Contract
契約法1講義
贈与・売買
明治学院大学法科大学院教授xxx x
典型契約
◼ 第1章 | ◼ 第 8章 | 請負 | |
◼ 第2章 | ◼ 第 9章 | 委任 | |
◼ 第3章 | 交換 | ◼ 第10章 | 寄託 |
◼ 第4章 | 消費貸借 | ◼ 第11章 | 組合 |
◼ 第5章 | 使用貸借 | ◼ 第12章 | 終身定期金 |
◼ 第6章 | 賃貸借 | ◼ 第13章 | 和解 |
◼ 第7章 | 雇用 |
契約各論(典型契約)
1.贈与
財産権移転
無償
2.売買
返還不要
3.交換
有償
返還必要
契
約
各 物の利用
論
財産権非移転
典型契約
11.組合
役務の提供
4.消費貸借
7.雇用
6.賃貸借
5.使用貸借
8.請負
無償有償一般
9.委任
特別
10.寄託
(専門家)
事業
紛争の解決
12.終身定期金
13.和解
典型契約の当事者の呼び方
贈与
売買
交換
消費貸借,使用貸借
賃貸借
労働者(被用者)
使用者(雇主)
雇用
賃貸人 賃借人
貸主 借主
交換当事者 交換当事者
売主 買主
贈与者 受贈者
請負
委任
寄託
組合
終身定期金
和解当事者
和解当事者
和解
終身定期金債権者 終身定期金債務者
組合員 組合員
寄託者 受寄者
委任者 受任者
注文者 請負人
第1章 贈与
目次(下枠の をクリックすると,この目次に戻る)
◼贈与契約
◼特別の贈与
◼参考文献
第1章 贈与契約
◼ 第1節 無償契約総論としての贈与の機能
◼ 第2節 書面によらない贈与の拘束力
◼ 第3節 贈与者の担保責任
◼ 第4節 定期贈与と終身定期金との関係
◼ 第5節 死因贈与と遺言との関係
従来の説における偏見
◼ 教科書の記述([xxⅤ2(1957) 222頁,[有斐閣双書 民法(6) (1987)4頁])
◼ 贈与は無償の財産移転契約である。無償行為の社会的意義はそれほど大きくない。
◼ たしかに日常生活においては,無償行為による財産移転が頻繁に見られる。
◼ しかし,これは商品交換社会,有償行為による財産移転が基本である資本主義社会では,例外的なものである。
無償契約のための有償契約
◆ 人の一生は,無償の贈与を受ける
ことから始まる。
◆ xx・歳末商戦を見よ
◆ 消費者が高級品を購入するのは,贈与のためである。
◆ 贈与の要因としての「愛と恐怖」は,資本主義社会においても,取引の最重要の要因であり続けている。
◆ 人の一生を終えるまでに,どれだけの贈与(ボランティア)ができたかで人生の価値が評価されるのではないだろうか。
◼ 第549条(贈与)
◼ 贈与は,当事者の一方〔贈与者〕が自己の財産を無償で相手方〔受贈者〕に与える意思を表示し,相手方が受諾をすることによって,その効力を生ずる。
◼ 贈与の法的性質
◼ 無償・片務・諾成契約
◼ 贈与は,無償で相手方に財産権を与える諾成契約である。
◼ 贈与者だけが債務を負担し,受贈者は債務を負担しない。
◼ 財産権の移転契約
◼ 自己の財産の実体を減少させることにより相手方に財産的利益を与えるならば,財産権の移転に該当するとするのが通説の考え方である。
◼ この点から,通説は,債務免除(民法519条)も,贈与契約となり得るとしている。
◼ ただし,通説も,債務免除が単独行為であることを考慮して,たとえ,贈与契約となる場合であっても,民法550
条は適用されないとしている。
いわゆる紳士協定と贈与契約(カフェ丸玉事件)
◼ 大判昭10・4・25新聞3835号5頁
◼ カフェーの客がその女給に対して,独立資金として相当多額の供与を
諾約した場合であっても,
◼ それが一時の興に乗じ,女給の歓心を買うもの であるときは,贈与契約が成立したとは認めら れず,
◼ 要約者が履行を強要できない特殊な債務関係が生じたにすぎないものである。
◼ 自然債務か
◼ 判例の趣旨を,贈与契約とは異なる「法的拘束力を有しない給付約束」と考える説がある。
◼ 確かに,旧民法は,自然債務をxxで認めていたが,現行民法は,自然債務の規定を削除している。
◼ 心裡留保か
◼ 心裡留保だとすると,受贈者が善意かつ無過失で,贈与者の贈与意思を信頼した場合には,贈与契約は有効となる。
◆ しかも,本件の場合,受贈者は,女給を辞めて独立の準備をはじめており,xxx上も,もはや,無効を主張できないと考えるべきであろう。
◼ 第550条(書面によらない贈与の撤回)
◼ 書面によらない贈与は,各当事者が撤 回することができる。ただし,履行の終 わった部分については,この限りでない。
◼ 書面の意味
◼ 書面とは,贈与書面,すなわち,贈与契約書であるとするのがxxな解釈である。
◼ 通説・判例は,要件を緩和し,贈与者の意思が明確であれば,受贈者の受諾の意思の記載は不要であるとしている。
◼ 撤回の意味
◼ 効力が発生した後でも贈与の効力を否 定できるため,その性質は取消しである。理由を問わない点で,撤回とされているにすぎない。
◼ 最判昭60・11・29民集39巻7号
1719頁
◼ 甲から不動産を取得した乙がこれを丙に贈与した場合において,
x xが,司法書士に依頼して,登 記簿上の所有名義人である甲に対し,右不動産を丙に譲渡したので甲から直接丙に所有権移転登記をするよう求める旨の内容証明郵便を差し出したときは,
◼ 右内容証明郵便は,本条にいう書面に当たる。
◆ 相手方の反応への配慮
◆ 書面が契約書ではなく,要件が緩和されている場合には,相手方の反応を考慮することが必要である。
撤回と取消しの区別の基準の大混乱
効力の発生前か発生後か?
◼ 申込みの撤回(民法521条以下)
◆ 契約の効力が発生する前の問題なの
で,取消しではなく,撤回としている。
◆ しかし,申込みは,到達によってすでに効力が発生しているので,その後の効力の喪失は,実は,取消し(Revocation)である。
◆ 現代語化以前の民法の条文は,
申込みの「取消」としていた。
◆ それを現代語化に伴って撤回
(Withdrawal)としたのだが,学問的には,恥ずかしい誤りである。
◆ 国際条約では,申込みの撤回
(Withdrawal)とは,申込みの到達前の
問題であり,申込み到達後は,申込み
の「取消し(Revocation)」とされている。
理由が必要か無理由でもよいか?
◼ 書面によらない贈与の「撤回権」(民法550条)
◆ 効力発生後の問題なので,本来は「取消し」が正しい。しかし,「無理由」であることを理由に現代語化に伴って,「撤回」へと変更された。
◼ 無権代理人の相手方の「取消権」(民法115条)
◆ 「無理由」,かつ,効力発生前の問題であるため,現代語化の際に,「撤回」と変更すべきであった。ところが,今も「取消し」のままとなっている(通説さえも,撤回が正しいとしている)。
◼ 夫婦間契約の「取消権」(民法754条)
◆ この場合も,「無理由で」契約の効力を失わせるものであるため,「贈与」の場合と平仄を合わせるのであれば,「撤回」と変更すべきであった。
◆ しかし,民法は,この場合は,すでに効力が発生していることが確実であるため,この点を重視して,夫婦間契約の「取消し」としている。
◼ 第551条(贈与者の担保責任)
◼ ①贈与者は,贈与の目的
【物】である物又は権利の瑕疵又は不存在について,その責任を負わない。
◼ ただし,贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは,この限りでない。
◼ ②負担付贈与については,贈与者は,その負担の限度において,売主と同じく 担保の責任を負う。
◼ 無償契約の担保責任
◼ 第596条(貸主の担保責任)
◼ 第551条〔贈与者の担保責任〕の規定は,使用貸借について準用する。
◼ 有償契約の担保責任の免責
◼ 第572条(担保責任を負わない旨の特
約)
◼ 売主は,第560条から前条まで〔売主の担保責任〕の規定による担保の責任を 負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については,その責任を免 れることができない。
◼ (ただし,相手方悪意の場合には適用がない。すなわち,担保責任を負わない。)
Coffee Break
人類だけが持つ「分かち合う心」(1/5)
NHKスペシャル取材班『ヒューマン』49-57頁
◼ 実験の設定
◼ 隣り合う2つのブースにチンパンジーAとBとを入れる。
◼ 一つのチンパンジーAのブースには,ストローを使わないと飲めないジュースが置かれ、そのブースにはストローではなくステッキが置かれる。
◼ もう片方のチンパンジーBの ブースにはストローが置かれ、ステッキを使わないと
ジュースが
取れない場所にジュースを置く。
◼ チンパンジーの行動(1)
◼ AがBにステッキを要求すると,BはAにステッキを渡す。しかし,Aが要求しない限り,Bが自発的 にAにステッキを渡すことはない。
◼ チンパンジーの行動(2)
◼ Bからステッキを借りたAは,
ジュースを引き寄せ,おいしそうに自分だけで飲み干した。
◼ しかも,その後も,道具(ステッキとストロー)の貸し借りは続いた。「ジュースを分けてくれなんなら,もう道具は貸さない」といわんばかりに,拒否したチンパンジーはいなかった。
人類だけが持つ「分かち合う心」(2/2)
NHKスペシャル取材班『ヒューマン』49-57頁
◼ 考察(1)
◼ チンパンジーは,相手が困っていることは分かっていても,「人は人,自分は自分」なのだ。だから,お礼がなくてもよい。
◼ 借りた方も,「お礼をしなくてはいけない」と思わないし,もらえない方もジュースを欲しそうな顔はしても,怒ることはない。
◼ チンパンジーは,助けることができるが,「助け合う」ことができない。チンパンジーのお母さんは子どもを助ける。母子で一方的に助けることはあるけれども,子どもはお母さんを助けない。
◼ 考察(2)
◼ 人間は違う。人間では,親が子どもを助けるし,子どもも親を助ける。
◼ もし,お皿に苺が山盛りになっていたとする。2歳の子どもの口にお母さんが苺を入れる。
◼ すると,必ず子どもは苺をもって
「お母さんにもあげる」といって同じ動作をする。
◼ いただくと,それを返す。そういう
志をもって人間は生まれている。
◼ それは文化が違っても,時代が違っても変わるところはない。
◼ 第552条(定期贈与)
◼ 定期の給付を目的とする贈与は,贈与者又は受贈者の死亡によって,その効力を失う。
◼ 終身定期金との関係
◼ 定期的な給付の約束である点で両者は共通する。
◼ 約束の終期を当事者の一方の死亡時と定めた場合には,定期贈与は死亡によって効力を失い,終身定期金に関する規定が適用されることになる。
◼ 第689条(終身定期
金契約)
◼ 終身定期金契約は,当事者の一方が,自己,相手方又は第三者の死亡に至るまで,定期に金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを 約することによって,その効力を生ずる。
◼ 第553条(負担付贈与)
◼ 負担付贈与については,この節に定めるもののほか,その性質に反しない限り,双務契約に関する規定を準用する。
◼ 負担付贈与の意味
◼ 受贈者に一定の給付をすべき債務を課する贈与契約。
◼ 負担は付款(合意による条件)の 一種であって,対価ではないため,負担付贈与は,なお,無償契約であるが,双務契約に類似するため,双務契約に関する規定(同時履行の抗弁権,解除)が準用される。
◼ 最二判昭53・2・17判タ360号
143頁
◼ 養親が養子に対し養親を扶養すること等を条件としてした土地の負担付贈与が養子の負担たる義務の不履行により解除されたものと認められた事例。
◼ 負担付贈与において,受贈者が,その負担である義務の履行を怠るときは,民法 541条,542条の規定を準用し,贈与者は贈与契約の解除をなしうるものと解すべきである。
◼ 第554条(死因贈与)
◼ 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については,その性質に反しない限り,遺贈に関する規定を準用する。
◼ 準用が問題となる条文
◼ 民法1022条(遺言の撤回)
◼ 遺言者は,いつでも,遺言の方式に 従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
◼ 第1023条(前の遺言と後の遺言との抵
触等)
◼ ①前の遺言が後の遺言と抵触するときは,その抵触する部分については,後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
◼ ②前項の規定は,遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
◼ 準用されない条文
◼ 遺言の方式に関する条文
◼ 民法960条,967条~984条
◼ 遺言能力等に関する条文
◼ 民法961条~966条
◼ 性質上準用されない条文
◼ 民法986条~989条(遺言の放棄)
◼ 民法1004条(検認),
1005条(過料)
◼参考判例
◼ 最高裁判例一覧
(年代順)
◼ 立法理由
◼ 教科書
◼ コンメンタール
◼ 一般教養
贈与の拘束力(カフェ丸玉事件)
◼大判昭10・4・25新聞3835号5頁
◼カフェーの客がその女給に対して,独立資金として相当多額の供与を諾約した場合であっても,
◼それが一時の興に乗じ,女給の歓心を買うものであるときは,贈 与契約が成立したとは認められず,
◼要約者が履行を強要できない特殊な債務関係が生じたにすぎないものである。
書面による契約かどうか(1/2)
◼ 最一判昭37・4・26民集16
巻4号1002頁
◼ 県知事に対する農地所有権移転許可申請書に,譲渡人,譲渡人と表示して各記名捺印がなされ,
◼ 「権利を移転しようとする事由の詳細」の項に本件農地を贈与することにした旨,「権利を移転しようとする契約の内容」の項に無償贈与とする旨の各記載がある以上,
◼ 該申請書は民法第550条の書面に当る。
◼ 最二判昭60・11・29民集39
巻7号1719頁
◼ 甲から不動産を取得した乙がこれを丙に贈与した場合において,
◼ 乙が,司法書士に依頼して,登記簿上の所有名義人である甲に対し,右不動産を丙に譲渡したの で甲から直接丙に所有権移転登記をするよう求める旨の内容証明郵便を差し出したなど判示の事情があるときは,
◼ 右内容証明郵便は,民法550条にいう書面に当たる。
贈与に関する判例
書面による契約かどうか(2/2)
◼ 最一判昭53・11・30民集32巻8号1601頁
◼ 甲が乙を相手方として申し立てた財産処分禁止請求調停事件に丙が利害関係人として参加して調停が成立し,
◼ 調停調書に「乙は,その所有地のうち約45坪(別 紙図面記載の丙所有部分)を除いた部分を処分しようとするときには,甲と約10日前に相談のうえでする」旨の条項が記載されたが,
◼ 右調停調書において丙所有部分として約45坪の土地が除外されたのは,右調停に際し,乙から丙に対し右土地を贈与する合意が成立したためであるときは,
◼ 右調停調書は,乙,丙間の贈与について作成された民法550条所定の書面にあたる。
負担付贈与と双務契約に関する規定の準用
◼最二判昭53・2・17判タ360号143頁
◼養親が養子に対し養親を扶養すること等を条件としてした土地の負担付贈与が養子の負担たる義務の不履行により解除されたものと認められた事例。
◼負担付贈与において,受贈者が,その負担である義務の履行を怠るときは,民法五四一条,五四二条の規定を準用し,贈与者 は贈与契約の解除をなしうるものと解すべきである。
肯定例,否定例
◼ 最一判昭47・5・25民集26巻4号805頁
◼ 死因贈与の取消については,民法1022条がその方式に関する部分を除いて準用されると解すべきである。
◼ 最二判昭57・4・30民集36巻4号763頁
◼ 負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合には,
◼ 右契約締結の動機,負担の価値と贈与財産の価値との相関関係,契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右契約の全部又は一部を取り消すことがやむをえないと認められる
◼ 特段の事情がない限り,民法1022条,
1023条の各規定は準用されない。
否定例
◼ 最二判昭58・1・24民集37巻1号21頁
◼ 土地の登記簿上の所有名義人である甲が,右土地を占有xxする乙に対してその引渡を求めた訴訟の第1審で敗訴し,その第2審で成立した裁判上の和解において,
◼ 乙から登記名義どおりの所有権の承認を受ける代わりに,乙及びその子孫に 対して右土地を無償でxxする権利を与え,しかも,右権利を失わせるような一切の処分をしないことを約定するとともに,xが死亡したときは右土地を乙及びその相続人に贈与することを約したなど,判示の事実関係のもとでは,
◼ 右死因贈与は,甲において自由には取り消すことができない。
第2部 | 典型契約 | ||
◼ 第1章 | 贈与 | ◼ 第 8章 | 請負 |
◼ 第2章 | 売買 | ◼ 第 9章 | 委任 |
◼ 第3章 | 交換 | ◼ 第10章 | 寄託 |
◼ 第4章 | 消費貸借 | ◼ 第11章 | 組合 |
◼ 第5章 | 使用貸借 | ◼ 第12章 | 終身定期金 |
◼ 第6章 | 賃貸借 | ◼ 第13章 | 和解 |
◼ 第7章 | 雇用 |
◼ 売買は,当事者の一方〔売主〕がある財産権を相手方に移転することを約し,
◼ 相手方〔買主〕がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
◼ 現実売買(自動販売機による売買など)については,即時に履行が完了するため,議論がある。
◼ 売買契約は,有償・双務・諾成契約であり,典型契約の1つとして民法に規定され,その規定は有償契約一般に準用される。
◼ 双務契約かどうかは,冒頭条文に,「…約し,…約する」というように「約する」という用語が1箇だけか(片務契約),2箇以上あるか(双務契約)という基準でも判断できる。
◼ ただし,その有償契約の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
◼ 売買契約に関する規定は,有償契約総論としての意味を 持っている。
◼ 売買契約の節に書かれていることは,原則として,その他の有償契約にも準用されるからである(民法559条)。
◼ なお,無償契約の総論として の役割を果たしているのは, 贈与契約に関する規定である。
◼ ①売買の一方の予約は,相手方が売買を完結する意思を表示した時から,売買の効力を生ずる。
◼ ②前項の意思表示について期間を定めなかったときは,予約者は,相手方に対し,相当の期間を定めて,その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。
◼ この場合において,相手方がその期間内に確答をしないときは,売買の一方の予約は,その効力を失う。
◆ 予約完結権とは,契約締結権のこと。申込みに対する承諾と同じ。
◆ 予約をすると,相手方が申込みをしてくれたのと同じ状態となる。この点に予約のメリットがある
予約者の保護(催告権)
◼ ①売買の一方の予約は,相手方が売買を完結する意思を表示した時から,売買の効力を生ずる。
◼ ② 前項の意思表示について期間を定めなかったときは,予約者〔予約義務者〕は,相手方に対し,相当の期間を定めて,その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。
◼ この場合において,相手方がその期間内に確答をしないときは,売買の一方の予約は,その効力を失う。
申込者の保護(撤回権)
◼ 承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは,申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは,撤回する【取り消す】ことができない。
◼ 消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,
◼ 当事者がその物を消費貸借の目的【物】とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなす。
◼ 消費貸借の予約は,その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,その効力を失う。
◼ 売買代金を直ちに支払わずに借金とし,それに利息・担保をつける場合などがその例であって,新たに信用を授与する機能を営む。
◼ 民法588条と民法589条は,諾成的消費貸借契約が存在することを前提とした規定となっている。
◼ ①買主が売主に手付を交付したときは,当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,
◼ 買主はその手付を放棄し,売主はその倍額を償還して,契約の解除をすることができる。
◼ ②第545条第3項〔解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない〕の規定は,前項の場合には,適用しない。
◼ 手付を放棄し,または,相手方が,手付を倍戻して,契約を解除することができる(最判昭29・1・21民集8巻1号64 頁)。
◼ 違約手付
◼ 損害賠償額の予定,または,違約罰
を兼ねる。
◼ ただし,この考え方は,民法557条2項の明文に反する。
手付の意義(1/2)手付の放棄
手付300万円交放付棄
売主A 物物件件甲甲((33,0,00万0万円円))のの無売理買由契解約除 買主B
甲
3,000万円
売主C
乙
2,000万円
売主Aの収入: 300万円売主Cの収入: 2,200万円買主Bの費用: 2,500万円本来のBの費用: 3,300万円
手付の効用(2/2)手付倍戻し
売主A甲
3,000万円
手付300万円返済 手手付付330000万万円円交交付付
物物件件甲甲(3(,30,00万0万円円)の)の無売理買由契解約除
買主B 3,000万円
売主Aの収入: 4,400万円買主Bの収入: 300万円買主Dの費用: 4,400万円
買主D 4,000万円
手付の性質
◆オプション(権利の売買)
◆手付の性質は,物の売買ではなく,権利(予約完結権,または,無理由解除権の売買)である。
◆予約完結権の売買=予約の手
付
◆無理由解除権の売買=民法上の手付
◆その対価は,売買代金の1割程度でよいことが多い(適正価格は,ブラック・ショールズ式によって求められるとされている)。
◆双方向オプション
◆わが国の手付の特色は,無理由解除権の代金(手付)とその権利の買戻の代金(手付倍戻し)が同一であることである。
◆手付の効用
◆ 無理由解除権の売買を通じて,契約を破る自由,公正・自由な競争が促進される。
売買の費用と弁済の費用
◼ 第558条(売買契約に関する費用)
◼ 売買契約に関する費用は,当事者双方が等しい割合で負担する。
◆民法558条は,債権総論の民法485条の特則とされている。
◆しかし,特則ではなく,双務契約への適用に過ぎない考えることもできる。
◼ 第485条(弁済の費用)
◼ 弁済の費用について別段の意思表示がないときは,その費用は,債務者の負担とする。
◼ ただし,債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは,その増加額は,債権者の負担とする。
代金の支払時期と支払場所
◼ 第573条(代金の支払期限)
◼ 売買の目的物の引渡しについて期限があるときは,代金の支払についても同一の期限を付したものと推定する。
◼ 第574条(代金の支払場所)
◼ 売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは,その引渡しの場所において支払わなければならない。
◼ 第484条(弁済の場所)
◼ 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,特定物の引渡しは債権発生の時にその物 が存在した場所において,その他の弁済は債権者の現在の住所において,それぞれしなければならない。
◼ 通説による解釈
◼ 売買代金の支払場所に関する民法574条は,弁済の場所に関する民法484条に対する例外であると解している。
◆ しかし,民法574条は,民法484条の例外を定めたものなのだろうか?
代金の支払場所に関する比較法
現行民法の不親切な部分(債権総論部分)を補うために
CISG
◼ 第57条【売買代金の支払場所】
◼ (1)代金を他の特定の場所で
支払うことを要しない場合には,買主はそれを次の場所で売主に支払わなければならない。
◼ (a)売主の営業所,又は,
◼ (b)物品又は書類の交付と引換えに代金を支払うべきときには,その交付が行われる場所。
◼ (2)契約締結後に売主が営業所を変更したことにより生じた代金支払に付随する費用の増加は,売主の負担とする。
民法改正私案(加賀山)
◼ 第484条〔弁済の場所〕修正案
◼ (1)弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,
◼ 特定物の引渡の場合は,債権発生の当時その物の存在した場所で,
◼ 種類物の引渡の場合は,種類物の特定の当時その物の存在した場所で,
◼ その他の引渡債務(金銭債務)の弁済は,債権者の現時の住所でこれをしなければならない。
◼ (2)その他の債務(作為債務)については,債務者の現時の住所で弁済をしなければならない。
◼ 第574条〔代金支払場所〕修正案
◼ (1)売買代金の支払は,第484条1項の規定に従い,債権者である売主の住所でこれをしなければならない。
◼ (2)売買の目的物の引渡と同時に代金を払うべきときは,買主は,(第533条の規定の趣旨を援用して,)その引渡の場所で支払うことができる。
同時履行の抗弁権とその準用
◼ 第571条(売主の担保責任と同時履行)
◼ 第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定は,第563条から第566条まで及び前条
〔売主の担保責任〕の場合について準用する。
◼ 本来の同時履行の適用
◼ 双務契約から生じる双方の債務に対して,同時履行の抗弁権の規定が適用される。
◼ 同時履行の準用
◼ 本来ならば,代金債務は,目的物の引渡と同時履行の関係に立つ。
◼ しかし,権利または物に瑕疵がある場合には,損害賠償債権を確保するために,代金債権と損害賠償債権との間に同時履行の抗弁権の規定が準用される。
不安の抗弁権(1/2)
◼ 第576条(権利を失うおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
◼ 売買の目的【物】について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部又は一部を失うおそれがあるときは,買主は,その危険の限度に応じて,代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。
◼ ただし,売主が相当の担保を供
したときは,この限りでない。
◼ 第577条(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
◼ ①買い受けた不動産について抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続が終わるまで,その代金の支払を拒むことができる。
◼ この場合において,売主は,買主に対し,遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
◼ ②前項の規定は,買い受けた不動産について先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。
不安の抗弁権(2/2)
◼ 第578条(売主による代金の供託の請求)
◼ 前2条〔買主の代金支払拒絶権〕の場合においては,売主は,買主に対して代金の供託を請求することができる。
◼ ドイツ民法 第321条(不安の抗弁権)
◼ ①双務契約に基づいて先給付義務を負う者は,契約締結後,その者の反対給付請求権が相手方の給付能力の欠如により危殆化されることを知ることができるときは,
◼ その者が負担する給付を拒絶することができる。反対給付が実現され,また はそのための担保が給付されたときは,給付拒絶権は消滅する。
◼ ②先給付義務者は,相手方が給付と引き換えに,その選択に従い,反対給付を実現し,または担保を給付しなければならない,相当期間を指定することができる。
◼ その期間が徒過されたときは,先給付義務者は契約を解除することができる。
◼ この場合には,323条〔不給付又は不完全給付の場合の解除〕の規定が準用される。
果実の帰属
◼ 第575条(果実の帰属及び代金の利息の支払)
◼ ①まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは,その果実は,売主に帰属する。
◼ ②買主は,引渡しの日から,代金の 利息を支払う義務を負う。ただし,代金の支払について期限があるときは,その期限が到来するまでは,利息を支払うことを要しない。
◼ 第89条(果実の帰属)
◼ ①天然果実は,その元物から分離する時に,これを収取する権利を有する者に帰属する。
◼ ②法定果実は,これを収取する権利の存続期間に応じて,日割計算によりこれを取得する。
◼ 第189条(善意の占有者による果実の取得等)
◼ ①善意の占有者は,占有物から生ずる果実を取
得する。
◼ ②善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは,その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
◼ 第190条(悪意の占有者による果実の返還等)
◼ ①悪意の占有者は,果実を返還し,かつ,既に消費し,過失によって損傷し,又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
◼ ②前項の規定は,暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。
◼ 大判大13・9・24民集3巻440頁[民法判例百選Ⅱ(2001)第55事件]
◼ 売主は目的物の引渡を遅滞している場合でも,引渡までこれを使用し果実を取得しうると同時に,買主は,遅滞にあるときでも目的物の引渡を受けるまで代金の利息を支払うことを要しない。この場合には,民法190条は適用されない。
Coffee Break
第2節 売買の効力
1. 他人物売買と債務不履行責任
2. 権利の瑕疵に関する売主の責任
3. 資力の瑕疵に関する売主の責任
4. 物の瑕疵に関する売主の責任
5. 担保責任の免責特約の効力
他人物売買と債務不履行責任
◼ 第560条(他人の権利の売
買における売主の義務)
◼ 他人の権利を売買の目的
【物】としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
◆結果債務と手段の債務
◆民法560条以下は,原則として,売主の「結果債務」について規定している。
◆したがって,買主が悪意の場合の「手段の債務」については,民法415条以下の債務不履行責任も問題となる。
◼ 最一判昭41・9・8民集20巻
7号1325頁
◼ 他人の権利を目的とする売買の売主が,その責に帰すべき事由によって,該権利を取得してこれを買主に移転することができない場合には,
◼ 買主は,売主に対し,民法 561条但書の適用上,担保責任としての損害賠償の請求ができないときでも,
◼ なお債務不履行一般の規定に従って,損害賠償の請求をすることができるものと解するのが相当である。
売主の責任の体系
全部が他人の権利
買主の権利 民法561条
売主の権利 民法562条
権利の瑕疵
一部が他人の権利 民法563条
数量不足 民法565条
売 権利の制限
主
の責
任 資力の瑕疵 債権の売主の担保
用益権 民法566条
担保権 民法567条
責任 | ||
物の瑕疵 瑕疵担保責任 | 原則と適用除外 同時履行免責特約 | 民法570条 民法571条民法572条 |
強制競売 民法568条民法569条
◼ 第561条(他人の権利の売買における売主の担保責任)
◼ 前条の場合において,売主がその売却した権利を取 得して買主に移転することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。
◼ この場合において,契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは,損害賠償の請求をすることができない。
◼ 第562条(他人の権利の売買に
おける善意の売主の解除権)
◼ ①売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において,その権利を取得して買主に移転することができないときは,売主は,損害を賠償して,契約の解除をすることができる。
◼ ②前項の場合において,買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは,売主は,買主に対し,単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して,契約の解除をすることができる。
◼ 第563条(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任1)
◼ ①売買の目的【物】である権利の一部が他人に属することにより,売主がこれを買主に移転することができないときは,買主は,その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
◼ ②前項の場合において,残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは,善意の買主は,契約の解除をすることができる。
◼ ③代金減額の請求又は契約の解除は,善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。
◼ 第564条〔権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任2〕
◼ 前条の規定による権利は,買主が善意であったとき は事実を知った時から, 悪意であったときは契約 の時から,それぞれ1年
以内に行使しなければならない。
数量不足・数量多寡の場合(1/2)
◼ 第565条(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
◼ 前2条〔権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任〕の規定は,数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において,買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。
◼ CISG 第52条〔引渡履行期前の引渡し,数量超過の引渡し〕
◼ (1)売主が定められた期日前に物品を引き渡す場合には,買主は,引渡しを受領し,又はその受領を拒絶することができる。
◼ (2)売主が契約に定める数量を超過する物品を引き渡す場合には,買主は,超過する部分の引渡しを受領し,又はその受領を拒絶することができる。
◼ 買主は,超過する部分の全部又は一部の引渡しを受領した場合には,その部分について契約価格に応じて代金を支払わなければならない。
◼ 最判平13・11・27民集55巻6号1380頁
◼ 民法565条にいういわゆる数量指示売買において数量が超過する場合,買主において超過部分の代金を追加して支払うとの趣旨の合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもない。
◼ しかしながら,同条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎないから,
◼ 数量指示売買において数量が超過する場合に,同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできないと解するのが相当である。
数量不足・数量多寡の場合(2/2)
数量違い
数量不足 条文あり
数量超過 条文なし
受取拒絶 契約解除
受け取る 代金減額
受取拒絶 契約解除?受け取る ?
◼ 第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
◼ ①売買の目的物が地上権,永小作権,地役権,留置権又は質権の目的【物】である場合において,買主がこれを知らず,かつ,そのために契 約をした目的を達することができないときは, 買主は,契約の解除をすることができる。
◼ この場合において,契約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる。
◼ ②前項の規定は,売買の目的【物】である不動
産のために存すると称した地役権が存しな かった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
◼ ③前2項の場合において,契約の解除又は損害賠償の請求は,買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。
◼ 最判昭32・12・12民集11巻
13号2131頁
◼ 売買の目的たる土地につき罹災都市借地借家臨時処理法第10条により対抗力を有する賃借権が存する場合,
◼ 買主において右対抗力発生の要件たる事実関係を知っていた以上,たとえ対抗力あることを知らなくても,
◼ 民法第566条第2項を類推適用するにつき準用すべき同条第1項の「知ラサリシトキ」にあたらない。
◼ 第567条(抵当権等がある場合における売主の担保責任)
◼ ①売買の目的【物】である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは,買主は,契約の解除をすることができる。
◼ ②買主は,費用を支出してその所有権を保存したときは,売主に対し,その費用の償還を請求することができる。
◼ ③前2項の場合において,買主は,損害を受けたときは,その賠償を請求することができる。
◼ 買主の善意・悪意を問わない
◼ 本条の担保責任は,買主が善意であると悪意であるとを問わずに適用される。
◼ その理由は,売主が担保権を消除する約束で不動産が売買されるのが通例だからである。
◼ 適用が除外される場合
◼ したがって,被担保債権を控除して代金額を定めるなど,買主が,自らの消除を引き受けたと認められる場合には,本条の適用はない。
◼ 第568条(強制競売における担保責任)
◼ ①強制競売における買受人は,第
561条から前条まで〔売主の追奪担
保責任〕の規定により,債務者に対し,契約の解除をし,又は代金の減額を請求することができる。
◼ ②前項の場合において,債務者が無資力であるときは,買受人は,代金の配当を受けた債権者に対し,その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
◼ ③前2項の場合において,債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき,又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは,買受人は,これらの者に対し,損害賠償の請求をすることができる。
◼ 競売において,売主に当たるのは,債務者か,債権者か?
◼ 民法568条第1項は,売主に該当する者を債務者と想定しつつ,
◼ 同条第2項は,債務者が無資力の場合は,債権者に対して,担保責任を追及できることを規定している。
◼ 最判平8・1・26民集50巻1号155頁
◼ 建物に対する強制競売において,借地権の存在を前提として売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず,代金納付の時点において借地権が存在しなかった場合,
◼ 買受人は,そのために建物買受けの目的を達することができず,かつ,債務者が無資力であるときは,
◼ 民法568条1項,2項及び566条1項, 2項の類推適用により,強制競売による建物の売買契約を解除した上,売却代金の配当を受けた債権者に対し,その返還を請求することができる。
債権の売主の担保責任
◼ 第569条(債権の売主の担保責任)
◼ ①債権の売主が債務者の資力を担保したときは,契約の時における資力を担 保したものと推定する。
◼ ②弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは,弁済期における資力を担保したものと推定する。
◼ 債権売買の原則
◼ 債権の全部又は一部が他人に属するとか,債権に他人のために担保が設定されているとかの場合には,債権の買主は,売主の責任を追及できる。
◼ しかし,債務者が無資力であった場合には,債権の買主は,売主に対して担保責任を追及できない。
◼ 資力が担保される場合
◼ 債務者の資力を担保した場合,契約時の資力を担保したものと推定される。
◼ 将来債権の資力を担保した場合,弁済期の資力を担保したものと推定される。
◼ 資力の担保の効力
◼ 債権の弁済を受けられなかっ た買主に対して,債権の売主が
損害を填補しなければならない。
◼ その結果は,債権の売主は,債務の履行の引受をした(保証人となった)のと同じである。
物に隠れた瑕疵がある場合
◼ 第570条(売主の瑕疵担保責任)
◼ 売買の目的物に隠れた瑕疵が あったときは,第566条〔地上権等
がある場合等における売主の担保責任〕の規定を準用する。
◼ ただし,強制競売の場合は,この
限りでない。
◼ 第634条(請負人の担保責任)
◼ ①仕事の目的物に瑕疵があるときは,注文者は,請負人に対し,相当の期間を定めて,その瑕疵の修補を請求することができる。
◼ ただし,瑕疵が重要でない場合において,その修補に過分の費用を要するときは,この限りでない。
◼ CISG 第37条〔引渡期日前の追完〕
◼ 売主は,引渡しの期日前に物品を引き渡した場合には,買主に不合理な不便又は不合理な費用を生じさせないときに限り,
◼ その期日まで,欠けている部分を引き渡し,若しくは引き渡した物品の数量の不足分を補い,又は引き渡した不適合な物品の代替品を引き渡し,若しくは引き渡した物品の不適合を修補することができる。
◼ ただし,買主は,この条約に規定する損害賠償の請求をする権利を保持する。
売買と請負の担保責任の接近
住宅の品質確保の促進等に関する法律
◼ 第94条(住宅の新築工事の請負人の瑕疵担保責任の特例)
◼ ①住宅を新築する建設工事の請負契約(以下
「住宅新築請負契約」という。)においては,請負人は,
◼ 注文者に引き渡した時から10年間,住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの(次条において「住宅の構造耐力上主要な部分等」という。)の瑕疵(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く。次条において同じ。)について,
◼ 民法(明治29年法律第89号)第634条第1項及び第2項前段に規定する担保の責任を負う。
◼ ②前項の規定に反する特約で注文者に不利な
ものは,無効とする。
◼ ③第1項の場合における民法第638条第2項の規定の適用については,同項 中「前項」とあるのは,「住宅の品質確保の促進等に関する法律第94条第1項」とする。
◼ 第95条(新築住宅の売主の瑕疵担保責任の特例)
◼ ①新築住宅の売買契約においては,売主は,買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡されたものである場合にあっては,
◼ その引渡しの時)から10年間,住宅の構造耐力上主要な部分等の隠れた瑕疵について,民法第570条において準用する同法第566条第一項並びに同法第634条第1項及び第2項前段に規定する担保の責任を負う。
◼ この場合において,同条第1項及び第2項前段中「注文者」とあるのは「買主」と,同条第1項中「請負人」とあるのは「売主」とする。
◼ ②前項の規定に反する特約で買主に不利な
ものは,無効とする。
◼ ③第1項の場合における民法第566条第3項の規定の適用については,同項中「前2項」とあるのは「住宅の品質確保の促進等に関する法律第95条第1項」と,「又は」とあるのは「, 瑕疵修補又は」とする。
瑕疵担保責任に関する判例の動向
◼ 敷地に含まれる物質(フッ 素)が後に危険物と指定された場合と瑕疵担保責任の適用(否定)
◼ 建物としての基本的な安 全性を損なう瑕疵と不法行為責任(肯定)
◼ 第572条(担保責任を負
わない旨の特約)
◼ 売主は,第560条から前条まで〔売主の担保責任〕の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,
◼ 知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については,その責任を免れることができない。
◼ 第551条(贈与者の担保責任)
◼ ①贈与者は,贈与の目的【物】である物又は権利の瑕疵又は不存在について,その責任を負わない。
◼ ただし,贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは,この限りでない。
◼ ②負担付贈与については,贈与者は,その負担の限度において,売主と同じく担保の責任を負う。
担保責任免責特約の無効
◼ 消費者契約法第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
◼ ①次に掲げる消費者契約の条項は,無効とする。
◼ 一~四(略)
◼ 五 消費者契約が有償契約である場合において,当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には,当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に,当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
◼ ②前項第五号に掲げる条項については,次に掲げる場合に該当するときは,同項の規定は,適用しない。
◼ 一 当該消費者契約において,当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに,当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
Coffee Break
参考文献
◼参考判例
◼ 最高裁判例一覧
(年代順)
◼ 手付
◼ 瑕疵担保責任
◼ 立法理由
◼ 教科書
◼ コンメンタール
◼ 総合判例研究
手付の解釈
◼ 最三判昭24・10・4民集3巻10号437頁[民法判例百選Ⅱ(2001)第47事件]
◼ 売買契約書に,
◼ 「買主本契約ヲ不履行ノ時ハ手附金ハ売主ニ於テ没収シ,返却ノ義務ナキモノトス。売主不履行ノ時ハ買主ヘ既収手附金ヲ 返還スルト同時ニ手附金ト同額ヲ違約金 トシテ別ニ賠償シ以テ各損害補償ニ供ス ルモノトス。」
◼ という条項があることだけでは(特に手附は右約旨の為めのみに授受されたるものであることが表われない限り),
◼ 民法557条の適用を排除する意思表示があつたものということはできない。
◼ 最一判昭29・1・21民集
8巻1号64頁
◼ 売買の手付は,反対の証拠がないかぎり,民法557条所定のいわゆる解約手付と認むべきである。
履行の着手に関する判例(肯定)
◼ 最一判昭26・11・15民集5巻12号735頁
◼ 家屋の買主が明渡期限後売主に対してしばしば明渡しを求め,かつ売主が明け渡せばいつでも残代金の支払いをすることができる状態にしていた場合には,買主に履行の着手がある。
◼ 最三判昭30・12・26民集9巻14号2140頁
◼ 賃貸建物の売買において,家屋の売主が賃借人から明渡しを受けた上これを買主に引き渡す旨の約定がある場合に(先履行義務),買主がしばしば売主にこの約定の履行を督促し,その間常にいつでも支払いができるように残代金を用意し,他方売主が買主とともに賃借人方におもむいて明渡しを求めたときは,売主・買主ともに履行に着手したものと 認められる。
◼ 最一判昭33・6・5民集12巻9号1359頁
◼ 土地の買主が約定の履行期後,売主に対してしばしばその履行を求め,かつ売主において所有権移転登記手続をすればいつでも支払えるように残代金の準備をしていた場合には,買主に履行の着手がある。
◼ 最一判昭51・12・20判時843号46頁
◼ 借家人の居住する建物及びその敷地の売買で,売主が借家人を立ち退かせたうえで土地建物を買主に引き渡す約定である場合,売主が売買直後ごろ1,2度借家人に立退きを要求しただけでその後は借家人を立ち退かせる努力をせずに放置し
◼ ,他方,買主は,その間しばしば売買の仲介人に対し借家人を立ち退かせて土地建物を 引き渡すよう売主に催告されたい旨を依頼し,更にその後売買代金を携えて売主方に赴き,売主に対しこれを受け取るよう求めた場合には,買主に民法五五七条にいわゆる「契約ノ履行ニ著手」があったものと認めるのが相当である。
◼ 最一判昭57・6・17判時1058号57頁
◼ 農地の買主が約定の履行期後売主に対してしばしば履行を催告し,その間農地法3条所定の認可がされて所有権移転登記手続をする運びになればいつでも残代金の支払をすることができる状態にあったときは,現実に残代金を提供しなくても,民法557条1項にいわゆる「契約の履行に着手」したものと認めるのが相当である。
履行の着手に関する判例(否定)
◼ 大判昭8・7・5裁判例(7)民166頁
◼ 履行の準備にすぎない段階では,履行の着手とはいえない。
◼ 最大判昭40・11・24民集19巻8号2019頁
◼ 解約手付の授受された第三者所有の不動産の売買契約において,売主が,右不動産を買主に譲渡する前提として,当該不動産につき所有権を取得し,かつ,自己名義の所有権取得登記を得た場合には,民法557条1項にいう「契約ノ履行ニ著手」したときにあたるものと解するのを相当とする。
◼ 解約手付の授受された売買契約において,当事者の一方は,自ら履行に着手した場合でも,相手方が履行に着手するまでは,民法557条1項に定める解除権を行使することができるものと解するのを相当とする。(反対意見がある。)
◼ 最三判平成5・3・16民集
47巻4号3005頁(百選
Ⅱ48事件)
◼ 土地及び建物の買主が履行期前において,土地の測量をし,残代金の準備をして口頭の提供をした上で履行の催告をしても,
◼ 売主が移転先を確保するため履行期が1年9か月先に定められ,右測量及び催告が履行期までになお相当の期間がある時点でなされた場合には,
◼ 右測量及び催告は履行の着手に当たらない。
種類物に関する瑕疵担保責任(肯定)
◼ 最二判昭36・12・15民集15巻11号2852頁(約束手形金請求事件)
◼ 不特定物を給付の目的物とする債権において給付せられたものに隠れた瑕疵があつた場合には,債権者が一旦これを受領したからといつて,それ以後債権者が右の瑕疵を発見し,既になされた給付が債務の本旨に従わぬ不完全なものであると主張して改めて債務の本旨に従う完全な給付を請求することができなくなるわけのものではない。
◼ 債権者が瑕疵の存在を認識した上でこれを履行として認容し債務者に対しいわゆる瑕疵担保責任を問うなどの事情が存すれば格別,然らざる限り,債権者 は受領後もなお,取替ないし追完の方法による完全な給付の請
求をなす権利を有し,従ってまた,その不完全な給付が債務者の
責に帰すべき事由に基づくとき は,債務不履行の一場合として,損害賠償請求権および契約解 除権をも有するものと解すべき である。
敷地が都市計画街路にある場合と瑕疵(肯定)
◼ 最一判昭41・4・14民集
20巻4号649頁
◼ 売買の目的土地の大部分が都市計画街路の境域内に存するために売買の目的物に隠れた瑕疵があるとされた事例
◼ 買主が原判示規模の居宅の敷地として使 用する目的を表示して買い受けた土地の約8割の部分が都市計画街路の境域内に存するため,
◼ たとえ買主が右居宅を建築しても,早晩,都市計画事業の実施により,その全部または一部を撤去しなければならない場合において,
◼ 右計画街路の公示が,売買契約成立の10数年以前に,告示の形式でなされたものであるため,買主において買受土地中の前記部分が右計画街路の境域内に存することを知らなかつたことについて過失があるといえないときは,
◼ 売買の目的物に隠れた瑕疵があると解するのが相当である。
敷地の欠陥と瑕疵担保責任(否定)
◼ 最三判平成3・4・2民集45巻4号349頁[民法判例百選Ⅱ(2001)第54事件]
◼ 建物とその敷地の賃借権とが売買の目的とされた場合において,右敷地についてその賃貸人において修繕義務を負担すべき欠陥が右売買契約当時に存したことがその後に判明したとしても,右売買の目的物に隠れた瑕疵があるということはできない。
◼ けだし,右の場合において,建物と共に売買の目的とされたものは,建物の敷地そのものではなく,その賃借権であるところ,
◼ 敷地の面積の不足,敷地に関する法的規制又は賃貸借契約における使用方法の制限等の客観的事由によって賃借権が 制約を受けて売買の目的を達することができないときは,建物と共に売買の目的とされた賃借権に瑕疵があると解する余地があるとしても,
◼ 賃貸人の修繕義務の履行により補完されるべき敷地の欠陥については,賃貸人に対してその修繕を請求すべきものであって,右敷地の欠陥をもって賃貸人に対する債権としての賃借権の欠陥ということはできないから,買主が,売買によって取得した賃借人たる地位に基づいて,賃貸人に対して,右修繕義務の履行を請求し,あるいは賃貸借の目的物に隠れた瑕疵が あるとして瑕疵担保責任を追求することは格別,売買の目的物に瑕疵があるということはできないのである。
◼ なお,右の理は,債権の売買において,債権の履行を最終的に担保する債務者の資力の欠如が債権の瑕疵に当たらず,売主が当然に債務の履行について担保責任を負担するものではないこと(民法 569条参照)との対比からしても,明らかである。
瑕疵担保責任と10年の消滅時効(肯定)
◼ 最三判平13・11・27民集55巻
6号1311頁
◼ 買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は,売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって,これが民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかである。
◼ この損害賠償請求権については,買主が事実を知った日から 1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条,566条3項),これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから,この除斥期間の定めがあることをもって,瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法 167条1項の適用が排除されると解することはできない。
◼ さらに,買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば,遅くとも通常の消滅時効期間 の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し,瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると,買主が瑕疵に気付かない限り,買主の権利が永久に存続することになるが,これは売主に過大な負担を課するものであって,適当といえない。
◼ したがって,瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である
◼ 本件においては,被上告人が上告人に対し瑕疵担保による損害賠償を請求したのが本件宅地の引渡しを受けた日から21年余りを経過した後であったというのであるから,被上告人の損害賠償請求権については消滅時効期間が経過しているというべきである。
危険物であることの指定と瑕疵(否定)
◼ 最三判平22・6・1民集64巻4号953頁
◼ 売買契約の目的物である土地の土壌に,上記売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことは,
◼ ①上記売買契約締結当時の取引観念上, ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず,
◼ ②上記売買契約の当事者間において,上記土地が備えるべき属性として,その土壌に,ふっ素が含まれていないことや,上記売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず,人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが,特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれないなど判示の事情の下においては,
◼ 民法570条にいう畷疵に当たらない。
瑕疵と不法行為責任(肯定)
◼ 最二判平19・7・6民集61巻5号1769頁(別府マンション事件・第1次上告審判決)
◼ 建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者を含む建物利用者,隣人,通行人等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義 務を負い,
◼ これを怠ったために建築された建物に上記安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,
◼ 設計者等は,不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として,当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負う。
◼ 最一判平23・7・21判時2129号36頁(別府マンション事件・再上告審判決(第2次上告審判決))
◼ 最高裁平成17年(受)第702号同19年7月 6日第二小法廷判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,
◼ 居住者等の生命,身体又は財産 を危険 にさらすような瑕疵をいい,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限
らず,
◼ 当該性質の瑕疵に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。
参考図書
◼ 現行民法の立法理由
◼ 広中俊雄『民法修正案(前三編)の理由書』有斐閣(1987)
◼ 法務大臣官房司法法政調査部
『法典調査会民法議事速記録3』
商事法務研究会(1984)
◼ 教科書
◼ 我妻栄『債権各論中巻一 (民法講義Ⅴ2)』岩波書店(1957)
◼ 半田吉信『契約法講義』〔第2版〕
信山社(2005)
◼ 加賀山茂『契約法』日本評論社
(2007)
◼ 曽野和明=山手正史『国際売買法』青林書院(1993)
◼ コンメンタール
◼ 我妻・有泉『コンメンタール民法
-総則・物権・債権-』〔第2版〕
日本評論社(2008)
◼ 松岡久和・中田邦博『新・コンメンタール民法(財産法)』日本評論社(2012)
◼ 一般教養
◼ NHKスペシャル取材班
『ヒューマン-なぜヒトは人間になれたのか-』角川書店
(2012)
契約法1講義
第2部 典型契約
第1章 贈与,第2章 売買
ご清聴ありがとうございました。