての考慮要素)、平成 30 年 4 月に「さくらツール コンソーシアム型モデル契約書 5 類型」を公開した。これを活用することで、大学と企業との共同研究契約の交渉が、柔軟な考え方の下で、円滑に進められることが期待されている。詳細は 39.さくらツール(37 ページ)を参照方。
21.特許料等
1)例文
第 21 条(特許料等)
1 甲及び乙は、共有に係る知的財産権に関する出願等費用、特許料等(以下「出願費等」という。)をそれぞれ持分に応じて負担するものとする。
2 甲又は乙は、相手方が前項に規定する出願費等を負担しないときは、当該知的財産権に係る相手方の持分を自己に譲渡するよう請求することができるものとし、請求を受けた者は、速やかに譲渡に応じるものとする。
2)解説
・例文では、共有の知的財産権に係る出願等費用、特許料等は、持分に応じて負担することを規定しているが、必ずしも連動せず独自に決定してもよい。
・大学によっては、これらの費用の全額を企業負担とし、コスト負担を軽減する方法をとるところもあるが、例文では、これらの費用について応分の負担をしつつ他の側面において、応分の権利主張をできる余地を残す方法をとっている。例えば、「第 18 条 2 項に関わらず事前通知、あるいは事前協議(必ずしも同意に至る必要なし)により第三者に対する非独占的な実施を可能にする」などが考えられる。
22.情報交換・進行状況報告
1)例文
第 22 条(情報交換・進行状況報告)
1 甲及び乙は、本共同研究の実施に必要な情報、資料等を相互に無償で提供又は開示するものとする。ただし、甲及び乙以外の者との契約により秘密保持義務を負っているものについては、この限りではない。
2 甲及び乙は、あらかじめ返還を条件に提供された資料等を、本共同研究完了後又は本共同研究中止後、相手方に返還するものとする。
3 甲及び乙は、必要に応じ進行状況報告会を開催し、本共同研究の進行状況について報告を行うとともに進行その他について協議を行う。
2)解説
・共同研究を円滑に推進するための相互の協力義務である。第三者制約のある情報は、確認の上除外しておく必要がある。
・契約の当事者がそれぞれ共同研究のために開示又は提供する資料等に関し、開示又は提供する時点において当該資料等が自分のものであることを、後日争いがあったときに立証する手段として、技術封印という方法がある。タイムスタンプサービス活用の方法もある。
-技術封印は、産業財産権を受ける権利、プログラム等の著作権、ノウハウ等に関係する技術資料等を段ボール箱や封筒に入れて封印し、その日付を明らかにしておくことにより行う。
-通常、公証役場において、公証人による確定日付の付与をしてもらうことにより、その日付を公的に証明してもらう。公証人による確定日付の付与は、その文書等がその確定日付を押捺した日に存在することを証明するものである。なお、そのことをもって、その文書等の成立や内容についてはなんら公証するものではない。
・定期的(1 ヶ月、3 ヶ月、半年等)に進行状況を書面で確認する必要がある。実務的に、どのように実行していくかあらかじめ確認しておくことが望ましい。
・契約管理部門が、共同研究推進状況を把握しておく必要がある。
23.秘密の保持
1)例文
第 23 条(秘密の保持)
1 本契約書において秘密情報とは次の各号のいずれかに該当するものをいう。
(1) 本共同研究の結果得られた成果のうち、秘密である旨の表示が付された書面、サンプル、電子媒体等の有形物、又は、有形無形を問わず甲及び乙で秘密情報として取り決め書面により確認されたもの
(2) 相手方より秘密の表示がなされた書類、図面、写真、試料、サンプル、磁気記録媒体、電子媒体等により開示された情報
(3) 相手方より秘密であることを告げた上で口頭によって開示され、かつ開示後 30 日以内にその要旨を書面で交付された情報
ただし、次のいずれかに該当する情報については、この限りではない。
イ 開示を受け又は知得した際、既に自己が保有していたことを証明できる情報ロ 開示を受け又は知得した際、既に公知となっている情報
ハ 開示を受け又は知得した後、自己の責めによらずに公知となった情報
ニ 正当な権限を有する甲及び乙以外の者から守秘義務を負うことなく適法に取得したことを証明できる情報
ホ 相手方から開示された情報によることなく独自に開発、取得していたことを証明できる情報
ヘ 書面により事前に相手方の同意を得た情報
2 本契約書において、個人情報とは、甲又は乙が、本契約書の有効期間中、相手方に開示する一切の情報のうち、「個人情報の保護に関する法律(平成 15 年法律第 57 号)第 2 条第 1 項に規定するものをいう。
3 甲及び乙は、本共同研究の実施に当たり、秘密情報及び個人情報について、研究項目の研究担当者以外に開示又は漏洩してはならない。
4 甲及び乙は、秘密情報及び個人情報について、当該研究担当者がその所属を離れた後も含め研究項目の研究担当者以外の者に開示又は漏洩しない義務を、当該研究担当者に対し負わせるものとする。
5 秘密情報の全部または一部について、甲又は乙から、不正競争防止法第2条の営業秘密としての管理要請があり、相手方がこれに同意した場合には、相手方は、秘密保持期間、管理方法等について合意した内容に基づき、当該全部または一部について、当該管理を行う。ここで、相手方は、当該全部または一部について、第 24 条に基づき参加させた研究協力者に情報開示を行わない。
6 第 3 項の規定にかかわらず、甲及び乙は研究項目表の研究担当者以外の秘密を知る必要のある甲及び乙[(乙の連結子会社である○○○○株式会社を含む。)、又は、(乙の親会社である○○○○株式会社を含む。)(注)必要がある場合に[ ]を挿入。]それぞれの役職員に対して、当該役職員がその所属を離れた後も含め本条に規定する秘密保持義務を遵守する義務を課した上で、秘密情報を開示することができる。
7 甲及び乙は、秘密情報を本共同研究以外の目的に使用してはならない。ただし、書面により事前に相手方の同意を得た場合はこの限りではない。
8 第 3 項から第 7 項の秘密情報に関する規定の有効期間は、第 3 条の本共同研究開始の日から研究完了後又は研究中止後 3 年間とする。ただし、甲乙協議の上、この期間を延長し、又は短縮することができるものとする。
2)解説
・秘密保持の対象を「すべての情報」とすることは管理上からは無意味であり、「秘密として特定した情報」として「○秘 」「confidential」等のマークを付して、実質的に管理可能とすべきである。例文では、そのことを明示している。
・共同研究の成果も秘密保持の対象とすべきである。例文では、そのことを明示している。
・個人情報についても、秘密情報とは別項目にして規定している(2 項)。
・秘密情報の内、営業秘密についても規定している(5 項)。
・契約有効期間終了後の秘密情報の守秘義務の期間は、対象技術の陳腐化の程度を考慮して、合理的な範囲にする必要がある。ライフサイクルの短いものは短期間(2~3 年)で、それ以外は 5 年程度が目安となろう。例文では、3 年としている。
・当該研究の担当者がその所属を離れた場合や退職後の扱いについては、義務化の方法(誓約書等)を考える必要がある。
・例文では、連結子会社・親会社を含む場合も想定し、挿入語句を規定している。
24.研究成果の取扱い
1)例文
第 24 条(研究成果の取扱い)
1 甲及び乙は、本共同研究完了(研究期間が複数年度にわたる場合は各年度末)の翌日から起算し 6 ヶ月以降、本共同研究によって得られた研究成果(研究期間が複数年度にわたる場合は当該年度に得られた研究成果)について、第 23 条で規定する秘密保持の義務を遵守した上で開示、発表又は公開すること(以下「研究成果の公表等」という。)ができるものとする。なお、いかなる場合であっても、相手方の書面による同意なく、ノウハウを開示してはならない。
2 前項の場合、甲又は乙(以下「公表希望当事者」という。)は、研究成果の公表等を行おうとする日の 30 日前までにその内容を書面にて相手方に通知しなければならない。又、公表希望当事者は、事前の書面による了解を得た上で、その内容が本共同研究の結果得られたものであることを明示することができる。
3 通知を受けた相手方は、前項の通知の内容に、研究成果の公表等が将来期待される利益を侵害する恐れがあると判断されるときは、当該通知受理後 14 日以内に研究成果の公表等の対象となる技術情報の修正を書面にて公表希望当事者に通知するものとし、公表希望当事者は、相手方と十分な協議をしなくてはならない。公表希望当事者は、研究成果の公表等により将来期待される利益を侵害する恐れがあると判断される部分については、相手方の書面による同意なく、研究成果の公表等をしてはならない。ただし、相手方は、正当な理由なく、係る同意を拒んではならない。
4 第 2 項の通知しなければならない期間は、本共同研究完了後の翌日から起算して 2 年間とする。ただし、甲乙協議の上、この期間を延長し、又は短縮することができるものとする。
5 本共同研究の研究期間中及び本共同研究完了の翌日から起算して 6 ヶ月未満においては、研究成果の公表という大学の社会的使命を踏まえ、甲は、第 23 条で規定する秘密保持の義務を遵守した上で乙の同意を得た場合は、研究成果の公表等ができるものとする。この場合、甲は、研究成果の公表等を行おうとする日の 30 日前までにその内容を書面にて乙に通知し同意を求めるものとする。
6 第 2 項、第 3 項及び前項に規定する通知は、甲及び乙の研究代表者間の通知をもって足りるものとする。
2)解説
・大学サイドの発表のニーズの方が高いと思われるが、発表に際しては、両当事者にとり好ましい状況で成される必要がある。
・特許出願前の外部発表は避けなければならない(新規性喪失の回避)。
・特許出願の未公開期間(原出願日から 1 年半)は、できるだけ外部発表を避けることが望ましい(第三者の類似発明の防止、追加発明の検討期間)。
・大学の研究者の場合、学会発表を優先する傾向にあり、常に学会発表時期を考慮した出願戦略を立てる必要がある。
・新規性喪失の例外適用(特許法第 30 条)は、基本的に好ましいものではない。外国出願の際に新規性喪失の例外適用が認められない国が多く存在するからである。
・大学の場合、他方で大学の技術シーズを産業界のニーズとマッチングさせる必要があることから、早い段階で公開したい場合もあり、管理の兼ね合いに難しさがある。
・例文では、契約当事者間で発表までのやりとりのプロセスを詳細に規定しており、これを実務的に定着させていく必要がある。
25.研究協力者の参加及び協力
1)例文
第 25 条(研究協力者の参加及び協力)
1 甲乙のいずれかが、本共同研究遂行上、研究担当者以外の者の参加又は協力を得ることが必要と認めた場合、相手方の同意を得た上で、当該研究担当者以外の者を研究協力者として本共同研究に参加させることができる。
2 研究担当者以外の者が研究協力者となるに当たっては、当該研究担当者以外の者を研究協力者に加えるよう相手方に同意を求めた甲又は乙(以下「当該当事者」という。)は、研究協力者となる者に本契約に基づき当該当事者が負う義務と同様の義務を遵守させなければならず、当該研究協力者になる者によるその義務の履行につき責任を持つものとする。
3 前項における当該当事者は、研究協力者となる者との間で、本研究への参加に先立ち、本契約に基づき当該当事者が負う義務と同様の義務の遵守に関して、書面による合意を得るものとする。
4 研究協力者が本共同研究の結果、発明等を行った場合は、第 15 条の規定を準用するものとする。
2)解説
・研究担当者は、「定義」のところ(本契約書では第 1 条 5 号)で特定されるが、研究の途中で研究担当者以外の者の参加・協力が必要となる場合、両当事者協議の上でこれに加える規定である。企業側としては、研究スピード、研究成果の内容、第三者への情報流出のおそれ等に関心があると思われる。
・いずれかの当事者に研究の上で何らかの関りのある研究者が想定され、全くの第三者である研究者は想定されていないと考えるべきであろう。
・両当事者の研究者が負う義務と同等の義務を負うことになる。
・「研究協力者」として「学生」が参加する場合には、学生は特許法 35 条の従業者等には該当せず、大学(法人)と学生の間で個別の取り決めが必要となることに留意する。
26.解約
1)例文
第 26 条(解約)
1 甲は、乙が第 7 条第 1 項に規定する研究経費を所定の納入期限までに納入しないときは、本契約を解約することができる。
2 甲及び乙は、次の各号のいずれかに該当し、催告後 7 日以内に是正されないときは本契約を解約することができるものとする。
(1) 相手方が本契約の履行に関し、不正又は不当の行為をしたとき
(2) 相手方が本契約に違反したとき
2)解説
・債務不履行等の場合、将来に向かって契約関係を解消する趣旨である。例文では、研究経費が契約の大きな部分を占めるとの観点から、所定の納付期限までに納付しないときは、大学は、いつでも本契約を解約できるとあるが、現実には、話し合いがなされることになろう。
・設備等の貸与がある場合、原状回復の手続きを定めることもある。
・例文にはないが、次の規定を置くこともある。天災等を指している。
「3 甲及び乙は、前項各号に定める場合のほか、いずれの責にも帰さない理由により、本契約を継続しがたい特別の事情が生じた場合、甲乙協議のうえ、本契約を解約することができる。」
27.反社会的勢力の排除
1)例文
第 27 条(反社会的勢力の排除)
1 甲及び乙(法人の場合にあっては、その役員又は使用人を含む。)は、相手方に対し、次の各号の事項を表明し、保証する。
(1) 自らが、暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団員でなくなったときから 5 年を経過しない者、」暴力団関係企業、総会屋、政治活動・宗教活動・社会運動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団その他これらに準ずる者(以下、総称して「反社会的勢力」という。)に該当しないこと
(2) 反社会的勢力に自己の名義を利用させ、本契約を締結する者でないこと
(3) 自ら又は第三者を利用して、次の行為をしないこと ア 相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為
イ 偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、又は相手方の信用を毀損する行為
2 甲又は乙が、次の各号のいずれかに該当した場合は、相手方は、何らの催告なしに本契約を解約することができる。
(1) 前項(1)の確約に反する申告をしたことが判明した場合
(2) 前項(2)の確約に反し契約をしたことが判明した場合
(3) 前項(3)の確約に反する行為をした場合
3 甲又は乙は、前項により本契約を解約したことにより相手方に損害が生じたとしても、一切の損害賠償義務を負わないものとする。」
2)解説
・反社会的勢力でないことを相互に表明して保証させ、本契約の解約事由とすることで、反社会的勢力の排除を推進する目的で規定する。
28.損害賠償
1)例文
第 28 条(損害賠償)
甲又は乙は、相手方(その研究担当者及び研究協力者を含む。)による本契約上の義務の不履行によって損害を被ったときは、その賠償を請求できるものとする。ただし、相手方に故意又は重大な過失が認められない場合はこの限りではない。
2)解説
・一方の当事者が相手方の債務不履行により損害を生じた場合、直接的損害について、相手方に損害賠償を求め得ることを規定している。
・一般民法上でも損害を生じさせた相手方に対し損害賠償を請求することは可能であるが、契約書に明記することで、拘束性を高める目的もある。
・例文では、過失の場合は除外され、万一の場合の負担を軽減している。
29.契約の有効期間
1)例文
第 29 条(契約の有効期間)
1 本契約の有効期間は、第 3 条に定める期間とする。
2 本契約の失効後も、第 5 条、第 13 条から第 25 条、前条及び第 31 条の規定は、当該条項に定める期間又は対象事項が全て消滅するまで有効に存続する。
2)解説
・例文では、契約の有効期間を研究期間と同一にしているが(第 3 条参照)、研究期間終了後研究成果をまとめる期間を考慮すると、契約の有効期間は、研究期間+αが望ましい。
・契約期間満了後残る義務を確認して、これを的確に管理する必要がある。1 つでも義務が残ることになれば、共同研究契約という形の契約関係が終了するとしても、別な形で個別の契約関係に立つことになる。本契約書でも、そのようになっている。
・契約管理上は、契約関係が終了・消滅することを、一定の期間で区切る等、分かりやすい形で確認する方法が望ましい。
・研究内容に即して、1 年、2 年、3 年、5 年等考えられる。目的の早期達成の観点からは短めにし、更新の必要があるか検討する形が良い。その観点から、自動延長契約にはするべきではない。
・ある大学の場合、1 年単位が多かったが、法人化(平成 16 年 4 月 1 日)後は、複数年の例も出ている。
30.協議
1)例文
第 30 条(協議)
本契約に定めのない事項について、これを定める必要があるときは、甲乙協議の上、定めるものとする。
2)解説
・協議は、当事者間での合意を前提としており、日本的解決方法である。
・合意した事項に関しては、覚書等を締結し、本契約書と一体で運用する。
・国際契約(英文契約)の場合、通常、仲裁、準拠法等について詳細に規定する。一部の国を除き、日本の裁判所の判決は海外では承認されず執行できないが、仲裁であれば、ニューヨーク条約加盟国においては仲裁判断の承認・執行が認められる。仲裁規定を設けた場合は、争いを訴訟で解決せず仲裁で解決するので、第 31 条の裁判管轄は不要となる。
31.裁判管轄
1)例文
第 31 条(裁判管轄)
本契約において紛争が生じ、双方の協議により解決しないときの訴えの管轄は、甲の所在地を管轄区域とする○○地方裁判所とする。
2)解説
・万一訴訟になった場合の裁判管轄をあらかじめ定めておく趣旨である。
・例文では、地域的対応の柔軟性を考慮して大学所在地の地方裁判所としてあるが、被告の所在地を管轄区域とする地方裁判所とすることも多い。しかし、相手方が全国ベースの企業・機関等である場合には、判例の蓄積、代理人(弁護士)の数及び能力、訴訟進行の的確性等の点から東京地方裁判所とすることが望ましい。
32.後文等
1)例文
この契約の締結を証するため、本契約書を 2 通作成し、甲、乙それぞれ 1 通を保管するものとする。
年 月 日
甲 県 市 町 丁目 番 号
〇〇大学法人○○大学契約担当役
産学官連携推進機構長 印
乙
県
市
町 丁目
番
号
〇〇株式会社
代表取締役社長 印
2)解説
・契約書の作成数は当事者同士で自由に設定できるが、1通のみだと、契約書の所有者によって改ざんされる危険性があるので、当事者の数だけ作成し、それぞれ1通を保管するのが一般的である。
・記名押印をする者は、契約当事者として権限のある責任者であればよい。
・印は、社印、大学法人印ではなく、権限のある責任者(代表取締役社長等)の印が必要である。
33.第三者への委託禁止
1)例文
第 条(第三者への委託禁止)
甲及び乙は、前条に定める自己の研究分担の一部又は全部を相手方の文書による事前の同意がない限り、第三者に委託することは出来ない。
2)解説
・第三者への委託を禁じる目的で規定する。
・一方の当事者が、自らの分担業務の一部を技術的専門性等の観点から、自らと関係のある第三者に委託することもある。
・相手方としては、ライバルに技術情報等が漏れることを避ける必要があり、事前同意でチェックする。
・委託により成された研究成果の帰属が、委託者にあるとするか、委託者と受託者の共有に属するかを明確にし、当事者間で認識の相違が出ないようにする必要がある。
34.第三者との共同研究の制限
1)例文
第 条(第三者との共同研究の制限)
甲及び乙は、相手方の同意なくして本研究と同一又は類似の研究を第三者と共同して行い又は第三者から受託してはならない。
2)解説
・ライバル企業等との連携を制限する目的で規定する。
・お互いの信頼関係を担保し、相互の力の集中を図る狙いがある。
・共同研究成果として得られた技術の混交を防ぐ意味もある。(別々のパートナー企業等と同一目的の研究を行った場合、得られた研究成果が誰のものか判別が困難となり、争いの原因となる。)
35.知的財産権の維持保全
1)例文
第 条(知的財産権の維持保全)
甲及び乙は、甲乙共有の知的財産権に関して、第三者から無効審判の申し立て又は訴訟を提起された場合、甲乙協力して防御しこれを排除するように努めるものとする。
2)解説
・権利維持保全の目的で規定する。
・ライバル企業等が先行技術文献等により、特許を無効とすべく特許庁に無効審判を申し立てるのは日常的に起こり得る。
36.生命倫理等
1)例文
第 条(生命倫理等)
本研究で使用する××××の取扱いに際しては、甲及び乙は、それぞれ、本研究を実施する甲及び乙の各機関の責任において、各機関で取り決められた生命倫理・個人情報保護の規定に基づいて適正な運用を行うものとする。
2)解説
・ライフサイエンスの分野において、人権に配慮する目的で規定する。
37.安全保障貿易管理
1)例文
第 条(安全保障貿易管理)
甲及び乙は、本研究成果をその後の自己の事業等に用いる場合、自己の責任において、全ての関連法規、 規則及び命令(輸出規制貨物又は技術情報の輸出に関する日本国「外国為替及び外国貿易法」を含む。)を遵守するものとする。
2)解説
・国外への技術流出防止の目的で規定する。
・共同研究に携わった留学生や研修生が帰国する場合も、国外への技術の輸出に該当することに留意する必要がある。
38.データの取扱い
1)例文
第 1 条(定義)
5 「本データ」とは、個人情報の保護に関する法律(平成 15 年法律第 57 号)2 条所定の
「個人情報」以外の情報についての電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他知覚によっては認識できない方式で作成される記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)をいう。
6 「各当事者提供データ」とは、本契約締結前から各当事者が利用権限を有し、本共同研究の目的で提供される本データであって、各当事者について別紙[1]に示されるものをいう。
7 「本成果データ」とは、本共同研究の遂行の過程で、又は、これに関して、創出され、取得され又は収集される本データであって、別紙[2]に示されるものをいう。
8 「利用権限」とは、データを利用、管理、開示、譲渡(利用許諾を含む。)又は処分することの他データに係る一切の権限をいう。
2)解説
・本共同研究において管理対象とすべきデータについての定義である。
・「各当事者提供データ」は、別紙[1]において、「本成果データ」は、別紙[2]において特定される必要がある。
・経済産業省は、「限定提供データに関する指針」を公表している。(平成 31 年 1 月 23 日)
⇒ https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/h31pd.pdf https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/h31pdoutline.pdf
1)例文
第 条(データ)
各当事者は、当事者提供データについては当該データを提供した各当事者がそれぞれ利用権限を有し、また、本成果データについては別紙に定めるとおりデータの利用権限を有する者とし、かかる利用権限は、別紙においてデータ毎にそれぞれ定める。ただし、別紙において特段の定めがないときは、各当事者は、他の当事者が提供した当事者提供データ及び本成果データについて本共同研究の目的で利用するための利用権限を有するものとする。なお、各当事者は、自己が提供した当事者提供データ及び本成果データの有用性及び正確性について保証せず、何らの責任も負わない。
2)解説
・データの的確な管理と活用の目的で、利用権限についてについて規定する。
・本成果データについて利用権限は別紙において定めることとしている。
・別紙において特段の定めがないときは、本共同研究の目的で利用できるとしている。
・有用性及び正確性について相互に保証しないとしている。
・P.6 に記載の通り、コンピューターにおいて処理の対象となる記号化・数字化されたデータは無体物として扱われる。このデータは、民法上、所有権や占有権の対象とはならず、所有権や占有権の概念に基づいてデータに係る権利の有無を定めることはできない。知的財産権として保護される場合や、不正競争防止法上の営業秘密・限定提供データとして法的に保護される場合は限定的であることから、このデータの保護は原則として利害関係者間の契約において規定する必要がある。
詳細は、資料1を参照方。
・データベースであってその情報の選択または体系的な構成によって創作性を有するものは、データベースの著作物となるが(著作権法 12 条の 2 第 1 項)、データベースの著作物であると認められる場合は必ずしも多くはないと考えられる。この点からも、上記のデータの保護については、利害関係者間の契約において規定することが求められる。
詳細は、資料1を参照方。
【資料】
資料1 経済産業省 HP の「♙I・データの利用に関するガイドライン」のデータ編
https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191209001/20191209001-2.pdf
別紙[1]例 各当事者提供データ
提供当事者 | データの説明 | 利用権限の内容 | 提供方法 |
(記載例1) 以下の項目を有する、○○の臨床試験結果に係るデータ ♙ 被験者人数 B 被験者年齢構成 C 試験期間 D 検査結果項目△ E 検査結果項目◇ | (記載例1) 左記提供当事者は無制限に、当該提供当事者以外の本当事者は本研究の目的に限り、それぞれ利用することができる。 (記載例2) 左記提供当事者は無制限の利用権限を、また、当該提供当事者以外の本当事者は第三者への開示、利用許諾及び譲渡以外の利用権限を、それぞれ有する。 | (記載例1) 表面に「甲大学○○○データ(No. xxxxxx)」と記載された CD- ROM (記載例2) 甲大学○○研究室内 PC 上においてのみ | |
別紙[2]例 本成果データ
データ集計対象期間 | データの説明 | 利用権限の内容 | 記憶媒体の表示 |
(記入例1) 2087/○/○-2018/○/○ (記入例2) 本研究の実施期間 | (記入例1) 甲が左記期間に、○○所在の甲の研究室において取得した以下のデータ ♙ 加工時間 B アラーム時間 C 主軸負担 D 油圧 E 振動 F その他上記に関連するデータ (記入例2) 乙が左記期間に、○○所在の乙の工場において取得した以下のデータ ♙ 自動運転時間 B 停止時間 C 電流 D 位置偏差 E モーター負荷 F モーター温度 G 消費電力 H 異常負荷トルク J その他上記に関連するデータ | (記入例1) 各本当事者は、無償で利用する権限(但し、第三者への開示、利用許諾及び譲渡する権限を除く。)を有する。 (記入例2) 各本当事者は、本知的財産権に準じ、第 15 条及び第 16 条に従い利用権限を有する(但し、第三者に対する開示を伴う利用を行う場 合、当該第三者に対して[第 23条に準じた]/[無期限の]秘密保持義務を課さなければならな い。)。 (記入例3) 本当事者が別途協議して合意により定める。 | (記入例1) 表面に「乙会社 ○○○データ (No. xxxxxx)」と記載された CD-ROM (記入例2) CD-ROM その 他本当事者が合意する媒体に記録される |
別紙[1]例[2]例とも、次項の文部科学省提供の「さくらツール」より引用
39.さくらツール
1)概要
大学と企業の共同研究契約については、従前の契約書ひな形に沿った硬直的な契約交渉が行われているという声があがっていた。また、共同研究成果がとりあえず共同出願、共有特許とされたため、事業化につながっているかは不透明な状況にあった。
そこで 2017 年 3 月に、英国のランバート・ツールキットを参考に、文部科学省から共同研究
契約書の個別型 11 類型が提供された。共有権利の取扱いについて 1 つのひな形にとらわれず柔軟な運用をすること、研究成果について「とりあえず共有」とする運用を回避し大学等又は民間企業の単独帰属とする選択肢を提供して研究成果の活用(事業化)に繋がる柔軟な契約交渉を行うための選択肢を提供することを目指している。
[資料2より引用]
知的財産の帰属と使用権、実施許諾、大学の成果公表等についての類型選択は以下の通り。
ア:研究への寄与度等に応じて成果の帰属をイ(大学帰属)・ウ(企業帰属)・エ(その他)から選択
イ:大学帰属の知的財産について企業の使用権・譲受選択権を 4 類型から選択
ウ:企業帰属の知的財産について大学の他社への再実施権の有無、共同研究成果の大学による公表可否により 3 類型から選択
エ:共同研究成果の帰属を発明者主義(共有知的財産の第三者許諾可又は否)か共同研究成果の技術分野による個別帰属かを選択
オ:共同研究成果の技術分野により帰属を個別に決定する際の共有となる余地の有無により選択それぞれ選択する際の考慮要素については、資料 2 を参照方。
なお、複数の大学等や民間企業が参画したコンソーシアムを形成する形態の共同研究契約につ いて 5 類型のモデル契約書をまとめたコンソーシアム型も提供されているが、ここでは触れない。以下、さくらツールの特徴である第 13 条(知的財産の帰属)から第 21 条(ノウハウ及びプロ
グラム、データ等)と第 23 条(本研究成果の講評)について解説する。(類型により条文番号は異なる。)
【資料】
資料2 オープン&クローズ戦略時代の共同研究における成果取扱いの在り方に関する調査
~さくらツールの提供~https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1403194.htm
2)類型 0~3(知的財産権は大学帰属)
1)例文
第 13 条(知的財産権の帰属)
1 本共同研究に伴い得られた発明等(以下「本発明等」という。)に関する知的財産権(以下「本知的財産権」という。)は、甲に帰属するものとする。
2 甲及び乙は、本知的財産権について、それぞれの規則等により、当該発明等を得た研究担当者等から、当該発明等に関する知的財産権の承継を受け、甲に帰属させるものとする。
第 14 条(本発明等の実施)
甲は、本発明等を研究目的で実施することができる。ただし、実施の際には、第 21 条第 2
項に定めるノウハウ秘匿義務及び第 22 条に定める秘密保持義務を遵守するものとする。
第 15 条(本発明等の実施許諾)
1 甲は、乙に対し、本発明等を本共同研究を遂行する目的で無償で非独占的に実施することを許諾する。
2 甲は、乙以外の第三者に対し、本発明等の実施を許諾することができる。
2)解説
・例文は、本共同研究に伴って得られた発明等に関する知的財産権につき、以下を定めたものである。
⮚ 大学に帰属(第 13 条)
⮚ 大学は研究目的で実施可(第 14 条)
⮚ 企業は共同研究目的の非独占的無償実施権を有する(第 15 条 1 項)
⮚ 大学は第三者に実施許諾可(第 15 条 2 項)
1)例文
第 16 条(選択権)
乙は、本発明等を本共同研究を遂行する目的以外の目的で実施すること(第三者への非独占的実施許諾を含む)を欲する場合、本発明等の出願等から[3 ヶ月]以内に甲に対して書面により通知することにより、本発明等を、本共同研究を遂行する目的以外の目的で実施することができる。なお、乙の子会社による実施及び乙又は乙の子会社の事業のためにする第三者による製造(乙又は乙の子会社が納入(部材購入による場合を含む。)を受ける範囲での製造に限る。)は、乙の実施とみなす。実施料その他の選択権行使により許諾される実施権の条件の詳細は、甲乙間で協議して定めるものとする。
第 17 条(選択権行使の対価支払)
乙は、前条の許諾を受けることを選択する場合、第 16 条所定の甲との協議が整ってから[30日]以内に、甲に対し、本共同研究を遂行する目的以外の目的での通常実施権付与の対価を支払うものとする。
2)解説
・例文は、類型0の条文である。
・第 16 条は以下の①~③の選択肢について、類型 0 は①のみ、類型1は①と②、類型 2 は①と
③、類型 3 は①と②と③を選択枝としていずれかを企業が取得可としている。
選択肢 | 記載類型 | ||||
0 | 1 | 2 | 3 | ||
① | 共同研究目的以外の非独占的有償実施権 | ○ | ○ | ○ | ○ |
② | 目的に関係ない独占的実施権 | ○ | ○ | ||
③ | 大学から有償で知的財産権を譲り受ける権利 | ○ | ○ |
・第 17 条は第 16 条の選択肢に応じて企業が支払う対価の条件を規定している。
1)例文
第 18 条(知的財産権の出願等)
本知的財産権の出願は、甲が単独で出願するものとし、甲は、出願から[10日]以内に、乙に出願の事実及び内容を通知するものとする。
第 19 条(外国における出願等)
本知的財産権の外国における出願については、前条に準じるものとする。第 20 条(出願等費用)
前 2 条の出願に関する出願等費用の負担は、以下のとおりとする。
(1)乙が、甲から許諾を受けて本共同研究を遂行する目的で本発明等を非独占的に実施している場合は、[(i)甲が/(ii)甲及び乙が共同して]負担する。
(2)乙が、甲から許諾を受けて本共同研究を遂行する目的以外で本発明等を非独占的に実施している場合は、[(i)甲が/(ii)甲及び乙が共同して]負担する。
2)解説
・第 18 条・第 19 条で外国出願も含め、帰属に合わせ大学が単独で出願手続きを行い、大学は企業にその内容を通知することとしている。
本知的財産権の企業の利用形態 | 費用負担 | 記載類型 | |||
0 | 1 | 2 | 3 | ||
本共同研究目的で非独占的実施 | [(i)大学が/(ii)大学及び企業が共同して]負担 | ○ | ○ | ○ | ○ |
本共同研究以外の目的 で非独占的実施 | [(i)大学が/(ii)大学及び企業が共同して] 負担 | ○ | ○ | ○ | ○ |
独占的実施 | 企業が負担 | ○ | ○ | ||
譲受け | 企業が負担 | ○ | ○ |
・第 20 条の例文は、類型 0 の条文である。第 15 条 1 項と第 16 条で選択した本知的財産の企業の利用形態に応じて以下のように出願費用等の負担を規定している。(i)と(ii)はどちらかを選択する。
1)例文
第 21 条(ノウハウ及びプログラム、データ等)
1 本共同研究の結果、ノウハウに該当するものが生じた場合は相手方に速やかに通知し、甲乙協議の上、書面にて特定するものとする。
2 特定されたノウハウは、研究項目表 X.記載の期間、秘密として保持し、相手方の書面による承諾なく、第三者に開示してはならない。ただし、必要があるときは、甲乙協議の上、秘匿すべき期間を延長し、又は短縮することができる。
3 特定されたノウハウ及び本共同研究から生じたプログラム等の取り扱いについては、第
13 条から第 20 条に定める本知的財産権の取り扱いに準じ、甲乙別途協議の上決定するものとする。
[4 当事者提供データについては当該データを提供した各本当事者がそれぞれ利用権限を有し、また、本成果データについては別紙に定めるとおりデータの利用権限を有するものとし、かかる利用権限の内容は、別紙においてデータ毎にそれぞれ定める。但し、別紙において特段の定めがないときは、各当事者は、他の当事者が提供した当事者提供データ及び本成果データについて本研究の目的で利用するための利用権限を有するものとする。なお、各本当事者は、自己が提供した当事者提供データ及び本成果データの有用性及び正確性について保証せず、何らの責任も負わない。]
2)解説
・例文では、特定されたノウハウ及び本共同研究から生じるプログラムの帰属や利用についても第 13 条~第 20 条の本知的財産権の取扱いに準じると規定している。
・例文の 4 項の規定は、「38.データの取扱い(34 ページ)」と同様である。
・例文の 2 項の秘匿期間は、さくらツールでは研究項目表に欄を設けて記載している。
1)例文
第 23 条(本研究成果の公表)
1 本研究成果は原則として、公表する。ただし、公表に当たっては、第 21 条のノウハウ秘
匿義務及び第 22 条の秘密保持義務を遵守するものとする。
2 甲は、公表の[ ]日前までに、公表の目的・場所及び内容を、書面にて乙に通知する。
3 乙は、公表により、乙の利益が著しく害されるおそれがあると判断した場合、前項の通知を受領してから[ ]日以内に甲に書面にてその旨を通知し、甲は乙と協議の上、公表範囲及び方法を決定するものとする。
4 本共同研究終了日の翌日から起算して[ ]年間を経過した後は、甲は、第 21 条のノウハ
ウ秘匿義務及び第 22 条の秘密保持義務を遵守した上で、乙に対する通知を行うことなく、本研究成果の公表を行うことができるものとする。ただし、甲乙協議の上、この期間を延長し、又は短縮することができるものとする。
5 甲及び乙は、事前に書面による相手方の同意を得たときは、本研究成果の発表又は公開若しくは公表を行う際に、当該本研究成果が本共同研究において得られたものである旨を表示することができる。
2)解説
・例文は、大学の社会的使命から、研究成果を広く社会に公表することを原則としつつ、企業の利益にも配慮した規定としている。
3)類型 4~6(知的財産権は企業帰属)
1)例文
第 13 条(知的財産権の帰属)
1 本共同研究に伴い得られた発明等(以下「本発明等」という。)に関する知的財産権(以下「本知的財産権」という。)は、乙に帰属するものとする。
2 甲及び乙は、本知的財産権について、それぞれの規則等により、当該発明等を得た研究担当者等から、当該発明等に関する知的財産権の承継を受け、乙に帰属させるものとする。
第 14 条(本発明等の実施)
乙は、本発明等を自己のために実施することができる。ただし、実施の際には、第 21 条に定
めるノウハウ秘匿義務及び第 22 条に定める秘密保持義務を遵守するものとする。
第 15 条(本発明等の実施許諾)
1 乙は、甲に対し、本共同研究その他の研究目的で本発明等を無償で非独占的に実施する権利を許諾する。
2 乙は、甲に対し、研究以外の目的においても、次条に定める条件で、甲が本発明等を再許諾することを許諾する。 ←類型 4 のみ(類型 5・6 にはなし)
3 乙は、甲以外の第三者に対し、本発明等の実施を許諾することができる。第 16 条(甲の再実施許諾) ←類型 4 のみ(類型 5・6 にはなし)
甲は、乙以外の第三者に対して、当該第三者が研究以外の目的で本発明等を実施することを再許諾することができる。この場合、甲は、再許諾料の[50%]を乙に支払うものとする。支払い条件は甲乙協議の上、決定するものとする。
2)解説
・例文は、本共同研究に伴って得られた発明等に関する知的財産権につき、以下を定めたものである。
⮚ 企業に帰属(第 13 条)
⮚ 大学は研究目的で実施可(第 14 条)
⮚ 大学は研究目的の非独占的無償実施権を有する(第 15 条 1 項)
⮚ 大学は研究目的以外の再実施許諾権を有する(第 15 条 2 項) ←類型 4 のみ
⮚ 企業は第三者に実施許諾可(第 15 条 3 項)
・例文の第 15 条 2 項及び第 16 条(第 15 条 2 項の条件を既定)は類型 4 のみの規定である。第
13 条で、本共同研究の成果である本知的財産権を企業の帰属としたが、大学側にも他の企業への実施権許諾を認めたものである。類型 5・6 では、大学には他の企業への実施許諾を認めていないので、大学は研究成果の商業的活用はできない。
・なお、第 14 条の「第 21 条」・「第 22 条」は、類型 5 と 6 では「第 19 条」・「第 20 条」であ
る。(類型 5 と 6 には類型 4 の第 16 条・第 17 条の規定がないため)
1)例文
第 17 条(本研究成果の事業化) ←類型 4 のみ(類型 5・6 にはなし)
1 乙は、本研究成果について出願等を行なった日又は本共同研究終了日のいずれか早い日から[ ]年以内に[事業化]する努力をするものとする。
2 乙は、甲に対し、事業化の進捗状況を、甲の求めに応じて書面にて報告するものとする。
3 甲は、乙が本研究成果について出願等を行なった日又は本共同研究終了日のいずれか早い日から[ ]年が経過した以後において、乙が、本研究成果が正当な理由なく実施されていないと甲が判断したときは、甲は、乙に対し、書面によりその旨を通知し、次項に定める交渉の開始を求めることができるものとする。
4 甲及び乙は、乙が前項の通知を受領してから最長で[60 日/90 日]の間(以下「本交渉期間」という。)、乙から甲に対する本研究成果及び本知的財産権の[有償/無償]での[第三者への再許諾権付の独占実施許諾/譲渡]の条件について誠実に交渉するものとする。
5 乙は、本交渉期間中に、本研究成果又は本知的財産権を第三者に実施許諾又は譲渡しないものとする。
2)解説
・本共同研究の成果である本知的財産権を企業の帰属としたにも関わらず、企業の事業化努力が十分でない場合に、大学に対し第 15 条 2 項の規定を超えて再実施権付独占実施許諾又は譲渡について誠実に交渉する義務を定めたものである。
1)例文
第 18 条(知的財産権の出願等)
本知的財産権の出願は、乙が単独で出願するものとする。ただし、甲が本知的財産権を第 17
条等により取得している場合は甲が単独で出願する。第 19 条(外国における出願等)
本知的財産権の外国における出願については、前条に準じるものとする。第 20 条(出願等費用)
前 2 条の出願に関する出願等費用は、乙が負担するものとする。ただし、甲が、第 17 条等により本知的財産権を取得している場合は、甲の負担とする。
2)解説
・第 18 条・第 19 条で外国出願も含め、帰属に合わせ企業が単独で出願手続きを行うこととしている。第 18 条・第 20 条のただし書きで、本知的財産権が企業から大学に譲渡されている場合には大学が出願手続きを行い、大学が費用負担することとしている。
・類型 5・6 では、類型 4 の第 16 条・第 17 条がないため、第 18 条~第 20 条は第 16 条~第 18
条である。
1)例文
第 21 条(ノウハウ及びプログラム、データ等)
1 本共同研究の結果、ノウハウに該当するものが生じた場合は、相手方に速やかに通知し、甲乙協議の上、書面にて特定するものとする。
2 特定されたノウハウは、研究項目表 X.記載の期間、秘密として保持し、相手方の書面による承諾なく、第三者に開示してはならない。ただし、必要があるときは、甲乙協議の上、秘匿すべき期間を延長し、又は短縮することができる。
3 特定されたノウハウ及び本共同研究から生じたプログラム等の取り扱いについては、第
13 条から第 20 条に定める本知的財産権の取り扱いに準じ、甲乙別途協議の上決定するものとする。
[4 当事者提供データについては当該データを提供した各本当事者がそれぞれ利用権限を有し、また、本成果データについては別紙に定めるとおりデータの利用権限を有するものとし、かかる利用権限の内容は、別紙においてデータ毎にそれぞれ定める。但し、別紙において特段の定めがないときは、各当事者は、他の当事者が提供した当事者提供データ及び本成果データについて本研究の目的で利用するための利用権限を有するものとする。なお、各本当事者は、自己が提供した当事者提供データ及び本成果データの有用性及び正確性について保証せず、何らの責任も負わない。]
2)解説
・例文では、類型 0~3 と同様、特定されたノウハウ及び本共同研究から生じるプログラムの帰属や利用についても第 13 条~第 20 条(類型 5・6 は第 18 条)の本知的財産権の取扱いに準じると規定している。
・例文の 4 項の規定は、「38.データの取扱い(34 ページ)」と同様である。
・例文の 2 項の秘匿期間は、さくらツールでは研究項目表に欄を設けて記載している。
1)例文
第 23 条(本研究成果の公表)←類型4・5(類型 5 では第 21 条)
1 本研究成果は原則として、公表する。ただし、公表に当たっては、第 21 条のノウハウ秘
匿義務及び第 22 条の秘密保持義務を遵守するものとする。
2 甲は、公表の[ ]日前までに、公表の目的・場所及び内容を、書面にて乙に通知する。
3 乙は、公表により、乙の利益が著しく害されるおそれがあると判断した場合、前項の通知を受領してから[ ]日以内に甲に書面にてその旨を通知し、甲は乙と協議の上、公表範囲及び方法を決定するものとする。
4 本共同研究終了日の翌日から起算して[ ]年間を経過した後は、甲は、第 21 条のノウハ
ウ秘匿義務及び第 22 条の秘密保持義務を遵守した上で、乙に対する通知を行うことなく、本研究成果の公表を行うことができるものとする。ただし、甲乙協議の上、この期間を延長し、又は短縮することができるものとする。
5 甲及び乙は、事前に書面による相手方の同意を得たときは、本研究成果の発表又は公開若しくは公表を行う際に、当該本研究成果が本共同研究において得られたものである旨を表示することができる。
第 21 条(本研究成果の公表)←類型 6
本研究成果は、公表しないものとする。ただし、甲乙が別途書面で合意した場合はこの限りではない。
2)解説
・類型 4・5 の例文は類型 0~3 と同様、大学の社会的使命から、研究成果を広く社会に公表することを原則としつつ、企業の利益にも配慮した規定としている。
・類型 6 の例文は、本研究成果を公表しないこととしている。10 類型の中で、公表しないこととしているのは、この類型 6 だけであり、類型 5 と 6 の差異はこの 1 点である。
4)類型 7・8(知的財産権の帰属は発明者主義)
1)例文
第 13 条(知的財産権の帰属)
1 本共同研究に伴い得られた発明等(以下「本発明等」という。)に関する知的財産権(以下「本知的財産権」という。)は、本発明等の発明者が所属する当事者にそれぞれ帰属するものとする(以下、発明者が甲にのみ属する発明等を「甲発明等」といい、甲発明等に関する知的財産権を「甲知的財産権」という。また、発明者が乙にのみ属する発明等を「乙発明等」といい、乙発明等に関する知的財産権を「乙知的財産権」という。)。
2 本発明等の共同発明者が甲及び乙にそれぞれ 1 人以上所属している発明等(以下「共同発明等」という。)に関する知的財産権(以下「共有知的財産権」という。)は甲乙の共有とする。
3 甲は、甲知的財産権及び共有知的財産権について、乙は、乙知的財産権及び共有知的財産権について、それぞれの規則等により、当該発明等を得た研究担当者等から、当該発明等に関する知的財産権の承継を受けるものとする。
2)解説
発明者 | 帰属 | 対応条項 |
大学に所属する発明者のみ | 大学 | 1 項 |
企業に所属する発明者のみ | 企業 | |
大学・企業の両方に発明者が存在 | 大学・企業共有 | 2 項 |
・例文は、本共同研究に伴って得られた発明等に関する知的財産権につき、以下のようにいわゆる発明者主義で帰属を決定するとの規定である。
1)例文
第 14 条(甲発明等の取扱い)
1 甲は、甲発明等を研究目的で実施及び第三者に実施許諾できるものとする。ただし、第 21
条に定めるノウハウ秘匿義務及び第 22 条に定める秘密保持義務を遵守するものとする。
2 甲は、乙に対し、本共同研究を遂行する目的で、甲発明等を無償で非独占的に実施することを許諾する。
3 乙は、甲発明等及び甲知的財産権につき、[出願等前まで/出願等後[ ]か月以内]に下記(1)から(3)のいずれかを選択できるものとする。
(1)甲発明等を、本共同研究を遂行する目的以外の目的で[無償/有償]で非独占的に実施する権利
(2)甲発明等を[無償/有償]で独占的に実施する権利
(3)甲知的財産権を有償で譲り受ける権利
4 乙が第 3 項(1)又は(2)の選択権を行使することにより発生する乙の実施権が有償とされる場合、乙が甲に支払う実施料その他の許諾条件は、甲乙協議の上定める。
5 乙が、第 3 項(3)に基づく有償譲受権を行使した場合、乙は甲に対し、甲乙で別途合意する譲渡対価を支払うものとする。
6 乙は、第 3 項の規定に基づき行った選択について、甲の事前の書面による同意を得て、同項に定める他の選択に変更することができる。ただし、甲は、乙より当該同意を求められた ときは、正当な理由なく、当該同意を留保しないものとする。
第 15 条(乙発明等の取扱い)
1 乙は、乙発明等を自己のために実施及び第三者に実施許諾できるものとする。ただし、第 21
条に定めるノウハウ秘匿義務及び第 22 条に定める秘密保持義務を遵守するものとする。
2 乙は、甲に対し、乙発明等を、本共同研究その他の研究目的で、無償で非独占的に実施することを許諾する。
2)解説
・例文は、大学と企業の単独発明等について、それぞれ以下を定めたものである。なお、資料 2
では、第 14 条 3 項の選択権について、事案に応じ、権利の活用に適した形に変更可能と解説されている。
○大学の単独発明について(第 14 条)
⮚ 大学は研究目的での実施及び第三者への実施許諾可(1 項)
⮚ 企業は本共同研究の目的の範囲内で無償非独占的実施権を有する(2 項)
⮚ 企業は以下の選択権を有し(3 項)、実施料等の条件は協議の上決め(4 号・5 号)、選択は変更可能(6 号)
✓ 本共同研究以外の目的の無償/有償非独占的実施権を取得(1号)
✓ 無償/有償独占的実施権を取得(2 号)
✓ 有償で譲受け(3 号)
○企業の単独発明について(第 15 条)
⮚ 企業は自己のための実施及び第三者への実施許諾可(1 項)
⮚ 大学は研究目的で無償非独占的実施権を有する(2項)
1)例文
第 16 条(共同発明等の取扱い)
1 甲及び乙は、それぞれ、共同発明等につき、本共同研究その他の研究目的で、無償で非独占的に実施することができる。
2 甲及び乙は、共同発明等を第三者に実施許諾する場合には、相手方の事前の書面による同
意を得るものとする。←類型 7
第 17 条(共同発明等の取扱い-乙の選択権)←類型 7 のみ
1 乙は、共有知的財産権につき、[出願等まで/出願等後[ ]か月以内]に下記(1)から
(3)のいずれかを選択できるものとする。 類型 7
(1)共同発明等を、研究以外の目的で[有償/無償]で非独占的に実施する権利
(2)共同発明等を、[有償/無償]で独占的に実施する権利
(3)共有知的財産権を有償で譲り受ける権利
2 乙が第 1 項(1)又は(2)の選択権を行使することにより発生する乙の実施権が有償とされる場合、乙が甲に支払う実施料その他の許諾条件は、甲乙協議の上定める。
3 乙が、第 1 項(3)に基づく有償譲受権を行使した場合、乙は甲に対し、甲乙で別途合意する譲渡対価を支払うものとする。
4 乙は、前項の規定に基づき行った選択について、甲の事前の書面による同意を得て、同項に定める他の選択に変更することができる。ただし、甲は、乙より当該同意を求められたときは、正当な理由なく、当該同意を留保しないものとする。
2)解説
・例文(類型 7)は、大学と企業の共同発明等の取扱いについて、以下を定めたものである。なお、資料では、第 17 条 1 項の選択権について、事案に応じ、交渉により権利の活用に適した形に変更可能と解説されている。
⮚ 大学・企業とも研究目的での無償非独占的実施権を有する(第 16 条 1 項)
⮚ 大学・企業とも第三者に実施許諾する場合には相手方の書面同意が必要(第 16 条 2 項)
⮚ 企業は以下の選択権を有し(第 17 条 1 項)、実施料等の条件は協議の上決め(第 17 条 2 項・ 3 項)、選択は変更可能(第 17 条 4 項)
✓ 研究以外の目的の無償/有償非独占的実施権を取得(1号)
✓ 無償/有償独占的実施権を取得(2 号)
✓ 有償で譲受け(3 号)
・類型 8 では、以下のように第 16 条 2 項で、第三者に対する実施許諾事前に包括的に許諾する規定としている。
2 甲及び乙は、相互に、共同発明を第三者に実施許諾することを包括的に許諾する。
3 甲及び乙は、共同発明等を第三者に実施許諾し、実施料を受領した場合、その[50%]を、相手方に支払うものとする。
項目 | 類型 7 | 類型 8 | |
第三者への実施許諾 (第 16 条) | 相手方の事前書面同意必要(2 項) | 包括的に可能(2 項) 相手方への実施料支払い必要(3項) | |
企業の選択権 (第17 条 1 項) | 研究目的以外の非独占的実施権 | ○ | - |
独占的実施権 | ○ | ○ | |
有償譲受け | ○ | ○ |
・類型 8 では、第 17 条 1 項の企業の選択権から 1 号(研究以外の目的の無償/有償独占的実施権取得)を削除している。
1)例文
第 18 条(知的財産権の出願等)
本知的財産権の出願は、以下のとおりとする。
(1)甲知的財産権については、甲が単独で出願する。
(2)乙知的財産権については、乙が単独で出願する。
(3)共有知的財産権については、甲および乙が共同で出願する。第 19 条(外国における出願等)
本知的財産権の外国における出願については、前条に準じるものとする。第 20 条(出願等費用)
前 2 条の出願に関する出願等費用の負担は、以下のとおりとする。
(1)甲知的財産権については、甲発明等を、乙が非独占的に実施している場合には[①甲が②甲及び乙が共同して]負担する。
(2)甲知的財産権については、甲発明等を、乙が独占的に実施している場合には、乙が単独で負担する。
(3)乙知的財産権については、乙が負担するものとする。
(4)共有知的財産権については、甲乙が協議して決定する。
2)解説
・第 18 条・第 19 条で外国出願も含め、帰属に合わせ大学・企業が単独又は共同で出願手続きを行うこととしている。
・費用負担については、第 20 条で以下のように規定している。
⮚ 大学単独の知的財産権:
✓ 企業が非独占的実施している場合は大学又は大学・企業共同で負担(1 号)
✓ 企業が独占的実施している場合は企業が負担(2 号)
⮚ 企業単独の知的財産権:企業が負担(3 号)
⮚ 大学・企業共有の知的財産権:大学と企業が協議して決定(4 号)
1)例文
第 21 条(ノウハウ及びプログラム、データ等)
1 本共同研究の結果、ノウハウに該当するものが生じた場合は、相手方に速やかに通知し、甲乙協議の上、書面にて特定するものとする。
2 特定されたノウハウは、研究項目表 X.記載の期間、秘密として保持し、相手方の書面による承諾なく、第三者に開示してはならない。ただし、必要があるときは、甲乙協議の上、秘匿すべき期間を延長し、又は短縮することができる。
3 特定されたノウハウ及び本共同研究から生じたプログラム等の取り扱いについては、第
13 条から第 20 条に定める本知的財産権の取り扱いに準じ、甲乙別途協議の上決定するものとする。
[4 当事者提供データについては当該データを提供した各本当事者がそれぞれ利用権限を有し、また、本成果データについては別紙に定めるとおりデータの利用権限を有するものとし、かかる利用権限の内容は、別紙においてデータ毎にそれぞれ定める。但し、別紙において特段の定めがないときは、各当事者は、他の当事者が提供した当事者提供データ及び本成果データについて本研究の目的で利用するための利用権限を有するものとする。なお、各本当事者は、自己が提供した当事者提供データ及び本成果データの有用性及び正確性について保証せず、何らの責任も負わない。]
2)解説
・例文では、類型 0~6 と同様、特定されたノウハウ及び本共同研究から生じるプログラムの帰属や利用についても第 13 条~第 20 条の本知的財産権の取扱いに準じると規定している。
・例文の 4 項の規定は、「38.データの取扱い(34 ページ)」と同様である。
・例文の 2 項の秘匿期間は、さくらツールでは研究項目表に欄を設けて記載している。
1)例文
第 23 条(本研究成果の公表)
1 本研究成果は原則として、公表する。ただし、公表に当たっては、第 21 条のノウハウ秘
匿義務及び第 22 条の秘密保持義務を遵守するものとする。
2 甲は、公表の[ ]日前までに、公表の目的・場所及び内容を、書面にて乙に通知する。
3 乙は、公表により、乙の利益が著しく害されるおそれがあると判断した場合、前項の通知を受領してから[ ]日以内に甲に書面にてその旨を通知し、甲は乙と協議の上、公表範囲及び方法を決定するものとする。
4 本共同研究終了日の翌日から起算して[ ]年間を経過した後は、甲は、第 21 条のノウハ
ウ秘匿義務及び第 22 条の秘密保持義務を遵守した上で、乙に対する通知を行うことなく、本研究成果の公表を行うことができるものとする。ただし、甲乙協議の上、この期間を延長し、又は短縮することができるものとする。
5 甲及び乙は、事前に書面による相手方の同意を得たときは、本研究成果の発表又は公開若しくは公表を行う際に、当該本研究成果が本共同研究において得られたものである旨を表示することができる。
2)解説
・類型 0~5 と同様、大学の社会的使命から、研究成果を広く社会に公表することを原則としつつ、企業の利益にも配慮した規定としている。
5)類型 9・10(技術分野により帰属を決定)
1)例文
第 13 条(知的財産権の帰属) ←類型 9
1 本共同研究に伴い得られた発明等(以下「本発明等」という。)に関する知的財産権(以下「本知的財産権」という。)は、[技術分野 ♙]に属するものは甲の帰属とし、[技術分野 B]に属するものは乙の帰属とする。(以下、本条に指定する[技術分野♙]に属する発明等を「甲発明等」といい、甲発明等に関する知的財産権を「甲知的財産権」という。また、本条に指定する[技術分野B]に属する発明等を「乙発明等」といい、乙発明等に関する知的財産権を「乙知的財産権」という。)。
2 いずれの技術分野にも属さない場合、当該発明等に関する知的財産権は共有(以下「共有知的財産権」という。)とする。
3 甲は、甲知的財産権及び共有知的財産権について、乙は、乙知的財産権及び共有知的財産権について、それぞれの規則等により、当該発明等を得た研究担当者等から、当該発明等に関する知的財産権の承継を受けるものとする。
2)解説
・例文は類型 9 で、技術分野 ♙:大学帰属、技術分野 B:企業帰属、それ以外の技術分野:共有としている。
・類型 10 では以下のように、特定の技術分野:大学帰属、それ以外の技術分野:企業帰属とし、共有の余地をなくしている。
1 本共同研究に伴い得られた発明等(以下「本発明」という。)に関する知的財産権(以下「本知的財産権」という。)は、[技術分野]に属するものは甲の帰属とし、[技術分野]以外に属するものは乙の帰属とする(以下、本条に指定する[技術分野]に属する発明等を「甲発明等」といい、甲発明等に関する知的財産権を「甲知的財産権」という。また、本条に指定する[技術分野]以外に属する発明等を「乙発明等」といい、乙発明等に関する知的財産権を「乙知的財産権」という。)。
1)例文
第 14 条(甲発明等の取扱い)
1 甲は、甲発明等を研究目的で実施及び第三者に実施許諾できるものとする。ただし、第 21
条に定めるノウハウ秘匿義務及び第 22 条に定める秘密保持義務を遵守するものとする。
2 甲は、乙に対し、本共同研究を遂行する目的で、甲発明等を無償で非独占的に実施することを許諾する。
3 乙は、甲発明等及び甲知的財産権につき、[出願等前まで/出願等から[ ]か月以内]に下記(1)から(3)のいずれかを選択できるものとする。
(1)甲発明等を、本共同研究を遂行する目的以外の目的で[有償/無償]で非独占的に実施する権利
(2)甲発明等を[有償/無償]で独占的に実施する権利
(3)甲知的財産権を有償で譲り受ける権利
4 乙が第3 項(1)又は(2)の選択権を行使することにより発生する乙の実施権が有償とされる場合、乙が甲に支払う実施料その他の許諾条件は、甲乙協議の上定める。
5 乙が、第 3 項(3)に基づく有償譲受権を行使した場合、乙は甲に対し、甲乙で別途合意する譲渡対価を支払うものとする。
6 乙は、前第 3 項の規定に基づき行った選択について、甲の事前の書面による同意を得て、同項に定める他の選択に変更することができる。ただし、甲は、乙より当該同意を求められたときは、正当な理由なく、当該同意を留保しないものとする。
第 15 条(乙発明等及び乙知的財産の取扱い)
1 乙は、乙発明等を自己のために実施および第三者に実施許諾できるものとする。ただし、
第 20 条に定めるノウハウ秘匿義務及び第 21 条に定める秘密保持義務を遵守するものとする。
2 乙は、甲に対し、乙発明等を、本共同研究を遂行する目的及び研究目的で、無償で非独占的に実施することを許諾する。
第 16 条(共有知的財産権の取扱) ←類型 9 のみ
1 甲及び乙は、相手方に対し、共有知的財産権の実施(甲については研究目的での実施)を相互に包括的に許諾する。
2 甲及び乙は、相手方に対し、共有知的財産権の第三者への実施許諾を相互に許諾する。
2)解説
・例文は類型 9 で、それぞれ以下を定めたものである。なお、資料 2 では、第 14 条 3 項の選択権について、事案に応じ、権利の活用に適した形に変更可能と解説されている。
○大学帰属の発明等・知的財産権について(第 14 条)
⮚ 大学は研究目的での実施及び第三者への実施許諾可(1 項)
⮚ 企業は本共同研究の目的の範囲内で無償非独占的実施権を有する(2 項)
⮚ 企業は以下の選択権を有し(3 項)、実施料等の条件は協議の上決め(4 号・5 号)、選択は変更可能(6 号)
✓ 本共同研究以外の目的の無償/有償非独占的実施権を取得(1号)
✓ 無償/有償独占的実施権を取得(2 号)
✓ 有償で譲受け(3 号)
○企業帰属の発明等・知的財産権について(第 15 条)
⮚ 企業は自己のための実施及び第三者への実施許諾可(1 項)
⮚ 大学は研究目的で無償非独占的実施権を有する(2項)
○共有知的財産権について(第 16 条) ←類型 9 のみ
⮚ 大学は研究目的で実施可、企業は目的に関係なく実施可
⮚ 大学・企業は第三者へ実施許諾可
・類型 10 では、実施料等の条件を協議の上決める旨の規定(第 14 条 4 項・5 項)がなく、第
17 条 3 項・4 項に規定(類型 9 も念押しで規定)されている。
1)例文
第 17 条(実施料)
1 甲が、乙発明等を、本共同研究その他研究目的で、実施する場合は無償とする。
2 乙が、甲発明等を、本共同研究を遂行する目的で非独占的に実施する場合は無償とする。
3 乙が第 14 条 3 項(1)又は(2)に基づく選択権を行使した場合に、甲に支払う実施料は、甲乙協議の上定める。
4 乙が、第 14 条 3 項(3)に基づく有償譲受権を行使した場合、乙は甲に対し、甲乙で別途合意する譲渡対価を支払うものとする。
2)解説
・例文の 1 項、2 項は、それぞれ第 15 条 2 項、第 14 条 2 項の「無償で」の規定を念押しした規定であるので、なくてもよい。
・例文の 3 項、4 項は、類型 9 においては第 14 条 4 項、5 項の念押し規定であるので、なくてもよい。
1)例文
第 18 条(知的財産権の出願等)
本知的財産権の出願は、以下のとおりとする。
(1)甲知的財産権については、甲が単独で出願する。
(2)乙知的財産権については、乙が単独で出願する。
(3)共有知的財産権については、甲乙共同で出願する。 ←類型 9 のみ第 19 条(外国における出願等)
本知的財産権の外国における出願については、前条に準じるものとする。第 20 条 (出願等費用)
前 2 条の出願に関する出願等費用の負担は、以下のとおりとする。
(1)甲知的財産権については、甲発明等を、乙が非独占的に実施している場合には[①甲が ②甲及び乙が共同して]負担する。
(2)甲知的財産権については、甲発明等を、乙が独占的に実施している場合には、乙が単独で負担する。
(3)乙知的財産権については、乙が負担するものとする。
(4)共有知的財産権については、甲乙が協議して、負担を決定する。 ←類型 9 のみ
2)解説
・類型 7・8 と同様、第 18 条・第 19 条で外国出願も含め、帰属に合わせ大学・企業が単独又は共同で出願手続きを行うこととしている。
・費用負担についても類型 7・8 と同様、第 20 条で以下のように規定している。
⮚ 大学単独の知的財産権:
✓ 企業が非独占的実施している場合は大学又は大学・企業共同で負担(1 号)
✓ 企業が独占的実施している場合は企業が負担(2 号)
⮚ 企業単独の知的財産権:企業が負担(3 号)
⮚ 大学・企業共有の知的財産権:大学と企業が協議して決定(4 号) ←類型 9 のみ
1)例文
第 21 条(ノウハウ及びプログラム、データ等)
1 本共同研究の結果、ノウハウに該当するものが生じた場合は、相手方に速やかに通知し、甲乙協議の上、書面にて特定するものとする。
2 特定されたノウハウは、研究項目表 X.記載の期間、秘密として保持し、相手方の書面による承諾なく、第三者に開示してはならない。ただし、必要があるときは、甲乙協議の上、秘匿すべき期間を延長し、又は短縮することができる。
3 特定されたノウハウ及び本共同研究から生じたプログラム等の取り扱いについては、第
13 条から第 20 条に定める本知的財産権の取り扱いに準じ、甲乙別途協議の上決定するものとする。
[4 当事者提供データについては当該データを提供した各本当事者がそれぞれ利用権限を有し、また、本成果データについては別紙に定めるとおりデータの利用権限を有するものとし、かかる利用権限の内容は、別紙においてデータ毎にそれぞれ定める。但し、別紙において特段の定めがないときは、各当事者は、他の当事者が提供した当事者提供データ及び本成果データについて本研究の目的で利用するための利用権限を有するものとする。なお、各本当事者は、自己が提供した当事者提供データ及び本成果データの有用性及び正確性について保証せず、何らの責任も負わない。]
2)解説
・例文では、類型 0~8 と同様、特定されたノウハウ及び本共同研究から生じるプログラムの帰属や利用についても第 13 条~第 20 条(類型 10 では第 19 条)の本知的財産権の取扱いに準じると規定している。
・例文の 4 項の規定は、「38.データの取扱い(34 ページ)」と同様である。
・例文の 2 項の秘匿期間は、さくらツールでは研究項目表に欄を設けて記載している。
1)例文
第 23 条(本研究成果の公表)
1 本研究成果は原則として、公表する。ただし、公表に当たっては、第 21 条のノウハウ秘
匿義務及び第 22 条の秘密保持義務を遵守するものとする。
2 甲は、公表の[ ]日前までに、公表の目的・場所及び内容を、書面にて乙に通知する。
3 乙は、公表により、乙の利益が著しく害されるおそれがあると判断した場合、前項の通知を受領してから[ ]日以内に甲に書面にてその旨を通知し、甲は乙と協議の上、公表範囲及び方法を決定するものとする。
4 本共同研究終了日の翌日から起算して[ ]年間を経過した後は、甲は、第 21 条のノウハ
ウ秘匿義務及び第 22 条の秘密保持義務を遵守した上で、乙に対する通知を行うことなく、本研究成果の公表を行うことができるものとする。ただし、甲乙協議の上、この期間を延長し、又は短縮することができるものとする。
5 甲及び乙は、事前に書面による相手方の同意を得たときは、本研究成果の発表又は公開若しくは公表を行う際に、当該本研究成果が本共同研究において得られたものである旨を表示することができる。
2)解説
・類型 6 を除く他の類型と同様、大学の社会的使命から、研究成果を広く社会に公表することを原則としつつ、企業の利益にも配慮した規定としている。
40.モデル契約書
1)概要
文部科学省からさくらツールが提供された後、知財等から生み出される事業価値の総和を最大
化することを基本理念として、経済産業省・特許庁から共同研究契約書を含むモデル契約書が提供されている。2020 年 6 月にスタートアップと企業との間の契約書が策定・提供され、今後、大学とスタートアップとの間の契約書、大学と企業との間の契約書が策定される予定のようである。
上記の基本理念から、「とりあえず共有帰属」や「(必要以上に)広範な分野・領域において実施を禁止」を NG としている。
このモデル契約書の特徴は以下の 2 点とされている。
・従来型の契約例(ひな型)にはなかった具体的な「想定シーン」を設定し、その想定シーンにおける望ましい契約・交渉の考え方を整理したものとなっており、ゴールデンスタンダードではない。
・従来の常識とされていた交渉の落とし所ではない新たな選択枝を提示するものである。
【資料】
資料 2 「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書 ver1.0」を取りまとめました
https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200630006/20200630006.html
独立行政法人工業所有権情報・研修館知財戦略部 イノベーション支援担当
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