Contract
「賃貸住宅標準契約書(改訂版(案))」 解説コメント
承諾書(例)
原状回復工事施工目安単価
(例)
賃貸住宅標準契約書の本体は、「頭書部分」、「本条」、「別表」、「記名押印欄」から構成されている。
契約書本体
第1条(契約の締結)
第2条(契約期間及び更新)第3条(使用目的)
第4条(賃料) 第5条(共益費)第6条(敷金)
第7条(反社会的勢力の排除)
第8条(禁止または制限される行為)第9条(契約期間中の修繕)
第10条(契約の解除)第11条(乙からの解約)第12条(契約の消滅)第13条(明渡し)
第15条(立ち入り)
第16条(連帯保証人)第17条(協議)
第14条(明渡し時の原状回復)
第18条(特約条項)
頭書部分(3)
別表第5
頭書部分(3)
作成にあたっての注意点
(頭書関係、条文関係)
頭書部分(2)
頭書部分(1)
頭書部分 (4)・(5)
特約事項
別表第4
本条
あらかじめ定めている事項
記名 押印欄
別表第1~第3
図 賃貸住宅標準契約書の構成
【頭書部分】
標準契約書においては、賃貸借の目的物の概要、契約期間及び賃料等の約定事項並びに貸主、借主、管理業者及び同居人の氏名等を一覧できるように、頭書部分を設けている。これは、約定事項を当事者が一括して書き込むことにより、当事者の意思を明確にさせ、記載漏れを防ぐこととあわせて、契約の主要な内容の一覧を図れるようにする趣旨である。
頭書部分への具体的な記載方法等については、《作成にあたっての注意点》頭書関係を 参照されたい。
【本条】
1 契約の締結(第 1 条)
本条項は、賃貸借契約の締結を宣言したものである。
2 契約期間及び更新(第 2 条)
【第 1 項】契約期間を頭書(2)に定める始期から終期までの期間とすることとしており、原則として両当事者は、この期間中は相手方に対して本契約に基づく債権を有し、債務を負うこととなる。
【第 2 項】賃貸借契約は契約期間の満了により必ず終了するものではなく、当事者間の合意により契約が更新(合意更新) できることを確認的に記述している。
3 使用目的(第 3 条)
本契約書は「民間賃貸住宅(社宅を除く。)」の賃貸借に係る契約書であることから、使用目的を「( 自己の) 居住」のみに限っている。
ただし、特約をすれば、居住しつつ、併せて居住以外の目的に使用することも可能である。
→【18 特約条項( 第 18 条)】参照
→《作成にあたっての注意点》条文関係【第 18 条(特約条項)関係】参照
4 賃料(第 4 条)
【第 1 項】借主は、頭書(3)に記載するとおりに賃料を支払うこととしている。
【第 2 項】日割計算により実際の契約期間に応じた賃料を支払う方法を記述している。なお、日割計算の際の分母については、「各月の実際の日数とすること」と「一律に一定の日数とすること」の二つの方法が考えられるが、計算がある程度簡便であることから、「一律に一定の日数とすること(1 か月 30 日)」としている。
【第 3 項】賃料は、契約期間中であっても第 3 項各号の条件のいずれかに該当する場合に、当事者間で協議の上、改定できることとしている。
5 共益費(第 5 条)
【第 1 項】共益費は賃貸住宅の共用部分(階段、廊下等)の維持管理に必要な実費に相当する費用(光熱費、上下水道使用料、清掃費等)として借主が貸主に支払うものである。なお、戸建て賃貸住宅については、通常は、共益費は発生しない。
【第 2 項】借主は、頭書(3)に記載するとおりに共益費を支払うこととしている。
【第 3 項】→「4 賃料( 第 4 条) 第 2 項」参照
【第 4 項】共用部分の維持管理に必要な費用に変動が生じた場合(例えば電気料金等が改定された場合)、当事者間の協議により改定できることとしている。
6 敷金(第 6 条)
【第 1 項】住宅の賃貸借契約から生じる借主の債務の担保として、借主は敷金を貸主に預け入れることとしている。
【第 2 項】敷金は、借主の債務の担保であることから、借主からは賃料、共益費その他の支払い債務と敷金返還債権の相殺を主張できないこととしている。
【第 3 項】本物件の明渡しがあったときは、貸主は敷金の全額を無利息で借主に返還しなければならないが、借主に債務の不履行(賃料の滞納、原状回復に要する費用の未払い等)がある場合は、貸主は債務不履行額を差し引くことができることとしている。
【第 4 項】前項ただし書きの場合(借主の債務を敷金から充当する場合)、貸主は差引額の内訳を借主に明示しなければならないこととしている。
7 反社会的勢力の排除(第 7 条)
暴力団等の反社会的勢力を排除するために、自ら又は自らの役員が反社会的勢力でないこと(第一号、第二号)、反社会的勢力に協力していないこと( 第三号) をそれぞれ相手方に対して確約させることとしている。さらに、自ら又は第三者を利用して、相手方に対して暴力を用いる等の行為をしないことを確約させることとしている(第四号)。
8 禁止または制限される行為(第 8 条)
【第 1 項】賃借権の譲渡、転貸は、貸主の書面による承諾を条件とすることとしている。
→《承諾書(例)》(1)賃借権譲渡承諾書(例) (2)転貸承諾書(例)参照
【第 2 項】本物件の増改築等の実施は、貸主の書面による承諾を条件とすることとしている。
→《承諾書(例)》(3)増改築等承諾書(例)参照
【第 3 項】禁止の行為を別表第 1 に記載している。なお、別表第 1 にあらかじめ記載している行為については、当事者の合意により、変更、追加又は削除できることとしている( ただし、第六号から第八号は除く)。
→《作成にあたっての注意点》条文関係【第 8 条(禁止又は制限される行為)関係】参照
【第 4 項】貸主の書面による承諾があれば可能な行為を別表第 2 に記載している。なお、別表第 2 にあらかじめ記載している行為については、当事者の合意により、変更、追加又は削除できることとしている。
→《作成にあたっての注意点》条文関係【第 8 条(禁止又は制限される行為)関係】参照
→《承諾書(例)》(4) 賃貸住宅標準契約書別表第 2 に掲げる行為の実施承諾書(例)参照
【第 5 項】貸主への通知を要件に認められる行為を別表第 3 に記載している。なお、別表第 3にあらかじめ記載している行為については、当事者の合意により、変更、追加又は削除できることとしている。
→《作成にあたっての注意点》条文関係【第 8 条(禁止又は制限される行為)関係】参照
※条文の変更について※
・ 甲が第 5 項に規定する通知の受領を管理業者に委託しているときは、第 5 項の「甲に通知しなければならない。」を「甲又は管理業者に通知しなければならない。」又は「管理業者に通知しなければならない。」に変更することとなる。
・ xxxの賃貸住宅に係る契約においては、別表第 2 第一号と第二号は、一般的に削除することとなる。
・ 同居人に親族以外が加わる場合を承諾事項とするときには、別表第 3 第一号を「頭書(5)に記載する同居人に乙の親族の者を追加( 出生を除く。)すること。」に変更し、別表第 2 に「頭書(5)に記載する同居人に乙の親族以外の者を追加すること。」を追加することとなる。
9 契約期間中の修繕(第 9 条)
【第 1 項】民法上は賃貸借の目的物に係る修繕は貸主が行うこととされている(民法第 606 条) ため、修繕の原因が借主の故意又は過失にある場合を除き、修繕は原則として貸主が実施主体となり費用を負担することとしている。
【第 2 項】修繕の実施に当たり貸主及び貸主の依頼による業者が専用部分に立ち入る必要がある場合は、貸主からの通知を要するとともに、民法第 606 条第 2 項により借主は貸主の修繕の実施を拒めないこととされているため、借主は正当な理由なく貸主の修繕の実施を拒否することはできないこととしている。
【第 3 項】修繕の中には、安価な費用で実施でき、建物の損傷を招くなどの不利益を貸主にもたらすものではなく、借主にとっても貸主の修繕の実施を待っていてはかえって不都合が生じるようなものもあると想定されることから、別表第 4 に掲げる費用が軽微な修繕
については、借主が自らの負担で行うことができることとしている。
なお、別表第 4 にあらかじめ記載している修繕については、当事者間での合意により、変更、追加又は削除できることとしている。
→《作成にあたっての注意点》条文関係【第 9 条(契約期間中の修繕)関係】参照
10 契約の解除( 第 10 条)
【第 1 項】借主の「~ しなければならない」という作為義務違反を規定しており、民法第 541条の趣旨を踏まえ「催告」を要件とし、催告にも係わらず借主が義務を履行しないときに解除することができるとしている。
【第 2 項】借主の「~してはならない」という不作為義務違反を規定しており、第 1 項と同様「催告」を要件とし、催告にも係わらず借主が義務を履行せず、本契約を継続することが困難であると認められるときに解除することができるとしている。
【第 3 項】第 7 条各号の確約に反する事実が判明した場合、及び契約締結後に自ら又は役員が反社会的勢力に該当した場合、催告なしで契約を解除することができるとしている。
→【7 反社会的勢力の排除( 第 7 条)】参照
【第 4 項】第 8 条第 3 項に規定する禁止行為のうち、別表第 1 第六号から第八号に掲げる行為を行った場合、催告なしで契約を解除することができるとしている。
→【8 禁止または制限される行為( 第 8 条)】参照
11 乙からの解約(第 11 条)
【第 1 項】借主が賃貸借契約を終了させるための期間(解約申し入れ期間) が 30 日以上の場合について規定している。
なお、解約申し入れ期間を 30 日としたのは、第 4 条及び第 5 条の家賃及び共益費の日割計算の分母を 30 日としていることにあわせるためである。
→【4 賃料( 第 4 条) 第 2 項】参照
【第 2 項】解約申し入れ期間が 30 日に満たない場合について規定しており、30 日分の賃料及び賃料相当額を支払えば、随時に解約できることとしている。
【例】9 月 30 日に契約を解除したい場合
【例】9月30日に契約を解約したい場合
【第1項】30日前までに解約を申し入れ 9月30日
契約解約日
解約申し入れ 9月30日までに明渡し 8月31日
(30日前)
賃料支払期間
※9 月 30 日に退去を予定している場合は、解約申し入れを 8 月 31 日以前に行うこととしている。なお、賃料については、9 月分を前月末までに支払っている場合は、既に支払い済みの賃料でまかなわれることとなる。
10月10日
8月31日
(30日前)
賃料支払期間
30日分の賃料
(及び賃料相当額)
解約申し入れの日から30日
【第2項】9月10日に解約を申し入れ
解約申し入れ
9月10日
9月30日契約解約日
※9 月 30 日に退去を予定している場合で、9 月 10 日に解約申し入れを行った場合は、解約申し入れを行った日から 30 日分の賃料、つまり 10 月 10 日までの賃料(及び賃料相当額) が必要となる。なお、賃料については、9 月分を前月末までに支払っている場合は、10 月 1 日から 10 日までの賃料相当額が必要となる。また、共益費については、解約申し入れ日(9 月 10 日) に関係なく、第 5 条第 3 項に従い、使用していた期間の共益費を支払う(9 月 30 日に解約した場合は 9 月分の共益費全額を支払う) こととなる。
12 契約の消滅( 第 12 条)
天災、地変、火災、当事者双方の責めに帰することができない事由によって、賃貸借物件が滅失した場合に、契約が当然に消滅することについて、法律に規定されるまでもない自明のこと( 当然の法理)であることを確認的に記述している。
なお、「滅失」とは、当該住宅が住宅としての機能を失ったことをいう。具体的には、全壊、全焼及び流出のみならず、全壊に至らなくとも通常の修繕や補修では住宅としての機能を回復することができない程度の損壊も含まれると考えられる。
13 明渡し(第 13 条)
【第 1 項】期間満了及び借主からの解約( 第 11 条)のときはあらかじめ定められた契約終了日までに、本物件を明け渡さなければならないこととしている。
契約の解除(第 10 条) のときは直ちに、本物件を明け渡さなければならないこととしている。
【第 2 項】本物件の明渡しを行うにあたり、当事者の便宜の観点から、借主はあらかじめ明渡し日を貸主に通知することとしている。
14 明渡し時の原状回復( 第 14 条)
【第 1 項】借主は、通常の使用に伴い生じた損耗を除き、原則として原状回復を行わなければならないこととしている。
なお、借主の故意・過失、善管注意義務違反等により生じた損耗については、借主に原状回復義務が発生することとなるが、その際の借主が負担すべき費用については、修繕等の費用の全額を借主が当然に負担することにはならず、経年変化・通常損耗が必ず前提となっていることから、建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させることとするのが適当と考えられる(「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)平成 23 年 8 月」12 ページ参照)。
【第 2 項】退去時の原状回復費用に関するトラブルを未然に防止するため、本物件を明け渡す時には、別表第 5 に基づき、契約時に例外的に特約を定めた場合はその特約を含めて、借主が実施する原状回復の内容及び方法について当事者間で協議することとしている。
なお、契約時の特約についても「協議に含める」としているのは、特約には様々な内容や種類が考えられ、特約に該当する部分の特定、特約に記載がない事項についての「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」における考え方への当てはめ、物件の損耗等が通常損耗か否かの判断等において、たとえ、特約があったとしても必要なものであると考えられるためである。
また、明渡し時においては改めて原状回復工事を実施する際の評価や経過年数を考慮し、負担割合を明記した精算明細書(「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン
(再改訂版) 平成 23 年 8 月」別表4 ( 28 ページ参照)) を作成し、双方合意することが望ましい。
→《作成にあたっての注意点》条文関係【第 14 条(明渡し時の原状回復)関係】参照
→《原状回復をめぐるトラブルとガイドライン 別表 3「契約書に添付する原状回復の 条件に関する様式」Ⅰ-3「原状回復工事施工目安単価」》参照
□原状回復にかかるトラブルを未然に防止するためには、契約時に貸主と借主の双方が原状回復に関する条件について合意することが重要であるため、原状回復の条件を別表第 5 として掲げている。
□別表第 5「Ⅰ-3 原状回復工事施工目安単価」への記載については、例えば、「入居者の過失等による修繕が発生することが多い箇所」について、貸主及び借主の両者が、退去時の原状回復費用に関するトラブルを未然に防止するため、目安単価を確認するということが想定される。
□別表第 5「Ⅰ-3 原状回復工事施工目安単価」は、あくまでも目安として、把握可能な
「原状回復工事施工目安単価」について、可能な限り記述することが望まれる。
□例外的に借主の負担とする特約を定めるためには、以下の 3 つが要件となる。
⬩ 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
⬩ 借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
⬩ 借主が特約による義務負担の意思表示をしていること
(「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)平成 23 年 8 月」7 ページを参照されたい。)
□原状回復に関する特約事項が有効と判断されるためには、「賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約( 通常損耗補修特約)が明確に合意されていることが必要である」という考え方が最高裁判所によって示されている( H17.12.16)。
15 立ち入り(第 15 条)
【第 1 項】借主は本物件を契約の範囲内で自由に使用する権利を有しており、貸主は原則として本物件内に立ち入ることはできないが、本物件の防火、本物件の構造の保全その他の本物件の管理上特に必要な場合は、あらかじめ借主の承諾を得て本物件内に立ち入ることができることとしている。
【第 2 項】前項の場合、借主は正当な理由がある場合を除き、立ち入りを拒否できないこととしている。
【第 3 項】本物件の次の入居(予定)者又は本物件を譲り受けようとする者が下見をする場合
は、あらかじめ借主の承諾を得て本物件内に立ち入ることができるとしている。
【第 4 項】火災による延焼の防止等緊急の必要がある場合は、貸主はあらかじめ借主の承諾を得ることなく、本物件内に立ち入ることができるとしている。なお、借主不在時に立ち入った場合には、貸主は立ち入り後にその旨を借主に通知しなければならないこととしている。
16 連帯保証人( 第 16 条)
賃貸借契約上の借主の債務を担保するため、人的保証として連帯保証人を立てることとしている。
また、入居者の家賃債務については、個人保証に替えて、家賃債務を保証する機関を活用することも考えられる。
17 協議( 第 17 条)
貸主借主間の権利義務関係をあらかじめ全て契約書に規定しておくことが望ましいが、現実問題として不可能であり、また、条文解釈で疑義が生じる場合があることを想定し、 その対処方法を定めている。
18 特約条項(第 18 条)
第 17 条までの規定以外に、個別の事情に応じて、当事者が合意の上で特約を定めることができることとしている。
なお、特約条項を定める場合、原状回復に関する特約と同様、賃借人がその内容を明確に理解し、それを契約内容とすることについて明確に合意していることが必要である
(項目ごとに記載の上、甲と乙が押印し、最後に確認的に記名、押印することが望ましい)。
→【14 明渡し時の原状回復( 第 14 条)】参照
→《作成にあたっての注意点》条文関係【第 18 条(特約条項)関係】参照