Contract
契約法1講義
第三者のためにする契約
明治学院大学法科大学院教授xxx x
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第1節 第三者のためにする契約の機能と課題
1. 第三者のためにする契約の位置づけ
2. 第三者のためにする契約の適用領域
3. 第三者のためにする契約の機能
4. その機能が活用されていないのはなぜか?
-民法典上の位置づけ-
総則物権
債権
契約
総論
民法 債権
債権
…
各論
契約の
成立
契約 契約の
総論 効力
契約の解除
契約
同時履行の
抗弁権
危険負担
第三者のため
にする契約
537条
538条
539条
親族
不法 各論
行為
相続
…
和解契約
◆ 典型契約と「第三者のためにする契約」とはどのような関係にあるのだろうか?
民法,特別法,判例の適用可能領域
責任保険
(保険
法8条)
生命保険
(保険法42
条)
受益権の取得
(信託法88
条)
運送契約
(商法
583条)
第三者のためにする契約
(民法
537条~
539条)
供託
(民法 494条~
498条)
保険法
信託法
商法
債務引受
(大判大 6・11・1民録23輯1715
頁)
契約上の地位の譲渡
(最二判昭46・4・ 23民集
25巻3号
388頁)
電信 銀行
送金 振込
(最一判 (大判昭
昭43・
12・5民 9・5・25
集22x x集13
13号 巻829
2876頁) 頁)
民法
特別法
判例法
◆「第三者のためにする契約」は,様々な制度をxxに構築できる優れた制度である。しかし,現状では,その利点が活かされていない。
◼ 「振込制度」の前身である「電信送金契約」に関して,判例は「第三者のための契約」ではないと断定した(大判大11・9・29民集1巻557頁,最一判昭43・ 12・5民集22巻13号2876頁)。
◆ これが,「第三者のためにする契約」の解釈学の悲劇の始まりである。
◼ その後,振込についても,「判例(大判昭9・5・25民集13巻829頁)は,振込契約を第三者のための制度ではないと判断している」という考え方が通説と なっている。
◆このため,「第三者のためにする契約」に基づいて振込制度の基礎理論を形成するという機会が阻害されている。
「第三者のためにする契約」の効用わが国の学説・判例の混迷
◆「誤振込」についても「第三者のためにする契約」からのアプ
ローチが不在である。
◆「振込契約」に関する判例解釈の混乱が原因となって,「誤振込」事件に関して,最高裁は「原因関係がなくても振込は有効」という「珍説」を採用するに至っている。
◼ 最二判平8・4・26 民集50巻5号1267頁
「振込みの原因となる法律関係が存在しない場合であっても,受取人と銀行との間に,振込金額相当の普通預金契約が成立する。」
◆ このため,反社会的集団による「振り込め詐欺」に対しても,「原因関係がなくても振込は有効」であるという判例法理が足枷となって,適切な対処できないという混迷状態が続いている。
◆そこで,「第三者のためにする契約」について,原点に立ち返って基礎的研究を行い,その効用を再評価をすることが必要となっている。
第2節 第三者のためにする契約の条文(立法理由と判例)の理解
◼ 第1款 第三者のためにする契約の定義と典型例
◼ 第2款 民法537条(当事者と効力)
◼ 第3款 民法538条(変更可能時期)
◼ 第4款 民法539条(抗弁の対抗)
「第三者のためにする契約」の意義
典型例の検討
◼ 契約当事者の一方(諾約者)が,第三者(受益者)に対して直接債務を負担することを契約の相手方
(要約者)に約束する契約。
◼ 典型例
◼ 原因(対価)関係
◼ 売主が,
売主の債権者
(受益者)
対価関係
債権
当事者売主
(要約者)
売売
その債権者に負って
いる債務を弁済するため,
◼ 当事者
◼ 売主(要約者)と買主(諾約者)間の約束で,
◼ 効果
◼ 売買代金を買主から売主
買買抗 代代
弁 金金
債債権権
当事者買主
第三者 補
のため 償
にする 関
契約 係
の債権者(受益者)に直接
支払わせることができる。
(諾約者)
2014/10/21 Lecture on Contract 9
第三者のためにする契約民法537条の理解
◼ 第537条(第三者のため
にする契約)
① 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約し
たときは,その第三者は,債務者に対して直接に
その給付を請求する権利を有する。
② 前項の場合において,第三
第三者
(受益者)
◆ 直接請求権
対価関係
他方当事者
(要約者)
第三者のためにする契約
(補償関係)
者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意
思を表示した時に発生する。
の発生を結果と
考えよう。
◆ 結果を生じさせる2つの原因とは何か?
一方当事者
(諾約者)
対価関係
受益者
(債権者)
要約者
第三
者のためにする契約
(補償
関係)
諾約者
(債務者)
第三者のためにする契約民法538条の理解
◼ 第538条(第三者の権利の確定)
◼前条の規定により第三者の権利が発生した後は,当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない。
第三者のためにする契約民法539条の理解
対価関係
◼ 第539条
(債務者の抗弁)
◼ 債務者は,第537条第1項の契約に基づく抗弁をもって,その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。
受益者
(債権者)
要約者
第三者のためにする契約
(補償
◆ 第三者のための契約と,更改との違いは,諾約者が受益者に対して抗弁を有するということである。
◆ それでは,諾約者が受益者に対して有する抗弁とは,どのような抗弁なのだろうか?
関係)
抗
弁
諾約者
(債務者)
第3節第三者のためにする契約の代表例
◼ 第1款 生命保険契約
◼ 第2款 債務引受(立法理由の再検討)
◼ 第3款 契約上の地位の譲渡
(1)生命保険契約
◼ 保険法第42条
(第三者のためにする生命保険契約)
◼ 保険金受取人が生命保険契約の当事者以外の者であるときは,当該保険金受取人は,当然に当該生命保険契約の利益を享受する。
受益者
(保険金受取人)
対価関係
要約者
(被保険者)
生命保険契約
(補償関係)
◆ ここでのポイントは,第三者のためにする契
約としての生命保険契約の場合,受益者による受益の意思表示は必要がないことである。
◆ 一般の第三者のためにする契約においても,事情によっては,受益の意思表示を必要としない場合がありうる点に注意すべきである。
抗
弁
諾約者
(保険者)
(2)債務引受
対価関係
受益者
(債権者)
債債権権
要約者
(債務者)
◼ わが国には,
債務引受に関するxxの規定は存在しない。
◼ 判例(大判大10・5・9民録 27輯899頁)は,ドイツ民 法(414条~)等を参考に判例法理を形成してきた。
◆ しかし,わが国には,条文の根拠が,
本当に存在しないのであろうか。
抗弁
債務 債務
引受
引受 契約
(補償関係)
諾約者
(新債務者)
◼ 大判大6・11・1民録23輯1715頁
◼ 第三者給付の契約は,契約当事者が契約の目的たる給付の上に第三者をして一定の権利を取得せしむる目的を以て当事者の一方が相手方に対し第三者に給付すべきことを約するに因りて成立するものなれば,
◼ 要約者と第三者との間に新なる独立の給付を約したる場合のみならず,
◼ 既存債務の履行を引受け支払を為すことを約する場合に於ても,当事者の意思が第三者をして権利を取得せしむるに在るときは,
◼ 第三者の為めにする契約は成立するものとす。
債務引受の根拠規定は存在しないのか?旧民法財産編第496条の価値
干渉(債務者の交代) 嘱託(指図)
債権者
債債権権
債務者
抗弁
補
償関係
新債務者
債権者
(受益者)
債債権権
債務者
(要約者)
抗弁
補
償関係
嘱
託
新債務者
(諾約者)
対価関係 対価関係
このように,旧民法では,2種類の債務引受が実現されている。現行民法の立法者は,この点を理解できず,債務者の交代による更改を規定するに留めてしまった。
債務引受の根拠規定は存在しないのか?旧民法財産編第496条の価値(3)
旧民法財産編第496条債務者の交替に因る更改
①債務者の交替に因る更改は,或は旧債務者より新債務者に為せる嘱託〔délégation〕に因り,或は旧債務者の承諾なくして新債務者の随意の干渉〔l'intervention spontanée〕に因りてxxx。
② 嘱託には完全〔免責的〕のもの有り,不完全〔併存的〕のもの有り。
③第三者の随意の干渉
〔l'intervention spontanée d’un tiers〕は下に記載する如く除約〔novation par expromission〕又は補約〔simple adpromission〕を成す。
ドイツ民法
債務引受(Schuldübernahme)
◼ 第414条(債権者・引受人の契約)
◼ 債務は,第三者が債権者との契約により,旧債務者に代わって債務者となる方法をもってこれを引き受けることができる。
◼ 第415条(債務者・引受人の契約)
◼ 第三者が債務者と契約した債務の引き受けは,債権者の追認に よってその効力を生じる。追認は,債務者又は第三者が債務の引き受けを債権者に通知した後にな すことができる。追認がなされる 間は,当事者は契約を変更し又 は破棄することができる。…
民法514条,537条との組み合わせ
債権者・新債務者間の契約
◼ 民法514条
(債務者の交代による更改)
◼ 債務者の交替による更改は,債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし,更
債務者・新債務者間の契約
◼ 民法537条
(第三者のためにする契約)
◼ 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは,その第三者は,債
改前の債務者の意思に反するときは,
この限りでない。
民法514条の基礎となった旧民法財産編 496条には,このほかに,債務者と旧債務者の合意と債権者の承認による債務引受の規定が用意されていた。
これを補うものとして,現行民法537条が
大きな役割を果たしうる。
務者に対して直接にその給付を
請求する権利を有する。
◼ 前項の場合において,第三者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
第3節 第三者のためにする契約の
代表例
第3款 契約上の地位の譲渡
1. 契約上の地位の譲渡を債権譲渡と債務引受の方法とを使って構成できるか?
2. その場合,契約上の地位の譲渡の当事者は,誰と誰とになるか?
3. もしも,第三者のための契約として構成する場合には,当事者は誰になるか?
第三者のためにする契約の代表例
(3)契約上の地位の譲渡(1/3)
対価関係
受益者
(賃借人)
債権
(使用・収益権)
要約者
(賃貸人)
抗弁
賃貸借契約の譲渡
(補償関係)
諾約者
(新賃貸人)
(3)契約上の地位の譲渡(2/3)
対価関係
債務者
(賃借人)
債権(譲賃渡料通債知権)
債権譲渡人
(旧賃貸人)
抗弁
債権譲渡契約
債権譲受人
(新賃貸人)
契約上の地位の譲渡(3/3)
同一当事者間の契約で権利と義務を同時に移転する方法の解明
旧賃貸人権利を譲渡
(通常の債権譲渡によることで可能)
新賃貸人が債務を引受け
(第三者のためにする契約によることで可能)
賃借人
(債務者)
賃料債権
債権譲渡通知
旧賃貸人
(債権者)
抗弁
債権
譲渡契約
新賃貸人
(譲受人)
対価関係
賃借人
(受益者)
使使用用収収益益
旧賃貸人
(要約者)
抗弁
債務
引受契約
(補償
関係)
新賃貸人
(諾約者)
賃貸人の地位の譲渡の場合,新所有者に義務の承継を認めることが賃借人にとって有利であるから,賃借人の承諾を必要とせず,旧所有者と新所有者間の契約をもってこれをなすことができる。
契約上の地位の譲渡を第三者のためにする契約として構成することは可能か?
◼ 最二判昭46・4・23民集25巻3号388頁
◼ 土地の賃貸借契約における賃貸人の地位の譲渡は、賃貸人の義務の移転を伴なうものではあるけれども、
◼ 賃貸人の義務は賃貸人が何ぴとであるかによつて履行方法が特に異なるわけのものではなく、また、土地所有権の移転があつたときに新所有者にその義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとつて有利であるというのを妨げないから、
◼ 一般の債務の引受の場合と異なり、特段の事情のある場合を除き、
◼ 新所有者が旧所有者の賃貸人としての権利義務を承継するには、賃借人の承諾を必要とせず、旧所有者と新所有者間の契約をもつてこれをなすことができると解するのが相当である。→図解