平成 13 年 3 月 1 日、亡木村政司(以下「A」という[固有名詞がマズければ「亡A」])とB社と本件営業者は、B社の本件匿名組合契約上の匿名組合員の地位 のうちAの拠出額がB社の出資額中に占める割合(以下「A の出資割合」という。1599 万 4000 分の 400 万)に相当する部分をAに譲渡し、本件営業者がこれを承諾する旨の
立教大学法学部 xxxx
①判示事項
1 匿名組合契約に基づき匿名組合員が受ける利益の分配と所得区分の判断
2 匿名組合契約に基づき航空機のリース事業に出資をした匿名組合員が、当該契約に基づく損失の分配を不動産所得に係るものとして所得税の申告をしたことにつき、国税通則法 65 条 4 項にいう「正当な理由」があるとされた事例
②最二小判平成 27 年 6 月 12 日平成 24 年(行ヒ)408 号所得税更正処分取消等、民集 69 巻 4 号 1141 頁(一部破棄、一部上告棄却)
③【判決要旨】
1 匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得は、①当該契約において、匿名組合員に営業者の営む事業に係る重要な意思決定に関与するなどの権限が付与されており、匿名組合員が実質的に営業者と共同して事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には、当該事業の内容に従って事業所得又はその他の各種所得に該当し、②それ以外の場合には、当該事業の内容にかかわらず、その出資が匿名組合員自身の事業として行われているため事業所得となる場合を除き、雑所得に該当する。
2 匿名組合契約に基づき航空機のリース事業に出資をした匿名組合員が、当該事業につき生じた損失のうち当該契約に基づく同人への損失の分配として計上された金額を不動産所得に係る損失に該当するものとして所得税の申告をしたところ、これに該当しないとして更正がされた場合において、匿名組合契約に基づき匿名組合員が受ける利益の分配に係る所得区分に関する課税庁の公的見解が上記申告後の通達改正によって変更されたが、変更前の公的見解によれば上記の金額は不動産所得に係る損失に該当するとされるものであったなど判示の事情の下では、上記申告をしたことにつき、国税通則法 65 条 4 項にいう「正当な理由」がある。
④【事実】
(1)事実経過
本件の取引の狙いを端的に表現すれば、航空機の減価償却費の租税属性(tax attribute)を航空会社から個人に匿名組合を通じて移転する、というものである。
平成 12 年 11 月 30 日、日本法人たるバンクオブアメリカ・インベストメント・リーシング有限会社(以下「B社」という[固有名詞がマズければ「日本法人たるB社」])は、英国領ケイマン諸島に所在する外国法人たる ArkGold Ltd.[固有名詞がマズければ「外国法人たるC社」]との間で、自らを匿名組合員、同法人を営業者として(以下
「本件営業者」という)、本件営業者がイベリア航空からAirbus 社製A320-200 型航空機 1 機を購入しこれをイベリア航空にリースする[固有名詞がマズければ「本件営業者が外国航空会社から航空機を 1 機購入し当該航空
会社にリースする」]事業(以下「本件リース事業」という)を営むため、自らが 1599 万 4000 米ドルの出資をする旨
の旧商法 535 条における匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約」という)を締結した。
平成 13 年 3 月 1 日、亡xxxx(以下「A」という[固有名詞がマズければ「亡A」])とB社と本件営業者は、B社の本件匿名組合契約上の匿名組合員の地位のうちAの拠出額がB社の出資額中に占める割合(以下「A の出資割合」という。1599 万 4000 分の 400 万)に相当する部分をAに譲渡し、本件営業者がこれを承諾する旨の
契約(以下「本件地位譲渡契約」という)をした。同年 7 月 13 日、Aは本件地位譲渡契約に基づく譲渡の対価
(400 万米ドル+金利相当 12 万 9777.78 米ドル)を支払い、これにより、平成 12 年 11 月 30 日に遡って本件匿名組合契約上の匿名組合員の地位を取得した。
本件匿名組合契約により、①本件リース事業につき各計算期間(10 月 1 日~翌年 9 月 30 日)に本件営業者に生ずる利益または損失は匿名組合員の出資割合に応じて分配される、②本件リース事業は本件営業者がその単独の裁量に基づいて遂行するものであり、匿名組合員は本件リース事業の遂行及び運営に対していかなる形においても関与したり影響を及ぼしたりすることができない、③本件営業者は自らが適当と判断する条件で本件リース事業の目的を達成するために必要又は有益と思われる契約を締結するなどの行為を行うことができる、とされていた。
平成 14 年 10 月 1 日から 17 年 9 月 30 日までの各計算期間に、本件リース事業について本件営業者に損失
が生じ、平成 15 年、16 年、17 年の 9 月 30 日の各時点において、Aの出資割合に応じた金額がAへの損失の
分配として計上された(順に 1 億 1528 万 7281 円、7220 万 5577 円、3877 万 7148 円)。Aは、本件匿名組合契
約に基づくAへの損失の分配として計上された金額につき、所得税法 26 条 1 項の不動産所得に係る損失に該
当するという前提で、平成 15 年分から同 17 年分までの所得税の各確定申告をした(以下「本件各申告」という)。
平成 19 年 2 月 22 日、所轄税務署長は、後述の新通達により、上記の計上された金額は不動産所得に係る損失に該当せず、損益通算をすることはできないなどとして、各年分の所得税につき更正及び過少申告加算税
の賦課決定をした(以下、これらの更正及び賦課決定の各処分中、本件において取消請求の対象とされているもののうち、原審においてその取消しを求める訴えが却下すべきものとされた部分を除いた部分を「本件各更正処分」又は「本件各賦課決定処分」という)。
Aが課税処分の取り消しを求めて提訴した。原々審・東京地判平成 22 年 11 月 18 日はAの請求を棄却した。
Aが控訴後死亡し、Aの妻子(以下「Xら」という)がAの相続人として訴訟を受継した。原審・東京高判平成 24 年
7 月 19 日もXらの請求を棄却した。
(2)規定と通達変更1
所得税法 69 条 1 項により、所得税法 26 条 1 項の不動産所得に係る損失は損益通算に用いることができる一
方、所得税法 35 条 1 項の雑所得に係る損失は損益通算に用いることができない。
匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得区分について、平成 17 年 12
月 26 日付け課個 2-39 ほかによる改正(以下「平成 17 年通達改正」という)で概ね原則・例外が逆転した。①平成 17 年通達改正前の所得税基本通達 36・37 共-21(以下「旧通達」という)において、原則として、営業者の営む事業の内容に従い事業所得又はその他の各種所得に該当するものとされ、例外として、営業の利益の有無にかかわらず一定額又は出資額に対する一定割合により分配を受けるものは、貸金のxxと同視しうるものとして雑所得に該当する(出資が匿名組合員自身の事業として行われている場合は事業所得に該当する)ものとされていた。②平成 17 年通達改正後の所得税基本通達 36・37 共-21(以下「新通達」という)において、原則として雑所得に該当するものとされ、例外として、匿名組合員が営業者の営む事業に係る重要な業務執行の決定を行っているなど当該事業を営業者とともに営んでいると認められる場合には、当該事業の内容に従い事業所得又はその他の各種所得に該当するものとされている。
(3)原審の趣旨
原審は、第一に、Aへの損失の分配として計上された金額は、所得税法 26 条 1 項の不動産所得に係る損失に該当せず、損益通算の対象とならず、本件各更正処分は適法である、とした。
第二に、旧通達から新通達への「変更」と評価することはできず、旧通達下においても、本件匿名組合契約に基づく利益の分配は雑所得として扱われるため、Aの本件各申告に国税通則法 65 条 4 項の「正当な理由」はなく、本件各賦課決定処分は適法である、とした。
⑤【上告理由】
上告受理申立て理由は、第一に、匿名組合契約の法的性質等に鑑みてAが分配を受ける損益は所得税法
26 条の不動産所得に係るものであること、第二・第三・第四・第五に、本件各更正処分はxxx(民法 1 条 2
項)・平等原則(憲法14 条)・行政先例法(慣習法)・租税法律主義(憲法30 条、84 条)に違反すること、第六に、
Aには国税通則法 65 条 4 項の「正当な理由」があることを述べた。
⑥【判決理由】
1 「匿名組合員は……商法の規定の定める法律関係を前提とすれば,営業者の営む事業に対する出資者としての地位を有するにとどまるものといえるから,匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配は,基本的に,営業者の営む事業への投資に対する一種の配当としての性質を有する」。
「匿名組合員に営業者の営む事業に係る重要な意思決定に関与するなどの権限が付与されており、匿名組合員がそのような権限の行使を通じて実質的に営業者と共同してその事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には、このような地位を有する匿名組合員が当該契約に基づき営業者から受ける利益の分配は、実質的に営業者と匿名組合員との共同事業によって生じた利益の分配としての性質を有する」。
「匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得は,当該契約において,匿名組合員に営業者の営む事業に係る重要な意思決定に関与するなどの権限が付与されており,匿名組合員が実質的に営業者と共同して事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には,当該事業の内容に従って事業所得又はその他の各種所得に該当し,それ以外の場合には,当該事業の内容にかかわらず,その出資が匿名組合員自身の事業として行われているため事業所得となる場合を除き,雑所得に該当する」。
「本件匿名組合契約においてAに本件リース事業に係る重要な意思決定に関与するなどの権限を付与する旨の合意があったということはできず,Aが実質的に本件営業者と共同して本件リース事業を営む者としての地位を有するものと認めるべき事情はうかがわれない。そして,本件匿名組合契約においてその出資がA自身の事業として行われていると認めるべき事情もうかがわれないから,その所得は雑所得に該当する」。
1 「変更」と評価できるかが争われているが容赦されたい。
2 「旧通達においては原則として当該事業の内容に従い事業所得又はその他の各種所得に該当するものとされているのに対し,新通達においては原則として雑所得に該当するものとされている点で,両者は取扱いの原則を異にするものということができ,また,当該契約において匿名組合員に上記のような意思決定への関与等の権限が付与されていない場合(当該利益の分配が貸金のxxと同視し得るものである場合を除く。)について,旧通達においては当該事業の内容に従い事業所得又はその他の各種所得に該当することとなるのに対し,新通達においては雑所得に該当することとなる点で,両者は本件を含む具体的な適用場面における帰結も異にするものということができることに鑑みると,平成17年通達改正によって上記の所得区分に関する課税庁の公的見解は変更された」。
「少なくとも平成17年通達改正により課税庁の公的見解が変更されるまでの間は,納税者において,旧通達に従って,匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配につき,これが貸金のxxと同視し得るものでない限りその所得区分の判断は営業者の営む事業の内容に従ってされるべきものと解して所得税の申告をしたとしても,それは当時の課税庁の公的見解に依拠した申告であるということができ,それをもって納税者の主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないものということはできない。」
「本件各申告のうち平成17年通達改正の前に旧通達に従ってされた平成15年分及び同16年分の各申告において,Aが,本件リース事業につき生じた損失のうち本件匿名組合契約に基づく同人への損失の分配として計上された金額を不動産所得に係る損失に該当するものとして申告し,他の各種所得との損益通算により上記の金額を税額の計算の基礎としていなかったことについて,真にAの責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお同人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になるというのが相当であるから,国税通則法65条4項にいう『正当な理由』がある」。
⑦【参照条文】
所得税法 26 条、所得税法 27 条、所得税法 35 条、国税通則法 65 条、商法 535 条、商法 536 条、商法 539
条
⑧【批評】
(1)本判決の意義
本判決の意義は、第一に、原則として営業者にとっての所得の性質は匿名組合員に伝達しないとする新通達の扱いが正しい法解釈であることを明らかにしたこと、第二に、旧通達の扱いを非としたこと、第三に、通達の変更と国税通則法 65 条 4 項の「正当な理由」との関係に関する一事例を追加したことにある。本判決が明らかにしたことではないが、通達の変更があってもxxx・平等原則・行政先例法の問題を扱わなくてよいという前提をとっているように読めることについても、考察を要する。
本稿の構成は次の通り。通常であれば、(2)で本件各更正処分について考察し、(3)で本件各賦課決定処分について考察する、という構成となろう。しかし、本件ではxxx2等の問題があり、これは形式的には本件各更正処分に関する問題であるが、国税通則法 65 条 4 項の「正当な理由」と薄からぬ関係を持つ問題である。そこで、
(2)で所得の性質の伝達について、(3)で国税通則法 65 条 4 項の「正当な理由」とxxx等との関係について、
(4)で国税通則法 65 条 4 項の「正当な理由」について述べる。[字数が多すぎればこの段落を削除]
(2)匿名組合を経由する場合の所得の性質の伝達 (2-1)法令の非充実
本件の背景事情として、民法上の任意組合(民法 666 条)や商法上の匿名組合(旧商法 535 条)の租税法上の扱いに関する法令が充実しておらず、殆ど通達レベルで処理されてしまっているという問題がある3。
一般に、組織等(entity。本件では匿名組合)を経由して構成員(member。本件では匿名組合員)が所得を得る場合に、entity を透明扱い(transparent。パス・スルー〔pass through〕とも言われる)するか非透明扱い(non- transparent。法人扱いとも言われる)するかという議題が建てられる。しかし、組織段階と構成員段階で二重課税があるのかないのか、所得の性質は伝達されるのか変更されるのか(本件では営業者段階の所得の性質が匿名組合員にそのまま伝達されるのか、法人と株主との関係のように変更されるのか)、損益の計上時期はxxx、といった多様な問題について一緒くたに透明扱いか否か(パス・スルーか否か)という問いを立てるのは危険とされる。本稿は、本件で問題となった所得の性質の伝達に焦点を当てるためにのみ、透明扱いか非透明扱いかという用語を用いる。
(2-2)匿名組合契約は任意組合契約に近いのか金銭消費貸借契約に近いのか
2 本稿ではxxxxの原則と禁反言の法理とを区別しない。
3 xxxx「組合形式の投資媒体と所得課税」日税研論集 44 号 129 頁等参照。
前提として、一般に任意組合は透明扱いとされ、組合段階で不動産所得の基因となる不動産貸付等を営んでいれば組合員は不動産所得に係る損益を受けるものとして扱われる。他方、一般に金銭消費貸借契約の場合は非透明扱いとされ(そもそも金銭消費貸借契約は entity を形成しないので「非透明扱い」という表現も奇妙に受け止められよう)、借手が不動産所得の基因となる不動産貸付等を営んでいたとしても、貸手は不動産所得に係る損益を受けるとは扱われず、xx4を受けるものとして扱われ、原則として雑所得(貸手が事業として金銭貸付をしていた場合は事業所得)に係る損益を受けるものとして扱われる。では匿名組合契約はどちらに近いのであろうか。
原審は、「匿名組合につき、その法的性質等に民法上の組合と類似する側面がないわけでなく……内的組合との概念で論ずることが全く否定されるものではないとしても……匿名組合契約は消費貸借契約の特殊な形態であるともいい得る」(1245 頁)と述べた5。匿名組合契約がどちらに近いか、xxでも見解が分かれているといえよう67。
(2-3)最高裁の着眼点:共同事業者性
最高裁は匿名組合契約の性質論に踏み込まず、匿名組合員が共同事業者と評価できるかに焦点を当てた。 Aは共同事業者性があることも勿論主張しているが、最高裁の判断枠組みの下での共同事業者性の評価の問題そのものは評釈に馴染まない。なお、最高裁は新商法にも言及しているほか、新通達の課税方法が新商法 535 条以下の匿名組合契約について妥当しないとするような判断要素は特段見当たらないように読める。
所得の性質について透明扱いか非透明扱いかという問題が語られる際、所得の物的属性と人的属性のどちらに焦点を当てるか、という問いを立てることができる。国際課税の事例であるが、ガイダント事件・東京高判平成 19 年 6 月 28 日判時 1985 号 23 頁では、日本法人たる営業者からオランダ法人たる匿名組合員への利益分配
が、旧日蘭租税条約 8 条の事業利得ではなく 23 条のその他所得に当たると判断され、営業者が日本で稼いだという所得の性質が匿名組合を経由して変わってしまった。他方、オランダを含め多くの国では、匿名組合契約に係る利益分配につき所得の物的属性を重視し、営業者所在地国の事業利得としPEの存在も肯定して源泉地国の課税権を認めるものと考えられてきた。
本件最高裁は、所得の人的属性に焦点を当てた、と理解できる。それは、所得税法 23 条~35 条の所得区分が、所得の発生源における性質を所得稼得者まで伝達させることを必ずしも重視していない(非透明扱いの典型として所得税法 24 条の配当所得が挙げられよう)ということからも、理解できる。更に、所得の性質に関して一般に任意組合は透明扱いされるものの、任意組合の匿名組合員が給与所得を受けたものとして扱った事例、すなわち非透明扱いの事例として、りんご生産組合事件・最判平成 13 年 7 月 13 日判時 1763 号 195 頁がある。
(2-4)最高裁が無視した問題:法令が充実してない中で解釈論上の答えは一つなのか
最高裁は新通達の扱いが所得税法の正しい解釈結果であるとしたが、そのことは、旧通達に依拠したAの申告が違法であることを当然には意味しない。
例えば、任意組合に関し、任意組合段階の収益の性質・額等を損失の性質・額等を別個に組合員に持分割合に応じて帰属させる扱い(総額法)とするか、任意組合段階で損益をひとまとめにしてから組合員に持分割合に応じて帰属させる扱い(純額法。なお折衷法や略す)とするかという問題がある。法令で規定されるべき問題であるように思われるが現在は通達レベルで処理されている。東京高判平成 23 年 8 月 4 日平成 23 年(行コ)89号において、納税者は一部につき総額法を用い一部につき純額法を用いて申告したところ、課税庁が総額法に基づき課税処分を打ったが、納税者勝訴で確定している。
本件でも、匿名組合に関する課税関係の法令の整備が不充分なのであるから、【所得税法を解釈すると新通達の課税方法が妥当であるけれども、旧通達の課税方法もそれなりの説得力があるので、旧通達の課税方法を否定する明治の立法が無い限り、旧通達による申告を課税庁が違法として扱うことは許されない】という可能性も皆無とまではいえないように思われる。また、最高裁に対して失礼な思考であるが、新通達がない時代に納税者
4 ややこしいが所得税法 23 条にいうxx所得ではないことに留意。
5 本件と関係ないが、信託も、組織と契約の両方の性質を有しているとされることが多い。
6 任意組合契約に近い理解として、xxx「匿名組合に対する所得課税の検討」同編著『租税法の基本問題』 150 頁(有斐閣、2007)、金銭消費貸借契約に近い理解として、xxx「匿名組合契約と所得課税」ジュリスト 1251 号 177 頁(2003)参照。なお非典型匿名組合契約についてxxxxx「匿名組合契約の課税問題」日税研論集 55 号 143 頁(2004)参照。
7 本件と直接関係する訳ではないが、任意組合と匿名組合の近さを垣間見せる事例として、東京高判平成 19年 10 月 30 日訟月 54 巻 9 月 2120 頁がある。そこでは、任意組合を通じて株式譲渡益を得たという認識で申告したところ、匿名組合契約にかかる利益の分配とされ雑所得とされた。
が新通達による課税方法を主張したとして、果たして最高裁は所得税法と商法の解釈により旧通達の扱いは違法であると判断したのか、という疑問もある。しかし、最高裁がこの可能性を無視しているということは、旧通達の扱いは違法であるということなのであろう。
(3)国税通則法 65 条 4 項の「正当な理由」とxxx等との関係
(3-1)「正当な理由」の先例とxxxとの関係
本判決が引用する最判平成 18 年 4 月 20 日民集 60 巻 4 号 1611 頁は、ロースクールでは最判平成 18 年 4
月 25 日民集 60 巻 4 号 1728 頁とセットで教育される。納税者が税理士に申告手続きを任せていたところ税理士が脱税を図ったという両事件において、税理士が税務署職員と共謀していなかった前者の事件では「正当な理由」が認められず8、共謀があった後者の事件では「正当な理由」が認められた。
税理士が税務署職員と共謀するか否かという納税者目線からはコントロール不可の事情により「正当な理由」の認否が分かれている。(3-2)で後述するようにxxxの適用範囲は狭いところ、xxxに類する発想で以って裁判所が課税庁の対応と納税者との関係を調整していると理解する余地がある。
しかし、xxxそのものではない。xxxが問題となるとしたら、加算税についてではなく本税についての問題となる。本件で最高裁はxxxについて何も触れてないが、加算税について考察する前に言及しておく意義がある。
(3-2)xxxの適用要件
xxxのリーディングケースと位置付けられているのは酒類販売業者青色申告事件・最判昭和 62 年 10 月 30
日判時 1262 号 91 頁である。そこではxxxの適用要件として「①税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、②納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、③のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、④納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものである」(①②③④は引用者が付した)と 4 要件にまとめられている。
しかし限界事例としては一審で禁反言の適用を認め控訴審で認めなかった文化学院事件・東京高判昭和 41
年 6 月 6 日行集 17 巻 6 号 607 頁がふさわしい。そこでは、適用要件が「禁反言の法理とは、表示による禁反言をいうものと解されるが、その趣旨は、①自己の言動(表示)により他人をしてある事実を誤信せしめた者は、②その誤信に基き、その事実を前提として行動(地位、利害関係を変更)した他人に対し、③それと矛盾した事実を主張することを禁ぜられる、とするにあるものと考えられる。そして、一般に、①’禁反言の適用される表示とは、事実の表示であることを要し、単なる意見もしくは意向の表示では足りず、また、⑤禁反言の適用を認めると違法な結果を生ずる場合には、その適用を阻却されると解されている。」(①①’②③⑤は引用者が付した)とまとめられている9。
つまりxxxの適用のためには「事実」に関する表示が要件とされているところ、法令解釈通達は事実に関する表示ではないためxxxの対象にならない可能性がある。また、法令解釈通達は納税者向けへの見解の表示ではないのではないかという問題もある。最高裁の沈黙は必ずしも原審の判断の是認ではないが、本件で最高裁がxxxにつき沈黙していることには理由があるのかもしれない1011。
(3-3)平等原則・行政先例法について
Aは、Aと同様の状況にある者(本件匿名組合の別の個人出資者だけでなく控訴審追加資料12も)が雑所得扱
8 類例としてxx事件・最判平成 17 年 1 月 17 日民集 59 巻 1 号 28 頁参照。
9 一般にxxxの要件は 4 要件と言われるが、私には 5 要件であるように見える。しかし本稿で深入りする余裕はない。
10 xxxxx『税法基本講義』5 版 81 頁(弘文堂、2016)参照。ただし本件では国側も本段落に基づくような主張をしていないように読める。
11 地方税たる入湯税に関してであるが、原告の申告納入は処分行政庁の担当職員との協議に従った実態に即したものであって過少申告等ではないとの主張に対し、過少申告に「正当な理由」はないとしたことは違法でないとした事例として、神戸地判平成 27 年 10 月 29 日平成 25(行ウ)38 号参照。
12 控訴審より抜粋――「『所得税・質疑照会事項回答事績票』(甲17。以下「本件事績票」という。)には,匿名組合契約を締結し,航空機リース業に出資している納税者(個人)が,損失を事業所得(赤字)として申告した事例について,東村山税務署の『所得区分は,事業所得ではなく不動産所得とすべきだが,基通36・37共-21によれば,損失の額は認められるから,損益通算することはできる。ただし,通達改正後は,本件の場合,経営
いを受けてないから、Aについて雑所得扱いすることは平等原則に反するとも主張していた13。
原々審の「仮に法の適用を免れる者があったとしても、そのことゆえに、他の者に対して法を正しく適用することが平等に反することにはならない」(1218 頁)という判示は、Aの主張への応答として成立していない。なぜなら、スコッチライト事件・大阪高判昭和 44 年 9 月 30 日高裁民集 22 巻 5 号 682 頁は、他税関で 20%で課税し神戸税関だけ 30%で課税していたという事案において、「30%の関税を課するのが正当であるけれども」、「税関鑑査部長会議の決議により、全国統一的に本件物品と同種の物品に対しては 20%の税率による関税を課することとなり、みぎ状態が可なりの期間継続していたのであるから」、「超過した 10%の限度において法律に基づかない違法な課・徴税処分に当る」(結論には影響してないが)と判示しているからである。従って、Aと同様の状況にある別の者に法の誤った適用がなされている場合、本件でAに対し法の正しい適用をすることであっても平等原則違反として違法となりうる。
この点につき、原審は、「営業者との間に共同事業者としての関係が認められない匿名組合員について,一律に本件事績票の事例と同様の取扱いがされているとの立証はない」、「本件事績票の事例は,法の解釈適用においてむしろ統一性を欠く結果となっていることに照らすと,同様の事実関係にある事案において,すべて本件事績票の見解と同様に取り扱われたものとは到底考えられない」(1250 頁)と述べた。これは、前掲スコッチライト事件を踏まえたAへの応答として形式的には成立している。しかし、平等原則を適用させないための強弁にも見える((4-1)参照)。本件事績票を示してもなおAに立証責任が残るとすると、Aが平等原則で勝つためにはかなり高いハードルが設定されていることになる。最高裁の沈黙は必ずしも原審の判断の是認ではないが、平等原則に関し若干気掛かりではある。
(4)国税通則法 65 条 4 項の「正当な理由」について
(4-1)原々審・原審と上告審との違い
原審は「旧通達下において,匿名組合員が営業者から分配された利益については,営業者の営業の内容に従った所得区分により定めるとの画一的な運用がされていたとは認められない」から「新通達をもって,匿名組合員が営業者から分配を受ける利益の所得の種類の区分について従前の行政解釈を変更したものとは評価することができない」(1251 頁)と述べている。しかし、(3-3)でも述べたように、「画一的な運用がされていたとは認められない」というのは強弁のようにも見える14。
これに対し、最高裁は「変更」を認定している。しかも、原々審が旧通達下でもAに共同事業者性は認められない(1220 頁)と認定していたのに対し、最高裁は、旧通達下でなら不動産所得扱いであったかについて明言していないものの、不動産所得扱いであったであろうことを前提としているように読める。また、最高裁は「画一的な運用がされていたとは認められない」か否かについて触れてないが、やはり、原審の判示は強弁であると最高裁は受け止めたのではなかろうか。
(4-2)通達の変更と「正当な理由」
本判決も引用する最判平成 18 年 10 月 24 日民集 60 巻 8 号 3128 頁は、ストックオプションの利益に関し旧通
達下で一時所得扱いとされていたものの新通達下の給与所得扱いとされ、最判平成 17 年 1 月 25 日民集 59 巻
1 号 64 頁が給与所得扱いを正しい法解釈としたところ、旧通達の時代における一時所得扱いを前提とした申告
について国税通則法 65 条 4 項の「正当な理由」の例があるとした事例である。この先例の下では、通達の変更の認否が鍵であったと考えられる。
Xら代理人による解説として、xxxx・税経通信 70 巻 11 号 192 頁がある。控訴審判決に関する評釈として、
xxx・ジュリスト 1473 号 111 頁、xxxx・税研 178 号 46 頁がある。上告審判決に関する評釈として、xxx
x・国税速報 6373 号 14 頁、xxxx・月刊税務事例 47 巻 10 号 1 頁、xxxx・ジュリスト 1488 号 10 頁、
xxxx・ジュリスト_号[2016 年 5 月号予定]_頁、xxx=xxxx・税務弘報 63 巻 12 号 122 頁がある。
の参画権がないので,雑所得になる。』とする見解に対して,麹町税務署の個人課税事務担当審理専門官が,
『貴見のとおりで差し支えない。なお,通達の改正によって所得区分を変更するよう指導することとなるが,指導に当たっては慎重に対処していただきたい。』と回答」。(1241 頁)
13 行政先例法(慣習法)に違反するか、は、雑所得扱いしない例が全国的に広がっているか、ということにかかるため、平等原則の問題と重なる部分があり、本稿は行政先例法の議論に深入りしない
14 但し、本件原審は旧通達・新通達で「変更」は無いとしているため、やはり通達変更が無いハーフタックスプランに関する最判平成 24 年 1 月 16 日判時 2149 号 58 頁の差戻後控訴審・xxx判平成 25 年 5 月 30 日税資 263 号順号 12224 においても「正当な理由」は無いとされたこととのバランスから、本件でも原審が「正当な理由」は無いと判断したのは仕方なかったのかもしれない。