相手方(事業者) 1社 株式会社 Gracias(法人番号 7011101088710)
SNSで知った『投資で稼げる』というオンラインサロンの契約に係る紛争案件
報 告 書
(xxx消費者被害救済委員会)
令和4年4月
xxx生活文化スポーツ局
xxxは、6つの消費者の権利のひとつとして、「消費生活において、事業者によって不当に受けた被害から、xxかつ速やかに救済される権利」をxxx消費生活条例に掲げています。
この権利の実現をめざして、xxxは、都民の消費生活に著しく影響を及ぼ し、又は及ぼすおそれのある紛争について、xxかつ速やかな解決を図るため、知事の附属機関としてxxx消費者被害救済委員会(以下「委員会」という。)を設置しています。
知事は都内の消費生活センター等の相談機関に寄せられた相談のうち、委員会による処理が必要であると判断した案件を委員会に付託します。
委員会は、付託された案件について、あっせんや調停により紛争の具体的な解決を図り、個別の消費者の被害を救済するとともに、解決に当たっての考え方や判断を示します。
この紛争を解決するに当たっての委員会の考え方や判断、処理内容等は、xxx消費生活条例に基づき、広く都民の方々や関係者にお知らせし、同種あるいは類似の紛争の解決や未然防止に御活用いただいております。
本書は、令和3年10月28日に知事が委員会へ紛争処理を付託した「SNSで 知った『投資で稼げる』というオンラインサロンの契約に係る紛争」について、令和4年4月21日に委員会から、審議の経過と結果について知事へ報告された ものを、関係機関の参考に供するために発行したものです。
消費者被害の救済と被害の未然防止のために、広く御活用いただければ幸いです。
令和4年4月
xxx生活文化スポーツ局
第1 紛争案件の当事者 1
第2 紛争案件の概要 1
第3 委員会による処理開始と当事者の主張等 1
1 申立人の主張 2
2 相手方への協力要請 4
3 確認できた事実 4
4 “B”受講契約について 5
5 申立人のクーリング・オフの申出に関しての相手方の対応 7
第4 クレジットカード会社への調査協力依頼 7
第5 委員会の処理結果 8
第6 報告に当たってのコメント
1 あっせん案の考え方 9
2 同種・類似被害の再発防止に向けて 18
■資 料
1 相手方への連絡経緯 27
2 処理経過 28
3 xxx消費者被害救済委員会委員名簿 29
申立人(消費者) 1名 20 歳代後半男性
相手方(事業者) 1社 株式会社 Gracias(法人番号 7011101088710)
代表取締役:xx xx
xxx新宿区西xxx丁目5番1号
ザ・パークハウス西新宿タワー60-3303 号室
第2 紛争案件の概要
申立人の主張による紛争案件の概要は、次のとおりである。
令和3年1月、自分の利用するSNSにコメントをもらったことがきっかけで、AさんのSNSを見るようになった。2月に入り「“B”1プログラムを始めた。」と書き込まれてからは、「社長についていくだけでこんなにも世界が変わるんだ。」、「短時間で稼いだ。」という内容に変わり、3月には「100 万円稼いだ。」と投稿されていた。稼げるならと興味を持ち、Aさんから教えてもらった社長 2の画像専用SNSのアカウントにメッセージを送ると、社長から「本気で人生変えたいなら会いに来てください。」、「1週間以内に会いに来ないと契約しません。」と返信があった。3月下旬、契約内容も金額も知らされないまま、タワーマンションにある事務所に出向いた。社長から「会員になるとグループ用のメッセージアプリに招待する。FX(外国為替証拠金取引)などの売買のタイミングの情報をアプリに配信するので、同じタイミングで売買した人は全員利益が出る。」、「3か月で月収 100 万円達成した人もいる。」などと説明され、契約金額は 110万円であると言われた。高額なので一度に払えないと伝えると、80 万円はクレジットカードで決済し、残り 30 万円は近くのATMで預金を引き出してくるよう促された。契約書の内容は読まなくてよいと言われたので、読まずに契約書に署名し、現金はその場で支払った。
帰宅して会員専用の動画を見たが、稼げるような内容とは思えなかった。社長の名前をインターネットで検索したが良い評判は見当たらなかったので、消費生活センターに相談し、契約の3日後に、クーリング・オフのハガキを郵送した。数日後、事業者からクレジットの手続きには時間がかかるとメールがあり、顧問弁護士からメール受信日と同日付の受任通知が届いた。7月下旬、クレジットカードで決済した 80 万円はキャンセル扱いとなったが、30 万円については未だ返金されない。クーリング・オフなのだから返金してほしい。
第3 委員会による処理開始と当事者の主張等
本件は、令和3年 10 月 28 日、xxx知事からxxx消費者被害救済委員会(以下「委員会」という。)に付託され、同日、同委員会会長より、その処理が、あっせん・調停第二部会(以下「部会」という。)に委ねられた。
部会における事情聴取時の当事者の主張は、次のとおりである。
1 「“B”」は相手方のサービス名称を置き換えている。以下同じ。
2 「社長」は相手方代表取締役を示す。以下同じ。
1 申立人の主張
(1) 現在は社員として働いているが、相手方と契約をした令和3年3月当時は、アル バイトを2つ掛け持ちして生計を立てていた。個人で事業をしていたわけではなく、事業をする計画もなかった。株やFX取引の経験もない。
(2) 令和3年1月、見ず知らずのAさんという人が自分の利用するSNSにコメントをくれ、それをきっかけにAさんのSNSを見るようになった。仕事の愚痴など普通の内容だったAさんのSNSは、2月中旬から「社長に会いに行って、“B”プログラムを始めた。」、「社長についていくだけでこんなにも世界が変わるんだ。」、「短時間で稼いだ。」というような内容にガラッと変わった。
(3) Aさんが何で稼いでいるのかは分からなかったが、3月中旬、AさんのSNSに
「100 万円稼いだ。社長ありがとう。」と書かれているのを見て、「社長を紹介してほしい。」とコメントしたところ、紹介はしていないと言って、社長の画像専用SN Sのアカウント 3を教えてくれた。
(4) 社長の画像専用SNSに書かれていた相手方の公式のメッセージアプリに連絡 4したところ、社長から「本気で人生変えたいなら会いに来てください。」と返信があった。社長からビジネスや副業の経験を聞かれたので、小遣い稼ぎで、インターネット上のバイナリーオプション 5などをやったが、うまくいかなかったことを伝えた。
(5) 社長とのメッセージアプリのやり取りの中で、社長に「1週間以内に会いに来な いと契約しません。」と言われ、3日後に会う約束をした。Aさんが「“B”プログ ラム」で稼いでいると言っていたので、社長の言う契約は「“B”プログラム」のこ とだと思った。契約というからには多少はお金がかかるかもしれないとは思っていた。
(6) 事前に社長から、サービスの内容や金額についての説明は全くなく、お金や印鑑を持ってくるようにとの指示もなかった。とりあえず会って、社長の話を聞いてみようと思っていたので、契約しようという気持ちを強く持って事務所に行ったわけではない。
(7) 約束した日に相手方事務所のあるタワーマンションに行った。1階にも玄関にも会社名を示すような表札はなかった。オートロックで部屋番号を押して部屋に招き入れられるまでに 30 分ぐらいかかった。事務所には社長しかいなかった。席に着くと、社長からの説明はなく、何か聞きたいことがあるかと言われたので、どうやって稼いでいるのか、投資で稼いでいる方法を人に教えるメリットは何なのか等、自分から幾つか質問した。
(8) 稼ぐ方法については、「“B”プログラムを契約して、会員になり、会員限定の 動画専用サイトの動画を何本か見て、公式のメッセージアプリに感想をアウトプット したらメッセージアプリのグループに招待する。FXだとかバイナリーなどの売買の タイミングの情報をアプリに配信するので、それに乗っかってくれればいいよ。同じ タイミングで売買した人は全員利益が出る。」と言われた。サービス内容についての 説明はこれだけだった。結局、メッセージアプリのグループに招待されていないので、その内容は分からない。
3 本報告書4頁「申立人提出資料①」
4 本報告書4頁「申立人提出資料②」
5 申立人によれば、バイナリーオプションをMLM(マルチレベルマーケティング:連鎖販売取引のこと)に登録して行っていたとのことであるが、本件契約時には退会している。
(9) どうして人に教えるのかと尋ねると、1人で稼いでいても楽しくない、みんなに稼がせて一緒に遊べる仲間をつくったほうが楽しいし、人に教えて人が稼ぐのを見るほうが嬉しいと言っていた。社長に「本気だね。俺は稼がせてあげれるよ。教え子は独立している人もいるし、3か月目に月収 100 万円達成した人もいるよ。」と言われ、実際、Aさんもそうだったと思った。
(10) “B”プログラムの金額については、無償でやっているのかと質問したときに、
「無償じゃないよ、110 万円かかるよ。」と言われた。110 万円と聞いて、高いな、そんなにするんだなと思ったが、Aさんも 100 万円稼いでいたので、それなら 110 万円もすぐ払えると思い契約した。この契約でうまく稼げれば、いい小遣い稼ぎができる、1か月に 10 万円くらい稼げるだけでもいいなと考えていた。
(11) 契約書 6を書くときに、社長にちゃんと読んだほうがいいかと尋ねたところ、どこの契約書にも書いてあることだから読まなくていいよと言われた。押印のとき、印鑑を持っていませんと言うと、指でいいよと社長が朱肉を出してきたので、指印を押した。契約書の中の確認書面は、チェックマークをつけないと契約できないだろうなと思い、読まずに全ての項目にチェックを入れた。社長には何も言われていない。受講に関連した資料などは渡されていない。
(12) 契約書をめくっていたときに、クーリング・オフのページがあり、高額な契約だったので、念のため「クーリング・オフはできるんですかね。」と聞いたら、「クーリング・オフはできるよ。」と社長に言われた。110 万円は高いけれど、クーリング・オフできるのだったら、契約してもいいかなと思った。
(14) 支払いが済むと、社長にFXの口座を登録するように言われ、メッセージアプリに送付された登録方法を見ながらFXの自動売買ソフトのアプリをダウンロードしようとしたが、途中でよく分からなくなり、ダウンロードできなかった。
(15) 家に帰ってから、会員しか見られない動画を一本見た。動画は投資に関することではなく、社長がサラリーマンだった時代から始まって、“B”プログラムをやることによって自由に生活できている、こうやって自分は成功したという内容で、全然中身がなかった。
(17) 会社のメールアドレスにも連絡 9したところ、クレジットの払戻し手続きには時間
6 本報告書4頁「申立人提出資料③」
7 本報告書4頁「申立人提出資料④」
8 本報告書4頁及び5頁「申立人提出資料⑤及び⑥」
9 本報告書5頁「申立人提出資料⑦」
がかかるという内容の返信 10だけが来た。現金で支払った 30 万円については、何の連絡もなかった。
(18) 3月末、相手方の顧問弁護士から、本件の委任を受けたという手紙が届いた。消費生活センターの相談員が何度も連絡したが、弁護士とはなかなか連絡が取れず話し合いが進まないとのことだったので、経緯を書いた書面(経緯書)を弁護士に送った。
(19) クレジットカードで決済された 80 万円は、7月末に取消しになって、クレジットカード会社からの 80 万円の請求はなくなった。しかし、現金で支払った 30 万円は未だに返金されない。クーリング・オフしたのだから、全額返金してもらいたい。
2 相手方への協力要請
相手方の顧問弁護士は、申立人に対し“B”受講契約及びこれらに付帯する一切の件について相手方より委任を受けたとする内容の通知文を送付していた。そのため、事務局は令和3年 10 月 28 日の付託時から、相手方及び相手方の顧問弁護士に対して本件への協力を働きかけ、本件手続きに代理人を立てる場合は、委任状を提出するよう要請していた。しかしながら、部会への出席依頼に対して何らの対応もなされないことから、顧問弁護士に対し対応を求めたところ、同年 12 月3日、顧問弁護士から、
「本件、貴職らとの交渉に関して、当職は委任を受けないこととなりましたので、今後のご連絡は当職ではお受けできかねますので直接お願い致します。」とのメールが事務局宛てに届いた。その後は、相手方に対し、何度も文書にて部会への協力を依頼し、電話等での連絡も試みたが、一度も相手方に直接接触することはできず、文書等による回答も提出されなかった。
(相手方への通知及び働きかけの詳細は資料1のとおり。)
3 確認できた事実
前述のとおり、相手方は、部会での事情聴取、関係資料及び事情聴取の機会に代え た質問回答票の提出など、部会が要請した協力に一切応じなかった。そこで、部会は、申立人の主張のほかに、申立人の提出資料、事務局が入手した相手方の履歴事項全部 証明書、相手方のウェブサイトから事実確認を行った。
(1) 申立人提出資料
申立人から部会に提出があった資料のうち、あっせん案等の検討の事実確認に用いた資料は以下のとおりである。
① 申立人がAから紹介された社長の画像専用SNSのスクリーンショットの写し
② 申立人が相手方の公式メッセージアプリに初めて送信したメッセージのスクリーンショットの写し
③“B”受講契約書の写し
④ 相手方が申立人に発行した電子領収書(契約当日の日付が確認できる)の写し
⑤ 申立人が相手方及びクレジットカード会社に郵送した契約解除(クーリング・オフ)通知(ハガキ)の写し
10 本報告書4頁「申立人提出資料⑧」
⑥ ⑤の通知を郵送した際の「書留・特定記録郵便物等受領証」の写し
⑦ 申立人が相手方に送信したメールの写し
⑧ 令和3年3月末に相手方サポートチームが申立人に送信したメールの写し
⑨ 申立人がクレジットカード会社に対し提出した「支払い停止等のお申出の内容に関する書面」など、クーリング・オフ申出関係書類の写し
(2) 相手方の履歴事項全部証明書
事務局は相手方の履歴事項全部証明書を法務局から取得し、相手方の事業者名、所在地、代表者氏名が契約書と相違ないことを確認した。なお、調停案を郵送する際にも、同様に事業者名等に変更がないことを確認している。
(3) 相手方のウェブサイト
相手方が開設しているウェブサイトは、「Gracias について」、「サービス」、
「企業情報」、「採用情報」、「お問い合わせ」、「“B”会員限定」というペー ジで構成されている。「企業情報」のページには、代表挨拶、企業理念が記載され ているほか、会社概要として、会社名、本社所在地、電話番号(代表)、代表者名、会社設立日、資本金が確認できる。会社概要に記載されている各項目(電話番号を 除く)は、履歴事項全部証明書の内容と相違ないものであった。
4 “B”受講契約ついて
確認できた事実及び申立人の主張から、本件紛争である“B”受講契約(以下「本件契約」という。)について、整理をする。
(1) “B”受講契約書について
本件契約書の1~4ページは全 16 条からなる契約条項 11である。前文には、「申立人名(甲)と株式会社 Gracias(乙)は、乙が甲の事業の発展のために主催する “B”プログラムに関し、次のとおり受講契約を締結する。」という記述が認められる。5ページは支払いに関する「特約条項」、6ページは「特定商取引に関する法律の適用を受ける場合のクーリング・オフについての説明」、7ページは「特定商取引に関する法律に基づく表記」、8ページは「確認書面」12という構成となっており、全8ページがホチキスで綴じられている。
なお、本件契約書の4ページ、8ページに、申立人の署名と指印、相手方の社判の押印が確認できるほか、1ページ目には相手方の社判及び申立人の指印による割印も認められる。
11 主な契約条項として、第1条“B”プログラムの内容、第2条「報酬及び費用(受講料 100 万円(税別)を契約締結時までに支払うことなどが規定されている。)」、第5条「有効期間(契約期間 12 か月)」、第6条「途中解約(1項では中途解約において返金が一切なされないこと、2項では特定商取引に関する法律に基づくクーリング・オフの場合の返金額は協議の上定めること、が規定されている。)」、第 10 条「損害賠償(情報等の流失等が発覚した場合は損害金 1,000 万円を支払うことなどが規定されている。)」などがある。
12 「確認書面」は、申立人が、“B”プログラムの受講契約の内容及び下記の事項(中途解約時に返金ができないことなど)につき十分に理解し、不明点については相手方に質問をして解消した上で、契約の申込みを行いますとあり、全6項のチェックボックスに手書きでチェックが入れられている。
(2) “B”プログラムの内容について
ア 本件契約書による“B”プログラムの内容
本件契約書第1条には、“B”プログラムの内容に関する契約条項があり、講義内容として、以下の内容が定められている。
相手方の保有する
① プログラムに関する情報の教授・指導・助言
② 事業のための「ビジネスマインド向上、ビジネススキルの向上に関するノウハウの教授・指導・助言
③ (消費者)の事業のための SNS 集客スキルに関連するノウハウの教授・指導・助言
④ 投資に関する情報の教授・指導・助言(金融商品取引法その他の法令等に違反しない内容に限る。)
この契約条項から“B”プログラムがどのような内容なのかを理解することはできない。
また、第1条9項には、受講規約が別途定められていると記載されているが、申立人は本件契約書以外、受講規約に関する書面を受け取っていないことから、別途定められた受講規約がどのようなものかは不明である。
イ 相手方ウェブサイトによる“B”プログラムの内容について
相手方ウェブサイトの「Service(サービス)」のページには、「ヒューマンコンサルティング Business School “B”」とあり、その下方には「VIEW MORE」のアイコンが置かれ、そのアイコンをクリックすると、「“B”~Business School
~」のページに移動する。移動したページの「“B”教育プログラム」と称するサービスについては、ファーストステージでビジネスマンとなっていくための基礎を作り、セカンドステージではビジネスマンとして実際に行動する中で自立心と問題解決能力を向上させ利益という結果に繋ぎ、サードステージでは独立のための知識や組織作りのスキルを学び独立支援するなどと紹介されているのみであり、具体的なサービスの内容、提供方法、サービスにかかる費用及び支払い方法等についての記載は全く認められない。このため、“B”プログラムのサービス内容を相手方のウェブサイトで確認することはできない。
(3) 本件契約に係る事実の整理ついて
本件契約は、本件契約書によれば、“B”プログラムを受講するという受講契約であるが、本件契約書及び相手方ウェブサイトから、“B”プログラムの内容を確認することはできない。一方で、申立人の主張 13によれば、“B”プログラムは、投資に関連した情報を会員向けに配信するサービスと考えられる。ただし、申立人は実質的なサービスの提供を受ける前にクーリング・オフしているため、“B”プログラムがどのようなサービスなのか、その実態は不明である。
また、申立人の主張、本件契約書 14及び相手方のウェブサイト 15から、“B”プロ
13 本報告書2頁「申立人の主張(8)」
14 本件契約書第1条6項では、受講内容を、相手方のウェブサイト上における動画配信、コンサルティ
グラムは、インターネットを介したオンラインにより会員に提供されるサービスであると認められる。よって、本件契約で提供されるサービス“B”プログラムは、主に主宰者である相手方がSNS上のツールを利用したオンラインサロン 16により提供される役務であると解される。
5 申立人のクーリング・オフの申出に関しての相手方の対応
申立人は、本件契約の契約日から3日後に、契約解除(クーリング・オフ)通知を相手方及びクレジットカード会社に送付しているほか、社長の個人のメッセージアプリと相手方の公式メッセージアプリ宛てにクーリング・オフの通知をしている。社長からの返信はなかったが、公式メッセージアプリから会社のメールアドレスに連絡するように返信があった。このため、申立人が会社のメールアドレス宛てに連絡したところ、数日後の3月末に、相手方サポートチームから「今回の契約がクレジットカード決済のためにこちらから決済会社に払い戻し申請をしていく必要があります。契約状況の確認と、払い戻し作業に時間がかかる可能性があるので一先ず返答をお待ちいただければと存じます。」と返信メールが届いている
第4 クレジットカード会社への調査協力依頼
部会では、申立人がクレジットカード会社にもクーリング・オフを書面で申出していること、結果的に申立人への当該請求が取り下げられていることなどの経緯を踏まえ、クレジットカード会社に対し協力を依頼したところ、「質問回答票」の提出があった。回答内容は以下のとおりである。
・支払方法は一括払い。
・申立人からの「契約解除(クーリング・オフ)通知」及び「支払い停止等のお申出の内容に関する書面」は受領している。
・相手方から7月○日にキャンセル申請があり、請求の取消処理を行った。
・加盟店の管理は、加盟店管理会社(アクワイアラー)が管理している(加盟店管理会社の社名は未記載であった)。
・本件について加盟店調査を実施した(クレジットカード会社が加盟店管理会社に指示したとのことである)。
・調査内容は、申出内容の事実確認を求めた。
・結果報告はなく、7月○日に取消データが届く(立替金の返金)。
なお、加盟店管理会社の社名記載欄が未記載であったことから、事務局から電話で問い合わせたところ、担当者から「未解決の場合は、加盟店管理会社に承諾をとったうえで、
ング、電話、メール、メッセンジャーアプリケーションなどの方法により提供すると定めている。
15 相手方ウェブサイトには、“B”会員限定のページがある。SNSのアカウント又はメールアドレスを入力し、設定したパスワードを入力することで、ログイン可能となっている。
16 オンラインサロンとは、インターネット上の会員制コミュニティサイトの総称である。オンラインサロンには、いわゆるプラットフォーム事業者のサービスを提供したサロン(プラットフォーム型サロン)と主宰者が独自にSNS上のツールを利用してサロン(独自型サロン)を開設しているケースがある。(参考:消費者庁第 41 回インターネット連絡協議会(2021 年5月 30 日)三菱 UFJ リサーチコンサルティング株式会社発表資料「オンラインサロンの動向整理」
社名を伝えることもあるが、本件は当社としては解決済みの案件であり、現段階で加盟店管理会社の社名をお伝えすることは控えたい。」との説明があった。
クレジットカード会社の回答から、クレジット決済は、相手方の申請によりキャンセル処理がなされたことが確認できた。
第5 委員会の処理結果
部会は、令和3年 11 月 12 日から令和4年2月3日までの4回にわたって開催された。
(処理経過は資料2のとおり)
令和4年1月 17 日、xxxx案を申立人及び相手方に送付した。併せて、相手方には、あっせん案に対する意見交換の機会を設けるので、複数の候補日を示したうえで出席可能 な日を連絡するよう要請した。要請に際しては、回答期限までにあっせん案に対する回答 がない場合は、あっせん案を拒否し、意見交換の機会を辞退する意向であるとみなし、調 停手続きに移る旨書き添え、意見交換の機会を辞退する場合は質問回答票を提出するよう 求めた。申立人からは、あっせん案を受諾する旨の回答があったが、相手方からは、あっ せん案に対する回答書、意見交換への出席連絡票及び質問回答票のいずれも期日までに提 出されなかった。
同年2月4日、相手方に調停案を内容証明郵便で送付し受諾を勧告した。調停案を示すに当たり、本委員会は、あっせん案の内容で解決することが社会的にxxかつ妥当であると確認し、調停案はあっせん案と同等のものとなったが、調停案に対しても相手方からは何ら回答がなかった。
部会は、「あっせん」、「調停」のいずれもが、相手方の拒否により不調となったため、令和4年3月7日、本部会における解決処理の手続を終えることとした。
【あっせん案・調停案の内容】
申立人と相手方の間で令和3年3月○日に締結された“B”受講契約(契約金額 1,100,000 円、以下「本件契約」という。)は、訪問販売(特定商取引に関する法律第2条第1項第2号、政令第1条第1号)に該当することから、以下のとおり合意する。
1 相手方は、特定商取引に関する法律第9条第1項に基づき本件契約が解除(クーリング・オフ)されたことを認める。
2 相手方は、申立人が相手方に支払った本件契約書第2条に定める受講料
1,100,000 円(税込み)のうち、相手方自らがクレジットカード会社に請求の取消
処理を行った 800,000 円を除く、申立人が相手方に現金で支払った 300,000 円を返還する義務があることを認める。
3 相手方は、上記2の返還すべき金額 300,000 円を、申立人の指定する金融機関口座に令和4年2月 25 日(調停案では同年3月 10 日)までに、全額を一括で振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は相手方の負担とする。
4 申立人と相手方は、本件契約に関して、本あっせん条項に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
5 申立人及び相手方は、本件契約の紛争に関する費用については、各自の負担とする。
第6 報告に当たってのコメント
1 あっせん案の考え方
(1) 本件契約のあっせん案に係る法的問題点
本件申立人は、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)第9条に基づき、訪問販売におけるクーリング・オフ権を行使して、相手方に対して返金を求め、かつ、債務不存在の確認を求めるものである。
本件において、xxxは、自己のSNS投稿への第三者Aからのコメントをきっかけに、相手方の代表取締役(以下「代表者」という。)の存在を知ることになった。 A自身のSNS投稿によれば、代表者に「ついていくだけ」で短期間の投資によって多大な利益を獲得したとのことであった。興味を持った申立人はAに連絡先を尋ね、自分から積極的に代表者に対して連絡をとっている。代表者は、相手方公式メッセージアプリによる返信の中で申立人に対して「一週間以内」の来訪を要請したため、申立人は、最初の連絡からわずか3日後には、相手方事務所(タワーマンションの一室)へ来訪することとなった。来訪要請に際しては、「会いに」来てくださいといった表現が用いられており、申立人の来訪目的も、まずは代表者から詳しい話を聞くためであったことがヒアリングから窺えた。
だが、来訪当日、申立人が聞きたいと願っていた短期間の投資で多大な利益を上げる方法について具体的な話がなされることはなく、”B”プログラムを受講するという本件オンラインサロン契約とその金額について唐突に話が出され、その後は、もっぱら契約金の支払方法についての話し合いが行われることとなった。
以下では、こうした経緯を背景に、本件あっせん案の提示にあたり検討された主要論点について述べる。
ア 訪問販売該当性について
【「訪問販売」の定義(特定商取引法第2条第1項第2号)】
販売業者又は役務提供業者が、営業所等において、営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させたものその他政令で定める方法により誘引したもの(以下「特定顧客」という。)から売買契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と売買契約を締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は特定顧客から役務提供契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と役務提供契約を締結して行う役務の提供
【特定顧客の誘引方法(特定商取引法施行令第1条第1号)】
電話、郵便、民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十
前述の通り、申立人は、自ら相手方事務所に赴いているため、直接的な「訪問販売」にはあたらない。だが、特定商取引法第2条第1項第2号、政令第1条第1号は、契約の締結が勧誘の目的であることを告げずに、政令指定された誘引方法で来訪要請した場合を「販売目的隠匿型」アポイントメントセールスとして規制の対象としていることから、本件における申立人が同法における「特定顧客」に該当するか否かが問題となる。
九号)第二条第六項に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項に規定する特定信書便事業者による同条第二項に規定する信書便(以下「信書便」という。)、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは法第十二条の三第一項に規定する電磁的方法(以下「電磁的方法」という。)により、若しくはビラ若しくはパンフレットを配布し若しくは拡声器で住居の外から呼び掛けることにより、又は住居を訪問して、当該売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに営業所その他特定の場所への来訪を要請すること。
【電磁的方法(特定商取引に関する法律等の施行について(通達)令和3年6月
29 日】
「電磁的方法」については省令(特定商取引に関する法律施行規則)第11条の
2第 1 号から第3号までに掲げるものが対象となる。第11条の2第3号はいわゆるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス) のメッセージ機能等を使用する方法を規定したものである。これらの方法については、特定の個人に対して送信するもののほか、グループ内のメンバー等のあらかじめ特定された複数
の者に対して一斉送信する場合も対象となる。
そこで、本件において、相手方は、申立人に来訪を要請するに際し、契約の締結が勧誘の目的であること(販売意図)を告げていたと認定されうるか、あるいは、告げていたと法的に評価されうるかが問題となる。
(ア) 特定商取引法における勧誘目的隠匿来訪要請の考え方
通達(「特定商取引に関する法律等の施行について」令和4年2月9日付、第2章第1節1(8)、以下「通達」という。)によれば、「勧誘の対象になる商品等について、自らそれを扱う販売業者等であると告げたからといって、必ずしも当該商品について勧誘する意図を告げたものと解されるわけではない」とされ、以下のような場合には「勧誘する意図を告げたことにはならない」とされている。
・「見るだけでいいから」と告げるなど販売意図を否定しているとき
・着物の着付け教室と同会場で着物の即売会が行われる場合において、実際には着物を購入しなければ講習自体も受けられないにもかかわらず、着付け教室のみの参加が可能であるように表示しているとき
・パーティや食事会への招待のように告げながら、パンフレット等に消費者の目に留まらないような小さい文字で「新作商品をお勧めする場合があります。」と記載するなど、実質的に販売する意図が示されているとは言えない場合
また、『特定商取引法ハンドブック』17 においても、販売目的隠匿の方法について、「抽選で当たりました。プレゼントを渡しますから取りに来てください」などと、販売以外の目的を告げて呼び出す方法が典型であるが、何を告げる
17 xxxx・xxxx・xxxx『第 6 版 特定商取引法ハンドブック』(2019)株式会社日本評論社。
かは限定されていないとして、以下のような場合が例示されている(同書、138
~139 頁)。
・教材やビデオの販売目的であるのにレジャークラブ会員権の説明をする旨告げて呼び出す行為
・郵便やビラの片隅に小さく商品販売の趣旨が記載されていても、文書全体の趣旨や記載状態からみて通常の消費者が販売目的を認識できないような記載しかない場合
その上で、「要は、呼び出しの趣旨と実際の販売目的を対比して、消費者に不意打ちを与えるものか否かを判断することになる」としている(同書、138~139頁)。
さらに、『条解消費者三法』18 において、販売業者や役務提供事業者が販売 目的を表示したり、販売目的を告げて来訪を要請した場合、それに応じて営業所 等に来訪した顧客は特定顧客には該当しないが、「問題は、どの程度告知したり、表示をすれば、販売目的を告知したと評価できるかである」とされている(同書、 339~340 頁)。
以上の点に着目して、次項で検討を続ける。
(イ) 販売目的の告知の有無に関する評価について
既述のように、「特定顧客」の該当性が認められるためには、販売業者や役務提供事業者が、売買契約または役務提供契約の締結について勧誘をするための意図や目的があるのに、そのことを告げずに営業所その他の特定の場所への来訪が要請されたことの認定が必要である。
この点について、本件において、相手方は「1週間以内に会いに来ないと契約しません。」と述べるなど、来訪要請にあたっては「契約」という言葉が周到に用いられている。その結果、申立人としても、当日の話の流れ次第では何らかの契約をするということもありうるとの認識があったことは否定できない。
しかしながら、具体的な契約内容や金額について、申立人が当日まで相手方から知らされることは一切なかった。そして、申立人が相手方に「会うこと」と
「契約締結すること」とを必ずしも関連付けて同一のこととして捉えていなかっ たことは、契約締結にあたって社会的通念上不可欠とも言える印鑑を申立人が来 訪当日に持参していなかったことからも明らかである。むしろ、ヒアリングから は、申立人にとってあくまで訪問は、まずは相手方と面識をもつこと、そして、 相手方がこれまでに多くの人を富ましてきたという俄かには信じ難い話について、より確信をえられるような情報を得たいといった気持ちに動かされたものであっ たことが、窺えた。
また、そもそも、勧誘目的隠匿型のアポイントメントセールスが「訪問販売」に該当する理由について、『特定商取引法ハンドブック』によれば、「販売業者が消費者に対し、販売目的を明らかにしないで営業所等への来訪を要請し、そこで突然商品販売を始めることは、不意打ち性・攻撃性において営業所外での訪問販売と何ら異ならない」とし、「むしろ、販売目的を隠しておいて営業所に引き
18 xxxx・xxxx・xxxx『条解 消費者三法 第2版』(2021)株式会社弘文堂。
込む手口自体が悪質商法の典型的手法であるし、心の準備もなく営業所に誘い込まれた消費者にとっては、自宅等での訪問販売以上に心理的威圧感が大きい」として、その不意打ち性や心理的威圧感の大きさが問題視されている(同書、137頁)。
このように、勧誘目的隠匿型アポイントメントセールスが規制される理由として、こうした商法に内在する不意打ち性や心理的威圧感に注目するとき、目的の告知があったと評価するにあたっては、消費者にとって、当該契約締結をめぐって不意打ち性がなかったと言えるか、また心理的威圧感がなかったと言えるかが重要視されるべきと考える。
この点について、本件において、相手方からは「1週間以内に」という来訪要請に加えて、来訪当日の相手方から申立人への「本気」か否かを確かめるような発言がなされている点が注目されるべきである。相手方のこうした発言や態度によって、申立人は、情報を要求したり、検討時間を求めることで相手方の気分を損ね、せっかくの利得の可能性を逃してしまうかもしれない、といった不安や焦りを抱くような心理状況に追いやられた。その結果、申立人は、契約締結を意思決定する際に必要となる情報を相手方から一切得られていないにもかかわらず、契約締結の必要性の有無を冷静に判断し、契約締結をいったん保留するといった選択の機会を奪われたのである。
以上の点から、本件において、相手方の来訪要請 19 は、申立人にとって不意打ち性を有しており、また、心理的威圧を伴っていたと認められることから、
「契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに営業所その他特定の場所への来訪を要請すること」(特定商取引に関する法律施行令第1条第
1号)にあたり、従って、申立人は「特定顧客」に該当すると考えられる(特定商取引法第2条第1項第2号)。
(ウ) 適用除外の可能性
なお、特定商取引法第 26 条第6項第1号において、「その住居において売買契約若しくは役務提供契約の申込みをし又は売買契約若しくは役務提供契約を締結することを請求した者」は、特定商取引法の第4条から第 10 条の適用除外となると規定されている。このように「請求訪販」を適用除外とした趣旨は、「購入者側に訪問販売の方法によって商品等を購入する取引意思があらかじめ形成されているのが通常であること、消費者と販売業者との間に従前からの取引関係があるのが通常であることから、不意打ちのおそれがないと認められるからである」とされている(『特定商取引法ハンドブック』、106 頁)。
他方、消費者庁は、令和3年8月 18 日に公表した「訪問販売等の適用除外に
関するQ&A」20において、ポスティングされたチラシに「鍵の修理 3,000 円
~」とあったので修理を依頼したところ、高額な修理代金が必要とされたという
19 なお、本件において呼び出し手段として SNS が利用されているが、こうした SNS も「電磁的方法」として販売目的秘匿型の場合の呼出手段として規定されている(特定商取引に関する法律施行規則第 11条の2第3号)。
20 xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxx/xxxxxxxx_xxxxxxxxxxx_xxx000_000000_00_0.xxx(「訪問販売等の適用除外に関するQ&A」の解釈は、令和4年2月9日に改正された通達に反映されている)。
設問に対し、以下のとおりの解釈を示している。
・チラシの表示額と実際の請求額に相当な開きがあることから、消費者は、当初修理依頼をした段階では、安価なチラシの表示額で契約を締結する程度の意思しか有しておらず、実際に請求された高額な請求額で契約を締結する意思は有していなかったことは明らか
・当該契約の申込み又は締結を行いたい旨の明確な意思表示をしたといえないのであれば、「請求した者」とはいえず、適用除外の対象とはならない
この点、本件は「アポイントメントセールス」であり、消費者自らが事業者 の来訪を依頼して自己の「住居において」契約の締結を請求する「請求訪販」と は、直接的には態様・場面が異なる。ただし、本件では、最初に申立人自らが相 手方にコンタクトをとったことが端緒となって相手方からの来訪要請が開始され、申立人が相手方を訪問した際に契約が締結されており、いわば請求訪販とアポイ ントメントセールスが組み合わさったものとして捉えられる面もあることから、 念のため検討する。
既述のように、請求訪販においては、消費者が自宅に事業者を招請するにあたって「契約の申込み又は締結をする意思」を「あらかじめ有し」ており、実際に事業者が訪問した際に消費者が「当該」契約の「申込み又は締結を行いたい旨の明確な意思表示をした」場合には、訪問販売の規制が適用されない 21 。こうした場合には、不意打ち性が存在せず、契約締結は消費者が自律した判断の結果であると合理的に認めることができるからである。
そうであるならば、契約締結を念頭に置きつつも、さらに情報を得るために 事業者に自宅への訪問を請求したという場合には、適用除外とならない点に注意 が必要である 22。このように解釈しなければ、事業者は、消費者が契約締結の有 無を判断するにあたって必要な情報を明らかにしないことによって、かえって消 費者を引き寄せることができ、しかもクーリング・オフ権を奪うことができる、 といった矛盾がおきかねない。なお、書面交付に関する法的義務(特定商取引法 第4条及び第5条)に加えて、消費者契約の締結について勧誘をするに際して、 消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するこ とは、事業者に課せられた努力義務である(消費者契約法第3条第1項第2号)。
さらに、消費者の自律的判断を阻害する要因として事業者からの「つけ込み」を広く捉えるとき、自宅であっても閉された空間であることに加えて、詳し
21 通達によれば、購入者が、「○○を購入するから来訪されたい」等、「契約の申込み」又は「契約の締結」を明確に表示した場合の他、契約内容の詳細が確定していることを要しないが、購入者が契約の申込み又は締結をする意思を「あらかじめ有し」、その住居において「当該」契約の申込み又は締結を行いたい旨の「明確な意思表示をした」場合、「請求した者」に当たるとされている(第2章第5節1 (10))。
22 この点に関連して、「契約準備に当たる行為」のために消費者が事業者に自宅への来訪を求めても、特定商取引法第 26 条第2項第1号における「請求」に当たるとは解されず、来訪の依頼に先立って消費者の「主体的な取引意思」があらかじめ存在していたことが必要である点について、通達(令和4年
2月9日付、第2章5節1(10))、及び、xxxx・xxxx・xxxx『条解 消費者三法〔第2版〕』(弘文堂、2021 年)805 頁、さらに、訪問購入の適用除外(特定商取引法第 58 条の 17、第2項第1号)に関する「請求」についての通達(第5章の2、13(2))を参照。
い情報を得るためとはいえ自ら来訪を依頼したことから、不利な契約条件であることが判明しても締結を固辞することが困難になるといった心理状態―心理的威圧(感)23―にも注目する必要があろう。
以上により、消費者からの来訪依頼に起因した特定商取引法の適用除外については、特定商取引法の趣旨に照らし、(事業者の)訪問前における消費者の主体的な取引意思の有無、(事業者の)訪問時における不意打ち性や心理的威圧の有無に注意した上で、厳格な限定解釈がとられることが重要と考える。
ここで、本件についてみるに、xxxxxによれば、申立人は、相手方を訪 問するに先立ち、「契約」という単語を相手方が告げるのを聞かされたのみで、 金額を含め契約内容については一切知らされていなかったことから、本件契約を 締結する意思をあらかじめ有していたわけではない(むしろ、あまりに基本情報 が欠けており、契約締結意思を形成しようがなかったとも言える)ことは既述の 通りである。また、訪問当日の話の成り行きによっては契約する可能性があるか もしれない(そして、そうした場合には、何らかの対価を払うことになるだろ う)といった漠然とした認識があったとしても、ヒアリングによれば、110 万円 という高額な金額で契約を締結することを到底予期しえなかったとのことであり、依然として、相手方による勧誘の不意打ち性は否定できないのである。
以上により、本件を請求訪販とアポイントメントセールスの組み合わせとして捉えたとしても、申立人は、特定商取引法第 26 条第6項第1号における「請求した者」に当たらず、本件で締結された役務提供契約は適用除外には該当しないと考える。
イ クーリング・オフが成立したときの効果
(ア) 返還金額
申立人は、相手方に対し、クレジットカードを利用して 80 万円を支払い、さらに、30 万円を現金で支払っている。このうち、80 万円についてはクレジット会社を通して申立人への請求の取消しが行われているため、相手方は特定商取引法第9条第6項に基づき、申立人に対して 30 万円を速やかに返還する義務を負う。
(イ) 違約金
相手方は、クーリング・オフに伴う損害賠償又は違約金の支払いを請求するこ とはできず(特定商取引法第9条第3項)、すでに役務が提供されたときにおい ても、当該役務の対価を請求することはできない(特定商取引法第9条第5項)。そのため、本件において、申立人は一部動画を視聴しているが、違約金を支払う 必要はない。
この点について、本件契約書第6条2項において、特定商取引法のクーリン
23 消費者が事業者に対して説明を求めることは、本来、消費者の権利であり、契約締結を判断するための基礎となる資料を集めるための正当な行為であるが、消費者はむしろ「ここまで説明されたら逃げられないと心理的に追い込まれ」契約を了承してしまうことが多いのが実態なようである(第7回特定商取引法専門調査会(2015 年 6 月 14 日)への消費者庁提出資料(「アポイントメントセールスに関する状況」)中の「対面での来訪要請」に関する事例を参照)。 xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxxx/xxxxxxx/00/xxxxxxxxxxx/xxxxxxx/xxx/00000000_xxxxxxxx0.xxx
グ・オフの場合の返金額は甲乙協議とあるが、特定商取引法に基づくクーリング・オフは無条件解約権であるので、消費者は金銭等の負担なく契約から離脱できる。
なお、中途解約に関する本件契約書第6条1項はクーリング・オフの場合には適用がないが、いずれにせよ、中途解約時に一切返金しないとする条項は、解除により相手方に生ずべき「平均的な損害」を超える部分については無効である
(消費者契約法第9条第1号)。
(2) 本件契約のその他の法的問題点
本件に関連して、申立人の希望がクーリング・オフ権の行使であったことからあっせん案には直接的に反映させなかったものの、以下では、その他の法的論点として特に重要と考えたものについて述べる。
ア 消費者契約法の問題―――脆弱性への「つけ込み」をめぐる問題
本件は、平成 30 年改正の際に喫緊の課題とされていながらも未だ創設には至っていない(広い意味での)「つけ込み型勧誘」に属する事案であったといえるように思われる。
平成 30 年の消費者契約法改正(第二次改正)においては、消費者が取り消しうる「つけ込み」型勧誘の類型拡大が図られた。だが、限定的な類型の追加に留まっている上に、「社会生活上の経験の乏しさ」や「判断能力の著しい低下」を求めるなど要件が厳格に規定されていることから、救済範囲が極めて狭いものとなっている 24 。今後もしたたかに増え続けるであろう「つけ込み」型勧誘に真に対応するには、消費者による主体的な取引――主観的意思形成――の有無に着目した、より抜本的な改正が必要と思われる。
この点に関連して、昨今、不当勧誘行為類型の追加および要件緩和をめぐって、消費者契約法の改正の議論が進められてきた。たとえば、令和3年9月に「消費者契約法に関する検討会」が公表した報告書においては、「消費者の心理状態に着目した規定の問題の所在」として、悪質な事業者は、「人の構成要件である認知(あたま)、感情(xxx)及び身体(からだ)の3要素に働きかけることで、消費者に慎重な検討(熟慮)をさせないよう仕向け、消費者を直感的で便宜的な思考(ヒューリスティックな判断)に誘導している」とし、「ヒューリスティックな判断に誘導する勧誘手段」として、①消費者の検討時間を制限して焦らせる、②広告とは異なる内容の勧誘を行って不意を突く、③長時間の勧誘により疲弊させるといった手法の存在が指摘されている 25 。そこで、法的対応として、上記のような「正常な商習慣に照らして不当に消費者の判断の前提となる環境に対して働きかける勧誘
24 社会生活上の経験不足の不当な利用(不安をあおる告知)、社会生活上の経験不足の不当な利用(好意の感情の不当な利用)、加齢等による判断力の低下の不当な利用、霊感等による知見を用いた告知、契約締結前に債務の内容を実施、契約締結前の事業活動による損失補償の請求などが新たな取消類型として追加された(消費者契約法第4条3項3号から8号)。だが、「攻撃的な行為」や「誤認を惹起する行為」といった包括的な規定を置くイギリス法や EU 法と比較するとき、依然として、その射程範囲の狭さが注目される。
25 消費者契約に関する検討会『報告書』(令和3年9月)、7頁。
手法を極端な形で用いる」ことにより、「消費者が慎重に検討する機会を奪う行為」に対する規制が考えられるとされている 26 。同報告書において、消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用した勧誘(いわゆる「つけ込み型」勧誘)に関する取消xxの規律について議論がなされている点については、一定の評価ができるように思われる。
ただし、事業者が、その優位・有利な状況・立場を利用して、消費者が意思決定を自由にできない環境を意図的に作り出した上で契約締結へと導く手法は多種多様である。要件を具体化し限定しようとすればするほど、悪質な業者はその隙間を狙う。類型を細かく立てて、場面ごとに限定的に対応するといった方向性に留まり、要件化にこだわるあまり、かえって事業者に「ここまでは、違法と言われずに不当であってもできる」という負のメッセージを送ってしまうことは避けなければならない。
この点、本件における相手方による一連の行為は、社会生活上の経験に加えて投資経験の少ない若年者に対して、消費者契約法第3条第1項第2号において求められる「物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、個々の消費者の知識及び経験を考慮した」適切な情報提供を怠ったばかりでなく、前記報告書で指摘されていた「検討時間を制限して焦らせる」手法を用いることによって、その脆弱性につけ込んだ事案であったと捉えることができるように思われる。なお、本件では、契約書において、契約目的に関連して「乙(相手方)が甲(x xx)の事業の発展のために」や甲は「自らの事業のために利用する」といった文言が用いられているが、申立人の生活状況に照らして実態に即していないことは明らかであり、形式的な文言のみによって申立人の消費者性は失われるべきではない
と考える 28 。
また、特定商取引法第 26 条第1項第1号では、「営業のために若しくは営業と して締結するもの」は、訪問販売等に関する規定が全て適用除外となるとされてい る。そこで、本件契約が本号における適用除外規定に該当するかが問題になりうる。だが、xxxxxによれば、本件において、申立人は「稼ぎたい」と思って本件契 約を締結しているが、それは営業を目的としたものではなく、小遣い稼ぎの範囲と のことであった。
そこで、消費者庁による「訪問販売等の適用除外に関するQ&A」(令和3年8
26 前掲、注 25 参照。
27 なお、第三次改正となる、今回の消費者契約法の改正案(令和4年3月1日、国会提出法案)では、
「勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘」、「威迫する言動を交え相談の連絡を妨害」、
「契約前に目的物の現状を変更し原状回復を著しく困難にする」といった場合について、契約の取消権が追加されるに留まっている。
28 消費者庁消費者制度課編『逐条解説 消費者契約法[第4版]』(商事法務、2019 年)99~100 頁参照。
月 18 日公表)29 の趣旨に照らし、本件において申立人は、「社会通念上事業の遂行とみられる程度の社会的地位を形成していない、消費者が契約の対象となる商品を利用した利益活動に必要な設備等を準備していない」状況にあり、営業性があると認めることはできないと考える。特に、本件において申立人は、投資「取引に習熟していると認められ」ない(むしろ、脆弱性を有していた)点については、既述の通りである。
イ 特定商取引法上の問題―――法定書面の不交付・不備
特定商取引法に基づく法定書面の不交付・不備がある場合は、クーリング・オフ期間が起算されないことから、改めて法定書面が交付されてから8日間までが経過するまで、消費者はクーリング・オフ権を行使できる。
本件では、本件契約書第1条9項に「別途定める受講規約の内容につき」とあるが、消費者は契約時に別途定める受講規約を交付されていないために契約内容が特定でき ない点において、法定書面の不交付・不備が認められると考える(特定商取引法第4 条及び第5条)。
なお、本件において、相手方はクーリング・オフについて、契約書上は明記しているものの、口頭での説明までは行っていない。むしろ、契約書自体は、「読まなくていいよ」と述べており、申立人からの「クーリング・オフはできるんですかね」という問いかけに対し、「クーリング・オフはできるよ」とは答えるに留まっている。だが、通達(令和4年2月9日付)では、「クーリング・オフについては、契約の申込みを受け又は契約を締結する際、必ず口頭でも説明を行うよう販売業者等を指導されたい。」とされている。
ウ 民法上の問題―――錯誤、契約不適合責任、不法行為責任
本件あっせん案の提示にあたっては、契約の成立があったことを前提とした議論が 進められたが、本件で問題とされた契約は、既述の通り、相手方から十分な情報提供 がなされず、また、契約書を読んでも内容がつかみにくいものであった。だが、少な くとも、申立人に対するヒアリングから、契約の履行として相手方からアクセスを許 された配信動画は申立人が期待していた内容とは全く異なるもの(具体的には、相手 方の代表者の単なる自己紹介と体験談のようなもの)であったことが窺える。そこで、民法上の錯誤、あるいは、契約不適合責任を主張して、契約の取消し(民法第 95
条)、あるいは、代金減額請求(民法第 563 条)、損害賠償請求(民法第 564 条、第
415 条)、解除(民法第 564 条、第 541 条)を主張することも可能であったと考える。なお、本件のような場合には、相手方による履行の追完は期待しにくいと思われる
(民法第 562 条)。
また、本件契約締結に至るまでの相手方の一連の勧誘態様――既述のような「つけ込み」行為の存在――に着目するとき、不法行為が成立する余地もあると考える 30。
29 前掲、注 20 参照。令和4年2月9日に改正された通達によれば、消費者が当該取引に習熟していると認められないのであれば、「営業のために若しくは営業として締結するもの」には該当せず、適用除外に当たらないという解釈を示している。
30 若年の消費者に対するコンサルティング役務提供を謳った虚偽の勧誘について不法行為責任(詐欺の成立)が認められた裁判例(東京地判平成 29 年 10 月 27 日)や、比較的若年の消費者が陥っていた状
2 同種・類似被害の再発防止に向けて
(1) 事業者に向けて
ア 本件の特筆すべき問題点について
(ア) 本件の特筆すべき問題点は、相手方が本件紛争の解決に徹底的に協力しなかった点にある。部会では当事者双方から事実関係を聴取し、争点について双方から意見を求め迅速な紛争解決が期待されている。相手方には顧問弁護士がおり申立人が相手方との契約をクーリング・オフした後、当該弁護士から申立人に対し受任したことが通知されたが、当該弁護士は部会の相手方代理人としては受任しなかった。相手方は他の弁護士に対応を委任することもなく、相手方の代表者も、事務局からの再三の連絡をすべて無視し、部会への事情聴取に応じなかった。書面による質問に対しても一切回答せず無視し、相手方が提供するウェブサイト上のお問い合わせフォームからの連絡も無視し、電話をかけても音声アナウンスが流れた後自動的に切断する設定にして一切連絡が取れないようにしている。そしてあっせん案及び調停案に対しても全く回答せず無視した。
相手方は、その代表者が申立人との契約締結を主導しただけでなく、契約締結前の連絡対応からすべて代表者1人で申立人と交渉しており、事実を直接、見聞きしているのは代表者を除きほかには誰もいない事案である。したがって事案の解明と紛争解決には、相手方の代表者による協力は必須であるにもかかわらず、上記のとおり徹底的に非協力の態度で一貫している。
(イ) しかしそもそもxxx消費者被害救済委員会は、消費者が事業者との間で生じた苦情処理及び紛争解決の促進という趣旨により設けられた制度であり、事業者には消費者との間に生じた苦情を適切かつ迅速に処理するために必要な体制の整備に努め当該苦情を適切に処理する責務及び国及び地方公共団体が実施する消費者政策に協力すべき責務がある(消費者基本法第5条第1項第4号・第5号)。したがって相手方は申立人の苦情を適切かつ迅速に処理するため部会に参加し協力すべき責務があるにもかかわらず、部会へ参加せず一切の協力を拒絶していることから相手方は上記責務に反している。
本件相手方には事業者として消費者との紛争を生じた場合、その苦情に向き合う責務があることを深く自覚し積極的に部会に協力することが強く求められる。
x 勧誘方法の問題点について
(ア) 本件で申立人が相手方の代表者と接触するように至った経緯は、申立人が利用するSNSにxxの第三者Aがコメントしたことを端緒として、その後、Aから申立人に相手方の提供するサービスを利用して 100 万円の利益が上がったなどの情報を得たことによる。申立人はAに相手方の代表者への紹介を求めたが、直接、その代表者に連絡すればいいということで代表者の画像専用SNSのアカウントを教えてもらい、そこに貼り付けてあった事業者の公式メッセージアプリの URLから直接、代表者に連絡をしたというものである。
況的脆弱性につけ込み、「軽率又は稚拙な判断能力の低下に乗じ」「意図及び経済状況を無視した社会的相当性を欠く販売方法」を用いた開運アクセサリーの繰り返し販売について一部不法行為責任が認められた裁判例(大阪高判令和元年 12 月 15 日)を参照。
相手方の代表者とAとの関係は不明である。しかし仮にAが相手方の従業員などの関係者であったり、SNSを利用して顧客紹介などの委託を請けていたとすれば、一連の仕組みは、第三者による接触が契約の勧誘であることを消費者にそれと知られず警戒心を抱かせないまま、消費者自ら事業者にアクセスさせるよう誘導する「ステルス勧誘」とでもいうべき巧妙な勧誘手法である。このようなステルス勧誘は消費者に一連の仕組みが勧誘であるとの認識を極めて困難にする点で問題がある。
(イ) また本件の契約締結前の事業者との連絡における特徴として、申立人が相手方の代表者へ連絡した後も、代表者は契約締結目的を明かさないまま、公式メッセージアプリを通じて、申立人に「本気で人生を変えたいなら会いに来て下さい。」などと抽象的な物言いをして来所を促している。また申立人は予め上記の Aから金儲けができた成功例などを聞いているので、「契約内容はわからないが、もしかすると何か契約することになるかも知れない」と思わされており、本件は契約勧誘目的隠匿型の訪問販売(特定商取引法第2条第1項第2号、政令第
1条第1号)には該当しないとの抜け道を用意するかのような脱法的手法が取られている点が問題である。
(ウ) この点事業者には、消費者との取引におけるxxの確保、消費者に対しては必要な情報を明確かつ平易に提供する責務があるので(消費者基本法第5条第1項第1号・第2号)、ステルス勧誘はなされるべきではなく消費者が契約締結目的による勧誘であることがわかる方法での勧誘がなされるべきである。
また「役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げ」たといえるには(特定商取引法第2条第1項第2号、政令第1条第1号)、契約締結目的隠匿型の訪問販売が消費者に対する不意打ち防止の趣旨から設けられた類型であることからすれば、契約内容の詳細まで告げる必要はないとしても、少なくとも相手方は当該契約の重要な点、すなわち事業者から消費者に提供されるサービスの具体的内容と消費者が事業者に支払う対価の金額は事前に告げることが求められる。また、相手方が提供するウェブサイトでは、当該契約内容については抽象的な事業内容が表示されているのみであったが、不意打ち防止の趣旨からすれば、契約の重要な情報が得られる内容を表示することが期待されていることを事業者は認識すべきである。
ウ つけ込み型勧誘の問題点について
(ア) 本件では相手方は、申立人の社会生活上の経験が乏しいことを利用して契約締結に成功している。
申立人は契約当時、20 歳代後半と比較的若年であり、アルバイトを2件掛け持ちして生計を立てており、副業により小遣いにできる収入を期待していた。相手方の代表者は申立人と面談前に、公式メッセージアプリで過去の副業経験とその結果の回答を求め、申立人はバイナリーオプション等により副業収入を得ようとしたが利益がでていないと回答しており、代表者は面談前に申立人が副業収入を願望していることを知悉している。申立人は相手方のサービスを利用して 100万円儲かったなどという第三者の話を鵜呑みにして、事業者から提供されるサービスを利用すれば自分も同じように儲けることができるのだろうと軽信してい
る。また代表者との面談時にも、代表者からFXやバイナリーオプションの取引のタイミングを配信するのでその情報に乗って取引きすると聞き、社長の言うとおりにすれば自分も儲かると軽信している。そして申立人は代表者から契約書は読まずともよいと言われ、契約書をきちんと読まないまま署名し拇印をして契約締結し、代表者と面談したその日にサービスの対価金 110 万円(税込)の支払を求められ、カード払い(80 万円)と相手方のあるマンション内のATMで下した現金(30 万円)で支払っている。
しかし社会生活上の経験がある程度ある者ならば、100 万円ものxxが容易に稼げるわけがなく、FXやバイナリーオプションの騰落を正確に予想することな ど誰にもできることではないことを認識し、本件契約の対価は申立人の月収の数 倍もの高額であるから一旦持ち帰るなど冷静な対応を取るべきであったろう。少 なくとも契約書を読み、不明な点は質問するなど適切な対応を取ることが期待さ れるが、申立人は社会生活上の経験に加えて投資に関する知識や経験が乏しくそ のような合理的行動が取れず、相手方はそれに乗じて契約締結に成功している。 (イ) そもそも事業者には、消費者との取引に際しては、消費者の知識、経験及び財産の状況等に配慮すべき責務がある(消費者基本法第5条第1項第3号)。した がって事業者は、本件のような高額の支払いを要する契約を締結するに当たって は、適合性に問題がないか十分に配慮し、即日の契約締結はさせず一旦持ち帰ら
せ慎重に判断させるなど再考の機会を与えるなどの対応が求められる。
エ 契約手続及び契約書の記載事項に関する問題点について
(ア) 本件契約書及び確認書面では、申立人は事業者として事業の発展のため相手方が提供するサービスを利用することを承諾して契約締結したとされている。これにより相手方は本件契約が特定商取引法の適用を受けないよう工夫しているようである。
この点特定商取引法上の適用除外となる営業とは、反復継続した実態ある事業をいうのであり、申立人は契約当時アルバイト2件を掛け持ちし生活費を得ており、わずかに過去に副業により小遣い収入を得ようとして散発的な数件の投資経験があるだけであり反復継続した投資を自らの事業とするような実態はない。また相手方の代表者も契約前にその事実を知悉している。したがって本件では申立人には営業の実態はないので、訪問販売に関する特定商取引法の規定が適用除外
(特定商取引法第 26 条第1項第1号)されることはない。
(イ) 仮に相手方が、本件契約が事業者契約だと主張するならば、契約者が営業のため契約しようとしているかについて、契約相手に事業の実態の有無の裏付けを求めつつ、事前の慎重な聞取りが必須であることを認識し実行すべきである。またその結果、消費者が営業のために契約するものではないことが明らかとなったときは、特定商取引法を適用除外できるかのような契約条項は削除する必要があることを認識すべきである。
(ウ) 次に本件契約書にはクーリング・オフに基づく契約解除であっても対価の返金額を相手方との協議に委ねる条項、契約書6ページにある「クーリング・オフに
ついての説明書」31にはクーリング・オフされた場合の消費者に提供された商品役務の引取り費用を消費者側に負担させる条項が規定されている。しかしいずれの規定も特定商取引法に違反しており(特定商取引法第9条第4項・同条第6項)それら各条項はいずれも無効である(同条第8項)。
また本件契約書には消費者からの中途解約を認めるが支払われた対価は一切返還しないとの条項があるが、本条項は事業者に生じる平均的損害額を超える部分について実質的に違約金として支払いをさせる条項であるのでその部分については無効である(消費者契約法第9条第1号)。
(エ) 以上のとおり、事業者が用いる契約書等から、特定商取引法又は消費者契約法に違反し無効な契約条項は直ちに削除し若しくは法令に則した修正をすべきである。
オ 事業者の提供するサービス内容に関する金融商品取引法上の問題点について
(ア) 申立人が契約直前に相手方の代表者に対し、「どのようにしたら儲けることができるのか。」と質問したところ、代表者は「FXやバイナリーオプションの取 引のタイミングを配信するのでそれに乗っかればいい。」と回答している。本件 契約書でも相手方が提供するサービス内容の一つとして「相手方の保有する投資 に関する情報の教授・指導・助言」が挙げられている。本件契約書ではその教授 等については「金融商品取引法その他の法令に違反しない内容に限る。」との記 載が併記されているが、相手方はFXの売り買いやバイナリーオプションの騰落 やそれらの取引時期を連絡して取引を教授・指導・助言している可能性がある。 (イ) いわゆるFX取引は金融商品取引法上の外国為替証拠金取引に該当し、バイナリーオプション取引は店頭デリバティブ取引に該当するので、このような教授・ 指導・助言は、金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に該当する可能性があ る。本件契約は形式上は受講契約とされているが、実態としては投資顧問契約に 該当する可能性があり、そうであるならば相手方は金融商品取引業をするものと して登録が必要である(金融商品取引法第2条第8項第 11 号ロ、同第 29 条)。 金融商品取引法は無登録事業者に対しては、事業者だけでなく代表者につい
ても罰則があり(金融商品取引法第 197 条の2第 10 の4号、同第 207 条第1項
第2号)、違反者には重い責任が課せられる可能性があることを認識し、法の遵守を強く意識するべきである。
x 被害回復の実現に関する問題点について
(ア) 相手方は加盟店管理会社(アクワイアラー等)との加盟店契約違反により契約解除されることを恐れたためか、クーリング・オフを受け入れることを前提とするような連絡を申立人にした上でカード決済分の 80 万円を取消し立替金をクレジットカード会社に返金しているが、相手方はその後も申立人に対し現金で支払った 30 万円の返済をしていない。
(イ) 相手方がクーリング・オフを前提としてカード決済分を取消しているのであるとすれば、その効果は現金取引分にも共通し、速やかに消費者からの苦情に適切
31 本報告書5頁「4(1)“B”受講契約書について」参照。
に対処する責務がある(消費者基本法第5条第1項第4号)。また、特定商取引法では、クーリング・オフがあった場合において、商品の代金が支払われているときは速やかにその全額を返還することを記載することを交付書面の記載事項として定めている(特定商取引法第4条、第5条、施行規則第6条第1項)。ついては、現金 30 万円についても、速やかに返金に応じるべきである。
(2) クレジットカード会社に向けて
ア 本件では部会からクレジットカード会社(イシュアー)へ質問書による調査協力を行い、その回答により、決済代行会社の有無は不明ながらアクワイアラーの存在が確認されており、アクワイアラー側と相手方間で加盟店契約が締結されている。加盟店がアクワイアラー側と加盟店契約を締結しようとする場合、登録を受けたアクワイアラー・決済代行会社(クレジットカード番号等取扱契約締結事業者)は、本件相手方のような役務提供事業者に対し、経済産業省令で定める事項を調査する責務があり(割賦販売法第 35 条の 17 の8第1項)、その調査対象には、カード利用者の利益の保護に欠ける加盟店に対する苦情を防止する体制や苦情を適切かつ迅速に処理するための必要な体制の整備に関する事項が含まれているので(省令第 133 条の5第7号)、本部会等の裁判外紛争解決機関 への参加・協力状況もその対象に含まれると考えられる。そしてこの調査は、当該加盟店が他の加盟店との比較において著しく利用者の利益の保護に欠けると認められるときは、加盟店契約締結後の途上でも調査対象とされている(割賦販売法第 35 条の 17 の8第3項、省令 133 条の6第8項)。
イ 相手方は申立人のクーリング・オフの申出に対し、カード取引の処理には時間を要すると申立人に連絡していることから、申立人のクーリング・オフの申出を前提とした対応をしたと考えられるが、契約日に申立人から受け取った現金については一切返金していない。消費者からクーリング・オフの申出を受けながら、カード決済分の清算に応じないということになれば、加盟店規約等の違反を理由に加盟店契約を解除される可能性がある。相手方は、このことを恐れてか、カード決済分の取消し処理を行う一方、現金取引分はカード取引とは別であるから返金しなくても加盟店規約等への違反はなく加盟店契約には何の影響も及ぼさないと判断して対応しなかった可能性がある。
ウ 本件ではクレジットカード会社(イシュアー)が加盟店管理会社(アクワイアラー)へ加盟店調査を依頼したが、相手方はこれに回答しないままカード決済分を取消し立替金を返金したため、イシュアーは本件では被害が生じていないと判断し、本部会からの質問書による調査協力依頼に対しアクワイアラー名を空欄で提出した。しかし、本件相手方の問題点は当該決済方法の一部であるカード部分の清算は応じたものの、現金についてはクーリング・オフによる清算義務がありながら、紛争解決手段への参加・協力を無視し、クーリング・オフによる返金に従わない点であり、決済方法の選択には関係がない。したがって、クレジットカード会社はカード決済分の取消し処理が行われたとしても、加盟店に対する調査を継続する必要があり、その調査結果によっては加盟店解除を含めた対応を行うことが必要である。また、本部会を含めた裁判外紛争機関等から調査協力に対しては、全面的な協力を期待したい。
(3) 消費者に向けて
ア 契約前の情報収集に関して
(ア) 本件では申立人が相手方から提供される情報を利用すれば多額の副業収入が容易に得られると軽信し、提供されるサービスの具体的な内容を理解しないまま契約を即決し決済している。
しかし消費者にも、自ら進んで消費生活に必要な知識を取得し必要な情報を収集するなど、自主的かつ合理的に行動するよう努めることが求められている
(消費者基本法第7条)。
(イ) 本件でも申立人が本件契約に関して必要な情報を収集し自主的かつ合理的に行動するなら、相手方の代表者との面談前に、相手方のウェブサイトやその評判等の情報をインターネットで調査できたはずである。このような調査をしていれば、相手方のウェブサイトにことさら抽象的内容しか表示されていない点に気づいたはずであり、また相手方との契約について相当数の苦情が寄せられている情報も得られたはずである。現に申立人は契約後にインターネットで事業者の評判を知るところとなり消費生活センターに相談に行っている。事前にこのような情報を収集できていれば、本件契約についてもより慎重な対応ができた可能性がある。また相手方に対してはそのウェブサイト上のページから問合わせメールが送信可能である。したがって申立人は相手方に対し、事前に契約書のひな形の提示を求めたり、具体的サービスの内容と代金を問い合わせることも可能であり、その問合せへの回答の有無等の態度や回答内容を見てから契約をするなど一層慎重な対応ができたはずである。
したがって消費者には契約前に以上のような様々な手段を取るなど、しかるべ
き情報を積極的に収集し、自主的かつ合理的に行動すべき努力が求められる。
イ 契約締結に関して
申立人は契約締結に際し、相手方の代表者から契約書は読まずともいいと言われたという。
しかしそもそも読まなくてよい契約書などない。契約書をきちんと読んでいれば、少なくとも事業の発展のための契約というのが実態に合致していないことに気付いた可能性がある。また本件では契約書を読まないでいいと言われながら、申立人は契約書の内容を十分に理解し不明点については質問して不明点を解消した上で契約を申し込んだことが記された確認書面に自らチェックをしている。契約書も読まずにこのような確認書面にチェックを入れることに対し、申立人は危険性を感じるべきである。本件契約書には多額の違約金条項(損害賠償費)などもあるので契約書をきちんと読めば不安を感じることも可能だったはずである。
したがって即時の契約締結はせず、一旦持ち帰る冷静さが必要であり、家族や消費生活センター等に相談するなど、自主的かつ合理的行動を取るべき努力が求められる(消費者基本法第7条)。
ウ 決済に関して
(ア) 本件契約では相手方からのサービス提供に先立ち対価として 110 万円(税込)
を支払う約定になっており、実際に申立人はカード払いと現金払いでその場で全額の支払いを完了している。また記載内容に問題があることは上記のとおりであるが、本件契約書には中途解約は認めるが一切返金しないとの条項がある。提供される具体的なサービス内容が不明であり、契約後にその内容が不要若しくは不十分であることが判明しても、一旦決済された後に支払いを回収するのは困難が伴う。カード決済の場合は、一連の決済がxxどのようにされたのか追跡調査することが可能であったり、抗弁の接続の制度(割賦販売法第 30 条の4)32や実務上のチャージバック 33による消費者保護制度が存在するが、現金払いの場合は現金の行方の調査は極めて困難でありカード払いのような保護制度もないので、後日に現金分を回収することはカード払いと比較して一段と困難である。
(イ) したがって消費者は、まず契約書をよく読み、代金全額前払いの場合には特に、中途解約による返金はしないような契約締結を即断しないよう注意すべきである。そして不xx・不合理な契約条項は事業者に削除若しくは修正させ、これに応じないようなときは契約締結しないことが肝要である。また決済方法についても現金払いに潜むリスクを重々認識することが肝要である。
エ 契約締結後に関して
本件では申立人は契約締結後、速やかに消費生活センターを来訪し、本件契約をクーリング・オフする葉書を特定記録により郵送している。訪問販売のクーリング・オフには契約書受領日から8日以内に書面により契約解除を行うことができるとの期間制限があるので(特定商取引法第9条第1項)、この点について申立人は適切な行動をしている。
このように消費者には契約締結後に不安があるときは、最寄りの消費生活センター等に相談に行くなど自主的かつ合理的な行動をするよう努めることが求められる
(消費者基本法第7条)。
オ xx年齢引下げに関して
xx年齢に関する改正民法が本年4月1日より施行され、xxの年齢が現在の 20 歳から 18 歳へ引き下げられる。この結果 18 歳以上で契約すれば未xx者取消権は行使できず、契約は特段の事情がない限り有効であるから本人が契約上の責務を負う。
20 歳の誕生日を待って勧誘を行う事業者がいる現状をみれば、更に社会経験の乏しい高校生であっても 18 歳になれば契約締結の主体となるものとして狙われる可能性があるものとして特に緊張感を持つ必要がある。したがって、特にこれらの若年層は、契約前後を巡る上記の各課題に対する対策が一層重要であることを認識し、理解することが大切である。
32 販売方法や商品、サービスに問題があった場合、消費者は販売会社と交渉するが、クレジット会社に対して、トラブルが解決するまでは支払を拒むことができる。
33 法的規制ではなく、国際ブランドが定めるイシュアー・アクワイアラ―間の民間ルールで、不正・瑕疵等一定の自由に該当することが立証された場合に、イシュアーがアクワイアラーに対して支払い拒否等ができるもの(出典:xxxx・xxxx「クレジットカード問題と割賦販売法改正に向けた動向-鍵を握る消費者利益の向上とセキュリティホール化の回避-」立法と調査(2016)№380)
(4) 行政に向けて
ア 苦情処理及び紛争解決の促進に関して
(ア) 事業者には消費者からの苦情を適切かつ迅速に処理する体制の整備や適切な処理等をなすべき責務があるが(消費者基本法第5条第1項第4号・第5号)、相手方は、消費者との間で生じた苦情を自社内で適切かつ迅速に処理せず、正当な理由もなく部会への協力を一貫して拒否し、消費者からの苦情への適切な処理がなされていない。このような相手方の態度は明らかに事業者としての上記責務に違反するものであり、今後も消費者との間で同様な問題を発生させた場合にも裁判外紛争機関等の手続きに参加せず放置し被害を拡大させるおそれが認められる。
そのため、本件相手方には事業者としての責務(消費者基本法第5条)を深く認識させる必要がある。
(イ) また裁判外紛争機関への協力拒否だけでなく近年、消費者被害を多発させた会社を捨て去り、次々と新会社を設立して同様の事業を展開するなど消費者からの苦情に適切に対応しない事業者が増加傾向にある。こうした事業者による消費者被害の泣き寝入りを防ぐ方策について行政として取り組んでもらいたい。
例えばxxxx勧誘については事業者責任が問えるような特定商取引法の改正の検討も必要だと思われる。また割賦販売法の加盟店契約禁止ないし解除の対象を、裁判外紛争機関への参加義務違反や個別事情に応じて、カード取引が一部に含まれていれば取引全体に含めうるなどの法改正(割賦販売法第 35 条の 17 の
8第2項・同第4項)や、加盟店規約においてもカード決済と併用された決済手段において事業者に問題が認められるときは、加盟店契約の解除を可能とするような規約改正を行政から要請するなどの対策が検討されるべきである。
(ウ) 紛争解決の促進とは申立人の被害を回復することにあるが、本件のように相手方が部会への協力を一貫して拒否するような場合は、申立人は別途、弁護士に依頼するなどして訴訟手続により被害回復をはかるほかない。xxxでは、委員会に付託された一定の要件を満たす事件については、申立人の申請により、訴訟資金の貸付けのほか訴訟活動に必要な援助を行い、一定の要件を具備する場合にはその貸付金の債務を免除するという手厚い訴訟援助制度がある。訴訟により消費者にとって有利な判決が導き出されることで、悪質な事業者が市場から排除されることが大いに期待される。本件相手方のように裁判外紛争機関を無視して逃げ切ったなどという話が不誠実な事業者間で広まれば、不誠実な業者ほど裁判外紛争機関を無視しようとする悪循環に陥りかねない。本件相手方のような不誠実な事業者の逃げ得を許さないためにも、訴訟援助制度の積極的な活用が望まれる。また一般消費者の訴訟に対する敷居のxxx負担感等が制度の活用を妨げているとも考えられることから、担当弁護士の選任協力ほか訴訟援助制度の在り方についても検討し、一層の活用促進を図る必要があろう。
イ つけ込み型勧誘に関して
(ア) 本件では相手方が申立人の社会生活上の経験に加えて投資に関しての知識や経験が乏しいことにつけ込み、契約締結を勧誘し契約締結に至らせ消費者に損害を発生
させた点にも問題がある。
(イ) つけ込み型の契約勧誘については、消費者契約法において一定の類型ごとに契約を取消すことができる規定が設けられているが(消費者契約法第4条第3項第3号・第4号)、本件において明確に適用される類型はない。そのため消費者の脆弱性につけ込み契約締結を勧誘する場合の類型を適宜、加えることなど法改正による対策が期待される。特にxx年齢を 18 歳とする改正民法が令和4年4月1日から
施行され 18 歳 19 歳といった旧法では未xx取消権により保護された若年層には今後、未xx取消権は認められなくなるので、更なる経験不足につけ込まれた被害の増加が危ぶまれる。行政にはより一層、上記対策が期待される。
ウ 啓発活動及び教育推進に関して
(ア) 本件において申立人が事業者からのつけ込み型勧誘を排し適切に契約を締結することができるためには、しかるべき知識が必要であった。若年層のみならず消費者がそのような知識を獲得するには、消費者教育が享受できる機会を与えられねばならない。
この点、国及び地方公共団体には、消費者の自立を支援するため、消費生活に関する知識の普及及び情報提供など消費者に対する啓発活動を推進し、学校・地域・家庭・職域その他の様々な場で消費生活に関する教育を充実するなど施策すべき責務がある(消費者基本法第 17 条)。
(イ) この消費者教育提供の責務は、申立人のように既に学校を卒業し社会人となっている者に対しても、地域・家庭・職域等を通じて実施されなければならない。更に成人年齢が 18 歳まで引下げられることによる若年層の消費者被害発生の防止という点では、特に学校教育における中高生に対する消費者教育の一層の推進・拡大が急務である。
エ 情報活用の促進について
以上のとおり行政には様々な法改正が期待されるところであるが、法改正にはしかるべき立法事実、すなわち法改正の基礎を形成しその必要性や合理性を支える事実が必要である。消費者関連法では、現行法では被害救済が困難となる実例の集積が立法事実として重要である。この点、xxx消費者被害救済委員会に付託された案件は、最終的に報告書の形でまとめられ、事業実績として、件名・処理結果ごとに一覧表にされ事案の概要とともにウェブサイトで公開されている。報告書には被害の再発防止に向けた行政への要望として法改正に触れられているものが多く、まさに消費者関連法改正に関する立法事実の宝庫といえる。そのため事業実績の一覧表に件名・処理結果等のほか論点を簡略に記載し法令名と条項を併記するなどして事案と紐付けした形で広く情報提供することなどを検討し情報の活用促進を図る必要があろう。
相手方への連絡経緯
連絡x | x x | 連絡先及び手法 | 相手方の対応 (対応がなかった場合は空欄) | |||
相手方 | 顧問弁護士 | |||||
文書 | 電話 ※1 | メール ※2 | ||||
令和3年 10 月 28 日 | 付託通知送付 | 郵便受けに原本差置き | ○ | 弁護士事務所に写しを持参(面会不可) | ||
11 月4日 | 連絡要請(委任状の提出依頼) | 郵便受けに差置き | ||||
11 月5日 | 付託後の手続きの説明 | 弁護士事務所にて事務局員面会し説明、 委任状の提出を依頼 | ||||
11 月 16 日 | 第2回部会(12/9)への出席及び資料提出x x | レターパックライトで郵送※3 | ○ | 当該文書を相手方に郵送した旨メールに て連絡 | 顧問弁護士から了解とメールで返 信あり | |
11 月 26 日 | 部会出席連絡票の提出の督促 | レターパックライトで郵送 | 連絡票、委任状が未 提出のためメールにて対応を依頼 | |||
12 月2日 | 部会出席連絡票、資料、委任状の督促 | レターパックライトで郵送 | ○ | ○ | 連絡票、委任状が未提出のためメールにて対応を依頼、事務所に電話して折り返 xx電話を依頼 | |
12 月3日 | ○ | 顧問弁護士から本件について受任を受けないとメ ールで連絡あり | ||||
12 月6日 | 部会出席の連絡票、資 料、委任状の督促 | ○ | ||||
12 月8日、9日 | 部会( 12/9 ) 出席の依頼 | ○ | ○ | |||
12 月 10 日 | 部会への出席及び資 料の提出(再依頼) | レターパックライ トで郵送 | ||||
12 月 20 日 | 部会出席連絡票の提出督促 | ○ | ||||
12 月 21 日 | 部会出席連絡票の提出督促 | レターパックライトで郵送 | ○ | ○ | ||
12 月 28 日令和4年 1月6日 | 部会出席連絡票の提出督促 | ○ | ||||
令和4年 1月 17 日 | あっせん案の提示及び意見交換の部会への 出席依頼 | レターパックライトで郵送 | ||||
1月 19 日 | 1 月 17 日に文書送付した旨の連絡 | ○ | ○ | |||
1月 27 日 | あっせん案への回答書及び出席連絡票の提 出督促 | ○ | ○ | |||
2月4日 | 調停案の受諾勧告 | 内容証明郵便にて郵送※4 | ○ | ○ | ||
2月 21 日 | 調停案の受諾勧告への回答督促 | 特定記録郵便で郵送※3 | ○ | |||
3月7日 | 部会での処理の打切り通知 | レターパックライトで郵送 |
※1 契約書及び相手方ウェブサイトに記載されている電話番号に架電するも、コール音なく「呼び出しましたがお出になりません。」との音声が流れて自動的に切電される。
※2 相手方ウェブサイト上のお問い合わせフォームに入力して送信。「お問い合わせありがとうございました」との表示が一瞬ポップアップされる。
※3 レターパックライト及び特定記録で郵送したものについては、郵便局ウェブサイト郵便追跡サービスにて相手方事務所に届いていることを確認している。
※4 内容証明郵便については、郵便局の配達証明書により相手方が受領したことを確認している。
「SNSで知った『投資で稼げる』というオンラインサロンの契約に係る紛争」処理経過
日 付 | 部会開催等 | x x |
令和3年 10月28日 | 【付託】 | ・紛争の処理を知事から委員会会長に付託 ・あっせん・調停第二部会の設置 |
11月12日 | 第1回部会 | ・紛争内容の確認 ・申立人からの事情聴取 |
11月16日 | ・相手方へ事情聴取の出席を要請 (相手方からの反応なし) | |
12月9日 | 第2回部会 | ・相手方への事情聴取を行う予定としていたが、相手方が欠席 ・今後の進め方の検討 |
12月10日 | ・相手方へ事情聴取の出席を要請(再依頼) (相手方からの反応なし) | |
12月21日 | ・相手方へ事情聴取の出席を要請( 再々依頼) 及び文書による質問事項への回答を要請 (相手方からの反応なし) | |
令和4年 1月13日 | 第3回部会 | ・法的問題点の整理 ・あっせん案の考え方の検討 |
1月17日 | (あっせん案) | ・あっせん案を紛争当事者双方に提示 (申立人は受諾、相手方は無回答) ・相手方にあっせん案に基づく意見交換の機会へ出席要請及び文書による質問事項への回答を再要請(相手方からの反応なし) |
2月3日 | 第4部会 | ・調停案の確定 ・今後の対応の検討 ・報告書の検討 |
2月4日 | (調停案) | ・調停案を相手方に提示し受諾を勧告 (相手方は無回答) |
2月21日 | ・相手方に対し、再度回答を要請 (相手方は無回答) | |
3月7日 | (通知) | ・当事者双方に処理手続の打切りを通知 |
4月21日 | 【報告】 | ・知事への報告 |
xxx消費者被害救済委員会委員名簿 | |||
令和4年4月21日現在 | |||
学識経験者委員 | (16名) | ||
x x x x | 東京大学社会 科学研究所教授 | ||
xx xxx | 弁護士 | ||
x x x | 法政大学 法学部教授 | ||
x x x | 弁護士 | ||
x x x 已 | 東京大学 大学院法学政治学研究科教授 | ||
x x x x | 早稲田大学 大学院法務研究科教授 | 会長代理 | |
xx xxx | 弁護士 | ||
x x xx | 法政大学 経済学部教授 | 本件あっせん・調停部会委員 | |
x x x x | 弁護士 | ||
x x x x | 弁護士 | 本件あっせん・調停部会長 | |
x x x x | 弁護士 | ||
x x x x | 中央大学 大学院法務研究科教授 | ||
x x xx | 東京経済大学 現代法学部教授/弁護士 | 会長 | |
xx xxx | 相模女子大学 人間社会学部教授 | ||
x x x x | 早稲田大学 法学学術院教授 | ||
xx xxx | 弁護士 | ||
消費者委員 | (4名) | ||
x x x x | xxx地域消費者団体連絡会 共同代表 | ||
x x x x | 主婦連合会 環境部副部長 | ||
x x x x | xxx生活協同組合連合会 常任組織委員 | ||
x x x 枝 | 特定非営利活動法人xxx地域婦人団体連盟 副会長 | ||
事業者委員 | (4名) | ||
x x x x | 東京商工会議所 産業政策第二部 部長 | ||
x x x | 一般社団法人東京工業団体連合会 専務理事 | ||
x x x | xxx中小企業団体中央会 常勤参事 | ||
x x x | xxx商工会連合会 専務理事 |
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