■ FIDIC契約約款では第三者としての機能を持つコンサルタント
2022年 土木学会 契約管理技術セミナー
倫理・社会規範委員会 建設マネジメント委員会
主要条項分析とその対応
公共工事標準請負契約約款が第20条から第25条
第4回
2022.12.20.
x x x x
高知工科大学 名誉教授. 東京都市大学
客員教授
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
11
1
第20条(工事の中止)
1.工事用地等の確保ができない等のため又は暴風、豪雨、洪水
、高潮、地震、地すべり、落盤、火災、騒乱、暴動その他の自然的又は人為的な事象(以下「天災等」という。)であって受注者の責めに帰すことができないものにより工事目的物等に損害を生じ若しくは工事現場の状態が変動したため、受注者が工事を施工できないと認められるときは、発注者は、工事の中止内容を直ちに受注者に通知して、工事の全部又は一部の施工を一時中止させなければならない。
騒乱、暴動その他自然的又は人為的な事象には、工事反対運動等の妨害活動、埋蔵文化財発掘調査等も含まれる。
工事中止指示の本意は不要な費用を発生させないこと。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
2
2
第20条(工事の中止)
2.発注者は、前項の規定によるほか、必要があると認めるときは
、工事の中止内容を受注者に通知して、工事の全部又は一部の施工を一時中止させることができる。
第2項は自然的又は人為的な事象以外の要因によるもので、発注者は自身が工事を中止する必要があると認めた場合、何時でも工事を中止する権利があり、中止決定に受注者の合意も不要。
一方、受注者は、唯一、発注者が支払義務を全うしない場合以外、受注者の工事中止権を定めた条項がない。
従って、発注者は迅速に状況を判断し受注者に工事中止の指示を出す必要がある。
工事中止指示の遅れによって受注者側に発生した費用は、第 18条第1項の第4号、第5号に基づき請求権を確定させ、同条第5項に従い発注者が負担することになる。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
3
3
第20条(工事の中止)
3.発注者は、前2項の規定により工事の施工を一時中止させた場合において、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は受注者が工事の続行に備え工事現場を維持し若しくは労働者、建設機械器具等を保持するための費用その他の工事の施工の一時中止に伴う増加費用を必要とし若しくは受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。
第20条は工事の中止に伴う、請負者の工期延伸と追加費用請求の権利を明快に規定したもの。
請求可能な工事中止期間に発生する費用:
労務費+仮設構造物や車両・機械・器具の原価償却費
+維持管理費+現場経費等
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
4
4
第21条(著しく短い工期の禁止)
発注者は、工期の延長又は短縮を行うときは、この工事に従事する者の労働時間その他の労働条件が適正に確保されるよう、やむを得ない事由により工事等の実施が困難であると見込まれる日数等を考慮しなければならない。
2019年12月の約款改定で追加された条項。
改定品確法第7条(発注者の責務)第4項「計画的に発注を行うとともに、適切な工期を設定するよう努めること」という定めに従って追記された条項と思われる。
しかし、公共工事標準請負契約約款は受発注者間の契約条件を定めたものであり、工期の延長又は短縮は発注者と受注者の合意事項となる。
こう考えると、こうした条項が必要かは疑問。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
5
5
第22条(受注者の請求による工期の延長)
1.受注者は、天候の不良、第2条の規定に基づく関連工事の調整への協力その他受注者の責めに帰すことができない事由により工期内に工事を完成することができないときは、その理由を明示した書面により、発注者に工期の延長変更を請求することができる。
2.発注者は、前項の規定による請求があった場合において、必要があると認められるときは、工期を延長しなければならない。
発注者は、その工期の延長が発注者の責めに帰すべき事由による場合においては、請負代金額について必要と認められる変更を行い、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。
平成15年版ではこの文書が無く、平成22年版で追加された
Shunji Kusayanagi 6
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
6
第23条(発注者の請求による工期の短縮等)
1.発注者は、特別の理由により工期を短縮する必要があるときは、工期の短縮変更を受注者に請求することができる。
2.発注者は、この約款の他の条項の規定により工期を延長すべき場合において、特別の理由があるときは、延長する工期について、通常必要とされる工期に満たない工期への変更を請求することができる。 この分が2019年12月版で削除された
3.発注者は、前項の場合において、必要があると認められるときは請負代金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。
第22条3項は工事促進命令に伴う、請負者の工期延伸と追加費用請求の権利を規定したもの。
「通常必要とされる工期」とは物理的に短縮可能な工期。
Shunji Kusayanagi
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
7
7
7
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
8
第24条(工期の変更方法)
1.工期の変更については、発注者と受注者とが協議して定める。ただし、協議開始の日から〇日以内に協議が整わない場合には、発注者が定め、受注者に通知する。
注〇の部分には、工期及び請負代金額を勘案して十分な協議が行えるよう留意して数字を記入する。(○:直轄工事は14日)
「発注者が定め、受注者に通知する」という文言を、協議の最終決定権は発注者にあると理解している者が多い。
この文言は発注者に最終決定権があり、受注者はこの決定に従わなければならないと意味ではない。受注者の工期延伸請求権
(第25条の場合は追加費用請求権)はなくならない。
留意すべきは、条項の「発注者が定め」という文言であり、「発注者が決定」と記していないこと。
発注者は何を“定め”るのかを踏み込んで分析することが必要。
8
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
9
発注者が定め、受注者に通知する
■ 一方、発注者との契約紛争を理由に受注者が工事を中止する権利があるかどうかだが、受注者が工事を中止できるのは、第44条に定められた発注者から支払いがなかった場合のみとなる。
■ 公共工事標準請約款では、受注者は紛争を理由に工事を止める権利はないと明記した条項がないが、受注者には契約紛争を理由に工事を中止する権利はないと理解すべき。
■ これは世界各国の建設契約約款に共通した理念。
■ 「公共工事標準請負契約約款の解説」の記述内容
■ 令和7年(1995年)の契約約款の改訂以前は、「甲乙協議して定める」という規定だけであった。このため暫定的な工期変更もないまま紛争処理手続きに移行せざるを得ない等の問題があった。
■ 契約約款の改訂の経緯からすると、発注者が“定め”受注者に通知するのは、自身の契約的権利(定性的権利)と、時間と金額(定量的権利)の主張を明確にし、受注者に伝えることになる。
9
■ FIDIC契約約款では第三者としての機能を持つコンサルタント
(The Engineer)や紛争審査委員会(Dispute Board)が第一、第
二の裁定者となっているため、暫定決定に契約拘束力が発生する。
■ 日本の公共工事標準請負契約約款は発注者と受注者の二者執行構造であり、紛争当事者である発注者に契約的拘束力をもつ暫定決定権を持たせるのは論理的におかしいことになる。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
10
■ 国際建設契約約款(FIDIC契約約款)では受注者には契約紛争を理由に工事を中止する権利はないと明記した条項がある。
■ 設定理由は以下の通り。
■ 建設工事は気象条件、地質状況、社会条件等の変化による影響を直接的に受けるものであり、且つ、公共性の高いものである。
■ 受発注者間の紛争によってプロジェクトの遂行に支障を来すことは社会的便益を大きく損なうことになる。
発注者が定め、受注者に通知する
■ 発注者はこの実態を理解した上で「発注者が定め」を考えることが必要
10
第24条(工期の変更方法)
2. 2 前項の協議開始の日については、発注者が受注者の意見を聴いて定め、受注者に通知するものとする。ただし、発注者が工期の変更事由が生じた日(第22条の場合にあっては発注者が工期変更の請求を受けた日、前条の場合にあっては受注者が工期変更の請求を受けた日)から〇日以内に協議開始の日を通知しない場合には、受注者は、 協議開始の日を定め、発注者に通知することができる。
注〇の部分には、工期を勘案してできる限り早急に通知を行うよう留意して数字を記入する。 (○:直轄工事は7日)
留意点:
発注者が〇日(直轄工事: 7日)以内に協議開始の日を通知しない場合には、受注者は、協議開始の日を定め、発注者に通知することができる。すなわち、最終行動は受注者側に委ねられている。
Shunji Kusayanagi
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
11
11
追加費用精算と工期延伸請求の実務
直轄工事における受発注者の「協議」スキーム
工期延伸・追加費用の発生
case 7日以内に発注
1 者から協議開始
通知が出される
14日以内に受発注者間の協議が整わない
発注者が決め受注者に通知
case
2
7日以内に発注者から協議通知なし
14日以内に受発注者間の協議が整わない
発注者が決め受注者に通知
case
3
発注者から協議開始通知がなく、協議がなされない。
発注者が決め受注者に通知
ケース3は契約違反
受注者発注者間の合意不成立
“発注者が決め受注者に通知”は、単に合意不成立の意味
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
12
受注者が発議
12
工程変更に伴う使い費用請求のメカニズム
工期完了 工期延長
作業 A
1
2
作業 B
作業 C
3 4
工期延伸費用
第22条
作業 Aが延長
作業 B
作業 C
1 2 3 4
作業 A延長
作業 B促進
作業 C促進
1 2 3 4
■ 工期延伸が確定しなければ、追加費用請求はできない。
■ 第22条で6ヵ月の遅延請求を第23条で4ヵ月促進する場合
⇒工事遅延費2カ月分+工事促進費4ヵ月分の費用請求が可能
■ 工期延伸がなければ促進請求はなく、追加費用精算もない。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
13
工期促進費用第23条
工期開始
13
工期延伸請求の実務 (事例分析)
プロジェクト内で、A企業の作業に遅れが生じ、 B企業の作業が予定期日に開始出来なくなった。B企業の当該作業はクリティカル・パス上にあり、1カ月間の工期延長が必要となった。
検討が必要な契約条項
第2条 関連工事の調整
発注者による適正な調整が行われたか
第18条
条件変更等
第19条
設計図書の変更
第20条工事の中止
第23条
発注者の請求による工期短縮等
第24条
工期の変更方法
第22条
受注者の請求による工期の延長
2022/12/20
第25条
請負代金額の変更方法等
Shunji Kusayanagi
契約条項に基づく論理構造の構築
14
14
第25条(請負代金額の変更方法等)(A)
1.請負代金額の変更については、数量の増減が内訳書記載の数量の100分の〇を超える場合、施工条件が異なる場合、内訳書に記載のない項目が生じた場合若しくは内訳書によることが不適当な場合で特別な理由がないとき又は
して定め、その他の場合にあっては内訳書記載の単価を基礎として定める。
ただし、協議開始の日から〇日以内に協議が整わない場合には、発注者が定め、受注者に通知する。注(A)は、第3条(A)を使用する場合に使用する。
「百分の〇」の〇の部分には、たとえば、20と記入する。「〇日」
の〇の部分には、工期及び請負代金額を勘案して十分な協議が行えるよう留意して数字を記入する。(○:直轄工事は14日)
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
Shunji Kusayanagi
15
内訳書が未だ
承認を受けていない場合にあっては変更時の価格を基礎とし
て発注者と受注者とが協議
15
第25条(請負代金額の変更方法等)
2. 2 前項の協議開始の日については、発注者が受注者の意見を聴いて定め、受注者に通知するものとする。ただし、請負代金額の変更事由が生じた日から〇日以内に協議開始の日を通知しない場合には、受注者は、協議開始の日を定め、発注者に通知することができる。
注;〇の部分には、工期を勘案してできる限り早急に通知を行うよう留意して数字を記入する。(○:直轄工事は7日)
3.この約款の規定により、受注者が増加費用を必要とした場合又は損害を受けた場合に発注者が負担する必要な費用の額については、発注者と受注者とが協議して定める。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
16
16
第25条(請負代金額の変更方法等)の対応
1.以下の場合、請負代金額の変更を行なう。変更金額は内訳書記載の単価を基礎として定める。
①施工数量増減が内訳書の数量の120%を超える場合
②施工条件が異なる場合
③内訳書に記載のない項目が生じた場合
2.以下の場合は、変更時の価格を基礎として発注者が受注者と協議して定める。
①内訳書によることが不適当な場合で特別な理由がない場合
②内訳書が未承認の場合
■ 協議基盤は内訳書の単価であり、これが不適当な場合は変更時の価格を基礎として協議するシステム。
■ 官積算や落札率の適用に関する記述は何処にもない。
■ 請負代金額の変更には内訳書と施工計画書の契約的位置付けが必須条件となり、この確定がなければ協議は空転する。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
17
17
第25条(請負代金額の変更方法等)(B)
請負代金額の変更については、発注者と受注者とが協議して定める。ただし、協議開始の日から〇日以内に協議が整わない場合には、発注者が定め、受注者に通知する。
注(B)は、第3条(B)を使用する場合に使用する。〇の部分には、工期及び請負代金額を勘案して十分な協議が行えるよう留意して数字を記入する。(直轄工事は14日)
■ 第24条(B)は、第3条(B)を使用した場合に適用する条項。
■ 第3条(B)は内訳書に対する発注者の承認行為がない、又、内訳書を提出を求めない場合もあるとしている。
■ このため、協議方法が記されていないが、協議は協議基盤なくして成立せず、実施的には(A)と同じ方法を取ることになる。
■ 工程表と請負代金内訳書の位置付けは発注者によって異なる。詳細は「建設契約管理の理論と実践(上)」P173-P177を読む。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
18
18
第3条および第25条の(A)と(B)
の適用実態調査
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
19
19
19
第3条(A)および第25条(A)を用いた契約管理
東、中、西日本の高速道路会社の契約約款
■ 2018年の改定以前
■ 第3条のタイトル:「工程表」
■ 提出期限:「契約締結後7日以内」
■ 工程表の契約的拘束力を否定する条項がある。
■ 2018年に約款改定を行っている。
■ 第3条のタイトル:「工事費構成内訳書及び工程表」
■ 提出期限:「契約締結後14日以内」
■ 第3項「内訳書及び工程表は、契約書の他の条項において定 める場合を除き、発注者及び受注者を拘束するものではない」。
3条と25条は(A)に近い状態に改定されている。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
20
20
NEXCO第25条(請負代金額の変更方法等)
1. 請負代金額の変更については、数量に単価表記載の単価を乗じて定める。ただし、施工条件が異なる場合、単価表に記載のない項目が生じた場合、数量の増減が設計図書で定めた10基準を超える場合、その他単価表によることが不適当な場合は、数量に別途発注者と受注者とが協議して定めた単価を乗じて定める。 なお、協議開始の日の翌日から28日以内に単価の協議が整わない場合には
、発注者が定め、受注者に通知する。
(A)以上に方法論が明確
2. 前項の協議開始の日については、発注者が受注者の意見を聴いて定め、受注者に通知するものとする。
ただし、請負代金額の変更事由が生じた日の翌日から7日以内に協議開始の日を通知しない場合には、受注者は、協議開始の日を定め、発注者に通知することができる。
3. 契約書の規定により、受注者が増加費用を必要とした場合又は損害を受けた場合に発注者が負担する必要な費用の額については
、発注者と受注者とが協議してSh定unji めKusるxxxx。agi
21
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
21
第3条(A)および第25条(A)を用いた契約管理
北海道の契約約款:
■ 第3条のタイトル:「工事工程表及び請負代金内訳書」。
■ 提出期限: 「契約締結後14日以内」。
■ 第3項「受注者は、この契約に変更等があり、かつ、発注者から請求があったときは、請求を受けた日から14日以内に変更後の工事工程表を作成し、発注者に提出しなければならない」。
工事期間中に工程表を重視して行くことが記されている
■ 第4項「工事工程表及び内訳書は、この契約の他の条項において 定める場合を除き、発注者及び受注者を拘束するものではない」
■ 公共工事標準請負契約約款の第3条(A)と同じく実施的に工程表の契約的拘束力を認める内容となっている。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
22
22
第3条(B)および第25条(B)を用いた契約管理
政府関連発注機関の契約約款
■ 国土交通省 地方整備局
■ 農林水産省:灌漑、圃場整備、林道整備工事等
■ 文部科学省:学校、研究施設、文化施設工事等
■ 防衛省:基地等国防施設工事の発注
■ 財務省:公務員宿舎工事等を発注
■ 鉄道・運輸機構
■ 水資源機構
■ これらの発注者機関の工事請負契約約款は全て第3条(B)と第25条(B)をそのまま採用している。
■ 提出期限は「 「契約締結後14日以内」
■ 内訳書と工程表の提出を求めながら、これらの図書の契約的拘束202力2/12を/20 完全否定している。Shunji Kusayanagi
23
23
第3条(B)および第25条(B)を用いた契約管理
高速道路関連会社の契約約款
■ 首都高速道路会社、
■ 第3条のタイトル:「工程表」
■ 提出期限:「契約締結後7日以内」
■ 工程表の契約的拘束力を否定する条項がある。
■ 名古屋高速道路公社等
■ 第3条のタイトル:「工程表」
■ 提出期限:「契約締結後7日以内」
■ 工程表の契約的拘束力を否定する条項がある。
■ 2017年の公共工事標準請負契約約款の改定に従い、高速道路関連会社も第3条の改定を進めていると思われる。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
24
24
第3条(B)および第25条(B)を用いた契約管理
xx府と主要県の契約約款
■ xxxの契約約款:
■ 第3条のタイトルは「工程表」で「請負代金内訳書」の記載なし。
■ 提出期限の記述:「 契約締結後、速やかに提出」。
■ 工程表の契約的拘束力を否定する項は記されていない。
■ 愛知県の契約約款:
■ 第3条のタイトルは「工程表」で「請負代金内訳書」の記載なし。
■ 提出期限: 「契約締結後5日以内」。
■ 工程表の契約的拘束力を否定する項は記されていない。
■ 請負代金内訳書の提出は求めていない。
■ 工程表の契約的拘束力を否定していない。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
25
25
第3条(B)および第25条(B)を用いた契約管理
■ 名古屋市の契約約款:
■ 第3条のタイトル:
「請負代金内訳書、工事着手届及び工事工程表」
■ 提出期限: 「契約締結後14日以内」。
■ 第2項:発注者が提出を求めない場合は受注者は内訳書、工事着手届及び工事工程表の提出を省略することが可能
■ 第3項:内訳書のみを契約的拘束力を否定し、工程表の契約的拘束力を否定する記述はない。
■ 内訳書は契約的拘束力を否定し工程表の否定していない。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
26
26
第3条(B)および第25条(B)を用いた契約管理
大阪府の契約約款(2018年4月改定)
■ 第3条のタイトル:「請負代金内訳書及び工程表」。
■ 提出期限: 「契約締結後14日以内」。
■ 内訳書と工程表の契約的拘束力を否定した条項がない。
代わりに「発注者は、内訳書及び工程表の提出を受け不適当と認めたときは、受注者と協議するものとする」としている。
■ 内訳書及び工程表を重視しているとも考えられる。
大阪市の契約約款:
■ 第3条⇒第4条のタイトル:「工事工程表及び請負代金内訳書」
■ 提出期限:「契約締結後21日以内」
■ 内訳書と工程表の契約的拘束力を否定する条項がある。
■ 内訳書と工程表の契約的拘束力を否定。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
27
27
第3条(B)および第25条(B)を用いた契約管理
福岡県の契約約款:
■ 第3条のタイトルは「工程表」で「請負代金内訳書」の記載なし。
■ 提出期限: 「契約締結後7日以内」。
■ 工程表の契約的拘束力を否定する条項がある。
■ 請負代金内訳書の提出は求めていない。
■ 工程表の契約的拘束力を否定。
■ 京都府の契約約款:
■ 第3条のタイトル:「請負代金内訳書及び工程表」
■ 提出期限: 「契約締結後5日以内」。
■ 内訳書と工程表の契約的拘束力を否定する条項がある。
■ 請負代金内訳書と工程表の提出を求め、これらの図書の契約的拘束力を否定。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
28
28
工期延伸と追加費用請求の対応
契約変更と工程表の関連
第3項(B)では工程表の契約的拘束力を全否定しているが、工程表が発注者と受注者の契約的権利と義務に直接的に係わってくる条項は多く存在する。
■ 第2条の「関連工事の調整」:
「受注者が契約当初に期待、想定した、施工日程に影響を与えない範囲」に調整する。(契約約款の解説書)。
■ 第15条の「支給材料及び貸与品」:支給品や貸与品の品質や受渡し時期の変更によって受注者の工事遂行に影響が発生した場合、受注者は工期延伸と追加費用の請求権持つ。
■ 第16条の「工事用地の確保等」:「受注者が工事の施工上必用
とする日」までに工事用地を確保する。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
29
29
工期延伸と追加費用請求の対応
契約変更と工程表の関連
■ 第17条「設計図書不適合の場合の改造義務及び破壊検査等」不適合が発注者の責に帰すべき事由の場合、受注者側に工期延伸と追加費用請求の権利が発生する。発生した事象が工期や費用に影響を及ぼすか否かは工程表と工事内訳書が必要。
■ 第18条「条件変更等」:第1項で述べられている5項目に該当する事象が発生した場合、「必要があると認められるとき」、受注者側に工期延伸と追加費用請求の権利が発生する。
「必要があると認められる」か否かは、当該事象が工期に影響を及ぼす程度を工程表で分析する必要がる。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
30
30
工期延伸と追加費用請求の対応
契約変更と工程表の関連
■ 工期延伸と追加費用に関連する条項で「必要があると認められるとき」という記述のある条項:
第19条「設計図書の変更」第20条「工事中止」
第21条「受注者の請求による工期の延長」 第22条「発注者の請求による工期の短縮等」
第43条「前払金等の不払に対する工事中止」等。
■ 第47条の「発注者の解除権」:
第2項に「受注者の責めに帰すべき事由により工期内に完成しないとき又は工期経過後相当の期間内に工事を完成する見込みが明らかにないと認められるとき」という記述がある。
「工事を完成する見込みが明らかにない」と確証するには工程
表の分析が不可欠となります。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
31
31
工期延伸と追加費用請求の対応
「約定工程表」の意味
契約変更と工程表の関連
■ 「約定工程表」は当該工事を的確に遂行するために必要な手順と時間を示したものとして発注者と受注者が合意したもの。
■ 第3条(B)を用いた契約では、工程表は契約当事者を拘束しないとしているので、「約定工程表」は存在しないことになる。
■ 建設工事では、工事の遂行と共に発注者と受注者の権利と義務が顕在化して来ることになる。
■ 「約定工程表」は、発注者と受注者がそれぞれの権利と義務を明確に把握する共有基盤となるもの。
■ 公共工事標準請負契約約款は設計施工分離の工事執行形態を前提として作られている。
■ 発注者は自身が行った地質等の各種調査、設計、仕様設定等が工事の遂行実態と適合しているか否かを常に見届ける責任
がある。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
32
32
工期延伸と追加費用請求の対応
契約変更と工程表の関連
「約定工程表」の意味
■ 公共事業の「真の発注者は納税者」であり、発注者は納税者から委託を受けて事業を遂行する役割を担うことになる。
■ 発注者は、総価請負契約は「責任施工」が原則、生産過程は責任なしといえる立場ではない。
■ 「真の発注者は納税者」であるという認識は発注者だけではなく受注者にも求められる。
■ 受注者は何時でも納税者に工事の遂行過程を見せる責務を負っている。
■ 事業執行特性からすると、民法の「請負」の概念をそのまま適用し、工程表や工事内訳書は発注者と受注者を拘束しないと言い切ることは論理的にも無理であることが分かる。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
33
33
地方公共団体の抱える契約関連問題
ー契約に関する議会議決システムー
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
34
34
地方公共団体の契約に関する議会議決
■ 地方自治法96条(議決事件)第1項第5号で契約締結に関する議会議決を定めている。
■ 96条第1項の第2号で「予算決定」の議決が定められており、事業の実施計画と予算は既に議決がなされている。
■ 従って第5号に基づく議決は、契約内容が第2号で議決された事業の実施計画と予算に適合しているかの確認となる。
■ 自治法施行令121条の2の別表3
■ 議決が必要な「種類」 ➡ 「工事又は製造の請負」
調査設計業務は対象外
■ 議決を要する額(「予定価格」を基準)
都道府県➡5億円、政令指定都市➡ 3億円、
その他の市➡ 1億5千万円、町村➡ 5千万円以上
2022/12/20
注:「工期の変更」に関しての基準が記されていない。
Shunji Kusayanagi
35
35
地方公共団体の契約に関する議会議決
■ 地方公共団体では、議会議決対象額以下の額までしか追加費用を支払わないといった問題が発生している。
■ 特に基礎自治体ではこうした問題が多く見られる。変更契約に関する議会議決の問題点
■ 新規契約は工期固定であるため議会議決基準は金額だけよい。
■ 変更契約は時間とコストの両面から適正分析が必要。
■ 変更契約の決議は、第2号に従った事業実施計画と予算の議会議決がなされていない状態で論議される。
■ 地方自治法96条や地方自治法施行令121条は新規契約の議決を念頭に置いたもの。
■ これら法律は変更契約に関する対応方法が不明確。
■ 議会議決は契約論理に基づく議論が出来ないことになる。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
36
36
地方公共団体の契約に関する議会議決
変更契約議会議決に関連する問題
① 通常、契約締結議決の議案書に契約図書を添付しない。
⇦ 「行政実例」1950年(昭和25年)に基づく論理。
② 議会には修正権はない。⇐「行政実例」1954年(昭和29年)
③ 執行組織が規範としている議会議決不要な事例。
⇐ 「行政実例」1970年(昭和45年)
■ 「行政実例」とは行政機関(主に地方公共団体)からの法令適用等に関する質問に対し関係所轄行政機関(国の機関等)が答えたもの。
■ 「行政実例」は法令解釈や裁量権行使の基準として発生さる訓令や通達と異なり強制力はないが、地方公共団体の職員にとっ
ては20実22/12質/20 的に活動の規範となShunっji Kてusaいyanaるgi 。
37
37
変更契約議会議決に関連する問題
① 通常、契約締結議決の議案書に契約図書を添付しない。
「行政実例」1950年(昭和25年)。佐世保市議会事務局からの問
問:当市においては工事の請負契約に関する条例中に「第三条 予算価格が一千万以上の工事の請負契約を締結しようとするときは、議会の議決を経なければならない」と規定しているが、
一.議案には工事請負契約書案を添付しなければならないか。二.契約書案の添付の必要がない場合は
1.工事請負の金額
2.契約相手の住所氏名
3.工事の場所、程度を明記すればさしつかえないか。答:一.別にその必要はない。
二.契約の目的、方法、金額、相手方等を明記すればよい。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
38
38
① 通常、契約締結議決の議案書に契約
図書を添付しない。
1950(昭和25)年頃の公共事業契約
■ 日本は1945年に第二次世界大戦で無条件降伏し、5年後の1950年は未だ連合軍の統治下にあり、各地方公共団体は空爆で壊滅的な状態となった社会基盤施設の復旧に懸命に取り組んでいた。
■ 民間建築工事では現在と同様な契約がなされ始めていたが、各地方公共団体の復旧工事は、前年の49年に施行された緊急失業対策法に従い、労働者を直接雇用し進める方法が主体であった。
■ このため、工事請負契約は、現在の公共工事とは全く異なり、労務提供、復旧事業の一部を定額で請け負うといったものであった。
■ つまり、この「行政実例」にある工事請負契約はこうした内容であり
、議会での議決も工事額、契約相手、工事場所の確認程度で充分であった。しかし、直接雇用による公共工事遂行方式は数年で終わっている。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
39
39
① 通常、契約締結議決の議案書に契約
図書を添付しない。
1950(昭和25)年頃の公共事業契約
■ この「行政実例」を現在も各地方公共団体の執行組織が議会への議案提出の規範としている実態は、社会状況の変化を勘案せず、文面だけを注視し、契約内容の状態が全く異なった現在の公共工事に適用し続けていることになる。
■ 契約図書が添付されていなければ、議会の議員は契約内容が適正か否かを判断することは出来ない。
■ 実態を調べると、執行組織の幹部職員が議案の提出後、各会派(一般的には政党)を回って契約内容を説明している。いわゆる“根回し”で対処している。
■ 問題は議員に契約管理に関する知識を向上させる必然性が希薄になること。実際に、「公共工事標準請負契約約款」に関する
知識202を2/12持/20 っている地方公共団Shu体nji Kのusay議anag員i はほとんどいない。
40
40
② 議会には修正権はない。
「行政実例」1954年(昭和29年)東京都建設局長からの質問
問:第96条第1項第9号(現行法では第5号)の規定により議会の議決を経なければならない契約について、議会に修正権はないと解してよいか。
答:お見込みのとおり。
■ 地方公共団体の長、つまり、執行組織の長と議会はそれぞれ住民により選挙でその地位が与えられ、地方自治法上、それぞれ別の権限が示されている。これを「二元代表制」という。
■ 問題は執行組織の長と議会の二つの権限が明確に整理されていないこと。
■ 議会に議案に対する修正権がないと言うのであれば、議会は理由を述べず議案を否決すればよいことになる。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
41
41
② 議会には修正権はない。
■ 理由が定かでない否決は執行組織の生産性を低下させることは明白。
■ このように分析していくと、この「行政実例」は納税者にとって受け入れ難いものとなる。
■ この「行政実例」も当時の社会状況を知る必要がある。
■ 日本は戦災復興が一段落し、この「行政実例」が出された2年後の1956年の経済白書に「もはや戦後ではない」という言葉が記された。
■ この時期、地方公共団体は経済発展に向け本格的な社会資本整備を進めていた。
■ 地方公共団体の執行組織は一気に多忙になり、生産性向上を求められていた時代で、この「行政実例」は執行組織の生産性を重視したものと考えられる。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
42
42
② 議会には修正権はない。
「行政実例」1954年(昭和29年)東京都建設局長からの質問
■ 執行組織の長と議会の契約に関する権限とその役割について考えるうえで、国際スタンダードとも言えるODA(政府開発援助)工事のシステムが参考となる。
■ ODA工事では発注者となる実施機関が入札者の中から最適者を選択し契約を締結する権限を有している。
■ しかし、実施機関には契約相手と契約内容を資金提供者(日本の ODAでは国際協力機構)に報告し、「承諾」を得ることが義務付けられている。
■ 注視すべきは「承認」ではなく「承諾」であることで、資金提供者が「承諾」しなければ実施機関は工事資金を確保できない。
■ このシステムから考えれば、議会議決とは真の資金提供者である納税者の視線で議会が契約相手と契約内容の適性を確認し承諾する非常に重要な決定機能であることが分かる。
2022/12/20 Shunji Kusayanagi
43
43
③執行組織が規範としている議会議決不要な事例
「行政実例」 1970年(昭和45年)に兵庫県総務部長
問:議会の議決に付すべき工事又は製造の請負契約の締結について、本県では、工事名、契約金額、契約相手の三点を明記した議案を作成し、議決を得ているが、下記に掲げる場合のように当初議案の設計内容について一部変更を要する場合において契約金額内の増減のみで総額に変更がない時は、議会の議決を要しないと解するが如何。
答:議決を得た事項について変更がない限り、一般的にはお見込みのとおり。
事例(原文のまま)
(1) 県営住宅建設(工事費5億900万円)のため、地質調査を行った結果、当初設計に入っていた抗地業工事2673万6000円を取りやめ、同工事に代わるべき基礎補強として基礎地中梁拡大工事704万1000円及び地下一階未仕上分と設備取合せ部分との補強工
事1920622/912万/20 5000円を行う場合。Shunji 原Kusa因yanaはgi
当初地質調査が杜撰 44
44
③執行組織が規範としている議会議決不要な事例
「行政実例」 1970年(昭和45年)に兵庫県総務部長
(2) ダム建設(工事費7億900万円)を行う際、堤体工事の変更増のため、当初設計に入っていた取付道路、土捨場等の付帯工事614万3000円を取りやめる場合 付帯工事は不可欠。追加費用発生
(3) 県民会館建設(工事費8億3200万円)に際して、当初設計では地上10階建てであったが、大ホールおよび中ホールを配置するため 12階建てとし、これに要する経費1億7000万円に見合う暖房工事
等を取りやめる場合。
当初計画が杜撰。暖房工事は不可欠
(4) 鉄筋コンクリート4階建県営住宅180戸建設(工事費1億8500万円)に際して、当初設計に入っていなかった特殊基礎工事等の変更をして建設戸数を150戸に減少する場合。
当初計画の大幅変更。実質的な機能低下
これらの事例は技術的にも契約的にも原契約内容の大幅変更となる
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
45
。
45
変更契約議会議決に関連する問題
■ これらの事例は、当初議案そのものが杜撰であったということであり、議会議決不要とすることは、公共工事の原点である「事業の適正な遂行」という視点から考えれば明らかにおかしい。
■ 1970年当時の急増する公共事業の実態を考慮すると、自治省(現総務省)がこうした事例を「行政実例」としたことは、ある程度は理解できる。
■ だが、事業環境が全く異なった現在も、多くの地方公共団体がこの事例を規範としている実態は、契約論理の基本から外れ、社会実態からも大きく乖離したことが行われているということになり、納税者の理解を得ることは不可能です。
■ この4事例に共通した問題は、議会議決の基本対象を「価格」としていること。➡ 会計法の「価格重視」が影響している。
■ 納税者が求めているのは「価格」ではなく「価値」の有無であり、議
会議決の基本対象は「価値」でなければならない。
2022/12/20
Shunji Kusayanagi
46
46