ケ 申請番号 2009ICC0110000001038 の旅行命令申請詳細書によると、計画調整担当課長が平成 22 年3月7日に、JRタワーホテル日航札幌まで保育委託事業者との協議で出張していた。
練馬区立平和台保育園準備委託契約の中止等に関する措置請求監査結果
(平成 22 年7月)
練馬区監査委員
第1 | 請求の受付 | |
1 | 請求人 | |
練馬区 | A | |
練馬区 | B | |
練馬区 | C |
2 請求書の提出
平成 22 年5月 14 日
3 請求の内容
請求人が提出した「練馬区職員措置請求」(別紙)による主張事実の要旨および措置請求の内容は、つぎのとおりである。
⑴ 主張事実の要旨
ア 事業者選定報告の時点において、選定委員会では重油流出事故の件が一切報告されておらず、審査基準表にある「危機管理対策」等の審査には重大な落ち度があり、この点で選定委員会による事業者ヒアリングおよび応募提案書類審査の双方に瑕疵がある。
イ 園長候補者が2度交替し、平成 22 年4月1日からの準備委託に入ることが できない。このことは株式会社X(以下「X」という。)の危機管理や人材x xx能力不足であり、こうした点を見抜けなかった選定報告にも瑕疵がある。
ウ 保護者との良好な関係づくりは準備委託に入る前の段階からであり、選定の段階から保護者が事業者および選定委員会に対し、不信と不安を表明している現状からは、到底選定委員会の本旨に則った選定がなされたとは言えない。
エ 年度を越えた継続的で一体的な評価と審査など保育園の運営業務委託に限らず予定されているところではない。
オ 二人目の園長候補者の辞退について、「事業者に責を負わせるものとは認められない」とする合理的根拠・事実関係を一切明らかにしておらず、事業者側の言い分を一方的に区民に伝えているだけである。
カ 区立園長経験者を受託業者に紹介する行為は、公務にともなって知り得た情報を契約関係も成立していない特定企業に有利なように提供する行為で、
「練馬区職員倫理規程」(平成 17 年4月1日練馬区訓令第 45 号)第3条第1項等に違反する違法な行為である。
キ 区の平和台保育園委託に係る強引な姿勢は、地方自治法(昭和 22 年法律第
67 号。以下「法」という。)第 244 条第3項に反する特定の住民に対する非合理的な差別的取扱いである。
ク 区は、区民、保育事業者、職員、区議会など広く約束してきたルール(引継ぎ期間一年、選定委員会へのオブザーバー参加など)を合理的理由なく踏みにじろうとしている。
⑵ 措置請求
xxxxに対し、以下の三点の措置を求める。
ア 練馬区立平和台保育園における運営業務委託に関し、練馬区とXとの準備委託契約ならびに公金の支出の中止。
イ 同運営業務委託に関し、準備委託期間の短縮等を前提とし、事業者再公募によらない、Xのみを対象とした事業者選定作業に係る公金の支出の中止。
ウ 上記アないしイにつき、すでに公金の支出がある場合は、練馬区への返還。
4 要件審査
本件措置請求は、法第 242 条第1項に定める法定要件を具備しているものと認め、これを受理した。
5 暫定的停止勧告に関する判断
法第 242 条第3項の規定による暫定的停止勧告については、本件措置請求がなされた段階で、本件契約に係る公金の支出が違法であると思料するに足りる相当な理由があるとは認められないことから、その必要はないと判断した。
第2 監査の実施
1 監査の対象事項
請求の要旨から、つぎのとおりとした。
「練馬区とXとの準備委託契約ならびに公金の支出に違法・不当な点があるか」および「Xのみを対象とした事業者選定に係る公金の支出に違法・不当な点があるか」を監査対象事項とした。
なお、練馬区立平和台保育園運営業務委託プロポーザル募集要領(平成 21 年7
月 21 日、以下「募集要領」という。)によると、運営業務委託契約の適用対象と
なる期間は、平成 23 年4月1日から平成 26 年3月 31 日までの3年間であり、準
備委託期間は、平成 22 年4月1日から平成 23 年3月 31 日までの1年間であるが、区は事業者の公募に際して、事業者選定に係る募集要領により具体的に説明して おり、xxxx、保護者説明会等においてもその旨の説明を行っている。したが って、当該契約については、相当の確実さをもって行われると予想される契約と 判断した。
また、主張事実の要旨のエおよびクについては、法第 242 条第 1 項で規定する財務会計上の行為には当たらないため監査の対象からは除いた。
2 監査対象課
健康福祉事業本部児童青少年部保育計画調整課(以下「保育計画調整課」という。)(※)、同部保育課および総務部職員課(以下「職員課」という。)を監査対象課とした。
(※平成 22 年4月の組織改正により、計画調整担当課が保育計画調整課に変更となった。)
3 監査対象課からの事情聴取等
監査対象課に対して関係書類の提出を求めるとともに、保育計画調整課および保育課については事情聴取を行った。
4 請求人の証拠の提出および陳述
法第 242 条第6項の規定に基づく陳述については、請求人から陳述を行わない旨の申し出があったため実施しなかった。
また、平成 22 年6月 23 日に新たな証拠の提出があった。当該証拠による請求人の主張事実の要旨は、つぎのとおりである。
Xが指定管理者となっている施設での児童の死亡事故は、緊急時の対応能力の不足・欠如や、施設長についての事業者としての考え方の甘さ、施設を受託するにあたっての事業経験の少なさなど、受託事業者としての資質を証するものである。
第3 監査の結果
監査の結果、合議により、本件請求の主張には理由がなく、措置請求は認めることはできないとの結論に至った。
以下、事実関係の確認、監査対象課に対する調査の結果および判断の理由を述べる。
1 事実関係の確認
⑴ 平和台保育園選定の経過についてア 委託保育園の決定について
平成 19 年6月8日に、「区立保育園の運営業務の民間委託について」とする起案決定がなされ、添付された文書によるとその内容は、基本的考え方が示され、また、民間委託の概要として、運営事業者についてプロポーザル方式で指定管理者の選定基準を準用し、選定委員会を設置し、保育方針などの提案内容等を審査して決定することなどについて明記されている。
また、平成 19 年 12 月に作成された年度別の保育園委託計画において、平和
台保育園の運営業務の委託開始時期は、平成 23 年4月となっている。イ 事業者選定方針について
「練馬区立平和台保育園運営業務委託事業者選定方針」(平成 21 年9月 12 日決定。以下「選定方針」という。)によると、運営業務委託事業者選定委員会
(以下「選定委員会」という。)の位置付けと役割として、「平和台保育園の運営業務委託事業者を選定するため、区長が設置する。選定委員会の選定結果は区長に報告するものとし、区長は報告を尊重して委託事業者を決定する。」とある。また、選定方針3⑷に、事業者選定の考え方として、「委託事業者の候補者は、審査基準表の評点結果と区立保育園の運営業務委託事業者としてふさわしいかの観点から、選定委員の合議により決定する。」とある。さらに、審査基準表については、選定方針3⑴で「『審査基準表』は別紙を原案として選定委員会が決定する。」とある。
危機管理対策については、この審査基準表のA提案書等による審査にあり、
「過去に重大な過失(死亡・後遺症が残る事故)や何らかの事故等を起こしていないか。」、「事故防止・安全対策・防災対策について、内容は適切か。」、「事故防止・安全対策・防災対策について全職員に周知されている仕組みが講じられているか。」の3つの評価基準で構成されている。
ウ 選定委員会の設置
平成 21 年5月 11 日に、「練馬区立保育園運営業務委託事業者選定委員会設置
要領」(平成 21 年5月1日付け 21 練児子第 10050 号)に基づき、選定委員会が設置された。選定委員会は、学識経験者2名、有識者2名、児童青少年部長、保育課長、練馬区立保育園園長経験者1名の合計7名で構成された。
エ 選定の経過
平和台保育園の委託事業者の募集は、募集要領に基づいて行われた。この募集に対して2事業者から応募書類の提出があった。
選定委員会は、平成 21 年8月 25 日、26 日の二日に分けて第1回の会議を開催してから、事業者によるプレゼンテーション、園長候補者等に対するヒアリング、および選定委員による現地調査を経て、同年 11 月2日の事業者選定に至
るまで計5回の会議を行った。その後、平成 21 年 11 月 9 日付け 21 練児子第
10321 号「練馬区立平和台保育園運営業務委託事業者選定について(報告)」により、選定委員長より区長へ、Xを委託事業者として選定する旨の報告があった。この報告を受けて、平成 21 年 11 月 18 日付け決定 21 練児子第 10323 号にて区としてXを委託事業者として決定した。
オ 事業者の再評価(1回目)
平和台保育園運営業務委託予定事業者として決定しているXが運営する広島xxx市立東光保育所において平成 21 年1月に重油流出事故が発生していたことが判明した。区では、Xからの聴取と現地での調査を行い、事故の原因と対応について把握し、平成 21 年 12 月 21 日の第6回選定委員会で事故に関する報告を行った。
また、事業者からの園長候補者の辞退の報告を受けて、平成 21 年 12 月 21 日
付け 21 練児子第 10401 号により、xxxxから選定委員会委員長あてに、新し
い園長候補者の評価の実施について依頼があり、平成 22 年1月9日の第7回選
定委員会および同年1月 16 日の第8回選定委員会で新しい園長候補者の評価等
を行い、平成 21 年 11 月 2 日に選定した運営業務委託事業者に変更なしとした。カ 事業者の再評価(2回目)
再評価(1回目)後、園長候補者が精神的な苦痛を受け辞退したいという申し出があり、受理したことについてXから報告があり、平成 22 年4月1日からの準備委託は繰り延べられた。
その後、平成 22 年4月 28 日付けでXから新しい園長候補者の報告があり、
平成 22 年4月 28 日付け 22 練児保第 10013 号により、区長から選定委員会委員
長あてに、新しい園長候補者の評価の実施について依頼があった。選定委員会では、平成 22 年5月 19 日の第9回選定委員会で園長候補者のヒアリングを実
施し、同年5月 22 日の第 10 回選定委員会で、園長候補者の評価点とそれ以外の審査項目の評価点とを総合的に評価した結果、運営業務委託事業者は変更しないという結論となった。
キ 事業者選定に係る保護者等への周知についての主な状況は以下のとおりである。
(ア) 平成 21 年 12 月7日付け計画調整担当課長から保護者あての文書「運営業務受託予定事業者が運営する認可保育所における事故について」により、保護者あてに、重油流出事故についてXから状況を聴取していること、近日中に現地調査を行い、その内容を選定委員会に報告すること、その際、事業者選定における評価内容についても改めて確認することを周知した。
(イ) 平成 21 年 12 月 22 日付け計画調整担当課長から保護者あての文書「平和台保育園運営業務受託事業者に関するお知らせ」により、重油流出事故についての概要と、平成 21 年 12 月 18 日に一人目の園長候補者の辞退があったことを周知した。
(ウ) 平成 22 年1月 12 日付け計画調整担当課長から保護者あての文書「事業者選定委員会(第7回)の開催について(報告)」により、事故の判明に対する事業者の評価の扱いと、代替の園長候補者について報告があった。
(エ) 平成 22 年1月 14 日付け計画調整担当課長から保護者あての文書「事業者選定委員会(第7回)の開催について(報告)(2)」により、(ウ)で報告した内容の補足があり、園長候補者のプロフィール等についての報告があった。
(オ) 平成 22 年1月 19 日付け計画調整担当課長から保護者あての文書「事業者
選定委員会(第8回)の開催について(報告)」により、平成 21 年 11 月2日に選定した委託事業者に変更なしという報告があった。
(カ) 平成 22 年2月3日付け計画調整担当課長から保護者あての文書「区立平和台保育園保護者からのご質問への回答」により、保護者の不安等を解消するため、1月 28 日までに平和台保育園の投函箱に入っていた全 50 項目の質問への回答があった。
(キ) 平成 22 年2月 23 日付け計画調整担当課長から保護者あての文書「事業者選定に関する保護者アンケートについて(依頼)」により、区として最終的な結論を出すにあたり、あらかじめ、保護者のご意見を伺うための依頼があった。
(ク) 平成 22 年3月3日付け計画調整担当課長から保護者あての文書「保護者へのアンケートおよび個別説明会の結果について(報告)」により、まとめた結果の報告があった。
ク 平成 22 年2月2日に平和台保育園父母会会長から練馬区議会健康福祉委員会 所属の区議会議員あてに、平和台保育園の業務委託に関する件で手紙があった。
その内容としては、委託事業者決定の白紙撤回、委託先事業者の再選定を求めるもので、平和台保育園の園児の約8割にあたる 95 園児分の署名を集めたものであった。
x xx番号 2009ICC0110000001038 の旅行命令申請詳細書によると、計画調整担当課長が平成 22 年3月7日に、JRタワーホテル日航札幌まで保育委託事業者との協議で出張していた。
コ 平成 22 年6月 24 日に第9回および第 10 回の選定委員会の委員謝礼として8万円の支出があった。
⑵ 練馬区立平和台保育園運営業務委託プロポーザル募集要領について平成 21 年7月 21 日付けで募集要領が決定されている。
募集要領は、平成 23 年4月から運営業務を委託する平和台保育園の受託事業者を募集するためのものであり、経理用地課長の協議を経て決定しているものである。
募集要領の内容によると、プロポーザルの趣旨として、①平成 23 年度に委託を開始する受託事業者の募集をするものであること、②受託事業者の選定にあたっては、現行の平和台保育園の保育水準を低下することなく継承していくこと、
③円滑な引継ぎが最も重要な事項であること、④保育計画および指導計画に基づ き、「安全の確保」等十分検討の上での応募を望むこと等が明記されているほか、委託内容や職員配置、認可保育所運営業務事業への参加理由、現在運営している 認可保育園に関する資料などについて記載されていた。
また、委託の期間について、準備委託期間は平成 22 年4月 1 日から平成 23 年
3月 31 日まで、運営業務委託期間は平成 23 年4月1日から平成 26 年3月 31 日までとしている。
委託の内容については、保育園の運営業務としており、保育所保育指針(平成 20 年厚生労働省告示第 141 号)に基づくことおよび当該指針の改定の動向に留意することのほか、「安全の確保」「健康の保持」および「衛生の保持」などへ細心の注意を払うこと、「練馬区立保育園の保育水準」(平成 16 年9月1日付)に準拠することが記載されている。
引継ぎ業務(準備委託)については、引継ぎ期間、引継ぎの日程および内容、引継ぎ期間中の職員配置が記載されている。
職員配置については、「練馬区職員配置基準について」による職員配置以上の配置をすること、園長は、保育士登録済みで、園長またはxx保育士に準じた経験を有する者とし、保育実務経験が 12 年以上または同等の経歴、識見、能力を有する者とすることなどが記載されている。そのほか、障害児保育、練馬区職員の関与、調理業務等について記載されている。
⑶ 練馬区立平和台保育園運営準備業務委託契約について
平成 22 年 5 月 28 日付けで平和台保育園運営準備業務委託契約が区長契約により締結された。
この契約は、平成 23 年4月からの委託開始に向けて、受託事業者が必要な職員の育成、保護者との情報交換、引継ぎ業務等について十分な準備に努めるために締結されたもので、委託期間は平成 22 年6月1日から平成 23 年3月 31 日までである。
2 監査対象課の見解
本件措置請求に関する監査対象課の見解は、xxのとおりである。
⑴ 保育計画調整課の見解
請求者は、区立平和台保育園運営業務委託に関して、区と株式会社Xとの準備委託契約の中止を求めている。
準備委託の締結は、そのこと自体が平和台保育園の入所児童ならびにその保護者に格別の不利益を強制するものではなく、特定の営利企業に格別の便宜供与を与えるものでもない。したがって、請求者の主張は、当たらないものと考える。
その理由は、以下のとおりである。
(1)当初、事業者からの事故の報告がなかったことで、審査基準表にある「危機管理対策」等については、審査に重大な落ち度があり、この点で、選定委員会による事業者ヒアリングならびに事業者の応募提案書類審査の双方に瑕疵があるという主張について
第一に、事業者の評価項目における「事故」については保育上の事故を想定したものである。
応募事業者からの提出書類には、「事故発生時の対応マニュアル」や「安全管理計画」を含んでいる。ただし、これらは保育を行う上で直接影響がある事故を想定しており、施設管理上の事故については含んだものではない。
なぜなら、区立保育園の施設管理者は区であることから、施設設備の取り扱い については、区が事業者に対して指導するものであり、そこで予想される事故へ の対応マニュアル等は区が整備し、事業者に求めるべき事項ではないからである。
したがって、審査基準表の「危機管理対策」に関する項目については、施設管理上の事故に関するものは含まれていない。
当然、事業者へのヒアリングでも、保育上の事故の有無は確認しているが、施設管理上の事故については、特に求めているものではない。
第二に、選定委員会としては、事故の報告がなかったことを事業者評価の対象とはしなかったことである。
今回の重油流出事故では、重油がボイラー室内にあふれたため、保育室の変更や下水の使用停止などはあったが、保育運営自体に支障があったものではない。また、事故による被害が拡大した原因が設備の不備によるものであり、日々の施
設使用者である事業者に全ての責任があるとはいえない。さらに、事故処理全般 についても、当該園の保護者や近隣住民の方々には十分ご理解を得ていることは、現地調査でも確認し、選定委員会にも報告をしている。
こうしたことから、選定委員会では、そのような状況を勘案し、報告がなかったことについては、事業者の評価の対象とはしないこととしたものである。
したがって、事業者へのヒアリングおよび事業者からの提出書類についての審査には瑕疵はなく、請求者の主張は当たらない。
(2)準備委託開始までの4か月足らずの間に園長候補者が二度も交替する事態に陥っており、4月1日からの準備委託に入れないでいることは、事業者の危機管理や人材管理の能力不足を表しており、こうした点を見抜けなかったことは選定報告に瑕疵があるという主張について
今回の事故への対応において、事業者内で定めているとおり、関係者への迅速な連絡、本部と現場保育園との連携など、適切に行われており、実務面でも危機管理能力については実証されている。
また、請求者が挙げている二度の園長候補者の変更は、それぞれやむを得ない理由によるものであり、事業者の努力によって避けることが困難な内容である。しかし、事業者から代替候補者の提示があったことは、事業者の人材管理能力を実証するものである。
さらに、現在、事業者が直営あるいは受託により、多くの施設を運営していることから、事業者の能力が不足しているとは言えない。
以上のように、応募の際に提出があった企画提案書や事業者プレゼンテーション等で確認しているだけでなく、実際に事業者の能力があることが認められており、事業者の能力不足を見抜けなかったことで選定に瑕疵があったという主張は当たらない。
(3)事業者の選定方針に「運営委託実施後においても、区ならびに保護者との良好な関係を維持し・・・」と定めていることから、準備委託に入る前から良好な関係づくりが求められており、選定の段階から保護者が事業者および選定委員会に対し、不信と不安を表明している現状からは、選定委員会の本旨に則った選定がなされているとは言えないという主張について
これまでは、事業者の再評価を行っている段階であるため、事業者から直接保護者への働きかけは認められず、事故の報告をしなかった理由について、保護者の理解を十分に得ることができなかった。このことが、事業者が意図的に事故を隠したものと保護者が受け止め、そのような事業者を選定した選定委員会や区に対する不信感につながったものと思われる。
事業者としての変更はしない旨の決定を受け、準備委託契約による引継ぎ業務を行うに当たっては、事業者と保護者とが意見交換をする機会を設けることになり、運営業務委託の実施の際には良好な関係を築き、維持していくことが十分可能であると判断したものである。
したがって、運営業務委託後においても、区ならびに保護者との良好な関係を維持する選定を行うという委員会の本旨に則った選定がなされていないという主張は当たらない。
(4)選定委員会は年度内限りとして組織されており、選定委員の委嘱も年度内であることから、年度を越えた継続的で一体的な評価と審査など、本来、保育園の運営業務委託に限らず予定されていないという主張について
平和台保育園の委託事業者を選定した選定委員会は「練馬区立保育園運営業務委託事業者選定委員会設置要領」により設置しており、選定委員の委嘱もこの要領による。
二人目の園長候補者の辞退により、新年度になって選定委員会を開催し、事業者の再評価を行い、事業者の変更はしない旨の決定をした。
この選定委員会は、「練馬区立平和台保育園運営業務委託事業者選定委員会設置要領」に基づき設置したものではあるが、前年度に事業者の評価を行った選定委員会と継続性を確保している。
選定委員は、人事異動によって当て職である保育課長が交替してはいるが、その他は、平和台保育園の事業者選定の終了を期限として、同じ者を改めて委嘱している。また、評価基準や評価方法は全く同じであり、選定委員会としては同一のものとみなすことが可能である。
したがって、選定委員会における事業者の選定結果について、新しい園長候補者の評価を行うことで、事業者の変更はしない旨の決定をしたことは、年度を越えた選定であっても有効であり、年度を越えた審査は予定されていないという主張は当たらない。
(5)二人目の園長候補者の辞退について、事業者に責を負わせるものとは認められないことから、引き続き、今回の事業者決定は有効であると判断しているが、事業者に責を負わせるものとは認められないとする合理的な根拠を示していないという主張について
園長候補者の辞退に至った理由は、自分の経歴や能力について、自分が知らないところで、様々な形で取り扱われていることを知り、精神的に大きな衝撃を受けたためであると事業者から口頭で報告を受けている。
そのように、個人情報を様々な形で取り扱われていることについては、事業者との関連は全くなく、また、事業者が、この取り扱いを管理することも不可能で
ある。したがって、事業者に責があるとは言えないのは明らかである。
園長候補者が精神的に大きな衝撃を受けたことを聞き、区としても事実を確認 した上で、園長候補者に関する区の個人情報の取扱い等についての経緯を説明するために、事業者とともに園長候補者と面談をした。その際、本人から、直接事情を聴取している。
本人からは、インターネット上のブログで自分のことが取り上げられ、また、 事業者宛のメールや手紙には、「現勤務の園をたった1年で辞する予定とのことから有能無能以前に無責任さが感じられる」などと記載され、面識もない人から自分の経歴や能力について否定されていることを知って、大変傷ついたと伺った。
後日、事業者から正式に辞退の報告を受けたが、辞退の理由は、事情を聴取したものと相違ないことを確認している。
したがって、区は事業者側の言い分を一方的に区民に伝えているだけの姿勢だという主張は当たらない。
(6)同じ年度に委託を計画している東大泉第二保育園が事業者の募集すら行っていないことと比べると、平和台保育園の委託だけが強行されなければならない理由はまったくなく、むしろ区の強引な姿勢は、特定の住民に対する非合理的な差別的取り扱いであるという主張について
保育園運営業務委託を進めることが直ちに保護者の不利益につながるものではないことは言うまでもなく、そもそも他の園との比較で差別的な扱いということはありえない。
東大泉第二保育園については、保護者説明会を開催することができないことから事業者の応募手続きに入ることができないでいるが、平和台保育園は既に委託予定事業者を決定しており、両園の状況は全く異なるものである。
委託予定事業者が決定していることから、当該事業者との準備委託契約の締結に向けて事務を進めていかなければならないことは当然のことである。
したがって、平和台保育園の保護者に対して差別的な扱いをしているという主張は当たらない。
(7)引継ぎ期間一年、選定委員会へのオブザーバー参加など、区と保護者、職員団体等が検証や協議を積み上げてきて、適用されたルールがあるにもかかわらず、これらのルールを合理的な理由がなく踏みにじろうとしているという主張について
基本的には、保護者との話し合いの中で作り上げたルールは、その保育園の委 託事業者の選定に限ってのものである。しかし、練馬区においては、28年度ま での委託計画を策定していることから、次の委託予定保育園の保護者との良好な 関係作りを行っていく上で、前の園の保護者との間でいくつかのルールを設定し、今回もこれらのルールを適用していくことを、双方で確認して引継いできたとい
う経過がある。一方、合理的な理由があれば、ルールを変更することも当然ありうるし、ルールの変更が直ちに事業者選定のxx性への信頼を損なうとは言えない。
一年間の引継ぎ期間を確保するということについては、過去の経験を踏まえ、運営業務委託後も、これまで区が直接運営していたときと同様の運営ができるよう、引き継ぐ園の一年間の事業の流れを知ることが必要であるという理由から、一年間という期間を設けたものである。
平和台保育園では、やむを得ない理由による園長候補者の辞退があり、準備委託契約の締結が遅れたということや、また、4・5月で行うべき引継ぎを6月以降に行うことで十分補うことができると判断し、10か月とするものであり、現段階では、概ね一年間という原則を変更するものではない。
また、選定委員会への保護者代表によるオブザーバー参加については、選定委員会が適切な運営を行っていることを保護者に確認していただくために、委員会で了承をした上で、認めてきたものである。
しかし、一方では、選定委員会は、本来、非公開で開催されるべきものであり、他の施設での選定にはなく保育園の選定に限られた制度であることを考えると、 現行のまま、オブザーバー参加を認めてよいのかと、区議会からの指摘もいただ いているところである。
今回、園長候補者の個人情報が様々な形で取り扱われてしまったことが、オブザーバーとして参加した保護者によるものではないとしても、そのように疑われてしまう可能性があり、結果として、保護者の心理的な負担を背負わせてしまうことになりかねない。
したがって、平和台保育園の事業者選定過程で明らかになった課題への、取り得る対応として、事業者選定委員会を本来の運営の形である非公開に戻すことは今後の事業者選定に当たっては不可欠な取組であり、積み上げてきたルールを合理的な理由がなく踏みにじろうとしているという主張は当たらない。
(8)区が事業者の相談を受けて、練馬区立保育園の園長経験者を紹介あっせんしたことが、契約に至っていない特定の私企業に対する便宜供与として、区職員の倫理規範に反する恐れがあるという主張について。
事業者は11月に決定しており、準備委託契約を締結する段階にあった。しかし、園長候補者の辞退という予想できなかったことがあったために準備委託を繰り延べなければならず、保護者の不安が益々募っている状態であった。
このため、保護者の不安を少しでも解消するためには、新しい候補者は区立保 育園園長の経験者が望ましいという事業者の意向は区としても首肯すべきもので あると判断し、事業者と新しい園長候補者との合意という前提条件があるものの、一刻も早く、準備委託に入る環境を整えることが必要であると考え、候補者の情
報を提供したものである。
その後は、あくまで事業者とご本人とが面談を行い、事業者の方針やそれぞれの保育に対する考え方が一致したので、事業者として、園長候補者とすることに決定したものである。
区としては、平和台保育園の保護者の不安の解消を第一に考えた対応であり、事業者に便宜供与を行ったという主張は当たらない。また、情報提供をした職員を採用することを義務付けたものではないことから、あっせんには当たらない。
(上記内容は平成 22 年6月2日付けで、⑸の下線部分と⑻については同月 15日付けで追加で児童青少年部長から提出された書面であり、当該内容を原文のまま記載した。)
⑵ 職員課の見解
ア 練馬区職員倫理規程について
「練馬区職員倫理規程」は、地方公務員法に定めのあるもののほか、練馬区職員の倫理に関し必要な事項を定めることにより、区民の区政に対する信頼の確保を図ることを目的に、平成 17 年4月1日に制定したものである。
このうち、第 3 条では倫理行動基準を定め、「職員は、練馬区職員としての誇りを持ち、かつ、その使命を自覚し、次に掲げる事項を倫理行動基準として遵守しなければならない。」としている。
また、同条第 1 項では「職務上知り得た情報について区民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等、区民に対して不当な差別的取扱いをしてはならず、常にxxな職務の執行に当たらなければならないこと。」と規定し、区民に対してxx、xxな対応をすることを求めている。
x 監査請求に対する職員課の見解
平成 22 年 5 月 14 日付け練馬区職員措置請求書の「2請求の要旨、第2請求の理由、(6)」に対する職員課の見解は、次のとおりである。
(ア) 請求要旨
練馬区が紹介した区立園長経験者が、現在は退職後の一私人であり、例え本人の同意を得ての紹介であったとしても、練馬区の側の行為は公務にともなって知り得た情報を契約関係も成立していない特定企業に有利なように提供する行為であって、「練馬区職員倫理規程」第3条1項等に違反する違法な行為である。
(イ) 職員課の見解
平素より、住所、電話番号等の個人情報を除き、職員の氏名、所属(○
○課等)、職層名(参事等)、職種名(事務系等)、職務名(○○係長等)に関する情報の提供については区の勤務歴を含め、照会元が住民か企業かあるいは被照会者の近親者や知人等とかにかかわらず、原則として回答している。このことは、本区との契約関係の存否に左右されるものではない。
請求人の主張する所管課長が、本区立の保育園園長経験者をXへ紹介したことについては、公開対象の職員情報の提供であり、上記の職員情報の提供と同趣旨であると考える。
したがって本件については、請求人の主張する「職務上知り得た情報について区民の一部に対してのみ有利な取扱い」には当たらず、「区民に対して不当な差別的取扱い」とはならないものであり、「練馬区職員倫理規程」第3条 1 項に違反するものとは認められない。
(上記内容は平成 22 年6月2日付けで総務部長から提出された書面であり、当該内容を原文のまま記載した。)
3 判断
以上の事実関係の確認および監査対象課への事情聴取、関係書類の調査等に基づき、本件についてつぎのとおり判断する。
⑴ 本件請求は、事業者選定に係る契約や公金の支出などの財務会計行為に関し て、当該財務会計行為を前提として、選定委員会での選定行為等の非財務会計 行為(以下「先行行為」という。)について、その先行行為の違法性・不当性を 主張することにより、当該財務会計行為の違法性を問題にしている。この場合、先行行為の性質、違法・不当事由の内容、先行行為と財務会計行為との関係等 を総合的に考慮し、当該財務会計行為が財務会計の適切な執行の確保の見地か ら見過ごすことのできない瑕疵があるとき、または、先行行為に重大かつ明白 な瑕疵がある場合について、当該財務会計行為も違法・不当性を帯び、住民監 査請求の対象となると解すべきものとし、以下のとおり判断する。
⑵ 請求人は、「事業者選定報告の時点において、選定委員会では重油流出事故の 件が一切報告されておらず、審査基準表にある「危機管理対策」等の審査には 重大な落ち度があり、この点で選定委員会による事業者ヒアリングおよび応募 提案書類の双方に瑕疵がある。」と主張しているので、この点について判断する。
選定委員会として事業者(X。以下「本件事業者」という。)を選定した平成
21 年 11 月2日の第5回選定委員会までの選定委員会の会議録を見る限りにおいては、重油流失事故の件が報告されたという事実は確認できなかった。
その後、平成 21 年 12 月 21 日の第6回選定委員会では、本件事業者が運営する保育所で起きた重油流失事故について、監査対象課から、三次市および本件事業者への聴取、現地調査などから判明した事故の概要、原因についての説明があった。
また、平成 22 年1月9日の第7回選定委員会では、重油流出事故の判明に対する本件事業者の評価の扱い等が議題とされた。そこでは本件事業者から、「危
機管理マニュアルを整備するなど再発防止に努め、地元や保護者の理解もいただいていることから、事故対応としては解決済みの問題と考えていた」、「応募にあたっての報告事項とは考えていなかった」、「現在は、報告すべき事項だったと反省している」という説明があった。
さらに、平成 22 年1月 16 日の第8回選定委員会では、施設管理上の事故は、審査基準表にないため、その部分を改めて再評価することはできないとの意見 が出され、重油流出事故の判明に対しての本件事業者の評価はしないこととな った。
以上の選定過程をみると、選定委員会は選定方針3事業者選定の考え方⑷にある「委託事業者の候補者は、審査基準表の評点結果と区立保育園の運営業務委託事業者としてふさわしいかの観点から、選定委員の合議により決定する。」ことを十分に認識した上で、重油流出事故の判明についての本件事業者の評価はしないことを選定委員会として決定したものであり、その審査において瑕疵があったとは認められない。よって請求人の主張は当たらない。
なお、審査基準表の「危機管理対策」に関する項目については、施設管理上の事故に関するものは含まれないとのことだが、審査基準表からはそれが読み取り難く、審査基準の明確化が望まれる。
⑶ 請求人は、「園長候補が2度交替し、4月1日からの準備委託に入ることができない。このことはXの危機管理や人材管理の能力不足であり、こうした点を見抜けなかった選定報告にも瑕疵がある。」と主張し、平成 22 年6月 23 日に新たな証拠の提出もあった。この点について判断する。
選定報告に瑕疵があると判断するには、当該事業者の危機管理能力または人材管理能力に著しい欠如があったにもかかわらず、当該事実を看過して選定報告を決定した場合が該当すると考える。
そこで、一人目の園長候補者の辞退については、平成 21 年 12 月 18 日になって、園長候補者の病気が発覚し、業務を遂行できなくなった旨の報告が本件事業者から区にあったものである。
これを受けて、平成 22 年1月 16 日の第8回選定委員会では、二人目の園長候補者の評価を行い、委託事業者の変更なしと決定したところである。
その後、二人目の園長候補者について、インターネットやブログ等様々な形で取り上げられていることに本人が大変な衝撃を受けたことにより、平成 22 年
3月 18 日に事業者から区に対して園長候補者辞退の報告があったとされている。二人目の園長候補者の提示は区が指定した期限内になされており、この点に
おいて本件事業者に危機管理能力または人材管理能力が著しく欠如しているとは認めがたい。また二人目の園長候補者の辞退については、その経緯を踏まえると、通常予測しうる危機管理の範囲を超えているものと認められる。
したがって、選定報告に著しい事実の見落としまたは錯誤があったとは認められず、当該事項に係る請求人の主張は採用できない。
なお、請求人より本件事業者の資質の証拠が追加で提出されたが、当該事故は平和台保育園準備委託契約締結後に発生したものであり、当該事故に係る刑事責任については現在捜査が行われているところである。よって、本件監査においては、事業者選定時の判断材料からは除くこととした。
⑷ 請求人は、「保護者との良好な関係づくりは準備委託に入る前の段階からであり、選定の段階から保護者が事業者および選定委員会に対し、不信と不安を表明している現状からは、到底選定委員会の本旨に則った選定がなされたとは言えない。」と主張しているので、この点について判断する。
選定委員会委員の役割は、選定方針2によると、「円滑な運営業務のため、選定趣旨を十分認識し、xxかつ適正に選定を行うもの」とあり、さらに選定趣旨として、「平和台保育園の現行の保育水準を維持・継続すること」、「運営委託実施後においても、区ならびに保護者との良好な関係を維持すること」、「保育園職員の安定的かつ継続的な雇用が図れること」とある。
また、事実関係の確認⑴キのとおり、監査対象課は保護者の不安や不信を解消するため、頻繁に保護者に働きかけており、保護者の信頼回復に努力を重ねてきたことがわかる。
一方で、事実関係の確認⑴クにあるように、保護者が本件委託に不安を抱いていることも認められるところであるが、保護者から選定委員会委員の交代の要望が出された形跡は認められなかった。
以上のことから、請求人のいうところの「到底選定委員会の本旨に則った選定がなされたとは言えない。」との主張は認められないと判断する。
⑸ つぎに、請求人は、「二人目の園長候補者の辞退について、「事業者に責を負わせるものとは認められない」とする合理的根拠・事実関係を一切明らかにしておらず、事業者側の言い分を一方的に区民に伝えているだけである。」と主張しているので、この点について判断する。
まず、請求人は事業者側の言い分を一方的に区民に伝えているだけであると主張しているが、監査対象課の説明によれば、「園長候補者が精神的に大きな衝撃を受けたことを聞き、区としても事実を確認した上で、園長候補者に関する区の個人情報の取扱い等についての経緯を説明するために、本件事業者とともに園長候補者と面談をした。その際、本人から、直接事情を聴取している。」としており、事実の確認⑴ケのとおり、本件事業者と協議している事実が確認できた。また、この協議時に二人目の園長候補者も同席していたことを保育計画
調整課長からの事情聴取において確認している。
したがって、本件事業者側の言い分を一方的に区民に伝えているだけという請求人の主張は認められない。
つぎに、請求人は、「事業者に責を負わせるものとは認められない」と区が判断することになった「ホームページやブログ」の記述を具体的に説明していないと主張している。そこで「ホームページやブログ」の具体的な確認の有無について監査対象課に確認したところ、「一般的に候補者が取り上げられている事実は承知しているが、本人がどの部分で衝撃を受けたのかはわからない。」との回答であり、事実関係を示す証拠書類については監査対象課からの提出はなかった。
そこで、本件主張を検討すると、前記のとおり本件事業者に責を負わせるものとは認められない事実、すなわち二人目の園長候補者に関するホームページやブログ等の内容については確認できなかったところであるが、区において本件事業者および園長候補者に対し事情聴取を行ったことは旅行命令申請詳細書等から客観的に認められるところである。そしてまた、当該事実が個人情報に関わるものであり、区においては衝撃を受けた園長候補者の様子からその心情を察して当該事実についての確認をことさら省略したことについては、十分首肯できる。その結果、区として本件事業者に責を負わせるものとは認められないとの結論に至ったことには合理性が認められるものであり、この点の請求人の主張は採用できない。
⑹ つぎに、請求人は、「公務にともなって知り得た情報を契約関係も成立していない特定企業に有利なように提供する行為で、「練馬区職員倫理規程」第3条第
1項等に違反する違法な行為である。」と主張しているので、この点について判断する。
練馬区職員倫理規程は、練馬区職員の倫理に関し必要な事項を定めることにより、区民の区政に対する信頼の確保を図ることを目的とするものである。同規程第3条には職員の倫理行動基準として、「職員は、練馬区職員としての誇りを持ち、かつ、その使命を自覚し、つぎに掲げる事項を倫理行動基準として遵守しなければならない。」ことが規定されている。さらに、同条⑶には「職務上知り得た情報について区民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等、区民に対して不当な差別的取扱いをしてはならず、常にxxな職務の執行に当たらなければならない」ことが規定されている。
職員の氏名、所属、職層名、職種名、区の勤務歴については情報公開の対象となっている項目であり、区が本件事業者に提供した情報もこれにあたるものである。
したがって、これらの情報を提供したことだけをもって、本件事業者に有利
な取扱いをしているとは認められず、監査対象課の見解のとおり、請求人の主張は認められない。
⑺ つぎに、請求人は、「区の本件委託に係る強引な姿勢は、法第 244 条第3項に反する特定の住民に対する非合理的な差別的取り扱いである。」と主張しているので、この点について判断する。
法第 244 条は、公の施設の意義およびその基本的な利用関係を定めた規定であり、同条第3項は住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いを禁じた規定である。
逐条地方自治法第五次改訂版によると、同条第3項は「『不当な差別的取扱い』に該当するかどうかは、個々具体的に判断するしかないが、一般的には、公の施設の利用に当たり、信条、性別、社会的身分、年齢等により、合理的な理由なく利用を制限しあるいは使用料を減額する等は、不当な差別的取扱いに該当する。」とされている。
ところで、本件委託にあたり平和台保育園の利用者となる保護者および園児について利用時間を制限したり、保育料を不当に引き上げたりした事実は認められず、またそのような利用に関する処分が行われた事実もなかった。したがって、請求人の本件主張は当を得ていない。
以上のことから、練馬区とXとの準備委託契約ならびに公金の支出、Xのみを対 象とした事業者選定作業に係る公金の支出について、違法・不当な点は認められず、請求人の主張には理由がないため、請求人の措置請求を棄却するのが相当であると 判断する。
4 おわりに
今回、委託事業者の選定過程において、区は平和台保育園の保護者に不安や不信を抱かせてしまった事実が認められる。保育事業は、保護者にとってかけがえのない子どもの命を預る極めて責任の重い事業である。このことは常に念頭に置かなければならない。加えて委託事業の円滑な運営には、保護者、事業者および区の三者が互いに信頼関係を築いて行うことが求められる。
以上のことを区は十分認識し、保育サービスの更なる向上、充実に向けて鋭意取り組まれるよう要望する。