Contract
商 法 (100 点)
第1問
P株式会社(以下「P社」という)は、家電製品の販売を業とする会社であり、取締役会設置会社であるが、委員会設置会社ではない。P社の設立手続中、唯一の発起人であるAは、P社の成立を条件として、不動産業者Bから店舗建設用地(以下「本件土地」という)をP社が1億円で購入する契約(以下「本件契約」という)を締結した。その後P社は成立したが、P社の定款には、本件契約についての定めはなされておらず、本件土地の代金は支払われていない。なお、P社の成立時の純資産額は2億円であり、その後現在まで大きな変動はないものとする。
問1 Bは、P社に対して本件土地の代金の支払を請求することができるか。
問2 Bは、Aに対して本件土地の代金の支払を請求することができるか。
問3 P社成立後に代表取締役に就任したAが、P社が成立して約1か月後に本件契約を追認したとすると、Bは、P社に対して本件土地の代金の支払を請求することができるか。
第2問
P株式会社(以下「P社」という)は、衣料品の販売を業とする会社であり、資産総額は約3億円、負債総額は約2億5千万円、年間の売上高は約4億円である。P社は、取締役会設置会社であるが、委員会設置会社ではない。P社は、取締役会規程で、P社が購入する物品の代金の支払以外の目的で手形行為をするには取締役会の承認を得なければならない旨を定めている(以下「本件規程」という)。
甲は、衣料品の製造販売を業とし、10 年来、P社と衣料品の取引を行ってきた個人商人である。経営難に陥った甲は、P社専務取締役Aに対して、信用あるP社が振出人となった約束手形を甲が第三者に裏書譲渡することで運転資金を獲得することとしたいので、P社名義で甲を受取人とする約束手形を振り出してもらいたい旨願い出た。Aは、代表取締役には選定されていないものの、P社代表取締役Bから手形行為をする権限を与えられており、P社の手形取引は通例AがP社代表者印を使って「P社代表取締役B」名義で行っていた。甲は、Aがこの願い出に応じて手形を振り出してくれれば、手形の満期までに手形金額相当額を必ずP社の手形決済用の銀行口座に送金し、P社やAに迷惑をかけることは決してしないと約束した(以下「本件約束」という)。
甲の倒産によりP社の取引先が連鎖倒産することを懸念したAは、この願い出に応じて、甲を受取人とする約束手形を何度か振り出してやったが、そのたびに甲は本件約束に従って満期までに手形金額をP社の口座に送金してきた。なお、これらの手形を振り出す際、AはP社取締役会の承認を得ていなかった。
上記のような約束手形の振出しと決済を繰り返すことで甲は何とか持ちこたえていたが、Aが平成 24 年7月1日に、手形金額 100 万円として甲に対して振り出し、甲が乙に裏書譲渡した約束手形(振出人は「P株式会社代表取締役B」、受取人は「甲」、満期は平成 24 年9月 30日とされている。以下「本件手形」という)について、甲はP社の銀行口座に本件約束通りの送金をすることができなかった。乙は、甲から本件手形の裏書譲渡を受ける際、本件手形の振出しがP社・甲間の商品売買の代金支払のためにではなく、甲が金融を得られるようにする趣旨でなされたことは知っていたが、P社に本件規程があることや本件手形の振出しがP社取締役会の承認なしに行われたことは知らなかった。
上記の事実関係のもとで本件手形の所持人たる乙がP社に対して手形金の支払を求めてきた場合、P社は支払をしなければならないか。