8.M&A取引におけるEscrow 契約の問題
連 載
知的財産契約の実務(第6回)
知的財産ライセンス契約における対価問題
─企業経営に資する知的財産対応を考慮して─
xx学院大学法学部特別招聘教授
xx xx
目 次
はじめに
1.知的財産ライセンス契約の概要
2.知的財産ライセンス契約の交渉
3.ライセンス契約書のチェックポイント
Ⅱ 知的財産ライセンス契約における対価問題の概要
1.対価(ロイヤルティ)の考え方
2.ライセンシングポリシーとxxxxxの対価
3.知的財産権の経営戦略上の価値評価
4.知的財産権による競争優位戦略
5.知的財産権の経営戦略上の機能
6.対価の種類、額
7.ライセンス契約における対価についての交渉
8.対価に関する課題
Ⅲ 知的財産ライセンス契約における対価問題:ケ-ススタディ-
1.共同研究開発契約と共有特許権の単独ライセンス許諾権問題
2.特許・ノウハウライセンス契約における改良技術の取扱い問題
3.ライセンス契約におけるライセンサーの保証問題
4.特許ライセンス契約における複数会社の特許の存在問題
5.サブライセンス契約におけるライセンサーの侵害排除義務の問題
6.クロスライセンス契約における対価の問題
7.独占ライセンス契約における最低実施料の問題
8.M&A取引におけるEscrow 契約の問題
9.合弁事業契約におけるライセンス契約の問題 10.ノウハウライセンス契約における特許権の取扱い問題
11.製品メーカーと部品材料メーカーの共同研究開発の場合の部品の販売
12.企業経営に資する知的財産契約の課題:対価問題の視点からまとめ
はじめに
知的財産権制度は、経済発展政策として、創作に対し政策的に独占排他権を認知し、創作者に経済的インセンティブを与えるものである。これからの企業経営においては、知的財産権保護制度に沿って、取得、保有する知的財産権を、適正に評価し、適法かつ、xxに企業戦略に取り入れていく必要がある。昨今における企業経営は、極めて複雑な要素・項目を検討した経営戦略に基づいて行わなければ、経営効率、経営計画の実効性は期待できない。特に、業際的活動、戦略的な資本・業務・技術提携なしには持続的発展企業たり得ない。xxかつ厳しい企業競争の中で、フェアーな競争を絶対優位・比較優位に展開して行くためには、競争優位手段として、法制度上認知されている知的財産権を活用した経営戦略が有効、かつ必要である。
知的財産権の基本的特徴は独占排他権を認知されていることであり、この特徴は、知的財産権に係る商品を独占的に自己実施し、競合他社の市場参入を障壁を構築して阻止し、市場の独占を計ることである。しかし、この市場独占の経営戦略は、どのような状況下でも通用する唯一絶対のものではない。絶対優位は、多くの場合期待できず、比較優位が現実であるので、次に検討さるべき経営戦略は、ライセンシング戦略である。
ライセンシング(Licensing)は自社が保有している知的財産権について、自社で当面は活用・実施しないか、または仮に自社で実施していても、その権利が完全無欠ではいこと、または、経営戦略として、絶対優位ではなく、比較優位の方針を採用する場合に、他社に当該知的財産権についてライセンスを許諾し、対価の取得を図る施策である。また、市場独占の経営戦略ではなく、市場に非独占の形で対応するものであり、ライセンスを許諾した他社(Licensee)は自社
(Licensor)の分身であり、ライセンサーおよびライセンシーで市場戦略を実行することになる。ライセンス契約の実務においては、ライセンスの対価(実施料、使用料、利用料、Royalty)
問題が最も重要で、したがって、関心事である。昨今のライセンス契約の実務は成熟化しているといえる。その中において、対価の問題は、最も重要な問題である。
1.知的財産ライセンス契約の概要
ライセンス契約とは、知的財産・知的財産権の実施・使用・利用に関する契約で、民法上に規定されている13種類の有名契約ではなく、無名契約である。
具体的には、当事者の一方(ライセンサー)が、相手方(ライセンシー)に対して、特許、ノウハウ等ライセンスの対象について、一定の対価(実施料、使用料、利用料)により、ライセンス(実施権、使用権、利用権)を許諾する契約をいう。
⑴ 当事者
① xxxxxxとライセンシーの相互の信頼関係が大前提。与える側と受ける側の立場の違いはあるが、一人勝ちの考え方ではうまくいかない。特に、改良技術の取扱い、秘密保持、
知的財産契約の実務(第6回)
第三者の権利侵害への対応等については相互の協力が必要不可欠である。
② ライセンス契約交渉は、合理的な条件、合法性(特に独占禁止法違反に注意)を考慮する必要がある。
⑵ ライセンスの対象
ライセンス契約は、特許権、著作権のように独占的、排他的権利として認知されているライセンスの対象について、権利者が他にライセンスを許諾する契約が主である。ノウハウは、価値ある財産であるが、特許権、著作権のように独占的排他的権利として認知されていない。不正競争防止法により、営業秘密を定義し(第2条6項)、その不正な取得・使用・開示について差止請求権が認められたことにより、ノウハウライセンス契約に関する法律上のガイドラインが示された。また、平成15年3月1日に施行された知的財産基本法において、営業秘密を知的財産、知的財産権と定めたことにより、実務的重要性を一層顕著にした。
⑶ ライセンス
① 独占ライセンスと非独占ライセンス、専用実施権と通常実施権、独占ライセンスの一種である専用実施権(特許法第77条)は、登録しないと権利が発生しない(特許法第98条1項)。
② 共有特許権については、特段の合意がなければ各自自由に実施できる(特許法第73条2項)が、共有者の承諾なしには、単独では第三者にライセンスを許諾することができない(特許法第73条3項)。
③ 契約期間については、特許の場合は特許権の有効期間中全部とするか、限定期間とするかがポイントであり、ノウハウの場合、秘密保持期間と対価の支払い期間がポイントとなり、著作物の場合、保護期間が長いので通常の場合、期間を限定することが多い。
⑷ 対 価
① 頭金 … 契約締結時に一括して支払う対価
② ランニングロイヤルティー … 実施結果に従って支払う対価(実施料)
③ ミニマムロイヤルティー … 独占ライセンスの場合に、実施結果に関係なく支払う最低実施料
⑸ 制限規定
① 改良技術の取扱い ……… グラントバック、アサインバック等
xxxxxxの改良をライセンサーに譲渡するアサインバックや、独占ライセンスを許諾するグラントバックは、独占禁止法違反となる可能性が高い。
② 秘密保持
ノウハウを含む特許出願や新聞発表は契約違反になることがある。
⑹ 成功要因
ライセンス契約が成功したというためには、xxxxxxが、ライセンス取得により事業が成功し、その結果、ライセンサーもライセンシーからのロイヤルティーで潤うということで、最終的には、わが国経済の発展に寄与する。次のような要因によって成功が期待される。
① 技術の良さ
・ 技術的優位性 …… 生産効率、品質、コスト
・ 権利的完全性 …… 有効性、非侵害性
・ 商業的優位性 …… マーケッタビリティー
② 契約条件の妥当性
・ 対価の妥当性
・ 実用的改良技術のフォローアップ