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■目次構成
残置物の処理等に関するモデル契約条項の解説等
2023 年度
第1 単身高齢者の賃貸住宅の入居の円滑化への課題と対応 1
1 契約時・契約期間中の課題と実務上の対応 1
第2 契約終了・残置物処分に係る法的問題と対応 3
1 賃貸借契約の終了 3
2 残置物の処分等 3
3 死後事務委任契約の活用 5
第3 残置物モデル条項の解説 6
1 モデル契約条項作成の趣旨等 6
(1)モデル条項作成の趣旨と対象とする賃貸借契約 6
(2)モデル契約条項の構成 6
(3)消費者契約法等との関係 6
2 解除事務委任契約及び残置物処理事務委任契約の締結 6
(1)2つの事務委任契約 6
(2)受任者の選定(賃借人) 7
(3)委任者死亡時通知先の確保(賃借人) 7
(4)事務委任契約の締結(賃借人・受任者) 7
(5)事務委任契約締結を前提とした賃貸借契約の締結(賃貸人・賃借人) . 8
3 賃貸借期間中の対応 8
(1)指定残置物の指定(賃借人) 8
(2)受任者の変更(賃借人) 9
(3)委任者死亡時通知先の変更(残置物5条3項)(賃借人) 9
4 賃借人が死亡したときの対応 10
(1)死亡事実の通知 10
(2)解除事務受任者の義務(解除2条) 10
(3)賃貸借契約の解除(解除1条) 10
(4)残置物事務受任者への通知(賃貸人) 10
5 残置物の処理 11
(1)残置物事務受任者の義務(残置物3条) 11
(2)物件内への立ち入り(残置物9条1項・2項)(残置物事務受任者) . 11
(3)残置物の状況を確認・記録(残置物6条3項・7条3項)(残置物事務受任者) 11
(4)非指定残置物の廃棄等(残置物6条)(残置物事務受任者) 11
(5)指定残置物の送付(残置物7条)(残置物事務受任者) 12
(6)金銭の相続人への返還(残置物8条)(受任者) 12
(7)残置物の移動・一時的な保管(残置物9条3項)(受任者) 13
(8)費用の精算(残置物事務受任者・賃借人の相続人・賃貸人) 13
6 事務委任契約の終了 14
(1)解除関係事務委任契約が終了するケース(解除3条) 14
(2)残置物関係事務委任契約が終了するケース(残置物11条) 14
(3)受任者への賃貸借契約終了通知(賃貸借2条2項)(賃貸人) 14
第1 単身高齢者の賃貸住宅の入居の円滑化への課題と対応
1 契約時・契約期間中の課題と実務上の対応
課 題 | 実務上の対応 | |
賃料支払能力の維持継続への懸念 | 単身高齢者の場合、将来的な賃料支払い能力に不安が生じるケースがある。親族等身寄りの者がいない場合には、連帯保証人の確保が 困難となる。 | ・家賃債務保証業者等の活用 |
近隣迷惑行為等の懸念 | 契約が長期に及ぶ場合、契約期間中に判断能力等の低下等に伴い近隣迷惑行為等がなされるケースがある。 | ・近親者等を連帯保証人や緊急連絡先とする。 ・福祉との連携等 ・早期に異変を発見ができる体制の確保(見守りサービスの活用等) |
契約終了の方法に係る懸念 | 賃貸物件内で賃借人が死亡した場合、賃借権は相続されるため、相続人を把握していないときには、直ちに賃貸借契約を終了させるこ とが困難なケースがある。 | ・推定相続人の一人を連帯保証人や緊急連絡先とする。 |
残置物の取扱いに係る懸念 | 死亡した賃借人の所有財産が物件内に残っている場合、相続の対象となるため、これらを賃貸人や管理業者が自由に処分することができない。相続人を把握していないときには、処分が困難となるケー スがある。 | ・相続人を確認し、引き取りや処分の同意を得る ・連帯保証人に事実上の協力を求める。 ・遺言の活用 |
特別な 修繕 (特殊 清掃 等)に伴う費用負担の懸念 | 賃貸物件内で人の死があり、発見が遅れた場合、特殊清掃等が必要となるが、当該費用の負担の在り あり方が問題となる。 | ・保険の活用 |
事故物件化への懸念 | 賃貸物件内で人の死があった場合、次の入居者に対する告知義務の有無が問題となる。 | ★「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」に基づく対応 |
★参考
宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(令和3年10月国土交通省)の概要
【位置づけ】 宅地建物取引業者の義務の判断基準
【対 象】 取引の対象となる「居住用不動産」で生じた「人の死」に関する事案
【告知の考え方】
死から3年以内 | 死から3年経過後 | ||
自然死・日常生活の中での不慮の死 | 原則 | × | × |
特殊清掃 | 〇 | × | |
特殊清掃+α(事件性、周知性、社会に与えた 影響が特に高い) | 〇 | 〇 | |
上記以外の死 | 原則 | 〇 | × |
+α | 〇 | 〇 |
① 発生箇所が住戸内(日常生活で通常使用する必要があり、住み心地に影響のある集合住宅の共用部等を含む)で人の死が生じた場合
〇・・賃借人の判断に重要な影響をもたらすと考えられる場合に告知が必要
×・・告知しなくてもよい
※ただし、賃借人から問われた場合や、賃借人において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合には、すべて告知が必要となる。
死から3年以内 | 死から3年経過後 | ||
自然死・日常生活の中での不慮の 死 | 原則 | × | × |
特殊清掃 | × | × | |
特殊清掃+α | 〇 | 〇 | |
上記以外 | 原則 | × | × |
+α | 〇 | 〇 |
② 発生箇所が隣接住戸や賃借人が日常的に利用しない集合住宅の共用部等で人の死が生じた場合
〇・・賃借人の判断に重要な影響をもたらすと考えられる場合に告知が必要
×・・告知しなくてもよい
※ただし、賃借人から問われた場合や、賃借人において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合には、すべて告知が必要となる。
第2 契約終了・残置物処分に係る法的問題と対応
1 賃貸借契約の終了
賃貸人が契約期間中に賃貸借契約を終了させるためには、賃借人との間で合意解約をし、または賃借人に対し解除の意思表示をする必要がある。
賃借権は相続の対象となるため、普通建物賃貸借契約・定期建物賃貸借契約の契約期間中に賃借人が死亡した場合、賃貸借契約は終了せずに、賃借権は相続人に相続される。したがって、相続人との間で合意解約をし、または相続人に対し解除の意思表示をすることによってはじめて契約関係が終了する。
このように、賃借人が死亡した場合には相続人との間で契約終了手続きをすることになるが、相続人を把握していないと、改めて戸籍調査等をする必要があり、契約終了が困難となる。よって、あらかじめ契約の段階で、推定相続人の一人を連帯保証人や緊急連絡先とすることにより、相続人にすみやかに対応を求めることができるようにしておくことが有益である。
2 残置物の処分等
(1)基本的対応
賃貸借が終了し、賃借人等による任意の明渡が完了しない間に、賃貸物件内の賃借人の動産類を物件内から運び出し、処分等した場合には、自力救済禁止の法理に抵触し、賃借人に対する不法行為責任が生じる。したがって、賃借人と連絡を取り、引き取りを要請するか、残置物の処分等につき同意を得ることが基本となる。
賃借人が死亡した場合、残置物についても相続の対象となるため、相続人を確認し、引き取りを求めるか、処分の同意を得ることが必要となる。
このように、賃借人が死亡した場合には相続人との間で残置物の処分等をすすめることになるが、相続人を把握していないと、改めて戸籍調査等が必要となり、残置物の処分が困難となる。よって、あらかじめ契約の段階で、推定相続人の一人を連帯保証人や緊急連絡先とすることにより、相続人にすみやかに対応を求めることができるようにしておくことが有益である。
※相続人が不明または不存在の場合には、利害関係人又は検察官の申立てに基づき家庭裁判所が選任した相続財産管理人が、残置物の処分等をすることになる。
(2)賃貸借契約書中の残置物処分に係る規定の有効性
あらかじめ賃貸借契約書中に、賃貸借の終了に伴う残置物の処分等に係る取扱いを取り決めることがある、しかしこの場合においても、その有効性には限界があることに注意しなければならない(参考裁判例参照)。
【参考裁判例】
№1 賃貸借終了後、賃貸人による賃借人所有物の搬出処分を許容する合意がある場合において、賃貸人が賃貸建物の入口に施錠し建物内の賃借人の動産類を搬出処分した行為について不法行為責任が認めら
れた事例(東京高裁平成3年1月29日判決)
(事案の概要)
契約書中に、「賃貸借終了後、賃借人が本件建物内の所有物件を賃貸人の指定する期限内に搬出しないときは、賃貸人はこれを搬出保管または処分の処置をとることができる」旨の条項がある契約において、賃貸人が、賃借人の賃料滞納を原因として契約を解除をし、本件建物の入口扉に錠を取付け、その後本件建物に存在した賃借人所有の動産類を搬出処分したことから、賃借人が賃貸人に対し、違法な自力救済であるとして損害賠償を請求した事案である。
(裁判所の判断)
裁判所は、本件建物は依然として賃借人が占有していたものであるところ、賃貸人の行為は、不動産に関する賃借人の占有に対する違法な侵害であり、残されていた動産に対する賃借人の所有権を違法に侵害するものであることなどから、自力執行(自力救済)に該当するとした。また、契約書中の上記規定内容は、本件建物について賃借人の占有に対する侵害を伴わない態様における搬出、処分(例えば、賃借人が任意に本件建物から退去した後における残された物件の搬出、処分)について定めたものと解すべきであるところ、賃貸人の行為はこれに該当しない。仮にこの規定を本件建物に係る賃借人の占有を侵害して行う搬出、処分をも許容する趣旨の合意であるとすれば、自力執行をも許容する合意ということになり、、公序良俗に反し、無効であるとした。
№2 家賃債務保証業が賃借人等との間で使用している契約書の条項が消費者契約法10条に該当するとして、当該条項が含まれている契約書の使用の差し止め等が命じられた判決(最高裁令和4年12月1
2日判決)
(事案の概要)
適格消費者団体が、家賃債務保証業者が使用している契約書中の次の条項につき、消費者契約法12条3項に基づき、当該契約条項を含む契約の申込み・承諾の差し止め、当該条項が記載された契約書ひ
な型が印刷された契約書用紙の廃棄等を求めた事案である。
ア 家賃債務保証業者は、賃借人が支払いを怠った賃料等及び変動費の合計額が賃料の3カ月分以上に達したときは、無催告にて賃貸借契約を解除することができる。
イ 家賃債務保証業者は、賃借人が賃料等の支払いを2箇月以上怠り、家賃債務保証業者が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡が取れない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ、かつ、賃借物件を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これ
をもって賃借物件の明渡しがあったものとみなすことができる。
(裁判所の判断)
裁判所は、概ね以下のように述べて、当該契約条項は消費者契約法10条に該当するとして、当該契約条項を含む契約の申込み・承諾の差し止め、当該条項が記載された契約書ひな型が印刷された契約書用紙の廃棄等を家賃債務保証業者に命じた。
① 契約条項アは、所定の賃料等の支払の遅滞が生じた場合、賃貸借契約の当事者でもない家賃債務保証業者がその一存で何らの限定なく賃貸借契約を催告なく解除できるとするものであるから、消費者契約法10条に該当する。
② 契約条項イは、賃貸借契約が終了していない場合であっても、賃借人は、賃借物件に対する使用収益権が消滅していないのに、賃貸借契約の当事者でもない家賃債務保証業者の一存で、本件建物の明渡しがあったものとみなしその使用収益権が制限され、明渡義務を負っていないにもかかわらず、法律に定める手続によることなく賃貸人による明渡請求権が実現されたのと同様の状態に置かれることから、消費者契約法10条に該当する。
3 死後事務委任契約の活用
相続人等の積極的な協力が得られる場合には、上記1や2(1)の手当をすることによって、相続人による契約の終了等をすみやかに実施することが可能となり、単身高齢者が死亡した場合のリスクを回避することができる。
しかし、賃貸借契約手続きにおいて推定相続人による対応が困難な場合には、契約の終了及び残置物の処分につき、賃貸借当事者以外の者にその手続きを委ねる方策が必要となる。そこで、国土交通省及び法務省は、令和3年8月に、残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)を策定し、公表した。
以下、第3において、当該モデル契約条項を、具体的な手続きの流れに則しながら紹介し、解説をする。
第3 残置物モデル条項の解説
1 モデル契約条項作成の趣旨等 [P1]
(1)モデル条項作成の趣旨と対象とする賃貸借契約
モデル契約条項は,単身の高齢者が住居を賃借する事案において,賃借人が死亡した 場合に残置物を円滑に処理することができるようにすることで残置物リスクを軽減し,賃貸用建物の所有者の不安感を払拭することを目的とするものである。
モデル契約条項は、60歳以上の単身高齢者が賃借人となるケースを対象として想定している。
(2)モデル契約条項の構成
モデル契約条項は、次の3つから構成されている。ア 解除関係事務委任契約に関するモデル条項
イ 残置物関係事務委託契約に関するモデル条項
ウ 賃貸借契約に設ける上記(準)委任契約に関連する条項
※アとxは、同一の受任者との間で締結する場合には,その形式も1通の契約書として差し支えない。
※以下、3つのモデル条項を引用等する場合は、解除関係事務委任契約(上記ア)は「解除〇条」と、残置物関係事務事務委任契約(上記イ)は「残置物〇条」と、賃貸借契約に設ける条項(上記ウ)は「賃貸借〇条」と、それぞれ表記する。
(3)消費者契約法等との関係
モデル契約条項は,残置物リスクを軽減し,賃貸用建物の所有者の不安感を払拭することを目的とするものであるが,一方で賃借人による財産の管理に一定の負担を課する面がある。したがって、残置物リスクに対する賃貸用建物の所有者の不安感が生ずるとは考えにくい場面(例えば,個人の保証人がいる場合~この場合には、保証人に残置物の処理を期待することもできる。)で使用した場合,民法第90条や消費者契約法第10条に違反して無効となる可能性があることに注意する必要がある。
2 解除事務委任契約及び残置物処理事務委託契約の締結
(1)2つの事務委任契約
① 解除関係事務委任契約 [P2~]
解除関係事務委任契約は,賃貸借契約の存続中に賃借人が死亡した場合に,合意解
除の代理権,賃貸人からの解除の意思表示を受ける代理権を受任者に授与するもの。
※本契約における受任者を、以下「解除事務受任者」という。
② 残置物関係事務委託契約 [P7~]
残置物関係事務委託契約は,賃貸借契約の存続中に賃借人が死亡した場合に,賃貸物件内に残された動産類(残置物)の廃棄や指定された送付先への送付等の事務を受任者に委託するもの。※本契約における受任者を、以下「残置物事務受任者」という。
(2)受任者の選定(賃借人) [P2]
受任者は、以下の順位に従い、賃借人の意思に従って選定する必要がある。
① 賃借人の推定相続人
~推定相続人を受任者とすることが困難な場合(所在不明・受任意思がない場合など~
② 居住支援法人・居住支援を行う社会福祉法人
③ 賃貸人から委託を受けて物件を管理している管理業者(賃貸人の利益を優先することなく,委任者である賃借人(の相続人)の利益のために誠実に対応する必要がある)
※なお、賃貸借契約の解除等をめぐって賃貸人と賃借人(の相続人)の利害が対立することがあり得るので、賃貸人を受任者とすることは避けるべきである。
(3)委任者死亡時通知先の確保(賃借人) [P14]
① 委任者死亡時通知先とは
賃借人の相続人との間の紛争を可及的に予防するため、残置物事務受任者が委任者である賃借人の死亡を知った場合には、直ちにその旨及び受任者の受任事務内容を、委任者死亡時通知先に通知する(残置物5条1項)。また,残置物事務受任者が指定残置物及び非指定残置物を搬出しようとするときも、2週間前までに委任者死亡時通知先にその旨通知することとされている(残置物5条2項)。
② 委任者死亡時通知先には誰がなるのか
委任者死亡時通知先は,推定相続人の一人にお願いすることが望ましいとされている。また、相続人がなく,特に縁故のあった者に死因贈与などをする場合には死因贈与を受けた者を通知先とすることも考えられる。
※なお、委任者死亡時通知先を定めないことも可能。
(4)事務委任契約の締結(賃借人・受任者)
モデル条項を使用し、賃借人と受任者との間で2つの事務委任契約を締結する。
※受任者が同一の場合には,2つの内容をまとめて1通の契約書としてもかまわない。
なお、モデル条項中の【 】内は、モデル条項の記載を参考に、当事者間の合意により設定することが想定されている。
※例えば、非指定残置物のうち保管に適したものについては、賃借人の死亡から一定期間経過後
に廃棄することとしているが(残置物6条1項)、この期間は,モデル条項では【3か月】としているところ,具体的な契約においては実情に応じて当事者において合意によって定めることになる(ただし3か月を下回る期間を定めることは避けるべきであるとされている)。
(5)事務委任契約締結を前提とした賃貸借契約の締結(賃貸人・賃借人)[P24/25] 事務委任契約を前提とした賃貸借契約を締結する際には、賃貸借契約書に以下の
条項を追記等することになる。
① 賃貸借契約期間中に事務委任契約が終了した場合の措置(賃貸借1条)
・賃貸借契約の期間中に事務委託契約が終了した場合,賃借人は,速やかに同内容の契約を新たに締結するよう努めなければならないこと。
・事務委任契約等が終了した場合及び新たに締結した場合、賃借人は、賃貸人に対し、その旨通知しなければならないこと。
② 賃貸人の通知義務(賃貸借2条)
・賃貸人が賃借人の死亡を知ったときは、解除事務受任者に対し、速やかにその旨通知しなければならないこと。
・賃貸借契約が終了したときは、賃貸人は残置物事務受任者に対し、速やかにその旨通知しなければならないこと。
3 賃貸借期間中の対応
(1)指定残置物の指定(賃借人)
① 残置物の分類とそれぞれの取扱い [P7~9]
分 類 | 原則的な処理方法 | 対 象 | |
ア | 指定残置物 | 指定送付先に送付 | 賃借人が指定する動産(第三者の 所有物を含む) |
イ | 非指定残置物 | 一定期間経過後廃棄 | 上記以外の動産(第三者の所有物 は含まない) |
ウ | 金銭 | 相続人に送金 | 金銭(アイで換価した場合の代金 を含む) |
残置物(委任者が死亡した時点で本物件内又はその敷地内に存する動産及び金銭)は、次の3つに分類され、それぞれにつき取扱いが異なる。
② 指定残置物の指定(残置物4条) [P11~14]
上記①のように、動産は指定残置物としての指定によりアとイが区分されることから、廃棄しないで相続人等に相続させることを想定している動産や、他の所有者
の動産については、指定残置物として指定することが必要である。
ア 指定残置物リストへの掲載
イ 指標を貼付するなど,当該動産が指定残置物であることを示す適宜な措置を講ずる方法(※2)
指定残置物の指定の方法は、次の2つのいずれかであり、委任者がいずれかの方法を選択する。指定に当たっては,その動産を他の動産から区別できる程度に特定する(※1)ことが必要である。
※1 物件内にある複数のテレビの一部を廃棄対象から除外する場合は,メーカー,大きさ,設置場所などの要素によっていずれのテレビを廃棄の対象から除外するのかを特定する。
※2(例)・動産にシールを貼ってそこに廃棄してはならない旨記載する。
・金庫や容器にシールを貼って,そこにその中の動産を廃棄してはならない旨記載することにより明示した上でその金庫や容器内に動産を保管しておく。
③ 指定残置物の送付先の決定とリスト等への記載(残置物4条)[P11~14]
指定残置物については、送付先を明示する。
・指定残置物リストに掲載⇒当該指定残置物リストに送付先を記載
・動産自体に指標を貼付 ⇒当該指標に送付先を記載
なお、賃借人が指定残置物の遺贈につき遺言執行者又は遺言執行者の指定を第三者に委託したときは,その者をその指定残置物の送付先としなければならない。
(2)受任者の変更(賃借人) [P24/25]
① 新たな事務委任契約締結の努力義務(賃貸借1条)
賃貸借契約の存続中に事務委託契約が終了した場合(既に同内容の契約が締結されている場合を除く)、賃借人は,速やかに同内容の契約を新たに締結するように努める必要がある(賃貸借1条)。
なお、新たに締結する契約の相手方は,従来の受任者とは異なる者であることが多いと考えられるが,同じ者でも差し支えない。
② 賃貸人への通知(賃貸借2条)
従前の事務委任契約が終了し,新たな事務委任契約が締結された場合には,賃貸人が受任者を把握できるよう、賃借人は賃貸人に対し、その旨を通知しなければならない。
(3)委任者死亡時通知先の変更(残置物5条3項)(賃借人) [P14/15]
賃借人は、いつでも委任者死亡時通知先を変更することができるが、この場合、賃借人は、残置物事務受任者に対し、通知しなければならない(通知が残置物受任者に到達したときに、委任者死亡時通知先の変更の効力が生じる)。
4 賃借人が死亡したときの対応
(1)死亡事実の通知
① 賃貸人による解除事務受任者への通知(賃貸借2条1項)(賃貸人)[P24/25]賃借人が死亡しても,解除事務受任者がこれを知るとは限らないため,賃貸人
は解除事務受任者にその旨通知する。
② 委任者死亡時通知先への通知(残置物5条)(残置物事務受任者)[P14/15]
残置物事務受任者が委任者の死亡を知った場合には,直ちにその旨及び受任事務内容を委任者死亡時通知先に通知する(委任者死亡時通知先の指定がないときは不要)。
(2)解除事務受任者の義務(解除2条) [P10/11]
解除事務受任者が委任事務を処理するに当たっては,賃借人または賃借人の地位を承継したその相続人の意向(※)を考慮し、その利益のために委任事務を処理する必要がある。
※「子の○○が住みたいと言えば住まわせてあげてほしい」などの賃借人の生前の意向、賃貸借契約の継続を希望する相続人の意向(ただしその相続人がどのような事情で建物の使用を必要としているのか等の確認も必要)など
(3)賃貸借契約の解除(解除1条) [P9/10]
① 賃貸人と解除事務受任者との間の合意解除(賃貸人・解除事務受任者)
解除関係事務委任契約により、解除事務受任者は賃貸人との間で賃貸借契約を合意解除する代理権を有するので,賃貸人と解除事務受任者との合意により,賃貸借契約を解除することができる。
※この場合の顕名は,例えば,「故【委任者の氏名】相続人代理人(賃貸借契約解除関係事務受任者)【受任者の氏名】」などとする。
② 賃貸人からの債務不履行解除(賃貸人)
解除事務委任契約により、解除事務受任者は、賃借人が本賃貸借契約の存続中に 死亡することを停止条件として,賃貸人の解除の意思表示を受領する代理権を有 しているので、賃貸人は、解除事務受任者に対し解除の意思表示をすることにより、賃貸借契約を解除することができる。
(4)残置物事務受任者への通知(賃貸人) [P25]
上記(3)により賃貸借契約が終了した場合、賃貸人は、残置物事務受任者にその旨を通知する(賃貸借2条2項)。
5 残置物の処理
(1) 残置物事務受任者の義務(残置物3条)[P10/11]
残置物事務受任者が委任事務を処理するに当たっては,賃借人または賃借人の地位を承継したその相続人の意向(※)を考慮し、その利益のために委任事務を処理する必要がある。
※相続人の一人による非指定残置物の一部の引取りの希望(ただし形見分けのようなものに限定)など
(2)物件内への立ち入り(残置物9条1項・2項)(残置物事務受任者)[P20]
残置物事務受任者は、賃貸物件内に残置された物の廃棄等を行うため、賃貸物件への立入ることができる。入口が施錠されているような場合には,賃貸人に協力(賃貸人が保有するマスターキーによるxxなど)を求めることができる。
(3)残置物の状況を確認・記録(残置物6条3項・7条3項)(残置物事務受任者)
[P15~19]
本物件内にどのような動産があったか,その処分方法が適切であったかなどを巡ってその後紛争が生ずることもあり得ることから、残置物事務受任者は、廃棄・送付・換価・保管のために搬出する前の残置物の状況を、第三者(相続人,委任者死亡時通知先などのほか、賃貸人や管理会社,仲介業者等でもかまわない)の立会いの下,確認・記録(写真撮影等)しておく。
(4)非指定残置物の廃棄等(残置物6条)(残置物事務受任者)[P15~17]
① 保管に適したもの(残置物6条1項本文)
非指定残置物のうち保管に適したものについては、賃借人の死亡から契約で定められた期間(モデル条項では3カ月)経過後に、委任者死亡時通知先に2週間前までに通知のうえ(残置物5条2項)、廃棄する。
※なお、この期間の起算点は死亡時であるから,死亡から当該期間が経過していれば,本賃貸借契約終了後直ちに廃棄等に着手することができる。
※廃棄に着手するまでに相続人や利害関係者から非指定残置物の引取りを希望した場合には、その者に対して交付することは必ずしも委任の本旨に反しないが,その対象は,客観的な価値は小さいがその第三者が主観的価値を見いだしているものを社会通念の範囲内で交付することに限られる(いわゆる形見分けのようなもの)。
② 価値等に照らし廃棄が適切でないと思われるもの(残置物6条1項但書)
非指定残置物のうち,その価値等に照らして廃棄することが適切でないと思わ
れる物(例えば,高価な宝石や衣服など)を発見した場合、非指定残置物であっても,委任者死亡時通知先に2週間前までに通知のうえ(残置物5条2項)、換価可能なものはできるだけ換価するよう努める(※)。
換価の方法は、一般的なリサイクル業者等に換価の可否を査定してもらうなどのように,取引通念からみて相当な方法で換価するという実務が考えられる。
換価して得られた代金は,賃借人の相続人に返還する(残置物第8条)。
※賃借人が指定残置物として指定することを失念したということも考えられること,高額な動産を廃棄することがその意思に反すると考えられることによる。
③ 保管に適しないもの(残置物6条3項)
非指定残置物のうち保管に適しないもの(食料品など)については,直ちに(※)廃棄する。
※委任者死亡時通知先に通知する時間的余裕がなく,高額なものは少ないと考えられることから,委任者死亡時通知先への通知や換価に努める義務はない。
(5)指定残置物の送付(残置物7条)(残置物事務受任者)[P17/18]
① 指定先への送付(残置物7条1項本文)
指定残置物で,指定残置物リスト等において第三者への送付が指定されている物については,委任者死亡時通知先に2週間前までに通知のうえ(残置物5条2項)、当該リスト等において指定された第三者に対し,残置物事務受任者が選択する方法
(例えば,国内であれば郵便や宅配便,海外であればクーリエや国際宅配便などが考えられる。)により送付する。
② 指定先への送付が不可能又は困難な場合(残置物7条1項但書)
リスト等において指定された第三者に送付したところ転居していて転居先が判明しない場合(※)には、賃借人の死亡後一定期間(モデル条項では3か月)経過後で、かつ、本賃貸借契約終了後に、以下の措置をとることができる。
・換価可能な場合⇒換価(代金は賃借人の相続人に返還)
・ 換価が不可能又は困難な場合⇒廃棄
※残置物事務受任者は、換価や廃棄をするまでに当該第三者の所在等を探索する義務まで負わない。
(6)金銭の相続人への返還(残置物8条)(受任者) [P19]
本物件内に残されていた金銭は指定残置物にも非指定残置物にも該当しないことから,賃借人の相続人に返還する。相続人の存否や所在が明らかでなく,残置物事務受任者がこれを過失なく知ることができないときは,供託する。
(7)残置物の移動・一時的な保管(残置物9条3項)(受任者)[P20]
残置物事務受任者は、委任者死亡時通知先に2週間前までに通知のうえ(残置物5条
2項)、残置物を本物件又はその敷地から搬出し,別の場所(倉庫やトランクルームなど)に保管することもできる。
※賃貸物件内の残置物を賃貸物件内に保管したままとすると,賃貸人としては賃貸物件を賃借人以外の者に賃貸することができないし,賃借人の相続人としても,保管が継続する間賃料(あるいは賃料相当額の損害賠償・不当利得)の負担が生ずることから,賃貸物件以外に適切な保管場所が存在するのであれば,残置物を賃貸物件から搬出し,他の場所に保管することが望ましいと考えられる。
※残置物をいったん搬出して保管し,賃借人の死後【3か月】が経過したために廃棄する際には,改めて受任者死亡時通知先への通知や第三者の立会いは不要。
(8)費用の精算(残置物事務受任者・賃借人の相続人・賃貸人)[P21]
① 相続人に対する費用の請求(残置物10条1項)
本契約に基づく委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは,賃借人の相続人に対し,その費用及びその支出の日以後における利息の償還を請求できる。
※なお、指定残置物又は非指定残置物を換価した場合や本物件内に金銭が存した場合は,その金銭の合計額から費用を控除することも可能(残置物10条2項)
② 敷金との相殺・保証
上記費用は、賃貸人が残置物事務受任者に対し第三者弁済したうえで、当該求償権の額を賃貸借契約上の敷金から差し引くことも可能(※)。
また、充当できる敷金が求償権の全部に満たない場合に備えて,別途,求償権(のうち敷金から充てることができなかった部分)を被保証債権とする保証契約を締結しておくという対応も考えられる。
※この場合、あらかじめ賃貸借契約中に、以下の規定を定めておくことが考えられる。
第〇項 賃貸人は,残置物関係事務委託契約に基づく賃借人の相続人の費用及び利息の償還債務を第三者弁済することができるものとし,賃借人はこれに同意する。
第〇条 賃貸人が当該規定に基づき残置物関係事務委託契約に基づく賃借人の相続人の費用及び利息の償還債務を第三者弁済した場合には,当該第三者弁済により発生した賃借人の相続人に対する求償権の弁済に敷金を充てることができ,目的物件の明渡し時に当該求償権が発生している場合には,当該求償権の額を敷金から差し引いた額を返還することができる。
6 事務委任契約の終了
(1)解除関係事務委任契約が終了するケース(解除3条)[P4/5]
① 賃貸借契約が終了した場合(解除3条1号)
※この場合には,賃貸借契約終了に関する代理権を受任者に授与することは無意味である。
② 受任者が委任者(賃借人)の死亡を知ってから一定期間(モデル条項では6か月)中に賃貸借契約の解除がされない場合(解除3条2号)
例えば委任者の相続人が委任者の賃貸借契約上の地位を承継することを希望しているため,受任者が賃貸借契約の終了に関する代理権を行使しないこととした場合など。
※なお、単身の賃借人の死亡を受任者が知らないまま長期間が経過することも考えられるため、起算点は「受任者が委任者(賃借人)の死亡を知ったとき」となっている。
(2)残置物関係事務委託契約が終了するケース(残置物11条)[P22]
① 賃貸借契約が終了したときに賃借人が死亡していない場合(残置物11条1号)この場合には,委任者である賃借人自身が残置物の処理を含む賃貸物件の明渡
しを行うことが想定される。
② 解除関係事務委託契約が終了するまでの一定期間(モデル条項では6か月)中に賃貸借契約の解除がされない場合(残置物11条2号)
例えば委任者の相続人が委任者の賃貸借契約上の地位を承継し,引き続き賃借し続ける意思がある場合などが想定される。
(3)受任者への賃貸借契約終了通知(賃貸借2条2項)(賃貸人)[P25]
解除関係事務委任契約は賃貸借契約が終了した場合に、残置物関係事務委託契約は賃貸借契約が終了したときに賃借人が死亡していない場合に、それぞれ終了するが(上記(1)①・(2)①のケース),いずれの受任者も賃貸借契約の終了を知り得ないため,賃貸人が受任者に対し、賃貸借契約が終了した旨を通知する必要がある。