Contract
コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においてフランチャイザーの情報提供義務違反を認めた事例
平成15年4月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官平成11年(ワ)第641号 損害賠償等請求事件(甲事件)
平成12年(ワ)第183号 清算金請求事件(乙事件)口頭弁論終結日 平成15年2月10日
判決主文
1 サークルケイ・ジャパン株式会社は,原告Xに対し,金133万9000円及びこれ に対する平成9年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告Xのサークルケイ・ジャパン株式会社に対するその余の甲事件請求並びにサークルケイ・ジャパン株式会社の原告X及び同Yに対する乙事件請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,甲事件の訴え提起手数料はこれを20分し,その19を原告Xの負担とし,その余をサークルケイ・ジャパン株式会社の負担とし,乙事件の訴え提起手数料はサークルケイ・ジャパン株式会社の負担とし,その余の訴訟費用は,甲事件,乙事件を通じて2分し,その1を原告Xの負担とし,その余をサークルケイ・ジャパン株式会社の負担とする。
4 この判決第1項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1(甲事件について)
サークルケイ・ジャパン株式会社は,原告Xに対し,金3228万4583円及びこれに対する平成9年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2(乙事件について)
原告X及び同Yは,サークルケイ・ジャパン株式会社に対し,連帯して金800万14
79円及びこれに対する平成9年4月17日から支払済みまで日歩5銭の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 前提事実〔争いがないか,証拠(甲16,29,乙1ないし7,11,12,17の1ないし4
6,乙18の1ないし3,乙19,20,証人E,原告X本人)及び弁論の全趣旨によって明らかに認められる〕
(1) 当事者
ア 原告Xは,昭和62年ころ,工作機械の製造を営むC株式会社を設立し,xxx年には,肩書住所地に自社ビルを建設し,平成5年当時,同ビルで上記事業を営んでいた。なお,自社ビルの一角では,原告Xの妻が,「D」という屋号で,いわゆるミニコンビニを開設し,パンなどの食料品,雑貨,新聞,雑誌,切手,印紙,宝くじ及びたばこ等を販売していた。
イ 原告Yは,原告Xの妻の実弟であり,平成5年当時,C株式会社の技術部長を務めていた。
ウ 株式会社シーアンドエス(当時の商号は「サークルケイ・ジャパン株式会社」)は,コンビニエンスストアの経営等を目的とする株式会社であり,平成5年当 時,中京圏を中心に「サークルK」なる名称のコンビニエンスストアを全国展開しており,北陸地域においても店舗数の増加を図っていた。
Eは,昭和60年から平成5年7月まで株式会社シーアンドエスの北陸開発部に所属し,北陸地域における店舗の開発を担当していた。
(2) 本件フランチャイズ契約締結に至る経緯
ア Eは,遅くとも平成5年1月までに,Fが所有するxx市M町N番地R・宅
地・286.15平方メートル(以下「本件土地」という)をサークルKの新規出店の候補地として把握し,その出店の可否についての検討を始めた。Xは,同月12日ころ,本件土地の前面道路の交通量を計測し,これと相前後して,本件土地にサークルKの店舗を建築した場合の駐車可能台数,競合店の状況,商圏内の世帯数と人口等について立地調査を行い,初年度で1億0300万円の売上が見込めると判断し,その結果を「出店計画地調査書」(以下「本件調査書」という。乙1)にまとめた。上記売上予測の方式は,次のとおりである。
(ア) 商圏を半径500メートル,商圏内の世帯を約1500世帯と算定し,その消費年間支出を9億円とし,シェアを7パーセントとし,これを乗じた6300万円を基礎数値とする。
(イ) これに,店舗の具体的条件を採点し,加点ないし減点する。1点当たりの売上の増減を1000万円とする。採点の結果は次のとおり。
a オーナーの免許の有無 オーナー未定のため採点せず。 b 駐車場の台数 4台で加減点なし。
c 駐車場の出入り状況 出入口が1か所で出入りスムーズで加減点なし。 d 視界性 50メートルないし100メートルで減点0.5
e 店舗間口 7間以上で,加点0.5 f 売場面積 35坪で加点0.5
g 既存店 なしで加減点なし。
h オーナー店舗であるので加減点なし。
i 競合店 2店(ローソンO店とデイリーヤマザキP店)で加点1.0
j 通行量 人が少なくとも1500人から2000人,車が2万台以上で加点1.0 k 営業時間 24時間営業で加点1.5
l 商圏内の市場性 半径500メートル,世帯数が1500世帯で加減点なし。
(ウ) (イ)の合計が加点4.0になるので,売上予測値が1億0300万円となる。イ なおEは,本件土地だけでは4台分の駐車スペースしかとれないため,本件
土地に出店するためには,その隣地でGが所有する同所Q番地・宅地・67.43平方メートル(以下「本件隣地」という)を賃貸して駐車場とする必要があると判断し(本件隣地には6台の駐車が可能であった),Gと交渉を重ね,これを株式会社シーアンドエスが賃借することの内諾を得た。
ウ 以上の経緯を経て,株式会社シーアンドエスは,本件土地上に「サークルK M店」の名称で店舗(以下「M店」という)を出店することを決定し,同年2月26日,Fとの間で本件土地について賃貸借契約を締結した。その内容は,Fが同土地上に株式会社シーアンドエスの仕様に従った建物を建築し,株式会社シーアンドエスが,これを本件土地と一括して,M店の開業日から15年間,月額賃料を42万5000円(3年ごとに5%増額)として賃借するというものであった。
エ その後Eは,M店のオーナーになる者を探していたが,同年5月末か6月初 めころ,コンビニエンスストアの経営に興味を示していた原告Xに連絡をとり, M店のオーナーになる話を持ちかけ,原告Xとの交渉を開始した。Xは,原告 Xに対し,株式会社シーアンドエスの会社概要等のパンフレットを交付し,当時
7,8割がた完成していたM店の店舗用建物を案内してM店の立地条件について説明し,更に,M店の売上予測等を記載した「加盟店利益計画」と題する書面(以下「本件利益計画書」という。甲2)を原告Xに示しながら,オーナーの収入や経費について説明した。本件利益計画書には,初年度の年商が1億0
950万円(日商30万円),オーナー総収入が1572万1000円,経費1192万
6000円を差し引いて残る営業利益が379万5000円,2年度の年商が1億31
40万円(日商36万円,前年度の120%),営業利益が732万7000円,3年度の年商が1億4454万円(日商39.6万円,前年度の110%),営業利益が95
2万5000円との各記載があり,欄外に「この加盟店利益計画は参考に作成したものであり,本書内容を当社が保証するものではありません。」との記載があった。初年度の上記売上予測値は,本件調査書による売上予測値が年間1億
0300万円(日商では28万2191円になる)であったところ,その後本件隣地を駐車場として利用できることになったから,前記の加点1点に相当すると考え,日商の予測を30万円に増額して算出したものであり,また2年目以降の売上予測値は,初年度の売上予測値に過去のサークルK店の売上伸張実績割合を乗じた数値であった。更にEは,「最低保証があるので,万が一の場合はそれで食べていける」と説明した。原告XがEに「もうかりますか。」と質問したのに対し,Xは,「最初の1,2年は大変でしょう。」と答えた。
オ 平成5年6月19日,原告Xは,サークルKへの加盟を申し込む旨の加盟申込書用紙に必要事項を記載してEに手渡した(以下「本件加盟申込書」という。乙
4)。本件加盟申込書には,加盟者の欄に原告X,連帯保証人予定者の欄に原告Yの氏名が記載されていた。なお,原告Xは,自らがM店のオーナーになり,原告Yがその店長を務めることを予定していた。
カ 同月21日ころ,Xは,同年7月12日から同月24日までを研修期間とし,同月
30日を開店予定日とする開店スケジュール表(甲3)を原告Xに示し,開店ま でのスケジュールについて協議した。同年6月22日及び23日,Xは,原告X及び同Yとの間で,「サークルK・フランチャイズ契約書」の契約条項の読み合わせを行った。同月26日,株式会社シーアンドエスの北陸地区開発部長であっ
たHは,原告Xと面談し,原告Xの意思を確認した。
キ 同年7月8日,原告X及び株式会社シーアンドエスは,「サークルK・フランチャイズ契約書」(甲1)及び「サークルKフランチャイズ契約に関する覚書」(乙1
9)を交わし,概ね次の内容のフランチャイズ契約を締結し,原告Yは,上記契約書に連帯保証人として署名押印した(以下「本件契約」という)。なお,下記・の最低保証額の基礎金額は,本来は1500万円であるところ,M店については,内外装工事及び外構工事を株式会社シーアンドエスが行うことを理由に1
200万円に減額された。
(ア) ライセンスの許諾(第4条)
株式会社シーアンドエスは,原告Xに対し,サークルK・システム(株式会社シーアンドエスがコンビニエンスストアの経営を行うために開発し,かつ実用化した店舗の内・外装のデザイン,設備などのレイアウト,商品構成,供給方法,広告宣伝,商品管理,経営管理,経営分析などの総合的な経営システム)により,サークルK・イメージ(サークルK・システムによって運営される店舗のイメージ)のもとでコンビニエンスストアの経営を行うことを許諾する。
(イ) 成約預託金(第7条)
原告Xは,本件契約締結と同時に,株式会社シーアンドエスに対し,成約預託金として300万円(消費税別)を預託しなければならない。この内訳は,開業準備手数料100万円(消費税別),研修費用30万円(消費税別),加盟証拠金50万円,商品等買取代金120万円である。
(ウ) 研修(第8条,第9条)
原告Xは,株式会社シーアンドエスが定める研修を受けなければならな い。研修費用は,成約預託金のうちの30万円(消費税別)をもってこれに充てる。
(エ) 開業準備(第10条,第11条)
a 株式会社シーアンドエスは,M店の開店のために,サークルK・システムに基づき,サークルK・イメージに合致した店舗計画,並びに店舗の建 築,改装,内・外装デザインなどを原告Xに示し,原告Xに使用させる設備や看板を搬入設置し,開業時在庫品,販売商品の品揃えをし,レイアウト,陳列を行い,株式会社シーアンドエスの定める什器,消耗品,販売用具,必要報告書類,レジスター用釣銭などを用意し,更に開店用チラシの印刷,配布などの宣伝広告を行って,開業直前までに原告Xに引き渡す。
b 株式会社シーアンドエスが前項により準備し,開店時に原告Xに引き渡した在庫商品,レジスター用釣銭,什器,備品,消耗品は,株式会社シーアンドエスの定める価格で開店のとき原告Xが一括して買い取る。
c 原告Xは,開店予定日の通知と同時に,株式会社シーアンドエスに対し,開業準備手数料を支払う。この手数料は,成約預託金のうち100万円(消費税別)をもってこれを充てる。
(オ) 加盟証拠金(第14条)
原告Xは,株式会社シーアンドエスに対し,サークルK・システムを遵守して,サークルK店を経営することを保証するために,加盟保証金を預託するものとし,成約預託金のうち50万円をもってこれに充てる。
株式会社シーアンドエスは,契約終了時に,加盟証拠金をサークルK勘定により原告Xに返還する。ただし,利息はつけないものとする。
(カ) サークルK勘定(第15条,第16条)
サークルK勘定とは,株式会社シーアンドエスと原告Xの相互間の加盟店経営に関する取引において,原告Xの開業日以後の債権・債務のすべてについて,貸借内容,取引経過を明確に記帳し,xx決済を行う計算方法をいう。
(キ) 営業時間(第18条)
原告Xは,株式会社シーアンドエスの特別な許可がない限り,年間を通じて毎日24時間営業をする。原告Xの営業時間が24時間の場合に限り,株式会社シーアンドエスは,24時間営業販促補助金として,年額100万円
(ただし,24時間営業の期間が365日(または366日)に満たない場合は,
24時間営業日数の365日(または366日)に対する割合による。)をサークルK勘定により原告Xに支払う。
(ク) 公共料金(第26条)
加盟店において毎月発生する上下水道料金,ガス料金,電気料金の請求額のうち51パーセントを株式会社シーアンドエスが負担する。
(ケ) 引出金(第33条)
株式会社シーアンドエスは,原告Xがこの契約に従って営業を継続する間は,次に定める金額を,引出金として支払う。
a 次の算式によって各会計期間(原則として毎月初日から末日までの1暦月をいう)ごとに計算された金額(S)
A=前会計期間の売上高の6パーセント相当額,または80万円のいずれか大きい方
B=前会計期間の原告Xの従業員の給料 S=A-B
b 各会計期間ごとに,その期末において株式会社シーアンドエスが作成したM店の貸借対照表に表示された自己資本合計が資産合計を上回る額
c 原告XがサークルK店経営上必要な費用として株式会社シーアンドエスに申請し,株式会社シーアンドエスがその必要性を特別に認めた金額
(コ) 最低保証(第34条,覚書2)
原告Xが加盟店の開業日から,この契約をxxに守り,毎日継続して営業を続ける限り,12会計期間を通じて原告Xの総収入が最低保証額に達しない場合,株式会社シーアンドエスは,最低保証額と原告Xの総収入の差額を負担する。最低保証額は,次の方法で計算する。
a 期間
第1回目は開業日から12会計期間,第2回目は1回目の期間の末日からその日の属する年の12月31日まで,その後は毎年1月1日からその年の12月31日までとする。
b 計算方法
12会計期間についての基礎金額を1200万円,限度額を1400万円とし,当該12会計期間の売上高の2パーセントの金額を基礎金額に加えた金額で限度額を超えない金額を最低保証額とする。
ただし,第1回目及び第2回目については,当該各計算期間に属する営業日数の365日(または366日)に対する割合によってそれぞれの基礎金額と限度額とを換算したうえ,当該各計算期間の売上高に基づいて計算する。
(サ) ロイヤルティ(第35条,覚書3)
原告Xは,この契約に基づくサークルK・システムの利用と,株式会社シーアンドエスのサービスに対する対価として,ロイヤルティを負担する。ロイヤルティの額は,当該会計期間中の売上総利益に一定の率(開店日から6
0会計期間において,売上総利益のうち280万円以下の部分について51パーセント)を乗じた額とする。
(シ) 契約の終了
a 契約期間の満了(第38条)
この契約は,加盟店の開業日から起算して15年を経過したとき,期間満了により終了する。
b 特別な事由がある場合の中途解約
(a) 株式会社シーアンドエスまたは原告Xは,やむを得ないと認められる特別な事由がある場合で,開業日から7年を経過した以後において は,相手方に対し,3か月以内にその旨文書で予告し,契約を終了させることができる。(第39条1項)
(b) 株式会社シーアンドエスまたは原告Xは,やむを得ないと認められる特別な事由がある場合で,開業日から7年を経過しないうちに本契約を中途解約しようとする場合は,相手方に対し,3か月以上の予告期間をもってその旨文書で予告し,相手方の文書による承認を受けた上,平均月額ロイヤルティ(予告日の直前の12会計期間において支払われ,または支払われるべきロイヤルティの1会計期間当たりの平均額)の2か月分相当額を解約金として相手方に支払わなければならない。
(第40条1項)
(c) 加盟店の経営状況に照らし,事業を継続することが株式会社シーアンドエス,原告X双方にとって不利益であり,改善の見込みもない場合は,やむを得ないと認められる特別の事由があるものとする。(39条2
項,40条2項)
c 特別の事由がない場合の解約(第41条)
原告Xが,やむを得ないと認められる特別の事由がない場合において,都合により中途で解約しようとする場合は,少なくとも4か月前に文書をもって予告し,次の解約金を支払わなければならない。
(a) 予告期間満了日が開業日から7年を経過しないうちは,平均月額ロイヤルティの5か月分相当額
(b) 予告期間満了日が開業日から7年を経過した以後においては,平均月額ロイヤルティの2か月分相当額
d 閉店手数料(第52条)
原告Xは,閉店時在庫品の実地棚卸,店外搬出,その他サークルK店閉店に必要な措置をするための手数料として,株式会社シーアンドエスの定める金額を負担する。
(ス) 遅延損害金(第54条)
原告Xが株式会社シーアンドエスに対して支払をなすべき場合に,その支払を遅滞したときは,その遅滞の日から日歩5銭の割合による遅延損害金を支払う。
(3) M店開店に至る経緯
ア 本件契約締結の翌日の平成5年7月9日,原告Yは,M店の店長に就任することを断ることとし,その旨,原告Xに伝えた。原告Xは,同月12日から始まる 事前研修に原告Yとともに参加する予定をしていたが,やむを得ず1人で参加した。
イ 同月30日,M店がオープンし,同日及び同月31日の2日間,オープンセールを実施し,株式会社シーアンドエスから派遣された社員が全面的に指揮をとって営業を行ったが,オープンセール中の売上は,日額約25万円に過ぎなかった。ところで,オープンを間近に控えた同月21日,Eが心筋梗塞を起こして入院したため,株式会社シーアンドエス内部の事務引継に支障を来し,オープンの際,株式会社シーアンドエスにおいて手配することになっていた周辺地域に対する新聞の折り込みチラシの配布及びオーナーである原告Xの名刺の準備がなされなかったという不手際があった。また,株式会社シーアンドエス は,M店の開店までにGから本件隣地を賃借してM店の駐車場を6台分増やす予定であったが,M店の店舗建築工事業者が本件隣地との境界に設けられていたブロック塀を誤って壊してしまったことが原因で賃貸借契約締結の話が頓挫し,開店日までには本件隣地の賃貸借契約の締結に至らなかった。
(4) M店開店後の経緯
ア オープン後約1か月間は,株式会社シーアンドエスの社員が連日派遣されて営業の指導を行い,同年8月末にはオープンセールを再実施したが,その間の売上日額は約18万円に過ぎなかった。
イ 同月20日,株式会社シーアンドエスは,Gとの間で,本件隣地を賃料月額7万3000円で賃借する旨の賃貸借契約を締結し,M店は,ようやく10台分の駐車スペースを確保できることとなった。
ウ M店が開店してから閉店するまでの,一か月毎の売上高,営業収入,売上原価,売上総利益,ロイヤルティ,最低保証金額,オーナー総収入,経費,純利益を集計し,1日当たりの売上高,Eが示した前記売上予測値の達成率を計算した結果は,別表「M店営業状況一覧表」の各該当欄記載のとおりであった。これを見ると明らかなように,M店の売上は,前記売上予測値に到底及ばず,日商20万円前後で終始した。そのため,殆どの月でロイヤルティ支払後のオーナー総収入が経費を賄うに足りず,赤字であった。原告Xは,株式会社シーアンドエスからの引出金(殆どの月で30万円であった)で生計を立てていた
が,M店の経営が赤字であったため,引出金がサークルK勘定で原告の株式会社シーアンドエスに対する負債として累積し,株式会社シーアンドエスから支払われる最低保証金によってようやくその負債の一部が消滅するというのが実態であった(なお,別表では,最低保証額がオーナー総収入に加算されているため,最低保証金が支払われた月は純利益を計上している。また,これと別に毎年1月は相当額の純利益を計上しているが,これは,毎年1月に株式会社シーアンドエスから原告Xに24時間営業販促補助金が支払われ,これを経費に組み込んでいるため,その月は経費が極めて少額かマイナスになっていることに原因する。)
M店の開店から1年目(平成5年7月から平成6年6月まで),2年目(平成6年
7月から平成7年6月まで),3年目(平成7年7月から平成8年6月まで)の日商の平均を本件売上予測と対比すると,別表のとおりであり,改めて記載すると,次のとおりである。
売上高(日商) | 売上予測(日商) 比率 | |
1年目 | 20万0336円 | 30万円 67% |
2年目 | 22万4415円 | 36万円 62% |
3年目 | 20万1236円 | 39万6000円 51% |
エ 原告Xは,平成9年4月5日株式会社シーアンドエスに対し,本件契約の解約を申し入れ,原告Xと株式会社シーアンドエスは,同月16日限り,本件契約を合意解除した。原告Xは,同日,M店の営業を廃止し,同月17日,M店を株 式会社シーアンドエスに明け渡した。
オ 株式会社シーアンドエスは,明渡を受けたM店について,次のオーナーを探すことをせず,直営店としての営業もせず,同店でのサークルKの経営を続けることを断念した。平成13年4月,株式会社シーアンドエスは,M店から西へ1
00メートル余の地点で,新たに「サークルK金沢M店」を開店した。同店はJ金沢店の正面に位置し,M店よりもxxxに多数の車両が駐車できる敷地を持っている。
2 当事者の主張
(1) 甲事件ア 原告
(ア) 本件契約の無効を理由とする不当利得返還請求
a 原告XがEから本件利益計画書を示して提供されたM店の売上予測及び利益予測(以下「本件売上予測」「本件利益予測」といい,総称するときは「本件売上予測等」という)は,次に記載のとおり,適正かつ合理的なものではなかった。そのことは,M店の現実の売上が,初年度及び2年度が本件売上予測の約60パーセント,3年度以降は50パーセント台という惨憺たる状況であったことからも明らかである。
(a) 売上予測方法
1500世帯の年間消費支出を9億円とすること,シェアを7パーセントとすること,加減点1点を1000万円と評価することに合理的な理由がない。
(b) 駐車場について M店の駐車場は,本件隣地を賃借して拡大した後も,出入口が狭く,
車が転回できる奥行きもなく,車の進入を期待することは困難であっ て,本来は減点事由とされるべきであった。しかるに,株式会社シーアンドエスは,当初は加減点なしとし,その後隣地を賃借して駐車場を拡大した後は加点1点に相当するとした。
(c) 競合店について
株式会社シーアンドエスは,競合店が2店あることを理由に1点を加点した。しかし,競合店は,M店と互いに客を食い合う関係にあるか ら,むしろ減点事由として考慮すべきであった。また,上記2店舗よりさ
らに近い距離には大型スーパーであるJがあったのに,これを競合店として考慮しなかったことも誤りである。
(d) 通行量について
株式会社シーアンドエスのM店前の通行量調査は,特定の1日の午前11時,午後2時,4時,6時,7時,8時,9時,10時の各時間における15分間の通行人と通行車両の数を計測し,その結果から1日当たりの通行量を推計したものであって正確なものでない。株式会社シーアンドエスは,通行量を理由に1点を加点したが,コンビニエンスストアの利用者は20歳代が中心であるのに通行人の年齢層を把握していないこと,反対車線からの車の進入が困難であることを考慮に入れていないこと等に照らし,上記加点は相当でない。
(e) 2年度,3年度の売上伸張率について
株式会社シーアンドエスは,売上伸張率が2年度が120パーセント,
3年度が2年度の110パーセントとしたが,これは,客観的な根拠に基づくものではない。
かえって,コンビニ業界は,各チェーン間の店舗拡大競争が激化し,
店舗数が増大したため,一店舗当たりの売上額は平成3年をピークに減少に転じ,同年を100とすると,平成4年は98.7,平成5年は95.8に止まっていたから,このような時期にM店のみが売上額の増大を続けることができるとの予測には根拠がなかった。
b 原告Xは,本件売上予測等が適正かつ合理的なものであると誤信し,実際に営業を開始すれば,様々な不確定要因があるから,予測どおりの売上が上がらないとしても,これに近い売上は上がるものと考えて,本件契約を締結した。
c 上記誤信がなければ,原告Xは本件契約を締結しなかったし,一般人であっても締結しなかったと考えられる。
d よって,本件契約は,原告Xの錯誤によって無効である。
e 本件契約が無効であるから,本件契約に基づいて原告Xが株式会社シーアンドエスに支払った次の金員(合計3228万4583円)は,原告Xにとって法律上の原因のない損失であり,株式会社シーアンドエスにとって法律上の原因のない利得である。
(a) 株式会社シーアンドエスに対して交付した預託金 金303万9000円
(b) 初期投資 以下の合計132万3250円
電話敷設費用 金16万8750円
保健所届出費用 金5万0900円
備品消耗品費 金60万3600円防犯ビデオ及びその工事費 金50万円
(c) ロイヤルティ 以下の合計2792万2333円平成5年 金420万6445円
平成6年 金710万3952円平成7年 金775万4903円平成8年 金585万7844円平成9年 金299万9189円
(イ) 株式会社シーアンドエスの情報提供義務違反による損害賠償請求
a フランチャイズ契約は,法形式上,対等な事業者間の契約として締結されているが,実際には,フランチャイザーとフランチャイジーとの間に,フランチャイズ特有の独特な経営や契約内容についての知識,情報等の点で圧倒的な格差がある。
そして,フランチャイズ契約を締結しようとする個人等にとって最大の関心事は,通常,加盟後にどの程度の収益を得ることができるかであるところ,フランチャイザーが蓄積したノウハウや専門知識を用いて行った市場調査の結果及びこれに基づく売上予測や利益予測を,そのようなノウハウも知識もないフランチャイジーが分析し,批判することは不可能である。
したがって,フランチャイザーが,加盟店の募集に際し,フランチャイジーの候補者に対して売上予測や利益予測を提供する場合には,フランチャイザーはフランチャイジーの候補者に対し,客観的かつ適正な情報を提供するxxx上の義務を負っていると解すべきであり,そのためには,その予測は,専門性に基づく十分な市場調査に基づく合理的なものであることを要するというべきである。
b また,フランチャイズ契約の締結に際して,フランチャイザーがフランチャイジーに提供すべき情報は,このような売上予測に限られず,当該フランチャイズについての客観的資料(契約店舗数,平均日販金額等)や,経営条件,販売条件などの契約内容の説明,閉店数などのマイナス情報も提供すべきである。
c しかるに,上記のとおり,Xが原告Xに示した本件売上予測等は,客観的かつ適正なものではなかった。しかも,Eは,予測の資料となった市場調査の問題点や限界を具体的に指摘することもなく,かえって,「株式会社シーアンドエス独自の市場調査に基づき過去の実績データより算出した客観的な根拠のある数字」であって,「最初の1,2年は大変だ」が「2,3年後は大丈夫である」等と説明して,原告Xを信用させた。Eは,本件売上予測等の資料となった本件調査書を原告Xに示すこともなかったから,原告Xは,市場調査の問題点や限界,予測の合理性等を吟味する機会も与えられなかった。更に,Xは,原告Xに対し,bの各情報も提供しなかった。
d したがって,株式会社シーアンドエスには,上記xxx上の情報提供義務に違反した違法がある。
e 損害
(ア)のeの各金員(合計3228万4583円)は,株式会社シーアンドエスの上記違法行為によって原告Xが被った損害である。
(ウ) よって,原告Xは,株式会社シーアンドエスの原告Xに対する権利義務を承継したサークルケイ・ジャパン株式会社に対し,本件契約の錯誤無効に基づく不当利得返還請求権又は不法行為(情報提供義務違反)に基づく損害賠償請求権に基づき,金3228万4583円及びこれに対するM店が営業を廃止した日の翌日である平成9年4月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ サークルケイ・ジャパン株式会社
(ア) 原告Xの錯誤無効の主張に対し
a 株式会社シーアンドエスは,立地調査をもとに売上を予測しており,その手法は,① 店舗の売上に変化を与えると想定される商圏内の「商圏特性(=説明変数)」を実態調査する,② 「売上実績(=目的変数)」と説明変数の相関関係を分析し数字に置き換える,③ ②の方法を繰り返して相関関係のモデル式を構築する,④ 年数の経過に伴う環境の変化により,誤差拡大を防ぐため新たな説明変数を仮説し,①からの手順をやり直して改訂を実施するというものである。
b 本件売上予測等も,改訂を重ねた平成5年当時の上記方法によっている。
具体的には,商圏特性として,①オーナーに関して,取得している免許品があるか,出店計画地が小売業として使用されていたか,経営予定者の保有労働力,予定している営業時間,②店舗条件に関して,駐車場の台数と出入りの状況,主要道路の正車線を走行する車両から見て何メートル手前から店舗が視認できるか,店舗入口側の間口,バックヤードを除いた商品陳列売場の面積,③商圏市場に関して,徒歩圏(500メートル)内にどのくらいの居住世帯数があるか,出店計画地に接して通行する人の数,主要道路及び側面道路の正車線(ただし,道路が6メートル以 下,あるいは中央分離帯がない場合は反対車線の通行車両も)の通行車両数,徒歩商圏内にある競合店の種別,位置関係,売上等を調査している。なお,株式会社シーアンドエスは通行量を,1時間毎に15分調査し,これを倍数化する方法で調査しているが,このような調査方法自体は,統計学的手法として何の問題もない。
そして,基礎数値を決め,そこをプラスマイナス0の点と決めて,1ポイントが1000万円の売上増または売上減となるように変動要因と変動幅を定めた「出店計画地調査書」に基づき,上記調査結果をあてはめて売上予測を試算する方式を採用している。なお,「出店計画地調査書」では,競合店数2.5店をプラスマイナス0としているが,出店予定地の近辺にコンビニエンスストアが1,2店競合していることはむしろ一般的であるから,このような基準設定が不合理とはいえないし,スーパーマーケットは株式会社シーアンドエスにおいてそもそも競合店と認めていない。
このように,本件売上予測等は,十分な立地調査に基づく適正かつ客観的な売上予測及び利益予測である。
c しかし,このような売上予測には,次のような不完全さが当然に内在している。すなわち,既存の自社店舗の実績を基準に算出するものであるから,同規模の同業種であっても,他社の売上予測モデルは使えないし,自社の売上予測モデルといえども既存店舗の実績が変化すれば利用できず,ニューエリアへの出店では,似た風土の地域のデータを使用することになる。また,景気予測や新規商品のヒット予測,店舗の認知向上度は予測できないし,オーナー,従業員の努力や経営者家族の協力度も数 値化できない。
その意味で本件利益計画書は,1つのモデルケースとして作成されているのであって,開店後の予測数値を示した訳ではなく,いわば目標数値というべきものである。その趣旨で,「この加盟店利益計画は,参考に作成したものであり,本書内容を当社が保証するものではありません。」と記載したのである。
d 伸長率予測について
平成5年当時の株式会社シーアンドエスの平均売上伸長率は,2年目が1年目の120パーセント,3年目は2年目の110パーセント程度(1年目からすれば130パーセント)であり,M店の伸長率予測はこれをもとに算出したものである。
北陸地区のサークルK店では,1年目は予測どおりの売上が上がらなくても,2年目,3年目には売上が伸張することが実証されており,M店と同時期に開業したサークルK各店において,2年目の売上が1年目より伸長しなかった店舗は一軒もないことに鑑みれば,M店の伸長率予測は合理的なものであったということができる。
オーナーが地道な努力を重ねていけば,地域内でのリピーターがついて徐々に売上が伸びるのが当たり前であり,他に特別の減少要因(たとえば競合店が新たに開店したとか,道路の事情が変わるなど)がないのに徐々に売上が減少傾向になること自体,通常ではあり得ない。
M店の売上が伸長しなかった原因は,株式会社シーアンドエスの指導に従わず,客をはじめ従業員や納入業者らとのトラブルを重ね,経営努力を怠った原告Xの経営態度にあり,これをもって伸長率予測が不合理であったというにはあたらない。
e 以上のとおり,本件売上予測等は,客観的な情報に基づく適正なものであるし,株式会社シーアンドエスが本件売上予測値を保証するものでないことは原告も理解していたから,原告Xに錯誤はない。
(イ) 原告Xの情報提供義務違反の主張に対し
上記のとおり,本件売上予測等は,客観的な情報に基づく適正なものであるから,株式会社シーアンドエスに情報提供義務違反の事実はない。
(ウ) 不当利得ないし損害について a 預託金について
原告Xが株式会社シーアンドエスに預託した303万9000円の内訳 は,加盟証拠金50万円,開業準備手数料100万円,研修費用30万円,商品代金120万円,消費税3万9000円であり,加盟証拠金は既に原告 Xに返還した。加盟証拠金以外は現に使われた費用であって,原告Xに損失ないし損害はない。
b 初期投資については株式会社シーアンドエスは支払を受けていない。 c ロイヤルティについて
ロイヤルティは,フランチャイザーである株式会社シーアンドエスのもうけではなく,フランチャイザーによる当該店舗への投資,経費の負担,フランチャイジー全体を見通した投資(たとえばPOSシステムの開発,店舗機能の見直し,テレビやラジオでの宣伝など)等に対する費用及び対価である。
そして,数字のはっきりしているものだけでも,株式会社シーアンドエスはM店に対して次の支出をした。
(a) Fに対して支払った本件土地及びM店の店舗建物の賃料
1955万円(月額42万5000円の46か月分)
(b) Gに対して支払った本件隣地の賃料
328万5000円(月額7万3000円の45か月分)
(c) M店の水道光熱費(株式会社シーアンドエス負担分) 447万1676
円
(d) 広告宣伝費(24時間営業販促補助金) 382万6521円
(内訳)平成5年 43万7397円
平成6年から8年 各年毎に103万円平成9年 29万9124円
(e) 廃業補助 93万6019円(平成5年7月から平成9年4月までの合計)
(f) 内装投資 1709万6032円
(内訳)内装,サインポール,空調工事等合計
760万1400円カウンター工事等 234万2724円
リース工事等 648万7558円備品工事 66万4350円
(g) 保証金 1500万円
(h) 合 計 6416万5248円
株式会社シーアンドエスの上記支出と,株式会社シーアンドエスが原告Xから受け取ったロイヤルティ総額2792万2333円を比較しただけでも,株式会社シーアンドエスが受け取ったロイヤルティ以上の支出をしていることは明らかであり,株式会社シーアンドエスにロイヤルティ相当の利得はないし,原告Xに損害がない。
(2) 乙事件
ア サークルケイ・ジャパン株式会社
(ア) 本件契約の解約は,原告Xがやむを得ないと認められる特別の事由がないのに都合により中途で解約した場合であり,開業日から7年を経過しないから,本件契約41条に該当する。
(イ) 本件契約の解約に伴い,サークルケイ・ジャパン株式会社は原告Xに対し,次の①,⑦ないし⑫の債権及び②ないし⑥の債務を有することとなっ
た。
① サークルK勘定残高(平成9年4月30日現在)
499万0109円
② 什器・営業器具買取代金 -14万0820円
③ 上記消費税 -7041円
④ 加盟証拠金返還 -50万0000円
⑤ 公共料金手数料 -1万8297円
⑥ 修繕積立金取崩 -73万4879円
⑦ BGM使用料 6000円
⑧ 電気料 8万0236円
⑨ 消費税支払 9万7956円
⑩ 電話料 7940円
⑪ 解約違約金(本件契約41条に基づく)
411万5275円
(計算式)
年間売上総利益 ロイヤルティ 5か月
19,366,000 × 0.51 × 5 / 12 =4,115,275
⑫ 閉店手数料 10万5000円
(ウ) よって,サークルケイ・ジャパン株式会社は,原告両名に対し,連帯し て,(イ)の債権債務を相殺した残額800万1479円及びこれに対する解約
日の翌日である平成9年4月17日から支払済みまで約定の日歩5銭の割合による遅延損害金を支払うよう求める。
イ 原告X及び同Y
(ア) 錯誤無効
上記のとおり,本件契約は原告Xの錯誤により無効であるから,本件契約に基づくサークルケイ・ジャパン株式会社の原告らに対する清算金請求は理由がない。
(イ) サークルK勘定残高について a xxx違反又は権利濫用
株式会社シーアンドエスには,上記のとおり情報提供義務違反があ
る。すなわち,株式会社シーアンドエスは,十分な市場調査を行わず,その結果,オーナーの手取りは最低でも月30万円になるとの誤った情報を原告Xに提供し,原告Xはその情報を信頼して株式会社シーアンドエスとの間でフランチャイズ契約を締結した。
しかし,M店は立地条件の悪さから利益が上がらず,原告Xは株式会社シーアンドエスに対する商品代金等の支払もままならない状況に陥り,ついには閉店を余儀なくされるに至った。
このように,サークルK勘定残高は,株式会社シーアンドエスの情報提供義務違反によって発生したものであるから,株式会社シーアンドエスが原告Xにこれを請求することは,xxxに反し,権利の濫用として許されない。
b 相殺
M店が閉店に至った経緯に鑑みれば,原告Xにこれ以上の金銭の支出を命じるのは酷に過ぎるから,xxx上,サークルK勘定残高はアの
(イ)の②ないし⑥の合計額140万1037円の範囲に減額されるべきであ
る。そうすると,サークルK勘定残高は,②ないし⑥の債権との相殺により消滅した。
(ウ) 解約違約金について a 公序良俗違反
そもそも中途解約の時に平均月額ロイヤルティの5か月分相当額を支払わなければならないとの条項は,フランチャイジーの無知に乗した不合理な条項であり,原告Xと株式会社シーアンドエスがフランチャイズ契約を締結するに至った経緯に照らしても,公序良俗に反し無効である。
b xxx違反
原告Xは,株式会社シーアンドエスの前記情報提供義務違反により,フランチャイズ契約を解約せざるを得なかったのであるから,株式会社シーアンドエスが原告Xに解約違約金を請求することは,xxxに反し,許されない。
c 特別な事由
仮に解約違約金の請求が認められるとしても,平成9年4月時点のM店の経営状況は,事業を継続することが不利益であり,改善の見込みもない状態であり,本件契約40条が定める「やむを得ないと認められる特別な事由」によって解約する場合にあたるから,その額は,同条により,
「平均月額ロイヤルティ」の2か月分に限られる。
3 主たる争点
(1) 原告Xの不当利得返還請求の当否
ア 原告Xの本件契約締結の意思表示は錯誤による意思表示か。イ 原告Xの損失及び株式会社シーアンドエスの利得の有無
(2) 原告Xの損害賠償請求の当否
ア 株式会社シーアンドエスに情報提供義務違反が認められるか。イ 原告Xの損害
(3) サークルケイ・ジャパン株式会社の清算金請求の当否ア 本件契約は錯誤によって無効か
イ サークルケイ・ジャパン株式会社のサークルK勘定残高の請求はxxx違反ないし権利濫用か。
ウ サークルケイ・ジャパン株式会社の約定解約違約金の請求は公序良俗違反ないしxxx違反か。
エ 原告Xの解約にやむを得ないと認められる特別な事由があったか。第3 当裁判所の判断
1 原告Xの損失及び株式会社シーアンドエスの利得の有無(争点(1)のイ)
(1) 原告Xは,本件契約は無効であるとし,原告Xには,株式会社シーアンドエスに対して交付した預託金303万9000円,原告Xが支出した初期投資132万32
50円,原告Xが株式会社シーアンドエスに支払ったロイヤルティ2792万2333円の損失が,株式会社シーアンドエスには同額の利得がある旨主張する。
(2) そこで,その主張の当否について検討する。
ア 弁論の全趣旨によると,上記預託金の内訳は,①加盟証拠金50万円,②開業準備手数料100万円,③研修費用30万円,④商品代金120万円,⑤消費税3万9000円であると認められるところ,②ないし⑤については,株式会社シーアンドエスは既にこれを経費として支出していて利得がないというべきであるし,①については,原告Xはサークルケイ・ジャパン株式会社に対してその返還請求権を有しているから原告Xに損失がないことになる。
イ 初期投資132万3250円については,原告XがM店の開店に際して費やした経費であって,株式会社シーアンドエスに利得がないことが明らかである。
ウ ロイヤルティは,それがそのままフランチャイザーの利益になるものではなく,フランチャイザーは,フランチャイジーから受領したロイヤルティから,その店舗の経営に必要な諸経費(フランチャイザー負担分)及びフランチャイズ契約に基づくフランチャイザーの義務の履行の費用等の諸経費を支払い,その残余がフランチャイザーのいわば粗利になるのである。そして,弁論の全趣旨によれば,本件においては,株式会社シーアンドエスは,本件契約の継続中に, M店の営業のために,少なくとも次の経費(合計4916万5248円)を支出したことが認められる。そうすると,原告Xから支払を受けたロイヤルティについて,株式会社シーアンドエスに利得は存在しないというべきである。
(ア) Fに対して支払った本件土地及びM店の店舗建物の賃料 1955万円
(月額42万5000円の46か月分)
(イ) Gに対して支払った本件隣地の賃料 328万5000円(月額7万3000円の45か月分)
(ウ) M店の水道光熱費(株式会社シーアンドエス負担分) 447万1676円
(エ) 広告宣伝費(24時間営業販促補助金) 382万6521円(内訳は,平成5年が43万7397円,平成6年から平成8年が各年毎に103万円,平成9年が29万9124円)
(オ) 廃業補助 93万6019円(平成5年7月から平成9年4月までの合計)
(カ) 内装投資 1709万6032円(内訳は,内装,サインポール及び空調工事代金合計が760万1400円,カウンター工事代金が234万2724円,リース工事代金が648万7558円,備品工事代金が66万4350円)
(3) 以上の検討の結果によれば,仮に本件契約が原告Xの錯誤によって無効であったとしても,株式会社シーアンドエスに不当利得が存在しないから,本件契約が無効であるか否か(争点(1)のア)を検討するまでもなく,原告Xのサークルケイ・ジャパン株式会社に対する不当利得返還請求は理由がない。
2 株式会社シーアンドエスに情報提供義務違反が認められるか(争点(2)のア)
(1) フランチャイズへの加盟契約を締結するか否かを検討している者にとって,通常,最大の関心事は,契約後にその店舗の経営によってどの程度の収益を得ることができるかにある。そして,フランチャイザーは,多数の店舗展開をしてきた経験の中で得られた膨大な情報と売上予測のノウハウを有しているのに対し,フランチャイジー候補者自身は,通常は乏しい情報しか有しておらず,売上予想や 収益予想については主としてフランチャイザーから提供される情報に依拠することになるから,フランチャイザーが,フランチャイジー候補者に対し,契約締結交渉の過程で,店舗の売上予測を提供した場合,その内容は,フランチャイジー候補者が契約を締結するか否かを決断するに当たり,重要な影響力を持つと考えられる。もとより,それが予測値である以上,少々の誤差が生じうることはフランチャイジー候補者も理解しているが,上記の情報とxxxxを有するフランチャイザーから提供された情報であるだけに,大幅にはずれることはないだろうと信頼するのが通常であるということができる。したがって,フランチャイザーは,フランチャイジー候補者に対して売上予測を提供する場合は,適正な予測を提供するべきである。とりわけ,株式会社シーアンドエスのフランチャイズ契約においては,フランチャイザーがフランチャイジーの売上高から売上原価を差し引いた売上総利益 の一定割合(本件契約では51パーセント)をロイヤルティとして徴収するシステムを採用しているため,フランチャイジーの純利益は,売上予測のわずかな誤差によって大きく変動することとなる(本件利益計画書中の1年目の数字を例にすれ ば,売上高が1億0950万円,売上総利益が3208万4000円,ロイヤルティ支払後のオーナー総収入が1572万1000円,これから経費1192万6000円を差し 引いた純利益が379万5000円とされているが,売上高が10パーセント減少す れば,売上総利益も10パーセント減少して2887万5600円に,オーナー総収入は1414万9044円に,経費として前同金額を差し引くと純利益は222万3044円
(379万5000円の58.6パーセント)になり,売上高が20パーセント減少すれ
ば,同様に計算すれば,純利益は65万0928円(379万5000円の17.2パーセント)になる。すなわち,売上高が10パーセント変動すれば,純利益は41.4パーセント変動するのである。)から,株式会社シーアンドエスがフランチャイジー候補者に対して提供する売上予測は,一層厳密さを求められるというべきである。
(2) そうすると,株式会社シーアンドエスは,フランチャイズ契約の交渉段階に入っていた原告Xに対してM店の売上予測及び利益予測を示す場合には,売上に影響を与える諸々のデータを詳細に収集し,これを合理的,科学的に解析した適正な予測を示すxxx上の義務があったというべきである。本件利益計画書の欄外に,「この加盟店利益計画は参考に作成したものであり,本書内容を当社が保証するものではありません。」との記載があったが,これ自体は当然のことであって,原告Xがこの記載を読んだからといって,上記のとおり株式会社シーアンドエスが示す売上予測値が大幅にはずれることはないだろうと信頼することが不当であるとはいえないから,この記載の事実は上記判断を左右しない。
ところで,M店の現実の売上実績は,前記のとおり,1年目で本件売上予測の6
7パーセント,2年目で62パーセント,3年目で51パーセントという惨憺たるxxだったのであるから,売上実績が本件売上予測値よりもxxxに低水準で推移したことについて特段の原因が認められない限り,本件売上予測値自体が適正で
はなかったと推定するべきである。そして,売上予測については,その方法,収集すべき情報の選択,収集した情報の評価の仕方等が専門的内容にわたることに鑑みると,適正でない予測値を提供したことについて株式会社シーアンドエスに過失がなかったことが立証されない限り,株式会社シーアンドエスに上記義務に違反する過失があったと推認するべきである。
この点につき,サークルケイ・ジャパン株式会社は,M店の売上不振の原因は,株式会社シーアンドエスの指導に従わず,客をはじめ従業員や納入業者らとのトラブルを重ね,経営努力を怠った原告Xの経営態度にあると主張するので,以 下,項を改めて,この点について検討する。
(3) M店の売上が低水準で推移した原因について
ア 証拠(乙26の1ないし13,乙27の1ないし39,乙28の1ないし13,乙29の1ないし3,乙30,31の1及び2,乙53の1,乙55,61,63の1ないし3,乙64,
70の1ないし17,20ないし41,43ないし53,乙71の1ないし68,乙80,81,
83,85,86,証人I)によれば,ゾーンマネージャーと称する株式会社シーア ンドエスの社員が定期的にサークルK各店を訪問し,各オーナーに対し,店舗管理や商品発注など,日常の営業に関わる指導助言をしていること,M店担当のゾーンマネージャーは,M店について次の事実を把握したことが認められる。
(ア) 原告Xと従業員の関係について
M店においては,アルバイト従業員3名が,開店後1か月以内に,原告Xについて行けないことを理由に辞めるなど,パートやアルバイトの定着率が低く,従業員は原告Xに対する不満を述べていた。
(イ) 納品業者等とのトラブルについて
原告Xは,納品業者や出入りの業者と度々トラブルを起こし,客がいる前で怒鳴ったり,口論を始めることもあった。
(ウ) 客に対するサービスについて
原告Xは,電子レンジの使用をセルフサービスにしたり,原告Xが店に出ない時間帯の宅配便の受付を停止したり,店内の蛍光灯を一部消灯した
り,トイレに鍵をかけるなど,顧客に対するサービスの低下につながる行為を行い,ゾーンマネージャーの指導を受けても改めなかった。また,M店の顧客から株式会社シーアンドエスに対し,直接,原告Xの接客態度が悪い旨の苦情が寄せられたこともあった。
(エ) 商品管理について
原告Xは,通常,需要に合わせて朝,昼,晩の3便発注するお弁当やおにぎりなどの米飯類を,2便しか発注せず,その結果,これらが最も売れる昼の時間帯の品揃えが薄く,また,株式会社シーアンドエスが企画したキャンペーンやセールに合わせた商品の発注や価格の訂正,新商品の導入に消極的で,ゾーンマネージャーの指導や助言にも耳を貸さなかった。さらに賞味期限切れの商品が店頭に並んだままになっていたこともあった。
イ コンビニエンスストアにおけるオーナーと従業員の関係の悪化は,商品管理の不徹底や顧客に対するサービスの低下につながり,店舗の雰囲気や従業員の接客態度にも表れ,売上を減少させる一因となり得るものである。また,オーナーと納品業者等とのトラブルは,それが売上の減少に直結するものではないとしても,それを現認した顧客に対して不愉快な思いを与えるから,その顧客 がリピーターになることの妨げになることは否定できない。また,上記の顧客に対するサービスの低下,好感を持たれない接客態度,雑な商品管理は,直ちに客離れを招き,売上の減少につながるということができる。
そうすると,M店の売上が低水準で推移したこと,とりわけ,一般にコンビニエンスストアは,道路の新設や新たな競合店の出現等の特段の事情がない限
り,新規開店後,徐々に周辺住民の認知度が高まって売上が増加するのが通常であると思われ,現に,大部分のサークルK各店においては,開店後2年ないし3年間は売上が右肩上がりに増加していると認められる(乙24,72)にもかかわらず,M店の売上は,別表によって明らかなように,2年目はわずかな増 加に止まり,3年目には減少傾向を示したことについては,原告Xの上記の経営態度が相当の原因になっていることは否定できないと考えられる。
ウ しかしながら,M店においては,様々な不手際があったとはいえ,オープンセールの2日間ですら本件売上予測値である日商30万円に届かず,オープン後約1か月間は,株式会社シーアンドエスの社員が連日派遣されて営業の指
導を行ったのに,その間の売上日額が本件売上予測値の6割である約18万 円に止まったこと,本件契約が解約された後,株式会社シーアンドエスがM店の次のオーナーを探すこともせず,直営店としての営業もせず,同店を閉鎖したこと(株式会社シーアンドエスにおいて,売上不振の原因が原告Xの経営態度だけであると考えたのなら,直ちに閉鎖するとは考えがたい。仮に,原告Xの経営態度が周辺住民に悪い印象を与えていたとしても,しばらく閉鎖した後にリニューアルオープンする等,これを払拭することは困難ではないと考えられ る。)等の事実に鑑みると,原告Xの上記経営態度がM店の売上実績が本件売上予測等よりもxxxに低水準で推移したことの特段の原因であったとまで認めることはできない。すなわち,原告Xの経営態度が売上不振の一因であって,とりわけ2年目,3年目に売上が伸張しなかったことの大きな要因であったとは考えられるが,それだけでは,上記の売上実績の説明はつかないのであ って,やはり,本件売上予測値自体が適正でなかったと推定せざるを得ないのである。
(4) そこで,本件売上予測値が適正でなかったことにつき,株式会社シーアンドエスに過失がなかったと認められるか否かを検討する。
ア 証拠(甲2,乙1,15,16,証人E)によると,次の事実が認められる。
(ア) 株式会社シーアンドエスにおいては,売上予測について,「統計解析 法」(既存資料を統計学的に解析して求める方法)を基本軸として,一部「類似地区比較法」(立地が類似している地区の成立実態と比較し推測する方法)を取り入れて「売上予測モデル」を構築している。その基本的なアプローチの方法は,次のとおりである。
a 店舗の売上に変化を与えると想定される商圏内の「商圏特性(=説明変数)」を実態調査する。
b 「売上実績(=目的変数)」と説明変数の相関関係を分析し数字に置き換える。
c bの方法を繰り返して相関関係のモデル式を構築する。
d 年数の経過に伴う環境の変化により,誤差拡大を防ぐため新たな説明変数を仮説し,aからの手順をやり直して改訂を実施する。
(イ) Eは,M店の商圏内世帯数に社内的に与えられた1世帯当たりの消費年間支出額及びシェアを乗じて基礎数値を算出し,これに上記の売上予測モデルにしたがって,実態調査によって把握したM店の説明変数を数値化
し,その数値を社内的に与えられた1点1000万円の割合で加算して,本件売上予測値を算出した。
イ 株式会社シーアンドエスの上記売上予測方法については,その大枠については特段の問題点は窺えない。しかし,基礎数値算出の基礎となる1世帯当たりの消費年間支出額及びシェアについて,これが正確であることの何らの証拠が提出されていない外,Eがした本件売上予測値の算出過程には,次の疑問がある。
(ア) 駐車場について Eは,M店の駐車場について,拡張前は駐車台数4台,出入りスムーズで
加減点なし,拡張後は駐車台数が10台に増えて加点1点と評価した。しかし,証拠(乙1,3,6,証人E)によると,M店の駐車場は,前面道路と店舗建物に挟まれた位置にあり,道路に面して垂直方向に駐車スペースが設けられていること,駐車場の奥行きがなく,駐車場内で転回することができない ため,駐車車両は,前面道路から前向きに乗り入れて駐車し,後退して前面道路に進入する必要があること,前面道路は通行車両が多く渋滞していることが多いこと等の事実が認められ,これらの事実によると,同駐車場は,出 入りがスムーズどころか,かえって出入りが困難というべきであり,拡幅前で加減点なし,拡幅後で加点1点としたEの評価には疑問がある。
(イ) 競合店について Eは,競合店として,商圏内のコンビニエンスストア2店を取り上げたが,約
100メートル余しか離れていない大型スーパー「J」を取り上げなかった。スーパーマーケットとコンビニエンスストアでは業態や営業時間が異なるとはい え,商品は重複する上,大型スーパーは,豊富な品揃えと低価格設定が可能であることも併せ考えると,これを競合店と評価しないことの合理性は疑問である。
(ウ) Eがした市場調査について
証拠(乙1,証人E)によると,Eは,M店からの徒歩商圏を半径500メートルの円内と設定し,住宅地図でその範囲内の世帯数を数え,人口を公的資料に基づき算出し,建ぺい率や容積率を調べ,道路計画等の対象になっていないか確認し,さらに前面道路について,傾斜の有無,右折進入の可
否,渋滞の影響の有無,帰り車線でないか否か等を調査したことが認められる。他方,証拠(乙23)によると,雑誌「食品商業」の平成8年12月号に掲載されているxxxx著の「コンビニ立地評価システムのすべて」と題する論文には,売上予測をする場合,商圏分析として,人口の密集状態,道路の張り巡らされた状況,それぞれの道路の地域住民から見た役割,来店を妨げる障害物や競合店の存在等から商圏の範囲を決定すべきこと,商圏内居住者の年齢,性別,家族構成,ライフスタイルが個店の売上に及ぼす影響が大きいので,このような居住者の質を掴む必要があること,動線分析とし て,通行車両の性格(通勤・通学車両,買物・用足し車両,営業車両,作業車両,行楽車両)を掴む必要があること,店舗前を通り過ぎる速度が重要であること等が指摘されていることが認められる。株式会社シーアンドエスのような大手のコンビニチェーンでは,本件売上予測等がなされた平成5年当時でも同様の認識を持ち得たと推認できるところ,Eが,これらの点について調査を行って売上予測に反映させようとした形跡はない。
ウ 以上の検討の結果によれば,株式会社シーアンドエスが原告Xに提供した本件売上予測等についてはいくつかの疑問点が指摘でき,少なくともこれが適正でなかったことについて株式会社シーアンドエスに過失がなかったとは到底認めることができないから,株式会社シーアンドエスには,本件売上予測等が誤っていたことについて過失があったと推定するべきである。そうすると,株式会社シーアンドエスは,その過失により,原告Xに対して適正な売上予測等を示すxxx上の情報提供義務に違反したものであるから,サークルケイ・ジャパン株式会社には,原告Xに対し,これによって同原告が被った損害を賠償する責任があるというべきである。
3 原告Xが被った損害について(争点(2)のイ)
(1) 証拠(甲16,原告X本人)及び弁論の全趣旨によると,原告Xは,Eから本件売上予測の提供を受け,その予測が大きくはずれることはないと思い,「もうかりますか。」と質問したのに対して,「最初の1,2年は大変でしょう。」との回答を聞き,最初の1,2年は厳しくともその後は相当の収入が見込めると考え,本件契約を締結することを決断したと認められる。
そうすると,Xが適正でない本件売上予測を示したことが原告Xの本件契約締 結の決断に大きな役割を果たしたものであり,これがなければ,原告Xは本件契約を締結しなかったと認めるのが相当である。なお,本件契約においては,オーナー総収入1200万円が最低保証されたが,本件利益計画書の初年度の数値 を前提にすれば,初年度の予測経費が1192万6000円であって,この最低保証額では営業利益は零に等しいから,最低保証の約定が原告Xの本件契約締結の動機になったとは認めがたい。よって,本件契約を締結したことによって原告Xが支出した金銭は株式会社シーアンドエスの情報提供義務違反行為と因果関 係のある損害であるというべきである。
(2) 原告Xが株式会社シーアンドエスに預託した303万9000円は,本件契約が締結されなければ原告Xが支出することのなかったものである。ただし,加盟証拠金50万円は,原告Xが株式会社シーアンドエスに返還請求権を有しているから,原告Xの損害にはならない。商品代金120万円は,原告Xがこれに見合う商品を株式会社シーアンドエスから購入しているから,原告Xの損害にはならない。その余の金銭133万9000円は,原告Xの損害であると認めるべきである。
(3) 原告Xは,初期投資として132万3250円を支出したと主張するところ,なるほどM店の開店に当たってこれらの費用を要したであろうと考えられるが,その金額を認めるに足る証拠が提出されていないから,これを損害として認めることはできない。
(4) 原告Xは,同原告が株式会社シーアンドエスに対して支払ったロイヤルティが損害であると主張する。しかしながら,ロイヤルティは,原告Xが本件契約を締結し,M店の経営をしたことによって取得した売上の一部であり,本件契約を締結しなかったら原告Xはそもそも売上を取得することもなかったのであるから,ロイヤルティを株式会社シーアンドエスの情報提供義務違反行為と因果関係のある損害と評価することはできない。
4 サークルケイ・ジャパン株式会社の原告X及び同Yに対するサークルK勘定残高の請求はxxx違反ないし権利濫用か(争点(3)のイ)
(1) 前記のとおり,サークルK勘定は,株式会社シーアンドエスとフランチャイジーとの加盟店経営に関する取引について,開業日以後の債権債務のすべてについてxx決済を行う制度であり,仕入れ代金,引出金等のフランチャイジーの株式会社シーアンドエスに対する債務が、一旦株式会社シーアンドエスに入金されるフランチャイジーの売上及び最低保証金によってxx弁済されていくことにな る。
(2) 前記のとおり,原告Xは株式会社シーアンドエスからの引出金で生計を立てていたが,証拠(乙17の1ないし46)によると,その引出金の金額は次のとおり,ほとんどの月で30万円であることが認められ,その合計額は1382万6600円にな る。
ア 平成5年7月 零
イ 同年8月 45万6650円
ウ 同年9月ないし同年11月 各35万6650円エ 同年12月ないし平成9年4月 各30万円
そして,M店の閉店によって,仕入れ代金等は清算されたから,サークルK勘定に原告Xの債務残高として残っているのは,概ね,引出金のうち,原告XがM店の経営であげた利益(最低保証金を含む)を充てても弁済できなかった残金に相当すると考えられる。現に,原告XがM店の経営であげた利益(最低保証金を含む)の合計額は,別表記載のとおり,859万8079円(「純利益」欄の1年目の7
0万8559円,2年目の123万3476円,3年目の426万3750円及び4年目の23
9万2294円の合計額)であり,上記引出金との差額は522万8521円であるから,これはサークルK勘定残高499万0109円にほぼ見合うのである。
そうすると,原告Xは,M店の経営をした約3年10か月の間,ほとんどの月で利益額が必要な生活費である月額30万円に達せず,30万円と利益額との差額を株式会社シーアンドエスから借金したが,その累積額がサークルK勘定残高,すなわち499万0109円に及んだということができる。
(3) 前記のように,株式会社シーアンドエスの説明義務違反行為がなければ,原告Xは,本件契約を締結しなかったものである。その場合に原告XがC株式会社の経営を続けたのか,他の職に就いたのかは判然とせず,どの程度の収入を得ることができたかも判然としない。しかしながら,月額30万円(年額360万円)の 収入が,決して多額のものではない(平成5年の産業計・企業規模計・学歴計男子労働者45歳から49歳の平均給与額は702万1600円である)ことを考慮すると,原告Xは,本件契約を締結しなければ,少なくとも月額30万円の収入は得ることができたと認めるのが相当である。そうすると,株式会社シーアンドエスの説 明義務違反行為がなければ,原告Xは,生活のために借金をすることはなかったということができ,原告Xが株式会社シーアンドエスに対してサークルK勘定残高の債務を負担したことは,実質的には,株式会社シーアンドエスの説明義務違反行為によって原告Xが被った損害であると評価することができる。
以上のように考えると,株式会社シーアンドエスの説明義務違反行為による実質的な原告Xの損害であるサークルK勘定残高の負債を,当の株式会社シーアンドエス自身を承継したサークルケイ・ジャパン株式会社が原告Xに請求することは権利の濫用であるかxxに反し,許されないと解するのが相当である。
5 サークルケイ・ジャパン株式会社の原告X及び同Yに対する約定解約違約金の請求は公序良俗違反ないしxxx違反か(争点(3)のウ)
(1) 前記のとおり,原告Xは,株式会社シーアンドエスの情報提供義務違反行為がなければ,本件契約を締結しなかったものであるから,株式会社シーアンドエスに対し,本件契約に基づく約定の解約違約金の支払義務を負うこともなかったものである。
そうすると,情報提供義務違反行為の主体である株式会社シーアンドエスを承継したサークルケイ・ジャパン株式会社が原告Xに対し,本件契約に基づく解約違約金を請求するのは,権利の濫用であるかxxに反し,許されないと解するのが相当である。
(2) 実質的に考えても,本件のようにフランチャイザーに情報提供義務違反が認められる場合にフランチャイジーのフランチャイザーに対する約定の解約違約金の支払義務を肯認すれば,その負担があるがために,被害者であるフランチャイジーがフランチャイズ契約の解約を決断する妨げになり,速やかに契約関係から
離脱して損害の拡大を防ぐ機会を奪ってしまう結果になりかねず,妥当ではない。
もとより解約違約金の定めは,一般にフランチャイザーが,加盟店の開店のために多額の費用を支出しており,その回収はロイヤルティを充てるしかないところ,フランチャイジーからその回収前に解約を申し出られた場合に,わずかでもその費用を回収するために定められたものと考えられるから,その請求が認められなければ,フランチャイザーは,開店のための費用の回収を図れないという損
害を被ることになるが,結局は自らの情報提供義務違反行為に起因するものであるから,やむを得ないというほかはない。
6 サークルケイ・ジャパン株式会社の清算金請求のうち,サークルK勘定残高及び解約違約金の請求を認めることができないことは以上のとおりである。そして,残った債権よりも債務の方が多額であり,相殺の意思表示をしたことはサークルケイ・ジャパン株式会社が主張するところであるから,サークルケイ・ジャパン株式会社の原告 X及び同Yに対する本件清算金請求は理由がないことに帰する。
7 まとめ
以上の検討の結果によると,原告Xのサークルケイ・ジャパン株式会社に対する甲事件請求は,金133万9000円及びこれに対する情報提供義務違反行為の後である平成9年4月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容するべきであり,その余は失当として棄却するべきであり,サークルケイ・ジャパン株式会社の原告X及び同Yに対する乙事件請求は失当として棄却するべきである。
xx地方裁判所第二部
裁判長裁判官 | x | x | x | x |
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裁判官xxxxは,転補につき,署名押印することができない。裁判長裁判官 x x x x