Contract
独占的ライセンスの対抗制度及び
独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入に関する報告書
令和3年12月1日
文化審議会著作権分科会法制度小委員会 著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方
に関するワーキングチーム
目次
第1 はじめに 1
第2 検討課題の概要及び検討の進め方 3
1.検討課題の概要 3
(1) 独占的ライセンスの対抗制度の導入について 3
(2) 独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入について 3
2.検討の進め方 4
第3 検討の前提となる事項の整理 6
1.用語・概念 6
(1) 独占的ライセンス 6
(2) 独占性の合意 6
(3) 独占性 7
(4) 独占的ライセンスの対抗制度 7
(5) 独占的利用許諾構成における「独占性の対抗」 8
2.検討対象場面 9
3.関係者が実現を期待している状況 11
(1) 関係者に対するヒアリング結果概要 11
(2) ヒアリング結果の整理及びヒアリング結果に対するチーム員からの意見 18
4.課題解決手段について 20
(1) 想定される課題解決手段 20
(2) 独占的利用許諾構成を検討する必要性 20
(3) 検討の順序について 21
第4 検討結果 23
1.独占的利用許諾構成 23
(1) 独占的ライセンスの対抗制度について 23
(2) 独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度について 47
2.専用利用権構成 69
(1) 独占的ライセンスの対抗制度について 69
(2) 独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度について 69
3.独占的利用許諾構成と専用利用権構成の比較 75
(1) 独占的ライセンスの種類 75
(2) 対抗制度の対象について 77
(3) 柔軟な権利設定 80
(4) 著作権者等の登録協力義務 83
(5) 法制面での説明の難易 84
(6) 独占的利用許諾構成と専用利用権構成のいずれを採用すべきかに関する考え方 85
4.その他の構成 86
第5 まとめ 87
付属資料
チーム員名簿 88
審議経過 90
※なお、本報告書において、法律名が記載されていない条項は、著作xxの条項を示している。
第1 はじめに
平成29年度の文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(以下「法制・基本問題小委員会」という。)において、利用許諾に係る著作物を利用する権利の対抗制度の導入や独占的ライセンシーへの差止請求権の付与等のライセンス契約に係る制度の在り方について、検討を行っていくべきとの意見が示されたことを踏まえ、同年度、文化庁委託事業として「著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する調査研究」1(以下「調査研究」という。また、その報告書2を「調査研究報告書」という。)が実施された。その調査研究の結果、著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度及び独占的ライセンシーに差止請求権を付与する制度に関し、その導入について検討を行う必要性が示された。これを踏まえ、平成30年度の法制・基本問題小委員会において、著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(以下「ワーキングチーム」という。)が設置され、①著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入及び
②独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入という二つの課題について検討することとされた。
検討課題のうち、①著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入については、平成30年度にワーキングチームから、利用許諾に係る権利について、対抗要件を要することなく当然に対抗することができることとする制度(当然対抗制度)を導入することが適当である旨の審議経過報告がなされ、その内容が平成31年2月4日に法制・基本問題小委員会報告書として、平成31年2月13日に文化審議会著作権分科会報告書として取りまとめられた。この取りまとめを受け、令和2年著作xx改正により同制度が導入された(第63条の2)。
他方、②独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入については、これと密接に関わることになる独占的ライセンスの対抗制度と併せて、令和元年度から令和3年度まで、ワーキングチーム3において継続して検討を行った4。その検討の結果、以下の二つの制度を導入することが適当であるとの結論に至り、その制度設計の方向性に関する考え方などを整理したため、報告するこ
1 平成29年度文化庁委託事業「著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する調査研究」(一般財団法人ソフトウェア情報センター)
2 「著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する調査研究報告書」(平成30年
3月、一般財団法人ソフトウェア情報センター)
3 令和元年度は法制・基本問題小委員会、令和2年度及び令和3年度は文化審議会著作権分科会法制度小委員会の下にワーキングチームが設置された。
4 令和元年度及び令和2年度のワーキングチームにおける審議経過については、著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム審議経過報告書(令和2年1月22日)及び著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム審議経過報告書(令和3年1月13日)を参照されたい。
ととする。
・独占的ライセンスの対抗制度
・独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度
第2 検討課題の概要及び検討の進め方
1.検討課題の概要
(1) 独占的ライセンスの対抗制度の導入について
独占的ライセンス契約における独占的ライセンシーは、著作権者等5が他の者との間で別途、ライセンス契約を締結した場合や、著作xx6が他の者に譲渡された場合、これらの者に対し、当該独占的ライセンスの独占性を主張する手段がない。そのため、ライセンスの独占性を確保するために非独占的ライセンスよりも高い対価を支払っていることが多い独占的ライセンシーの地位が不安定な状況にある。
令和2年著作xx改正により導入された利用権(第63条第3項に定義される「利用権」をいう。以下同じ。)の対抗制度は、自分以外の者には利用を行わせないという点(独占性)の対抗を可能とするものではない7。この独占性の対抗を可能とする制度については、文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)において、「利用許諾に係る権利の対抗制度とは譲受人に与える影響の程度が異なるため、その不利益の程度に応じた適切な対抗力の付与の在り方について検討を行う必要があるところ、…もう一つの検討課題である『独占的ライセンシーへの差止請求権の付与』の在り方を考える上で密接に関わる論点になり得ることから、当該検討課題と併せて今後検討を行うこと」とされていたところである8。
そこで、上記報告書の整理及び調査研究結果を踏まえ、民法法理との整合性、制度の導入が契約実務に与える影響、他の知的財産xxとの整合性、他の著作権制度に与える影響等を考慮しつつ、著作物等に係る独占的ライセンスの対抗制度の在り方を検討することとした。
(2) 独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入について
現行著作xxでは、特許法における専用実施権や商標法における専用使用権のような他者に利用を認めるための準物権的な権利が出版権以外に存在しておらず、原則として独占的ライセンシーが差止請求権を行使することはできない。独占的ライセンシーが差止請求権を行使する方法としては、現行法のもとでも債権者代位権の転用により著作権者等の有する差止請求権を代位行使するとい
5 著作権者の他、著作隣接権者等が想定される。以下同じ。
6 著作権の他、著作隣接xxが想定される。以下同じ。
7 文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)108~109頁参照
8 文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)109頁の注156
う方法が考えられるところであるが、これについては債権者代位権の行使に当たってライセンサーが侵害排除義務を負っていることを求める裁判例が存在し
9、実態としてライセンサーが侵害排除義務を負う場合は多くないこと、そのよ
うな義務を負うことに抵抗感を有する著作権者等が存在すること、また、著作権者等が第三者との間で別途、利用許諾契約を締結した場合の当該第三者に対してはかかる方法を用いて対応することはできないことから、債権者代位権の行使による対応が十分可能な状態とは言い難い状況にある。
したがって、独占的な利用に対する期待を有する独占的ライセンシーが、他の者による当該著作物等の利用が発生している場合に、自ら当該利用行為を差し止めることが困難な状況にある。
昨今、海賊版による著作権者等への被害が拡大している中で、独占的ライセンシーが自ら差止請求を行うことができるようになれば、インターネット上の海賊版の削除請求や税関における海賊版の水際差止め等の対策が容易となり、海賊版による被害の拡大防止に資するものと考えられる。
そこで、調査研究結果を踏まえつつ、民法法理との整合性、他の知的財産xxとの整合性、著作権者の意思との関係等を考慮しつつ、権利行使の実効性を確保する観点から、独占的ライセンシーに差止請求権を付与する制度の在り方を検討することとした。
2.検討の進め方
本検討に当たっては、まず前提となる用語・概念、検討対象場面について、必ずしも認識が共有されていないとの指摘もあったため、これらを整理することとした。
また、調査研究では、特許法における専用実施権のように分野を限らない準物権的な独占的利用権を創設することも課題解決手段の一つとして示されていたが10、他方で、現行法のもとで債権的な効力しかないとされる独占的ライセンス契約について、一定の場合に著作xxの譲受人、他のライセンシー、不法利用者等に対し、その独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求権を行使することができるようにしてほしいというニーズがあることも示唆されていたところで
9 東京地判平成28年9月28日裁判所ウェブサイト
10 調査研究報告書131頁
ある11(以下、分野を限らない形で、特許法における専用実施権や著作xxにおける出版権のような準物権的な独占的利用権を創設する形での課題解決手段を
「専用利用権構成」12、現行法のもとで債権的な効力しかないとされる独占的ライセンス契約について、一定の場合に著作xxの譲受人、他のライセンシー、不法利用者等に対し、その独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求権を行使することができるようにする制度を導入する形での課題解決手段を「独占的利用許諾構成」という13。)。
もっとも、調査研究において、かかるニーズが明確に示されていたわけではなく、また、独占的ライセンスの独占性を保護することができる制度について関係者が実現を期待している状況をより具体的に把握することが今後の検討に資すると考えられたため、改めて、ワーキングチームにおいて、特に独占的ライセンスを活用している業界の関係者のヒアリングを実施し、関係者が実現を期待している状況や独占的利用許諾構成を検討する必要性を確認した上で、各構成における個別の検討事項についての検討を進めることとした。
以上を踏まえ、検討の進め方は次のとおりとした。
① 本検討の前提となる用語・概念、検討対象場面の整理(第3の1.及び
2.)
② 関係者のヒアリングを実施し、関係者が実現を期待している状況及び独占的利用許諾構成を検討する必要性を確認・整理(第3の3.及び4.)
③ 独占的利用許諾構成について個別の検討事項を検討(第4の1.)
④ 専用利用権構成、その他の構成について個別の検討事項を検討し、独占的利用許諾構成と専用利用権構成を比較(第4の2.~4.)
⑤ まとめ(第5)
11 例えば、既に出版権という準物権的な独占的ライセンスの制度が存在する出版分野において、調査研究のヒアリング調査では、「出版権者であっても、出版権侵害に該当しない侵害や、出版権の改正以前の多くの電子的利用許諾契約では、ライセンシーに差止請求権はなく、出版社単独では対処できない。一方、インターネット上の膨大な侵害事例は、個別の著作権者が差止等の対策をとることは不可能な量と態様になっており、出版社が著作権者の意向を集約して対処せざるをえない。」という意見があった(調査研究報告書99頁)。
12 ワーキングチームにおける検討では、「専用利用権構成」ではなく、「出版権的構成」と呼称していたが、現行出版権制度との関係を議論する際に分かりにくいとの指摘があったため、本報告書では「専用利用権構成」と呼称することとしている。
13 検討対象とした課題解決手段については第3の4.(1)に整理をしている。
第3 検討の前提となる事項の整理
1.用語・概念
本検討において使用する用語・概念について以下のとおり整理した。なお、ここにおける用語・概念の整理は本報告書の取りまとめに当たっての便宜上のものであり、最終的に導入される制度や既存の制度等における用語の定義を示すものではないことに留意されたい。
(1) 独占的ライセンス
※なお、「独占的利用権」という用語については、独占的利
用許諾構成と専用利用権構成のいずれかを問わず、独占的ライセンシーが独占的ライセンスに基づき有する権利という意味で使用する。
・特に断りがない限り、以下の①及び②の二つのライ
センスを区別せず、ライセンシーが単一に限定されているライセンスをいうものとする。なお、以下の
①及び②に係る二つのライセンスを区別する際は、
①については「債権的な独占的ライセンス」、②については、「物権的な独占的ライセンス」というものとする。
① 現行法のもとでは債権的な効力のみを有するとされている独占性の合意がなされた利用許諾契約に基づくライセンシーの独占的利用権
② 特許法における専用実施権、著作xxにおける出
版権のような、準物権的とされる独占的利用権
独占的ライセンス
(2) 独占性の合意
・債権的な独占的ライセンス契約においてなされる
「独占性の合意」とは、①ライセンサーが当該ライ センス契約で付与したライセンスの範囲と重複するライセンスを他の者には付与しない、という内容の合意をいうものとする。
・また、①の「独占性の合意」に加え、②ライセンサ
独占性の合意
ー自身、当該ライセンスの範囲では当該著作物を利 用しないこと、という合意がなされている債権的な独占的ライセンスを「完全独占的ライセンス」といい、他方、①の「独占性の合意」がなされているものの、②の合意がなされていない債権的な独占的ライセンスは、「不完全独占的ライセンス」という14。
・なお、ここでいう「独占性の合意」には、③ライセ ンサーがライセンシー以外の者の利用を排除しなければならないという義務(侵害排除義務)を含ま
ないものとして検討する。
(3) 独占性
・独占的ライセンシーが独占的ライセンスを付与されたことによって取得する当該著作物の利用を独占
的に行うことができるという地位をいうものとする15。
独占性
(4) 独占的ライセンスの対抗制度
・独占的利用許諾構成の場合は、債権的な独占的ライセンスの独占性の部分のみを対象とする対抗制度を意味するものとして検討する。
・なお、独占的利用許諾構成における独占的ライセンスの利用権の部分は、利用権に係る当然対抗制度
(第63条の2)の適用対象になるという前提で検討する。
・専用利用権構成の場合は、独占性の部分のみではなく、利用に係る権利の部分を含む形で物権的な独占的ライセンスの制度を創設することになると考え
られるため、当該構成の場合の「独占的ライセンス
独占的ライセンスの対抗制度
14 なお、物権的な独占的ライセンスにおいても、ライセンサー自身(著作権者等)による著作物の利用が認められていない場合を「完全独占的ライセンス」、認められている場合を「不完全独占的ライセンス」という場合がある。
15 ここの「独占性」の意味内容は、議論のために便宜上定めたものであり、その具体的な内容(差止請求権の有無等)については、実際に出来上がった制度と関係で確定されるものと考える。
の対抗制度」とは当該ライセンスの独占性のみならず、利用に係る権利の部分をも対象とする対抗制度
として検討する。
(5) 独占的利用許諾構成における「独占性の対抗」16
・第三者に対し、その独占的ライセンスに基づく独占性を積極的に主張することができることをいうも
のとする。
独占性の対抗
16 専用利用権構成においては、上記(4)でも述べたとおり、独占性と利用に係る権利が一体となった権利の対抗制度を設けることになるため、「独占性」のみを取り上げて対抗関係を規律することは想定されていない。
2.検討対象場面
本検討における検討対象場面を以下の図㋐~㋒のとおり整理した。これらの図、検討対象となる典型的な事例における現行著作xxの下での帰結を整理したものである。
なお、検討対象場面の図㋐や図㋑‐1及び2において、独占的ライセンシーが著作xxの譲受人や他のライセンシーに対して、その独占的ライセンスに基づき当該著作物の利用継続を主張できるか否かという点については、現行著作xxの下では利用権に係る当然対抗制度の適用により解決されるべき問題であるため、以下の各検討対象場面では言及していない。
図㋐:著作xxが譲渡された場合
①著作権者等と利用者で独占
著作権者等
(ライセンサー)
利用者
(独占的ライセンシー)
②著作xxの譲渡
④独占性を主張し、直
接差止請求を行うこ
譲受人
(新著作権者等)
とができない
的ライセンス契約を締結
②著作権者等が譲受人に著作xxを譲渡
③譲受人が、①の独占的ライセンスが設定されている範囲内で当該著作物等を利用
④①が債権的な独占的ライセンス契約の場合、現行著作xxの下では、利用者(独占的ライセンシー)は、譲受人に対し、①の独占的ライセンス契約に基づく独占性を主張し、直接③の利用の差止めを行うことができ
ない
③譲受人による利用
※図㋐は①によって利用者が取得する独占的ライセンスが完全独占的ライセンスであることを前提としている。
※著作権に対する差押えがなされ、執行・売却されたことによって生じる著作xxの移転の場合も図㋐と同様と考えられる。ただし、この場合の対抗関係については、独占的ライセンシーと差押債権者間について生じると考えられる。
図㋑‐1:二重にライセンス契約が締結された場合
①著作権者等と利用者で独占
著作権者等
(ライセンサー)
利用者
(独占的ライセンシー)
②ライセンス契約
④独占性を主張し、直接差止請
求を行うことができない
他のライセンシー
(※)
③他のライセンシーによる利用
的ライセンス契約を締結
②著作権者等が他のライセンシーとライセンス契約を締結
③他のライセンシーが、①の独占的ライセンスが設定されている範囲内で当該著作物等を利用
④①が債権的な独占的ライセンス契約の場合、現行著作xxの下では、利用者(独占的ライセンシー)は、他のライセンシーに対し、①の独占的ライセンス契約に基づく独占性を主張し、直接③の利用の差止めを行う
ことができない
図㋑‐2:二重にライセンス契約が締結された場合(著作権譲渡が介在する場合)
①著作権者等と利用者で独占
著作権者等
(ライセンサー)
①独占的ライセンス契約
利用者
(独占的ライセンシー)
②著作xxの譲渡
⑤独占性を主張し、直
接差止請求を行うことができない
譲受人
(新著作権者等)
他のライセンシー
(※)
③ライセンス契約
的ライセンス契約を締結
②著作権者等が譲受人に著作xxを譲渡
③譲受人が他のライセンシーとライセンス契約を締結
④他のライセンシーが①の独占的ライセンスが設定されている範囲内で利用
⑤①が債権的な独占的ライセンス契約の場合、現行著作xxの下では、利用者(独占的ライセンシー)は、他のライセンシーに対し、①の独占的ライセンス契約に基づく独占性を主張し、直
接④の利用の差止めを行う
④ 他のライセン ことができない
シーによる利用
※「他のライセンシー」については、独占的ライセンシーの場合と非独占的ライセンシーの場合の2通りがある。
図㋒:不法利用者が現れた場合
①著作権者等と利用者で独占
著作権者等
(ライセンサー)
①独占的ライセンス契約
利用者
(独占的ライセンシー)
③独占性を主張し、直接差止請
求を行うことができない
不法利用者
的ライセンス契約を締結
②不法利用者が、①の独占的ライセンスが設定されている範囲内で当該著作物等を利用
③①が債権的な独占的ライセンス契約の場合、現行著作xxの下では、利用者(独占的ライセンシー)は、不法利用者に対し、①の独占的ライセンス契約に基づく独占性を主張し、直接②の利用の差止めを行うことが
できない
②不法利用者による利用
3.関係者が実現を期待している状況
独占的ライセンスの対抗制度の導入及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度の導入については、調査研究において、それらの導入を検討する必要性が示されているところであるが17、今回の検討の前提として、より具体的に関係者が実現を期待している状況について把握するため、改めて独占的ライセンスを広く活用しているとされる業界の関係者(一般社団法人日本書籍出版協会、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム、一般社団法人日本映像ソフト協会)に対し、ワーキングチームにおいてヒアリングを行った。ヒアリング結果の概要は下記アのとおりであり、関係者においては、具体の制度設計については細かい要望の違いはあるものの、概ね、何らかの形で独占的ライセンスの独占性を保護することができる制度の導入が期待されている状況である。
(1) 関係者に対するヒアリング結果概要ア 総論
独占的ライセンスの独占性を保護することができる制度の導入については、以下のとおりいずれの関係者も総論としては積極的な意見であることが確認された。
17 調査研究報告書67~69頁、98~111頁
■ヒアリング結果概要
【一般社団法人日本書籍出版協会】
○独占的ライセンスの対抗制度や独占的ライセンシーに固有の差止請求権を付与する制度を導入することについては、望ましいと考える。
○独占的ライセンスに関わる現行制度としては、出版分野については出版権制度が存在するため、従来はこれでカバーできていた。ただ、出版社が手掛ける事業の多様化や、特に電子におけるビジネスモデルの多様化に、出版権規定では対応できていないのではないかと考えている。
【一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム】
○著作物を独占的に利用できる地位を得られた場合については、その独占性については基本的に保護されるべきだと考えている。
○著作権の独占的ライセンス契約は、その独占性を担保できることが重要であるため、ライセンシーがそのライセンスの独占性の範囲内で権利行使が可能であることが必要である。もっとも、著作権の一次的な権利行使責任はあくまで権利者にあると考えているので、独占的ライセンシーが権利行使できるのは権利者が権利行使をしない場合など、一定条件のもとライセンシーが権利行使できる制度が望ましい。
【一般社団法人日本映像ソフト協会】
○独占的ライセンス契約を締結し、商品化に資本を投下した後、第三者から権利主張をされる潜在的なリスクがあることは、事業を進める上で好ましいことではない。
○独占的xxxxxxが、海賊版等の不法利用者に対して不法利用の停止を求めた際に、著作権者ではないだろうと要求を拒否される場合がある。不法利用者に対して迅速に不法利用を停止させることは、権利侵害の拡大を防止するうえでも重要であると考える。
○独占的xxxxxxが当該独占的ライセンスを対抗でき、固有の差止請求権を認める制度導入は、上述したようなリスクや損害の拡大を防止する上で必要であると考える。
イ 著作xxが譲渡された場合について(上記2.図㋐)
著作xxがライセンサーから他の者に譲渡された場合の独占的ライセンスの独占性の保護の在り方については、その独占性を主張するための要件や独占的ライセンス契約を著作xxの譲受人に承継させるか否かといった点で細かい違
いはあるものの、いずれの関係者からも、著作xxの譲渡があった場合でも一定の場合には継続してその独占性を確保することができることが望ましいとの意見が示された。
■ヒアリング結果概要
【一般社団法人日本書籍出版協会】
○独占的ライセンス契約の存在を立証するとともに、相手方が独占的ライセンス契約の存在を認識していることを立証できれば、独占的ライセンスの独占性を対抗し、独占的ライセンシーから直接差止請求を行うことができる制度が妥当と考える。
○著作物の点数の多さから、登録を独占性の主張や差止請求の要件とすることは当事者のコスト、社会的コストが高すぎると考える。また事業の実施を要件とすると、契約から商品を市場に出すまでの期間が保護されず、独占性を保護することにつながらない。
【一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム】
○安定的なビジネス継続のため独占的ライセンシーの保護が重要。著作権が第三者に譲渡されようとも独占的使用権は同条件で継続されるべき。
○ライセンサーが著作権を他の者に譲渡した場合、新権利者がはっきりしてい
るのであれば、ライセンスフィーは、新権利者に支払ってしまった方がいいと考えている。
○著作権の譲受人にライセンサーの地位が全部移ってよいのかという点については、例えば、当該著作物の使い方の監修等があるので、元のライセンサーに協力を得ないといけない部分はあるが、それを含めて権利者になったからには一旦は譲受人が独占的ライセンス契約を引き継いで、具体的にどうするかというところはその後話し合うことかと考えている。
【一般社団法人日本映像ソフト協会】
○ライセンサーから著作xxの権利を譲り受けた者に対しては、登録等の要件なしで保護される制度が望ましい。ライセンス契約の有無は、著作権譲渡やライセンス契約を締結する際に調査するのが一般的で、デューデリジェンスで対応可能である。したがって、独占的ライセンス契約の存在を立証できれば独占的ライセンシーとして事業が継続できる制度が望ましい。
○ビデオソフトの場合、独占的ライセンシーは発売元又は販売元としてパッケージに記載されており、明認方法による独占的ライセンスの公示がなされている。したがって、事業化が行われ、独占的ライセンシーの権利が公示された後に現れた第三者に対しては、独占性を対抗でき、差止請求できる制度が望ま
しい。
ウ 二重にライセンス契約が締結された場合について(上記2.図㋑‐1及び
2)
二重にライセンス契約が締結された場合の独占的ライセンスの独占性の保護の在り方については、その独占性を主張するための要件や具体的に保護を求めている場面について細かい違いはあるものの、いずれの関係者からも、独占的ライセンシーが一定の要件を満たした場合には継続してその独占性を確保することができることが望ましいとの意見が示された。
■ヒアリング結果概要
【一般社団法人日本書籍出版協会】
○独占的ライセンス契約の存在を立証するとともに、相手方が独占的ライセンス契約の存在を認識していることを立証できれば、独占的ライセンスの独占性を対抗し、独占的ライセンシーから直接差止請求を行うことができる制度が妥当と考える。
○著作物の点数の多さから、登録制度は当事者のコスト、社会的コストが高すぎると考える。また事業の実施を対抗要件とすると、契約から商品を市場に出すまでの期間が保護されず、独占性を保護することにつながらない。
【一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム】
○ライセンサーから新たに利用許諾を受けた第三者の契約は無効とするのが妥当。その上で無許諾の第三者(不法利用者)に対するのと同様に一定条件のもと独占的ライセンシーに当該第三者への差止請求を認めるべき。
○無許諾の第三者との関係では、ライセンシーが、ライセンサーへ無許諾の第三者の利用の差止めを求め、一定期間の間にライセンサーが差止めを行わない場合には、独占的ライセンシーはその独占性を守るために必要な範囲で、無許諾の第三者の著作物の利用を差し止めることができる法制度が妥当。
○二重ライセンスがなされた場合に後に締結されたライセンス契約を無効にしてもよいと考えている理由については、もともとライセンサーというのは独占的ライセンス契約をしていることを認知していることがまず大前提だと考えている。そのライセンサーが第三者に対して新たにライセンスを与えたといったときに、ライセンスを受ける側もライセンサーに先行する独占的ライセンスの有無を確認する義務が発生していると考えている。そのため、その両者のお互いの落ち度があると考えて、後に締結されたライセンス契約は無効
にしてもいいのではないかと考えている。
【一般社団法人日本映像ソフト協会】
○二重に独占的ライセンス契約が締結された場合については、先に独占的ライセンス契約を締結した者が、その独占的ライセンスに基づき事業化した後に現れた他の独占的ライセンシーに対しては、その独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求できるという形が望ましい。他方、二重に独占的ライセンス契約が締結された場合に、後から独占的ライセンス契約を締結した者が先に独占的ライセンス契約を締結した者よりも早く事業化した場合は、後から独占的ライセンス契約を締結した者が、先に独占的ライセンス契約を締結した者に対し、その独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求できるようにするのは望ましくない。そのため、誰も事業化をしていない間に二重に独占的ライセンス契約が締結された場合については、相互に独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求を行うことが出来ないものとし、両方の独占的ライセンシーが対象著作物の利用を継続できる形が望ましいと考えている。
○上記を具体例で示すと、独占的ライセンシーのA、B及びCが現れた後、Bが事業化し、その後にさらに独占的ライセンシーDが現れた場合、①A、B及び Cは、相互に独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求を行うことはできず、それぞれ対象著作物の利用を継続できるものとする、②事業化をしたBは、その事業化後に現れたDに対して、自己の独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求をすることができる、③事業化をしていない(又はBよりも後から事業化をした)A及びCは、①のとおり利用は継続できるものの、Bの事業化後に現れたDに対しては、その独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求を行うことはできない(Bの事業化後に現れた独占的ライセンシーに対し、差止請求を行うことができるのは最初に事業化をしたBのみで、仮にAや Cが後れて事業化したとしても、その事業化の後に現れた独占的ライセンシーに対して、AやCは差止請求をすることができず、Bのみが差止請求できる)、といった形になることが望ましいと考えている。
エ 不法利用者が現れた場合について(上記2.図㋒)
不法利用者が現れた場合については、著作権者等による権利行使がなされない場合に限定するか否かという点で意見の違いはあったものの、いずれの関係者からも、独占的ライセンシーが不法利用者に対し、その独占性を主張し、直接差止請求をすることができるようにすることが望ましいとの意見が示され、当該主張や差止請求に当たって、上記の限定の他に特段の要件が必要との意見は見られなかった。
■ヒアリング結果概要
【一般社団法人日本書籍出版協会】
○独占的ライセンス契約の存在を立証できれば、独占的ライセンスの独占性を対抗し、独占的ライセンシーから直接差止請求を行うことができる制度が妥当と考える。
【一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム】
○一定条件のもと、独占的ライセンシーに第三者への差止を認めるべき。具体的には、無許諾の第三者との関係では、ライセンシーが、ライセンサーへ無許諾の第三者の利用の差止めを求め、一定期間の間にライセンサーが差止めを行わない場合には、独占的ライセンシーはその独占性を守るために必要な範囲で、無許諾の第三者の著作物の利用を差し止めることができる法制度が妥当と考える。
【一般社団法人日本映像ソフト協会】
○不法利用者に対しては、独占的ライセンシーは当然に差止請求できるとすべきだと考える。
オ その他
独占的ライセンシーの差止請求権の行使に当たって著作権者等の承諾を要件とすることや専用利用権構成で制度設計することなど、その他制度設計に関して以下のような意見が示された。
■ヒアリング結果概要
【一般社団法人日本書籍出版協会】
○出版権に基づき権利行使をする場合は、実務上著作権者への問い合わせを行っているケースが多いが、明らかな海賊版の場合は行わないことも多い。その例にならえば、著作権者等の承諾を独占的ライセンスに基づく差止請求等の要件とすることは制度として使いにくくなるため、妥当とは思われない。
○専用利用権構成については、そもそも出版権規定が妥協の産物であり、使いにくいところがあるとはいえ、出版界は80年以上出版権規定とつきあってきており、その見直しにつながるのであれば、積極的に専用利用権構成を推すことはできない。
○また、現行出版権規定についても、出版に関する利用の全てをカバーできてい
るわけではない。保護が望まれる独占性については、このワーキングチームで
は、独占的ライセンシーが独占的ライセンスを付与されたことによって取得する当該著作物の利用を独占的に行うことができるという地位をいうものと、定義されているが、そこにおける「著作物の利用」は多くの場合、著作権の一部の利用であり、支分権単位ですらないことも多い。現行出版権規定が支分権単位での設定となっていることを考えると、専用利用権構成だと実際の利用形態に対応が難しく、過剰または不十分なものとなってしまう危険があるのではないか。
○上記で「現行出版権規定が支分権単位の設定となっていることを考えると、専用利用権構成だと実際の利用形態に対応が難しく」と述べたのは、専用利用権構成を取るとすると、どうしても支分権単位の設定になってしまったり、あるいは権利の内容を法定する必要が出てくると思われるがそれは実際上使いづらい可能性があって、それよりは、債権的な独占的ライセンスであれば、ライセンス対象は自由に定めることができるので、その独占的ライセンスに対抗力あるいは差止請求権を付与してもらった方が実務上使いやすいと思われるという趣旨である。
【一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム】
○著作権に係る権利行使の一次的責任は著作権者にあることを明確にしておきたい。
○現実に存在する多数の独占的ライセンス契約は、特許法の専用実施権のような契約ではなく、独占的通常実施権に似た契約であることを考慮していただきたい。
○ゲームの開発・運営に関しては、契約締結後に著作物を生み出していくことが想定されている、というビジネスの特性上、契約対象となる著作物は、契約時点に存在する著作物と、契約以降にxx発生する著作物が対象となる点は考慮していただきたい。
【一般社団法人日本映像ソフト協会】
○差止請求権行使に著作権者等の承諾を要件とすると、外国に権利者がいる場合その他、迅速な差止請求権の行使が困難になる懸念がある。したがって、独占的ライセンシーは、不法利用者に対して著作権者の承諾なく差止請求できるとすべきであると考える。
○専用利用権構成については、既存の債権的な独占的ライセンス契約について現行法における取扱いのままとなるのであれば、現に保護が必要な独占的ライセンシーの保護に欠けるので、妥当ではないと考える。別途物権的権利を創設することは、それが利用されるかどうか定かではないが、既存の債権的な独
占的ライセンス契約を保護することが重要であると考える。
カ 現行の出版権制度について支障を感じている点
出版分野については、物権的な独占的ライセンスの制度として出版権制度が既に存在するところ、出版権制度については、以下のように近年のビジネスモデルの変化に伴い、十分に対応できていない部分があるのではないかとの意見が示された。
■ヒアリング結果概要
【一般社団法人日本書籍出版協会】
○紙媒体出版物しかない時代には、「出版権設定」と「出版に関する利用許諾」との間に違いはなく、おおむね出版権規定の範囲で出版契約の重要事項はカバーされていたと言える。それでも出版権規定がなじむのは単一著者の書籍に限られていた。現在、紙媒体も電子媒体もビジネスモデルや流通形態に変化があり、出版社の活動の幅も広がることにより、「出版権設定」だけでは出版契約が成り立たない状況が生じてきていると考えられる。出版権が、支分権に依拠した物権的構成をとっている以上、やむを得ないのであるが、「出版権規定」に頼らない契約実務が要求されてきている状況になっていると考える。
○現状、出版権の内容と実際の利用行為とのずれとして認識しているものの多くは、紙媒体の出版において、書籍の版型ごとに出版の内容を限定する、ないしは、著作権者の意向として書籍はこちらA出版社、ペーパーバックはB出版社といった設定をしたいといった要望があったときに、そのときに出版権設定契約を使うのか、使わないのか、使ったときに少なくとも紙媒体出版の複製権という意味では被ってしまうので、そのときに先行する出版権設定契約を解除するのか、ないしは契約を巻き直すのかといったところになる。
○出版権の内容と実際の利用行為とのずれとして認識しているもう一つの点は、電子書籍についてである。電子書籍については、ある種のいろいろな加工を施した上で、それを一体のものとして出すといった場合に、出版権の「原作のまま」という要件でいけるのかどうかというところは気になっている部分である。
(2) ヒアリング結果の整理及びヒアリング結果に対するチーム員からの意見
上記(1)のとおり、関係者に対するヒアリングの結果、著作xxが譲渡され
た場合、二重にライセンス契約が締結された場合、不法利用者が現れた場合のいずれの場合も一定の場面又は一定の要件を満たした場合には独占的ライセンスの独占性を保護することができるとする制度のニーズがあることが確認されたところである。
また、独占的ライセンスの独占性が保護されるための要件については、以下の点において、概ねヒアリングを行った関係者において共通していたものと思われる。
■ヒアリングにおいて関係者間で概ね共通していた点
○独占的ライセンシーが著作xxの譲受人や他のライセンシー、不法利用者に対し、そのライセンスの独占性を主張し、差止請求を行うための要件として登録を要件とすることは妥当ではない。
○独占的ライセンシーが差止請求を行使することができるとした場合に、その差止請求に当たって著作権者等の承諾を得ることを要件とすることについては積極的に必要という意見はなかった。
さらに、ヒアリングにおいて関係者から示された意見・要望のうちいくつかのものについては、チーム員から、検討に当たって以下のような点に留意が必要との意見があった。
■ヒアリングを踏まえてチーム員から示された意見
○独占的ライセンシーが独占性を主張し、差止請求を行うための要件として登録を要件とすることは妥当ではない、という意見については、既存の著作権の登録制度の使い勝手が悪いということであって、独占的ライセンシーが独占性を主張し、差止請求を行う際に何らかの公示制度における公示を要件とせざるを得ないとなった場合に、既存の著作権の登録制度をそのまま使うことは現実的ではないとしても、それに代わる、より使い勝手のいい登録制度を考えていく余地はあると思われ、それは今後の検討事項になると考える。
○著作権者等の承諾を独占的ライセンシーによる独占性の主張や差止請求の要件とするか否かという点については、今回のヒアリング対象者には著作権者等の権利者側の関係者が含まれていなかったので、著作権者等の立場から、独占的ライセンシーに自由に差止請求権を行使されて困らないかという点については、今後の検討に際し留意する必要がある。
○現在存在しない将来取得する著作権についての独占的ライセンスについても保護対象にされたいとの要望も見受けられたところ、そういう将来取得する
著作権についての独占的ライセンスについても保護対象とし、その権利行使
に際し何らかの公示とか対抗要件が必要ということになれば、この点も織り込んで制度設計することができるかという点を検討する必要があると思われる。
○既存の債権的な独占的ライセンスについて現行法における取扱いのままとするのではなく、このワーキングチームで議論している独占的ライセンスの保護の制度の対象にしてほしいという要望も出ていたので、既存の債権的な独占的ライセンスの取扱いについても今後の検討事項と考える。
4.課題解決手段について
(1) 想定される課題解決手段
本検討課題に対して想定される課題解決手段に関しては、調査研究及びワーキングチームでの議論を踏まえ、以下のような課題解決手段を想定して検討を進めることとした。
○債権的な独占的ライセンスについて、一定の場合に著作xxの譲受人、他のライセンシー、不法利用者等に対し、その独占性を主張し、差止請求権を行使することができるようにする制度を導入する(独占的利用許諾構成)
○分野を限らない形で、特許法における専用実施権や著作xxにおける出版権のような準物権的な独占的利用権を創設する(専用利用権構成)
○その他の構成
・独占的ライセンシーが、著作権者等が有する差止請求権を代位行使する際の要件を明文化した規定を創設する
・第118条のように一定の場合に独占的ライセンシーが自己の名をもって、権利保全行為を行い得る旨の規定を創設する
(2) 独占的利用許諾構成を検討する必要性
上記(1)で挙げた課題解決手段のうち独占的利用許諾構成については、当初、同構成で検討することが想定される検討事項18のかなりの部分は、専用利用権構成を取るのだったら検討対象ではなくなるため、先に専用利用権構成を取ると決まってしまうと、それでほぼ問題解決という可能性があり、そうであれば、その可能性をまず検討してみるというのも一つの方法ではないかとの意見が出ていたところである。
18 令和元年度ワーキングチーム(第1回)の資料4を参照
独占的利用許諾構成を検討する必要がないのかという点については、上記第
2の2.で指摘したとおり、調査研究におけるヒアリング調査結果では、債権的な独占的ライセンスについて、一定の場合に著作xxの譲受人、他のライセンシー、不法利用者等に対し、その独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求権を行使することができるようにしてほしいというニーズがあることも示唆されていたところである。
また、上記3.(1)カのとおり関係者に対するヒアリングでは、出版分野については既に独占的ライセンスに係る制度として出版権制度があるものの、近年のビジネスモデルの変化に伴い、支分権単位で権利の内容が定められている出版権と実際の利用行為との間に齟齬が生じているのではないかとの意見があった。さらに、現行の出版権制度では、出版権の設定等の対抗要件は登録とされているが(第88条)、出版権の登録制度については実際にはほとんど使われていないところ19、上記の関係者に対するヒアリングでは登録を独占的ライセンスの独占性の主張や差止請求権を行使するための要件とすることは妥当ではないとの意見も示されているところである。したがって、専用利用権構成を採用した場合に、これらの点において現行出版権制度と同様の制度設計とならざるを得ず、一方で独占的利用許諾構成ではそのような制度設計にする必要がないとすれば、専用利用権構成を採用することには問題があることになる。
加えて、上記の関係者に対するヒアリングでは、専用利用権構成を採用して、既存の債権的な独占的ライセンス契約について現行法における取扱いのままとなるのであれば、現に保護が必要な独占的ライセンシーの保護に欠けるので、妥当ではないとの意見も出ていたところである。
これらの関係者からの意見を踏まえると、債権的な独占的ライセンスについても、一定の場合に著作xxの譲受人、他のライセンシー、不法利用者等に対し、その独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求権を行使することができるようにしてほしいというニーズがあるものと考えられ、独占的利用許諾構成についても検討する必要性があると考えられる。
(3) 検討の順序について
課題解決手段の検討の順序については、本検討課題の主眼は、独占的ライセンシーが直接著作xxの譲受人、他のライセンシー、不法利用者に対し、独占性を主張し、差止請求を行う制度を導入することができるかという点にあるため、まずは、これに対する直接的な課題解決手段となり得る独占的利用許諾構成と専
19 調査研究報告書【資料編】資料3の36頁、令和元年度ワーキングチーム(第2回)の資料3の4頁
用利用権構成を検討することとした。
上記(1)で挙げた「その他の構成」については、独占的ライセンシーが著作権者等の権利者に代わってその権利を行使し、又は、権利保全行為をすることができるようにするという構成であり、本検討課題を正面から解決するものではないため、独占的利用許諾構成や専用利用権構成についての検討の結果、それらの構成では不十分又は不都合となった場合に検討を進めることとした。
第4 検討結果
第3で整理した内容を前提に、以下では、独占的利用許諾構成(1.)と専用利用権構成(2.)について検討した上で、両構成を比較している(3.)。そして、最後にその他の構成についても言及する(4.)。
なお、独占的利用許諾構成と専用利用権構成で共通する論点があるが、検討の順序の関係で当該論点については、独占的利用許諾構成の中で検討した上、適宜専用利用権構成の検討の中で独占的利用許諾構成における検討内容が妥当するか否かについて述べることとしている。
1.独占的利用許諾構成
(1) 独占的ライセンスの対抗制度について
ア 独占性を主張することができることの法的意味
下記イの独占的ライセンスの対抗制度の必要性及び許容性を検討する前提として、同制度において独占性を主張することができることの法的意味を以下のとおり確認した。
独占的利用許諾構成の独占的ライセンスの対抗制度において、「独占性を主張することができること」の意味は、第3の1.の用語の整理に従えば、「独占的ライセンシーが、債権的な独占的ライセンスを付与されたことによって取得する当該著作物等の利用を独占的に行うことができるという地位20を相手方(著作xxの譲受人、他のライセンシー、不法利用者等)に対し積極的に主張することができること」を意味し、その主張の相手方が当該著作物等を利用する行為を当該独占的ライセンシーとの関係で不法と評価することができること21を意味す
20 本報告書7頁では「独占性」を「独占的ライセンシーが独占的ライセンスを付与されたことによって取得する当該著作物の利用を独占的に行うことができるという地位をいうものとする。」と定義している。なお、下記(2)の「エ 完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスの違いについて」、「カ 複数人による独占的な利用を認めるライセンスの取扱い」及び「キ 独占的なサブライセンスを受けたサブライセンシーの取扱い」の各論点に関わるが、完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスについての捉え方の違いや独占性の人的範囲(独占的ライセンス契約において当該著作物等の利用が認められていない者の範囲)が限定されている独占的ライセンスについての考え方の違いが制度設計に影響する可能性があるため、法制化する際は、各論点における法的整理も見据えて、「独占性」の内容について、さらなる検討が必要になると思われる。
21 この点については、「不法と評価することができる」という文章は多義的であって、「不法 と評価することができる」ということの意義をより明確にするためには、その法的な効力と の関係では、さらにいくつかに分節化して問題を検討していくのが、より厳密にいえば適切、ただ、検討の進め方としては、この点はより具体的な問題との関係で検討することとし、こ こでは、「不法」とは非常に多義的に用いられるものであるということを確認しておけば足 りるのではないか、といった意見があった。
るものと考えられる。
なお、独占性を主張することができるか否かの問題は、事実上、第三者が独占性を侵害している場合に、独占的ライセンスについて、その侵害行為を排除する効力が認められるか否かという差止請求権の問題とは、区別される問題である。
イ 独占的ライセンスの対抗制度導入の必要性・許容性
(ア)独占的ライセンスの対抗制度導入の必要性
現行法のもとでは、独占的利用許諾構成における独占性は、債権的な効力しかない独占性の合意に基づき付与されるものであって、民法の原則に従えば、独占的ライセンスの対象となる著作xxの譲受人や当該独占的ライセンスと重複する範囲で別途ライセンスを受けた他のライセンシーといった第三者が現れた場合、独占的ライセンシーはその独占性をそれらの第三者に主張することはできない。
他方で、調査研究の結果によれば、「著作物等の独占的ライセンスに関しては、実務上相当程度用いられていること、その性質上、他者を排除して利用をできる法的な地位が与えられなければ、その契約の目的が完全には実現できないこと、他者を排除した独占的な利用ができる地位を得るために非独占的ライセンスよりも高いライセンス料の支払を伴い契約を締結する場合が多いこと等から、譲受人等の第三者との関係でライセンシーの独占性を主張できる制度に関するニーズが多く存在することが確認された。」22とされている。さらに、調査研究においては、特に、「映像、商品化、写真、舞台、広告等の分野において、独占的ライセンスが用いられている又は事実上独占状態にあるものが多く存在することが確認されるとともに、独占的ライセンスを受ける場合には高額なライセンス料の支払やプロモーション等の多額の投資を行うことが多く、引き続き独占的な利用を期待する意見が多く見られた。」とされている23。
また、ワーキングチームで行った関係者へのヒアリングにおいては、一定の場合には、不法利用者だけでなく、著作xxの譲受人や他のライセンシーといった者に対しても、その独占的ライセンスの独占性を主張し、差止請求権を行使することができるようにしてほしいというニーズがあることが確認された。
さらに、著作xxにおいては、特許法の専用実施権や商標法の専用使用権のような独占的ライセンシーの独占性を保護する手段が出版分野における出版権以外に用意されていない点で、独占的ライセンシーがその独占性を確保するための手段について、(独占的利用許諾構成によるか、専用利用権構成によるかに関
22 調査研究報告書67~68頁
23 調査研究報告書68頁
わらず、)何らかの立法措置を講ずる一定の必要性が認められると考えられる。以上からすると、独占的ライセンシーが、不法利用者だけでなく、著作xxの 譲受人や他のライセンシーといった対抗関係に立つ第三者に対しても一定の場合に、独占性の主張を可能とする制度を導入する必要性が認められると考えられ、その制度として、独占的利用許諾構成を前提に独占的ライセンスの対抗制度
を導入することも、その許容性が認められる限り否定されないと考えられる。
(イ)独占的ライセンスの対抗制度導入の許容性
独占的ライセンスの対抗制度導入の許容性については、民法法理との関係及び同制度の導入により各関係者に与える影響という観点から検討を行い、以下のとおり整理した。
①民法法理との関係
まず、民法法理との関係については、独占的ライセンスの対抗制度の導入が民法法理に反するものではないといえるか、という観点から検討を行った24。
現行法のもとでは、独占的利用許諾構成における独占性は、債権的な効力しかない独占性の合意に基づき付与されるものであって、民法の原則に従えば、第三者に対し主張することはできない。
もっとも、例えば民法第605条は不動産賃借権について対抗制度を設けることで賃借人の保護を図っており、また、不作為請求権である著作権法上の利用権や特許法上の通常実施権については当然対抗制度が設けられ(第63条の2、特許法第99条)、各権利者の保護を図っており、上述の民法の原則が修正されている。こうした制度の存在を踏まえれば本来債権的な性格を有する権利・地位であっても、債権者保護の必要性が認められる場合には、関係者に与える影響の程度等を踏まえつつ当該権利・地位を第三者に対して対抗することができる制度(対抗制度)を設けることは民法法理との関係において排除されないものと考えられる25。
上記(ア)で検討したところからすると、独占的ライセンシーが対抗関係に立つ第三者に対して、一定の場合に、その独占性の主張を可能とする制度を導入する必要性は認められるところ、その制度として独占的ライセンスの対抗制度を選択することも、著作xxの譲受人や他のライセンシーといった各関係者に与
24 民法法理との関係については、不動産賃借権といった民法上の権利と著作権に係る独占的ライセンスでは、権利の対象が不動産といった有体物か著作物等という無体物かという極めて本質的な違いがあるため、この点を強く意識して検討する必要がある、との意見があった。
25 利用権の当然対抗制度導入時の議論においても同様の考え方を前提として同制度導入の許容性が検討されている(文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)108頁)。
える影響の程度を勘案して許容し得るものであれば、民法法理との関係においても排除されないものと考える。
そこで、著作xxの譲受人や他のライセンシーといった各関係者に与える影響を踏まえ、独占的ライセンスの対抗制度を導入することの許容性について検討を行うことが適当である。
②著作xxの譲受人、他のライセンシーに与える影響
著作xxの譲受人や他のライセンシーは、既に締結されている独占的ライセンス契約について、著作xxの譲受時やライセンス契約締結時に、その存否を知る機会が存在し、一定程度リスクを内部化することが可能である。また、独占的ライセンシーがその独占性について対抗力を備える前であれば、著作xxの譲受人は著作xxの移転の登録(第77条第1号、第104条)を行うことにより、他のライセンシーは利用権の当然対抗制度(第63条の2)の適用により、その権利の対抗力を具備することで、独占性の対抗を受けないようにすることが可能である。
もっとも、それらの対応が奏功せず、著作xxの譲受人や他のライセンシーが独占的ライセンシーから独占性の対抗を受けた場合には、それらの者は当該著作物等を適法に利用することができなくなるため、著作xxの譲受人や他のライセンシーが被る不利益は大きい。
③独占的ライセンス契約のライセンサーに与える影響
独占的ライセンス契約のライセンサーについてみると、独占的ライセンスの対抗制度が導入され、著作xxの譲受人や他のライセンシーといった第三者に対し独占性が対抗される場合には、同制度が導入されていない場合と異なり、当該譲受人や他のライセンシーがその著作物等を適法に利用することができないという不利益を被ることとなるから、そもそも譲渡契約やライセンス契約の締結を拒否される、あるいは、譲渡契約を行うとしても、独占的ライセンスの負担付きであることを前提に、著作xxの譲渡対価が低くなるといったことが想定される。
もっとも、これはライセンサーが自ら独占的ライセンス契約をしたことによる結果であり、また、独占的ライセンスの対抗制度が導入されていない状況であっても、独占的ライセンス契約の継続中に著作xxを譲渡し、又は他のライセンシーに重複するライセンスを付与する行為は、債務不履行として違法の評価を免れないのであるから、基本的には、これらの行為によってライセンサーが得る利益を法的に保護する必要性はないと考えられる。
したがって、独占的ライセンスの対抗制度の導入によるライセンサーに対す
る不利益はないと評価することができると考えられる。
④独占的ライセンシーに与える影響
独占的ライセンシーについては、独占的ライセンスの対抗制度を導入した場合は、その独占性を確保することができるようになる一方、同制度を導入しない場合には、独占的ライセンシーは、著作xxの譲受人や他のライセンシーが現れた場合、その独占性を失うという不利益を受けることになる。
なお、独占的ライセンスの対抗制度を導入するか否かに関わらず、独占的ライセンシーも、利用権の当然対抗制度が適用される範囲では、著作権の譲渡等が行われたとしても著作物等の利用の継続自体は可能である。
⑤まとめ
以上を踏まえると、独占的ライセンスの対抗制度を導入しない場合、著作xxの譲渡等が行われると、独占的ライセンシーはその独占性を失うが、利用権の当然対抗制度が適用される範囲では著作物等の利用自体は可能である一方、独占的ライセンスの対抗制度を導入した場合、独占性を対抗されると著作xxの譲受人や他のライセンシーは、その著作物等を適法に利用することができないという大きな不利益を受けることになる。著作xxの譲受人や他のライセンシーは、上記②のとおり、独占的ライセンスの対抗を受けないようにするために一定の対応を行うことも想定されるが、この点を踏まえたとしても、著作xxの譲受人や他のライセンシーが受ける不利益は無視し得ない程度のものと考えられる
26。
以上のように、独占的ライセンスの対抗を受けた場合の著作xxの譲受人や他のライセンシーが被る不利益は無視しえない程度に大きなものであり、著作xxの譲受人や他のライセンシーといった第三者の取引安全を確保するという観点からすれば、独占的ライセンスの対抗制度導入に当たっては、独占性を対抗するための要件として、独占的ライセンスの存在について何らかの公示がされていること、又は、その存在について著作xxの譲受人や他のライセンシーといった第三者が悪意であることという要件を設定することが求められるものと思われる。
したがって、独占的ライセンスの対抗制度の導入については、独占的ライセンスの存在について何らかの公示がされている場合、又は、その存在について著作
26 利用権の当然対抗制度導入の許容性の議論においては、同制度が導入され、譲受人等の第三者が利用権の対抗を受けたとしても、当該第三者は、自ら利用を行うことはでき、他者に利用を行わせることもできるという地位に変わりはなく、当該第三者が被る不利益の程度が大きくないと評価することができることが同制度導入の許容性の根拠とされている
(文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)110頁)。
xxの譲受人や他のライセンシーが悪意の場合に、独占的ライセンスの対抗を可能とするものであれば許容され得ると考えられる。
ウ 制度設計について
上記イのとおり、独占的ライセンスの対抗制度導入に当たっては、独占的ライセンスの存在について何らかの公示がされていること、又は、その存在について譲受人や他のライセンシーといった第三者が悪意であることといった要件を設定することが求められるものと考えられ、契約締結の事実のみをもって独占性を対抗することができるとする当然対抗制度については採用し得ない。
そこで、以下の三つの対抗制度を中心に、その制度設計について検討した。
①登録を対抗要件とする制度(登録対抗制度)
②ライセンス契約に基づく事業実施を対抗要件とする制度(事業実施対抗制度)
③対抗要件を要しないが悪意者にのみ対抗することができることとする制度
(悪意者対抗制度)
(ア)②事業実施対抗制度について
まず、ライセンス契約に基づく事業実施を対抗要件とすることについては、その公示機能に限界があると思われる。すなわち、単に、独占的ライセンスに基づいて著作物等を利用し、事業を実施しているだけだとすると、「独占的に」利用していることの公示にはならない可能性が高い。対抗要件に該当する事業実施として、自分で利用しているだけではなく、他人の利用を排除しているという事実状態にあることまで要求し、より独占性についての公示機能が発揮される状態を要件とすることも考えられるが、そのような事実状態を要件とすると、独占性を対抗することについてのハードルが非常に高いものとなり、独占的ライセンスの対抗制度が現実的には機能しないものとなってしまう可能性が高い。また、独占的ライセンシーは、当該事実状態に至るまでは独占性を確保できないということにもなり、妥当ではない。さらに、そのような事実状態にあるか否かを第三者において判断することは困難である可能性が高く、その要件該当性が直ちに明確に判断できないという点において実務に混乱を生じさせかねない。
したがって、②事業実施対抗制度を採用することは妥当ではない。
(イ)③悪意者対抗制度について
③悪意者対抗制度についても、第三者が悪意者か否かを直ちに明確に判断できない場合が想定され、実務に混乱を生じさせかねない。また、③悪意者対抗制
度の場合、善意の第三者は利用を継続することができることとなり適法に利用することができる者が複数存在する事態が生じ得るところ、そのような場合は事実上独占状態ではなくなり、法律関係が複雑となる場面が多くなると思われる。さらに、③悪意者対抗制度のみを採用した場合は、独占的ライセンシーは、すべての人を悪意にすることは不可能であるから、確定的に独占性を主張することができる地位を自分の力では備えることができず、いつまでも適法利用可能な第三者が現れるリスクを負うことになるという点で問題がある。
したがって、③悪意者対抗制度を単独で採用することは妥当ではない。
他方で、①登録対抗制度のような公示制度を採用し、同制度により公示を備えていれば第三者に対抗することができるとしつつ、公示が備えられていない場合であっても、悪意者には対抗することができるといった形で制度設計をすることが考えられないかという点についても検討を行った。具体的には、対抗要件を備えていなければ対抗できない「第三者」に悪意者を含まないとすることが可能かという点について検討を行った。
対抗要件制度は取引の安全を図ることを目的とするものであるから、仮に、対抗要件制度として公示制度を採用した場合でも、悪意者は保護に値しないと考える余地がある。また、このような制度設計であれば、独占的ライセンシーは、公示を備えることで確定的に独占性を主張することができる地位を確保することが可能である。
もっとも、民法第177条の「第三者」に悪意者が含まれるか否かの解釈などにおいては、公示制度を設けつつも、公示をしなくても悪意者であれば対抗することができるとすると、公示に対するインセンティブが弱くなるといった理由から、少なくとも単純悪意者に対しては、原則として公示しなければ対抗することができないと考えられている27。この点は、著作xxにおける現行の登録対抗制度(第77条等)においても同様の解釈がとられている。
また、背信的悪意者は別として、「第三者」に単純悪意者まで含まないとする と、その主観的態様についての争いが増え、法律関係が不安定になる懸念もある。
以上のような民法や従前の著作xxにおける解釈との整合性、法的安定性の観点からすれば、独占的ライセンスの対抗制度においても、背信的悪意者の場合は別として、基本的には対抗要件を備えていなければ対抗できない「第三者」に単純悪意者を含まないとすることは困難ではないかと考えられ、独占的ライセ
27 判例では、民法第177条にいう「第三者」について、一般的にはその善意・悪意を問わないとしつつ、「実体上物権変動があつた事実を知る者において右物権変動についての登記の欠缺を主張することがxxに反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない」として、民法第177条の「第三者」に当たらないとしている(最判昭和43年8月2日民集22巻8号1571頁等)。
ンスの対抗制度のみ「第三者」に単純悪意者を含まないとすべき積極的な理由は見出せなかった。
したがって、独占的ライセンスの対抗制度を導入するに当たっても、基本的には、現行著作xxの既存の対抗制度における「第三者」の解釈と同様に、単純悪意者は「第三者」に含むという解釈を前提に制度設計することが妥当と考えられる。
(ウ)①登録対抗制度について
①登録対抗制度については、ワーキングチームにおけるヒアリングにおいて、主に独占的ライセンシー側に立つ関係団体から、登録対象となる著作物の点数が多く、当事者のコスト、社会的コストが高すぎるなどといった理由から、概ね共通して、独占性を主張するための要件として登録を要件とすることは妥当ではない、との意見が示された28。また、調査研究では、独占性の対抗を認める要件としては、登録のように公示をする制度とするのが本来的には望ましいものの、著作権の発生については無方式主義が採用されており登録が活用されにくいこと、日々発生する大量の著作物等について登録を行うことは現実的ではないことから、登録以外の対抗要件を検討すべき、との意見が多かったとされていたところである29。
これに対し、ワーキングチームでは、制度としての安定性という観点で考えると、①登録対抗制度のような公示制度を中心に考えるべきである、との意見が多く示された。もっとも、著作権法上の既存の登録対抗制度(第77条、第88条等)のような著作物等単位での登録対抗制度については、上記で指摘されているような課題もあることから、これに配慮した制度設計を検討する必要性について指摘する意見も多く示されたところである。例えば、著作権法上の既存の登録対抗制度と同様の著作物等単位での登録対抗制度をそのまま採用するのではなく、これをより利用しやすいものに改善や見直しをして採用するという対応もあり得るのではないか、との意見があった30。また、基本的には著作権法上の既存の登録対抗制度と同様の著作物等単位での登録対抗制度を設け、その登録をすれば対抗要件を具備することができるが、それに加えて、当該登録に代替することができる別の対抗要件を設けることが考えられるのではないか、との意見
28 本報告書19頁
29 調査研究報告書69頁
30 登録対抗制度の改善については、手続のデジタル化という観点から収入印紙の在り方や紙の申請書の在り方について議論があることを踏まえて、様々な面での改善がなされていくとよいのではないか、との意見もあった。
もあった31。この点については、ワーキングチームにおけるヒアリングにおいて、将来発生する著作権に係る独占的ライセンスが存在することについても考慮し てほしいといった旨の意見が示されていること32を踏まえ、将来発生する著作権 に係る独占的ライセンスについても対応可能なものが求められるのではないか、との指摘もあった。
以上を踏まえて検討するに、独占性の対抗を受けることによる著作xxの譲受人や他のライセンシーといった第三者が被る不利益が大きいことや制度としての安定性という観点からすると、対抗要件が具備されているか否かは第三者において明確に判断することが容易な客観的なものが望ましいと考えられる。そして、その観点からすると、独占的ライセンスの対抗制度については、基本的には①登録対抗制度を中心に検討すべきものと考えられる。そして、公示としての明確性や制度としての安定性という観点からすれば、著作権法上の既存の登録対抗制度と同様の著作物等単位での登録対抗制度を採用することも選択肢として検討されるべきものと思われるが、他方で、上記で指摘されているとおり、著作権法上の既存の登録対抗制度については様々な課題もあることから、既存の登録対抗制度をより使いやすいものに改善・見直しをして採用することや当該登録の代替となる対抗要件を別途設けることも検討する必要がある。
(エ)登録対抗制度の具体的な制度設計
上記(ウ)の検討結果を踏まえ、①登録対抗制度を採用することとした場合の具体的な制度設計に関して、(ⅰ)既存の登録対抗制度の改善・見直し33や(ⅱ)登録対抗制度を設けつつ、登録の代替となる対抗要件を別途設けることについての検討も行った。
(基本的な検討の方向性)
(ⅰ)や(ⅱ)に関する議論は、既存の登録対抗制度一般においても問題とな
31 具体的には、書籍の場合であれば、奥書に独占的ライセンスを有することを明示するといった形で明認方法による対抗要件具備を認めること、また、民間法人において提供される権利情報を集約したデータベース等に登録することによる対抗要件具備を認めることも考えられるといった意見があった。これに対し、明認方法による対抗要件具備を認めることについては、著作物等は無体物であることから、複製物の奥付に表示されているだけで公示として足りるとすると、第三者において確認することができるかという問題があり、どこか1か所、ここだけ見れば独占ライセンスの有無を間違いなく確認することができる方法での公示とせざるを得ないのではないか、との意見があった。
32 本報告書17頁
33 既存の登録対抗制度の改善・見直しについては、文化庁への登録という現行制度の基本的な建付けを維持しつつ、より使いやすい制度になるよう改善・見直しを行うことについて検討することを想定するものである。
るものであるから、独占的ライセンスの対抗制度だけの問題として議論するのではなく、著作権法上の既存の登録対抗制度も含めた登録対抗制度一般の問題として議論することが望ましく、関係者の具体的なニーズなどを踏まえて引き続き検討する必要があると考えられる。
一方で、本検討課題との関係でいうと、まずは独占的ライセンスについて対抗制度と差止請求権の制度を導入し、独占的ライセンシーに差止請求権という手段を与えることが重要である。(ⅰ)や(ⅱ)の手当がなされなかったとしても、独占的ライセンシーにおいて差止請求権を行使できるようになるということには大きな意義があると考えられる。特に不法利用者との関係では、不法利用者は対抗要件を備えなければ対抗できない「第三者」に該当せず、独占的ライセンシーは対抗要件を具備することなく差止請求権を行使できるようになるため(下記(2)ア参照)、その意義は大きいと考えられる。そのため、(ⅰ)や(ⅱ)に関する議論の結果を追って反映することを前提としながらも、それらの議論が取りまとまるのを待たずに、当該各制度の導入を進めることが考えられる。
したがって、独占的ライセンスに係る対抗制度と下記(2)で検討する差止請求権の制度については、以下のように二段階に分けて制度化することが望ましいと考えられる。
第1段階 独占的ライセンスに係る対抗制度と差止請求権の制度を導入する34。第2段階 (ⅰ)や(ⅱ)に関する議論の結果が取りまとまった時点で、その結
果を独占的ライセンスの対抗制度に反映する。
そこで、以下においては、今後の(ⅰ)や(ⅱ)の検討に資することを目的として、独占的ライセンスの対抗制度を念頭に、当該検討に当たっての留意事項を整理した。
(検討に当たっての留意事項)
検討の進め方に関する事項
既存の登録対抗制度一般についてどのような改善・見直しができるかによって、登録に代わる対抗要件を特別に設けるか否かも変わってくるため、基本的には、(ⅱ)の登録の代替となる対抗要件を検討するよりも先に、文化庁への登録を前提とする(ⅰ)の既存の登録対抗制度の改善・見直しを検討すること
34 独占的ライセンスの対抗制度については、(ⅰ)や(ⅱ)に関する議論が取りまとまるまでは、暫定的に現行の出版権制度と同様の著作物単位での登録対抗制度を採用して同制度を導入することが想定される。
が望ましい。
また、今回検討・議論したところからすると、(ⅰ)と(ⅱ)の検討に当たっては、①個別の著作物を単位とするのではなく、一定のまとまりで対抗要件を具備することができるようにして、対抗要件具備に必要な手続的負担や費用を低減すること、②公示される情報の範囲や当該情報を確認できる者の範囲を限定すること、③将来創作される著作物についても、対抗要件を具備できるようにすることいったニーズを踏まえた検討が必要であるが、これらのニーズに関しては、業界による違いが無いかなど、関係者の意見を丁寧に聞き取りつつ検討することが適当と考えられる。
(ⅰ)既存の登録対抗制度の改善・見直しについての検討の視点
①制度設計の基本的な方向性(物的編成主義と人的編成主義)
制度設計の基本的な方向性として、権利の客体である著作物ごとに登録を編成していく物的編成主義により制度設計していくのか、それとも人ごとにその人が行った独占的ライセンス契約の情報を登録していく人的編成主義により制度設計していくのかという点について、留意しながら検討する必要がある。
この点、人的編成主義であれば、権利の客体を個別に特定することなく登録を可能とすることができ、個別の著作物単位ではなく、一定のまとまりで登録できるようにすること(下記②)や将来創作される著作物の登録をできるようにすること(下記④)も可能と思われる。また、人的編成主義では独占的ライセンスの契約単位で情報を登録していくため、その登録情報を確認できる者を利害関係者に限定するといった制度設計(下記③)もしやすいものと思われる。そのため、下記②~④の問題を解決する方策としては、人的編成主義を採用して制度設計することが有力な選択肢になるものと考えられる。
ただし、著作権移転の登録や出版権設定登録などの独占的ライセンス以外の登録対抗制度でも同様に人的編成主義が有力な選択肢になるか否かについては、当該行為の性質や既存の登録対抗制度において物的編成主義を前提に既に登録されているものの取扱いをどのようにするかなど、別途の考慮が必要になる部分があるため、これらの点に留意して検討する必要がある。
②登録の単位
登録の単位について、個別の著作物単位ではなく、一定のまとまりで登録できるようにすること(例えば、一定の関連性のある複数の著作物(シリーズもの等)について包括的に登録することや一個の独占的ライセンスが複数の著作物を対象としている場合に、当該ライセンスを一個の登録で済ませる
こと)を可能とすることができるかについて検討する必要がある。また、そのような登録を可能とする場合、第三者において、ある特定の著作物が登録の対象になっているか否かを判別するに当たって支障が生じる可能性はないかについても配慮が必要と思われる。さらに、そのような登録を可能とすることによって登録に係る手続的な負担や費用が低減されるかについて配慮して検討する必要がある。
③登録すべき情報及び当該情報を確認できる者の範囲
登録すべき情報及び当該情報を確認できる者の範囲については、公示として最低限必要な情報の範囲、ライセンス内容が第三者に開示されることにより生じる不利益の内容・程度等を踏まえて検討することが必要と考えられる
35。また、下記3.(3)エで指摘するとおり、細分化された権利の公示の可
否(権利の細分化に係る情報の登録の可否)についても、その実体法上の解釈も踏まえて検討されることが望まれる。
④将来創作される著作物への対応可能性
将来創作される著作物についても登録を得られるようにするための方策について検討が必要と考えられる。その際、将来創作される著作物の登録を認めることによる弊害の有無についても留意が必要と思われる。
⑤著作権者等の登録協力義務
独占的利用許諾構成による場合においては、著作権者等の登録協力義務が認められるか否かが問題となる。すなわち、独占的利用許諾構成における独占的利用権と同様、債権的な合意を基礎として独占的な利用を認める権利である不動産賃借権においては、登記が対抗要件とされているものの(民法第
605条)、特約がない限り賃貸人には登記協力義務が認められていない36。そのため、独占的利用許諾構成を採用する場合は、特約がない限り、この不動産賃借権に係る解釈に倣って、登録協力義務が否定される可能性がある。仮に、著作権者等の登録協力義務が否定されるのであれば、著作権者等の登録協力義務を法定するなどの特別な措置を講ずることの要否や可否についても検討される必要があると思われる。
この点について、不動産賃借権では、借地借家法などの特別法により、登記に代わる対抗要件37が設けられていることから、賃貸人に登記協力義務がないと解釈されることの不都合性が顕在化していない可能性がある。また、
35 登録すべき情報については可能な限り簡潔にし、契約内容の詳細については、取引前のデューデリジェンスで確認すれば足りるのではないか、との意見があった。
36 大判大正10年7月11日民録237輯1378頁
37 例えば、借地借家法では、借地権について土地の上に借地権者が登記されている建物を所有することが対抗要件になるとされており(同法第10条第1項)、建物の賃貸借について建物の引渡しが対抗要件になるとされている(同法第31条)。
民法では、売買契約に関し、売買の目的である権利の移転についての対抗要件に係る売主の義務が法定されており(民法第560条)、対抗要件具備の協力義務が法定されている例もないわけではない。そのため、独占的ライセンスにおける著作権者等の登録協力義務については、著作権者等の登録協力義務を法定するなどの特別な措置を講ずることについても積極的に検討を行うべきものと考える38。
他方、専用利用権構成における独占的利用権については、元々物権的な権利として導入されるため、民法における地上権や著作xxにおける出版権と同様に、解釈上、当該物権的な権利に基づく登録請求権が認められ、法律上明示的な規定が設けられておらず、また、特約がなくても著作権者等の登録協力義務が肯定されるものと考えられる。もっとも、同構成においても、独占的ライセンシーが対抗要件を具備するに当たって支障が生じないようにするために、著作権者等の登録協力義務を法定するなどの特別な措置を講ずることについては検討されてよいと考えられる39。
⑥デジタル化・オンライン化への対応
登録手続のデジタル化・オンライン化への対応についても、関係者のニーズを踏まえ、その対応可能性について検討されることが望ましい。
(ⅱ)登録対抗制度を設けつつ、登録の代替となる対抗要件を別途設けることについての検討の視点
①(ⅰ)と共通の検討の視点
(ⅰ)で掲げた検討の視点のうち、①~④及び⑥については、(ⅱ)においても登録に代わる公示の在り方として同様の問題を検討する必要があると考えられる。
②登録の代替となる対抗要件
登録の代替となる対抗要件については、対抗要件具備の先後などxx的に優劣関係等が決定できるかどうか、第三者において確認可能かどうか、対抗
38 検討の方向性として、①不動産賃借権において賃貸人の登記協力義務が認められないことを前提に、著作xxの独占的ライセンスの方では著作権者等の登録協力義務を認める方向で考えるのか、②不動産賃借権においても本来的には賃貸人の登記協力義務が認められるべきという考え方を前提に、著作xxの独占的ライセンスでも著作権者等の登録協力義務を認めるべきと考えるのか、という二通りが有り得るので、これらは区別して議論を進めていく必要があり、その方向性次第で著作権者等の登録協力義務を肯定するための説明の在り方やxxの規定の要否等も変わってくる、との意見があった。
39 ただし、専用利用権構成による独占的利用権について著作権者等の登録協力義務を法定するなどの特別な措置を講ずることとする場合は、地上xxや出版権について登記・登録協力義務に関するxxの規定が法律上に設けられていないこととの関係について一定の整理が必要と思われる。
要件を具備した時点の立証が可能かどうかなどといった観点から具体の要件を検討する必要がある40。
③虚偽の内容が公示されることの防止・抑止
独占的ライセンシーが単独で対抗要件を具備できるとする場合は、対抗要件具備において虚偽の内容が公示されることを防止又は抑止できるのかという点にも留意が必要と思われる41。
(オ)まとめ
以上を踏まえれば、独占的ライセンスの対抗制度の制度設計については、②事業実施対抗制度や③悪意者対抗制度を採用することは妥当ではなく、①登録対抗制度により制度設計していくべきものと考えられる。
他方で、著作権法上の既存の登録対抗制度については様々な課題もあることから、独占的ライセンスの対抗制度の制度設計に当たっては、これをそのまま基礎とするのではなく、(ⅰ)既存の登録対抗制度の改善・見直しや(ⅱ)著作権法上の既存の登録対抗制度と同様の著作物等単位での登録対抗制度を採用しつつ当該登録の代替となる対抗要件を別途設けることについても検討する必要がある。もっとも、これらの検討については、独占的ライセンスの対抗制度だけでなく、既存の著作xxの移転等の対抗制度も含めた登録対抗制度一般の問題として議論することが適当と考えられる。
また、独占的ライセンスに係る対抗制度と下記(2)で検討する差止請求権の制度については、上記(エ)で述べた通り、二段階に分けて制度化することが適当と思われる。具体的には、第1段階として、当該各制度の導入を進めつつも(登録対抗制度は暫定的に出版権の登録対抗制度と同様の制度を採用)、上記(ⅰ)
40 登録の代替となる対抗要件として、例えば、明認方法(書籍の場合であれば奥書に独占的ライセンスを有することを明示するなど)や、民間法人において提供される権利情報を集約したデータベース等への登録を対抗要件とすることについて議論がなされた。明認方法については、著作物の場合、複製物が多数存在し得るため、第三者においてどこまで確認すればよいのか分からないといった問題や、その措置が施された時点の立証の問題があるので、採用するのは難しいのではないか、との意見があった。また、データベースについては、xx的に相互関係等が決定できる必要があるため、民間のデータベースであれば認証制度を導入し、一分野に一つの統一的なデータベースとすること、あるいは、公的なデータベースを作ってそこに各データベースの情報を統合すること、といった制度設計が必要になるのではないか、といった意見があった。
41 実務的には、共同申請ではない簡易な方法での対抗要件具備のニーズはあると思われるので、虚偽性を排除する工夫と併せて簡易な方法についても検討してはどうか、といった意見や、例えば、データベースへの登録を対抗要件とする場合など、虚偽登録を防止・抑止する方策として、独占的ライセンシーから登録の申請があった場合は申請を受けた機関から著作権者に対し意思の確認をするという制度設計も考えられるのではないか、との意見があった。
や(ⅱ)に関する議論の結果が取りまとまった時点で、第2段階として、その結果を独占的ライセンスの対抗制度に反映していくことが望ましい。
エ 契約承継の問題との関係
(ア)問題の所在
ワーキングチームで実施した関係者へのヒアリングにおいては、独占性の保護の在り方として、独占的ライセンス契約の契約上の地位の移転(以下「契約承継」という。)による保護を求める意見42も見られたところである。また、独占的ライセンスの対抗制度を導入した場合、独占性の対抗に伴う独占的ライセンス契約の承継を認めるか否かについても問題になる。
契約承継には、譲渡人となる契約当事者の一方と、譲受人となる第三者の間で、契約上の地位を譲渡する旨の合意がなされることに加え、契約の相手方の承諾 を必要とするのが、民法の原則である(民法第539条の2)。
他方、この原則に対する例外として、譲渡人の免責を伴う契約承継によって契約の相手方に不利益が生じない場合には、相手方の承諾は不要であると解されてきた。例えば、不動産賃貸借における目的物の譲渡については、賃貸人の交替によって相手方(賃借人)が不利益を受けることはカテゴリカルにないといえることから、①賃借人が対抗要件を備えている場合において、目的物たる不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人の地位は譲受人に当然に移転するとされ(民法第605条の2第1項)、②賃借人が対抗要件を備えていない場合であっても、譲渡当事者間の合意によって、賃借人の承諾を要することなく、賃貸人の地位を移転することができるとされている(民法第605条の3)。
そこで、独占的ライセンスの独占性の保護の在り方として、独占的ライセンス契約の承継に係る一定の基準を法定すること等についての考え方を整理することとした。
(イ)利用権の当然対抗制度導入時の議論
利用許諾契約(ライセンス契約)の承継については、利用権の当然対抗制度導入時にも検討がされており、以下のとおり整理されている43。
①利用権の当然対抗制度導入に伴う独占的ライセンス契約の承継について
なお、当然対抗制度の導入が、利用許諾に係る権利が非独占的であって、譲受
42 本報告書13頁
43 文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)127~129頁
人に与える不利益が小さいこと44を前提として正当化されていることを踏まえれば、利用許諾に係る権利の当然対抗に伴い、契約条項のうち独占条項(利用者 以外の者には利用させない旨の合意)が承継されることはないものと考えられることから、独占条項については契約承継の在り方に係る検討対象からは除外して扱うものとする。
また、非独占的な利用許諾契約を念頭においたものであるが、利用権の当然対抗制度導入に伴う契約承継の在り方について、以下のとおり整理されている。
②利用許諾契約全体を一律に承継させることについて
著作物に係る利用許諾契約においては、著者が負う校正義務やソフトウェア等の保守・修理・サポート・カスタマイズの義務等、誰でも履行することができ るわけではない性質の義務も定められる例があることが確認された。また、利用許諾契約において定められることのある著作者人格権の不行使特約のように、著作者がその義務を負わなければ意味がない性質の義務が定められる例も存在する。このように利用許諾契約において定められることのある義務の性質を踏まえれば、利用許諾契約全体を一律に承継させることとすると、ライセンサーの交代が利用者に不利益を与える場面も想定されるため、利用許諾契約全体を一律に承継させる制度を採用するのは妥当ではないと考えられる。
③利用者に不利益を生じさせない範囲で契約を承継させることについて
利用者に不利益を生じさせない範囲で、例えば、著作権者の負う義務のうち誰でも履行することのできる義務のみ承継させるという制度を設けることも考えられる。一方で、例えば、誰でも履行することのできる義務に限って承継を認め るという制度とする場合、そのような義務の性質を適切に区分けして規定を置くことは立法技術上困難であることが考えられる。また、様々な条項がパッケージとなって契約は作られており、使用料の支払額等は他の契約条項と連動してその内容が決まっている場合も存在することから、契約内容のうちの一部(誰でも履行することのできる義務)のみが承継されることとなると、旧著作権者と譲受人との間で使用料を案分しなければならない等の複雑な法律関係をかえって生じさせる可能性もある。さらに、著作権は支分権ごとに譲渡が可能であること
から、利用許諾の対象となっている支分権のうち一部の権利だけ譲渡された場
44 利用権が対抗された場合には、譲受人は利用者による著作物等の利用を差止めることはできなくなるが、譲受人自ら著作物等を利用することはできるし、他者に許諾を行い利用させることができる。
合に、どのように対価を支払えばよいのか問題が生じる場面があり得る。したがって、このように誰でも履行することのできる義務に限って承継を認めるとい う制度については慎重な検討が必要となる。
(中略)
以上を踏まえると、利用許諾に係る権利の対抗に伴う契約の承継に関しては、一定の基準を法定して契約が承継されるか否かが決定される制度を設けること は妥当ではないものと考えられ、契約が承継されるか否かについては個々の事案に応じて判断がなされるのが望ましいと考えられる。
④契約を承継しない旨の合意について
利用許諾契約に関しても、譲受人において契約の承継を望まない状況があるものと考えられるところ、…不動産賃貸借の例に照らせば、当事者間の合意によ り契約の承継を否定することは可能であると考えられる。
この合意に関しては、改正民法において不動産賃貸借については、留保の合意に加えて賃貸の合意を必要としているのは、権限を有しない賃貸人では修繕義務を円滑に履行ができないなどの事情から賃借人に対し不動産賃借権の対抗に尽きない保護を与えているものと考えることができ、そのような考えからは著作物の利用許諾について利用許諾に係る権利の対抗に尽きない保護を与える必要があるのかが問題となるといった意見や、当事者が合意しない限り契約が承継されることはないという立場を前提に、当事者が明示的に留保する旨の合意をしていれば契約は承継されないといった意見が示された。
(ウ)独占的ライセンス契約における契約承継の考え方
上記(イ)の整理を参考に、独占的ライセンス契約における契約承継の考え方について検討したところ、上記(イ)②~④で整理された考え方については、いずれも独占的ライセンス契約の場合にも妥当するという点で意見が一致した。
すなわち、独占的ライセンス契約についても、一定の基準を法定して契約が承 継されるか否かが決定される制度を設けることは妥当ではないものと考えられ、契約が承継されるか否かについては、個々の事案における契約当事者の意思解 xxを通じて個別に判断されることが望ましいと考えられる。また、契約を承継 しない旨の合意により契約承継を否定することについても認めて差し支えない と考えられる。
オ 著作xx管理事業への影響
著作xx管理事業者は、著作権者等から著作xxの管理委託を受けて、著作x
xの管理を行い、利用者に対して許諾を行い、利用者からの使用料の徴収及び著作権者等への使用料の分配を行っている。管理委託契約については、著作xx管理事業法上、以下の二つの類型が定められている(同法2条1項)。
①委託者が受託者に著作xxを移転し、著作物等の利用の許諾その他の当該著作xxの管理を行わせることを目的とする信託契約(以下「信託譲渡型管理委託契約」という。)
②委託者が受託者に著作物等の利用の許諾の取次又は代理をさせ、併せて当該取次又は代理に伴う著作xxの管理を行わせることを目的とする委任契約
(以下「委任型管理委託契約」という。)
独占的ライセンスの対抗制度が導入された場合、著作xx管理事業者又は当該事業者から許諾を受けた利用者は、独占的ライセンシーと対抗関係に立つ第三者として、独占性の対抗を受けることが想定される。
そこで、独占性について対抗力を備えている独占的ライセンスが設定されている著作xxを著作xx管理事業者に対し管理委託することの可否、著作xx管理事業者における応諾義務(著作xx管理事業法第16条)の有無等、独占的ライセンスの対抗制度が導入された場合における著作xx管理事業への影響について検討し、以下のとおり考え方を整理した45。
(ア)著作権者等及び著作xx管理事業者間の管理委託契約締結前に、著作権者等と独占的ライセンス契約を締結している独占的ライセンシーが独占性について対抗力を備えていた場合
(ア)の場合(図1~3)、独占的ライセンスの範囲では著作権者等は著作xx管理事業者に対し、その著作xxの管理委託をすることができず46、著作xx
45 なお、(ア)及び(イ)において示している図1~10は各場合における典型例を示しているものであり、すべての事例を網羅しているものではない。
46 「管理委託をすることができず」の意味は、信託譲渡型管理委託契約においては、著作権者等から著作xx管理事業者に信託譲渡する著作xxは独占的ライセンスの負担の付いたものになり、当該独占的ライセンスの範囲では、著作xx管理事業者には、第三者に対し適法な利用許諾を行うための権限が認められないという意味である。また、委任型管理委託契約においては、独占的ライセンスの範囲において、著作xx管理事業者は、著作権者等から、第三者に対し適法な利用許諾を行うための権限の設定を受けることができないという意味である。ただし、いずれの場合も著作xx管理事業者と著作権者等との間の管理委託契約は債権的には有効なものとして成立し得ると思われる。なお、この点については、著作xx管理事業法との関係で管理委託契約が債権的に無効と解釈される可能性の有無についても整理しておく必要がある、との意見があった。
管理事業者の応諾義務も生じない47。
図1 信託譲渡型管理委託契約締結前に独占性の対抗力が具備されている場合
著作権者等ライセンサー
①独占的ライセンス契約
②独占性の対抗力具備
独占的ライセンシー
③管理委託契約(信託譲渡)
④著作xx移転の登録
著作xx管理事業者
⑤利用許諾契約
利用者
図2 委任型管理委託契約(代理)締結前に独占性の対抗力が具備されている場合
著作権者等ライセンサー
①独占的ライセンス契約
②独占性の対抗力具備
独占的ライセンシー
③管理委託契約
(代理業務の委任)
④利用許諾契約
著作xx
管理事業者
(代理で契約)
利用者
47 この場合、独占的ライセンスが設定されている部分は、著作xx管理事業法第16条の
「取り扱っている著作物等」の範囲に含まれないものと考えられる。
図3 委任型管理委託契約(取次)締結前に独占性の対抗力が具備されている場合
著作権者等
ライセンサー
①独占的ライセンス契約
独占的ライセンシー
②独占性の対抗力具備
③管理委託契約
(取次業務の委任)
著作xx
管理事業者
④利用許諾契約
(取次で契約)
利用者
(イ)著作権者等及び著作xx管理事業者間の管理委託契約締結後に、著作権者等と独占的ライセンス契約を締結している独占的ライセンシーが独占性について対抗力を備えた場合
独占性の対抗力が備わった時点で既に著作xx管理事業者から利用許諾を受けていた利用者が存在する場合(図4~6)については、利用権の当然対抗制度
(第63条の2)により、その利用権を独占的ライセンシーに対抗することができると考えられ、利用者はその利用を継続することができるものと思われる。
図4 信託譲渡型管理委託契約締結が締結されている場合において独占性の対抗力が具備される前に著作xx管理事業者からの利用許諾がされていた場合48
著作権者等ライセンサー
③独占的ライセンス契約
④独占性の対抗力具備
独占的ライセンシー
①管理委託契約(信託譲渡)
⑤著作xx移転の登録
著作xx管理事業者
②利用許諾契約
利用者
図5 委任型管理委託契約(代理)が締結されている場合において独占性の対抗力が具備される前に著作xx管理事業者からの利用許諾がされていた場合
著作権者等ライセンサー
③独占的ライセンス契約
④独占性の対抗力具備
独占的ライセンシー
①管理委託契約
(代理業務の委任)
②利用許諾契約
著作xx
管理事業者
(代理で契約)
利用者
48 不動産賃借権の事例であるが、不動産が二重譲渡され、一方の譲受人Aから不動産賃借権の設定を受けたBが、他の譲受人Cにおいて当該不動産の所有権移転登記を備える前に借地借家法上の対抗要件(同法第10条第1項、第31条)を備えていた、という図4と類似の事例について、他の譲受人Cがその後当該不動産の所有権移転登記を備えたとしても、不動産賃借人Bは当該譲受人Cにその不動産賃借権を対抗することができると解する見解が有力である(xxx『債権各論 中巻一』(岩波書店、1957年)517頁など)。判例でも、借家法第1条(現在の借地借家法第31条に相当)についてのものであるが、かかる見解と同様の結論をとるものとして大判昭和4年3月1日民集8巻3号152頁、大判昭和
5年5月28日法律新聞3139号13頁などがある。
図6 委任型管理委託契約(取次)が締結されている場合において独占性の対抗力が具備される前に著作xx管理事業者からの利用許諾がされていた場合
著作権者等
ライセンサー
③独占的ライセンス契約
独占的ライセンシー
④独占性の対抗力具備
①管理委託契約
(取次業務の委任)
著作xx
管理事業者
②利用許諾契約
(取次で契約)
利用者
他方、独占性の対抗力が備わった後に利用許諾をしようとする場合(図7~9)ついては、著作xx管理事業者は、その独占的ライセンスの範囲で利用許諾権限 を失うため、第三者に対し、利用許諾を行うことはできず49、著作xx管理事業 者の応諾義務も生じない。
ただし、当該管理委託契約が信託譲渡型管理委託契約の場合については、著作xx管理事業者は、独占性の対抗力具備の前に当該信託譲渡に係る著作xxの移転について登録を備えている場合(図10)であれば、当該信託譲渡に係る著作xxの移転が独占的ライセンスの独占性に優先するため、その独占的ライセンスの範囲内においても利用許諾権限を失わず、応諾義務も負うことになる。
49 「利用許諾を行うことはできず」の意味は、有効な利用権を設定する利用許諾を行うことができないという意味であり、著作xx管理事業者と第三者との間の利用許諾契約は債権的には有効なものとして成立し得ると思われる。ただし、この点についても、本報告書40頁の注46で指摘されているのと同様に、著作xx管理事業法との関係で利用許諾契約が債権的に無効と解釈される可能性についても留意する必要があるものと思われる。
図7 信託譲渡型管理委託契約が締結されている場合において独占性の対抗力が具備された後に著作xx管理事業者が利用許諾をしようとする場合
著作権者等ライセンサー
②独占的ライセンス契約
③独占性の対抗力具備
独占的ライセンシー
①管理委託契約(信託譲渡)
⑤著作xx移転の登録
著作xx管理事業者
④利用許諾契約
利用者
図8 委任型管理委託契約(代理)が締結されている場合において独占性の対抗力が具備された後に著作xx管理事業者が利用許諾をしようとする場合
著作権者等ライセンサー
②独占的ライセンス契約
③独占性の対抗力具備
独占的ライセンシー
①管理委託契約
(代理業務の委任)
④利用許諾契約
著作xx
管理事業者
(代理で契約)
利用者
図9 委任型管理委託契約(取次)が締結されている場合において独占性の対抗力が具備された後に著作xx管理事業者が利用許諾をしようとする場合
著作権者等
ライセンサー
②独占的ライセンス契約
独占的ライセンシー
③独占性の対抗力具備
①管理委託契約
(取次業務の委任)
著作xx
管理事業者
④利用許諾契約
(取次で契約)
利用者
図10 信託譲渡型管理委託契約が締結されている場合において独占性の対抗力が具備される前に信託譲渡に係る登録がされている場合
著作権者等ライセンサー
②独占的ライセンス契約
⑤独占性の対抗力具備
独占的ライセンシー
①管理委託契約(信託譲渡)
③著作xx移転の登録
著作xx管理事業者
④利用許諾契約
利用者
(2) 独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度について
ア 差止請求権付与の正当化根拠
独占的利用許諾構成において、独占的ライセンシーが独占的ライセンス契約に基づき有する権利は、債権的な合意を基礎として独占的な利用を認める権利であるという点において、不動産賃借権に類する。そこで、不動産賃借権に基づく妨害排除請求権をめぐる民法上の議論を手掛かりとして、独占的ライセンスに基づく差止請求権を付与する制度導入の正当化根拠が認められるか否か、また、認められる場合の差止請求の要件について検討を行った。
(ア)不動産賃借権に基づく妨害排除請求権の正当化とその要件
不動産賃借権に基づく妨害排除請求権については、平成29年民法改正によ り民法第605条の4の規定が設けられているが、同改正前においても、解釈上、不動産賃借権に基づく妨害排除請求権が認められてきたところである50。
不動産賃借権に基づく妨害排除請求権の正当化根拠については、調査研究を踏まえると、以下の四つの考え方に整理することができると考えられる51。
①不動産賃借権の特殊性による正当化
まず、不動産賃借権に基づく妨害排除請求権を不動産賃借権の特殊性により正当化を試みる考え方がある。すなわち、不動産賃借権は、人が生活をしたり、事業をしたりするための基盤であり、それが保護されなければ、人は安定した生活や事業を営むことができなくなるという、不動産賃借権に定型的に認められる社会的作用の重要性、又は、借地借家法や農地法といった特別法によって不動産賃借権の継続性が強化されていることに着目して不動産賃借権に基づく妨害排除請求権が正当化されるという考え方である。
50 不動産賃借権に基づく妨害排除請求権に関する従前の判例は次のとおりである。①対抗力を備えた土地賃借人は、その目的物である土地について二重に賃借権を取得した者に対し、賃借権に基づいて妨害排除を請求することができる(最判昭和28年12年18日民集
7巻12号1515頁、最判昭和45年11月24日判時614号49頁等)。また、②対 抗力を備えた土地賃借人は、その目的物である土地の不法占拠者に対し、賃借権に基づいて 妨害排除を請求することができる(最判昭和30年4月5日民集9巻4号431頁)。他方 で、③対抗力を備えていない土地賃借人は、その目的物である土地の不法占拠者に対しても、賃借権に基づいて妨害排除を請求することができない(最判昭和29年7月20日民集8 巻7号1408頁)。
51 調査研究報告書112~116頁
②対抗力による正当化52
次に、不動産賃借権に基づく妨害排除請求権を、不動産賃借権の対抗力によって正当化する考え方がある。調査研究では、この考え方にはいくつかのバリエーションがみられるとされているが、その一つとして、不動産賃借権について対抗力を与える以上、その基礎にある評価を貫徹するためには、その賃借権について妨害排除請求権をも与えなければならないという考え方を取り上げている。すなわち、不動産賃借人が対抗力を備えた場合は、自分に劣後する不動産の譲受人や二重賃借人から、その目的物である不動産を利用することを禁じられるべきではないと評価される。このことは、有体物である不動産の性質上、同時に、対抗力を備えた不動産賃借人は、自分に劣後する不動産の譲受人や二重賃借人に対し、それらの他人がその目的物である不動産を利用することを禁ずることができる、という評価を含むこととなる。そして、後者の評価を貫徹するためには、対抗力を備えた不動産賃借人に妨害排除請求権が認められなければならないと考えるものである。
③対抗制度による正当化
②の考え方をさらに推し進め、不動産賃借人がその賃借権を主張することができる者に対しては、妨害排除請求をすることができ、対抗力を備えることを要するか否かは、民法第605条の「第三者」(対抗力の不存在を主張するについて正当な利益を有する者)にあたるかどうかにかからしめられるという考え方がある。すなわち、民法第605条の「第三者」にあたらない不法占拠者に対しては、不動産賃借人は対抗力を備えていなくても、その賃借権を主張することができるが、この場合、有体物である不動産の性質上、不動産賃借人は、不法占拠者に対し、その目的物である不動産の利用を禁ずることができる、という評価を含むはずであり、この評価を貫徹するならば、不動産賃借人は、対抗力を備えていなくても、不法占拠者に対しては、妨害排除を請求することができることとなる。
したがって、この考え方では、対抗力を備えた不動産賃借人に妨害排除請求権が認められるのみならず、不法占拠者に対しては、対抗力を備えていない不動産賃借人についても妨害排除請求権が認められることになる。
④占有による正当化
さらに、不動産賃借人が対抗力を備えていない場合であっても、その目的物である不動産の占有を取得していたときは、その不動産を違法に侵害する者に対
52 不動産賃借権に基づく妨害排除請求権に関する判例(本報告書47頁の注50)は、②対抗力による正当化を用いたときと、同一の結論をとっていた。
し、妨害排除を請求することができるとすべきであるという考え方がある。 この考え方は、占有の取得により、不動産賃借権に基づく妨害排除請求権が正
当化される理由として、次の点を挙げている。すなわち、不動産賃借人が占有を取得したときは、目的物である不動産との間に緊密な事実上の関係が生じ、第三者もそのことを認識することができるようになることである。
(イ)独占的ライセンスに基づく差止請求権の正当化とその要件
独占的ライセンスに基づく差止請求権の正当化根拠については、不動産賃借権に基づく妨害排除請求権の正当化根拠に係る上記(ア)の各考え方をこれに応用することができるかという観点から検討を進め、以下のとおり整理した。
①不動産賃借権の特殊性による正当化の応用について
著作xxに係る独占的ライセンスについては、不動産賃借権と同様の社会的作用(人が生活したり事業をしたりするための基盤としての作用)が定型的に認められるとはいえず、また、特別法による継続性の強化もないため、不動産賃借権と同様の特殊性があるとはいえず、これを独占的ライセンスに基づく差止請求権に応用することはできない。
②対抗力による正当化及び③対抗制度による正当化の応用について
独占的ライセンスの対抗制度を導入する場合は、②及び③を独占的ライセンスの差止請求権の正当化根拠として応用することが考えられる。
②と③では対抗力を備えていない独占的ライセンシーによる不法利用者に対する差止請求の可否の点で違いが生ずるが、この点については、独占的ライセンスの対抗制度において、不法利用者は、対抗力の不存在を主張するについて正当な利益を有する者、すなわち、同制度における「第三者」ではなく、独占的ライセンシーは、対抗力を備えることなく、その独占的ライセンスの独占性を不法利用者に主張することができるはずである。その場合、独占的ライセンシーは不法利用者がその独占的ライセンスの対象の著作物等を利用することを禁ずることができる、という評価がなされているはずであり、また、仮に、独占性を主張することができるとしつつ、侵害行為を排除できないとすると、権利の実効性が著しく損なわれる。そのため、当該評価を貫徹し、権利の実効性を確保するという観点から、対抗力を備えていない独占的ライセンシーによる不法利用者に対する差止請求は認められるべきものと考えられる。
したがって、独占的ライセンスに基づく差止請求権については、②対抗力による正当化ではなく、③対抗制度による正当化を応用することが妥当と考えられる。
④占有による正当化の応用について
不動産賃借権と著作権に係る独占的ライセンスでは、権利の対象が不動産という有体物か著作物等という無体物かという違いがあり53、調査研究54でも指摘されているとおり、無体物である著作物等については、事実上、自分が利用していたとしても、他人の利用が当然に排除されるわけではないことから、有体物における占有という考え方をそのまま持ち込むことはできない。もっとも、占有と類似の事実状態として、自分で利用しているだけではなく、他人の利用を排除しているという事実状態にあることを要件とすることで55、④を独占的ライセンスの差止請求権の正当化根拠として応用することができないかが問題となる。
この点、上記のような占有と類似の事実状態について、有体物における占有と同様の要保護性を認めることができるかについては議論の余地があり、また、そのような事実状態であることを(特に、不法利用者との関係において)差止請求権の要件とすると、差止請求権の行使が非常にハードルの高いものとなり、差止請求権の制度が現実的には機能しないものとなってしまう可能性が高い。さらに、上記のような事実状態に至るまでは、差止請求権による保護を受けられないことになり、妥当ではない。
したがって、④占有による正当化については応用し得ないと考える。
⑤まとめ
以上のとおり、①不動産賃借権の特殊性による正当化及び④占有による正当化を著作xxに係る独占的ライセンスに基づく差止請求権の正当化根拠として応用することは困難である。他方、独占的ライセンスの対抗制度を導入する場合は、②対抗力による正当化及び③対抗制度による正当化を応用することが考えられるが、上述のとおり、対抗力を備えていない独占的ライセンシーによる不法利用者に対する差止請求は認められるべきものと考えられることから、独占的ライセンスに基づく差止請求権については、③対抗制度による正当化を応用することが妥当である。
もっとも、③の考え方を採用することについては、民法を含めた法体系全体として、整合的な説明をすることができるかという点について、引き続き検討する
53 不動産賃借権と著作権に係る独占的ライセンスでは、権利の対象が不動産という有体物か著作物等という無体物かという点で極めて本質的な違いがあるため、この点を強く意識して検討する必要がある、との指摘があった。
54 調査研究報告書118頁
55 調査研究報告書118頁の注370で指摘されているが、複製権の準占有による取得時効が成立するための要件として、最判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁(ポパイネクタイ事件上告審)が、「著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利を専有する状態、すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていること」を求めていることが参考になる。
必要性が指摘されたところであり、仮に、民法の不動産賃借権の議論と著作xxにおける独占的ライセンスの議論で異なる部分がある場合には、それが不動産賃借権と独占的ライセンスの違いに基づく違いなのか、そうであれば、不動産賃借権と独占的ライセンスのどのような違いに基づくものなのかといった点を含め検討する必要がある、との指摘があった。この点については、民法の不動産賃借権の議論においても③の考え方が否定されているわけではなく、著作xxにおける独占的ライセンスの議論において、③の考え方をとることが、必ずしも民法の不動産賃借権の議論との違いを生じさせるとは限らないといった意見、仮に、違いが生ずるとしても、不動産賃借権と独占的ライセンスでは、権利の対象が有体物か無体物かという極めて本質的な違いを含む違いがあり、有体物を対象とする不動産賃借権の議論が無体物を対象とする著作権の独占的ライセンスに直ちに妥当するわけではない、といった意見もあったところである56。
いずれにせよ、独占的利用許諾構成に基づいて独占的ライセンスに基づく差止請求権の制度を設計する場合には、以上のような検討結果を踏まえつつ、民法を含めた法体系全体との整合性、独占的ライセンスと不動産賃借権における権利の対象の性質の違い等を含め、法制的な観点から、更なる検討・整理が望まれ
56 その他、民法の不動産賃借権の議論と著作xxにおける独占的ライセンスの議論において、基本的な考え方は同じになるとしても、権利の対象の違い等によって、説明の仕方が変わる可能性はある、との指摘があった。
る57。
イ 著作権者等の意思への配慮の要否及び方法
独占的ライセンスに基づく差止請求権を認める場合、独占的ライセンシーは、著作権者等とは独立して差止請求権を行使することができることになるが、その行使は必ずしも著作権者等の意思に沿うものとは限らない。調査研究におけるヒアリング結果においても、権利者側の団体から、独占的ライセンスに基づく差止請求権を認めるとしても、その行使に当たっては、何らかの形で著作権者等の承諾を要件とすべき、との意見があった58。一方で、独占的ライセンシー側の関係団体からは、差止請求権を行使する際に著作権者等の承諾が要件となると負担が大きく、外国に著作権者等がいる場合など、迅速な権利行使にも支障が出
57 民法を含めた法体系全体として、整合的な説明をすることができるかという点については、債権的な権利に差止請求権を認めるというのは、民法においてもまだ不動産賃借権にしか認められていないことを踏まえると、新しく創設される制度において、債権的な権利であるにも関わらず差止請求権を付与する場合、それを正当化するための一定の説明が必要になる、といった意見があった。また、これに関連して、著作xxの利用権において当然対抗が認められていることとの関係で何らか説明できないかという点にも議論が及んだが、この点については、著作xxの利用権に当然対抗が認められているのは、その対象が非競合的な無体物であり、独占性の部分と切り離して、利用権のみの対抗を認めることができるためである、他方、地上xxにおいて、登記が対抗要件とされ、当然対抗とされていないのは、対象が有体物であり、利用権の対抗と独占性の対抗とをセットで考えざるを得ないためである、そのため、利用権の当然対抗制度が設けられていることを理由とし て、著作xxの利用権が地上xxよりも物権化されているといった説明をすることは誤解を招きやすいと思われる、との意見があった。他方で、①民法でも不動産賃借権に限られているとはいえ、債権的な権利に差止請求権が認められていること、②利用権の当然対抗制度が設けられたことにより利用許諾に係る権利に物権的な効果を認める法的基礎ができていると考えられること、③無体物においては、有体物の場合と異なり、不作為請求権
(差止請求権)がなければ、それについての独占性を確保するための法的手段がない(そのため画餅に帰する)こととなるため、不作為請求権は本質的に不可欠であること、という三重の理由付けを総合することで十分に説明できるのではないか、また、そもそも、有体物と無体物との本質的差異(使用等の排他性ないし競合性の有無等)に起因する、有体物を権利の対象とする民法上の権利と無体物を権利の対象とする著作権法上の権利との本質的差異(権利の成り立ちや規律の在り方等の本質的な違い一般)からすれば、有体物に係る民法との整合性の上での問題はない、との意見があった。さらに、独占的利用許諾構成における独占的利用権では、利用権(1階部分)と独占性(2階部分)で分けて考えると、1階部分については、登録等の対抗要件を備えることなく対抗できるという意味で は、登録等の対抗要件を備えなければ第三者との関係で利用に係る権利の部分も確定的に確保できない地上xxの物権に比して強い保護が与えられている面がある(これは1階部分のみを比較した場合の話であり、2階部分まで含めて地上xxよりも保護が強化されているという趣旨ではない。)、その1階部分が存在することにより、2階部分の物権的性格を基礎づけやすくなっているものと考えられ、この「1階部分に支えられた2階部分」の物権的性格のコロラリーが差止請求権といえる、との意見もあった。
58 調査研究報告書122頁~124頁
かねない、との意見もあったところである59。
そこで、独占的ライセンシーが独占的ライセンスに基づく差止請求権を行使するに当たって、著作権者等の承諾や著作権者等の意思に反しないことを要件とすべきか、仮に、要件とすべきでないとする場合は、他に著作権者等の意思に配慮した要件(例えば、著作権者等に対する事前通知義務を課す等)を設けることが考えられるかについて検討を行った。
まず、差止請求権の発生要件や行使要件として著作権者等の承諾やその他の著作権者等の意思に配慮した要件は不要と考えられる。
すなわち、著作権者等が独占的ライセンスを付与した以上、著作権者等は、独占的ライセンシーに対し、当該著作物等を独占的ライセンシーの独占的な利用に適した状態に置く義務を負っていると考えられ、そうである以上、その独占的な利用を確保しようとして行われる独占的ライセンシーの差止請求権の行使を著作権者等は受忍しなければならないと考えられる60。
特に、著作xxの譲渡や二重ライセンスが行われた場合に、独占的ライセンシーが独占性の対抗力を備えて、著作xxの譲受人や他のライセンシーに差止請求をする場面では、著作権者等自身が独占的ライセンスと抵触する著作xxの譲渡や二重ライセンスを行っていることからすると、独占的ライセンシーとの関係では著作権者等の意思に配慮する必要性は乏しいと思われる。
一方、著作権者等のビジネス戦略又はブランド戦略との関係で、場合によっては、著作権者等の意思への配慮が求められる場面も想定されるが、著作権者等としては、そのような場面へ対応するため、独占的ライセンシーの差止請求権の行使について契約上の制限をかけることは可能であり61、独占的ライセンス契約において、独占的ライセンシーの差止請求権の行使には著作権者等の承諾が必要といった合意をしておき、独占的ライセンシーが当該合意に違反した場合は、独占的ライセンシーに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求を行うことができるようにしておくことが考えられる。
以上のことからすると、独占的ライセンスに基づく差止請求権の発生要件や行使要件として著作権者等の承諾やその他の著作権者等の意思に配慮した要件は不要であり、著作権者等への意思への配慮の方法としては独占的ライセンシ
59 調査研究報告書122頁~124頁、本報告書17頁
60 著作権者等としては、独占的ライセンシーに差止請求権を行使されたくないのであれば、そもそも独占的ライセンスを出さないという選択をすればよいはずである、との意見が多く示された。
61 独占的ライセンシーの差止請求権について、独占的ライセンス契約上で制限をかけた場合でも、独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンスに基づく差止請求権の制度において規定する独占ライセンスの定義に該当する限りは、当該独占的ライセンスも当該各制度の対象となり、当該契約上の制限は、債権的な制限に留まるものと考えられる。
ーの差止請求権の行使について契約上の制限をかけることで対応すれば足りると考えられる6263。
なお、独占的ライセンスに基づく差止請求権の発生要件や行使要件として著 作権者等の承諾やその他の著作権者等の意思に配慮した要件は不要だとしても、訴訟手続面における著作権者等への配慮(訴訟提起する際に、著作権者等への事 前通知をすることを義務づける等)が必要ではないかという点についても議論 したが、この点についても、特段の配慮が必要な場合は、契約上で手当すれば足 り、制度として何らかの手当は不要という意見で一致した。
ウ 民法第605条の4の規定との整合性
(ア)問題の所在
独占的利用許諾構成において、独占的ライセンシーが独占的ライセンス契約に基づき有する権利は、債権的な合意を基礎として独占的な利用を認める権利であるという点において、不動産賃借権に類するところ、不動産賃借権に基づく妨害排除請求権については、民法上次のように規定されている。
(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)
第605条の4 不動産の賃借人は、第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
x xx不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨
害の停止の請求
二
求
その不動産を第三者が占有しているとき
その第三者に対する返還の請
このように、不動産賃借権に基づく妨害排除請求権に関する民法第605条の4は、請求権者を、対抗力を備えた不動産賃借人であるとし、また、妨害の予
62 独占的ライセンスに基づく差止請求権の発生要件として、著作権者の承諾を要求し、著作権者の意思へ一定の配慮を行うことも考えられるが、この点については、制度上、差止請求権のない独占的ライセンスという類型を認めると、制度として複雑になり、また、その承諾の有無といった細かい契約解釈のところで第三者が差止めの可否を争うことができるようになる点で妥当ではない、との意見があった。
63 「著作権者」ではなく「著作者」の意思への配慮が必要かという点についても議論が及んだが、「著作者」は、自身の意思を尊重してほしい場合は著作権を譲渡しなければ良いのであり、また、「著作者」ではない著作権者が差止請求をするときには「著作者」の意思を確認する必要がないにもかかわらず、独占的ライセンシーが差止請求するときになって突然
「著作者」の意思を確認しなければならないとする理由もないことから、独占的ライセンシーが差止請求を行うに当たって「著作者」へ配慮した要件設定は不要という点で意見が一致した。
防請求(民法第199条参照)については、規定を設けていない。
そこで、同規定が独占的ライセンスに基づく差止請求権の制度設計に与える影響について、具体的には、以下の2点についての考え方を整理した
(α)対抗力を備えていない独占的ライセンシーの不法利用者に対する差止請求の可否
(β)侵害の予防請求の可否
(イ)独占的ライセンスに基づく差止請求権について(α)及び(β)の請求を認めるべきか否かについて
独占的ライセンスに基づく差止請求権においては、(α)対抗力を備えていない独占的ライセンシーの不法利用者に対する差止請求、及び(β)侵害の予防の請求を認めるべきと考えられる。
すなわち、(α)については、独占的ライセンスに基づく差止請求権の正当化根拠と連動すると考えられるところ、上記アで述べたとおり、独占的ライセンスに基づく差止請求権の正当化根拠については、③対抗制度による正当化を応用することが妥当と考えられることから、対抗力を備えていない独占的ライセンシーの不法利用者に対する差止請求権を認めるべきということになると考えられる。
(β)については、不動産賃借権の侵害行為は通常は対象不動産の占有という一定程度継続的な行為によって行われるのに対し、独占的ライセンスの独占性を侵害する行為というのは、著作権の支分権対象行為であり、複製や翻案という継続性のない行為、上映や演奏といった一定の継続性がある行為であっても比較的短時間で終了する行為が多い。そのため、独占的ライセンスに基づく差止請求権においては、不動産賃借権に比して、侵害停止を求める場面よりも侵害予防を求める場面が非常に多いと考えられ、独占的ライセンスに基づく差止請求を行う場面としては侵害予防請求を行う場面が主たる場面として想定されることからすると、侵害予防請求を認めるべきであると考えられる。
(ウ)民法第605条の4との整合性について
独占的ライセンスに基づく差止請求権の制度設計において、(α)及び(β)のいずれの請求も認める場合の民法第605条の4との整合性については以下のように考えられる。
(α)については、民法第605条の4の立法時の議論において、不動産賃借人による不法占拠者等に対する妨害排除等請求の要件として対抗要件の具備が要求されないという考え方を採用することができるか否かは解釈に委ねられる
旨が確認されており64、必ずしもこの考え方を排斥しているわけではないと考えられる。そのため、著作xxに係る独占的ライセンスに基づく差止請求権において、対抗力を備えていない独占的ライセンシーの不法利用者に対する差止請求を認めることが民法第605条の4の規定における考え方に整合しないというわけではないと考えられる。
(β)については、民法第605条の4の立法時の議論において、「賃借権に基づく妨害予防請求権(民法第199条参照)については、これを認める判例がない上、債権である賃借権に基づいて物権的な請求権が認められるのは飽くまで例外的なものであることから、妨害予防請求権まで認める必要はないと考えられる」65とされている。しかし、判例がないという点については、今回の議論との関係でいうと、そもそも独占的ライセンシー固有の差止請求権自体、解釈によってこれを認める裁判例がなかったところであり、侵害の予防請求を独占的ライセンシーに認めてよいか否かという点について、判例がないということが何らかの示唆を与えるものではなく、これが立法措置により独占的ライセンシーに侵害予防請求を認めるか否かの判断に影響を及ぼすものではないと考えられる。また、賃借権が債権であることから論理必然的に妨害予防請求権が否定されるものでもないと思われ66、さらに、上記(イ)で述べたように不動産賃借権の侵害行為と著作xxに係る独占的ライセンスの侵害行為には一定の違いが認められるところ、民法第605条の4の立法時の上記の議論も、後者のような侵害の予防請求を認める必要性が高いような場合に侵害予防請求を認めることまで否定する趣旨ではないと考えられる。
以上からすると、著作xxに係る独占的ライセンスに基づく差止請求権の制度設計に当たって、(α)及び(β)の請求を認める前提で制度設計をすることが民法第605条の4の規定における考え方と必ずしも齟齬するものではないと考えることができる。
(エ)まとめ
以上のとおり、著作xxに係る独占的ライセンスに基づく差止請求権の制度設計に当たっては、(α)及び(β)の請求を認める前提で制度設計を行うべきであり、そのことは民法第605条の4の規定における考え方と必ずしも齟齬するものではない。
ただし、仮に(α)及び(β)のいずれも認める前提で制度設計をするとし
64 法制審議会民法(債権関係)第94回会議議事録15~16頁〔xxxx・xxxx・xxxxx〕
65 法制審議会民法(債権関係)部会資料69A51頁
66 調査研究報告書121頁の注379参照
た場合に、民法第605条の4の規定とは異なる規定の仕方が可能か、については法制的な観点から別途検討が必要になるものと考えられる。
エ 完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスの違いについて67
独占的ライセンスに基づく差止請求権が認められるとしても、完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスで、差止請求権が認められる範囲に違いがあるかという点について、検討を行った。
(ア)不完全独占的ライセンスについて差止請求権が認められる範囲
まず、不完全独占的ライセンスについて差止請求権が認められる範囲が問題になるが、この問題を検討するに当たっては、そもそも不完全独占的ライセンス契約において、ライセンサーである著作権者等の利用が認められていることの趣旨がどのように解釈されるかという問題を検討する必要があると思われる。
独占的ライセンス契約において著作権者等の利用が認められている場合の解釈として、以下の二つの場合が考えられる。
(ⅰ)「著作権者等」という属性を有する者(著作xxの譲受人を含む。)による著作物等の利用に限っては認める趣旨であると解釈される場合
(ⅱ)あくまで独占的ライセンス契約の当事者であるライセンサー自身の利用に限って認める趣旨であって、「著作権者等」という属性に着目して利用を
認めているわけではないと解釈される場合
これを前提に各場合における差止請求権が認められる範囲について整理すると、まず、上記(ⅰ)の場合は、「著作権者等」という属性を有する者の利用を認めているので、独占的ライセンシーの「著作権者等」という属性を有する者に対する差止請求は認められないことになる。そのため、著作xxが譲渡された場合のその譲受人に対しては、独占的ライセンシーの差止請求権は認められないと考えられる。
他方、上記(ⅱ)の場合は、ライセンサー自身の利用は認めているので、独占
67 本報告書6~7頁の用語の整理に従えば、「完全独占的ライセンス」とは、①ライセンサーが当該ライセンス契約で付与したライセンスの範囲と重複するライセンスを他の者には付与しない、という内容の合意(独占性の合意)に加え、②ライセンサー自身、当該ライセンスの範囲では当該著作物を利用しないこと、という合意がなされている債権的な独占的ライセンスをいい、「不完全独占的ライセンス」とは、①の独占性の合意がなされているものの、②の合意がなされていない債権的な独占的ライセンスをいうことになる。なお、「不完全独占的ライセンス」については、「非完全独占的ライセンス」と呼称した方がよいのではないか、との意見があった。
的ライセンシーのライセンサーに対する差止請求権は認められないことになる。もっとも、この場合、「著作権者等」という属性に着目してライセンサーの利用 を認めているわけではないため、著作xxが譲渡された場合のその譲受人に対 しては、独占的ライセンシーは、独占的ライセンスの対抗力を備えれば、差止請 求権を行使し得ると考えられる。
したがって、不完全独占的ライセンスについては、独占的ライセンシーが差止請求権行使の相手方とすることが可能な人的範囲について、(ⅰ)と(ⅱ)で違いはあるものの以上のような一定の制限がある。
なお、不完全独占的ライセンスについて差止請求権を認める場合の法的構成
や制度設計についても様々な意見が示された6869。その法的構成や制度設計の違いにより、上記(ⅰ)や(ⅱ)の場合における差止請求権が認められる範囲が変
68 不完全独占的ライセンスについて差止請求権を認める場合の法的構成については、独占性の人的範囲を制限した独占的ライセンスについて、その独占性の範囲でのみ差止請求権が付与されるという考え方のほか、そもそも、制度上、差止請求権付与の対象となる独占的ライセンスについて独占性の人的範囲を制限した独占的ライセンスという類型を認め ず、制度としては、完全独占的ライセンスのみが差止請求権付与の対象となるようにしておき、不完全独占的ライセンスと同じことを実現するためには、独占的ライセンシーの方から著作権者等に対してライセンスバックするということも考えられる、との意見があった。これに対し、完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスの違いについて、独占性の人的範囲の制限の有無にあると考えるのではなく、「独占性」というのは、著作権者 等以外の他者の利用を認めないということのみを内容とするものであり、完全独占的ライセンスは、その「独占性」に加えて、著作権者等の利用についても認めないという「完全性」が付与されていると考えた上で、その「独占性」又は「完全性」が認められている範囲で差止請求権が付与されると考えるべきで、完全独占的ライセンスのみが差止請求権付与の対象となるというのは不可であり、差止請求権付与の対象となるものとして、不完全独占的ライセンスか完全独占的ライセンスかを制度上選択できるようにすべきである、議論が先行する特許法でも独占的通常実施権の差止請求の可否(固有権・債権者代位)として論じられており、完全独占的通常実施権のみを対象として差止請求の可否が論じられているわけではない、との意見があった。
69 ここでの問題は、法制化をする場合に、完全独占的ライセンスのみが差止請求権の対象となるとした上で、それ以外のものは個別に列挙して加えていく形を採るのか、それと も、合意された「独占性」の人的範囲に応じて差止請求権が付与されるという一般原則を法律で定めることにより多様な「独占性」の形態に柔軟に対応することができるような形とするのが望ましいのかという問題である、との意見があった。後者の考え方について は、その考え方をとると、特定又は不特定の他者に利用させないという合意がされたら、それに基づく期待を保護するような制度となるため、その制度を「独占性」という言葉で説明するのには疑問もある、との意見もあった。
わるものではないと思われるが70、この点については、独占性の人的範囲の問題という点で問題を共通にすると思われる下記「カ 複数人による独占的な利用を認めるライセンスの取扱い」や「キ 独占的なサブライセンスを受けたサブライセンシーの取扱い」の問題と併せて整合的に整理することが望ましいと考える。
(イ)完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスの違い
上記(ア)で述べたとおり、不完全独占的ライセンスについては、上記(ⅰ)の場合は、著作xxの譲受人に対し、差止請求を行うことはできないものと考えられ、また、上記(ⅱ)の場合は、差止請求が否定されるのは当該独占的ライセンス契約のライセンサーとの関係だけであり、著作xxの譲受人に対しては、独占的ライセンシーは、独占的ライセンスの対抗力を備えれば、差止請求を行うことができると考えられる。
これに対し、完全独占的ライセンスの場合は、著作xxの譲受人もライセンサーも含めて、その利用を禁止することが独占性の内容になるため、著作xxの譲受人とライセンサーいずれに対しても独占的ライセンスに基づき差止請求を行うことができる。
したがって、不完全独占的ライセンスでは、独占的ライセンシーが差止請求を行うことのできる人的範囲について以上のような制限があるのに対し、完全独占的ライセンスでは、そのような制限がないという点において、両者に違いがあるということになる。
オ 施行日前に設定された独占的ライセンスの取扱い
本検討課題は、現に存在する債権的な独占的ライセンスを含めて、独占的ライセンシーに差止請求権を付与する制度を導入してもらいたいというニーズがあ
70 仮に、完全独占的ライセンスにのみ差止請求権が付与される制度とする場合でも次のとおり考えることが可能と思われる。すなわち、この場合、独占的ライセンシーが差止請求権を確保しつつ、上記(ⅰ)の場合の不完全独占的ライセンスが設定されたのと同じことを実現するためには、独占的ライセンシーは、完全独占的ライセンスの設定を受けつつ、
「著作権者等」という属性を有する者(著作xxの譲受人を含む。)に対してあらかじめその利用を許諾するということが考えられる。他方、(ⅱ)の場合の不完全独占的ライセンスが設定されたのと同じことを実現するためには、独占的ライセンシーは、完全独占的ライセンスの設定を受けつつ、ライセンサーに対してのみ、その利用を許諾するということが考えられる。この場合、当該許諾に係る利用権は、独占的ライセンシーの承諾がない限り、著作xxを譲渡したとしてもその譲受人には承継されないため、基本的には、独占的ライセンシーは、独占的ライセンスの対抗力を備えれば、著作xxの譲受人に対し差止請求権を行使し得ると考えられる。
り検討が進められてきたところである71。そこで、仮に独占的ライセンシーに差止請求権を付与する制度が導入された場合に同制度の施行日前に設定された独占的ライセンスの取扱いが問題となる。この点については、各関係者への影響という観点から検討し、以下のとおり整理した。
(ア)不法利用者
不法利用者は、施行日前は独占的ライセンシーとの関係では差止請求を受ける地位にはなかったが、当然ながら著作権者等の現行法のもとでも差止請求権を有している権利者との関係では、差止請求を受ける地位にあったことからすると、独占的ライセンシーとの関係で差止請求を受ける地位になかったことについて、不法利用者に法的に保護すべき利益は認められないと考えられる。
したがって、不法利用者に対しては、施行日前に設定された独占的ライセンスであっても、施行日後は、同ライセンスに基づき差止請求をすることが可能としても差し支えないものと考えられる。
(イ)著作xxの譲受人・他のライセンシー
独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに差止請求権を付与する制度が導入された場合、著作xxの譲受人や競合する他のライセンシーとの関係では、独占的ライセンシーはこれらの者への差止請求を行う前提として、独占的ライセンスの対抗制度に基づく対抗要件の具備が必要となる。この点、独占的ライセンスの設定が施行日前であったとしても、独占的ライセンスの対抗制度の適用により当該独占的ライセンシーに劣後することになる著作xxの譲受人や他のライセンシーについては、独占的ライセンシーとの関係で保護すべき利益は認められないと思われるため、これらの者に対しては当該独占的ライセンシーの差止請求権を認めても差し支えないものと思われる。
もっとも、独占的ライセンスの対抗制度において、いかなる場合に著作xxの
譲受人や他のライセンシーが施行日前に設定された独占的ライセンスに係る独占的ライセンシーに劣後するものとするかについては別途の検討が必要と思われる。例えば、独占的ライセンスの対抗制度において、登録に代替する対抗要件として施行日前から備えることが可能な要件(例えば、明認方法等)を設ける場合、仮にその対抗力の発生を施行日前に遡らせると、施行日前に現れた著作xxの譲受人や他のライセンシーの予測可能性を害する可能性がある。そのため、独占的ライセンスの対抗制度により付与される対抗力は、施行日前に対抗要件を備えていたとしても、施行日後に生ずることとするなど、施行日前に現れた著作
71 関係者へのヒアリングでも、「今問題なのは現に今ある独占的ライセンシーの権利が保護 される、そういう仕組みが構築されるということが重要」との意見があったところである。
xxの譲受人や他のライセンシーの予測可能性を害さないような制度設計とする必要がある72。
したがって、独占的ライセンスの対抗制度において施行日前に現れた著作xxの譲受人や他のライセンシーの予測可能性を害さないような制度設計を行うことを前提とすれば、施行日前に設定された独占的ライセンスに係る独占的ライセンシーが、劣後する著作xxの譲受人や他のライセンシーに対して、同xxxxxに基づき差止請求をすることを可能としても差し支えないものと考えられる。
(ウ)著作権者等との関係について
著作権者等については、独占的ライセンシーが差止請求権を有したとしても、著作権者等は引き続き差止請求を行うことができる立場にあり、また、その意思への配慮という点にしても、独占的ライセンシーの差止請求権について契約による制限を課すことで対応可能であるから問題ないと考えられることから、施行日前に設定された独占的ライセンスに基づく差止請求権を認めたとしても、差し支えないのではないか、との意見があった。他方、独占的ライセンシーに差止請求権を付与する制度ができる前は、著作権者は独占的ライセンシーが差止めできないことを前提に独占的ライセンスを設定しているので、改正前後で状況は変わり得て、契約で制限をするという点も、既に締結済みの契約を事後的に変更することができるとは限らないため、著作権者等の利害状況についてもう少し丁寧に考えてもよい例外的な場合もあるのではないか、との意見もあった。
この点については、そもそも著作権者等は、独占的ライセンスを付与した以上、独占的ライセンシーがその独占的な利用を確保するために行う行為については 受忍すべきものと考えられることからすると、基本的には、施行日前に設定され た独占的ライセンスに差止請求権を付与するに当たって、著作権者等への配慮 は不要と思われる。もっとも、独占的ライセンシーの差止請求権が認められない ことを前提に独占的ライセンスを設定していることについて著作権者等に保護 すべき利益が認められるような例外的な場合が存在するということであれば、 その例外的な場合に限って何らかの措置を講ずることは考えられる。そのため、著作権者等との関係については、そのような例外的な場合の有無等について、さ らに確認・検討されることが望まれる。
72 独占的ライセンスの対抗要件具備によって付与される対抗力を施行日後に生ずるものと する場合は、著作権者等の譲受人は施行日前に著作xxの移転の登録を受けることにより、また、他のライセンシーのうち、施行日前に現れた非独占的ライセンシーについては、その 利用権について当然対抗制度(第63条の2)が適用されることにより、独占的ライセンス が対抗力を備える前に各自が有する権利の対抗力を備えることができるものと考えられる。
(エ)まとめ
以上のとおり、基本的には、施行日前に設定された独占的ライセンスであるからといって、差止請求権の付与が否定されることはないと考えられるが、施行日前に設定された独占的ライセンスに差止請求権を付与するに当たっては、独占的ライセンスの対抗制度について施行日前に現れた著作xxの譲受人や他のライセンシーの予測可能性を害さないような制度設計を行うことや独占的ライセンシーの差止請求権が認められないことを前提に独占的ライセンスを設定していることについて著作権者等に保護すべき利益が認められるような例外的な場合の有無等についてさらに検討する必要があると思われる。
カ 複数人による独占的な利用を認めるライセンスの取扱い
差止請求権の付与対象とする独占的ライセンスに、複数人による独占的な利用を認めるライセンスを含めるか否かが問題となる。これを含めるか否かによって、対象とする独占的ライセンスの定め方に影響するものと思われる。
複数人による独占的な利用を認めるライセンスの形態としては、大きく、①複数のライセンシーが共同で利用行為を行うことを許諾する場合(例えば、一つの小説を複数のライセンシーが共同で出版する場合)と②複数のライセンシーがそれぞれ独立して同じ範囲で利用行為を行うことをそれぞれのライセンシーに許諾する場合において、各契約で認められたライセンシー以外の者に重複するライセンスを付与しない旨の合意がされている場合(例えば、一つの小説を複数のライセンシーがそれぞれ独立して出版し、それぞれの出版について各ライセンシーは相互に承諾するが、それらの者以外の利用は認めないとする場合)が想定される。そこで、①と②の場面を区別して以下のとおり整理した。
(ア)①の場合について
①の場合については、特許法の専用実施権で共有が認められていること(特許法第73条、第77条第5項参照)、この場合はその複数のライセンシーが会社等を設立して一つの法人として独占的ライセンスの設定を受ける場合と実態的には変わらず、差止請求権を付与するか否かという点において、この場合と異なる取扱いをする必要性はないと考えられることなどを踏まえると、差止請求権の付与を認めてよいと考えられる73。
73 ①の場合の、ライセンシー間の内部関係については、共有に係る一般規範に準じて制度設計・解釈することになると思われる。
(イ)②について
②については、この場合に差止請求権を付与すると、xxxxxxが相当多数になる場合であっても各自が独占的ライセンシーとして差止請求権を有することになるが、これを「独占」と評価することができるのか疑問である、との意見があった74。一方で、この場合であっても、薄まっているかもしれないが、独占的地位を認めて差し支えないのではないかといった意見があった。
また、②の場合に差止請求権の付与を認める場合の法的な整理としては、(ⅰ)この場合は独占性の範囲を限定した形でライセンスを付与していることになり、ライセンシー間ではお互いに差止請求権を持たないが、当該独占的ライセンス 契約において利用が認められているライセンシー以外の者との関係では差止請 求権を有するという考え方と(ⅱ)各ライセンシーは本来ライセンシー間におい ても差止請求権を有するが相互にその利用を許諾しているため、差止請求が可 能なのは当該独占的ライセンス契約において利用が認められているライセンシ ー以外の者に対してのみとなるという考え方が有り得るのではないか、との指 摘があった。
この点、上記(ⅰ)の考え方による場合は、独占性の人的範囲を制限した独占的ライセンスについては、その独占性の範囲でのみ差止請求権が付与されるということを前提に制度設計を行う必要がある。他方、上記(ⅱ)の考え方による場合は、制度上はライセンシーが1人という完全独占的ライセンスの場合のみ差止請求権の付与対象となる独占的ライセンスになると考えた上で、ライセンシー間で利用許諾を行うことで②の場合に差止請求権が付与されたのと同様の状態を作りだすことになるものと考えられる。
もっとも、上記(ⅰ)の考え方による場合は、独占性の人的範囲の制限について限界はないのか(例えば、相当多数の者に利用を認める場合も許容されるのか等)75といった問題、上記(ⅱ)の考え方による場合は、二重に完全独占的ライセンスが出された上で、ライセンシー間で相互に利用許諾をしていることになるが、この場合、一方の独占的ライセンシーが独占的ライセンスについての対抗要件を具備すると、他方の独占的ライセンシーが有する独占的ライセンスの独占性は確定的に否定され、結局②の場合に独占的ライセンシーが複数といった状況を作り出すことはできないのではないかといった問題が生ずることが想定
74 仮に②の場合に差止請求権が付与されるとなると、例えば、OS(オペレーティングシステム)やアプリケーションに係る規格のライセンスの場合も各ライセンシーに差止請求権が付与され得ることになるのではないか、との意見があった。
75 ライセンシーが1,000人いるといった場合は、そもそも、独占的な利用というものを想定しておらず、訴訟信託など、ある意味脱法的な何かをしようとするという意図が見えるような場合も想定され、その場合、目的との関係でライセンスの有効性が影響を受けることもあるのではないか、との意見があった。
される。
一方で、以上のような議論とは別に、②の場合も共有状態と認められる限度で差止請求権の付与を認めればよく、それ以外の場合には差止請求権の付与を認める必要はないのではないか、との意見もあった。この考え方による場合は、民法上・著作権法上の共有規定の適用の在り方が問題になると考えられる。
以上を踏まえると、②の場合に差止請求権の付与を認めるか否かについては、認めた場合の法的な整理・限界についてさらに検討を行い、適切に整理されることが望まれる7677。
なお、②については、不完全独占的ライセンスに関し、著作権者自身に利用を認めるというのを、ここでいう複数の利用者の1人が著作権者自身である場合と整理すると、上記「エ 完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセンスの違いについて」という論点と共通する問題として位置づけることができ、それをどう処理するかについては、差止請求権を認める立法規定の在り方を考えるときに、その対象となる独占的ライセンスの範囲を明確化する上で検討しておく必要があると思われる、との指摘もあったところであり、上記エの論点の整理との整合性にも留意して検討する必要があるものと思われる。
キ 独占的なサブライセンスを受けたサブライセンシーの取扱い
独占的ライセンシーから独占的なサブライセンスがなされるといった場合も考えられるところ、その独占的なサブライセンスの設定を受けたサブライセンシーについても差止請求権を認めるか否かが問題となる。これを認めるか否かによって、対象とする独占的ライセンスの定め方に影響するものと思われる。
まず、サブライセンスの法的構成については、利用権の当然対抗制度導入時の議論において、以下の二つの構成が有り得るのではないかと指摘されている7879。
①授権構成
利用者(ライセンシー)は、著作権者(ライセンサー)から授権を得て、著作
76 複数のライセンシーが存在する独占的ライセンスを認めつつ、独占的ライセンスの対抗制度を登録対抗制度とする場合には、複数のライセンシーが存在するということも登録することができるようにすることが必要になるのではないか、との指摘があった。
77 ②のような場合のライセンスを差止請求権の付与対象となる独占的ライセンスと認めるとすると、今回の制度の対象となる独占的ライセンスを英語で表現する場合に“exclusive license”などと表現することは、誤解を与える可能性があるので、英語で表現する場合は、括弧つきで留保をつけなければならなくなる可能性がある、との指摘があった。
78 文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)148~149頁
79 ①授権構成と②賃貸借・転貸借構成は、当事者が契約において明確に定めれば、いずれの構成によることも可能であり、サブライセンスがいずれか一方の構成ですべて説明されるというものではないと考えられる、との意見があった。
権者に代わってサブライセンシーに対し利用許諾を行うことができ、許諾を受けたサブライセンシーは著作権者に対する利用権(不作為請求権)を取得することとなるとする構成である。これを独占的サブライセンスの場合に当てはめて図示すると図1のとおりとなる。
図1 授権構成
著作権者等
ライセンサー
① 独占的ライセンス契約
+授権契約(※)
②独占的サブライセンス契約
独占的ライセンシー
独占的
サブライセンシー
独占的利用権
独占的利用権
※授権構成の場合、著作権者等は、独占的ライセンシーに対し、①の独占的ライセンス契約により設定された独占的ライセンスの存在を前提とせずに、別途独占的サブライセンスを設定する権限を与えているものと考えられる(そのため、当該授権に係る授権契約は独占的ライセンス契約とは別個独立のものとしてなされているものと考えられる。)。
②賃貸借・転貸借構成80
著作権者-ライセンシー-サブライセンシーの関係は、賃貸借契約における賃貸人-賃借人-転借人と同様の関係にあるとする構成である81。これを独占的サブライセンスの場合に当てはめて図示すると図2のとおりとなる。
80 「賃貸借・転貸借構成」の名称について、「ライセンス・転ライセンス構成」という名称の方がよい、との意見があった。
81 ②に対しては、特許法も著作xxも民法のように転貸借と同様の構成に係るルールを定めた規定がないことから、上記の授権を受けて権利者に対する不作為請求権を権利者に代わって許諾を与えているという構成と解するほかないのではないか、との指摘もある(文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)149頁)。
著作権者等
ライセンサー
独占的利用権を主張することができる
① 独占的ライセンス契約
(※)
②独占的サブライセンス契約
独占的ライセンシー
独占的
サブライセンシー
独占的利用権
独占的利用権
図2 賃貸借・転貸借構成
※賃貸借・転貸借構成の場合、著作権者等は、独占的ライセンシーに対し、①の独占的ライセンス契約により設定された独占的ライセンスの存在を前提とする独占的サブライセンスを設定することについて承諾を与えているものと考えられる。
①の授権構成で考えた場合は、ライセンシーが複数の独占的ライセンスを認めているのと事実上同じことになるため、仮に上記カの論点においてライセンシーが複数の独占ライセンスの存在を認めないと考えるのであれば、ここの議論にも影響してくる、との指摘があった。また、②の賃貸借・転貸借構成を念頭に、独占的サブライセンスを受けたサブライセンシーも差止請求権を行使でき、また、著作権者の意向を聞かなくても独占的ライセンシーは差止請求することができるということからすると、同様に、独占的サブライセンシーも著作権者や独占的ライセンシーの意向を聞かずに、差止請求をすることができることになるのではないか、といった意見もあった。
以上のとおり、独占的サブライセンシーにも差止請求権の付与を認めるか否かは、サブライセンスの法的構成や上記「カ 複数人による独占的な利用を認めるライセンスの取扱い」の論点において、ライセンシーが複数の独占的ライセンスを認めるか否かによって、考え方が変わり得るところであり、制度設計に当たっては、これらの点に留意した検討が必要と思われる。
ク 特許法その他の知的財産xxとの関係
独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度を導入することと特許法その他の知的財産xxとの関係については、調査研究において、特許法との比較で、「著作xxにおける利用許諾に相当する通常実施権を有するに過ぎない者
に対して、固有の差止請求権を認める規定は存在」せず、「そのような差止請求権を認めることができるかどうかは、解釈によることになる」ことを前提に以下のようにまとめられている82。
①通常実施権者に固有の差止請求権を認めるか、および、②債権者代位権の転用によって、通常実施権者が特許権者に代位して差止請求権を行使することを認めるか、に関する特許法における議論(なお、実用新案法、意匠法、商標法のいずれにおいても、特許法の場合と同様の議論が行われている)を概観した。結果として、①については、非独占的通常実施権はもとより独占的通常実施権であっても、解釈によって認めることは難しく、②についても現状は、解釈によって対応可能か否かは不確実である。言い換えれば、通常実施権者に、侵害者に対する差止請求権を何らかの形で認めるとするならば、立法措置を講ずることが最も確実ということになろう。
よって、仮に著作xxにおいて、利用許諾を得た者に侵害者に対する差止請求権を認めることを確実にするために、何らかの立法措置を講じるべしとの結論に至ったとしても、それは特許法などにおける議論の方向性と大きく乖離するものではない。
以上のような考え方について、特に異論はみられなかった。むしろ、特許法その他の知的財産xxとの比較でいうならば、著作xxにおいては、特許法の専用実施権や商標法の専用使用権のような独占的ライセンシーの独占性を保護する手段が出版分野における出版権以外に用意されていない点で、独占的ライセンシーがその独占性を確保するための手段について、(独占的利用許諾構成によるか、専用利用権構成によるかに関わらず、)何らかの立法措置を講ずる必要性は高いと考えられる。
また、特許法の専用実施権については、権利として強過ぎるため、例えば個人会社と代表者など、ほとんど同一人に近いような間でしか使われておらず、非常に使い勝手の悪い制度であり、債権的な独占的ライセンスに基づく差止請求を肯定するのであれば、専用実施権を廃止してはどうか、との意見もあるところであり、専用実施権のような制度にはあまり期待ができないことからすると、著作xxにおいては、独占的ライセンスに基づく差止請求権について、専用利用権構成ではなく独占的利用許諾構成のような制度設計とする必要性は高いのではないか、との意見もあった。
いずれにせよ、以上のような観点を含めて特許法その他の知的財産xxとの
82 調査研究報告書129~130頁
関係に留意しつつ制度設計を進める必要があると考えられる。
ケ 差止めの範囲
独占的ライセンスに基づく差止請求権の差止めの範囲について、どのようにその範囲が画されるか、また、その範囲について何らか限界を法定する必要がないかといった観点から、以下のとおり考え方を整理した。
独占的ライセンスに基づく差止請求権は、独占的ライセンシーが有する独占性を十全のものとするために認められるものであり、その独占性はあくまで当該ライセンシーが有する利用権について付与されるものである。そのため、独占的ライセンスに基づく差止請求権の差止めの範囲は、当該ライセンス契約によって付与された利用権の範囲で、かつ、独占性の合意がなされている範囲に限られると考えられる。そして、その範囲については、基本的に契約上の定めによって画されることになり、法律上、特段の限定をかける必要はないと考えられる。したがって、例えば、複製のみが許諾されている独占的ライセンス契約におい て、複製だけでなく、公衆送信についても、著作権者等が独占的ライセンシー以外の者へ利用許諾を行わず、著作権者等においてもこれを行わないことを約していた場合、複製については利用権が付与されているため、独占的ライセンシーの差止請求権が認められるが、公衆送信については利用権が付与されていない
ため、独占的ライセンシーの差止め請求権が認められないことになる。
ただし、独占的ライセンシーが差止請求権行使の相手方とすることが可能な 人的範囲については、上記の「エ 完全独占的ライセンスと不完全独占的ライセ ンスの違いについて」、「カ 複数人による独占的な利用を認めるライセンスの 取扱い」及び「キ 独占的なサブライセンスを受けたサブライセンシーの取扱い」の各論点における、独占性の人的範囲が限定されている独占的ライセンスにつ いての考え方の違いなどによって、その制度設計に影響が有り得ると思われる ため、制度設計に当たっては、各論点における法的整理を踏まえて検討されるこ とが望まれる。
なお、差止めの対象となる利用行為の範囲に関しては、著作権の一部譲渡の議論にあるような、著作権(支分権)をどこまで細分化することができるのかという内在的な限界の議論との関係についても留意が必要である(この点は下記3.
(3)において詳述する。)。
2.専用利用権構成
(1) 独占的ライセンスの対抗制度について
専用利用権構成においては、利用に係る権利と独占性が一体となった物権的な権利を新たに創設し、当該権利についての対抗制度を導入することになる。この点において、独占性のみを対象とする対抗制度を導入することになる独占的利用許諾構成とは異なる。
もっとも、独占的利用許諾構成における上記1.(1)イの独占的ライセンスの対抗制度導入の必要性・許容性及び同ウの制度設計に関する議論は専用利用権構成においても同様に妥当するものと考えられる。
したがって、専用利用権構成を採用する場合においても、基本的には、登録対抗制度とすることが妥当である。その制度設計については、独占的利用許諾構成におけるのと同様に、(ⅰ)既存の登録対抗制度の改善・見直しや(ⅱ)登録の代替となる対抗要件を別途設けることを既存の登録対抗制度を含めた登録対抗制度一般の問題として引き続き議論していくことが望ましいと考える。また、その制度化については二段階に分けて行うのが適当であって、第1段階として、独占的ライセンスに係る対抗制度及び差止請求権の制度の導入を進めつつも(登録対抗制度は暫定的に出版権の登録対抗制度と同様の制度を採用)、(ⅰ)及び
(ⅱ)の議論の結果が取りまとまった時点で、第2段階として、その結果を独占的ライセンスの対抗制度に反映していくことが望ましい。
(2) 独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度についてア 著作権者等の意思への配慮の要否及び方法
独占的利用許諾構成における、上記1.(2)イの著作権者等の意思への配慮の要否及び方法に関する議論は、専用利用権構成においても同様に妥当するものと考えられる。
したがって、専用利用権構成においても、独占的ライセンスに基づく差止請求権の発生要件や行使要件として著作権者等の承諾やその他の著作権者等の意思に配慮した要件は不要であり、訴訟手続面においても制度として著作権者等の意思に配慮した手当は不要と考えられ、著作権者等への意思への配慮の方法としては独占的ライセンシーの差止請求権の行使について契約上の制限をかけることで対応すれば足りると考えられる。
イ 施行日前に設定された独占的ライセンスの取扱い
上記1.(2)オで述べたとおり、現に存在する債権的な独占的ライセンスを
含めて、独占的ライセンシーに差止請求権を付与する制度の対象としてもらいたいというニーズがある。もっとも、専用利用権構成においては、施行日前において専用利用権構成における準物権的な独占的利用権が設定されることはないため、施行日前の独占的ライセンスに差止請求権を認めることができるのかが問題となる。
この点については、独占的利用許諾構成と専用利用権構成において、導入される権利の実質的な内容に大きな違いがないのであれば、独占的利用許諾構成の上記1.(2)オで議論した内容が基本的には専用利用権構成においても妥当するものと思われる。
他方、上述のとおり、施行日前の独占的ライセンスは専用利用権構成における独占的利用権そのものではないため、専用利用権構成において施行日前の独占的ライセンスに差止請求権を付与しようとする場合、一定の要件を満たす施行日前の独占的ライセンスについては、新たに創設される独占的利用権を設定したものとみなすといった経過規定を置く必要があると考えられる。しかし、現行法上債権的効力しかないとされている独占的ライセンスと新たに専用利用権構成で創設する独占的利用権では、債権的なものか、物権的なものかという性質の違いがあるため、この違いが重視されるとなると、当該経過規定を置こうとする場合の法制的な大きなハードルになる可能性がある83。すなわち、施行日前の独占的ライセンスは、専用利用権構成における独占的利用権が法定されていない中で設定されているものであるから、明らかに当事者が意図していなかった物権的な権利の設定をしたものとみなす点が、当該経過規定を設けることの大きなハードルになる可能性がある84。
したがって、専用利用権構成を採用して制度設計する場合には、上記1.(2)オで議論した内容に加え、上記のような経過規定を置くことが可能かという点も考慮して、施行日前に設定された独占的ライセンスに差止請求権を付与することの可否、付与する場合の対象となる独占的ライセンスの範囲について適切
83 仮に、新たに創設される独占的利用権が物権的権利であるがゆえに強すぎるのであれば、例えば、経過措置として施行日前の独占的ライセンスについては新たに創設される独占的利用権を設定したものとみなした上で、短期の期間制限を付すといった措置も考えられるのではないか、といった意見もあった。
84 この点については、独占的利用許諾構成の場合も当事者が意図していなかった物権的な効果を有する権利を認めることに変わりはないため、独占的利用許諾構成の方が施行日前に設定された独占的ライセンスに差止請求権を付与することのハードルが低いとは必ずしもいえないのではないか、との意見があった。一方で、独占的利用許諾構成の場合は、独占性の合意という施行日前の独占的ライセンスにおいて既になされていた合意を基礎とする権利について、その実効的な救済のため差止請求権を認めようというものであるから、専用利用権構成と比べると、当事者の意図との乖離は小さいと考えられる、との意見もあった。
に整理されることが望まれる85。
ウ 権利の範囲・差止めの範囲
専用利用権構成においては、出版権とは異なり、分野を限らない形で独占的利 用権を創設することが想定されている。そのため、当該権利の範囲は基本的には、特許法の専用実施権のように、当事者の設定行為により定まることとし、当該x xに基づく差止めの範囲もそれによって画されることになるという制度設計と することが考えられる(特許法第77条第2項参照)86。
もっとも、当事者の設定行為によりどこまで柔軟に、細分化して権利を設定できるかについては、議論が有り得る。この点は、下記3.(3)にて詳述する。
エ 現行出版権制度との関係
専用利用権構成による独占的利用権を新たに創設する場合、その性質は、設定された範囲で独占的な利用を認める物権的な権利であるという点で現行の出版権と同様のものになると思われる。そこで、両者の関係が問題になる。具体的には、現行出版権制度における継続出版義務等の各規定の規律を専用利用権構成における独占的利用権にも及ぼす必要があるのか(下記(ア))、現行出版権を残しつつ専用利用権構成による独占的利用権を別途創設するのか、あるいは出版権も含めて専用利用権構成における独占的利用権の制度に一本化するのか(下記(イ))、が問題となる。
(ア)現行出版権制度における継続出版義務等の各規定について
現行の出版権制度においては、著作者・著作権者の利益保護や出版界の慣行を考慮して、継続出版義務(第81条)、修正増減権(第82条)、出版権の存続期間(第83条)、出版権消滅請求(第84条)といった規定が設けられている。各規定の趣旨はそれぞれ以下のとおりである。
85 なお、専用利用権構成の場合は、新制度導入後も現行法のもとで行われているような債権的な効力しかなく、差止請求権が認められない独占的ライセンスという類型も残ることになるが(下記3.(1)ア)、当事者において新制度後も当該類型の独占的ライセンスを選択できるとする以上、施行日前の独占的ライセンスは、専用利用権構成における独占的利用権とみなすことなく、新制度導入後も当該類型の独占的ライセンスとしてそのまま残るとせざるを得ないのではないか、との意見もあった。
86 他方、現行の出版権制度においては、設定できる権利の範囲が一定程度法定されており、その範囲内で当事者の設定行為で定めるところにより権利を有するとされている(第
80条第1項)。
・継続出版義務(第81条)は、出版権の設定があった場合に複製xx保有者が別途出版することができなくなる点を考慮し、複製権や公衆送信権の実質的稼働を担保するために、出版権者に一定の出版義務を課したものである。
・修正増減権(第82条)は、著作者の人格的利益を保護する見地から、出版権の設定された著作物に修正・増減を加える機会を著作者に与えることとしたものである。
・出版権の存続期間の規定(第83条)は、出版界の慣行を考慮して、出版権の存続期間は設定行為で定めるものとするとともに、設定行為に定めが無い時は最初の出版後3年とすることとしたものである。無期限の出版権設定を認めると、複製権や公衆送信権の譲渡に等しい結果となることから、無期限の出版権を認めないこととしたものである。
・出版権消滅請求(第84条)のうち、第84条第1項及び第2項は、当初の出版が予定どおり行われないときに、複製xx保有者の経済的収益の効率的稼働を図るために出版権を消滅させて別の出版者による出版に切り換えることができるようにしたものである。また、同条第3項は、著作者の公表権と裏腹の関係にある一種の人格的利益を担保する観点から、著作物の内容が複製xx保有者である著作者の確信に適合しなくなったときに、出版廃絶を目的として、出版権者に通常生ずべき損害の賠償を行って出版権を消滅させることができるようにしたものである。
そこで、これらの現行出版権制度で設けられている規定と同様の規定を、専用利用権構成における独占的利用権の制度においても設ける必要があるかについて検討を行った。
現行出版権制度の継続出版義務等の各規定は、基本的には出版分野における慣行や実態を反映したものと考えられる。そのため、直ちに、これらと同様の規定を専用利用権構成における独占的利用権に設ける必要があるとはいえない。
もっとも、独占的ライセンス契約一般に共通する慣行や著作者・著作権者の利益保護の必要性等を考慮して、現行出版権制度の継続出版義務等の規定も参考に、独占的ライセンス契約に係る一定のルールを法定する余地はあるものと考
えられる87。
したがって、直ちに現行出版権制度の継続出版義務等の各規定を専用利用権構成における独占的利用権に設ける必要があるとはいえないが、独占的ライセンス契約に係る一定のルールを法定することについては、独占的ライセンスの契約実務の状況も踏まえつつ、必要に応じて検討されることが望ましいと考えられる。
(イ)現行出版権制度の取扱いについて
上述のとおり、専用利用権構成による独占的利用権は出版権と同様の性質を有する権利になると考えられることから、現行出版権を残しつつ専用利用権構成による独占的利用権を別途創設するのか、あるいは出版権を残さずに出版権も含めて専用利用権構成における独占的利用権の制度に一本化するのか、といった点についても議論を行った。
この点、現行出版権制度については、継続出版義務等の各規定を含め、出版分野に特化した形で制度設計がされており、上記(ア)で述べたとおり、当該各規定と同様の規定を直ちに専用利用権構成における独占的利用権にも設けることにはならないと考えられる。そのため、出版分野においては、当該分野に特化した形で制度設計がなされている出版権により対応可能としておくことが、実務運用の安定性の観点からも望ましいと考えられるため、現行出版権制度については残すべきと考えられる。
出版権制度の残し方としては、①出版権をそのまま残して専用利用権構成における独占的利用権を出版権とは別の権利として導入する形の制度設計や、②出版権を専用利用権構成における独占的利用権の一類型として位置づけ、出版権についてのみ継続出版義務等の現行の各規定を特則として設けるという形の制度設計が考えられる。
また、現行出版権制度の継続出版義務等の各規定において強行規定とされる
87 出版権消滅請求の規定については、導入の要否について検討してもよいのではないか、すなわち、独占的ライセンスの差止請求権の制度は、実際に著作物等を利用している独占的ライセンシーの経済的利益保護という要請に基づくものだという点を重視し、差止請求権を確保するためだけに専用利用権における独占的利用権を設定し、著作物等が実際には利用されないといった事態が生じることが問題だという価値判断がなされるのであれば、出版権消滅請求の規定を置くことも考えられるのではないか、といった意見もあった。また、出版権消滅請求は、継続出版義務や存続期間などの他の規定とも関連して認められているものと考えられ、これらの規定は合わせて全体として検討する必要があるのではないか、との意見もあった。この点については、例えば、存続期間が無期限の完全独占的ライセンスまで制度上許容するのか否か、また、実際に設定される存続期間の長短などによって、継続出版義務や出版権消滅請求と類似の規律の必要性の程度が変わってくる可能性がある。
ものがある場合は、従来出版権によりカバーされていた範囲において、出版権と専用利用権構成における独占的利用権を選択可能とすると、後者を選択することで当該強行規定の潜脱になることが懸念される。そのため、そのような強行規定が存在する場合は、従来出版権でカバーされていた範囲については、出版権のみを選択可能とする制度設計を採用することも検討されるべきものと思われる
88。
オ 特許法その他の知的財産xxとの関係
特許法における専用実施権や商標法における専用使用権などでは、登録が効 力発生要件とされている(特許法第98条第1項第2号、商標法第30条第4項)
89。他方、著作xxにおける出版権においては、登録は対抗要件とされている(第
88条第1項)。そこで、これらの権利と類似の制度設計となる専用利用権構成における独占的利用権において登録を効力発生要件ではなく対抗要件としてよいのかが問題となるところ、この点につき特許法との比較で以下のとおり整理した。
特許法においては、方式主義を採用し、特許権自体が登録を効力発生要件とするものであることから(特許法第66条第1項)、専用実施権は登録を効力発生要件とすることが適切と考えられる(同法第98条第1項第2号)。一方、著作xxにおいては著作権自体が無方式主義を採用し何ら方式を要せず権利が発生し(第17条第2項)、その登録は対抗要件とされていること(第77条)と平仄を合わせ、その著作権の一部の権限を第三者に物権的に切り出した用益物権に相当する出版権について、著作権本体と同様、登録を効力発生要件とせずに対抗要件としている(第88条第1項)。
以上を踏まえて専用利用権構成における独占的利用権についてみると、当該独占的利用権も著作権の一部の権限を第三者に物権的に切り出した用益物権という性質を有することは出版権と同様と考えられる。そのため、専用利用権構成における独占的利用権についても、著作権や出版権と同様、登録を効力発生要件ではなく対抗要件として制度設計することが適当であって、そのように制度設計することで特許法その他の知的財産xxとの関係で問題を生じさせるものではないと考えられる。
88 ただし、そもそも現行の出版権でカバーされている範囲が、出版社が行っているような典型的な出版行為に限られないことから、当該範囲全部について現行出版権制度の規律を及ぼしたままでよいのか、専用利用権構成における独占的利用権を選択可能にしておく必要がないのかは検討が必要ではないか、との意見もあった。
89 その他、実用新案法における専用実施権や意匠法における専用実施権も登録が効力発生要件とされている(実用新案法第18条第3項や意匠法第27条第4項において特許法第
98条第1項第2号を準用している。)。
3.独占的利用許諾構成と専用利用権構成の比較
上記1.及び2.の検討結果を踏まえ、独占的利用許諾構成と専用利用権構成を比較し、本検討課題と関係でいずれの構成が望ましいかについて検討を行った。以下では、まずは両構成で違いがあるか否かを整理し(下記(1)~(5))
90、最後にそれらを踏まえた考え方を整理した(下記(6))。
(1) 独占的ライセンスの種類
ア 差止請求権のない独占的ライセンス
独占的利用許諾構成と専用利用権構成では、現行法のもとで行われているような債権的な効力しかなく、差止請求権が認められない独占的ライセンスという類型が残るか残らないかという点で違いが生じる可能性がある91。
すなわち、独占的利用許諾構成の場合、独占的ライセンスの種類としては、基本的には、出版権と独占的利用許諾構成における独占的利用権の二つとなるものと考えられ、差止請求権のない独占的ライセンスという類型は残らないと思われる。
他方、専用利用権構成の場合、独占的ライセンスの種類としては、専用利用権構成における独占的利用権(及び出版権)と第三者に対し独占性を対抗するための対抗制度や差止請求権の制度がない独占的利用許諾の二つ(あるいは出版権を含めて三つ)となる。
イ 不完全独占的ライセンス等の独占性の人的範囲を限定した独占的ライセンス
独占的利用許諾構成については、議論のあるところではあるが、独占性の人的範囲を制限した独占的ライセンスについて、その独占性の範囲でのみ差止請求権が付与されるという形で、制度上、差止請求権付与の対象となる独占的ライセンスについて完全独占的ライセンスだけではなく、不完全独占的ライセンスの
90 ここでは、上記1.及び2.で明らかになった違いのほか、独占的利用許諾構成と専用利用権構成の比較の検討の中で新たに明らかになった違いについても挙げている。
91 この違いに関して、差止請求権のない独占的ライセンスを認めるニーズがどこにあるのか疑問である、といった意見があった。また、特許法の世界では、専用実施権を使わず に、債権的な効力しかない独占的通常実施権を多用しているという実態があることから、それが著作xxの世界にも当てはまらないかという点や、特許権の独占的通常実施権と著作権の独占的ライセンスがセットでなされる場合に、前者に基づいては差止めができないが、後者については今回の新制度に基づいては差止めできるといったことが生じ得るた め、それで実務的に混乱しないかという点については、検討が必要ではないか、との指摘もあった。
ような独占性の人的範囲を制限した独占的ライセンスという類型も認めるといった制度設計も考えられるのではないかという旨の指摘があった92。
他方、専用利用権構成では、現行の出版権制度や特許法における専用実施権の制度との整合性を重視すると、その独占的利用権の内容を、当事者間の設定行為で定めるところにより対象の著作物を利用する権利を「専有する」といった形で規定することになると考えられ、あくまで制度上は、その独占性の人的範囲を柔軟に限定して設定することができるといった権利として規定することにはならないと思われる。そのため、これを前提とすると、専用利用権構成では、制度上の独占的ライセンスの類型としては基本的には完全独占的ライセンスのみが想定されることになると考えられる。
以上のように、専用利用権構成と独占的利用許諾構成では、制度上で差止請求権を認める独占的ライセンスの類型として、完全独占的ライセンスのみを想定するのか、独占性の人的範囲を制限した独占的ライセンスも含むのかという点で違いが生ずる可能性がある。
ただし、専用利用権構成であっても、独占的ライセンス契約を締結する際に別途独占的ライセンシーからの利用許諾を定めることによって、差止請求権行使の相手方とすることが可能な人的範囲を限定することは可能であり、一定の限度では不完全独占的ライセンス等の独占性の人的範囲が限定された独占的ライセンスを実現することは不可能ではない。例えば、不完全独占的ライセンスを実現しようとする場合は、専用利用権構成における独占的利用権を設定した上で、独占的ライセンシーから著作権者等に対し、別途利用許諾を行うことになると考えられる。
もっとも、独占性の人的範囲を限定した独占的ライセンスには様々な形態が 有り得て、独占的利用許諾構成と専用利用権構成において、実現可能な独占的ラ イセンスの類型に全く違いがないとまではいえず、実現可能な独占的ライセン スの範囲は専用利用権構成の方が独占的利用許諾構成よりも狭い可能性がある。また、独占的利用許諾構成において、不完全独占的ライセンス等の独占性の人的 範囲が限定された独占的ライセンスを制度上で正面から許容する場合は、事実 上、専用利用権構成で制度設計するよりも、柔軟な権利設定が可能な制度として 受け止められる可能性が高い。そのため、上記の違いは両構成の実質的な違いに なる可能性がある。
なお、制度の分かりやすさという観点からは、制度上における差止請求権付与の対象となる独占的ライセンスについて、完全独占的ライセンスだけではなく、不完全独占的ライセンスのような独占性の人的範囲を制限した独占的ライセンスという類型も認める制度設計を採用するのであれば、その点が法律上で明ら
92 本報告書58頁の注68及び注69参照
かになっていることが望ましいと考えられる。
(2) 対抗制度の対象について
独占的利用許諾構成と専用利用権構成では、対抗制度の対象において違いが生ずる。すなわち、独占的利用許諾構成においては、独占性のみを対象とする対抗制度を導入することになる。利用権については、第63条の2の当然対抗制度の対象となる。他方、専用利用権構成においては、利用に係る権利と独占性が一体となった権利についての対抗制度を導入することになる。
以上の違いから、独占的ライセンス契約締結後に著作xxが譲渡され、独占的ライセンシーが当該独占的ライセンスについて対抗要件を具備する前に著作xxの移転の登録がなされた場合に、下図1~2のとおり結論に違いが生じる可能性がある(下図1~2の⑥Aの部分)。
図1 独占的利用許諾構成の場合
著作権者等
ライセンサー
①独占的ライセンス契約
利用者
(独占的ライセンシー)
④①の独占性の対抗要
件具備
A
②著作xxの譲渡
③著作xxの移転の登録
⑥差止請求の可否
B
譲受人
新著作権者等
⑤新著作権者等による利用
① 著作権者等(ライセンサー)と利用者(独占的ライセンシー)が独占的ライセンス契約を締結
② ライセンサーが譲受人(新著作権者等)に著作xxを譲渡
③ 新著作権者等が②による著作xxの移転を登録(当該移転につき対抗力具備)
④ 独占的ライセンシーが①の独占的ライセンスの独占性について対抗要件を具備
⑤ 新著作権者等が①の独占的ライセンスの範囲内で当該著作物等を利用
⑥ 差止請求の可否
A新著作権者等から独占的ライセンシーに対する差止請求は不可
⇒新著作権者等が著作xxの移転についての対抗力を具備する前に、独占的ライセンシーが利用権に係る当然対抗制度によって利用権の対抗力を具備しているため。
B独占的ライセンシーから新著作権者等に対する差止請求は不可
⇒独占的ライセンシーが独占性の対抗力を具備する前に、新著作権者等が著作xxの移転について対抗力を具備しているため。
図2 専用利用権構成の場合
著作権者等
ライセンサー
①独占的ライセンス契約
利用者
(独占的ライセンシー)
④①の対抗要件具備
A
②著作xxの譲渡
③著作xxの移転の登録
⑥差止請求の可否
B
譲受人
新著作権者等
⑤新著作権者等による利用
① 著作権者等(ライセンサー)と利用者(独占的ライセンシー)が独占的ライセンス契約を締結
② ライセンサーが譲受人(新著作権者等)に著作xxを譲渡
③ 新著作権者等が②による著作xxの移転を登録(当該移転につき対抗力具備)
④ 独占的ライセンシーが①の独占的ライセンス(利用に係る権利と独占性が一体となった 独占的利用権)について対抗要件を具備
⑤ 新著作権者等が①の独占的ライセンスの範囲内で当該著作物等を利用
⑥ 差止請求の可否
A新著作権者等から独占的ライセンシーに対する差止請求は原則として可
⇒独占的ライセンシーが独占的ライセンス(利用に係る権利+独占性)の対抗力を具備する前に、新著作権者等が著作権移転の対抗力を具備しているため。ただし、①の時点で、独占的ライセンスとは別に明示又は黙示の利用許諾がなされていると解される場合は不可93。
B独占的ライセンシーから新著作権者等に対する差止請求は不可
⇒独占的ライセンシーが独占的ライセンス(利用に係る権利+独占性)の対抗力を具備する前に、新著作権者等が著作xxの移転について対抗力を具備しているため。
以上のとおり、独占的利用許諾構成と専用利用権構成では、各図の⑥Aの部分で、利用権の当然対抗制度の適用の在り方に違いが生じる。
なお、図2の⑥Aの黙示の利用許諾に関しては、これを広く認めてしまうと、 図2の①が譲受人において著作物等を利用させることを目的とする著作xxの 譲渡の場合も、黙示の利用許諾があると認定されかねない、実務的には、独占的 ライセンス契約において予備的に利用許諾の条項を追加すれば足りる話である から、それすらしない場合に黙示の利用許諾を広く認めて救済を図る方向で整 理することについては消極的である、との意見や、専用利用権構成における独占 的利用権を著作権の一部譲渡等と同じように考え、当該独占的利用権について は、利用に係る権利も含めた形で対抗制度が整備されることから、当然にその対 抗要件を具備すべきであって、具備しない場合は、利用に係る権利の部分も含め、対抗できなくなったとしてもやむを得ないという考え方も有り得るといった意 見があった。
他方で、専用利用権構成における独占的利用権の設定を、著作権の一部譲渡に近いものとして捉えるのではなく、非独占的利用許諾契約と連続的なものと捉え、独占的利用権の対抗要件の具備が後れた場合に、利用に係る権利の部分について当然対抗できないのは不当だという価値判断をするのであれば、(黙示の利用許諾を認めるのか、立法的な手当をするのかは別にして、)利用に係る権利の部分の当然対抗を認めるという考え方も有り得るのではないか、との意見もあ
93 文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)146~147頁において、出版権と利用権の当然対抗制度との関係に関し、同様の整理をしている。
った94。
以上のように、専用利用権構成でも、図2の⑥Aの場面で、独占的利用許諾構成のように利用に係る権利の部分の当然対抗を認めようとする考え方も有り得るものの、利用に係る権利の部分について当然対抗を認めようとするのであれば、最初から独占的利用許諾構成による利用権+独占性という2階建ての制度として導入すれば混乱がなく、法律関係も安定するものと思われる。
(3) 柔軟な権利設定
柔軟な権利設定が可能か、具体的には、どこまで細分化して権利設定が可能かという点については、著作権の一部譲渡における議論を参考に、独占的利用許諾構成と専用利用権構成において違いがないか、議論を行った。
著作権の一部譲渡における議論では、著作権法上、著作権の一部の譲渡が認められているが(第61条第1項)、他方で、取引の安全の確保、法律関係の複雑化の回避という観点から、著作権(支分権)をどこまで細分化して譲渡できるか、については一定の限界があるのではないかとの議論がある95。具体的には、①時間的一部譲渡、②地理的一部譲渡、③内容的一部譲渡という三つに問題を分けて議論がなされているため、それぞれとの議論との関係について以下整理する。
また、この議論はその細分化された権利をどこまで公示できるかという点で、当該権利の登録対抗制度等の公示制度とも密接に関係する問題であるため、この点についても付言する。
ア ①時間的一部譲渡との関係について
①時間的一部譲渡については、その法律構成によって著作権の帰属先に影響があるという議論であり96、「譲渡」という形式であるからこそ生じる問題であるため、独占的ライセンスにおいては問題にならない(独占的ライセンスにおいてはライセンス期間の設定の問題である。)。
94 現行の出版権についても、著作権の一部譲渡に近いものではなく、非独占的利用許諾契約と連続的なものであり、本来的には出版権を構成している独占性と利用に係る権利の部分は分離可能なものと捉える余地があるのではないか、現行制度ではそれらが一体となった権利として出版権が設けられているが、出版権もそれらを分離して二階建ての制度とすることも可能なのではないか、といった意見もあった。
95 議論の詳細は、調査研究報告書12~18頁、文化審議会著作権分科会報告書(平成1
8年1月)114~126頁を参照
96 議論の詳細は調査研究報告書14~15頁参照
イ ②地理的一部譲渡との関係について
②地理的一部譲渡の問題は、各国における著作権を国ごとに譲渡することは当然に可能という前提で、さらに、日本国内でさらに地理的な限定を付して、例えば、北海道における上演権といった形で譲渡することが可能かという問題である。この点については、調査研究において以下のとおり消極的な見解が示されている97。
支分権の中には、著作物が化体した商品の製造・販売等に関連する権利である複製権・譲渡権などが存在する。全国を一体とした市場が形成されている我が国 の現在の商品流通の状況下において、地域を分割した著作権譲渡を認め、地域外で製造・販売される商品に対し、著作者による著作xxに基づく差止請求及び損害賠償請求を許容すれば、取引の安全を著しく害する。また、インターネットの利用など技術の発展を受けて、利用者の行為地と著作物のユーザーによる利用地が分離することが珍しくなくなっている現実もある。都道府県や市区xxxの行政区画を用いたとしても、市町村合併などもあり、当事者の譲渡時の想定と異なってくることもあり得る。
したがって、日本国内における地理的制約のある譲渡合意は、著作権の一部譲渡としては認められず、当事者の合理的意思解釈としては、そのような地理的な制約のある独占的な利用の許諾をする趣旨の合意であったと裁判所によって判断されるリスクを否定できないように思われる。
上記の地理的一部譲渡の場合に取引の安全を害するという問題は、著作権に差止請求権が認められているからこそ生じる問題と考えられ、独占的ライセンスに差止請求権を付与する場合は、独占的利用許諾構成か専用利用権構成かに関わらず、同様の問題が生じる可能性がある。
ウ ③内容的一部譲渡との関係について
③内容的一部譲渡については、著作権を支分権ごとに譲渡することは当然に可能であることを前提に、その支分権をさらに細分化して、「文庫本として複製する権利」や「ピアノで演奏する権利」といった形で譲渡することが可能かという問題である。この点については、調査研究においてこれを広く認める見解から消極的な見解まで様々な見解が紹介されているところであるが、消極的な見解の理由としては以下のようなものが示されている98。
97 調査研究報告書16頁
98 調査研究報告書16頁
当事者の合意に基づき内容的に自由に著作権を細分化して譲渡することを認めると、多数の第三者への分割譲渡及び、その譲受人によるさらに細分化した利 用許諾や再分割譲渡を通じて、権利の境界が曖昧となる危険を避けることができない。このような事態は、取引の安全の観点のみならず、ある利用態様についての差止請求権者は誰か、被告の利用許諾の抗弁は正当な権利者から付与されたものかを不明確とし、著作権侵害訴訟のような権利行使の場面でも混乱を生ぜしめるから、抑制的に考えるべきという見解がある。
上記の内容的一部譲渡の場合に取引の安全を害し、差止請求権者等が不明確 になる、という問題についても、著作権に差止請求権が認められているからこそ 生じる問題と考えられるため、独占的ライセンスに差止請求権を付与する場合 は、独占的利用許諾構成か専用利用権構成かに関わらず、独占的ライセンスにお いても同様の問題が生じる可能性がある。一方で、内容的一部譲渡の問題に関し ては、独占的ライセンスは、対象が有体物ではなく非競合的な無体物という点で、民法における地上権や永xxxのようなものではなく、地役権のようなものと 捉える余地があり、例えば、「文庫本として複製する権利」の独占的ライセンス の場合、独占的利用権の対象はあくまで複製権であるものの、その目的は文庫本 とするためであると整理され、著作権の一部譲渡の場合とは違って、内容面での 細分化の問題が出てこないと解釈することができる可能性がある、との意見も あった。
エ 公示制度との関係について
本論点については、実体法上、どこまでの細分化が可能かという点のほかに、当該権利の登録対抗制度等の公示制度においてどこまで細分化された公示が認められているかという点も問題になる。例えば、日本国内でさらに地域を限定する形での地理的一部譲渡については、原則として登録ができないこととされているため99、仮にそのような地理的一部譲渡をしたとしても、その地理的な限定については、当該著作権譲渡を対抗する際の対抗範囲を画するものとしては機能せず、当事者間における債権的な制限にすぎないものとして扱われる可能性がある。この点は、独占的ライセンスの場合でも、独占的利用許諾構成か専用利用権構成かに関わらず、同様の問題が生じ得ると考えられる。
したがって、権利の細分化が可能かという点については、著作権の一部譲渡と独占的ライセンスのいずれについても、その公示制度においてどこまで細分化
99 文化庁著作権課「登録の手引き」(令和元年7月)30頁
された権利の公示が可能とされているかという点も含めて検討される必要があると思われ、上記1.(1)ウ(エ)で指摘した登録対抗制度一般の問題を議論する際には、この点も意識した検討がなされることが望まれる。
オ まとめ
以上を踏まえると、①時間的一部譲渡の問題は独占的ライセンスにおいては問題にならないが、②地理的一部譲渡と③内容的一部譲渡の問題については、独占的ライセンスの場合の方が柔軟に解釈できる可能性が一部にあるものの、実体法上の解釈として独占的ライセンスにも②地理的一部譲渡や③内容的一部譲渡と同様の問題が生じる可能性は否定できない。
もっとも、独占的利用許諾構成については、元々債権的な効力を基調とする契約を基礎としている点において、著作権の一部譲渡の場合よりも柔軟な権利設定を認める解釈がなされる可能性がある一方、専用利用権構成における独占的利用権は元より物権的な権利として創設されることから、物権法定主義を背景に、柔軟な権利設定が独占的利用許諾構成よりも認められにくい可能性がある、との指摘があった100。さらに、独占的利用許諾構成と専用利用権構成では、実体法上の解釈とは別に、事実上、制度の受け止め方として、前者の方が柔軟に設定できる権利として受け止められ、そのように運用される可能性がある、といった指摘もあり、具体の制度設計に当たってはこれらの点にも留意しておく必要があるものと考えられる。
なお、そもそも著作権の一部譲渡において、細分化の限界をそこまで厳格に解釈する必要はなく、独占的ライセンスにおいても柔軟に細分化して権利を設定することが認められると解釈すべきではないか、登録対抗制度も細分化した権利の公示ができるよう改善して、制度としても細分化ができる形で整理していくことが望ましい、との意見や、実務的にはきめ細かく細分化して独占的ライセンスを設定していることも多いと考えられることから、可能な限り細分化して設定できる形が望ましいという意見など、柔軟な権利設定を認める方向で議論していくのが望ましいとの意見も見られたところである。
(4) 著作権者等の登録協力義務
上記1.(1)ウ(エ)で述べたとおり、著作権者等の登録協力義務を法定す
100 この点については、そもそも物権法定主義などの物権についての規律をどの場面でどこまで及ぼす必要があるのか、物権であっても民法上の地上権と地役権のいずれのようなものを想定するのか、といった点によっても、柔軟な権利設定がどこまで可能かは変わり得るのではないか、との意見があった。
るなどの特別な措置を講じない場合は、独占的利用許諾構成では、その独占的利用権の対抗要件である登録に関し、契約において特約で定めない限り著作権者等の登録協力義務が認められないとされる可能性がある。他方、専用利用権構成においては、元々物権的な権利として創設されるため、解釈上、著作権者等の登録協力義務は認められると考えられる。
したがって、独占的利用許諾構成と専用利用権構成では、以上の点において違 いが生ずる可能性がある。もっとも、これについては、上記1.(1)ウ(エ)で述べたとおり、独占的利用許諾構成を採用するとしても、著作権者等の登録協 力義務を法定するなどの特別な措置を講ずることを積極的に検討すべきであり、今後の登録対抗制度一般の議論の中で検討することが予定されている問題であ るから、両構成を比較するに当たってはその点留意が必要である。
(5) 法制面での説明の難易
民法、特許法その他の法令との整合性等の法制面での説明の難易という観点からも、独占的利用許諾構成と専用利用権構成の違いについて検討を行った。
例えば、差止請求権の制度導入の正当化根拠という点については、独占的利用許諾構成では、「民法を含めた法体系全体との整合性、独占的ライセンスと不動産賃借権における権利の対象の性質の違い等を含め、法制的な観点から、更なる検討・整理が望まれる。」として、課題が指摘されていた(上記1.(2)ア)。他方、専用利用権構成においては、既に類似の制度として出版権や特許法における専用実施権の制度が存在することから、独占的利用許諾構成に比べると他法令との整合性等について説明がしやすい可能性がある。
他方で、施行日前の独占的ライセンスの取扱いに関しては、専用利用権構成においては、現行法上債権的効力しかないとされている独占的ライセンスと新たに専用利用権構成で創設する独占的利用権では、債権的なものか、物権的なものかという性質の違いがあるため、この違いが重視されるとなると、その点が施行日前の独占的ライセンスを専用利用権構成における独占的利用権とみなす経過規定を置こうとする場合の法制的なハードルになる可能性がある(上記2.(2)イ)。そのため、施行日前の独占的ライセンスに差止請求権を付与しようとする場合は、現行法上債権的な効力しかない独占的ライセンスを基礎として制度設計を行う独占的利用許諾構成の方が専用利用権構成よりも法制的な説明がしやすい可能性がある101。
また、独占的ライセンスを侵害された場合に刑事罰を科すことについては、特許法における独占的な通常実施権の侵害の場合には刑事罰が科されてはいない
101 ただし、本報告書70頁の注84も参照
一方で、現行の出版権の侵害には刑事罰が科されているというところから、独占 的利用許諾構成よりは専用利用権構成の方が説明しやすいといった可能性はあ り得る。しかし、特許法における独占的な通常実施権に刑事罰が科されていない のは当該権利に基づく差止請求権が認められていない中での取扱いであるから、差止請求権の付与が前提となっている独占的利用許諾構成における独占的利用 権とは大きく異なると考えられ、この点で両構成に違いが生じるとは限らない。
以上のとおり、論点によって、法制的な説明の難易度が独占的利用許諾構成の方が高い場合と専用利用権構成の方が高い場合が有り得る102。
(6) 独占的利用許諾構成と専用利用権構成のいずれを採用すべきかに関する考え方
以上を踏まえて、独占的利用許諾構成と専用利用権構成を比較し、いずれの構成を採用すべきかについての考え方を整理する。
まず、制度設計や効果の観点では、上記(1)~(4)で指摘したとおり、独占的利用許諾構成と専用利用権構成では、いくつかの違いが生じる可能性がある。そのため、この観点からは、これらの違いを踏まえ、制度導入の許容性が認められる範囲で関係者のニーズに最も合致する制度設計を実現可能なのはいずれの構成かが検討される必要がある。
次に、法制的な説明の難易度という観点では、上記(5)のとおり、論点によって、法制的な説明の難易度が独占的利用許諾構成の方が高い場合と専用利用権構成の方が高い場合が有り得る。そのため、この観点からは、関係者のニーズとの関係における各論点の重要性や全体的な法制的な説明における各論点の位置づけ等も踏まえ、いずれの構成を採用すれば法制的に適切な説明をしつつ、関係者のニーズに最大限対応した制度設計をすることができるのかが検討される必要がある。
関係者のニーズとの関係でいえば、制度の対象となる独占的ライセンスについて、柔軟な権利設定が可能という解釈の可能性があること、後から現れた第三者に独占性の部分で劣後するとしても非独占的な利用に係る権利については当然対抗が可能とされていることが重要と思われる103。そのため、これらに関係する上記(1)イ、(2)及び(3)の違いは特に重視して考慮されるべきであっ
102 独占的利用許諾構成において法制的な説明の難易度が高いとされている点について は、物権と債権の区別を重視し過ぎている、ここで重要なのは当該独占的ライセンスに基づく権利が排他的な権利か否かであって、当該権利を物権化された債権と説明するのか、物権と債権の両方の性質を持ったものと説明するのか等、説明の仕方は様々あると思う、といった意見があった。
103 上記第3の3.(1)ウ及びカ等参照
て、これらの違いからすると独占的利用許諾構成が有力な選択肢になると思われる。ただし、専用利用権構成も、関係者のニーズに全く対応できないというわけではないため、選択肢として否定されるものではない。
以上を踏まえると、いずれの構成を採用するかについては、これらの観点を総合的に考慮し、文化庁において具体の制度設計をする中で判断することが適当と考えられる。
4.その他の構成
その他の構成としては、上記第3の4.(1)で示したとおり、以下の2つの構成が検討対象として想定されていたが、これらの構成については、独占的利用許諾構成や専用利用権構成についての検討の結果、それらの構成では不十分又は不都合となった場合に検討を進めることとしていたところである。
・独占的ライセンシーが、著作権者等が有する差止請求権を代位行使する際の要件を明文化した規定を創設する。
・第118条のように一定の場合に独占的ライセンシーが自己の名をもって、権利保全行為を行い得る旨の規定を創設する。
そこで、独占的利用許諾構成と専用利用権構成の検討結果を踏まえ、その他の構成についての検討の要否について検討したところ、いずれの構成においても本検討課題への対応において不十分又は不都合になるといったものにはならないと考えられることから、その他の構成については検討不要という点で意見が一致した。
第5 まとめ
本検討課題についての検討結果は以上のとおりである。結論としては、独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度を導入することが適当であり、その制度設計に当たって留意すべき点などを独占的利用許諾構成と専用利用権構成のそれぞれについて様々指摘してきた。また、その制度設計に当たって独占的利用許諾構成と専用利用権構成のいずれを採用するかについては、独占的利用許諾構成が有力な選択肢になると考えられるが、専用利用権構成も選択肢として否定されないと考えられるため、各構成における制度設計や効果、法制的な説明の難易度などの観点を総合的に考慮し、文化庁において具体の制度設計をする中で判断することが適当と考えられる。
また、独占的ライセンスの対抗制度だけでなく既存の登録対抗制度も含めた登録対抗制度一般の在り方についても、引き続き検討すべき課題として指摘されたところであるから、継続して検討し、その結果を制度に反映していくことが望ましい。
付属資料1
チーム員名簿
※◎は座長、○は座長代理
(令和元年度)
※xxxxム員及びxxxxム員に関しては、ワーキングチーム(第2回)より御就任
xx | xx | x治大学情報コミュニケーション学部専任教授 |
xx | xx | xxxxx法学学術院教授 |
○ xx | xx | x京大学大学院法学政治学研究科教授 |
xx | xx | 慶應義塾大学大学院法務研究科教授 |
xx | xx | x古屋大学大学院法学研究科教授 |
xx | xx | xxxx大学法学部教授 |
◎ xx | x | x護士 |
xx | xx | x護士 |
xx | xx | x京大学大学院法学政治学研究科教授 |
(以上 9名) |
(令和2年度)
xx | xx | x治大学情報コミュニケーション学部教授 |
xx | xx | x稲田大学法学学術院教授 |
○ xx | xx | x京大学大学院法学政治学研究科教授 |
xx | xx | 慶應義塾大学大学院法務研究科教授 |
xx | xx | x古屋大学大学院法学研究科教授 |
xx | xx | x護士 |
xx | xx | x京大学大学院法学政治学研究科教授 |
◎ xx | x | x護士 |
xx | xx | x護士 |
xx | xx | x京大学大学院法学政治学研究科教授 |
(以上 10名)
(令和3年度)
xx xx x治大学情報コミュニケーション学部教授xx xx x稲田大学法学学術院教授
○ xx xx x京大学大学院法学政治学研究科教授xx xx 慶應義塾大学大学院法務研究科教授 xx xx x古屋大学大学院法学研究科教授
xx xx x護士
xx xx x京大学大学院法学政治学研究科教授xx x 弁護士
◎ xx xx x護士
xx xx x京大学大学院法学政治学研究科教授
(以上 10名)
付属資料2
審議経過
(令和元年度)
第1回 令和元年8月27日
① ワーキングチームにおける検討の進め方について
② 想定しうる課題解決手段の方向性及び検討事項の整理について
第2回 令和元年11月8日
① 第1回ワーキングチームでの議論を踏まえた今後の検討の進め方について
② 本検討の前提となる用語・概念、検討対象場面の整理について
③ 関係者に対するヒアリング(一般社団法人日本書籍出版協会、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム)
第3回 令和元年12月20日
① 関係者に対するヒアリング(一般社団法人日本映像ソフト協会)
② 関係者に対するヒアリングを踏まえた整理
第4回 令和2年1月20日
① 著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチームにおける審議経過のまとめ
(令和2年度)
第1回 令和2年9月11日
① ワーキングチームにおける検討の進め方について
② 独占的ライセンスの対抗制度について
第2回 令和2年10月16日
① 独占的ライセンスの対抗制度について
② 独占的ライセンシーへの差止請求権の付与について
第3回 令和2年11月13日
① 独占的ライセンシーへの差止請求権の付与について
② 著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチ
ームにおける審議経過のまとめ
第4回 令和2年12月18日
① 著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチームにおける審議経過のまとめ
(令和3年度)
第1回 令和3年10月4日
① ワーキングチームにおける検討の進め方について
② 独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度について
第2回 令和3年10月25日
① 独占的ライセンスの対抗制度及び独占的ライセンシーに対し差止請求権を付与する制度について
② 著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する報告書構成案について
第3回 令和3年11月15日
① 著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム報告のまとめ