Contract
報 告 書
(xxx消費者被害救済委員会)
平成31年2月
xxx生活文化局
xxxは、6つの消費者の権利のひとつとして、「消費生活において、事業者によって不当に受けた被害から、xxかつ速やかに救済される権利」をxxx消費生活条例に掲げています。
この権利の実現をめざして、xxxは、都民の消費生活に著しく影響を及ぼ し、又は及ぼすおそれのある紛争について、xxかつ速やかな解決を図るため、あっせん、調停等を行う知事の附属機関としてxxx消費者被害救済委員会
(以下「委員会」という。)を設置しています。
消費者から、xxx消費生活総合センター等の相談機関に、事業者の事業活動によって消費生活上の被害を受けた旨の申出があり、その内容から必要と判断されたときは、知事は、消費生活相談として処理するのとは別に、委員会に解決のための処理を付託します。
委員会は、付託を受けた案件について、あっせんや調停等により紛争の具体的な解決を図り、個別の消費者の被害を救済するとともに、解決にあたっての考え方や判断を示します。
この紛争を解決するにあたっての委員会の考え方や判断、処理内容等は、xxx消費生活条例に基づき、広く都民の方々や関係者にお知らせし、同種あるいは類似の紛争の解決や未然防止にご活用いただいております。
本書は、平成30年8月22日に知事が委員会へ紛争処理を付託した「独居高齢者のリフォーム工事契約に係る紛争」について、平成31年2月14日に委員会から、審議の経過と結果について知事へ報告されたものを、関係機関の参考に供するために発行したものです。
消費者被害の救済と被害の未然防止のために、広くご活用いただければ幸いです。
平成31年2月
xxx生活文化局
第1 紛争案件の当事者 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1
第2 紛争案件の概要 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1
第3 委員会による処理開始と当事者の主張
1 申立人の主張 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1
2 相手方の主張 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 2
第4 委員会の処理結果 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 4
第5 報告にあたってのコメント
1 あっせん案の考え方について ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 4
2 同種・類似被害の再発防止に向けて ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9
■資 料
1 申立人からの事情聴取 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 14
2 相手方からの事情聴取 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 16
3 「独居高齢者のリフォーム工事契約に係る紛争」処理経過
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 18
4 xxx消費者被害救済委員会委員名簿 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 19
申立人 (消費者)1 名 70 歳代半ばの女性
相手方 (事業者)1 社 リフォーム工事事業者
第2 紛争案件の概要
申立人の主張による紛争案件の概要は、次のとおりである。
平成 30 年2月下旬、突然、リフォーム工事事業者(相手方)が自宅マンションに来た。相手方はひととおり自宅を見て、xxxと風呂場及びキッチンのリフォームが必要だと 言った。リフォームしたいと思ってはいなかったが、勧められて、お願いしますと言っ てしまった。契約書の署名は確かに自分のものだが、契約条項の説明を受けた記憶はな い。また、便器・浴槽・システムキッチンなどについてカタログを見て自分で選んだ記 憶はない。相手方が家に居た時間は短時間だったと思う。
契約金額は約 350 万円で、150 万円を一時金として払い、完工後に残額を払う、工期は
3月上旬から約1週間とのことだった。翌週、150 万円を振込んだ。
3月初め、訪問看護師が契約書を見つけて、地域包括支援センター1 に連絡したようだ。地域包括支援センターと消費生活センターの職員が来て、本当に必要な工事なのか、未 着工ならまだ解約できるかもしれないなどと言われ、思い直して解約することにした。 解約通知のハガキを書いて、投函してもらった。
その後、解約するのなら既に調達済みの建材費等を支払うようになどと求められているらしい。しかし、xxxと風呂場は 15 年ほど前にリフォーム済みで、xxxxも自分
で料理をすることはない。解約して、支払った一時金 150 万円全額を返してほしい。
第3 委員会による処理開始と当事者の主張
本件は、平成 30 年8月 22 日、xxx知事からxxx消費者被害救済委員会に付託され、同日、同委員会会長より、その処理が、あっせん・調停第二部会(以下、「部会」とい う。)に委ねられた。
当事者の主張は、次のとおりである。
1 申立人の主張
(1) 年金生活で一人暮らしである。相手方が2月下旬の昼、自宅マンションに突然来訪したので、家に入れた。どうして家の中に入れてもいいと思ったのか覚えていない。相手方は男性二人で、上がって風呂場とxxxxを見ていた。居たのは 10 分~
1 地域包括支援センターとは、介護保険法に基づき、市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・xx 介護支援専門員等を配置して、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、 その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設のことである。主な業務は、介護予防支援及び包括的支援事業(①介護予防ケアマネジメント業務、②総合相談支援業務、③権利擁護 業務、④包括的・継続的ケアマネジメント支援業務)で、制度横断的な連携ネットワークを構築して実施 する。
- 1 -
15 分位だったように思う。
(2) 相手方からは、点検したところ、ブロックかコンクリートの壁に漆喰を塗ってあるだけだから、きちんとやり直さないといけない、ちゃんとした壁にしましょうと言われた。不便を感じるところはなかったが、直しましょう、きれいにしましょうと言われると、他人から見たら汚い、みっともないのかなと思い、直してもいいかと思った。
(3) トイレ・風呂場・キッチンを全部まとめて工事するという話だった。ただ、xxxと風呂場は 15 年ほど前に入居した時にリフォーム済みだから、工事に来た時に断ればいいと思ったが、相手方の来訪は 1 回だったので言う機会がなかった。相手方から、高齢者向けのリフォームだからと、特に説明(手すりの設置、段差の解消、介護等の等級に応じた公的補助など)はなかった。写真、カタログ、チラシなど資料は見せられた記憶がない。
(4) 契約金額は約 350 万円で、150 万円を一時金として払い、完工後に残額を払う。工 期は3月上旬から約1週間とのことだった。契約金額が高いかどうかは分からない。 150 万円を先に払うのは、そういうものだと思った。契約書の氏名、住所、電話番 号、生年月日は自分の字。ハンコも自分のもの。契約品名は相手方が書いた。
(5) 重要事項確認書は、説明を受けた記憶はないが、自分がチェックしているから、読んだのかもしれない。クーリング・オフの説明はなかったが、クーリング・オフについては知っている。日付の異なる契約書、見積書及び請求書があるが、それぞれ手に入った経緯は思い出せない。
(6) せっかちなので、翌週、預金から一時金 150 万円を振り込んだ。一人で近所の金融機関に振込みに行った。何日だったかは覚えていないが、通帳に日付が出ているならその日である。
(7) 地域包括支援センター(以下、「包括」という。)の支援を受けているし、訪問看護師にも定期的に来てもらっている。3月初め訪問看護師が定例訪問に来て、契約書を見つけ、包括に連絡したようだ。包括の職員から連絡があり消費生活センター(以下、「センター」という。)に相談した方がよいと言われて、自分からセンターに電話をした。忘れっぽくて細かいことは覚えていない。午後、包括とセンターの職員が来た。
(8) この契約の工事の必要性について聞かれ、トイレと風呂場は以前にリフォームしたし、キッチンも今は自分で料理はしないので、工事はしなくてもいいと思った。まだ着工していないから解約できるかもしれないなどと言われて、思い直して解約することにした。センターの助言を受けて解約通知のハガキを書いて、投函してもらった。工事は包括が電話をして止めてくれたとのことである。その後、相手方からどんな解決の提案があったのかは詳しいことは覚えていない。
(9) 工事はもう希望しない。払った 150 万円かそれに近い金額を返してほしい。息子はいるが巻き込みたくないので相談していない。ほかに誰もいないので相談しなかった。
(詳細は資料1のとおり)
2 相手方の主張
(1) リフォーム工事をしている。営業対象は個人で、築年数が深いマンションに訪問
販売をしている。今年の2月下旬、申立人宅のあるマンションも築 30 年以上なので、アポイントを取らず、その全戸を個別訪問した。
(2) 申立人宅を訪問し、マンションの築年数が古いので、水回りのほうだけ状態を見させてもらっていると声を掛けて、中に入った。契約の打合せを含めて、申立人宅に居たのは 1 時間位である。
(3) 家の中で、マンションが建った当時の設備を使っている部分を指摘したところ、申立人の方から悪いところは全て直してほしいと言われた。水漏れやトラブルにつながる可能性は指摘した。部分部分で進めようとも思ったが、申立人の希望で、水回りの配管を直したりキッチンや給湯器の工事を全てすることになった。機器は全て新品に取り換えるものである。
(4) 商品ごとにメーカーのカタログを見せて打合せをした。壁やシステムキッチンの扉の色などはサンプルを見せた。申立人は、お任せではなくこの色がいいなどと言っていた。高齢者で、今説明したことを5分後には忘れるような人もいるが、申立人にはそういうことはなかった。
(5) 当社の契約書は「購入申込契約書」という名称である。契約書は訪問した日に作成し交付した。見積書はその翌日作成し直接渡しに行った。請求書は見積書の翌日に発行し郵送した。解約通知は3月初旬に、おそらく発送日の次の日に受領したと思う。
(6) 契約の段階で見積書はできていなかったが、月に何件もこなしているので大体の相場は分かる。だから、契約書には全体の合計金額を書いた。採寸などの必要な作業を全部して、システムキッチンなど特注品の金額がメーカーから出たあとで、見積書を作成している。
(7) 契約書とセットになった重要事項確認書は、契約書にサインをしてもらう前に番号順に読み上げて目を通してもらったうえで、申立人がチェックした。契約書の裏のクーリング・オフの説明に目を通すよう話をした。重要事項確認書にクーリング・オフ期間経過後には仕様変更・キャンセルができないとする条項があるが、やむをえない日程変更などには応じている。
(8) 契約書面には、確かに商品名や型式番号など記載していない商品もあるが、パネルやシステムキッチンは書いてある。その場でできる限り特定するように書いた。
(9) 風呂場に手すりをつける話はしたが、高齢者向けの特別仕様にはなっていない。申立人宅の風呂場は在来工法なので、低浴槽のユニットバスは提案していない。風呂場の入り口の段差はマンションの構造上の問題で、なくすとなると大掛かりな工事で一時退去も必要となる。しかし、荷物も多くそこまでは考えていないと思い、提案しなかった。
(10) 訪問した担当者には契約締結の権限がある。申込を受けてその場で承諾しているので、契約の合意はある。ただ、高額の契約なので会社に電話を入れて連絡はしている。
(11) 一時金の振込みには一緒に行っていない。支払に関しては、高齢者なので、親族がいるならば相談するよう言ったが、本人が払うので気にしないでほしいと言われた。
(12) 申立人からの解約申出後、消費生活センターには、パターン1(仕入が止められなかったキッチン用商品の代金と手配していた職人の人件費の賠償)、2(キッチン
のみ施工)、3(金額を下げて全部施工)、の三とおりを提案した。この3つが現時点でも解決案である。申立人の利益も考慮すると、パターン2が申立人にも当方にもメリットがあるのかと考える。
(13) 今回のことを受けた当社の改善策は、以下のとおりである。
・書類の不備は感じ、すぐに訂正した。商品については特定できるよう記載する。また、費目と金額の対応が分かるよう記載する。そして、契約書面の「購入申 込契約書」という名称も改善する。
・一時金は契約金額の何割をもらうという定めはないが、本件の 150 万円は非常に高いと思う。クーリング・オフ期間満了前に一時金をもらうのはすぐに取りやめることにする。
・高齢者と契約する場合の基準のようなものは、当時はなかった。しかし、トラブル防止のために、70 歳以上の場合は、仮で申込書を書いて、3日以上空けてから、直接訪問して、見積書と照らし合わせて契約をするように改善した。また、必ず親族がいるか確認するようにしている。
(詳細は資料2のとおり)
第4 委員会の処理結果
部会は、平成 30 年9月3日から平成 30 年 12 月 25 日までの5回に渡って開催された。
(処理経過は資料3のとおり)
部会においてあっせん案を作成し、当事者双方へ提示したところ、紛争は、あっせんの成立により解決した。
合意書の内容は、次のとおりである。
【合意書の内容】
1 相手方は、特定商取引に関する法律(特定商取引法)第 9 条による解除(クーリング・オフ)を認め、申立人が相手方に支払った金銭の額である 1,500,000 円を、申立人に対し返還する。
2 相手方は、上記1の返金すべき金額の合計 1,500,000 円を、申立人の指定する金融機関口座に、平成 31 年 1 月 25 日までに、全額を一括で振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は相手方の負担とする。
3 申立人と相手方の間には、本件契約に関して、本あっせん条項以外、相互に何らの債権・債務関係のないことを確認する。
第5 報告にあたってのコメント
1 あっせん案の考え方について
(1) 訪問販売における書面交付義務ア 書面交付義務
本件では、相手方が申立人宅を訪れて契約を締結しているので、訪問販売に該
当する(特定商取引に関する法律(以下、「特商法」という。)2条1項1号)。訪問販売において、事業者は、消費者から契約の申込を受けた場合には直ちに
申込書面を(特商法4条)、そして、契約を締結した場合には遅滞なく契約書面を、消費者に交付しなければならない(同法5条1項本文)。申込を受けた際に契約を締結した場合には直ちに契約書面を消費者に交付しなければならない(同法5条1項本文かっこ書き、4条ただし書き)。申込書面と契約書面には法が定める必要事項が記載されていることを要する。記載事項と記載方法の詳細は、特商法4条と5条、同法施行規則3~6条、通達 2に定められている。本件では書面交付義務をめぐり以下の点が問題となる。
イ 書面の記載事項・記載方法
契約書面には、商品の種類を記載することを要し(特商法5条1項、4条1 号)、具体的には、商品名及び商品の商標又は製造者名(特商法施行規則3条4 号)、商品の型式(同条5号)の記載が必要となる。そして、上記通達によると、これらの記載事項は契約した商品を特定させることを目的としており、住宅リフ ォームに関する書面の場合において、工事内容を詳細に記載せず、「床下工事一 式」、「床下耐震工事一式」とのみ記載することは特商法4条、5条違反に該当 するとされている。
また、契約書面には商品の販売価格と役務の対価を記載しなければならず(特商法5条1項、4条2号)、数種の商品や役務を組み合わせた契約の場合には、それぞれの代金の内訳を記載しなければならない。複数の商品代金の内訳の記載がない場合(大阪地判平成 18 年6月 29 日消費者法ニュース 69 号 185 頁)、販売
代金と取付工事の対価の内訳の記載がない場合(東京地判平成5年8月 30 日判タ
844 号 252 頁)に、記載不備と認定した裁判例がある 3。
ウ 書面の一覧性
なお、上記通達によると、契約書面に記載すべき事項が契約書面上に記載しきれない場合には、「別紙による」旨を記載したうえで、別途、役務の提供に関する事項を記載した書面を交付することを要するとされており、このような「書面の一覧性」の要件を満たすためには、契約書面との一体性が明らかになるように別紙も同時に交付することが必要となる。
エ 本件の契約書面
本件の契約書面が上記の特商法上の書面交付義務の要件を満たしているかを検討すると、訪問当日に交付された相手方の契約書面(「購入申込契約書」というタイトルが付せられている)には、システムキッチンについて商品名は記載されているが、サイズや色、システムキッチンに組み合わせる他商品の記載がない。また、便器、タンク、洗面ボール、浴槽、照明、換気扇については商品名や商品の
2 「特定商取引に関する法律等の施行について」(平成 29 年 11 月 1 日付消費者庁次長・経済産業省大臣官房商務・サービス審議官通達)第二節 訪問販売関係 三 法第4条、第5条(書面の交付)関係。
3 xxxx=xxxx=xxxx『特定商取引法ハンドブック(第5版)』(日本評論社、2014 年)151 頁。
型番の記載がなく、翌日交付された見積書にもこれらの記載がない。さらに、対価の内訳も示されていない。加えて、契約書面において不明確な点を翌日に交付された見積書で補完するつもりであったとしても、契約書面には「別紙による」との記載がなく、また、契約書と見積書は同時に交付されていないので、一覧性の要件を満たさない。
以上により、本件の契約書面は特商法4条と5条の要件を満たしておらず、相手方は書面交付義務に違反しているといえる。
(2) クーリング・オフ
ア クーリング・オフの可否
本件は訪問販売に該当するので、申立人は必要事項が記載された法定書面を受領してから8日以内であれば、クーリング・オフが可能である(特商法9条)。現に申立人は、3月上旬の日付の解約通知を送付し、相手方が受領している。しかしながら、申立人による解約通知が契約書面の受領から8日以上経過した後であることから、権利行使期間内のクーリング・オフといえるのかが問題となる。
必要事項が記載された法定書面の受領時がクーリング・オフの権利行使期間の起算時とされているので(特商法9条1項)、法定書面の記載事項に不備があれば、
8日間という権利行使期間は進行を開始しない。つまり、書面を受領してから8日以上が経過した後でも、消費者はクーリング・オフを行使できる。
上記のように、本件の契約書面は特商法4条と5条の要件を満たしていないことから、権利行使期間は進行を開始しておらず、書面受領から8日以上経過した後でも申立人はクーリング・オフを行使できる。
イ クーリング・オフ後の清算
クーリング・オフが行使されると、消費者は一切の経済的負担を免れる。事業者は消費者に対して解除に伴う損害賠償や違約金の支払を請求できない(特商法
9条3項)。消費者に引渡済の商品の返還費用は事業者の負担となる(同4項)。また、事業者は消費者に対して提供済みの役務の対価の支払を請求できず(同5 項)、消費者から支払われた金銭を消費者に返還しなければならない(同6項)。さらに、原状回復に必要な措置を無償で講ずることを要する(同7項)。本件で は、相手方は申立人から受領済みの 150 万円について申立人に返還することを要す る。なお、相手方は仕入が止められなかった商品の代金並びに手配していた職人 の人件費を賠償するように申立人に求めているが、クーリング・オフがされた場 合は、相手方の申立人に対するこれらの請求は一切認められない。
(3) 中途解約
ア 民法上の中途解約権
本件リフォーム工事契約は、請負契約あるいは準委任契約の性質を有するが、 いずれの性質を有すると解しても、消費者は理由の如何を問わず中途解約ができ る(民法 641 条、651 条 1 項)。もっとも、中途解約により事業者に損害が生じた 場合には、一定の要件の下で消費者はその賠償を要するとされている(民法 641 条、 651 条2項)。問題は賠償すべき損害の範囲をどのように決定するかであるが、こ
れについては、特商法において契約解除等に伴う損害賠償額等が制限されている。特商法 10 条1項4号によると、訪問販売で締結された役務提供契約が解除された 場合、解除が役務提供開始前であれば、「契約の締結及び履行のために通常要す る費用の額」が違約金等の上限とされている 4。具体的金額については、特定継続 的役務提供に関する特商法 49 条2項2号並びに同法施行令別表4が参考になる。
それによると、特定継続的役務の類型毎に1万 1000 円から3万円という具体的金額が示されている。本件において相手方が申立人に支払を求めている「仕入が止められなかった商品の代金並びに手配していた職人の人件費」についても、同程度の金額が適正額と解され、それを著しく超える金額の支払を申立人に請求することは許されない。それ故、申立人から受領した金額について相手方は上記該当額を控除して返還を要するものと解される。
イ 解約権排除条項の有効性
(4) 契約の成否・錯誤無効ア 契約それ自体の成否
(1)~(3)までにおいて契約が有効に成立したことを前提とした法的問題を記したが、本件ではそもそも契約が有効に成立したといえるのか疑わしい事情も存するので、契約の成立要件と有効要件について以下に検討する。契約は、申込の意思表示と承諾の意思表示の内容が合致することにより成立する(平成 29 年改正民法 522 条1項(2020 年4月1日施行)当然のことを明文化した確認規定であり、改正前の現行民法の下でも通用する。)。本件では、相手方が最初に申立人宅を訪問した日に契約が成立しているというのが相手方の主張であるが、その翌日に見積書が申立人に交付されていること、契約書とされる書面の表題には「購入申込契約書」と記載されており、相手方宛に「下記の条件により購入申込契約致します。」との記載もみられること、その書面には日付が「申込日」と記載されていたことから、相手方が最初に申立人宅を訪問した日に交わした「購入申込契約書」は申立人からの単なる申込の意思表示にすぎず、後日、見積書が交付された後に相手方からの承諾の意思表示により契約が正式に成立するものとの認識を申立人に抱かせるような状況にあったことがうかがわれる。それ故、本件はそもそ
4 消費者庁取引対策課=経済産業省商務・サービスグループ消費経済企画室編『特定商取引に関する法律の解説(平成 28 年版)』(商事法務、2018 年)115 頁。
5 前掲注3・xx=xx=xxx155 頁。
も契約が締結されたといえるのか疑いが残る案件といえる。
イ 成立した契約の内容
契約が成立したとしても、申込の意思表示と承諾の意思表示の合致した部分が契約内容となるが、本件では申立人の主張によると、トイレと風呂場は 15 年ほど前の入居時に既にリフォーム済みであったことから、今回はキッチンのみのリフォームを希望するというのが申立人の意思である。これに対し相手方の主張によると、トイレ・風呂場・キッチンの三点セットでのリフォームをするというのが相手方の意思であると推察される。そうすると、双方の意思表示の合致がみられるのがキッチンのみのリフォームであることから、キッチンのリフォームのみが契約内容であり、その他のトイレと風呂場のリフォームについては双方の意思表示の合致があるのか疑わしく、後二者は契約内容になっていないとの疑問が残る。
ウ 錯誤無効
また、トイレ・風呂場・キッチンの三点セットの契約が成立すると解しても、これは申立人の意思と齟齬がある内容であることから、申立人の錯誤により契約が無効(民法 95 条)となる可能性がある。
エ 契約不成立・錯誤無効における清算
契約が成立していない場合、あるいは、申立人の錯誤により契約が無効となる 場合、申立人は代金債務を負わないので、相手方は申立人から受領済みの 150 万 円を申立人に返還することを要する。なお、相手方は、仕入が止められなかった 商品の代金並びに手配していた職人の人件費を賠償するように申立人に求めてい るが、契約が不成立であれば、申立人の代金債務がそもそも発生していないので、申立人には債務不履行責任は生じない。また、成立していない契約については解 除や解約もありえないので、申立人は契約の解除や解約に伴う賠償義務も負わな い。
(5) 適合性原則違反
特商法7条1項5号は「訪問販売に関する行為であって、訪問販売に係る取引のxx及び」顧客の「利益を害するおそれがあるものとして主務省令で定めるもの」について事業者に対して主務大臣が必要な措置をとるべきことを指示することができると定めており(同1項)、これを受けた特商法施行規則7条では、老人その他の者の判断力の不足に乗じて契約を締結させること(同2号)、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行うこと(同3号)などを指示対象行為としている。このうち、3号はいわゆる「適合性原則(顧客の知識、経験、取引目的、財産状態に不適合な取引への勧誘を禁止する法理)」と呼ばれる法理の具体化である 6。本件は一人住まいの高齢の年金生活者に高額なリフォーム工事契約を勧誘しており、適合性原則に反する可能性がある。適合性原則違反の民事法的効果については何らxx規定が置かれていないが、明白かつ著しい適合性原則違
6 前掲注3・xx=xx=xxx180-182 頁。
反について不法行為が成立しうるとするのが判例の立場であり(最判平成 17 年7月
14 日民集 59 巻6号 1323 頁)、勧誘の態様によっては不法行為が成立する可能性がある。
2 同種・類似被害の再発防止に向けて
(1) 事業者に対して
ア 法に従った書面の交付
本件は訪問販売において、申込みを受けたその場で契約をしているので、特商法
5条1項1号、1項本文かっこ書きにより、「直ちに」、特商法5条所定書面
(契約書面)を交付する必要がある(ただし、そもそも契約が成立していないとも考えうることにつき、第5、1(4)ア参照)。
そして、特商法5条所定の記載事項として、「商品…又は役務の種類」を記載する必要があるところ(特商法5条1項、4条1号)、それは当該商品・役務が特定できるものでなければならない。すなわち、契約者(消費者)や第三者が当該契約書を見て、どのようなものを購入・契約したのか判断できるものでなければならない。詳細は、第5、1に記しているが、本件の場合、検討対象となる契約書面には、各工事について商品名や金額が書かれていないなど、到底、「商品…又は役務の種類」が特定されているとはいえず、5条書面が交付されていないと言わざるをえない。
訪問販売は、いわば不意打ち的な販売方法であり、冷静な判断ができないままに契約をしてしまいがちであるところから、クーリング・オフ(特商法9条)が認められている。法定書面の交付はクーリング・オフの前提として、交付日からクーリング・オフ期間が起算されるのであって、その交付は法に従い適正に行われる必要がある。
事業者は、書面交付の重要性を十分に認識したうえで、法に従った書面を交付する必要がある。
イ 勧誘目的の明示等
相手方によると、マンションの築年数が古いので、水回りのほうだけ状態を見させてもらっていると声を掛け、住居内に入ったとのことである。
しかし、これでは勧誘目的が明示されていない。特商法3条は、「訪問販売をしようとするときは、その勧誘に先立って、…勧誘をする目的である旨及び…商品
…の種類を明らかにしなければならない」とし、同法3条の2第1項では、「相手方に対し、勧誘を受ける意思があることを確認するよう努めなければならない」と定めている。これらに反した場合、契約の民事効や罰則が定められているわけではないが、特商法3条違反については、消費者の利益が害されるおそれがあると認められるときは、主務大臣による指示、業務停止等の対象となる(特商法7、8条)。
本件では、単に「水回りのほうだけ状態を見させてもらっている」と述べているのであり、特商法3条に違反している。通達 7によると、例えば、「水道管の無料
7 前掲注2 第二節 一 法第3条(氏名等の明示関係)(3)。
点検にまいりました。損傷等があった場合には、有料になりますが、修理工事をおすすめしております」等と述べる必要があるとされているのである。
当然のことながら、事業者は、特商法3条を遵守することが必要である。単に点検等と告げるだけであれば、仮に不良箇所が見つかったとしても、その場で勧誘せずに帰り、改めて補修のためであることを明示して訪問すべきである。
さらにいえば、このような勧誘目的明示義務違反でのトラブルが増加するようであれば、不招請勧誘(顧客からの依頼がないのに勧誘すること)の禁止(いわゆるオプトイン)が立法課題として検討されることになる。
ウ 契約についての充実した説明
申立人は、事業者の訪問から契約に至るまでの時間は 10~15 分程度で、カタログなどの資料を見せられていないと述べている。これに対し、相手方は、1時間位、カタログや色サンプル等も見せながら説明したと述べており、両者の言い分は異なっている。
この点、どちらの言い分が正しいのか断定はできかねるが、少なくとも、申立 人がカタログなどの資料を見せられていないと述べていることからして、その真 否は別にして、契約した工事の内容を十分に理解していないことがうかがわれる し、そもそも1時間程度で十分な説明ができるのか疑問である。また、相手方は、バリアフリーに対応した風呂場や段差解消についても、費用等の関係から説明自 体していないと述べている。しかし、契約書面作成当時 70 歳代半ばである申立人
にとって、今後 300 万円規模のリフォームを何度も行うことは考えがたく、事業者の独断で説明を除くのではなく、説明のうえ、選択させるべきだったと考える。
以上からして、仮に事業者として必要な説明を行ったと考えたとしても(申立人はこれ自体否定している)、消費者は、年齢等にもよるが、十分な理解をしていないことが想定されるので、より充実した説明が求められる。
ことに本件の場合、相手方は、築 30 年以上のマンションを集中して訪問しているのであり、居住者が申立人と同じく高齢者であることが初めから分かっていたと思える。であれば、事業者は、通常以上によりていねいな説明をすべきであるし、高齢者の生活に対応したバリアフリーも踏まえた説明が求められる。
エ 高齢者との契約
高齢者の場合、説明理解力の低下、判断能力の低下などがうかがわれ、仮に十分な説明をしたとしても、後日、トラブルとなることが往々にしてありうる。だからといって、高齢者との契約を一切排除することも認めがたい。
この点の調整は容易ではないが、高齢者との契約については、事業者は、訪問当日の契約を行わず、猶予期間を置く、同居親族などの同意を求めるなどといった自主基準を設けてトラブルを防ぐということも検討されるべきである。
オ 住宅リフォーム事業者行動基準(リフォーム10)
xxxは、xxx地域住宅生産者協議会との協議のもと、平成 19 年9月に、地域の工務店等のリフォーム事業者が守ることが望ましい行動基準として「住宅リ
フォーム事業者行動基準(リフォーム10)」を策定している 8。
そこには、「問合せに対する迅速かつ適切な対応と情報の開示」、「具体的に記 載した見積書の提出」、「書面による工事請負契約」、「工程表の提出」など10 の行動基準が定められている。その中で、例えば、見積書の提出については、材 料名・製品名等を具体的に明示すること、数量・単価は具体的に提示すること等、本件とも通じる項目が定められている。
これらは行動基準であって法的強制力があるわけではないが、リフォーム事業者には、守ることが望ましい基準として遵守が求められよう。
⑵ 消費者に対して
ア 契約の必要性の確認
申立人からの事情聴取によると、不便を感じるところはなかったが、直しましょう、きれいにしましょうと言われると、他人から見たら汚い、みっともないのかなと思い、直してもいいかと思って契約をしたと述べている。
これによると、不便ではなかったが外聞を考え契約をしたことになる。この点、申立人は、契約当時 70 歳代半ばと高齢であって、年齢による判断能力の低下があったかもしれないが、自分にとって本当に必要かどうかを考えず、安易に高額な契約を締結してしまったということになる。このような安易な契約は、後日、トラブルを起こしかねないものであり、慎重な姿勢が望まれる。
消費者は、特に、高齢者であれば、年齢による判断能力の低下もありうるのであるから、そのことも加味したうえで、契約の必要性を考えていくことが求められる。
イ 契約内容の確認
申立人は、事業者の訪問から契約に至るまでの時間は 10~15 分程度で、カタログなどの資料を見せられていないと述べている。これに対し、相手方は、1時間位、カタログや色サンプル等も見せながら説明したと述べており、両者の言い分は異なっている。
この点、どちらの言い分が正しいのか断定はできかねるが、もし申立人の言い分が正しいのであれば、申立人は、色や形などを含め、どのような工事内容にするか、きちんと検討せずに契約をしたことになる(全て相手方に一任していたということになるのであろうか)。
およそ契約をする以上は、その内容をきちんと確認して行うべきであり、もし内容確認を怠っていたということであれば、これもまた安易な契約だと言わざるをえず、消費者は、慎重な姿勢が望まれる。
ウ 契約の拘束力の認識
本件においては、トイレ・風呂場・キッチンにつき契約がされているが、申立人は、トイレと風呂場については 15 年ほど前にリフォームをしたから不要なので、工事に来た時に断ればいいと思ったとも述べている。
8 xxxx://xxx.xxxxxxxxxx.xxxxx.xxxxx.xx/xxxxxxx_xxxxxxx/xxxxxx00.xxx
当然のことながら、一旦、契約を締結した以上は、無効(意思無能力)、取消
(不実告知など)、解除(債務不履行、クーリング・オフなど)などの法定の事情がない限り、契約を無に帰する(断る)ことなどできない。申立人が、工事に来た時に断ればいいと思っていたというのは、誤った認識である。
契約の拘束力につき、誤ったないし不十分な認識を有しているのは、何も高齢者に限ったことでなく、若い年代も含めて、往々にしてあると聞く。例えば、
「印鑑を押さなければ契約したことにならない」との誤解は、契約が申込と承諾さえあれば口頭でも成立するということを認識していない結果である。
一旦、約束(契約)をした以上、口頭でも書面でも拘束力が生じるのであり、消費者は、そのことをきちんと認識しておく必要がある。
(3) 行政に対して
ア 適正な書面交付、勧誘目的等明示の徹底
法に従った書面の交付は、消費者が契約内容を理解するための前提である。主務大臣は、特商法4、5条違反を認めるときには、是正措置等を指示したり、業務停止等ができる(特商法7、8条)。また、事業者は、訪問販売にあたっては、勧誘目的である旨等を明示し(特商法3条)、勧誘を受ける意思があることを確認するよう努めなければならない(特商法3条の2第1項)のであり、主務大臣は、特商法3条違反を認めるときには、同じく、是正措置等を指示したり、業務停止等ができるのである(特商法7、8条)。以上のことから、行政は、事業者に対し、書面交付義務を履行するよう徹底すべきであるし、勧誘目的の明示等を履行するよう徹底すべきである。
イ 契約内容確認の徹底
消費者が契約内容をきちんと確認しない場合、トラブルが起こりうるのであり、消費者に対し、契約内容をきちんと確認し、契約書面の記載内容も確認するよう注意喚起の啓発活動を行うべきである。
加えて、契約するときには、きちんと内容を確認することが当然の前提であるこ とにつき、行政は、消費者教育を進めていくことが必要である。この消費者教育は、行政や学校で進めていくだけでなく、家庭でも幼いころから教育していくことが求 められる。
ウ 地域での見守り
本件申立は、契約して約2週間後に、訪問した看護師が契約書を見つけて地域包括支援センターに連絡したことに端を発する。同センターと消費生活センターの職員が申立人宅を訪問し、本当に必要な工事なのかを申立人自身に確認した結果、解約通知発送に至ったものである。
高齢者の中には、本人に被害に遭った認識がない場合や、被害に遭ったことを他人に相談するのが恥ずかしいなどといった意識を持つ人も多く、家の中の見慣れない商品・契約書の存在や日頃のなにげない会話により、周りの人が気付き、消費生活センターなどの相談機関につなげることが重要である。
本件では、消費生活センター職員が日常的に高齢者と接する機会のある地域包括
支援センターなどと協力・協働して対処することで、解決を図ることが可能になった事例といえるだろう。
この経過からして、行政は、地域包括支援センターを中心として、今以上に、高齢者の見守りを充実させ、さらには、見守りに関わる個人ないし機関(以下、「見守り関係者」という。)と消費生活センターとが連携することにより、消費者被害の掘り起こし(さらには未然防止)を図っていくことが重要である。
見守りを充実させる方策の一つとしては、見守り関係者が、消費生活センターの役割を理解することに加えて、高齢者に多い消費者被害の手口や、新しい手口に関する情報をあらかじめ知っておくことがある。消費生活センターは、見守り関係者が「気付き」のきっかけを学ぶことができるよう、消費者被害に関する講座や研修などを、より一層積極的に実施する必要があろう。
申立人からの事情聴取
項目 | 内容 |
生活状況 | ・年金生活で一人暮らしである。 |
来訪時の状況 | ・相手方が、2月下旬の昼、突然、自宅マンションに来訪したので、家に入れた。どうして家の中に入れてもいいと思ったのか覚えていない。 |
勧誘時の状況 | ・相手方は、男性二人で、上がって風呂場とxxxxを見ていた。居たのは 10 分~ 15 分位だったように思う、訪問はこの1回だけである。 ・相手方から、点検したところ、ブロックかコンクリートの壁に漆喰を塗ってあるだけだから、きちんとやり直さないといけない、ちゃんとした壁にしましょうと言われた。不便を感じるところはなかったが、直しましょう、きれいにしましょうと言われると、他人から見たら汚い、みっともないのかなと思って、直してもいいかと思った。 ・近所でもリフォームをしていると言うので、そうかと思った。水漏れしそうだ、工事をしなきゃいけないみたいな話はなかった。商品の説明は、口頭で言われた だけで、写真、カタログ、チラシなどの資料は見せられた記憶がない。 |
工事契約の内容 | ・トイレ・風呂場・キッチンを全部まとめて工事するという話だった。ただ、xxxと風呂場は 15 年ほど前に入居した時にリフォーム済みだから、工事に来た時に断ればいいと思ったが、相手方の来訪は1回だったので言う機会がなかった。相手方から、高齢者向けのリフォームという説明(手すりの設置、段差の解消、介護の等級に応じた公的な補助など)は特になかった。 ・一人暮らし、年金生活、地域包括支援センターの支援など自分のことは相手方に話していない。 ・契約金額は約 350 万円。それが高いかどうかは分からない。150 万円を一時金と して先に払うのは、そういうものだと思った。完工後に残額を払う。工期は3月上旬から約1週間とのことだった。 |
契約書について | ・契約書の氏名、住所、電話番号、生年月日は自分の字。ハンコも自分のハンコ。契約品名は相手方が書いた。ハンコを押したときに書いてあったかは覚えていない。 ・重要事項確認書は、説明を受けた記憶はないが、自分がチェックしているから、読んだのかもしれない。クーリング・オフの説明はなかったが、クーリング・オフのことは知っている。 ・日付の異なる契約書、見積書及び請求書があるが、それぞれ手に入った経緯は思 い出せない。 |
振込をした状況等 | ・せっかちなので、翌週、預金から一時金 150 万円を振り込んだ。一人で近所のx x機関に振込みに行った。何日だったかは覚えていないが、通帳に日付が出ているならその日である。残りの金額は、保険契約を解約して用意した。 |
消費生活センターとのこと | ・地域包括支援センターの支援を受けているし、訪問看護師にも定期的に来てもらっている。 ・3月初め定例訪問に来た訪問看護師が居室に置いてあった契約書を見付け、地域包括支援センターに連絡したようだ。地域包括支援センターの職員から消費生活 センターに相談した方がよいと言われて、自分から電話をした。忘れっぽくて細 |
かいことは覚えていない。午後、地域包括支援センターと消費生活センターの職員が来た。 ・この契約について聞かれ、工事の必要性について問われ、トイレと風呂場はリフォーム済みだし、キッチンも今では自分で料理はしないので、工事はしなくてもよいと思った。まだ着工していないから解約できるかもしれないなどと言われて、思い直して解約することにした。消費生活センターの助言を受けて解約通知のハガキを書いて、投函してもらった。工事は地域包括支援センターが電話をして止めてくれたとのことである。 ・その後、相手方からどんな解決の提案があるのか、センターから聞いたとは思う が詳しいことは覚えていない。 | |
申立人の希望 | ・もうこのことは忘れたい。工事はもう希望しない。払った 150 万円かそれに近い金額を返してほしい。 |
その他 | ・相談する人はいなかったので、誰にも相談しなかった。息子はいるが巻き込みたくないので相談していない。 |
相手方からの事情聴取
項目 | 内容 |
会社・事業につい て | ・リフォーム工事を月 20 件から 30 件ぐらいしている。 ・営業対象は個人で、築年数が深いマンションに訪問販売をしている。 |
訪問時の状況について | ・今年の2月下旬、申立人宅のあるマンションも築 30 年以上の築深なので、アポイントを取らず、その全戸を個別訪問した。 ・まず、Bが申立人宅を訪問し、マンションの築年数が古いので水回りのほうだけ 状態を見させてもらっていると声を掛けて中に入った。 |
勧誘時の状況について | ・家の中で、マンションが建った当時の設備を使っている部分を指摘したところ、申立人の方から悪いところは全て直してほしいと言われた。 ・1件につき 60 万から 100 万円の工事をしており、今回も、そのように部分部分で進めようと思ったが、申立人の希望で、水回りの配管を直したりキッチンや給湯器の工事を全てすることになった。機器は全て新品に取り換えるものである。 ・工事をしないと、水漏れする可能性、トラブルにつながる可能性は指摘した。 ・マンション全体を訪問するなかで、詳しく話を聞きたい金額を詳しく知りたいという人がいれば、連絡を受けて契約担当のAがカタログ等を持って合流し説明する。申立人宅についてもそのようにした。 ・メーカーのキッチンや浴室など各 500 頁位のカタログを見せて打合せをし、壁やシステムキッチンの扉の色などはサンプルを見せた。申立人はお任せではなくこの色がいいなどと言っていた。 ・高齢者の中には、今説明したことを5分後には忘れるような人は話したら分かる が、申立人にはそういうことはなかった。申立人の家に居たのは契約の打合せを含めて 1 時間位である。 |
契約書面の相互関係につい て | ・契約書は訪問した日に作成し交付した。見積書はその翌日作成し直接渡しに行った。請求書は見積書の翌日に発行し郵送したと思う。 ・解約通知は3月初旬に、おそらく発送日の次の日に受領したと思う。 |
契約書面について | ・契約の段階で見積書はできていなかったが、月に何件もこなしているので、大体の金額の相場は分かるので、契約書には全体の合計金額を書いた。採寸等の必要な作業を全部して金額を出すが、システムキッチンなど特注品は金額がメーカーから出るまで数万円前後するので、それが出たあと見積書を作成している。 ・重要事項確認書は契約書とセットになっている。契約書にサインをもらう前に番号順に読み上げて目を通してもらい、申立人がチェック印をした。質問はなかった。クーリング・オフは、契約書の裏に説明があるので目を通すよう話をした。重要事項確認書にクーリング・オフ期間経過後には仕様変更・キャンセルができないとする条項があるが、やむを得ない日程変更などには応じている。 ・契約書面の申立人の訂正印は、申立人が天井と壁の色は別のものが良いと言ったので、品番を書き換え、確認の意味で訂正印を押してもらった。 ・契約書面における商品の特定は、できる限り特定してということかと思う。確かに商品名や型式番号など記載していない商品もあるが、パネルやシステムキッチ ンは書いてある。その場でできる限り特定するように書いた。 |
契約に関するその他の事情 | ・一時金の振込には一緒に行っていない。 ・支払に関しては、高齢者なので、親族がいるならば相談するよう言ったが、本人が払うので気にしないでほしいと言われた。 ・当社の契約書の名称は、「購入申込契約書」となっているが、締結権限のあるA が訪問した日に申込みを受けてその場で承諾しているので、契約の合意はある。ただ、約 350 万円の契約なので、会社に電話を入れて事情を連絡した。 |
工事内容について | ・風呂場に手すりをつける話はしたが、高齢者向けに特別の仕様にはなっていない。 ・ユニットバスであれば、低浴槽や段差の少ないものを提案するが、申立人宅は在来工法のコンクリートの風呂場なので、提案していない。 ・風呂場の入り口に段差があったが、それはマンションの構造上の問題。段差をなくすのは大掛かりな工事となり一時退去も必要。水回りを直してほしいとの申し 出であり、荷物の多さからそこまでは考えていないと思い、提案しなかった。 |
契約審査苦情対応体制について | ・お客様の苦情は、販売担当一人で対応せず、経営者に全て回している。 ・高齢者と契約する場合の基準、ルールのようなものは、当時はなかった。 |
解決案について | ・申立人からの解約申出後、消費生活センターに提案した、パターン1(仕入れが止められず申立人宅でしか使えないキッチン用商品の代金と当時手配していた職人の人件費の賠償)、2(キッチンのみ施工)、3(金額を下げて全部施工)の三とおりの提案が現時点でも解決案。 ・申立人の利益も考慮すると、キャンセルできなかったキッチンを据え付けるパタ ーン2が申立人にも当方にもメリットがあるのかと考える。 |
今回のことを受けた改善策 | ・書類の不備は感じ、すぐに全部訂正した。商品の特定については不十分だと感じるので、特定できるよう記載する。また、それぞれの工事で費目と金額の対応が分かるように記載する。そして、「購入申込契約書」という名称については、 「申込」を取るなりして改善する。 ・クーリング・オフ期間満了前に一時金を頂戴するのはすぐに取りやめることにする。一時金を契約金額の何割をいただくという定めはないが、本件の 150 万円は非常に高いと思う。 ・トラブル防止のため、70 歳以上の場合は、仮で申込書を書いて、3日以上空けてから、直接訪問して、見積書と照らし合わせて契約をするように改善した。また、必ず親族がいるかは確認するようにしている。ただ、自分で払う、身内に頼 りたくないなどと言う人には、それ以上言えない。 |
「独居高齢者のリフォーム工事契約に係る紛争」処理経過
日 付 | 部会開催等 | x x |
平成30年 8月22日 | 【付託】 | ・紛争案件の処理を知事から委員会会長に付託 ・あっせん・調停第二部会の設置 |
9月 3日 | 第1回部会 | ・紛争内容の確認、申立人のヒアリング |
10月 1日 | 第2回部会 | ・事業者のヒアリング |
10月26日 | 第3回部会 | ・法的問題点の検討、あっせん案の考え方等の確定 |
11月26日 | 第4回部会 | ・事業者にあっせん案の考え方等を示し、意見交換 ・あっせん案の検討 ・報告書骨子の検討 |
11月28日 | (あっせん案) | ・あっせん案を紛争当事者双方に提示 |
12月25日 | (合意書) | ・合意書の取り交わし |
12月25日 | 第5回部会 | ・報告書内容の検討 |
平成31年 2月14日 | 【報告】 | ・知事への報告 |
xxx消費者被害救済委員会委員名簿 | |||
平成31年2月14日現在 | |||
氏 名 | 備 考 | ||
学識経験者委員 | (16名) | ||
x x x x | 東京大学社会科学研究所教授 | ||
x x x x | 弁護士 | ||
xx xxx | 弁護士 | ||
x x x | 法政大学法学部教授 | ||
x x x 恵 | 立教大学法学部教授 | ||
x x x x | 早稲田大学大学院法務研究科教授 | ||
x x x x | 明治大学法学部教授 | 本件あっせん・調停部会委員 | |
x x x x | 中央大学大学院法務研究科教授 | ||
xx xxx | 一橋大学大学院法学研究科教授 | ||
x x x | 弁護士 | 会長代理 本件あっせん・調停部会長 | |
x x x x | 弁護士 | ||
x x x x | 弁護士 | ||
x x x x | 慶應義塾大学大学院法務研究科教授 | ||
x x x x | 中央大学大学院法務研究科教授 | ||
x x x 子 | 弁護士・東京経済大学現代法学部教授 | 会長 | |
x x x | 弁護士 | ||
消費者委員 | (4名) | ||
x x x x | xxx生活協同組合連合会 常任組織委員 | ||
xx xxx | 主婦連合会 参与 | ||
x x x x | xxx地域消費者団体連絡会 共同代表 | ||
x x x x | 特定非営利活動法人xxx地域婦人団体連盟 理事 | ||
事業者委員 | (4名) | ||
x x x x | 東京商工会議所 理事 | ||
x x x x | 一般社団法人東京工業団体連合会 専務理事 | ||
x x x | xxx商工会連合会 専務理事 | ||
xxx xx | xxx中小企業団体中央会 常勤参事 |