Contract
アメリカ法
第28回
Ⅴ.アメリカ契約法
6.債務の履行・不履行
xx xx
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⑹ 債務者に責なき履行不能・目的達成不能⒞ 効果
⑹ 債務者に責なき履行不能・目的達成不能⒞ 効果
2020/5/27契約締結
履行不能・目的達成不能により,先履行/ 同時履行義務を負う当事者の債務の履行
/提供義務が消滅。
重大でない
債 務 不 履 行(実質的履行あり)
重 大 な 債 務不履行(実質的履 行なし)
反対当事者は
契約を解除できない(履行義務が発生)。損害賠償請求権は取得しない。
反対当事者は自らの債務の履行を留保できる.不履行の治癒のため相当の猶予期間を置く。
【治癒あり】契
約を解除できない(履行義務が発生)。損害賠償請求権は取得しない。
【治癒なし】契約を解除できる。損害賠償 請求権は取得しない。
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教員として労働提供(2020/9~2021/8)約束
B A
年俸$36,000(毎月$3,000分割)支払約束
(学校) (教員)
(2020/11/30)A死亡
Aの労働提供債務消滅 → 重大な不履行 → Bの年俸支払債務も消滅
Bは2020/9~2020/11就労分について受けた利益をAの遺産
に返還する義務を負う($3,000)。
(2021/6/30)A死亡
Aの労働提供債務消滅 → 重大でない不履行 → Bの年俸支払債務は残存
Bは年俸の未払い分をAの遺産に支払う義務を負う($6,000)。
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⑹ 債務者に責なき履行不能・目的達成不能⒞ 効果
2020/7/31契約締結
部屋の4面に壁画を描く(2020/9~2020/12)約束
B A
$100,000支払(2020/12)約束
(注文主) (画家)
(2020/11/10)Aが3面を完成後死亡
Aの債務消滅 → 重大な不履行 → Bの代金支払債務も消滅
Bは3面に完成した壁画の価値をAの遺産に返還する義務を負う。
(2020/11/30)Aが4面を95%完成後死亡
Ⅴ.アメリカ契約法
7.救済方法
Aの労働提供債務消滅 → 重大でない不履行 → Bの代金支払債務は残存
Bは$100,000をAの遺産に支払う義務を負う。Bに損害賠償請求権はない。
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⑴ 概説⒜ 救済方法の目的――期待利益・信頼利益・原状回復利益
◆救済方法の目的――契約違反を受けた債権者に対してその受けた損害の補償を与えること
――受約者が約束を信頼できるようにするにはどうすれば良いかを重視
――約束者に約束を守らせることにはほとんど関心が払われていない
⇒ Freedom to Breach a Contract
◆受約者が約束を信頼できるようにする
期待利益(expectation interest:履行利益)の賠償――被害当事者を,契約が履行されたのと同じ状態に置こうとするもの
信頼利益(reliance interest)の賠償――被害当事者を,契約締結前の状態に戻そうとするもの[必要的信頼利益と付随的信頼利益]
原状回復利益(restitution interest)の賠償――違反当事者を,契約締結前の状態に戻そうとするもの
⑴ 概説⒝ 救済方法の種類
(イ) 特定的救済方法・代替的救済方法
① 特定的救済方法――被害当事者に債権の内容そのものを実現して与えるもの
② 代替的救済方法――被害当事者に債権の内容の代替物,とくに金銭を与えるもの
(ロ) xxx・xx上の救済方法・エクイティ上の救済方法
① コモン・ロー上の救済方法――金銭的損害賠償など
② エクイティ上の救済方法――契約の特定履行命令,契約書の抹消・訂正を命じる命令など
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⑵ エクイティ上の救済方法
⒜ 第二次的救済方法
エクイティ上の救済方法――例外的救済方法
① 大法官による救済の補充性―― adequacy test(十分性の基準)+通常は損害賠償が十分な救済になるとの原則(土地を目的とするものを除く)
② エクイティ上の救済の裁量性
③ 執行可能性からの制約
1851/11/9契約締結
X
Xxxxxx
(興行者)
⑵ エクイティ上の救済方法
Xxxxxx v. Xxxxxx, 42 E.R. 687 (1852)
Xが借りた劇場で歌う(1852/4/1-6/30)約束
報酬£100/w=400/mの支払約束前渡金£300支払(1852.3.15)
Xの同意なしに他劇場で出演しない約束
Y
Xxxxxx
(オペラ歌手&父)
⒝ エクイティ上の救済方法の種類――特定履行と差止命令
① 特定履行命令
② 差止命令――特定の行為を行わないよう債務者に命じるもの。
債務の内容が不作為であれば,特定履行と同じことになる。特定履行を命じることが,監督上の理由から困難な場合などに,その債務の内容と
A
Gye
(興行者)
Aが借りた劇場での出演(Xとの契約を放棄)契約締結
1852/4/22 YのAの借りた劇場での出演の差止を求めて提訴
相容れない行為を禁じるためにこれが用いられることがある:例
――Xxxxxx v. Xxxxxx.
第xx(Vice-Chancellor)(1952.5.9):原告勝訴(差止命令申立認容),裁判所はYの他劇場出演を禁止するため介入することは可能。
9 第二審(Lord Chancellor)(1952.5.26):上訴棄却。 10
⑵ エクイティ上の救済方法
⒞ 救済方法の形態・効果
裁判所は,債務不履行または履行拒絶による契約違反があった場合に,特定履行・差止命令を与えることができる。((d)adequacy test, (e)他の制約に適合すれば)
裁判所は,具体的xxが達成されるように自由に命令の内容を定めることができる。
◆命令を,被害当事者によってなされるべき行為の履行に条件づけること
◆債務内容の変更に対する被害当事者の同意に条件づけること
◆特定履行・差止命令と合わせて,損害賠償を命じること
命令に従わない場合に課される制裁は,法廷侮辱による拘禁・罰金
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⑵ エクイティ上の救済方法
⒟ Adequacy Test
エクイティの救済はxxx・xxの救済が不十分な場合にのみ与えられる。双方を比較し,いずれが被害当事者の利益の保護に有効であるかを決定
◆損害賠償の十分性の検討の際に重要な3要素
(イ) 正確に損害を証明することが難しいかどうか
(ロ) 損害賠償金によって適当な代替的履行を入手できるか(土地の場合)
(ハ) 損害賠償金を回収できる見込み
◆損害賠償の十分性に疑問がある場合には,(e)の制約要素も併せて検討される。
⒠ 他の制約
(イ) 不明確な契約条件,(ロ) 反対債務の履行の保証,(ハ) 執行・監督上の問題。Cf., 現代的訴訟――バス通学を実施命令,議会の選挙区割の是正命令
(ニ) 個人的労務提供契約,(ホ) xx・xx,(ヘ) 公序(Public Policy)
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⑶ xxx・xx上の救済方法――損害賠償
⒜ 概 説
(イ) 一般的救済方法としての損害賠償
拘束力ある契約(enforceable contract)について違反があれば,被害当事者には必ず損害賠償請求権(損害が生じていない場合/損害額が明確に証明されていない場合には1ドルなり6セントなりの名目的損害賠償(nominal damages))が与えられる。
与えられる損害賠償は基本的に期待利益の賠償。
(ロ) 懲罰的損害賠償( punitive damages; exemplary damages; vindictive damages←→補償的損害賠償 (compensatory damages))の禁止――契約違反の被害当事者は,契約が履行されたならば置かれたであろう状態よりも良い状態に置かれることはない。
⑶ xxx・xx上の救済方法――損害賠償
⒝ 期待利益の賠償額の算定方式 期待利益の賠償額の基本的算定式
general measure ―― loss in value + other loss - cost avoided - loss avoided
① 逸失利益(loss in value)――契約により受けるはずであった履行の価値
-実際に受けた履行の価値
② その他の損害(other loss)――契約違反による付随的損害と結果的損害(e.g., 診療契約)
【契約解除の場合】
③ 回避された履行費用(cost avoided)
④ 回避された損失(loss avoided)
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⑶ xxx・xx上の救済方法――損害賠償
⒞ 損害軽減義務 (duty to mitigate damages; avoidable xxxxxxxxxxx rule)
当事者は,相手方が反対債務を履行しないことを知った時には,自らの履行を中止して,さらなる履行費用の出捐を回避するとともに,代替的取引や履行のために用意したものの処分によって損失の回避をするために相当な行動をとることが求められる。
⒟ 予見可能性
(イ) 予見可能性による損害賠償の制限 違反当事者は,契約時に自らの契約違反の結果生じるものと予見すべかりし損害以外については,賠償の責任を負わない(Xxxxxx v. Baxendale, 1854)。
(ロ)(ハ) 損害賠償が認められるための要件(Restatement 2d, §351)
① 契約締結時における違反当事者の予見可能性が必要。
② 予見の対象は,違反の蓋然的(probable)結果として当該損害が生じること。
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⑶ xxx・xx上の救済方法――損害賠償
⒠ 確実性
アメリカでは,19世紀中頃から,契約事件において損害賠償が認められるためには,損害額が明白な証拠によって,確実に(近年では,「相当な確実性」をもって)証明されなければならない,という原則が確立された。
⒡ 信頼利益の賠償
得べかりし利益の賠償の証明において確実性の要件が満たされなかった場合,被害当事者は,(エクイティ上の救済方法の可能性のほか)信頼利益の賠償を得ることができる可能性がある。
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⑶ xxx・xx上の救済方法――損害賠償
⒢ 損害賠償額の予定と違約金
(イ) 損害賠償の予定に対する制約 契約違反に対して支払われるべき損害賠償額をあらかじめ契約中で取り決めておくことは,その額が相当なものであれば損害賠償額の予定(liquidated damages)として有効とされるが,過大なものであれば,違約金(penalty)を取り決めるものとしてその効力が否定される。
(ロ) UCC2‐718条(1)項およびリステイトメント356条は,予定された賠償額が,予測された損害または現実に生じた損害,および損害の証明の困難性に照らして相当である場合に,賠償額予定の合意に効力を認めている。
⑶ xxx・xx上の救済方法――損害賠償
⒣ 原状回復利益の賠償
一方当事者が解除権を発生させるような契約違反を犯した場合には,被害当事者は契約を解除するとともに,(期待利益または信頼利益に代えて)原状回復利益の賠償を請求することができる。
原状回復利益は期待利益より小さいのが普通であるが,例外的に原状回復利益の方が大きくなることがある。リステイトメントは,判例の大勢とともに,原則として,期待利益を超える原状回復利益の賠償を容認している(2d,§373 comment d)。
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(2) (c) 明示契約・黙示契約・準契約
2020/7/1契約締結
マスク10箱の引渡(2020/8/10)約束
A
(買主)
代金$200
前渡金$80の支払(2020/7/1)
$120の支払(2020/8/10)約束
B
(売主)
2020/8/10:BはAに引き渡し拒否(マスクの市場価格$380), AはBの不履行を理由に契約解除,契約上の救済を請求――$260 AはBの不履行を理由に契約解除,準契約上の救済を請求――$80
2020/8/10:BはAに引き渡し拒否(マスクの市場価格$180), Aは契約解除,契約上の救済(期待利益の賠償)を請求――$60 Aは契約解除,準契約上の救済(原状回復利益の賠償)を請求――$80
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