当事者:A 社(原告、雇用者)vs B(被告、特許権者、C 社の代表者)、C 社、D(B の配偶者)、E 社(D の経営する会社)
専利法(職務発明にかかる事件はxx及び商業財産裁判所が管轄権を有し、雇 | |
用関係の認定について、雇用契約及び刑事事件の雇用関係の認定があっても、 | |
xx財産及び商業裁判所が諸事情を吟味し、異なった認定ができる。 |
【書誌事項】
当事者:A 社(原告、雇用者)vs B(被告、特許権者、C 社の代表者)、C 社、D(B の配偶者)、E 社(D の経営する会社)
判断主体:智慧財産及び商業法院事件番号:109 年民専訴字第 91 号言渡し日:2022 年 2 月 25 日
事件の経過:(抜粋)
1. 原告の訴え棄却。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。
【判決概要】
1. 労働者と第三者が共同被告である場合、雇用者が管轄権を有する裁判所へ提訴したとき、第三者と雇用者の間に雇用関係は存在しないため、管轄裁判所を選定する権利を持たない。訴訟物としての義務が共同被告の共有するものであったり、事実上及び法律上同一の原因に基づくものであったりするとき、訴訟経済及び判決のばらつきの回避という民事手続法の原則に基づいて、労働者の選択権を限縮すべきであり、労働者が雇用者との訴訟をその選定した裁判所へ移送するよう申し立ててはならない。
2. 刑事事件において雇用関係があると認定されたとしても、必ずしも民事事件での認定が拘束されるとは限らない。民事裁判所は事実につき別途調べた上で刑事事件での認定と異なる認定をすることができる。
3. 双方の雇用契約の内容及び会社と従業員の実際の関係から、人格上、経済上及び組織上の点から、従属性が低いと判断し、契約の性質が労働関係であると判断できなかったところ、職務発明であるとして特許権の移転登録移転及び損害賠償を求めるという原告の請求を退けた。
【事実関係】
A 社はB と雇用契約を締結し、A 社は、B が雇用期間及び退職まもなく、A 社に帰属すべき職務発明を B 及び B が経営する C 社の名義、D 及び D が経営する E 社の
名義で特許を出願したので、職務発明であるとして特許権の移転登録移転及び損害賠償を求めた。
【判決内容】
1. 労働事件法第 6 条第 2 項では、「雇用者が原告である場合、労働者は本件の口頭弁論前に当該訴訟事件をその選定した管轄権を有する裁判所へ移送することを申立てることができる」と規定しているとは言え、労働者と第三者が共同被告である場合、訴訟物としての義務が共同被告の共有するものであったり事実上及び法律上同一の原因に基づくものであったりするとき、訴訟経済及び判決のばらつきの回避という民事手続法の原則に基づいて、労働者の選択権を限縮すべきであり、労働者が雇用者との訴訟をその選定した裁判所へ移送するよう申し立ててはならない。
2. A 社と C 社の前身となった会社は 2016 年 4 月 28 日、2017 年 4 月 27 日に管理コンサルティングサービス契約を締結し、A 社が被告 B を招聘して 2016 年 5月 1 日から 2018 年 4 月 30 日までの間にA 社のスペシャルアシスタントとして、 A 社の製品モデルチェンジ政策の強化及び A 社の専門人材の育成への協力を提供させることを約束したことは、管理コンサルティングサービス契約書から確認できるため、A 社と被告B の間に成立した管理コンサルティングサービス契約は雇用契約ではなく、被告 B が A 社の従業員ではないと分かる。また、A 社が経済部による産業アップグレードイノベーションプラットフォーム補導計画(イノベーション及び最適化計画)に関連する「異種金属連続メッキプレーティング技術による生産ラインの最適化開発計画」(以下、「係争計画案」という)に係る申請を行うために、当該計画の主催者である被告 B との雇用関係が必要となる故、 A 社の前記計画に係る申請を手伝うために、被告 B は A 社と係争雇用契約書を締結することになったと弁解した。
3. また、労働契約に係る従属性の中身は下記のとおりである。1.人格的従属性:被雇用者は雇用者の企業内部で自身の勤務時間を自由に支配できず、労務給付の具体的且つ詳細な内容を決めるのが労務の提供者ではなく、労務の受領者であり、被雇用者は雇用者の権威に服従しなければならず、懲戒や制裁を受ける義務を有する。2.経済的従属性:被雇用者は自身の営業目的のためではなく他人に従属して当該他人の目的のために労働を提供するため、自身の職務に対し支配性、計画性又は創作性のある方法により影響を与えてはならない。
3.組織的従属性:被雇用者は完全に雇用者の生産組織と経済体系に閉じ込められ、同僚らと共同作業を行った状態にある(最高裁判所 81 年台上字第 347号、88 年台上 1864 号判決趣旨參照)。そのため、労働契約、雇用及び請負契約を分別するにあたって、契約当事者間の意思及び従属性の有無などの情状全般により判断しなければならない。なお、当事者の指定した契約類型が労働基準法第 2 条第 6 号にいう労働契約にあたるかについて、大法官釈字第 740号解釈趣旨によると、各事案の事実及び契約の内容全般を労務契約の類型的特徴と対照し、労務債務者と労務債権者間の従属性の高低によって判断しなければならない。つまり、労務の提供者には労務の給付方法を決める自由があるか否か、及び業務上のリスクを自ら負担するか否かによって判断しなければならない。労務債務者にはその実際に従事する労務及び勤務時間を決める自由があり、労務の給付方法に対する労務債権者の規制力が極めて弱く、報酬の給付に一定業務の完成が求められるなら、労務債務者と労務債権者間の従属性が低いため、上記規定にいう労働契約であると認定することは難しい。
4. 刑事判決で認定した事実は必ずしも民事判決を拘束する効力があるとは限らず、裁判所はその自由心証により、民事訴訟で認定した事実を民事判決の根拠とし、証拠調査の結果を斟酌して得た心証に基づいて認定することができる。
(最高裁判所 49 年度台上字第 929 号判決、98 年度台上字第 1272 号判決趣旨を参照)。当裁判所は双方による主張及び証拠を基に証拠調査の結果により事実を認定し、心証を得た理由を判決書に明記した以上、当然刑事判決での認定には拘束されない。よって、A 社の前記主張により、A 社と被告 B との間の雇用関係の存在を認めることができない。
【専門家からのアドバイス】
1. 本件は労働関係による特許権の帰属及び損害賠償請求の事件であるため、労働事件法により、従業員の居住地の一般地裁の管轄を優先させるべきか、最高裁まで争いがあった(最高裁 110 年台抗 315 号)。被告 B は、原告 A 社と雇用契約を締結したことがあることを理由に、智慧財産及び商業法院から一般裁判所へ移転管轄すべきと主張した。最高裁は「訴訟経済及び判決のばらつきの回避という民事手続法の原則に基づいて、労働者の選択権を限縮すべきであり、
労働者が雇用者との訴訟をその選定した裁判所へ移送するよう申し立ててはならない」と判じたので、今後の類似の事件の参考になる。
労働契約の従属性 | 雇用関係 | 本件 |
人格上 | 自身の勤務時間を自由に支配できず、 労務給付の具体的且つ詳細な内容を決めるのが労務の提供者ではなく、労務の受領者であり、 被雇用者は雇用者の権威に服従しなければならず、懲戒や制裁を受ける義務を有する。 | 労務提供の時間は被告が自ら自分で決める。 労務提供の内容:被告が自ら提供できず、他人を委任できる。 兼職:B が他の会社の兼業もできる、A 社の懲戒制裁を受ける義務がない。 結論:B は、「出退勤がタイムカート不要、自らの労務提供が不要、他所勤務の独り決めが可能、兼業も可能なため、当然雇用関係の枠内の一般事務に携わる従業員と違い、管理者の権威への服従、懲戒や制裁を受ける義務、兼業禁止などの条件が適用されない故、以上により A 社と被告李家銘の間に人格的従属性が存在し ないと認定できる。」 |
経済上 | つまり、被雇用者は自身の営業目的のため | 雇用契約には明確な金額の記載がない。 |
2. 本件はなぜ職務発明ではなく、雇用契約を締結したにもかかわらず雇用関係ではなく、職務発明という A 社の主張を退けたのかについて、裁判官が掲げた判断基準に沿う判決内の事実認定から、今後の参考として下表に整理した。
ではなく他人に | 給料送金明細は顧問費用の | |
従属して当該 他人の目的の | 記載がある。A 社は B に振り 込んだ金額が給料という立 | |
ために労働を | 証が不足。 | |
提供し、 | ||
被雇用者は自 | ||
身の職務に対 | ||
し支配性、計画 | ||
性又は創作性 | ||
のある方法に | ||
より影響を与え | ||
てはならない。 | ||
組織上 | 被雇用者は完 | A 社の組織図には B が入っていない。B の部門は B と Bが自ら雇用した従業員。 B が A 社の他の部門と共同作業を行った状態はない。 |
全に雇用者の | ||
生産組織と経 | ||
済体系に閉じ | ||
込められ、 | ||
同僚らと共同 | ||
作業を行った | ||
状態 |
3. また、先行する刑事事件では雇用関係があると認定したが、本件の裁判官は過去最高裁の見解に従い、刑事事件において雇用関係があると認定したとしても、必ずしも民事事件の認定を拘束するわけではなく、民事裁判所は認定の事実をもとに、さらに調査を経て刑事事件と異なった認定ができる、と判じた。調べたところ、雇用関係があると認定した刑事事件は、本件とまったく異なった事案である。刑事事件の概要は、被告 B は上場会社である A 社の他の経理人と共同で、正常な商慣行に反する取引をしたため、証券取引法 171 条の違反として、 3 年 2 ヵ月の懲役が下された。そこで、犯罪の構成要件として従業員であることが認定された。刑事判決では、政府の計画案の申請するため、雇用契約を締
結したにすぎないという被告B の抗弁を無視し、また、労働契約の従属性も論じていなかった。
4. ちなみに、本件の被告 B は他の抗弁として、本件の出願発明は雇用契約の前
「被告 B が 2020 年 1 月 19 日にxx 5 の同意書にサインする前の彼自身の長期にわたる PCB 産業での経験を生かして得られた技術により研究して完成し発明特許を出願したものであり、A 社の設備、資料又は関連知識や情報を利用して特許発明を完成したわけではないため、当然係争雇用契約への違反又は A社の権利への不法侵害といった事情はない。係争雇用契約書に係る約束により、被告B による職務上の発明に係る特許権全般がA 社に帰属する云々という A 社の主張は採ることができないため、損害賠償及び特許の移転登録を請求するのも理由がない」と主張した。従い、今後の雇用契約を締結する前に、前述 2の人格、経済、組織の判断基準に従い、明白に双方の雇用条件を記載し、技
術者がすでに有する知的財産権の利用(例えば、出願有無やのノウハウの記載)の明記、在職中の研究開発の記録及び雇用者の報告義務をも取り入れるべきである。それらの資料は将来職務発明の争いの立証時において重要である。
参考条文:証券取引法第 171 条
次のいずれかに該当する者は、3 年以上 10 年以下の有期懲役に処し、ニュー台湾ドル 1000 xx以上 2 億元以下の罰金を併科することができる。
一、第 20 条第 1 項、第 2 項、第 155 条第 1 項、第 2 項、第 157 条の 1 第 1 項又は
第 2 項の規定に違反した。
二、本法により有価証券を発行している会社の取締役、監査役、執行役員又は被雇用者が直接的又は間接的に会社に不利な取引を行わせ、且つ正常な商慣行に反することにより会社に重大な損害をもたらした。