平成 27 年 9 月 30 日/JCA-27-発第 005 号日本チェーンストア協会
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見
平成 27 年 9 月 30 日/JCA-27-発第 005 号日本チェーンストア協会
x000-0000 xxxxxxxx 0-00-00
xxxXX xx 00 x
1.総論として
「中間とりまとめ」において指摘されているように、消費者契約法は、消費者と事業者との間に存在する構造的な情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑みて制定された民法の特別法である。消費者の利益の擁護を図る観点から、一定の範囲で民事ルールの特則を設けることの必要性自体は理解するものであり、また、インターネットの普及、高齢化の進展等を背景として、現行ルールの見直しを行うこと自体の必要性についても理解するものである。
一方、消費者契約法は、これも「中間とりまとめ」に指摘されているように、消費者契約全般に適用される法律であるがゆえに、その規定の変更は、様々な分野において様々な形態で日常的に展開され消費者に便益を提供している BtoC ビジネス全般に影響を与えることになる。この点、特殊な悪徳業者との間で生じる消費者被害や特定分野に係る取引に集中的に現れる消費者被害という事実に立脚して規制策を講ずる個別悪徳業者対策法や個別業法とは異なるものである。
したがって、仮に消費者契約法の見直しの結果、契約の取消しや無効等の適用場面が安易に拡大されたり、取消しや無効となり得る範囲が不明確となる場合には、日常生活全般にわたっての法的安定性が損なわれ、事業者に過剰な負担を及ぼすばかりではなく、事業者に対する萎縮効果を通して消費者に対する様々なサービス提供が抑制され、却って消費者利益に反する結果となってしまう懸念がある。そしてこの懸念は、日常のショッピングの現場である小売業を念頭におくと、とりわけ強く感じられる。すなわち、小売業の現場では、多様かつ大勢のお客様(消費者)が、日常の忙しい中で時間を惜しんで買物をされている。そして、ほとんどの取引は、社会常識と信頼をベースにして、契約書を取り交わすこともなく、繰り返し繰り返し、契約締結と履行(商品受領と代金支払い)がほぼ同時に行われている。更に、お客様(消費者)に実際に応対するのは、事業主といっても、パートやアルバイトを含む普通の従業員である。仮にこのような現在普通に行われている日常生活が消費者契約法の見直しによって損なわれることになれば、一般消費者の利益と健全な社会生活が失われることになることは明らかである。
このような観点から、「中間とりまとめ」に掲げられた論点については、以下を始めとした懸念が払拭されないところであり、「中間とりまとめ」の「おわりに」にある今後のヒアリング等において実例の紹介等とあわせて意見を申し述べたい。
(なお、下記は、懸念項目の中で主なものについてポイントのみ記述しているため、詳細につ
いては「【別添】消費者契約法専門調査会『中間取りまとめ』に対する意見(詳述)」を参照
されたい)。
2.各論について
(1)情報提供義務について
「中間とりまとめ」においても「まずは、一定の事項の不告知による意思表示の取消しの規律を検討した上で、必要に応じ、更に・・・検討することが適当」と整理されており、当面の論点とはしないと読めるところであるが、情報提供の義務化(義務違反の場合には損害賠償という効果を定める)との規定を設けることについては、実行可能性や過剰なコスト発生などの点から適切ではないと考える。
(2)不実告知及び不利益事実不告知について
「中間とりまとめ」では、「勧誘の要件」「不利益事実の不告知」「重要事項」という要素に分解されて考察されているが、条文(4条1項1号及び4条2項)及び実務に照らした規範としては、一定の場面(=勧誘)で一定の内容(=重要事項)について、「不実告知」または
「不利益事実の不告知」をすると、消費者に取消権が発生すると整理されるものである。 確かに、インターネットの普及などにより、現行の勧誘の要件が現実に合わないという事
態が発生していることは理解できる。しかしながら、「勧誘」「重要事項」「不利益事実不告知」の要件の拡張は、一方で外縁についての予測可能性を大きく損ない、規範が規範として機能せずに、強い萎縮効果を招いてしまう懸念がある。この懸念は、総論で述べたように、特に小売業の現場では強く感じるが、とりわけ「不利益事実の不告知」に色濃く現れるものであり、「言わねばならぬこと」の対象場面・対象内容が、実務を担っている平均的な担当者レベルで認識されることが期待できる程度に明確になっていなければ、行為規範としての意味を持ちえない(「事業者」と言っても、個々の消費者に応対する直接の当事者は、経営者ではなく各従業員であることに注意が必要である。)。この点を含め、「勧誘」「重要事項」「不利益事実の不告知」の要件拡張については慎重に検討していただきたい。仮に要件拡張する場合であっても、適用場面を限定するなど、日常生活の安定性を保ち、健全な日常生活を阻害しないための工夫をする必要がある。
(3)威迫について
「中間とりまとめ」にも「適用範囲を明確にしつつ」と整理されているように、要件の明確化がなされないと、ルールを悪用されかねない懸念があり、慎重に検討していただきたい。
(4)合理的判断ができないことの事情を利用した契約締結について
「不当な利用」の客観的認定には、難しさが伴う。例えば事業者(具体的には店員など従業員)が高齢者等のお客様にとってよかれと思ってしたことが、後になって「余計なことを
した=不当に利用した」と言われかねないようであると、事業者は高齢者との取引を躊躇するといった意図しない結果が発生してしまう。このような懸念を回避するためには、不当利用の外縁の明確化とともに、「日常取引は取消の対象外とする」など、日常生活の安定性を保ち、健全な日常生活を阻害しないための規定を設けるべきである。
(5)第三者による不当勧誘について
事業者と第三者との関係は多様である。第三者が事業者の影響を受けている場合もあろうが、例えばお客様同士の会話などに誘発されて商品を購入するような場合など、第三者が事業者とは無関係な場合も少なくない。このうちの後者についても、「事業者がそのような顧客の状況を悪用した」と判断されるケースもあろうが、事業者側として対応できないケースもあるなど、状況は様々である。このような多様性がある状況に対して一律に消費者に取消権を付与する規範を設けることは適当ではない。
(6)取消権の行使期間の延長について
「取消権の行使期間の経過後に取消すための行動を起こす」ケースの中に、当該主張を認めるほうがxxに適うケースも存在するであろうことは理解できるが、他方、中間取りまとめにも指摘しているように、個々のケースを解決するための議論ではなく、行使期間の延長という「ルールの改正」を行うことは、様々な取引の安定性を損なう懸念がある。また、「行使期間を延長しても、やはり『期間経過してしまう』という同様のことが起こるのではないか?(取引の安定性を損なうというデメリットを伴うルール改正をするだけの現実の実益があるのだろうか?)」「現行の消費者契約法の内容の周知を徹底することのほうが、むしろ問題解決に役立つのではないか?」などの疑問もあるところであり、慎重に実例を調査し、分析評価することが必要である。
(7)法定追認について
民法の法定追認の適用除外または修正を図ることが取消権の実効性を確保する上で有益である場合があることは理解するが、他方、毎日のショッピングなど、実態として社会常識と信頼をベースとして大量の契約が締結され、書面による契約を結ぶことが想定されず、大量の契約と履行がほぼ同時に行われる取引に法定追認の特例を当てはめてしまうと、消費者契約法を悪用する意図を持った人などが「誤認した」と称した上で特例を悪用することが可能となることにより、日常の取引全て、したがって日常生活自体が不安定な状態になってしまう。法定追認の特例を設けること自体適当ではないと考えるが、少なくとも「日常取引は特例の対象外とする」など、日常生活の安定性を保ち、健全な日常生活を阻害しないための規定を設けるべきである。
(8)取消しの効果について
上記(7)と同様の懸念が存する事項である。新民法の特則を設けることが有益である場
合があることは理解するが、日常の買い物の中での悪用が容易に考えられ、反対である。新民法の特則を設けること自体適当ではないと考えるが、少なくとも「日常取引は特例の対象外とする」など、日常生活の安定性を保ち、健全な日常生活を阻害しないための規定を設けるべきである。
(9)不当条項について
詳細は別添を参照されたいが、事業者の損害賠償責任を免除する条項及び損害賠償の予定・違約金条項の修正、また、不当条項の類型の追加については慎重に検討していただきたい。
以上
【別添】
消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」に対する意見(詳述)
平成27年 9月30日日本チェーンストア協会
第1 見直しの検討を行う際の視点
第1「見直しの検討を行う際の視点」について、インターネットの普及を通じ、消費者による情報の収集等が容易になる一方で、消費者がトラブルに巻き込まれる場合があること、消費者が正確な情報を選択した上で、意図した内容の取引を行うことができるように配慮する必要があること、高齢者の利便に資するような生活支援サービスが提供される一方で、一人暮らしの高齢者や認知症の可能性がある者等に対し、その弱みにつけ込むような事例が見られること、このような社会経済状況の変化を踏まえつつ、法の実効性を確保する必要があることに同意する。
また、消費者契約法は、xxな業種・業態に関わるものであることを踏まえ、事業者の予測可能性を担保するとともに、経済活動が円滑に進み、「国民経済の健全な発展に寄与する」(法第1条)ように留意する必要があることにも同意する。
そのうえで、消費者契約法改正の検討においては、個々の項目の結論を出すにあたっても、このようにバランスの取れた判断に基づくことが必要と思われるが、中間とりまとめにおける個別の論点に関し、少なくとも事業者の眼からは、必ずしもこのような視点が活かされていないように思われるところが見られる。これまで、各業界の事業者の意見があまり採り入れられていないため、この点について、専門調査会の今後の取組みを強く希望する。
確かに、消費者契約法が初めて施行された平成13年以降も、事業者と消費者の契約を巡る消費者被害事例が多数発生していることは否定できない。しかし、これら救済が必要な消費者被害事例は、そもそも意図的に消費者をだますことを企図しているとものがほとんどのようである。他方で、事業者と消費者の間には、何のトラブルも生じない取引が一日に少なくとも数千万件(i)行われていることを忘れてはならない。病理現象を解決するために、大多数を占める正常な取引に支障を来しては、一般消費者の利益にはならない。消費者の利益は、トラブルの解決だけではなく、事業者から提供される日常の商品・サービスからも発生するのであり、事業者の行為の妨げは、多くの消費者の不利益につながることもありうる。消費者被害の解決のためには、解決のための可能な施策の選択肢を検討し、それら施策のそれぞれがトラブル事例の解決にどれだけ役立つのか、という視点とともに、その他に社会にどのような影響を及ぼすのかを検討し、社会にとってもっとも良い選択肢を採るべきである。換言すれば、消費者契約法の改正という方法にとらわれず、真に社会のあるべき姿に向かうために、最善の方法を探求すべきと考える。ある消費者契約法の条項を改正することが、100の消費者トラブルの解決や抑止に一定の効果があるとしても、それにより100万の正常な取引に支障を与えるのであれば、消費者契約法の条項を改正しないという決断も必要なのではないか。
また、事業者と消費者の間の情報の格差については、たとえば製造物の製造工程や農産物の育成過程などに関わる情報を、これに直接携わる事業者が持っている一方で、消費者が持っていない場合があることは事実であるが、現行の法体系では、たとえば製品に関する家庭用品品質表示法や食品表示法など、社会が消費者にとって重要と判断した情報を商品に表示することが義務づけられており、また一口に事業者と言ってもそれぞれ保有する情報の質と量は異なり、また消費者に直接接する現場担当者が保有する情報は更に限られている。したがって、現実的な情報の格差がどれだけ存在するのかは、事例ごとに冷静に分析すべきと思われる。特に、今回の改正作業で取り上げられた事案において、ここでいう「構造的な」情報格差が原因であるものはどれくらいあるのであろうか。相手方に不利な情報を故意に言わないという行為は、一般的な私人間でもありうる不正行為であり、「構造的な」情報格差の問題ではないように思われる。情報提供に対する考え方も、このような前提を踏まえて検討されるべきである。
事業者と消費者の交渉力の格差は、一律の文言の契約書を事業者が提示する場合の、契約文言の決定にあたっては存在し、また事業者の個々の事業スキームの決定権ということについても存在する。しかしながら、他方で、物資の行き渡った現代社会では、消費者はその契約書や事業スキ-ムに係る商品・サービスを選択しないという(事業者の側から見ると)絶対的な権力を有している。消費者がいずれかの選択を迫られる公共インフラ関連の商品・サービスに関する契約条項等については、基本的に業法等を通じ行政の管理が行われており、脅迫などの消費者の自由な意思表示が阻害される要因がない限り、一般の取引において、消費者が契約締結を強要されることはない。したがって、通常の取引では、「消費者が正確な情報を選択した上で、」商品・サービスの性質や契約条件等を正しく理解し、「意図した内容の取引を行うことができる」ことが重要なのであり、交渉力の格差について過大に評価してはならないと考える。なお、不当条項等を検討するにあたり、一律の契約文言や事業スキームの決定権を事業者が有することについて、消費者にとって不利・不当と考える向きもあるかもしれないが、およそ一定規模の事業である限り、完全に個別に消費者の要望に応えるということはあり得ず、ある程度一律の手順で対応することでコストを抑え、多くの消費者の手に届くサービスが実現する。特にITシステムでの処理ということが介在する場合、何らかの一律のスキームに整理することが必須条件となる。したがって、契約文言や事業スキームの決定権を事業者が有すること自体は、不当なことではないということを個別論点の検討にあたっても前提とすべきと考える。
第2 x x
1.「消費者」概念の在り方(法第2条1項)
第2 総則 1.「消費者」概念の在り方については、まず、イ ①から③および⑤に記載される消費者概念の拡張については、中間とりまとめの結論において今回の改正において実施しない方向性であると理解するが、その点については評価したい。消費者概念は、消費者契約法適用の核となる部分であり、安易に拡張すべきではない。たとえば、個人事業主に「消費者性」が認められる場合があるとすると、個人事業主と契約した場合の権利の濫用を懸念し、個人事業主との従前どおりの取引をためらわせる可能性があるなど、弊害が考えられる。その他、今回改正しない方向性となった事例について詳述はしないが、万一、この検討
が再度取り上げられる場合には、再度検討が必要となる。
イの④「団体が実質的に消費者の集まりである場合」については、中間とりまとめとして、改正または逐条解説に記載するなどの方法により、これを消費者に含める方向性が示されている。しかし、これに対して、
「消費者」と「事業者」の区別が不明確となると、契約が消費者契約法の適用を受けるか否かの区別が困難となり、事業者として、想定外に契約が取消される等のリスクを負うことになり、取引の安定を害することになる、または事前の審査が必要となり、多くのコストが生じるリスクがある。団体といってもいろいろな種類があり、定款を有するなど組織として整っている場合や、多くの構成員を有する場合には、相当の情報収集力・判断力・交渉力を有することもあるのであり、相手方事業者との関係において劣後しているとは限らない。裁判例では、個別にこのような実態を見たしたうえで、保護の要否を判断しているので、一般論としてどのように場合に団体が消費者性を有するということは難しいのではないか。現行法を維持し、あくまで例外的な場合にその解釈により対応をすることが妥当と考える。
2.情報提供義務(法第3条第1項)
現行法第3条第1項にあるとおり、理念として、事業者が「消費者の理解を深めるために、・・・消費者契約の内容についての必要な情報を提供するように努めなければならない」ということに異議はない。他方、
「事業者・消費者との間の情報・交渉力の格差を是正して消費者の利益の擁護を図るという消費者契約法の立法目的との関係において、情報提供義務が努力義務にとどま」ることは「不十分であ」り、これを義務化し、かつ義務違反の効果として損害賠償(または取消し)を規定するという「指摘」については、次元を異にする問題であると思われる。
消費者の努力義務にも関わるところであるが、「見直しの検討を行う際の視点」でも触れられるとおり、法の目的は情報格差の解消ではなく、「消費者が正確な情報を選択した上で、意図した内容の取引を行うことができる」ことである。消費者の自由な意思形成が妨げられる特殊な状況下での取引を除き、実際に取引を行うかどうかは、消費者自身の選択である。個々の消費者にとって今必要なものは自分自身しか知らない。その必要性を充たすものが手に入るよう活動するのは消費者の責任である。その際、必要性を充たすかどうか判断するための情報を消費者が求めたとき、これにできる限り対応すべき、というのが、現行法第3条第
1項の定める事業者の情報提供義務であり、事業者が個々の消費者が必要であろうことを慮って、どんな情報でも伝達する、ということが求められているのではないと考える。また、事業者が保有する情報には、特許技術を始め、営業機密が含まれているところ、それら全てを消費者に伝えて情報の格差をなくすということが求められているわけでもないはずである。個々の消費者は、自己の選択に必要な情報だけが欲しいのであって、事業者が不必要な情報まで伝達するのは、かえって迷惑である。範囲の不明確な情報伝達の義務化および損害賠償の導入は、事業者にとって大きな負担となるのみならず、消費者にとっても自分には不必要な情報伝達に付き合わなければならないという事態を生み、適切ではない。特に当協会で主要な取引である日常の売買については、消費者は「会計が速やかに終了すること」を重要な評価要素として捉えているところ、一人ひとりに対する会計が1分長期化することが一日1店舗あたり33時間を超える会計時間となり、消費者一人一人にとっては数倍以上のレジ待ち時間として跳ね返ってくるということも考慮に入れるべきである。
中間とりまとめは、裁判例にもとづく民法(債権関係)改正時の議論等を参照して、①事業者にとって当
該情報を入手することが可能であること、②当該情報が消費者の契約締結の意思決定に重要な影響を及ぼすものであること(情報の重要性)、③消費者にとって当該情報を入手することが困難であること(消費者の情報入手困難性)、および④事業者において、消費者が情報を知らなかったことによって生じた損害を賠償させることが不相当でないことを要件に損害賠償義務を発生させるという案が提示されているが、④に見られるとおり、この4項目は最終的には具体的事案において損害賠償義務を発生させるかが妥当であるかを個別に判断することを前提とした判決上の立論であり、立法の要件とするのに適当なメルクマールとは思われない。事業者に損害賠償義務を負わせる根拠として、「入手可能だから」あるいは「消費者が入手困難だから」というのは、事業者の帰責事由とはなりえず、リスク分配のxx性という観点からは考えられないことのように思われる。唯一、②の情報の重要性が議論になるところであるが、少なくとも、個々の消費者にとって重要であるかどうか、が事業者の責任の決定要因となることは上記と同様帰責原因またはリスク分配として適切でない。また、個々の消費者にとって重要かどうかは、事業者には判断できない領域であるので、その提供を事業者の法的義務とすると、事業者は自己防衛のため、常識的には過度と思われる情報の提供を余儀なくされ、徒に販売コストを増大させる。かかる販売コストは、結果的に消費者に転嫁されることとなり、一般の消費者に無駄なコスト負担を強いることとなる。
事業者にとって、消費者に必要な情報は見えにくいものであり、また情報の過多は結局伝わらないという結果になりがちであるので、伝達を義務づける情報については、その内容を吟味して絞り込んだうえで、事業者に疑義がないような形で規定をすべきである。そして、上述のように、商品・サービスに関し、消費者一般にとって必要な情報については、既に多くの事項について業法等で表示が義務づけられている。したがって、情報提供を努力義務以上のものとして一般的に義務づけることは必要でもないし、適切でもないと考える。
なお、消費者被害対応として問題となっているのは、事業者がある情報を伝えなかったことにより、消費者が選択を誤ったという事例であり、これについては、不利益事実の不告知に対する対応として検討するのが適切である。しかし、この場合であっても、どんな消費者でもこれを知れば取引をしないであろうという事実を故意に告げなかったときに、取消しを認めるべきであることは相当である一方で、一般論としては不利益事実にも個々の消費者にとって重視することもしないこともあるのであり、一般的に事業者が不利益事実を伝えなかったとき全てを取消しまたは損害賠償請求にかからしめることは妥当でないと考える。
3.契約条項の平易明確化義務(法第3条第1項)
中間とりまとめにおいては、条項使用者不利の原則で議論するということで、ここでは簡単に触れるが、平易明確化ということの定義をせずに義務化することには反対する。契約条項は完全に平易にするのは極めて困難で、平易にすると正確性を欠くことになるのが通常である。明確性もかんぜんにするのであればxxな契約が必要となり、日本の実情と合わず、平易さが失われる。
4.消費者の努力義務(法第3条第2項)
中間とりまとめにおいては、維持される方向性ということであるので、支持する。
第3 契約締結過程
1.「勧誘」要件の在り方(法第4条第1項、第2項、第3項)
第13回専門調査会資料1頁では、次のような案が提示されている。
【A案】 「消費者契約の締結について勧誘をするに際し」という文言に代えて、「当該事業者との特定の取引を誘引する目的をもってする行為をするに際し」という趣旨の文言とする。
【B案】 「消費者契約の締結について勧誘をするに際し」という文言に代えて、「消費者契約の締結について勧誘(不特定の者に対するものを含む。)をするに際し」という趣旨の文言とする。
【C案】 「消費者契約の締結について勧誘をするに際し」という文言を維持し、解釈に委ねる。
たとえば、広告で虚偽の表示がされ、その広告を見せながら相対で勧誘がされたような場合は、現行法制で対応が可能である。しかし、後段の情報提供等にも関係するが、現代の一般の取引の多くは、関連する複数の事業者が様々な形態で情報を発信し、更にはインターネット上等で個人も情報を発信し、消費者がその中から自分に必要な情報を多面的に収集した後、最終段階で、消費者がBtoCの事業者に申込みをすることが契約が成立する。したがって、ある事業者が「当該事業者との特定の取引を誘引する目的をもって」広告をし、あるいは不特定の者に対し「勧誘」をしたとしても、個々の消費者において契約に至った決定的要因が何であるのかはわからず、当該事業者の行為が影響を与えたとは限らない。
したがって、A案、B案のいずれも、メルクマールとしては適切でないと思われる。広告における虚偽表示については、景品表示法の適用があり、課徴金の導入もされるところであるから、原則としてBtoCの直接の当事者にしか適用されない消費者契約法でこれを規律しようとするのは、合理的でないと考える。
2.断定的判断の提供(法第4条第1項第2号)
現行法のままで足りると考える。
3.不利益事実の不告知(法第4条第2項)
専門調査会は、不利益事実の不告知として、
不実告知型:利益となる旨の告知が具体的で不利益事実との関連性が強いと考えられる類型(利益となる旨だけを告げる行為それ自体が不実告知と言い得る場合)
不告知型: 先行行為が具体性を欠き、不利益事実との関連性が弱いと考えられる類型(事実の不告知が問題となる場合)
に分け、不実告知型については、先行行為要件(「利益となる旨を告げ」ること)を維持した上で、不告知の故意要件を削除又は過失による場合も含むとするという考え方、不告知型については、故意要件を維持した上で、先行行為要件を、別途検討されている事業者の情報提供義務が認められる場合とする又は削除するという考え方を示した。
不実告知型について故意要件を削除するという考え方については、13回26頁に記載されるように、裁
判外の場面で「わざとではない」と反論されるとそれ以上の交渉が不可能といった理由で、法改正を決定すべきなのか、ということについても、よく考える必要がある。同じことが、過失を規定した場合にも起きるはずであり、そうであるとすれば、故意でも過失でもない場合に、取消し対象とすることが妥当なのかを検討しなければならない。たとえば、日常的に最も多数行われている食料品・日用品の売買においては、重要事実である価格を(広告・POP等で)告げるが、その際、消費者がその他の何を重要事実と考えるのかはわからない。毎日売り切らなければならない生鮮品で大量に残ってしまったから安いのだ、ということや、この色が売れると思ったのに予測より売れなかったから値下げした、あるいは、新製品が入ってくるので古いパッケージのものを処分したいなどは、もしかすると消費者が「当該事実が存在しない」と考える「重要事実」と考えるかもしれないが、全て告知しないことについて取消し対象とすべきなのであろうか。そのような事例は該当しないという反論もあるかもしれないが、それではどこまでが該当するのか、判断のしようがなく、大小を問わずあらゆる事業者のあらゆる取引が、取消しのリスクにさらされることになると思われる。
4.「重要事項」(法第4条第4項)
専門調査会は、第13回において、
【A案】 法第4条第4項各号の事項に「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」のほか、例えば(事例2-2-6を念頭に)「当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件が有利であると認められる事情に関する事項」や(事例2-2-7を念頭に)「当該消費者契約の締結が合理的であると認められる事情に関する事項」等の事項を加える。
【B案】 法第4条第4項各号の事項に「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」を加えた上で、同条項各号が例示であることを明示する。
という2案について検討している。
しかしながら、まず、B案の「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」は、特定商取引法については、訪問販売・電話勧誘販売といった相対で当該取引に勧誘に向けた会話が続いていくという状況下での規定であり、特に勧誘のために取引の必要性について虚偽の事実を述べる場合を想定したものである。他方、一般的な取引では、事業者と消費者の間で会話や繰り返しのやりとりが行われるわけでもなく、事業者側から各消費者がなぜ消費者契約の締結を必要としているのかは知り得ないし、勧誘のために特段消費者が契約を必要としている事情について言及する必要性もない一方で、消費者にとっては何らの事情(「明日、xxを作らなければならない」)などが常にあるはずである。その場合に、たとえば刺身を売る際に「安いですよ」といい、賞味期限の記載はされているものの口頭で「賞味期限は今日中です」と言わなければ取消し対象になる、といったことにならないか、といったことを懸念する。このように、日常の多くの取引では消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情は、消費者側で判断する方が合理的であり、事業者側に不告知等によるサンクションを与えようとすることには無理がある。また、例示とすることで、重要事実は無限定となり、事業者が判断をすることはますます不可能を強いることとなる。
A案についても、「当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件が有利であると認められる事情に関する事項」が示されているが、景品表示法でも「著しく有利」という要件が設けられているところであり、たとえば、景品表示法では二重価格がどのような場合に不当表示になるかについて、詳細なガイド
ラインを設けているが、単に「有利であると認められる事情」といった場合には、「自社の店舗では通常より安いが、より店舗コストの安い他社の店舗の通常価格よりは高い」といった場合が重要事実として告知義務が生ずるのか、といった内容となり、妥当とは思われない。
一般的な商品・サービスについて、一般的に消費者にとって重要な情報となりうるものは、食品表示法、家庭用品品質表示法や、旅行業法等の業法上法令により定められており、消費者はその中で自らにとって重要と考えるものをチョイスして収集することができる。それらの情報に誤りがあったときのサンクションもそれぞれの法令により定められており、実務の運用も積み重ねられている。従って、それ以上に情報が必要な場合は、極めて限定的であり、一般的な取引では現場担当者にそれ以上の情報を求めても正確な回答をしようもない。したがって、現状を超えて取引一般について情報提供義務を定めることは、一般の事業者に対し、重畳的に負荷の高い義務を課すことになる。
先行行為なしに不利益事実の不告知についてサンクションを課すという考え方についても、たとえば来週セールが行われ、当該商品が値引きされることになっているという情報は、消費者にとって重要かもしれないが、事業者としては、競争事業者との関係においてセール情報は企業秘密であり、一般的には事前に開示することができないものである。これについて情報を提供しないことにつき、取消しまたは損害賠償の対象とするということが、国際的にみても妥当なのか、という観点から判断がされるべきである。
5.不当勧誘行為に関するその他の類型
執拗な電話勧誘については、特定商取引法における検討に委ねるという方向性に賛成する。なお、貸金業等詳細が定められている法令もあり、規制にあたっては明確な基準を設けるべきである。
威迫についての説明にはそれほど違和感がないが、従来の意味での「勧誘」の場合に限られるものと考える。
不招請勧誘についても、特商法に関する検討に委ねるという方向性に賛成する。ただし、アンケートなどに基づき「、呼ばれない時に事業者が来るのは迷惑か」と聞かれて肯定する率が高いということは、たとえば、 A商品を届けに来た時にB商品を注文できたら便利ではないかということに同意することと必ずしも矛盾しないことに留意しつつ、特に各行政地区と事業者間で高齢者見守り協定の締結が進んでいる現状において、事業者に全くメリットのない高齢者見守り活動はありえず、あるべき状態について、十分に検討したうえで立法をすべきである。
合理的判断を行うことができない事情一般に対しては、民法で意思表示の欠缺として規定されている。たとえば成人したばかりの者について、知識・経験が不足しているから特別な保護を与えるべきか、ということについては、基本的には対事業者の場合と、個人同士の場合で区別する理由がないように思われる。今年、選挙年齢が引き下げられたが、選挙を行うのに必要な判断ができるものが、日常の取引を行う判断を行うことができないというのは合理性を欠く。
同じことは高齢者であっても同様であり、高齢者だからといって一律に合理的判断を行うことができないというのが全く不当であるのは論を俟たない。法的に合理的判断が十分でない場合については、後見制度がある。
監禁・威迫のような事例について、手当が行われていることを前提にすれば、民法を超えてこのような類型を新たに設ける必要性については、慎重に検討すべきである。
最近増加が懸念されている認知症については、一定の保護が検討されるべきであるものの、症状により常に合理的判断ができないものでもなく、日常的取引が普通に行えるようにすることが、患者のより幸福な生活につながるという考え方もある。上記のとおり、この問題は、事業者と消費者の契約に限ったことではないので、消費者契約法に限らず、あるべき立法の在り方を広く検討すべきであると考える。
会議の議論では、「事情を利用して」という定義にすれば問題ないのではないか、といった議論もあった模様であるが、たとえば認知症であることを知っていた場合に、どのような事情があれば「利用した」のであり、どのような事情があれば「利用した」のではないということになるのかは判断しがたい。しかしながら、仮に消費財の販売店が消費者が認知症であると知っていたとしても、これをサポートしてお買い物を助けようというのが正当な事業者の考え方である。だからといってこれを「事情を利用した」として取消し対象とすれば、今後の高齢化社会は成り立たなくなるであろう。
6.第三者による不当勧誘(法第5条第1項)
第13回13頁では、消費者の事業者に対する意思表示について、第三者が不当勧誘行為を行った場合において、消費者が当該第三者の行為による誤認又は困惑に基づいて意思表示をしたことを、事業者が知っていたとき又は知ることができたときには、当該消費者がその意思表示を取り消すことができる趣旨の規定を設けるという考え方のほか、第5条第1項の「消費者契約の締結について媒介をすることの委託」に代えて、
「消費者契約の締結について勧誘をすることの委託」という趣旨の文言とするとの案が示されている。
しかし、ここで改正の理由として示されている劇場型勧誘に関しては、悪徳事業者または反社会的取引方法を意図的に実施している者の行為であり、法を改正することによりこのような行為を抑制できるのか、大いに疑問であり、仮に同じ行為が減少したとしても、新たな方法で法適用を逃れようとすることは想像に難くない。他方で、案のように改正をすれば、著しく多くの行為に適用されることとなり、過度な規制と考えられる。改正の理由の解決として相当でない以上、この改正案を検討する意味はそもそもないのではないか。まずは前段の委託を受けていない場合については、そもそも劇場型のように消費者が証明できない場合だ けでなく、実態的に委託を受けていない場合が全て該当することとなる。仮に事業者が知っていたときに限定するとしても、そもそも例えばその消費者の友人または家族が購入時に傍らで間違った情報を言っていたとしても、事業者にとって「お客様」の話を否定することは難しいことであるし、その責を事業者が負うのがxxとは思われない。また、事業者とはいっても多くの現場の担当者で構成されているのであり、前の例で話を聞いている担当者がそれが間違っていることを全く知らない場合や、それを聞いた担当者と最後に会計をした担当者が異なるということもあるであろう。このように、第三者が勧誘行為をしたことを知っていたとしても、事業者としてこれに対応することは通常極めて困難なことであるから、更に知ることができた
という場合にこの責を事業者に負わせるというのは極めて不当である。
更に、勧誘をすることの委託への改正案についてであるが、13回17頁にいうとおり、問題ある事例の多くの場合は「媒介」の解釈で解決できる内容と考えられる。「勧誘」だけを委託する契約というのは一般的には考えにくく、このような改正が適切とは思われない。
7.取消権の行使期間(法第7条第1項)
問題となっている事例で現行の取消権の行使期間を超えているものがあるということは、問題となっていない事例での取引の安定をどの期間で決すべきかということとのバランスにおいて決定されるべきであり、前者をもって即座に行使期間を延長すべきという議論にはならない。14回14頁記載のとおり、消費者契約法は、民法の定める場合よりも取消しを広く認めようとするものであるので、私人間における一般法よりも短く設定しているという性格がある。消費者契約法の改正で適用範囲を拡張するのであれば、この点はより重要なポイントとして検討されるべきである。
8.法定追認の特則
一般的に例外を認めることは、消費者が一般に自由な意思表示をすることができないということに帰し、行き過ぎである。
9.不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果
提案は、消費者契約法の取消しの対象を悪質事業者の反社会的取引に限定する限りにおいては正当と思われるが、全般的に拡張を検討する今回の改訂を前提として場合、容認されるべきものではない。契約が取り消された場合は、相互に原状を回復するというのが原則である。たしかに「給付の押付け」や「やり得」のような事例もあるかもしれないが、現在議論されているような取消しの対象拡大が実現した場合は、対価関係も妥当であり、全般的には正当な多くの取引が取消し対象となる可能性があり、このような場合には、返還義務を現存利益に制限すれば消費者側に「やり得」が生ずることになりかねず、反対である。
第4 契約条項
1.事業者の損害賠償責任を免除する条項(法第8条第1項)
第14回専門調査会では次の2案について議論されている。
【A案】 消費者の生命に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項を無効とする。
【B案】原則として無効としたうえで、生命又は身体に対する侵害の程度、免除される事業者の損害賠償責任の範囲及び消費者契約を締結する目的に照らして合理的と認められる場合には、例外的に有効とする。
【C案】現行法の規定を維持した上で、法第10 条の解釈・適用に委ねる。 事業者の損害賠償責任を免除する条項については、既に8条で規定されており、
① 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
② 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
③ 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じ
た損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項
④ 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項
は、無効である。
消費者の生命・身体に関する責任の免除についての規定の無効は、上記8条の規定を踏まえると、事業者の故意・重過失による債務不履行・不法行為の場合の一部免除や事業者の軽過失による債務不履行・不法行為による全部免除はそもそも認められていない。事業者の行為に関しては、軽過失により、生命・身体傷害が生じた場合の一部免除が認められるかという問題が残ることになるが、約款の規定によっては、第三者の行為や、故意過失が認められない場合について、注意的に記載している場合もあると考えられる。そのような規定は必ずしも否定されるべきではない。
また、生命・身体侵害の場合であっても、一般不法行為において過失相殺は認められるのであり、その意味での一部免除は認められるべきである。
2.損害賠償額の予定・違約金条項(法第9条第1号)
現行法のままで改正の必要はないと考える。
3.消費者の利益を一方的に害する条項(法第 10 条)
同上
4.不当条項の類型の追加
「具体的な不当条項を無効とする規定を追加すべき・・・例えば
① 法律に基づく消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項
② 事業者に法律に基づかない解除権・解約権を付与し又は事業者の法律に基づく解除権・解約権の要件を緩和する条項
③ 消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項
④ 契約文言の解釈権限や契約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性又はその内容についての決定権限を事業者のみに付与する条項」
中間とりまとめは、第8条、第9条の規定以外に第10条に属する内容を更に具体化して無効とする規定を追加すべきという「考え方」を示しているが、実際の社会的要請があるという分析は明らかでない。ひとつの考え方として、諸外国、特にEUに合わせるという発想はあると思われるため、第11回専門調査会の資料「個別論点の検討(5)」12頁に掲げられる例を見てみると、
まず、1993年EC指令については、不xxとみなすことのできる条項の例示的かつ非網羅的なリスト
(an indicative and non-exhaustive list of the terms which may be regarded as unfair )が示されているが、飽くまでも may be regarded であり、他の条項の規定による原則に基づき不xxか否かが個別に判断される
ものと理解される。すなわち、個別に判断されることなく一律に無効とされるいわゆるブラックリストは提示されていない。
他方、ドイツ民法およびフランス民法でブラックリストが提示されていると見られるので、以下それを前提に個別の条項案を検討する。
(1)消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項
中間とりまとめ37頁では、「法律上の解除権・解約権をあらかじめ放棄させる条項は、類型的にxxxに反して消費者の利益を一方的に害するものと考えられることから、これを例外なく無効とするという考え方が示され、これについて特段の異論は見られなかった」というが、ここでいう「法律上の」というのが、強行法規のことを指しているのか、任意法規のことを指しているのかは明らかでない。強行法規の場合、このことは指摘のとおりと思われ、例えばクーリングオフのような事例はこれに該当すると考える。他方、任意法規とは合意により変更できるものであり、これを一律に「類型的にxxxに反」するというのは広すぎる。
任意法規で認められる解除権の制限が全て「類型的にxxxに反する」というのであれば、これは第10条の前段条件と後段のxxx違反を充たすことになり、「xxx違反だが、消費者の利益を一方的に害するものではない」というものを想定しない限り、全て10条に該当することになるが、他方、38頁では「消費者の解除権・解約権を制限する条項を一律に無効にすべきでない・・・点について異論はなかった」とあるので、上記の「法律上の解除権・解約権」とは強行法規の場合を指しているのかとも思われるところである。このように、消費者の解除権・解約権の放棄・制限については、抽象論としてはつかみどころがなく、具
体的事例に即して、議論をすべきと思われる。
たとえば、ドイツ民法のブラックリストでは、「約款使用者の責に帰すべき事由があり、売買の目的物または仕事の瑕疵以外の義務違反があった場合において、他方の契約当事者の契約を解消する権利を排除し、または制限する条項。(運送約款等を除外)」としており、解除権が放棄・制限されることを禁止される場合を事業者に売買の目的物以外の義務違反があった場合に限定している。フランス民法の規定も同趣旨と解される。
また、期限の定めのない契約において、消費者に対して解約を事業者に対するよりも長い予告期間に服させることが挙げられている。
11回資料10頁ではこれらドイツ・フランスの規定が「法律上の解除権・解約権をあらかじめ放棄させる条項の無効」というような記述があるが、上述のとおり、あくまで事業者に帰責事由がある場合に限られており、これを同じ意味であるとするのは誤解を招く表現であると考える。
これらの規定は、事業者に帰責事由がある場合の消費者の解除権や、事業者より長い解約予告期間により
「消費者の利益に一方的に害する」と評価しているものと見られ、このような内容であれば、無効という評価も理解できるところである。しかし、第11回資料9頁記載の事例それぞれについて、事業者に帰責事由がある場合の解除権の制限との分析はされておらず、事業者の視点からみると、おそらく、そうではない事例と思われるため、このような場合全てを広く不当条項(ブラックリスト)として規定することは妥当ではない。
(2)事業者に法律に基づかない解除権・解約権を付与し又は事業者の法律に基づく解除権・解約権の要件
を緩和する条項
ここでも「法律に基づかない」「法律に基づく」という用語が使用されているが、強行法規に反しない限り合意による解除権・解約権は、契約自由の原則により民法に基づき認められるものでありこのような表現は共通の理解がしにくいものと思われる。
また、たとえば2-2-2について、xx被後見人となったときは、賃貸契約を継続するとしても、別段の契約手続を取る必要があるのであって、一旦契約を解除しようとすることに合理的な理由がある。また、賃貸人の側からは意思表示のやりとりが通常の運用ではできなくなるので、ケースによって、将来に向け契約を解除したいと考える場合も考えられ、事例として条項を無効とした判例があるとしても、少なくとも一律に不当な条項とはいえない。特に2-5-5の反社会的勢力については、解除権が明示されていないとしても、事業者には各行政の指針または条例により取引が禁止されているものであって、これを「法律に基づかない」解除として認めないというのであれば、違法行為の助長を求める内容となる。
特に継続的債務関係に関しては、例えば11回資料20頁記載のドイツ民法でも、「実質的に正当でなく、かつ、契約上の根拠がないにもかかわらず、約款使用者が自己の給付義務から解放される権利を認める旨の合意」を「評価の余地を伴う禁止条項」としながらも、「継続的債務関係については、この限りではない」としている。このように事業者がプラットフォームを構築にこれに消費者が参加するような継続的債務関係については、プラットフォームの前提となっているルールから消費者が外れた場合について、事前の取り決めに従いプラットフォームから排除することは原則として許されてしかるべきであると考える。
(3)消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項
本項を一律に無効はブラックリストとする諸外国の例は挙げられておらず、10条にもとづく個別の判断によれば足りると考える。
(4)契約文言の解釈権限や契約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性又はその内容についての決定権限を事業者のみに付与するする条項
諸外国の規定例では、契約の目的物が契約に適合しているか否かを判定する権利を事業者側に与える条項、および契約の文言を解釈する権利を排他的に事業者側に与える条項を不当としている。しかし、これらは契 約の目的物の適合性判断以外の個別の条項において、事業者が規定したルールにもとづき事業が進められる こと、すなわち事業者の判断が一部に適用されることを否定したものとは思われない。たとえば、事例2-
4-1において、これが消費者契約法第8条第1項第1号、第2号に該当するような形で運用されるのであれば、不当となるであろうが、会社に過失があると認めた場合は補償をすると言っているのであり、その判断が間違っている場合には裁判で争うことになるのは、このような条項の有無にかかわらない。日本においては、米国でよくあるようにxxページに及ぶ契約書を作成する習慣はなく、予めすべての事態に対応して規則を明示することは少ない。このような習慣のなかで、事例2-4-4のように「その都度理事長が定めます」というような規定ぶりはありうることであり、それが一般に不当であるとは言えず、消費者に一方的に不利な条項を定めたものとも言えない。
(5)サルベージ条項(12回)
諸外国の例につき、「ドイツ民法における約款規制の一般条項によって無効とされている(12回20頁)
とあるが、その旨の明示の規定があるわけではなく、あくまで解釈論の範囲の内容である。
強行規定であっても、その適用範囲が必ずしも明確でない場合もあるし、法改正が行われる場合もあり、事業者が約款を定める時点において、強行規定違反でないと判断しても、事後的にその判断が間違っていた場合に備え、サルベージ条項を設けることは合理的であり、不当と判断されるべきではない。
(6)消費貸借における目的物交付前の解除に伴う損害賠償(12回)
(7)消費貸借における期限前の弁済に伴う損害賠償(12回)
消費貸借の目的物交付前の解除、期限前の弁済に伴う損害賠償について、消費者契約と他の契約について差を設ける理由に乏しく、民法の解釈で足りると考える(貸金業の問題であれば、貸金業法で対応すべき)。
第5 その他の論点
1.条項使用者不利の原則
趣旨は理解できるが、常に条項は使用者に不利に解釈すべきというふうに読まれることには反対する。合理的な意思の解釈で足りるのではないか。
2.抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除
本項目についても、消費者契約と他の契約について差を設ける理由に乏しく、民法の解釈で足りると考える(割賦販売の問題であれば、割賦販売法で対応すべき)。
3.継続的契約の任意解除権
民法の規定により、委任または準委任については、いつでもその解除をすることができるとされるが(6
51条、656条)、やむを得ない場合を除き、相手方に不利な時期に解除をしたときは、相手方の損害を賠償するものとされる(同上)。また12回51頁にはこの2条だけが引用されているが、継続的役務提供契約と言っても請負や賃貸借、寄託、継続的供給契約等との混合契約など特に現代では多くの形態があり、一律に委任・準委任の条項によって判断すべきものではない。一般的には、相手方の損害を賠償すれば将来に向けて解消できるが、その損害額については、妥当な範囲内で予定額を定めることを許すのが相当であり、事業者が一定の前提の下でプラットフォームを提供する形のビジネスモデルにおいては、特に消費者側にいつでも離脱が認められている場合には、事業者側にも同等の権利が認められるのがxxと考える。
以上
(i) 当協会の 1 店舗 1 日当たり平均客数(レジ通過数)2000~3000(推定)に当協会の店舗数 9390(26 年度末)をかけると
2000 万以上、日本フランチャイズチェーン協会発表の数値から算定した約 4400 万を足しただけで 6400 万件となる。