講義レジュメNo.12組織再編(1)
Ⅰ 序
• 個々の会社は独立した法人格を有しており、会社法も原則として単独独立の会社を前提とした規制を行っている
• しかし、現実の経済において、会社は他の会社と様々な目的・態様・方法で結びついている
• この複数の企業の結びつきが相当程度に密接になった状態を企業結合と呼ぶ
• 企業結合の態様:他の会社と提携契約を結び、継続的取引関係により相互の便宜を図る「業務提携」と、ある会社が他の会社に資本参加する
「資本提携」とに大別できる
2
講義レジュメNo.12組織再編(1)
1. 序論
2. 組織変更
3. 組織再編概論(前編)
テキスト参照ページ:435~437p
382~390p
1
Ⅲ
企業の組織再編
1. 総説:バブル崩壊後の経済再生の動きの中で、旧商法(および関連諸法制)上、企業の組織 再編法制が徐々に整備され、企業再生・再編 に活用されてきた
• 純粋持株会社の解禁
• 会社分割、株式交換・株式移転等の制度の創設
• 簡易組織再編
• 会社法は、これらを承継しつつ、さらに規制緩和を進め、効率的な企業再編が可能になるよう設計されている
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Ⅱ 企業結合形成の法規制
• 組織再編の方法としては、①対象会社の株式取得、②合併、③会社分割、④株式交換・株式移転、⑤事業譲渡・譲受、⑥企業提携契約の締結などが挙げられる
• ⑤、⑥については、事業の譲渡等として会社法第2編第7章において規定され、②~④(狭義の組織再編)については組織変更とともに第5編において規定されている
• 他の会社の株式・持分の取得については、子会社による親会社株式取得の禁止等個別に規制される:独禁法・金商法上の規制にも注意 3
3
対価の柔軟化
• 吸収合併、吸収分割または株式交換に際して、消滅会
社等の社員に交付される対価は、存続会社等の株式に限定されず、金銭その他の財産を交付することができることになった(749Ⅰ②、751Ⅰ③、758④、760⑤、 768Ⅰ②、770Ⅰ③参照)
• なお、新設合併・新設分割・株式移転においては、新会社の設立を本質とする以上、当該新設会社の株式
(持分会社が新設会社の場合は持分)を割り当てることとせざるを得ない(753、755、763、765、773):ただし、株式や持分に準ずる社債や新株予約xxを割当てることは認められる
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2 組織再編に関する規制
• 事業譲渡等:467~470条
• その他の組織再編行為:「第5編 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転」
– 組織変更、合併(吸収合併・新設合併)、会社分割
(吸収分割・新設分割)、株式交換・株式移転それぞれにつき、当事会社間の契約で定めるべき事項と効力の発生時期、効力発生要件、債権者等に対する対抗要件について規定(743~774条)
– 次に各当事会社における手続について「組織変更」
「吸収合併・吸収分割・株式交換」と「新設合併・新設分割・株式移転」とに分け、それぞれについて消滅会社等における手続と存続会社等または設立会社等における手続とを規定(775~816条) 5
xx合併
丙社株主
②対価として丙
甲社株主 社株式の交付
丙社
(乙の親会社)
①親会社(丙 社)株式の取得
吸収合併
乙社
(存続会社)
丙社株主
丙社株主
甲社株主は丙社株主となる
丙社
(乙の親会社)
従来からの丙社株主
乙社
(存続会社)
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甲社
(消滅会社)
対価の柔軟化
• いわゆるxx合併:子会社が他の会社を吸収合併する際に存続会社の親会社の株式を対価として交付する合併
• いわゆる交付金合併(Cash Out Merger):消滅会社の株主に金銭のみを交付する合併
• 外国企業は、日本企業を株式交換により直接完全子会社化することはできないが、xx合併の手法を用いることで、多額の現金を支払うことなく、支配下に置くことが可能となる:子会社による親会社株式の取得は原則として禁止されるが(135Ⅰ)、xx合併に用いるなど、消滅会社等の株主等に対して交付するために必要な範囲に限り、取得が認められる(800)
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交付金合併(キャッシュ・アウト・マージャー)
甲社株主
対価として現金
のみを交付 乙社株主
甲社 乙社
(消滅会社) 吸収合併 (存続会社)
乙社株主
合併の前後で乙社の株主構成には変動は生じない
乙社
(存続会社)
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Ⅳ結合企業規制の課題
• 企業結合によって安定株主の存在を背景とした長期的視野での経営・効率的な資源配分などが可能となり、大規模かつ効率的な経営を促進できる
• 他方で支配的企業による従属的企業ないしその少数派株主への法律上および事実上の影響力行使による利益侵害の危険も大きくなる
• にもかかわらず、企業結合関係の存在を前提とする体系的な利害調整を目的とした規制は十分ではない
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Ⅳ結合企業規制の課題
• 純粋持株会社の解禁⇒親会社の少数派株主の保護の必要性(株式交換・株式移転の導入でそのさらに増大)
• これに伴い、親会社株主らの子会社情報へのアクセス権が拡充された(318Ⅴ、371Ⅴ、125Ⅳ、 252Ⅳ、684Ⅳ、433Ⅲ、442Ⅳ、358Ⅳ)
• しかし、法令・定款違反等により子会社に損害を生じさせた取締役に対して、株主である親会社が代表訴訟を提起しない場合に、親会社の少数派株主が子会社取締役の責任を代表訴訟に よって追及できるか、といった問題(いわゆる
多重的代表訴訟)は、制度xx解決
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Ⅳ結合企業規制の課題
• 会社法は、子会社による親会社株式の取得の原則禁止(135Ⅰ)、相互保有にある株式の議決権停止(308Ⅰ)、親会社監査役の子会社調査権(381Ⅲ)、親会社監査役の子会社取締役、支配人・使用人、会計参与、執行役兼任禁止
(335Ⅱ)等親子会社関係あるいは相互保有関係という基準に基づくいくつかの規定を部分的に設けているに過ぎない
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2
組織変更
I. 組織変更の意義
II. 株式会社から持分会社への組織変更 III.持分会社から株式会社への組織変更
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Ⅰ
組織変更の意義
• 定義:会社がの企業組織を
いう
を維持しつつ、そ
へ変更することを
• 株式会社と持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)間で行う組織の変更(2)
• 総株主・総社員の同意(776Ⅰ、781Ⅰ)
• 債権者保護手続を義務付け(779、781Ⅱ)
• 持分会社間の種類の変更は
更
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Ⅱ 株式会社→持分会社
1. 組織変更計画の作成(743・744)
i. 組織変更後の持分会社に関する基本的事項
ii.組織変更の対価に関する事項 iii.既発行の新株予約権に関する事項 iv.効力発生日
v. 組織変更計画書面等の備置および閲覧等(775以下)
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ⅰ)組織変更後の持分会社に関する基本的事項
• 組織変更後持分会社の種類(Ⅰ①)
• 目的、商号および本店所在地(Ⅰ②)
• 社員の氏名または名称および住所(Ⅰ③イ)
• 社員の責任(同ロ)
• 社員の出資の価額(同ハ)
• その他組織変更後持分会社の定款で定める事項
(Ⅰ④)
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ⅱ)組織変更の対価に関する事項(Ⅰ⑤・⑥)
• 組織変更する株式会社の株主に対しては、その株式に代えて組織変更後の持分会社 の持分を交付するか、持分以外の金銭等
(Ⅰ⑤カッコ書参照)を交付することができる
• 対価の種類に応じて所定の事項を定める
– 持分会社の社債
– 社債以外の財産(現金その他の財産)
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ⅲ)既発行の新株予約権に関する
事項
• 組織変更をする株式会社が新株予約権を発行している場合、組織変更後持分会社が当該新株予約権者から新株予約権を買い取る(Ⅰ⑦⑧)
• 新株予約権者から株式会社へ新株予約権の買取を請求することもできる(777)
• ただし、持分会社は新株予約権を発行できないため、新株予約権の承継はできず買取のみ
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法人格の同一性
他の種類の会社
、定款変
ⅳ)効力発生日
• 組織変更は、組織変更計画に定めた効力発生日に効力を生じ、組織変更をする株式会社は、計画で定めた持分会社となる(745Ⅰ)
• 組織変更計画で定めた内容にしたがって、定款変更をしたものとみなされる(同Ⅱ)
• 株主は持分会社の社員となる(同Ⅲ):対価として社債が交付される場合には社債権者となる
(同Ⅳ)
• 株式会社の新株予約権は、効力発生日に消滅する(同Ⅴ)
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ⅳ)効力発生日
• ただし、効力発生日に債権者保護手続(779)が完了していない場合、または組織変更を中止した場合は、組織変更の効力は生じない
(745Ⅵ)
• 組織変更は登記事項であるが(920)、組織変更の登記は効力発生要件ではない
• 効力発生日は変更できる(780)
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ⅴ)組織変更計画書面等の備置お
よび閲覧等
• 組織変更計画備置開始日から効力発生日までの間:組織変更計画の内容その他法務省令で定める事項を記
載・記録した書面または電磁的記録を本店に備え置き、株主および債権者の閲覧・謄写請求等に応じなければ ならない(775Ⅰ、Ⅲ)
• 組織変更計画備置開始日:
– ①組織変更計画について総株主の同意を得た日、
– ②新株予約権者への組織変更の通知・公告(777Ⅲ・Ⅳ)のいずれか早い日、
– ③債権者への組織変更の公告または催告(779Ⅱ)のいずれか早い日
①~③のうちいずれか早い日をいう(775Ⅱ)
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2 組織変更計画の承認
• 効力発生日の前日までに、組織変更計画につき総株主の同意を得なければならない(776Ⅰ)
• 株主総会を招集することは要求されておらず、すべての株主に対して各別に同意を得られればよい
• なお、登録株式質権者および登録新株予約権質権者に対しては、効力発生日の20日前までに、組織変更をする旨を通知または公告しなければならない(Ⅱ、Ⅲ)
• 総株主の同意が要件であるため株式買取請求権
は規定されていない
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3 新株予約権買取請求権
• 持分会社へ組織変更をする株式会社が新株予約権を発行している場合、組織変更によりその効力は消滅する(745Ⅴ)
• 組織変更計画における新株予約権の買取条件に不服のある新株予約権者は、当該株式会社に対し、自己の有する新株予約権をxxな価格で買い取ることを請求することができる(777Ⅰ)
• 新株予約権付社債に付された新株予約権についても同様(同Ⅱ)
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4 債権者保護手続
• 債権者は、組織変更をする会社に対し、一定の期間内に異議を述べることができる(779Ⅰ)
• 会社は所定の事項を官報に公告し、かつ知れている債権者には、各別に催告しなければならない(同Ⅱ)
• 会社は、官報に加えて、定款の定めに従い
(939Ⅰ②③)、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙または電子公告の方法により、組織変更の公告をする場合には、個別の債権者への催告を要しない(同Ⅲ)
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5
組織変更の登記
• 組織変更をした場合(920) :
– 効力発生日から2週間以内に
– その本店の所在地において
– 組織変更前の株式会社についての解散の登記
– 組織変更後の持分会社についての設立の登記
• この登記は、効力発生要件ではない
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4 債権者保護手続
• 債権者が期間内(1ヶ月を下回ることはできない)に異議を述べなかったとき:当該組織変更について承認したものとみなされる(Ⅳ)
• 異議を述べた場合:会社は当該債権者に弁済し、もしくは相当の担保を提供し、または当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない(Ⅴ):当該組織変更が当該債権者を害するおそれがない場合を除く
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ⅰ)組織変更後の株式会社に関する基
本的事項
• 組織変更後株式会社の目的、商号、本店所在地および発行可能株式総数(1号)
• その他組織変更後株式会社の定款で定める事項(2号)
• 組織変更後株式会社の取締役の氏名(3号)
• 組織変更後株式会社が会計参与設置会社であ る場合は会計参与の氏名または名称(4号イ)、監査役設置会社である場合は監査役の氏名(4 号ロ)、会計監査人設置会社である場合は会
計監査人の氏名または名称(4号ハ)
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Ⅲ 持分会社→株式会社
1. 組織変更計画の作成(743・746)
i. 組織変更後の株式会社に関する基本的事項
ii.組織変更の対価に関する事項 iii.効力発生日
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ⅱ)組織変更の対価に関する事項
• 交付される財産の種類に応じて所定の事項を定めなければならない
• ①株式を交付する場合:株式の数またはその数の算定方法および割当てに関する事項(5号、6号)
• ②社債を交付する場合:当該社債の種類および種類ごとの各社債の金額の合計額またはその算定方法(7号イ)
• ③新株予約権を交付する場合:当該新株予約権の内容および数またはその算定方法(7号ロ)
• ④新株予約権付社債を交付する場合:当該新株予約権付社債の種類、種類ごとの金額の合計額またはその算定方法に加え、新株予約権についての内容および数またはその算定方法(7号
ハ)
• ⑤その他の財産を交付する場合は、当該財産の内容および数もしくは額またはこれらの算定方法(7号ニ)、およびそれらの割当てに関する事項(8号)
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ⅲ)効力発生日
• 効力発生日に持分会社は株式会社となり、定款変更があったものとみなされ、社員は割り当てられる対価の内容に応じて組織変更後株式会社の株主、社債権者、新株予約権者等となる
• ただし、債権者保護手続(781Ⅱ→779)が終了していない場合または組織変更を中止した場合は、組織変更の効力は生じない(747)
• 効力発生日の変更については、株式会社の手続が準用される(781Ⅱ→780)
30
3
債権者保護手続
• 株式会社から持分会社への組織変更と同様の債権者保護手続が要求される(781Ⅱ→779)
• ただし、株式会社を前提とする779条2項2号は準用されない
• 合同会社の場合は、社員の責任に変更は生じないため、株式会社と同じ手続であるが、合名会社・合資会社の場合には、社員の責任の変更が生じるため、必ず知れている債権者への個別の 催告を行わなければならない(781Ⅱ第2文前段)
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2 組織変更計画の承認
• 効力発生日の前日までに、組織変更計画について当該持分会社の総社員の同意を得なければならない(781Ⅰ本文)
• ただし、定款をもって別段の定めをおくことができる(781Ⅰ但書)
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4
登記
• 組織変更の登記については、株式
会社から持分会社への組織変更の場合と同じ(920)
33
Ⅳ
組織変更の無効
• 組織変更の無効は、組織変更無効の訴えに よってのみ主張することができる(828Ⅰ⑥、
Ⅱ⑥、834⑥)
• 提訴期間:効力発生日から6ヶ月以内
• 提訴権者:当該効力発生日において組織変更 をする会社の株主等もしくは社員等であった 者または組織変更後の会社の株主等、社員等、破産管財人もしくは組織変更について承認を しなかった債権者に限る
• 被告:組織変更後の会社
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組織変更無効判決の効果
• 組織変更は将来に向かって効力を失う
(遡及効の否定:839)
• 持分会社から株式会社への組織変更の無効が確定した場合、持分会社の社員に交付された株式または新株予約権も将来に向かって効力を失う
• 組織変更の無効判決は、第三者に対しても効力を有する(対世効:838)
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3 組織再編概論(前編)
1. 合併(吸収合併・新設合併)
2. 会社分割(吸収分割・新設分割)
3. 株式交換および株式移転
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Ⅰ 合併の意義と種類
• 合併とは、「2個以上の会社が契約により1個の会社になることであり、企業の人的組織(社員・株主)および物的組織(事業用財産)がともに一体となる企業結合の最も完全な形態」である
• 合併は、企業規模の拡大による競争力の強化・競争の回避、経営の合理化、業績不振会社の救済等さまざまな目的で利用される
• 合併の種類には吸収合併と新設合併がある
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吸収合併と新設合併
• 吸収合併:会社が他の会社とする合併
– 合併により消滅する会社(消滅会社)の権利義務の全部を合併後存続する会社
(存続会社)に承継させる形態(2-27)
• 新設合併:2つ以上の会社がする合併
– 合併当事会社すべてが消滅し(消滅会社)、その権利義務の全部を合併により設立する 会社(新設会社)に承継させる形態
(2-28)
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Ⅱ 合併の自由とその制限
• 会社は、当事会社間で協議を行い、合併契約を締結することにより、他の会社と合併をすることができる
(748)
– 同種類の会社間だけでなく、異なる種類の会社とも自由に合併することができる
• 持分会社も存続会社となることができる(旧商56Ⅱ参照)
– ただし、解散した持分会社(清算中の会社)が他の会社と合併する場合、当該存立中の会社を存続会社とする合併のみが認められる(474①、643①)
• 独占禁止法:合併が一定の取引分野における競争を実質的に制限するような弊害を防ぐため、一定範囲で事前のxx取引委員会への届出(独禁15Ⅱ・Ⅲ)を必要とするほか、競争制限を生じる場合および不xxな取
引方法による場合には合併を禁止(独禁15Ⅰ)
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合併の法的性質(合併本質論)
• 人格合一説:会社の合同を目的とする団体法上または組織法上の特殊な契約:その効果として会社の人的・物的組織の包括的承継が生じる(通説)
• 現物出資説(有力説):消滅会社の事業全部を現物出資することによる存続会社の新株発行または新設会社の設立
• しかし、具体的な問題の解決においては、両説とも説明の仕方は違っても結論にはほとんど差異はなく、議論の実益は乏しい。合併の対価が柔軟化されたことに より、いずれの説からも合併の性質を過不足なく説明することは困難であり、会社法上合併自体の定義規定
は設けられなかった。
40
Ⅲ
吸収合併
1. 株式会社が存続会社となる吸収合併
1. 吸収合併契約(749)
2. 吸収合併の効力の発生等
2. 持分会社が存続会社となる吸収合併
1. 吸収合併契約(751)
2. 吸収合併の効力の発生等
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吸収合併契約(749)
① 存続会社および消滅会社の商号・住所
② 合併対価に関する事項およびその割当てに関する事項
③ 新株予約権の承継に関する事項およびその割当てに関する事項
④ 吸収合併の効力発生日
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吸収合併の効力発生
• 効力発生日に生じ、存続会社が消滅会社の権利義務を承継する
(750Ⅰ)
• 吸収合併の登記(921)は、効力発生要件ではなく、消滅会社の解散の第三者対抗要件(750Ⅱ)
– 合併の登記前に消滅会社の代表者が行った会社の行為については、相手方の善意・悪意にかかわらず、存続会社に効果が帰属する
• 消滅会社の株主または社員は、割当てられる対価の内容に応じて、存続会社の株主、社債権者、新株予約権者、新株予約権付社債の社債権者および新株予約権者となる(750Ⅲ)
• 消滅会社の新株予約権は、効力発生日に消滅:新株予約権承継手続に関する定めにしたがい、消滅会社の新株予約権者は存続会社の新株予約権者となる(750Ⅳ・Ⅴ)
• 一定の条件をみたす消滅会社の新株予約権者には、後述する新株予約権の買取請求権が与えられる(787Ⅰ①)
• ただし、債権者保護手続(後述)が終了していない場合または吸収合併を中止した場合は、吸収合併の効力は生じない
(750Ⅵ)
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吸収合併契約(751)
① 存続会社および消滅会社の商号および住所
② 消滅会社の株主または社員が存続会社の社員になる場合:存続会社の区分に応じて、社員の出資等に関する事項
③ 合併対価に関する事項および割当てに関する事項
④ 既発行の新株予約権の承継に関する事項およびその対価(金銭)の割当てに関する事項
⑤ 吸収合併の効力発生日
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吸収合併の効力の発生
• 効力発生日に生じる(752Ⅰ)
• 吸収合併の登記(921):消滅会社の解散の第三者対抗要件(752Ⅱ)
• 消滅会社の株主または社員:割当てられる対価の内容に応じ、存続持分会社の社員、社債権者となる
(752Ⅲ、Ⅳ)
• 消滅会社の新株予約権:効力発生日に消滅(752Ⅴ
– 一定の条件をみたす消滅会社の新株予約権者には、後述する新株予約権の買取請求権が与えられる(787Ⅰ①)
• ただし、債権者保護手続(後述)が終了していない場合または吸収合併を中止した場合は、吸収合併の効力は生じない(752Ⅵ) 45
吸収合併と事業全部の譲渡
• 会社が他の会社に吸収合併される場合と、他の会社に事業の全部を譲渡する場合とは、経済機能的には会社の物的組織(事業財産)の重要部分に変動を生じさせる点で類似している。それゆえ、ともに株主の利害に重大な影響を及ぼすため、株主総会の特別決議が要求され(467Ⅰ①、783Ⅰ、309Ⅱ➃⑫)、反対株主の株式買取請求権が保障されている(469、 785)。しかし、両者は以下の点において相違している。
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吸収合併と事業全部の譲渡
① 合併が記載事項の法定された合併契約書の作成を要する要式契約であるのに対し、事業譲渡は不要式契約である
② 財産の移転について、合併には包括的移転の効力が生じる(包括承継)が、事業譲渡には包括的移転の効力は生じず(特定承継)、個別の財産ごとに 対抗要件を具備しなければならない
③ 合併では、債務も包括的に移転するため、債務者の資産に重大な変化が生じることになる。したがって、債権者保護のための手続が定められている
(789)。これに対し、事業譲渡においては、個別の債務引受ごとに債権者の同意を要するので、特に債権者保護の手続は必要ない。
④ 消滅会社・譲渡会社の株主の地位について、消滅会社の株主が存続会社の株式を与えられる場合(749Ⅰ②)は、当該存続会社の株主となる。これに対して、事業譲渡においては、物的組織は移転するが、人的組織の移転はなく、株主の地位に変動は生じない。
⑤ 従来の判例の定義によれば、事業譲渡においては、法律上当然に譲渡会社は競業避止義務を負う(21)。もっとも、この競業避止義務は、特約により排除することも可能である。吸収合併の場合、消滅会社は消滅するため競業避止義務を問題にする余地はない。
⑥ 合併・事業譲渡に瑕疵がある場合の是正の方法について、合併の場合は合併無効の訴えによる方法に限られ、提訴権者・提訴期間が限定されている
(828Ⅰ⑦、Ⅱ⑦)。これに対して、事業譲渡においては、民法の一般原則にしたがい無効・取消の主張をなしうる。なお、事業譲渡を承認する株47主総会特別決議の取消・無効(830、831)は、事業譲渡の無効をもたらす。
Ⅳ 新設合併
1. 新設合併契約
1. 株式会社を設立する新設合併の場合:
(753)
2. 持分会社を設立する新設合併の場合:
(755)
3. なお、2つ以上の持分会社のみが合併し、株式会社を設立する新設合併や2つ以上の株式会社のみが合併し、持分会社を設立する新設合併も可能
(922Ⅰ②・922Ⅱ①参照)
2. 効力発生等
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(1)株式会社を設立する新設合併
① 新設合併当事会社に関する事項
② 設立会社の機関に関する事項
③ 合併対価に関する事項およびその割当てに関する事項
• 新設合併については、株式会社を設立するものであるため、対価の柔軟化は認められず、消滅会社の株主または社員に は、その株式または持分に代えて、設立会社の株式が交付 される
④ 新株予約権の承継に関する事項およびその割当てに関する事項:消滅株式会社が新株予約権を発行している場合、設立会社がこれを承
継するか、買い取る
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新設合併の効力の発生等
• 新設合併設立株式会社の成立の日(設立登記の日)に生じ、消滅会社の権利義務を承継する(754Ⅰ、49、 922Ⅰ)
• 新設合併の登記は、諸般の手続がすべて完了した日から2週間以内に本店所在地においてなす。同時に、消滅会社においては解散の登記をなす
• 吸収合併の場合と異なり、登記が効力発生要件
• 新設合併設立株式会社の設立登記がなされることにより、消滅会社の株主または社員は、合併契約の定めにしたがい、設立会社の株主、社債権者、新株予約権者等となる(754Ⅱ、Ⅲ)
• 新設合併の効力発生により、消滅株式会社の新株予約権は消滅し(754Ⅳ)、新株予約権の承継手続により、設立株式会社の新株予約権の交付を受ける者は、当該設立株式会社の新株予約権者となる(754Ⅴ) 50
(2)持分会社を設立する新設合併
① 新設合併当事会社に関する事項
② 合併に際して交付される社債に関する事項およびその割当てに関する事項
③ 既発行の新株予約権に関する事項およびその割当てに関する事項:消滅株式会社が新株予約権を発行している場合、設立会社が新株予約権を買い取る(承継はできない)
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新設合併の効力の発生等
• 新設合併設立持分会社の成立の日(設立登記の日)に効力を生じ、消滅会社の権利義務を承継する(756Ⅰ、49、922Ⅱ)
• 設立登記は効力発生要件
• 設立持分会社の設立登記により、消滅会社の株主または社員は、合併契約の定めにしたがい、設立持分会社の株主、社債権者等となる
(756Ⅱ、Ⅲ)
• 新設合併の効力発生により、消滅株式会社の新株予約権は消滅する(756Ⅳ)
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