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リーダーズ式☆合格フロンティア講座
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2017
リーダーズ式
合格スタンダード講座
合格フレームワーク講義☆民法
【合格フレームワーク講義民法 目次】
Ⅰ 民法総論
01 民法総論
(1) 民法とは 2
(2) 物権と債権 3
Ⅱ 契約
01 契約総論
(1) 契約とは 8
(2) 契約の類型 12
02 契約の成立
(1) 権利の主体と客体 14
(2) 契約の成立要件 15
(3) 契約の有効要件(1) 16
(4) 契約の有効要件(2) 19
(5) 契約の効果帰属要件 22
(6) 契約の効力発生要件 27
03 契約の効力
(1) 物権変動 28
(2) 債権債務の発生 33
04 契約の履行
(1) 弁済 36
(2) 消滅時効 38
(3) 同時履行の抗弁権 40
05 契約の不履行
(1) 債務不履行 42
(2) 危険負担 46
(3) 担保責任 48
Ⅲ 契約以外
(1) 事務管理 52
(2) 不当利得 54
(3) 不法行為 56
Ⅳ 債権の担保と保全
01 債権の担保
(1) 担保総論 60
(2) 抵当権 61
(3) 保証 64
02 債権の保全
(1) 債権者代位権 66
(2) 詐害行為取消権 69
民法総論
1 民法とは B | |
1 公法と私法 社会生活を規律する法は、大きく、公法と私法の2つに分けることができる。 -図解- 公法と私法 国家権力 公法 私法 (1) 公法 公法とは、国家と国民との生活関係を規律する法をいう。公法の例としては、憲法、行政法などがある。 (2) 私法 私法とは、私人と私人との間の生活関係を規律する法をいう。私法の例として、民法、商法などがある。 民法は、私人と私人との間の生活関係を規律する一般法であるのに対して、商法は、これの特別法であり、特別法である商法は、一般法である民法に優先して適用される(特別法は、一般法に優先する)。 2 財産法と家族法 民法は、私人と私人との間の生活関係を規律する法であるが、このような生活関係には、財産関係と家族関係がある。 民法典は、第1編から第5編までの5つの編によって成り立っている。第1編総則、第2編物権、第3編債権までは、主に、私人と私人との間の財産関係について規定しており、これを財産法という。また、第4編親族と第5編相続は、私人と私人との間の家族関係について規定しており、これを家族法という。本テキストでは、財産法を中心に扱う。 2 |
合0格ス1タンダード講座
民法総論
1 財産法
財産法は、物権と債権という基本的な2つの権利によって成り立っている。物権とは、物を直接的・排他的に支配する権利をいい、債権とは、ある特定の者が他の特定の者に対して、特定の行為を請求することができる権利をいう。
-図解-
物権と債権
債権
A B
物権
2 物権
(1) 意義
物権とは、物を直接的・排他的に支配する権利をいう。直接的とは、他人の行為を介しないということであり、排他的とは、当該物に対する支配は他者には認められないことをいう。この点において、人に対する権利である債権と異なる。
(2) 種類 ア 本権
(ア) 所有権
所有権とは、自己の物に対する支配権のことをいう。所有権の効力として、所有者は、法令の制限内で、自由にその所有物の使用・収益・処分をすることができる(206条)。
用語
「使用」とは、目的物を物理的に使用することをいい、「収益」とは、目的物から生じる果実を取得することをいい、
「処分」とは、目的物の物質的変形、毀損、破棄などの事実上の処分、所有権の譲渡、担保権の設定などの法律上の処分をすることをいう。
(イ) 制限物権
① 担保物権
担保物権とは、債権を担保するための物権のことをいう。民法上の担保物権には、留置権、先取特権、質権、抵当権がある。
3
2
物権と債権
A
② 用益物権
用益物権とは、他人の物を利用する物権のことをいう。用益物権には、地上権、永xxx、地役権、入会権がある。
イ 占有権
占有権とは、本権の有無にかかわらず、事実上の支配を保護するものをいう。
-図表-
物権の種類
占有権
物 権
所有権
本 権
担保物権
制限物権
用益物権
(3) 物権の性質ア 絶対性
物権は、絶対的な権利であるため、誰に対しても主張することができる。
物 権
債 権
A
土地
B
A
(債権者)
B
(債務者)
C
(所有者)
C
イ 排他性
物権は、排他的な権利であるため、同一物権上に互いに相容れない内容の物権は成立しない。そのため、先に成立した物権が優先する。ただし、優劣の判断基準は、対抗関係具備の順で決定する。
(4) 物権の効力
ア 物権的請求権
物権的請求権とは、物の円満な支配が害された場合、その侵害の除去を求めることができる権利をいう。
4
イ 根拠
民法には、物権的請求権についてのxxの規定はないが、物権の絶対的・排他的な権利の性質から当然認められると解されている。
ウ 種類
物権的請求権には、占有保持の訴えに対応して物権的妨害排除請求権、占有保全の訴えに対応して物権的妨害予防請求権、占有回収の訴えに対応して物権的返還請求権が認められている。
① 物権的妨害排除請求権
物権的妨害排除請求権とは、目的物が占有侵奪以外の方法で違法に妨害された場合に、その妨害の除去を求める権利をいう。
② 物権的妨害予防請求権
物権的妨害予防請求権とは、目的物に将来物権侵害が生じるおそれがある場合に、その妨害の除去を求めて侵害の防止を求める権利をいう。
③ 物権的返還請求権
物権的返還請求権とは、物権的目的物の占有が奪われた場合に、その返還を求める権利をいう。
3 債権
(1) 意義
債権とは、ある特定の者が他の特定の者に対して、特定の行為を請求することができる権利をいう。債権者に対して、ある特定の行為をなすべき義務を債務という。債権を有する人を債権者といい、債務を負う人を債務者という。
民法は、債権の発生原因として、契約、事務管理、不当利得、不法行為の4つを規定している。
-図表-
債権の発生原因
x 約
債 権
事務管理
契約以外
不当利得
不法行為
(2) 債権の性質ア 相対性
債権は、特定の者(債務者)に対してのみ主張することができる権利であ
り、原則として、第三者に対しては、主張することができない。
5
物 権
債 権
A
土地
B
A
(債権者)
B
(債務者)
C
(所有者)
C
イ 非排他性
債権は、同一の人に対する同一の内容の債権が、複数成立することが認められる。
-図表-
物権と債権の比較
物 権 | 債 権 | |
意 義 | 物に対する直接的・排他的な支配をいう。 | ある特定の者が他の特定の者に対して、特定の行為を請求することができる権利をいう。 |
絶対性 | ○ (すべての人に対して主張可) | × (債務者に対してのみ主張可) |
排他性 | ○ | 原則:×例外:○ |
登記請求権 | ○ | × |
不可侵性 | ○ |
占有権
物 権
本 権
物 x
x 約
債 権
事務管理
契約以外
不当利得
不法行為
6
-図表-
民法の全体構造
x 約
1 契約とは A | |
事例 01-1-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。この場合、AB間の法律関係はどうなるか。 売買契約 A B (売主) (買主) 目的物引渡請求権 A B (売主) 代金支払請求権 (買主) 1 意義 契約とは、複数の当事者間において、相対立する複数の意思表示が合致することによって成立する法律行為をいう。 法律行為とは、当事者が一定の法律効果(権利変動)を欲する旨の意思表示をすることにより、その通りの法的効果を発生させる法律上の行為のことをいいます。法律行為には、単独行為、契約、合同行為の3つの種類があります。 用語 単独行為とは、一方の者のひとつの意思表示のみで成立する法律行為のことをいい、契約とは、複数当事者の意思の 合致により成立する法律行為のことをいい、合同行為とは、複数当事者による、同一目的に向けられた意思表示の合致により成立する法律行為のことをいいます。 2 債権債務の発生 たとえば、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の売買契約が成立すると、買主は、売主に対して、甲建物の引渡しを請求する権利を持ち、売主は、買主に対して、5,000万円の代金の支払いを請求する権利を持つことになる。目的物引渡請求権や代金支払請求権のように、ある特定の者が他の特定の者に対して、特定の行為を請求することができる権利を債権という。民法は、債権の発生原因として、契約、事務管理、不当利得、不法行為の4つを規定している。 8 |
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契約総論
-図表-
債権の発生原因
x 約
債 権
事務管理
契約以外
不当利得
不法行為
3 物権変動
契約は、物権変動を生じさせる原因のひとつである。たとえば、売買契約が成立すると、甲建物の所有権が、売主から買主へ移転する。
プラスα
物権変動を生じさせる原因には、法律行為として、売買、贈与、抵当権設定などの契約による場合と、遺言、所有権の放棄などの単独行為による場合があります。また、法律行為以外として、取得時効、埋蔵物発見などの場合があります。
以上、売買契約が成立すると、契約当事者に債権債務が発生し、目的物の所有権が移転することになる。
-図解-
契約の効果発生プロセス
このように、契約当事者に債権債務が発生し、目的物の所有権が移転する効果が発生するためには、①契約の成立要件、②契約の有効要件、③契約の効果帰属要件、④契約の効力発生要件を満たす必要がある。
9
土地建物売買契約書
xx○太 (以下、「甲」という。)と、xx○子 (以下、「乙」という。)との間に、次の通り土地建物売買契約(以下、「本契約」という。)を締結する。
第1条(目 的)
甲はその所有する別紙目録記載の土地建物(以下、「本件土地建物」という。)を乙に売渡し、乙はこれを買受けるものとする。
第2条(売買代金)
本件土地建物の売買代金は、土地については1平方メートル当たり金○○○○円也の割合で、実測面積に基づいて算出した金○○○○xx、建物については、金○○○○xx、総合計:金○○○○円也とする。
2 本件土地建物の表示は登記簿記載の表示によるものとする。
第3条(手 附)
乙は、本契約締結と同時に甲に対して手附金として金○○○○円也を支払うものとする。この手附金は解約手附とし、売買代金の一部に充当するものとする。
第4条(引渡し・登記及び代金支払い)
甲から乙に対する本件土地建物の引渡し及び所有権移転登記申請手続は、平成○○年○○月○○日までに行うものとし、登記申請と同時に、xは甲に対し、売買代金を支払うものとする。その際の所有権移転登記に要する一切の費用は全て乙の負担とする。
第5条(権利・負担の除去)
甲は、前条による引渡し及び所有権移転登記申請の時までに本件土地建物上に存する抵当権、質権、借地権、借家権その他乙による完全な所有権の行使を妨げる一切の負担を除去するものとすし、本件土地建物に対する瑕疵のない完全な所有権を乙に移転するものとする。
第6条(所有権の移転)
本件土地建物の所有権は、第4条の売買代金の支払いが完了した時に、乙に移転するものとする。
2 本件土地建物に付属する樹木、庭石、門、塀及び建物の造作一切の所有権は全て本件土地建物の所有権の移転と同時に乙に帰属するものとし、甲は、本件土地建物とともに、本契約締結時の現状のまま、乙に引渡すものとする。
第7条(公租公課等の負担)
本件土地建物にかかる公租公課その他の賦課金及び負担金ならびにガス、電気、水道その他の付帯設備の使用料は、本件土地建物の引渡しの日をもって区分し、その日までの分は甲の負担とし、その日の翌日以降の分は乙の負担とする。
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第8条(危険負担)
本契約締結後、第4条による本件土地建物の引渡しの完了前に、甲又は乙のいずれかの故意又は過失によらないで本件土地建物の全部又は一部が火災、流出、陥没その他により滅失又は毀損したとき、あるいは公用徴収、建築制限、道路編入等の負担が課せられたときは、その損失は全て甲の負担とし、乙は甲に対して売買代金の減額又は原状回復のために生ずる損害の賠償を請求することができるものとする。
2 前項に定める滅失又は毀損により乙が本契約締結の目的が達することができないときは、甲はその旨を乙に書面でもって通告することにより本契約を解除することができるものとし、この場合、甲はすでに受取った手附金を全額乙に返還するものとする。
第9条(契約の解除・違約金)
甲又は乙は、その相手方が本契約に違反し、期限を定めた履行の催告に応じない場合には、直ちに本契約を解除し、相手方に違約金として金○○○○円也の支払いを請求することができるものとするが、乙による違約の場合には、甲は、すでに受取った手附金をもって乙の支払うべき違約金に充当することができるものとする。
第10条 (融資利用の特約)
乙は、売買代金の一部に融資金を利用する場合は、本契約締結後すみやかにその融資の申し込み手続きをするものとする。
2 前項の融資が否認された場合、乙は平成○○年○○月○○日までであれば本契約を解除することができる。
3 前項により本契約が解除された場合、甲は、乙に受領済みの金員を無利息にてすみやかに返還しなければならない。
第11条(協議条項)
甲と乙は、相互にこの契約の各条項を誠実に履行するものとし、この契約各条項に定めのない事項が生じたときや、この契約各条項の解釈について疑義を生じたときは、互いに誠意をもって協議の上解決するものとします。
以上、本契約成立の証として、本書を二通作成し、甲乙署名押印のうえ、それぞれ1通を保管します。平成○○年○○月○○日
(甲) 住所 xxx○○区○○○○
氏名 xx○太
(乙) 住所 xxx○○市○○○○
氏名 xx○子
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2 契約の類型 A | |
1 意義 契約とは、複数の当事者間において、相対立する複数の意思表示が合致することによって成立する法律行為をいう。 2 分類 (1) 典型契約と非典型契約 典型契約とは、民法典に契約類型として規定されている契約をいう。民法は、契約の類型として、贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解の13種類を規定している。 非典型契約とは、民法典に契約類型として規定されていない契約をいう。たとえば、出版契約、旅行契約など様々なものがある。 (2) 諾成契約と要物契約 諾成契約とは、当事者の合意のみによって成立する契約をいう。要物契約とは、当事者の合意のみによっては、契約は成立せず、当事者の合意に加えて、物の引渡し、その他の給付がなされることによって成立する契約をいう。 たとえば、売買、賃貸借、請負など多くの契約は諾成契約であるが、消費貸借、使用貸借、寄託などは要物契約である。 諾成契約と要物契約とでは、契約成立の時期において、差異を生じる。 (3) 双務契約と片務契約 双務契約とは、契約当事者が、相互に、対価的意義を有する債務を負担しあう契約をいう。片務契約とは、契約当事者の一方のみに義務が発生する契約をいう。たとえば、売買、賃貸借、請負など多くの契約は双務契約であるが、贈与、消費貸借、使用貸借などは片務契約である。 売買などの双務契約においては、契約当事者が、相互に、対価的意義を有する債務を負担し合うため、一方の債務と他方の債務との関係が問題となる。 目的物引渡請求権 A B 代金支払請求権 ≪牽連性≫ ①成立上の牽連性 ②履行上の牽連性 ③存続上の牽連性 この関係のことを牽連関係(牽連性)といい、①成立上の牽連性(原始的不能)、②履行上の牽連性(同時履行の抗弁権)、③存続上の牽連性(危険負担) 12 |
の3つのレベルで問題となる。同時履行の抗弁権、危険負担の規定は双務契約にのみ適用される。
(4) 有償契約と無償契約
有償契約とは、契約当事者双方が、相互に、対価的意義を有する経済的出損をする義務を負う契約をいう。無償契約とは、契約当事者が、対価的意義を有する経済的出損をしない契約をいう。
たとえば、売買、賃貸借、請負などは有償契約であり、贈与、使用貸借などは無償契約である。有償契約については、原則として、売買の規定が準用される(559条本文)。
3 典型契約
-図表-
典型契約
諾成・要物 | 双務・片務 | 有償・無償 | |
贈与契約 | 諾 成 | 片 務 | 無 償 |
売買契約 | 諾 成 | 双 務 | 有 償 |
交換契約 | 諾 成 | 双 務 | 有 償 |
消費貸借契約 | 要 物 | 片 務 | 無 償 有 償 |
使用貸借契約 | 要 物 | 片 務 | 無 償 |
賃貸借契約 | 諾 成 | 双 務 | 有 償 |
雇用契約 | 諾 成 | 双 務 | 有 償 |
請負契約 | 諾 成 | 双 務 | 有 償 |
委任契約 | 諾 成 | 片 務 双 務 | 無 償 有 償 |
寄託契約 | 要 物 | 片 務 双 務 | 無 償 有 償 |
組合契約 | 諾 成 | 双 務 | 有 償 |
終身定期金契約 | 諾 成 | 片 務 双 務 | 無 償 有 償 |
和解契約 | 諾 成 | 双 務 | 有 償 |
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1 権利の主体と客体 A | |
1 権利の主体 (1) 意義 権利の主体とは、私権における権利・義務の主体のことをいい、この主体となりうる地位のことを権利能力という。権利能力の主体となるのは、自然人及び法人である。 (2) 始期 ア 原則 自然人は、出生により権利能力の主体となる(3条1項)。出生とは、胎児 が母体から全部露出したときを意味する(全部露出説)。したがって、人は生まれてくれば、すべての私法上の権利義務を享受する。 イ 例外 自然人は、出生により権利能力の主体となるから、胎児は、権利能力の主体とはなれない。しかし、例外的に、胎児についても、以下の場合において、すでに生まれたものとみなして、権利能力が認められる。 ① 不法行為に基づく損害賠償請求(721条) ② 相続(886条1項) ③ 遺贈(965条・886条1項) (3) 終期 自然人の権利能力の終期は死亡に限られる。すなわち、死亡するまでは、権利能力を有することになる。 2 権利の客体 (1) 意義 権利の客体とは、権利の対象となるものをいい、物権の客体は、物であり、債権の客体は、人の行為である。物とは、有体物をいい(85条)、不動産と動産に大きく分けられる。 (2) 不動産と動産 不動産とは、土地及びその定着物のことをいい、動産とは、不動産以外の物をいう(民法86条1項・2項)。土地の定着物とは、土地に定着する物(動産)のことをいう。建物は、本来、土地に定着する動産であるが、民法上は、土地とは独立した別個の不動産として扱われる。 14 |
合0格ス2タンダード講座
契約の成立
事例 02-2-01 | |
Aは、Bに対して、「A所有の甲建物を5,000万円で買いませんか」と申入れ、Bは、Aに対して、「A所有の甲建物を4,500万円で買いたい」と申し入れた。この場合、AB間にA所有の甲建物を4,500万円で売却する旨の契約は成立するか。 甲建物を 甲建物を 5,000 万円で 4,500 万円で 買いませんか 買います! 売買契約 A B (売主) (買主) |
1 契約の成立要件
契約は、複数の当事者間において、申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致することによって成立する。
申込みとは、相手方の承諾と一致して契約を成立させることを目的とする一方的かつ確定的な意思表示をいう。承諾とは、申込みを受けた者が、申込みに応じて契約を成立させるために申込者に対してなす意思表示をいう。
たとえば、売主が買主に、「甲建物を5,000万円で売ります!」と言い、買主が売主に、「甲建物を5,000万円で買います!」と言って、両当事者の意思表示が合致すれば、AB間に甲建物を5,000万円で売却する旨の契約が成立することになる。
したがって、売主が買主に、「甲建物を5,000万円で売ります!」と言い、買主が売主に、「甲建物を4,500万円で買います!」と言っても、両当事者の意思表示は合致していないため、契約は成立しない。
もっとも、承諾者である買主が、申込みに変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに、新たな申込みをしたものとみなされる(528条)。したがって、買主の「甲建物を4,500万円で買います!」という申込みに対して、売主が、「甲建物を4,500万円で売ります!」という承諾をすれば、AB間に甲建物を 4,500万円で売却する旨の契約が成立することになる。
15
2
契約の成立要件
B
3 契約の有効要件(1) A | |
事例 02-3-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。Aは未xx者で、親権者Cの同意なく、A所有の甲建物をBに売却する旨の契約を締結した場合、AB間の法律関係はどうなるか。 C (親権者) 売買契約 A B (未xx者) (相手方) 1 契約の有効要件 契約の有効要件とは、いったん成立した契約が、無効や取消しとならずに、完全に有効となるための要件をいう。 無効とは、ある法律行為がはじめから全く存在しないものとして扱うことをいう。取消しとは、いったん有効に存在した法律行為を取消権者の意思表示によっ て、契約時に遡って無効にすることをいう(121条本文)。 -図解- 無効と取消し 契約時 無効 契約時 取消時 無効 契約の有効要件は、①当事者(主体)に関する有効要件、②法律行為の内容に関する客観的有効要件、③意思表示に関する主観的有効要件の問題に分けることができる。 16 |
-図表-
無効と取消しの比較
無 | 効 | 取消し | ||
意 | 義 | ある法律行為がはじめから全く存在しないものとして扱うことをいう。 | いったん有効に存在した法律行為を取消権者の意思表示によって、契約時に遡って無効にすることをい う(121条本文)。 | |
原 | 因 | ① 意思無能力者の法律行為 ② 心裡留保・虚偽表示・錯誤による法律行為 ③ 公序良俗に反する法律行為 | ① 制限行為能力制度による取消し ② 詐欺・強迫による取消し | |
主張権者 | ① 原則 誰からでも主張可(絶対的無効)。 ② 例外 錯誤無効の主張は、原則として表意者のみ無効主張可(相対的無 効)。 | ① 制限行為能力の場合 本人・代理人・承継人・同意権者、 ② 詐欺・強迫の場合 被欺罔者本人・代理人・承継人 | ||
主張期間 | いつまでも主張可 | 追認をすることができる時から5年 法律行為の時から20年 | ||
追 | 認 | 不 | 可 | 可 |
2 意思能力
(1) 意義
意思能力とは、自己の行為の結果を弁識するに足りる能力のことをいう。自分のした意思表示によって、どのような権利変動が生ずるのかを理解できる能力のことをいい、意思能力を備えていない者を意思無能力者という。
なお、意思能力については、明確な基準はないが、おおむね7歳から10歳程度の判断能力が基準とされている。
(2) 効果
意思能力のない者がした法律行為は無効となる。たとえば、3歳の幼児が売買契約を締結してもその法律効果は発生しない。
3 行為能力
(1) 意義
行為能力とは、法律行為を単独で有効になしうる法律上の地位または資格のことをいう。意思無能力者の行為は無効であるが、一般に、行為当時の意思無能力を立証することは困難である。しかし、その立証ができなければ契約の無効を主張できないとすると、その者の保護に欠けることになる。そこで、民法は制限行為能力者制度を設け、取り消すことができる行為としたのである。
(2) 効果
民法は、行為能力が不十分な者を「制限行為能力者」として4つに類型化し、行為時に意思能力があったか否かを問わず、一律の法律行為を取り消すことができるものとしている。
17
-図解-
制限行為能力者制度
未xx者
xx被後見人
制限行為能力者
被保佐人
被補助人
(3) 制限行為能力者の相手方の保護
制限行為能力者の行為は、取り消されることがある。そこで、不安定な地位に置かれる取引の相手方の保護が必要となる。
売買契約
-図解-
静的安全と動的安全
A
B
(未xx者) (相手方)
静的安全
動的安全
① 催告権(20条)
催告権とは、制限行為能力者の相手方が、取り消しうる行為について、制限行為能力者側に対して、一定の期間を定めて、追認をするか否かの確答を促し、もしその期間内に確答がなかった場合、追認ないし取消しの効果があったとみなされる制度をいう。
② 制限行為能力者の詐術(21条)
「詐術」とは、広く相手方を欺く行為をいう。制限行為能力者が積極的に行為能力者だと明示した場合は「詐術」に当たる。判例は、制限行為能力者であることを単に黙秘するのみでは、「詐術」には当たらないが、制限行為能力者の他の言動等と相まって相手方の誤信を強めさせたような場合には「詐術」に当たるとしている(最判昭44.2.13)。制限行為能力者が自らを行為能力者だと信じさせるために詐術を用いた場合には、制限行為能力者はその行為を取り消すことができなくなる。
③ 取消権の期間制限
取消権は、追認できるときから5年、行為の時から20年で消滅する(126条)。
18
4 契約の有効要件(2)
事例 02-4-01 | |
Aは、Aの債権者Gからの差押えを免れるために、Bと謀って、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。その後、Bが事情を知らないCに、甲建物を売却した場合、Aは、Cに対して、AB間の売買契約の無効を主張することができるか。 G 売買契約 売買契約 A B C 虚偽表示 |
1 客観的有効要件
法律行為が有効であるためには、①内容の確定性、②内容の実現可能性、③内容の適法性、④内容の実現可能性がなければならない。
2 主観的有効要件
(1) 意思表示
意思表示とは、権利変動(権利の発生・移転・消滅)という法律効果を発生させようという意思(効果意思)を外部に表明(表示)する行為をいう。
-図解-
意思表示のプロセス
動機 効果意思 表示意思 表示行為
意思表示は、動機→(内心的)効果意思→表示意思→表示行為という過程を経て形成される。もっとも、意思表示とは、(内心的)効果意思から表示行為までの行為をいい、動機は、意思表示の構成要素には含まれない。
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(2) 意思表示の瑕疵ア 意思の不存在
意思の不存在とは、表示行為に対応する効果意思が欠けていることをい
う。心裡留保(93条)、通謀虚偽表示(94条)、錯誤(95条)の場合がある。効果意思を欠く意思表示は、基本的には無効となる。
イ 瑕疵ある意思表示
瑕疵ある意思表示とは、表示行為に対応する効果意思は存在するが、その形成過程に瑕疵が存在する場合のことをいう。詐欺、強迫(96条)の場合がある。瑕疵ある意思表示は、取り消すことができる意思表示となる。
-図表-
意思表示の瑕疵
意思の不存在 | 瑕疵ある意思表示 | |
定 義 | 表示行為に対応する効果意思が欠けている場合のことをいう。 | 表示行為に対応する効果意思は存在するが、その形成過程に瑕疵が 存在する場合のことをいう。 |
具体例 | 心裡留保(93条)、通謀虚偽表示 (94条)、錯誤(95条) | 詐欺、強迫(96条) |
効 果 | 無 効 | 取消し |
(3) 心裡留保
心裡留保とは、表意者が表示行為と効果意思の不一致を認識しながら、そのことを告げないでする意思表示のことをいう。
たとえば、Aが、甲建物を贈与する意思がないのに、冗談で、「甲建物をあげよう」と、Bに言ったような場合である。
心裡留保による意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない(93条本文)。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする(93条ただし書)。
(4) 虚偽表示
虚偽表示とは、相手方と通じてなした虚偽の意思表示のことをいう。たとえば、 Aが、Aの債権者Gからの差押えを免れるために、Bと謀って、A所有の甲建物を5,000万円で売却したように見せかけるような場合である。
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効となる(94条1項)。ただし、その意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない(94条2項)。
用語
20
「善意」とは、通謀虚偽表示であることを知らないことをいう。判例は、善意のみで足りるとして、無過失は不要としている(大判昭12.8.10)。
「善意」とは、一定の事実を知らないこと、「悪意」とは、一定の事実を知っていることをいいます。「善意無過失」とは、知らないことに不注意がないこと、「善意有過失」とは、知らないことについて不注意があることをいいます。この過失には、重過失と軽過失があります。
「第三者」とは、虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者であって、虚偽表示に基づいて新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいい(大判大9.7.23)、判例は、第三者として保護されるために、登記は不要としている(最判昭44.5.27)。
-図表-
94条2項の「第三者」
第三者にあたる者 | 第三者にあたらない者 |
① 不動産の仮装譲受人からの譲受人 ② 不動産の仮装譲受人から抵当権の設定を受けた者 ③ 虚偽表示の目的物に対して差押えをした仮装譲受人の債権者 ➃ 仮装譲受人が破産した場合の破産管財人 | ① 債権の仮装譲受人から取立てのために債権を譲り受けた者 ② 土地の賃借人が借地上の建物を仮装譲渡した場合の土地賃貸人 ③ 土地の仮装譲受人からその土地上の建物を賃借した者 ➃ 一番抵当権が仮装で放棄された場合の二番抵当権者 ⑤ 一般債権者 |
(5) 錯誤
錯誤とは、内心的効果意思と表示との不一致を表意者が知らないことをいう
(大判大3.12.15)。心裡留保や通謀虚偽表示と異なるのは、意思と表示の不一致に表意者自らが気づいていない点である。
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする(95条本文)。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない(95条ただし書)。
(6) 詐欺・強迫
詐欺とは、他人を欺罔して錯誤に陥らせ、これによって意思表示をさせることをいう。強迫とは、害悪の告知により相手方を畏怖させ、これに基づいて意思表示をさせることをいう。
詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができる(96条1項)。ただし、詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない(96条3項)。
(7) 意思表示の比較
-図表-
意思表示の比較
当事者間の関係 | 善意の第三者との関係 | ||||
意思の不存在 | 心裡留保 | 有 効 (相手方が悪意有過失の場合:無効) | 規定なし | ||
通謀虚偽表示 | 無 | 効 | 無効主張不可 | ||
錯 | 誤 | 無 | 効 | 規定なし | |
瑕疵ある意思表示 | 詐 | 欺 | 取消し | 取消し主張不可 | |
強 | 迫 | 取消し | 取消し主張可 |
21
5 契約の効果帰属要件 | |
事例 02-5-01 Cは、代理権がないにもかかわらず、Aのためにすることを示して、Bとの間で、 A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。この場合、Bは、A及びCに対して、どのような請求をすることができるか。 A (本人) 売買契約 C B (無権代理人) (相手方) 1 代理 (1) 意義 代理とは、他人の法律行為の効果を直接本人に帰属させる制度をいう。代理人が、その権限内において、本人のためにすることを示して行った意思表示は、本人に直接効果が帰属する(99条1項)。これを有権代理という。代理は、私的自治の拡張や補充のために認められている。 (2) 機能 ア 私的自治の拡張 私的自治の拡張とは、たとえば、不動産売買をしたい場合に、その部門に精通した者を代理人として自己に有利な契約を結んでもらったりする場合などをいう。 イ 私的自治の補充 私的自治の補充とは、たとえば、未xx者が親権者に売買契約を結んでもらったりする場合などをいう。 (3) 種類 ア 任意代理 任意代理とは、本人から代理人への代理権の授権により発生する代理をいう。 22 |
イ 法定代理
法定代理とは、制限行為能力者の代理権のように法が定めた一定の場合に発生する代理をいう。
(4) 要件
-図解-
代理の要件
A
(本人)
代理権
効果帰属
x名
B
法律行為
C
① 代理権があること
(代理人) (相手方)
代理権は、本人の授与行為(任意代理)または法律の規定(法定代理)により与えられる。なお、代理権が授与されていても、その権限の範囲を超えて代理行為をすれば無権代理となる。
② 顕名があることア 意義
x名とは、代理人が本人のためにすることを示すことをいう( 99条1
項)。
イ 効果
x名をして相手方と取引行為をした場合、本人へ効果帰属する。
これに対して、代理人が、顕名をせずに相手方と取引行為をした場合には、代理人が取引の相手方とみなされる(100条本文)。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、または知ることができたときは、有効な代理行為となる(100条ただし書)。
③ 有効な法律行為(代理行為)が行われたことア 原則
意思表示の効力が、意思の不存在、瑕疵ある意思表示、善意悪意等
により影響を受ける場合、その事実の有無は代理人によって決する(101条1項)。代理において意思表示をするのは代理人であり、本人は意思表示に関与しないからである。
イ 例外
本人が代理人に特定の法律行為を委託し、代理人が本人の指図に従って行為した場合には、本人を基準として判断する(101条2項)。 この
23
場合には、本人が当該行為を支配しているため、本人を基準とするのが妥当だからである。
(5) 効果
代理人と相手方間の代理行為の効果が本人に効果帰属する。なお、代理人は行為能力者であることを要しない(102条)。代理の効果は、すべて本人に効果帰属し、制限行為能力者である代理人には、何らの不利益も生じないからである。
2 無権代理
(1) 意義
無権代理とは、代理人として行為する者に代理権がないことをいう。初めから代理権が全くない場合や、代理権の範囲を超えた行為をした場合がある。
-図解-
有権代理と無権代理
xxの無権代理
有権代理
表見代理
狭義の無権代理
本人に効果帰属
(2) 効果 ア 原則
無権代理行為の効果は、本人に帰属しない(99条、113条1項)。
イ 例外
①本人の追認がある場合、②表見代理が成立する場合には、例外として、本人に効果帰属する。
(3) 本人が採りうる手段ア 追認
本人が無権代理行為を追認すれば、本人に効果が帰属する(113条1項)。
無権代理行為であっても、本人にとって有利な場合もあるからである。
追認は、別段の意思表示がない場合、契約の時に遡ってその効力を生じる(116条本文)。ただし、第三者の権利を害することはできない(116条ただし書)。
なお、追認は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することはできない。もっとも、相手方が追認のあったことを知ったときは、対抗することができる(113条2項)。
x 追認拒絶
本人が追認を拒絶すれば、無権代理行為は本人に効果帰属しない。
24
(4) 相手方が採りうる手段ア 催告権
本人が追認するか否かの態度を示していない場合、相手方は不安定な
地位に置かれることになる。そこで、相手方は、本人に対し、相当期間を定めて追認するか否かを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人が確答しない場合には、追認を拒絶したものとみなされる
(114条)
イ 取消権
善意の相手方は、本人が追認しない間、無権代理行為を取り消すことができる(115条)。
ウ 表見代理の主張
エ 無権代理人への責任追及 (ア) 要件
① 代理人が自己の代理権を証明することができないこと
② 本人の追認がないこと
③ 相手方が取消権を行使していないこと
④ 代理権を有しないことにつき悪意・有過失でないこと
⑤ 無権代理人が行為能力を有すること
(イ) 効果
相手方の選択により、履行または損害賠償の責任を負う(117条1項)。
3 表見代理
(1) 意義
表見代理とは、無権代理の場合に、虚偽の外観を信じて取引をした相手方を保護するために、一定の要件の下で本人に効果を帰属させる制度をいう。
(2) 趣旨
表見代理は、代理権があるかのような虚偽の外観作出につき本人の帰責性がある場合、その外観を信じた相手方を保護し、もって取引の安全(動的安全)を図ることにある(権利外観法理)。表見代理が認められるためには、権利外観法理の一般的要件を充たさなければならない。
① 虚偽の外観
② 虚偽の外観作出に対する本人の帰責性
③ 相手方の信頼(善意無過失)
表見代理の成立において重要なのは、本人と相手方の利害調整をどのように図るかという点です。したがって、表見代理が成立するためには、本人側に、効果を帰属させられ
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ても仕方がない事情(帰責事由)が必要であり、相手側には、代理権があると信じても仕方がない事情(保護事由)が必要になってきます。
25
-図解-
権利外観法理
x的安全
A
帰責性
(本人)
B
C
動的安全
(無権代理人) (相手方)
外 観
信 頼
(3) 種類
ア 代理権授与表示による表見代理(109条) (ア) 要件
① 代理権授与表示
② 表示された代理権の範囲内の代理行為
③ 相手方が善意・無過失であること
(イ) 効果
本人は代理行為の効果帰属を拒むことができなくなる。
イ 代理権踰越の表見代理(110条) (ア) 要件
① 基本代理権の存在
② 代理人の権限踰越行為
③ 第三者に正当な理由があること
(イ) 効果
本人は代理行為の効果帰属を拒むことができなくなる。
ウ 代理権消滅後の表見代理(112条) (ア) 要件
① かつて代理権があり、消滅したこと
② かつての代理権の範囲内の行為であること
③ 第三者の善意無過失
(イ) 効果
本人は代理行為の効果帰属を拒むことができなくなる。
26
1 条件
(1) 意義
条件とは、法律行為の効力の発生または消滅を、将来発生するか否か不確実な事実の成否にかからせる法律行為の附款をいう。
(2) 種類
ア 停止条件
「停止条件」とは、ある事実が発生することによって法律行為の効力が発生する条件のことをいう。たとえば、試験に合格すれば、万年筆を贈与するという場合などである。
イ 解除条件
「解除条件」とは、ある事実が発生することによって法律行為の効力が失われる条件のことをいう。たとえば、試験に落ちれば、仕送りを止めるという場合などである。
2 期限
(1) 意義
期限とは、法律行為の効力の発生または消滅を、将来発生することが確実な事実の成否にかからせる法律行為の附款をいう。
(2) 種類
ア 確定期限
「確定期限」とは、事実の発生時期が定まっているものをいう。
イ 不確定期限
「不確定期限」とは、事実の発生は確実だが、その発生時期が定まっていないものをいう。
(3) 効力
期限が到来すると、法律行為の効力が発生(または消滅)したり、債権者が債務者に履行を請求することができる。
(4) 期限の利益
「期限の利益」とは、期限が到来しないことによって当事者が受けることができる利益のことをいう。期限の利益は、債務者のためにあるものと推定される
(136条1項)。
期限の利益は、自ら放棄することができる(136条2項)。
27
6
契約の効力発生要件
C
1 物権変動 | |
事例 03-1-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。その後、Aは、AB間に甲建物の売買契約があったことを知っていたCにも甲建物を二重に売却する旨の契約を締結し、AからCへの所有権移転登記がなされた。この場合、BはCに対して、甲建物の所有権を主張することができるか。 ①売買契約 A B 第一買主 ②売買契約 ○登 C 第二買主 1 物権変動 (1) 意義 物権変動とは、物権の得喪(取得、喪失)及び変更のことをいう。物権変動には、不動産の物権変動と動産の物権変動がある。 「不動産」とは、土地及びその定着物のことをいい、「動産」とは、不動産以外の物をいう(民法86条1項・2項)。土 用語 地の定着物とは、土地に定着する物(動産)のことをいう。 建物は、本来、土地に定着する動産であるが、民法上は、土地とは独立した別個の不動産として扱われる。 (2) 物権変動の時期 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる(意思主義 176条)。したがって、他に登記や引渡しは必要ない。このよ うに、意思主義を貫くと、売買契約によって目的物を取得する場合、原則として、売買契約と同時に、物権変動が生じることになる(最判昭33.6.20)。ただし、特約で移転時期を変更することも可能である。 28 |
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契約の効力
(3) 登記
登記は、当該不動産の権利関係を登記記録に記録するもので、不動産登記法によって定められている。わが国では、土地と建物は別個の不動産であるので、別々の登記がなされる。
所有権、質権、抵当権、賃借xxは登記がされるが、占有権、留置権、一般先取特権、入会xxには登記制度はない。
2 不動産物権変動の対抗要件
物権は、排他的な権利であるため、同一物権上に互いに相容れない内容の物権は成立しない。したがって、互いに相容れない内容の物権を主張する者が複数いる場合において、いずれの物権が優先するのかが問題となる。
このように、互いに相容れない内容の物権を主張する者が複数いる場合における優劣に関する問題を「対抗問題」といい、互いに相容れない内容の物権を主張する者相互の関係を「対抗関係」という。
用語
「対抗する」というのは、一般的には、自己の権利や法律上の地位を、第三者に主張することをいいます。BCともに登記を備えていないときは、お互いに、甲土地の所有権の取得を相手方に主張することができませんが、Cが、先に登記を備えたときは、CはBに対して、甲土地の所有権の取得を主張することができます。
この点、民法は、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」(177条)と規定している。
つまり、不動産物権変動を第三者に対抗するためには、一定の要件(対抗要件)を備えていることが必要であり、その要件が登記となる。
したがって、不動産の二重譲渡の場合、先に登記を備えた方が優先する。
3 「第三者」の範囲
登記をしなければ対抗できない「第三者」とは、当事者もしくは包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう(大連判明41.12.15)。
「第三者」は、善意である必要がなく、悪意であっても、177条の「第三者」に当たれば、登記をしなければ対抗できない。もっとも、単なる悪意を超えて、登記の欠缺を主張することがxxに反するような者(背信的悪意者)は、登記がなくても対抗することができる(背信的悪意者排除論)。
29
4 登記を必要とする物権変動
(1) 取消しと登記
事例 03-1-02 | |
Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結し、甲建物について、AからBへの所有権移転登記がなされた。その後、Aは、詐欺を理由に契約を取り消した(96条1項)。 ①Aが、売買契約を取り消す前に、BがCに甲建物を売却していた場合、どのような要件の下で、Cは、Aに対して、甲建物の所有権を主張することができるか。 詐欺取消前 ① ② A B C ③ 取消し ○登 取消前の第三者 ②Aが、当該売買契約を取り消した後、Bが自己名義の登記を抹消する前に、Cに甲建物を売却していた場合、どのような要件の下で、Cは、Aに対して、甲建物の所有権を主張することができるか。 詐欺取消後 ① ③ A B C ② 取消し ○登 取消前の第三者 |
ア 取消前の第三者
Cが取消前に登場した第三者の場合には、Aは登記なくしてCに対抗することができる。ただし、詐欺取消しの場合には、Cが善意であれば、96条3項によって保護される。取消しの遡及効を制限して、善意の第三者を保護するためである。善意の第三者として保護されるためには、判例は、登記は不要としている(最判昭49.9.26)。
イ 取消後の第三者
Cが取消後に登場した第三者である場合には、CとAは対抗関係に立つため、CはAより先に登記を具備しなければ所有権を主張できない。この場合、取消しによって復帰的物権変動が起こり、Bを起点とする二重譲渡事例と同じになるため、対抗関係として処理することとなる。
30
(2) 解除と登記
ア 解除前の第三者
Cが解除前に登場した第三者である場合、Cは、545条1項ただし書によって保護される。この場合、Cの善意悪意は問わない。債務不履行があったとしても、それによって当然解除されるわけではないので、これを知っていた(悪意)場合であっても保護すべきだからである。
もっとも、第三者には、権利保護資格要件としての登記(判例は、対抗要件としての登記)が必要となる。
イ 解除後の第三者
Cが解除後に登場した第三者である場合、CとAは対抗関係に立つため、 CはAより先に登記を具備しなければ所有権を主張できない(177条)。解除の遡及効を制限した545条1項の規定は法的擬制にすぎず、実質的には、復帰的物権変動と同視しうるのであるから、対抗関係として処理することになる。
-図解-
第三者保護の要件
~前 | ケース | ~後 |
詐欺取消し | ||
契約解除 | ||
時効取得 | ||
遺産分割 | ||
相続放棄 |
31
【不動産登記事項証明書】 | |||||
表 題 部 | (主である建物の表示) | 調製 | 余白 | 不動産番号 | 0000000000000 |
所在図番号 | 余白 |
所 在
家屋番号
① 種 類
xxx○○区○○三丁目1番地
100番
② 構 造 ③床面積 ㎡
余白余白
原因及びその日付(登記の目的)
居宅 木造瓦葺2階建
1階 85
2階 85
00 平成29年1月1日新築
00 [平成29年1月1日]
所有者 xxx○○区○○三丁目1番 x x x 太
権 利 部 (甲区) (所 有 権 に 関 す る 事 項 )
順位番号 | 登 記 の 目 | 的 | 受付年月日・交付番号 | x x 者 そ の 他 の 事 項 |
1 | 所有権保存 | 平成29年1月2日第11111号 | 所有者 xxx○○区○○三丁目1番x x x 太 | |
権 利 部 | (乙区) (所 | 有 | 権 以 外 の x x | に 関 す る 事 項 ) |
順位番号
1
登 記 の 目 的抵当権設定
受付年月日・交付番号平成29年1月2日 第11112号
x x 者 そ の 他 の 事 項 原因 平成29年1月2日金銭消費貸借
同日設定
債権額 金500万円利息 年3%
損害金 年14%
債務者 xxx○○区三丁目1番x x x 太
抵当権者 xxx○○市一丁目3番株式会社△△銀行
(取扱店 △△△支店)
32
共同担保 目録(き)第1234号
事例 03-2-01 | |
Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。AB間には、それぞれどのような債権債務が発生するか。 売買契約 A B (売主) (買主) 目的物引渡請求権 A B (売主) 代金支払請求権 (買主) |
1 意義
売買契約とは、当事者の一方(売主)が、ある財産を、相手方(買主)に移転することを約束し、これに対して買主が、その代金を支払うことを約束する契約をいう(555条)。売買契約は、諾成・双務・有償契約である。
2 効力
(1) 売主の義務
① 目的物引渡義務
売主は、買主に対して、売買の目的である財産権を移転する義務を負う
(555条)。
② 果実引渡義務
まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する(575条1項)。
③ 担保責任
担保責任とは、売主の目的物に契約成立以前からの欠陥がある場合に、売主が買主に対して負う特別の無過失責任をいう。
(2) 買主の義務
① 代金支払義務
買主は、売主に対して、売買の目的物に対する代金を支払う義務を負う
(555条)。
② 利息支払義務
33
2
債権債務の発生
B
34
買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う(575条2項本文)。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまで利息を支払うことを要しない(575条2項ただし書)。
【MEMO】
35
04
合格スタンダード講座
契約の履行
1 弁 済 A
事例 04-1-01 | |
Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。その後、Bの父親であるCは、Bに代わって、甲建物の売買代金5,000万円を全額弁済した。この場合、当該弁済は有効となるか。また、当該弁済が有効となる場合、Cは、Bに対して、どのような請求をすることができるか。 目的物引渡請求権 A B (売主) 代金支払請求権 (買主) 弁 済 C |
1 意義
弁済とは、債務の本旨に従った給付を実現する債務者ないし第三者の行為をいう。弁済によって、債権は、その目的を達して消滅する。
2 弁済の時期
-図表-
弁済の時期
履行期 | ||
確定期限の定めのある債権 | 期限到来時(412条1項) | |
不確定期限の定めのある債権 | 債務者が期限到来を知った時(412条2項) | |
期限の定めのない債権 | x x | 催告時(412条3項) |
返還時期の定めのない消費貸借 | 催告後、相当期間経過後(591条) | |
不法行為に基づく 損害賠償請求権 | 不法行為時 | |
債務不履行による損害賠償請求権 | 催告時(期限の定めのない債権) |
3 弁済の場所
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しの場合は、債権発生の時にその物が存在した場所(取立債務)において、その他の弁済の場合は、債権者の現在の住所(持参債務)において、それぞれしなけ
36
ればならない(484条)。
4 弁済者
弁済は、原則として、債務者が行うが、第三者もすることができる(474条1項)。ただし、次の3つの場合は、第三者の弁済は許されない。
① 債務の性質が第三者弁済を許さないとき(1項ただし書前段)
② 当事者(債権者・債務者)が反対の意思を表示したとき(1項ただし書後段)
③ 利害関係のない第三者が、債務者の意思に反して弁済するとき(2項)
「利害関係」とは、債務の弁済につき、法律上の利害関係をいい、単なる事実上の利害関係は含まない(最判昭39.4.21)。
第三者弁済が有効となれば、債務者の債務は消滅し、弁済者は債務者に対して、求償権を取得する。
-図表-
利害関係のある第三者
利害関係のある第三者 | 利害関係のない第三者 |
① 物上保証人 ② 担保不動産の第三取得者 ③ 同一不動産の後順位抵当権者 ➃ 地代弁済をする借地上の建物の賃借人 | ① 親子関係 ② 友人関係 |
5 弁済による代位
(1) 意義
弁済による代位とは、代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために、法の規定により弁済によって消滅すべきはずの債権者の債務者に対する債権及びその担保権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度をいう。
(2) 要件
-図表-
弁済による代位の要件
任意代位 | 法定代位 | |
意 義 | 弁済をするについて正当な利益を有しない者のした弁済による代位をいう(499条)。 | 弁済をするについて正当な利益を有する者がした弁済による代位をいう(500条)。 |
要 件 | ① 弁済その他により債権者を満足させたこと ② 弁済者が債務者に対して求償権を有すること ③ 弁済につき債権者の承諾を 得ること | ① 弁済その他により債権者を満足させたこと ② 弁済者が債務者に対して求償権を有すること ③ 弁済をするについて正当な 利益を有すること |
(3) 効果
弁済によって、債権者に代位した者は、自己の求償権の範囲内において、債権の効力及び担保として、その債権者が有していた一切の権利を行使することができる(501条本文)。
37
2 消滅時効 A | |
事例 04-2-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。Bは、甲建物の売買代金5,000万円のうち、1,000万円は自己資金で、3,500万円は、金融機関Cから融資を受けることに、500万円は、友人Dから借りることにした。その後、BがDから借りた500万については、Dから何の請求もなく、弁済期から10年が経過した。この場合、BのDに対する500万円の貸金債務はどうなるか。 D 500 万円 売買契約 A B (売主) (買主) 1 意義 消滅時効は、一定期間の経過により、権利が消滅する制度のことをいう。消滅時効の対象となるのは、債権及び所有権以外の財産権である。 なお、所有権と占有権は消滅時効にかからない。したがって、所有権に基づく物権的請求権も同様に消滅時効にかからない。 2 要件 (1) 権利の不行使 (2) 権利を行使することができる時から一定期間の経過 権利を行使することができる時とは、権利の行使に法律上の障害がなく、権利の性質から権利行使が現実に期待できる時をいう(最判昭45.7.1)。 ア 債権 (ア) 原則 10年(167条1項) (イ) 例外 短期消滅時効 イ 所有権以外の財産権(地上権・地役xx) 20年(167条2項) 38 |
3 効果
民法では時効の完成によって、権利を取得または権利が消滅する(162条、 167条)。もっとも、判例は、民法が145条で時効の援用を求めていることから、時効の完成によって権利の得喪は当然には起こらず、時効の援用によってはじめて権利の得喪が生じるとする(停止条件説 最判昭61.3.17)。
時効の援用とは、時効の利益を受けることができる者が、実際に時効の利益を受ける意思表示のことをいう。時効が完成した場合に、その利益を享受するか否かの本人の意思を尊重するために設けられている。
消滅時効が完成した後に、当事者が援用の意思表示をした場合、起算点に遡って債権が消滅する(144条)。「当事者」とは、時効により直接利益を受ける者及びその承継人をいう(大判明43.1.25)。
-図表-
援用権者
判例が肯定した援用権者 | 判例が否定した援用権者 |
① 保証人 ② 連帯保証人 ③ 物上保証人 ➃ 抵当不動産の第三取得者 ⑤ 売買予約の仮登記のなされている不動産の第三取得者 ⑥ 被保全債権の消滅時効について詐害行 為の受益者 | ① 一般債権者 ② 表見相続人からの譲受人(相続回復請求権の消滅時効について) ③ 借地上の建物の賃借人(賃貸人の敷地所有権の取得時効について) ➃ 後順位抵当権者(先順位抵当権者の被担保債権の消滅時効の援用) |
39
3 同時履行の抗弁権 A | |
事例 04-3-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。その後、Bは、弁済期に代金の支払いをしていないにもかかわらず、Aに対して、甲建物の引渡しを請求してきた。この場合、Aは、どのような主張をして、これを拒むことができるか。 引渡せ 目的物引渡請求権 A B (売主) 代金支払請求権 (買主) 1 意義 同時履行の抗弁権とは、双務契約において、一方の当事者は、相手方がその債務の履行をなすまで、自己の債務の履行を拒絶することができる権利をいう (533条)。 2 趣旨 双務契約においては、契約当事者が、相互に、対価的意義を有する債務を負担し合うため、一方の債務と他方の債務との関係が問題となる。 -図解- 牽連関係 目的物引渡請求権 A B 代金支払請求権 ≪牽連性≫ ①成立上の牽連性 ②履行上の牽連性 ③存続上の牽連性 この関係のことを牽連関係(牽連性)といい、①成立上の牽連性(原始的不能)、 ②履行上の牽連性(同時履行の抗弁権)、③存続上の牽連性(危険負担)の3つのレベルで問題となる。 同時履行の抗弁権は、双方の債務が対価的意義を有する双務契約において、履行上の牽連性を認めて当事者間のxxを図るための制度である。 40 |
3 要件
① 同一の双務契約から生じた双方の債務が存在すること
当事者双方の債務が、同一の双務契約から生じたものではない場合であっても、当事者間のxxを図ることから、同時履行の抗弁権が認められる場合がある。
-図表-
同時履行の抗弁権の肯否
認められるもの | 認められないもの |
(1) xxの規定のあるもの ① 解除による原状回復義務(546条) ② 負担付き贈与(553条) ③ 売主の担保責任としての契約解除 (571条) ➃ 請負人の瑕疵修補義務と注文者の代金支払義務(634条2条) (2) 解釈上問題になるもの ⑤ 契約の無効・取消しにおける当事者双方の返還義務(最判昭47.9.7) ⑥ 弁済と受領証書の交付(大判昭 16.3.1) ⑦ 建物買取請求権行使時の土地・建物の引渡(登記)と建物代金支払(最判昭35.9.20) Ⓑ 請負における目的物の引渡しと報 酬支払(大判大5.11.27) | ① 弁済と債権証書の返還(487条) ② 弁済と抵当権設定登記の抹消(大判明 37.10.14) ③ 賃貸借契約終了に伴う建物明渡義務と敷金返還義務(最判昭49.9.2)。 ➃ 造作買取請求権行使時の建物の明渡しと造作代金支払(最判昭29.7.22) |
② 双方の債務の弁済期が到来していること
③ 相手方が自己の債務の履行をせずに、他方の当事者に対して、履行を請求してきたこと
相手方が、その負担している債務の履行をした場合には、他方の当事者には、同時履行の抗弁権は発生しない。
4 効果
一方の当事者は、相手方がその債務の履行をなすまで、自己の債務の履行を拒絶することができる。したがって、この間、自己の債務の履行をしなくても、債務不履行(履行遅滞)責任を負わない。
5 行使方法
同時履行の抗弁権は、裁判上でも、裁判外でも行使することができ、裁判上で行使されたときは、判決は、引換給付判決となる。引換給付判決とは、原告または第三者からの債務と引換えに、被告に対して給付を命ずる判決をいう。
41
1 債務不履行 A | |
事例 05-1-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。しかし、甲建物は、契約成立後、履行期前に、Aの煙草の不始末による失火によって全焼してしまった。この場合、Bは、Aに対して、どのような請求をすることができるか。 売買契約 A B (売主) 契約成立後 (買主) 帰責性あり 目的物引渡請求権 A B (売主) 代金支払請求権 (買主) 1 意義 債務不履行とは、債務者が正当な理由がないにもかかわらず、債務の本旨に従った履行をしないことをいう。債務不履行には、①履行遅滞、②履行不能、③不完全履行の3つの態様がある。 (1) 履行遅滞 履行遅滞とは、債務の履行が可能であるのに、履行期を過ぎても債務が履行されない場合をいう。 (2) 履行不能 履行不能とは、債権の成立後に、債務を履行することが不可能になった場合をいう。 (3) 不完全履行 不完全履行とは、履行期に債務の履行が一応なされたが、履行が不完全な場合をいう。 2 履行遅滞 (1) 履行遅滞の要件 42 |
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契約の不履行
① 履行期に履行が可能なこと
履行が不能であれば、履行不能の問題となる。
② 履行期を徒過したこと
-図表-
履行期
履行期 | ||
確定期限の定めのある債権 | 期限到来時(412条1項) | |
不確定期限の定めのある債権 | 債務者が期限到来を知った時(412条2項) | |
期限の定めのない債権 | x x | 催告時(412条3項) |
返還時期の定めのない消費貸借 | 催告後、相当期間経過後(591条) | |
不法行為に基づく 損害賠償請求権 | 不法行為時 | |
債務不履行による損害賠償請求権 | 催告時(期限の定めのない債権) |
③ 債務者の責めに帰すべき事由によること
「債務者の責めに帰すべき事由」とは、債務者の故意・過失及びxxx上これと同視し得るものをいう。xxx上これと同視し得るものには、履行補助者の故意・過失が含まれる。
履行補助者の故意・過失とは、たとえば、使用人のように、債務者が債務の履行のために使用する者の故意・過失をいう。
なお、金銭債務の場合は、債務者は、不可抗力による遅滞についても、責任を免れることができない(419条3項)。
④ 履行しないことが違法であること
債務者に同時履行の抗弁権や留置権がある場合、履行遅滞にはならない。
(2) 履行遅滞の効果
① 現実的履行の強制
現実的履行の強制とは、債務者が、任意に、その債務の履行をしない場合に、債権者が、自己の債権を実現するために、国家権力によって、強制的に、債務を履行させることをいう。
-図表-
現実的履行の強制の種類
直接強制 | 代替執行 | 間接強制 | |
意 義 | 国家権力が、直接に債権の内容を実現させる強制執行の方法をいう。 | 債務者以外の者により債権の内容を実現させたうえで、これに必要な費用を債務者から取り立てる強制執行の方法をいう。 | 債務の履行がされるまで、一定の金銭を強制的に債務者から債権者に支払わせることにより、債務者に対して心理的な圧迫をかけ、債務者の意思を履行へと向かわせる強制執行の 方法をいう。 |
43
対象債務 | ・物や金銭の引渡しを目的とする債務 | ・代替的作為債務 | ・物の引渡しを目的とする債務 ・作為債務 ・不作為債務 |
具体例 | 銀行から500万円を借り入れた企業が、返済の期限が到来したにもかかわらず、返済をしない事例 | ある者の名誉を毀損する記事を雑誌に掲載した出版社が、名誉毀損を理由として謝罪広告の掲載を命じる確定判決を受けたにもかかわらず、謝罪広告の掲載 をしない事例 | 画家が、顧客との間で顧客の似顔絵を描く契約を結んだにもかかわらず、似顔絵を描こうとしない事例 |
② 損害賠償請求権の発生
履行遅滞の場合、債権者は、履行が遅れたことによる損害の賠償(遅延賠償)を請求することができる。損害賠償の方法は、特約がない限り、金銭の支払いによる(417条)。
債務不履行による損害賠償請求権の発生要件としては、債務不履行があることのほかに、債権者に損害が生じたこと、その損害が債務不履行と因果関係(相当因果関係)があることが必要である。
③ 契約解除権の発生
債権が契約に基づいて発生した場合、債権者に、契約の解除権が発生する(541条~543条)。契約の解除とは、契約締結後、当事者の一方の意思表示によって、その契約の効力を当初に遡って消滅させる制度をいう。解除の制度は、契約の一方当事者を、契約上の拘束から解放することにその意義がある。
契約の解除権の発生要件としては、債務不履行があることのほかに、相当の期間を定めて催告すること、催告の期間内に履行がされなかったことが必要である。
用語
「催告」とは、債務者に対して債務の履行を請求する意思の通知をいい、「相当の期間」とは、債務者が履行期までに履行の準備をしていることを前提に、その後の履行を完了するのに必要な猶予期間をいいます。もっとも、相当の期間を定めないで催告をした場合や不相当に短い期間を定めた催告も有効であり、客観的にみて相当な期間を経過すれば解除権は発生します。
解除により、契約は当初からなかったことになり、契約から生じた効果は遡及的に消滅する(判例 直接効果説)。その結果、各当事者は、その相手方に対して、原状回復義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない(545条1項)。この原状回復義務(545条1項本文)は、703条以下の不当利得の特則と位置付けられる。なお、金銭の返還の場合は、受け取ったときからの利息を付けて返還しなければならない(545条2項)。
44
-図表-
契約解除の効果
A
B
代金支払請求権
目的物引渡請求権
B
解除 原状回復義務
A
代金返還請求権
目的物返還請求権
また、債権者は、契約を解除しても、債務者に対して、債務不履行に基づく損害賠償の請求をすることができる(545条3項)。
3 履行不能
(1) 履行不能の要件
① 履行期に履行することが不能であること
履行が不能であるかどうかは、物理的不能だけでなく、一般の取引観念にしたがって判断する。たとえば、不動産の二重譲渡がなされた場合、第二譲受人に移転登記がなされたときは、第一譲受人の移転登記請求権は、取引観念上、履行不能となる(最判昭35.4.21)。
② 債務者の責めに帰すべき事由によること
履行遅滞の場合と異なり、415条後段にxx規定がある。内容は、履行遅滞と場合と同様である。
(2) 履行不能の効果
① 損害賠償請求権の発生
履行不能の場合、債権者は、目的物に代わる損害の賠償(填補賠償)を請求することができる。損害賠償の方法は、特約がない限り、金銭の支払いによる(417条)。
② 契約解除権の発生
債権が契約に基づいて発生した場合、債権者に、契約の解除権が発生する(541条~543条)。
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2 危険負担 A | |
事例 05-2-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。しかし、甲建物は、契約成立後、履行期前に、地震により滅失してしまった。この場合、Bの代金支払債務はどうなるか。 売買契約 A B (売主) 契約成立後 (買主) 帰責性なし 目的物引渡請求権 A B (売主) 代金支払請求権 (買主) 1 意義 危険負担とは、双務契約成立後、一方の債務が債務者の責めに帰することができない事由によって履行不能となった場合、他方の債務も当然に消滅するかという問題をいう。 2 原則:債務者主義 債務者主義とは、一方の債務が、債務者の責めに帰することができない事由により履行不能となって消滅したとき、他方の債務も消滅するという建前をいう。 -図解- 債務者主義 帰責性なし 目的物引渡請求権 A B (売主) 代金支払請求権 (買主) 債務者 債権者 債務者主義の場合、履行不能になった債務を標準として、債務者がリスクを負うことになる。 民法は、賃貸借契約、請負契約などの場合に、債務者主義を採用している。 46 |
3 例外:債権者主義
債権者主義とは、一方の債務が、債務者の責めに帰することができない事由により履行不能となって消滅したとき、他方の債務は存続するという建前をいう。
-図解-
債権者主義
帰責性なし
目的物引渡請求権
A
B
代金支払請求権
(売主) (買主)
債務者
債権者
債権者主義の場合、履行不能になった債務を標準として、債権者がリスクを負うことになる。
債権者主義を採用する理由としては、①「利益の存するところ損失もまた帰する」というローマ法の原則、②「所有者は危険を負担する」という原則があげられている。
民法は、①特定物に関する物権の設定または移転を双務契約の内容とした場合(534条1項)、②不特定物に関する物権の設定または移転を双務契約の内容とした場合で、目的物が特定された後の場合(534条2項)、③債権者の責めに帰すべき事由によって、債務を履行することができなくなった場合(536条2項)に、債権者主義を採用している。
4 後発的不能
-図解-
後発的不能の処理
原始的不能
後発的不能
帰責性あり
契約
帰責性なし
後発的不能とは、双務契約成立後、一方の債務が履行不能となった場合のことをいう。後発的不能の場合、債務者の責めに帰することができない事由により履行不能となったのか(危険負担)、それとも、債務者の責めに帰すべき事由により履行不能となったのか(債務不履行)によって、処理が異なる。
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3 担保責任 A | |
事例 05-3-01 Cは、Bとの間で、A所有の甲建物を、自己の物であると偽って、5,000万円で売却する旨の契約を締結した。この場合、BC間の契約は有効か。また、Bが甲建物の所有権を取得することができなかった場合、Bは、Cに対して、どのような請求をすることができるか。 A (本人) 他人物売買 C B (他人物売主) (他人物買主) 1 意義 担保責任とは、売買契約の目的物に一定の瑕疵がある場合に、買主を保護するために、売主に課せられた特別の責任のことをいう。 2 趣旨 売買契約は有償契約であり、契約当事者双方は、相互に、対価的意義を有する経済的出捐をする義務を負っている。しかし、売買の目的である権利または物に瑕疵がある場合、買主の代金支払義務と売主の目的物引渡義務との間の対価関係が崩れてしまう。そこで、これを是正して、売主と買主の間の対価的均衡を図るための制度が担保責任である。 したがって、担保責任は、売主の過失の有無を問わず生じる責任(無過失責任)である。 3 種類 (1) 権利の瑕疵に関する担保責任 ① 他人の権利の売買における売主の担保責任(561条) ② 権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任(563条) ③ 数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任(565条) ④ 地上xxがある場合等における売主の担保責任(566条) ⑤ 抵当xxがある場合における売主の担保責任(567条) 48 |
⑥ 強制競売における担保責任(568条)
(2) 物の瑕疵に関する担保責任
売主の瑕疵担保責任(570条)
4 内容
(1) 他人の権利の売買における売主の担保責任(561条)ア 要件
① 他人の権利を売買の目的としたこと
他人の物の売買契約は、無効な契約ではなく、債権的には有効な契約であるから、他人の物の売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う(560条 他人物売買)。
② 売主が権利を取得して買主に移転することができないこと
判例は、権利の移転不能が、買主の責めに帰すべき事由によるときは、担保責任の追及はできないとしている(大判昭17.10.2)。
イ 効果
① 解除権
買主の善意・悪意にかかわらない。
② 損害賠償請求権
善意の買主にのみ認められ、悪意の買主には認められない。
③ 行使期間
解除権・損害賠償請求権ともに、10年の消滅時効にかかる。
(2) 売主の瑕疵担保責任ア 要件
① 目的物に「隠れた瑕疵」があること
「隠れた」とは、買主が取引上一般に要求される程度の注意をしても発見できないような瑕疵をいう。「瑕疵」とは、取引観念からみて、何らかの欠陥があることをいう。判例は、この「瑕疵」には、物理的な瑕疵だけでなく、法律的な瑕疵も含むとしている(最判昭41.4.14)。
② 買主が瑕疵につき善意無過失であること。イ 効果
① 解除権
② 損害賠償請求権
③ 行使期間
買主が瑕疵を知った時から1年以内に行使する必要がある。判例は、1年の期間制限は、除斥期間を規定したものと解すべきであり、この損害賠償請求権を保存するには、売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り、裁判上の権利行使をするまでの必要はな
49
いとしている(最判平4.10.20)。
5 担保責任まとめ
50
-図表-
担保責任の内容
担保責任の種類 | 買主の主観 | 責任の内容 | 請求権行使の期間制限 | ||
代金減額請求 | 解 除 | 損害賠償請求 | |||
全部他人の権利 | 善 意 | × | ○ | ○ | ― |
悪 意 | × | ○ | × | ― | |
一部他人の権利 | 善 意 | ○ | 〇 目的不達成のとき | ○ | 知った時から1年 |
悪 意 | ○ | × | × | 契約の時から1年 | |
数量不足一部滅失 | 善 意 | ○ | 〇 目的不達成のとき | ○ | 知った時 から1年 |
悪 意 | × | × | × | ― | |
用益xxによる制限 | 善 意 | × | 〇 目的不達成のとき | ○ | 知った時から1年 |
悪 意 | × | × | × | ― | |
抵当xxによる制限 | 善 意 | × | 〇 所有権喪失のとき | 〇 | ― |
悪 意 | × | ― | |||
瑕疵担保責任 | 善 意 (無過失) | × | 〇 目的不達成のとき | ○ | 知った時から1年 |
悪 意 | × | × | × | ― |
契約以外
1 事務管理 B | |
事例 01-1-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。その後、AからBに甲建物の引渡し、所有権移転登記もなされたが、Bの不在の間に、Bの隣人であるCは、Bからあらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、Bのために、台風によって甲建物の屋根が損傷したため修繕を行った。この場合に、Cは、Bに対して、どのような請求をすることができるか。 売買契約 A B (売主) (買主) 修 繕 C (第三者) 1 意義 事務管理とは、法律上の義務がないのに他人のためにその事務を処理する行為をいう。 2 趣旨 事務管理は、社会生活における相互扶助の理念に基づいて、義務がないのに他人のためにした事務の処理を適法な行為として、管理者のために、その管理に費やした費用の償還請求を認めることで、本人と管理者との関係の合理的な調整を図るための制度である。 -図表- 債権の発生原因 契 約 債 権 事務管理 契約以外 不当利得 不法行為 52 |
事務管理が成立すると、費用償還請求権などの債権が発生するため、事務管理は、契約、不当利得、不法行為と並ぶ、債権の発生原因のひとつである。
3 成立
① 法律上の義務がないこと
事務管理はあくまで義務がないことが前提となるため、事務を行うことについて契約上の義務や法定の義務がある場合には成立しない。
たとえば、第三者が、本人に代わって債務を弁済する場合(474条1項本文)には、第三者に弁済義務がないので、事務管理となる。
② 事務の管理を始めたこと
「事務」には、壊れた塀をみずから直すといった「事実行為」、契約の締結といった「法律行為」を含む。
③ 他人のためにする意思があること
事務管理は、他人の利益を図った行為(利他的な行為)について保護する制度であるため、「他人のためにする意思」があることが不可欠となる。もっとも、他人のためにする意思と自己のためにする意思が併存する場合には事務管理は成立する。
④ 本人の利益・意思に反しないこと
4 効果
(1) 違法性の阻却
管理行為の違法性が阻却され、管理者は本人に対して不法行為責任を負わない。
-図表-
事務管理の効果
管理者の義務の発生 | 本人の義務の発生 |
① 善管注意義務 ただし、緊急事務管理の場合は、善意・無重過失で足りる(698条)。 ② 本人の利益に適合した方法での管理義務(697条) ③ 管理開始の通知義務(699条) ➃ 管理の継続義務(700条本文) ⑤ 報告義務(701条・645条) ⑥ 受取物の引渡義務(701条・646条) ⑦ 金銭の消費責任(701条・647条) | ① 費用償還義務(702条1項) ② 代弁済義務・担保提供義務(702条2項・650条2項) |
プラスα
管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、費用償還請求をすることができますが、報酬支払請求、損害賠償請求、費用前払請求をすることはできません。
53
2 不当利得 B | |
事例 01-2-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。その後、AからBに甲建物の引渡し、所有権移転登記もなされたが、Aは、詐欺を理由に当該契約を取り消した(96条1項)。この場合、AB間の法律関係はどうなるか。 目的物引渡請求権 A B 代金支払請求権 取消し 無効 目的物返還請求権 A B 代金返還請求権 1 意義 不当利得とは、法律上正当な理由がないにもかかわらず、他人の財産または労務から利得を受け、これによってその他人に損害を及ぼした場合の、その利得のことをいう。 2 趣旨 不当利得制度は、正当な理由なくして財産的利得をなし、これによって他人に損失を及ぼした者に対して、その利得の返還を命じ、当事者間のxxを実現する制度である。 3 要件 ① 他人の財産または労務によって利益を受けたこと(受益) ② 他人に損害を与えたこと(損失) ③ 受益と損失との間に因果関係があること ④ 「法律上の原因」がないこと 「法律上の原因」がないとは、xxの理念からみて、財産的価値の異同をその当事者間において正当なものとするだけの実質的・相対的な理由がないことをいう。 4 効果 ① 善意の受益者 54 |
善意の受益者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う(703条)。
② 悪意の受益者
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない
(704条前段)。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う(704条後段)。
55
3 不法行為 | |
事例 01-3-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。しかし、甲建物は、契約成立後、履行期前に、第三者Cの放火により全焼してしまった。この場合、Bは、Cに対して、どのような請求をすることができるか。 目的物引渡請求権 A B (売主) 代金支払請求権 (買主) 放 火 C (第三者) 1 意義 不法行為とは、ある者が、故意または過失によって他人の権利・利益を違法に侵害した結果、他人に損害を与えた場合に、その加害者に対して被害者の損害を賠償すべき債務を負わせる制度をいう(709条)。 2 趣旨 不法行為は、損害のxxな分担の見地から、被害者に、加害者に対する損害賠償請求を認めることで、被害者の救済を図るとともに、加害者に、損害賠償債務を課すことによって、将来の不法行為の抑止を図る制度である。 3 種類 民法上の不法行為制度は、709条に規定される一般不法行為と、714条~719条に規定される特殊不法行為とに大きく分けることができる。 一般不法行為とは、不法行為についての原則的な規定であり、過失責任を原則としている。「過失責任の原則」とは、自らの行動について過失のない者は、自らの行動により生じた結果について責任を負わなくてもよいという原則をいう。これに対して、特殊不法行為とは、一般不法行為の原則を何らかの形で修正 している。たとえば、過失の立証責任を転換したり(中間責任)、無過失責任を課 したりして、被害者の救済をより図っている。 56 |
4 要件
① 加害者に故意または過失があること
「故意」とは、自分の行為が他人に損害を及ぼすことを知りつつ、あえて行うことをいう。
「過失」とは、結果発生の予見可能性があったにもかかわらず、これを回避する行為義務を怠ったことをいう。
なお、故意または過失は、一般不法行為が成立するための積極的要件であるので、原則として、損害賠償を請求する側(被害者)が挙証責任を負う。
② 被害者の権利または法律上保護される利益が侵害されたこと
「権利または法律上保護される利益の侵害」とは、違法性のことをいう。違法性の認定は、被侵害利益と侵害行為の態様の相関関係によって決する(通説)。
③ 損害の発生
損害は、財産的損害のみならず、精神的損害も含む(710条)。財産的損害については、積極的損害、消極的損害(逸失利益)の両方を含む。
④ 加害行為と損害との間の因果関係
⑤ 加害者に責任能力があること
「責任能力」とは、自己の行為が違法なものとして、法律上非難されるものであることを弁識する能力をいう。加害行為の当時、責任能力がなかった場合、不法行為責任は負わない。具体的には、12歳程度以上が基準とされる。
⑥ 違法性阻却事由のないこと
加害行為が、正当防衛(720条1項)、緊急避難(720条2項)、正当業務に該当するときは、違法性が阻却される。
5 効果
(1) 損害賠償請求権の発生
不法行為が成立すると、被害者に加害者に対する損害賠償請求権が発生する(709条)。
賠償方法は、原則として金銭賠償であるが(722条・417条)、例外として、名誉棄損については、名誉を回復するのに適当な処分(謝罪広告など)を執る方法が認められている(723条)。
(2) 損害賠償の範囲
加害者が賠償すべき損害は、加害行為と相当因果関係に立つ損害である
(416条類推適用 大連判大15.5.22)。
(3) 消滅時効
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する(724条前段)。
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また、不法行為の時から20年経過したときも、損害賠償請求権は消滅する。この20年という期間は、除斥期間である(最判平元.12.21)。
6 債務不履行責任と不法行為責任の比較
不法行為が成立すると、被害者に加害者に対する損害賠償請求権が発生する(709条)。また、債務不履行の場合にも、債権者に債務者に対する損害賠償請求権が発生する(415条)。そこで、両者の関係が問題となる。
58
-図表-
債務不履行責任と不法行為責任の比較
債務不履行 | 不法行為 | |
慰謝料請求 | 債権者のみ | 被害者及び被害者の近親者 (711条) |
損害賠償の範囲 | 416条 | 416条類推(判例) |
立証責任 | 債務者 | 被害者(債権者) |
相殺禁止 | 規定なし | 509条 |
過失相殺 | 必要的斟酌 責任の減免可 | 裁量的斟酌 額の減額のみ |
消滅時効期間 | 10年(167条1項) | 3年(724条前段) |
消滅時効の起算点 | 本来の債権の履行を請求できる時 | 損害及び加害者を知った時 |
損害賠償請求権の遅滞時期 | 履行の請求を受けたとき (412条3項) | 不法行為時 |
失火責任法の適用 | な し | あ り |
債権の担保と保全
1 担保総論 A | |
事例 01-1-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。Bは、甲建物の売買代金5,000万円のうち、1,000万円は自己資金で、3,500万円は、金融機関Cから融資を受けることにし、500万円は、友人Dから借りることにした。そこで、Bは、金融機関Cとの間で、3,500万円の融資を受ける旨の契約を締結した。金融機関Cは、Bが融資した3,500万円を返せない場合に備えて、どのような手続をとることになるか。 C (債権者) 抵 B E (債務者) (保証人) 1 債権者平等原則との関係 債権者間は平等であるため(債権者平等の原則)、本来であれば特定の債権者だけを特別に扱うことは許されない。つまり、一般債権者同士は平等であり、万が一債務者の責任財産がすべての債務の返済に満たない場合であっても、弁済に当たっては債権額に応じた按分比例により弁済を受けるにとどまる。債権者平等原則の例外が、担保を付ける場合である。 2 担保の種類 担保には、物的担保と人的担保がある。物的担保とは、抵当権に代表されるように、物の価値を担保とするものをいう。これに対して、人的担保とは、保証契約に代表されるように、債務者以外の人の財産を担保とするものをいう。物的担保は、一般財産に比べて物の交換価値は減少しにくいため、人的担保と比べて強い権利となる。 60 |
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債権の担保
2 抵当権
事例 01-2-01 | |
Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。Bは、甲建物の売買代金5,000万円のうち、3,500万円は、金融機関Cから融資を受けることにした。そこで、Bは、Cに対する貸金債務を担保するため、Cのために、B所有の甲建物に抵当権を設定する旨の契約を締結し、その登記を備えた。その後、BがCに対する3,500万円の貸金債務を全額弁済した場合、甲建物の抵当権はどうなるか。 C (債権者) 抵 売買契約 A B (売主) (債務者) |
1 意義
抵当権とは、債務者または第三者から特定の不動産・地上権・永xxxを担保として、被担保債権が弁済されないときには、その不動産の交換価値から他の債権者に優先して弁済を受けることができる約定担保物権をいう(369条)。
2 性質
抵当権は担保目的物の占有及びこれに伴う使用収益をその内容としない非占有担保物権である。この点において、その占有を債権者に移転させなければならない質権とは異なる(342条・344条・345条参照)。
抵当権は、付従性、随伴性があり、不可分性、物xx位性を有する。しかし、非占有担保物権であるため、留置的効力はない。
(1) 付従性
付従性とは、被担保債権が発生しなければ担保物権も発生せず、被担保債権が消滅すれば担保物権も消滅する性質をいう。
(2) 随伴性
随伴性とは、被担保債権が第三者に移転すると、担保物権もこれに伴って第三者に移転する性質をいう。
(3) 不可分性
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不可分性とは、被担保債権の全額の弁済を受けるまでは、目的物の全部について、その権利を行うことができる性質をいう。
(4) 物xx位性
物xx位性とは、優先弁済的効力を有する先取特権(一般先取特権除く)、質権及び抵当権は、その目的物の売却・賃貸・滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物あるいは目的物の上に設定した物権の対価に対しても、優先弁済権を及ぼすことができる性質をいう。
-図表-
物xx位性
C
抵
B
(債務者)
G
損害賠償請求権 (第三者)
(債権者)
物xx位権を行使するためには、「払渡し又は引渡しの前に差押え」をしなければならない。これは、目的物を差し押さえることで債権者を確定させ、第三債務者を二重弁済の危険から保護するためである(最判平10.1.30)。
-図表-
担保物権の性質
留置権 | 先取特権 | 質権 | 抵当x | ||
xx性 | 付従性 随伴性不可分性 | ○ | |||
物xx位性 | × | ○ ※ | ○ | ○ | |
効 力 | 優先弁済的効力 | × | ○ | ○ | ○ |
留置的効力 | ○ | × | ○ | × |
※ 一般先取特権には、物xx位性なし
3 抵当権の設定
(1) 成立
抵当権は、約定担保物権であるから、債権者と設定者(債務者または物上保証人)による抵当権設定契約によって成立する。つまり、当事者の合意のみで成立する諾成契約である。 抵当権設定契約が成立した場合、債権者が抵当権者、債務者または物上保証人が、抵当権設定者となる。
物上保証人とは、自らは債務を負わないが、債務者のため
用語 に自己の財産に抵当権を設定したものをいいます。
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(2) 対象
抵当権は、担保目的物の占有を伴わない非占有担保物権であるため、登記が抵当権の公示方法となる。したがって、抵当権の対象となるのは、登記によって公示することができる、不動産、地上権、永xxxとなる(369条)。
(3) 対抗要件
抵当権は、登記が対抗要件となる(177条)。 したがって、第三者に抵当権を対抗するためには、抵当権設定の登記が必要となる。
(4) 被担保債権
被担保債権は、通常は、金銭債権である。債権の一部のみに抵当権を設定することも可能である。
担保される債権の範囲は、元本及び満期となった最後の2年分の利息である(375条1項本文)。利息を最後の2年分に限っているのは、後順位債権者との利害調整のためであるので、利害関係を有する第三者がいない場合には、利息の全額につき配当を受けられる。
なお、2年を超える部分の利息は、抵当権による優先弁済を受けないだけであり、この部分につき抵当権者は一般債権者として債務者に請求することは可能である。
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3 保 証 | |
事例 01-3-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結した。Bは、甲建物の売買代金5,000万円のうち、3,500万円は、金融機関Cから融資を受けることにした。そこで、BのCに対する貸金債務について、EがBの委託を受けて、Cとの間で、保証契約を締結した。その後、BがCに対する貸金債務を弁済することができなくなった場合、Cは、Eに対して、どのような請求をすることができるか。 C (債権者) B E (債務者) (保証人) 1 意義 保証債務とは、主たる債務者が、その債務を履行しない場合に、主たる債務者に代わって、その債務を履行すべき義務をいう(446条)。 2 性質 (1) 独立性 保証債務は、主たる債務とは別個の独立した債務である。 (2) 内容同一性 保証債務は、主たる債務と同一内容の給付を目的とする債務である。 (3) 付従性 ア 成立における付従性 主たる債務が成立しなければ、保証債務も成立しない。主たる債務の成立の基礎となる契約が、無効または取り消されたことによって、主たる債務が成立しないときは、保証債務もまた成立しない。 イ 消滅における付従性 主たる債務が、弁済、時効その他の事由により消滅したときは、保証債務も当然に消滅する。 64 |
ウ 内容における付従性
保証債務は、その目的または態様において、主たる債務より重いことは許 されない。したがって、保証債務の内容が、主たる債務よりも重い場合には、その内容が主たる債務の限度まで縮減される(448条)。
ただし、保証債務についてのみ違約金、賠償額の予定の特約を結ぶことは可能である(447条2項)。
(4) 随伴性
主たる債務が、債権譲渡によって、第三者に移転したときは、それに伴って、保証債務もまた移転する。
(5) 補充性
保証人は、主たる債務の履行がない場合に、補充的に、履行の責任を負う
(446条1項)。したがって、保証人は、催告・検索の抗弁権を有する(452条、 453条)。
ア 催告の抗弁権
催告の抗弁権とは、債権者が、保証人に債務の履行を請求したとき、保証人が、まず、主たる債務者に催告(請求)するよう求めることができる抗弁権をいう(452条本文)。
イ 検索の抗弁権
検索の抗弁権とは、債権者が、主たる債務者に対して催告をした後に、保証人に履行の請求をしたときでも、保証人が、まず主たる債務者の財産に執行するよう求めることができる抗弁権をいう(453条)。
検索の抗弁権を行使することができるのは、主たる債務者に弁済の資力があり、かつ、主たる債務者の財産への執行が容易である場合に限られる。
3 保証債務の成立
保証契約は、債権者と保証人との間の契約(保証契約)によって成立する。主たる債務者は、保証契約の当事者ではないことから、主たる債務者と保証人との事情は、保証債務の成立に影響を及ぼすものではない。また、主たる債務者の意思に反しても、保証人となることができる。
なお、保証契約の締結は、必ず、書面でしなければならない(446条2項)。
4 保証債務の効力
保証人は、主たる債務者が、その債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う(446条1項)。
5 求償権
保証人が、主たる債務者に代わって、債務の弁済をした場合には、主たる債務者に対して、求償権が発生する(459条、462条)。
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1 債権者代位権 A | |
事例 02-1-01 Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結し、Bは、Aから甲建物の引渡しを受け、所有権移転登記も得た。Bは、甲建物の売買代金5,000万円のうち、500万円は、友人Dから借りることにしたが、弁済期になっても、Dに対して、500万円を支払っていない。BがFに対して、1,000万円の売買代金債権を有している場合、Dは、Bに対する500万円の貸金債権を保全するため、どのような請求をすることができるか。なお、Bは、B所有の唯一の財産である甲建物を売却して、無資力状態になっているものとする。 D (債権者) 500万円 代位行使 無 B F (債務者) 1000万円 (第三債務者) 1 意義 債権者代位権とは、債務者が自己の権利を行使しないときに、債権者が債務者に代わって権利を行使することにより、責任財産の維持を図る権利をいう(423条)。 通常、担保を有しない一般債権者は、債務者が、その債務の履行をしない場合、債務者の有する財産(責任財産)に対する強制執行によって、自己の債権の実現を図ることになる。 一般債権者は、債務者が、自己の財産の減少を放置していたり、自己の財産を減少させる行為をした場合、債務者の有する財産(責任財産)を確保しておく必要がある。そこで、強制執行の対象となる債務者の責任財産を保全し、一般債権者の有する債権を保全する必要性から、債権者代位権と詐害行為取消権が認められている。 66 |
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債権の保全
2 要件
① 被保全債権を保全するために必要であること
債権の保全が必要になるためには、債務者の一般財産が、総債権者の債権を弁済するに足りるだけの価値がないこと、すなわち、債務者の無資力が要件(無資力要件)となる(最判昭49.11.29)。
また、被保全債権は、原則として、金銭債権に限られる。ただし、例外的に、特定債権の保全のためにも、債権者代位権が認められる場合がある。
② 債務者が自らその権利を行使していないこと
債務者が、その有する権利の行使をしている場合には、当該権利の行使は債務者に任されるべきであるから、債権者は債権者代位権を行使することができない(最判昭28.12.14)。
③ 被保全債権の履行期が到来していること
(1) 原則
債権者は、債権の弁済期が到来してはじめて自己の権利の満足を受けることができるのであるから、弁済期到来前は、債権者代位権を行使することは許されない。
(2) 例外
ア 裁判上の代位
「裁判上の代位」とは、非訟事件手続法85条以下の規定により、裁判所の許可を得て代位することをいう。
イ 保存行為
「保存行為」とは、時効中断など、債務者の財産の現状を維持する行為をいう。
④ 代位行使される権利が債務者の一身に専属する権利でないこと
各種請求権(債権・物権的請求権)、形成権(取消権・解除権・相殺権)、債権者代位権なども、債権者代位権の目的となる。ただし、夫婦間の契約取消権、離婚による財産分与請求権、遺留分減殺請求権などの債務者の有する一身専属権は、債権者代位権の目的とならない。
3 行使方法
債権者代位権の行使に際しては、債権者は、債務者の代理人としてではなく、自己の名において行使する。この場合、裁判上でも、裁判外でも行使することができる。
4 行使範囲
債権者代位権は、債権者の債権を保全するために認められる権利であるから、債権者代位権を行使しうる範囲は、債権の保全に必要な限度に限られる(最判昭44.6.24)。
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5 効果
債権者代位権の行使の効果は、債務者に帰属し、総債権者の共同担保となる。
債務者に代わって、第三債務者に対して、金銭や物の引渡しを請求する場合、原則として、債務者へ引き渡すべきである。しかし、例外的に、債権者は、直接自己への引渡しを請求することができる。
-図解- 効果
無
D
(債権者)
500万円
B
F
1000万円
代位行使
引渡し
(債務者) (第三債務者)
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なお、債権者が、第三債務者から、直接金銭の支払いを受けた場合、債権者は、債務者への返還義務と自己の債権との相殺により、実質的に、優先弁済を受けることができる(大判昭10.3.12)。
事例 02-2-01 | |
Aは、Bとの間で、A所有の甲建物を5,000万円で売却する旨の契約を締結し、Bは、Aから甲建物の引渡しを受け、所有権移転登記も得た。Bは、甲建物の売買代金5,000万円のうち、500万円は、友人Dから借りることにしたが、弁済期になっても、Dに対して、500万円を支払っていない。その後、Bは、Dを害することを知りながら、B所有の唯一の財産である甲建物を、Gに対する1,000万円の貸金債務の代物弁済としてGに譲渡し、所有権移転登記もなされた。このような場合、Dは、 Gに対して、どのような請求をすることができるか。 D (債権者) 500万円 取消し ○登 無 B G (債務者) 代物弁済 (受益者) |
1 意義
詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知りつつ自己の財産を逸失させた場合、債権者が債務者のなした法律行為を取り消して、逸失した財産を、債務者のもとに取り戻す権利をいう(424条)。
2 要件
(1) 客観的要件
客観的要件としては、債務者が債権者を害する行為(詐害行為)をしたことが必要となる。詐害行為とは、債務者の財産が減少し、その結果、債権者に完全な弁済ができなくなることをいう。
① 債務者の無資力
債務者に対する不当な干渉を避けるため、債務者が無資力であることが必要である。
② 財産権を目的とする法律行為
詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全するものであるから、財産権を目的とする法律行為に限られる。財産権を目的としない法律行為とは、
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2
詐害行為取消権
A
家族法上の行為で、婚姻、離婚、養子縁組、相続の承認・放棄等がある。
③ 被保全債権は金銭債権であることア 原則
被保全債権は金銭債権であることが必要である。
イ 例外
特定物の引渡しを目的とする債権(特定物債権)も究極的には損害賠償債権に変じ得るものであり、債務者の一般財産により担保されなければならないことは、金銭債権と同様であるから、特定物債権を有する者も、目的物の処分により債務者が無資力となった場合には、詐害行為取消権を行使し得る(最大判昭36.7.19)。
④ 被保全債権は詐害行為前に発生したこと
被保全債権は、原則として詐害行為の前に成立していることが必要である。詐害行為後に発生した債権の場合、その行為によって害されたといえないためである。
-図解-
詐害行為前に発生したこと
X
X
(債権者) (債権者)
Y
②
Z
①
Y
① ②
Z
(債務者) (受益者)
(債務者) ③
(受益者)
(2) 主観的要件
① 債務者の悪意
詐害の事実を知っているとは、債権者を害すること、すなわち、総債権者に対する弁済の資力に不足をきたすことを知っていれば足り、必ずしも特定の債権者を害することを欲している必要はない(最判昭35.4.26)。
② 受益者または転得者の悪意
受益者を詐害行為の相手方をする場合には、受益者の悪意が必要となり、転得者を相手方とする場合には、転得者の悪意が必要となる。
3 行使方法
(1) 行使方法
詐害行為取消権は、債権者代位権とは異なり、必ず裁判上で行使しなければならない。
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(2) 行使の相手方
受益者または転得者を訴えの被告とし、債務者を被告とする必要はない(大連判明44.3.24)。
(3) 行使期間
詐害行為取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは、時効によって消滅する(426条前段)。また、行為の時から20年を経過したときも、詐害行為取消権は、消滅する(同条後段)。この期間は、除斥期間であると解されている。
4 行使範囲
目的物が金銭債権のように可分な場合、債権額に相当する限度で取り消すことができる(大判大9.12.24)。これに対して、目的物が不動産のように不可分な場合には、債権額を超えて全部につき取り消すことができ、現物の返還が認められる(最判昭30.10.11)。
5 効果
取消しの効果は相対的なものであり、取消権を行使した債権者とその受益者との間でのみ生じる。したがって、債務者と受益者との間では、法律行為は有効である(相対的無効説 大連判明44.3.24)。
詐害行為取消権の行使によって、受益者または転得者から取り戻された財産は、総債権者の共同担保となる(425条)。
受益者または転得者に対して、金銭や物の引渡しを請求する場合、原則として、債務者への現物の返還を請求すべきである。しかし、例外的に、債権者は、直接自己への引渡しを請求することができる(大判大10.6.18、最判昭39.1.23)。
なお、債権者が、受益者または転得者から、直接金銭の支払いを受けた場合、債権者は、債務者への返還義務と自己の債権との相殺により、実質的に、優先弁済を受けることができる。
6 債権者代位権と詐害行為取消権の比較
-図表-
債権者代位権と詐害行為取消権の比較
債権者代位権 | 詐害行為取消権 | |
被保全債権 | 原則:金銭債権 例外:特定債権(転用事例) | 金銭債権 |
無資力要件 | 原則:必要 例外:不要(転用事例) | 必 要 |
行使方法 | 裁判上・裁判外でも行使可 | 裁判上でのみ行使可 |
行使範囲 | 被保全債権額の範囲(原則) | |
行使期間 | な し | ① 知った時から2年 ② 行為時から20年 |
直接の引渡請求 | ○ |
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