Contract
最近の判例から x
「不動産変換ローン方式」の一環として締結された建物の貸借に係る契約について、借地借家法の適用が肯定された事例
(東京地判 平18・3・24 金商1239-12)
いわゆる「不動産変換ローン方式」の一環として締結された百貨店の店舗用建物の貸借に係る契約が賃貸借契約であるとして賃料の減額を求めた事案において、当該契約について借地借家法32条1項の適用が肯定された事例(東京地裁 平成18年3月24日判決 一部認容 控訴 金融・商事判例1239号12頁)
1 事案の概要
Xは百貨店業を営む株式会社であり、Yは国鉄清算事業団の全額出資によって設立された不動産の所有、賃貸、管理および運用を業とする株式会社である。平成3年7月、国鉄清算事業団では都内A駅xx貨物場跡地である土地(以下「本件土地」という。)の処分方法として、不動産変換ローン方式によることを決定し、本件土地上に建築する建物(以下「本件建物」という。また本件土地と建物を併せて「本件不動産」という。)は百貨店として賃貸することを計画した。不動産変換ローン方式とは、国鉄清算事業団が不動産の共有持分権に変換できる売買予約完結権を付与することで、複数の投資家から資金を借り入れた上、建物建築・賃貸によって収益を確保し、その賃貸収入をもって借入金の利払いに充てながら、一定の期間が満了したときに不動産の共有持分権を投資家に譲渡し、これによって借入金元本の返済を終えるとするものであった。
平成3年11月、Xが百貨店の賃借人候補と
して内定した。その後Yは当該不動産変換ローン事業の投資家との間で本件不動産の売買予約契約を締結し、金銭消費貸借契約により事業資金を調達した。平成8年9月、Xは本件建物についてYと以下のような内容の建物賃貸借契約(以下「本件契約書」という。)を締結した。
賃貸人をY、賃借人をXとして①期間 平成8年10月3日から20年間、②賃料 1裃あたり1ヶ月7,000円、駐車場部分を含めて合計10億6,072万円(年間127億2,864万円)③賃料改定 賃貸借期間開始後3年ごとに改定し、第1回目の改定は平成11年10月3日とする。賃料の改定は毎回12パーセントを目標とし、そのつど双方協議して定める。④保証金 421億2,000万円 ⑤敷金 226億8,000万円と、平成11年9月、同年10月3日以降の賃料は現行賃料をもって据え置くことで合意した。
平成14年9月、XはYに対し同年10月3日以降の賃料は年額20億円値下げして107億 2,864万円とする旨の意思表示を行い、本件契約は典型契約としての建物賃貸借契約であるから借地借家法32条1項(借賃増減請求権)が適用されると主張した。一方Yは、平成15年8月以降の賃料につき12パーセント増額して1ヶ月約11億8,800万円とする旨の意思表示を行い、本件契約の賃料増額特約に基づく賃料の増額を請求した。
2 判決の要旨
裁判所は以下のように判示し、本件契約における借地借家法32条1項の適用を肯定し、適正賃料を示した。
盧 本件契約書は「建物賃貸借契約書」と題する契約書である上、その内容はXがYから本件建物を賃借し、賃料を支払うほか、賃貸借期間、転貸借、保証金、敷金などの規定が置かれている。このことから、本件契約は賃借人が目的物を使用収益し、賃貸人に対してその対価を支払うという建物賃貸借契約としての性質を有することは明らかである。この点についてYは不動産変換ローン事業の種々の事情を主張するが、それらをもって本件契約が賃貸借契約としての性質を有しないものとはいえず、借地借家法32条1項の適用を排除しなければならない事情があるとはいえない。
盪 Yは本件契約の賃料増額特約を根拠とし、Xは3年ごとに12パーセントずつ増額された賃料を支払う法的義務を負う旨主張するが、本件契約の条文をもって自動的に賃料が12パーセント増額されるという趣旨は読み取れない。本件契約が不動産変換ローン事業の一環であり、賃料が増額することによって収支が均衡することをYが見込んでいたとしても、それをもってXとYの間で賃料増額特約が合意されたと認めることはできない。
蘯 したがって、借地借家法32条1項の規定は、本件契約について適用されるものであるから、これを前提として適正賃料を検討する。
当裁判所が選任した不動産鑑定士の鑑定結果によれば、「通常の賃貸借の場合における適正月額賃料」として1ヶ月10 億 1,673万円、「本件特有の事情を考慮した場
合の適正月額賃料」として1ヶ月10 億 8,728万円の2つが出ており、後者は実質賃料から保証金の運用益を控除していないものである。保証金の運用益の控除の当否について検討すると、不動産鑑定評価基準によれば「一時金が授受される場合の支払賃料は、実質賃料から、賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額ならびに預り金的性格を有する一時金の運用益を控除して求めるものとする」とされている。当該保証金は無利息の一時的な預託金であり、XY双方とも保証金の運用益について敷金の運用益と同様に実質賃料に含まれることを前提に交渉していたことが認められる。したがって本件契約における保証金の運用益は、実質賃料に含まれるものと解するのが相当である。
盻 以上によれば、Xの請求する賃料減額については、上記の「通常の賃貸借の場合における適正月額賃料」に当裁判所が修正を加えたところの1ヶ月10億1,880万円を限度として理由があり、Yの請求はいずれも理由がなくこれを棄却することとする。
3 まとめ
本事例の「不動産変換ローン方式」とは、地価上昇局面において地価を顕在化させない土地の処分方法として考えられたものであり、社団法人不動産証券化協会「不動産証券化ハンドブック2004」によるとわが国の実績は国鉄清算事業団のみで5件・総額7,359億円である。本件はやや特殊な事案であるが、様々な形態の賃貸借契約が存在する中で、本判決が示した借地借家法32条1項の適否、保証金運用益の取扱い、適正賃料の算定についての考え方は他の事案の参考になるものと思われる。