2.M&A取引におけるEscrow 契約の問題
連 載
知的財産契約の実務(第40回)
知的財産契約の戦略と実務上のチェックポイント
─知的財産契約における戦略的対応の重要性を考慮して─
xx学院大学法学部特別招聘教授
xx xx
目次
はじめに
Ⅰ 知的財産関連契約
1.契約の種類(知的財産関連契約)
2.ライセンス契約の交渉
3.契約書文例
4.特許ライセンス契約のチェックリスト
5.ライセンス契約書の作成手順とチェックポイント
Ⅱ 知的財産契約戦略に関するリスクマネジメント
1.共同研究開発契約と共有特許権の単独ライセンス許諾権問題
2.M&A取引におけるEscrow 契約の問題
3.特許・ノウハウライセンス契約における改良技術の取扱い問題
4.ライセンス契約における許諾者の保証義務
5.ノウハウライセンス契約における特許権の取扱い問題
Ⅲ ケーススタディー
1.ライセンス契約の戦略とポリシー
2.ライセンス契約による企業経営に資する知的財産
3.企業経営に資する知的財産化の戦略と人材・組織
4.企業経営に資する知的財産化の在り方まとめ
知的財産契約の実務(第40回)
はじめに
知的財産は、企業経営に実際に、具体的に役に立てて初めて評価できる。従って、企業経営においては、知的財産の実効性をステディーにステップを踏んでいく手法が最も重要である。そして、「あるべき知的財産経営」を各社ごとに検討・整理することが必要不可欠なことと考える。そして、知的財産を使って「あるべき知的財産経営」を実行するためには、多様な法的リスクマネージメントが必要になる。
昨今の経済・産業情況の中で、特許等の知的財産はライセンス許諾等により活用することで評価されると言われている。従って、昨今の企業経営においては知的財産、知的財産ライセンス契約が大変重要視されている。そして、知的財産ライセンス契約の実務においては、知的財産を使って「あるべき知的財産経営」を実行するためにはリスクマネージメントも考慮しながら、企業経営に資するように知的財産の戦略的活用が重要である。
特許(技術)の活用で中核的な役割を果たす「特許ライセンス契約」においてはリスクマネージメントの必要な事項が多様に存在し、リスクマネージメント問題に必要な前提知識と考え方を十分に理解していないと、自社にとって望ましい結果をもたらすことは困難といえる。
また、知財ライセンス契約におけるリスクマネジメント戦略の実務は、契約書の作成・契約交渉時の注意点という基本的内容を踏まえて、ライセンス契約に関するリスクに関する本質的、客観的諸問題である。ライセンス契約に関するリスクマネジメントの実務は、基本、応用、戦略の戦略部分であり、ライセンス契約実務の仕上げとなる。
なお、知的財産ライセンス契約に関するリスクマネージメント要素は多様であるが、下記の項目を挙げることができる。
① リーガルリスク:法的リスクマネージメントの対象であり、例えば、特許法第104条の3に関する問題で、一定の条件の下においては、特許権の行使が制限を受ける場合である。
② 不可抗力リスク:例えば、自然災害等により、契約上の不利益が生じた場合のリスクマネージメント対応である。
③ 当事者の契約違反リスク:契約当事者による契約違反により、他方当事者が契約上の不利益を受けた場合のリスクマネージメント対応である。
④ ライセンスの対象の欠陥に関するリスク:例えば、特許ライセンス契約において、許諾特許の欠陥により、xxxxxxが損害を被る場合である。
⑤ 事情変更に伴うリスク:例えば、最低実施料規定のある特許ライセンス契約において、市場の情況が急変して、当初想定した売り上げが不可能になった場合のリスクマネージメント対応である。
Ⅰ 知的財産関連契約
企業活動は、技術開発、生産、営業、管理など各活動について、いろいろな法律によって規制されているとともに、契約に基づいて遂行されることが多い。企業活動を円滑に遂行するためには、契約問題に適切に対応する必要がある。
1.契約の種類(知的財産関連契約)
① 共同研究開発契約
② 研究開発委託契約
③ 特許等共同出願契約
④ 特許xxライセンス契約
⑤ ノウハウライセンス契約
⑥ 技術(特許xx)譲渡契約
⑦ エンジニアリング契約
⑧ 技術指導契約
⑨ オプション契約
⑩ フランチャイズ契約
⑴ 契約と契約書
① 契 約=約束(合意)=意思の合致、口頭か書面かを問わない
② 契約書=契約(合意)を書面にしたもの
タイトルが契約書、覚書、確認書、念書などであるかを問わない
⑵ 契約のタイトル
① 契約書は、契約を書面にしたもの
② 契約書、覚書、確認書、念書、誓約書、差入書などのタイトルであっても、契約であり、それらの法的効力は同じ
③ ニュアンスがちがうので、適当に使い分けることがある
⑶ 契約書の調印
① 契約書の作成、調印
② 調印者
③ 署名と記名捺印(商法第32条参照)
⑷ 契約の日付
① 契約の日付-合意が成立した日
書面による契約の場合契約書を作成し、調印を完了した日
② 契約の日付(調印日)を遡及させたり、先日付とすることも、両者の合意があれば、原則として差しつかえない
⑸ 契約の修正、延長、終了
① 契約の修正、変更、追加
② 契約の延長……自動延長、協議(合意)延長
③ 契約の終了……契約期間の満了、解約事由の発生、合意解約
⑹ 契約書の印紙
① 契約書を作成する場合には、「印紙税」に注意する
② 印紙をxxべき契約書と、その印紙税額は、「印紙税法」に定められている
⑺ 契約に関する法規制等
① 民法、特許法、独禁法、その他の関係法規による規制
② 業界の取引慣習
③ 契約で規定した契約義務
2.ライセンス契約の交渉
⑴ 事前調査
① 当事者に関する調査事項