債権とは、A がB に売買代金の支払いを請求したり、B がA に土地の明け渡しを求めたりするなど、他者に特定の行為を請求する権利を指す。民法第 3 編「債権」は、下表で示す 13 種の契約と 3 種の非契約(契約外行為)について定めているが、これらは債権関係を発生させる原因である。
債権(請求権)の発生原因としての契約と契約外行為
債権とは、A がB に売買代金の支払いを請求したり、B がA に土地の明け渡しを求めたりするなど、他者に特定の行為を請求する権利を指す。民法第 3 編「債権」は、下表で示す 13 種の契約と 3 種の非契約(契約外行為)について定めているが、これらは債権関係を発生させる原因である。
契 約 (約定債権) | 贈 与 | 財産権の移転を目的とするもの |
売 買 | ||
交 換 | ||
消費貸借 | 財産権の利用を目的とするもの | |
使用貸借 | ||
賃貸借 | ||
雇 用 | 役務の提供を目的とするもの | |
請 負 | ||
委 任 | ||
寄 託 | ||
組 合 | その他 | |
終身定期金 | ||
和 解 | ||
非契約 (法定債権) | 事務管理 | |
不当利得 | ||
不法行為 |
当事者間の合意(契約)によって発生する債権を約定債権と呼ぶが、その発生原因となる合意
(契約)について定めている。例えば、売買契約であれば、売主の代金支払請求権や、買主の商品引渡請求権が約定債権であるが、その特殊な例としては、買主の代金減額請求権が挙げられる(第 563 条以下参照)7。
これに対し、合意によらず、法に基づき発生する債権を法定債権と呼ぶが、民法は①事務管理に基づく債権、②不当利得に基づく債権、③不法行為に基づく債権の 3 つの法定債権について定めている。
なお、約定債権にあたるか、それとも、法定債権にあたるか、解釈が分かれるものもある。
(例) 債務不履行に基づく損害賠償請求権(第 415 条)製造物責任
◎ 任意債権 〔有斐閣『法律学小辞典』第 4 版より〕
債権の本来の内容は 1 個の特定した給付であるが,債務者(例外的に債権者)が他の給付をもって本来の給付に代える権利(代用権・補充権)をもつ債権。例えば,本来は土地を給付しなければならないが,時価による金銭の支払で代えることのできる債権などがその例である。通常は契約によって生じるが,法律の規定によっても生じる〔民 403・461<2>・723〕。他の給付は補充的地位をもつにすぎず(⇒選択債権),本来の給付が債務者の責めに帰することのできない事由により不能となれば債権は消滅する。債権者は原則として補充権をもたないから,本来の給付だけしか請求することができない。
〔問題〕
当事者間の合意によって、法定の損害賠償請求権(法定債権)を排除することも許されるかどうか検討しなさい。例えば、メーカーと消費者間の合意によって、メーカーの製造物責任(消費者の損害賠償請求権)を否定することも許されるか検討しなさい。
7 なお、買主が代金を支払うことや、売主が商品を引き渡すことは、売買契約の性質上、当然の債務(相手方の債権)であるため、民法は特に定めていない(第 555 条参照)。
◎ 不法行為に基づく損害賠償請求権(法定債権)
(1) 要件
A は B 社が製造・販売する車を運転し、一般道を走行している際、歩行者C をはね、重傷を負わせた。また、歩行者D をはね、死亡させた。
C は第 709 条を援用し、A に損害賠償を請求することができるが、このとき、C は以下の点を主張し、A が争うときは証明しなければならない8。
① A による権利または法的に保護される利益の侵害
② ①が A の故意または過失に基づいていること9
③ ①によってC の下に損害が発生していること(因果関係)
①の法的に保護される利益の侵害について
単なる予想や期待(例えば、株価が上がり、儲かるかもしれないという予想や、昨年度は 1 億円の利益がでたから今年度もでるであろうという期待)は法的に保護されないが、評判、ブランド価値や暖簾といった企業が努力して培ってきた利益は、ある特定の法律で明確に権利として定められていなくても、法的に保護されるべきである。
同様に、信頼も法的に保護される利益にあたる場合がある。特に、国や地方公共団体が将来にわたり実施する政策(例えば、都市開発やダム建設)を決定し、他者に信用を与えたときは、国や地方公共団体は、それを保護しなければならない(行政法上のxxxないし信頼保護)。
.....
なお、他人に虚偽の表示をした者は、それを信頼して行動した者に対し、表示は虚偽であったと
主張してはならないというxx法上の原則をエストッペル(estoppel)と呼ぶ。エストッペルは
「禁反言」と訳されているが、上掲の定義とは異なり、すでになした意思表示を撤回し、相手方や第 3 者に不利益を与えることを禁ずる意でも用いられる。
②の過失について
A の過失とは、例えば、脇見運転、居眠り運転、携帯電話を使用しながらの運転を指す。C がこれを証明することができないとき、C の請求は認められない。
8 A が認める事実については、証明する必要がない。
9 刑事法とは異なり、民法(民事法)上は、権利侵害が意図的になされたか(故意)、または不注意によって生じたか(過失)で差異は生じない。
繁華街であるにも拘わらず、猛スピードを出して自動車を運転している最中に歩行者をはね、死亡させた運転手は故意犯または過失犯のどちらとして捉えるべきか考えなさい。
・主張および証明の対象
C は、A が運転中に携帯電話を使用していたと主張し、その真偽が裁判で争われる一方、裁判官が職権で A の居眠り運転を調べ、それに基づき A に過失があったことを認定すると、A にとって不利な結果が生じる(不意打ち裁判)。そのため、過失のような抽象概念は、それ自体ではなく、それに該当する事実が主張・証明の対象となる。
・証明責任の転換
交通事故の被害者を救済するため、特別法である自動車損害賠償保障法(自賠法)第 3 条は以下のように定める。
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は 身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。
C が民法第 709 条ではなく、この規定を援用するとき、C が A の過失についてではなく、A が自
.
らの無過失について証明する必要がある。A がこれを証明できないとき、A は損害賠償を支払わな
ければならないが、これを証明責任の転換と呼ぶ。
〔参考〕A の損害賠償請求権
A は車の欠陥が事故の原因になったとし、B 社に損害賠償を請求することを考えている。この請求権は以下の責任から導かれる。
① 債務不履行責任(第 415 条) ※ 債務とは欠陥のない車を引き渡す義務を指す。
② 不法行為責任(第 709 条)
③ 製造物責任(製造物責任法第 3 条)
B 社の③の責任が問われるとき、A がB 社の「過失の存在」について証明するのではなく、B
.
社が自らの無過失について証明する必要があり、証明できないとき、B 社は損害を賠償しなけ
ればならない(製造物責任法第 4 条)。
(2) 損害賠償請求権の主観的範囲
D は死亡しているため、D が A に損害賠償を請求することはできないが、D の遺族は、D から損害賠償請求権を相続し、A に請求することができる。また、遺族自身も損害を被っているときは、自らの請求権を行使しうる。