Contract
Ⅰ 契約取消もしくは契約無効確認請求関係
【事案Ⅰ-1】共済契約無効確認及び既払込掛金返還請求
・平成 28 年 9 月 2 日 裁定終了
<事案の概要>
申立人の関与・関知しないところで、被申立人により共済契約の申込みと締結がなされた、非居住建物を共済の対象とする当該共済契約は、最初から不存在であるとして、既払込共済掛金の全額に加え、所定利息を付した当該金額の返還請求の申立てがなされたもの。
<申立人の主張>
①当該共済契約そのものが最初から不存在(無効)であることを確認し、②被申立人は申立人に対して、当該契約の共済掛金の平成 3 年 4 月 1 日から平成 28 年までの共
済掛金全額を平成 28 年 3 月 31 日までに支払え、③被申立人は申立人に対して、前記
②の合計金額に対して積立預金と同等の金利を計算して、その全額を平成 28 年 3 月 31
日までに支払え、との判断を求める。
(1)申立人は本件共済契約にかかる契約行為は全く行っていない。署名押印をしていないし契約も知らない。
また、申立人は本件共済契約の証書を見たことがない。平成 27 年 3 月に被申立人の担当職員が突然来訪して番地の変更依頼を受けた際に、「証書も申込書も見たことも聞いたこともない。そのコピーでも良いから見せてくれ」と言っても申立人に見せようともしないので、申立人が当該職員に対して強く要望した結果、契約書類をコピーし確認したものである。
(2)申立人は(本件共済契約申込書記載の所在地住所である)甲番地に居住したことがない。申立人の所在地住所は生まれてから今日に至るまで乙番地である。
(3)契約書類には申立人の署名でも妻のものでもない文字や図面等が記載されており、署名押印の偽造は明白である。また、xxxも妻も本件共済契約の申込みに関与していない証拠でもある。
また、(契約したとされる日から)24 年経過しても申立人の番地が訂正されておらず、当該共済にかかる各種案内書類が郵便局から被申立人に返却されている。このことは、申立人に関係書類(共済証書、約款・事業規約等)が届いていない証拠であり、また、申立人が本件共済契約を知ることができない証拠でもある。共済掛金の税務申告用の「共済掛金払込証明書」も申立人は見たことがない。被申立人は「書
類は職員が届けた」等と主張を変更してきたが、もしそうであるならば、その証拠を示されたい。
(4)申立人が自身名義で共済契約に加入していることを知ったのは、損害保険会社の火災保険加入者が、大雪で車庫も車庫内の車も破損した顧客にすべて補償した件を妻に話したところ、妻に「(被申立人の)建物共済に加入しているので、我が家の壊れた車庫も建物共済で補償してもらったらどうか」と言われたときである。被申立人に現状確認をしてもらったところ、「(共済契約申込書上)母屋以外は補償しなくても良いという所に○がしてあるので(共済金は)出ない」と言われた。このため、
「証書がないから契約申込書のコピーをFAXしてほしい」と言ったところ、「それは出来ません」と断られ、そのまま約1年経過したところに住所変更の依頼があり、申立人名義の共済契約申込書を初めて見たものである。
(5)本件共済契約申込書は甲番地のものであり、申立人の居住する建物を対象とするものではないから、補償の対象外といわれた。さらに、申立人の所在地には母屋や車庫も含めて6棟存在しており、当該共済契約申込書にはそのうち5棟の補償をしなくても良いとする箇所に○をしてあるが、そのようなことはあり得ず、このような顧客の意向を無視した捏造は決して許されるものではない。さらに今年になって申立人の知らぬところで所在地住所を乙番地に変更するなど、被申立人の行為は許すことが出来ないものである。
(6)そもそもすべて申立人が所有する土地建物を妻名義で契約させたこと自体、違法な契約締結であり、全額共済掛金を返還すべき事案である。
<共済団体の主張>
「本件申立にかかる共済掛金の返還請求について、返還事由が存在しない。」との判断を求める。
(1)本件共済契約締結に至る具体的な過程については、採契担当者と思われる職員が退職後既に死亡しているため不明であるが、被申立人においては、共済契約の締結に際して本人確認を行うように指導を徹底している。また、本件共済掛金については、申立人の妻名義の口座より支払いがなされていたものであるが、本件申立てがなされるまでの 25 年間、何ら異議を申し立てられることなく、掛金の引き落としが継続していたものである。これらの経緯を踏まえると、申立人においては、本件共済契約の存在を了知していたものと考えられ、共済契約は有効に成立したものと考えられる。
(2)本件共済契約締結に際して現実に約款・事業規約の交付がなされたか否かについては、採契担当者が死亡しているため、具体的事実関係は不明である。また、共済契約締結に際し、重要事項説明書の交付が義務付けられたのは平成 15 年以降のこと
であり、本共済契約の締結時である平成 3 年当時は重要事項説明書の交付は義務付けられていなかった。
(3)本件共済契約の共済掛金払込みに関して、申立人の妻名義の口座からの口座振替依頼書が存在しないことにつき、具体的な経緯は採契担当者が死亡しているため不明であるが、口座振替依頼書はその様式の中で、「次回以降の共済契約にかかる申込みの際、先のご契約の共済掛金の振替口座と同一とする場合は先の契約時に取得した口座振替依頼書をもって、以降の契約の振替依頼とする。」とされている。申立人の妻には本件共済契約以前に共済契約が存在したため、本件共済契約締結時において口座振替依頼書を取得していなかったものと考えられる。
(4)本件共済契約の所在地住所の変更手続きについても、採契担当者が死亡しているため、具体的事実関係は不明である。
(5)仮に本件共済契約が無効であるとした場合、共済掛金を支払っていたのは申立人の妻であり、不当利得を理由とする申立人からの共済掛金の返還請求は理由がないものと解される。
<裁定の概要>
審議会において、当事者双方の陳述内容や被申立人への事情聴取等に加え、①当時、契約締結に関わった人物が既に存在しないこと、②申込書上に記載された物件そのものが存在しないことを踏まえ、更に、③募集・申込みに際しての書類への記載内容や、
④その後の郵便物の授受等について、被申立人の主張を裏付ける確固たる証拠が得られないことを考慮すれば、有効契約が存在したとは言うことが出来ず、当該共済契約期間にかかる共済掛金の返還が妥当と判断された。
これらを受け、審議会より両当事者に対して和解の打診を行い、被申立人が申立人に対して、当該契約が無効(不存在)であることを確認し、正味共済掛金額を和解金として支払うことで解決を図る旨、両当事者合意し、和解契約書の締結をもって解決とした。