労務等ビジネス関連法 Q&A レポート
<ハンガリー労務情報>
労務等ビジネス関連法 Q&A レポート
2011 年 3 月
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
目 次
賃金、現物給付および関連する課税制度 1
通勤手当支給に関する規則 6
職場におけるプライバシー 9
学習を希望する労働者に対する使用者の義務と勉強契約 12
契約締結前における契約相手の危険性評価 16
使用者の損害賠償責任 20
労働者の損害賠償責任 23
競争を制限する垂直的協定:会社と販売業者・供給者等による競争歪曲 27
労働者募集、求人広告、求職者との面接などに関する留意点 31
在宅勤務に関する規則、在宅勤務のメリット 35
ハンガリーにおけるパートタイム労働の規則 39
退職後の競業禁止に関する規則 42
外国駐在者に 2011 年から適用される課税および社会保障規則 46
使用者の懲戒権に関する規則 49
労働関係における偽装契約およびその法的問題性 53
本報告書の利用についての注意・免責事項
本報告書は、日本貿易振興機構(ジェトロ)ブダペスト事務所が現地法律事務所xxxx・xxxx&パートナーズ法律事務所に作成委託し、2011年3月現在入手している情報に基づくものであり、その後の法律改正等によって変わる場合があります。また、掲載した情報・コメントは筆者およびジェトロの判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありませんこと予めお断りします。
ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、付随的、あるいは懲罰的損害および利益の喪失については、それが契約、不法行為、無過失責任、あるいはその他の原因に基づき生じたか否かにかかわらず、一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロがかかる損害の可能性を知らされていても同様とします。
本報告書にかかる問い合わせ先:
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)進出企業支援・知的財産部 進出企業支援課
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<ハンガリー労務情報>
労務等ビジネス関連法 Q&A レポート
賃金、現物給付および関連する課税制度(2010 年 7 月 28 日時点作成)
ハンガリー中央統計局(Központi Statisztikai Hivatal, KSH)によると、2010
年第 1 四半期の民間部門・工場労働者クラスの平均賃金は 13 万 5,000 フォリン
ト、事務系労働者クラスの平均賃金は 31 万 1,500 フォリントであった。一方、
政府が毎年政令によって定める最低賃金は現在常勤労働で月額 7 万 3,500 フォリント、中等教育課程や専修過程終了程度の技能が求められる仕事においては、月額 8 万 9,500 フォリントとなっている。
以下で賃金およびそれに課される税金制度に関して解説する。
1. 賃金(munkabér)の構成
ハンガリー労働法によると、労働者は労働契約に基づいて、労働の対価として賃金をもらう。使用者が賃金を支払う義務は労働関係の基本的な構成要素であるため、賃金を払わないと定めた労働契約は無効となる。
賃金は主に労働者の基本給(személyi alapbér)から成り立っているが、基本給の上に、場合によってボーナス、賞与など、さらに労働者に支給される各種諸手当が上積みされる。基本給の額を常に労働契約上で明示しなければならず。その金額は上述の最低賃金を下回ってはならない。賃金は原則として金銭で支払われる。しかし、使用者と労働者の合意に基づいて賃金額の 20%まで使用者は賃金を現物で、すなわち「現物賃金」(természetbeni munkabér)で払うことができる。現物賃金として提供される商品やサービスは、労働者とその家族のニーズを満たさなければならないため、酒やほかの健康に損害を与えるものは現物賃金とみなされない。
今日、現物賃金の導入は一般的であるとは言えないが、当地で生産活動を行
う企業にとっては、労働者の賃金支払い方法の選択肢の一つとして活用できよう。
2. 賃金の支払い
労働契約に別の定めがなければ、使用者が労働者に賃金を、毎月 1 回計算し、遡って支払う。支払日について労働契約の定めがなければ、使用者は当該月の賃金を翌月 10 日までに支払わなければならない。支払日が休日・祝日に当たる場合、賃金をその直前の就業日に支払わなければならない。
賃金は原則として直接労働者本人に支払わなければならないが、現在は労働者の銀行口座への振り込むやりかたが普通である。しかし、ここで留意すべきことは、法律の規定によって、労働者が賃金を入手するのに費用が発生してはならないと、法律に規定されていることである。そのため、賃金を銀行口座から引き出すと手数料がかかる場合、使用者の労働法違反となるので注意が必要である。
賃金を直接労働者本人に支払う場合は、支払日に労働者が出張などの理由で職場にいない問題がしばしば起こる。この場合は、労働者が要求すれば、支払日の前の日に賃金を労働者に渡すか、支払日に労働者が滞在する場所に、使用者の費用で賃金を送らなければならない。
所得税に関してはハンガリーで源泉徴収制度が適用されるので、使用者が毎月労働者の賃金を支払う前に、総賃金から所得税、健康保険料などの分を差し引いて、当該金額を当該月の翌月 12 日までに電子納付する。このように、労働者がもらう賃金は税引き後の額である。使用者は労働者が受領する金額および差し引かれた所得税などを含めた明細書を労働者に発行しなければならない。
賃金の支払いに使用される通貨は、原則としてハンガリー通貨フォリントでなければならないが、使用者と労働者が労働契約で別の通貨の使用に合意している場合、他の通貨で計算され、支払われた賃金は合法である。しかしながら、使用者によって差し引かれる所得税などはフォリントで計算し支払わなければならない。為替基準としてハンガリー中央銀行(Magyar Nemzeti Bank)の当該月の前月 15 日の為替レートを利用しなければならない。
3. 賃金に対する税金負担
労働関係に基づく賃金に対して使用者側にも、労働者側にも課税義務が生じる。
労働者側には、まず、所得税の納税義務が以下のように発生する。所得税の課税標準は総賃金を 27%増額した、いわゆる「スーパー総額」(szuper bruttó)という金額である。当該課税標準に基づいて、所得税の税率は 500 万フォリントまでは 17%、500 万フォリント以上には 32%が適用される。所得税の他に、
*年金保険料(nyugdíjjárulék)、健康保険料(egészségbiztosítási járulék)と失業保険を含む労働力市場基金給付金(munkaerőpiaci járulék)が労働者の総賃金に課される。
一方、使用者側には、労働者の総賃金に対して定められた社会保険料
( társadalombiztosítási járulék )、職業訓練基金拠出金( szakképzési hozzájárulás)のほか、以下のような現物給付があると当該給付にも課される。
*上述年金保険料等のハンガリー語表記は法律上の名称。税務当局が使用している表記・分類と異なるところがある。
4. 現物給付(természetbeni juttatás)
賃金とは別に、使用者が自分の判断で、福利厚生やモチベーションの維持向上の理由から、労働者に現物給付を行うことができる。この現物給付と上述 1.の現物賃金は同一ではない。現物賃金は労働者の賃金の一部であり、賃金に対する上記 3. の一般的なルールに従い課税対象となる。一方、現物給付は賃金に上乗せして与えられるサービスや商品であり、賃金とは異なる課税ルールが適用される。
所得税に関する法律によると、現物給付とは使用者によって労働者に同じ条件で提供される、無料または優遇の商品やサービスのことである。現物給付は次の二つの方法で提供される:(1)あらゆる労働者が、ある範囲内の商品やサービスの中から自由に選択できる制度(いわゆるカフェテリアプランの制度)の導入、そして(2)労働者の社内規則で定めた、業務内容や労働経験、ポジションに基づいて分けられた一定のグループに同じ条件で与えられる現物給付。
現物給付はさまざまな種類があるが、所得税法上、課される税率によって(1)
一般課税現物給付、(2)軽減課税現物給付、および(3)非課税現物給付の三つのグループに区別される。
① 一般課税現物給付
軽減課税現物給付および非課税現物給付のグループに含まれない現物給付 に関しては使用者が次のとおりに納税する。このグループの現物給付に所得税、社会保険料などが課されるが、課税率は合計で 97.89%。
② 軽減課税現物給付
軽減課税の現物給付に関する規則がここ数年でxx的に改正されてきた。
2006 年から 2008 年まで「カフェテリアプラン」(cafeteria-rendszer)が適
用された。この制度においてある範囲内で使用者は年間最高 40 万フォリントまで労働者に特定の給付を非課税で提供でき、決められた商品やサービスから労働者はニーズに従って自由に選択できた。
しかし、2009 年1 月1 日から上記のカフェテリアプラン制度は廃止された。
その後 2010 年 1 月 1 日から再び、一定の範囲で現物給付が可能となったが、支給される現物ごとに年間支給限度額が定められている。現物給付が限度額以内であれば課税率は 25%、限度額を超えた分には上述①の一般課税現物給付のルールが適用される。
軽減課税現物給付の中の最も一般的な現物給付は次のとおりである。
• 国内旅行券(現在(2010 年)最高 7 万 3,500 フォリント)
• 食事券(レストランや食堂で使える、1 カ月最高 1 万 8,000 フォリント、1年最高 21 万 6,000 フォリント)
• 労働者の大学通学などの学校型教育(語学学校は対象外)に対する学費補助(2010 年に最高 18 万 3,750 フォリント)
• 子供教育用品補助(2010 年に最高 2 万 2,050 フォリント)
• 地域内通勤定期券(使用者の名前で発行された領収書の全額が限度)
上述の給付のほかに、使用者が軽減税金で労働者に相互扶助年金保険料、相互扶助健康保険料などを給付することができる。
③ 非課税現物給付
過去において、使用者によって一般的に提供された給付、例えば国内旅行券、食事券、価値の低いギフト、子供教育用品補助、被服費補助などの現物給付は非課税であった。しかし、カフェテリアプラン制度の改正(2009~2010 年)によって、これらの給付の中から、非課税給付として被服費補助しか残されなかった。ほとんどの現物給付は上述②の軽減課税現物給付に移行され、食料券
(食品をスーパーなどで購入する際使える)や価値の低いギフトなどの一部の現物給付は①の一般課税現物給付の対象となった。
現物給付に関するほとんどの規則は、労働法ではなく税法で定められており、使用者自ら給付のルールを社内規則として定めなければならない。社内規則で 受給できる労働者の範囲、給付金額、給付条件などを定めることができる。
税務当局の検査の際は、実施されている現物給付が法律で定められた条件に沿っているか、使用者は立証責任を負う。そのため、提供された現物給付に関して使用者が記録義務、書類保存義務などを負う。
通勤手当支給に関する規則(2010 年 7 月 28 日時点作成)
通勤手当に関する規則が 2010 年 5 月 1 日に政令で改正された。その内容を踏まえ当該規則を以下のとおりまとめた。
1. 通勤の定義
法律上どのようなケースが通勤手当の対象となるのか、厳格に定められており、該当する通勤手当は、支給側の使用者、需給側の労働者ともに非課税となる。もちろん、使用者は法律上通勤とみなされない場合でも労働者に手当を支給できるが、当該費用は普通の賃金とみなされ課税対象となる。
(1)地理的な条件
通勤とは原則として行政境界(ハンガリー語で:közigazgatási határ)を越える通勤をさす。ハンガリーでは行政境界は基本的に市や町の境界のことである。このように、労働者の住所・居所(以下(4)参照)と毎日通う職場が異なる行政区域にあれば、通勤手当の対象となる。例えば、労働者がブダペストの職場に自分の住所・居所があるセンテンドレから通勤する場合は、通勤手当が支給される。
上述の原則に例外がある。職場と住所・居所が同一行政区域にあるにもかかわらず、職場の地理的位置の理由で労働者が地域内交通機関も、地域間交通機関も利用できない場合は法律上の通勤とみなされ、通勤手当の対象となる。
(2)利用される通勤手段
通勤手段として認められるものはブダペスト公共交通(BKV)などの地域内交通機関、および郊外電車などの地域間交通機関である。
(3)通勤の回数
毎日の通勤とは労働者によって住所・居所から職場まで定期的に行われる往復の移動のことである。しかし、労働者が居所に住み、毎日職場へ居所から往
復する場合は、週に 1 回(例えば週末)労働者が居所からの住所まで移動することも通勤としてみなされるので、手当支給の対象となる。
(4)住所と居所
住所とは、ハンガリーまたは EEA(欧州経済領域)参加国の領域内にある、労働者の普段の生活の拠点となる場所のことである。
居所とは、ハンガリーまたは EEA 参加国の領域内にある、自身の住所から引越しをする意図を持たない労働者が、勤務の目的で臨時的に滞在する場所のことである。
労働関係の成立の時、通勤手当支給を申し込む労働者は、住所・居所の詳細、そして通勤を住所から行うのか、居所から行うのか、使用者に明らかにしなければならない。
2. 通勤手当の受給者
通勤手当に関する政令において「労働者」はハンガリー人の労働者または EEA参加国の国籍を持つ労働者と定義されており、日本などの第三国の国籍を持つ労働者に上述の通勤手当規則が適用されるか、明確でない。我々の解釈では、第三国の国籍を持つ労働者に上述の通勤手当規則は適用されず、通勤手当を非課税で支給することも不可能であろう。ハンガリー税務当局は書面上で我々の解釈に賛成したが、この賛成は法的拘束力を持っていないので、裁判手続きや労働監督の際に利用できないし、税務当局は将来異なる意見を示す可能性もある。
3. 通勤手当の金額
毎日の通勤(勤務地と住所・居所間)および週に 1 回の帰宅(居所と住所間)の場合は、使用者は国内または国境を越える鉄道、地域間バス、地域内バス、郊外電車、船、フェリーでの通勤の費用を労働者に支給しなければならない。さらに、週 1 回の帰宅の際は、利用される飛行機の費用も支給しなければならない。
使用者は通勤の費用の最低 86%を、定期券や乗車券の現物を確認の上で労働
者に支給する。帰宅の際も、支給額は最低 86%となるが、2010 年現在、その最高限度額は月 3 万フォリントと制限されている。ここでも、支給の条件として、労働者が当該定期券、または使用済乗車券を使用者に提示する必要がある。
4. 自動車による通勤の費用支給
原則として自動車による通勤は上述通勤手当規則の対象とならないため、手当が支給されると課税される。しかし、例外が三つあり、次の場合は自動車による通勤の費用が支給されても、非課税となる。
① 労働者の住所・居所と職場の間に公共交通が存在しない。
② 労働者は仕事スケジュールのため公共交通機関が利用できない、または交通機関利用の際バス停留所などにおける待ち時間が長い。
③ 体の不自由な労働者がその障害により公共交通機関が利用できず、自分または親類の運転する自動車で通勤する場合。
職場におけるプライバシー(2010 年 8 月 19 日時点作成)
職場は労働の場であるが、労働者が労働時間中に、たとえば、インターネットでニュースを読んだり、プライベートな電話を受けたり、掛けたり、メールの送受信などをすることがある。このような仕事に関係ない行為を使用者は禁止、または制限することができるのだろうか。制限する場合は、その程度はどうなるのか。制限の実施は、労働者の人権を侵害することになるのか。制限はどのような方法で実施できるのか。制限・禁止の労働者の遵守状況をどのように確認できるのだろうか。
職場におけるプライバシーを詳細に規制する法律は存在しない。一般的な規則は労働法典と情報保護法である程度定まっているが、個別案件については「情報保護オンブズマン1」がアドバイスを行うことになっている。しかしながら、当該分野において未解決な事案もあり、将来的には、裁判所の判例によって当該法分野に関する対応が定まるものと考えられる。
1. 職場のインターネット、電子メールおよび電話の管理
(1)インターネット利用
インターネットは労働手段である一方、プライベートな利用は業務を妨げる恐れがあるため、利用の管理は大切である。ハンガリーにおいてはインターネットの職場における利用を規制する法律がない。さらに、使用者がインターネット利用を管理すれば、労働者の個人情報を必要以上に入手してしまう危険性がある。
上述のように、利用を規制する法律がないため、使用者は社内規則などで自
1 情報保護オンブズマンとは、個人情報の保護や公益情報の公開などを目的に、国会によって委任される、中立機関である。活動は、個人情報保護関係の個別事件を監査したり、法律案に関して意見したり、情報保護の観点から法律などの法的解釈を行うことである。まだ法律や裁判所の判例がない法的問題(たとえばインターネット利用の確認など)に関して意見するので、ある程度法的方針を示す役割を果たしている。
個人情報保護が侵害された者は、直接情報保護オンブズマンに相談できる。しかし、裁判手続きが既に開始された場合は、情報保護オンブズマンに相談できない。
らルールを定めなければならない。当該ルールは、もちろん労働契約に含めることができるが、労働契約の内容は使用者と労働者の合意に基づいてしか変更できないため、使用者としては社内規則で定める方が望ましい。この場合、使用者の判断で社内規則の変更が可能となる。
このように、インターネットのプライベートな目的の利用を許可するのか、禁止するのか、使用者は決定する。たとえば、インターネットが利用できる労働者、インターネットの利用時間、読めるコンテンツなどを確定することができる。実際によくある例だが、閲覧可能なサイトの確定や労働時間終了後の自由利用などが社内規則に含まれていることがある。しかし、許可するか、禁止するか、使用者は適宜労働者に通報する義務を負う。
インターネット利用のルールが確定された後、次の問題は当該ルールの遵守の確認である。使用者は確認する権利を持つ。ただし、確認の際、労働者の個人xxx・xxxx等を見ることとなり、その内容はハンガリー情報保護法によると、個人情報とみなされるので、実施は慎重に行う必要がある。さらに、使用者がインターネットの自由利用を許可した場合は、インターネット利用実績を確認する権利を一切持たない。
(2)電子メール送受信
情報保護オンブズマンの意見によると、使用者は業務目的で作られたメールボックスを経由した労働者の電子メール(以下メール)のやり取りをチェックする権利を持つ。さらに、労働者が事前に同意すれば、使用者は労働者の仕事関係のメールを読むこともできる。
使用者は会社のメールのプライベート利用を禁止できる。しかし、禁止遵守の確認の際は、使用者はメール題名から当該メールが個人メールと分かる場合は、その内容を読む権利を持っていない。
使用者が会社のメールをプライベート目的で利用することを許可した際は、労働者の個人メールを読むことができない。しかし、犯罪に関係するなどの非常の場合は、使用者は個人メールを読むことが認められている。
メールが題名から仕事関係のメールであるのか、個人メールであるのか、明らかではない場合は、使用者は読む前に受信者である労働者の同意を得なければならない。同意がない場合は、当該労働者によって指名された他の労働者が
メールを読むことができる。当該労働者が他の労働者を指名しなかった場合は、使用者は当該メールを読むことができる。
(3)電話利用
使用者が社内規則において電話利用のルールを一方的に定めることができる。会社の電話を労働者はどのような条件で利用できるのか、使用者は定めること ができる。また、電話による通話が職場の特定の機械・機器の作動に悪影響を 与える場合は、使用者は労働者の個人所有の電話の利用も制限することができ る。使用者は電話による会話の内容を労働者の同意を得て知ることができる。
電話のプライベート利用を禁止した場合、使用者は禁止の遵守をどう管理できるか、明らかではないが、犯罪などの非常の場合は会話内容を知ることは違法ではないだろう。
2. 監視カメラ
情報保護オンブズマンの意見によると、連続的労働が行われる場所に、労働者の労働態度の監視の目的で監視カメラを設定することは違法である。たとえば事務所などでこのような目的で監視カメラを設置することはできない。
例外としては、労働者の生命や身体が危険にさらされている場所、たとえば工場などがあげられる。現場に労働上の危険が認められる場所は監視カメラの設置は合法とされる。しかし、労働者の休憩場所や更衣室、お手洗いなどへの設置は認められない。
職場で保管されている設備や他の財産の保護の目的で、たとえば車庫や車庫への廊下などに監視カメラの設置が許されているが、当該カメラが作動していることを関係者に伝えなければならない。週末やクリスマスなど、労働が行われないときにも、財産保護の目的で監視カメラを作動させることができる。
学習を希望する労働者に対する使用者の義務と勉強契約
(2010 年 8 月 19 日作成)
労働者には自己啓発や業務達成のためにさまざまな学習の機会があるが、労働者が何らかの勉強をしたい場合は、当該活動が使用者の利益と衝突する場合がある。問題解決のために、ハンガリー労働法は、労働者が教育を受けるにあたり一定の規則を設けている。規則の一つとして「勉強契約」という手段がある。
1. 勉強契約
勉強契約を締結した場合、使用者は労働者に勉強期間中援助することを約束する一方、労働者は教育終了時点から一定期間、使用者の職場に勤務することを約束する。勉強契約によって使用者は専門家の人材確保ができ、労働者は仕事をしながら自己啓発の機会が与えられる。
勉強契約は労働者とだけではなく、現時点で労働契約が締結されていない第三者とも結ぶことが可能である。たとえば、大学生と締結した勉強契約はこの一例である。使用者は労働契約が締結されていない、他の職場で勤める労働者と当該契約を結ぶこともできるが、この場合は、当該労働者が勉強契約を現在の使用者に事前に通告しなければならない。
勉強契約は書面上で締結しなければならないため、口頭で結んだ勉強契約は無効である。無効の契約に基づいて提供された援助の返済は請求できないので、注意が必要である。
裁判所の判例によると勉強契約は研修の目的でも締結できる。ただし、使用者によって命令された研修や教育は、労働者の一方的仕事上の義務であるため、その際勉強契約は締結できない。この場合はもちろん、使用者の命令権によって労働者に義務付けられた教育の費用、たとえば、学費、試験料、教科書の購入費用などは全額使用者負担となる。
(1)勉強契約の内容
勉強契約に基づいて使用者は労働者の勉強活動の援助を約束する。契約には、使用者による援助の形態と程度を定めなければならない。援助は原則として学費、試験料などの教育費の負担、教育に関する他の費用の負担(たとえば通学の費用など)、教育休暇の提供、教育休暇中の給料の支払いなどがある。
労働者は、教育の終了後の一定期間、使用者の職場で勤務する約束をする。援助期間と勤務期間は概ね同じ長さで設定しなければならないが、当該期間は法によって最高 5 年となっている。
上述の義務的勤務期間が 5 年を超えたら、または勤務期間が援助を受けた期間に比例していない場合は、当該契約は一部無効となる。裁判所がどの期間が無効か判断を下す。
勉強契約の当事者は上述の契約事項に加えて、他の条件でも合意することがある。たとえば、学習の終了後、労働者を新しい資格に沿った処遇で雇用するのは一般的である。さらに、当該契約の解約方法などについても併せて合意するのが望ましい。
契約違反とならない場合の定義も契約に含めることが望ましい。たとえば、労働者が健康上の理由で教育を受ける義務を履行できないこと、使用者が経営上の理由で労働者との労働関係を終了する場合があることなどである。
(2)契約違反
契約を締結したにもかかわらず、使用者が援助を行わない場合や契約上の重要な義務違反が見られる場合は、労働者は契約上の義務履行を免除され、使用者の契約違反によって労働者側に生じた損害を請求することができる。契約違反の場合、労働者は学習を中止することができ、契約で定めた学習期間満期前に労働関係を終了できる。また、使用者によって支給された援助の返済義務からも免除される。
労働者が勉強契約に基づいて新しい資格を取得したものの、同意していた資格に見合った処遇がされなかった場合は、使用者の義務違反となり、義務的勤務期間内であっても労働関係は終了でき、援助の返済義務も免除される。さらに、労働者は学習前の古いポジションと学習後約束されていたポジションの間の賃金の差額を請求することもできる。
労働者は勉強契約で定めたレベルの成績に達しない、または義務的勤務期間を契約どおり守らない、さらに、まだ雇用関係にない契約当事者が学習終了以降に労働契約を結ばないなどの重大な契約違反が見られる場合は、使用者が実際に提供した援助金額とそのxxの返済を請求することができる。
労働者が義務的勤務期間の一部分しか終了しなかった場合は、援助金額の未了期間相当分を使用者に返済しなければならない。ただし、労働者が自己責任以外の理由で、たとえば体が不自由になるなどして労働関係を終了しなければならない場合は、勉強契約に基づいて支給された援助(額)は使用者から請求されない。
勉強契約に関する問題は労働紛争であるため、ハンガリー労働裁判所が管轄裁判所となる。なお、学校型教育(以下 2.参考)で発生した問題は、一般裁判所が管轄権を持つ。
2. 学校型教育、非学校型教育と教育休暇
使用者は学校型教育および非学校型教育も援助することができる。学校型教育とは国立、私立、教会立学校における初等教育、中等教育および大学教育のことである。非学校型教育とは、学校型教育に含まれないあらゆる形態の研修やコースなどである。
上述の区別に大切な機能がある。労働者が学校型教育を受ける際は、勉強契約が存在しない場合でも、労働法によって、使用者は勉強に必要な休暇を労働者に提供する義務を負う(教育休暇)。教育休暇の程度は、教育機関によって発行される教育期間や科目、時間割などを詳細に明示した証明書によって定められるため、教育休暇の取得には当該証明書が必要となる。
上述の休暇のほかに、法の定めによって使用者が試験勉強の目的で試験ごとに試験日も入れて 4 日間の教育休暇を、終了論文の作成には労働者に 10 日間の教育休暇を提供する義務を負う。つまり、試験勉強と終了論文作成の休暇を労働者の要求にしたがって使用者は提供しなければならない。
労働法が教育休暇の程度ついてのみ定めているため、教育休暇の報酬に関する定めはなく、たとえば勉強契約を締結しただけで、他の合意がなければ、使用者は労働者に対して教育休暇に対する報酬を支払わなくてもよい。
非学校型教育を受ける労働者に対しては、上述の法による教育休暇は原則として提供されないが、使用者と労働者の合意があれば勉強契約や教育休暇を設けることができる。
契約締結前における契約相手の危険性評価(2010 年 10 月 1 日作成)
請負契約や賃貸借契約などの、会社の通常業務に必要な契約をするにあたり契約相手の情報収集は非常に重要である。契約の締結直後に履行不能となる会社や、破産手続きが開始され裁判にまで至ったという会社もあるからである。たとえ長期にわたって契約関係がある相手でも、経営状態がいつの間にか悪化しているという可能性は十分考えられるので、新しく契約を結び直す際には内容を精査することが望ましい。契約を締結する前に契約相手についてよく調べることは、ビジネスを行う上で最も大事なことである。インターネットで契約相手の情報を検索するだけでもある程度有益な情報が簡単に手に入るので、その手間を惜しむべきではない。
1. デューディリジェンス (Due Diligence)
デューディリジェンスとは、会社売却や合併などの重大な取引を行う際に対象会社ないしは事業等に対する実態を把握し、問題点の有無を把握するために行う調査のことで、法律家、会計士、会計監査人、環境工学者や建築家など、それぞれの専門家にレポートの作成を依頼するものである。デューディリジェンスでは、対象会社の法務、金融、環境等の、さまざまな観点から調査し、デューディリジェンスレポートが作成される。通常の契約では、ここまで詳細な調査の必要性はない。
以下に、契約締結前に行える簡単な危険評価の手段について説明する。
2. 会社情報データベース
ハンガリーでは「公開性の原則」が法律で定められているので、誰でも簡単に会社情報を照会することができる。以下に一般的な情報が見られるデータベースを紹介する。多くの情報はインターネット上で公開されており、簡単にアクセスすることができる。
(1)会社の登記記録
会社に関する基本的な情報は、登記裁判所によって記録されている。ハンガ
リー各県に設置されている「地方裁判所」およびブダペストの「首都裁判所」が登記裁判所である。登記裁判所では各会社の過去から現在にわたる情報が記録されている。登記簿の内容は公開情報であるため、誰でも見ることができる。
契約締結の際にチェックしなければならない重要なポイントは、契約書に署名する人が本当に会社の代表者であるのかどうかと、代表者の名前の後ろに必ず記載されている代表権である。代表権には単独代表と共同代表があり、共同代表の場合は、契約締結時に必ず代表権のある二人の取締役のサインが必要となるので注意が必要である。共同代表権がある相手と結んだ契約書に、相手会社の署名が一人分しかなかった場合の契約は無効となる。
会社の社名、所在場所、銀行口座番号、納税者番号、会社の登記資本金の変化、当該会社に対して破産手続きや強制執行手続きが開始されたことなども、登記簿に記載される。
会社登記簿の内容に関しては、登記裁判所が「登記事項証明書」という書類を発行している。登記事項証明書は電子媒体で、インターネットから無料で取得できる。行政法務省(Közigazgatási és Igazságügyi Minisztérium)のウェブサイト(xxxx://xxx.x-xxxxxxxxxx.xx/xxxx/xxxx/xxxxxxx)から、社名や納税番号などで会社を検索することができる。しかし、このサイトの登記情報は最新の情報と保障されてはいないので注意が必要である。
最新の情報が必要な場合は、別の行政法務省のウェブサイトにアクセスする必要がある(xxxxx://xxxxx.x-xxxxxxxxxx.xx/xxxx/xxxx/xxxxxxx)。こちらでは、登記情報だけでなく会社の定款や決議などさまざまな登記裁判所に提出された文書もダウンロードができるが、有料のサービスとなる。
(2)会社官報
会社官報は行政法務省によって発行され、登記事項変更を知らせるものである。これは、ウェブサイト上(xxxx://xxx.xxxxxxxxxx.xx/)に電子媒体で発行される。会社登記簿と同様にこちらも公開情報であり、誰でも見ることができる。
会社官報には債権者保護、企業の健全な営業活動を促進する目的で、登記事項の変化に関する情報のみならず破産手続き開始などに関する裁判判断、会社
の登記資本金削減に関する決議なども記載されている。
(3)事業報告書
会社には毎年登記裁判所に事業報告書を電子媒体で提出する義務がある。報告 書 の x x は 公 開 で あ り 、 事 業 報 告 書 の ウ ェ ブ サ イ ト
(xxxx://xxx.x-xxxxxxxxx.xxx.xx/xxxxxxx-Xxxxxxx.xxxx)上で誰でも無料で社名や商号で検索し、見ることができる。
事業報告書には会社の財務状態を表す貸借対照表、損益計算書や附属明細書なども含められている。株主資本と資本金の関係、短期借入金や長期借入金、資本準備金などは確認すべきポイントである。
(4)不動産登記
不動産登記は各市町村の登記所によって行われ、ハンガリーのすべての不動産が不動産登記簿に記録されている。
不動産登記簿には不動産に関する基本情報(住所、面積、所有者、負債など)および権利義務が記録される。不動産売買契約や賃貸借契約を締結する場合は、当該不動産が本当に契約相手の所有するものなのか、契約相手が伝えなかった負債などがないかを不動産登記簿で調べることができる。
登記情報は公開であるが有料である。登記所において不動産の基本情報に関しては誰でも証明書を発行してもらうことが可能である。インターネット上
(xxxx://xxx.xxxxxxxx.xx/xxxx.xxxx)でも、有料で情報にアクセスできる。
(5)税務局データベース
ハンガリー税務局( APEH )は未納税者の情報をウェブサイト
(xxxx://xxx.xxxx.xx/xxxxxxxxx/xxxxx_xxxxxxxx)上に無料で公開しているので、契約相手に納税債務があるのかどうか簡単に確認できる。
(6)他のデータベース
上記のデータベースのほかにも、有益なデータベースが多数ある。たとえば、
文化遺産保護局( Kulturális Örökségvédelmi Hivatal )のウェブサイト
(xxxx://xxx.xxx.xx/xxxxxxxx.xxx?xxxx00000000000000)では、歴史的・考古学的保護の範囲に属している建物はすべて記録されている。
また、ハンガリーでは労働派遣会社は登録義務を負うため、職業安定所
( Nemzeti Foglalkoztatási Szolgálat ) の ウ ェ ブ サ イ ト (xxxx://xxx.xxxx.xx/xxxxxx.xxxx?xxxxxxxxxxxxxxxxxxxx_xxxxxxxx_xxxxxxxx ok_listaja)で労働派遣会社の一覧を調べることができる。
ハンガリー特許庁( Magyar Szabadalmi Hivatal )のウェブサイト
(xxxx://xxxxxxxxx.xxx.xx/)xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx。
使用者の損害賠償責任(2010 年 10 月 28 日時点作成)
使用者の損害賠償責任とは、使用者と労働者の間に業務上で発生した労働者の損害に関する使用者の責任のことである。使用者の損害賠償責任を定める規則は、労働者の損害賠償責任ルールよりも厳格に定められている。使用者の故意、過失のいずれの行為でも、労働者が損害を与えられた場合は、使用者はその責任を負わなければならない。使用者の損害賠償責任には賠償の上限額は定められてはいない。
1. 使用者の損害賠償責任の確立要件
使用者の損害賠償責任が確立するには、労働関係が存在し、労働契約が締結されていなければならない。また、発生した損害が業務上で起こったものでなければならない。例えば、労働者は職場である自動車修理工場で、使用者に秘密で親類の自動車を修理し、その最中に怪我をしたような場合。この怪我は労働者の通常業務と全く関係ないところで発生したため、使用者の賠償責任は成立しない。
使用者の損害賠償責任は非常に厳格であり、免責されることは稀であるが、以下の二つの場合にはその責任が免責される。
○使用者の事業活動範囲外の不可避の原因
労働者の損害が事業活動に関係のない不可避の原因によって発生したと立証できれば、使用者は損害賠償責任を免責される。事業活動範囲内と範囲外の違いは、業務上使用される材料、設備、機械の状態などから損害が発生するか否かである。損害の原因が使用者の事業活動範囲内であるどうかは、通常ケース別に調べられる。例えば、労働者が働いている生産ラインの機械のメンテナンスに不備があり、それによって労働者が怪我をすれば、事業活動範囲内の原因とみなされるため、使用者に損害賠償責任が発生する。
また、その損害を発生させる原因は不可避でなければならない。ある損害の発生は該当職場が持つ技術の水準で、適当な時間内に防止できなければ、当該損害は「不可避」だとみなされる。例えば、地震は不可避の損害原因となる。
上述の二つの要件、(i)使用者の事業活動範囲外の原因、および(ii)原因の不可避性は同時に立証されなければならない。もし一つの要件しか成立しなければ、使用者は免責されない。
○労働者の不可避の行為
損害の原因が完全に労働者の不可避の行為によるものだと立証できれば、使 用者の損害賠償責任は免責される。この場合の不可避とは、使用者によって対 策が取れないもののことである。労働者の不可避の行為が成立するには(i) 損害と労働者の行為に明確な因果関係があること、(ii)損害は使用者にとっ ては不可避であったという二つの要件が立証されなければならない。裁判所は、労働者の行為が使用者の対策によって防ぎきれるものかどうかケース別に判 断する。例えば、労働者が機械の操作を理解しておらず、事故を起こした場合、 使用者は機械操作について労働者を教育する義務を負うため、不可避の行為で はない。しかし、使用者の注意によっても防ぎきれない行為によって労働者が 損害を受けた場合は、当該行為は「不可避の行為」となる。
2. 損害賠償金の分割
使用者の損害賠償責任が立証されたのちに、労働者の過失・故意行為によって使用者が損害を被った場合、使用者は労働者の行為に基づいて損害賠償金の分割を主張することができる。これにより、労働者の過失・故意行為によって起こされた損害金分を使用者の損害賠償責任分から相殺することができる。
3. 立証責任
裁判手続きの際は、使用者であれ、労働者であれ、立証責任を負う。すなわち、労働者は、損害が業務との関係で発生したということ、および損害の大きさを立証しなければならない。一方、使用者は、使用者損害賠償責任の免責事由が存在するならば、それを証明する義務を持つ。
4. 損害賠償の内容
使用者の損害賠償責任が確立されたら、労働者に与えられた損害を弁償する義務を負う。その弁償には、労働者が裁判判断を待っている間の未支払賃金、
物質的損害、損害との関連で発生した他の費用(例えば治療を受けるための交通費など)を弁償しなければならない。
上述に加えて、使用者は労働者に慰謝料も払わなければならないことがある。慰謝料とは、労働者が職場における労働災害で労働能力が損なわれたことに対して、また、労働者の死亡などによる精神的な損害に対して支払われる。
5. 労働者によって職場に持ち込まれた物に関する使用者損害賠償責任
使用者は労働者によって職場へ持ち込まれた所有物(財布、携帯電話など)にも一般的損害賠償責任を負うが、責任発生を最小限にするために、使用者は社内規則において労働者の所有物の保管ルールを定めることができる。例えば、ロッカーの利用義務などである。
6. 使用者の損害賠償責任の判例
使用者側の損害賠償責任は一般的に労働災害の場合に発生するが、特殊な事例も多数存在する。例えば、労働契約が終了した労働者に使用者が労働者の次の職場で必要となる書類を渡さなかった事例がある。使用者が書類の発行・引渡しを拒んだことにより、労働者の就職活動を妨げたとして損害賠償責任が成立した。
また、使用者が「人間としての尊厳」原則を守らずに労働者の労働契約を終了したため、人権違反の理由で損害賠償金を払わざるを得なかった事例もある。具体的には、解雇届けを受け取った時点から、当該労働者の社内移動には警備員の同行が必要となり、その上労働者の立ち入り禁止通知が社内の掲示板に記載された。使用者のこの行為は、裁判所で人権侵害であると判断されたため、使用者の損害賠償責任が成立した。
労働者の損害賠償責任(2010 年 10 月 28 日時点作成)
損害賠償とは、損害を受けた者が、損害を与えた者から、その損害の埋め合わせを受けることである。これは、労働関係においても適用される。「労働者の損害賠償責任」は、労働者と使用者の立場の違いから、労働者が不利益を受けることが多いことから、労働者を守ることを目的に作られている。
以下に労働者の損害賠償責任に関して重要なポイントをまとめる。労働者の損害賠償責任は、労働者が使用者に対して、業務上で損害を与えた場合に成立する。ハンガリー労働法において、労働者損害賠償責任は次の 3 種である。
• 労働者の過失責任
• 労働者の保管責任
• 労働者の在庫管理責任
労働者によって引き起こされた損害は、原則、使用者が損害賠償金の支払いを裁判所で請求する。労働者と使用者との間で労働者へ賠償金の請求ができるという労働協約を締結することもできるが、その労働協約では賠償の最高額や賠償手続きについて詳しく定められていなければならない。
1. 労働者の過失責任
労働者の過失責任は、もっとも一般的な損害賠償責任であり、あらゆる労働者に適用される。保管責任と在庫管理責任は、労働者損害賠償責任の特殊例で、その適用は特定の条件が整った場合に限られる。
労働者の過失責任が確立する要件は(i)労働者と使用者の間に労働関係(労働契約)があること、(ii)労働者による職務上の義務違反であること、(iii)労働者の故意・過失があること、(iv)使用者側に損害が発生し、その損害に労働者の義務違反との因果関係があること、である。
労働者の故意とは、労働者が損害を意図的に引き起こすこと(故意の行為)で、過失とはその損害を認識·予見することができたにもかかわらず、回避するための行為を怠ったということである(過失の行為)。
労働者の損害賠償責任が免責される場合もある。例えば、労働者が使用者の指示に従って損害を起こした場合や、使用者が損害を生んだ行為に同意していた場合、または職場で火事があったなど、緊急の理由で引き起こされた損害の場合。これらの場合、労働者は損害の賠償責任を免責される。
損害賠償の最高額は労働者の故意か過失によって違う。過失による損害発生の場合は、法によって損害を発生させた労働者の 1 カ月分の平均賃金の半分が最高額と定められており、損害賠償額が制限されている。
労働契約や労働協約でこれ以上の賠償額を定めることもできる。労働契約の場合は、損害賠償金の最高額を 1 カ月半分の平均賃金にまで設定することがで
きる。一方、労働協約では労働者の 6 カ月分の平均賃金にまで上限を定めることができる。
労働者の故意によって引き起こされた損害の場合は、損害賠償金の制限がされず、労働者は与えた損害のすべてを弁償する義務を負う。
損害が多数の労働者によって同時に与えられた場合は、労働者の連帯責任が確立され、使用者はすべての労働者に損害賠償金を請求することができる。このとき、使用者は労働者の中の任意の人物だけに請求することも可能である。この場合、当該労働者は使用者に賠償金を支払った後に、請求がされなかった労働者に支払った賠償金の割合分を請求する権利を持つ。
2. 労働者の保管責任
上述の一般的過失責任に対し、労働者の保管責任は特殊形態の損害賠償責任である。保管責任が発生するものは、使用者の所有物で労働者によって保管されている物、たとえば、会社所有の携帯電話、ノートパソコン、現金などである。労働者が当該物に損害を与えた場合は、その損害全額を弁償しなければならない。しかしながら、責任が発生するのは労働者が受領書で受け取った物だけに限られている。
損害が洪水、火事などの不可避の原因で発生した場合、または使用者が安全な保管場所·条件を提供しなかったために起こった場合は、労働者は保管責任を問われない。
3. 労働者の在庫管理責任
在庫管理責任は、もう一つの労働者損害賠償責任の特殊形態である。使用者と在庫管理契約を結んだ労働者(在庫管理責任者)は、在庫管理契約に基づいて在庫に対する責任を負う。
○在庫管理、在庫管理契約および棚卸
在庫管理契約は労働者と使用者の間で、書面上で締結される特別な契約である。当該契約では、労働者による在庫の管理およびその管理責任の範囲が明確にされる。契約書内で在庫の場所、在庫管理責任者の任務、責任などが定められなければならない。在庫を多数の労働者が管理する場合は、団体在庫管理契約を結ぶことも可能である。
在庫管理責任者は在庫不足に対して責任を負う。在庫不足とは在庫損失を超える不足のことであり、在庫損失とは、定期棚卸期間中の評価損及び売却損の合計である。在庫損失および在庫不足は棚卸によって確定される。在庫不足の確定手続きおよび棚卸の手続きなどは使用者が社内規則で定めておかなければならない。また、在庫管理に関する法律、社内規則で定めたルールなどを、使用者は在庫管理責任者に在庫管理契約の締結前に通知しておかなければならない。
在庫管理責任者は棚卸に参加する義務があるが、参加できない場合は、使用者が棚卸手続きの知識を持つ専門家を在庫管理責任者の代わりに在庫管理責任者の同意なしに参加させることができる。在庫管理責任者は棚卸の際に使用者に対して、在庫不足などに対する意見やコメント(例えば、在庫不足は前任の責任者の管理責任時期に発生したもので、現在の責任者には責任がないという主張や、使用者の作成している記録に対する反論など)をする権利を持ち、使用者はその意見を聞く義務を負う。
在庫管理責任者として、在庫不足の責任を負う責任確立要件は(i)在庫管理契約の締結、(ii)法律や社内規則によって定めた在庫管理規則に沿った引き渡しおよび受け取り、(iii)在庫不足確定の規則に従う確定手続きが行われた場合、である。
在庫不足が確定されたら、在庫管理責任者がその不足分全額の責任を負う。しかし、不足の正当な理由が後に明らかになった場合は、労働者はその責任を免責される。
在庫管理責任者には、すべての労働者がなれるわけではない。在庫管理責任者になるには、最低二つの連続した定期棚卸期間の半分以上の期間、労働関係を持つ労働者でなければならない。在庫管理責任者が一人である場合は、その在庫不足すべての責任を負うが、在庫が在庫管理責任者以外の労働者によっても管理される場合、在庫管理責任者は 6 カ月分の平均賃金の金額までに責任を負う。団体在庫管理契約を結んだ場合は、損害賠償金は当該契約相手の、すべての労働者の 6 カ月分の平均賃金の総額を超えてはならない。
競争を制限する垂直的協定:会社と販売業者・供給者等による競争歪曲(2010 年 12 月 6 日作成)
EU 域内で締結される契約は、加盟国の国内法だけでなく EU 法の対象となることがあるため、契約締結の際は EU 法に沿っているかどうかにも注意する必要がある。契約内容が EU 競争法の規則に違反すれば、当該契約が無効となったり、罰金が科されたりするので、EU 競争法の分析は非常に重要である。以下に流通契約および供給契約に適用される EU 競争法規則を簡単に紹介する。
1. 流通契約・供給契約の EU 競争法上の「一般禁止原則」
欧州連合の運営に関する条約(以下 EU 運営条約)の一般的な競争法原則により、契約や当事者間の協調的行為が、共同市場内の競争の阻害、制限または歪曲することを目的とする、もしくはそうした結果を生じさせ、かつ EU 加盟国間の取引に影響を及ぼす恐れがあると考えられる場合は、一般禁止原則に違反するとして、契約は無効となる。
上述の条件を満たす場合、流通契約や供給契約も通常は無効となるが、例外的に一般禁止原則からの免除を与える EU 法規則も存在する。以下にその規則で定められている EU 競争法用語である「垂直的協定」と垂直的協定内で定められている「垂直的制限」を説明する。
2. 垂直的協定および垂直的制限
(1) 垂直的協定
垂直的協定とは、生産・流通の流れの異なる段階で事業を行う二つ、またはそれ以上の事業者間で締結する協定または協調的行為であって、事業者間で行う一定の商品またはサービスの購入、販売、あるいは再販売に関係するものを意味する。
「生産・流通の流れの異なる段階で事業を行う」とは、例えば、供給者は商品の生産者であり、購入者は商品の販売業者であることを意味する。このよう
な垂直的協定では、当該協定当事者は、生産・流通の流れの中で異なる段階にあるという理由で、一般的に競争関係にはないといえるが、競合業者であるということも可能であろう。
(2) 垂直的制限
垂直的制限は、垂直的協定関係内での、一般禁止原則に反する契約条項や協調的行為である。すなわち、(i)共同市場内の競争の阻害、制限または歪曲することを目的とするか、またはそうした結果を生じうる契約事項・協調的行為、(ii) EU 加盟国間の取引に影響を及ぼす恐れがある契約事項・協調的行為である。
例をあげると、供給者が、商品の再販売を目的に、購入した卸売販売業者に再販売の最低価格を設置する行為は、それによって市場の競争を阻害、制限または歪曲する可能性があり、垂直的制限とみなされることがある。
重大なこととして、垂直的制限は独立された事業者の間に締結された垂直的協定に限られる。つまり、会社グループ内の事業者の間に締結された垂直的協定は競争を制限されたとしても、垂直的制限とみなされない。
欧州委員会によると、中小企業はその市場シェアが低いため、当該企業間の流通契約を結ぶ際には、その契約によって加盟国間の貿易に影響を与えるとみなされない。そのため、中小企業間の契約の制限条項は、垂直的制限とみなされていない。しかし、企業が中小企業とみなされるかどうかは、企業単独の売上げだけではなく、その関連企業をまとめて、グループとして評価されるので注意が必要である。
(3) 垂直的制限の主なタイプ
以下は垂直的制限の主なタイプであり、すべてが競争を阻害、制限または歪曲するものと捉えられている。
• 販売制限(排他的販売、排他的供給、質的基準に設定した選択的流通など)
• 市場割合(特定購入者への販売制限、販売の地域的制限、抱き合わせ、再販売の禁止など)
• 再販売価格維持(固定再販売価格の設定、最低再販売価格の設定、最大再販売価格の設定など)
3. 一般禁止原則の適用除外
(1) EU 運営条約に基づく適用除外
供給者および購入者の間の垂直的協定内で垂直的制限が含められているにもかかわらず、EU 運営条約に基づいて、以下の四つの条件すべてが満たされる場合は、当該契約の垂直的制限は一般禁止原則から免除される。
• 当該制限は製品の生産または流通を改善し、または技術的、経済的進歩を促進することに寄与する。
• その結果として生じる利益が消費者にxxに分配される。
• 競争の制限が生産・流通の改善、技術的・経済的進歩の促進に必要である最低限度のものである。
• 当該制限によって他の事業者は、競争から排除されない。
(2) 一括適用免除規則
上述の、EU 運営条約に基づく適用除外条件の立証は企業に大きな負担をかけるため、欧州委員会は多数の「一括適用免除規則」を定めた。例えば、技術移転に関する契約、自動車産業における契約、研究開発契約など、それぞれに関して異なる一括適用免除規則が適用される。垂直的協定に関する新しい一括適用免除規則はごく最近有効になったものである。
垂直的協定に関する一括適用免除規則が適用されるには、供給者が購入者に商品を販売する市場において当該供給者のシェアが 30%を超えないこと、そして購入者が商品を購入する市場において当該購入者のシェアが 30%を超えないことを条件としている。当該垂直的協定の供給者市場でも、購入者市場でも、そこにおいてのシェアが 30%を超えなかったら、EU 運営条約の一般禁止原則から自動的に免除される。
しかし、垂直的協定に関する一括適用免除規則においては「ハードコア制限」ということも定義されている。ハードコア制限とは、垂直的制限の中でも競争を特に強く阻害する制限である。垂直的協定にハードコア制限が含められている場合、供給者、購入者のそれぞれの市場シェアが 30%を超えていなくても、一括適用免除規則が適用されず、当該垂直的協定は EU 運営条約の一般禁止原
則の対象となる。
ハードコア制限には最低再販売価格設定、固定再販売価格設定、市場分割や競業避止義務などがある。
労働者募集、求人広告、求職者との面接などに関する留意点
(2011 年 1 月 3 日作成)
労働者を募集・採用する際には、求人広告の掲載・段階的な試験・面接などの多くの手順を踏む。この手順にも様々な法的制限がかけられている。使用者は求人のために送付された履歴書をいつまで保存できるのか、面接の際に妊娠しているかどうかや、その予定があるのかに関して質問してもいいのか。応募者が募集過程で差別されたと感じた時、会社を訴えることができるのかどうかなどである。
以下に労働者募集に関してよくある質問について記していく。
1. 求人広告
企業は、通常インターネット·新聞などに求人広告を出して、採用希望者から送られてきた履歴書に基づいて面接する人材を選ぶ。使用者は労働者募集をする際に無差別取扱原則を尊重する義務がある。当該義務は募集の開始から採用希望者に対して存在するので、募集広告に差別的な表現があってはならない。それゆえ、広告の文言には十分な注意が必要である。
差別的な表現ととらえられやすい質問として、求人のポジションに関係ない質問があげられる。たとえば「若い」や「女性」などの表現が、通常はポジションに関係がないため、差別的表現ととらえられやすい。年齢条件も、正当な理由がない限り差別的表現であるので、ポジションの条件として業務経験年数などを使う方が適当である。
無差別取扱原則が侵害された場合は、応募者は以下で記す 4.のように裁判所で権利侵害を主張することができる。
2. 求職者との面接
面接や試験などの際の質問は、採用希望者の人権を侵害してはいけない(宗教、性的し好などの質問)。また、採用ポジションにとって重要ではない情報を質問してはならない(結婚予定時期など)。
(1) 特別情報の取り扱い
ハンガリーの情報保護法は「特別情報」という民族、宗教、前科、健康状態などを含める特に重要なカテゴリーを定義している。面接の際は特別情報に関して問うことや、特別情報に関する声明に署名させることは原則として人権侵害とみなされる。
しかし、使用者はポジションに関して重要な特別情報を知る権利がある。例えば、障害などで労働能力が低下している希望者は、採用に使用者が特別な法律を適用しなければならないため、その健康状態に関して希望者は使用者に情報を提供しなければならない。同じように、法によって前科がないことを前提とするポジションなどでは、使用者は応募者の前科の有無に関する証明書を提出させる義務を負う。
(2) 妊娠
女性の採用希望者に現在妊娠しているかどうか、また、妊娠していない場合は子作りの予定があるかどうか質問することが、違法であるかどうかは重要な点である。
労働法の条項によると、使用者は採用希望者からポジションの観点から重要だとみなされる情報を要求することができる。それゆえ、妊娠がポジションの観点から重要な情報であるのかどうかが問われる。
この点に関しては意見が分かれるところである。xxxx・xxxx&パートナーズ法律事務所では、妊娠はポジションの観点から重要な情報だと考える。それは、妊娠している労働者が長期間の産休で労働できない間の代わりの人材を採用したりする必要があり、また、妊娠中の労働者の労働には、法で特別な規則が多数定められており、使用者はそれを適用する義務を負うからである。
使用者が求職者に妊娠に関する質問をした後で採用まで至らない場合は、採用希望者との労働紛争の可能性が高まる。その際は、使用者が当該求職者を採用しなかった理由が妊娠ではなく、他の求職者の能力・学歴などがより適切であったことなどを立証しなければならない。
労働法によると、求職者や労働者に妊娠診断を受けさせてはならないし、非妊娠の証明書の提示をさせることも禁止されている。しかし、法律によって定められている特定の業務の場合、例えばイオン化放射線があるポジションでは妊娠中の労働者を採用してはならないため、このようなポジションの採用の場合は使用者が妊娠の有無を確定させる義務を負う。この場合の採用条件としての義務的な妊娠診断などは違法ではない。
(3) 履歴書の保存
企業で求人広告用に送信された履歴書を長期間にわたり保存している例が多くある。履歴書には生年月日、住所などの多くの個人情報が含まれているため、保存するためにはその情報の提供者の同意が必要であると、情報保護法によって定められている。同意したことを明確にして、後で立証できるようにするためにも書面による記録が勧められている。この同意を得るためには、求職者に履歴書の保存目的、保存期間などを事前に通知しておかなければならない。
求職者の同意を得ていない場合は、履歴書を募集終了の時点で廃棄しなければならない。
3. 試用労働
募集のステップとして、求職者に「試用労働」をさせる会社がある。これは、求職者は採用予定のポジションで必要な労働を数時間から数日間行うものである。
ハンガリー労働法上で、「試用労働」は定義されていないので、募集過程の一段階であっても、一般的な労働とみなされる。それゆえ、求職者が採用条件の一部として試用労働を行うとしても、労働契約の締結が必要となる。労働契約なしでの試用労働は不法雇用とみなされる。
採用試験における、翻訳、書類作成などは試用労働とは通常みなされない。何が試用労働であるかはケース別に判断される。
4. 法的救済方法
採用希望者が募集過程において権利侵害を受けたと主張する場合、労働裁判
所において労働紛争を開始し、損害賠償を求めることができる。
労働裁判所以外にも、無差別取扱原則が尊重されなかったと主張する場合は、ハンガリーの「無差別取扱当局」(Egyenlő Bánásmód Hatóság)へも訴えることが可能である。無差別取扱当局は無差別取扱原則が侵害されたと判断する場合は、罰金を科すなどの様々な措置をとる権限を持つ。当該被害者が無差別取扱当局の決定に満足しない場合は、決定に対して裁判所に訴訟を起こすこともできる。
無差別取扱当局の最近の決定で次のようなものがある。ある求職者が百貨店の棚を整理する仕事に申し込んだが、当該求職者にはその経験があったにもかかわらず、経験を持たない当該求職者より 21 歳若い他の応募者が採用された。これに対し無差別取扱当局は、当該求職者は不当に差別されたと判断して、百貨店に 300 万フォリントの罰金を科した。
在宅勤務に関する規則、在宅勤務のメリット(2011 年 1 月 25 日時点作成)
通信技術の発達とともに、事業所外で行うことができる業務が増えてきた。社外で行われる労働は「テレワーク」と呼ばれるが、今回はテレワークの一種である「在宅勤務」に関して簡単に説明をする。
在宅勤務は(i)労働契約に基づき(ii)事業所外の場所、例えば自宅などで
(iii)情報通信機器を利用し(iv)業務を行い(v)業務遂行の結果が情報通信機器によって事業所へ送付されるという労働形態のことである。それゆえ、請負契約などに基づいた、自宅で行われる業務は在宅勤務とみなされない。
在宅勤務の代表的な職種として、データ保存、翻訳、会計業務などがあげられる。
1. 在宅勤務のメリット
労働者側は勤務時間を自分で決めることができ、柔軟に、好きな予定で業務を行える。事業所への通勤が必要ないため、通勤費と時間を節約できることがある。
使用者側の在宅勤務のメリットとして、人件費が少々軽減されることと、使用者の損害賠償責任が特別な責任形態としてある程度軽くなることがある(以下(7)参考)。
2. 在宅勤務の労働契約
在宅勤務者の労働契約にも原則として一般労働法が適用される。例えば、年次有給休暇などが例としてあげられる。しかしながら、同時に、在宅勤務は特別労働形態であるため、労働法の特別な規則も適用される。以下に当該特別規則をテーマごとに、簡単に紹介する。
(1)労働契約の締結
在宅勤務に関する労働契約を締結する場合は、賃金などの一般的必須事項以
外にも以下の点を必須事項として定めなければならない。
(i)労働者は在宅勤務者として使用者によって雇用されること
(ii)在宅勤務者と使用者との連絡の方法や条件
(iii)在宅勤務者側において発生した、必要かつ正当な費用の決済の方法
労働契約に指定がなければ、連絡に必要となる情報通信機器は使用者によって貸与されなければならない。
(2)労働者の申し込みによる労働契約変更
労働者が在宅勤務するために労働契約の変更を申し込むことが可能である。使用者は当該申し込みを受諾するかどうか、正当な利害、特に人材活用の観点から検討し決定をする。使用者は当該労働者の労働契約変更に同意する義務を負っていないが、同意(受諾)するかどうかという決定を労働者に 15 日以内に通知しなければならない。
使用者は、在宅勤務などの、非正式労働形態の促進のため、事業所において在宅勤務に転換可能な職務がある場合、それを事業所内での慣行に従って労働者に周知させる義務を負う。
(3)使用者の説明義務
使用者は一般的な説明義務に加えて、在宅勤務者に次の点についても説明しなければならない。
(i)使用者による監督の方法
(ii)情報通信機器の利用の制限
(iii)在宅勤務者および使用者の損害賠償責任の規則
使用者の説明義務は、在宅勤務者だけでなく、使用者の社内労働委員会、労働組合、社内労働代表者に対してもある。具体的に、使用者は在宅勤務者への連絡方法を通知する義務を負う。
(4)業務遂行の監督
使用者は、在宅勤務者が業務遂行義務を果たしているかどうか監督する権利を持つ。しかし、使用者はパソコンなどの情報通信機器に保存された、業務に
関係ないプライベートな情報を見る権利はない。労働契約で、情報通信機器のプライベート目的の利用が禁止されている場合は、使用者はプライベート利用されていないかどうか確認ができ、プライベートな情報がないかどうか調べることができる。
労働契約に定めない限り、使用者は監督の方法および、業務遂行の場における監督に関して事前通知から監督開始までの期間を決定する権利を持つ。しかし、監督行為は在宅勤務者と業務遂行の場所を同時に利用するほかの人、例えば家族などに対し不当かつ過度の負担となってはならない。
使用者は業務に関係がある指揮、説明、監督、勤務手段の設置、メインテナンス、撤去の目的で業務遂行の場所へ立ち入る権利を持つが、上述同様に、家族などに不正かつ過度の負担をかけてはならない。
(5)勤務時間の決定、労働時間の記録義務
当事者間での取り決めがない場合、在宅勤務者は勤務時間を自分で決定できる。当事者間の合意に基づいて使用者が勤務時間予定を指定する権利を持つ場合は、使用者は指定した労働時間、いわゆる通常労働や非常労働の情報を記録する義務を負う。
(6)在宅勤務者の損害賠償責任
労働者は一般的に 1 カ月分の平均賃金の半分まで損害賠償責任を負うが、在宅勤務の場合は、労働契約において当事者で合意していれば損害賠償責任の最高額として在宅勤務者の 3 カ月分の平均賃金にすることが可能である。
しかしながら、在宅勤務者にこのような拡大された損害賠償責任を課す場合、使用者の指揮権は在宅勤務者に指示した業務に限ること、そして損害は当該業務の遂行との関連で発生したものに限るという二つの条件を満たさなければならない。
(7)使用者の損害賠償責任
使用者の故意、過失のいずれの行為でも、労働者に損害が与えられた場合は、使用者は一般的にその責任を負わなければならない。しかし、在宅勤務の場合
は、使用者が通常の労働ほどの指揮権、監督権などのコントロールを持っていないことを考慮し、使用者の損害賠償責任が使用者の故意・重過失の行為の場合だけに限られており、一般的な場合より軽くなる。
3. 労働安全衛生規則の適用
在宅勤務者は使用者の事業所外で業務を行う理由で、労働安全衛生に関しても、特別規則が適用される。例えば、在宅勤務遂行は、原則として使用者によって貸与された情報通信機器、事務机、事務椅子等の勤務手段によって行われるが、在宅勤務者と使用者が合意する場合は、在宅勤務者によって用意された勤務手段による業務遂行が可能である。しかし、この場合は、使用者は当該勤務手段を確認の上、その利用を事前に許可しなければならない。
在宅勤務は使用者によって労働保護の観点から適切と指定された場所においてのみ遂行できる。在宅勤務者が指定場所において重要な労働条件の変更を行うことは使用者の同意を得た場合のみ許される。つまり原則的に、労働者によるパソコンの移動や、事務椅子の交換などの労働環境の変化は、使用者の許可がなければならない。
在宅勤務者の自宅は業務遂行の場として労働監督機関による監督の対象となる。労働監督機関は監督検査の 3 日前に検査を在宅勤務者に通知する。検査により、上述の労働環境の変化などの理由で労働保護法や労働安全衛生法の違反が確定された場合、使用者に罰金が課せられる。
ハンガリーにおけるパートタイム労働の規則(2011 年 1 月 25 日時点作成)
ハンガリー労働法では、使用者と労働者との労働関係は、労働契約で特別に 定めない限りフルタイム契約となる。フルタイム労働とは、1 日 8 時間、1 週間 40 時間の法定労働時間で定められている。しかし、育児や勉強などさまざまな 理由でフルタイム労働ができない、またはしたくない人の数が増えているなか、パートタイム労働という柔軟な労働形態は非常に有益なものになってきている。
ハンガリーのパートタイム労働者の比率は、EU のパートタイム労働者平均比率と比べると非常に低い。ハンガリー中央統計局のデータによると、2009 年のパートタイム労働者は全労働者人数のわずか 5.8%(およそ 21 万人)にすぎない。これは EU27 カ国中 6 番目に低いものである。
パートタイム労働者の比率が低い原因は、パートタイム労働者に係る高い人件費( 1 週間に 20 時間働くパートタイム労働者の人件費は、フルタイム労働者の人件費を上回る)、パートタイム労働の労働法による規制の不十分xx使用者のパートタイム雇用に対する経験不足から、このような形態が敬遠されがちとなっていると考えられている。
以下に法律の観点からのパートタイム労働について説明する。
1. 法定労働時間より短いフルタイム労働
法定労働時間より短い労働時間が必ずしもパートタイム労働ではない。1 日 8時間、1 週間 40 時間の法定労働時間より、法の定めによって短い労働時間で働かなければならない職種も存在する。例えば、健康に害を及ぼす危険性があるイオン化放射線を扱う職業などでは、健康保護のために法定労働時間より短い労働時間が法によって義務付けられている。
上述のような、フルタイム労働ではあるものの、法定労働時間より短い労働時間の契約は、上述の法の定め以外に、使用者と労働者との合意によっても成立するが、これは非常に稀である。
法定労働時間より短い労働時間での契約でも、フルタイム労働契約とみなさ
れるため、賃金や休暇などはフルタイム労働者と同様に扱われる必要がある。
2. パートタイム労働
パートタイム労働として契約を結ぶには、労働契約にその旨をはっきりと記載しなければならない。例えば「当事者は労働形態としてパートタイム労働に合意をし、労働時間は 1 日 4 時間、1 週間 20 時間とする」などの規定を入れなければならない。このような規定が労働契約に記載されない場合は、労働関係が自動的にフルタイム労働となるので、注意が必要である。
パートタイム労働の労働時間の最低限度は法によって定められていない。そのため、1 週間に 1 時間のパートタイム労働契約なども締結できる。
3. 賃金および給付の計算
労働法の重要な原則として、「同種の業務には同額の賃金」という原則がある。それゆえ、原則としてパートタイム労働者の賃金は、同種の業務の通常労働者の賃金の、所定労働時間とパートタイム労働時間との比例で算出する。
各種手当や現物給付などは、労働時間が短いパートタイム労働者に受給権があるかどうか問題になることがあるが、パートタイム労働者も原則受給権を持つ。支給する場合、賃金と同じように労働時間の比例で支給額や現物が算出される。
しかしながら、所定労働時間の長短に関係なく支給される給付の場合は、フルタイム労働者と同様にパートタイム労働者にも支給しなければならない。例えば、事務系のフルタイム労働者に外国語講座受講を支給する場合は、同職の事務系のパートタイム労働者も同じ外国語講座を受講できる権利を持つ。所定労働時間の長短に関係がないほかの給付としては、通勤手当などがあげられる。
4. パートタイム労働者の休暇
ハンガリー最高裁判所の判断によると、ハンガリー労働法典に定めた年次有給休暇は労働時間の長短に関係なく、パートタイム労働者にも与えられる。それゆえ、パートタイム労働者も、通常の労働者と同数の休暇日を持つ。一方、有給休暇に与えられる「アブセンスフィー」は同職のフルタイム労働者が受給
できるアブセンスフィーの、労働時間の比例で算出される。
パートタイム労働者の休暇はその労働者が働いていない日を労働日と考えて与えることもできる。例えば、フルタイム労働者が平日 5 日間働く職場で、パ
ートタイム労働者が月曜日から水曜日の 3 日間しか働いていない場合。当該パートタイム労働者に、フルタイム労働者の労働日である木曜日・金曜日を有給休暇として与えることが可能である。
5. 労働者の申し込みによる労働契約変更
パートタイム労働者人数の増加、および労働形態の転換の推進のために、労働者は以下の特別な手続きを取る権利がある。
労働法によると、フルタイム労働者からパートタイム労働者への転換、またはパートタイム労働者からフルタイム労働者への転換を使用者に申し込む権利がある。使用者は当該申し込みを受諾するのか、正当な利害、特に人材活用の運用、効率的運営や当該業務の採用要件などを考慮し、決定する。使用者は当該労働者の労働契約変更に同意する義務はないが、同意するかどうかという決定を労働者に 15 日以内に通知しなければならない。
申し込みが受諾された場合、労働契約の書面における変更が必要となる。この労働契約変更の書面には使用者と労働者の両方の署名がなければならない。使用者が労働者の申し込みを受諾せず、その受諾の否定の理由に労働者が満足しない場合の特別紛争処理手続きは法に定められていない。労働者が権利を侵害されたと思う場合は、労働裁判所において訴訟を起こすことが可能であるが、このような訴訟の判例はない。
最後に、法は労働形態の柔軟な転換の推進のため周知義務も定める。すなわち、使用者は、事業所において労働形態の転換(フルタイムからパートタイムへ、またはその反対)が可能な職務がある場合は、その可能性に関して当該事業所内における通知習慣に従って労働者に周知させる義務を負う。
退職後の競業禁止に関する規則(2011 年 2 月 23 日時点作成)
1. 競業禁止契約の定義
通常、労働関係が終了することにより、労働者は自由に他の職業に就いたり、独立自営や請負活動などを行ったりすることができるようになる。労働者には職業選択の権利があり、労働関係の終了とともに市場において自分の労働力を自由に生かすことができる。
しかし、特別な技術を持っていたり、高い職位であったため、所属会社の計画、営業秘密などを知っている労働者が退職したりする場合は、使用者がその営業上の秘密や利益の保護のために、当該労働者の将来の就業活動をある程度制限する契約を結ぶ場合がある。当該労働者の就業を、一定の職務に関して、一定の期間中、一定の域内または一定の事業所において制限するような契約である。
上述の制限に関する当事者間の合意を競業禁止契約と呼ぶ。以下に競業禁止契約に関する規則について簡単に説明する。
2. 競業禁止契約の内容
競業禁止契約では、使用者は営業上の利益や競争上の優位性などの保護の目的で、労働者の離職後の自由な職業活動を制限する。この制限の対価として、使用者は労働者に適切な報酬を与える必要がある。
競業禁止契約では、契約当事者は次の点で合意をする。
① 労働者は何の義務を負うのか、つまり、使用者の保護すべき営業上の利益は何であるのか(例えば、何の事業所が競争相手とみなされるのか、競業禁止はどの領域に適用されるのか、など)。
② 労働者はどの対価に基づいてその義務を負うのか。
③ 労働者はいつまで当該義務を負うのか。
(1) 就業制限の合理性
裁判慣習によると、労働者の生存権や自由市場競争を非合理的に制限しない契約規定が競業禁止契約の有効要件である。既述の契約規定では、使用者の営業上の利益の保護を目指すと同時に、労働者の自由な労働活動を大幅に制限する、または消滅させるような影響を及ぼすことは認められない。そのような規定は競争の自由原則に反するものとして無効となる。
(2) 就業制限の期間
労働法典に基づいて、契約当事者は労働者の就業制限期間を離職から最高 3年の間で設定することができる。実際には、1~2 年間の制限期間が一般的である。制限の期間はその対価などを考慮して合法的であるかどうか、ケース別に検討される。
(3) 就業制限に対する報酬金額
競業禁止契約に基づいて、使用者から労働者に報酬が支給されなければならない。これは契約の有効要件である。契約当事者の間で報酬に関する合意がない場合は、当該契約は無効となり労働者は離職後に自由に職業を選択することができる。
報酬金額が適切であるかどうかは、労働者の活動の制限範囲を考慮して判断される。適切性を判断する際には、労働者の活動の制限の程度、その期間、区域、および違約金などの労働者の契約違反の際の法的措置、当該労働者の将来のキャリア開発および生存権への影響など、さまざまな要因が検討される。
なお、競業禁止の対価として競業禁止期間の 1 年ごとに、労働者の退職時点における年間総給料の半額の報酬の支給が一般的である。
(4) 報酬の支給方法
競業禁止契約は、労働者の退職の時点から効力が生じる。報酬の支給はその効力発生の前、効力発生の時点、または当該契約の終了時のいずれでも支給可能である。支給方法も、一括払い、月賦払いのどちらも可能である。
使用者は労働者に対し、競業禁止の対価を労働関係の期間中に月賦で、前払いで支給することも可能である。しかし、この場合は、報酬を賃金の一部とし
て取り扱ってはいけない。理由は「賃金は将来の競業禁止の対価を含めている」という労働契約の規定は不法であるためである。
労働関係にある期間中に前払いで支給された報酬の返金請求は、労働者による競業禁止契約違反の場合に裁判所を通じてのみ可能となるため、前払いは使用者にとって有益ではない。それゆえ、労働者の離職の時点から報酬を月賦で支給することが安全であろう。この方法によって、労働者の生計も継続的に支援されるし、労働者が契約違反をした場合、使用者は裁判所で返還請求手続きを行わずに済む。
(5) 契約締結が可能な時期
前述のとおり、競業禁止契約は、労働契約の締結の際、在職期間中、労働関係の終了の時点のいつでも締結することが可能である。
(6) 競業禁止契約の形式
競業禁止契約の形式に関して、法は特別に定めていない。契約は口頭、書面のどちらによっても結ぶことができる。しかし、将来の紛争の回避のために書面での締結が望ましい。
当該契約を労働契約の一部として作成してもよいし、別の書類にしてもよい。しかし、競業禁止契約が労働契約の一部である場合でも、法的に別の契約とみなされ、労働契約が解雇などの理由で終了したとしても、競業禁止契約は効力を失わない。
3. 競業禁止契約の終了
上述のように、労働契約の終了は競業禁止契約の終了を意味しないので、当該契約を終了させたい場合は、①当事者間での解約の合意、または②使用者の契約解除権によってのみ可能である。
解約は当事者の同意によるものであるから、いつでも可能である。
競業禁止契約にその規定が含められる限り、使用者は契約解除権を持つ。解除権は当該契約を終了させる使用者の一方的な意思表示のことである。しかし、
使用者は当該解除権を競業禁止契約開始の前、つまり労働関係終了までにしか行使できない。
使用者が解除権を行使したい場合は、解除通知書を労働関係の最終日までに労働者に届けなければならない。通知書を郵便で送る場合は、労働関係の最終日までに労働者のもとに届かなければならない。届かなかった場合は、競業禁止契約は終了せず、使用者は労働者に報酬を支払う義務を負う。
4. 契約違反およびその法的結果
労働者が退職後に競業禁止契約の制限に違反するような仕事に就けば、当該契約違反となる。一方、使用者側の契約違反の例としては、報酬支給義務の不履行があげられる。
契約違反が起こった場合は、裁判所で損害賠償を請求することができる。競業禁止契約に関する紛争の場合は、労働裁判所が管轄裁判所となる。しかし、当事者は当該契約の規定により契約違反した場合の賠償等措置について合意することができる。例えば、契約違反の際の違約金の支払義務を設定することができる。労働者が契約違反を行った場合は、すでに受給した報酬を返金する上に、違約金を支払わなければならないという規定などを定めることができる。
外国駐在者に 2011 年から適用される課税および社会保障規則
(2011 年 2 月 23 日時点作成)
外国で居住・労働する場合、その所得は駐在国の税法・社会保障制度の対象となるのか、母国の税法・社会保障制度の対象となるのかを確認する必要がある。
以下に、2011 年にハンガリーで居住・労働をする外国駐在者に関する課税・社会保障の規則をまとめる。適用規則は外国駐在者の国籍などによって異なるため、日本人駐在者に適用される規則だけに焦点を当てる。なお、説明は一般的なことに限られており、駐在者の事情をそれぞれ個別に検討する必要がある。
1. 個人課税
(1) 税居住者
居住しているかどうかは納税義務に大きな影響を与えるため、税法の観点から居住地の確定は重要な点である。ハンガリー国籍を持っている人は一般的にハンガリー居住者とみなされる。しかし、ハンガリー国籍のない、ハンガリー国内に駐在している外国籍を持った人の場合は、税居住者としての確定のために、以下のようなことが重要となる。
日本国籍を持った人は、ハンガリー税法の観点から以下の場合にハンガリー税居住者とみなされる。
① 永住の地が排他的かつ永久的にハンガリーにある場合。
② 普段の生活の拠点(例えば、家族や社会的関係、職業、政治的、文化的、またはその他の活動の中心など)がハンガリーにある場合。
③ 居所(ビジネスやレジャーの目的でハンガリーに滞在することなど)がハンガリーにある場合である。
日本とハンガリーは 1980 年に二重課税防止条約を締結したため、当該条約の
規定も適用される。当該条約によると、所得は、個人が 1 年間に 183 日以上滞在した国で課税される。しかし、特定の条件のもとでは日本人駐在者はハンガリーにおいて 183 日以上過ごさない場合でも、ハンガリーで課税されることが
ある。
(2) 課税所得および所得税の基盤
ハンガリー税居住者とみなされれば、世界中、どの国で稼いだ所得にもハンガリーにおいて課税される。ハンガリー税居住者とみなされない場合でも、所得の種類によって、例えばハンガリーにある不動産の取引などで得た所得の場合は、ハンガリーにおいて課税されることがある。
2011 年現在、所得税は連結納税基盤を元に算出された所得総額に 27%の補正をかけて計算される。しかし、連結納税基盤に属さない、個別に課税される所得(xx、配当、キャピタルゲインや不動産の売却からの所得)には上述の 27%の補正が適用されない。
原則として外貨で得た所得はハンガリー中央銀行の為替レートで換算しなければならない。
(3) 税率
2011 年現在、個人所得税は均一税率で 16%である。この税率は連結納税基盤、および上述のxx、配当などのほかの所得にも賦課される。連結納税基盤の場合は、上述の 27%の補正の理由で、事実上税率が 20.32%となる。
(4) 外国駐在者に関する特別課税制度
ハンガリーでは外国駐在者に関する特別課税・減税制度は存在しない。しかしながら、使用者が出張命令書などで駐在者をハンガリー国外へ出張させた場合は、旅費、宿泊費、特定給食費などの費用を非課税とすることができる。
(5) 納税義務
外国駐在者は四半期ごとにその翌月の12 日までに所得税を支払う義務を負う。上述の規則の例外は、資本利得と不動産の売却による所得のみである。
個人所得税の額は、ハンガリーまたは外国の銀行口座からも振込みすることができる。原則として税の納付は納税者の銀行口座からの引き落としをもって
完了するとみなされるが、この原則は、引き落とされる口座がハンガリーの銀行口座の場合だけに適用する。それゆえ、外国銀行口座から納税する場合は、延滞利息の罰金を避けるためにも、期限に余裕を持って振り込むことが勧められている。ハンガリーの納税者番号の使用は、すべての場合で必須である。
(6) 課税申告義務
個人の所得税の申告は、課税年度終了後の 5 月 20 日までに、管轄税務当局に申告しなければならない。2011 年から、ある一定の条件の下では申告の延長を要求できるようにもなった。
納税額の差異があれば、税申告書が提出された時点で支払われる。不履行の際に罰金が科されることがあるし、延滞xxも課される。
日本人の外国駐在者は課税年度中にハンガリーを出国し、その結果で税居住者の資格が変わる場合は、出国の 30 日前に税務当局に税金の確定手続きを要求しなければならない。
2. 社会保障制度
現時点では、外国人(ハンガリーの国籍を持っていない)の使用者によって、ハンガリーに労働の目的で派遣された日本人の外国駐在者は、社会保障費の負担をしなくてもよい。
しかしながら、2012 年から、新しい規則によって、上述の負担不要期間は 2
年間となり、今後 2014 年から負担が求められる。
なお、現在、日本とハンガリー両政府は社会保障協定締結の準備を行っており、これが発効すれば上述の規則は適用されなくなる可能性がある。
日本人駐在者で社会保障費を支払っていない場合、ハンガリー社会保障上の医療サービスなどを受ける権利を持っていない。それゆえ、サービスを希望する場合、健康保険を別途結ぶ必要があり、医療サービス提供者と直接契約を締結する必要がある。
使用者の懲戒権に関する規則 (2011 年 3 月 11 日時点作成)
懲戒権とは、労働者が職務上の義務違反を起こした際に、使用者が行使できる権利のことである。使用者は懲戒権の行使を通じて、労働者の業務遂行能力の評価を行うとともに、命令権の行使も可能なため、懲戒処分は業務整理の一つの手段として使用できる。
労働者が職務上の義務に違反する場合は、使用者は基本的に以下の二つの選択肢を持つ。①重大な義務違反で解雇理由となる場合は、当該労働者との労働関係を通常解雇、または非通常解雇で終了させること、そして、②当該労働関係を維持しつつ、懲戒権を行使することである。
使用者の懲戒権の行使は、二つの方法で行える。一つは、不利益処分の適用である。これは、使用者と労働者との間に労働協約が締結された場合のみ可能である。二つ目は、戒告を与えることである。戒告は、労働協約の有無に関係のない処分である。以下にその二つの違いを説明する。
1. 労働協約に基づく不利益処分の適用
ハンガリー労働法典によると、労働者と使用者の間に締結される労働協約において、労働者が職務上の義務違反を起こした場合に使用者が行使できる不利益処分について、その適用の手続規則と一緒に定めることができる。
(1) 不利益処分適用の前提要件
前述の通り、不利益処分は労働協約が存在する場合だけに適用できる。労働契約で定めた不利益処分は禁止されている。しかし、労働協約があるかどうかに関わらず、その要件が設立すれば、使用者による通常解雇・非常解雇を行うことができる。
労働協約には不利益処分の対象となる行為・態度、および処分適用の手続規則を明確に定める必要がある。
(2) 労働者による義務違反
不利益処分の対象行為・態度とは、通常業務を阻害するようなことである。一般的に不利益処分の対象となる行為・態度とは、無断欠勤、命令の拒否、職場における飲酒などである。
(3) 不利益処分
不利益処分の内容は、労働者の業務・労働契約に関係を持ったものだけに限られる。
例えば、財務的不利益を課すことである。この場合は、基本給の一時的減給や賞与削減などが考えられる。ある裁判判例では、労働協約に基づいて、基本給の 20%の減給が合法と認められた。このような財務的な処分の適用の限界は、処分が一時的であること、および削減された給与が労働者の最低賃金への権利が侵害されないことである。
不利益処分の適用は、労働協約の必須条項(基本給など)を一時的に変更するものであって、xx的なものにすることはできないので注意が必要である。
不利益処分によって労働協約の他の二つの必須条項、いわゆる業務内容・業務遂行の場所も同じように、一時的に変更することができる。
労働者の義務違反により、使用者に財務的損害が発生した場合に、財務的不利益処分の適用と同時に、使用者による労働者への損害賠償責任の請求が認められた判例がある。すなわち、労働者に損害賠償責任および懲戒責任を同時に請求することができる。使用者の選択によっては、個別に請求することも可能である。両方の責任請求がされる場合でも、民法上の二重責任とはみなされない。
(4) 不利益処分の限界
不利益処分の制限として、罰金を定めることはできない。これは、罰金が業務・労働契約に関係がないものとみなされているからである。
また、他の制限として労働者の人権および尊厳を侵害するようなものは定めてはいけない。労働者の年次有給休暇の削減や、少年労働者への夜間業務命令
などは労働者の人権を侵害する不利益処分とみなされる。
また、不利益処分は義務違反の内容と比例したものでなければならない。
(5) 不利益処分の手続規則
手続規則は労働協約に適切に定められなければならない。どのような義務違反があり、それに対応する懲戒処分は何であるのかを明確にする必要がある。
手続規則には、誰が懲戒権を持つのか(使用権を持つ人、何らかの委員会など)、どのような要件が満たされた場合、いつまでに懲戒手続きを開始しなければならないのかを規定しなければならない。さらに、当該労働者に反論の機会も与えなければならない。その他にも、懲戒処分に関する決定はどの媒体で、どのようにして発行されるのかや、救済方法なども定めなければならない。
裁判慣習によると、労働協約に上述の手続規則が定められていない場合は、労働者の義務違反が確立されたとしても、懲戒処分を課すことができない。
(6) 不利益処分の適用の締め切り
労働者への懲戒処分に関する決定は、義務違反の時点から 1 年以内に行わなければならないと法によって定められている。なお、懲戒手続きの開始に関する締め切りは、労働協約において、当事者の意思に従って、上述の範囲以内で自由に定めてもよい。(懲戒手続きは義務違反から 3 カ月以内に行わなければならないと労働協約上に定める等)
(7) 不利益処分決定の形式的要件
不利益処分は書面により通知される必要がある。書面にはその理由とその処分内容、救済の方法およびその締め切りに関する情報を記載しなければならない。
当該労働者が処分に不服がある場合は、管轄労働裁判所において労働訴訟を起こす権利を持つ。
2. 使用者による戒告
戒告は、労働協約がなくても、労働契約があれば使用者から労働者に課すことができる。しかし、労働者の人権およびその尊厳を侵害してはいけないという原則は戒告の際にも適用される。
戒告によって使用者は、不適切な労働態度や職務上の義務違反を行う労働者に対し注意を促すことができる。戒告は口頭でも、書面によっても可能であるが、書面による戒告の場合はその理由を述べなければならないし、救済方法に関しても労働者に知らせなければならない。
労働者が戒告に対し何らかの理由で違法であると主張する場合は、労働訴訟を起こすことができる。労働裁判所は、戒告理由が事実に基づいているのか、その理由が当該労働者の業務や義務と因果関係があるのかを検討する。戒告理由が事実に基づいていない場合や、労働者の職務上の義務に関係がない場合は、裁判所がその戒告を無効にする。なお、裁判所は労働者の義務違反のxxxx程度などを裁量する権限を持っていない。
使用者は過去に与えた戒告を理由に解雇を行ってはならない。(二重評価の禁止)。しかし、解雇理由の一つの証拠として、積み上げられてきた戒告を理由とすることはできる。
つまり、労働者の義務違反が起こったとき、使用者はその重大性を考慮して、戒告を与えるのか、または解雇を行うのかを選択することができる。
労働関係における偽装契約およびその法的問題性
(2011 年 3 月 11 日時点作成)
労務関係を作る契約として、労働契約、請負契約、委任契約の 3 種類が締結できる。契約の形態によって適用される法律が異なり、税法・社会保障法上の負担にも大きな違いがある。
以下に、請負契約または委任契約において、偽装された労働契約の法的問題性について簡単に説明する。
1. 労働契約およびその他の仕事の完成を目的とした契約
労働契約の締結の場合は、労働者も、使用者も厳格な労働法の規則の対象となり、大きな税、社会保障負担が義務付けられる。しかし、請負契約および委任契約の場合は、労働法の規則が適用されないため、解雇制限、年次有給休暇、労働安全衛生などの、労働法上の規定が適用されない代わりに、税、社会保障負担が軽減される。それゆえ、労働法適用・税負担などの回避目的で、典型的な労働契約の内容の請負契約・委任契約を結ぶことがある。
しかしながら、民法典によると、契約の法的性質は、結んだ契約の名前でなく、その実質的内容に沿って判断しなければならないとされている。従って、契約が請負契約として結ばれたものでも、その実質的内容が典型的な労働関係であれば、労働契約として認定される。
ハンガリーでは契約の法的性質を判断する権限を、裁判所、労働監督局
(Országos Munkabiztonsági és Munkaügyi Főfelügyelőség, OMMF)および税務当局(Nemzeti Adó- és Vámhivatal, NAV)が持つ。以下に労働監督局および税務当局の、契約の法的性質の認定に関する手続きについて簡単に述べる。
2. 労働監督局による監督
労働監督官は、労働監督の際に契約の法的性質を判定する権限を持つ。委任・請負契約とされたものに労働関係の以下に述べる特定の要素があると判断すれば、労働監督官は当該契約が実質的に労働契約であると確定できる。
この場合、労働監督官は法律違反としてその契約を結んだ使用者に罰金を科する権限を持つ。罰金の額は違反行為の性質、回数、関連している労働者の人数によって変化するが、3 万フォリントから 1,000 万フォリントまで課する権限がある。
3. 税務当局による税務調査、およびその法的効果
税務当局は、税務調査において、会社の契約、取引、その他の法律行為などが実際にどのように行われているのかを調査する。税務当局が、税務調査の際に委任・請負契約として締結された契約の法的性質が、労働契約であると判断するものがあれば、使用者および労働者に労働関係成立時に遡って税負担・社会保障法負担を求める。さらに、延滞xx、税務罰金、不履行罰金を課す権限もある。
4. 契約区別の基準
契約の法的性質の判断のために、契約の実質的内容が確定できるよう、ハンガリー労働省および財務省が 2005 年に共同ガイドラインを発行した。当該ガイドラインでは、監督・調査対象の契約の法的性質確定に必要な観点を以下のように定めた。
ガイドラインでは、労働契約、請負契約、委任契約を実質的に区別させる点として、「一次的基準要素」および「二次的基準要素」を検討すべきとしている。当該契約に一次的基準要素が一つでも該当すれば、契約は労働契約とみなされる。また、二次的基準要素はそれ一つでは労働契約の確定条件とはされないが、判断基準の一つとして労働契約確定に用いられる。
以下に一次的基準要素と二次的基準要素を契約形態の相違を通じて簡単にまとめる。
(1) 一次的基準要素
○業務の種類と内容
労働契約では、労働者は具体的な仕事ではなく一般的かつ連続的業務を行う
義務を持つ。一方、委任契約・請負契約は特定の仕事の遂行・完成を定め、その完成を持って契約が終了する。
○本人による業務遂行
請負契約・委任契約では、請負人・受任者は代理人、下請け業者などの使用が可能であるが、労働契約においては、労働者本人が業務を遂行する義務がある。
○使用者による雇用義務、労働者の業務遂行の準備義務
労働契約では、使用者は雇用義務があり、労働関係の期間に、労働者に仕事を与える義務を負う。一方、労働者は使用者の事業所において使用者の指導に基づいて、業務遂行をする義務を負う。請負契約・委任契約の場合は、仕事の連続的提供および連続的準備義務はなく、与えられた仕事の完成にのみ義務を負う。
○従属関係
労働契約の際、労働者は使用者の組織の一員となり、使用者は一方的な使用権を持つため、労働者の使用者に対する関係は従属的である。請負契約、委任契約の場合は、当事者は水平的関係にあり、注文者は使用権を持っていない。
(2) 二次的基準要素
○命令権
労働関係の際は、使用者は労働者の業務遂行との関連で命令権を持つ。命令権は業務遂行のあらゆる段階、あらゆる詳細にまで及ぶ。一方、請負契約・委任契約の場合は注文者はある程度命令権を持つが、それは発注した仕事の完成に関わる範囲に限定される。
○労働時間の指定
労働関係では、労働時間を労働法典が定めた範囲で使用者が指定する権利を持つ。請負契約、委任契約の場合は、注文者は労働時間の指定権を持たず、締
め切りなどの契約期間は、当事者間の合意によって決まる。請負人・受任者は仕事の完成に必要な時間や仕事の手順などを自分で決めることができる。
○業務遂行の場所
業務遂行の場所は労働契約に必須事項として定めなければならない。労働法典によると、業務遂行の場所は使用者の事業所、及び支店である。それに対して、請負契約・委任契約の場合は義務履行の場は、必ずしも使用者の事業所・支店でなくてもよい。
○仕事への報酬
労働契約の場合は、使用者は業務遂行の対価として労働者に労働法典が定めた規則に従って定期的な給料を支払う義務を負う。それに対し、請負契約・委任契約の際は、完成された仕事の対価が一括で支払われることが一般的である。
○労働手段、資源などの利用
労働関係では、使用者が準備する労働手段、資源などが利用される。それに対し、請負人・受任者は自ら労働手段・資源などを用意して業務遂行するのが一般的である。
○労働安全衛生条件の確保
労働関係の場合、安全かつ健康を危険にさらさない労働環境の確保は使用者の義務である。一方、請負契約・委任契約の場合は、労働環境の安全衛生条件の保障は、請負人・受任者の責任で確保しなければならない。
○書面による契約
労働法典に従って、労働契約を書面上に締結しなければならない。請負契約・委任契約の場合は、契約は書面によってだけでなく、口頭でも成立できる。
(報告書作成委託先現地法律事務所:xxxx・xxxx&パートナーズ法律事務所)