Contract
(甲=管理者等、乙=SPC)
(甲の任意による契約解除)
第○x xは、本契約の終了前はいつでも、[ ]月以上前に乙に対して通知することにより本契約の全部又は一部を解除することができる。
(案1)
2 前項により本契約が解除された場合、乙は、甲に対して、当該終了により被った合理的な損失の補償を請求することができるものとする。
(案2)
2 前項により本契約の全部解除された場合、乙は、甲に対して、以下の損失補償を請求できるものとする。42
(1) 別紙○に記載された契約条件に基づき、乙が優先貸付人に支払う必要がある額
(2) 別紙○に記載された契約条件に基づき、乙が[運営協力企業]に対して支払う必要がある額
(3) [株主劣後貸付人、株主への支払について記載]
(4) [その他必要な調整項目を記載]
3 [損失補償及び未払いの施設整備費相当分等の支払方法について規定]
4 第1項により本契約の一部が解除された場合において、以下に従うものとする。
(1) 解除された業務の内容に応じて、サービス対価を減額するものとする。減額幅を算定する際には、複数の業務を一括して請け負うことによる費用が削減されている場合の効果についても配慮する。
(2) [特段の事情43がある場合を除き、統括マネジメント業務の対価相当分については、減額しないものとする。]44
(3) [特段の事情がある場合を除き、[株主への利益相当分]45については、減額しないものとする。]
(4) 甲は、別紙○に記載された契約条件に基づき、乙が[運営協力企業]に支払う必要のある額を乙に補償するものとする。
(5) [その他必要な調整項目を記載]
42 案2は、契約の締結時点までに、ファイナンス関係の諸契約及び SPC と運営協力企業との契約のうち、重要な事項で解除に関係するものの内容を別紙として添付する方法を想定している。
43 特段の事情としては、例えば統括マネジメント業務に必要である人員を削減できる場合を想定している。この部分については、予め特定できる事由については、特定することも考えられる(第 3 号も同様)。
44 統括マネジメント業務がない場合には、本号を削除するか、修正する必要がある。
45 株主の利益分を明示した財務モデル等をあらかじめ合意していることを前提としている。
【任意解除に関する実務上のポイント】
PFI事業契約には、管理者等による契約の任意解除権及びその際の選定事業者への損失補償について明確に規定する。本規定のポイントは以下のとおり。
①PFI事業契約の全ての当事者は、期間満了まで契約を解除することなく、契約上の義務を全て履行する意図をもって契約締結を行い、契約関係に入るべきである。
②管理者等は、一定期間以上前に通知することで契約を解除できる。
③任意解除時の選定事業者に対する損失補償額は、管理者等に責めが帰される債務不履行事由に伴う契約解除の賠償額算定と同じ考え方に立脚して算定されるべきである。
④補償金額の算定を客観的に行うことを可能にするため、例えば財務モデルや委託先との主要な
契約条件について予め合意しておくなど、基準の明確化を図ることが望ましい。
第Ⅲ章 「紛争解決」に関する標準契約書モデル及びその解説(案)
1.概要
PFI事業契約締結時には想定し得ないリスクの顕在化などPFI事業契約に定めのない事項、その他PFI事業契約の実施にあたって生じた疑義について解決しなければならないことも起 こり得る。こうした場合に備えて、当事者間の協議の在り方について規定し、さらに当事者間での協議が整わないこともあるため、紛争が生じる場合に備え、中立的第三者が関与した紛争の処理方法を規定する46。
2.問題状況
(1)両当事者間の協議、関係者協議会の規定及び裁判管轄の規定のみとしている場合が多い。さらに、関係協議会の構成については、紛争解決のための仕組みとして十分ではないことも少なくない。したがって、実効的な協議を行う仕組みを構築する必要がある。
(2)協議によって解決しなかった場合でも、良好な関係を継続したまま、迅速に解決することが必要である。さらにPFIをめぐる紛争は高度な専門知識を要求されることが多いと予想される。したがって、紛争が生じた場合に、裁判よりも迅速かつ専門的事項に十分対応できる紛争解決の枠組みを迅速に設定できるような契約条項が求められる。
46支払遅延防止法第4条第4号及び予決令第100条第1項第7号。地方公共団体が管理者等となる場合は、
当該規定は支払遅延防止法第14条の規定により準用される。
3.基本的な考え方
(1)コミュニケーションの場の設定:両当事者間の不断のコミュニケーションをとっておくことにより、相互の信頼関係を醸成しておくことが、紛争を予防する観点からは重要である。そこで、両当事者の間のコミュニケーションの場を設定し、フェイストゥフェイスでコミュニケーションを行う機会を設けて信頼関係の構築に当たるべきである。
なお、当事者のコミュニケーションを図るためには、以下の点に留意することが必要である47。
・ 官民双方の見解を理解し、また尊重すること
・ 知識と目的を共有すること
・ 契約及び契約関係書類を正確に理解すること
・ 情報の流通をスムーズに行い、またコミュニケーションのチャンネルをオープンにしておくこと
・ 両方の組織内に存在する課題を解決する意欲を有すること
・ 効果的な意思決定プロセスが設定されていること
・ 事業を成功させようという強い意欲を有すること
(2)紛争調整会議:紛争が生じた際には、まずは両当事者間で協議することが考えられる。そこで、紛争が生じた際に、いずれかの当事者の要求により会議を招集し、解決を図る紛争調整会議について規定する。
(3)中立的第三者の関与:官民が対等の立場というPFIの基本原理からすれば、協議が整わない場合に一方が他方に結論を押しつけることは厳に慎まなければならない。そこで中立的な専門家が関与して、紛争を迅速に解決する仕組みが必要である。
47 英国では両当事者の継続的コミュニケーションの重要性が強調されており、定期的なコミュニケーションの場を確保するべきとされ、ここに記載した留意点はこれを参考に作成している。(英国財務省 Operational Taskforce Note2: Project transition guidance(2007 年 3 月)参照)。
4.具体的な規定の内容
(1)紛争調整会議
紛争解決のための場として紛争調整会議(仮称)を設ける。なお、このような機能を果たす場が既に存在している場合には、いたずらに屋上屋を架す趣旨ではないことに留意する必要がある。メンバーについては両当事者により構成することとする。
(2)中立的専門家による裁定手続創設
紛争調整会議と、裁判による解決の中間に、中立的専門家(裁定人)による紛争解決手続を規定することが考えられる。この際、裁定手続きになじまない紛争も考えられるため、あらかじめ裁定手続きの対象となる事項(又は対象とならない事項)を契約書で特定しておくことも考慮すべきである。中立的専門家の判断に拘束力を持たせるか否かについては、拘束力があるとすると、中立的専門家の選任が困難になり、手続自体が使用されなくなる可能性があるため、当面は、中立的専門家の判断に拘束力を持たせない手続(一種の調停手続)とすることが考えられる。中立的専門家の選任方法は、両当事者の合意によることとし、選任時点については、紛争が生じた際に選任することが考えられる。
調停に関する規定を設ける場合において、調停の場で合意できなかったとき、又は調停の対象外の事項に関する紛争が生じたときについては、裁判又は仲裁(調停と異なり裁定人の判断が両当事者を拘束する)によって解決されることになる。
裁定人の人数:仲裁として行う場合(すなわち裁定人の判断に拘束力を持たせる場合)については、他分野の国際的な契約では3名と規定されることが多い(またUNCITRAL国際商事仲裁モデル法では、別途当事者間で合意がない限り3名とされている)48。一方、調停の場合は、UNCI TRAL国際商事調停モデル法では別途当事者間で合意がない限り1名とされているが、場合により3名とすることも考えられる。
48 人数の決め方は仲裁規則により異なる。国際商工会議所(ICC)の仲裁規則第 8 条では、1名か3名かを当事者の合意により定める(当事者が人数に合意できない場合には、原則1名だが、ICC Court of Arbitrationが3名が妥当だと判断した場合には3名とすることができるとされる)。ロンドン国際仲裁裁判所(LICA)の仲裁規則第5条も類似の内容になっている。
裁定人選定方法:
1)選定時点:裁定人の選定方法については、裁定人(又は裁定人を選任するためのパネル)は、
①内容に応じて、事業契約締結後に予め両当事者で合意しておき、欠員が出た場合には、速やかに共同で選任する方法49、②紛争が生じた際に両当事者間の合意により裁定人を選定する方法がある50。日本では、中立的な専門家を関与させる枠組みが定着していないこと等を考慮すると、
②の方法が当面は現実的であると考えられる。これらの方法のメリット、デメリットを整理すると以下のようになる。
(ア)紛争が生じた際に裁定人を選定する方法:人選について合意できないリスクが高まる(実際に紛争が生じている場合両当事者がより慎重になる)。人選について合意できない場合、迅速な解決は期待できない。しかし、紛争となっている分野にあわせて専門家を選ぶことができるというメリットがある。
(イ)裁定人をあらかじめ決める方法:事業契約締結後の手続負担は重いこと、また選任した段 階から裁定人に報酬を払わなければならなくなること、利益相反の問題がより複雑になる ことなどの問題がある。しかし、実際に裁定人による紛争解決が必要になった場合は、迅 速な解決が期待できるというメリットがある。なお、この方法でも複数の分野の専門家を 選任することは可能であるが、当初段階での両当事者の手続的な負担がさらに重くなる51。この方法は、現時点では課題も多いため、以下の条文例では採用していない。
2)中立的第三者の候補者:中立的第三者の候補者としては、受任することについて利益相反がないことに加えて、紛争の分野に応じて必要な専門的知識を有していること、両当事者が納得できるだけの中立性を有していること、その専門家にとって過大な負担とならないことなどが必要になる。裁定人が両当事者との間で信頼関係を築けることが重要であるため、選任に関する規定はあくまでも両当事者が平等である必要がある。したがって、一方の当事者のみが「中立的」裁定人を選ぶ権利を有するという規定は適切でない。あくまで、両当事者が了解した方法で裁定人を選定することが重要である。
3)選任について合意できない場合:選任について意見が一致しない場合の手続の規定が必要である。
※例えば英国では両者が合意できない場合には、「公認仲裁人協会長」(the President for the time being of the Chartered Institute of Arbitrators)への選任の依頼が挙げられている。今後PFIの専門家を選任できる体制が整うことが前提であるが、例えば、日本商事仲裁協会、国際商工会議所などに選任を依頼することが考えられる。この点については、実務的に問題になる可能性が高い部分であるので、選任候補者のリストの作成方法・手続
49 この場合は、複数の分野の専門家について合意しておき、紛争の内容に応じて適切な専門家を選任できるようにすることが望ましい。
50 3名とした場合には、各当事者が1名ずつを選任し、選任された2人の裁定人が第三の裁定人を選任するという方法が考えられる。1人とした場合は、両当事者が共同で選任する。
51 英国 SoPC4 中の条文例では、契約締結後に両当事者があらかじめ紛争が生じた場合に備えて中立的な専門家のリストについて合意し(建設パネルと運営パネルからなり、それぞれたとえば 3 名の専門家から構成される)、紛争が生じた場合に当該リストから機械的に裁定人を指名し、当該裁定人に判断してもらうという仕組みが採用されている。(28 章)
なども含めて、今後議論が必要である。
裁定手続の内容:両当事者の意見及び証拠の提出期限、裁定人の判断の期限等の手続を定める。裁定人の判断の拘束力:以下の案が考えられる。
①完全に両当事者を拘束する(裁判所は覆すことはできない)。
②裁判所が覆さない限り両当事者を拘束する(裁判所により覆される可能性がある)(英国 SoPC4 はこの立場に近い)。
③判断がなされた後、不服のある当事者が一定期間内に裁判を提起しなかった場合、両当事者を拘束(裁判が提起された場合は両当事者を拘束しない)。
④参考意見として取り扱う(調停:条文例はこれを前提としている)。
※我が国のPFIでは中立的第三者に関与させて紛争を解決するという慣行は存在していないため選任が困難になる可能性があり、その結果中立的第三者を関与させる手続きが実務から敬遠されてしまう可能性があることから、以下の条文例は「調停」(調停人の判断に拘束力を持たせない)としている。今後、第三者を用いる手法に対する信頼の向上、中立的な第三者機関の設立(または既存の機関の活用)、紛争解決のための基準の明確化などによって、徐々に拘束力を持たせる方法が採用されるようになることが期待される。
調停
・紛争解決にあたる第三者の判断に拘束力がある場合は仲裁、拘束力がない場合は調停になる。調停には、簡易裁判所等で行なわれる法定の調停と、民間機関(又は民間人)によって行われる任意の調停がある。
・民間機関によって行われる調停については、ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)による認証制度がある。この認証制度については弁護士以外の調停人の活用、時効の中断等でメリットがある。PFI事業契約に中立的な専門家による判断を盛り込む場合も、弁護士法との関係で問題が生じないようにするため、認証された調停機関・手続を利用することも考えられる。なお、仲裁には適用されない。
費用分担:紛争解決に要する費用分担は、予めxxにこれを取り決めておく必要がある。
5.留意点 (1)議会との関係
議会対策、予算との関係などについても配慮が必要である。また、和解、調停、仲裁などについては、地方自治法第 96 条第1項第 12 号に定める地方公共団体の議会の議決事項に含まれている点その他地方自治法等との関係について整理する必要がある。
(2)費用
1) 裁定人の報酬水準及び負担者についても予め合意しておくことが必要である。現実的には、
両当事者が共同で裁定人を探し、三者間で報酬水準について合意しておくことが考えられる。52
2) 調停人や弁護士への報酬などについて必要な予算を確保できるようにすることも重要である。
(3)サービスの継続
紛争解決の手続の期間中、建設やサービスの提供が中断されることのないよう、原則として53建設及びサービスの提供を中断してはならない旨を規定する必要がある。
英国 SoPC4 では、受注者は紛争が生じたことのみを理由として「仕事を中断する」ことは認められず、紛争解決期間中、受注者は発注者の希望に従ってサービスを提供する義務を負うが、紛争が受注者に有利に決着した場合、適切な補償が支払われるべきとされている。一方、公共は、業務の一部について紛争が生じている場合に、サービスの提供がなされている部分についてまで支払をとめるようなことはすべきではなく、この旨の契約規定を取り決めておく必要がある。
(4)契約に携わった弁護士の関与の有効性
第三者が入る手続に先立ち、契約締結の際と同じ弁護士又はこの分野に知見を有する弁護士を当事者のアドバイザーとして関与させて協議を行うことも有効である。
特に契約締結に携わった弁護士の場合、契約の交渉過程、文言の変更、覚書の締結など、一貫して担当している場合が多いため、契約書の条項と当該紛争の関係が整理され、当事者が納得して紛争が解決する場合もありうる。ただし、この場合弁護士は当事者のアドバイザーとして関与するのであり、中立的な第三者とは役割が異なる点に留意する必要がある。
52 なお、裁定人の報酬は、組織などの場合には、一定の水準が決まっていることが多く、自由な交渉の対象とはなりにくい事情もあることに留意する必要がある。
53不可抗力事由等により義務履行ができない場合は例外となる。
<参考>英国 SoPC4 に示されている紛争解決方法
英国 SoPC4 では、①まず当事者間で解決を試みる、②合意できない場合には中立的な第三者(専門家)による迅速な判断を求める、③第三者による判断に対して合意できない場合については、より時間をかけて仲裁を実施する、という流れの紛争処理規定が採用されている。具体的には以下のようになっている。
①当事者間での協議
②中立的な第三者(専門家)による判断
あらかじめ紛争がおこった場合に備えて中立的な専門家の指定方法を決定しておき、紛争が生じた場合に、当該専門家が迅速に判断できるようにしている。専門家の判断には、拘束力がある場合(いわば仲裁型54)と、拘束力がない場合(いわば調停型)の双方があるが、SoPC4 に付されている条項例では、仲裁などで否定されるまでは拘束力があるとしている。
SoPC4 では、判断までの期間は 28 日と短く、不服申立てが可能だが(仲裁に移行)、仲裁などで否定されるまでは拘束力があるとすることで業務の中断を防いでいる。
③仲裁
仲裁は、当事者の合意(仲裁合意)に基づいて、仲裁人で構成される仲裁xが事案の内容を調べた上で判断(仲裁判断)を示す手続である。仲裁判断が両当事者を拘束する点で調停とは異なる(通常、裁判所への不服申立てもできない)。非公開というメリットに加え、一審制であるので時間、費用を節約できるが、中立性、専門性の高い仲裁人を選任することが重要となる。
SoPC4 では、両当事者が共同で弁護士又は仲裁人協会認定の仲裁人の中から仲裁人を選任する(合意できない場合は弁護士会会長が選任)。
54 第三者による決定に拘束力があっても「仲裁」とは呼ばれないことがあり、SoPC4 でもこの手続は「仲裁」とは位置づけられていない。
当事者間での協議
紛争調整会議
における協議
裁定人選任請求
調停申立て
予め同意した名簿の
順番に従って裁定人を選任
○○日以内
調停人の意見
28 日以内
○○日以内
裁定人による判断
合意 or 不合意
28 日以内
仲裁開始請求
仲裁・裁判
仲裁人の選任
3 ヶ月以内仲裁判断
条文例
SoPC 4
当事者間での解決
紛争解決手続の概要
中立的第三者の判断
仲裁・裁判
※紛争解決手続は、その内容によって適切な手続が異なる。したがって、紛争の性質に応じて(例えば、事実認定のみが問題なのか、契約書の解釈が争いになっているのか、金額で合意ができていないのかなど)、別の手続の流れを規定することも考えられる。
6.条文例(調停とする場合)
(甲=管理者等、乙=SPC)民事調停法など法定の調停ではなく、任意の調停を想定
第○条 紛争調整会議
1.甲及び乙は、本契約に関する紛争を解決することを目的として、相手方に書面により通知することにより、紛争調整会議を招集することができる。
2.紛争調整会議は、甲及び乙の代表者により構成されるものとする。また、両当事者が合意した場合には、構成員以外の者に対して出席及び意見を求めることができる。
3.紛争調整会議の構成の詳細、議事進行方法、議事録の作成等に関する事項は、第1回目の関係者協議会までに甲と乙との協議により別途定める。
4. 甲および乙は、本契約に関して紛争が生じた場合でも、本条に定める協議及び次条に定める中立的 第三者による調停を経た後でなければ、訴訟を提起することができない。ただし、これにより甲又は 乙の権利が著しく害される場合を除く。また、[(協議及び調停が不要である紛争の類型を記載)]の 場合については、本条に定める協議及び次条に定める調停を経ることなく訴訟を提起できるものとし、また、[(調停が不要である紛争の類型を記載)]の場合については、本条第1項に定める通知が送付 された後、[ ]日以内に合意ができなかった場合には、次条に定める調停を経ることなく、訴訟を 提起できるものとする。
第○条 中立的第三者による調停
1.前条第1項に基づく紛争調整会議による協議を一方の当事者が他方の当事者に申し入れてから[ ]日以内に解決できない紛争については、いずれの当事者も中立的な調停人による調停を申し入れることができる。
2.調停人は、[本契約締結後[ ]日以内に/調停の申し入れがなされてから[ ]日以内に]、両当事者の合意により選定する。調停人が欠けた場合には、調停人が欠けた日から[ ]日以内に両当事者の合意により新たな調停人を選任するものとする。[調停人は、建設、運営及び財務に関する専門家がそれぞれ1名ずつ選任され、紛争の内容に応じて単数又は複数の調停人がその任に当たるものとする]。
3.調停人の地位を受任することにより利益相反が生じるものは、調停人に選任されることはできない。
4.両当事者が選任について合意できなかった場合には、[中立的な第三者機関]に選任を依頼するものとする。
5.調停の申し立てがなされてから[ ]日以内に、両当事者は調停人に対してそれぞれの主張を書面にて提出するものとする。
6.調停人は、両当事者が合意に達した場合を除き、両当事者から書面を受け取ってから[ ]日以内に調停案を示すものとする。調停案は両当事者を拘束しない。
7.調停案が示された後[ ]日以内に合意ができなかった場合には、甲及び乙は訴訟を提起することができる。
8.乙が金銭的賠償により回復することができない重大な損害を被る場合を除き、前条による協議、本条による調停及び訴訟の期間中、乙は甲の指示に従って業務を履行しなければならず、また、甲は乙による業務の履行の確認が完了した部分についてサービス対価の支払を拒むことができない。ただし、本項は乙の甲に対する損害賠償請求を妨げない。
9.調停人は、調停案の提示前に最低2回以上、調停案提示後[ ]日以内に最低2回以上調停期日を開催し、両当事者の合意による解決を促すものとする。調停期日には、乙から業務の委託を受けている者その他の利害関係人も出席できるものとする。
10.調停に要する費用は各自が負担する。
【紛争解決に関する実務上のポイント】
管理者等と選定事業者間の紛争に対しては、当事者間での協議⇒中立的第三者の判断⇒仲裁・裁判、と段階的に解決のための枠組みを規定する必要がある。本規定及びその背景となる考え方のポイントは以下のとおり。
①紛争を防止するために通常時からのコミュニケーションを蜜に行い、相互の信頼関係の醸成を図ることが必要である。
②紛争が生じた場合は、紛争調整会議により、まず両当事者の間で紛争の解決を図る。
③紛争調整会議による協議が整わなかった場合は、紛争の内容に応じた中立的専門家を両当事者間の合意により選任し、調停する手続き(中立的専門家の判断に拘束力を持たせない手続)を規定することが考えられる。
第Ⅳ章 「法令変更」に関する標準契約書モデル及びその解説(案)
1.概要
PFI 事業期間中に生じる法令変更に伴う費用の増加等の負担者と手続について規定される。この 際、基本となる考え方は、リスクを最もよく管理することができる者が当該リスクを分担すると いうことであり、これに従って様々な規定がなされることになる。ただし、将来の法令変更は様々 なものがありえるため、あらかじめ完全に決めることは不可能である点にも留意する必要がある。
2.問題状況
現在、PFI で用いられている事業契約においては、「本事業に直接影響を与える法令の変更」(特 に本事業及び本事業類似のサービスを提供する事業に関する事項を直接的に規定することを目 的とした法令で事業者の費用に影響があるもの)についてのみ管理者等の負担と規定されている ことが多い。この基準は基本的には維持されるべきものと考えられるが、具体的に適用する際に 明確な基準といえるのか、一方の当事者に酷となる結論が生じることがないかなどの課題があり、基準を明確かつxxなものとするよう工夫をする必要がある。
例:入札段階では、建築基準法の改正が具体化されていなかったが、事業契約締結後改正に基づく基準が施行され、例えば建築物の満たすべき基準が変化したことによる増加費用(例:基準の変更に伴い、より多くの鋼材が必要となった場合などの費用)の位置づけなど、明確に「本事業に直接影響を与える法令の変更」と位置づけていない限り、どちらに該当するのかが不明確となる場合があり、これについて適切に対応する必要がある。この際、たとえ法令変更事由が生じたとしても、その対象、適用範囲(財並びに工事、単価と量、及び影響度など)に関しては、予め、費用の明細などを了解しておかない限り、単純に評価判断できない側面があることにも注意が必要である。
3.基本的な考え方
(1)法令変更への対処の困難性
法令変更に関する対処の方法ついては、法令の属性に着目し、因果関係の明確性や影響に応じて類型化することや、法令への効果に着目して、定義を詳細化していくことなどが考えられる。ただし、法令変更に関する規定については、その対象、範囲、影響度を予め定義することが難しいという側面があり、具体的な条項の在り方については、様々な考え方があるところであるため、容易に標準化できる部分ではない。3で示す考え方は、現実のPFI契約をベースにしつつ修正を加えたものであるが、法令変更への対処の方法については様々な考え方があることに留意する
必要がある55。
(2)リスク分担の明確化の必要性
リスク分担の明確化というPFIの基本理念からは、法令変更の際の増加費用の負担の規定についても、基準をできる限り明確化すべきである。そこで、それぞれの事業の特性に応じて、将来行われる可能性のある変更で重要なものについては、予め取り扱いを明記することが望ましい。ただし、実際には予想できない変更が生じる可能性が高く、明記できる場合は限定される。
(3)リスク分担に関する考え方
リスクを最もよく管理することができる者が当該リスクを分担する、というPFIの基本理念からは、法令変更規定は民間に管理できないリスクを負わせないようにする必要がある。法令変更は民間がリスクを管理できないという考え方を前提にすれば、①法令変更の対象者が広く一般的である場合、②民間の創意工夫により費用の増加の影響を抑えることができる場合、③(民間収益事業など)法令変更によるコストの増加を一般利用者等に転嫁しうる場合を除いては、基本的には公共がリスクをとるべきであると考えられる。
①一般的法令変更:法令変更のうち、その影響がxxに及ぶものについては(一般的法令変更)、法令変更の対象者が広く一般的であり、選定事業者もその効果を受忍すべきである。この場合、間接的には物価指数等に影響を与え、サービス対価の物価スライド条項その他指標に応じた調整条項、ベンチマーキングの規定、マーケットテスティングの規定など、価格調整に関する条項により最終的には一定部分費用の増加を吸収できるため、この観点からも選定事業者の負担とすべきである。(たとえば法人税率の変更があった場合、全国の全ての企業にとって内部コスト増になるので、コスト増が各企業の商品の価格に上乗せされ、物価指数に反映される等)。
②選定事業者の努力により軽減できる場合:(後述(3)参照)。
③利用者に転嫁できる場合:利用料金の値上等によって、法令変更によるコストの増加を一般利用者等に転嫁しうる場合は、選定事業者の負担とする。
④通常の民間の事業との差異:民間企業においては、法令変更による事業の増加費用を、その分野において事業活動を行わないとすることにより影響を一定の範囲内に抑えることができる。これに対して、選定事業者の場合は、公目的達成のために契約xxx行動が制限されるという選定事業者の義務の特異性から、一般の企業活動に比べて収益や支出の枠組みが固定しており、法令変更に伴う費用増を、収益を増大して吸収できる手段が限定される場合もあることに配慮することも考えられる。
(4)軽減義務
55 <参考>において英国の例を示した。また、後述する一般的法令変更の場合や、民間収益事業の場合でも、民間では対応できるリスクではないのではないかとの考えもある。
選定事業者は、法令変更によって費用の増加が見込まれる場合、その影響を軽減するために合理的な努力を行うものとする。
(5)コミュニケーションの重要性
法令変更への対処法(費用を増加を抑える方法など)について、早い段階(法令変更についての具体的情報が入手した段階)から官民のコミュニケーションを密に図ることにより、可能な限り、円滑に解決することが望ましい。
4.具体的な規定の内容 (1)プロセス
法令変更については、早い段階から当事者間の密度の高いコミュニケーションを行うことにより、増加費用等を軽減できる場合も少なくない。そこで、法令変更が予想される場合には、早い段階 で他方の当事者に通知をした上で協議を開始し十分な時間をかけて議論することにより、双方で 情報を共有して、協力しながら、正確な影響を評価し、増加費用の軽減に努力することが重要で ある。これによっても軽減できなかった増加費用については、(2)以降の原則に従ってどちらが 費用を分担するかを決定することになる。
(2)費用の分担方法
①直接法令変更及び一般法令変更
「本事業に直接影響を与える法令の変更」(特に本事業及び本事業類似のサービスを提供する事業に関する事項を直接的に規定することを目的とした法令で事業者の費用に影響があるもの)とそれ以外の法令変更(一般的法令変更)に分類し、後者については選定事業者とする(理由については3(3)①参照)。
②資本的支出
資本的支出については、個別性が高く物価スライド等で吸収することは困難と考えられることから、法令の種類に関わらず管理者等の負担とすることが考えられる。
資本的支出の内容:建設費の増額や、運営開始以降の新たな設備の導入、大規模修繕等が該当する。解体費についても、これと同様に扱うことも考えられる。
③民間収益事業等の場合
上記 2(2)③記載のとおり、民間収益事業等選定事業者が利用者からの利用料金を収受するスキームの場合は、費用の増加を利用料等に反映させることができること、また、他の民間事業者とのxxを図ることから、原則として選定事業者の負担とする。ただし、費用の利用料への転嫁については、一定の限界があることに留意すべきである。56
費用の利用料への転嫁の限界
1)選定事業者が利用者からの利用料金を収受するスキームの場合でも、例えば指定管理者制度が採用されている場合のように、利用料金の設定について制約がある場合が多い。この場合、法令変更の場合は利用料金の変更に管理者等が同意する旨規定するか、管理者等が増加費用を負担するなどの方法により、選定事業者に過大なリスクを負わせないようにすべきである。
2)利用料金の値上げが可能である場合でも、値上げにより、利用者が減少し、リスクプロファイルが変わる可能性がある。従って、利用料金値上げが可能である場合でも、利用者にこれを転嫁することを前提に選定事業者が増加費用を負担することが常に妥当であるとは限らない点に留意する必要がある。
④税制変更
税制の変更に起因する増加費用の負担割合については、「サービス対価」の外税とした消費税率の変更による増加費用を管理者等の負担とすることが通例である。加えて、資産所有にかかる税率の変更及び新税設立による増加費用を管理者等の負担とすることもあり得る。なお、法人税率の変更等、選定事業者の利益に課される税制度の変更による増加費用は、選定事業者の負担とすることが通例である。
(3)軽減義務
上記 2(2)②記載のとおり、選定事業者の努力により法令変更による影響を押さえることができる部分については、管理者等は増加費用を負担すべきではない。したがって、管理者等が法令変更リスクを負担する場合については、選定事業者に費用の増加を押さえるために合理的な範囲内での努力を行う義務を負わせることが適切である。
軽減義務の規定方法
1)包括的に軽減義務を規定する方法:事業者は増加費用を軽減するために合理的な範囲内で努力を行うものとする旨規定する57。
2)軽減のための協議内容を規定する方法:軽減するための努力を行ったことを示す証拠や類似の事業に与えた影響に関する証拠の提出など、協議の内容を予め規定する(詳細は<参考>英国に
56 選定事業者に事業継続事務があるのであれば、むしろ管理者等がリスクを負担すべきではないかという考え方もあり、この点についてはさらに検討を要する。
57 実際には、何をもって「合理的努力」を行ったといえるかについては、判断が難しい点に留意する必要がある。
おける法令変更 参照)
(4)特定の法令の変更に関する規定
特に当該事業において将来問題になる可能性があると予想される変更については、「本事業に直 接影響を与える法令の変更」「一般的法令変更」のどちらに分類するか、あるいは両者とも別の 扱いにするかについて契約書に明記するなど、例示によって扱いを明確化することが考えられる。
1)法令変更とはいえないが法令の運用が変わった場合についても(例えば、建築確認の運用手続が変更になった結果、費用が増加した場合)、予測可能であるものがあれば特定の上対処方針を規定しておくことが望ましい。
2)一つの法令の中でも、規定によって、管理者等のリスクとすべきところ、選定事業者のリスクとすべきところが分かれる可能性もあるため、必要があれば規定ごとにリスク分担を記載するものとする。
3)費用の増加については、選定事業者が立証責任を負うべきである。
5.留意点
(1)費用を両当事者で分担する方法
資本的支出相当分の費用負担に関しては、管理者等が増加費用を負担することを原則としつつ、選定事業者の努力により増加費用を抑えることができる場合が考えられることや、手続き負担の観点(比較的少額の変更について対価の変更のための手続を行うことは煩雑である)から、選定事業者も一部負担することも考えられる。
例:○○万円までは民間負担58、○○万円以上○○万円までは公共○%、民間○%を負担、○千万円以上は全額公共負担とするなどの方法が考えられる59。これにより、民間が負担する最大額を示すことができ、その結果金融機関も法令変更についてどの程度のリスクを見ればよいのかが明確になるというメリットもある。
(2)費用の減少への対処
運営段階において、規制緩和によって要求水準を変更し選定事業者の義務を軽減できる場合のサービス対価の変更についても、可能である限り対応方法を規定しておくことが望ましい。
58 民間が負担する金額の設定方法としては、契約金額の一定割合として示す方法もありうる。
59 選定事業者の努力により押さえることのできる増加費用の範囲については慎重に検討する必要がある。また、金額の設定方法によっては、民間が入札の際に予備費を積むことにより VFM を逆に低下させる可能性があることに留意すべきである。
(3)債務負担行為との関係
管理者等は、法令の変更に基づく増加費用に備えて、債務負担行為の設定額には一定の余裕を持たせることが望ましい。ただし、増加費用の額が大きい場合には債務負担行為を修正することが必要と考えられ、どこまで余裕を持たせることを認めるかについては、更に検討を要する。
<参考>英国における法令変更(概要)
1.法令変更の定義
「法令変更」とは、契約締結日以降に、次のいずれかが効力を生じることをいう。
(a) 法令(契約締結日以前に以下により公表されていたものを除く)
(i) 各省庁諮問書(Government Departmental Consultation Paper)の一部としての法令草案。
(ii) 法案
(iii) 政省令の草案。
(iv)EC 官報掲載の草案。
(b) ガイダンス
(c) 関係する裁判所の適用可能性のある判決で、拘束力のある判例を変更するもの。
「法令」とは、英国における 1978 年の法令解釈に関する法律第 21 条(1)の規定の範囲内の
国会制定法又は下位の法令、国王大権の行使並びに 1972 年ヨーロッパ共同体法第 2 章に規定された強制可能な共同体権利を意味する。
2.差別的/特別法令変更及び一般法令変更
法令変更の内容 | 負担者 | |
差別的法令変更 「差別的法令変更」とは、下記の対象に適用される旨明示した法令変更を意味する。 (a) 当該事業のみに適用され、PFI に基づく他の同種の事業には適用されないもの。 (b) 当該受注者にのみ適用され、他の者には適用されないもの。 (c) PFI 事業の受注者に適用され、他の者には適用されないもの。 | 発注者 | |
「特定法令変更」とは、[当該サービスと同一若しくは類似のもの]の提供、又 は[当該サービスと同一若しくは類似のサービス]の提供が主たる業務となっている会社の株式保有に関する法令変更を意味する。 | ||
「一般法令変更」(差別的法令変更および特定法令変更以外) | サービス期間中に発効し、資本的支出の支出を伴うもの | 発注者及び受注者が分担 |
その他 | 受注者 |
3.法令変更の手続
(a) 法令変更が行われる又は直近に変更が行われる場合、当事者は相手方に対し、想定される影響に
関する意見を送付する。この意見には以下の詳細が含まれる。
(i) 必要なサービス変更。
(ii) 適格法令変更に対して本契約の条件変更が必要となる可能性。
(iii)受注者が予定されたサービス提供開始日までにサービス提供を開始すること、及び/又は適格法令変更の実施期間中にパフォーマンス規定を達成することなどについて、契約上の義務の履行の免除が必要であるか。
(iv)適格法令変更から生じた収益の損失
(v) 適格法令変更により直接生じるプロジェクト費用の変更見積
(vi)事業期間中の適格法令変更により新たに必要となった、又は必要なくなった資本的支出。いずれの場合でもサービス内容の変更の実施に関する詳細手続を含むものとする
実施費用(及びユニタリーチャージの変更)については、下記(b)~(f)に従うものとする。
4.軽減義務に関する規定
(b) (a)項の通知を当事者の相手方から受領した場合はできる限り速やかに、両当事者は(a)項に規定された問題及び受注者が適格法令変更による影響を少なくする方法について協議を行いかつ合意するものとする。これには以下の内容が含まれる。
(i) 受注者が、合理的に努力して下請業者に発生する費用増加を最小化し、費用削減を最大化するための合理的な努力を行った(相見積もりの取得(可能である場合)を含む)ことの証拠の提供。
(ii)資本的支出が発生した場合又は発生すると予想される場合に、予見できる当該法令変更を受注者が考慮したことを示すことを含め、費用削減に効果的な方法で資本的支出の発生又は発生回避が算定されているかについての説明。
(iii) 当該事業会社の株主又は関係会社が運営している事業も含めて、法令変更が当該事業と類似した事業の料金水準に与えた影響の証拠の提供。
(iv)当該適格法令変更によって必要となった資産の取替え又は維持管理のために発生すると予想される費用で発生が回避できる費用の説明。これには上記(a)(5)又は(6)の結果発生する又は要求される金額を含む。
5.支払についての規定
(c) 受注者が適格法令変更を原因とする追加の資本的支出分を負担する旨両当事者が合意した場合又は第 28 章「紛争解決」によりその旨決定された場合(本項に定める一般的法令変更の結果資本的支出を受注者が負担する旨合意した場合又は決定された場合は除く)、受注者及び優先貸出人が満足する条件により、受注者は資本的支出のために必要な資金を調達するため、合理的な努力をしなければならない。