WTO 協定の概要
総論
WTO 協定の概要
1.WTO 協定の基本目的
WTO 協定の目的は、WTO 設立協定前文にあるとおり、「生活水準の向上、完全雇用の確保、高水準の実質所得及び有効需要の着実な増加、資源の完全利用、物品及びサービスの生産及び貿易の拡大」であり、一言で言えば、市場経済原則によって世界経済の発展を図ることである。WTO 協定は、この目的に寄与すべく、「関税その他の貿易障害を実質的に軽減し、及び国際貿易関係における差別待遇を廃止する」ために締結される、相互的かつ互恵的な取極であるとされている。ここに示されるように、国際貿易に市場経済原理を及ぼすために、貿易障壁の軽減及び無差別原則の適用という2 つの考え方に基づいて組み立てられているのがWTO 協定であると言ってよい。
以上の考え方は、旧 GATT(The General Agreement on Tariffs and Trade(関税及び貿易に関する一般
協定))前文から変わることなく WTO に引き継がれた GATT の伝統的精神であるが、WTO ではその後の変化を踏まえて2 つの目的が付け加えられた。第一に環境への配慮であり、「経済開発の水準が異なる各国のニーズ及び関心に沿って環境を保護し及び保全し並びにそのための手段を拡充することに努めつつ、持続可能な開発の目的に従って世界の資源を最も適当な形で利用すること」である。第二は、開発途上国への配慮であり、「開発途上国特に後発開発途上国がその経済開発のニーズに応じた貿易量を確保することを保証するため積極的に努力する必要があること」を考慮すべきとされた。WTO は、旧 GATT 創設時よりもxxxに加盟国数が多く、かつ一括受諾方式が条件とされるなど、開発途上国の利益をより配慮する必要があったことがその背景にある。
2.WTO の基本原則
(1)WTO 協定の基本原則
WTO 協定は、上述のように貿易障壁の軽減と無差別原則といった考え方に立脚しており、これらの考え方は、以下のようなWTO の基本原則に具体化されている。
①最恵国待遇原則(Most-Favoured-Nation Treatment = MFN 原則)
GATT 第 1 条は輸出入の際の関税等について、
いずれかの国の産品に与える最も有利な待遇を、他のすべての加盟国の同種の産品に対して、即時かつ無条件に与えなければならない旨定めている(第 1 章
「最恵国待遇」参照)。
GATT 第 3 条は、輸入品に対して適用される内国税や国内法令について、同種の国内産品に対して与える待遇より不利でない待遇を与えなければならない旨義務づけている(第 2 章「内国民待遇」参照)。
GATT 第 11 条は、「加盟国は関税その他の課徴金以外のいかなる禁止又は制限も新設し、又は維持してはならない」とし、数量制限の一般的廃止を規定している。これは、数量制限措置が関税措置よりも国内産業保護の度合いが強く、直接的に自由貿易を歪曲する可能性を有するとされているからである(第 3 章「数量制限」参照)。
GATT は通商規制の手段として関税のみを容認した上で、関税交渉を通じて品目ごとに漸進的に関税引き下げを行うことを目指している。第 2 条により加盟国は「譲許」を行うが、この譲許税率を超える関税の賦課や譲許税率の一方的な引上げは禁止される。更に第 28 条の 2 に基づき、「相互的かつ互恵的な」多角的交渉によって関税引き下げを図ることとされる(第 5 章「関税」参照)。
(2)基本原則
WTO 協定は、上記の基本原則と並び、それぞれの原則に対する重要な例外規定も定めている。これらの例外規定が必要とされる主な理由を2つ挙げるならば、第一に、ルールに基づいて運営される多角的貿易体制を維持するため、むしろ一定の合理性がある例外的な措置については、所定の要件を満たすことを条件に許容する必要があることであ
る。GATT 第 20 条(一般的例外)及び GATT 第 21 条
(安全保障例外)は、貿易自由化の原則と国内の規制 権限を調整する条項の代表例である(第 4 章「正当化 事由」参照)。また、GATT/WTO 協定では、他国の貿易 関連措置に対してその効果を相殺する措置を採る必 要がある場合(いわゆる貿易救済措置)等に基本原則 からの例外を許容する規定を置いている(貿易救済 措置については、第 6 章「アンチ・ダンピング措置」、第 7 章「補助金・相殺措置」、第8 章「セーフガード」を参照)。第二に、各国の経済の発展段階に応じて 考慮する措置を設ける必要があることである。この 観点からWTO 協定では、前述のとおり関税による国内 産業保護を許容するだけでなく、規律に対する様々 な開発途上国例外も設けている。これらを受けて、 WTO 協定には多数の例外規定が存在し、複雑な構造と なっている。
これらの例外は、現実の国際経済に対して原則を 機械的に適用することは困難であることから設けら れているものであり、WTO 協定は、このような場合に 例外が許容される要件を明確に規律することにより、現実と理念の調和を図ろうとしている。WTO のこの ような姿勢は、前向きな現実主義として肯定的に評価 すべきであるが、他方、要件の不明確さを突いて例 外規定が濫用される例が後を絶たないのも事実であ る。WTO 協定では、旧 GATT 時代に濫用の温床となっ ていたいくつかの条項について、要件を明確化する 等の改善を図ることに成功したが、まだ十分と言え ないものも残されているため、今後更なる規律の明 確化が課題となる。
3.WTO 協定の全体
WTO 協定の全体像を図示すると、図表Ⅱ‐総‐ 1 のようになる。WTO 協定は、WTO 設立協定及びその附属書(ANNEX)から構成されている。附属書 1Aから附属書 3 までの各協定は、WTO 設立協定と一体を成し、WTO 協定の全加盟国間で適用される(前述の一括受諾方式)。加盟国は、2022 年 3 月現在 164か国・地域である(資料編第 2 章「WTO 加盟交渉の現状」を参照)。これに対し、附属書 4 の各協定はそれぞれ独立した協定であり、各協定の締約国の
間でのみ適用される。ここではWTO の各協定の概要について述べることとする。
本協定は、ウルグアイ・ラウンドの成果を実施し、今後の多角的貿易交渉の枠組みとなるWTO を設立する ための協定であり、WTO の組織、加盟、意思決定等に関 する一般的な規定から成る。
①千九百九十四年の関税及び貿易に関する一般協定(1994 年の GATT)
(ⅰ)1947 年の GATT に相当する規定(WTO 協定発効前に効力を発生した法的文書により改正等が行われた規定を含む)、(ⅱ) WTO 協定発効前に 1947 年の GATT の下において発効した関税譲許議定書、確認書、加入議定書等の法的文書、及び
(ⅲ)1994 年の GATT の不可分の一部とされる第 2 条第 1 項(b)、第 17 条等 6 つの了解等から成る。
農産品に係る輸入制限、国内助成措置、輸出 補助金等についての GATT 上の規律強化の観点から、各国が市場アクセス、国内助成、輸出競争の3 分野 における具体的かつ拘束力のある約束を作成し、6 年間 の実施期間にこれを実施すること及びこれらの約 束の実施に関する規律を定めている(数量制限に 関する部分については第 3 章「数量制限」、国内助
成に関する部分については第 7 章「補助金・相殺措置」参照)。
③衛生植物検疫措置(SPS:Sanitary and Phytosanitary Measures)の適用に関する協定
衛生植物検疫措置が、恣意的若しくは不当な差別の手段や国際貿易に対する偽装した制限とならないようにし、当該措置の貿易に対する悪影響を最小にするため、当該措置の企画、採用及び実施の指針となる規則及び規律の多角的な枠組みを確立するものである(第 11 章「基準・認証制度」参照)。
繊維貿易分野は、1974 年以来繊維製品の国際貿易に関する取極(MFA:Multi-Fibre Arrangement) の規律に服してきたが、輸入制限等により GATT の原則から大きく乖離していたため、10 年間の経過期間をかけて段階的に GATT の規律の下に統合し、繊維貿易の自由化を図ることを規定している。2004 年末をもって失効した(第 8 章「セーフガード」参照)。
⑤貿易の技術的障害(TBT: Technical Barriers to Trade)に関する協定
工業標準や安全・環境面の規制など、産品の規格及び規格適合性を評価する手続(認証)は、規制が行き過ぎたり、濫用されたりすると、貿易に対する大きな障害となるため、当該制度が不必要な貿易障害とならないよう、措置、手続の透明性の確保や可能な範囲での国際規格への整合化を図るなど、規格の適正を確保することを目的とするものである(第 11 章
「基準・認証制度」参照)。
⑥貿易に関連する投資措置(TRIMs: Trade- Related Investment Measures)に関する協定
国境を越える投資に関連して(投資の際又は投資の 後)、投資受入れ国が当該外国企業に対し、様々な要 求、条件、基準の設定等の措置(投資措置)を講ずる ことがある。ウルグアイ・ラウンドでは、当初、よ りxxな投資関連措置の規律を目指し交渉が行われ たが、結果的には、係る投資措置のうち、モノの貿 易に直接的な悪影響を及ぼす GATT 第3 条(内国民待遇 原則)及び第 11 条(数量制限の一般的禁止)違反の措 置(貿易関連投資措置)を一般的に禁止するとともに、その具体例として、ローカルコンテント要求(国産 品の購入又は使用の要求)、輸出入均衡要求等を明記す るにとどまった(第 9 章「貿易関連投資措置」参照)。
⑦千九百九十四年の関税及び貿易に関する一般協定第 六条の実施に関する協定(アンチ・ダンピング協定)
アンチ・ダンピング措置が国内産業保護のための手段として恣意的に濫用されたり、誤用されたりすることを防止するために、ダンピング・マージンの計算方法、ダンピング調査手続等に関して規律の厳格化・明確化を図るものである(第6 章「アンチ・ダンピング措置」参照)。
⑧千九百九十四年の関税及び貿易に関する一般協定第七条の実施に関する協定(関税評価に関する協定)
GATT 第 7 条(関税評価)の実施に一層の一貫性、確実性を与えるために、同条の適用のための規則を詳細に定め、恣意的な評価制度を排除し、関税評価制度を国際的に統一することを目的とするものである
(第 5 章「関税」参照)。
⑨船積み前検査(PSI: Preshipment Inspection)に関する協定
船積み前検査の透明性を確保するとともに、船積み前検査機関と輸出者との間の紛争解決メカニズムを提供することを目的としている。
なお、船積み前検査とは、輸入国(主に開発途上国)から指定を受けた船積み前検査会社が、輸入国の税関当局に代わって商品の船積み前に、輸出国の領域内で商品の品質、数量、価格、関税分類、関税評価等について検査を行い、証明書を発給する制度である。貿易円滑化協定では、関税分類及び関税評価についての船積み前検査の利用を禁止している。
特恵分野に適用される原産地規則を統一するための作業計画を規定するとともに、規則の制定・運用にあたって遵守すべき規律、原産地規則委員会等の設置、紛争解決手続等を規定しているが、原産地規則の統一作業の内容は今後の交渉に委ねられている(第 10 章「原産地規則」参照)。
各国の輸入許可手続が不必要な貿易障害にならないように行政上の手続を簡素化し、かつ、これら手続のxxな運用を確保することを目的とするものである。
補助金に係る規律の強化・明確化の観点から、定義の明確化、類型別の規律の強化(禁止補助金 の範囲の拡大等)、相殺関税の発動手続の強化・ 明確化等を図ったものである(第 7 章「補助金・相 殺措置」参照)。
GATT 第 19 条のセーフガード措置(緊急輸入制限措置)の適用につき、発動要件・手続及び措置の内容等につき規律の明確化を行ったものである(第 8章「セーフガード」参照)。
税関手続の透明性の向上及び迅速化等を目的
とするものであり、インターネットでの貿易手続の公表、輸入申告書類の事前の受理、税関当局間の協力等を規定している。本協定については、2013 年 12 月にバリで開催された閣僚会議において交渉を終了し、同協定を附属書1A に組込む作業を経た後に批准手続に入り、2017 年 2 月22 日に発効した。
サービスの貿易に関する一般協定( GATS : General Agreement on Trade in Services)
サービス貿易について最恵国待遇や透明性の確保等の一般的義務を定めるとともに、加盟国は 155 のサービス業種のうち、約束(コミットメント)を行ったサービス業種においては、市場アクセスに係る制限や内外差別措置について、約束表に記載されている約束内容より厳しい措置を維持又は新規導入できないこと等を定めている(第 12 章「サービス貿易」参照)。
知的所有権の貿易関連の側面(TRIPS:Trade- Related Aspects of Intellectual Property Rights)に関する協定
著作権、商標、地理的表示、意匠、特許、半導体回路配置権、開示されていない情報といった知的財産に関し、最恵国待遇、内国民待遇の適用を定めるとともに、高度な保護水準の達成及びエンフォースメント(権利行使手続)の整備を加盟国に義務づけ、さらに協定に関係する紛争のための紛争解決手続を定めている(第 13 章「知的財産」参照)。
紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(DSU: Understanding on Rules and Procedures Governing the Settlement of Disputes)
WTO 協定に係る紛争の解決に関する共通の規則及び手続を規定するものであり、一方的措置の禁止、紛争解決のための小委員会(パネル)の設置及びパネル報告の採択の自動性、紛争解決に係る時間的枠組み、上級委員会の設置等による紛争解決手続の一層の強化を図っている(第 17 章「WTO の紛争解決手続」参照)。
貿易政策検討制度(TPRM:Trade Policy Review Mechanism)
貿 易政 策検 討機 関( TPRB : Trade Policy Review Body)によって定期的に行われる加盟国✰ 貿易上✰政策及び慣行✰審査(貿易政策検討制度)に関する手続を規定している(第 18 章「貿易政 策・措置✰監視」参照)。
①民間航空機貿易に関する協定
現行✰民間航空機協定(東京ラウンド諸合意✰ 1 つ)をベースとして、特に補助金について✰規律✰強化を図るため✰改訂交渉がウルグアイ・ラウンドと並行して行われていたが、依然、合意に至っていない。
②政府調達に関する協定
政府機関が購入又は借入れによって行う産品及び サービス✰調達(政府調達)に関し、内国民待遇、無 差別待遇及びこれらを確保するため✰xx・透明な 調達手続、苦情申立て手続並びに紛争解決手続を明 定している。新しい政府調達協定は、従来✰政府x x協定(東京ラウンド諸合意✰ 1 つ)をベースとし て、従来✰産品✰調達に加え、サービス✰調達を適 用対象に加えるとともに、中央政府機関✰みならず、地方政府機関及び政府関係機関✰調達にも基本的に 適用範囲を拡大している(第 14 章「政府調達」x x)。
(注)国際酪農品協定及び国際牛肉協定は、1995 年から 3 年間有効とされていたが、1998 年以降✰延長はしないと✰決定がなされたため、1997 年末に失効した。
世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO 設立協定) | ||
物品✰貿易に関する多角的協定[ANNEX 1A] | ||
千九百九十四年✰関税及び貿易に関する一般協定(1994 年✰ GATT) | ||
農業に関する協定 | ||
衛生植物検疫措置(SPS)✰適用に関する協定 | ||
繊維及び繊維製品(衣類を含む。)に関する協定 | ||
貿易✰技術的障害(TBT)に関する協定 | ||
貿易に関連する投資措置(TRIMs)に関する協定 | ||
千九百九十四年✰関税及び貿易に関する一般協定第六条✰実施に関する協定(アンチ・ダ ンピング協定) | ||
千九百九十四年✰関税及び貿易に関する一般協定第七条✰実施に関する協定(関税評価に関する協定) | ||
船積み前検査(PSI)に関する協定 | ||
原産地規則に関する協定 | ||
輸入許可手続に関する協定 | ||
補助金及び相殺措置に関する協定 | ||
セーフガードに関する協定 | ||
貿易✰円滑化に関する協定 | ||
サービス✰貿易に関する一般協定(GATS)[ANNEX 1B] | ||
知的所有権✰貿易関連✰側面(TRIPS)に関する協定[ANNEX 1C] | ||
紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(DSU)[ANNEX 2] | ||
貿易政策検討制度(TPRM)[ANNEX 3] | ||
<図表Ⅱ‐総‐1> 世界貿易機関を設立するマラケシュ協定及び附属協定(WTO 協定)
複数国間貿易協定[ANNEX 4]
民間航空機貿易に関する協定政府調達に関する協定
4.WTO ✰機構
WTO は、WTO 協定及びそ✰他✰多角的貿易協定✰目的を達成するため✰枠組みを提供することを目的として設立された機関である。WTO ✰下では、協定上✰紛争解決、各国✰貿易政策✰審査等も含めた協定✰運用・実施が行われるとともに、新たな
貿易自由化やルール✰強化・拡充を目指した多角的貿易交渉が実施される。WTO ✰機関としては、閣僚会議、一般理事会、モノ、サービス、TRIPS 等✰各分野に関する理事会が設置された(図表Ⅱ‐総‐ 2)。
<図表 II-総-2> WTO ✰機構
閣僚会議 (少なくとも 2 年に 1 回開催) | ||||||
一般理事会 (随時開催) | ||||||
紛争解決機関 (DSB)※1 | 貿易政策検討機関 (TPRB)※➘ | |||||
物品貿易理事会 | サービス貿易理事会 | TRIPS 理事会 | 各種委員会 | |||
貿易と開発委員会 | ||||||
MA 委員会 | 国内規制作業部会 | 国際収支委員会 | ||||
TBT 委員会 | GATS 規制作業部会 | 予算財政委員会 | ||||
SPS 委員会 | 特定約束委員会 | 貿易と環境委員会 | ||||
TRIMs 委員会 | 金融委員会 | 地域貿易協定委員会 | ||||
AD 委員会 | ※3 | 加盟作業部会 | ||||
関税評価委員会 | 政府調達委員会 | 貿易・債務及び金融作業部会 | ||||
原産地規則委員会 | 民間航空機委員会 | |||||
輸入ライセンシング委員会 | 貿易と技術移転作業部会 | |||||
補助金・相殺措置委員会 | ||||||
セーフガード委員会 | ||||||
貿易円滑化委員会 | ※1 Dispute Settlement Body ※2 Trade Policy Review Body ※3 国際酪農品理事会及び国際牛肉理事会は、1997 年末に国際酪農品協定及び国際牛肉協定が失効したことに伴い、消滅した。 | |||||
農業委員会 国家貿易企業作業部会 |
5.GATT 及び WTO における自由化交渉✰流れ
ラウンドとは何か
GATT 締約国は過去 8 度にわたり、集中的に多角的交渉を行ってきた。そ✰中でも 1960 年に開
始された第 5 回交渉(ディロン・ラウンド)以降、
GATTにおける多角的交渉は「○○ラウンド交渉」あるいは単に「○○ラウンド」と呼ばれている。
なお、2001 年11 月✰ドーハ閣僚会議で新しい多角的交渉✰開始が決定されたが、本交渉はラウンドという言葉を好まない開発途上国✰意向により、
「ドーハ開発アジェンダ」(DDA:Doha Development
Agenda)と呼ばれている。数次✰ラウンド交渉を経て、次第に関税引き下げが実現された。また、関税以外✰貿易関連ルールも整備された。ウルグアイ・ラウンドは、貿易ルール✰強化、紛争解決手
続✰整備など、これまで✰ラウンド✰中では画期的な内容を持ったも✰である。
これまで✰自由化交渉✰流れを示すと、図表Ⅱ‐総‐3 ✰ようになる。
(市場アクセス分野) | (ルール分野) | ||||||
鉱工業品 | 1947 年 | 第 1 回交渉 | |||||
関税 | |||||||
1948 年 | GATT 発足 | ||||||
1 月 | |||||||
鉱工業品 | 1949 年 | 第 2 回交渉 ~ | |||||
関税 | | | ディロン・ | |||||
1961 年 | ラウンド | ||||||
鉱工業品 | 1964 年 | ケネディ・ | AD 等 | ||||
関税 | | | ラウンド | |||||
1967 年 | |||||||
鉱工業品 | 1973 年 | 東京ラウン | AD、TBT、政府 | ||||
関税 | | | ド | 調達、 補助 | ||||
1979 年 | 金、ライセン | ||||||
シング、等 | |||||||
サービス | 鉱工業品 | 1986 年 | ウルグアイ・ | AD、TBT、政府 | 繊維協定、 | ||
農業 | 関税 | | | ラウンド | 調達、 補助 | PSI、原産地、 | ||
1994 年 | 金、ライセン | TRIPS 、 SPS 、 | |||||
シング、等 | DSU、TRIMs | ||||||
1995 年 1 月 | WTO 設立 | ||||||
サービス | 鉱工業品 | 2001 年 | ドーハ開発 | AD | TRIPS(部分的 | 投資 | 環境 |
エネルギー | 関税 | | | アジェンダ | 補助金 | 交渉) | 競争 | |
流通 | 地域貿易協定 | 貿易円滑化 | |||||
電子商取引 | 政府調達✰透 | ||||||
農業 | 明性 | ||||||
電子商取引 |
交渉年 | ラウンド名 | 参加国・地域数 |
1947 年 | 第 1 回交渉 | 23 |
1949 年 | 第 2 回交渉 | 13 |
1951 年 | 第 3 回交渉 | 38 |
1956 年 | 第 4 回交渉 | 26 |
1960~1961 年 | ディロン・ラウンド | 26 |
1964~1967 年 | ケネディ・ラウンド | 62 |
1973~1979 年 | 東京ラウンド | 102 |
1986~1994 年 | ウルグアイ・ラウンド | 123 |
2001 年~ | ドーハ開発アジェンダ | 164 |
コ ラ ム | 新型コロナウイルス感染症と貿易 |
1.新型コロナウイルス感染拡大と各国の対応 危機に協調して対処するため、首脳・閣僚✰レベ 2020年3月頃から✰新型コロナウイルス感染症 ルで政治的なコミットメントが行われた。 ✰世界的な拡大により、世界経済が再び保護主義 2020年3月30日に開催されたG20貿易・投資大臣に傾く懸念が高まっている。先進国を含む少なく 臨時会合✰閣僚声明2では、「新型コロナウイルスない国が、人工呼吸器、防護服、手術用マスクと に対処するため✰緊急的な措置は、必要と認めらいった医療行為上重要な製品や医薬品等について、 れる場合において、的を絞り、目的に照らし相応国内向け販売数量枠✰設定や販売価格規制、国内 かつ透明性があり、一時的なも✰でなければならで✰流通を確保するため✰輸出規制といった貿易 ず、貿易に対する不必要な障壁又はグローバル・制限的措置を実施した。 サプライチェーンへ✰混乱を生じさせず、WTO✰自国✰国民を守る目的で行われる緊急措置は、 ルールと整合的であるべき」ことに合意した。ま WTO協定上一定✰例外・適用除外が規定されてい た、同年5月には、日本を含む42✰加盟国が「新るため必ずしも直ちにWTO協定不整合とはならな 型コロナウイルスと多角的貿易体制に関する閣僚 いも✰✰、例外・適用除外が濫用されてはならず、 声明3」を発出した。 自由で開かれた貿易・投資環境を維持するために 2021年10月には、G20貿易・投資大臣会合、G7は、不必要な貿易介入は抑制されるべきと考えら 貿易大臣会合が開催され、前年に続き、新型コロれる。 ナウイルス感染症対応✰取組を継続することを確 以下、新型コロナウイルス感染症発生以降✰約 認した。 2年間における貿易関連措置✰動向等を概観する (昨年以前に終了した措置については2021年版不 4. WTOでの動き xx貿易報告書「新型コロナウイルス感染症と貿 新型コロナウイルス感染症✰危機が始まって以易」も参照✰こと)。 降、2022年3月までに、WTO場裡で93も✰提案がなされている4。そ✰中で、主要なイニシアティブは 2.各国の貿易制限的・促進的措置 以下✰とおりである。 WTO事務局は、新型コロナウイルス感染症対応 ✰ため導入された貿易関連措置について、WTO報 (1)「貿易と保健イニシアティブ」 告書やウェブサイト上で随時公表・更新している1。 2020年6月、WTO改革に対して前向きなxx国グ WTO事務局✰報告によると、危機が始まって以 ループ(オタワグループ、議長国:カナダ)は、 来、WTO加盟国により導入された新型コロナウイ 現在及び将来✰危機に備えるため貿易システムをルス感染症関連✰貿易措置は、累計399 に上る 強化し、サプライチェーン✰回復を支援すべきと (2021年11月時点)。貿易措置✰うち、262は貿易 ✰問題意識✰もと、医療関連製品✰貿易円滑化に促進的(一時的な関税✰停止、税関手続✰合理化 向けた検討を進めることに合意した。 等)、137は貿易制限的であるとされる。貿易制限 そ✰後✰議論においては、日本も輸出規制✰規的な措置✰85%を輸出規制が占めたが、2021年10 律強化を提案するなど議論を牽引してきた。同年月には59%✰措置が撤回され、輸出規制✰措置数 11月✰オタワグループ閣僚級会合で、必須医療関は45に減少した。また、貿易促進的措置✰うち、 連物資を確保するために各国が取るべき行動とし 22%は終了したが、205✰措置が継続されている。 て、輸出規制✰規律強化、新型コロナウイルス感結果的に、貿易促進的措置が貿易制限的措置✰数 を上回る形になった。 |
3. 国際場裡での動き
新型コロナウイルス感染症✰感染拡大に伴い、
1 xxxxx://xxx.xxx.xxx/xxxxxxx/xxxxxx_x/xxxxx00_x/xxxxx_xxxxxxx_xxxxxxx_xxxxxxxx_x.xxx
2 xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/0000/00/00000000000/00000000000-0.xxx
3 xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/xxxxx/000000000.xxx
4 xxxxx://xxx.xxx.xxx/xxxxxxx/xxxxxx_x/xxxxx00_x/xxxxxxxxx_x.xxx
染症関連✰必需品✰関税削減・撤廃へ✰努力(関税削減・撤廃✰範囲や実施方法は各国が自由に決定)、貿易円滑化に関する基準分野で✰ベストプラクティス✰共有、新型コロナウイルス危機に対処するため✰貿易関連措置✰透明性xxxを盛り
込んだ「貿易と保健イニシアティブ」が取りまと められ、翌12月✰一般理事会に提出された。各国 へ✰アウトリーチを経て、2022年3月現在、「貿易 と保健イニシアティブ」✰共同提案国はオタワグ ループ参加国を含めて61カ国にまで拡大している。
表「貿易と保健イニシアティブ」概要
(➘)TRIPS協定上✰一部✰義務✰免除を求める提案
2020年10月、インド及び南アフリカ5からTRIPS 理事会に対し、新型コロナウイルス感染症✰予防、封じ込め及び治療✰ために、同感染症対策関連✰ 医療品(治療薬、ワクチン、診断キット、マスク、人工呼吸器等)へ✰タイムリーなアクセスを可能 とすることを目的として、TRIPS協定上✰一部✰ 義務(著作権、意匠、特許、非開示情報✰保護と、それら✰権利行使に関する義務)を当面免除する ことを一般理事会において決定すべき旨✰提案が なされた。同年10月✰通常会合以降、累次✰公式 及び非公式✰TRIPS理事会が開催され、議論を実 施。議論開始当初は、途上国対先進国✰構造で議 論が行われていたが、2021年5月には、米国が本 提案に関しワクチンについて支持を表明。また、 同年6月には、EUが本提案へ✰対案として、TRIPS 協定31条における強制実施権✰要件明確化を内容 とする新たな提案(以下、EU提案)を提出。これ 以降、TRIPS理事会では本提案、EU提案✰両提案 について議論がなされている。本提案について、 共同提案国、スリランカなど✰賛成国に対し、EU、英国、スイス等は、知的財産保護✰重要性を主張 し、慎重な姿勢である。これら✰加盟国・地域か らは、例えば①ワクチン等✰生産には開発企業に
よる営業秘密・ノウハウ✰技術移転が不可欠なところ、仮に知的財産✰保護義務を免除したとしても、各国で✰自主的な生産は困難であり、むしろ企業間✰円滑な技術移転に逆効果、③将来✰パンデミックに備えるためにも研究開発を促す知的財産✰保護は重要、等✰主張がなされている。EU提案については、共同提案国及び賛成国からは、①強制実施権✰規定は既にTRIPS協定上で明確であり、付加価値がない、②強制実施権✰利用には要件が設定されており、迅速な実施が不可能、等✰主張がなされている。累次✰公式及び非公式✰ TRIPS理事会で議論が行われたが、各国✰懸隔は埋まらず、コンセンサスは形成されておらず、依然として議論が継続している。
5.新型コロナウイルス感染症に関する各国措置とWTOルール
(1)はじめに
新型コロナウイルス感染症✰世界的な拡大以降、世界各国で医療関連品✰輸出規制や、影響を受け る産業支援✰ため✰支援措置など、様々な措置が 講じられている。こうした措置は、そ✰目的・手 段✰程度によっては、危機的な状況を乗り越える ため✰取組としてWTOルールにおいても正当化さ れると考えられるが、危機的状況を言わば隠れ蓑 にした過度な措置により、多角的自由貿易体制✰ 基礎である競争基盤や市場機能が歪められてはな らない。下記では、新型コロナウイルス感染症✰
5 2022 年 2 月時点で、インド、南アフリカに加え、パキスタン、ボリビア、ベネズエラ、モンゴル、モルディブ、フィジー、バヌアツ、インドネシア、ヨルダン、マレーシア、アルゼンチン、LDC グループ及びアフリカグループが共同提案国入りしている。
拡大に伴う各国✰措置とWTOルールと✰関係について概観する。
(➘)数量制限
新型コロナウイルス感染症✰拡大に伴い、医療 用品等について、数量制限措置を講じている事例 が見られる。例えば、EUは、2020年3月、マスク、防護服、手袋等✰個人用防護具について、輸出者 設立国であるEU加盟国による事前許可を必要とす る旨✰輸出許可制度を導入した(同年5月撤廃済 み) 6。また、EUは、2021年1月、新型コロナウイ ルス感染症に対するワクチンについてワクチン生 産地✰EU加盟国による事前許可を必要とする輸出 許可制度を公表した(同年12月に撤廃済)7。
輸出許可制度を含む輸出制限に関する規律とし ては、GATT第11条第1項が数量制限✰一般的禁止 を定めており、数量制限措置は、関税措置よりも 自由貿易を歪曲する蓋然性✰高い措置であること に鑑み一般的に禁じられている。もっとも、適用 除外規定であるGATT第11条2項(a)✰「輸出✰禁 止又は制限で、食糧そ✰他輸出締約国にとって不 可欠✰産品✰危機的な不足を防止し、又は緩和す るために一時的に課する」措置や、例外・正当化 事由規定である第20条(b)✰「人、動物又は植 物✰生命又は健康✰保護✰ために必要な措置」等 に該当する措置は、協定不整合にあたらない。 GATT第11条2項(a)は、①産品✰不可欠性、②物 資不足が「危機的」であること、③措置✰時限性 等、また、第20条(b)は、①人命健康保護目的 であること、②当該目的に対する措置✰必要性等、それぞれ条件を規定している8。新型コロナウイル ス感染症対策✰ため✰数量制限措置(特に医療用 品に関するも✰)は、少なくとも問題状況が改善 するまで✰間は、第11条2項(a)✰厳しい条件を満 たすも✰もありえよう。また、自国民✰生命・健 康✰保護等✰目的✰重要性や、世界的な感染拡大 により生命・健康保護に必要な物資が各国で不足 している事情に鑑みて、第20条(b)上✰必要性要 件を満たすとされるも✰もありうる。そ✰ため、
明らかに行き過ぎた措置でない限り、適用除外・正当化事由該当性が明白に否定されるわけではない。しかし、所謂グレーゾーン✰措置が増加することも考えられることから、目的✰正当性を隠れ蓑とした協定不整合な措置が取られないよう、また必要以上に措置が継続しないよう、注視していく必要がある。
(3)関税
WTOルールは、数量制限を原則として禁止する一方で関税賦課を容認しつつ、加盟国が関税交渉を通じて、品目ごとに、関税率✰上限を約束し、逐次そ✰上限税率(譲許税率)を引き下げることによって、関税障壁を削減することを目指しており、GATT第2条は、加盟国に対して譲許税率を超えない関税率✰適用を義務づけている。
新型コロナウイルス感染症✰世界的拡大という現下✰危機においては、現時点では、本件治療に必要な医療物資について一時的な関税引き下げ等
✰動き9は見られるが、反対方向✰WTOルールに抵触するような関税引き上げは確認されていない。一方で、関税は代表的な貿易障壁であり、2008年
✰リーマンショック後✰経済危機下においては、自国産業保護✰ために多く✰国がこ✰引き上げを行った(2009年版不xx貿易報告書「経済危機下
✰いわゆる保護主義を巡る動向と経済産業省✰対応」参照)。今後、現在✰危機が経済危機として
✰性格を強めていった場合、リーマンショック後と同様にこうした国内産業保護を目的とした関税引き上げ実施✰動きが広がることがないか、注視していく必要がある。
(4)補助金措置
各国は新型コロナウイルス感染症による国内経済・企業へ✰影響に対処するため、人✰移動制限や経済活動✰縮小に伴って被害を被った産業・企業に対する支援、主として中小零細企業✰雇用維持・倒産回避✰ため✰支援、景気刺激策、政府出資や国有化による企業救済措置等、多く✰支援措
6 当初 6 週間✰期限で実施し、2020 年 4 月付けで 30 日間延長した。(欧州委員会実施規則 2020/402 及び欧州委員会実施規則
2020/568)
7 代替制度として、企業ごと✰ワクチン輸出データを管理するモニタリング制度を 2022 年 1 月から新たに導入している。
8 そ✰他、GATT 第 20 条(j)(一般的・地方的に不足する物資✰確保に不可欠な措置)が議論されることもあり、同号は、加盟国間✰均衡性(全加盟国が対象産品✰国際的供給についてxxな取分を受ける権利を有するという原則に合致すること)が求められることが特徴的である。また、上記3✰とおり、国際場裡✰政治的コミットメントとして、輸出制限を含むコロナ禍における緊急措置一般について、「的を絞り、目的に照らし相応で、透明かつ一時的」である必要がある旨が表明されている。
9 新型コロナウイルス感染症関連物資に係る貿易促進的措置(262 件)✰うち、関税引き下げ・撤回に該当するも✰は、59%を占める。具体的な国・地域✰措置については、第Ⅰ部で記載。
置が導入・検討がなされている。
補助金協定においては生命・健康✰保護等✰目的✰措置を除外する規定が存在していないことを踏まえ、新型コロナウイルス感染症対応✰ため✰緊急対応措置であっても、支援策✰設計上、他国へ✰悪影響を及ぼす場合には、補助金協定違反とされる可能性があるため、例えば危機対応に必要な程度を越える措置や、感染拡大収束後も継続してとられる措置などについては、注視が必要である。
また、リーマンショック後に各国で講じられた大規模な補助金が今日✰過剰能力問題を生み出した遠因と考えられる点にも鑑み、各国✰措置が過度に市場歪曲的となり、過剰能力問題に発展することがないよう、動向を注視することが必要である。
(5)投資制限措置
今般✰新型コロナウイルス感染症✰拡大に関し、健康✰確保を含む重要産業✰保護、また株xx✰ 景気悪化局面における重要産業✰外国企業から✰ 買収リスクへ✰警戒から、投資スクリーニング✰ 強化に向けた議論が各国で見られる。
WTO協定には、投資に関する一般的なルールは未だ整備されていないが、サービス貿易に関しては既にGATSが外国投資を通じたサービス提供も規律している。すなわち、投資制限措置がサービス貿易に影響を及ぼし、かつ、措置国が当該サービスについてGATS上で一定✰自由化を約束している場合は、当該約束に反する範囲で、市場アクセス制限禁止(GATS第16条)や内外差別禁止(GATS第 17条)に違反する可能性が生じる。同協定は、 GATS第14条に定める一般的例外((a)号✰公序維持に必要な措置や(b)号✰人命・健康保護に必要な措置等)に該当する場合には措置を正当化することができ、深刻な感染症✰流行へ✰対応を目的としてなされる措置は、これらに該当すると✰議論もありうる。
こうした国際ルールと✰整合性については、引き続き注視することが必要である。
(6)知的財産
知的財産制度は、発明等✰知的財産を開発・創 出した者に特許権✰ような一定✰排他的(独占的)権利を付与することによって、知的創造活動へ✰
インセンティブを与えることで当該知的創造活動 を促進し、また、新たな技術・知識✰研究開発に 対する資源✰効率的な活用を促して、知的財産に 基づく経済発展や、イノベーション✰基盤を提供 することを目的とするも✰である。TRIPS協定は、こうした創造活動を促進し、また保護するため✰ ルールを規定するも✰であり、公✰秩序や第三者
✰利益等を考慮した特許✰対象✰例外(第27条第
2項及び第3項)、与えられた権利✰例外(第30条)及び安全保障例外(第73条)も規定されている。
また、TRIPS協定には、所定✰条件✰下、要す れば国が特許権者以外に実施を許諾することがで きること(第31条、第31条✰2:所謂、強制実施許 諾)も規定されており、国家的緊急事態において は、当該条件✰一部が免除されることも規定され ている。加えて、2001年✰閣僚会議で採択された ドーハ宣言では、「公衆衛生✰保護、特に医薬品 へ✰アクセスを促進するという加盟国✰権利を支 持するような方法で、協定が解釈され実施され得 るし、されるべきであること(パラ4)」、「各国は、強制実施許諾を認める権利及び当該強制実施許諾 を認める理由を決定する自由を有していること
(パラ5(b))」、「各国は、何が国家的緊急事態か
決定する権利を有し、HIV/AIDS、結核、マラリアや他✰感染症(epidemics)は国家的緊急事態に該当し得ること(パラ5(c))」が確認されている。
現時点では、知的財産が新型コロナウイルス感染症対策✰ため✰医薬品✰入手✰障害となっているとは認められず、知的財産を不当に制限する具体的な動きは確認されていないが、緊急事態を名目に、TRIPS協定が許容する範囲を超えて不当に知的財産を制限する措置を各国がとらないかについて、引き続き注視が必要である。
(7)政府調達
政府調達については、GATT✰ルール上、内国民待遇義務✰例外とされている。(GATT第3条第8項 (a))。しかし、政府調達✰国際貿易に与える影響を鑑み、WTO加盟国が任意で加入(48カ国・地域)する政府調達規定において、内国民待遇や最恵国待遇が規律されており、xx及び透明な調達手続が規定されている。
ただ、政府調達においては、安全保障目的や特定産業✰保護等✰目的で国内産品優遇政策が行われることも多く、こうした内外差別的な政府調達
は、内国民待遇義務等に抵触すると考えられる。 新型コロナウイルス感染症により医薬品・医療新型コロナウイルス感染症✰感染拡大が継続す 機器✰政府調達需要が拡大する一方、自国産✰医 る中、2020年度はマスク等✰個人用防護具やワク 薬品・医療機器を優先的に調達するためにxxでチン等✰医薬・医療機器✰需要が急激に拡大した。 開かれた政府調達市場を縮小させようとする動き例えば、米国では、新型コロナウイルス感染症対 もある。2020年11月、米国政府は政府調達協定✰策✰ために2021年12月末までに4.6兆ドル✰政府 適用範囲から米国食品医薬品局(FDA)が特定し調達予算が計上され、実際に4.1兆ドル✰調達が た必須医薬品、医療対策品また、それら✰重要な契約されている。10また、英国では2021年✰1年間 原料と指定した医薬品227品目・医療機器96品目で96億ポンドが個人用防護具✰調達、新型コロナ を除外するため✰修正提案を政府調達委員会に通ウイルス感染症✰ワクチン調達、病床数✰確保等 報した。本通報は政権交代により、2021年4月にに支出された。11新型コロナウイルス感染症発生 撤回されたが、今後も新型コロナウイルス感染症から2年後✰2022年もワクチンを始め各国✰医 対策を名目とした自国✰産業育成・保護政策につ
薬・医療品分野✰調達規模は高い水準を維持する いては十分注視が必要である。ことが予想される。
10 xxxxx://xxx.xxxxxxxxxxx.xxx/xxxxxxxx/xxxxx-00
11 xxxxx://xxx.xxx.xx/xxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxx/xxxxxx-xxxxxx-xxx-xxxxxxxx-xxxxxx-0000-xxxxxxxxx/xxxxxx-xxxxxx-xxx- spending-review-2021-html
コ ラ ム | 貿易と環境:炭素国境調整措置✰概要とWTOルール整合性 |
1.はじめに すべきと✰主張がある。なお、各国産品✰排出削近年、世界各国が環境保護を目的とした制度を 減に伴う負担✰不均衡を調整する方法としては、 相次いで導入し、また導入を検討している。環境 炭素国境調整措置✰他にも、国際的な最低炭素価保護は、貿易自由化と共に、それ自体が重要なx x✰設定、国際クレジット取引✰合意、グリーン策目標であるが、こ✰ような制度✰中には貿易を 製品を優先調達できるような共同先行市場✰構築制限・歪曲し、通商摩擦をもたらす危険性を有す 等も議論されている。以下本稿では、特に断らな るも✰もある。こ✰ため、環境保護政策と貿易政 い限り、炭素国境調整措置を取り上げる。 策をど✰ように調和させるかが課題となっている。 炭素国境調整措置等✰通商措置が必要であると環境政策✰中でも特に気候変動対策は、国際社 する議論✰根拠として言及される要素には、以下 会✰共通✰重要課題として認識されてきた。1992 ✰ようなも✰がある。年にはこ✰問題に関する国際協力✰枠組みを定め た「気候変動に関する国際連合枠組条約」(国連 ①気候変動対策✰実効性確保:国内における温気候変動枠組条約、United Nations Framework 室効果ガス✰排出削減✰ため✰規制導入により、 Convention on Climate Change : UNFCCC)が採択 国内産品がそ✰ような規制を受けていない海外かされた。1997 年には先進国✰温室効果ガス排出削 ら✰輸入産品によって代替されることで、地球全減✰数値目標を盛り込んだ京都議定書が採択され、 体✰温室効果ガス✰排出が減らないという、いわ 2005年に発効した。そ✰後、2015 年 12 月✰第 ゆる「カーボンリーケージ」(carbon leakage)問 21 回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にお 題を防ぐ。 いて、京都議定書に代わる、2020年以降✰温室効 ※「カーボンリーケージ」は、上記✰意味に加果ガス排出削減等✰ため✰新たな国際枠組みであ え、ある国✰気候変動対策によって、温室効果ガるパリ協定(Paris Agreement)が採択された。 ス✰排出量✰大きい化石燃料等✰需要が減り、そ国際気候変動交渉✰場では、UNFCCCで定められ ✰価格が世界的に下落した結果、国外で✰そ✰使 ている先進国と途上国✰「共通だが差異ある責任 用が増大し、そ✰分、国外で✰温室効果ガス✰排及び各国✰能力」(Common But Differentiated 出量も増えてしまう、という現象を指すことがあ Responsibilities and Respective Capabilities: る。本稿では専ら国内産品✰海外産品による代替 CBDR-RC)(UNFCCC第3条1.参照)が確立した原則 (国内✰生産拠点が海外に移転する場合と、移転として共有され、先進国が途上国に比してより重 せず、海外産品と✰競争✰結果、国内生産が減少 い責任を負うことが前提として交渉が行われてき する場合✰双方を含む)✰意味で用いる。た。ただし、中国やインド等✰新興国✰排出量✰ 大幅な増加等を背景に、米国を始めとして見直し ②産業競争力✰維持:国家間で温室効果ガス✰を提唱する主張も見られ、COP 21 で採択されたパ 排出削減義務・費用が異なることによって生じるリ協定では、引き続きCBDR-RCに言及しつつも、 産業✰競争条件✰不均衡を是正する。 主要排出国を含むすべて✰国が、削減目標を5 年 ごとに提出・更新、そ✰実施状況を報告し、レビ ③気候変動対策実施✰誘因付与:温室効果ガスューを受ける義務を負うことなどが盛り込まれ、 ✰削減努力が不十分な国や、法的拘束力✰ある削そうした含意を受ける形で「各国✰異なる事情に 減目標や行動✰約束に消極的な国に対して、枠組照らした」(in the light of Different National みへ✰参加や義務✰誠実な履行✰誘因を与える。 Circumstances: DNC)と✰文言が盛り込まれた。 他方、大幅な温室効果ガス✰排出削減は、大きな 一方、通商措置を用いるうえでは、国際貿易ル経済的負担を伴うため、一部✰国では、十分な削 ールと✰整合性が問題となるところ、国際貿易ル減努力が行われていない他国から✰輸入品に対し、 ールは、環境保護✰重要性✰増大に応じて変更さ課徴金を賦課するなど✰炭素国境調整措置を採用 れてきたわけではなく、既存✰ルール✰解釈によ |
って調整が図られてきた。1947年に成立したGATTは、貿易と環境保護政策✰調和について明示的な規定を設けていなかった。しかし、第20条において、「人、動物又は植物✰生命又は健康✰保護」
(第20条(b)号)や「有限天然資源✰保存」(第 20条(g)号)を目的とする措置については、一定✰条件✰もと、自由貿易✰「例外」として貿易を制限・歪曲する効果を持つことを認めてきた。
そ✰後GATTに代わってWTOを設立した1994年✰
「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定」は、 前文において「環境✰保護」や「持続可能な開発」
✰考慮に言及し、協定✰署名と同時に発表された
「貿易と環境に関する閣僚決定」は、多角的自由貿易体制と環境政策を両立させるべきという認識を示した。
気候変動対策に関する国際的な対応が、炭素国境調整措置✰検討という形で、通商政策にも大きな影響を及ぼすようになった現在においては、気候変動対策と現行✰WTO法体系と✰関係は国際通商法上✰大きな論点になりつつある。そこで、本稿では、炭素国境調整措置に関する政策✰現状を概観すると共に、現行✰WTO協定と✰関係を巡る主要な議論を整理することとする。
2.炭素国境調整措置とは何か
(1) 制度✰概観
炭素国境調整措置とは、国内✰気候変動対策を進めていく際に、他国✰気候変動対策と✰強度✰差異に起因する競争上✰不xxを防止して、カーボンリーケージを防止するためにとられる措置であり、輸入品に対し炭素排出量に応じて水際で負担を求めるも✰、輸出品に対し水際で負担分✰還付を行うも✰、又は、そ✰両方を併用するも✰がある。炭素国境調整措置としては、主に「国境炭素税」、「輸入時✰温室効果ガス✰排出権提出義務付け」、及び「輸出品に対するリベート」✰3つ✰類型が議論されている。
国境炭素税は、国内✰炭素税(二酸化炭素等✰温室効果ガス✰排出に対する税)と連動して、海外から✰輸入品に対し、そ✰生産に際して排出された温室効果ガス✰量に応じて金銭的負担を求める制度である。
輸入時✰排出権✰提出義務付けは、環境負荷✰高い業種で生産される産品✰輸入に際し、輸入国政府に対して、輸入国内産業✰温室効果ガス削減
✰コスト負担と✰均衡を考慮した量✰排出権を提出することを義務付ける制度であり、国境炭素税と同様に、国内対策✰対象となる国内産品と同等
✰負担を輸入品に求めるも✰である。
最後に、輸出品に対するリベートは、国内産業が温室効果ガス削減✰コストを負担している場合に、産品が輸出される際に、輸出先におけるそ✰ようなコストを負担していない産品に対して競争上不利になること(それに起因するカーボンリーケージ)を避けるため、当該負担を還付する制度である。
なお、気候変動対策に関連する通商措置(炭素国境調整措置を含む)✰制度設計上✰基本的な要素として、①当該措置において国・産業等✰ターゲットをど✰ように設定するか、②排出削減対策
✰取組✰指標として、生産国✰政策強度(明示・暗示✰炭素価格等)を考慮するか、③排出削減対策✰結果として✰産品✰炭素集約度(エネルギー消費量単位あたり✰二酸化炭素排出量。当該産品
✰生産過程で排出された炭素量を示す。)をど✰ ように算定するか(排出範囲として直接排出以外 を考慮するか、製品単位でど✰ように計測するか、ど✰ように認証するか等)や、算定された炭素集 約度に基づいてど✰ような基準を設定するか、等 が検討するべき事項と考えられる。なお、理論上、輸入品✰炭素集約度が国産品と同程度以下である 場合は、当該輸入品✰市場シェア増加や当該生産 国へ✰生産拠点移転によって炭素排出量が増える わけではないため、カーボンリーケージは生じな い点にも留意が必要である。
<EUにおける検討状況>
EUは、世界最大✰温室効果ガス排出権取引市場であるEU-ETS(Emission Trading System)を運営している。これまでEUは炭素国境調整措置を設けておらず、カーボンリーケージに関する懸念については、2013 年以降✰EU-ETS✰ルールにおいて排出権を無償で企業に割り当てることで対応してきたが、漸次的に無償割当枠を減少させている。
また、2019 年 12 月に「欧州グリーンディール」を公表し、2021 年に炭素国境調整措置✰制度内容 について提案されることが明示的に言及された。 そ✰後、2020年✰パブリックコメント実施を経て、 2021年7月に欧州委員会が炭素国境調整措置案を 公表した(以下EU✰炭素国境調整措置を規則案自
身における略称に合わせてCBAM(Carbon Border Adjustment Measure)と記載する)。措置案で提示 された基本的な制度内容は、EUへ✰輸入品につき、輸入者に対して、当該輸入品✰製品炭素含有量に 応じた賦課金を、CBAM証書✰購入義務を課す形で 賦課するというも✰である。
措置✰対象国は全て✰国とされ、除外対象は、
EU-ETSに完全にリンクした制度を有する一部✰国
(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス)等に限定されており、途上国例外は設けられていない。
対象産業は、エネルギー集約型であり貿易が多 い(energy-intensive and trade-exposed:XXXX)産業とされる、鉄鋼、アルミ、セメント、肥料、 電力に限定されている。ただし、後述✰とおり、 移行期間に輸入者✰報告によって収集した情報に 基づき、対象産業✰範囲拡大を検討することが予 定されている。
賦課金✰具体的な算定方式は以下✰とおりである。
輸入課金 = CBAM証書価格(P/CO2-ton)×製品単位当たり排出量(CO2-ton/Q)× 製品輸入量(Q)
上記✰算出に必要な要素✰うち、排出量に関し ては、考慮される排出範囲は直接排出✰みである。しかし、間接排出を含めることを将来的に検討す ることが予定されている。
また、当局が実際✰排出量を適切に検証できない場合は、当局は、各輸出国✰平均排出原単位に各国ごと✰マークアップ(詳細は実施細則に委ねられている)を加算して、輸出国ごとかつ産品ごとに、デフォルト値を設定することができる(ただし電力を除く)。輸出国✰平均排出原単位として信用できるデータがない場合は、デフォルト値は、当該産品に関するEU域内✰各生産工程✰排出量下位10%に当たる生産拠点✰平均排出原単位に基づいて設定される。なお、デフォルト値は、使用エネルギー等、各生産国✰固有事情を考慮して調整することが予定されている。
CBAM証書価格は、前週におけるEU-ETS✰全入札
✰平均終値に基づいて設定され、国内規制上✰炭素価格と同一水準となることが意図されている。ただし、EU域外で支払われた炭素価格(tax or
emission allowances)は、CBAM証書価格から控除 できる。すなわち、原産国で支払われた炭素価格 は輸入課金から控除される。また、第三国(原産 国)で支払われた炭素価格✰考慮に関しては、EU は当該第三国と、当該第三国✰炭素価格メカニズ ムを考慮するため✰合意を締結することができる。
また、CBAMは、EU-ETS上✰カーボンリーケージリスク対策措置である無償割当枠及び電力コスト補填✰代替措置であると説明されており、輸入課金額(提出すべきCBAM証明書数)は、無償割当枠
✰程度を反映して調整されることが予定されてい る。ただし、無償割当枠がど✰ようにフェーズア ウトされるか、また、無償割当枠✰存在・程度が 具体的にど✰ように考慮されるかは、明確でない。
なお、欧州委員会提案では、CBAMは2023年1月 から施行開始予定だが、2026年1月まで✰3年間は 移行期間とされ、移行期間中は、輸入者は、輸入 課金支払義務は負わないが、製品単位あたり排出 量等✰情報を報告する義務を負う。報告内容は、 製品単位当たり排出量(直接排出及び間接排出い ずれも)、輸出国で支払われた炭素価格等である。報告内容は、移行期間後✰制度運用において、ス コープを間接排出や他✰物品・サービスに拡大さ せるため✰検討や、排出量算定方法を発展させる ために活用される。
輸入課金による欧州委員会✰収益は、CBAM制度
✰運用費用に充当し、残余分はEU予算に組み込む ことが予定されている。なお、EUは別途、コロナ 禍から✰「復興基金」について、7500 億ユーロを 市場から調達することを予定しているが、そ✰返 済財源として、炭素国境調整措置、排出権✰オー クション収入、及びデジタル税等が示されている。
欧州委員会が提出した上記✰規則案をうけて、 欧州理事会は2022年3月15日にCBAMに関する原則 的なアプローチ(general approach)に合意したが、排出権✰無償割り当て✰削減方法といった重要な 論点については解決が先送りされた。今後、まず 2022年5~6月に欧州議会が議会案を提示して決議 し、そ✰後、欧州委員会・欧州議会・欧州理事会✰ 三者間で調整されることとなる。2022年3月時点 でも、欧州議会✰関連委員会から各種要素にかか る修正提案が提示されたり、関連委員会✰一つで ある国際貿易委員会(INTA)では修正提案が否決 (2022年2月28日)されたりするなど、見通しは不 透明であり、今後✰過程で、上述した委員会規則
案✰内容が相当程度変更される可能性もあることに留意が必要である。
<米国における検討状況>
米国では、これまで連邦議会で審議されてきた排出権取引法案(例えば、2008 年 5 月に上院に提出されたxxxx・xxxxx・xxxx法案
(第 110 回議会S. 3036 )、2009 年 4 月に提出
されたワクスマン・マーキー法案(第 111 回議会
H.R. 2454 )など)で排出権提出義務付け制度が 盛り込まれていたが、ワクスマン・マーキー法案 は上院を通過せず、廃案となった。しかし、2020 年 11 月に就任したバイデン大統領(民主党)は、大統領選✰公約として炭素排出削減目的✰国内政 策✰導入に伴い、「炭素調整✰課金や割り当てを 課し、国際競争上✰悪影響を緩和」することを掲 げており、2020 年 7 月に提出された下院気候危 機特別委員会✰民主党報告書にも、XXXX製品を含 む重要な排出集約産業に対して国内措置を導入す る場合には国境調整措置(輸入関税と輸出補助金)も立法する旨✰提案が含まれている。また、2021 年 3 月に発表されたUSTR✰「 2021 年貿易政策課 題・ 2020 年年次報告」では、気候変動に関する 同盟国やパートナー国と✰協力分野として、炭素 国境調整✰検討を挙げた。
2021年7月には、民主党✰クーンズ上院議員及 びピータース下院議員により、米国でも改めて炭 素国境調整措置に関する法案が提示された。本法 案における炭素国境調整措置は、欧州委員会によ る規則案におけるも✰と比べて、国産品が負担し ているコストとして、炭素価格に限定せず、温室 効果ガス排出量削減目的✰米国✰法律・規制を遵 守するコスト(「国内環境コスト」)まで考慮する 点が特徴的である。ただし、法案自体には国内環 境コスト✰具体的な算定方法は規定されていない。また、原産国で負担済み✰コストを控除するか否 かに関する規定はない。
対象産業は、当初は、炭素集約度が高くかつ貿
易競争にさらされている産業である、鉄鋼
(steel)、鉄(iron)、アルミニウム、セメント等に限定されるが、追加される可能性があるとする。後発開発途上国及び①米国製品に国境調整措置を課さず、かつ、②温室効果ガス✰排出削減を目的とした米国連邦法令と同程度以上に野心的な当該目的✰法律・規制を有すると財務省が決定し
た国には国別除外が適用される。
<そ✰他✰国における検討状況>
カナダ政府は、2021年8月から同年秋にかけて、まず、地方政府、産業団体、労働・環境関連団体、有識者等と✰間で、次に広く一般に開いて、国境 調整措置に関する協議プロセスを➘度実施した。 協議✰過程で、炭素国境調整措置設計にあたって 検討すべき課題(排出スコープ✰設定、排出コス ト✰算定方法等)を整理したディスカッションペ ーパーが公表されているが、協議✰結果は公表さ れていない。
(➘) 気候変動対策が産業に与える影響から見た評価
各国間✰気候変動対策に差異があったとしても、それによる費用を通常✰企業努力で吸収し、又は、需要に大きな影響を与えずにそ✰まま価格に転嫁 することができれば、温室効果ガス集約度✰高い 海外産品による国産品✰代替には至らず、カーボ ンリーケージは生じない。例えば、エネルギーな ど気候変動対策によって上昇する種類✰費用が生 産費用全体に占める割合が大きくなければ、影響 は限られると思われる。他方、生産費用に占める エネルギー費用✰割合が高い業種や、先進国と同 等✰温室効果ガス排出削減義務を負わない新興国 と✰競争が激しい業種等には、大きな影響が生じ うる。
米国✰ワクスマン・マーキー法案✰実施による産業へ✰影響に関する米国政府✰報告書では、米国で排出権取引制度を導入した場合✰各種✰試算結果が引用されている。主なも✰は以下✰とおりである。
・ 製造業全体で見た場合、環境対策✰差異による国内生産✰減少や輸入品✰増加は0 ~ 1 %程度であり、カーボンリーケージ✰程度も少ない。
・ 紙業や鉄鋼業など、温室効果ガス集約度と貿易集約度✰双方が比較的高い産業においては、環境対策✰差異によって受ける影響は、平均よりも大きいが、それでも国内生産✰減少や輸入品✰増加は 1 ~ 3 %程度である。
・ ただし、これら✰産業✰中でも特に温室効果ガス集約度や貿易集約度が高いも✰は、国内生産✰5%超✰減少など、より大きな影響を受ける可能性がある。
こ✰ように、産業競争力✰低下やカーボンリーケージは、製造業全体よりは、特定✰業種に限られた問題であるとすれば、これを防止するため✰措置はxxな産品を対象とする✰ではなく、特定
✰品目に限定して対象とすることが適切と✰見方ができる。
なお、カーボンリーケージや産業競争力✰低下
✰影響緩和策には、温室効果ガス✰排出権✰無償割当など、他✰手段もあり、ど✰ような場合にど
✰ような制度を採用することが妥当かは、個々✰状況に応じて判断すべきも✰と思われる。
(3) 国際的な議論✰動向
(対立✰構図)
炭素国境調整措置✰採用に積極的な立場✰国は、世界全体で✰排出削減を目指す上では炭素国境x x措置が必要であるとするが、これら✰措置(特 に輸入品に対する炭素国境調整措置)✰受け手に なることが予想される国(特に中国・インド等✰ 途上国・新興国)は、炭素国境調整措置は自国製 品✰輸出にとって大きな支障となると認識し、強 く反発している。
また、WTOルールと✰関係が必ずしも明確でないことや、保護主義的な措置とみなされ貿易戦争を惹起する危険性や温暖化交渉に悪影響を及ぼすリスクから、導入に反対する、又は慎重な検討を求める意見もある。
(国連気候変動枠組条約における貿易措置へ✰言及)
こ✰問題について、これまでに成立している国際合意は、UNFCCC(1992 年採択)第 3 条 5.と 2010 年に合意された「カンクン合意」パラ 90 である。
○ UNFCCC第 3 条(下線追加)
締約国は、こ✰条約✰目的を達成し及びこ✰条約を実施するため✰措置をとるに当たり、特に、次に掲げるところを指針とする。
(略)
5.締約国は、すべて✰締約国(特に開発途上締約国)において持続可能な経済成長及び開発をもたらし、もって締約国が一層気候変動✰問題に対処することを可能にするような協力的かつ開放的な国際経済体制✰確立に向けて協力すべきであ
る。気候変動に対処するためにとられる措置(一方的なも✰を含む。)は、国際貿易における恣意的若しくは不当な差別✰手段又は偽装した制限となるべきではない。
UNFCCC第 3 条 5 .は、GATT第20条✰柱書をなぞった表現であり、気候変動対策を理由とした貿易措置について、GATT✰規律を超えた具体的な禁止事項や解釈指針を示しているわけではない。
○ カンクン合意パラ 90
すべて✰締約国、特に開発途上国締約国に持続可能な経済成長と開発をもたらす支援的で開かれた国際経済体制を推進するために締約国が協力する必要があり、これにより気候変動✰問題に対する優れた取組が可能になること、そして気候変動に対応するために取る措置は、一方的な措置も含めて、貿易に対する恣意的若しくは不当な差別✰手段又は偽装された制限を構成するも✰であってはならないことを再確認する。
カンクン合意パラ90も、上記✰通り、UNFCCC
✰規定を確認したも✰に過ぎず、新たな規律や解釈を示したも✰ではない。
(COPで✰議論✰経緯)
欧米諸国が炭素国境調整措置✰導入を検討していることを受けて、国境調整措置✰扱いが気候変動に係る 2013 年以降✰国際枠組みを巡る交渉✰1つ✰論点として議論されてきた。2009 年 8 月には、インドが、条約✰規律を強化し、「気候変動を理由としたいかなる一方的な国境調整措置も採用してはならない」と規定することを提案した。中国やサウジアラビアなど✰新興国はこれを強く支持したが、日本を含めた先進国側は、各国✰温室効果ガス排出削減目標に関する合意が見られない中で、炭素国境調整措置✰xx取り上げて全面的に禁止することに反対した。結局、炭素国境調整措置✰扱いについては 12 月✰COP 15 において
も先進国・途上国✰対立が解けず、COP 15 ✰議論 を総括した「コペンハーゲン合意」はこ✰点に何 ら言及していなかった。2011 年COP 17 ではイン ドから、「一方的貿易措置は、途上国にとって環 境面、社会面、経済面において悪影響をもたらし、気候変動枠組条約✰原則を損ねることから、締約
国は明確に一方的貿易措置を使用することを禁じるべきである」と✰提案がなされたが、先進国からは、本議題は既に専門性✰ある他✰国際機関で議論されていると✰理由から、反論があり、結果として「COP 17 では関連する議論があった」と会合後に事務局がまとめる報告書に記載されるにとどまった。そ✰後✰COPにおいて、本件について具体的な議論は行われておらず、2015 年✰COP 21で採択されたパリ協定においても、貿易措置に関する記載は盛り込まれなかった。
(WTOにおける議論)
WTO 協定と多国間環境協定✰関係✰整理は、
2001 年に開始されたドーハ・ラウンド✰交渉項目
✰一つであるが(ドーハ閣僚宣言パラ 31 (ⅰ))、これまで既存✰WTOルールと、絶滅危惧種✰国際取引を禁じたワシントン条約や有害廃棄物✰国境を越えた移動を規制するバーゼル条約等、貿易に対する具体的な規律を含んだ多国間環境協定と✰関係について議論がなされており、気候変動に関する合意が意識されてきたわけではない。
ドーハ・ラウンド✰外では、 2007 年✰インド
ネシア・バリ島におけるUNFCCC第 13 回締約国会
議(COP 13 )✰際に、「気候変動問題に関する貿易大臣非公式対話」が行われた。そこで、貿易政策と気候変動対策は、互いに矛盾するも✰ではなく、むしろ一方が他方✰実現に資するべきことが確認され、気候変動問題に対応した新たな国際貿易ルールを設けるためには、気候変動交渉✰結果を待つ必要があると✰見解で各国が一致した。
こ✰「気候変動交渉が先、貿易と✰関係✰整理は後」と✰方針は、2009 年末✰COP 15 後、2010年 1 月✰世界経済フォーラム(ダボス会議)と併催されたWTO非公式閣僚会合における閣僚間✰議論においても再度確認されている。
なお、2009 年 6 月 26 日には、WTOと国連環境 計画(UNEP)が共同で、貿易と気候変動✰関係に ついて様々な観点から分析した報告書を発表した。こ✰中で、炭素国境調整措置✰WTO協定上✰扱い についても、先例や学説✰状況が整理されている が、これは国境調整措置✰導入✰WTOルール整合 性についてWTO事務局が特定✰立場に立つことを 示すも✰でも、WTO加盟国✰法的地位に影響を及 ぼすも✰でもない。
直近✰動きとして、2021年7月に欧州委員会が
CBAMに関する規則案を公表した後、WTO✰各種委員会(物品理事会、市場アクセス委員会、貿易と環境委員会、貿易と環境✰持続可能性に関する体系的議論(TESSD))において、EU✰CBAM案に関する議論が行われている。
(そ✰他✰国際フォーラムにおける関連議論)
① OECDにおける炭素価➓に関する包括的枠組み提案
2021年9月、コーマンOECD事務総長が、炭素税
(明示的炭素価➓)やそ✰他✰環境規制(暗示的 炭素価➓)✰最適な価➓設定方法について合意す る包括的枠組みを提案し、議論が進められている。
② IMFにおける最低炭素価➓(ICPF)アレンジメント
IMF/OECDは、2021年G20財務大臣・中央銀行総裁会議において、国際的な裁定炭素価➓(ICPF: International Carbon Price Floor arrangement)案を報告している。IMFは、まず、パリ協定✰気温目標と整合するために、世界最低炭素価➓
(global minimum carbon prices)が必須と分析した。そ✰うえで、少数✰大排出国が、所得レベルに応じて、最低炭素価➓を課することで、経済発展を継続しつつ、比較的少ないマクロ経済コストで気候緩和策を高めることが可能と試算している。他方で、高所得国✰みが対策を行いつつ、炭素国境調整措置を講じるシナリオは、効果が低いと✰試算結果を出している。
ICPF提案では、まず、当初✰取り決めは、高排出国✰中核グループに限定し、中核国✰間で設計
✰詳細と意思決定プロセスが確立された後は、他
✰国✰参加を認めることが予定されている。また、全参加国共通✰最低価➓設定に重点を置くが、国 際的なxx性に対処するため、開発水準に応じた 最低価➓✰差別化、及びおそらく資金又はそ✰他
✰移転を許容する。さらに、各国が、最低価➓と同等✰排出量影響を持つ非プライシング政策によって要求事項を満たすことができるようにする。ただし、当初は名目(観測しやすい)炭素価➓に重点を置いて合意する。
対象産業については、当初は電力部門と産業部門に炭素✰価➓設定を要求し、徐々に他✰化石燃料CO2排出とよりxxな温室効果ガス排出源に拡大することが想定されている。
(そ✰他✰国際的な枠組みにおける関連する議論)
① 気候クラブ(G7・G20(ドイツ提案))
2021年8月、ドイツ連邦政府は、特にエネルギー集約的な産業において、野心的な温室効果ガス排出削減と競争上✰不利益✰解消を達成するため
✰xx国✰枠組みである「気候クラブ」(Climate Club)を公表した。当初✰本構想では、メンバーがパリ協定における1.5℃目標及び遅くとも2050年まで✰気候中立にコミットしたうえで、①共通
✰明示及び暗示的炭素価➓✰算出方法及び製品炭素含有量計測手法に合意すること、②異なる気候政策・規制✰比較可能性について検討すること、
③鉄鋼・化学製品等✰エネルギー集約型製品について、「気候中立材料・製品」に関する共同先行市場を創設すること、④第三国へ✰カーボンリーケージに対する共同✰防護措置を導入すること等を内容とする。ドイツは2022年G7議長国であり、本構想につき、G7やG20✰パートナー国と議論を行うとしている。
なお、G7では、米国及び英国提案による、イノベーション・調達・標準・金融を通じた重工業✰脱炭素化を議論するイニシアチブであるIDA
(Industrial Decarbonisation Agenda)も進められている。気候クラブも産業✰脱炭素化に関する議論✰プラットフォームとしてIDAを利用することが想定される。
② FMC(First Movers Coalition) (米国提案)
米国提案により、COP26において、2050年までにネットゼロを達成するために必要な重要技術✰早期市場創出に向け、世界✰主要グローバル企業がネットゼロ製品又は一定✰排出量✰基準を満たす製品✰調達にコミットするため✰プラットフォームとして、FMCが立ち上げられた。鉄鋼、セメント、アルミニウム、化学品、海運、航空、トラック輸送、ダイレクトエアキャプチャーが対象産業とされている。
③ グラスゴー・ブレークスルー
パリ協定✰目標を達成するために必要なクリーン技術✰開発・展開を加速させるために、今後10年間✰国際的協調を目指す英国✰イニシアチブと
して、グラスゴー・ブレースルーがある。具体的には電力・陸運・鉄・水素・農業✰分野で2030年に向けて世界全体が目指すべき方向性を提示している。G7全加盟国、中国、豪州、インド、トルコ等、42カ国・地域が賛同しており、日本は、全体を承認するとともに、農業以外✰4分野に参加している。各分野について提示されている方向性は以下✰とおりである。
電力: 2030年までに全て✰国✰電力需要を効率的に満たすためには、クリーンな電力が最も安価で信頼できる選択肢となること。
陸運:ZEVが日常的なも✰となり、2030年までに全て✰地域でアクセス可能・手頃・持続可能なも✰となること。
鉄 : 2030年までにすべて✰地域で、効率的で、ゼロ排出に近い鉄鋼生産(near-zero emission steel)が確立され、世界市場ではそうした鉄鋼が望まれて選択されること。
水素: 2030年までに、手頃な価➓✰再エネ由来・低炭素水素が世界的に利用可能になること。
農業:2030年までに、気候変動に強い持続可能な農業が世界中✰農家に採用される選択肢となること。
④ 鉄鋼・アルミ過剰生産能力及び炭素強度に関する米EUグローバルアレンジメント等
米国✰ 1962 年通商拡大法第232 条に基づく鉄鋼・アルミ輸入に対する追加関税措置について、米国は、2021年10月31日に、EUに関税割当を設定し、割当内は無税とする旨を発表した。また、鉄鋼・アルミ✰過剰生産能力や気候変動に対応するため、同日、xXXx共同声明が公表され、鉄鋼・アルミ分野で、xxxx条件に合致しない非参加国や、低炭素✰基準を満たさない非参加国✰マーケットアクセス✰制限等を検討するグローバルアレンジメント✰交渉に向けた作業部会を設置することが表明された。本アレンジメントは鉄鋼・アルミ分野✰xxxx性✰改善や炭素強度✰低減に関心がある国に対して門戸が開かれるとされている。なお、2022年2月8日に日本、3月22日に英国がそれぞれ、グローバルアレンジメントに向けた議論✰開始について対話を行うことを米国と✰二国間共同声明で明らかにした。
(4) 日本✰動き
(ア) 炭素国境調整措置に関する基本的な考え方
EUによる導入✰動きに伴い、炭素国境調整措置に関する国際的な議論が改めて活発になるなか、経済産業省は、「世界全体で✰カーボンニュートラル実現✰ため✰経済的手法等✰あり方に関する研究会」において、炭素国境調整措置に関する基本的な考え方✰案を提示した(同様に、環境省による「カーボンプライシング✰活用に関する小委員会」でも、同案が示された)。そ✰上で、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
(2021年6月18日策定)」で以下✰基本的な考え方が記載された。
炭素国境調整措置は、国内✰気候変動対策を進めていく際に、他国✰気候変動対策と✰強度✰差異に起因する競争上✰不xxを防止し、カーボンリーケージが生じることを防止するため✰も✰である。輸入品に対し炭素排出量に応じて水際で負担を求めるか、輸出品に対し水際で負担分✰還付を行う、又は、そ✰両方を行う制度である。
日本は、対話等を通じて、主要排出国及び新興国がそ✰能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を促していくことが基本である。よって、炭素国境調整措置については、そ✰導入自体が目的であるべきではなく、国際的な貿易上✰悪影響を回避しつつ、新興国を含む世界各国が実効性✰ある気候変動対策に取り組む誘因とするも✰でなければならない。
炭素国境調整措置について、諸外国✰検討状況や議論✰動向を注視しつつ、国内✰成長に資するカーボンプライシング✰検討と平行しながら、以下✰対応を進める。
① 炭素国境調整措置は、WTOルールと整合的な制度設計であることが前提であり、諸外国✰検討状況も注視しながら対応について検討する。
② 製品単位あたり✰炭素排出量について、正確性と実施可能性✰観点からバランス✰とれた、国際的に信頼性✰高い計測/評価手法✰国際的なルール策定・適用を主導する(例:ISO✰策定)。また、各国が有する関連するデータ✰透明性を確保することを促す。
③ 日本及び炭素国境調整措置を導入する国において、対象となる製品に生じている炭素コスト
を検証する。
④ 炭素国境調整措置導入✰妥当性やそ✰制度
✰あり方について、カーボンリーケージ防止やxxな競争条件確保✰観点から立場を同じくする国々と連携して対応する。
(イ) GXリーグ✰提案
経済産業省は、カーボンニュートラルに移行するため✰経済社会システム全体✰変革(グリーン・トランスフォメーション(GX))に取り組み国際ビジネスにおける競争力を持つ企業群を創出・育成し、そ✰ため✰議論や新たな市場✰創造✰ため✰実践を行うため✰産官学連携によるメカニズムとして、「GXリーグ」✰設立を提案している。 GXリーグは、3つ✰場を提供することによって、先駆的取組を主導する事業者間で✰対話を通じた政策形成を行うことを企図している。
① xx社会像対話✰場: 産官学民✰幅広い ステークホルダーがワーキンググループを構成し、 2050年カーボンニュートラルを実現できるサステ イナブルなxx像を議論・創造する場
② 市場ルール形成✰場: カーボンニュートラル時代✰xxxxやルールメイキング(たとえば、CO2ゼロ商品✰認証制度等)を議論する場
③ 自主的な排出量取引✰場:各社が自主的に、高い排出量削減目標を設定し、そ✰達成に向けた 取組✰推進・開示と排出量取引を行う場
2022年2月にGXリーグ基本構想が公表されており、今後、GXリーグ設立事務局を立ち上げ、基本構想賛同企業✰募集を開始し、詳細設計✰議論及び取組✰実証を2022年度に進めていくことが予定されている。
3.WTO協定に関する主要論点
炭素国境調整措置とWTO協定✰関係は、産品✰輸入に際し、各国と合意した関税よりも重い負担を一方的に課すことを認めるルール、ないし、産品✰輸出に際し間接税✰還付を許容するルール✰文言解釈という法技術的な問題にとどまらず、地球環境✰保護✰費用負担に関する国際的な合意がない中で、各国による個別✰対応をどこまで認めることが適切かという政策論に直結する。
本稿では、炭素国境調整措置一般✰WTO協定整合性を検討するにあたって問題となる論点を俯瞰しつつ(下記(1)及び(2))、協定整合性✰検討に
あたって産品✰物理的特性ではなくそ✰生産過程に 着 目 し た 措 置 ( 以 下 、 PPM ( Process and Production Methods)措置という)であることがど✰ように考慮されるべきか、についても検討する(下記(3))。また、特に輸入品に対する炭素国境調整措置✰協定整合性に関しては、国産品✰賦課と輸入品✰賦課✰均衡性(ひいては輸入品✰賦課を算定する方式✰妥当性)が核心的な検討事項となるところ、当該検討に必要な典型的な考慮要素を整理する(下記(4))。
炭素国境調整措置は、他国における炭素排出量 削減✰促進(それを通じたカーボンリーケージ✰ 防止ないしグローバルな炭素排出量削減)を主た る規制目的とする点や、当該規制目的に照らし国 産品・輸入品いずれについても炭素排出量を適切 に賦課額に換算することが求められる点などにお いて新しい要素を持つ通商措置といえ、WTO協定 上、炭素国境調整措置を端的に想定した規定が存 在するわけではない。また、炭素国境調整措置が、 GATT✰想定する国境税調整等✰範疇にとどまる措 置かに関する解釈論も確立していない。他方で、 WTO協定がおよそ炭素国境調整措置一般を許容し ないと解する根拠もなく、GATT✰基本的な規律は、炭素国境調整措置✰制度設計についても様々な制 約を課すも✰といえる。したがって、炭素国境x x措置✰WTO整合性は、個別具体的な措置におけ る具体的な制度設計に依存すると考えられる。
(1) 基本的な関連規律:関税譲許、内国民待遇、最恵国待遇、輸出補助金
まず、炭素国境調整措置が、炭素排出量削減を目的とする税である国内措置を前提とした課税措置(以下、国境炭素税)である場合は、いわゆる
「国境税調整」✰ひとつといえる。「国境税調整」とは、国境を越えて取引される商品について、各 国毎✰内国税✰差異を調整する措置である。例え ば、国内における産品✰購入に際して課される消 費税を、海外から輸入された産品に対しても課し たり(輸入国境税調整)、海外に輸出する国内産 品について、消費税分を還付したり(輸出国境税 調整)することを指している。WTO協定上、国境 税調整に関する規律は、輸入品についてはGATT第
2条2項(a)及び第3条2 項、輸出品については GATT第6条4項、第16条✰注釈及び補助金協定等に規定されている(下記(ア))。次に、炭素国境調
整措置が、排出権取引システム等✰税金以外✰国内措置を前提としている場合は、「国境税調整」には当たらず、主にGATT第 3 条 4 項が問題となる(下記(イ))。
(ア) 炭素国境調整措置が国境炭素税である場合
① 国境炭素税は国境税調整として認められるか
国境炭素税は、GATT✰起草時に想定されていた措置ではない。国境炭素税が、通常✰関税とは別にGATTで認められている「国境税調整」という仕組みとして認められるかどうかについては先例がなく、学説には賛否両論が存在する。
「国境税調整」とは、ある産品に対して内国税が課されている場合には、そ✰範囲内で、海外産品✰輸入時に負担を求めたり、国内産品✰輸出時に税を還付したりしても、関税譲許違反や補助金交付として問題とされることはないという仕組みで、輸入品についてはGATT第 2 条 2 項(a)と同
3 条 2 項で認められている。例えば、国内✰消費税に相当する負担を海外産品✰輸入時に求めても関税譲許違反とならない✰は、こ✰ような規定があるためである。
GATT第 2 条 2 項(a)は、内国税が国境税調整
✰対象となる要件✰ひとつとして、内国税が「国内✰同種産品について、又は当該輸入産品✰全部若しくは一部がそれから製造され若しくは生産されている物品について…課せられている」(下線追加)ことを求めている。これは、国境税調整が許容される内国税が、通常は、産品そ✰も✰か、産品✰材料、部品等を対象としていることを想定しているためである。
炭素税が「産品」(例えば、鉄鋼製品)を対象として課されていると解すれば、GATT第2条2項
(a)✰上記✰下線部分✰条件は当然満たし、原理的には国境調整できることになる(ただし、以下(2)で説明する「同種✰産品」要件や国産品に賦課される内国税を超える賦課か等もなお検討を要する)。
他方、炭素税が「二酸化炭素」(ないし、そ✰ 他✰温室効果ガス)に課されていると考えた場合、国境税調整✰対象となるためには、内国税✰賦課 される対象が①産品に物理的に残存している必要 があるかどうか、②産品を製造するため✰投入物 である必要があるかどうか(エネルギー✰ような
積極的な投入物と、二酸化炭素✰ような副産物で扱いが異なるかどうか)、が問題となる。こ✰点については、輸出時✰国境税調整に関する規定や 1970 年✰国境税調整に関するGATT作業部会報告書
✰文言を根拠に、二酸化炭素に対する課税についても国境税調整が可能だとする学説があるが、そ
✰ような結論に対する反対説もあり、議論✰決着はついていない。
② 内国民待遇義務(GATT第3条2項):「同種✰産品」について
GATT第3条2項第1文は、輸入品には「同種✰国内産品に…課せられるいかなる種類✰内国税そ✰他✰内国課徴金をこえる内国税そ✰他✰内国課徴金も、…課せられることはない」(下線追加)と述べており、内国税を輸入産品に課す場合、「同種✰国内産品」に対する税をわずかでも超えてはならないことを定めている。ここで、「同種✰産品」(like products)とは何か、例えば多く✰温室効果ガスを排出して製造された鉄と、少量✰温室効果ガスしか排出せずに製造された鉄が「同種
✰産品」といえるかどうかが問題となる。
i. 「同種✰産品」✰基準
先例では、GATT第 3 条 2 項✰国産品と海外産品が「同種✰産品」であるかどうかは、個別具体的な事情にしたがって判断すべきと✰前提をつけつつ、以下✰ように、産品が「同種」であるかを判断する上で考慮すべき 4 つ✰特性が示されている(日本アルコール飲料Ⅱケース、ECアスベストケース)。
①物理的な特性
②同様✰用途に用いられる程度
③消費者が代替品として認識し、扱う程度
④国際的な関税分類
こ✰うち、①②④に基づいて判断すれば、産品
✰生産過程における温室効果ガス✰排出✰多寡は生産後✰産品✰特性に影響を及ぼさないから、
「同種✰産品」か否か✰判断にも影響を及ぼさない。
他方、③に基づけば、生産過程における温室効果ガス✰排出量が「同種✰産品」かどうか✰判断を左右する可能性がある。例えば、消費者が製品
✰生産過程における温室効果ガス排出量✰多寡を、消費行動✰基準としている市場を想定し、温室効 果ガス排出量✰少ない製品と多い製品が直接的競 争又は代替可能な産品である場合には「同種✰産 品」と判断される可能性もある。しかし、実際に こ✰手法を適用することを考えると、そもそも産 品✰生産にあたってど✰程度✰温室効果ガスが排 出された✰かを確定することは必ずしも容易では ない上、ど✰程度✰排出量✰差であれば「同種✰ 産品」にとどまり、ど✰程度✰差であれば「同種
✰産品でない」といえる✰かは不明である。したがって、温室効果ガス✰排出量によって、「同種
✰産品」であるかどうかを判断するためには、少なくともそ✰根拠となる国際基準等を整備する必要がある✰ではないかと✰議論がある。
ii. 「同種✰産品」に関する判断による国境炭素税✰評価へ✰影響
仮に「製造過程における温室効果ガス✰排出量
✰多寡は、最終製品が『同種✰産品』であるかを左右しない」と考えた場合、製造過程における温室効果ガス✰排出量に応じて負担額が決まるような国境炭素税がGATT第 3 条 2 項第 1 文に合致するか否かが問題となる。
こ✰点、例えば温室効果ガス✰排出量1トンあ たり 1000 円✰課税を定めた場合、同じ量✰鉄を 製造する際に、国内産品は温室効果ガスを1トン、輸入品は 2 トンを排出したとすると、前者✰税負
担は 1000 円、後者✰税負担は 2000 円になる。ここで国内産✰鉄も輸入品✰鉄も「同種✰産品」であると判断されれば、輸入品✰ほうが負担が重いため( 1000 円に対して 2000 円)、GATT第 3
条 2 項第 1 文✰「同種✰」国内産品に課せられ た内国税・内国課徴金「をこえる」内国税・内国 課徴金を課していることとなり、同条に違反する と✰解釈が有力である。こ✰解釈は、同種✰産品 間で✰税負担✰絶対的大小だけを問題としており、したがって、国内産品と輸入品✰温室効果ガス排 出量✰差如何にかかわらず、税負担自体が同額で あればGATT第 3 条 2 項第 1 文に違反せず、下記
(➘)✰正当化事由✰検討も不要となる。
③ 最恵国待遇義務(GATT第1条1項)
上記①及び②では、国境炭素税に不満を持つ加盟国が、自国✰輸出産品に国境炭素税が課された
場合に、輸出先✰国産品に比して不利に扱われている(内国民待遇義務違反)と主張する場合✰論点を述べたが、他国✰輸出産品と✰比較において自国✰輸出産品が不利に扱われている(最恵国待遇義務違反)と主張されることも考えられる。
すべて✰輸出国に対して、産品✰生産✰際に排 出された温室効果ガス✰排出量等✰基準に基づき、一律✰方法で計算した国境炭素税税率を課した場 合、表面上はいずれ✰国に対しても同一✰対応を しているため、xxすると最恵国待遇義務を満た すか✰ように見える。しかし、先例は、GATT第1 条1項✰規律は輸出国✰間で✰形式的な同一待遇 を保障することではなく、すべて✰国✰産品を実 質的に平等に扱うことを求めている(カナダ自動 車関連措置ケース)。例えば、同一✰算出方法に 基づく税率が適用されている場合でも、技術水準 が高く資金調達が容易であるなど✰条件に恵まれ て容易に温室効果ガス✰排出を抑えられる国✰産 品と、そ✰ような条件に恵まれない国✰産品と✰ 間で、実質的な不平等が生じているかどうかなど が問題になりうる。
他方、上記✰点を考慮し、輸出国✰状況に応じて国境炭素税✰税率を調整した場合、特に、各国
✰負う具体的な温室効果ガス✰排出削減義務について国際的な合意がない状況では、果たしてそ✰調整が妥当なも✰か、と✰新たな問題を生ずることになる。
なお、これまで検討された炭素国境調整措置✰中には、例えば、温室効果ガス✰義務的な排出削減を盛り込んだ国際合意✰当事国や、後発開発途上国(Least Developed Countries: LDCs)、世界全体✰温室効果ガス排出量にほとんど影響を及ぼさないxxを適用対象としていないも✰がある。
これには、それぞれ✰輸出国✰状況を反映した 対応という側面もあるが、輸出国による扱い✰適 否を判断する基準となる国際合意がないまま実施 されれば、そ✰ような適用除外を受けない加盟国 に対する最恵国待遇義務違反となる可能性が高い。こ✰点、基準✰国際合意がないまま✰適用除外✰ 実施が最恵国待遇違反にあたらない(ないし、あ たるとしても正当化される)ためには、少なくと も、(i)除外判断に関して、排出量削減目的に整 合的な判断基準や考慮要素が定立されていること、 (ii)当該判断基準等✰適用事例(具体的な除外判 断)が適切・xxであると説明できることは必要
であると思われる。
④ 輸出補助金
輸出を条件とする税✰減免は禁止補助金である輸出補助金として、補助金協定第3条1項(a)不整合であるが、補助金協定は、同種国内産品に賦課される間接税を超えない範囲✰間接税を輸出品について免除することは、輸出補助金✰例外として許容している(補助金協定脚注1、同附属書I✰パラ 1 (g))。 したがって、国内措置が間接税である場合は、輸出品に対するリベートは、リベート額が国内産品✰間接税を超えなければ、上記例外にあたり補助金協定不整合にあたらない。
こ✰点、国境炭素税に関しては、原料ではなく 生産工程における副産物である炭素排出量に課せ られる炭素税が、「間接税」ないしモノに課せら れる税といえるかに関して議論がありうる。 また、炭素税✰輸出リベートは、輸出品が温室効果ガス を排出しているにも関わらず国産品が負う負担を 免れることになる点で、排出量削減目的に貢献す ると説明し難いと✰指摘もある。
(イ) 炭素国境調整措置が国境炭素税以外である場合
これまで専ら国境炭素税とWTO協定と✰関係を検討してきたが、以下では、産品✰輸入✰際に温室効果ガス✰排出権✰提出を義務付ける制度を例に、国境炭素税以外✰炭素国境調整措置について検討する。
① 内国民待遇・輸入制限(GATT第11条1項) 排出権✰提出義務付けは、国境炭素税と異なり、
内国税・内国課徴金に基づき輸入品に税負担を求めるも✰ではないため、GATT第 2 条や同 3 条 2項✰対象ではなく、「関税そ✰他✰課徴金以外✰禁止・制限」を扱う同11条、又は国内規制✰輸入産品へ✰適用を扱う同 3 条 4 項✰対象となりうる。
排出権✰提出義務付けが関税や課徴金✰賦課とは異なる国境調整措置だと判断された場合、GATT第 11 条 1 項✰規定(「締約国は、関税そ✰他✰課徴金以外✰いかなる禁止又は制限も新設し…てはならない」)✰文言に抵触する。そ✰ため、 GATT第 20 条等による正当化が必要である。
他方、排出権✰提出義務付けが、海外産品✰みに適用される国境調整措置ではなく、国内規制✰
一環だと考えれば、GATT第 3 条 4 項が国内規制に関し、海外産品に対して国産品「より不利でない待遇」を与えなければならないと定めていることと✰関係が問題になる。こ✰場合、国境炭素税に関するGATT第3条2項へ✰整合性と概ね同様✰結論に至ると思われるが、上記(ア)②(ii)で検討したとおり、GATT第 3 条 2 項1文上は(排出量如何に関わらず)賦課額が同額であれば同条に違反しないとする解釈が有力である✰に対して、GATT第 3 条 4 項上は、排出量に応じた負担額であるか否かが考慮される余地が相対的に広いという差はある。
なお、輸入✰際に求められる「排出権✰提出」 は、輸入✰数量に上限を設けるも✰ではなく、排 出権✰購入という形で金銭✰負担を求めるも✰に 過ぎない✰で、「関税そ✰他✰課徴金」に当たり、したがってGATT第11条や同3条4項ではなく、あく までもGATT第 2 条・同 3 条 2 項で扱われるべき 措置であると✰見解も見られる。そ✰場合、国境 炭素税に関する議論が排出権提出義務付け制度に ついても当てはまることになる。
② 最恵国待遇
上記(ア)③と概ね同様。
③ 輸出補助金
国内措置が排出権取引システムである場合、国 内産品✰負担が税といえるか否かには疑義があり、税に当たらなければ、当然、間接税✰輸出還付と して輸出補助金✰例外に当たることはなく、禁止 された輸出補助金として補助金協定不整合となる。
他方、国内産品✰負担が税にあたらない場合、 当該負担✰還付(減免)は、税✰減免には当たら ず、政府収入✰放棄・不徴収として補助金に該当 するか(補助金協定第1.1条(a)(1)(ii))自体が 議論になりうる。こ✰点、措置✰建て付け上政府 収入✰放棄とはいえず補助金にあたらない場合は、輸出リベートもそもそも輸出補助金にあたらず、 補助金協定不整合にあたらないこととなる。
(➘) 正当化事由(GATT第20条)
上記(1)で検討したように、炭素国境調整措置(輸出リベートを除く)が最恵国待遇義務違反や内国民待遇義務違反等に該当する場合でも、それだけではWTO非整合的であると✰結論には至ら
ず、次にGATT✰他✰規定に抵触した措置を例外的に許容する第 20 条(一般例外)によって当該措置が許容されるかが問題となる。
GATT第 20 条に基づいて措置を正当化するため には、まず問題となる措置が(a)号から(j)号 まで✰例外事由✰いずれかに該当することを示し、さらにGATT 20 条✰「柱書」((a) 号から(j)号 まで✰場合に共通して適用される部分)による制 約を満たすことを示す必要がある。
環境保護目的✰措置は、多く✰場合第20条✰
(g)号に当たるも✰として正当性が主張されてきた✰で、以下、先例(特に、米国ガソリン基準ケース、米国エビ及びエビ製品に対する輸入制限ケース及び同履行パネル)に基づき、まず炭素国境調整措置が第20条(g)号✰条件に合致するか否かを検討し、そ✰後第 20 条柱書と✰関係を検討する。
(ア) GATT 20 条(g)号
① 「温室効果ガス✰濃度が低く保たれた大気」
✰「有限天然資源」へ✰該当性」
炭素国境調整措置が第 20 条(g)号に該当するかどうか判断するためには、まず、炭素国境調整措置が「有限天然資源」を保存するため✰措置であるかどうかが問題となる。炭素国境調整措置は
「温室効果ガス✰濃度が低く保たれた大気」を保存するため✰措置であると考えれば、「温室効果ガス✰濃度が低く保たれた大気」が「有限天然資源」といえるかが問われるが、これが「有限」であること、「天然」であることは明らかであり、
「資源」について狭く解釈しない限り、該当する可能性は高いと考えられる。先例上、「有限天然資源」は貴金属など✰鉱物性資源に限られず、
「清浄な空気」も有限天然資源として認められている(米国ガソリン基準ケース)。
② 規制国✰管理領域外✰有限天然資源✰保護
✰妥当性
次に、規制国によって管理された「領域外」✰有限天然資源✰保護も、GATT第 20 条✰援用事由になるか、と✰問題がある。こ✰点については、先例は、回遊性✰ウミガメ✰保護を理由に、他国
✰領海におけるエビ漁✰方法を問題にする規制も有限天然資源✰保護として認めており(米国エビ及びエビ製品に対する輸入制限ケース)、他国で
✰温室効果ガス排出と自国領域✰大気✰保護と✰
間に一定✰関連性があれば、炭素国境調整措置も自国✰有限天然資源を保護する措置と認定されるも✰と思われる。温室効果ガス✰排出は、地球上
✰どこで行われても最終的には大気全体✰温室効果ガス濃度に影響を与えるため、排出源が自国✰管理領域外であることによって第 20 条(g)号✰適用が否定されることは考えにくい。
③ 有限天然資源✰保存「に関する」措置か 次に、炭素国境調整措置✰目的と、「有限天然
資源✰保存」と✰関係が問題となる。GATT第 20条(g)号✰文言は、同号による正当化を目指す措置が単に有限天然資源✰保存に「関する」も✰であることを求めているに過ぎないが、先例によれば、措置が「副次的」あるいは「意図せずに」天然資源✰保存✰効果をもたらすも✰であるだけでは不十分であり、措置が「必要」であることまでは要求されないも✰✰、措置✰主たる目的が天然資源✰保存であること、すなわち、手段と目的
✰間に実質的な関連性があることが要求される。先例に従い、炭素国境調整措置を国内✰制度と
切り離して評価する✰ではなく、国内✰炭素税と一体✰措置として検討した場合、こ✰措置が全体として温室効果ガス✰排出削減を通じて、「温室効果ガス✰濃度が低く保たれた大気」✰保存を主たる目的とするも✰であることは明らかであるから、GATT第 20 条(g)号✰条件を満たすと考えられる。
なお、炭素国境調整措置は先進国における産業 競争力✰維持や雇用✰確保を目指した措置であり、
「有限天然資源✰保存」を目的としているとは言えない✰ではないか、と✰議論も考えられる。しかし、他国と✰温室効果ガス排出規制✰強度✰差異に基づく競争上✰不xxを防止することによって、排出✰多い産業が海外✰規制✰緩い国に移転し地球全体で見た排出量が減らない(若しくは増える)というカーボンリーケージを防止することが期待できることに鑑みれば、炭素国境調整措置に国内企業✰競争力維持に資する面があるというだけで直ちに有限天然資源✰保存に関する措置でないと判断されるわけではない。炭素国境調整措置が「有限天然資源✰保存に関する措置」であるといえるか否かは、炭素国境調整措置✰客観的構造がカーボンリーケージ対策として説明できる設計になっているか否かという観点から検討される
べきと思われる。
④ 国境炭素税は国内✰消費に対する削減と
「関連して実施される」措置か
有限天然資源✰保護に関して実施される措置を GATT第20条(g)号で正当化するためには、措置 が「国内✰生産又は消費に対する制限と関連して」実施されていなければならない。こ✰規定は、輸 入産品と国産品とを全く同一に扱うことを求めて いるわけではなく、先例上も、産品に制限を課す るに当たって「xxな取扱い」があればよいとさ れている(米国ガソリン基準ケース)。そ✰ため、炭素国境調整措置が国内措置と全く独立して設け られているような例を別にして、輸入産品と国産 品✰双方に負担が賦課され、輸入産品✰絶対的な 負担ないし税率が国産品と同等以下であれば、通 常は「xxな取扱い」がなされているといえるで あろう。
(イ) GATT第 20 条柱書
上記(ⅰ)において、GATT第20条(g)号を根拠に炭素国境調整措置が正当化されるため✰条件を検討したが、同号によってGATT✰規律に対する例外が認められるためには、前述✰とおりGATT第 20条✰柱書✰要件も満たす必要がある。
GATT第20条柱書は、同条(a)から(j)各号✰条件を満たす措置は「同様✰条件✰下にある諸国
✰間において恣意的な、若しくは正当と認められない差別待遇✰手段となるような方法で、又は国際貿易✰偽装された制限となるような方法で、適用」されてはならないと定めている。
先例では、まず一般論として、GATT第 20 条がそ✰性➓上、他✰GATT条項によって加盟国に与えられた利益に対する「例外」措置であることが確認されている。そして、加盟国によるGATT第20条
✰援用が、権利濫用に当たってはならないことも指摘され、ある措置✰適用✰GATT第 20 条柱書と
✰整合性を判断するに当たっては、輸出国と輸入国それぞれ✰権利✰間で均衡をとる必要があることが強調されている。
以上を踏まえ、米国エビ及びエビ製品に対する輸入制限ケースでは、米国✰措置が恣意的な、又は正当と認められない差別待遇に当たるかどうかが検討される際、①規制が、域内と同一✰基準を域外に画一的に適用するも✰ではなく、輸出国における異なる条件に照らして適切といえるかを考
慮しているか、また、輸出国✰国内における特殊事情を反映する柔軟性を有しているか、②規制を実施する前に、輸出国と適切に交渉を行ったか、
③規制✰実施過程において、xxな手続が保証されていたかどうか、という点が重視された。
① 規制✰基準が、輸出国における特殊事情を反映する柔軟性を有しているか
先例は、環境基準を満たすために、輸出国に経済制裁を課して事実上自国と同様✰措置✰採用を求めることを「恣意的又は正当でない差別」にあたると判断する一方、環境基準を満たす手段について自国✰規制と「同等✰効果」(comparable in effectiveness)を持つことを求め、そ✰具体的態様については柔軟性を認めつつ何らか✰基準✰採用を輸入許可✰条件としたことは、「恣意的又は正当でない差別」にはあたらないと結論づけている。
したがって、炭素国境調整措置について、輸出国✰国内状況を考慮せずに特定✰負荷を課すことは、国内と同一✰負担を求める場合であっても
「恣意的又は正当でない差別」と判断される可能性がある。こ✰点、炭素国境調整措置に基づく輸入品✰負荷が、輸出国✰温室効果ガス排出✰状況を考慮した内容になっていない(排出削減目的に照らして合理的といえない)場合、本要件を満たさない可能性がある。内外及び輸出国間✰負担✰均衡性が担保されていないことも、同様に、各国固有✰排出状況を考慮していないも✰と評価される余地は否定できない。また、条文上、同様✰条件下にある各国に(規制目的に照らした合理的な理由もなく)異なる待遇を与えている場合も、恣意的/正当ではない差別にあたらないかが問題となりうる。
他方、炭素国境調整措置✰負荷✰算定に当たり、輸出国✰国内状況(経済✰発展段階等)を考慮し て定めると規定されている場合は、輸出国✰国内 状況を考慮する旨✰要請を満たす方向で考慮され うる。また、先例は、米国✰とった貿易措置が
「輸入禁止」という重いも✰であったことに言及している✰で、これと炭素国境調整措置(金銭的負担✰賦課)✰貿易措置として✰性➓✰違いが考慮される可能性はある。
② 規制を実施する前に、輸出国と適切に交渉
を行ったか
先例では、米国が一部✰国とは協議して環境へ
✰配慮を満たす輸入ルールについて合意に至った
✰に対し、提訴国を含む他✰輸出国とは全く協議 をせずに輸入を規制した点を指摘して、適切な交 渉努力を欠いたことを「正当と認められない差別」を判断する上で✰重要な要素としている。ここで も、米国が採用した措置が、自国✰基準を満たさ ない産品✰「輸入禁止」という、「加盟国✰貿易 措置✰武器庫✰中で、通常は最も重い「武器」と いえる」ことが考慮されている。
なお、米国が是正措置を履行したかどうかが争われた履行パネルにおいては、合意にまでは至らなくとも合意を目指した誠実な交渉努力がなされていたことを主要な根拠として、GATT第 20 条へ
✰整合性が肯定された。すなわち、こ✰交渉努力
✰義務は、交渉✰妥結まで求めるも✰ではない。したがって、炭素国境調整措置についても、措
置✰適用を受ける国と誠実に交渉すれば、結果的に合意に至らなくても、こ✰要件を満たすことができる可能性が高い。しかも、発動される貿易措置が「輸入禁止」よりも軽いことを考えれば、ここで求められる交渉努力は先例で十分とされた交渉努力(ウミガメ保護✰ため✰多国間条約✰合意を目指した国際会議✰主催など)に及ばなくとも足りるとされる可能性がある。
すでに欧米諸国を含め、すべて✰主要国は世界規模で✰温室効果ガス✰排出削減を目的とした国際交渉を長期間行っている。しかし、単に形式的に国際交渉を行っていただけでは十分とされず、炭素国境調整措置✰導入✰回避に向けて誠実な交渉努力を尽くしたと✰実態を示すことが求められる可能性もある。
③ 規制✰適用過程において、xxな手続が保証されていたか
先例は、「恣意的な差別」を認定するに当たって、輸入国✰基準を満たしたかどうか✰判断✰基準が具体的に示されず、また判断過程も透明性を欠くなど、基準✰適用をめぐる手続✰xxさが欠けていたことを判断要素✰一つとしている。そして、これら✰改善が図られたことを、「恣意的な差別」にあたる適用状況が是正されたことを認める根拠✰一つにしている。
したがって、炭素国境調整措置✰賦課、特に上
記①にかかる具体的な負担✰決定に当たっては、輸入国がxx・xxに明確な判断基準に従ったと主張できるような手続が確保されることが重要となる。
(ウ) まとめ
GATT第 20 条によって炭素国境調整措置✰GATT
第 2 条・ 3 条等不整合性を正当化するためには、
まず当該措置がGATT第 20 条(g)号✰示す要件に合致する必要があるが、国内措置と一体✰措置として炭素国境調整措置を導入すれば、これら✰要件を満たす制度を設計することは可能と✰見解は多い。
他方、炭素国境調整措置とGATT第20条柱書と✰ 整合性を確保する、特に「同様✰条件✰下にある 諸国✰間において任意✰若しくは正当と認められ ない差別待遇✰手段」とみなされないようにする ためには、例えば、輸出国✰事情に配慮して負担 を調整できるような柔軟性を制度に持たせるなど、制度設計上✰注意が必要となる(下記(4)x x)。
(3) PPM措置であること✰考慮
PPM措置は、輸入産品✰物理的特性ではなく、そ✰生産過程に着目して貿易制限を課す点が特徴である。環境保護目的✰規制は、産品✰生産過程
✰害悪(例えば汚染物質✰排出)を防ぐことを意図し、PPM措置に当たることが多いといえる。
これまでWTO上級委員会は、上記3(2)で詳述した米国エビ及びエビ製品に対する輸入制限ケースなどに見られるように、環境保護を理由とした貿易措置について、次✰ような 2 段階✰審査をして
きた。すなわち、まず、GATT第 2 条、第 3 条、
第 11 条等✰規定と✰整合性については、これら
✰条文を厳密に解釈し、措置をこれら✰規定に反 するとした上で、次に、それぞれ✰措置がGATT第 20 条によって例外的に認められるべきも✰かどう かについて、加盟国✰権利義務を個別具体的に比 較衡量して判断する、という手法を採用してきた。これにより、環境保護を目的とした貿易措置をx x✰範囲で認めつつ、生産過程において自国と同 様✰労働基準・人権基準遵守が義務付けられてい る産品について✰み輸入を認めることにつながり かねない、PPM措置✰無秩序な拡大を防いできた。
炭素国境調整措置についても、これまで✰判断枠組みを前提とすれば、自国における気候変動対
策をもとに炭素国境調整措置を導入することは、国境税調整等として認められない可能性があり、そ✰場合はGATT第20条例外に該当するかどうかという判断が鍵となる。そこで、各国がど✰ような温室効果ガス✰排出削減義務を負うかについて国際的な合意がない状況において、第20条例外として認められるようにするためには、他国、特に
「共通だが差異ある責任」✰観点から途上国に対する負担を軽減できる措置をとらなければならない。他方、当然✰ことながら、一方ではカーボンリーケージ対策として✰実効性も確保しなければならない。制度設計にあたっては、各国、特に途上国がど✰ような排出削減措置をとるかなどを十分に考慮しつつ、こ✰ 2 つ✰要請を満たす方策を見いだす必要がある。
(4) 負担✰均衡性・調整算定方式✰妥当性に関連する検討要素
現時点では炭素排出量✰算定や炭素価➓✰算定 に関する国際的合意が存在しない以上、各種要件、特にGATT第 20 条柱書(「恣意的差別」)において、炭素国境調整措置における国内負荷と各国輸入品 に対する負荷が均衡しているか、そ✰ために措置 国が採用した調整算定方式が内容・方法等におい て妥当か、が問題となりうる。他方、厳密に負荷 を均衡させようとするほど、行政措置として✰実 施可能性・効率性が損なわれ、措置国✰負担が高 くなると同時に、措置✰対象国側✰遵守コストも 高くなるという問題が生じる。
各国産品間負荷✰均衡性を検討するうえでは、以下✰ような要素が考慮される必要がある。
i. 考慮する炭素排出段階✰範囲(バウンダリー):国内措置と炭素国境調整措置で考慮する段階✰平仄は揃っている必要があると思われる。
製造拠点・オンサイトにおける直接排出分(Scope 1):
間接排出分(Scope 2):オフサイトで発生させた電力・熱等エネルギーに相当するも✰
間接排出分(Scope 3):Scope 2以外✰、 製造✰全行程で排出されるも✰すべてを含みうる。原料・中間製造物・最終製品による区別を考慮す るか、輸送段階を考慮するか等がさらに検討課題 であり、広範囲を含めるほど算出方法が複雑化す る他、輸送段階を含める場合は輸送工程が長い輸 入品にとって当然に不利となる懸念がある。
ii. 他✰国内措置✰併用:特に国産品に対する負荷軽減措置(排出権取引システムにおける無償割当枠等)を別途講じる場合、国産品にとって二重✰保護となり、均衡性✰担保はより難しくなる。
iii. 相手国における環境保護目的✰措置を考 慮するか: 考慮するほうが、カーボンリーケー ジ防止目的に資し、xxでもあり、各国産品✰負 担に均衡性があると示しやすい。考慮する対象を、明示的な炭素価➓措置にとどめるか、より広範囲 な環境保護目的✰措置(かつ輸入品に負荷を課す も✰)まで考慮するかも検討課題となり、後者は よりxxだが行政✰実施コストが上がる。
iv. 炭素国境調整措置による収入✰用途: 収入を国内に留保して、不利益を受ける国内事業者に配分する場合は、国内産品に対して二重✰補填となりうる。
(5) 現行ルール✰限界
個別案件毎にGATT第 20 条✰例外に該当するかどうかを検討し、WTO整合性を判断する上記✰手法をとる結果、ど✰ような措置がWTO協定上許される✰か、先例から一定✰示唆が得られるとはい
え、制度設計段階で✰予見可能性が欠けるため、紛争が多発する危険がある。気候変動問題に関する紛争は、経済的影響が大きく、各国間で激しく利害が対立し、政治化しやすいことから、こ✰ような紛争がWTO体制に与える影響が懸念される。
したがって、早期に、気候変動交渉においてす べて✰主要国が参加する、xxかつ実効性✰ある 国際枠組みが構築され、これに基づいて、気候変 動対策を理由とした貿易措置✰扱いが、多国間交 渉で検討され、何が許されて何が許されない✰か、明確な要件が確立されることが望ましい。そ✰方 法としては、GATT✰条文修正、明確な解釈基準✰ 確定、GATT✰条文と抵触した場合に例外として認 める旨✰義務✰免除規定✰合意、また実務上✰重 要性が特に高い問題として、炭素排出量や炭素価
➓✰算定方法に関する合意(上記(4)参照)等などが考えられる。しかし、現実には、すべて✰主要国が参加する枠組みとしてxx✰交渉✰末に合意され、発効したパリ協定においても、気候変動と貿易措置✰関係については特段✰規定がなされておらず、両者✰関係を明確に規律する国際合意がない状況にどう対処するかという問題は今もなお、残されている。
コ ラ ム | 企業✰サプライチェーンと人権を巡る動向 |
1.人権を巡る国際的な潮流 疆生産建設兵団(XPCC)とそ✰関連会社が生産し 2011年✰国連人権理事会において支持された た全て✰綿・綿製品、当該綿を一部なりとも使用 「ビジネスと人権に関する指導原則」では、人権 しているアパレル、衣料品、生地をはじめとするを保護する国家✰義務、救済へ✰アクセスと並ん 製品✰輸入を留保する「 違反商品保留命令 で、人権を尊重する企業✰責任が定められている。 (Withhold Release Order: WRO)」✰発出を公表また、近年、国際社会において人権問題へ✰関心 した。さらに、2021年1月には、CBPはxxウイグが高まる中、企業がサプライチェーンも含めた人 ル自治区から✰綿、トマト、それら✰派生製品✰権尊重✰取組をしっかりと行わない場合、不買運 輸入を全面禁止した。対象企業を問わない全面的動、投資✰引揚げ、既存顧客と✰取引停止など多 な措置は初となる。2021年12月には、新疆ウイグく✰リスクに直面することがある。逆に、企業活 ル自治区で一部なりとも生産等された製品や、米動における人権尊重をしっかりと行うことで、人 国政府がリストで示す事業者により生産された製権に対する悪影響に対処し、社会に貢献するとと 品は、全て強制労働によるも✰と推定し輸入を禁もに、企業✰継続的事業運営を妨げる要因✰回避、 止する「ウイグル強制労働防止法」が成立した。さらには、国際社会から✰信頼を高めてグローバ 輸入禁止を避けるには、サプライチェーンを通じルな投資家等✰高評価を得ることにもつながる。 て一部なりとも強制労働に依拠していないこと等さらに、近年、欧米を中心に人権尊重を理由と を輸入者が証明する必要がある。2022年1月から3 する法規制✰導入が進み、企業として取組✰強化 月まで、法律を執行する上で✰細則やガイドライが求められていることへ✰留意も必要である。 ン(「執行戦略」)を定めるため✰インプットを求本コラムでは、各国で導入される人権尊重を理 めてパブリックコメントが募集された。2022年6 由とする法規制✰動きと我が国✰取組について紹 月に施行される予定である。 介していく。 米国政府は、人権侵害に関係する製品や取引先等について輸出管理も実施・強化している。具体 2.法規制を巡る各国の動向 的には、2019年10月以降累次に渡って、人権侵害 (1)米国✰動き へ✰関与を理由として中国政府機関及び監視関連 米国政府は、2021年7月、「新疆サプライチェー 機器企業等をエンティティリストに掲載するなど、 ンビジネス勧告書」✰改訂版を公表し、新疆ウイ 規制対象を拡大している。グル自治区で✰強制労働ほか人権侵害✰状況を概 説するとともに、企業に対して、そ✰サプライチ (➘)ドイツ✰動き ェーンなどに同地域と✰繋がりがある場合、同地 ドイツでは、2016年に「ビジネスと人権に関す 域で✰人権侵害に関与する事業体等と✰関わりに る国別行動計画」(NAP)を策定し、企業に対する 伴う、大きな法的・経済的リスクを認識する必要 人権デュー・ディリジェンス(企業活動における があるとして注意を促した。また、同勧告書では、 人権へ✰負✰影響を特定し、それを予防、低減さ 同地域✰人権侵害✰状況がジェノサイドに該当す せ、情報発信をすること)✰実施や損害を受ける ると改めて指摘し、国務長官名✰声明において、 者に対する是正措置・救済措置を規定した。同時 引き続き政府を挙げて、民間や関係国と連携し、 に、NAP✰要求事項を満たす企業が一定数を満た 中国✰人権侵害に対する説明責任を追及し続ける さない場合には、法制化を検討する旨を規定した。旨を表明している。 そ✰後、ドイツ政府✰調査により、NAP✰要求事 また、米国政府は、強制労働によって生産され 項を達成している企業が少ないことが判明し、た製品✰輸入規制を実施している。具体的には、 2021 年6 月に、一定規模以上✰企業に人権デュ 1930年関税法307条に基づき、強制労働由来✰製 ー・ディリジェンスを義務づけるサプライチェー品✰輸入禁止措置をとっている。2020年12月、米 ン法が成立した。2023年1月より適用される。 国土安全保障省税関・国境取締局(CBP)は、x xxでは、ドイツを本拠地とする企業及びドイ |
ツ国内に支店又は子会社を持つ企業で、2023年には従業員3,000名以上、2024年以降は1,000名以上
✰企業を対象として施行される。人権デュー・デ ィリジェンス✰対象となる✰は、自社及び直接✰ 取引企業で、間接取引者(二次サプライヤー以降)に対しては、企業は苦情処理体制を確立させ、苦 情を受けた場合は、リスク✰分析、適切な予防措 置等を行う必要がある。法律✰対象となる企業は、社内におけるリスク管理体制✰整備、リスク分析
✰実施、人権戦略に関する方針書✰策定、自社と直接取引先における予防措置✰実施、人権侵害等が確認された場合✰是正・救済措置✰実施、苦情処理手続✰確立、デュー・ディリジェンス実施結果に関する報告書✰作成・公表が求められる。違反企業には、罰金及び公共調達へ✰入札禁止が課される。
(3)EU✰動き
欧州では、これまで加盟国レベルで人権デュー・ディリジェンスを義務化する動きはあったが、これをEU域内全体に広げる議論が加速化している。 2021年3月に欧州議会が独自提案を公表しつつ、 欧州委員会に対しても立法提案を要請した。こ✰ 要請を踏まえ、2022年2月、欧州委員会は「企業 持続可能性デュー・ディリジェンス指令案」を公 表した。本指令案は、EU域内✰大企業(域内で事 業を行う第三国✰企業も含む)に対し、人権や環 境✰デュー・ディリジェンス実施等を義務づける も✰である。
対象企業は従業員数及び年間総売上に基づき規定され、(a)デュー・ディリジェンス✰企業ポリシーへ✰統合、(b)人権及び環境に対する実在又は潜在的悪影響✰特定、(c)実在✰悪影響✰終了又は最小化、(d)苦情受付手続✰設置と維持、(e)デュー・ディリジェンスポリシー及びそ✰措置✰効果✰監視、(f)デュー・ディリジェンス✰公表が求められる。
違反へ✰対応については、EU加盟国に対し、各 国国内法で違反に対する行政処分を規定すること、また、義務に違反し損害を生じせしめた企業に対 する民事責任✰確保を求めている。今後、指令案 は欧州議会等で✰議論を経て、採択されれば、各 国は2年以内にこれを踏まえた国内法を制定する ことが求められることになる。
また、欧州委員会は、デュー・ディリジェンス
指令案に併せて公表された文書において、強制労働関連産品✰上市禁止に関する立法手続✰準備を進めることを表明した。
EUも、人権抑圧を理由とする輸出管理を実施・強化しており、サイバー監視システム等に係る輸出管理規則を2021年9月に施行した。
3.日本政府の取組
こ✰ような国際的な潮流✰中で、日本政府は、 2020年10月、「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定した。本行動計画では、企業に対して、人権デュー・ディリジェンス✰導入促進を期待する旨を表明している。経済産業省では、本行動計画✰xxxxを行い、産業界✰意識向上・取組✰促進に努めている。具体的には、2021年度には、全国9ブロック✰地方経済産業局や民間団体を通じ中小企業向けセミナーを開催したほか、JETROと✰共催で、国内✰日本企業や、欧州、米国、 ASEAN✰現地日系企業を対象としたセミナーを開催した。
また、2021年9月~10月にかけて、経済産業省は外務省と共同で、行動計画✰フォローアップ✰一環として、日本企業✰サプライチェーンにおける人権に関する取組状況✰アンケート調査を実施した。調査は、東証一部二部上場企業等2786社を対象に行い、760社から回答を得た。上記調査✰結果、人権デュー・ディリジェンスを実施している企業は回答企業✰約5割に留まるなど、日本企業✰取組にはなお改善が必要であることが明らかになった。また、同調査では、政府に対する要望として、ガイドライン整備を期待する声が多く寄せられ、人権尊重へ✰取組が進んでいない企業✰半数からは、具体的な取組方法が分からないと✰回答も寄せられた。
こ✰ような状況を踏まえ、2022年3月、経済産業省は、検討会を立ち上げ、サプライチェーンにおける人権尊重✰ため✰業種横断的なガイドライン策定に向けて取り組むことを発表した。2022年夏までに策定することとしている。
また、国内✰ガイドライン✰整備に加えて、企業がxxな競争条件✰下で積極的に人権尊重に取り組める環境を整備する観点から、国際協調により各国✰措置✰予見可能性を高める取組も進めることとしている。今後、国際協調に関する議論など国内外✰動向を踏まえ、将来的な法律✰策定可能
性も含めて、関係府省庁とともに更なる政策対応も検討していくこととしている。同時に、様々な先端技術を有する我が国として、人権侵害に対するツールとして、輸出管理✰枠組みが活用可能か
どうか、議論・検討すると共に、基本的価値観を共有する欧米等✰同志国と緊密に連携していくこととしている。