Contract
技術移転専門家養成プログラム 2004
産業財産xx(契約)
第1回「契約についての基礎知識」
2004年1月12日
(2005年3月、2006年4月追記)奈良先端科学技術大学院大学
知的財産本部 助教授(当時) xx x
1.はじめに
この講義では、技術移転の専門家として必要な知識である契約について説明したいと思います。これまで企業の知的財産部で特許の仕事をされてきたとしても、契約については法務部に任せていたのではないでしょうか? また、弁理士を目指す方はこれから知的財産xx(特許法や著作xxなど)を勉強する機会はあっても、なかなか民法を勉強する機会はないものと思います。事業家を目指す方にとっても契約は大事なはずです。技術移転の専門家になるために必要な知識は、書籍や先輩のxxxxx、そして何よりも実際に担当した自分の経験を通じて獲得できるものと思います。しかしながら、この講義が皆さんのお役に立てるよう、講師として最善を尽くすことをお約束いたします。
1.1全体の構成
全6回の講義予定は次のとおりです。 第1回:契約についての基礎知識(その1)第2回:契約についての基礎知識(その2)第3回:共同開発契約
第4回:請負契約
第5回:特許ライセンス契約と不正競争防止法(その1)第6回:特許ライセンス契約と不正競争防止法(その2)
2.契約の一般的知識
はじめから堅苦しい話はしたくないのですが、まず、契約にまつわる基礎知識について説明したいと思います。なぜ最初にこのことを説明するのか? それは、契約の仕事を始めるまで(すでに弁理士として仕事を始めていたにも関わらず)、私が知らなかったことだからです。そして、それらの基礎知識を理解して初めて、私が契約に関するいろんな事項を理解できるようになったからです。
法律系の学部を卒業した方には当たり前のことと思いますが、理科系出身の方にとって「任意規定」や「典型契約」といった言葉、その意味は決して馴染みあるものではないと思います。そこで、まずこれら契約の一般的な知識について説明しましょう。
参考書籍:
各受講生は『知的財産xxの法令集』と少なくとも『民法の法令集』を各自で用意してください。特に、弁理士を目指す方は六法全書を購入してください。民事訴訟法など受験に際して参照する機会があるものと思います。六法全書1 で
1 民法が平成 16 年改正により、ようやく平仮名表記に変わりました。全部の条文ではありませんが、適宜、改正後の表記に改めていきます。参考にした書籍は『現代語化民法 ここが変わった!』 現
は、三修社の『ヨコ組 六法全書』がお勧めです。理由は、縦書き、しかも、xxxx表記の法令集を読めず、私がこの書籍を現在愛用しているからです。また、民法の入門書としては、xxx xx著、「ゼミナール 民法入門」、日本経済新聞社をお勧めします。
2.1「当事者の意思」と「民法の規定」
契約※に関する争いごとが裁判所に持ち込まれたとき、民法の規定はどのように扱われるのでしょうか? 契約について話をする前に「当事者の意思」と「民法の規定」の位置づけを簡単に説明しておきましょう。
※ 民法の契約成立の形態は3種に区分することができます(諾成契約、要物契約、要式契約)。
1)諾成契約とは当事者の合意だけで成立する契約をいいます。その例として、売買(民法 555 条)、使用賃貸(民法 593 条)などが挙げられます。
2)要物契約とは当事者が合意することのほか、物の引渡しも必要とされる契約をいいます。その例として、消費貸借(民法 587 条)や寄託(民法 657 条)などが挙げられます。
3)要式契約とは一定の方式に従って意思表示定めてはじめて契約として成立するものです。その例としては、定款の作成(民法 37 条)※a、遺言(民法 960 条)や手形行為
(手形法1条等)などが挙げられます。
知的財産権のライセンス契約などが関係するのは諾成契約ですので、このテキストでは諾成契約を「契約」として説明していくこととします。要物契約や要式契約の説明はありませんが、この点ご了承ください。(2005 年 3 月追記)。
※a 例えば、民法 37 条は次のように規定しています。
民法第 37 条
社団法人を設立しようとする者は、定款を作成し、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 目的二 名称
三 事務所の所在地四 資産に関する規定
五 理事の任免に関する規定
六 社員の資格の得喪に関する規定
つまり、以上の事項は書面に記載されていなければならない(書面がなければならない)ということです。
※a-1 また、民法 550 条は負担付贈与についての規定で、この規定も書面をもって契約する必要があることを定めています。
民法 550 条(書面によらない贈与)
書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終った部分については、この限りでない。
この規定は、贈与の契約の際、書面なき場合は、履行未了部分の取消ができることを定め
たものです。従って、この点について履行未了の部分の一方的な取消を防ぎたいと考える者
代語化民法研究会編著です。
は、書面をもって契約することが必要となるのです。
(本題に戻る)
もし、あなたが知人と契約を交わした後、その内容について後日争いが起こった場合、裁判所は「民法の規定」よりもまず「当事者間の意思」を最優先に尊重します。また、取引慣行や契約交渉や契約後の両当事者の関係なども「当事者の意思」を推定するために考慮します。従って、例え契約書に記載されていなくても「契約が実施されなかったら商品を即日撤収する」といった事項や「金利を年 10%払う」といった事項がその他の証拠から認められれば、裁判所は「民法の規定」によらず「当事者の意思」に基づいた判断を行うのです。これが原則です。つまり、契約書は当事者の意思を証明するための一つの証拠に過ぎないのです。いろんな書籍で説明されているように、例え契約書にサインをしたとしても、「当事者の意思」が反映していない契約書では有効とは認められません2。
しかし、裁判になるというのは、そもそも契約時の意思がお互い不明確なときに起こるものですよね? 契約書に記載されておらず、そして相手が認めずに争いになった事項を、後日「当事者の意思」として証明することは限りなく不可能に近いように思えます。そのため、契約書に記載されていない事項や契約書がない場合の多くは、民法に該当する規定があれば、その規定に従って判断されるのです。
<ポイント>
① 裁判では、「当事者の意思」が「民法の規定」より優先される。よって、例え契約書があったとしても、その事情から「当事者の意思」が証明できれば、裁判所はその意思を尊重してくれる。
② しかし、契約書以外では、当事者の意思を証明することは困難。契約書がない/契約書に記載されていない事項については、民法の規定に従って判断される(判断されることが多い)。
2.2 すべての取引に契約書が必要なの?
日常の生活で、私たちは様々な取引を行っています。電化店で冷蔵庫を買う、本屋で本を買うといった具合です。これらは立派に民法 555 条に定める『売買』として成立する行為です。そして、購入した書籍に落丁(瑕疵)が見つかったとき、私たちは当然にその本屋さんに代金の返金や商品の交換を求めます。どうしてこのような要求が可能なのでしょうか?
民法 555 条(売買)
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、
相手方が、これに対してその代金を払うことによって、その効力を生ずる。
※ 本屋でのケースは、あなたがレジにおいて、売り場の店員があなたにカバーを掛けた書籍を手渡す(財産権の移転の約束)、あなたが代金を支払うことに合意する(代金支払いの約束)ことで成立です。その際、契約書は交わさないですよね。
もし、本屋の店主が『一旦購入した以上、いまさら返品は認めない!!』と主張したら反論できますか? 契約書もないあなたの手元にはその本屋で購入したことを示すレシートだけ、本屋に対して何を根拠に返金(もしくは交換)を求めることができるのでしょう? その
2 名古屋高裁昭和 60 年 9 月 26 日判決
本事件では、契約書に署名はあるものの、契約内容から署名者の意思表示の重要部分に錯誤があるとして、契約を無効とし信販会社からの訴えを退けました。
答えは、民法 570 条[売主の瑕疵担保責任]に定められています。
民法 570 条
売買の目的物に隠れたる瑕疵ありたるときは第 566 条[売買の解約、損害賠償請求]の規定を準用する。
あなたが本の返金※2-1を求めることができるのは、まさにこの規定のおかげなのです※2-2。つまり、書籍の購入者であるあなたは、本の売主である本屋との契約書などなくとも、レシートでそのお店から書籍を購入したことを証明できれば、売買の目的物である書籍に落丁(隠れたる瑕疵)があったことを理由として、民法 570 条に基づいて裁判所に売買の解約を請求することができるのです※3。民法では、損害賠償も規定していますので、理論上、損害賠償も可能です(実際どんな損害が発生するのかは興味あるところですけど)。つまり、(乱暴な言い方ですけど)民法に定めてある事柄であれば、あえて契約を交わす必要はないといえるのです。
※2-1 民法 570 条の規定が定めているのは売買の解約なので、売買の解約を条件に本の代金を返してもらうことは OK。でも、書籍の交換を求めることについては、明確な規定がなく、この点については説が分かれています(法定責任説と契約責任説)。今回、この説明は省略しますが、対立する意見がある点だけは憶えておいてください。(参考書籍、xxx、「民法
(2) 債権各論」、東京大学出版会)
※2-2 本屋の反論としては、「本の落丁は、隠れた瑕疵じゃない!!」ということが予想されますが、実際に本を購入する場面を考えると、誰も購入前に全部のページ番号のチェックをすることなど考えにくく、落丁は「隠れた瑕疵」といえるように思えます。もしあなたが本屋だったら、「本の落丁」を「隠れた瑕疵」と考えますか?
※3 その他、担保瑕疵に関する法的責任についての民法の規定としては、民法 412 条完全履行請求があります。皆さんなら、この規定に基づいてどのような主張を考えますか?
民法 412 条
債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
※ 誤解のないように再度解説
このような場合も、売り手の本屋さんと購入者であるxxxとの間の「当事者の意思」が尊重されます。もし、お店が古本屋であなたが格安の値段でこの本を購入、そのとき に「例え落丁があったとしても、返品はしない」との意思が双方で合意されていたのであれば、上記 570 条の規定があったとしてもあなたは本の交換を求めることはできません。
この事実の立証は、本屋さん側なので、購入者であるあなたには関係がないように思えますが、本屋さんの立場になって、どのようにして立証するのか考えてみてください。回答例1) 常に返品しない旨の店内放送を流し続ける。
回答例2) レシートに明記、また、レシートを渡すとき「例え落丁があっても・・・」と伝え、これをビデオに録画。まあ、ここまですれば、「当事者の意思」は認められるのでは?
<ポイント>
民法に定められている事柄であれば、あえて契約書を交わす必要なし。困ったときは、民法の規定に基づいて判断される。
2.3「典型契約」って何?
古くから人々は様々な取引を行ってきました。その中でいろんなトラブルが発生し、これらを話し合いや裁判を通じて解決してきました。民法は、これらの経験から得られた様々なケースを想定し、各種の取引を円滑に進めるための規定を数多く設けています。そして、これらの規定のおかげで、私たちは日常の生活において、特段の契約を交わさなくても円滑な取引を行うことができるのです。
例えば、民法404 条はお金を貸したときの法定利率を年5%とすることを定めたものです。つまり、あなたがお金を借りたとき、契約書にxxについて何も記載されていなければ、そのxxは 5%ということです。何も記載されていないからxxは払わなくてもよいということにはなりません。また、あなたがお金を貸した場合、「俺は 6%のxxを取るつもりだった」と裁判所に主張してもダメです。もし、6%のxxを要求するのであれば、契約書に「年 6%のxxを支払う」ことを明記すべきなのです。
民法 404 条
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。
そして、民法の第2章(第 521 条~第 696 条)では、これまでの商取引の経験から、
典型的な 13 種類の契約についてそのルールを定めています(これらは補充規定ともいわれ
ます)。具体的には次の構成です。そして、第2節から第14節までに定めている 13 種類の契約が「典型契約類型」と呼ばれている代表的な契約形態なのです。なお、この典型契約の中に、所定の形式を必須とする要式契約は含まれていません。よって、典型契約に該当する契約を行う際、民法の規定に従う限り契約書はあまり重要とはいえないように思えます。
<典型契約の分類>
第 1 節 総則(第521条~第548条) | 財産譲渡のための契約 |
第2節 贈与(第549条~第554条)第3節 売買(第555条~第585条)第4節 交換(第586条だけ) | 財産を利用させるための契約 |
第5節 消費者(第587条~条592条) 第6節 使用貸借(第593条~第600条)第7節 賃貸借(第601条~第622条) | 財産を利用させるための契約 |
第8節 雇傭(第623条~第631条)第9節 請負(第632条~第642条)第10節 委任(第643条~第656条)第11節 寄託(第657条~第666条) | サービスを提供するための契約 |
・第12節 組合(第667条~第688条) ・第13節 終身定期金(第689条~第689条) | その他の契約 |
・第14節 和解(第695条と第696条) |
これら補充規定により、あなたがお店で商品を買う場合、契約書を交わさなければその一般的なルールは、上記第3節[売買]に従うことになります。もし、購入した商品の一部が不足していた場合(ビール 10 本支払ったのに 9 本しか届かなかった場合)、あなたは契約
書を持っていなくても、民法第 565 条[数量不足・一部滅失]に従って、代金の減額を求めたり、契約の解除を求めたりすることができるのです※4。損害賠償をできる可能性もあるのです。これらは、決して個別に交わした契約書があって初めて認められる権利ではなく、売買取引を行う購入者保護のために予め定められている権利なのです。
民法565条
数量を指示して売買したる物が不足なる場合及び
物の一部が契約の当時既に滅失したる場合において
買主がその不足または滅失を知らざりしときは前2条(第563条と第654条)の規定を準用する。
※4 なお、数量不足の場合については、売主を保護するための規定[買主の目的物検査及び瑕疵通知義務]が商法に定められおり(商法 526 条)、この意味で売主(販売会社)と買主
(購入者)とのバランスが図られています。
このように、日常の契約に関するトラブルであれば、まず、契約が上記典型契約のいずれに該当するのかを考え、該当するのであれば、その規定に従って判断することができるのです。
<ポイント>
① 日常的な契約については、民法は「典型契約」を定めている。よって、契約に関して争いが生じたときは、まずその契約がどの典型契約に該当するのかを検討する。
② 典型契約の規定(補充規定)に不満がなければ、特段の契約書は不要。でも、すべての契約がこの「典型契約類型」で処理できるの? 答えは、次の節へ
2.4特許ライセンスは、どの規定が該当するの?
前節では、典型契約について説明をしました。これら典型契約によれば、アパートを借りるのであれば第7節(賃貸借)に規定が定められています。だれかに仕事を委任する場合であれば第10節(委任)にその基本的な契約のルールが定められているということです。でも、世の中にはいろんな契約がありますよね。これらすべてがいずれかの典型契約に該当するのでしょうか? そして、特許などの知的財産権のライセンスはというと、どの規定が該当するのでしょうか?
世の中には、典型規定に該当しない契約はたくさんあります。そして、知的財産権の特許ライセンスなどもその一つ。特許ライセンスは典型契約のいずれにも該当しません。特許ライセンスは非典型契約の典型ともいえるものです。一般に、特許ライセンスは、一定期間、ライセンシー(お金を払って特許を実施したい人)に特許発明の使用を認め、ライセンサーである特許権者にはその対価としてライセンス料を支払う旨を約束する契約です。この性質だけを考えると、特許ライセンスは新規技術を対象とした賃貸借契約『第7節 賃貸借(第 601 条~第 622 条)』※5-1として考えることが可能に思えます。この考え方では、特許権者であ
るライセンサーは「xxさん」、特許発明を使用するライセンシーは部屋を借りる「店子さん」といったところでしょうか。
しかしながら、この賃貸借に関する規定は、その総則(民法 601 条)に「賃貸借は、当事者の一方が相手方に、ある物の使用・・・を約し・・・」明記されているように、形ある有体物(民法 85 条)を対象としており、形のない特許発明を対象とする特許ライセンスとその対象が大きく異なります。ですので、特許ライセンスの契約に賃貸借の規定を当てはめることは困難と考えられています。第3節の売買や、第10節委任の規定はどうでしょう?一般にこれらの適用も難しいといわれています※5-2。
結局のところ、無体物である特許発明などの知的財産権のライセンスは、民法に定めるいずれの典型契約にも該当しないということです(非典型契約)。
※5-1 特許ライセンスの性質1
実際、契約を登録したときの効果を定めている民法第605条「賃借権の対抗要件」と特許法第99条1項「通常実施権の登録の効果」の規定は、先にお役所に登録してしまえば、その後に権利を取得した者に対しても有効である旨を定めている点で共通するものです。また、賃借権の譲渡・転貸を定めている民法第612条と、通常実施権の移転を定めている特許法94条の規定も、権利者である賃貸人や特許権者の承諾がなければその移転を認めていない点で共通すると思います。
※5-2 特許ライセンスの性質2
では、第3節の売買や、第10節委任の規定はどうでしょう? あなたが「特許ライセンスとは、特許権者がライセンシーに発明の実施を依頼する委任契約だ!だから、契約に記載されていない事項は第10節 委任(第643 条~第656 条)の規定に順ずるべき」と裁判で主張することは可能です。ですが、特許ライセンスでは、お金を払うのは委任を請け負った受任者で委任者(特許権者)ではありません。この主張も裁判官を納得させるには無理があるでしょう。同様に、特許ライセンスは、特許権者とxxxxxxとの組合契約(第12節 組合)と考える見方もあるかもしれませんが、いずれも世の中で支持されているとはいえません。
それでは、知的財産権のライセンス内容について争いが生じた場合、契約書に定められていない事項はどのようにして判断されるのでしょうか?本講義の初めに、「当事者の意思」は「民法の規定」に優先すると説明しましたよね。そうです、感のいい生徒さんはすでに気付いていることと思います(法学部出身の方にすれば当たり前ですよね)。特許などのライセンス規定で契約書に定められていない事項は、原則どおり「当事者の意思」がその判断基準となります。また、民法には契約以外にも様々な規定が設けられていますので、それらの規定も用いられます。更に、事案によって、契約に関する補充規定が適宜解釈されて準用されるのです※6-1。また、その他の法律にラインセンス関する規定がある場合、それら規定※6-2も適用されます。
知的財産権に関する契約では、典型契約のように補充規定による手当てがなされていません。よって、契約書に規定されていない事項は、まず「当事者の意思」、取引実情などを考慮し、さらに、民法の総則などの規定に基づいて判断されることになるのです。すべての契約には様々な困難性があるのですが、典型契約に該当しない知的財産の契約の困難性を理解していただけたでしょうか?
※6-1 契約規定準用の例
特許ライセンスに関する裁判で、民法の契約の規定がまったく用いられないかというとそんなことはありません。事案に応じた規定が、適宜準用されています。ミネラルウォータ生成器事件(大阪地裁 H1.8.30)では、「ライセンス契約の場合も、有償契約であること
から、(売買契約における)担保責任の規定(民570 条)が準用されると解する余地がある。」と判断しています。
この事件は、特許権者がライセンシーに対して「第三者よりライセンシーに対して特許製品について侵害行為の通知ありたる時は、特許権者は責任をもってその排除を行う。」との条項を契約で定めました。しかし、実際に、xxxxxxが第三者から警告があったときに、特許権者はその排除を行うための措置を取らなかったことから、ライセンシーが特許権者を債務の不履行であるとして訴えたものです。判決は、担保責任の規定を準用し、特許権者には第三者からの警告を排除する責務があるとして、損倍賠償を認めたものです。
※6-2 知的財産権に関するライセンスの規定としては、民法以外で次の規定が定められています。
・特許法 77 条(専用実施権)、特許法 78 条(通常実施権)、及びこれらを準用する実用新案法と意匠法。
・商標法 30 条(専用使用権)、31 条(通常使用権)
・著作権 63 条(著作物の利用許諾)、79 条以下(出版権の設定)
<ポイント>
知的財産に関する契約は、非典型契約。契約に関する補充規定は適用されない(解釈によって準用されるだけ)。
2.5「契約自由の原則」と「強行規定」
前章では、典型契約の規定に不満がなければ、敢えて契約書を交わす必要がないと説明しました。では、アパートの賃貸契約を結ぶ場合、xxである賃貸人と、店子である賃借人は自分達の名前と賃貸料だけを記載すれば、それで問題はないのでしょうか?
そんなことはないですよね。ペットは飼ってもいいのか? ピアノの持ち込みは?など当事者間で定めるべきことは実際の契約においていくつもあると思います。これらの事項まで、民法には定めがありません※7。また、民法には賃貸借の期間満了後、お互いが何も言い出さなければ同一の条件で賃貸借したものと推定する[黙示の更新]規定(民法 619 条※8)がありますが、xxはこの規定を必ず遵守しなければならないのでしょうか?
※7 実際のところ、民法594 条を準用する第616 条にて、借主に目的に応じた使用をする制限を課していますが、この規定だけでは不十分ではないでしょうか?
※8 民法 619 条(賃貸借の更新の推定等)
賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら意義を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。・・・
上述したように、契約は当事者の意思が尊重されます。また、民法の規定を必ず遵守しなければならないとなると、手続きが簡単になる反面、様々な条件の契約ができなくってしまい、これではかえって事業の妨げになってしまいます。事業を行う方であれば、そこまで民法に縛れることを望まないでしょう。
そこで、民法では、いろんな取引についての規定は定めているものの、当事者間で合意ができれば、いろんな内容で契約する自由を定めています。これが「契約自由の原則」あるいは「私的自治の原則」といわれるもので、民法第 91 条に定められている民法の大原則です。
この規定を見てみましょう。
民法第 91 条
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
この規定では、二つのことを定めています(任意規定と強行規定)。
①一つ目は、任意規定(補充規定とも呼ばれる)に関する規定です。
これは、『契約を交わす当事者は、法令の規定と異なる契約を結ぶことができる。』とするものです。
法定の年金利を例にとると、年 5%とする法定利率の規定(民法 404 条)は、任意規定であって、当事者は自由にこれと異なる契約をすることができることを意味します。実際の契約でも、年金利が 5%※9であることの方がまれでしょう。
そして、(私の知る限り)債権について定めた第399 条~第696 条のほとんどすべての規定は任意規定ですので、当事者はこれ規定に拘束されることなく、契約内容を定めることが可能です。
*9 年金利に関する参考Web Site
①東京三菱キャッシュワン xxxx://xxx.xxxxxxxxxxxx.xxx/xxxxx.xxx (last visited March 2005) こちらの商品では、『実質年利は安心の 15.0%~ 18.0%』です。
②三井住友ビザカード
xxxx://xxx.xxxx-xxxx.xxx/xxx/xxxxxxxx/xxxxxxxx_xxxxxxxxxxx.xxx (last visited March 2005) こちらの商品では、『利率(年利)27.8%以内 』です。
③三井住友銀行 住宅ローン xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/xxxxxxxx0/xxxxx.xxxx?xxxxxx_xxx00 (last visited March 2005) こちらの商品では、『利率 1.30%~2.35%』です。
これらは、いずれも契約自由の原則により、貸し手と借り手の合意に基づいて定められた契約内容でなんら法に反するものではないのです。ただし、年利 100%とかになれば、話は別。その場合は、利息制限法や貸金業法によって制限されることを憶えておいてください。
※ 2006年4月の追記
民法に定める法定金利は 5%ですが、金利についての法律として利息制限法と出資法があります。この二つの法律では、それぞれ異なる金利の制限を設けています。二つの法律の制限金利を紹介するとともに、これらがどのように運用されているのか簡単に説明します。
① 利息制限法
利息制限法では、元本に応じて利息の最高額を三段階に定めています。
元本 | 利息の制限 |
10万未満 | 20% |
10万~100万未満 | 15% |
100万以上 | 10% |
② 出資法
出資法では、業として金銭の貸付を行う場合の利息の制限として 29.2%と定めています(出資法第 5 条 2 項)。この 29.2%という金利については、キャッシング/ローンに関するニュースでよく取り上げられていますので記憶にある方も多いことと思います。そして、多くの金融機関(ノンバンク系、サラ金)は、利息制限法の制限(20%)を越える 29.2%でキャッシング/ローンを行っているのです3。どうしてそのような契約が可能なのでしょうか?
③ 二法のギャップ(グレーゾーン)
利息制限法と出資法の制限金利の間は、グレーゾーンと呼ばれ、利息制限法では違法であるものの、出資法では合法といわれる範囲なのです(右図参考)。そして、このグレーゾーンが存在する理由は、出資法違反の場合は刑罰※が適用されるのに対し、利息制限法の制限金利に違反しても刑罰は適用されないことにあります。そのため、いわゆるサラ金と呼ばれる金融機関(無担保、即日融資を行う機関)では、融資回収の困難性などを根拠として、利息制限法を無視して出資法の上限である 29.2%での貸付を行っ
違法金利 29.2% | ||
20% グレーゾーン | ||
15% | ||
10% |
出資法の上限利息制限法の上限
ているのです。 元本 10 万未満 10~100 万 100 万以上
※ 出資法の制限金利である
29.2%に違反した場合は 5 年以下の懲役若
しくは千万円以下の罰金が定められているのです(出資法第 5 条 2 項)。
本編にもどり、契約自由の原則がどのように特許法と関係しているのか、少し考えてみましょう。
二人以上の研究者が一つの発明を完成させた場合、特許を受ける権利の持分はどうなるのでしょうか?もし、共同研究を始める際に、その契約書で特許を受ける権利の持分について何も規定が無かったとすると、上述したように世の中の一般的なルールである民法の
250 条の規定が適用され、その持分は相均しいものとなります。民法ではこのように一つの物を複数人で共有する場合を想定して、第 250 条で「各共有者の持分は相均しきものと推定する。」と定めているのです。発明者が二人であれば、双方1/2の持分、3名であれば各自
1/3の持分になると考えられます。
ですが、実際の実務ではどうでしょうか? 両発明者が対等な立場の契約であれば、持分は1/2と定められていることが多いと思われますが、企業間の立場が異なっている場合や、出資金が均等ではない場合などは、一方の企業側に有利となるように、契約がなされることが多いと思われます。例えば、スポンサーである出資企業側が 100%特許を取得する。または、70%と30%のように比率を変化させることです。このような契約は、まさに民法91 条に定める契約自由の原則により、民法250 条を覆す内容の契約が結ばれたことなのです。そ
して、特許法では、特許法施行規則第 27 条おいて、特許を受ける権利の持分の定めの届出
3 2006 年 4 月現在において。グレーゾーンの金利についてはその是非が議論されており、その上限が一本化される動きがあります。
の記載内容について定めているのです。
②二つ目は、強行規定に関する規定です。
これは『当事者は、自由な内容の契約をすることができる。ただし、公の秩序に関する規定に反する契約を結ぶことは認められない。』とするものです。民法 90 条における『公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とする』との規定は、この強行規定の意味を裏付けるものです。
契約に関する代表的な強行規定といえば、民法第 572 条[瑕疵担保免除の特約]が挙げられます。これ規定は、『売主は、・・・担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実・・・・についてはその責任を免れることができない。』として、商品の瑕疵を知っていながら隠していた売主に対しては、商品についていかなる担保責任を負わない旨の契約をしていたとしても、その責任から逃れなれない旨を定めています。同様の規定は、商法 526 条 2 項にも定められており、これらの規定は、悪意の売主に対して厳しい瑕疵担保責任を負わせる点で、消費者にとって大変有効な規定といえます。
特許法で強行規定といえば、職務発明に関する特許法第 35 条がその一つです。第
35 条 2 項では「従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、・・・設定することを定めた契約、勤務規則その他の定の条項は無効とする。」と記載されており、文末の「無効とする」との文言から、この規定に反する契約はできないこと(強行規定であること)が読み取れるでしょう。
また、近年、数々の職務発明の対価に関する判決から、第 35 条 3 項の規定も強行規定※10であると示され、これにより、従業者は、使用者である企業に発明を承継させた場合であって、職務規定などに基づいて報償金を受け受け取っているとしても、対価請求権は消滅していないものとして、不足分の対価を請求できることが明らかになりました。
※10 特許法 35 条第 3 項
従業者等は、契約、勤務規則その他の定により、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払いを受ける権利を有する。
※ 光ピックアップ事件(最高裁平成 13(受)1256 号)では、「企業が算出した(職務発明)の対価の額が、特許法 35 条 3 項、4 項の『相当の対価』に満たない場合は、(例え勤務規則などが定める報償金を支払っていたとしても)、不足分を請求することができる」旨を明確にしています。 (なお、35 条第 4 項については、2005 年 4 月 1 日より改正法が施行)
職務発明に関する判決、書籍は数多いですが、その中でも、企業における発明者保護を強く主張している書籍としては、xxxx『職務発明制度-技術者のための特許法の常識』 日刊工業新聞社。 もし、あなたが会社を辞めて職務発明に基づく対価請求訴訟を起こすなら、この書籍の第3章『知っておきたい職務発明制度のこと-職務発明で堂々と稼ごう-』と第4章『職務発明制度-発明で堂々と稼ぐために-』とはお勧めです。厳しい裁判になるでしょうが、がんばって準備をしてください。なお、この書籍、あえて欠点を挙げるなら、3,4章ともそのサブタイトルがあまりにも似ている点でしょうか(これは出版元である日刊工業新聞社の好みなのかもしれません)。
<ポイント>
①契約自由の原則より、当事者は自由な内容の契約を結ぶことができる。
②ただし、強行規定に反する契約はできない。例え双方が合意していたとしても無効。
3.今日の復習テスト
では、最後に復習を兼ねて簡単な小テストを行います。
Q1. 次の中で、民法に定める典型契約に該当しないものはどれでしょうか?六法を持っている方は第2章を参考にしてください。
(1) 工務店に家を建ててもらうときに交わす請負契約
(2) マンションを借りるときに交わす賃貸借契約
(3) やたらと特許権を主張する電気メーカに対して、仕方なく合意した場合の特許ライセンス契約
Q2. 次の中で、強行規定はどれでしょうか?
(ヒント:合意があれば、その規定に反する約束ができるのか否か? もしできるのならそれは任意規定といえます。)
① 特許法第 35 条 3 項
「従業者等は、勤務規則により職務発明について使用者等に特許を受ける権利を承継させたときは、相当の対価の支払いを受ける権利を有する。」
② 独占禁止法第 3 条
「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。」
③ 著作xx第 59 条
「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」
④ 民法第 250 条
「各共有者の持分は、相均しきものと推定する。」
⑤ 民法第 558 条
「売買契約に関する費用は、当事者双方、平分してこれを負担する。」
<回答>
A1. 正解は、(3)の特許ライセンス契約です。理由は、契約の対象が無体物である知的財産だからですね。
A2. 正解は、①~③の3つ
①~③が強行規定といわれるのは次の理由によります。
①特許法第 35 条 3 項(職務発明、承継時に受ける発明者の対価請求権)
職務発明規定は“従業者である発明者”と“使用者であるその企業”との利益を調節するために設けられたものであり、この第 3 項は発明を企業に譲渡した発明者(一般的に弱者)を保護するための規定です。この趣旨に基づき、いかなる契約が労使間で交わされていたとしても、発明を企業に譲渡した場合には、(発明の価値に見合うだけの)「相当の対価」を企業は従業員に支払われなければならないのです。
このことは、この対価請求権について争った光ピックアップ事件でも述べられています(東京地裁 平成07(ワ)3841、東京高裁平成11 年(ネ)3208、最高裁平成13(受)1256)。この趣旨に基づき、この規定は強行規定といえるのです。
②独占禁止法 3 条について
この規定が強行規定であることは 1 条に定める独占禁止法の目的から理解してい
ただけると思います。独占禁止法第 1 条※では、「…事業活動の不当な拘束を排除することにより、…一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する
ことを目的とする」旨を定めています。
つまり、第 3 条に定める「不当な取引制限をしてはならない」というのは、単なる理想を述べているのではなく、いかなる場合であっても不当な取引を禁止する旨と理解できるのです。なぜなら、契約当事者の都合によって、不当な取引が行われたのでは「一般消費者の利益を損なう」こととなり、第1 条に定めた法目的に反することになってしまうからです。第3 項を強行規定とするのは、独占禁止法の目的を達成するために定められた規定だからといえるでしょう。
※ 独占禁止法第 1 条
この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不xxな取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、xx且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
③著作xx 59 条(著作者人格権の一身専属性)
この規定が強行規定といえるのは、ベルヌ条約の 6 条の 2 を遵守するためといえるでしょう。ベルヌ条約とは著作権の国際的な保護を目的とした国際条約で、もちろん日本も加盟しています。この 6 条の 2 第 1 項では、次のように規定しています。
「著作者は、その財産的権利とは別個に、この権利が移転された後においても、著作物の創作者であることを主張する権利及び著作物の変更、切除その他の改変又は著作物に対するその他の侵害で自己の名誉又は声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利を保有する。」
ここで注目すべきは、「この権利が移転された後においても・・・異議を申し立てる権利を保有する。」との文言です。これは、特定の権利については移転できない旨を定めていると読み取れるでしょう。そして、ここで移転できない権利として次の2つが挙げられているのです(カッコ内は対応する日本の著作xxの規定)。
・創作者であることを主張する権利(氏名表示権:19 条)
・著作物の改変に異議を申し立てる権利(同一性保持権:20 条)
日本は、このベルヌ条約に加盟していますから、この 6 条の 2 を遵守する必要があ
ります。そこで著作xx 59 条に上記二つの権利(19 条と 20 条、すなわち著作者人格権)について譲渡できない旨を定めたのです。もし、当事者間の都合で著作者人格権の譲渡を可能としたなら、それはベルヌ条約に違反することになってしまいます。条約遵守の観点から各国は氏名表示権と同一性保持権については、譲渡不可としなければならず、そのためこの 59 条は強行規定といえるのです。
④ 共有物の持分は自由に決めることができなきゃ不便ですよね。
⑤ 費用の負担だって、いつも平等じゃないですよね。ところで、ネットで買い物をするとき、よく「代金の振込み手数料はお客様の負担」って、ありますよね。この規定に従うならば、お互いが平等に負担するはずなんですけど・・・(お客の負担を明記しているのは、この民法 558条の規定を覆すためともいえるでしょう)。
第1回、以上
第2回「契約についての基礎知識(その2)」
1.今週の講義の前に、簡単に前回の復習をしてみましょう。前回は、次の3点を説明しました。
(1) 契約においては、当事者の意思が最も大切、裁判所も尊重してくれる。でも、その立証は困難。だから、契約書も大切。
(2) 一般的な契約については、民法に典型契約がある。契約書には、民法に定められていないことや、規定されている内容を覆す事項を記載する。そして、知的財産権に関する契約は、いずれの典型契約にも該当しない。
(3) 民法の任意規定であれば、契約でその内容を覆すことは可能(契約自由の原則)。でも、強行規定を覆すことはできない。必ず守る必要あり(違反する約束は無効)。
実際のところ、私の説明だけで理解するのは難しいと思いますので、前回紹介させていただいた名著『ゼミナール 民法入門』で勉強することをお勧めします。
2.契約の基礎知識(その2)
今週も、先週に引き続き契約の基礎知識についてです。前半では、規定の構成で重要な「要件」と「効果」について、後半はトラブル回避のための「言葉(用語)の客観性」について説明します。
2.1契約書に記載すべき事項(要件と効果)
「要件」と「効果」 契約書に記載される規定には、いろんな目的があって、その目的に応じて様々な事柄が記載されます。しかしながら、一般的にそこに記載されることは「要件」
(いつ、どんなときに)と「効果」(誰がどうする)の二点です。通常、この「効果」の部分に「誰にどのような権利や義務が発生するのか」が記載されているのです。このことは、民法の契約に関する規定についても同じです。賃貸契約の規定を見てみましょう。
民法第612条1項:
賃借人は、賃貸人の承諾あるにあらざれば、その権利を譲渡し、または、賃借物を転貸することを得ず。
この規定では、次の要件と効果を定めています。
(要件) 賃貸人の承諾がない場合
(効果) 賃借人は、その権利を譲渡、賃借物を転貸できない。
特許法第49条:
審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶すべき旨の査定をしなくてはならない。
この効果では、賃借人に譲渡、転貸する権利がないことを明示しているのです。では、次の特許法の規定ではどうでしょう。
この規定では、次の要件と効果を定めています。
(要件)特許出願が次の各号のいずれかに該当するとき(拒絶理由に該当)
(効果) 審査官は、拒絶査定をしなくてはならない。
この効果では「・・・しなくてはならない」と規定しています。この言葉から、(拒絶理由に該当する場合に)特許出願を拒絶することは、審査官の権利ではなく義務であることが理解できるでしょう。
すべての規定に『要件』と『効果』が明確に定められているわけではありませんが、多くの規定には、この二つの事柄が記されています。この観点から条文を読むことは今後の勉強においても決して無駄ではないはずです。もちろん、契約の実務をする場合、この観点を抜きに仕事はできません。契約書を作成する場合にも、「要件」と「効果」が明確になるよう注意することが重要なのです。
<「効果」記載の注意点>
次は、xxxが、試作機の製作を乙さんに依頼した際の契約(請負契約)において、完成した試作機の性能をチェックできる旨を定めた規定です。この規定の「効果」には、どんな問題点があるのでしょうか?
例2-1
×条 甲は、本契約に基づき乙が製作した試作機の評価を行うことができる。
要件と効果を考えて見ましょう。
(要件)乙が試作機を製作したとき。この要件は明確でその記載に問題はなさそうです。では、効果はどうでしょう。
(効果)甲は、試作機の評価を行うことができる。 この「効果」の記載より、甲は完成した試作機を評価できる権利を備えていることが明らかです。でも、その次に起こりうる事態を考えてみてください。
評価の結果がOKの場合(甲が満足した場合)、トラブルにはならないでしょう。でも、評価の結果に甲が満足しなかった場合が問題です。当然、甲は乙に対して試作機の改良や作り直しを求めるでしょう。でも、乙にしてみれば、どんな基準で評価したのか不明です。また、多少の不備があったとしても、一から作り直しを要求されたのでは、費用がかかり過ぎるためとても承知できないでしょう。実際、甲は評価を行っているのですから、甲の権利は既に実行されたと主張する
※1
かもしれません 。
※1 xxxが乙さんに対して改良や作り直しを求めることができるのは、請負契約に 関する民法634条※の規定に基づく権利です。一方、乙さんは同規定の但書を用いて、作り直しは「過分の費用」に該当するといった反論が可能です。
※ 民法634条:
仕事の目的物に瑕疵あるときは、注文者は請負人に対して相当の期限を定めてその瑕疵の修補を請求することを得。 ただし、瑕疵が重要ならざる場合において、その修補が過分の費用を要するときはこの限りにあらず
そこで、上記問題点を考え、「効果」の内容を修正してみましょう。
例2-2
×条 甲は、本契約に基づき乙が製作した試作機の評価を行うことができるものとし、その結果が本契約書に添付する『性能仕様書』に定めた基準を満たさない場合には、乙に対して試作機の修理、もしくは、作り直しを命じることができるものとする。その費用は、乙の負担とする。
※2
この規定はいかがでしょう? これは、「要件」として、「『性能仕様書』 に定めた基
準を満たさない場合」と定め、その「効果」として、「甲は修理、もしくは、作り直しを命じることができる旨」を定めたものです(反対に、乙には修理、作り直す義務がある旨を定めたものです)。更に「費用は乙の負担とする」と費用についての「効果」も明示しています。 完成した試作機の性能評価について定めるのであれば、評価できることを「効果」にするのではなく、評価した結果に対する「効果」を記載することで、評価結果が不調に終わったときのお互いの権利・義務を明確にできるのです。
※2 契約書によっては、契約書の中で定義された言葉や、特別にその意味が定義されている言葉はカッコ書とします。今回『性能仕様書』とカッコ書なのは、この契約書に添付されている性能仕様書であることを明確にするためと考えてください。
業界によっては、『性能仕様書』なるものがなくても、クリアすべき業界の基準が存在する場合があるでしょう。また、xxの取引において、「評価を行う」=「満足してもらえなければ作り直し」といった暗黙の約束が守られており、取引慣行として定着している業界もあるでしょう。そのような業界では、例2-2に示した規定は必要ないかも知れません。ですが、それらのことが不明な場合には、やはり例2-2のように「評価の結果が不十分な場合」(望ましくない事態)を想定し、そのときの権利・義務を明確にしておくことがトラブル回避の観点から望ましいと私は思うのです。
<ポイント1>
(1) 契約書に記載すべきは「要件」と「効果」
(2) 「効果」に記載する権利・義務は、望ましくない事態を考えて作成する。
➀ょっと一息、契約に関する小ネタ -その1- ROYALTYの巻
他人の特許を使用するとき、使用者から特許権者に対してお金が支払われます。このお金は「特許使用料」、「実施許料」、「ライセンス料」などと呼ばれますが、英語では
「ROYALTY」といわれるものです。この英語、一般的に「ロイヤルティ」、「ロイヤリティ」と呼ばれているようです。皆さん、この呼び名に疑問がありませんか? この呼び名に一石を投じたのがxxxxx生。ロイ(ROY)・ヤル(YAL)・ティ(TY)では、「ロイ」と
「ヤル」で「Y」を二回使っている、とご指摘。xxxxx、「ROYALTY」は「ローヤルティ」もしくは「ロイアルティ」とすべきと書籍の中でご提案しています(「技術者のためのライセンスと共同研究の留意点」、発明協会発行)。契約に携る実務家の言葉へのこだわりを感じてもらえたでしょうか? 私は、・・・・「ライセンス料」にしました。
2.2言葉の客観性(方言排除)
契約書で用いられる言葉は、常に双方にとって明確であることが必須ですが、一方が明確と思い込んで使った言葉でも、他の人には理解できない言葉であったり、違う意味で理解されたりすることがあります。
例えば、勤務規定に「体がモノイとき、従業員は早退することができる。」
※3
とあった
とき、あなたはどんなときに早退できるのか理解できるでしょうか?xx県の金沢生まれの私には理解できます。これは、xxxx「体調が悪いとき(体がモノイとき)、早退できる」と定めているのです。 私た➀は、日頃使っている言葉を、だれにでも理解してもらえる言葉(客観性のある言葉)と思い込みが➀です。そのため、契約書の中に、そのような言葉が用いられることがあるのです。このような言葉を契約書で用いると、後で、お互いが勝手な定義を持➀出してくるため高い確率でトラブルが生じてしまうのです。契約書で用いられる言葉は明確で、誰にでも理解してもらえるもの選ぶべきです。業界の内部だけで通用する言葉(一部の人にだけ通用する言葉)、これを「方言」とするならば、契約書を作成する場合にはできるだけ方言を
※4
用いない努力をすべきでしょう 。
※3 実際にこんな勤務規定はないと思いますが、これは例え話ということで・・・。
※4 「ビジネス契約書の起案・検討のしかた」x xxx
この名著の第II章にて、原先生がこの点を指摘しています。特に、専門用語なしには会話ができない技術者の方々には参考になることと思います。
また、日本人の通じない英語として有名な、ソフトウェアに関しての「バージョン・アップ」(正しくは“Up Grade”)。これなども日本特有の方言といえるでしょう。実際、アメリカの弁護士さんでもxxxの方はその意味を理解してくれるようですが、外国の方との契約では避けるべき用語といえるでしょう。
例2-3
X条 乙(受注者)は、本契約に基づき甲(発注者)に提供されたソフトウェアの著作権が甲に帰属することを承認する。
言葉の客観性について、次の規定を考えてみましょう。これは、発注者であるxxxと、受注者である乙さんとの間で交わされた請負契約の一規定です。
ここで提供」や「帰属」といった言葉は明らかでしょう。請負契約の対象であるソフトウェアの著作権は発注者であるxxxにあるということです。ここで、考えてほしいのは「ソフトウェア」という言葉の意味です。
一般にソフトウェアといえば、プログラムが含まれることに異論はないでしょう。では、
「ソフトウェア」という言葉は、それ以外のものを含まないのでしょうか? 例えば、プログラムを開発する場合、全体のアルゴリズムを示すフローチャート、詳細なデータ処理を示した図面などが作成されます。その他、ユーザのための取扱説明書(マニュアル)も作成されます。これらは「ソフトウェア」に含まれるのでしょうか? 更に、プログラムに用いられるデータ、データベースなどはどうでしょう。 上記例の場合、広く権利がほしい発注者、甲は、「ソフトウェア」という言葉には、プログラムだけでなく、開発に関連した書面、及び、プログラムに付随するデータが含まれると主張するでしょう。一方、受注側の乙としては、プログラム以外は含まれない、それらの譲渡は別料金と主張するかもしれません。このように、言葉の定義が不明確なときに、お互いが自分達にとって有利な定義を持➀出して解釈するために、争いが生じてしまうのです。
言葉の定義が争われた場合、その意味を証明する方法として、一般的に刊行物が
用いられます。私が調べたところ、「ソフトウェア」には、様々な定義があることがわかりました。狭義の定義をしているのは、技術評論社発行の「コンピュータ=ビジネス基本用語辞典」です。この辞典では「ソフトウェア」を次のように定義しています。
(定義1)ソフトウェア:
コンピュータを動作させる手順をコンピュータが解析可能な形式で記述したもの。 Windows, MacOS, UNIXなど基本ソフトウェア(OS)とワープロ・ソフトや表計算ソフトなどのアプリケーション・ソフトに大別される。
この定義からすれば、ソフトウェアにプログラム以外のものは含まれないといえます。一方、インターネットで有名な「IT用語辞典、e-Words」(xxxx://x-xxxxx.xx/)では、どうでしょうか? ここでは、「xxには、・・・データを含めてソフトウェアと呼ぶ場合もある」として、広く権利を求める甲にとって有利な記載があります。
(定義2)ソフトウェア
狭義にはコンピュータプログラムとほぼ同じ意味。コンピュータを動作させる手順・命令をコンピュータが理解できる形式で記述したもの。コンピュータを構成する電子回路や周辺機器などの物理的実体をハードウェアと呼ぶのに対して、形を持たない手順や命令などをソフトウェアと呼ぶ。xxにはコンピュータが扱うプログラム以外のデータを含めてソフトウェアと呼ぶ場合もある。ソフトウェアはその役割によって基本ソフトウェア(オペレーティングシステム)とアプリケーションソフトに大別される。WindowsやMac OS、 UNIXなどは前者にあたり、ワープロソフトや表計算ソフトなどは後者に分類される。
更に、英語の辞書も調べてみました。Merrian-Webster Dictionary
(xxxx://xxx.x-x.xxx/xxxx. htm) では、次のように定義しています。
(定義3)Software:
: something used or associated with and usually contrasted with hardware: as a : the entire set of programs, procedures, and related documentation associated with a system and especially a computer system; specifically : computer programs b : materials for use with audiovisual equipment
ここで注目すべきは、(1) related documentation, としてシステムに関連する書類などもソフトウェアに含まれるとしていること、(2) materials for use with audiovisual equipmentとして、AV機器に用いられる「MATERIALS」も含まれる場合を示していることです。この「MATERIALS」の意味は、私の英語力では必ずしも明確ではありませんが、CDや DVDなどに記憶される音楽や映画のコンテンツが含まれるように思えます。
※2005年3月17日追記
米国の書籍で、ソフトウェアに付随する書籍についての説明がありましたのでご紹介します。その説明では、多くのソフトウェアの契約は、プログラムだけでなく、関連する書類などが付随する点と、それらの書類は通常著作物であって、更に、ソフトウェア契約によって保護されるものと説明されていました。
この点、ソフトウェアといえば、プログラムだけと思い込む可能性がある日本人と相違しますので、米国企業と契約する際は、何がソフトウェアに含まれるのか十分に検討すべきといえるでしょう。(Xxx Xxxx and Xxxxx X. Xxxxxx, "Profit from Intellectual Property", at page 147, SPHINX Publishing)
このように、世の中で広く使われている「ソフトウェア」といった用語であっても、その
意味については、世の中に様々な定義が存在するのです。そして、一旦、言葉の解釈(定義)で争いになった場合、双方が自分にとって都合のよい刊行物を引用して自分達の主張の正当性を主張します。今回のケースであれば、広く権利がほしい甲は、(定義3)を引用してくるでしょう。一方、乙は(定義1)を用いるに違いありません。双方が、刊行物を引用して用語の解釈を争った場合、裁判所がど➀らの定義を採用するかは本当に難しい判断です。そして、相手方の定義が採用された場合、その結果として、自分た➀の主張も全面的に認められなくなってしまうのです(つまり、敗訴)。 一般的に、日本語の契約書で外国における辞書、刊行物、Webサイト等の定義が用いられることは少ないと考えられます。しかし、上の例において甲が外資系企業であって、この「ソフトウェア」を用いる企業の多くが外国籍であった場合、業者間の慣例を尊重して、日本語における契約書であってもその言葉の解釈に、英語のWebサイトの定義が採用されることもあり得るのです。
以上のことを踏まえて、依頼主であるxにとっては、次のような定義規定を設けるのが望ましいといえるのではないでしょうか
例2-4
×条 本契約において、『ソフトウェア』とは、甲の指示に基づいて作成されたプログラム(著作xx第2条1項10の2)のほか、アルゴリズムを示すフローチャート、このプログラムの取扱説明書、プログラムを実行する際に利用されるデータベース(著作xx第2条1項10の3)を含むものとする。
※ 更に、甲は、関連する資料を求めるのであれば、次の規定を追加することもできます。
×条 開発終了時、乙は、本契約に基づくプログラムに関するデータや開発仕様書などの関連資料を甲に提供・返却する。
一方、受注側の乙にとって、上の規定は対象が広すぎるかもしれません。交渉の主
導権を乙がとるなら、次の定義規定が望ましいと思います。
例2-5
×条 本契約において、『ソフトウェア』とは、甲の指示に基づいて作成されたプログラム(著作xx第2条1項10の2)を意味し、本プログラムのアルゴリズムを示すフローチャート、取扱説明書、プログラムを実行する際に利用されるデータベース(著作xx第2条1項10の3)などは含まれないものとする。これらは、別途定める○○契約書に基づいて取り扱うこととする。
ここで、皆さんに学んでほしいことは、日頃用いている言葉であっても、その意味は
他人にとって必ずしも明確ではないということ。そして、契約書に用いられる言葉には、常に客観性が必要ということです。この言葉の客観性を保つため、一般的に契約書では、契約書に用いられる言葉の定義をするための規定(定義規定)を設けその客観性を保っているので
※5
す。実際にどのようにして定義しているかは、巻末の実例「工業所有権の定義規定 」を参考
にしてください。また、法律で定義されている言葉であれば、その法律を引用することで用語の客観性は高まります。上の例2-4、5で用いているように、例えば「データベース」というの
※6
※7
」、「営業秘密」であれば「営業秘密
※8
」とする具合です。
※6 「データベース」 著作xx(昭和45年法第48号) 第2条1項10の3この法律において、データベースと は、)論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう。 |
※7 「営業秘密」 不正競争防止法(平成5年法第47号) 第2条4項 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。 |
※8 「欠陥」 製造物責任法(平成6年法第85条) 第2条2項 この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。 |
このことは、特許の明細書でも同様です。特許請求の範囲に記載される言葉は、詳細な説明の中で定義づけられることが多くあります。これは、特許訴訟において頻繁に言葉
※9
の定義が争点となるため 、その客観性を保つために、特許出願人が自ら定義づけしている
のです。弁理士 xxxxxxは、書籍「判例に学ぶ特許実務マニュアル」(工業調査会)の中で、「特に、明細書の技術用語は、学術用語を用いるべきである。(P170)」として、
・ 文部省編学術用語集
・ JIS用語辞典
・ JISハンドブック
などを紹介しています。 この言葉に対する厳しい姿勢は、契約書を作成する上で参考になることと思います。
※9 特許請求の範囲に記載された言葉の定義で争った判決として、次の二つを紹介します
(「判例に学ぶ特許実務マニュアル」より)。 (1)東京地裁 昭48(ワ)3219号
(2)東京地裁 昭43(ワ)12506号 (その他、本当に多数あり。)
(1)の裁判では、「収斂光束」なる言葉の意味を、小百科事典と広辞苑などを用いて定義しています。また、(2)の裁判では、「最大感光域」の語を意味不明として、原告の主張する定義を退けています。 契約書のみならず特許明細書においても、客観的に裏づけのある言葉を用いることは重要なのです。なお、日頃使っている専門用語であっても、その客観性に不安があるなら、辞書を引いて、自分た➀にとって都合のよい定義を準備しておくことも将来の訴訟対策として有効かもしれません。
なお、請負契約において著作権を譲渡することの問題点については、第4回目のゼミにて説明する予定です。
<ポイント2>
(1)日頃使っている言葉でも、だれでも同じ意味で理解しているわけではない。
(2)契約書に用いる言葉には客観的な裏づけが必要。契約書の中で定義するのが望ましい。
3 今日の復習テスト
では、最後に復習を兼ねて簡単な小テストを行いましょう。
Q1. 次の規定において、「要件」と「効果」は何でしょうか? 憲法第9条1項
「日本国民は、xxと秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」
Q2. 次の規定において、「要件」と「効果」は何でしょうか?
特許法第51条 「審査官は、特許出願について拒絶の理由を発見しないときは、特許をすべき旨の査定をしなければならない。」
正解確認
解答と解説
Q1.(答え) 少し長い条文ですが、「効果」は明確ですよね。 「日本国民は、(国権の発動たる)戦争と、武力による威嚇または武力の行使を、永久に放棄すること」です。 では、要件は?(どんなときに?)、それは、「国際紛争を解決する手段として」との記載から、「国際紛争が生じたとき」ではないでしょうか。
Q2.(答え) これは、簡単でしょう。 「要件」: 拒絶の理由を発見できないとき 「効果」:審査官は、特許査定をしなければならない。 この効果から、特許査定をすることは、審査官
※10
の権利ではなく義務 であることが分かっていただけたでしょうか?
※10 審査官の義務とはいっても、実際に意見書を書くときには「特許査定して頂けますようお願いします」って、お願いしてしまいます(私だけではないはず)。これは、実務上必要な謙虚さなのかもしれません。
4.今日のまとめ
(1)契約書の規定には「要件」と「効果」を記載する。
(2)契約書に用いる言葉は、客観的な裏づけが必要。契約書の中で定義するのが望ましい。
お疲れ様でした。これで第2回目のゼミ終了です。次回は、「共同開発契約」における注意点を説明します。寒い日が続きますが、体調にはくれぐれも気をつけてください。
※5 成果物の定義
知的財産の範囲を明確に定めた規定(定義規定)を紹介しましょう。これは、「独立行政法人産業技術総合研究所」の「職務発明取扱規程」で見つけたもので契約書ではありません。ですが、言葉を詳細に定義している実例です。(出典:独立行政法人産業技術総合研究所職務発明取扱規程) xxxx://xxxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxxxx/00/xxxxxxxxxx.xxx)
この第2条において「工業所有権」という言葉を次のように定義しています。
第2条 (定義規定)
この規程において「工業所有権」とは、次の各号に掲げるものをいう。
一 特許法(昭和34年法律第121号)※5-1に規定する特許権(以下「特許権」という。)、実用新案法(昭和34年法律第123号)に規定する実用新案権(以下「実用新案権」という。)、意匠法(昭和34年法律第125号)に規定する意匠権(以下「意匠権」という。)、商標法(昭和34年法律第127号)に規定する商標権(以下「商標権」という。)及び外国における前記各権利に相当する権利
二 特許法に規定する特許を受ける権利※5-2、実用新案法に規定する実用新案登録を受ける権利、意匠法に規定する意匠登録を受ける権利、商標法に規定する商標登録を受ける権利※5-3及び外国における前記各権利に相当する権利
2 この規程において「プログラム等の著作権」とは、著作xx(昭和45年法律第48号)第2条第1項第 10号の2のプログラムの著作物又は同項第10号の3のデータベースの著作物(以下「プログラム等」という。)に係る著作xx第21条から第28条までの著作権及び外国における前記各権利に相当する権利
3 この規程において「回路配置利用権」とは、次の各号に掲げるものをいう。
一 半導体集積回路の回路配置に関する法律(昭和60年法律第43号)に規定する回路配置利用権及び外国における前記権利に相当する権利
二 半導体集積回路の回路配置に関する法律第3条第1項に規定する回路配置利用権の設定の登録を受ける権利及び外国における前記権利に相当する権利
4 この規程において「育成者権」とは、次の各号に掲げるものをいう。
一 種苗法(平成10年法律第83号)に規定する育成者権及び外国における前記権利に相当する権利
二 種苗法第3条に規定する品種登録を受ける地位及び外国における前記権利に相当する権利
5 この規程において「ノウハウを使用する権利」※5-4とは、前4項に掲げる権利の対象とならない技術情報のう➀秘匿することが可能なものであって、かつ財産的価値のあるもの(以下「ノウハウ」という。)を使用する権利。
6 この規程において「知的財産権」とは、工業所有権、プログラム等の著作権、回路配置利用xx及びノウハウを使用する権利をいう。
7 この規程において「発明等」とは、特許権の対象となるものについては発明を、実用新案権の対象となるものについては考案を、意匠権、商標権、プログラム等の著作権又は回路配置利用権の対象となるものについては創作を、品種登録に係る権利の対象となるものについては育成を、ノウハウを使用する権利の対象となるものについては案出をいう。
※5-1:
2条1項1号で「特許法(昭和34年法律第121号)に規定する特許権」として、年度と法律の番号を含めて記載しています。 ここで「特許法」といったとき、誰も知的財産権法令集に載っている特許法以外知らないと思います。年度と番号を明記しないことのリスクは、「俺は昭和34年法以前の特許法(若しくは、知的財産権法令でない特許法)に基づいて契約したんだ!」って主張されることと思います。こんな反論裁判所で認められないと思うのですが、いかがでしょう? では、契約書で使用する言葉をこんなに詳細に定める必要はないのでしょうか? 私の意見とすると特許法のように誰もがわかる法律であれば、法律の年度とその番号を記載する意義は少ないと思いますが、新しく制定された法律や内容がどんどん変わっていく法律などであれば、その年度、番号を規定しておくことは決して無駄ではないと思います。例えば、プログラムが著作物に含まれることとなった後、契約を交わすのであれば、いつ改正された法律に基づいて契約を交わしたのかは、プログラムの取扱が契約書に記載されていない場合に重要と言えるでしょう(契約の際には、日付を明記するので、契約
時の日付は通常明確です)。 そして、それ以上に学んでほしい事は、契約に用いる言葉を明確にする手段として、条文など世の中で通用する定義を利用するように心がけることです。紹介した独立行政法人産業技術総合・・・・規定は、そのことを実行している望ましい例と思い今回紹介させてもらいました。
※5-2、5-3:
「特許法に規定する特許を受ける権利」とは、特許法33条に定められています。では、※5
-3の「商標法に規定する商標登録を受ける権利」はどうでしょう。商標法13条第2項をチェックしてみてください。弁理士試験の受験生であれば、違和感を覚えることと思いますが、いかがでしょうか?なお、その理由については明らかでありませんが、名称を定めた時点から商標出願時までを考えているのかもしれません。
※5-4:
上記第2条第5項では「ノウハウを使用する権利」を定め、法律に定められていない権利についても自分た➀で定義を設けて、これらの扱いにも対応できるようにしています。 このように独自の定義を定め、その取り扱いを規定した場合、契約時にそれらの規定についても合意が必要ですので、業務の負担が増えてしまうと思えるかもしれません。しかし、契約後に裁判所で争う手間と費用を考えれば十分に意義のあることと思います。
第2回、以上
第3回「共同開発契約」
1.前回の復習
まず前回の復習です。契約書における規定には「要件」と「効果」があることを説明しました。この二つの違いを説明できますか。
・「要件」は、「いつ、誰が、どんなときに」
・「効果」は、「誰がどうする」 以上のことを定めたものです。
また、もう一点は、契約書で用いる言葉は客観的な裏づけが必要ということでした。これらの点は、常に注意が必要です。忘れないようにしましょう。
1.1今週の講義内容
では、今週は「共同開発契約」について説明します。共同開発の成果である発明や著作権を他人と共有する場合、どんな問題点があるのでしょう? 今回の授業の内容は、次の通り。
2.共同開発契約書
2.1「成果の帰属」と「成果の実施」
2.2共有特許権と共有著作物の違い
3.権利の共有について(民法、その他)
3.1民法の規定
3.2その他の法律の規定
2.共同開発研究契約書
<共同開発契約とは?>
今日の激しい開発競争において、すべての技術を一企業が単独で行うには、多くの時間、予算、人材が必要となってしまい必ずしも効率的とはいえません。そこで、自分た➀の足りない技術については、その技術に得意な分野の企業と協力しあって商品開発を進めることが盛んに行われるようになってきました。このような開発スタイルは、開発期間の短縮化を図る上でも有効なものなので、今後ますます盛んになっていくことと思われます。
また、知的財産基本法4(平成 14 年法律第 122 号)では、大学で生まれた技術がもっと活用されるよう定められており※1、企業と大学とが一緒に研究を行うこと(共同開発研究)がますます多くなってきているといえます。
このように異なる企業同士、また、企業と大学とが共同開発研究を行う場合(共同開発契約を結ぶ場合)、どのような点に気をつけなければならないのでしょうか?
※1 第7条(大学等の責務等)、第12条(研究開発の推進)、第13条(研究成果 の移転の促進等)
共同開発契約書とは、共同開発を行う二つ以上の当事者間で交わされる契約書をいいます。共同開発契約書の全体像を下に例示します。共同開発契約書の雛形が必要な場合には、インターネットや書籍※2から入手できますので各自試みてください。
※2 1)技術者のためのライセンスと共同研究の留意点、xxxx著、発明協会
2)理工系のための特許・技術移転入門、xxxx編、岩波書店
共同開発契約書
第1条(目的)
○○社と△△大学は遺伝子解析用のデバイスに関する技術開発を行う。
第2条(業務分担)
○○社はデバイス開発を行う。△△大学はそのデバイスで使用されるプログラム開発を行う。
第3条(費用負担)
○○社と△△大学は、それぞれ担当した業務に要した費用を負担する。
第4条(成果の帰属)
本研究を行う過程で、共同で得られたすべての成果は、○○社と△△大学との共有とし、その持分割合は均等とする。
第5条(成果の実施)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(○○社が共有に係る成果を実施しようとするときは、△△大学の了解を得るものとする。)
第6条(開発期間)
共同研究は、契約締結後○○年○○月までとする。
・
4 xxxx://xxx.xxxxxx.xx.xx/xx/xxxxx/xxxxxx0/xxxxxx/xxxxx.xxxx
・
・
○○株式会社 代表 ××太郎 印
△△大学 大学長 ××xx 印
今回は、第4条「成果の帰属」と第5条「成果の実施」についての注意点を説明します。共同開発の結果、新しい発明(共同発明)について特許を取得した場合、その実施にはどのような制約があるのでしょうか?
また、共同開発における「成果」※3には、何が含まれるのでしょうか? 通常の技術開発であれば、特許、実用新案が含まれることは明らかでしょう。その他、デザインやその名称が決まった場合は意匠や商標なども含まれることになると思います。更に、共同開発の目的がプログラム開発の場合はどうでしょう? この場合は、プログラムに関する特許*4のみならず著作物もこの「成果」に含まれるのです。この「成果」に「特許」と「著作物」が含まれる場合に何か問題点はないのでしょうか?この章では以上の点を考えてみましょう。
※3 「成果」
研究の内容によっては、種苗法における「育成者権」(同法20条)や、半導体集積回路の回路配置に関する法律における「回路配置利用権」(同法11条)を定めておくことが望ましいといえるでしょう。
※4 プログラムが特許の対象になるのか否か、長い議論の末、特許庁はコンピュータ・プログラムを物の発明の一つとして認めることとしました(特許法第2条3項第1号)。その審査基準をご紹介しますコンピュータ・ソフトウエア関連発明(PDF 323KB)5 。
2.1「成果の帰属」と「成果の実施」
上の共同開発契約書の第4条では、次のように規定しています。
第4条(成果の帰属)
本研究を行う過程で、共同で得られたすべての成果は、○○社と△△大学との共有とし、その持分割合は均等とする。
そして、「成果の実施」については、敢えて何も記載してないとします。この規定を見れば、双方が同じ割合で成果を共有するのだから特許の持分も5:5となります。この場合、どんな問題が生ずるのでしょうか(具体的に、特許権者である△△大学は、この共同開発の成果である特許権によりどんな利益を得ることができるのでしょうか?)
はじめに、○○会社(大手の家電メーカをイメージしてください)が特許発明を実施する場合、△△大学に了解を得る必要があるのでしょうか? 答えは特許法73条2項に定められています。
5 xxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxx/xxxxx0/xxx/xx0000-000_0-0.xxx
特許法73条2項
特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。
※ 実用新案法や意匠法などにおいても、この規定を準用しています。(実用新案2
6条、意匠36条、商標35条)
この規定により、契約で定めていなければ、共有の特許権者は双方自由に特許発明を実施できるので、○○会社は△△大学の了解を得る必要はないのです。このことは、両者の持分には関係ありません。○○会社は特許の持分が例え1/100であっても、特許発明を自由に実施できるのです。
次に、自ら実施できない△△大学は実施能力を備えた他のメーカに特許発明の自己の持分を譲渡したり、また、そのメーカに特許発明のライセンスをしたりすること(ライセンス許諾)はできるのでしょうか?
残念ながら答えは×です。特許法第73条1項では、特許権が共有に係るとき、他の共有者の同意がなければ自己の持分を他人に譲渡することを禁止しています。また、特許法
73条3項では、他の共有者の同意なく他人にライセンスすることも禁止しているのです。
特許法第73条1項
特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
特許法73条3項
特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。
開発した発明については既に特許権が設定されていますので、○○会社と△△大学以外の第三社(ライバルメーカ)は、開発された発明を実施することはできません(特許法6
8条)。共有の特許権は各特許権者が自由に実施できるといっても、△△大学には製造し、販売すること(発明の実施)はできません。一方、○○会社は特許法73条2項の規定により、
△△大学の合意なく自由に実施できます。
すなわ➀、共有特許権者であっても、△△大学は自ら実施しない限り、その特許権からの利益を得ることはできないのです。一方、○○会社は特許の持分について△△大学から譲渡を受けなくとも、実質的に共同研究の成果である発明を独占的に実施することができるのです。
お互いが自由に実施することに合意した上で、契約を交わす場合は問題がないのですが、当初から実施能力のない企業や大学と実施能力を備えた企業が共同研究をする場合は、この点に注意する必要があるのです。
知的財産に関するセミナーである弁護士がこの点を次のように紹介していました。
「大学には実施能力がないのだから、研究の成果を企業(共同研究の相手)が商品化した場合は、当然、自分はライセンス料を貰えると考えていることが多い。」これは本当に危険な思い込みと言えるでしょう。
一方企業にすれば、共同研究の成果を自分が実施するのに(しかも、自分は特許権者)、「何でライセンス料が必要なの?」って思うはずです。この気持➀もよくわかります。このように双方の認識が一致していない場合に、契約内容についてトラブルが発生するのです。このようなトラブルを避けるためにも、共同契約をする場合、実施能力のない当事者であれば、必ず、「成果の実施」といった規定を設け、その取扱を明確にしておくのが望ましいといえるのです。
(成果の実施)
「例1」
○条 ○○社が共有に係る成果を実施しようとするときは、△△大学の了解を得るものとする。」
※a この規定は、双方の合意がなければ成果を実施できないと明記したものです。
「例2」
○条 (成果の実施)
○○社が共有に係る成果を実施する場合、△△大学は自己実施しないことから、○○社は
△△大学に対して、別に実施契約で定める実施料を支払わなければならない。
※b この規定は、実施能力のない△△大学に対して、(共有の特許権者であるにもかかわらず)○○社が実施に対する対価を支払うことを約束するものです。
※a 実施能力のある企業にしてみれば、大学と契約するとき、敢えてこの条件を伏せておくことが望ましいといえるのでしょうか? まあ、これは双方の力関係によりますよね。敢えて悪用しない方が望ましいとしておきましょう。
※b また、発明の実施は持分に関係なく認めあれるのですから、相手に実施能力がないのであれば、あまり持分にこだわらなくてもよいのかも知れません。持分が少なければ、特許の維持費の負担なども少なくてすむかもしれませんしね(デメリットはライセンス料収入があったときの配分が少なくなることでしょうか。)
なお、今回は大学とxxxとの関係で共有発明の取扱を説明しましたが、このようなことは大学との関係に限られるのではなく、企業間の契約でも注意すべき事項です。例えば、化学製品の原料を製造・販売する企業Aと、その原料を用いて商品を製造・販売する企業Bが共同研究をして新しい原料を作り出し、特許権を取得したとします。当初、企業Bは企業Aからその原料を購入するしかないでしょう(その他の企業がその原料を製造、販売したら特許権の侵害となるため)。しかし、企業Bが系列の子会社にその原料を製造させた場合、そのような製造は企業Bにとって自らの実施といえるのでしょうか(いわゆる「一機関」※5としての問題)、また、企業Bが他の原料メーカを買収し、自ら原料を製造する場合も考えられます。このように、共同研究を行う際には、将来相手に起こりうる事態を予想して、研究成果の取扱を定めることが望ましいのです。
※5 「一機関」の問題とは、共有特許権者の一人のために(一般に実施能力なし)、他人が特許発明を実施することができるのか否かといった問題です。判決※6により、次の3つの条件を満たせば、例え下請会社の実施であっても、共有特許権者の実施とみなすことができ、そのような実施は特許発明の侵害ではないといわれています(特許法概説[第 12 版]P553 xxxx著、有斐閣)。
① 権利者との間に工賃を支払って製作せしめる契約の存在
② 製作について原料の購入、製品の販売、品質についての権利者の指揮監督
③ 製品を全部権利者に引渡し、他へ売り渡していないこと
※6 「模様メリヤス事件」(大審判昭 13/12/22 民集 17 巻 2700 頁)
「蹄鉄事件」(仙台高xxx判昭 48/12/19、判例時報 753 号 28 頁)
<ポイント&対策>
① 特許法では、特許権が共有の場合、原則として双方に自由な実施を認めている。その一方で、単独で自己の持分を他人に譲渡すること、ライセンス許諾することは禁止されている。
② 自分が実施できない場合は、特許発明の実施に対して制限を契約で明記することが望ましい。その一例としては、
・お互いの合意なく成果(特許発明)を実施しないとするもの
・実施に際しては、ライセンス料を支払うとするもの
➀ょっと一息、-その2- 書籍紹介の巻
理系の受講生にとって、「瑕疵」、「委任」、「担保責任」といった法律用語には馴染めないのではないでしょうか。また、弁理士試験科目である「著作xx」は、その全体像が見えにくいのでは?と思います。実際のところ、著作xxは新しい規定をどんどん追加しているため、体系的でないとの批判があることも事実です。そこで、これらの問題の解決に役立つ二冊の書籍を紹介します。
(1)「法律用語がわかる辞典」 xxxxx、自由国民社
第一回目のゼミでも紹介しているのですが、基本的な用語について丁寧に説明されている一冊です。基本的な用語の意味を理解しておくことで、民法及び民事訴訟法の条文を読む際の理解は格段に向上しますので、弁理士試験を受けられる方に法律用語辞典を持つことをお勧めします。大きな書店に行けば、法律用語辞典は何種類かあることと思います。私がこの書籍を選んだのは、説明の日本語が一番分かり易かったからです。皆さんも一度書籍で用語辞典を比較してみてください。きっと、気に入った用語辞典が見つかると思います。
(2)「弁理士試験BASIC 著作xx」 xxxxxか著、LEC東京リーガルマインド編著
この書籍では、全体の構成のほか、各規定を簡単に説明しています。また、簡単な○
/×クイズも各節に設けられていて、それだけでも楽しめます。xxの弁理士試験の合格者に伺ったところ、著作xxの勉強に、この書籍だけを利用したとのことでしたので、試験対策として必要十分な内容なのかも知れません。著作権をしっかり勉強するといった法学部の学生にとっては物足りない内容に違いありませんが、入門編として最適な一冊といえるでしょう。
2.2共有特許権と共有著作物の違い
共同研究の対象がプログラムの場合、研究の「成果」には、特許発明のほか、プログラムに対する著作権が同時に成立することをこの章の始めに紹介しました。共有に係る成
果※7について、特許法と著作xxではその扱いが大きく異なるのです。共同開発研究契約で注意すべき第2のポイントはこのことです。
※7 共同開発の成果が、共同著作物に該当するのか否か、簡単には決められないことが 多くあると思います。また、その権利の帰属先などについても議論のあるところですが、このケースは共同著作物として成立し、また、その著作権は○○会社と△△大学に帰属するとします。この点に興味ある方は、著作xx概説[第2版]xxxxx、有斐閣のP370「②共同著作物の成立要件」をご参照ください。
2.1で説明したように、特許法では、原則として、各共有者は共有発明を実施できることを定めています(特許法73条第2項)。一方、著作xxではどうでしょうか?
著作xx第64条
共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ、行使する※8ことができない。
第65条2項
共有著作物は、その共有者全員の合意によらなければ、行使する※8ことができない。
特許法との違いに気づいたでしょうか。著作xxでは、共有者全員の合意がなければ、共有成果物である共有著作物(著作者人格権を含み)を自由に、行使することはできないのです※8。
※8 「(著作権を)行使することができない」とは、著作権に基づく差止請求(112条)や、損害賠償請求(民709条)ができないということではなく、18条~28条に定める複製権などを行使できないことを意味します。差止請求などは各自で行うことが可能です(著作xx -基礎と応用-P63、xxxxx、発明協会。)
著作xx117条
共同著作物の各著作者又は各著作権者は、他の著作者又は他の著作権者の同意を得ないで、第112条の規定による請求又は著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償の請求若しくは自己の持分に応じた不当利得の返還の請求をすることができる。
<共同開発の成果がプログラムの場合の問題点>
では、次に、共同開発の成果がコンピュータ・プログラムの場合の問題について考えてみましょう。
○○会社と△△大学との共同研究の成果、プログラムが完成しました。この時点で、プログラムには著作権が発生し、その権利は○○会社と△△大学の共有になります。更に、この成果に対して特許権も取得しました。特許権も共有です。○○会社は当然このプログラムを自由に実施・利用できると考えるでしょう。しかし、上述のとおり、著作xxでは、共有者全員の合意によらなければ著作権を行使できません。そのため、プログラムの著作権の取り扱いを契約で定めておかないと、著作xxに定められるいくつかの権利によって、次のようなトラブルが予想されるのです。
① 公表権(第18条)
プログラムを公表するには、双方の合意が必要。
○○会社がプログラムの宣伝・販売を開始しようとしても(公表しようとしても)、更なる改良を望む△△大学はこの販売開始時期や公表方法に反対するかもしれない。この場合、○○会社は、△△大学が納得するまでこのプログラムを販売することはできません。
② 氏名表示権(第19条)
プログラムの著作者名表記は、双方の合意の上決めなければならない。
○○会社はプログラムを販売する際、その箱にどのように著作者名を表記するのか△△大学から合意を得なければなりません。例え「著作者、○○会社、△△大学」と普通に表記したとしてもその順番に△△大学から不満がでるかもしれません。
③ 同一性保持権(第20条)
一著作者は、その著作物の内容を勝手に変更できない。
○○会社が、プログラムを改良して新しく販売する場合、その改良の内容によっては、△△大学にその改良することの了解を得なければなりません。了解を得られないと、その改良したプログラムは販売できず、販売したとすると△△大学の同一性保持権を侵害することになります。
④ 複製権(21条)、公衆送信権(23条)、や譲渡権(26条の2)
そもそも、共同著作者の一方は他方の合意なく著作物を複製、公衆送信、譲渡などできない。○○会社はプログラムを複製し、販売する行為自体に、共同著作者である△△大学の了解を得る必要があります。
⑤ 二次的著作物の利用権(28条)
その他、○○会社がプログラムを改良した場合、この新しいプログラムが二次的著作物として成立した場合には、△△大学は一次著作物の著作者として、この二次的著作物に対しても権利を有することになるので、上記①~④までの問題がこの改良されたプログラムにおいても生ずることとなります。
どうです? 共同開発の成果を共有にした場合、共有者であれば、その成果を当然に実施できると考えるのは危険です。特許法などでは、原則、双方の実施を可能としていますが、著作xxでは、合意がなければ実施できないとしているのです。著作権を共有するリスクを理解してもらえたでしょうか。
では、この問題を回避するためにどのような規定を設けるのが望ましいのでしょう?その一つは、共同開発の「成果」を実施する場合は常に双方の合意を必要とするものです。
「例1」
○条 ○○会社と△△大学は、共有に係る成果を実施/利用しようとする場合は、相手側の事前の了解を得ることとする。
契約時にこう明記しておけば、共有著作物であるプログラムを販売・実施するときに
は、必ず話し合いの機会が設けられるので、一方が勝手に実施するといったトラブルは回避できるでしょう。これは△△大学にとって望ましい規定といえます。
○○会社が、このような合意を省略したいとするのであれば、次のような規定も望ましいとえいます。なお、著作権の譲渡及び著作者人格権の行使を放棄することについては、次回の<請負契約における著作権の取扱>でもう少し説明をしますので、来週そ➀らを参照してください。
「例2」(著作権の譲渡、権利不行使)
○条 △△大学は、共有成果の著作権を○○会社に譲渡する。
※著作xx第61条2項を各自チェックすること。
○条 △△大学は、成果についての著作者人格権(著作xx第17条)を○○会社に対して行使しないこととする。
※ もしくは、成果についての著作者人格権(著作xx第17条)を代表して行使する者は○○社とする(著作xx第64条3項)。
もっとも、著作xxでは、共有の著作者を保護するために第64条2項や、65条第3
項の規定を設け、共同著作者のバランスを図っています。
著作xx第64条2項
共同著作物の各著作者は、xxに反して前項の合意の成立を妨げることができない。
著作xx第65条3項
・・・、各共有者は、正当な理由がない限り、第一項の同意を拒み、又は前項の合意の成立を妨げることはできない。
しかし、どのような基準で「xxに反するのか」※10や、「正当な理由の有無」を判断するのかは極めて不明確です。一方の著作者からの申し出を断るための「正当な理由」を見つけることは、断られた側の「正当な理由」がないことの証明よりxxxに容易といえるでしょう。結局、この規定を用いたとしても、共同著作者間のトラブルを解決することは難しいということです。
※9 「xxに反して」とは、各著作者の間で明示または黙示に形成されているコンセンサスに反することを意味する(著作xx 基礎と応用P63、xxxxx、発明協会。)
<ポイント>
① 特許法と著作xxでは、共有の成果に対する基本的な取扱が異なっている。特許法では双方自由に実施できても、著作xxでは合意が必要。
② 一つの成果に対して特許権と著作権の双方が成立する場合、成果についての著作権の取扱を明記すべき。
3.権利の共有について(民法、その他)
以上、特許権と著作権について、複数人で権利を有する場合について説明しました。ここでは、一般法である民法で財産を共有する場合と、その他の法律で権利を共有する場合について説明します。
3.1民法の規定
一般法である民法では、一つの物を複数人で共有する場合をどのように定めてあるのでしょうか?
民法第249条(共有物の使用)
各共有者は、共有物の全部につき、その持分に応じたる使用をなすことを得。
民法第250条(共有持分の割合)
各共有者の持分は、相均しきものと推定する。
民法第264条(準共有)
本節の規定は、xxにて所有権以外の財産権を有する場合に、これを準用す。ただし法令に別段の定めがあるときは、この限りにあらず。
民法では、共有物の全部を持分に応じて使用できる、しかも、その持分は5:5と推定すると定めているのです。前回説明したように、民法における「物」とは有体物を意味しますので、この規定から形のない特許発明(無体物)にも民法249条が直接適用されると判断するのは、少し乱暴に思えます。でも、特別の約束がなければ、双方が実施できるとした基本的考えは同じといえます。
なお、「共有物の全部につき」とは、次のことを意味します。例えば、あなたがオートバイを友人と共有している場合に、「お前の持分は半分だから、前輪だけ使ってよい(俺は後輪だけ使う)」といったのでは、オートバイがまったく役に立たなくなってしまいます。「共有物の全部」とは、各共有者は、その持分に関わらず、共有物全部を利用できることを示したものです。持分を考慮するならば、「お前は偶数日、俺は奇数日にオートバイを使う」といった風に定めるべきでしょう。
3.2その他の法律
他の法律では、共有に係る知的財産権をどのように取り扱っているのか少し紹介しておきましょう。
種苗法23条
育成者権が共有に係るときは、各共有者は契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその登録品種等を利用することができる。
半導体集積回路の回路配置に関する法律:14条
回路配置利用権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその登録回路配置を利用することができる。
どうでしょうか? 特許の規定ぶりと似ていますよね。実務で、育成者権や回路配置利用権に関する契約を交わすことはまれと思います(少なくとも私の経験では皆無)。ここで、紹介したかったのは、著作権の取扱が特殊ということなのです。
4.今日の復習テスト
では、最後に本日の復習テストを行いましょう。次の問題は、開発成果を共有する場合の取扱に関するものです。その取扱について両者に合意事項はないものとします。問題ごとに○か×かを考えてください。
復習テスト
① 特許権を共有する場合、各特許権者は、相手の合意を得ることなく、その特許発明を自由に実施することができる。
② 著作権を共有する場合、各著作者(著作権者)は、相手の合意を得ることなく、その著作物を複製し、販売することができる。
③ 特許権を共有する場合であって、共有特許権者の一方が自ら特許発明に係る商品を製造・販売する能力がないと認められた場合、その特許権者は相手の合意を得ることなく、自己の持分を他社に譲渡することができる。
解答と解説
① ○
特許法第73条2項の規定により、各特許権者は特許発明を自由に実施できるのです。
② ×
著作xx65条2項の規定により、各著作権者は、相手の合意なく、共同著作物を複製、販売することは認められません。
③ ×
残念ながら特許法73条1項の規定により、持分の譲渡には相手の同意が必要となります。前回のゼミを繰り返すと、この規定にある「共有者の同意を得なければ」が「要件」であり、
「譲渡できない」が「効果」なのです。
5.今日のまとめ
(1) 特許法では、特許権が共有の場合、原則として双方に自由な実施を認めている。その一方で、特許権者が単独で他人に持分を譲渡すること、ライセンス許諾することは禁止されている。
(2) 特許法と著作xxでは、共有の成果に対する基本的な取扱が異なっている。特許法では双方自由に実施できても、著作xxでは合意が必要。
以上で第3回目の講義を終了します。次回も、特許権のみならず著作権についても説明する予定です。
共同開発において、機械やバイオなどの分野では著作権は関係ないのでしょうか?コンピュータが発達した現代において、多くの機械はプログラムによって制御されています。また、バイオの分野でも遺伝子解析にはプログラムが重要な役割を果たしています。共同開発を行う場合、特許権の取扱に比べ著作権は重要ではないかも知れませんが、その分、見落とし易い規定と思います。共同研究の成果の取扱について、相手に不満がある場合、特許権では反論できなくても、著作権であれば反論可能な場合があるかも知れません。そんなときのために、慣れない法律であっても頑張ってください。
第 3 回、以上
第4回「請負契約/委任契約における著作権の取扱」
0.はじめに
0.1なぜ、著作権なの?
今週は、請負契約における著作権についての注意点を説明します。技術移転のセミナーでどうして著作権を勉強する必要があるのでしょうか? 理由の一つは私の興味ある分野だから…なのですが、それだけではありません。受講生にとってもメリットがあります。それは、近年の多くの技術にはコンピュータプログラムが用いられています。その一方で、技術移転の契約において著作権は一般に軽視されていて、著作権の取扱について明記されていない場合があるということです。
このことは、自分に有利な場合にだけ、著作権を主張することができるということです。不利な契約を結んでしまったためにライセンス料に不満がある場合、この著作権の主張が最後の砦になるかも知れないのです。どうです、勉強する気になりました? では本題に入りましょう。
書籍の紹介
コンピュータプログラムを含みソフトウェアの保護手段として、著作権はよく利用されるものです。また、特許権でもプログラムの保護は可能です。特許権、著作権とソフトウェアについての入門書として「知って得するソフトウェア特許・著作権」をお勧めします。ビジネスモデル特許のほか、プログラムの登録制度などについても説明があります。
0.2著作権の譲渡
今日の授業の主題は著作物の譲渡に関係する問題点を理解することです。そこで、まず、他人に何かを作ってもらう際の二種類の業務形式(請負、委任)について説明します。自社のマークの作成をデザイン会社に依頼する、また、自社の顧客管理ソフトの作成をソフトウェア会社に依頼する。これのような依頼は、請負か委任のど➀らかになります。その違いについては法律の基礎知識として是非理解してください。
次に、依頼者(発注者)としての注意すべき点、受注者としての注意すべき点、最後にその折衷案について説明します。
<目次>
1.請負契約/委任契約の説明
2.請負・委任契約における著作権の取扱(依頼者側の注意点)
3.請負業者(受注者側)の注意点
4.今日の復習テスト
5.まとめ
1.請負契約/委任契約の説明
始めに、法律用語に馴染みのない理工系の学生のために、請負契約と委任契約の違いについて簡単に説明しておきましょう。この違いは今回の内容であまり重要ではありませんが、一般的な法律知識として理解してください。
1.1請負とは(民法第632条~第642条)
家を建てたいと思ったとき、通常、私た➀は家の建築を工務店にお願いします。そのときの契約は、「設計書にあるとおりの家を建ててください。その費用として2000万円支払います。」とするものです。請負とは、「当事者の一方(請負人)がある仕事を完成することを約束し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことにより成立する契約をいいます(民法632条)」(「法律用語がわかる辞典」、xxxxx、自由国民社。
その他、電化製品の修理をお願いした場合なども、電化製品が無事に修理されたことに対する報酬を支払うという点で請負といえるものです。そして、この請負は、コンピュータプログラム開発において、広く用いられている業務形態なのです。一般に、大手電気メーカが発注主となり、各下請け会社に様々なプログラムを発注し、出来上がったプログラムやデータベースに対して対価を支払い、大手電気メーカはこれらプログラムを集結させて大きなシステムを完成させているのです。
1.2委任とは(民法第643条~第656条)
委任も請負と同じく、労務を目的とする契約の一形態ですが、業務の遂行を目的とし、必ずしも依頼業務の完成を必要としない点で、請負と異なります。すなわ➀、委任であれば、依頼した内容を遂行してくれた時間に対して費用を支払うのに対し、請負はあくまでも完成した結果に対して費用を支払うのです。では、このような請負や委任の契約をする場合に、どのような点に注意すべきなのでしょうか?
2.請負・委任契約における著作権の取扱
請負契約において、依頼したプログラムの取扱を明記せず、単に、次のようにプログラムの開発を依頼した場合、どんなトラブルが潜んでいるのでしょうか?
[例1]
○条 ○○社(発注主)は、△△社(請負業者)に◇◇◇◇の仕様に基づくプログラムの作成を依頼し、その報酬として×××万円支払う。
※ご注意願います!
請負契約と委任契約との違いを説明しましたが、依頼に従ってプログラムを完成した場合、著作権の取扱においてその違いはあまりありません。いまから説明する内容は、請負契約と委任契約共通の問題となります。そこで、今回はすべて請負契約として説明することとします。ゼミ終了後、「じゃ、委任契約は?」といった疑問を持つことのないようにお願いします。
2.1著作権の帰属
プログラムが完成した場合、請負業者はプログラムをCDに記録させて発注主に送ります。CDに焼かれたプログラムの所有権は発注主に移り、これで請負契約は完了といえます。ですが、コンピュータプログラムは、著作xx2条 1 項10の2に著作物として明記されているように、プログラムの完成により発生しています。この著作権はど➀らが所有するのでしょう?
著作者とは、「著作物を創作した者をいう」と著作xx2条1項2号に定められています。請負の場合、費用を支払うのは発注主ですが、発注主がプログラムを創作するわけではありません。創作するのは、あくまでも、請負業者なのです。よって、プログラムが完成したとき、まず、請負業者が原始的な著作者となります。
※ ここで「請負業者」は、依頼を請け負った会社と考えてください。その際、制作したプログラム著作権の帰属がプログラマー個人か、会社なのかといった、問題点があります。この職務上作成する著作物の著作権については著作xx第15条を確認してください。同条第2項では、著作物がプログラムの場合に限定して、他の著作物より緩和した条件を定めています。
では、プログラムを記憶したCDが発注主に渡したとき、プログラムの著作権も一緒に渡したことにならないのでしょうか? 契約書に著作権の取扱が明記されていれば、著作権の帰属(誰が著作権を所有するのか)に問題はないのですが、記載されていない場合には問題となるのです。というのも、裁判官は請負価格、取引実情、更にはどのような目的※1で契約が合意したのかなどを考慮してど➀らに著作権が帰属するのかを判断するからです。
請負価格が市場相場より低額であった場合、CDに焼き付けたプログラムの所有権だけの対価と判断されるかもしれません。その場合、著作権はプログラムの製作者である請負業者のものとなります。一方、請負価格が相場に比べて高額な場合や、従来の取引慣習で発注主に著作権は帰属するものと判断された場合は、CDの所有権だけでなくプログラムの著作権も合わせて譲渡されたと判断されるのです※2。
お金を払う発注主としては、著作権が請負側に残るなんて納得できないことかもしれませんが、創作者である著作者を保護するのは、文化の発展のために創作者を保護するとした著作xxの趣旨によるものなのです。このような事態を避けるためにも、著作権の帰属については、明確に規定を設けるのが望ましいといえるでしょう。
※1 請負契約における著作権の帰属について争った判決としては、次のものが挙げられます。昭和50年2月24日東京地裁判決 判例タイムズ324号317号
この事件は、コンピュータプログラムの著作権の帰属を争ったのではなく、出版された書籍の原稿についての著作権を争ったものです。具体的には、著作権の譲渡契約がない場合に、出版社の原稿の「買取」は、原稿における著作権の譲渡を意味するのか、それとも、原稿に記載された文章の出版(複製)の許諾にすぎないのか、が争点となったものです。裁判所は、作家と出版社との事情を考慮し、「原稿の買取価格は、通常の印税相当額よりも多い。よって、買取られた原稿について、少なくとも複製する権利を含む著作権が譲渡されたと解するのが相当」と判断しました。
これは、契約における当事者の状況(当事者の意思)を尊重して、著作権の帰属を判断したものです。これは、第1回『契約についての基礎知識(その1)』で説明したとおりです。何のことかピンと来ない方は、もう一度復習が必要です。この判決のように、もしプログラム著作権の帰属が、発注主と請負業者との間で問題となったなら、その報酬の額に応じて、判断される場合があるといえます。もし、報酬が相場より高ければ、著作権の譲渡を含む請負契約と判断されるでしょう。一方、報酬があまりに低い場合は、著作権の譲渡は認められず、発注者はプログラムを記憶したCDの所有権が認められるだけとなり、そのプログラムを複製し販売した場合、請負業社の著作権の複製権(21条)を違反することになります。
※2 報酬以外に考慮される事項としては、契約の目的が挙げられます。すなわ➀、発注主が請負業者に業務をお願いした目的を達成できるか否かも考慮されるのです。例えば、プログラム販売を目的としてプログラム開発を行っている会社が、そのプログラム開発の一部を他社に発注したとします。その際、完成したプログラムを受け取った発注主の会社はそのプログラムを自らのプログラムに組み込んで、プログラムを完成させ、これを複製、販売するでしょう。このような目的が明らかな場合にまで、契約書に明示されていないからといって著作権は譲渡されないとは判断されないのです。このような場合には契約の目的に準じて、契約書に明示の規定がなくても、著作権(複製権など)は発注主に譲渡されたと考えられるのです(「著作xx概説」P505、xxxxx、有斐閣)。
民法の請負契約を定めた規定のなかに、著作権の扱いに関する補充規定はないのでしょうか?もし、民法に「著作権は発注主に移る」といった補充規定があれば、契約に明記しなくてもそのルールに従えばよいのです。民法第3編、第9節(民法632条~642条)は請負に関する規定を定めたものです。しかしながら(発注主にとっては残念なことに)、このなか
に著作権に関する規定はありません。更に、第9節には、請負の成果として「目的物」との用語が用いられていますが、民法において「物」とは形ある有体物を意味し(民法85条)、著作権のような無体物は含まれないと考えられているのです(売買契約においても、「物」とは有体物を意味します。) 民法制定時の明治時代には、プログラムの請負契約のように、無体物
(知的財産)の請負契約があまりなかったことがその理由といえるでしょう。
以上のように、著作権は原則としてプログラム開発を行った請負業者に帰属します。そして、プログラムが請負の成果として発注主に渡される際、著作権も一緒に譲渡されるのか否かは当事者の関係によって判断されるのです。このポイントを踏まえ、請負契約においては、著作権の譲渡について次のように明確に定めることが望ましいといえるでしょう。
[例2](発注者に帰属)
○条 △△社(請負業者)は、作成したプログラムについての著作権を○○社(発注主)に譲渡する。
[例3](請負業者に帰属)
○条 △△社(請負業者)は、作成したプログラムを〇〇社(発注主)に譲渡する。ただし、このプログラムについての著作権は△△社に帰属する。
<ポイント>
コンピュータ・プログラムの請負契約において、著作権の帰属を明記していなければ、プログラムに関する著作権は原則として請負業者に帰属する。従って、著作権の譲渡を求めるのであれば、発注主はその旨を契約書に明記すべき。
2.2 著作権譲渡の落とし穴(著作xx第59条、第61条2項)
著作権譲渡の契約の際、プログラムの著作権の帰属を明確にする[例2]、[例3]の規定があればよいのでしょうか? 著作xx第61条第2項を見てみましょう。この規定は、著作権の譲渡についてある種の制約を定めたものです。
著作xx第62条
第1項:『著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
第2項:『著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条※3に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者(請負業者)に留保されたものと推定する。』
この第1項は、著作権は原則として自由に譲渡できる旨を定めたものです。この第2項は、例え著作権を譲渡する旨の合意がなされたとしても、第27条と第28条の権利については、譲渡されたとは推定しない。すなわ➀、これらの権利を含めて譲渡する場合は、その旨を明記すべきことを定めたものです。
※3
第27条(翻訳権、翻案xx)
『著作者は、その著作物を翻訳※4、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利※5を専有する。』
第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
『二次的著作物※6の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に
規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。』
※4 「翻訳」とは、ある言語で作成された著作物を他の言語に書き換えることをいいますが、その意味には、あるプログラムを異なる言語で書き直すことが含まれます。例えば、ベーシック言語で書かれたプログラムをC言語に直す形態です。(「著作xx」、xxxx著、LECリーガルマインド)
※5 「翻案」とは、元の著作物のストーリ性を変えることなく、具体的な表現を変えることをいいます。脚色や映画化も「翻案」に含まれます。また、オリジナル文章をダイジェスト化することも含まれます。では、プログラムを改良する場合はどうなのでしょうか? 元のプログラムに創作を加えた場合に、新しいプログラムにもとのプログラムの表現が残存していれば「翻案」に該当するといわれています(「知って得するソフトウェア特許・著作権」P88、xxxx他著、アスキー出版)。プログラムを改良したとき、その改良は「翻訳」なのか、「翻案」なのか? 議論があったそうなのですが、いずれにしても二次的著作物として原著作権の効力が及びますので(著作xx28条)、その判断にあまり実益はないようです。
※6 二次的著作物とは、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻訳することにより創作した著作物をいいます(著作xx第2条1項11号)」。通常のバグ取り程度の修正などであれば、二次的著作物とみとめられることはないのですが、新しい機能を追加した場合など二次的著作物に該当する場合は多くあると思います。そのような場合、この第28条の規定により、二次的著作物の複製には、もとの著作者の承諾を得る必要があるということなのです。
上の規定[例2]、[例3]を見ると、第27条と第28条とを譲渡する旨が記載されていません。これでは、これら権利の譲渡も含む合意ができていたと契約後に発注主がいくら主張しても、翻訳xxの譲渡は認められない可能性は大いにあるのです。
翻訳xxの譲渡が認められなくても、基本的な著作権(複製権21条など)は発注主に譲渡されているので、著作権者である発注者は、開発してもらったプログラムを複製して販売することができます。しかし、プログラムを改良することはできるのでしょうか? ※5で説明したように、プログラムを改良することはその程度によって原著作物を翻案することと解釈されるので、プログラムを改良する場合は請負業者が持っている翻案権を譲り受ける必要が生じます。もし、譲り受けることなく改良したとすると、それは、請負業者に帰属する翻案権を侵害することとなり、差止請求(著作xx第112条)の対象となるのです。
発注主にとって著作権の譲渡を受ける場合、必ず翻訳権、翻案xx(第27条)と二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(第28条)も一緒に譲渡する旨を契約書に明記すべきです。
「例4」
○条: 本契約に基づいて創作されたプログラムの著作権は、第27条及び第28条に定める ものを含め、本件プログラムの譲渡をもって、○○社(発注者)に移転したものとする。
もしくは、
○条: 本契約に基づいて創作されたプログラムの著作権(第21条から第28条までを含む)は、・・・移転したものとする。 でもOKと思います。
<ポイント>
著作権を譲渡する際、「著作権を譲渡する」だけでは不十分。翻訳権やxx的著作物の利用に関する原著作者の権利なども一緒に譲渡する旨を明記する。
2.3著作者人格権についての注意点
次に、著作xx59条、著作者人格権に関する規定を見てみましょう。
著作xx第59条
著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。
この規定は強行規定と言われています。つまり、著作権(著作者人格権を含めて)譲渡する合意がなされたとしても、この著作者人格権については、何があっても、いくらお金を払っても譲渡できないということです。
※ 著作者人格権とは、著作権者の人格的利益を保護するために定められた権利であって、著作xx18条~20条に定められています。(以下、各規定の概要を紹介。「著作xx ―基礎と応用―」P86~P104参照、xxxxx、発明協会)
著作xx
第18条:公表権
公表権とは、未公表の著作物を公表するか否かを決定する権利です。
第19条:氏名表示権
氏名表示権とは、著作者がその著作物の「原作品に」・・・、著作者名を表示するか否か、表示するとすれば実名を表示するのか変名を表示するのか、ということを決定する権利です。
第20条:同一性保持権※7
同一性保持権とは、著作物の「題号」や「内容」について、他人が勝手に改変することを禁止する権利です。
※7 著作xx第20条2項3号
著作xx第20条第2項では、同一性保持権が及ばない例外の行為を定めていて、この3号では、プログラムの必要な改変について規定しています。これは、譲渡されたコンピュータのバグを取り除く改変などにまで、同一性保持権を主張できないようにするための規定です
(「著作xx ―基礎と応用― 」P98、xxxxx 発明協会)。
プログラムに関する著作権が発注主に譲渡されると合意できたとしても、この著作者人格権については譲渡することはできないのです。発注主にしてみれば、これから販売し、また、改良をしていくプログラムについて、以上のような権利を他人が有しているというのはあまり望ましいとはいえないでしょう。
そこで、これら著作者人格権について発注主は、請負業者に対して、譲渡する代わりに著作者人格権については行使しない旨を約束してもらうのです。そのための規定を紹介します。
「例5」
○条 △△社(請負業者)は、○○社(発注主)に対して、著作xx第18条、19条、20条(以
下、著作者人格権)のいずれも行使しないことを約束する。
「例6」
○条 △△社は、著作xx第17条に規定する著作者人格権※8及び外国における前記権利に相当する権利(以下「著作者人格権」という。)を行使しないものとする。
「例7」※9
○条 △△社は、次の各号について同意します。
① ○○社が任意に本件プログラム等を改変すること
② ○○社が本件プログラム等を任意の表示氏名で公表すること
③ ○○社の意にそぐわない本件プログラムの公表をしないこと
※8 著作xx第17条で「著作者人格権」が定義されています。このように条文で用いられている用語を用いることは内容を明確にする観点から望ましいといえます。また、外国における著作権も考慮している点で望ましいといえるでしょう。
※9 権利行使を放棄するといった文言を使わなくても、著作者人格権の行使形態を明確に示しめすことでも、[例5]、[例6]と同じ効果が得られるといえます。
著作xx59条、61条2項は、プログラムの製作依頼する発注主(企業)にとって、厄介な存在といえます。一方、これらの規定は、実際に創作を行うプログラマーやデザイナーなどにとって自分た➀の利益を確保するために大切な規定なのです。
例えば、契約書に著作xx28条、29条の条項が明記されていないとすれば、これらの権利の移転について、プログラムの完成後に交渉を行い、これら権利の譲渡に対する対価を要求できるでしょう。また、著作者人格権の行使放棄について、契約時に合意なされていないのであれば、それらの改変や公表方法について、自分が納得できないことを理由に、再度交渉し、対価を得られる可能性もあるのです。
実際に私が知っているケースでは、企業のロゴマークをデザインしたxxxxxが、著作権の譲渡後、ロゴマークの使用について不満を伝え、更なる対価を請求したというものがあります。不満の内容は「最近のロゴは、自分の意図したものではない(具体的には、ロゴが斜めに使用されていたり、希望するカラーで着色されていなかったり、といった不満)」とのことでした。契約時に合意した対価について、契約後でこのような主張をすることは、適切な権利行使か否かの疑問は残ります。しかし、著作権を譲渡した後に、更なる対価を請求できる根拠となるものは、第20条の同一性保持権であり、これは著作権人格権を有する創作者として、正当に認められる主張なのです。
企業側の意見は、「何で今頃、また対価を支払う必要があるんだ?」とのことでしたが、著作権の譲渡契約において、著作者人格権について何も規定していなかったためのトラブルでした。個人デザイナーであれば、この著作者人格権の規定は、譲渡先の企業に対してxx報いるための最終手段なのかもしれません(といっても、最近では企業側が用意する契約書にこの著作者人格権に対する規定は明記されていますので、もうその威力が衰えているように思います。さらなる一手が必要です。)
<ポイント>
① 著作者人格権は一身専属の権利、譲渡することはできない。
② 譲渡できないなら、発注社は権利行使しない旨を約束してもらう。
③ 著作者にとって、著作者人格権は譲渡先企業にxx報いる最終手段(?)、プログラマーならこれまでの契約を見直してみましょう。
➀ょっと一息、 “ときめきメモリアル事件”の巻
コンピュータ・プログラムの著作権については「ときめきメモリアル事件6 」があります。この事件では著作者人格権の同一性保持権(第20条)が主張され、同一性保持権の侵害行為の惹起(侵害行為を手伝った)が認められたものです。この事件は、恋愛シミュレーション・ゲームとして大ヒット作である「ときめきメモリアル」の原作者(原告)が、ゲームの内容を変更するメモリーカードを輸入・販売した販売業者(被告)を、著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとして訴えたものです。なお、本件は、高裁で敗訴した販売業者が最高裁に訴えました。
恋愛シミュレーション・ゲームでは、様々な選択から得た主人公のパラメータの数値により、あこがれの女性徒から告白されるか否かが決定されるところ、このメモリーカードを用いれば、主人公のパラメーターを容易に高めることができ確実に告白されることが可能になるものです。また、入学当初ではあり得ない女性徒が登場するようにもゲームのストーリを書き換えることができるものです。
この事件のポイントは、メモリーカードの内容はゲームソフト中のキャラクターの画像を複製したり、翻案(改変)したりするものではなく、単に、ゲーム主人公のパラメータを変更するに過ぎないという点にあります。さらに、販売業者の行為は、このカードを輸入・販売したものであり、このカードを使ってゲームのストーリーを変更させていたのはカードの購入者という点にあります。
このような販売業者の行為に対して、裁判所は、まず、ゲームソフトの著作物性を認めたうえで、このようなメモリーカードはゲームソフトのストーリーを改変し、同一性保持権を侵害すると判断しました。さらに、このメモリーカードは事件となったゲームソフト(ときめきメモリアル)にだけ用いられるものであり、販売業者はこのカードの購入者がゲームの内容を変更するために用いことも予期していた(そして、輸入し、流通に置いた)。販売業者の行為がなければこのゲームの同一性保持権が侵害されることもなかったとして、カードを輸入・販売した行為を同一性保持権の侵害を惹起(じゃっき)したものとして、損害賠償責任を負うと判断しました。
著作物が固定されている絵画などではあり得ない争点ですが、デジタルコンテンツに特有の問題といえそうです。たとえば、音楽リズムやサウンド・エフェクトを音楽家の意図に反するように変更できるソフトなども、同一性保持権を侵害すると判断するおそれのあるものと考えることができるのではないでしょうか。
このようなシミュレーション・ゲームにおいてゲーム内容の変更の是非を争ったものとしては三国志Ⅲ事件があります。この判決では「ユーザーが自由になし得る範囲」という基準で、ゲーム内容を変更する自由を認める判決を行っています。
※ その他の事件
ゲームソフトを映画の著作物として考え、争った判決としては最高裁 平成 13(受)952 が有名です。この事件は、ゲームソフトの中古品販売が許されるのか否かが争われたものです。判決の趣旨は、ビデオソフトは「映画の著作物」であり、映画に認められる頒布権の存在は認められる。
6 最高裁 平成 11 年(受)955 号損害賠償等請求上告事件
7 東京地判平 7・7・14、東京高判平 11・3・18
でも、一旦、販売されたゲームソフトの頒布権は無くなってしまうので、中古販売はOKということです。
著作権はその保護対象を個別に規定しており、対象について特別規定が設けられている場合があります。今回の事件は、ゲームソフトを映画の著作物として考え、映画にだけ認められている頒布権を利用してゲームソフトの中古販売を取り締まろうとしたものです。結果として、ゲームソフト会社は裁判に勝つことができませんでしたが、著作権を用いた創作物の保護戦略として、参考になる判決と思います。
3.請負業者側の注意点
以上は、発注側から望ましい規定を紹介してきました。ですが、請負側として、著作権をすべて譲渡してしまってよいのでしょうか? 今度は、請負側の立場から図4-1に基づいて考えて見ましょう。
3.1請負業者の改良プログラム販売
依頼によって作成した原プログラムをA社はB社に納品します。その著作権
(翻案権を含む)はC社に譲渡されました。次に、A社はC社からの発注を受け、C社の仕様に併せて原プログラムを改良したプログラムを納入しました。このC社用の改良が原プログラムの「翻案」に該当する場合、C社へのプログラムはB社の所有する著作物の二次的著作物となってしまいます。そうとすると、B社はA社が原プログラムを改良する行為や、改良プログラムをC社に提供する行為の差押(第112条)を裁判所に提起することができるのです。
原プログラム納品
(オリジナル)
図4-1
著作権
B社(発注
負
A社(請
著作権
差止(112条)
改良プログラム納品
(xx的著作物)
C社
このような事態を避けるために、請負業者のA社は著作権を譲渡すべきではないのでしょうか?
も➀ろん、請負業者は原プログラムについての著作権をB社に譲渡することなく、自分で保有するのが望ましいといえます。しかし、これまで説明してきたようにB社にとっても、自分が原プログラムを改良、販売する可能性がある場合には、著作権の譲渡を要求するでしょうから、A社とB社の意見は必ず衝突することとなります。
このような意見の衝突は、著作権の譲渡に十分見合う対価をB社がA社に支払うことで解決可能です。例えば、「原プログラムの対価として10億円払う」とすれば、A社も著作権を譲渡することに何の問題も無いといえるでしょう。しかし、実際でこんな羽振りのいいお客はなかなかいないでしょう。そこで、両社の意見を考慮した折衷案が必要になるのです。
次のような規定を設けるのはいかがでしょうか。
[例8]
〇条(改良プログラムの許諾)
本契約に基づいて開発されたプログラムに係る著作権(著作xx第21条~28条)は、B社 (発注主)に帰属する。ただし、A社(請負業者)は、自らが有する技術、ノウハウなどに基づいて第三者のために、類似するプログラムを作成することができることとする。
このように、A社は著作権を譲渡したとしても、今後、類似するプログラムを作成できる旨をB社に約束させることで、今後、類似するプログラム開発の途を残すことが可能になるのです。この規定は、譲渡した著作権についての、利用許諾契約といえるものです。
3.2請負業者がこれまでに開発したモジュールの取扱
一般にプログラムを作成する場合、モジュールと呼ばれる小さなプログラムをたくさん利用します。これらのモジュールには、独自に開発して著作物として認められるものも多く含まれるでしょう。A社がB社に原プログラムを納品した場合に、これらモジュールの著作権まで譲渡してしまうと解釈されたのでは、これらモジュールの今後の利用が困難になってしまいます。そこで、請負業者にとっては、著作権を譲渡する場合であっても、モジュールについての権利を保持するために次のような規定を設けることが望ましいといえます。
[例9]
〇条(独自著作権の留保)
本契約に基づいて開発されたプログラムの中の、本契約前からA社が利用していたプログラム・モジュールについての著作権(第27条、第28条を含む)は、A社に留保されることとする。
これにより、B社からの依頼によって新しく作成したプログラムについての著作権は譲渡しても、従来使ってきたモジュールについての著作権はA社が保持することが明確になるのです。
すべての契約において通用することですが、著作権を譲渡する契約においても、いろんな条件を付随させることができるということです。相手が契約書を提示してきたとき、すべての条件を鵜呑みにするのではなく、相手との関係に応じて柔軟に決めればよいのです。
<ポイント>
①請負業者にとって、著作権を譲渡しなければならない場合、少なくともプログラムを改良することについて了解を得ておくことが大事。
②請負業者にとって、従来から使っているプログラム・モジュールについては、譲渡しない旨を明記することが望ましい。
③著作権の譲渡契約においても、いろんな条件を付随させることができる(当たり前)。
4.今日の復習テスト
では、今週の復習テストです。次の設問のう➀、正しいのはどれでしょうか
(1)契約自由の原則により、著作者人格権といえども、場合によって譲渡することができる。
(2)著作権を譲渡する契約において、契約書で明示されていなければ、譲渡されたと推定されないものは、頒布権(26条)、翻案権(27条)、二次的著作物に関する原著作者の権利(2
8条)である。
これは、復習ではありませんが、著作人格権の一身専属についての質問です。法令集のどこに答えがあるか探して見てください。
(3)著作者人格権は、一身専属であり譲渡できない。しかし、作者人格権の侵害に対しては著作者本人以外が差止請求できる場合がある。その規定は第何条か?
解答と解説
① ×
『著作xx59条:
著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。』
譲渡できない利用としては、著作者人格権とは著作物に対して有する人格的利益を保護するものであるため、譲渡の必要がないからといわれています。また、第一回で説明したように、ベルヌ条約を遵守するためでもあります。
② ×
譲渡されたとみなされないのは、翻案権(27条)と二次的著作物に関する原著作者の権利
(28条)の二つ。『著作権を譲渡する』と契約書に明記された場合、貸与権(26条)は譲渡されたと推定されるのです(著作xx第61条2項)。
③ 116条と118条
どうです、該当する条文を見つけられましたか? 著作者人格権は譲渡できませんので、他人が権利主張することは基本的にないのですが、例外が第116条と118条に定められています。
他人の著作人格権を主張できるのは、次の3名です。
1)著作者の遺族(第116条1項)
2)著作者の遺言により指定された者(同条3項)
3)無名又は変名の著作者の発行者(118条)
3)の者に代行を認めたのは、名前を明らかにしたくない著作者だから、わざわざ変名で著作物を発行しているので、これを認めないと事実上、権利行使できなくなってしまうからですね。例えば、会社に黙って小説を書いた著作者が、著作者人格権の侵害を裁判所に訴えたら、会社にばれてしまいます。これでは、変名で公表した意味がなくなってしまうので、法は代理の権利主張を認めているのです。
5.今日のまとめ
① 著作権を譲渡する場合、翻訳権(第27条)と二次的著作物利用権(第28条)の例外を忘れないこと(第61条2項)
② 著作者人格権は移転できない(第59条)。
③ 著作権を譲渡せざるを得ない場合、今後、著作物を改良することについて了解を得ておくことが大事。
おわりに
以上で、第4回目の講義を終了します。今回は、ボリュームもあって大変だったので
はと思います。お疲れ様でした。最初に紹介させていただいたように、これまでの技術移転の契約書ではあまり著作権は重要ではなかったと思います。ですが、著作権は、特許と異なり登録手続き不要、その存続期間も長い(著作xx第51条)、譲渡の制限など特殊性もあります。今後、様々な技術移転を行う際には、著作権がどのように扱われているのか気をつけてみてください。もし、著作権について定められていないのなら、将来、何かを要求する際の切
り札になり得るのです。
著作権について詳しく説明している優良サイトを発見。
作者の弁護士 xxxx先生の了解を得ましたので、今回、紹介させてもらいます。
xxxx://xxx.xxxxxx.xx.xx/xxxxxxx_0/xxxxx.xxxx (last visited March, 2005)
著作権については、まだまだ問題があります。興味をもたれた方は、xx先生のサイトにアクセスし勉強を続けてください。
第4回、以上
5回「特許ライセンス契約(その1)」
1.はじめに
これからの二回の講義では、技術移転の中心的役割を担う特許ライセンスについて話を進めます。特許ライセンスが結ばれるケースとしては、様々な形態があります。一つは、自分た➀で開発できない技術を他社から購入し、その技術を使って自分た➀で製品を完成しようとする場合、また、既に他社の特許権を侵害していると訴えられた会社が、特許侵害を解消するために結ぶ場合などもあります。さらに、ライセンスを結ぶ場合にも、ケースに応じてその契約内容は大きく異なります。例えば、ライセンス料にしても、事前にライセンスの申出をした企業と侵害と訴えられてからライセンスの交渉に応じた企業とではその内容は異なって当然でしょう。多様化するライセンスのすべてを説明することはできませんが、特許ライセンスに関する注意点を少し説明してみたいと思います。
2.ライセンスの種類
2.1専用実施権と通常実施権
ライセンスの内容を説明する前に、日本におけるライセンスの種類を説明しておきま しょう。この種類の違いは、ライセンス料にも反映することなので、忘れないようにしてください。一つは専用実施権(特許法77条)、もう一つは通常実施権(特許法78条)です。その二つの性格を表にまとめてみました。
専用実施権 | 通常実施権 | |
1.権利の発生 | 特許庁に登録しないと権利として 認められない※1。 | 特許権者と合意できればOK(登録 の必要なし)※2 |
2.ライセンスで設定した範囲内 | 特許権者であっても、ライセンスの範囲内では実施できない。もし実施すると専用実施権の侵害とな る。 | 特許権者は原則として実施可能、しかも、同一範囲内で第三者への重複したライセンスもOK※3。 |
また、同一範囲内で重複して他人にライセンスすることはできな い。 | ||
3.ライセンス料 | 一般に高額 | 専用実施権より低額 |
4.侵害品を見つけたら? | 自分で裁判所に訴えることができる。その名目は専用実施権侵害 | 自分で訴えることはできない。特許権者に侵害者を訴えてもらう必要あり※4-1。 |
5.ライセンスの | 専用実施権者は設定した範囲内 | (特許法に規定はないものの、再許 |
許諾 | で第三者にライセンスを再許諾す | 諾は可能との解釈が一般的※6) |
ることができる。ただし、特許権者 | ||
から了解を得る必要あり※5。 |
「2.ライセンスで設定した範囲内」で説明していますが、専用実施権が設定された範囲内では特許権者であっても無断で実施すれば専用実施権者から訴えられてしまいます。専用実施権はとても強力な権利なのです。一方、通常実施権では他人を訴えることは基本的に認められていません。この権利は、実施権者(xxxxxx)が実施することについて、特許権者
(ライセンサー)が権利行使しない(訴えない)ことを約束しただけともいえるでしょう。このように権利の強さが違うので、専用実施権は一般的に高額、そして特許庁への登録が義務付けられているのです。
※1 専用実施権は登録しなければ権利として認められません。
特許法第98条1項
次に掲げる事項は、登録しなければ、その効力を生じない。二 専用実施権の設定、・・・
そのため、登録するまでは通常実施権と考えることができます。
※2 特許権者との間で合意できれば特許庁へ登録しなくとも権利発生します。しかし、特許権者(ライセンサー)が勝手に特許権を他人に売り渡してしまった場合、実施権者(ライセンシー)であるあなたは、新しい特許権者に対して、自分の通常実施権は有効だと主張できるのでしょうか?
実施権者に無断で特許権を他人に売り渡した特許権者に問題はあります。しかし、特許権者には自己の特許権を売買する自由が認められているのです※2-1。そして、あなたとの実施契約はあくまでもこの両者間の合意事項なので、第三者である新しい特許権者に対して、あなたは自分の実施権が有効であるとは主張できないのです。このような事態を回避するためにも、通常実施権の契約を結んだ場合、特許庁にその実施権の設定登録をすることが望ましいといえるのです。登録しておけば、特許権が誰に売られたとしても、継続してその有効性を主張することができるのです(特許法99条)。
特許法第99条
通常実施権は、その登録をしたときは、その特許権もしくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる。
※2-1 なお、専用実施権が設定されると特許権者は、専用実施権者の承諾なく特許権を放棄することはできません(特許法97条)。この点で、特許法は専用実施権者を保護しているといえるのです。
特許法第97条
特許権者は、専用実施権者、(・・・35条第1項、77条第4項、78条第1項の規定による通常実施権者)があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、その特許権を放棄することができる。
ここでは、特定の通常実施権者に限り、承諾を得るよう定めています。35条や77条、78
条に定める通常実施権者とはどんな種類の実施権なのでしょう? 弁理士試験の受験生には必須課題といえるので、受験生はその理由も含めて考えてみてください。
※3 通常実施権を設定した範囲内であっても、原則として特許権者は第三者にライセンスを与えることが可能です。よって、同一範囲内で他人にライセンスできるのか否かは、契約時に話し合いで解決すべき問題です。実施権者が、第三者へのライセンスを望まない場合、その旨が契約書に明記されます。一般に、そのような特約付の通常実施権を独占的通常実施権といいます。
なお、表内に明記していますが、専用実施権の設定範囲内は特許権者であっても他人にライセンスすることはできません。専用実施権の契約においてはそのような特約は不要です。専用実施権の設定範囲内は専用実施権者のみが他人にライセンスできるのです
(但し、特許権者の承諾が必要。特許法77条4項※5)
独占的通常実施権といえども、権利の正確は通常実施権ですので、独占店的であるとの内容を特許庁に対して登録することはできません。独占的であることは、特許権者と実施権者との間でのみ有効な特約なのです。
※4 他人の実施の排除、損害賠償請求権の有無
侵害品を見つけたときに、独占的な通常実施権について他人の侵害を自ら排除できるのか否かについてはいくつかの見解があります。
以下、代表的な判決です。
・大阪地裁昭和59年12月20判決
この判決では、独占的通常実施権といっても他人の実施を排除する効力は認められないとして、差止め請求が却下されています。また、特許権者の代わりに(代位行使)、差止め請求権を行使することも否定されています。
・大阪地裁昭和40年8月31日判決
この判決では、独占的通常実施権者に特許権者が有する差止め請求権を、特許権者に代わって行使することを認めています。
一方、損害賠償請求については、独占的通常実施権の場合に請求可能というのが判決の一般的傾向です。
・大阪地裁昭和 54 年 2 月 28 日無体集 11 巻 1 号 92 頁
・大審判昭 13.8.27 民集 17 巻 1675 頁
・東京地判昭 40.8.31 無体集 1 巻 222 頁
(以上、(「特許法概説第 12 版」P570、xxxxxxり)
独占的通常実施権者に対して損害賠償請求を認める理由として、xxxx生は
「(独占的)通常実施権者は、当該特許発明の実施による市場を独占できる法的利益を有するから、第三者の特許発明の実施により不法行為の成立を認めるべきであろう」と説明しています(xxx、「知的財産権侵害要論」、発明協会 P138)。
※5 専用実施権の再許諾
特許法第77条4項
専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権について質権を設定し、又は、他人に通常実施権を許諾することができる。
※6 通常実施権の再許諾(「特許法概説第12版」P571、xxxxx)。
ただし、通常実施権者から実施許諾を受けたライセンシーは、通常実施権の再実施権として特許庁に登録できません。その際は、特許権者から直接許諾を受けたとして登録する必要があるのです。
※ 通常実施権の範囲内における通常実施権の再許諾については、特許法上規定がありません。しかしながら、このことは通常実施権の再許諾を禁止する趣旨ではないといわれています。また、実務上も、独占通常実施権者が一定条件の下、第三者に対して再実施権を
付与する権限を与える旨を規定することが行われているといわれています(「特許法概説、第
12 版」、P571 xxxxx、有斐閣)。
2.2外国企業との契約時の留意点
専用実施権についての契約を外国企業との間で結ぶ場合、次の注意が必要です。それは、この「専用実施権」は日本独自の権利であって、外国にはそのような権利は存在しない と い う こ と で す ※10 。 英 文 の 契 約 書 に お い て 実 x x は 、 “Exclusive License”と”non-Exclusive License” の二通りの言葉が通常用いられますが、この両者とも前節で説明した専用実施権に該当する権利ではないのです※10-1。
では、何と訳せばよいのでしょうか? 登録が必要なことや特許権者であっても実施できない旨を契約書において十分に明記できるとよいのですが、もし不安が残るようなら “Senyou Jisshiken in Japanese law”と明記することが望ましいでしょう※11。
※10 国ごとにいろんな制度があるので、もしかしたら専用実施権に該当する権利がどこかの国にあるかも知れません。しかし、少なくとも米国、ドイツ、英国にはありません。
※10-1 専用実施権と Exclusive License とは、他人の実施を法的に排除できる点で共通します。しかし、Exclusive License では、重複した範囲での他人への実施許諾の有無については当事者の裁量に委ねられている点で専用実施権と異なります。
※11 「戦略的特許ライセンス」P38、xxxxx
この書籍では、専用実施権の特殊性のほか、国際ライセンスに用いられるその他用語(Sole right)などについて説明がされています。その他、本当に様々な条項が英文で紹介されていますので、英文契約書に携る実務家にとって必須の書籍と言えるでしょう。
3.特許ライセンス
次に、特許ライセンスの契約書にどのような事項が記載されるのか、その全体像を見ていきましょう。
3.1特許ライセンスの全体像
契約書作成の資料としては、平成10年6月29日特許庁が発表した「I.特許xx実施契約ガイドライン(国単独所有特許xxについて実施許諾する場合)」が参考になります。
特許権実施契約書
(前文)
○○社と△△社は、以下に定める発明に関して、本日、次の条項によって実施契約(以下、
「本契約」)を締結する。
第1条(実施権の許諾)
○○社(ライセンサー)は△△社(ライセンシー)に対し、次の発明(以下「本発明」)について通常実施権(専用実施権)を許諾する。
特許番号 :3〇〇〇〇〇番
発明の名称 :〇〇〇〇の〇〇装置
第2条(実施権の範囲)
第1条の実施権の範囲は、次の通りとする。地域:日本国内
期間:2004年2月16日より2010年〇月〇日まで
内容:製造、販売、使用
第3条(権利の登録)
△△社は、自己の費用をもって実施権の設定を登録することができる。
第4条(実施料)
△△社は、〇〇社に対して本契約の契約期間中に次の基準で算出した金額を実施料として支払わなければならない。
実施料:一時金〇円及び製品売上金額の〇%
第5条(報告の義務)
△△社は、所定の期間ごとに〇〇社が指定する事項に関する報告書を作成し、期間経過後
〇日以内に〇〇社に報告しなければならない。
第6条(実施権の移転等の取扱)
△△社は、合弁または本発明の実施に係る事業の移転などにより、本発明の実施権の移転をもたらす行為をしようとするときは、事前に書面による〇〇社の同意を得なければならない。
第7条(特許表示)
△△社は、本発明の実施に係る製品、その包装、そのカタログ等に特許表示を付するよう努めなければならない。
第8条(権利侵害への対応)
1.△△社は、本発明に係る特許権に関し、第三者の侵害を発見したときは、直➀に〇〇社に通知し、〇〇社及び△△社はともに協力して侵害排除の手段を講じる。
2.侵害排除の手段については、〇〇社及び△△社が協議して定める。
第9条(秘密保持)
△△社は、本契約の契約期間中及び契約終了後○年間、〇〇社から秘密保持を条件に提供された一切の技術情報を秘密として扱い、事前の書面による〇〇社の同意なしに第三者にこれを開示してはならない。ただし、以下の情報は除く。
①当該技術情報について、すでに公知であったもの
②△△社が第三者から秘密保持義務を負うことなく正当に入手したもの
③△△社が〇〇社から技術情報を提供された時点ですでに保有していたこと、又は△△社が独自に開発したことが書面にて立証できるもの
第10条(契約の解除等)
〇〇社は、次の場合に解約の申入れをすることができる。
① △△社が第4条に定める実施料を支払わないとき
② ・・・・・・・・・・・・・・
第11条(関連発明の取扱)
△△社に属する従業員及び〇〇社に属する職員が本発明に関連して共同して発明を行った場合における当該発明に係る特許権(特許を受ける権利を含む)の帰属については、△△社及び〇〇社が協議して決定するものとする。
第12条(裁判管轄)
本契約に関する訴えは、東京地方裁判所を第xxの専属的管轄裁判所とする。
○○株式会社 代表 ××太郎 印
△△株式会社 代表 ××xx 印
特許ライセンスの全体像を理解していただけたでしょうか? では、最初に独占禁止
法について説明し、その後、各条項を説明していきましょう。
3.2独占禁止法との関係※12
特許ライセンスの各条項の説明をする前に、少し独占禁止法について説明しておきましょう。その理由は、特許ライセンス契約を作成する際、特許権者は独占禁止法に違反しないように注意すべきだからです。
特許法では特許権者の独占的な発明の実施を認めています。そして、独占禁止法でも、特許xxの権利行使については、独占禁止法の例外として規定されています(独占禁止法第21条)。しかし、特許ライセンスにおいて、特許権者であることの優位性を活用し、あまりに乱暴な条項(特許権者に有利な条項)を定めた場合、それは独占禁止法に定める「不xxな取引方法」(独占禁止法第2条9項)に該当すると判断されてしまうかもしれないのです。
「不xxな取引」と判断されると、xx取引委員会による勧告(同法第7条等)、更に課徴金
(同法第7条2項等)の対象となってしまいます。更に、その被害者は、その差止を請求し(同法第24条)、更に損害賠償請求(同法第25条)も可能なのです。
※12 独占禁止法
第21条 特許xxの例外
この法律の規定は、著作xx、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。
第24条 差止請求
第八条第一項第五号又は第十九条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
第25条 損害賠償請求
1 第三条、第六条又は第十九条の規定に違反する行為をした事業者(省略)及び第八条第一項の規定に違反する行為をした事業者団体は、被害者に対し、損害賠償の責めに任ずる。
2 事業者及び事業者団体は、故意又は過失がなかつたことを証明して、前項に規定する責任を免れることができない。
独占禁止法との関係は、必要に応じて説明していきますが、それだけでは不十分で
すので、xx取引委員会からのガイドラインを紹介します。
-ガイドライン・xx競争規約-HP(xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxxxxxxx/xxxxx.xxx)
平成11年の欄に、「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針の公表について」があります。実務家の方、特に、通常、ライセンシーである方は必読です。今後、特許権者側から無理な要求をされた場合、このガイドラインを盾に反論できるからです。
また、直接争えないのであれば、契約時には黙っておいて、いざというときに、反撃しましょう。そのためにも、自分に有利なガイドラインを見つけて準備しておくことが大切なのです。
➀ょっと一息、契約に関する小ネタ -その3- xxの味方?xx取引委員会の巻
今回は、xx取引委員会のWEBサイトで見つけた興味あるページを紹介します(xx取引委員会のアドレス xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/)。
そのサイトは、これまでにxx取引委員会が勧告・警告・課徴金を課したケースを年度別にリストアップしたものです
(xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxxxxxxx/xxxxxxx.xxx)。
リストの中に、米国で独占禁止法違反で訴えられた巨大ソフトウェアメーカがあることは不思議でないとしても、本当にいろんな企業が連なっています。量販紳士服メーカやコンビニチェーン、農業組合も対象になっているようです。
ここで、私が感じたのは、市場において競争は重要ですが、競争に勝つだけで大きな利益を得ることは困難、市場を独占するために企業はいろんな努力をしているということです。そして、その独占への働きが行きすぎたときにxx取引委員会に勧告されてしまうのだろうということです。
特許のライセンス契約においてもあまりに乱暴なものは認められませんが、特許権行使による市場の独占は、特許法と独占禁止法の双方で認められているので
す。xx取引委員会のガイドラインに従う限り、勧告されることも無いのです。企業の方々にとって、これを利用しない手はないでしょう。
xx取引委員会のWEBサイトは、市場の独占を望む企業にとって特許権が如何に有益かを私に再確認させてくれたのでした。
3.3各条項の説明
それでは、これから上記ライセンス契約における各条項について説明してきたいと思います。
(1)実施権の許諾
第1条(実施権の許諾)
○○社(ライセンサー)は△△社(ライセンシー)に対し、次の発明(以下「本発明」)について通常実施権(専用実施権)を許諾する。
特許番号 :3〇〇〇〇〇番
発明の名称 :〇〇〇〇の〇〇装置
この条項は、契約の対象となる特許権を特定すると共に、その実施権の性格を定め
たものです。ここで、専用実施権を設定する際に注意すべき点を説明します。専用実施権を設定すると(登録すると)、それ以降は契約した範囲内で、特許権者は他人に実施許諾することとはできません。しかし、専用実施権の契約をする前はどうなのでしょう、他人とのライセンスはありえないのでしょうか?
実際のところ、専用実施権を設定するということは、それ以降、他人に実施許諾できないということで、設定前に他人に通常実施権を設定しているか否かは問題にならないのです(通常実施権を設定している範囲に、後日、専用実施権を設定することは可能なのです)。通常の交渉であれば、特許権者はその旨を説明するでしょうが、すべての特許権者にそれを期待することはできません。専用実施権を設定する場合は、設定範囲内に他人の実施権が設定されていないのか、特許原簿などを取り寄せて確認する必要があります。また、次の条項を設けることも望ましいといえるでしょう。
第1条
2.〇〇社は、本契約の設定範囲について、本契約以前に第三者にライセンス契約していない旨を約束する。
専用実施権を設定することは、その範囲内での実施を独占することに価値があるの
ですから、既に第三者が実施権を有していたのではその価値が半減してしまいます。十分に気をつけましょう。
(2)実施権の範囲
第2条 実施権の範囲
第1条の実施権の範囲は、次の通りとする。地域:日本国内
期間:2004年2月16日より2010年〇月〇日まで内容:製造、販売、使用
この条項では、実施権の範囲を定めています。この制限は、基本的に両者が話し合って自由に定めることができます。例えば、ガソリンエンジンに関する特許において、自動車用エンジンに用いてもよいが、オートバイには認めないといった内容もOKです。そして、それらを考慮してライセンス料を定めればよいのです。同じように地域を限定して契約することも可能であす。具体的には北海道は A 社、本州は B 社、九州は C 社として一つの特許権を複数の会社にライセンスすることも可能なのです。
さらに、実施の内容として、A 社は製造を担当し、B 社は販売を担当するといったよう
に、境界を設けることで複数社にライセンスすることも可能です。
.........
ここで、問題となるのは、「内容」においてライセンス製品の輸出を制限する場合で
す。前述の「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針(以下、ライセンス契約指針)」の第4-5(1)では、ライセンサーがライセンシーに対して輸出の制限をする場合についてのガイドラインを定めています。すべての輸出制限が不xxな取引と判断されるわけではありません。しかし、特許権を有していない国や経常的に特許製品の販売を行っていないような国に対しても輸出制限をするようだと、不xxな取引と判断される可能性があるのです。よって、輸出の制限条項を設ける場合には、不xxなライセンスとならないように注意が必要です。
(3)権利の登録
第3条(権利の登録)
1.△△社は、自己の費用をもって実施権の設定を登録することができる。
2.前項の手続は△△社が単独で行うことができる。
上記2-1で説明したように、権利の発生に登録が不要な通常実施権であっても、その権利を安定したものにするために特許庁に登録することが望ましいといえます。そして、実施権の登録は、通常、特許権者(登録義務者)と実施権者(登録権利者)の双方で手続をするのですが、この規定は、実施権者が単独で登録できることを定めたものです※13。この規定を設けることにより、ライセンシー(△△社)は単独で実施権の登録が可能となります。実務上有益な条項ですので、今回紹介します。
※13 特許登録令
第19条 登録は、申請書に登録義務者の承諾書を添付したときは、登録権利者だけで申請することができる。
(4)実施料と報告義務
第4条(実施料)
△△社は、〇〇社に対して本契約の契約期間中に次の基準で算出した金額を実施料として支払わなければならない。
実施料:一時金1億円及び製品売上金額の5%
第5条(報告の義務)
△△社は、所定の期間ごとに〇〇社が指定する事項(実施料)に関する報告書を作成し、期間経過後〇日以内に〇〇社に報告しなければならない。
ライセンス契約を結ぶまでの道のりで、実施料率を定めることは大変重要な課題で
す。ライセンス料の算定方法としては、一般的に、契約時に支払う一時金と、売上げに応じて支払われるランニング・ロイヤルティのいずれか一方、もしくは、その組み合わせで実施料が定められます。大切なことは両方が合意できる金額とすることなのです。
ランニング・ロイヤルティだけにすると、特許権者としては得られるライセンス料が不安定になってしまいます。まったくライセンス商品が売れない場合やライセンシーが実施しなかった場合など、ライセンス料がもらえないことになってしまいます。一方、実施権者にとっては製品が売れるか分からない段階で多大な一時金を支払うことは大きなリスクを背負うことになってしまいこれも望ましくありません。そこで、その両方の意見を考慮し、組み合わせた方法でライセンス料が算出されることが多いのです。また、ランニング・ロイヤルティだけの方法であっても、最低の実施料を約束したミニマム・ロイヤルティ(ライセンス料の最低額)といった方法もあります。ここでは、一時金として一億円、及び、ランニング・ロイヤルティとして製品売上金額の5%と定めたものです。
なお、実施料自体の算定としては、利益のを1/4とする利益4分法や1/3とする3分法のほか、業界の慣習を考慮して定める場合もあります※14。
※14 算出方法については、「知的財産の価値評価」(P126 xxxxx著 東洋経済)において、考慮されるべき指標などを詳しく説明しています。また、特許庁の「特許評価指標」
(xxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxxx/xxxxxx/xxxxxxxx.xxx)では、発明の価値を判断するための様々な項目を提案しています。
第5条は、実施料が妥当かどうかを判断するための報告書について定めたものです。ここで注意すべきは、実施料に疑義が生じた場合にそれを確かめる術を明記すべき点です。報告書に疑義が生じた場合、ライセンサーである〇〇社はライセンシーである△△社の帳簿を確認したいと思うでしょう。一方、△△社にとって、ライセンス契約をしたとしても自分の顧客
や卸値などまで〇〇社に対して開示したくはないでしょう。そこで、この問題を解決する手段を明記しておくことが望ましいといえるのです。一般的には、中立的な立場の人(公認会計士など)に監査をお願いする方法が通常用いられているようです。その際は、次のような条項を設けます。
第5条
2.前項の報告書に疑義が生じた場合、〇〇社が指名し、かつ、△△社の承認を得た公認会計士は、報告書に関連する帳簿・記録を閲覧・検査できるものとする。公認会計士が閲覧した結果算出した金額と、△△社が提示した金額とに10%以上の差が存在した場合、△△社はこの検査費用を負担することとする。
このような帳簿検査の条項を設けることで、不正に実施料を低額にすることへの抑
止力が働き、より信頼のある報告書が作成・提示されることが期待できるのです。
4.今日の復習テスト
では、最後に本日の復習テストを行いましょう。次の問題は、専用実施権と通常実施権の性質に関するものです。問題ごとに○か×を考えてください。
① 専用実施権も通常実施権も特許庁に登録しなければその権利としての効力は発生しない。
② ライセンス契約の範囲内で、第三者が無断で特許製品を実施していた場合、専用実施権者は差止請求、及び、損害賠償請求を自分ですることができる。
③ 特許権者は、通常実施権を設定した範囲と同じ範囲に、第三者の通常実施権を重ねて設定することができる。
解答と解説
① ×
特許法第98条2項の規定により、専用実施権は登録しなければ効力が発生しませんが、通常実施権は登録不要です。
② 〇
特許法第77条2項の規定より、この第三者は専用実施権を侵害していますので、専用実施権者は専用実施権侵害※15として裁判所に独自に訴えることができるのです。
※15 特許法第100条
特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれのある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
③ 〇
これを禁止する規定はありません。先に契約した通常実施権者と特許権者との契約で、第三者に契約しない旨の約束があった場合、先の通常実施権者は、契約不履行として特許権者を訴えることが可能です。しかし、後の通常実施権の契約自体は有効で、これを無効とすることはできません。
今週のおまけ、契約に関する小ネタ -その4- 電子商取引の巻
インターネットでいろんな買い物ができますが、その申し込みの際、必ず「お申し込み内容は~の通りです。」と表示されて、「内容に間違いない」とのスイッチをクリックすることで申し込みが完了します。この内容確認のページは、ほとんどすべての買い物サイトで採用されている申し込み手順と思います。 皆さんどうして、この手順がこんなに普及したかわかりますか?
答えは、2001年6月に「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」が制定されたことによるのです。
買い物サイトが新しく始まったころ、購入者が商品の品番や数量を誤って送信してしまう事故が頻発しました※21。政府はこの問題を解決するために(基本的に消費者を保護するために)、この「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」(以下、「電子商取引の特例法」)を制定し、電子商取引のルールを定めたのです。
この「電子商取引の特例法」で注目すべきはその第3条。そこでは、次のように定めています。
電子商取引の特例法 第三条
民法第九十xxxxx書の規定は※22、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しない。ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
二 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。
※21
インターネットでの注文を間違えた場合、このような契約には錯誤があるので、民法95条の規定により、無効とできるかも知れません。 しかしながら、実際は、但し書きにある重大な錯誤があったとして、契約の無効は認められず、誤って申し込んだ消費者がそのまま購入させられたケースが殆どだったのではないでしょうか。
※22
民法95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤ありたるときは無効とす。 ただし、表意者(意思表示をした人)に重大なる錯誤ありたるときは、表意者自らその無効を 張することを得ず。 | 主 | |
この規定により、購入者は法律行為の要素に錯誤があったことを理由に契約の無効を主張するでしょう。一方、ネット上の事業者にとってみれば品番や数量の間違いは表意者の重大な錯誤と主張するに違いありません。ど➀らの言い分が正しいかは難しい問題です。そこで、政府は上記規定を定めたのです。 第3条の本文は、電子消費者契約の要素に錯誤があった場合に、95条ただし書の規定を適応しないと定め、錯誤があった場合、その契約(申し込みは)無効であると定めました。しかし、これでは、移り気な消費者によって頻繁に申し込みが取り消されかねず、事業者が安心して申し込みを受け付けることができなくなってしまいます。そこで、政府は、電子表取引における取り消しの例外として、意思の有無について確認を求める措置を講じた場合には、例え、錯誤があったとしてもその申し込みは取り消されないことも併せて定めたのです。 始めに説明した内容確認のページは、この規定に基づいて実施されているものなのです。よって、内容確認の画面が表示された後で申し込みをした場合、その内容に間違いがあったとしても、申し込みの取り消しを求めることはできないのです。これは、事業者側の自衛策といえるでしょう。 でも、最近、あの内容確認画面も、慣れてしまって内容を確認せずに「同意する」といったボタンをクリックしていませんか? もし、誤った申し込みをしてしまった場合、どのような対策が有効なのでしょうか? 考えられる手段は次の2つ。 ① 「内容確認のページは表示されなかった。だから、3条本文に従ってこの申し込みは無効だ!」と主張する(民法第95条本文)。 ウソをつくことは許されませんが、もし表示されなかったことを証明できれば、解約は可能ではないでしょうか。 ② 事業者にすぐに電話をして、とにかく謝り、事業者の好意によって取り消してもらう。実際、こっ➀の方が有効に働くように思いますが、いかがでしょう? ①の主張に対して事業者及び裁判所はどのような対応をするのでしょうか。 私には興味あるところ。これは各自の課題とします。 もし皆さんが電子商取引でトラブルに巻き込まれたなら、消費者を救ってくれる法律の一つはこの「電子商取引の特例法」。私の講義は忘れても、このことは忘れないように! |
第 5 回、以上
第6回「特許ライセンス(その2)」
1.はじめに
今週は、先週説明した特許ライセンスの後半です。前回説明できなかった、改良発明の取扱や裁判管轄などについて説明していきます。
2.特許ライセンス
(1)実施権の移転等の取扱
第6条(実施権の移転等の取扱)
△△社(ライセンシー)は、合弁または本発明の実施に係る事業の移転などにより、本発明の実施権の移転をもたらす行為をしようとするときは、事前に書面による〇〇社(ライセンサー)の同意を得なければならない。
この規定は、ライセンサー(特許権者)からライセンシー(実施者)に対しする要求であって、実質的に実施権の移転となるような行為をする際の届出義務、また、そのような行為にライセンサーの同意が必要であることを明確にしたものです。
特許法77条第2項では、専用実施権は実施の事業とともにする場合、移転できる旨が定められています。また、特許法94条第1項も同様に、通常実施権は実施の事業と共にする場合、移転することができる旨を定めています。従って、吸収・合併のように実施の事業が移転する場合には、原則として特許権者の承諾なくとも実施権が移転するのです。しかし、小さな会社だと思ってライセンスしたにも関わらず、その会社が大会社やライバル会社に吸収されてしまうようなケースが考えられます。その際に、ライセンスも一緒に移転してしまっては事業上望ましくないでしょう。そこで、そのような不意の移転を防止するために、この条項が設けられるのです。この条項により、ライセンサーである〇〇社の同意がなければ実施権の移転は認められないことにできるのです※1。また、自分が意図しない実施権の移転は極力禁止したいと考えるライセンサーによっては、ライセンシーに対して会社が合併する場合には事前の報告義務を課し、報告せずに合併した場合には契約終了するといった条項を設けるのです。
※1 実際、この条項で、すべての場合に実施権の移転を制限できるとはいえないのですが、基本的に有効に働くと考えてください。
その一方で、実施権の移転にあまりに厳しい条件をライセンシーに課すのは独占禁止法における不xxな取引に該当するおそれがあります。特に、契約の一方的な解約条件には注意が必要です。具体例として、移転の制限についての実例を紹介しましょう。本事件は、パチンコとパチスロに関する10の企業からなる連盟が不当なパテントプール(特許権の束)を形成していたとして、xx取引委員会が勧告を行ったものです(平成9年(勧)第5号)。当時、パチンコ業界に参入する新規企業は、この連盟のパテント・プールに加入しなければ、事実上、パチンコ機を製造・販売することは困難な状態でした。そして、ある新規の大手企業が連盟の一企業を買収したところ、その一企業は、承諾のない事業の変更があったとして、パテント・プールから除外されてしまったのです(契約破棄)。
xx取引委員会からの勧告の主文において、この連盟はパテント・プールを使ってパチンコ機の価格調整を行っていたと認定され、「パテント・プールに参加するための契約書において、企業の構成及び営業状態を変更した場合は、ライセンサーに届け出て、その移転の承諾を得なければならない」といった条項を削除するように命じられたのです。一方的な解約条件については「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」に説明がありますので、解約条件を設ける場合に注意すべきといえるでしょう(同上指針、第4-3-
(7))。
※ 特許法77条第3項
専用実施権は、事業の実施とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
※ 特許xx94条第1項
通常実施権は、・・・、事業の実施とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
上記「・・・」には特定の種類の通常実施権が該当します。どうしてこれらの通常実施権が除外されているのか分かりますか? 理由は実施権の発生の理由によるものです。一度、考えてみてください。
(2)特許表示
第7条(特許表示)
△△社は、本発明の実施に係る製品、その包装、そのカタログ等に特許表示を付するよう努めなければならない。
この規定は特許法187条の規定により、ライセンシーに対して特許表示する努力義
務を課したものです。基本的にこの条項に問題はないといえるのですが、製造物責任法(PL法)が施行されたときから、ライセンシーに特許表示を義務付けるのは、購入者に対しての製品保証になるのではないかといわれています。この点を留意し、上記条項の後、「・・・但し、
〇〇社は、△△社の製品について、製造上の瑕疵により生じたいかなる責任を負わないものとする」といった規定を設ける場合があります。
この条項に関して重要な点は、第三者に対して特許ライセンスするということは、ライセンシーの製品についてPL法上の責任がライセンサーに生じかねないことを意識すべきという点です。ライセンスする製品の性格によって、PL法上の責任が大きく問われるおそれがある場合※2、ライセンサーにとって、ライセンスは製品の品質まで保証するものではない旨を契約xxxすることが望ましい場合もあるのです。
※2 例えば、医薬品、医療機器、幼児用の玩具など
※ 特許法187条
特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、経済産業省令で定めるところにより、物の特許発明におけるその物もしくは物を生産する方法の特許発明におけるその方法により生産したもの又はその物の包装にその物又は方法の発明が特許に係る旨の表示(特許表示)を附するように努めなければならない。
(3)秘密保持
第9条(秘密保持)
△△社は、本契約の契約期間中及び契約終了後○年間、〇〇社から秘密保持を条件に提供された一切の技術情報を秘密として扱い、事前の書面による〇〇社の同意なしに第三者にこれを開示してはならない。ただし、以下の情報は除く。
①当該技術情報について、すでに公知であったもの
②△△社が第三者から秘密保持義務を負うことなく正当に入手したもの
③△△社が〇〇社から技術情報を提供された時点ですでに保有していたこと、又は△△社が独自に開発したことが書面にて立証できるもの
<独自開発技術の取扱>
特許ライセンスの際、ライセンサーからライセンシーに対して、発明実施のための技
術情報(ノウハウ)が開示される場合があります。このような情報は特許でないとしても、ライセンサーにとってはライセンシー以外には開示したくないものです。この条項は、ライセンシーに対して与えた技術情報を第三者に開示しない義務を課すために設けられるのです。この条項③は、提供された技術の中で、技術情報の提供時にライセンシーが独自に開発したものであって、書面に立証できるものは除かれる旨を定めています。この規定は“書面にて”と規定していて、立証の客観性も担保しているので望ましいものといえます。通常の契約であれば、この規定で問題なしと言えるでしょう。
しかしながら、提供する技術情報について、より厳格に管理したいのであれば、この規定ではまだ不十分なのです。というのも、契約後、数年経ってから、実は提供された技術を提供時に保有していたと書類を提示された場合、ライセンサーにとっては信じられないからです。多くの場合は、自分の技術が盗まれたと感じるでしょう。では、技術提供前にライセンシーが関連する技術をライセンサーに提示するのはどうでしょうか? 提示されるライセンサーにとっては望ましいでしょうが、ライセンシーにとっては、これからどんな技術が開示されるかわからないときに、自分た➀の技術をライセンサーに開示したいとは思わないでしょう。以上の点で、技術提供時にどんな技術をライセンシーが所有していたのかをライセンサーに開示せずに特定する必要が生じるのです。
その一つの方法は、ライセンシーの技術資料を箱の中に封印し、その箱をライセンサーが預かる方法です。そして、ライセンスの終了後、その箱はライセンシーに返却されるのです。もし、提供技術の漏洩の問題が生じ、その技術がライセンシーの独自のものか否かが争点となったとき、その封印を解いて独自開発の有無を判断するのです。
この方法では、多くの場合、封印を解くことなく箱は返却されるので、ライセンシーの技術がライセンサーに開示されない利点があります。更に、ライセンシーは関連する資料をとりあえず箱につめてしまえばいいので、資料作成の負担が小さいといった利点もあるのです。問題点は、ライセンサーが箱を安全に保管しておく義務が生ずる点でしょう。
秘密保持の条項で、このような技術情報を梱包する内容を定めることはあまり多くありません。しかしながら、大変重要な技術内容であり、どうしても秘密漏洩を防ぐ必要がある場合(もし相手が漏洩したとすれば徹底的に戦うつもりのとき)、最初の契約でお互いの間に信頼関係が今だ築かれていない場合などに、有効に働く方法なのです。
<秘密保持期間>
秘密保持条項において、秘密保持義務が課せられる期間が定まっていないものや、
10年といった非常に長期間のものを見ることがあります。しかしながら、技術開発が加速している現代において、10年もの長期にわたって秘密保持を課せられるのは、望ましいことではないでしょう。秘密保持義務を課せられる期間は技術分野によって異なりますが、電子機器、 PCなどの分野であれば契約終了後2年から3年ぐらいが妥当といわれています。
(4) 契約の解除等
第10条(契約の解除等)
〇〇社は、次の場合に解約の申入れをすることができる。
① △△社が第4条に定める実施料を支払わないとき
② △△社が直接間接を問わず、本発明に係る特許権の有効性について争ったとき
ここでは、「(1)実施権の移転等の取扱」で説明したように、あまりにライセンサーに
有利な解除条項では、独占禁止法の「不xxな取引」と判断されるおそれがあるので注意が必要です。ライセンシーに対して特許の有効性について争わない義務を課すこと(いわゆる不争条項)は不xxな取引として独占禁止法上認められません。例えば、「△△社は、直接
間接を問わず、本発明に係る特許権の有効性について争わないものとする。もし、これに違反したときは、違約金として○○○万円支払う」など。しかし、上記②のように、ライセンシーがライセンスを受けている特許権の無効審判を請求したように、契約に係る特許権の有効性について争った場合に契約を解除すると規定することは認められるのです。これはライセンサーにとってライセンシーのxx性を求める規定として利用できるものです。
(5)改良発明の取扱
第11条(改良発明の取扱)
△△社に属する従業員及び〇〇社に属する職員が本発明に関連して発明を行った場合における当該発明に係る特許権(特許を受ける権利を含む)の帰属については、△△社及び〇〇社が協議して決定するものとする。
この条項は、ライセンシーがライセンスされた発明(技術)に基づいて次の発明(改
良発明)を完成させた場合に、その改良発明の取扱を定めたものです。一般に、ライセンサーは、この条項に定めるように、ライセンスした技術に基づいて開発された発明は、自分た➀の貢献の成果であると考え、その持分の一部譲渡や無償ライセンスを約束させることが多くあるのです。
この規定の問題点を述べるならば、改良発明の帰属を“協議して決定する”としている点です。これまでにも説明してきたように、帰属を協議するのは当たり前です。この条項では、協議で決着できなかった場合にどうなるのかを明記しておくべきといえます。そこで、次のように定めるのが望ましいといえるでしょう。
第11条の2
△△社が〇〇社の提供した技術に基づいて改良発明をなした場合、その改良発明は
△△社と〇〇社の共有とし、その持分は特に定めがない限り平等とする。
このように定めておけば、協議により解決できなかった場合に持分が平等であることが明
確になります。また、この規定により、平等を望まない側の譲歩が促され、円滑に解決できることが期待できるのです。
次に、第11条“本発明に関連して発明を行った場合における当該発明”の“当該発明”が問題です。というのも、当該発明の範囲が非常に不明確だからです。ライセンサーにすれば、ライセンスした技術と同じ技術分野であれば、何でも当該発明として改良発明として取り扱うことを希望するでしょう。一方、ライセンシーにすればライセンス料を支払っている上に、なんでも関連発明であるとして取り上げられたのでは納得できないでしょう。ライセンシーにとっては、改良発明の範囲は狭く解釈されることを望むのです。
改良発明の範囲を定めることは、技術を書面で特定することなので大変難しい作業です。この点は特許訴訟において【特許請求の範囲】に基づいて権利範囲を定めることが困難であることからも理解してもらえるでしょう。では、どのようにすべきなのでしょう。いくつかの具体的な対策を以下紹介します。
<対策1>
対策1は、「改良発明とは、ライセンスされた技術の構成要素の全部を主要部としライセンス技術と同一目的を達成するもの」との定義を契約書に設ける方法です※3。ここで、構成要素は特許請求の範囲の記載から特定できるものです。
この方法では、ライセンスした発明の構成要素を特許明細書から特定し、各構成要
素の全部を主要部として用いているか否かによって判断基準を明確にしているものです。問題点としては、“主要部か否か”の判断が少し主観的になってしまう点でしょうか?この点は発明の効果を考慮して、同じ効果が発揮されるのか否かによって判断されることと思います。
※3 「技術者のためのライセンスと共同研究の留意点」P35、xxxxx
<対策2>
対策2は、「改良発明とは、本契約によって許諾された製品のいかなる変形をも意味し、もし同変形が許諾されなければ本契約に係る特許の1又は2以上の特許請求の範囲を侵害するものをいう。」と定義するものです※4。
この方法は、対策1における“発明の構成要素を含むのか否か”、また、“同一目的を達成するのか否か”の判断を「許諾がなければ侵害するのか否か」という点で処理しているものです。侵害するか否かであれば、これまでの特許侵害事件の判決が判断資料として利用できることとなり、その基準はより明確になるものと期待されます。
※4 「戦略的特許ライセンス」P138、xxxxx
対策1、対策2がベストとは思いませんが、改良発明の取扱において、その範囲を明確にする工夫をしている点で望ましいものといえるでしょう。なお、実務においては、それぞれの技術に応じて適切な定義があると思います。改良発明の範囲をどの程度にするのかは、まさに交渉によって大きく変化する点です。契約担当者にとって腕の見せ所といえるでしょう。ライセンス契約の際に、対象技術の特徴を考え、お互いの納得できる範囲になるように工夫 をしてみてください。
<独占禁止法との関係>
これまでに説明したように、特許ライセンスにおいて、ライセンサーがその有利な立場を利用してライセンシーに対して無理な要求を課すことがあります。その一つがこの改良発明の取扱です。その内容としては、ライセンシーが改良発明をなした場合に、ライセンサーに無償で譲渡することを義務づけるものや、無償でライセンサーに独占的ライセンスを許諾する義務を課したりするものです。このような条項については不xxな取引方法に該当し、違法となるおそれは高いものと考えらます※5。ですので、そのような条項は用いるべきではありません。
ライセンサーは、改良発明についてライセンシーに制限を課すのであれば、
・有償で譲渡する、
・有償の独占的ライセンスとする、
・無償の非独占的ライセンスとする、
以上の程度にすべきです。このような条項であれば、独占禁止法に違反するおそれは基本的にないといえるのです。
※5 「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法の指針」平成11年7月、xx取引委員会事務総局、第4-3-(5)
「➀ょっと一息、契約に関する小ネタ -その5- 海外と契約するときの注意点」
先週、日本の専用実施権は日本独自の権利なので英訳する場合に注意が必要であることを説明しました。海外の企業と契約する際には、それ以外に注意すべき点がまだあります。そこで、お勧めの書籍を2冊紹介します。
(1)戦略的特許ライセンス xxxxx 経済産業調査会
この書籍は、英文契約書の条項を一つ一つ丁寧に解説、注意点を説明してくれています。改良発明の取扱や帳簿検査について英文と日本訳がありますので、英語の勉強にもなります。
(2)特許・ライセンスの日米比較 xxxx著 公文堂
こ➀らは前著より、少し体系的に説明。第2章で特許と独占禁止法との関係が説明されているので勉強になることと思います。
その他、外為法にも技術移転に関する取り決めがありましたので、豆知識としてご紹介します。外為法30条1項では、外為法の適用を受ける技術導入契約を締結しようとするときは、予め、所定事項を主務大臣に届け出なければならない旨を定めています。そして、外為法70条25号には、これを怠ると処罰の対象となる旨を定めているのです。
今回は、工業所有権の契約に関連する規定を外為法も有している点を憶えてください。そして、実務で必要になった際、改めて条文と規則を確認してください。
(6)裁判管轄
第12条(裁判管轄)
本契約に関する訴えは、東京地方裁判所を第xxの専属的管轄裁判所とする。
この条項は、契約の内容で争いが生じたとき、どこで裁判をするかを事前に決めて
おくためのものです。というのも、一般に、どの裁判所に訴えるのかは、訴えられる側(被告)の所在地を管轄する裁判所となります(民事訴訟法第4条)、更に、お金に関する争い(財産上の訴え)の場合は約束が実施されるべき所を管轄する裁判所なのです(民事訴訟法第5条)。例えば、東京と青森の会社が契約したとして、青森の会社が約束を守らなかった場合、東京の会社は青森の裁判所に訴える必要があります。これは、東京の会社にとってあまりに不都合でしょう。
国内企業同士の契約の場合、一般に、この裁判管轄は、契約を交わす両者のう➀、力の強い側を管轄する裁判所が選ばれるのです。12条のように東京の会社にとって都合の良い裁判所を事前に特定しておくことで、裁判が生じた際に、わざわざ相手方の裁判所まで出向く必要がなくなるのです。
外国の企業との契約においても同様で、ど➀らの国の法律が適用されるのか、また、その管轄はど➀らの国になるのか、重要な争点となります。通常は、国内の契約と同様に自国を管轄とするのが望ましいといえるでしょう。
しかし、裁判の管轄については、被告の財産のある国を管轄にすべきとの意見があります。折角、勝訴判決を得たとしても財産がなければ執行できないから、または権利行使が容易でないからというのが理由です。外国の企業と契約する場合、疑問を持たずにいつも自国を管轄にすべきとするのではなく、被告の財産のある国を管轄としたほうが良い場合もあることを記憶にとどめてください※6。
※6 「戦略的特許ライセンス」P177、xxxxx
「ビジネス契約書の起案・検討のしかた」P82、x xxx
重要な契約になるほど、この裁判管轄の問題は深刻になります。自分に有利な管轄を相手が認めてくれればよいのですが、そう簡単に相手も納得してくれないでしょう。一方、
裁判管轄の話し合いで何ヶ月も費やすのは本当に無駄と思います。では、どのような対策があるのでしょうか?
一つ目は、原則に立➀戻り、被告側の裁判所を管轄とするものです。この利点は、相手側の裁判所で裁判をすることは大変な労力が必要ですので、訴訟への抑止力が働く点です。 二つ目として、(実際に活用されているとはいえないものですが)お互いの中間地を管轄にすると聞いたことがあります。例えば東京と札幌の会社であれば仙台を管轄にしたり、また、福岡と広島の会社であれば大阪を管轄としたりするものです。これであれば、一方が有利になるわけではないので、合意が容易になるのかもしれません。
裁判管轄の問題は、実務上大変重要ですので、会社にある契約書がどのようになっているのか一度確認してみてください。また、管轄について同意に至らない場合には、上記したように何らかの対策が必要となるのです。
<仲裁制度>
なお、近年、契約に関する紛争を裁判ではなく、仲裁によって解決する旨を定めることがあります。「仲裁」とは、生じた紛争を裁判ではなく両者によって選ばれた第三者の判断に委ねることを言います。第三者の判断といっても、一旦判断が出されるとその内容には従わなくてはならず(判決のように控訴できない)、裁判より厳しい面があります。しかし、費用が安い、判断が早い、裁判のように公開して行われるわけではないので、紛争内容の秘密を守れるなどの利点があり、現在、多くの紛争解決手段として活用されているものです。
仲裁規定としては、ICC(International Chamber of Commerce)の規則、日米仲裁条約、WIPO(World Intellectual Property Organization)の規則などがあります。
WIPOの仲裁センタ(WIPO Arbitration and Mediation Center)をご紹介します
(xxxx://xxxxxxx.xxxx.xxx/xxxxxx/xxxx-xxx.xxxx)。このページでは、仲裁の規則
(xxxx://xxxxxxx.xxxx.xxx/xxxxxxxxxxx/xxxxx/xxxxx.xxxx、
xxxx://xxxxxxx.xxxx.xxx/xxxxxxxxx/xxxxx/xxxxx.xxxx )や手通の流れ
(xxxx://xxxxxxx.xxxx.xxx/xxxxxx/xxxx-xxx.xxxx)などが説明されています。
(7)損害賠償額の予定※7
第13条(損害賠償額の予定)
△△社が第〇条の規定に違反してライセンス製品を輸出した場合には、輸出したライセンス製品一台につき金200,000円の割合による損害金を〇〇社に支払う。
契約内容が正しく実施されなかった場合、被害を受けた一方は他方に対して債務不履行に基づく損害賠償を請求することができます(民法415条)。その際、請求側の大きな負担となるのは、損害額の立証です。そこで、この条項のように、損害額の算出を嫌うライセンサーは、予め損害額を定め、その額をもって損害額と請求することができるのです(民法420条)。
なお、一旦、賠償額の予定を行ってしまうと、その額よりも大きな額を請求できなくなってしまいます。一方、特許権者の有利な立場を利用して不当に高い賠償額を設定させたのでは、公序良俗違反として無効にさせられてしまうかも知れません。そこで、損害賠償額を定める場合には妥当な額となるよう注意が必要です。
※7 「特許実施契約の基礎知識」P28、xxxxx
※ 民法415条
債務者が、その債務の本旨に従いたる履行をなさざるときは、債権者はその損害の賠償を請求することを得。・・・
※ 民法420条
当事者は、債務の不履行につき、損害賠償の額を予定することを得。この場合においては、裁判所は、その額を増減することを得ず。
(8)当事者
xxx中央区銀座1丁目 ○○株式会社代表 ××太郎 印
大阪府北区xx1丁目 △△株式会社代表 ××xx 印
<相手の特定>
最後に、当事者の記載について説明しておきましょう。
契約書のチェックにおいて、絶対に確認すべきことは、契約の相手を特定しておくことです。記載されている会社の住所、その名称などは謄本を取り寄せて確認してもよいぐらい重要な問題です。なぜなら、契約書に記載されている相手こそ、何か問題が生じたときに被告として訴えるべき相手になるからです。逆に、契約書に記載されていない第三者に対して、契約者との関係を根拠に契約違反として訴えることは基本的にできないのです。
この観点からすると、契約を交わす場合、いつ倒産するか分からない資本に乏しいベンチャーと契約するよりも、そのベンチャーをサポートする大企業と契約交わしたほうが望ましいといえるのです。少なくとも連名として契約に名前を連ねてもらうことは望ましいといえるでしょう。端的に言うならば、“契約の相手は将来訴える可能性のある被告、できるだけお金のある相手を選ぶべき”なのです。
<代表権>
法人と契約を交わす場合、法人は自身で署名できないですから、代表権のある方の署名をもらうこととなります。ここでは、代表権についての基本的事項を簡単にご紹介しましょう。
① 代表取締役
代表取締役はも➀ろん自分自身で署名することができます(商法78条)。複数の代表取締役が登記されている場合であっても、各自で署名することができます。共同代表取締役の場合、全員で署名することが求められます(商法261条2項、3項)。しかしながら、実際、この共同代表取締役を採用している会社はあまり多くないようです。
※ 商法
第 78 条: 会社ヲ代表スベキ社員ハ会社ノ営業ニ関スル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行為ヲ為ス権限ヲ有ス
第 261 条
1項: 会社ハ取締役会ノ決議ヲ以テ会社ヲ代表スベキ取締役ヲ定ムルコトヲ要ス
2項: 前項ノ場合ニ於テハxxノ代表取締役ガ共同シテ会社ヲ代表スベキコトヲ定ムルコトヲ得
3項:第 39 条 2 項、第 78 条及第 258 条ノ規定ハ代表取締役ニ之ヲ準用ス
② 支配人
選ばれた支配人は、その営業の範囲内で会社を代表する権限を有します(商法38条)。従って、その範囲内であればあらゆる種類契約書に署名することができるのです。但し、
営業範囲外について代表権は認められません。また、複数の支配人が選ばれることもあります(商法 39 条 1 項)
※ 商法
第 38 条: 支配人ハ営業主ニ代リテ其ノ営業ニ関スル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行為ヲ為ス権限ヲ有ス
第 39 条1項: 商人ハxxノ支配人ガ共同シテ代理権ヲ行使スベキ旨ヲ定ムルコトヲ得
③ 部長
一般的に部長は会社の代表権を有していないものです。従って、部長は会社を代表
して契約することはできません。しかしながら、代表者が部長に代表する権限を与えた場合や、第三者にとって部長が代表権を備えると信じるに足りる何かがある場合※9、会社してその契約は有効、責任を負う必要が生じます
※9 例えば、会社の代表者取締役が同席した会議で、部長が署名したような場合
契約の相手が代表権のある方か否か、裁判所の当事者となりうる相手ですから極めて重要です。署名をした相手が会社の代表権がないようだと、将来はその署名をした担当者個人に対して裁判を起こさなくてはならなくなるかも知れないのです※10。今後はケースごとに注意してどんな相手なのかを調べて裁判所に赴くようにしましょう。
※10 担当者個人を訴えるとなった場合、たとえ裁判に買ったとしても賠償してもらえる金額はあまり多く望めないでしょう。
※2005年3月追記
この当事者の記載は、米国でも重要らしく、ライセンス契約において、支部や部局なども当事者として明記するよう提案している例がありました。
(Example)
This License Agreement is made this 30 day of March, 2003, by and between ABD Co. ("Licensor") and XYZ Co., including all of its affiliated companies and divisions ("Licensee").
Xxx Xxxx and Xxxxx X. Xxxxxx, "Profit from Intellectual Property", at page 77,
SPHINX Publishing
もし、あなたがライセンシーとして強い立場であるならば、海外の会社と契約する際、その当事者をより明確にするために、支部などの存在も忘れないようにしてください。 更に、可能であるなら、より資本が充実している親会社との契約を要求することなども考慮に値する点と思います。
3.復習テスト
では、最後に本日の復習テストを行いましょう。問題ごとに○か×を考えてください。
① 専用実施権及び通常実施権は、特許権者の承諾がなければ、移転することはない。
② 特許法187条は特許権者に対して特許表示する努力義務を課す規定であるが、特許権者が製品に特許表示しなかった場合、特許法にはその罰則規定がある。
③ 債務不履行による損害額が契約時に定まっている場合、特許権者はその損害額よりも実際の損害が大きかったことを証明して、その証明した額を損害額として賠償請求することができる。
解答と解説
① ×
特許法77条、94条より、承諾を得た場合のほか、実施の事業とともにする場合や相続の場合などに、承諾なしで移転可能です。
② ×
努力規定なので、これに違反しても(特許表示しなくても)、特許法上に罰則規定はありません。(「特許法概説-12 版-」P550、xxxx著)
③ ×
民法420条より、裁判所は独自にその額を増減することはできないのです。
お疲れ様でした。以上で全6回の契約についての講義を終了します。実務における注意点をいくつか選択して説明したのですが、あくまでも基本的な事項にすぎません。注意すべき点は、技術分野によってまだまだあることと思います。今回のゼミ内容をきっかけとして、今後、契約について興味をもっていただければ幸いです。全受講生の皆様のご活躍を心よりお祈りしております。
<WEB での公開について>
内容につきましては今後も補充していく予定です。皆様の実務の中で気づいた点や追加してほしい疑問点がありましたらご連絡いただけると幸いです。皆様にとってより役に立つテキストとなるように、随時、補充していきたいと思います。ご提案、ご意見、ご質問などいつでも歓迎です。こ➀らのアドレスにお願いします。
email: xxxxxxx-xxx@xxxxxxxxx.xxx
最後になりますが、今回のテキストの公開に協力していただきましたxxxx弁理士、並びに、講義する機会を与えたくださった私の元上司でありxx奈良先端科学技術大学院大学、知的財産部、xxxx教授、不備のある点をご指摘戴きました数名の弁護士の方々に心からの感謝を述べさせて戴き、全6回の講義を終了することとします。
第 6 回、以上
- 参考書籍 -
<民法関係>
xxx xx、「ゼミナール 民法入門」、日本経済新聞xxxx、「民法 (2) 債権各論」、東京大学出版会
三修社編集部、「ヨコ組 六法全書」、三修社、
xxxx、「法律用語がわかる辞典」、自由国民社
<契約関係>
xxxx、「技術者のためのライセンスと共同研究の留意点」、発明協会xxxx編、「理工系のための特許・技術移転入門」、岩波書店
x xx、「ビジネス契約書の起案・検討のしかた」、商事法務xxxx、「戦略的特許ライセンス」、経済産業調査会
xxxx、「特許実施契約の基礎知識-理論と作成-」、発明協会
Xxx Xxxx and Xxxxx X. Xxxxxx, "Profit from Intellectual Property", SPHINX Publishing
法務ガイドブック等作成委員会編、「知的財産法務ガイドブック」、xxxx、xxxx、「特許・ライセンスの日米比較」、弘文堂
<知的財産・技術関係>
xxxx等、「知って得するソフトウェア特許・著作権」、ASCIIxxxx、「著作xx概説」、有斐閣
xxxx、「著作xx 基礎と応用」、発明協会
xxxx、「判例に学ぶ特許実務マニュアル」、工業調査会xxxx、xxxx、「特許法概説」、有斐閣
xxxx等、「知的財産の価値評価」、東洋経済xxx、「知的財産権侵害要論」、発明協会
「コンピュータ=ビジネス基本用語辞典」、技術評論社
xxx、「職務発明制度-技術者のための特許法の常識」、日刊工業新聞社
xxxx等、「特許・知的財産 Q&A500」、現代産業選書―知的財産実務シリーズ
<xx関連 WEB>
■米国の特許法改正における主要な論点と産業界の反応(全3回) xxxx://xxxxxx.xxxxxxxx.xx.xx/xxxxxx/xxx/xxxx_xxxxxxx00000000.xxxx
■米国特許法における「先使用権」と権利強化の方向性(全3回) xxxx://xxxxxx.xxxxxxxx.xx.xx/xxxxxx/xxx/xxxxxxx00000000.xxxx
■マーケティング・マインドをもった人材を育成(全2回) xxxx://xxxxxx.xxxxxxxx.xx.xx/xxxxxx/xxx/xxx00000000.xxxx
■奈良先端科学技術大学院大学 技術移転人材育成OJTプログラム 2005、テキスト
xxxx://xxx.xxxxx.xx/xxxx/_xxxxxx/xxx0000.xxxx
以上、契約(全6回)、終了